ロボット
【課題】 減速機の温度が上昇しても減速機収納室の内圧が上昇することを防止して、減速機収納室内の潤滑剤が外部に流出することを防止できるロボットを提供すること。
【解決手段】 スカラロボットAにおいて、駆動装置32をフレーム部材31に連結固定し、駆動装置32によって駆動される減速機33の出力部35をフレーム部材21に連結固定して、フレーム部材21に対してフレーム部材31を回転可能に組み付けるとともに、減速機33を収納する減速機収納室内に潤滑剤を充填した。そして、潤滑剤の上面より上方となる減速機収納室の空間部33bの所定部から、この所定部より上方の上方点まで延びて減速機収納室を外部に連通させる圧抜き経路38とエアチューブ39をフレーム部材31に設け、エアチューブ39の途中にコイル部39aを形成した。
【解決手段】 スカラロボットAにおいて、駆動装置32をフレーム部材31に連結固定し、駆動装置32によって駆動される減速機33の出力部35をフレーム部材21に連結固定して、フレーム部材21に対してフレーム部材31を回転可能に組み付けるとともに、減速機33を収納する減速機収納室内に潤滑剤を充填した。そして、潤滑剤の上面より上方となる減速機収納室の空間部33bの所定部から、この所定部より上方の上方点まで延びて減速機収納室を外部に連通させる圧抜き経路38とエアチューブ39をフレーム部材31に設け、エアチューブ39の途中にコイル部39aを形成した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速機を介して第1部材に対して第2部材を回転可能に組み付けるとともに、減速機を収納する減速機収納室内に潤滑剤を充填したロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子部品の実装にロボットが用いられており、このようなロボットの中に、減速機を介して連結された第1アームと第2アームとを備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。このロボットでは、出力軸を水平に向けた状態でモータが第2アーム内に取り付けられ、さらに、モータの出力軸に入力軸が連結された減速機が第2アームに固定されている。そして、減速機の出力軸に第1アームが固定されている。また、減速機のハウジング、第2アームの端面部、第1アームのフレーム、及び蓋部等によって減速機のギアボックスに対する密閉空間が形成され、減速機のギアボックス内の密閉空間には潤滑オイルが充填されている。
【0003】
さらに、密閉空間を形成する蓋部には、略L形のチューブが水平方向を軸方向として回動自在に設けられている。このチューブは、モータの出力軸と同軸上に延びて蓋部に回転自在に軸着されるとともに、一方の端部の開口が大気に連通する第1管部と、この第1管部の他方の端部から略90度屈曲されて、密閉空間内の潤滑オイルの上面より上方に突出する第2管状部とからなる。第1管状部と第2管状部とが交わる角部の下部に重りが設けられるか、第2管状部の上端部に浮きが設けられることにより、モータの駆動力を減速機で減速して第1アームと第2アームとを相対運動させても、常に第2管状部を鉛直方向に立たせて、第2管状部の上端開口を常に密閉空間内の潤滑オイルの上面より上方に位置させることができる。そして、減速機の作動によりギアボックス内の温度が上昇してギアボックス内の潤滑オイルや空気が膨張することによって、ギアボックス内すなわち密閉空間内の圧力が上昇すると、チューブを介して膨張した空気が外部に流出して、ギアボックス内は大気圧に保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−295646号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、前述した従来のロボットでは、第2アームの揺れなどにより潤滑オイルの油面が波打つことで、空気だけでなく潤滑オイルも第2管状部の上端開口からチューブ内に取り込まれ、チューブから外部に流出した場合には、流出した潤滑オイルが搬送される電子部品や周辺機器に付着したり、潤滑より減速機の寿命が低下したりするという問題が生じる。
【0006】
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、その目的は、減速機の温度が上昇しても減速機収納室の内圧が上昇することを防止できるとともに、減速機収納室内の潤滑剤が外部に流出することを防止できるロボットを提供することである。なお、下記本発明の各構成要件の記載においては、本発明の理解を容易にするために、実施形態の対応箇所の符号を括弧内に記載しているが、本発明の構成要件は、実施形態の符号によって示された対応箇所の構成に限定解釈されるべきものではない。
【0007】
前述した目的を達成するため、本発明に係るロボットの構成上の特徴は、駆動装置(12,32,82)と、入力部(14,34)と出力部(15,35)とこれらの入力部および出力部を回転可能に支持するケース部材(16,36)とを備える減速機(33,73)と、第1部材(11,21)と、この第1部材に対して回転可能に組みつけられる第2部材(31,71,81)とを有し、前記駆動装置と前記減速機の前記ケース部材は、前記第1部材と前記第2部材の内いずれか一方に連結され、前記出力部は、第1部材と前記第2部材の内他方に連結され、前記減速機を収納する減速機収納室内(33b,73a)に潤滑剤を充填し、前記駆動装置によって前記入力部を駆動することにより、前記第1部材に対して前記第2部材を回転駆動するようにしたロボット(A)において、前記潤滑剤の上面より上方となる前記減速機収納室の所定部から、この所定部より上方の上方点まで延びて前記減速機収納室を外部に連通させる連通路(38,39,69,78,79,88,89)を前記第1部材および前記第2部材の少なくとも一方に位置するように設け、前記連通路の途中に螺旋状部分(39a,69a,79,89)を形成したことにある。
【0008】
本発明に係るロボットでは、第1部材と第2部材とを連結する減速機を収納する減速機収納室から減速機収納室内の潤滑剤の上面より上方の所定の上方点まで延びて減速機収納室を外部に連通させる連通路を設けている。そして、連通路の途中に螺旋状部分を形成している。このため、連通路を長くすることができ、その長くなった分連通路の容積を大きくすることができる。これによって、減速機の作動により減圧機収納室内の温度が上昇して内圧が上昇すると、減圧機収納室内の空気の一部が減速機収納室から外部に流出して、減圧機収納室の内圧が上昇することが防止される。
【0009】
また、外部に流出する空気と一緒に潤滑剤が連通路内に入った場合でも、連通路の容積が大きいため、潤滑剤が連通路の外部に流出することは防止される。そして、減圧機の作動停止により、減圧機収納室内の温度や気圧が低下したときには、連通路内の潤滑剤は、減圧機収納室内に戻っていく。このため、減速機収納室の内圧が上昇することを防止できるとともに、減速機収納室の潤滑剤が外部に流出して、周囲が汚れたり、減速機の寿命が低下したりすることを防止できる。なお、潤滑剤としてはグリスやオイルを用いることができる。
【0010】
本発明に係るロボットの他の構成上の特徴は、第2部材を第1部材(21)の上方に位置する下面部(31d,81a)を備えたフレーム部材(31,61,81)で構成して、減速機(33)の入力部(34)を駆動する駆動装置(32,82)をフレーム部材の下面部の上面側に連結固定するとともに、減速機の出力部(35)を第1部材に連結固定し、フレーム部材の下面部で減速機収納室の上面壁を構成し、上面壁に上下貫通部(31e)を形成して、上下貫通部を介して、駆動装置の出力軸(32b)と減速機の入力部とを連結し、フレーム部材に、連通路の上流部(38,88)を形成し、上流部に螺旋状部分(39a,69a,89)を備えた下流部を連結したことにある。
【0011】
本発明に係るロボットによると、第1部材、第2部材、第1部材と第2部材とを連結する減速機および減速機の入力部に連結される駆動装置をコンパクトに組み付けることができる。また、第2部材をフレーム部材で構成したため、駆動装置をフレーム部材の内部に収納することができる。本発明においては、フレーム部材とは、枠、枠組み、骨格等を示し、筒状や、箱状など駆動装置を設置できるものとする。また、連通路の下流部は、一部に螺旋状部分が含まれるものであってもよいし、全体が螺旋状部分で構成されていてもよい。
【0012】
本発明に係るロボットのさらに他の構成上の特徴は、螺旋状部分(39a,69a)を駆動装置(32)の外周に巻回させたことにある。これによると、螺旋状部分を配置するためのスペースを別途設ける必要がなくなるため、省スペース化が図れる。
【0013】
本発明に係るロボットのさらに他の構成上の特徴は、第1部材を第2部材(71)の下方に位置する上面部(11a)を備えたフレーム部材(11)で構成して、減速機(73)の入力部(14)を駆動する駆動装置(12)をフレーム部材の上面部の下面側に連結固定するとともに、減速機の出力部(15)を第2部材に連結固定し、第2部材の一部(71a)で減速機収納室の上面壁を構成するとともに、フレーム部材の上面部に上下貫通部(11b)を形成して、上下貫通部を介して、駆動装置の出力軸(12b)と減速機の入力部とを連結し、第2部材に、連通路(78,79)の上流部(78)を形成し、上流部に螺旋状部分(79)を備えた下流部を連結したことにある。
【0014】
本発明に係るロボットによると、第1部材、第2部材、第1部材と第2部材とを連結する減速機および減速機の入力部に連結される駆動装置をコンパクトに組み付けることができる。また、第1部材をフレーム部材で構成したため、駆動装置をフレーム部材の内部に収納することができる。本発明においても、フレーム部材とは、枠、枠組み、骨格等、駆動装置を設置できる空間を備えたものを示し、筒状や、箱状のものを含むものとする。
【0015】
本発明に係るロボットのさらに他の構成上の特徴は、ベース部(10)と、ベース部に一端側が回転可能に支持される第1アーム(70)と、第1アームの他端側に一端側が回転可能に支持される第2アーム(30)とを備え、第1部材(11)がベース部に含まれ、第2部材(71)が第1アームに含まれることにある。これによると、ベース部と第1アームとを連結する減速機を収納する減速機収納室内の圧力が上昇することを防止できるとともに、その減圧機収納室内の潤滑剤が外部に流出することを防止できる。この場合、減速機は、ベース部に含まれてもよいし、第1アームに含まれてもよい。
【0016】
本発明に係るロボットのさらに他の構成上の特徴は、ベース部と、ベース部に一端側が回転可能に支持される第1アーム(20)と、第1アームの他端側に一端側が回転可能に支持される第2アーム(30,80)とを備え、第1部材(21)が第1アームに含まれ、第2部材(31,61,81)が第2アームに含まれることにある。これによると、第1アームと第2アームとを連結する減速機を収納する減速機収納室内の圧力が上昇することを防止できるとともに、その減圧機収納室内の潤滑剤が外部に流出することを防止できる。この場合、減速機は、第1アームに含まれてもよいし、第2アームに含まれてもよい。
【0017】
本発明に係るロボットのさらに他の構成上の特徴は、第1部材または第2部材における上方点よりも下方の位置に潤滑剤溜まり室(55)を設け、連通路の下流端を潤滑剤溜まり室で開放したことにある。
【0018】
第1部材をベース部に含ませ、第2部材を第1アームに含ませたときには、潤滑剤溜まり室は、第1アームの第2部材に設け、第1部材を第1アームに含ませ、第2部材を第2アームに含ませたときには、潤滑剤溜まり室は、第2アームの第2部材に設けることが好ましい。また、第1部材と第2部材を上下でなく、減速機の入力部と出力部とが水平方向に位置するように配置する場合には、潤滑剤溜まり室は、減速機の入力部が配置される第1部材または第2部材に設けることが好ましい。これによると、仮に、潤滑剤が連通路の外部に流出したときでも、その潤滑剤は潤滑剤溜まり室内に入るため、第1部材または第2部材の外部まで流出することは防止される。また、第2部材にさらに他の部材を連結しその部材に潤滑剤溜まり室を設けた場合には、その潤滑剤溜まり室は第2部材に設けたものとする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態に係るスカラロボットを示した正面図である。
【図2】ベース部の前部側を切断した状態を示した断面図である。
【図3】図2のベース部よりもやや後方側を切断した状態を示した断面図である。
【図4】ベース部の前後方向の中央部を切断した状態を示した断面図である。
【図5】ベース部の前後方向の中央部よりもやや後方側を切断した状態を示した断面図である。
【図6】第1アームと第2アームとの連結部分の前部側を切断した状態を示した断面図である。
【図7】図6の第1アームと第2アームとの連結部分よりもやや後方側を切断した状態を示した断面図である。
【図8】第1アームと第2アームとの連結部分の前後方向の中央部を切断した状態を示した断面図である。
【図9】第1アームと第2アームとの連結部分の前後方向の中央部よりもやや後方側を切断した状態を示した断面図である。
【図10】図1の10−10断面図である。
【図11】Z軸移動部の前部側を切断した状態を示した断面図である。
【図12】Z軸移動部の前後方向の中央部を切断した状態を示した断面図である。
【図13】本発明の第2実施形態に係るスカラロボット内の要部を示した断面図である。
【図14】本発明の第3実施形態に係るスカラロボット内の要部を示した断面図である。
【図15】本発明の第4実施形態に係るスカラロボット内の要部を示した断面図である。
【図16】本発明の参考例に係るスカラロボット内の要部を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態に係るロボットを図面を用いて説明する。図1は、同実施形態に係るスカラロボットAを示している。このスカラロボットAはベース部10と、第1アーム20と、第2アーム30と、Z軸移動部40とを備えている。ベース部10は床、台、壁面等に固定設置され、図2ないし図5にそれぞれ別の部分の断面を示したように、矩形箱形のケース11と、ケース11内の上部に固定設置されたモータ12と、モータ12の上部に組み付けられケース11の上面部11aに固定設置された減速機13とを備えている。なお、図2ないし図5は、ベース部10とベース部10に回動可能に連結された第1アーム20とにおける前部側から後部側にかけての各部分の断面を前部側から後部側の順に示している。また、以下の説明において、上下方向および左右方向は、図1に基づいて記載する。
【0021】
ケース11の上面部11aにおける左側部分に挿通穴11bが形成されており、モータ12と減速機13とは、この挿通穴11bを介してモータ12の出力軸となる回転軸12bと減速機13の入力部14が連結された状態で上面部11aに取り付けられている。モータ12は、モータケース12aに軸受を介して回転自在に支持された回転軸12b、回転軸12bの外周に設けられたロータ、ロータの外周に対向して配置されたステータおよび回転検出用レゾルバなどで構成されている。このモータ12は、回転軸12bを上方に向けて突出させるとともに、挿通穴11b内を下方から上方に向かって貫通させて、減速機13の入力部14に連結され、モータケース12aが上面部11aの下面にねじ11cによって固定されている。
【0022】
減速機13は、ハーモニックドライブ(登録商標)として知られているもので、モータ12の回転軸12bに連結された入力部14と、第1アーム20に連結された出力部15とを備えており、モータ12の回転軸12bの回転を減速して第1アーム20に伝達する。入力部14は、中心に挿通穴が形成されて回転軸12bがキー嵌合し、外形が楕円状カムを形成するいわゆるウェーブジェネレータで構成されており、このウェーブジェネレータの外周にボールベアリングを介していわゆるフレクスプラインが設けられている。このフレクスプラインが出力部15を構成する。
【0023】
出力部15となるフレクスプラインは、図4に示したように、縦に延びる薄肉の弾性変形可能な円筒体の上縁部に外側に水平に広がるフランジ状部分が設けられ、ウェーブジェネレータの外周となる円筒体の下端部の外周部に、外歯車が形成されており、フランジ状部分が第1アーム20に連結されている。フレクスプラインの外歯車には、この外歯車よりも歯数が少し多い内歯を内周に有する内歯車16が噛合っている。内歯車16は、いわゆるサーキュラスプラインを構成するもので、挿通穴11bの周縁部に沿った状態で、ケース11の上面部11aの上面に固定されている。以上の構成から分かる通り、内歯車16は、出力部15となるフレクスプラインを内歯車に沿って回転可能に支持するとともに、入力部14となるウェーブジェネレータを、フレクスプライン及びボールベアリングを介して回転可能に支持し、且つモータ12と同じ上面部11aに取り付けられており、本発明に係るケース部材を構成する。
【0024】
また、出力部15の円筒部分の外周上部には微小な隙間を空けてベアリング17が設けられている。このベアリング17は、内輪17aが内歯車16の上端面に連結固定され、外輪17bが出力部15のフランジ状部分を挟み込むようにしてねじ17cによって第1アーム20に固定されている。内輪17aは出力部15のフランジ状部分および円筒部分とは微小な隙間が設けられて非接触とされる。これによって、第1アーム20は、ベアリング17および内歯車16を介してケース11に対して回転可能に支持されるとともに、モータ12の駆動力が、回転軸12b、入力部14および出力部15を介して伝達される。また、ベアリング17における内輪17aと外輪17bとの境界の下部にはオイルシール17dが設けられており、これによって、減速機13内のグリスがもれるのが防止されるとともに、減速機13内に、水滴や埃等の異物が浸入することが防止される。
【0025】
なお、ケース11の上面部11aの上面と内歯車16の間、内歯車16と内輪17aの間、外輪17bと出力部15のフランジ状部分の間、出力部15のフランジ状部分と第1アーム20の下面部21dの間、モータ12とケース11の上面部11aの下面との間には、それぞれ不図示のシール部材が配設されている。すなわち、モータケース12aの上面、ケース11の上面部11aの挿通穴11bの内壁、内歯車16、内輪17a、外輪17b、オイルシール17d、第1アーム20の下面部21dにより密閉空間が形成されており、この密閉空間内に、入力部14(ウェーブジェネレータ)と出力部15(フレクスプライン)の間のボールベアリング、出力部15(フレクスプライン)の外歯車と内歯車16との噛合い部、ベアリング17の内輪17aと外輪17bの間の転動体等からなる減速機13の潤滑必要部位が収納される。
【0026】
すなわち、主に、モータケース12aの上面、減速機13のベアリング17、及びフレーム部材21の下面部21dとで囲まれた部分は密閉空間を形成し、本願に係わる減速機収納室が構成される。なお、内歯車16と、出力部15(フレクスプライン)の楕円柱状外周に形成される外歯車の間は、噛合い部を除き大きな隙間があり、この隙間を通して密閉空間内のモータケース12aの上面に近い部分と第1アーム20の下面部21dに近い部分が連通している。
【0027】
また、ケース11の上面部11aの右側部分には、第2アーム30に向かって延びるフレキシブルチューブ18の一端部が取付部材18aによって固定されている。フレキシブルチューブ18の内部には、各種のケーブルや吸引用の空気パイプ等が収容されている。そして、ケース11の右側面部11cには、ケース11内の各種のケーブルや吸引用の空気パイプ等の各端部を、ケース11の外側の配線19等に接続するための配線用コネクタ19a等の各種のコネクタが設けられている。また、ケース11内におけるモータ12の前方にはセンサ25がケース11の上面部11aを貫通してケース11の上方に向けて設置されており、ベアリング17の外輪17bの下部には、原点位置を示すセンサドグ26が設けられている。センサ25がセンサドグ26を検出しているときに、第1アーム20が、ケース11に対して原点位置にあることが認識される。
【0028】
第1アーム20は、高さ方向の長さよりも幅方向(図1の前後方向)の長さが長く、さらに左右方向の長さが長くなった細長い矩形筒形のフレーム部材本体21aと、フレーム部材本体21aの両側開口縁部にねじ22によって固定された一対の蓋部21b,21cとからなるフレーム部材21を備えている。フレーム部材21の下面部21dの下面における右側部分には取付用凹部23aが形成されており、この取付用凹部23aに前述した減速機13の出力部15が固定されている。そして、フレーム部材21の上面部21eの上面における左側部分にも同様の取付用凹部23b(図7ないし図9参照)が形成されて、その取付用凹部23bに、後述する第2アーム30の減速機33が取り付けられている。
【0029】
第2アーム30は、フレーム部材本体21aと略同形のフレーム部材本体31aと、蓋部21b,21cとそれぞれ同形の蓋部31b,31cとからなるフレーム部材31を備えている。そして、第2アーム30には、図6ないし図9にそれぞれ別の部分の断面を示したように、フレーム部材31内の右側部分に設置されたモータ32と、モータ32の下部に組み付けられフレーム部材31の下面に設置された減速機33も備わっている。図6ないし図9は、図2ないし図5と同じ前後方向の位置における各断面を示しており、第1アーム20と第2アーム30とは、図示のように、減速機33を介して互いに回転可能に連結されている。また、図10に、図1の10−10断面である第1アーム20と第2アーム30との連結部分の断面形状を示している。
【0030】
フレーム部材31の下面部31dにおけるモータ32が設置された部分には、本発明に係る上下貫通部を構成する挿通穴31eが形成されている。そして、モータ32は、出力軸となる回転軸32bを下方に向けて突出させて、挿通穴31e内を上方から下方に向かって貫通させ、モータケース32aを下面部31dの上面に固定することによりフレーム部材31内に設置されている。このモータ32は、前述したモータ12と上下方向の位置が逆になっているが、同機種のもので構成されている。減速機33も、前述した減速機13と上下方向の位置が逆になっているが、同機種のもので構成されている。このため詳細は省略するが、減速機33は、モータ32の回転軸32bに連結された入力部(ウェーブジェネレータ)34と第1アーム20に連結された出力部(フレクスプライン)35とを備えており、モータ32の回転軸32bの回転を減速して第1アーム20に伝達する。
【0031】
また、出力部35の外周上部に形成された歯部に対向して内歯車36が噛合うように配置されており、この内歯車36は、挿通穴31eの周縁部に沿った状態で、下面部31dの下面に固定されて、内歯車16と同様本発明に係るケース部材を構成している。そして、出力部35の円筒部分の下部外周には僅かな隙間を空けてベアリング17が設けられている。このベアリング37は、内輪37aが内歯車36の下端に連結固定され、外輪37bが出力部35の下端フランジ状部を挟み込むようにしてフレーム部材21の上面部21eに固定されている。
【0032】
これによって、第2アーム30は、ベアリング37を介して第1アーム20に対して回転可能に支持されるとともに、モータ32の駆動力は回転軸32b、入力部34および出力部35を介して第1アーム20に伝達される。この際、出力部35の外歯車が噛み合う内歯車36の歯数より外歯車の歯数が少し少ないので、入力部34の回転が減速されて出力部35に伝達される。また、ベアリング37における内輪37aと外輪37bとの境界の上部にはオイルシール37cが設けられており、これによって、減速機13内のグリスがもれるのが防止されるとともに、減速機33内に、水滴や埃等の異物が浸入することが防止される。
【0033】
なお、モータケース32aのフレーム部材31の下面部31dへの取り付け部、下面部31dと内歯車36の間、内歯車36と内輪37aの間、外輪37bと出力部35のフランジ状部分の間、出力部35のフランジ状部分と第1アーム20の上面部21eの間には、それぞれ不図示のシール部材が配設されている。すなわち、モータケース32aの下面部、フレーム部材31の下面部31dの挿通穴31eの内面、内歯車36、内輪37a、外輪37b、第1アーム20のケース11の上面部11aにより密閉空間が形成されており、この密閉空間に、入力部34と出力部35の間のボールベアリング、出力部35の外歯車と内歯車36との噛合い部、ベアリング37の内輪37aと外輪37bの間の転動体等からなる減速機33の潤滑必要部位が収納される。
【0034】
このように、減速機33におけるフレーム部材21とフレーム部材31との間に位置する部分の周囲はベアリング37で覆われており、主に、このベアリング37と、フレーム部材21の上面部21eと、モータケース32aの下面とで囲われた部分は密閉空間を形成し、入力部34、出力部35、入力部34と出力部35の間のボールベアリング、および内歯車36からなる減速機33における減速機構部を収納する、本発明に係る減速機収納室が構成される。
【0035】
なお、内歯車36と、出力部35の楕円柱状外周に形成される外歯車の間は、噛合い部を除き大きな隙間があり、この隙間を通して密閉空間内のモータケース32aの下面側の部分と、フレーム部材21の上面部21e側の部分が連通している。モータケース32aの下面に近い部分と、隙間と、出力部35の下部円筒状部分の内側となるフレーム部材21の上面部21e側の部分により空間部33bが構成されている。そして、減速機収納室内の空間部33bには、本発明に係る潤滑剤としてのグリスが充填されている。このグリスは、常温では固化しているが、減速機33の作動により空間部33bの温度が上昇すると液化して、その液面の高さは、入力部34の上面程度になる。
【0036】
また、図9および図10に示したように、フレーム部材31の下面部31dには、挿通穴31eの内周面から右側に延びる水平孔と、水平孔に交差して下面部31dの下面から上面に貫通する垂直孔とからなる圧抜き経路38が形成されており、水平孔の先端および垂直孔の下端の開口はそれぞれ埋め栓38aで閉塞されている。また、圧抜き経路38の左端部は、空間部33bを構成するモータケース32aの下面側の部分となる挿通穴31eに開口している。この圧抜き経路38は、空間部33bの温度上昇に伴って内圧が上昇したときに、空間部33bの空気を外部に放出して空間部33bを大気圧に維持するために設けられている。なお、図9および図10はそれぞれ、図6や図7とは別断面であり、エアチューブ39の後述するモータカバー55内に達している先端部は図示されていない。
【0037】
また、圧抜き経路38の垂直孔の上端開口には、エアチューブ39の端部が連結されている。このエアチューブ39は、グリスの一部が空間部33bから溢れ、さらに、圧抜き経路38から流出したときに、そのグリスが、フレーム部材31の内部や外部に飛散することを防止するために設けられている。エアチューブ39は、ウレタン、ナイロン、またはフッ素樹脂製のチューブで構成されており、圧抜き経路38の垂直孔の上端開口から左やや上方に延びたのちに、モータ32の外周を下方から上方に向かって7,8回巻き付けられ、モータ32の外周上部からフレーム部材31内の上部を左側に延びたのちに、先端部が、後述するモータカバー55内に達している。
【0038】
エアチューブ39の螺旋状部分を構成するコイル部39aは、真直ぐに形成されたチューブをモータ32の外周に順次巻き付けることによって形成してもよいし、予め加熱してコイル状に成形したのちにモータ32の外周に取り付けてもよい。また、エアチューブ39の容積は、圧抜き経路38から流出するグリスや空気の最大量、例えば、減速機33が破損しかかって高熱を発生したときに生じる圧力により圧抜き経路38から流出するグリスや空気の量を考慮して設定する。圧抜き経路38およびエアチューブ39で本発明に係る連通路が構成される。また、空間部33bを構成するモータケース32aの下面側の部分となる挿通穴31eへの圧抜き経路38の開口部は、空間部33bの温度が上昇して空間部33bに充填されるグリスが液化した場合の、入力部34の上面程度になる液面の高さより上方となり、本発明に係る所定部となる。一方、コイル部39aの上端部は、挿通穴31eへの圧抜き経路38の開口部より上方にあり、本発明に係る上方点となる。
【0039】
また、フレーム部材31の下面部31dにおける、圧抜き経路38およびエアチューブ39の外周部には、センサ25がフレーム部材31の下方に向けて設置されており、ベアリング37の外輪37bの上部には、原点位置を示すセンサドグ26が設けられている。センサ25がセンサドグ26を検出しているときに、第2アーム30が、第1アーム20に対して原点位置にあることが認識される。また、フレーム部材31の上面部31fにおける中央よりもやや右側の部分には、ケース11の上面部11aから延びてくるフレキシブルチューブ18の先端部が取付部材18bによって固定されている。
【0040】
第2アーム30の左端部側には、Z軸移動部40が設けられている。Z軸移動部40は、図11および図12にそれぞれ別の部分の断面を示したように構成されており、縦長のカバー41と、垂直に配置された中空の作動軸42と、作動軸42を軸周り方向に回転させる回転駆動装置43と、作動軸42を上下方向に移動させる昇降装置50とを備えている。カバー41は、フレーム部材31の上面部31fの左端部側に設けられており、作動軸42、回転駆動装置43および昇降装置50の内、フレーム部材31の上面部31fよりも上方に位置する部分を周囲と上方から囲っている。
【0041】
回転駆動装置43は、作動軸42が貫通するモータ44と減速機45とを備えている。モータ44は、フレーム部材31に上下に設けられた取付穴を貫通してフレーム部材31に固定されており、モータケース44a内に回転自在に支持された円筒状の回転軸44b、回転軸44bの外周に設けられたロータ、ロータの外周に対向して配置されたステータおよび回転検出用レゾルバなどで構成されている。減速機45は、前述した減速機13,33と同機種のもので構成されており、入力部45a、出力部45b、内歯車45cを備えている。そして、出力部45bの円筒部分の外周にはベアリング46が設けられている。
【0042】
そして、ベアリング46の外輪46aには、取付部材47aを介してボールスプラインナット47が連結されている。このボールスプラインナット47の内周面には複数の縦溝が周方向に一定間隔で形成されている。また、作動軸42は、外周部に複数の縦溝42aが形成されたボールスプライン軸からなっており、縦溝42aをボールスプラインナット47の縦溝に噛み合わせて、モータ44、減速機45およびボールスプラインナット47に対して上下移動可能な状態で設置されている。また、作動軸42は、下端がボールスプラインナット47、ベアリング46を介してフレーム部材31に回転自在に支持され、上端が不図示の軸受を介して固定されており、モータ44の作動により生じる回転力を減速機45によって減速されてボールスプラインナット47とともに回転する。
【0043】
作動軸42の上端部は、不図示の軸受を介して回転可能且つ上下方向に固定して連結部材に支持され、連結部材52およびボールねじナット53を介して昇降装置50に備わったボールねじ軸51に連結されている。昇降装置50は、ボールねじ軸51、連結部材52およびボールねじナット53の他に、モータ54を備えている。このモータ54は、フレーム部材31におけるモータ44が取り付けられた部分の右側に、上下に設けられた取付穴を貫通してフレーム部材31に固定されており、その下端部は、フレーム部材31の下方に突出している。そして、この下方に突出した部分は、下面部31dの下面に取り付けられたモータカバー55によって覆われている。このモータカバー55はフレーム部材31に含まれる。
【0044】
モータカバー55の内部には、前述したエアチューブ39の先端側部分が入り込んで、その先端はモータカバー55の底部近傍に達している。また、モータカバー55の底部には、グリスを吸着するための吸着シート56が敷かれている。ボールねじ軸51は、モータ54の回転軸に連結され、モータ54の作動により回転する。ボールねじナット53は、ボールねじ軸51に螺合しており、連結部材52は、ボールねじナット53と作動軸42の上端部とを連結している。このため、ボールねじ軸51の回転により、ボールねじナット53は、ボールねじ軸51に沿って上下移動し、これによって、作動軸42も上下移動する。
【0045】
また、作動軸42の下部には、作動軸42のZ軸方向上昇時のストッパとなるストッパ部材57が固定され、作動軸42の先端部にはヘッド(図示せず)が固着される。ヘッドには、工具等の作業用具や、チャック、作業アーム、吸引装置等の作業装置が取り付けられる。ケース11内やフレキシブルチューブ18内を通る各種のケーブルや吸引用の空気パイプ等は、それぞれモータ12,32,44,54や、ヘッドに取る付けられる作業装置等に接続される。また、配線19等は、制御装置(図示せず)や電源に接続されており、スカラロボットAに備わった各装置は、制御装置の制御にしたがって作動する。
【0046】
このように構成されたスカラロボットAを、例えば基板等に電子部品を実装する部品実装機として作動させる際には、基板等、電子部品が装着されるものを所定の場所に設置するとともに、電子部品を所定の場所に準備し、作動軸42の下部にストッパ部材57を介して取り付けられるヘッドに、吸引装置を装着しておくとともに、作動軸42の中空部、フレキシブルチューブ18を介し、吸引装置と外部の負圧装置と連通する負圧管を配設しておく。そして、スイッチ等の操作により、スカラロボットAが作動を開始すると、ベース部10に対して、第1アーム20がモータ12の回転軸12bを中心として水平面上で回転するとともに、第1アーム20に対して、第2アーム30がモータ32の回転軸32bを中心として水平面上で回転して作動軸42を電子部品の設置場所に移動させる。ついで、モータ44,54の作動により、作動軸42の下端の吸引装置が下降するとともに、Z軸(上下方向の軸)周り方向に回転して電子部品を吸引装置に対して所定方向で吸着できるようにする。
【0047】
その状態で、吸引装置の作動により、吸引装置に電子部品が吸着される。つぎに、モータ54の作動により吸引装置が上昇し、モータ12,32の作動により第1アーム20がベース部10に対して、第2アーム30が第1アーム20に対してそれぞれ回動し、吸引装置は基板の所定位置の上方に移動する。ついで、モータ44,54の作動により、吸引装置が下降するとともに、Z軸周り方向に回転して電子部品を基板の所定方向に位置させる。その状態で、吸引装置による電子部品の吸引を解除して、電子部品を基板上に実装する。この操作を繰り返すことにより、複数の電子部品が順次基板に装着される。
【0048】
このスカラロボットAが作動する際、減速機33が発熱すると、この熱によって空間部33bのグリスが液化する。このとき、第2アーム30が激しく揺動すると、液状となったグリスの油面が波立ち、液状のグリスが圧抜き経路38やエアチューブ39の内部に流れ込むことがあるが、圧抜き経路38は、第2アーム30の回転の中心となるモータ32の近傍に設けられ、エアチューブ39のコイル部39aはモータ32の外周に設けられている。このため、圧抜き経路38を通りエアチューブ39の内部に流れ込む液状のグリスを、コイル部39a内の下方部に留めることができる。また、空間部33bの温度上昇にともなって、空間部33b気圧が上昇すると、空間部33bの空気が圧抜き経路38に流れていく。このとき、空気は、圧抜き経路38からエアチューブ39を通過して外部に抜けていき、空間部33bは大気圧に維持される。
【0049】
また、液状のグリスと空気とが混ざった状態で、圧抜き経路38からエアチューブ39内に流れていった場合でも、エアチューブ39のコイル部39aは、グリスや空気を収容するために十分な容積を備えているため、液状のグリスや空気がコイル部39aの上端部である上方点まで到達することは殆どない。また、グリスに所定の重さや粘性が備わっていることによっても、液状のグリスがコイル部39a内で上方移動することに対して抵抗となる。
【0050】
仮に、液状のグリスや空気がコイル部39aの上端である上方点を超えてさらにエアチューブ39の先端側に流れても、エアチューブ39の先端部は、モータカバー55の内部に位置しているため、液状のグリスはモータカバー55内に入り吸着シート56に吸着される。これによって、グリスで第2アーム30の内部や外部が汚れることが防止される。また、エアチューブ39のコイル部39aに入った液状のグリスは、スカラロボットAの作動が停止したときに、圧抜き経路38から空間部33b内に戻っていく。
【0051】
以上のように、本実施形態に係るスカラロボットAでは、第1アーム20と第2アーム30とを連結する減速機33を収納する減速機収納室の空間部33bにおける、液化したグリスの上面より上方となる所定部から、この所定部より上方の上方点まで延びて減速機収納室の空間部33bを外部に連通させる圧抜き経路38とエアチューブ39とを設けている。そして、エアチューブ39の途中に長いチューブを螺旋状に形成したコイル部39aを設けている。このため、圧抜き経路38とエアチューブ39との全体の長さを長くすることができ、その長くなった分容積も大きくすることができる。これによって、減速機33の作動により空間部33bの温度が上昇して気圧が上昇しても、空気の一部が空間部33bから外部に流出して、空間部33bの気圧が上昇することが防止される。
【0052】
また、外部に流出する空気と一緒に液状のグリスが圧抜き経路38やエアチューブ39の内部に入っていっても、圧抜き経路38とエアチューブ39との容積が大きいことや、液状のグリスに所定の重量や粘性があることなどによって、グリスがエアチューブ39の外部に流出することは防止される。そして、減速機33の作動停止により、空間部33b内の温度が低下したときには、エアチューブ39内の液状のグリスは、空間部33bに戻っていく。このため、空間部33bの気圧が上昇することを防止できるとともに、空間部33bのグリスが外部に流出することも防止できる。これによって、グリスが減少して減速機33が破損し易くなることも防止できる。
【0053】
また、本実施形態では、エアチューブ39のコイル部39aをモータ32の外周に巻き付けているため、コイル部39aを配置するためのスペースを別途設ける必要がなくなり、省スペース化が図れる。さらに、エアチューブ39の先端部をエアチューブ39の上方点よりも下方に位置するモータカバー55の底部近傍まで延ばしたため、グリスがエアチューブ39の外部に流出したときでも、そのグリスはモータカバー55内に溜まるため、第2アーム30の外部まで流出することは防止される。
【0054】
(第2実施形態)
図13は、本発明の第2実施形態に係るスカラロボットの要部を示した断面図である。このロボットでは、フレーム部材31内に設けられるエアチューブ69の先端部がコイル部69aの上端部までしか延びていない。このスカラロボットのそれ以外の部分の構成については、前述したスカラロボットAと同一である。したがって、図13において、エアチューブ69以外の同一部分に同一符号を記して説明は省略する。
【0055】
本実施形態に係るスカラロボットでは、前述した第1実施形態のエアチューブ39のように、コイル部39aからフレーム部材61の左右方向の中央部分を通り、先端部がモータカバー55の内部に導かれることがなく、フレーム部材61の左右方向の中央部分にエアチューブ69が位置していない。このため、メンテナンス等のためにフレーム部材31の内部のものを処理する際に、エアチューブ69が邪魔になることがない。また、エアチューブ69をコンパクトに形成できる。なお、本実施形態によると、エアチューブ69からフレーム部材61内に液状のグリスが流れた場合には、フレーム部材61の内部が汚れるが、このようなことは、減速機33に破損が生じて空間部33b内が異常な高温になったときなどにしか生じないことであるため、特に対策をしなくても許容できる範囲である。このスカラロボットのそれ以外の作用効果については、前述したスカラロボットAと同様である。
【0056】
(第3実施形態)
図14は、本発明の第3実施形態に係るスカラロボットの要部を示した断面図である。このロボットでは、第1アーム70のフレーム部材71の下面部71aに上下に貫通し、下面部71aと入力部14との間の密閉空間すなわち減速機収納室の一部に、直接開口する圧抜き経路78が形成され、圧抜き経路78の上端部からコイル部だけで構成されるエアチューブ79が上方に向かって螺旋状に延びている。また、減速機73は、前述した第1実施形態の減速機収納室と同様の構成からなる減速機収納室内に収納されており、減速機収納室の空間部73aにはグリスが充填されている。このスカラロボットのそれ以外の部分の構成については、前述したスカラロボットAと同一である。したがって、図14において、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。このスカラロボットにおける図14に示した部分では、ベース部10が本発明に係る第1部材を構成し、第1アーム70が本発明に係る第2部材を構成する。
【0057】
本実施形態に係るスカラロボットでは、第2アーム30だけでなく、第1アーム70においても、フレーム部材71の内部や外部にグリスが飛散することを防止できる。このスカラロボットのエアチューブ79も、前述したエアチューブ69のコイル部69aと同様先端部が上端部までしか延びていないが、第2アーム30に比べて、第1アーム70は揺動が緩やかであるため、エアチューブ79からグリスが流出することはさらに確実に防止できる。このスカラロボットのそれ以外の作用効果については、前述したスカラロボットAと同様である。
【0058】
(第4実施形態)
図15は、本発明の第4実施形態に係るスカラロボットの要部を示した断面図である。このロボットでは、第2アーム80のフレーム部材81の下面部81aに上下に貫通し、下面部81aと入力部14との間の密閉空間すなわち減速機収納室の一部に、直接開口する圧抜き経路88が形成され、圧抜き経路88の上端部からコイル部だけで構成されるエアチューブ89が上方に向かって螺旋状に延びている。すなわち、本実施形態では、エアチューブ89はモータ82の外周でなく、モータ82の横に直径を小さくして設置されている。このスカラロボットのそれ以外の部分の構成については、前述したスカラロボットAと同一である。したがって、図15において、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。このスカラロボットによると、前述した第2実施形態に係るスカラロボットと同様の作用効果を得ることができる。
【0059】
(参考例)
図16は、本発明の参考例に係るスカラロボットの要部を示した断面図である。このスカラロボットでは、エアチューブ99にコイル部は備わってなく、エアチューブ99は、圧抜き経路から第2アーム90のフレーム部材91内の上部側を左に向かって延びており、その先端部は、モータカバー95の底部近傍に位置している。このスカラロボットのそれ以外の部分の構成については、前述したスカラロボットAと同一である。したがって、図16において、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。このスカラロボットによると、エアチューブ99から流出するグリスは、モータカバー95内に溜まるため、エアチューブ99にコイル部を設けなくても、グリスが第2アーム90の内部や外部で飛散することを防止できる。このスカラのそれ以外の作用効果については、前述したスカラロボットAと同様である。
【0060】
また、本発明に係るロボットは、前述した各実施形態に限定するものでなく、適宜変更して実施することができる。例えば、前述した各実施形態においては、潤滑剤としてグリスを用いているが、これに代えてオイルを用いてもよい。また、第1実施形態では、潤滑剤溜まり室を、モータカバー55で構成しているが、この潤滑剤溜まり室としては、フレーム部材21の内部に別途密閉室を設けてこの密閉室で潤滑剤溜まり室を構成してもよい。この場合、密閉室はコイル部39aの近傍に設置することもできる。
【0061】
さらに、本発明に係るロボットは、第1アーム20と第2アーム30をそれぞれ水平面内で移動するように、ベース部10を床や台の上に設置固定するだけでなく、第1アーム20と第2アーム30をそれぞれ水平面に対して傾いた傾斜面内で移動するように設置しても良い。この場合でも、潤滑剤を充填した減速機収納室への圧抜き経路の開口は、減速機収納室内にロボットにおいて、液状のあるいは液状化した潤滑剤の上面より上方となるようにする。
【0062】
さらに、4実施形態においてもエアチューブ89をモータカバー55まで延ばしてもよい。また、第2〜第4実施形態においてもフレーム部材31,71,81の内部に密閉室を設けてこの密閉室で潤滑剤溜まり室を構成してもよい。さらに、第3実施形態において、モータ12をフレーム部材71内に設置してモータ12と減速機13との上下方向を逆にしてもよい。この場合、エアチューブ79は、モータ12の外周に巻き付けてもよいし、モータ12の近傍に設置してもよい。また、前述した各実施形態においては、コイル部39,69a、エアチューブ79,89を下方から上方に向かう螺旋状に形成しているが、上下ランダムに巻いてもよいし、上方から下方に向かう螺旋状に形成してもよい。さらに、本発明に係るロボットのそれ以外の部分の構成についても、本発明の技術的範囲内で適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0063】
10…ベース部、11…ケース、11b,31e…挿通穴、12,32,82…モータ、12b,32b…回転軸、33,73…減速機、14,34…入力部、15,35…出力部、20,70…第1アーム、21,31,71,81…フレーム部材、31d,71a,81a…下面部、30,80…第2アーム、33b,73a…空間部、38,78,88…圧抜き経路、39,69,79,89…エアチューブ、39a,69a…コイル部、55…モータカバー、A…スカラロボット
【技術分野】
【0001】
本発明は、減速機を介して第1部材に対して第2部材を回転可能に組み付けるとともに、減速機を収納する減速機収納室内に潤滑剤を充填したロボットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、電子部品の実装にロボットが用いられており、このようなロボットの中に、減速機を介して連結された第1アームと第2アームとを備えたものがある(例えば、特許文献1参照)。このロボットでは、出力軸を水平に向けた状態でモータが第2アーム内に取り付けられ、さらに、モータの出力軸に入力軸が連結された減速機が第2アームに固定されている。そして、減速機の出力軸に第1アームが固定されている。また、減速機のハウジング、第2アームの端面部、第1アームのフレーム、及び蓋部等によって減速機のギアボックスに対する密閉空間が形成され、減速機のギアボックス内の密閉空間には潤滑オイルが充填されている。
【0003】
さらに、密閉空間を形成する蓋部には、略L形のチューブが水平方向を軸方向として回動自在に設けられている。このチューブは、モータの出力軸と同軸上に延びて蓋部に回転自在に軸着されるとともに、一方の端部の開口が大気に連通する第1管部と、この第1管部の他方の端部から略90度屈曲されて、密閉空間内の潤滑オイルの上面より上方に突出する第2管状部とからなる。第1管状部と第2管状部とが交わる角部の下部に重りが設けられるか、第2管状部の上端部に浮きが設けられることにより、モータの駆動力を減速機で減速して第1アームと第2アームとを相対運動させても、常に第2管状部を鉛直方向に立たせて、第2管状部の上端開口を常に密閉空間内の潤滑オイルの上面より上方に位置させることができる。そして、減速機の作動によりギアボックス内の温度が上昇してギアボックス内の潤滑オイルや空気が膨張することによって、ギアボックス内すなわち密閉空間内の圧力が上昇すると、チューブを介して膨張した空気が外部に流出して、ギアボックス内は大気圧に保持される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−295646号公報
【発明の概要】
【0005】
しかしながら、前述した従来のロボットでは、第2アームの揺れなどにより潤滑オイルの油面が波打つことで、空気だけでなく潤滑オイルも第2管状部の上端開口からチューブ内に取り込まれ、チューブから外部に流出した場合には、流出した潤滑オイルが搬送される電子部品や周辺機器に付着したり、潤滑より減速機の寿命が低下したりするという問題が生じる。
【0006】
本発明は、このような問題に対処するためになされたもので、その目的は、減速機の温度が上昇しても減速機収納室の内圧が上昇することを防止できるとともに、減速機収納室内の潤滑剤が外部に流出することを防止できるロボットを提供することである。なお、下記本発明の各構成要件の記載においては、本発明の理解を容易にするために、実施形態の対応箇所の符号を括弧内に記載しているが、本発明の構成要件は、実施形態の符号によって示された対応箇所の構成に限定解釈されるべきものではない。
【0007】
前述した目的を達成するため、本発明に係るロボットの構成上の特徴は、駆動装置(12,32,82)と、入力部(14,34)と出力部(15,35)とこれらの入力部および出力部を回転可能に支持するケース部材(16,36)とを備える減速機(33,73)と、第1部材(11,21)と、この第1部材に対して回転可能に組みつけられる第2部材(31,71,81)とを有し、前記駆動装置と前記減速機の前記ケース部材は、前記第1部材と前記第2部材の内いずれか一方に連結され、前記出力部は、第1部材と前記第2部材の内他方に連結され、前記減速機を収納する減速機収納室内(33b,73a)に潤滑剤を充填し、前記駆動装置によって前記入力部を駆動することにより、前記第1部材に対して前記第2部材を回転駆動するようにしたロボット(A)において、前記潤滑剤の上面より上方となる前記減速機収納室の所定部から、この所定部より上方の上方点まで延びて前記減速機収納室を外部に連通させる連通路(38,39,69,78,79,88,89)を前記第1部材および前記第2部材の少なくとも一方に位置するように設け、前記連通路の途中に螺旋状部分(39a,69a,79,89)を形成したことにある。
【0008】
本発明に係るロボットでは、第1部材と第2部材とを連結する減速機を収納する減速機収納室から減速機収納室内の潤滑剤の上面より上方の所定の上方点まで延びて減速機収納室を外部に連通させる連通路を設けている。そして、連通路の途中に螺旋状部分を形成している。このため、連通路を長くすることができ、その長くなった分連通路の容積を大きくすることができる。これによって、減速機の作動により減圧機収納室内の温度が上昇して内圧が上昇すると、減圧機収納室内の空気の一部が減速機収納室から外部に流出して、減圧機収納室の内圧が上昇することが防止される。
【0009】
また、外部に流出する空気と一緒に潤滑剤が連通路内に入った場合でも、連通路の容積が大きいため、潤滑剤が連通路の外部に流出することは防止される。そして、減圧機の作動停止により、減圧機収納室内の温度や気圧が低下したときには、連通路内の潤滑剤は、減圧機収納室内に戻っていく。このため、減速機収納室の内圧が上昇することを防止できるとともに、減速機収納室の潤滑剤が外部に流出して、周囲が汚れたり、減速機の寿命が低下したりすることを防止できる。なお、潤滑剤としてはグリスやオイルを用いることができる。
【0010】
本発明に係るロボットの他の構成上の特徴は、第2部材を第1部材(21)の上方に位置する下面部(31d,81a)を備えたフレーム部材(31,61,81)で構成して、減速機(33)の入力部(34)を駆動する駆動装置(32,82)をフレーム部材の下面部の上面側に連結固定するとともに、減速機の出力部(35)を第1部材に連結固定し、フレーム部材の下面部で減速機収納室の上面壁を構成し、上面壁に上下貫通部(31e)を形成して、上下貫通部を介して、駆動装置の出力軸(32b)と減速機の入力部とを連結し、フレーム部材に、連通路の上流部(38,88)を形成し、上流部に螺旋状部分(39a,69a,89)を備えた下流部を連結したことにある。
【0011】
本発明に係るロボットによると、第1部材、第2部材、第1部材と第2部材とを連結する減速機および減速機の入力部に連結される駆動装置をコンパクトに組み付けることができる。また、第2部材をフレーム部材で構成したため、駆動装置をフレーム部材の内部に収納することができる。本発明においては、フレーム部材とは、枠、枠組み、骨格等を示し、筒状や、箱状など駆動装置を設置できるものとする。また、連通路の下流部は、一部に螺旋状部分が含まれるものであってもよいし、全体が螺旋状部分で構成されていてもよい。
【0012】
本発明に係るロボットのさらに他の構成上の特徴は、螺旋状部分(39a,69a)を駆動装置(32)の外周に巻回させたことにある。これによると、螺旋状部分を配置するためのスペースを別途設ける必要がなくなるため、省スペース化が図れる。
【0013】
本発明に係るロボットのさらに他の構成上の特徴は、第1部材を第2部材(71)の下方に位置する上面部(11a)を備えたフレーム部材(11)で構成して、減速機(73)の入力部(14)を駆動する駆動装置(12)をフレーム部材の上面部の下面側に連結固定するとともに、減速機の出力部(15)を第2部材に連結固定し、第2部材の一部(71a)で減速機収納室の上面壁を構成するとともに、フレーム部材の上面部に上下貫通部(11b)を形成して、上下貫通部を介して、駆動装置の出力軸(12b)と減速機の入力部とを連結し、第2部材に、連通路(78,79)の上流部(78)を形成し、上流部に螺旋状部分(79)を備えた下流部を連結したことにある。
【0014】
本発明に係るロボットによると、第1部材、第2部材、第1部材と第2部材とを連結する減速機および減速機の入力部に連結される駆動装置をコンパクトに組み付けることができる。また、第1部材をフレーム部材で構成したため、駆動装置をフレーム部材の内部に収納することができる。本発明においても、フレーム部材とは、枠、枠組み、骨格等、駆動装置を設置できる空間を備えたものを示し、筒状や、箱状のものを含むものとする。
【0015】
本発明に係るロボットのさらに他の構成上の特徴は、ベース部(10)と、ベース部に一端側が回転可能に支持される第1アーム(70)と、第1アームの他端側に一端側が回転可能に支持される第2アーム(30)とを備え、第1部材(11)がベース部に含まれ、第2部材(71)が第1アームに含まれることにある。これによると、ベース部と第1アームとを連結する減速機を収納する減速機収納室内の圧力が上昇することを防止できるとともに、その減圧機収納室内の潤滑剤が外部に流出することを防止できる。この場合、減速機は、ベース部に含まれてもよいし、第1アームに含まれてもよい。
【0016】
本発明に係るロボットのさらに他の構成上の特徴は、ベース部と、ベース部に一端側が回転可能に支持される第1アーム(20)と、第1アームの他端側に一端側が回転可能に支持される第2アーム(30,80)とを備え、第1部材(21)が第1アームに含まれ、第2部材(31,61,81)が第2アームに含まれることにある。これによると、第1アームと第2アームとを連結する減速機を収納する減速機収納室内の圧力が上昇することを防止できるとともに、その減圧機収納室内の潤滑剤が外部に流出することを防止できる。この場合、減速機は、第1アームに含まれてもよいし、第2アームに含まれてもよい。
【0017】
本発明に係るロボットのさらに他の構成上の特徴は、第1部材または第2部材における上方点よりも下方の位置に潤滑剤溜まり室(55)を設け、連通路の下流端を潤滑剤溜まり室で開放したことにある。
【0018】
第1部材をベース部に含ませ、第2部材を第1アームに含ませたときには、潤滑剤溜まり室は、第1アームの第2部材に設け、第1部材を第1アームに含ませ、第2部材を第2アームに含ませたときには、潤滑剤溜まり室は、第2アームの第2部材に設けることが好ましい。また、第1部材と第2部材を上下でなく、減速機の入力部と出力部とが水平方向に位置するように配置する場合には、潤滑剤溜まり室は、減速機の入力部が配置される第1部材または第2部材に設けることが好ましい。これによると、仮に、潤滑剤が連通路の外部に流出したときでも、その潤滑剤は潤滑剤溜まり室内に入るため、第1部材または第2部材の外部まで流出することは防止される。また、第2部材にさらに他の部材を連結しその部材に潤滑剤溜まり室を設けた場合には、その潤滑剤溜まり室は第2部材に設けたものとする。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の第1実施形態に係るスカラロボットを示した正面図である。
【図2】ベース部の前部側を切断した状態を示した断面図である。
【図3】図2のベース部よりもやや後方側を切断した状態を示した断面図である。
【図4】ベース部の前後方向の中央部を切断した状態を示した断面図である。
【図5】ベース部の前後方向の中央部よりもやや後方側を切断した状態を示した断面図である。
【図6】第1アームと第2アームとの連結部分の前部側を切断した状態を示した断面図である。
【図7】図6の第1アームと第2アームとの連結部分よりもやや後方側を切断した状態を示した断面図である。
【図8】第1アームと第2アームとの連結部分の前後方向の中央部を切断した状態を示した断面図である。
【図9】第1アームと第2アームとの連結部分の前後方向の中央部よりもやや後方側を切断した状態を示した断面図である。
【図10】図1の10−10断面図である。
【図11】Z軸移動部の前部側を切断した状態を示した断面図である。
【図12】Z軸移動部の前後方向の中央部を切断した状態を示した断面図である。
【図13】本発明の第2実施形態に係るスカラロボット内の要部を示した断面図である。
【図14】本発明の第3実施形態に係るスカラロボット内の要部を示した断面図である。
【図15】本発明の第4実施形態に係るスカラロボット内の要部を示した断面図である。
【図16】本発明の参考例に係るスカラロボット内の要部を示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1実施形態)
以下、本発明の第1実施形態に係るロボットを図面を用いて説明する。図1は、同実施形態に係るスカラロボットAを示している。このスカラロボットAはベース部10と、第1アーム20と、第2アーム30と、Z軸移動部40とを備えている。ベース部10は床、台、壁面等に固定設置され、図2ないし図5にそれぞれ別の部分の断面を示したように、矩形箱形のケース11と、ケース11内の上部に固定設置されたモータ12と、モータ12の上部に組み付けられケース11の上面部11aに固定設置された減速機13とを備えている。なお、図2ないし図5は、ベース部10とベース部10に回動可能に連結された第1アーム20とにおける前部側から後部側にかけての各部分の断面を前部側から後部側の順に示している。また、以下の説明において、上下方向および左右方向は、図1に基づいて記載する。
【0021】
ケース11の上面部11aにおける左側部分に挿通穴11bが形成されており、モータ12と減速機13とは、この挿通穴11bを介してモータ12の出力軸となる回転軸12bと減速機13の入力部14が連結された状態で上面部11aに取り付けられている。モータ12は、モータケース12aに軸受を介して回転自在に支持された回転軸12b、回転軸12bの外周に設けられたロータ、ロータの外周に対向して配置されたステータおよび回転検出用レゾルバなどで構成されている。このモータ12は、回転軸12bを上方に向けて突出させるとともに、挿通穴11b内を下方から上方に向かって貫通させて、減速機13の入力部14に連結され、モータケース12aが上面部11aの下面にねじ11cによって固定されている。
【0022】
減速機13は、ハーモニックドライブ(登録商標)として知られているもので、モータ12の回転軸12bに連結された入力部14と、第1アーム20に連結された出力部15とを備えており、モータ12の回転軸12bの回転を減速して第1アーム20に伝達する。入力部14は、中心に挿通穴が形成されて回転軸12bがキー嵌合し、外形が楕円状カムを形成するいわゆるウェーブジェネレータで構成されており、このウェーブジェネレータの外周にボールベアリングを介していわゆるフレクスプラインが設けられている。このフレクスプラインが出力部15を構成する。
【0023】
出力部15となるフレクスプラインは、図4に示したように、縦に延びる薄肉の弾性変形可能な円筒体の上縁部に外側に水平に広がるフランジ状部分が設けられ、ウェーブジェネレータの外周となる円筒体の下端部の外周部に、外歯車が形成されており、フランジ状部分が第1アーム20に連結されている。フレクスプラインの外歯車には、この外歯車よりも歯数が少し多い内歯を内周に有する内歯車16が噛合っている。内歯車16は、いわゆるサーキュラスプラインを構成するもので、挿通穴11bの周縁部に沿った状態で、ケース11の上面部11aの上面に固定されている。以上の構成から分かる通り、内歯車16は、出力部15となるフレクスプラインを内歯車に沿って回転可能に支持するとともに、入力部14となるウェーブジェネレータを、フレクスプライン及びボールベアリングを介して回転可能に支持し、且つモータ12と同じ上面部11aに取り付けられており、本発明に係るケース部材を構成する。
【0024】
また、出力部15の円筒部分の外周上部には微小な隙間を空けてベアリング17が設けられている。このベアリング17は、内輪17aが内歯車16の上端面に連結固定され、外輪17bが出力部15のフランジ状部分を挟み込むようにしてねじ17cによって第1アーム20に固定されている。内輪17aは出力部15のフランジ状部分および円筒部分とは微小な隙間が設けられて非接触とされる。これによって、第1アーム20は、ベアリング17および内歯車16を介してケース11に対して回転可能に支持されるとともに、モータ12の駆動力が、回転軸12b、入力部14および出力部15を介して伝達される。また、ベアリング17における内輪17aと外輪17bとの境界の下部にはオイルシール17dが設けられており、これによって、減速機13内のグリスがもれるのが防止されるとともに、減速機13内に、水滴や埃等の異物が浸入することが防止される。
【0025】
なお、ケース11の上面部11aの上面と内歯車16の間、内歯車16と内輪17aの間、外輪17bと出力部15のフランジ状部分の間、出力部15のフランジ状部分と第1アーム20の下面部21dの間、モータ12とケース11の上面部11aの下面との間には、それぞれ不図示のシール部材が配設されている。すなわち、モータケース12aの上面、ケース11の上面部11aの挿通穴11bの内壁、内歯車16、内輪17a、外輪17b、オイルシール17d、第1アーム20の下面部21dにより密閉空間が形成されており、この密閉空間内に、入力部14(ウェーブジェネレータ)と出力部15(フレクスプライン)の間のボールベアリング、出力部15(フレクスプライン)の外歯車と内歯車16との噛合い部、ベアリング17の内輪17aと外輪17bの間の転動体等からなる減速機13の潤滑必要部位が収納される。
【0026】
すなわち、主に、モータケース12aの上面、減速機13のベアリング17、及びフレーム部材21の下面部21dとで囲まれた部分は密閉空間を形成し、本願に係わる減速機収納室が構成される。なお、内歯車16と、出力部15(フレクスプライン)の楕円柱状外周に形成される外歯車の間は、噛合い部を除き大きな隙間があり、この隙間を通して密閉空間内のモータケース12aの上面に近い部分と第1アーム20の下面部21dに近い部分が連通している。
【0027】
また、ケース11の上面部11aの右側部分には、第2アーム30に向かって延びるフレキシブルチューブ18の一端部が取付部材18aによって固定されている。フレキシブルチューブ18の内部には、各種のケーブルや吸引用の空気パイプ等が収容されている。そして、ケース11の右側面部11cには、ケース11内の各種のケーブルや吸引用の空気パイプ等の各端部を、ケース11の外側の配線19等に接続するための配線用コネクタ19a等の各種のコネクタが設けられている。また、ケース11内におけるモータ12の前方にはセンサ25がケース11の上面部11aを貫通してケース11の上方に向けて設置されており、ベアリング17の外輪17bの下部には、原点位置を示すセンサドグ26が設けられている。センサ25がセンサドグ26を検出しているときに、第1アーム20が、ケース11に対して原点位置にあることが認識される。
【0028】
第1アーム20は、高さ方向の長さよりも幅方向(図1の前後方向)の長さが長く、さらに左右方向の長さが長くなった細長い矩形筒形のフレーム部材本体21aと、フレーム部材本体21aの両側開口縁部にねじ22によって固定された一対の蓋部21b,21cとからなるフレーム部材21を備えている。フレーム部材21の下面部21dの下面における右側部分には取付用凹部23aが形成されており、この取付用凹部23aに前述した減速機13の出力部15が固定されている。そして、フレーム部材21の上面部21eの上面における左側部分にも同様の取付用凹部23b(図7ないし図9参照)が形成されて、その取付用凹部23bに、後述する第2アーム30の減速機33が取り付けられている。
【0029】
第2アーム30は、フレーム部材本体21aと略同形のフレーム部材本体31aと、蓋部21b,21cとそれぞれ同形の蓋部31b,31cとからなるフレーム部材31を備えている。そして、第2アーム30には、図6ないし図9にそれぞれ別の部分の断面を示したように、フレーム部材31内の右側部分に設置されたモータ32と、モータ32の下部に組み付けられフレーム部材31の下面に設置された減速機33も備わっている。図6ないし図9は、図2ないし図5と同じ前後方向の位置における各断面を示しており、第1アーム20と第2アーム30とは、図示のように、減速機33を介して互いに回転可能に連結されている。また、図10に、図1の10−10断面である第1アーム20と第2アーム30との連結部分の断面形状を示している。
【0030】
フレーム部材31の下面部31dにおけるモータ32が設置された部分には、本発明に係る上下貫通部を構成する挿通穴31eが形成されている。そして、モータ32は、出力軸となる回転軸32bを下方に向けて突出させて、挿通穴31e内を上方から下方に向かって貫通させ、モータケース32aを下面部31dの上面に固定することによりフレーム部材31内に設置されている。このモータ32は、前述したモータ12と上下方向の位置が逆になっているが、同機種のもので構成されている。減速機33も、前述した減速機13と上下方向の位置が逆になっているが、同機種のもので構成されている。このため詳細は省略するが、減速機33は、モータ32の回転軸32bに連結された入力部(ウェーブジェネレータ)34と第1アーム20に連結された出力部(フレクスプライン)35とを備えており、モータ32の回転軸32bの回転を減速して第1アーム20に伝達する。
【0031】
また、出力部35の外周上部に形成された歯部に対向して内歯車36が噛合うように配置されており、この内歯車36は、挿通穴31eの周縁部に沿った状態で、下面部31dの下面に固定されて、内歯車16と同様本発明に係るケース部材を構成している。そして、出力部35の円筒部分の下部外周には僅かな隙間を空けてベアリング17が設けられている。このベアリング37は、内輪37aが内歯車36の下端に連結固定され、外輪37bが出力部35の下端フランジ状部を挟み込むようにしてフレーム部材21の上面部21eに固定されている。
【0032】
これによって、第2アーム30は、ベアリング37を介して第1アーム20に対して回転可能に支持されるとともに、モータ32の駆動力は回転軸32b、入力部34および出力部35を介して第1アーム20に伝達される。この際、出力部35の外歯車が噛み合う内歯車36の歯数より外歯車の歯数が少し少ないので、入力部34の回転が減速されて出力部35に伝達される。また、ベアリング37における内輪37aと外輪37bとの境界の上部にはオイルシール37cが設けられており、これによって、減速機13内のグリスがもれるのが防止されるとともに、減速機33内に、水滴や埃等の異物が浸入することが防止される。
【0033】
なお、モータケース32aのフレーム部材31の下面部31dへの取り付け部、下面部31dと内歯車36の間、内歯車36と内輪37aの間、外輪37bと出力部35のフランジ状部分の間、出力部35のフランジ状部分と第1アーム20の上面部21eの間には、それぞれ不図示のシール部材が配設されている。すなわち、モータケース32aの下面部、フレーム部材31の下面部31dの挿通穴31eの内面、内歯車36、内輪37a、外輪37b、第1アーム20のケース11の上面部11aにより密閉空間が形成されており、この密閉空間に、入力部34と出力部35の間のボールベアリング、出力部35の外歯車と内歯車36との噛合い部、ベアリング37の内輪37aと外輪37bの間の転動体等からなる減速機33の潤滑必要部位が収納される。
【0034】
このように、減速機33におけるフレーム部材21とフレーム部材31との間に位置する部分の周囲はベアリング37で覆われており、主に、このベアリング37と、フレーム部材21の上面部21eと、モータケース32aの下面とで囲われた部分は密閉空間を形成し、入力部34、出力部35、入力部34と出力部35の間のボールベアリング、および内歯車36からなる減速機33における減速機構部を収納する、本発明に係る減速機収納室が構成される。
【0035】
なお、内歯車36と、出力部35の楕円柱状外周に形成される外歯車の間は、噛合い部を除き大きな隙間があり、この隙間を通して密閉空間内のモータケース32aの下面側の部分と、フレーム部材21の上面部21e側の部分が連通している。モータケース32aの下面に近い部分と、隙間と、出力部35の下部円筒状部分の内側となるフレーム部材21の上面部21e側の部分により空間部33bが構成されている。そして、減速機収納室内の空間部33bには、本発明に係る潤滑剤としてのグリスが充填されている。このグリスは、常温では固化しているが、減速機33の作動により空間部33bの温度が上昇すると液化して、その液面の高さは、入力部34の上面程度になる。
【0036】
また、図9および図10に示したように、フレーム部材31の下面部31dには、挿通穴31eの内周面から右側に延びる水平孔と、水平孔に交差して下面部31dの下面から上面に貫通する垂直孔とからなる圧抜き経路38が形成されており、水平孔の先端および垂直孔の下端の開口はそれぞれ埋め栓38aで閉塞されている。また、圧抜き経路38の左端部は、空間部33bを構成するモータケース32aの下面側の部分となる挿通穴31eに開口している。この圧抜き経路38は、空間部33bの温度上昇に伴って内圧が上昇したときに、空間部33bの空気を外部に放出して空間部33bを大気圧に維持するために設けられている。なお、図9および図10はそれぞれ、図6や図7とは別断面であり、エアチューブ39の後述するモータカバー55内に達している先端部は図示されていない。
【0037】
また、圧抜き経路38の垂直孔の上端開口には、エアチューブ39の端部が連結されている。このエアチューブ39は、グリスの一部が空間部33bから溢れ、さらに、圧抜き経路38から流出したときに、そのグリスが、フレーム部材31の内部や外部に飛散することを防止するために設けられている。エアチューブ39は、ウレタン、ナイロン、またはフッ素樹脂製のチューブで構成されており、圧抜き経路38の垂直孔の上端開口から左やや上方に延びたのちに、モータ32の外周を下方から上方に向かって7,8回巻き付けられ、モータ32の外周上部からフレーム部材31内の上部を左側に延びたのちに、先端部が、後述するモータカバー55内に達している。
【0038】
エアチューブ39の螺旋状部分を構成するコイル部39aは、真直ぐに形成されたチューブをモータ32の外周に順次巻き付けることによって形成してもよいし、予め加熱してコイル状に成形したのちにモータ32の外周に取り付けてもよい。また、エアチューブ39の容積は、圧抜き経路38から流出するグリスや空気の最大量、例えば、減速機33が破損しかかって高熱を発生したときに生じる圧力により圧抜き経路38から流出するグリスや空気の量を考慮して設定する。圧抜き経路38およびエアチューブ39で本発明に係る連通路が構成される。また、空間部33bを構成するモータケース32aの下面側の部分となる挿通穴31eへの圧抜き経路38の開口部は、空間部33bの温度が上昇して空間部33bに充填されるグリスが液化した場合の、入力部34の上面程度になる液面の高さより上方となり、本発明に係る所定部となる。一方、コイル部39aの上端部は、挿通穴31eへの圧抜き経路38の開口部より上方にあり、本発明に係る上方点となる。
【0039】
また、フレーム部材31の下面部31dにおける、圧抜き経路38およびエアチューブ39の外周部には、センサ25がフレーム部材31の下方に向けて設置されており、ベアリング37の外輪37bの上部には、原点位置を示すセンサドグ26が設けられている。センサ25がセンサドグ26を検出しているときに、第2アーム30が、第1アーム20に対して原点位置にあることが認識される。また、フレーム部材31の上面部31fにおける中央よりもやや右側の部分には、ケース11の上面部11aから延びてくるフレキシブルチューブ18の先端部が取付部材18bによって固定されている。
【0040】
第2アーム30の左端部側には、Z軸移動部40が設けられている。Z軸移動部40は、図11および図12にそれぞれ別の部分の断面を示したように構成されており、縦長のカバー41と、垂直に配置された中空の作動軸42と、作動軸42を軸周り方向に回転させる回転駆動装置43と、作動軸42を上下方向に移動させる昇降装置50とを備えている。カバー41は、フレーム部材31の上面部31fの左端部側に設けられており、作動軸42、回転駆動装置43および昇降装置50の内、フレーム部材31の上面部31fよりも上方に位置する部分を周囲と上方から囲っている。
【0041】
回転駆動装置43は、作動軸42が貫通するモータ44と減速機45とを備えている。モータ44は、フレーム部材31に上下に設けられた取付穴を貫通してフレーム部材31に固定されており、モータケース44a内に回転自在に支持された円筒状の回転軸44b、回転軸44bの外周に設けられたロータ、ロータの外周に対向して配置されたステータおよび回転検出用レゾルバなどで構成されている。減速機45は、前述した減速機13,33と同機種のもので構成されており、入力部45a、出力部45b、内歯車45cを備えている。そして、出力部45bの円筒部分の外周にはベアリング46が設けられている。
【0042】
そして、ベアリング46の外輪46aには、取付部材47aを介してボールスプラインナット47が連結されている。このボールスプラインナット47の内周面には複数の縦溝が周方向に一定間隔で形成されている。また、作動軸42は、外周部に複数の縦溝42aが形成されたボールスプライン軸からなっており、縦溝42aをボールスプラインナット47の縦溝に噛み合わせて、モータ44、減速機45およびボールスプラインナット47に対して上下移動可能な状態で設置されている。また、作動軸42は、下端がボールスプラインナット47、ベアリング46を介してフレーム部材31に回転自在に支持され、上端が不図示の軸受を介して固定されており、モータ44の作動により生じる回転力を減速機45によって減速されてボールスプラインナット47とともに回転する。
【0043】
作動軸42の上端部は、不図示の軸受を介して回転可能且つ上下方向に固定して連結部材に支持され、連結部材52およびボールねじナット53を介して昇降装置50に備わったボールねじ軸51に連結されている。昇降装置50は、ボールねじ軸51、連結部材52およびボールねじナット53の他に、モータ54を備えている。このモータ54は、フレーム部材31におけるモータ44が取り付けられた部分の右側に、上下に設けられた取付穴を貫通してフレーム部材31に固定されており、その下端部は、フレーム部材31の下方に突出している。そして、この下方に突出した部分は、下面部31dの下面に取り付けられたモータカバー55によって覆われている。このモータカバー55はフレーム部材31に含まれる。
【0044】
モータカバー55の内部には、前述したエアチューブ39の先端側部分が入り込んで、その先端はモータカバー55の底部近傍に達している。また、モータカバー55の底部には、グリスを吸着するための吸着シート56が敷かれている。ボールねじ軸51は、モータ54の回転軸に連結され、モータ54の作動により回転する。ボールねじナット53は、ボールねじ軸51に螺合しており、連結部材52は、ボールねじナット53と作動軸42の上端部とを連結している。このため、ボールねじ軸51の回転により、ボールねじナット53は、ボールねじ軸51に沿って上下移動し、これによって、作動軸42も上下移動する。
【0045】
また、作動軸42の下部には、作動軸42のZ軸方向上昇時のストッパとなるストッパ部材57が固定され、作動軸42の先端部にはヘッド(図示せず)が固着される。ヘッドには、工具等の作業用具や、チャック、作業アーム、吸引装置等の作業装置が取り付けられる。ケース11内やフレキシブルチューブ18内を通る各種のケーブルや吸引用の空気パイプ等は、それぞれモータ12,32,44,54や、ヘッドに取る付けられる作業装置等に接続される。また、配線19等は、制御装置(図示せず)や電源に接続されており、スカラロボットAに備わった各装置は、制御装置の制御にしたがって作動する。
【0046】
このように構成されたスカラロボットAを、例えば基板等に電子部品を実装する部品実装機として作動させる際には、基板等、電子部品が装着されるものを所定の場所に設置するとともに、電子部品を所定の場所に準備し、作動軸42の下部にストッパ部材57を介して取り付けられるヘッドに、吸引装置を装着しておくとともに、作動軸42の中空部、フレキシブルチューブ18を介し、吸引装置と外部の負圧装置と連通する負圧管を配設しておく。そして、スイッチ等の操作により、スカラロボットAが作動を開始すると、ベース部10に対して、第1アーム20がモータ12の回転軸12bを中心として水平面上で回転するとともに、第1アーム20に対して、第2アーム30がモータ32の回転軸32bを中心として水平面上で回転して作動軸42を電子部品の設置場所に移動させる。ついで、モータ44,54の作動により、作動軸42の下端の吸引装置が下降するとともに、Z軸(上下方向の軸)周り方向に回転して電子部品を吸引装置に対して所定方向で吸着できるようにする。
【0047】
その状態で、吸引装置の作動により、吸引装置に電子部品が吸着される。つぎに、モータ54の作動により吸引装置が上昇し、モータ12,32の作動により第1アーム20がベース部10に対して、第2アーム30が第1アーム20に対してそれぞれ回動し、吸引装置は基板の所定位置の上方に移動する。ついで、モータ44,54の作動により、吸引装置が下降するとともに、Z軸周り方向に回転して電子部品を基板の所定方向に位置させる。その状態で、吸引装置による電子部品の吸引を解除して、電子部品を基板上に実装する。この操作を繰り返すことにより、複数の電子部品が順次基板に装着される。
【0048】
このスカラロボットAが作動する際、減速機33が発熱すると、この熱によって空間部33bのグリスが液化する。このとき、第2アーム30が激しく揺動すると、液状となったグリスの油面が波立ち、液状のグリスが圧抜き経路38やエアチューブ39の内部に流れ込むことがあるが、圧抜き経路38は、第2アーム30の回転の中心となるモータ32の近傍に設けられ、エアチューブ39のコイル部39aはモータ32の外周に設けられている。このため、圧抜き経路38を通りエアチューブ39の内部に流れ込む液状のグリスを、コイル部39a内の下方部に留めることができる。また、空間部33bの温度上昇にともなって、空間部33b気圧が上昇すると、空間部33bの空気が圧抜き経路38に流れていく。このとき、空気は、圧抜き経路38からエアチューブ39を通過して外部に抜けていき、空間部33bは大気圧に維持される。
【0049】
また、液状のグリスと空気とが混ざった状態で、圧抜き経路38からエアチューブ39内に流れていった場合でも、エアチューブ39のコイル部39aは、グリスや空気を収容するために十分な容積を備えているため、液状のグリスや空気がコイル部39aの上端部である上方点まで到達することは殆どない。また、グリスに所定の重さや粘性が備わっていることによっても、液状のグリスがコイル部39a内で上方移動することに対して抵抗となる。
【0050】
仮に、液状のグリスや空気がコイル部39aの上端である上方点を超えてさらにエアチューブ39の先端側に流れても、エアチューブ39の先端部は、モータカバー55の内部に位置しているため、液状のグリスはモータカバー55内に入り吸着シート56に吸着される。これによって、グリスで第2アーム30の内部や外部が汚れることが防止される。また、エアチューブ39のコイル部39aに入った液状のグリスは、スカラロボットAの作動が停止したときに、圧抜き経路38から空間部33b内に戻っていく。
【0051】
以上のように、本実施形態に係るスカラロボットAでは、第1アーム20と第2アーム30とを連結する減速機33を収納する減速機収納室の空間部33bにおける、液化したグリスの上面より上方となる所定部から、この所定部より上方の上方点まで延びて減速機収納室の空間部33bを外部に連通させる圧抜き経路38とエアチューブ39とを設けている。そして、エアチューブ39の途中に長いチューブを螺旋状に形成したコイル部39aを設けている。このため、圧抜き経路38とエアチューブ39との全体の長さを長くすることができ、その長くなった分容積も大きくすることができる。これによって、減速機33の作動により空間部33bの温度が上昇して気圧が上昇しても、空気の一部が空間部33bから外部に流出して、空間部33bの気圧が上昇することが防止される。
【0052】
また、外部に流出する空気と一緒に液状のグリスが圧抜き経路38やエアチューブ39の内部に入っていっても、圧抜き経路38とエアチューブ39との容積が大きいことや、液状のグリスに所定の重量や粘性があることなどによって、グリスがエアチューブ39の外部に流出することは防止される。そして、減速機33の作動停止により、空間部33b内の温度が低下したときには、エアチューブ39内の液状のグリスは、空間部33bに戻っていく。このため、空間部33bの気圧が上昇することを防止できるとともに、空間部33bのグリスが外部に流出することも防止できる。これによって、グリスが減少して減速機33が破損し易くなることも防止できる。
【0053】
また、本実施形態では、エアチューブ39のコイル部39aをモータ32の外周に巻き付けているため、コイル部39aを配置するためのスペースを別途設ける必要がなくなり、省スペース化が図れる。さらに、エアチューブ39の先端部をエアチューブ39の上方点よりも下方に位置するモータカバー55の底部近傍まで延ばしたため、グリスがエアチューブ39の外部に流出したときでも、そのグリスはモータカバー55内に溜まるため、第2アーム30の外部まで流出することは防止される。
【0054】
(第2実施形態)
図13は、本発明の第2実施形態に係るスカラロボットの要部を示した断面図である。このロボットでは、フレーム部材31内に設けられるエアチューブ69の先端部がコイル部69aの上端部までしか延びていない。このスカラロボットのそれ以外の部分の構成については、前述したスカラロボットAと同一である。したがって、図13において、エアチューブ69以外の同一部分に同一符号を記して説明は省略する。
【0055】
本実施形態に係るスカラロボットでは、前述した第1実施形態のエアチューブ39のように、コイル部39aからフレーム部材61の左右方向の中央部分を通り、先端部がモータカバー55の内部に導かれることがなく、フレーム部材61の左右方向の中央部分にエアチューブ69が位置していない。このため、メンテナンス等のためにフレーム部材31の内部のものを処理する際に、エアチューブ69が邪魔になることがない。また、エアチューブ69をコンパクトに形成できる。なお、本実施形態によると、エアチューブ69からフレーム部材61内に液状のグリスが流れた場合には、フレーム部材61の内部が汚れるが、このようなことは、減速機33に破損が生じて空間部33b内が異常な高温になったときなどにしか生じないことであるため、特に対策をしなくても許容できる範囲である。このスカラロボットのそれ以外の作用効果については、前述したスカラロボットAと同様である。
【0056】
(第3実施形態)
図14は、本発明の第3実施形態に係るスカラロボットの要部を示した断面図である。このロボットでは、第1アーム70のフレーム部材71の下面部71aに上下に貫通し、下面部71aと入力部14との間の密閉空間すなわち減速機収納室の一部に、直接開口する圧抜き経路78が形成され、圧抜き経路78の上端部からコイル部だけで構成されるエアチューブ79が上方に向かって螺旋状に延びている。また、減速機73は、前述した第1実施形態の減速機収納室と同様の構成からなる減速機収納室内に収納されており、減速機収納室の空間部73aにはグリスが充填されている。このスカラロボットのそれ以外の部分の構成については、前述したスカラロボットAと同一である。したがって、図14において、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。このスカラロボットにおける図14に示した部分では、ベース部10が本発明に係る第1部材を構成し、第1アーム70が本発明に係る第2部材を構成する。
【0057】
本実施形態に係るスカラロボットでは、第2アーム30だけでなく、第1アーム70においても、フレーム部材71の内部や外部にグリスが飛散することを防止できる。このスカラロボットのエアチューブ79も、前述したエアチューブ69のコイル部69aと同様先端部が上端部までしか延びていないが、第2アーム30に比べて、第1アーム70は揺動が緩やかであるため、エアチューブ79からグリスが流出することはさらに確実に防止できる。このスカラロボットのそれ以外の作用効果については、前述したスカラロボットAと同様である。
【0058】
(第4実施形態)
図15は、本発明の第4実施形態に係るスカラロボットの要部を示した断面図である。このロボットでは、第2アーム80のフレーム部材81の下面部81aに上下に貫通し、下面部81aと入力部14との間の密閉空間すなわち減速機収納室の一部に、直接開口する圧抜き経路88が形成され、圧抜き経路88の上端部からコイル部だけで構成されるエアチューブ89が上方に向かって螺旋状に延びている。すなわち、本実施形態では、エアチューブ89はモータ82の外周でなく、モータ82の横に直径を小さくして設置されている。このスカラロボットのそれ以外の部分の構成については、前述したスカラロボットAと同一である。したがって、図15において、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。このスカラロボットによると、前述した第2実施形態に係るスカラロボットと同様の作用効果を得ることができる。
【0059】
(参考例)
図16は、本発明の参考例に係るスカラロボットの要部を示した断面図である。このスカラロボットでは、エアチューブ99にコイル部は備わってなく、エアチューブ99は、圧抜き経路から第2アーム90のフレーム部材91内の上部側を左に向かって延びており、その先端部は、モータカバー95の底部近傍に位置している。このスカラロボットのそれ以外の部分の構成については、前述したスカラロボットAと同一である。したがって、図16において、同一部分に同一符号を記して説明は省略する。このスカラロボットによると、エアチューブ99から流出するグリスは、モータカバー95内に溜まるため、エアチューブ99にコイル部を設けなくても、グリスが第2アーム90の内部や外部で飛散することを防止できる。このスカラのそれ以外の作用効果については、前述したスカラロボットAと同様である。
【0060】
また、本発明に係るロボットは、前述した各実施形態に限定するものでなく、適宜変更して実施することができる。例えば、前述した各実施形態においては、潤滑剤としてグリスを用いているが、これに代えてオイルを用いてもよい。また、第1実施形態では、潤滑剤溜まり室を、モータカバー55で構成しているが、この潤滑剤溜まり室としては、フレーム部材21の内部に別途密閉室を設けてこの密閉室で潤滑剤溜まり室を構成してもよい。この場合、密閉室はコイル部39aの近傍に設置することもできる。
【0061】
さらに、本発明に係るロボットは、第1アーム20と第2アーム30をそれぞれ水平面内で移動するように、ベース部10を床や台の上に設置固定するだけでなく、第1アーム20と第2アーム30をそれぞれ水平面に対して傾いた傾斜面内で移動するように設置しても良い。この場合でも、潤滑剤を充填した減速機収納室への圧抜き経路の開口は、減速機収納室内にロボットにおいて、液状のあるいは液状化した潤滑剤の上面より上方となるようにする。
【0062】
さらに、4実施形態においてもエアチューブ89をモータカバー55まで延ばしてもよい。また、第2〜第4実施形態においてもフレーム部材31,71,81の内部に密閉室を設けてこの密閉室で潤滑剤溜まり室を構成してもよい。さらに、第3実施形態において、モータ12をフレーム部材71内に設置してモータ12と減速機13との上下方向を逆にしてもよい。この場合、エアチューブ79は、モータ12の外周に巻き付けてもよいし、モータ12の近傍に設置してもよい。また、前述した各実施形態においては、コイル部39,69a、エアチューブ79,89を下方から上方に向かう螺旋状に形成しているが、上下ランダムに巻いてもよいし、上方から下方に向かう螺旋状に形成してもよい。さらに、本発明に係るロボットのそれ以外の部分の構成についても、本発明の技術的範囲内で適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0063】
10…ベース部、11…ケース、11b,31e…挿通穴、12,32,82…モータ、12b,32b…回転軸、33,73…減速機、14,34…入力部、15,35…出力部、20,70…第1アーム、21,31,71,81…フレーム部材、31d,71a,81a…下面部、30,80…第2アーム、33b,73a…空間部、38,78,88…圧抜き経路、39,69,79,89…エアチューブ、39a,69a…コイル部、55…モータカバー、A…スカラロボット
【特許請求の範囲】
【請求項1】
駆動装置と、入力部と出力部とこれらの入力部および出力部を回転可能に支持するケース部材とを備える減速機と、第1部材と、この第1部材に対して回転可能に組みつけられる第2部材とを有し、前記駆動装置と前記減速機の前記ケース部材は、前記第1部材と前記第2部材の内いずれか一方に連結され、前記出力部は、第1部材と前記第2部材の内他方に連結され、前記減速機を収納する減速機収納室内に潤滑剤を充填し、前記駆動装置によって前記入力部を駆動することにより、前記第1部材に対して前記第2部材を回転駆動するようにしたロボットにおいて、
前記潤滑剤の上面より上方となる前記減速機収納室の所定部から、この所定部より上方の上方点まで延びて前記減速機収納室を外部に連通させる連通路を前記第1部材および前記第2部材の少なくとも一方に位置するように設け、前記連通路の途中に螺旋状部分を形成したことを特徴とするロボット。
【請求項2】
前記第2部材を前記第1部材の上方に位置する下面部を備えたフレーム部材で構成して、前記減速機の入力部を駆動する駆動装置を前記フレーム部材の下面部の上面側に連結固定するとともに、前記減速機の出力部を前記第1部材に連結固定し、
前記フレーム部材の下面部で前記減速機収納室の上面壁を構成し、前記上面壁に上下貫通部を形成して、前記上下貫通部を介して、前記駆動装置の出力軸と前記減速機の入力部とを連結し、
前記フレーム部材に、前記連通路の上流部を形成し、前記上流部に前記螺旋状部分を備えた下流部を連結した請求項1に記載のロボット。
【請求項3】
前記螺旋状部分を前記駆動装置の外周に巻回させた請求項2に記載のロボット。
【請求項4】
前記第1部材を前記第2部材の下方に位置する上面部を備えたフレーム部材で構成して、前記減速機の入力部を駆動する駆動装置を前記フレーム部材の上面部の下面側に連結固定するとともに、前記減速機の出力部を前記第2部材に連結固定し、
前記第2部材の一部で前記減速機収納室の上面壁を構成するとともに、前記フレーム部材の上面部に上下貫通部を形成して、前記上下貫通部を介して、前記駆動装置の出力軸と前記減速機の入力部とを連結し、
前記第2部材に、前記連通路の上流部を形成し、前記上流部に前記螺旋状部分を備えた下流部を連結した請求項1に記載のロボット。
【請求項5】
ベース部と、前記ベース部に一端側が回転可能に支持される第1アームと、前記第1アームの他端側に一端側が回転可能に支持される第2アームとを備え、前記第1部材が前記ベース部に含まれ、前記第2部材が前記第1アームに含まれる請求項1ないし4のいずれか一つに記載のロボット。
【請求項6】
ベース部と、前記ベース部に一端側が回転可能に支持される第1アームと、前記第1アームの他端側に一端側が回転可能に支持される第2アームとを備え、前記第1部材が前記第1アームに含まれ、前記第2部材が前記第2アームに含まれる請求項1ないし4のいずれか一つに記載のロボット。
【請求項7】
前記第1部材または前記第2部材における前記上方点よりも下方の位置に潤滑剤溜まり室を設け、前記連通路の下流端を前記潤滑剤溜まり室で開放した請求項1ないし6のいずれか一つに記載のロボット。
【請求項1】
駆動装置と、入力部と出力部とこれらの入力部および出力部を回転可能に支持するケース部材とを備える減速機と、第1部材と、この第1部材に対して回転可能に組みつけられる第2部材とを有し、前記駆動装置と前記減速機の前記ケース部材は、前記第1部材と前記第2部材の内いずれか一方に連結され、前記出力部は、第1部材と前記第2部材の内他方に連結され、前記減速機を収納する減速機収納室内に潤滑剤を充填し、前記駆動装置によって前記入力部を駆動することにより、前記第1部材に対して前記第2部材を回転駆動するようにしたロボットにおいて、
前記潤滑剤の上面より上方となる前記減速機収納室の所定部から、この所定部より上方の上方点まで延びて前記減速機収納室を外部に連通させる連通路を前記第1部材および前記第2部材の少なくとも一方に位置するように設け、前記連通路の途中に螺旋状部分を形成したことを特徴とするロボット。
【請求項2】
前記第2部材を前記第1部材の上方に位置する下面部を備えたフレーム部材で構成して、前記減速機の入力部を駆動する駆動装置を前記フレーム部材の下面部の上面側に連結固定するとともに、前記減速機の出力部を前記第1部材に連結固定し、
前記フレーム部材の下面部で前記減速機収納室の上面壁を構成し、前記上面壁に上下貫通部を形成して、前記上下貫通部を介して、前記駆動装置の出力軸と前記減速機の入力部とを連結し、
前記フレーム部材に、前記連通路の上流部を形成し、前記上流部に前記螺旋状部分を備えた下流部を連結した請求項1に記載のロボット。
【請求項3】
前記螺旋状部分を前記駆動装置の外周に巻回させた請求項2に記載のロボット。
【請求項4】
前記第1部材を前記第2部材の下方に位置する上面部を備えたフレーム部材で構成して、前記減速機の入力部を駆動する駆動装置を前記フレーム部材の上面部の下面側に連結固定するとともに、前記減速機の出力部を前記第2部材に連結固定し、
前記第2部材の一部で前記減速機収納室の上面壁を構成するとともに、前記フレーム部材の上面部に上下貫通部を形成して、前記上下貫通部を介して、前記駆動装置の出力軸と前記減速機の入力部とを連結し、
前記第2部材に、前記連通路の上流部を形成し、前記上流部に前記螺旋状部分を備えた下流部を連結した請求項1に記載のロボット。
【請求項5】
ベース部と、前記ベース部に一端側が回転可能に支持される第1アームと、前記第1アームの他端側に一端側が回転可能に支持される第2アームとを備え、前記第1部材が前記ベース部に含まれ、前記第2部材が前記第1アームに含まれる請求項1ないし4のいずれか一つに記載のロボット。
【請求項6】
ベース部と、前記ベース部に一端側が回転可能に支持される第1アームと、前記第1アームの他端側に一端側が回転可能に支持される第2アームとを備え、前記第1部材が前記第1アームに含まれ、前記第2部材が前記第2アームに含まれる請求項1ないし4のいずれか一つに記載のロボット。
【請求項7】
前記第1部材または前記第2部材における前記上方点よりも下方の位置に潤滑剤溜まり室を設け、前記連通路の下流端を前記潤滑剤溜まり室で開放した請求項1ないし6のいずれか一つに記載のロボット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2012−161887(P2012−161887A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24687(P2011−24687)
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月8日(2011.2.8)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】
[ Back to top ]