説明

ロータリテーブル装置のブレーキ構造

【課題】直接駆動モータを備えるロータリテーブル装置において、電力供給が途絶えても、回転テーブルの惰性回転を速やかに停止させる。
【解決手段】直接駆動モータ14と、回転テーブル11の回転を許容ないし規制するブレーキ機構15とを備えるロータリテーブル装置10において、ブレーキ機構15は、動作部36,37の作動により制動部材31を進動させて被制動部材30に押し付ける第1ブレーキ状態と、動作部36,37の作動により制動部材31を退動させて被制動部材30から離隔するブレーキ解放状態と、動作部36,37の非作動中に付勢手段33により制動部材31を被制動部材30に当接させる第2ブレーキ状態との3状態のうち、いずれか1状態を選択できることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直接駆動モータを備えるロータリテーブル装置に関し、特に、回転テーブルを回転不能にクランプするロータリテーブル装置のブレーキ構造に関する。
【背景技術】
【0002】
ロータリテーブル装置は、回転テーブルを駆動するモータなどの駆動源と、駆動源の回転数を歯車減速機構で減速して回転テーブルに伝達する歯車減速機構とを備えることが一般的である。この他にも、歯車減速機構を備えず、回転テーブルにロータを設け、ロータリテーブル装置のハウジングにステータを設け、ステータの通電によりロータを回転させて回転テーブルを直接駆動する直接駆動モータを備えるロータリテーブル装置も知られている。そして回転テーブルは附属のブレーキ機構によって回転不能にクランプされる。
【0003】
例えば、特開2009−148840号公報(特許文献1)の回転割出テーブル装置にあっては、回転テーブルの裏面に固定されたモータロータおよび固定フレームに固定されたモータステータを有するインナロータ型の直接駆動モータが回転テーブルを回転駆動する。また、モータロータよりも内径側には、ブレーキ機構としてのクランプ手段が設けられている。このクランプ手段は作動油等の圧力流体が供給されて回転テーブルを回動不能にクランプするというものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−148840号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来のような直接駆動モータを備える回転割出テーブル装置にあっては、以下に説明するような問題を生ずる。つまり、ワークを回転テーブルにチャッキングし、回転割出テーブル装置に通電して回転テーブルを回転させる間に、停電、落雷、あるいは予期しない事情によって電力供給が途絶えた場合、回転テーブルが惰性で回転し続けてしまう。このような回転テーブルの惰性回転は好ましいものではなく、速やかに回転を停止させることが望ましい。しかしながら電力供給がなければクランプ手段を動作させることができず、回転テーブルの惰性回転を制動する術がない。
【0006】
本発明は、上述の実情に鑑み、電力が供給される通常運転中は回転テーブルを指定の割り出し角度で回転不能にクランプすることは勿論、電力供給が途絶えた非常の場合であっても、回転テーブルの惰性回転を速やかに停止させることができるロータリテーブル装置のブレーキ機構を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的のため本発明は、回転テーブルと、回転テーブルに設けられたロータ、およびロータと対面配置されるステータとを有し、これらロータおよびステータ間の電磁気的作用によりロータを回転駆動する直接駆動モータと、回転テーブルと結合する被制動部材、被制動部材に摺接する制動部材、制動部材を被制動部材に向けて付勢する付勢手段、および制動部材を被制動部材に対して進退動させる動作部を有し、回転テーブルの回転を許容ないし規制するブレーキ機構とを備えるロータリテーブル装置を前提とする。
【0008】
そしてブレーキ機構は、動作部の作動により制動部材を進動させて被制動部材に押し付ける第1ブレーキ状態と、動作部の作動により制動部材を退動させて被制動部材から離隔するブレーキ解放状態と、動作部の非作動中に付勢手段により制動部材を被制動部材に当接させる第2ブレーキ状態との3状態のうち、いずれか1状態を選択できることを特徴とする。
【0009】
かかる本発明によれば、ブレーキ機構は、動作部の作動により第1ブレーキ状態あるいはブレーキ解放状態にされる他、動作部の非作動中に第2ブレーキ状態にされる。したがって電力が供給される通常運転中に回転テーブルを回転不能にクランプし、あるいは回転自在にすることができる。そして電力供給が途絶えた非常の場合であっても、回転中の回転テーブルの惰性回転を速やかに停止させることができる。
【0010】
被制動部材および制動部材の形態は特に限定されない。また付勢手段はバネなどの弾性部材であってもよく、あるいは制動部材の自重を利用して付勢する等の他の形態であってもよい。一実施形態として、回転テーブルは、テーブル部材およびテーブル部材から回転軸線に沿って延びる中心軸を有し、ブレーキ機構の被制動部材は回転テーブルの中心軸に固定されてテーブル部材とともに回転するブレーキディスクであり、ブレーキ機構の制動部材は、ブレーキディスクの表面と対向する。
【0011】
かかる実施形態によれば、耐久性に優れたブレーキ機構を提供することができる。なお制動部材はブレーキディスクの片面に押し付けられるものであってもよいが、ブレーキディスクの両面に押し付けられるものであってもよい。例えば制動部材が第1の制動部材および第2の制動部材を含み、これら第1および第2の制動部材がブレーキディスクをその厚み方向に挟圧する。またブレーキ機構の動作部は第1の制動部材および第2の制動部材の少なくとも一方をブレーキディスクの厚み方向に進退動させるものであればよく、その形態は特に限定されない。
【0012】
本発明の一実施形態として、制動部材は中央孔を有するリング形状であり、中央孔に回転テーブルの中心軸が通され、ブレーキ機構の動作部は、リング形状の制動部材の内周面と結合する仕切り壁部と、仕切り壁部とブレーキディスクとの間に配置され、制動部材の内周面を軸線方向移動可能に案内する内径側ガイドリングと、仕切り壁部と内径側ガイドリングとの軸線方向隙間であるアンクランプ室と、仕切り壁部からみて内径側ガイドリングとは反対側にあるクランプ室と、クランプ室およびアンクランプ室に流体を選択的に供給する流体供給手段とを有する。
【0013】
かかる実施形態によれば、クランプ室に流体を供給することにより仕切り壁部がブレーキディスクに近づき、制動部材をブレーキディスクに押し付ける。またアンクランプ室に流体を供給することにより仕切り壁部がブレーキディスクから離れ、制動部材はブレーキディスクを解放する。流体供給手段は例えば、作動油あるいはエアを供給するポンプあるいはコンプレッサ等の流体の供給源と、流体の排出部と、流体の供給源および流体の排出部から延びてクランプ室およびアンクランプ室と接続する流体通路と、流体通路の途中箇所に設けられて、クランプ室およびアンクランプ室のいずれか一方と流体の供給源とを連通するとともに残る他方と流体の排出部とを連通する切換弁とを有する。
【0014】
好ましい実施形態として、仕切り壁部は、その内径部で、回転テーブルを回転可能に支持するロータリテーブル装置のハウジング側部材に固定され、その外径部が制動部材とともに軸線方向に移動可能であり、内径側ガイドリングの軸線方向一方側の端面のうち、外径側領域はアンクランプ室を区画し、内径側領域は仕切り壁部の内径部に固定され、当該内径側領域には外径側領域と接続し流体が通過する通路溝が形成され、内径側ガイドリング端面の内径側領域と仕切り壁部の内径部との間にはリング形状のシール部材が介在するよう設けられ、シール部材のうち通路溝の近傍部分が該通路溝よりも内径寄りに位置し、シール部材の残りの部分が相対的に外径寄りに位置する。
【0015】
かかる実施形態によれば、内径側ガイドリングの内径側領域と仕切り壁部の内径部との間にリング形状のシール部材が介在することから、アンクランプ室の内径側の気密性が向上し、流体がアンクランプ室から内径側に漏出することがない。また、シール部材のうち通路溝の近傍部分が該通路溝よりも内径寄りに位置し、シール部材の残りの部分が相対的に外径寄りに位置することから、可動部分である仕切り壁部の半径方向寸法を大きくすることができる。したがって、制動部材の進退動のストロークを大きくすることが可能となり、制動部材を効率良く進退動させ、クランプ力を大きくすることができる。
【0016】
ブレーキディスクの表面は平坦面であってもよいし、制動部材との摩擦力を高めるための凹凸形状が形成されていてもよい。好ましくは、ブレーキディスクは、基材と、基材の表面を覆う硬質表面処理層とを有し、硬質表面処理層で覆われたブレーキディスクの表面に制動部材に対する摩擦係数を高めるための凹凸形状が形成されている。かかる実施形態によれば、ブレーキディスクの表面に制動部材に対する摩擦係数を高めるための凹凸形状が形成されることから、クランプ力を大きくすることができる。また、ブレーキディスクの基材を硬質表面処理層で覆うことから、ブレーキディスクの表面の耐摩耗性が向上する。そして凹凸形状の表面が硬質表面処理層で形成される。したがって凹凸形状の耐摩耗性が向上し、第1ブレーキ状態およびブレーキ解放状態を繰り返しても、長期に亘って高い摩擦係数を維持することができる。
【発明の効果】
【0017】
このように本発明は、電力供給が途絶えた非常の場合であっても、回転中の回転テーブルの惰性回転を速やかに停止させることができる。したがって安全性および信頼性の点で有利なロータリテーブル装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施例になるロータリテーブル装置を示す断面図である。
【図2】同実施例のブレーキ機構を拡大して示す断面図である。
【図3】ブレーキディスクの平面図である。
【図4】ブレーキディスクの外径部の断面図である。
【図5】同実施例の内径側ガイドリングを取り出して示す平面図である。
【図6】同実施例のブレーキ機構および比較例のブレーキ機構を対比して示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態を、図面に示す実施例に基づき詳細に説明する。図1は、本発明の一実施例になるロータリテーブル装置の基本構成を示す断面図である。ロータリテーブル装置10は、回転テーブル11と、ハウジング12と、回転テーブル11とハウジング12の間に設けられる軸受13と、回転テーブル11およびハウジング12にまたがって設けられる直接駆動モータ14と、回転テーブル11およびハウジング12にまたがって設けられるブレーキ機構15とを備える。
【0020】
回転テーブル11はワークを支持するためのものであり、図1に一点鎖線で示す軸線Oを中心として回転する。回転テーブル11は円盤形状のテーブル部材21と、テーブル部材21の裏面から軸線Oに沿って延びる中心軸22を有する。テーブル部材21は軸線Oと直交する表面21fを有し、表面21f側でワークを間接的または直接的にチャッキングする。
【0021】
ハウジング12はロータリテーブル装置10の外郭を形成し、軸受13を介して回転テーブル11を回転可能に支持する。軸受13は軸線Oを中心とするクロスローラベアリングであり、軸線方向および径方向の荷重を支持する。
【0022】
直接駆動モータ14は、回転テーブル11に設けられたロータ24、およびロータ24と径方向隙間を介して対面配置されるステータ25を有する。具体的には直接駆動モータ14はインナロータ型のモータであり、ロータ24は内径側に配置され、ステータ25は外径側に配置され、これらロータ24およびステータ25間の電磁気的作用によりロータ24を回転駆動する。ロータ24はリング形状であり、ねじによって中心軸22の外周に取付固定される。ステータ25はハウジング12の内側に取付固定されるコイルであり、通電されてロータ24に磁力を及ぼす。これにより回転テーブル11はロータ24とともに回転する。直接駆動モータ14は、図示しない制御部に制御され、回転テーブル11を直接駆動して指定された割り出し角度にする。
【0023】
ブレーキ機構15は回転テーブル11の回転を許容ないし規制し、回転テーブル11を回転不能にクランプする。具体的な構成としてブレーキ機構15は、回転テーブル11と結合する被制動部材としてのブレーキディスク30、このブレーキディスク30に摺接する制動部材としての第1クランプ部材31および第2クランプ部材32を有する。またブレーキ機構15は、詳しくは後述するが、第1クランプ部材31をブレーキディスク30に向かって進退動させる動作部を有する。
【0024】
図2は、ロータリテーブル装置10のブレーキ機構15を拡大して示す断面図である。図3はブレーキディスク30の平面図である。被制動部材であるブレーキディスク30は中央孔30hを有する円盤形状であり、中央孔30hには中心軸22の先端部が挿通される。そしてブレーキディスク30はねじによって中心軸22に固定される。これによりブレーキディスク30の中心は軸線Oと一致し、ブレーキディスク30は回転テーブル11とともに回転する。またブレーキディスク30は軸線O方向に厚みを有する。
【0025】
制動部材である第1クランプ部材31および第2クランプ部材32は、1対をなし、ブレーキディスク30からみて軸線O方向一方および他方に配置される。そして第1クランプ部材31はブレーキディスク30の一方面と対向する。また第2クランプ部材32は、ハウジング側部材16を介してハウジング12に取付固定され、ブレーキディスク30の他方面と対向する。
【0026】
ブレーキ機構15の動作部が第1クランプ部材31をブレーキディスク30に向かって進動させると、第1クランプ部材31はブレーキディスクの一方面に押し付けられる。この結果、第1および第2クランプ部材31,32はブレーキディスク30をその厚み方向に挟圧する。反対にブレーキ機構15の動作部が第1クランプ部材31をブレーキディスク30から退動させると、第1クランプ部材31はブレーキディスク30の一方面から離隔する。この結果、第1および第2クランプ部材31,32はブレーキディスク30を解放する。
【0027】
第1クランプ部材31は、内周面31iおよび外周面31oを有するリング形状の部材であり、ブレーキディスク30と同軸に配置される。また第1クランプ部材31は、軸線Oに関して一方側と他方側にそれぞれ端面を有する。そしてブレーキディスク30に近い方の端面がブレーキディスク30の一方面と対向する。
【0028】
図4はブレーキディスクの外径部の断面図である。図4に示すように、ブレーキディスク30は、基材30aと、基材30aの表面を覆う硬質表面処理層30bとを有する。硬質表面処理層30bで覆われたブレーキディスク30の表面には、凹部30cおよび凸部30dが多数連続した摩擦係数を高めるための凹凸形状30eが形成される。凹凸形状30eはブレーキディスクの外径部に形成される。また凹凸形状はブレーキディスクの一方面および他方面にそれぞれ形成される。
【0029】
凹凸形状30eは、ブレーキディスク30の両面に形成される。これにより、片面のみ形成される場合よりもクランプ力を一層増大させることができる。なお図には示さなかったが、変形例として凹凸形状30eをいずれか一方の面に形成してもよい。
【0030】
凹凸形状の形成方法につき付言すると、一例として、まず基材30aにショットピーニングを行って基材30aに多数の凹部および凸部を設ける。ショットピーニングは、多数の粒子を被加工表面に投射する冷間加工法であり、被加工表面に多数の凹凸を形成する際に圧縮応力が残存するので、被加工表面の疲れ寿命が向上する。
【0031】
ブレーキディスク30の外径部の表面に凹凸形状を形成することにより、クランプ部材31,32に対するブレーキディスク30の摩擦係数が高まり、ブレーキ機構15のクランプ力が大きくなるが、第1クランプ部材31および第2クランプ部材32による外径部の挟圧動作を繰り返して行なうと、外径部の表面、より具体的には凹凸形状の凸部分が摩耗し、摩擦係数が低下してしまう。そこで、本実施例では、ブレーキディスク30の外径部の一方面および他方面の凹凸形状を長期に亘って維持するために、ブレーキディスク30の外径部の一方面および他方面に硬質表面処理層30bを形成している。硬質表面処理層30bは基材30aに設けられた凹部および凸部に沿って形成されており、基材30aに設けられた凹部および凸部が硬質表面処理層30bの表面に表れる。
【0032】
硬質表面処理としては、種々の方法が考えられる。一つの実施形態では、クロムなどの硬質金属をメッキすることである。硬質表面処理層30bを硬質クロムメッキ層とすれば優れた耐摩耗性を発揮するので、ブレーキディスク30の外径部の表面凹凸形状を長期間に亘って維持することができる。
【0033】
ブレーキディスクの外径部の表面に凹凸形状を付与する加工法としては、ショットピーニングに限定されるものではなく、一般的な機械加工法等も採用し得る。例えばブレーキディスク30の外径部の表面には、機械加工によって放射状に延びる多数の溝を形成してもよい。これらの溝は、ブレーキディスク30を厚み方向に貫通するのではなく、溝底を持つ形状であるので、ブレーキディスク30の剛性は良好に維持される。
【0034】
第1および第2クランプ部材31,32は、ブレーキディスク30の表面に表れた凹凸形状により摩擦係数が高められたブレーキディスク30の外径部をその厚み方向に挟圧することから、ブレーキディスク30の回転を速やかに停止させることができ、クランプ力を大きくすることができる。しかも凹凸形状の表面は硬質表面処理層30bで形成されることから、耐摩耗性が向上し、凹凸形状は長期に亘って維持される。
【0035】
第1クランプ部材31は、その内周面31iで、円盤形状の仕切り壁部33の外周縁と一体結合する。仕切り壁部33の軸線O方向厚みは第1クランプ部材31の軸線O方向厚みよりもはるかに小さな薄肉にされる。そして仕切り壁部33は、第1クランプ部材31の両端面のうちブレーキディスク30から遠い方の端面と段差なく滑らかに接続する。これにより、第1クランプ部材31の内周面31iと仕切り壁33とで囲まれる凹部空間が形成される。この凹部空間は内径側ガイドリング35を収容する。
【0036】
仕切り壁部33は中央孔33hを有する。中央孔33hには中心軸22が挿通される。中央孔33hを取り囲む仕切り壁部33の内径部は、外径側よりもやや厚みが大きく、ねじによってハウジング側部材16に取り付けられる。ハウジング側部材16は、中心軸22が貫通する中央孔17を有する壁部材であり、一方の面がハウジング12と結合し、他方の面が仕切り壁部33と対向する固定部材である。
【0037】
このように仕切り壁部33は、その内径部がハウジング側部材16に固定されるとともにその外径部が薄肉に形成される。そして、仕切り壁部33の外周縁が第1クランプ部材31と結合する。仕切り壁部33のうち固定された内径部を除いた残りの外径側部分は、軸線O方向に弾性変形可能である。また、仕切り壁部33は、第1クランプ部材31をブレーキディスク30に向かって付勢する。第1クランプ部材31は、仕切り壁部33を介して、ハウジング側部材16に取り付けられる。
【0038】
図2を参照して、第1クランプ部材31をブレーキディスク30に向かって進退動させる動作部につき詳細に説明する。
【0039】
仕切り壁部33とブレーキディスク30との間には内径側ガイドリング35が配置される。内径側ガイドリング35の外周面35oは、第1クランプ部材31の内周面31iと摺接する。これにより内径側ガイドリング35は第1クランプ部材31を軸線O方向に進退動可能に案内する。内径側ガイドリング35の中央孔35hには中心軸22が挿通される。中央孔35hを取り囲む内径側ガイドリング35の内径部はボルトによって仕切り壁部33の内径部およびハウジング側部材16に固定される。
【0040】
仕切り壁部33は、ハウジング側部材16と内径側ガイドリング35との間の空間を仕切り、ハウジング側部材16側の空間であるクランプ室36と、内径側ガイドリング35側の空間であるアンクランプ室37に2分割する。
【0041】
平坦な壁状部材であるハウジング側部材16の平坦面には、円周方向に延びる突条である外径側ガイド部38が形成される。外径側ガイド部38はシリンダであり、第1クランプ部材31はシリンダ内を軸線O方向に進退動するピストンであり、第1クランプ部材31の外周面31oは外径側ガイド部38の内周面38iと摺接する。クランプ室36およびアンクランプ室37は、それぞれ通路52,49および図示しない切換弁等を介してエア供給源とエア排出部に切り換え自在に連通している。
【0042】
仕切り壁部33からみて内径側ガイドリング35とは反対側にあるクランプ室36は、互いに軸線O方向に離れた仕切り壁部33とハウジング側部材16との軸線方向隙間である。そして環状に形成されたクランプ室36の外周は外径側ガイド部38の内周面38iによって区画される。クランプ室36の外周は、第1クランプ部材の外周面31oに設けられて内周面38iと摺接するパッキンによって気密にされる。またクランプ室36の内周は、ハウジング側部材16と仕切り壁部33の内径部との間に介在するリング形状のシール部材42によって気密にされる。クランプ室36は、ハウジング側部材16の内部に設けられた通路52の一端と接続する。図示はしなかったが、通路52の他端はエアを供給するエア供給源と接続する。
【0043】
アンクランプ室37は、互いに軸線O方向に離れた仕切り壁部33と内径側ガイドリング35との軸線方向隙間である。そして環状に形成されたアンクランプ室37の外周は第1クランプ部材31の内周面31iによって区画される。アンクランプ室37の外周は、内径側ガイドリング35の外周面35oに設けられて内周面31iと摺接するパッキンによって気密にされる。またアンクランプ室37の内周は、仕切り壁部33の内径部と内径側ガイドリング35の内径部の間に介在するリング形状のシール部材43によって気密にされる。シール部材42,43はOリングで構成される。
【0044】
図5は内径側ガイドリングを取り出して示す平面図である。図2および図5に示すように、内径側ガイドリング35の軸線方向一方側の端面は、外径側領域44よりも内径側領域45の方が高くなるよう形成される。さらに内径側ガイドリングの軸線方向一方側の端面には、外径側領域44と内径側領域45の境界になる環状段差46と、環状段差46から内径方向に延びる通路溝47とが形成される。外径側領域44および環状段差46はアンクランプ室37を区画する。また、端面の内径側領域45は仕切り壁部33の内径部に固定される。通路溝47は内径側領域45に形成され、仕切り壁部33の内径部が通路溝47に被さることによって通路溝47は通路を構成する。
【0045】
通路溝47の外径側端はアンクランプ室37と接続する。通路溝47の内径側端は、仕切り壁部33の内径部に形成された孔48を介して、ハウジング側部材16の内部に形成された通路49の一端と接続する。図示はしなかったが、通路49の他端はエアを供給するエア供給源と接続する。
【0046】
ブレーキ機構15の動作について説明する。
【0047】
通常の運転状態において、ブレーキ機構15は、動作部の作動により第1クランプ部材31を進動させてブレーキディスク30に押し付ける第1ブレーキ状態、あるいは動作部の作動により第1クランプ部材31を退動させてブレーキディスク30から離隔するブレーキ解放状態にされる。
【0048】
すなわち第1ブレーキ状態では、通路52からクランプ室36にエアを圧入するとともに、アンクランプ室37からエアを排出することにより、クランプ室36を膨張させ、仕切り壁部33を弾性変形させて内径側ガイドリング35に近づける。これにより、第1クランプ部材31をブレーキディスク30の表面に押し付け、回転テーブル11の回転を速やかに停止させ、停止中の回転テーブル11を回転不能にクランプすることができる。
【0049】
かかる第1ブレーキ状態において、テーブル部材21の表面21fにチャッキングされたワークは、フライス盤、マシニングセンター等の各種工作機械による切削または研削作業における工具からの加圧または振動等に対して、確実に所定の回転角度位置に保たれる。
【0050】
またブレーキ解放状態では、通路49からアンクランプ室37にエアを圧入するとともに、クランプ室36からエアを排出することにより、アンクランプ室37を膨張させ、仕切り壁部33を弾性変形させて内径側ガイドリング35から遠ざける。これにより、第1クランプ部材31がブレーキディスク30の表面から離れ、回転テーブル11は回転を許容される。そして直接駆動モータ14で回転テーブル11を指定の割り出し角度に回転させる。
【0051】
突然の停電や落雷などにより、ロータリテーブル装置10に電力が供給されない非常時は、エアコンプレッサからエアが供給されず動作部が作動しないため、ブレーキ機構15は上述した第1ブレーキ状態やブレーキ解放状態にはされない。かかる動作部の非作動中に、ブレーキ機構15は第2ブレーキ状態にされる。
【0052】
すなわち第2ブレーキ状態では、付勢手段である仕切り壁部33が軽い力で第1クランプ部材31をブレーキディスク30の表面に当接させる。これにより本実施例によれば、ロータリテーブル装置10の運転中に停電した場合であっても、回転テーブル11の惰性回転を速やかに停止させ、停止中の回転テーブル11を回転不能に保つことができる。したがって直接駆動モータで駆動される形式において従来のクランプ機構を備えたロータリテーブル装置よりも安全性および信頼性が高い。
【0053】
なお仕切り壁部33の付勢力はアンクランプ室37が膨張して仕切り壁部33に加える力よりも軽いため、仕切り壁部33の付勢力がアンクランプ室37の膨張の障害になることはない。
【0054】
本実施例では、図5に示すように、シール部材43が単純な真円形状となるように配置されるのではなく、その一部43gが残りの部分43rよりも内径寄りに配置される。
【0055】
内径側ガイドリング35の内径側領域45と仕切り壁部33の内径部との間に介在するリング形状のシール部材43は円周方向に延び、内径側ガイドリング35の中央孔35hを取り囲む。シール部材43はOリングが用いられ、シール部材43のうち通路溝47の近傍部分43gは、通路溝47よりも内径寄りに位置し、シール部材の残りの部分43rが相対的に外径寄りに位置する。
【0056】
本実施例によれば、リング形状のシール部材43が、一部43gにおいて内径寄りに配置され、他の部分43rにおいて外径寄りに配置されることから、円環形状の仕切り壁部33の半径方向寸法を大きくすることが可能となり、第1クランプ部材31を効率良く進退動させることができる。この点につき図6を参照しつつ詳細に説明する。
【0057】
図6は縦断面図であって、本実施例のブレーキ機構および比較例のブレーキ機構を対比して示す説明図である。比較例の基本構成は本実施例と同じであるが、各部材の径方向位置が一部異なっている。本実施例と比較例との関係で対応する部材には、36と136、37と137、43と143、47と147等というように、対応する符号を付している。
【0058】
本実施例では、シール部材43が真円形状に配置されるのではなく、シール部材43のうち通路溝47近傍の一部43gが他の部分43rよりも内径寄りに配置される。これに対し、比較例のシール部材143は真円形状に配置される。このため、本実施例の通路溝47は、比較例の通路溝147よりも内径側に配置される。
【0059】
これにより、本実施例の可動部分の半径方向寸法D1を、比較例の可動部分の半径方向寸法D2よりも長くすることができる。ここで可動部分とは、仕切り壁部33のうち薄肉にされた部分から第1クランプ部材31の外周面31oまでをいい、軸線O方向に動くことができる。
【0060】
本実施例の仕切り壁部33は可動部分の半径方向寸法D1が長いため、軸線O方向の進退動ストロークを長くすることができる。また半径方向寸法D1が長く、クランプ室36を区画する環状の仕切り壁部33の面積が大きくなることから、矢印で示すようにクランプ室36に供給されるエアによって仕切り壁部33に大きな力を与えることができる。したがって本実施例によればクランプ力を大きくすることができる。
【0061】
これに対し比較例の仕切り壁部133は可動部分の半径方向寸法D2が短いため、軸線O方向の進退動ストロークが短くなってしまう。また仕切り壁部133の面積が小さくなってしまうため、クランプ室136に供給されるエアによって環状の仕切り壁部133に与える力は小さなものとなってしまい、本実施例のように大きなクランプ力を得ることができない。
【0062】
以上、図面を参照してこの発明の実施の形態を説明したが、この発明は、図示した実施の形態のものに限定されない。図示した実施の形態に対して、この発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
この発明になるロータリテーブル装置のブレーキ構造は、工作機械の分野において有利に利用される。
【符号の説明】
【0064】
10 ロータリテーブル装置、11 回転テーブル、12 ハウジング、13 軸受、14 直接駆動モータ、15 ブレーキ機構、16 ハウジング側部材、17 中央孔、21 テーブル部材、22 中心軸、24 ロータ、25 ステータ、30 ブレーキディスク、30a 基材、30b 硬質表面層、30e 凹凸形状、31 第1クランプ部材、32 第2クランプ部材、33 仕切り壁部、35 内径側ガイドリング、36 クランプ室、37 アンクランプ室、38 外径側ガイド部、42,43 シール部材、44 外径側領域、45 内径側領域、46 環状段差、47 通路溝、49,52 通路。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転テーブルと、
前記回転テーブルに設けられたロータ、および前記ロータと対面配置されるステータとを有し、これらロータおよびステータ間の電磁気的作用により前記ロータを回転駆動する直接駆動モータと、
前記回転テーブルと結合する被制動部材、前記被制動部材に摺接する制動部材、前記制動部材を前記被制動部材に向けて付勢する付勢手段、および前記制動部材を被制動部材に対して進退動させる動作部を有し、前記回転テーブルの回転を許容ないし規制するブレーキ機構とを備えるロータリテーブル装置において、
前記ブレーキ機構は、前記動作部の作動により前記制動部材を進動させて前記被制動部材に押し付ける第1ブレーキ状態と、前記動作部の作動により前記制動部材を退動させて前記被制動部材から離隔するブレーキ解放状態と、前記動作部の非作動中に前記付勢手段により前記制動部材を前記被制動部材に当接させる第2ブレーキ状態との3状態のうち、いずれか1状態を選択できることを特徴とする、ロータリテーブル装置のブレーキ構造。
【請求項2】
前記回転テーブルは、テーブル部材および前記テーブル部材から回転軸線に沿って延びる中心軸を有し、
前記ブレーキ機構の被制動部材は前記回転テーブルの中心軸に固定されて前記テーブル部材とともに回転するブレーキディスクであり、
前記ブレーキ機構の制動部材は、前記ブレーキディスクの表面と対向する、請求項1に記載のロータリテーブル装置のブレーキ構造。
【請求項3】
前記制動部材は中央孔を有するリング形状であり、前記中央孔に前記回転テーブルの中心軸が通され、
前記ブレーキ機構の動作部は、
前記リング形状の制動部材の内周面と結合する仕切り壁部と、
前記仕切り壁部と前記ブレーキディスクとの間に配置され、前記制動部材の内周面を軸線方向移動可能に案内する内径側ガイドリングと、
前記仕切り壁部と前記内径側ガイドリングとの軸線方向隙間であるアンクランプ室と、
前記仕切り壁部からみて前記内径側ガイドリングとは反対側にあるクランプ室と、
前記クランプ室および前記アンクランプ室に流体を選択的に供給する流体供給手段とを有する、請求項2に記載のロータリテーブル装置のブレーキ構造。
【請求項4】
前記仕切り壁部は、その内径部で、前記回転テーブルを回転可能に支持するロータリテーブル装置のハウジング側部材に固定され、その外径部が前記制動部材とともに軸線方向に移動可能であり、
前記内径側ガイドリングの軸線方向一方側の端面のうち、外径側領域は前記アンクランプ室を区画し、内径側領域は前記仕切り壁部の内径部に固定され、当該内径側領域には前記外径側領域と接続し前記流体が通過する通路溝が形成され、
前記内径側ガイドリング端面の内径側領域と仕切り壁部の内径部との間にはリング形状のシール部材が介在するよう設けられ、
前記シール部材のうち前記通路溝の近傍部分が該通路溝よりも内径寄りに位置し、前記シール部材の残りの部分が相対的に外径寄りに位置する、請求項3に記載のロータリテーブル装置のブレーキ構造。
【請求項5】
前記ブレーキディスクは、基材と、基材の表面を覆う硬質表面処理層とを有し、前記硬質表面処理層で覆われたブレーキディスクの表面に前記制動部材に対する摩擦係数を高めるための凹凸形状が形成される、請求項2〜4のいずれかに記載のロータリテーブル装置のブレーキ構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−29186(P2013−29186A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−167391(P2011−167391)
【出願日】平成23年7月29日(2011.7.29)
【出願人】(591028072)株式会社日研工作所 (43)
【Fターム(参考)】