説明

ローラー型ナノインプリント装置

【課題】金型ロールによりナノ構造が転写された被転写膜の厚みが不均一になることを防止することができ、また、金型ロールを容易に交換することができるローラー型ナノインプリント装置を提供する。
【解決手段】金型ロールを回転させることで被転写膜の表面にナノメートルサイズの突起を連続的に形成するローラー型ナノインプリント装置であって、上記金型ロールは、外周面にナノメートルサイズの窪みが形成された円筒体であり、上記ナノインプリント装置は、上記金型ロールの内周面に囲まれた領域に、流体の注入により膨張可能な弾性膜を備える流体容器を有し、上記弾性膜を収縮させた状態で金型ロールの着脱を行い、上記弾性膜を膨張させた状態で金型ロールを内側から保持するローラー型ナノインプリント装置である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ローラー型ナノインプリント装置、ローラー型ナノインプリント装置用金型ロール、ローラー型ナノインプリント装置用固定ロール、及び、ナノインプリントシートの製造方法に関する。より詳しくは、低反射率が得られる表面処理がなされた樹脂シートを製造するのに好適なローラー型ナノインプリント装置、ローラー型ナノインプリント装置用金型ロール、ローラー型ナノインプリント装置用固定ロール、及び、ナノインプリントシートの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金型に刻み込んだナノメートルサイズ(1〜1000μm)の凹凸(以下、「ナノ構造」ともいう。)を、基板上に塗布した樹脂材料に押し付けて形状を転写する技術、いわゆるナノインプリント技術が、近年注目されており、光学材料、ICの微細化、臨床検査基板等への応用を目指す研究がなされている。ナノインプリント技術の利点としては、さまざまな特徴を備える部品を、リソグラフィとエッチングを使う従来のパターン形成技術に比べて低コストで作れる点が挙げられる。この理由としては、ナノインプリント技術で使われる装置の構成が簡便で従来技術で使われる装置に比べて安いことや、同じ形状の部品を短時間で大量に製造することが可能なことが挙げられる。
【0003】
ナノインプリント技術の方式としては、熱ナノインプリント技術、UVナノインプリント技術等が知られている。例えば、UVナノインプリント技術は、透明基板上に紫外線硬化樹脂の薄膜を成膜し、該薄膜上に、ナノ構造を有する金型を押し付けて、その後に紫外線を照射することにより、透明基板上に金型の反転形状のナノ構造を有する薄膜を形成するものである。研究段階でこれらの方式を用いる場合には、平らな金型を用い、バッチ処理によりナノ構造を形成するのが一般的である。
【0004】
ナノインプリント技術により、大量に安く、ナノ構造を有する薄膜を製造するためには、バッチ処理よりもロール・ツー・ロール処理を用いる方が好適である。ロール・ツー・ロール処理によれば、金型ロールを用いて連続的にナノ構造を有する薄膜を製造することができる。
【0005】
ロール・ツー・ロール処理を用いたナノインプリント技術としては、例えば、図18に示すように、小型の金型ロール52を順次、横にスライドさせてパターンを継ぎながら大型の金型ロール51上に塗布した紫外線硬化樹脂にパターンを転写し、大型の金型ロール51上にパターンを形成する方法が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。しかしながら、この方法では、大型ロール51内でパターンを継ぐために、基本的に、形成されるナノ構造は継ぎ目を有するものとなり、小型の金型ロール52の幅よりも大きなナノ構造を形成するのには適していない。
【0006】
ロール・ツー・ロール処理に用いるロールに関し、ナノインプリント技術以外の分野において、ロール材に凹凸パターンを直接形成するロールの作製方法(例えば、特許文献2、3参照。)が開示されている。しかしながら、この方法をナノインプリント技術に応用する場合、ナノ構造が形成された金型ロールに、金型ロールとナノインプリント装置を連結するための軸受け機構等を備え付けなければならず、金型ロールが高価になってしまうことが量産上の問題となる。
【0007】
また、凹凸パターンを有する円筒状の部材をロールに取り付ける方法(例えば、特許文献4の図7参照。)が開示されている。しかしながら、この方法によっては、ナノ構造を、金型ロールの外周を一周させてつなぎ合わせることは難しく、継ぎ目をなくすことは困難であった。
【0008】
これに対し、ナノ構造を有する光学材料の製造技術の分野において、陽極酸化により表面にナノサイズの穴を形成したアルミニウム基板を金型として用いる方法が知られている(例えば、特許文献5〜8参照。)。なお、光学材料において、ナノ構造の一種として「モスアイ構造」が知られている。モスアイ構造は、例えば、透明基板の表面にナノメートルサイズのコーン状の突起を多数形成したものが挙げられる。このようなモスアイ構造によれば、空気層から透明基板にかけて屈折率が連続的に変化するために、入射光は光学的な表面と認識しなくなり、反射光を激減させることができる(例えば、特許文献6〜9参照。)。
【0009】
この陽極酸化を用いる方法によれば、ナノメートルサイズの窪みを表面に、ランダムに、ほぼ均一に形成することが可能であり、円柱状又は円筒状の金型ロールの表面に、連続生産に必要な継ぎ目のない(シームレスな)ナノ構造を形成することができる(例えば、特許文献8の図19参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2007−203576号公報
【特許文献2】特開2005−144698号公報
【特許文献3】特開2005−161531号公報
【特許文献4】特開2007−281099号公報
【特許文献5】特表2003−531962号公報
【特許文献6】特開2003−43203号公報
【特許文献7】特開2005−156695号公報
【特許文献8】国際公開第2006/059686号パンフレット
【特許文献9】特開2001−264520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、金型ロールは、ナノインプリント装置において永続的に使用されるものではなく、一定期間の使用の後、交換が必要となるため、安価であることが強く求められる。これに対しては、金型ロールを円筒状にして、交換部材である金型ロールの構造を単純化することが有効である。一方で、ナノ構造が転写される被転写膜の厚みが不均一になることを防止するために、被転写膜の表面を均一に加圧しながらナノ構造の転写を行う必要があり、円筒状の金型ロールを用いる場合、金型ロールの位置及び向きを高精度に制御できるナノインプリント装置への取り付け方法が求められる。これに対し、ボルト等のねじ、スプロケット等の締め付け治具、スペーサーといった装着機構を用いる方法では、金型ロールの位置及び向きを高精度に制御することと、金型ロールの容易な着脱とを両立することは困難であった。
【0012】
本発明は、上記現状に鑑みてなされたものであり、金型ロールによりナノ構造が転写された被転写膜の厚みが不均一になることを防止することができ、また、金型ロールを容易に交換することができるローラー型ナノインプリント装置、ローラー型ナノインプリント装置用金型ロール、ローラー型ナノインプリント装置用固定ロール、及び、ナノインプリントシートの製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、円筒状の金型ロールを用いるローラー型ナノインプリント装置について種々検討したところ、ナノインプリント装置への金型ロールの取り付け方法に着目した。そして、流体の注入により膨張可能な弾性膜を用い、上記弾性膜を収縮させた状態で金型ロールの着脱を行い、上記弾性膜を膨張させた状態で金型ロールを内側から保持することにより、金型ロールによりナノ構造が転写された被転写膜の厚みが不均一になることを防止することができ、また、金型ロールを容易に交換することができることを見いだし、上記課題をみごとに解決することができることに想到し、本発明に到達したものである。
【0014】
すなわち、本発明は、金型ロールを回転させることで被転写膜の表面にナノメートルサイズの突起を連続的に形成するローラー型ナノインプリント装置であって、上記金型ロールは、外周面にナノメートルサイズの窪みが形成された円筒体であり、上記ナノインプリント装置は、上記金型ロールの内周面に囲まれた領域に、流体の注入により膨張可能な弾性膜を備える流体容器を有し、上記弾性膜を収縮させた状態で金型ロールの着脱を行い、上記弾性膜を膨張させた状態で金型ロールを内側から保持するローラー型ナノインプリント装置(以下、「本発明の第1のナノインプリント装置」ともいう。)である。
【0015】
本発明においては、外周面にナノメートルサイズの窪みが形成された円筒体の金型ロールを回転させることにより、被転写膜に対する型押し、及び、被転写膜からの離型を連続的に行うことができ、その結果、表面にナノメートルサイズの突起が形成された製品を高速かつ大量に製造することができる。また、円筒体の金型ロールを回転させる方法によれば、シームレスな(継ぎ目のない)表面構造を形成することができる。
【0016】
被転写膜は、金型ロールを型押しすることで、金型ロールの外周面に形成されたナノメートルサイズの窪みの反転形状を有するナノメートルサイズの突起を形成することができるものであれば特に限定されず、例えば、シート状の樹脂が好適である。樹脂に転写を行う場合、未硬化又は半硬化の樹脂に型押しした後、硬化処理を行うことが好ましい。
【0017】
本明細書において、ナノメートルサイズの窪みとは、深さが1nm以上、1μm(=1000nm)未満の窪みをいい、ナノメートルサイズの突起とは、高さが1nm以上、1μm(=1000nm)未満の突起をいう。また、本明細書においては、ナノメートルサイズの窪みが形成された表面構造、及び、ナノメートルサイズの突起が形成された表面構造をナノ構造ともいう。ナノ構造としては、モスアイ構造、ワイヤーグリッド構造等が挙げられる。
【0018】
本発明の第1のナノインプリント装置は、金型ロールの内周面に囲まれた領域に、流体の注入により膨張可能な弾性膜を備える流体容器を有する。流体容器は流体を注入して弾性膜を膨張させることができる構造を有していれば特に限定されず、例えば、弾性膜を袋状にしたものであってもよいし、剛体からなる容器の開口部を弾性膜で封止したものであってもよい。このような流体容器を用いることによって、弾性膜を収縮させた状態で金型ロールの着脱を行い、弾性膜を膨張させた状態で金型ロールを内側から保持することが可能となる。そして、流体の圧力を利用することにより、金型ロールの内周面に均等に圧力を印加して金型ロールを保持することができるので、均一な厚さの被転写膜を得ることができる。また、流体を流体容器から排出すれば弾性膜が収縮し、金型ロールの着脱が可能となることから、金型ロールを容易に交換することができる。
【0019】
本発明の第1のローラー型ナノインプリント装置は、上述の金型ロール、及び、流体容器を構成要素として備えるものである限り、その他の部材により特に限定されるものではない。
【0020】
本発明の第1のローラー型ナノインプリント装置の好適な形態としては、例えば、(1)該装置に取り付け可能であり、かつ開口が形成された中空の中空ロールを有し、上記弾性膜は、袋状であり、上記流体容器は、上記袋状の弾性膜からなる弾性袋であり、上記ナノインプリント装置は、上記金型ロールの内周面に囲まれた領域に、上記中空ロールが配置され、上記中空ロール内に弾性袋が配置されており、上記弾性袋を膨張させて中空ロールの開口から露出させた部分を金型ロールの内周面に接触させることにより金型ロールを保持し、金型ロールを保持した状態で中空ロールを回転させることにより金型ロールを回転させる形態、(2)上記流体容器は、上記ナノインプリント装置に取り付け可能であり、かつ開口が形成された中空ロールの該開口を上記弾性膜により塞いだものであり、上記ナノインプリント装置は、弾性膜を膨張させて金型ロールの内周面に接触させることにより金型ロールを保持し、金型ロールを保持した状態で中空ロールを回転させることにより金型ロールを回転させる形態、(3)該装置に取り付け可能であり、かつ金型ロールの内周面に囲まれた領域に配置された回転体を有し、上記弾性膜は、袋状であり、上記流体容器は、上記袋状の弾性膜からなる弾性袋であり、かつ上記回転体の周囲に取り付けられ、上記ナノインプリント装置は、上記弾性袋を膨張させて金型ロールの内周面に接触させることにより金型ロールを保持し、金型ロールを保持した状態で回転体を回転させることにより金型ロールを回転させる形態が挙げられる。
【0021】
上記(1)及び(2)の形態において、中空ロールの好ましい形態としては、開口が形成された部分を除いて、金型ロールの内周面と対向する面上に弾性体が設けられている形態が挙げられる。この形態によれば、金型ロールと中空ロールとが接触した場合であっても、弾性体が緩衝材として機能し、被転写膜の厚みにむらが生じることや、中空ロール及び金型ロールが損傷することを防止できる。
【0022】
上記中空ロールに形成される開口は、金型ロールを安定して保持する観点から、複数形成されることが好ましい。複数の開口は、実質的に均一な大きさであることが好ましく、また、実質的に均一の間隔で設けられていることが好ましい。
【0023】
また、上記(3)の形態において、回転体の好ましい形態としては、外周面の上記弾性袋が取り付けられていない領域上に弾性体が設けられている形態が挙げられる。この形態によれば、金型ロールと回転体とが接触した場合であっても、弾性体が緩衝材として機能し、被転写膜の厚みにむらが生じることや、回転体及び金型ロールが損傷することを防止できる。
【0024】
上記金型ロールの好ましい形態としては、実質的に継ぎ目が形成されていない形態が挙げられる。この形態では、金型ロールの外周面に形成されたナノメートルサイズの窪みから構成される金型パターンが、金型ロールの外周面に連続的に形成される。この形態によれば、被転写膜の表面にナノメートルサイズの突起を実質的に継ぎ目なく形成することができ、例えば、被転写膜を超低反射膜として表示装置に貼り付けて用いる場合には、表示むらの発生を防止することができる。なお、「実質的に継ぎ目が形成されていない」状態とは、光学的に継ぎ目の存在が検出できない状態であればよい。金型ロールの外周面に、線状の段差が0.6μmを超える高さで形成されていない状態が好ましい。また、金型ロールの外周面に、金型パターンのない線状の領域が0.6μmを超える幅で形成されていない状態が好ましい。実質的に継ぎ目が形成されていない形態の金型ロールは、円筒状のロール材の外周面に金型パターンを直接形成した場合に得ることができる。一方、金型パターンを予め形成した板状のロール材の両端を接合した場合には、接合部分において継ぎ目が形成されることになる。
【0025】
また、上記金型ロールの好ましい形態としては、研磨されたアルミニウム管の外周面に、陽極酸化法により上記ナノメートルサイズの窪みを形成した形態が挙げられる。この形態によれば、実質的に継ぎ目のない金型ロールを形成することができ、上述の効果を得ることができる。研磨方法としては、切削研磨が好適に用いられる。アルミニウム管の表面を切削研磨する方法としては、回転させたアルミニウム管に対し、ダイヤモンド製のバイトを回転軸方向に滑らせて連続的に切削していく方法が好適である。このような方法で研磨されたアルミニウム管から作製された金型ロールの表面には線条痕が残ることになる。線条痕は、目視では確認できない大きさであるが、例えば走査型電子顕微鏡(SEM)で表面観察することにより確認することができる。また、陽極酸化法によれば、アルミニウム管の外周面にナノメートルサイズの円錐形状の窪みを形成することができる。そのような窪みは、陽極酸化法を用いることではじめて得られるものであり、化学的な酸化では、平面的に酸化膜が形成される。
【0026】
本発明はまた、本発明の第1のローラー型ナノインプリント装置において好適に用いられる金型ロールに関するものでもある。
【0027】
本発明の第1の金型ロールは、回転しながら被転写膜への型押しを行うことにより、ナノメートルサイズの突起を被転写膜の表面に連続的に形成するためのローラー型ナノインプリント装置用金型ロールであって、上記金型ロールは、外周面にナノメートルサイズの窪みが形成された円筒体であり、かつ金型ロールの内周面に囲まれた領域に配置される部材との位置決めに用いられる位置あわせ機構を有するローラー型ナノインプリント装置用金型ロールである。上記位置あわせ機構としては、例えば、嵌合構造、フックが挙げられる。本発明の第1の金型ロールによれば、位置あわせ機構により金型ロールを位置決めすることができるので、金型ロールの着脱が容易になり、型押し時の金型ロールの滑り、ずれを防止することができる。
【0028】
本発明の第2の金型ロールは、回転しながら被転写膜への型押しを行うことにより、ナノメートルサイズの突起を被転写膜の表面に連続的に形成するためのローラー型ナノインプリント装置用金型ロールであって、上記金型ロールは、押出加工により形成された円筒状のアルミニウム管の外周面を切削研磨し、更にエッチングと陽極酸化とを交互に繰り返すことにより、上記外周面に円錐形の窪みを光の波長よりも小さな深さで形成したものであるローラー型ナノインプリント装置用金型ロールである。円筒状のアルミニウム管の製造方法としては、押出加工が好適であるが、押出加工により製造されたアルミニウム管は、その表面にナノメートルサイズよりも大きな凹凸が存在することがある。これに対し、アルミニウム管を陽極酸化する前に、切削研磨しておくことで陽極酸化後のアルミニウム管の表面平滑性を確保することができる。その結果、被転写膜の表面にナノメートルサイズよりも大きな凹凸が形成されることを防止できるので、外部光線の散乱が生じ、被転写膜の表面が白化してしまう現象が抑制される。したがって、例えば、被転写膜を超低反射膜として表示装置に貼り付けて用いる場合には、表示むらの発生を防止することができる。なお、切削研磨によれば、円周方向に沿った筋状の痕跡が残ることがあり、押出加工によれば、管の延伸方向に沿った筋状の痕跡が残ることがある。このように、切削研磨の痕跡と押出加工の痕跡とは判別可能である。また、管の内周面は表面加工されることが少ないので、管の内周面に押出加工の痕跡が残りやすい。
【0029】
本発明はまた、本発明の第1のローラー型ナノインプリント装置において好適に用いられる固定ロールに関するものでもある。
【0030】
本発明の第1の固定ロールは、ナノメートルサイズの窪みが外周面に形成された円筒状の金型ロールを回転させることでナノメートルサイズの突起を被転写膜の表面に連続的に形成するローラー型ナノインプリント装置用の固定ロールであって、上記固定ロールは、上記金型ロールの内周面に囲まれた領域(筒内)に配置されるものであり、流体の注入により膨張可能な弾性膜が取り付けられ、上記弾性膜を収縮させた状態で金型ロールが着脱され、上記弾性膜が膨張して金型ロールを内側から保持した状態で固定ロールが回転することにより金型ロールを回転させるものであり、かつ金型ロールとの位置決めに用いられる位置あわせ機構を有するローラー型ナノインプリント装置用固定ロールである。上記位置あわせ機構としては、例えば、嵌合構造、フックが挙げられる。本発明の第1の固定ロールによれば、位置あわせ機構により金型ロールを位置決めすることができるので、金型ロールの着脱が容易になり、型押し時の金型ロールの滑り、ずれを防止することができる。
【0031】
本発明の第2の固定ロールは、ナノメートルサイズの窪みが外周面に形成された円筒状の金型ロールを回転させることでナノメートルサイズの突起を被転写膜の表面に連続的に形成するローラー型ナノインプリント装置用の固定ロールであって、上記固定ロールは、上記金型ロールの内周面に囲まれた領域に配置されるものであり、流体の注入により膨張可能な弾性膜が取り付けられ、上記弾性膜を収縮させた状態で金型ロールが着脱され、上記弾性膜が膨張して金型ロールを内側から保持した状態で固定ロールが回転することにより金型ロールを回転させるものであり、かつベアリングが設けられたものであるローラー型ナノインプリント装置用固定ロールである。本発明の第2の固定ロールによれば、ベアリングを用いることにより、金型ロールが衝撃等により設定された位置からずれた場合に、金型ロールをフリーな状態に切り替えて回転させることができ、これにより設定された位置により早く戻す装置調整が可能になる。また、金型ロール及び固定ロールが回転軸方向でずれることを防止できる。
【0032】
なお、本発明のローラー型ナノインプリント装置用固定ロールにおいて、弾性膜は、固定ロールの一部を構成するものであってもよいし、固定ロールとは別部材であってもよい。
【0033】
本発明はまた、好ましくは本発明の第1のローラー型ナノインプリント装置を用いるナノインプリントシートの製造方法に関するものでもある。すなわち、ナノメートルサイズの突起が表面に形成されたナノインプリントシートの製造方法であって、上記製造方法は、外周面にナノメートルサイズの窪みが形成された円筒状の金型ロールと、上記金型ロールの内周面に囲まれた領域に設けられ、かつ流体の注入により膨張可能な弾性膜を備える流体容器とを用いるものであり、上記弾性膜を収縮させた状態で金型ロールの着脱を行い、上記弾性膜を膨張させた状態で金型ロールを内側から保持し、かつ金型ロールを回転させながら被転写膜への型押しを連続的に行うナノインプリントシートの製造方法(以下、本発明の第1のシート製造方法ともいう。)もまた本発明の1つである。本発明の第1のシート製造方法によれば、均一な膜厚のナノインプリントシートを安価に製造することができる。上記ナノインプリントシートは、ナノメートルサイズの突起が表面に形成されたシートであれば特に限定されず、例えば、樹脂シートが好適である。ナノインプリントシートは、例えば、反射防止フィルムとして好適に用いることができる。なお、上記製造方法は、金型ロールを回転させながらナノインプリントシートへの型押しを連続的に行う方法であってもよい。
【0034】
また、本発明者らは、金型ロールの回転中心(回転軸)に対して実質的に回転対称に配置された少なくとも3つのピンチロール(保持ロール)により、金型ロールを保持しつつ回転させる構造によっても、金型ロールによりナノ構造が転写された被転写膜の厚みが不均一になることを防止することができ、また、金型ロールを容易に交換することができることを見いだした。すなわち、本発明は、金型ロールを回転させることで被転写膜の表面にナノメートルサイズの突起を連続的に形成するローラー型ナノインプリント装置であって、上記金型ロールは、外周面にナノメートルサイズの窪みが形成された円筒体であり、上記ナノインプリント装置は、上記金型ロールの回転中心に対して実質的に回転対称に配置された少なくとも3つのピンチロールにより、金型ロールを保持しつつ回転させるローラー型ナノインプリント装置でもある(以下、本発明の第2のナノインプリント装置ともいう。)。本発明の第2のナノインプリント装置によれば、固定ロールを用いる必要がないことから、金型ロールの交換が容易である。
【0035】
本発明の第2のナノインプリント装置において、ピンチロールは、金型ロールとともに被転写膜を両側(両主面側)から一定の圧力で押えつつ回転することにより、金型ロールを回転させ、被転写膜を送り出すことができる。このようなピンチロールを実質的に回転対称に少なくとも3つ配置することにより、ピンチロールのみによって金型ロールを安定的に保持することが可能である。
【0036】
本発明の第1のナノインプリント装置の場合と同様に、本発明の第2のナノインプリント装置において、上記金型ロールは、実質的に継ぎ目が形成されていないことが好ましい。また、上記金型ロールは、研磨されたアルミニウム管の外周面に、陽極酸化法により上記ナノメートルサイズの窪みを形成したものであることが好ましい。
【0037】
また、本発明の第2の金型ロール、並びに、本発明の第2の固定ロールは、本発明の第2のナノインプリント装置においても好適に用いられる。
【0038】
本発明はまた、好ましくは本発明の第2のローラー型ナノインプリント装置を用いるナノインプリントシートの製造方法に関するものでもある。すなわち、ナノメートルサイズの突起が表面に形成されたナノインプリントシートの製造方法であって、上記製造方法は、外周面にナノメートルサイズの窪みが形成された円筒状の金型ロールと、上記金型ロールの回転中心に対して実質的に回転対称に配置された少なくとも3つのピンチロールとを用いるものであり、上記金型ロールは、上記少なくとも3つのピンチロールにより保持され、上記金型ロール及び上記少なくとも3つのピンチロールを回転させながら被転写膜への型押しを連続的に行うナノインプリントシートの製造方法(以下、本発明の第2のシート製造方法ともいう。)もまた本発明の1つである。本発明の第2のシート製造方法によれば、均一な膜厚のナノインプリントシートを安価に製造することができる。なお、上記製造方法は、上記金型ロール及び上記少なくとも3つのピンチロールを回転させながら、ナノインプリントシートへの型押しを連続的に行う方法であってもよい。
【発明の効果】
【0039】
本発明のローラー型ナノインプリント装置によれば、金型ロールによりナノ構造が転写された被転写膜の厚みが不均一になることを防止することができ、また、金型ロールを容易に交換することができる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】実施形態1に係るローラー型ナノインプリント装置の全体構成を示す説明図である。
【図2】実施形態1で作製された樹脂膜の表面構造を示す断面模式図である。
【図3】図2に示された樹脂膜の表面構造と空気層との界面における屈折率の変化を示す説明図である。
【図4】(a)は、実施形態1に係る金型ロールの構成を示す斜視模式図であり、(b)は、実施形態1に係る固定ロールの構成を示す斜視模式図である。
【図5】実施形態1において、金型ロールの筒内に固定ロールを挿入した状態を示す斜視模式図である。
【図6】実施形態1において、金型ロールの筒内に固定ロールを挿入した状態(着脱時)を示す断面模式図である。
【図7】実施形態1において、金型ロールの筒内に固定ロールを挿入した状態(固定時)を示す断面模式図である。
【図8】実施形態1において、固定ロールの胴体部の外周面にゴム板が貼り付けられた形態の一例を示す断面模式図である。
【図9】(a)は、胴体部の外周面に線状突起構造が形成された固定ロールの一例を示す斜視模式図であり、(b)は、内周面に線状溝構造が形成された金型ロールの一例を示す斜視模式図である(実施形態1)。
【図10】軸部にベアリングが取り付けられた固定ロールの一例を示す斜視模式図である(実施形態1)。
【図11】実施形態2において、金型ロールの筒内に固定ロールを挿入した状態(着脱時)を示す断面模式図である。
【図12】実施形態2において、金型ロールの筒内に固定ロールを挿入した状態(固定時)を示す断面模式図である。
【図13】実施形態3に係る固定ロールの構造を示す斜視模式図である。
【図14】実施形態4に係る固定ロールの構造を示す斜視模式図である。
【図15】実施形態4に係る固定ロールにゴムチューブを巻き付けた状態を示す断面模式図である。
【図16】実施形態5に係るローラー型ナノインプリント装置の全体構成を示す説明図である。
【図17】実施形態5において、金型ロールの両側面に、横滑り防止機構としてストッパーを配置した形態の一例を模式的に示す斜視分解図である。
【図18】小型の金型ロールのパターンを大型の金型ロール上に塗布した紫外線硬化樹脂に転写する方法を示す概略図である。図中のハッチングは、パターンが形成された領域を示している。
【発明を実施するための形態】
【0041】
以下に実施形態を掲げ、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施形態のみに限定されるものではない。
【0042】
実施形態1
図1は、実施形態1に係るローラー型ナノインプリント装置の全体構成を示す説明図である。
本実施形態のローラー型ナノインプリント装置においては、まず、基材フィルムロール11を回転させつつ、基材フィルムロール11からベルト状の基材フィルム12が、図1中の矢印が指す方向に送り出される。次に、基材フィルム12は、テンションを調節する一対のピンチロール13a,13bを通った後、ダイコーター14により未硬化の樹脂が塗布される。続いて、基材フィルム12は、円筒状の金型ロール15の外周面に沿って半周分移動する。このとき、基材フィルム12に塗布された樹脂が金型ロール15の外周面と接する。
【0043】
基材フィルム12の材質としては特に限定されず、例えば、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)を用いることができる。樹脂としては、紫外線、可視光等の電磁波等のエネルギー線により硬化する樹脂が好適であり、本実施形態においては、紫外線硬化性樹脂を用いた。
【0044】
金型ロール15は、深さ約200nmの略円錐形状(コーン形状)の複数の穴(円錐の底面がアルミニウム表面側)が外周面に形成された円筒体である。円筒の寸法は、内径250mm、外径260mm、長さ400mmである。このような金型ロール15は、押出加工により作製された円筒状のアルミニウム管の外周面を切削研磨した後、得られた研磨アルミニウム管の平滑なアルミニウム表面(外周面)に対し、アルミニウムの陽極酸化とエッチングとを3回繰り返し実施することにより作製することができる。金型ロール15は、円筒状のアルミニウム管の外周を同時に陽極酸化及びエッチングして作製されたものであるため、継ぎ目のない(シームレスな)ナノ構造を有する。したがって、紫外線硬化性樹脂に対し、継ぎ目のないナノ構造を連続的に転写することができる。
【0045】
基材フィルム12が金型ロール15の外周面と最初に接する位置には、金型ロール15の外周面と対向するように円柱状のピンチロール16が配置されている。この位置において、金型ロール15とピンチロール16とで基材フィルム12を挟み込み、金型ロール15と紫外線硬化性樹脂とを加圧密着させることにより、金型ロール15の表面形状が紫外線硬化性樹脂に転写される。金型ロール15とピンチロール16とで基材フィルム12を均一に挟み込むために、基材フィルム12の幅は、金型ロール15及びピンチロール16の長さよりも小さい。また、ピンチロール16は、ゴム製である。
【0046】
基材フィルム12が金型ロール15の外周面に沿って移動する間に、金型ロール15の下方から、紫外線が照射される。これにより、紫外線硬化性樹脂は、金型ロール15のナノメートルサイズの凹凸の反転形状を有した状態で硬化される。なお、図1中の白抜き矢印は、紫外線の照射方向を示している。
【0047】
金型ロール15の外周面に沿って半周分移動後、基材フィルム12は、金型ロール15の外周面と対向するように配置されたピンチロール17に沿って移動し、硬化された紫外線硬化性樹脂の膜とともに金型ロール15から剥離される。続いて、ラミネーションフィルムロール18から供給されたラミネーションフィルム19が、ピンチロール20により、基材フィルム12の樹脂膜が配置された側に貼り合わせされる。最後に、基材フィルム12、ナノ構造を有する紫外線硬化性樹脂膜、及び、ラミネーションフィルム19の積層フィルムが巻き取られて積層フィルムロール21が作製される。ラミネーションフィルム19を貼り合わせることにより、樹脂膜表面にホコリが付着したり、傷がつくことを防止する。
【0048】
このようにして作製された積層フィルムロール21の樹脂膜(被転写膜)31は、図2に示すように、高さ約200nmの略円錐形状の突起32が、頂点間の距離約200nmで多数形成された表面構造を有している。このような表面構造は、一般に「モスアイ(蛾の目)構造」と呼ばれることがあり、モスアイ構造を有する膜は、例えば可視光の反射率を0.15%程度にすることができる超低反射膜として知られている。モスアイ構造を有する膜においては、可視光の波長の長さ(380〜780nm)よりも小さな突起が存在することにより、図3に示すように、界面の屈折率が、膜の表面上の空気の屈折率である1.0から、膜の構成材料の屈折率(樹脂膜31の場合、1.5)と同等になるまで連続的に徐々に大きくなっているとみなすことができる。その結果、実質的には屈折率界面が存在せず、膜の界面での反射率が極端に減少する。
【0049】
図4(a)に示される金型ロール15は、図4(b)に示される金属製の固定ロール151及びゴムバルーン156を用いてナノインプリント装置内に取り付けられる。本実施形態においては、金属管の表面にナノ構造を形成することによって金型を作製していることから、ナノインプリント装置内に直接取り付けられる金属柱を金型に用いる場合よりも、金型の構造を単純化することができ、金型を安価に作製することができる。研磨アルミニウム管については、押出加工により形成された円筒状のアルミニウム管の表面を高精度に切削することで鏡面化したものが安価に入手可能である。また、金型ロール15を固定ロール151に着脱する方式を採用することによって、金型ロール15のみの取替え、メンテナンスができるためナノインプリント装置のランニングコストを低減することができる。
【0050】
図5は、金型ロールの筒内に固定ロールを挿入した状態を示す斜視模式図である。また、図6は、実施形態1において、金型ロールの筒内に固定ロールを挿入した状態(着脱時)を示す断面模式図である。更に、図7は、実施形態1において、金型ロールの筒内に固定ロールを挿入した状態(固定時)を示す断面模式図である。
固定ロール151は、ゴムバルーン156が封入される中空の胴体部151aと、その両端面から伸びる軸部151bとから構成される。胴体部151aは、円筒状であり、筒の両端は壁面で構成されている。また、胴体部151aには、固定ロール151の回転軸方向、すなわち軸部151bの延伸方向に対して平行に形成された複数の開口が形成されている。胴体部151aの開口は、樹脂が均等な圧力で加圧されやすいように、固定ロール151の回転軸方向に対して平行に設けられることが好ましい。また、同様の理由で、複数の開口は、均等な大きさで形成され、均等な間隔で配置されることが好ましい。更に、ゴムバルーン156が傷つくことを防止するために、胴体部151aの開口形状は角張っていないことが好ましい。胴体部151aの外径は246mmであり、胴体部151aの長さは400mmである。軸部151bは、ナノインプリント装置内の軸取り付け部に挿入される。軸取り付け部を通じて供給される動力により、固定ロール151は、軸部151bの延伸方向を回転軸として回転可能である。
【0051】
固定ロール151の胴体部151a内に配置されたゴムバルーン156は、金型ロール15の固定を行うためのものである。円筒状の金型ロール15は、筒内に固定ロール151を挿入することによって、固定ロール151の胴体部151aの周囲に取り付けられる。この金型ロール15の取り付けの際には、図6に示すように、ゴムバルーン156をしぼんだ状態にしておく。同様に、金型ロール15の取り外しの際にも、ゴムバルーン156をしぼんだ状態にしておく。次に、金型ロール15の固定を行う際には、ゴムバルーン156内に加圧口256を通じて流体を注入し、図7に示すように、固定ロール151の胴体部151aに形成された開口からゴムバルーン156がはみ出て金型ロール15の内周面に押しつけられるまでゴムバルーン156を膨ませる。すなわち、本実施形態において、固定ロール151は中空ロールであり、ゴムバルーン156は弾性袋である。ゴムバルーン156を膨張させるための流体としては、例えば、空気等の気体、水等の液体を用いることができる。
【0052】
加圧口256の形状としては、金型ロール15を均一に加圧するために、回転軸に対して点対称であることが好ましい。また、加圧口256の配置としては、金型ロール15を均一に加圧するために、回転軸の近傍、又は、回転軸に対して点対称に複数配置されていることが好ましい。
【0053】
本実施形態の金型ロール15の固定方法によれば、金型ロール15の内周面に、ゴムバルーン156内の流体により、均一な圧力が加えられるため、金型ロール15とピンチロール16とで基材フィルム12を挟み込んでナノ構造を転写する際においても、基材フィルム12上の樹脂が均一な圧力で加圧され、樹脂膜31の膜厚のばらつきが生じることを防止できる。本実施形態において作製された樹脂膜31の膜厚を測定したところ、10±0.7μmであり、膜厚の均一性において優れていた。また、表面が平滑な黒いアクリル板(屈折率1.49)の上に、作製した樹脂膜31を糊(屈折率1.50)で貼り付け、これを白色光源下に照らして、観察角度を変化させながら目視により観察した結果、膜厚のむら、及び、それに付随して生じる表示品位のむらは確認されなかった。このような樹脂膜31は、表示装置の画面、ショーウインドウ等の表示に用いられる面や、建築資材等の装飾が施された面に対し、反射防止膜として好適に取り付けられる。表示装置としては、例えば、液晶表示装置、有機エレクトロルミネッセンス表示装置、プラズマ表示装置が挙げられる。
【0054】
また、本実施形態の金型ロール15を固定する方法によれば、流体の注入により金型ロール15を容易に固定することができ、流体の排出により金型ロール15の固定を容易に解除することができる。
【0055】
本実施形態においては、図8に示すように、固定ロール151の胴体部151aの外周面に開口部を除いて、弾性体であるゴム板251が貼り付けられてもよい。ゴム板251は、固定ロール151と金型ロール15との接触を防止するストッパー(緩衝材)の役割を有する。ゴム板251を設けることにより、ナノ構造を転写する際に、固定ロール151と金型ロール15とが接触して樹脂膜31の厚みむらを引き起こすことや、固定ロール151、金型ロール15が損傷することを防止することができる。ゴム板251の厚みは、例えば、0.5mmである。本実施形態において、ゴム板251は、固定ロール151の胴体部151aの外周面に配置されたが、金型ロール15の内周面、又は、固定ロール151の胴体部151aの外周面から露出したゴムバルーン156の表面に配置されてもよい。また、弾性体としては、衝撃を緩和することができるものであれば特に限定されず、ゴム板251の代わりに例えばバネを用いてもよい。
【0056】
また、図9に示すように、固定ロール151の胴体部の外周面に線状突起構造151cを形成すると共に、金型ロール15の内周面の、固定ロール151装着時に線状突起構造151cと対応する位置に線状溝構造15cを形成してもよい。線状突起構造151cは、固定ロール151の周囲に金型ロール15を取り付けた状態で、線状溝構造15cに対し、隙間を有しつつ嵌合する程度の高さで設けられる。そして、固定ロール151に金型ロール15を装着する際に線状突起構造151cと線状溝構造15cとが緩く嵌合することで、固定ロール151に対して金型ロール15を粗く位置決めすることができる。その後、ゴムバルーン156を膨張させることで、固定ロール151に対して金型ロール15を高精度に保持することができる。したがって、例えば回転軸方向の長さが1メートル以上の大型の金型ロール15を用いて大面積の樹脂膜31を生産する場合に、金型ロール15の着脱を容易にすることができる。
【0057】
なお、図9(a)の例では、固定ロール151の胴体部の外周面に4つの線状突起構造151cが設けられ、図9(b)の例では、金型ロール15の内周面に4つの線状溝構造15cが設けられているが、線状突起構造151c及び線状溝構造15cの組み合わせからなる嵌合構造の数は特に限定されない。
【0058】
嵌合構造の形状及び配置は特に限定されず、図9のように、端部のみに、各ロール15,151の回転軸方向に伸びる線状突起構造151c及び線状溝構造15cが設けられてもよいし、各ロール15,151の一端から他端まで伸びる線状突起構造及び線状溝構造が設けられてもよい。図9の線状突起構造151c及び線状溝構造15cによれば、金型ロール15と固定ロール151との間で生じる円周方向(回転方向)での滑りを防止することができる。また、ロールの円周方向に伸びるパターンの嵌合構造によれば、回転軸方向でのロールのずれを防止することが可能である。更に、ロールの回転軸方向及び円周方向の両方に伸びる平面的パターンの嵌合構造によれば、ロールの円周方向での滑り、及び、回転軸方向でのずれの両方を防止することが可能である。
【0059】
また、嵌合構造は、固定ロール151の外周面に線状溝構造を有し、金型ロール15の内周面に線状突起構造を有するものであってもよい。更に、一対の線状突起構造及び線状溝構造の組み合わせからなる嵌合構造に代えて、3つ以上の線状突起構造を噛み合わせる嵌合構造を用いてもよい。例えば、固定ロール151の外周面に2つの平行な線状突起構造を有し、金型ロール15の内周面に1つの線状突起構造を有し、固定ロール151側の2つの線状構造間に金型ロール15側の線状突起構造を挿入する形態としてもよい。
【0060】
また、図10に示すように、固定ロール151の軸部にベアリング151dを取り付けてもよい。ベアリング151dを取り付けることにより、金型ロール15が衝撃等により設定された位置からずれた場合に、通常はナノインプリント装置の動力により強制的に回転させられている金型ロール15をフリーな状態(固定ロール151を介して動力が供給されない状態)に切り替えて回転させることができ、これにより設定された位置により早く戻す装置調整が可能になる。
【0061】
実施形態2
図11は、実施形態2において、金型ロールの筒内に固定ロールを挿入した状態(着脱時)を示す断面模式図である。図12は、実施形態2において、金型ロールの筒内に固定ロールを挿入した状態(固定時)を示す断面模式図である。
実施形態2のローラー型ナノインプリント装置は、固定ロールを除いて、実施形態1のローラー型ナノインプリント装置と同様の構造を有する。本実施形態に係る固定ロール152は、中空の胴体部152aに形成された開口をゴム板(ゴム製のシート)157で覆うことにより、固定ロール152の胴体部152a内全体を圧入流体の受け入れ容器としている。すなわち、本実施形態において、固定ロール152は中空ロールであり、ゴム板157は弾性膜である。この形態によれば、固定ロール152自体を加圧用の容器として用いることから、加圧口257を固定ロールに直接形成してローラー型ナノインプリント装置内の流体注入部に直結することができる。その結果、流体の通路自体及び接続部の強度を高めることができる。以下に本実施形態に係る固定ロールの詳細な構造を説明する。
【0062】
本実施形態の固定ロール152は、中空の胴体部152aと、その両端面から伸びる軸部152bとから構成される。胴体部152aは、円筒状であり、筒の両端は壁面で構成されている。また、胴体部152aには、固定ロール152の回転軸方向、すなわち軸部152bの延伸方向に対して平行に複数の開口が形成されている。本実施形態では、胴体部152aに形成された開口がゴム板157で覆われている。固定ロール152に形成される開口は、樹脂が均等な圧力で加圧されやすいように、固定ロール152の回転軸方向に対して平行に設けられることが好ましい。また、同様の理由で、複数の開口は、均等な大きさで形成され、均等な間隔で配置されることが好ましい。胴体部152aの外径は246mmであり、胴体部152aの長さは400mmである。軸部152bは、ナノインプリント装置内の軸取り付け部に挿入される。軸取り付け部を通じて供給される動力により、固定ロール152は、軸部152bの延伸方向を回転軸として回転可能である。
【0063】
胴体部152aの開口を覆うゴム板157は、金型ロール15の固定を行うためのものである。円筒状の金型ロール15は、筒内に固定ロール152を挿入することによって、図11に示すように、固定ロール152の胴体部152aの周囲に取り付けられる。金型ロール15の固定を行う際には、金型ロール15内に加圧口257を通じて流体を注入し、図12に示すように、固定ロール152の胴体部152aに形成された開口を覆うゴム板257を、金型ロール15の内周面に押しつけられるまで膨ませる。固定ロール152に注入される流体としては、例えば、空気等の気体、水等の液体を用いることができる。
【0064】
本実施形態の金型ロール15を固定する方法によれば、金型ロール15の内周面に、ゴム板157を介して均一な流体圧力が加えられるため、金型ロール15とピンチロール16とで基材フィルム12を挟み込んでナノ構造を転写する際においても、基材フィルム12上の樹脂が均一な圧力で加圧され、樹脂膜31の膜厚のばらつきが生じることを防止できる。本実施形態において作製された樹脂膜31の膜厚を測定したところ、10±0.2μmであり、膜厚の均一性において優れていた。また、実施形態1の場合と同様に、樹脂膜31の膜厚のむら、及び、それに付随する表示品位のむらは確認されなかった。
【0065】
また、本実施形態の金型ロール15を固定する方法によれば、流体の注入により金型ロール15を容易に固定することができ、流体の排出により金型ロール15の固定を容易に解除することができる。
【0066】
本実施形態において、ゴム板157は、固定ロール152の内周面側に貼り付けられている。この形態は、固定ロール152の外周面側に貼り付けた形態よりも接合強度の点で有利である。一方、本実施形態において、固定ロール152と金型ロール15との接触を防止するストッパーとして、固定ロール152の胴体部152aの外周面にゴム板が貼り付けてもよく、この場合には、固定ロール152と金型ロール15との接触を防止するストッパー(緩衝材)としてのゴム板と、金型ロール15の保持のために設けるゴム板157とを一体のものとしてもよい。
【0067】
実施形態3
図13は、実施形態3に係る固定ロールの構造を示す斜視模式図である。
本実施形態に係る固定ロール153は、胴体部に、均等な間隔で、同じ大きさの円形の開口が複数形成されている。この形態においては、弾性膜258として、実施形態1のように固定ロール153内にゴムバルーンを配置してもよく、実施形態2のように、固定ロール153の開口を覆うようにゴム板を配置してもよい。本実施形態の固定ロールは、実施形態1のローラー型ナノインプリント装置において、実施形態1の固定ロールの代わりに用いることができる。
【0068】
実施形態4
図14は、実施形態4に係る固定ロールの構造を示す斜視模式図であり、図15は、実施形態4に係る固定ロールにゴムチューブを巻き付けた状態を示す断面模式図である。
本実施形態に係る固定ロール154は、回転軸154bに、間隔を空けて一対の円板154aが取り付けられた構造を有している。そして、この円板154a間の回転軸154bにゴムチューブ259を巻き付けた状態で円筒状の金型ロール15に挿入される。本形態においても、ゴムチューブ259を膨張させることにより金型ロール15を内側から保持することができ、ゴムチューブ259を収縮させることにより金型ロール15の着脱が可能である。すなわち、本実施形態において、固定ロール154は回転体であり、ゴムチューブ259は弾性袋である。本実施形態の固定ロールは、実施形態1のローラー型ナノインプリント装置において、実施形態1の固定ロールの代わりに用いることができる。
【0069】
本実施形態においては、固定ロール154の円板154aの外周面に、弾性体であるゴム板が貼り付けられてもよい。ゴム板は、固定ロール154と金型ロール15との接触を防止するストッパー(緩衝材)の役割を有する。ゴム板を設けることにより、ナノ構造を転写する際に、固定ロール154と金型ロール15とが接触して樹脂膜31の厚みむらを引き起こすことや、固定ロール154、金型ロール15が損傷することを防止することができる。ゴム板の厚みは、例えば、0.5mmである。本実施形態において、ゴム板は、金型ロール15の内周面に配置されてもよい。また、弾性体としては、衝撃を緩和することができるものであれば特に限定されず、ゴム板の代わりに例えばバネを用いてもよい。
【0070】
実施形態5
図16は、実施形態5に係るローラー型ナノインプリント装置の全体構成を示す説明図である。
本実施形態においては、固定ロールを設けずに、金型ロール25の周囲に3本のピンチロール26,27,28を金型ロール25の回転中心に対して回転対称に(120°間隔で)設けることによりピンチロール26,27,28のみで金型ロール25を保持している。そして、ピンチロール26,27,28の回転により、金型ロール25を回転させ、基材フィルム12を移動させる。
【0071】
第1及び第3のピンチロール26,27は、実施形態1に係るローラー型ナノインプリント装置においても設けられていたものである。第1のピンチロール26は、基材フィルム12上の樹脂にナノ構造を転写するためのものである。第3のピンチロール27は、金型ロール15と基材フィルム12上の樹脂とを剥離させるためのものである。第2のピンチロール28は、金型ロール25の配置を安定化させるためのものである。
【0072】
本実施形態において、第1、第2及び第3のピンチロール26,27,28は、均一に金型ロール25を加圧することが好ましい。例えば、ピンチロール26,27,28の加圧シリンダーの構造を同じにし、かつ同じ流体圧力で(同一系統で)加圧する形態が好適である。
【0073】
また、本実施形態では、3本のピンチロール26,27,28を金型ロール25の回転中心に対して回転対称に設けるため、紫外線の照射は、第1のピンチロール26と第2のピンチロール28との間、第2のピンチロール28と第3のピンチロール27との間の2回に分けて行われる。なお、図16中の白抜き矢印は、紫外線の照射方向を示している。
【0074】
なお、ピンチロールの本数は、金型ロール25が偏芯しないように回転対称に配置するのであれば、4本以上にしてもよい。なお、固定ロールを設けない場合、図1のように、2本のピンチロールのみで金型ロール25を保持すると、金型ロール25が基材フィルム12から上向きの力を受けるため、安定走行することができない。
【0075】
本実施形態のように、3本以上のピンチロールで金型ロールを押す場合、固定ロールを用いずに金型ロールを保持することができる。このように固定ロールを用いない場合には、ナノ構造を転写する際に金型ロールが回転軸方向にぶれないように、横滑り防止機構を設けることが好ましく、例えば、図17のようなストッパー181を設けてもよい。一方、固定ロールを用いる場合には、ピンチロール26,27,28を回転させることにより金型ロール25を回転させることができるので、固定ロールから金型ロール25に回転の動力を伝達する必要がない。したがって、固定ロールにベアリングが取り付けられ、固定ロールはベアリングを介してローラー型ナノインプリント装置内に取り付けられることが好ましい。
【0076】
なお、実施形態1〜5に係るローラー型ナノインプリント装置は、基材フィルム12の送り出しから基材フィルム12の巻き取りまでを一貫して行うものであるが、本発明に係るローラー型ナノインプリント装置は、例えば、固定ロール、ゴムバルーン等の金型ロールを保持して回転させる機構部、及び、ピンチロール、金型ロール等の型押しを行う機構部のみからなるものであってもよい。
【0077】
比較例1
比較例1のローラー型ナノインプリント装置は、固定ロールを除いて、実施形態1のローラー型ナノインプリント装置と同様の構造を有する。本比較例においては、実施形態1と同じ金型ロールを金属ロールに被せ、該金型ロールと金属ロールとの間の空間にスペーサー(楔)を差し込み、更に金型ロールと金属ロールとの間に硬化性樹脂を注入後、該硬化性樹脂を硬化させることにより両者を接着した。そして、金型ロールをローラー型ナノインプリント装置内に取り付け、実施形態1と同様に、モスアイ構造を作製した。その結果、樹脂膜の膜厚分布は、12±1.8μmであった。また、表面が平滑な黒いアクリル板(屈折率1.49)の上に、作製した樹脂膜を糊(屈折率1.50)で貼り付け、これを白色光源下に照らして、観察角度を変化させながら目視により観察した結果、膜厚差に起因する干渉色が観察された。
【0078】
本願は、2008年2月27日に出願された日本国特許出願2008−046667号を基礎として、パリ条約ないし移行する国における法規に基づく優先権を主張するものである。該出願の内容は、その全体が本願中に参照として組み込まれている。
【符号の説明】
【0079】
11 基材フィルムロール
12 基材フィルム
13a,13b,16,17,20,26,27,28 ピンチロール
14 ダイコーター
15,25 金型ロール
15c 線状溝構造
18 ラミネーションフィルムロール
19 ラミネーションフィルム
21 積層フィルムロール
31 樹脂膜
32 突起
51 大型の金型ロール
52 小型の金型ロール
151,152,153,154 固定ロール
151a,152a 胴体部
151b,152b 軸部
151c 線状突起構造
151d ベアリング
154a 円板
154b 回転軸
156 ゴムバルーン
157,251 ゴム板
181 ストッパー
256,257 加圧口
258 弾性膜
259 ゴムチューブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金型ロールを回転させることで被転写膜の表面にナノメートルサイズの突起を連続的に形成するローラー型ナノインプリント装置であって、
該ナノインプリント装置は、更に、
該装置に取り付け可能であり、かつ開口が形成された中空の中空ロールと、
流体の注入により膨張可能な袋状の弾性膜からなる弾性袋とを有し、
該金型ロールは、外周面にナノメートルサイズの窪みが形成された円筒体であり、
該金型ロールの内周面に囲まれた領域に、該中空ロールが配置され、該中空ロール内に、弾性袋が配置されており、
該ナノインプリント装置は、該弾性袋を収縮させた状態で金型ロールの着脱を行い、かつ該弾性袋を膨張させて中空ロールの開口から露出させた部分を金型ロールの内周面に接触させることにより金型ロールを保持し、金型ロールを保持した状態で中空ロールを回転させることにより金型ロールを回転させる
ことを特徴とするローラー型ナノインプリント装置。
【請求項2】
金型ロールを回転させることで被転写膜の表面にナノメートルサイズの突起を連続的に形成するローラー型ナノインプリント装置であって、
該ナノインプリント装置は、更に、
該装置に取り付け可能であり、かつ開口が形成された中空ロールの該開口を、流体の注入により膨張可能な弾性膜によって塞いだ流体容器を有し、
該金型ロールは、外周面にナノメートルサイズの窪みが形成された円筒体であり、
該金型ロールの内周面に囲まれた領域に、該流体容器が配置されており、
該ナノインプリント装置は、該弾性膜を収縮させた状態で金型ロールの着脱を行い、かつ該弾性膜を膨張させて金型ロールの内周面に接触させることにより金型ロールを保持し、金型ロールを保持した状態で中空ロールを回転させることにより金型ロールを回転させる
ことを特徴とするローラー型ナノインプリント装置。
【請求項3】
前記中空ロールは、開口が形成された部分を除いて、金型ロールの内周面と対向する面上に弾性体が設けられていることを特徴とする請求項1又は2記載のローラー型ナノインプリント装置。
【請求項4】
金型ロールを回転させることで被転写膜の表面にナノメートルサイズの突起を連続的に形成するローラー型ナノインプリント装置であって、
該ナノインプリント装置は、更に、
該装置に取り付け可能な回転体と、
流体の注入により膨張可能な袋状の弾性膜からなる弾性袋とを有し、
該金型ロールは、外周面にナノメートルサイズの窪みが形成された円筒体であり、
該金型ロールの内周面に囲まれた領域に、該回転体及び該弾性袋が配置され、
該弾性袋は、該回転体の周囲に取り付けられており、
該ナノインプリント装置は、該弾性膜を収縮させた状態で金型ロールの着脱を行い、かつ該弾性袋を膨張させて金型ロールの内周面に接触させることにより金型ロールを保持し、金型ロールを保持した状態で回転体を回転させることにより金型ロールを回転させる
ことを特徴とするローラー型ナノインプリント装置。
【請求項5】
前記回転体は、外周面の前記弾性袋が取り付けられていない領域上に弾性体が設けられていることを特徴とする請求項4記載のローラー型ナノインプリント装置。
【請求項6】
前記金型ロールは、実質的に継ぎ目が形成されていないことを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載のローラー型ナノインプリント装置。
【請求項7】
前記金型ロールは、研磨されたアルミニウム管の外周面に、陽極酸化法により前記ナノメートルサイズの窪みを形成したものであることを特徴とする請求項6記載のローラー型ナノインプリント装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2010−188731(P2010−188731A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−63182(P2010−63182)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【分割の表示】特願2010−500533(P2010−500533)の分割
【原出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【特許番号】特許第4521479号(P4521479)
【特許公報発行日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【出願人】(000005049)シャープ株式会社 (33,933)
【Fターム(参考)】