説明

ワイヤグリッド偏光子の製造方法

【課題】格子状凸部を有する基材上に形成された金属層をエッチングして金属ワイヤを形成するエッチング工程を有するワイヤグリッド偏光子の製造方法において、当該エッチング工程を簡略化すると共に、得られるワイヤグリッド偏光子の光学特性のばらつきを低減することを目的の一とする。
【解決手段】表面に格子状凸部を有し、且つ格子状凸部上に金属層が設けられた基材フィルムがロール状に巻かれてなる原反ロールから、搬送用ロールを介して基材フィルムを巻取ロールに搬送する間に、基材フィルムをエッチング液に接触して金属層の一部をエッチングした後に基材フィルムの光学特性を測定するロール・ツー・ロール方式のワイヤグリッド偏光子の製造方法において、基材フィルムの光学特性の測定結果に基づいてロール・ツー・ロール方式のライン速度を制御し、基材フィルムをエッチング液に接触する期間を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ワイヤグリッド偏光子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のフォトリソグラフィー技術の発達により、光の波長レベルのピッチを有する微細構造パタンを形成することができるようになってきた。この様に非常に小さいピッチのパタンを有する部材や製品は、半導体分野だけでなく、光学分野において利用範囲が広く有用である。
【0003】
例えば、金属などで構成された導電体線が特定のピッチで格子状に配列してなるワイヤグリッドは、そのピッチが入射光(例えば、可視光の波長400nmから800nm)に比べてかなり小さいピッチ(例えば、2分の1以下)であれば、導電体線に対して平行に振動する電場ベクトル成分の光をほとんど反射し、導電体線に対して垂直な電場ベクトル成分の光をほとんど透過させるため、単一偏光を作り出す偏光板として使用できる。ワイヤグリッド偏光子は、透過しない光を反射し再利用することができるので、光の有効利用の観点からも望ましいものである。
【0004】
このようなワイヤグリッド偏光子の作製方法として、微細な凹凸格子を有する基材に対して金属を成膜した後、凹凸格子の側面に被着した金属層を湿式エッチングにより部分的に除去する方法がある。例えば、特許文献1では、表面に微細な凹凸格子形状を有するフィルムの凹凸面に金属層を形成した後、複数段の湿式エッチングにより金属層の一部を除去する方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2009−69242号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1では、エッチング工程の段組数が1である場合には、得られるワイヤグリッド偏光フィルムの光学特性がばらつくため、複数段のエッチングを行っている。しかし、複数段のエッチングを行う場合には、エッチング液を複数用意する必要性があること、エッチング液の種類や接触時間等の条件設定が煩雑になること等の問題がある。特に、エッチング後にフィルムの光学特性を評価する検査工程を設ける場合には、各々のエッチング液に接触した後に検査工程を設ける必要があるため、工程が複雑化し、生産性が低下する問題がある。また、検査工程の結果に基づいて、次段のエッチング液の接触時間を変化させる場合、ロール・ツー・ロール方式では、他の段のエッチング液の種類や濃度、また接触時間も必然的に変化するため、エッチング条件の制御が困難となる。
【0007】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、格子状凸部を有する基材上に形成された金属層をエッチングして金属ワイヤを形成するエッチング工程を有するワイヤグリッド偏光子の製造方法において、当該エッチング工程を簡略化すると共に、得られるワイヤグリッド偏光子の光学特性のばらつきを低減することを目的の一とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のワイヤグリッド偏光子の製造方法は、表面に格子状凸部を有し、且つ格子状凸部上に金属層が設けられた原反ロールから、搬送用ロールを介して基材フィルムを巻取ロールに搬送する間に、基材フィルムをエッチング液に接触して金属層の一部をエッチングした後に基材フィルムの光学特性を測定する工程を有するロール・ツー・ロール方式のワイヤグリッド偏光子の製造方法であって、基材フィルムの光学特性の測定結果に基づいて、基材フィルムをエッチング液に接触する期間を制御することを特徴としている。
【0009】
本発明のワイヤグリッド偏光子の製造方法において、基材フィルムをエッチング液に接触する期間を制御する方法が、ロール・ツー・ロール方式のライン速度の制御であることが好ましい。
【0010】
本発明のワイヤグリッド偏光子の製造方法において、基材フィルムがロール状に巻かれてなることが好ましい。
【0011】
本発明のワイヤグリッド偏光子の製造方法は、表面に格子状凸部を有する基材フィルムがロール状に巻かれてなる第1の原反ロールから、第1の搬送用ロールを介して基材フィルムを第1の巻取ロールに搬送する間に、基材フィルムに金属を成膜して格子状凸部上に金属層を形成する第1の工程と、金属層が形成された基材フィルムがロール状に巻かれてなる第2の原反ロールから、第2の搬送用ロールを介して基材フィルムを第2の巻取ロールに搬送する間に、基材フィルムをエッチング液に接触して金属層の一部をエッチングした後に基材フィルムの光学特性を測定する第2の工程と有するロール・ツー・ロール方式のワイヤグリッド偏光子の製造方法であって、基材フィルムの光学特性の測定結果に基づいて第2の工程におけるロール・ツー・ロール方式のライン速度を制御し、基材フィルムをエッチング液に接触する期間を制御することを特徴としている。
【0012】
本発明のワイヤグリッド偏光子の製造方法において、基材フィルムへの金属層の成膜を、基材フィルム表面の法線方向から傾いた斜め方向から行うことが好ましい。
【0013】
本発明のワイヤグリッド偏光子の製造方法において、金属層の一部のエッチングは、格子状凸部の凹部領域に形成された金属層を除去することが好ましい。
【0014】
本発明のワイヤグリッド偏光子の製造方法において、エッチング液に接触させる工程が、浸漬法、スプレー法、及びコーティング法からなる群から選択される少なくとも1つの工程であることが好ましい。
【0015】
本発明のワイヤグリッド偏光子の製造方法において、エッチング液が、10wt%以下の酸またはアルカリであることが好ましい。
【0016】
本発明のワイヤグリッド偏光子の製造方法において、エッチング液から基材フィルムを引き上げた後に、1次リンス液と接触させる工程を含むことが好ましい。
【0017】
本発明のワイヤグリッド偏光子の製造方法において、1次リンス液と接触させる工程が、流水による浸漬法またはスプレー法であることが好ましい。
【0018】
本発明のワイヤグリッド偏光子の製造方法において、基材フィルムの光学特性の測定は、基材フィルムの平行透過率及び直線透過率の一方又は双方を測定することが好ましい。
【0019】
本発明のワイヤグリッド偏光子の製造方法において、基材フィルムの光学特性の測定を、エッチング後に実施することが好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、エッチング液に接触した部分の基材フィルムの光学特性の測定結果をフィードバックして、ロール・ツー・ロール方式のライン速度を制御して基材フィルムの他の部分のエッチングを行うことにより、1回のエッチングであっても、得られるワイヤグリッド偏光子の光学特性のばらつきを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係るワイヤグリッド偏光子の製造方法において、ロール・ツー・ロール方式を用いたエッチング工程の一例を示す図である。
【図2】本発明の実施の形態に係るワイヤグリッド偏光子の製造方法において、ロール・ツー・ロール方式を用いたエッチング工程の一例を示す図である。
【図3】本発明の実施の形態に係るワイヤグリッド偏光子の製造方法において、ロール・ツー・ロール方式を用いたエッチング工程の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明者は、格子状凸部を有する基材フィルム上に形成された金属層をロール・ツー・ロール方式でエッチングして金属ワイヤを形成する工程において、エッチング液に接触した部分の基材フィルムの光学特性の測定結果をフィードバックして、ロール・ツー・ロール方式のライン速度を制御して基材フィルムの他の部分のエッチングを行うことにより、1回のエッチング(エッチング工程の段組数が1)であっても、得られるワイヤグリッド偏光子の光学特性のばらつきを低減できることを見出した。さらに、エッチング液から基材フィルムを引き上げる際、リンス液と接触させる前に1次リンス液と接触させることによりエッチング液のたれによる部分的なエッチングムラすなわち透過率ムラを低減し、また、エッチング液とリンス液の混合によるリンス液の濃度変化を低減させリンス液による洗浄精度を向上し、精度良くワイヤグリッド偏光子の光学特性のばらつきを低減できることを見出した。以下に、上記エッチング工程を有するワイヤグリッド偏光子の製造方法について、図面を参照して説明する。
【0023】
図1は、表面に格子状凸部102を有し、且つ格子状凸部102上に金属層103が設けられた基材フィルム101がロール状に巻かれてなる原反ロール111から、搬送用ロール112を介して基材フィルム101を巻取ロール113に搬送する間に、基材フィルム101にエッチングを施すロール・ツー・ロール方式のエッチング工程を示している。図1(A)は、ロール・ツー・ロール方式を用いたエッチング工程の一連の流れの模式図を示し、図1(B)は原反ロール111に巻かれた基材フィルム101の断面模式図を示し、図1(C)は巻取ロール113に巻かれた基材フィルム101の断面模式図を示している。
【0024】
図1に示すロール・ツー・ロール方式のエッチング工程では、基材フィルム101が原反ロール111から搬送用ロール112を介して巻取ロール113に搬送される間に、当該基材フィルム101をエッチング液105に接触して金属層103の一部をエッチングした後に、基材フィルム101の光学特性の測定を行う。そして、基材フィルム101の光学特性の測定結果に基づいて、ロール・ツー・ロール方式のライン速度を制御して、基材フィルム101をエッチング液105に接触させる期間を調整する。
【0025】
つまり、本実施の形態に示すロール・ツー・ロール方式のエッチング工程では、基材フィルム101において、エッチング液に接触させた部分の光学特性の測定結果をフィードバックして、測定時にエッチングが行われている他の部分に対するエッチング条件をリアルタイムに制御する構成となっている。ここで、エッチング液に接触させる方法としては、エッチング液に浸漬させる浸漬法、エッチング液をスプレーで吹き付けるスプレー法、コーティングさせるコーティング法からなる群から選択される少なくとも1つの方法が挙げられるが、浸漬法がムラ無く不要金属層を除去できるため、好ましく用いられる。
【0026】
基材フィルム101の光学特性の測定は、基材フィルム101の平行透過率及び直行透過率の一方又は双方を測定する測定部107により行うことができる。エッチングの制御方法としては、エッチング工程でのエッチング液浸漬時間、エッチング槽を通過するライン速度、エッチング液濃度、後述の1次リンス液等のエッチング進行防止液の濃度、エッチング進行防止液の流速のいずれか1つ、または2つ以上の組み合わせにより制御することができる。ここで、エッチング進行を防止する工程は、エッチング槽内またはエッチング槽外のいずれにおいて行ってもよいが、後述のように、槽外にて、1次リンス液を用いて行うことが好ましい。
【0027】
ライン速度で制御する場合は、エッチング後の基材フィルム101に必要とされる目標透過率をあらかじめ設定し、実際に測定した透過率と目標透過率を比較し、その透過率変化の傾向(トレンド)により決定することができる。例えば、測定した透過率が目標透過率より低い場合にはライン速度を落としてエッチング液105への接触期間を増やし、測定した透過率が目標透過率より高い場合にはライン速度を上げてエッチング液105への接触期間を減らすことができる。
【0028】
エッチング液105は、基材フィルム101上に形成された金属層103の材料に応じて適宜選択すればよく、例えば、金属層がアルミの場合は、希薄酸溶液(PH=2〜5)、希薄アルカリ溶液(PH=9〜13)、が好ましく用いられるが、より好ましくは、希薄アルカリ溶液である。希薄酸溶液を用いた場合、エッチング槽、リンス槽などの槽内において、基材の流れ(フィード)に伴って槽内液体の攪拌効果や、液滴が飛び跳ね、一部蒸気の拡散等によって金属製装置を腐食し、その装置の成分が基材に混入し、エッチングむらの原因となるため、希薄アルカリ溶液が好ましく用いられる。具体的には、希薄酸溶液を用いる場合は、塩酸、硝酸、硫酸、酢酸、リン酸、フッ化水素、又はそれらの混合物である酸溶液、希薄アルカリ溶液を用いる場合は、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア、又はそれらの混合物が挙げられる。中でも、10wt%以下であることがワイヤグリッド偏光子の腐食防止の観点、また、エッチングむら防止の観点から好ましく、5wt%以下であることがより好ましく、1wt%以下であることが更に好ましい。
【0029】
また、基材フィルム101をエッチング液105に接触した後、引き上げる際、直上に、1次リンス液121と接触させることが好ましい。リンス液を接触させる方法としては、浸漬法、スプレー法が挙げられるが、浸漬法を用いることがより好ましい。浸漬法としては、ロール122(ゴムニップロール等)でニップし、ロール122上に1次リンス液121(例えば、純水)を供給することにより(図3参照)、エッチング液105残渣による過度なエッチングの進行を防ぐことができるため好ましい。1次リンス液121の供給量としてはエッチングが停止すれば良く、純水を流水で行うことが好ましい。これにより、エッチング液のたれによる部分的なエッチングムラすなわち透過率ムラが低減できる。ここで、1次リンス液121のエッチング液105への漏れこみによるエッチング液の濃度変化を防ぐため、受け皿123を設け、エッチング液への1次リンス液121の漏れ込みを防ぐことが好ましいが、さらに、続く工程であるリンス液106のエッチング液残りによる汚染を防ぐため、1次リンス液121は、ロール122上に流入させ、そのまま系外に廃棄されるよう流通経路を設けることが好ましい。さらに、リンス液106に接触して洗浄することが好ましく、エッチング液105に接触した後にリンス液106に接触することにより、基材フィルム101に残存した残渣を取り除くことができる。リンス液106としては、水やアルコール等を用いることができる。また、リンス液106に接触した後に、基材フィルム101を乾燥する乾燥工程を設けてもよい。
【0030】
図1では、基材フィルム101をエッチング液105とリンス液106に接触する場合を示したが、これに限られず、基材フィルム101をこれらの液に接触させる代わりに、基材フィルム101にこれらの液を吹き付け等により接触させてもよい。
【0031】
また、図1に示したエッチング工程において、金属層103の一部をエッチングした後に、基材フィルム101を被膜形成液108に接触させて、金属層103を保護する皮膜層104を形成してもよい(図2参照)。皮膜層104は少なくとも金属層103に形成されれば良いが、基材フィルム101全面であっても良い。なお、図2(A)は、ロール・ツー・ロール工程の一連の流れの模式図を示し、図2(B)はエッチング液105に接触した後であって被膜形成液108に接触させる前の基材フィルム101の断面模式図を示し、図2(C)は被膜形成液108に接触させた後の基材フィルム101の断面模式図を示している。
【0032】
このように金属層103を被覆する皮膜層104を形成することにより、金属層103の酸化劣化を抑制し、長期間に亘って透過率、偏光度の低下を抑制できる耐久性に優れたワイヤグリッド偏光子を形成することができる。
【0033】
皮膜層104としては、リン酸化合物、フッ素系シランカップリング剤、フッ素系アルミネートカップリング剤、及びフッ素系チタネートカップリング剤などのカップリング剤、また、アミノホスホネートまたはNTMP(ニトリロトリス(メチレン)トリホスホン酸)等を用いることができる。特に、皮膜層104の中の金属層103の表面付近(金属層103と皮膜層104の間)に、リン原子と、酸素原子と、炭素原子と、水素原子とを含むリン酸化合物により界面層を形成することで高い耐久性が得られる。リン酸化合物としては、具体的には、2−ホスホノブタン−1,2,4−トリカルボン酸、及びヒドロキシエチリデン二リン酸からなる群から選択される少なくとも1つのリン酸化合物であることが特に好ましい。被膜形成液108としては、前述の皮膜層104として用いる化合物を水溶液にしたものを用いることができる。
【0034】
また、図1に示すロール・ツー・ロール方式のエッチング工程は、金属層103がロール・ツー・ロール方式で形成された基材フィルムに適用することが有効となる。金属層103がロール・ツー・ロール方式で形成される場合には、基材フィルム101が原反ロールから搬送用ロールを介して巻取ロールに搬送する間に、金属の成膜が行われるため、成膜室の成膜条件(基材フィルムの暴露温度、真空度の変化等)に起因して同じ基材フィルム101に形成する金属層103の膜厚や膜質が場所によって変化する場合であっても、ラインの進行方向に沿って連続的に変化する。そのため、上記図1、図2に示すように基材フィルム101において光学特性の測定部分とエッチング条件が制御される部分が離れている場合であっても、基材フィルム101の光学特性の測定結果を効果的に他の部分のエッチング条件に反映させることが可能となる。
【0035】
本実施の形態で示したように、基材フィルム101において、エッチング液に接触した部分の光学特性の測定結果をフィードバックしてロール・ツー・ロール方式のライン速度を制御し、基材フィルム101の他の部分のエッチング条件を制御することにより、1回のエッチング(エッチング工程の段組数が1)であっても、得られるワイヤグリッド偏光子の光学特性のばらつきを低減することができる。また、ロール・ツー・ロール方式のエッチング工程において、エッチング液に接触する工程を1回とすることにより、工程の簡略化を図ると共に、他のエッチング液への接触時間等を考慮する必要がないため、ライン速度の制御を簡便に行うことが可能となる。
【0036】
以下に、本実施の形態で示すワイヤグリッド偏光子に適用可能な材料等について説明する。
【0037】
<基材フィルム>
基材フィルム101は、可撓性を有し、目的とする波長領域において実質的に透明であればよい。例えば、樹脂材料を基材フィルム101に用いることができる。樹脂基材を用いることにより、ロールプロセスが可能になる。基材フィルム101に用いることができる樹脂としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリスチレン樹脂、シクロオレフィン樹脂(COP)、架橋ポリエチレン樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリフェニレンエーテル樹脂、変性ポリフェニレンエーテル樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリエーテルサルフォン樹脂、ポリサルフォン樹脂、ポリエーテルケトン樹脂などの非晶性熱可塑性樹脂や、ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリブチレンテレフタレート樹脂、芳香族ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂などの結晶性熱可塑性樹脂や、アクリル系、エポキシ系、ウレタン系などの紫外線(UV)硬化性樹脂や熱硬化性樹脂などが挙げられる。また、紫外線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂と、ガラスなどの無機基材、上記熱可塑性樹脂、トリアセテート樹脂とを組み合わせたり、単独で用いて基材を構成させたりすることが出来る。
【0038】
<格子状凸部>
格子状凸部102は、基材フィルム101の表面を加工することにより形成することができる。基材フィルム101の加工方法としては、格子状凹凸パタンを有するスタンパを用意して、基材フィルム101の表面にスタンパのパタンを転写する方法が挙げられる。この場合、格子状凸部102を簡便な方法で作製することができる。他にも、基材フィルム101上に無機材料や樹脂等の有機材料を用いて格子状凸部を形成してもよい。
【0039】
格子状凸部102の間隔(ピッチ)は、ワイヤグリッド偏光子の適用用途によって適宜選択することができる。可視光領域の広帯域にわたる偏光特性を考慮すると、150nm以下であり、好ましくは80nmから120nmとすることが好ましい。ピッチが小さくなるほど偏光特性が良くなるが、可視光に対しては80nmから120nmのピッチで十分な偏光特性が得られる。400nm近傍の短波長光の偏光特性を重視しない場合は、ピッチを150nm程度まで大きくしてもよい。
【0040】
<金属ワイヤ>
金属層103として用いる金属としては、アルミニウム、銀、銅、白金、金またはこれらの各金属を主成分とする合金などが挙げられる。特に、アルミニウムもしくは銀を用いて金属層103を形成することにより、可視域での吸収損失を小さくすることができるため好ましい。また、斜め蒸着法を用いてアルミニウム等の金属を基材フィルム101に被着することにより、格子状凸部102の上面及び一方の側面に金属層103が形成される。この際、格子状凸部102の凹部領域にも金属層103が形成される場合があるが(図1(B)参照)、上述したエッチング工程により凹部領域に形成された金属層103を除去することにより(図1(C)参照)、光学特性のばらつきの小さいワイヤグリッド偏光子を得ることができる。
【0041】
<誘電体層>
格子状凸部102と金属層103の密着性の向上の為に、両者の間に両者と密着性の高い誘電体層を設けてもよい。格子状凸部102と金属層103の密着性が高いと、格子状凸部102からの金属層103の剥離)を防ぎ、偏光度の低下を抑えることが出来る。好適に用いることが出来る誘電体としては、例えば、珪素(Si)の酸化物、窒化物、ハロゲン化物、炭化物の単体又はその複合物(誘電体単体に他の元素、単体又は化合物が混じった誘電体)や、アルミニウム(Al)、クロム(Cr)、イットリウム(Y)、ジルコニア(Zr)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、バリウム(Ba)、インジウム(In)、錫(Sn)、亜鉛(Zn)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、セリウム(Ce)、銅(Cu)などの金属の酸化物、窒化物、ハロゲン化物、炭化物の単体又はそれらの複合物を用いることができる。誘電体材料は、透過偏光性能を得ようとする波長領域において実質的に透明であることが好ましい。誘電体材料の積層方法には特に限定は無く、例えば、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法などの物理的蒸着法を好適に用いることができる。
【0042】
次に、本発明の効果を明確にするために行った実施例について説明する。
【0043】
(実施例1)
(格子状凸部を有する樹脂基材の作製)
・凹凸格子形状が転写されたCOP板の作製
ピッチが230nmで、凹凸格子の高さが230nmである凹凸格子を表面に有するニッケルスタンパを準備した。この凹凸格子は、レーザ干渉露光法を用いたパターニングにより作製されたものであり、その断面形状は正弦波状で、上面からの形状は縞状格子形状であった。また、その平面寸法は縦横ともに500mmであった。このニッケルスタンパを用いて、熱プレス法により厚さ0.5mm、縦横がそれぞれ520mmのシクロオレフィン樹脂(以下、COPと略す)板の表面に凹凸格子形状を転写し、凹凸格子形状を転写したCOP板を作製した。
【0044】
・延伸によるピッチの縮小
次いで、この凹凸格子形状が転写されたCOP板を520mm×460mmの長方形に切り出し、被延伸部材としての延伸用COP板とした。このとき、520mm×460mmの長手方向(520mm)と凹凸格子の長手方向とが互いに略平行になるように切り出した。
【0045】
次いで、この延伸用COP板の表面に、スプレーによりシリコーンオイルを塗布し、約80℃の循環式空気オーブン中に30分放置した。次いで、延伸用COP板の長手方向の両端10mmを延伸機のチャックで固定し、その状態で113±1℃に温度調節された循環式空気オーブン中に延伸用COP板を10分間放置した。その後、250mm/分の速度でチャック間の距離が2.7倍延伸したところで延伸を終え、20秒後に延伸したCOP板(延伸済みCOP板)を室温雰囲気下に取り出し、チャック間の距離を維持したまま冷却した。この延伸済みCOP板の中央部分約40%は、ほぼ均一にくびれており、最も幅が縮小されている部分は280mmになっていた。
【0046】
この延伸済みCOP板の表面と断面を、電界放出型走査型電子顕微鏡(FE−SEM)にて観察したところ、微細凹凸格子のピッチと高さがそれぞれ、140nm/130nm(ピッチ/高さ)であり、その断面形状が正弦波状で、上面からの形状が縞状格子状となっており、実質的に延伸前の凹凸格子形状と相似で縮小されていたことが分かった。
【0047】
・ニッケルスタンパ作製
得られた、140nmピッチの延伸済みCOP板表面に、それぞれ導電化処理として金をスパッタリングにより30nm被覆した後、それぞれニッケルを電気メッキし、厚さ0.3mm、縦300mm、横180mmの微細凹凸格子を表面に有するニッケルスタンパを作製した。
【0048】
・ロールスタンパ作製
同様にしてニッケルスタンパを計2枚作製し、2枚のスタンパを溶接により円形に接合し、ロールスタンパとした。この際、接合は微細凹凸格子の長手方向とロールスタンパの円周方向が直交する向きで行った。
【0049】
・格子状凸部転写フィルムロールの作製
厚み0.08mm、幅250mmの基材フィルム(トリアセチルセルロースフィルム)のロール(フィルム長250m)をほどきながら、連続的に紫外線硬化性樹脂を幅200mm、厚み0.001mm(1ミクロン)塗布し、塗布面を上記140nmピッチの微細凹凸格子を表面に有するロールスタンパ上に接触させ、フィルム側から中心波長365nmのメタルハライド紫外線ランプを用いて紫外線を1000mJ/cm照射し、ロールスタンパの微細凹凸格子を連続的に転写した後、ロール状に巻き取り原反ロールとした。得られた格子状凸部転写フィルムをFE−SEMにより観察し、その断面形状が正弦波状で、上面からの形状が縞状格子状となっていることを確認した。また、上記の方向でスタンパを接合しているため、格子状凸部は基材フィルムの幅方向に連続して延在しており、基材フィルムの搬送方向となす角は実質的に90°であった。
【0050】
(ワイヤグリッド偏光子の作製)
・原反ロールの乾燥
以上のようにして得られた原反ロールに含まれる水分を乾燥するために、原反ロールを200Wの赤外線ヒーターが3台設けられた真空槽に移し、基材フィルムを真空中でほどきながら2m/分で走行させ、加熱後、ロール状に巻き取った。基材フィルム走行停止時の真空度は0.03Pa、基材フィルム走行中(乾燥中)の真空度は0.15Paであった。また、ヒーター通過後の基材フィルムの表面温度を知るために基材フィルム上には予めサーモラベルを貼っておいた。ヒーター通過後の基材フィルムの表面温度は60℃から70℃の間であった。
【0051】
・スパッタリング法を用いた誘電体層の形成
乾燥後の原反ロールを乾燥機の真空槽中に12時間放置したところ、基材フィルムの温度は23℃まで下がった。その後、原反ロールを誘電体形成及び金属ワイヤ形成用の真空チャンバへ移した。その際、基材フィルムの格子状凸部が設けられている面と反対側の面が基材フィルム搬送用ロール(メインローラー)と接するように通紙した。誘電体形成には反応性ACマグネトロンスパッタリング法を用いた。ターゲットサイズ127mm×750mm×10mmtのシリコンターゲットを2枚並べ、基板〜ターゲット距離(TS)80mm、アルゴンガス流量200sccm、窒素ガス流量300sccm、出力11kW、周波数37.5kHz、走行速度5m/分で原反ロールをほどきながら基材フィルム搬送用ロールで巻取ロール側に送りながら窒化珪素層を設け、その後ロール状に巻き取った。スパッタリングの際の張力は30N、メインローラー温度は30℃、スパッタリング開始前のバックグラウンドの真空度は0.005Pa、スパッタリング中の真空度は0.38Paであった。同じ条件でSiチップに窒化珪素を成膜し、エリプソメーターにて窒化珪素層の厚みを算出したところ、3nmであった。
【0052】
・アルミニウム蒸着
原反ロールの格子状凸部転写面に誘電体層として窒化珪素をスパッタリング法にて形成した後、基材フィルムをスパッタリング時と逆方向にメインローラーで送り、抵抗加熱式真空蒸着法にて金属ワイヤとなる金属層を形成し、ロール状に巻き取った。本実施例では、金属層としてアルミニウム(Al)を用いた場合について説明する。
【0053】
アルミニウムの蒸着には斜め蒸着法を用いて行った。蒸着ボート(るつぼ)には長さ(L)×幅(w)×厚さ(t)=150mm×25mm×10mmの窒化ホウ素製のものを用い、各ボート(るつぼ)の間隔(P)は30mm、ボート(るつぼ)の本数(N)は7本であった。すなわち1本目のボート(るつぼ)と7本目のボート(るつぼ)の距離(W2)は355mm(=25×7+30×6)であった。また、蒸着ボート(るつぼ)加熱前の真空度は0.005Paであった。また、張力は30N、メインローラーの温度は30℃とした。
【0054】
以上のような条件にて、ライン速度(基材フィルム送り速度)3.5m/分で格子状凸部が転写された基材フィルムを走行させながら、加熱されたボート(るつぼ)上に純度99.9%以上、線径1.7mmのアルミワイヤを送り速度200mm/分でフィードし、アルミニウムを蒸着した。蒸着中の真空度は0.007Paであった。
【0055】
・エッチング工程
格子状凸部にアルミニウムを蒸着した後、基材フィルムをアルミニウム蒸着時と逆方向にメインローラーで送り、エッチング液と、1次リンス液と、リンス液に順番に浸漬し、エッチングした基材フィルムの光学特性を測定した後にロール状に巻き取った。
【0056】
本実施例では、エッチング液としては0.25%の水酸化ナトリウム水溶液を用い、1次リンス液、及びリンス液としては純水を用いた。また、標準のライン速度を0.75m/分、エッチング液への標準浸漬時間を64秒、エッチング後の光学特性において目標平行透過率を40.5%とし、エッチング後に測定した基材フィルムの平行透過率が目標平行透過率より低い場合にはライン速度を0.05m/min下げ、エッチング後に測定した基材フィルムの平行透過率が42%より高い場合にはライン速度を0.05m/min上げるフィードバック運転を行った。光学測定の頻度は、1回/5秒で実施した。
【0057】
(評価)
上記エッチング工程を行った後に、基材フィルムを10m毎、ほぼ中央部を15ポイント、日本分光製V7100を用いて、視感度補正平行透過率及び偏光度の光学特性を評価した結果、40.5±1%、偏光度99.9±0.05であった。
【0058】
(実施例2)
ニップロール122および1次リンス液121(純水)を用いなかった他、実施例1と同様にエッチングを行った。実施例1と同様に視感度補正平行透過率及び偏光度の光学特性を評価した結果、40.5±1.5%、偏光度99.9±0.1と面内で透過率分布が発生するも、ライン方向でのばらつきは小さいものであった。
【0059】
(比較例)
上記エッチング工程において、ライン速度を一定にして基材フィルムをエッチング液に浸漬することにより金属層のエッチングを行った。また、ライン速度を一定にすること以外は、上記実施例と同様に行った。つまり、比較例では、基材フィルムの全ての部分を同じ期間だけエッチング液に浸漬したこととなる。
【0060】
エッチング工程を行った後に、実施例同様基材フィルムの光学特性を評価した結果、平行透過率は平行透過率41.5±1.5%、偏光度99.8±0.1であった。アルミ蒸着時の真空度変化に呼応し、真空度が高いとエッチングされにくいため、連続工程開始後、ライン方向において徐々に透過率が増加傾向を示し、透過率、偏光度のばらつきが大きくなった。
【0061】
以上のことから、基材フィルムにおいて、エッチング液に浸漬した部分の光学特性の測定結果をフィードバックしてロール・ツー・ロール方式のライン速度を制御し、基材フィルムの他の部分のエッチング条件を制御することにより、1回のエッチングであっても、得られるワイヤグリッド偏光子の光学特性のばらつきを低減できることが確認できた。
【0062】
なお、本発明は上記実施の形態に限定されず、種々変更して実施することができる。また、上記実施の形態における材質、数量などについては一例であり、適宜変更することができる。その他、本発明の技術的思想を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施することができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明によれば、エッチング工程を簡略化すると共に、得られるワイヤグリッド偏光子の光学特性のばらつきを低減するワイヤグリッド偏光子の製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0064】
101 基材フィルム
102 格子状凸部
103 金属層
104 皮膜層
105 エッチング液
106 リンス液
107 測定部
108 被膜形成液
111 原反ロール
112 搬送用ロール
113 巻取ロール
121 1次リンス液
122 ロール
123 受け皿



【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に格子状凸部を有し、且つ前記格子状凸部上に金属層が設けられた原反ロールから、搬送用ロールを介して前記基材フィルムを巻取ロールに搬送する間に、前記基材フィルムをエッチング液に接触して前記金属層の一部をエッチングした後に前記基材フィルムの光学特性を測定する工程を有するロール・ツー・ロール方式のワイヤグリッド偏光子の製造方法であって、
前記基材フィルムの光学特性の測定結果に基づいて、前記基材フィルムを前記エッチング液に接触する期間を制御するワイヤグリッド偏光子の製造方法。
【請求項2】
前記基材フィルムを前記エッチング液に接触する期間を制御する方法が、前記ロール・ツー・ロール方式のライン速度の制御であることを特徴とする請求項1に記載のワイヤグリッド偏光子の製造方法。
【請求項3】
前記基材フィルムがロール状に巻かれてなることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のワイヤグリッド偏光子の製造方法。
【請求項4】
表面に格子状凸部を有する基材フィルムがロール状に巻かれてなる第1の原反ロールから、第1の搬送用ロールを介して前記基材フィルムを第1の巻取ロールに搬送する間に、前記基材フィルムに金属を成膜して前記格子状凸部上に金属層を形成する第1の工程と、
前記金属層が形成された基材フィルムがロール状に巻かれてなる第2の原反ロールから、第2の搬送用ロールを介して前記基材フィルムを第2の巻取ロールに搬送する間に、前記基材フィルムをエッチング液に接触して前記金属層の一部をエッチングした後に前記基材フィルムの光学特性を測定する第2の工程と有するロール・ツー・ロール方式のワイヤグリッド偏光子の製造方法であって、
前記基材フィルムの光学特性の測定結果に基づいて前記第2の工程におけるロール・ツー・ロール方式のライン速度を制御し、前記基材フィルムを前記エッチング液に接触する期間を制御するワイヤグリッド偏光子の製造方法。
【請求項5】
前記基材フィルムへの前記金属層の成膜を、前記基材フィルム表面の法線方向から傾いた斜め方向から行うことを特徴とする請求項4に記載のワイヤグリッド偏光子の製造方法。
【請求項6】
前記金属層の一部のエッチングは、前記格子状凸部の凹部領域に形成された前記金属層を除去することを特徴とする請求項5に記載のワイヤグリッド偏光子の製造方法。
【請求項7】
エッチング液に接触させる工程が、浸漬法、スプレー法、及びコーティング法からなる群から選択される少なくとも1つの工程であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれか1項に記載のワイヤグリッド偏光子の製造方法。
【請求項8】
エッチング液が、10wt%以下の酸またはアルカリであることを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか1項に記載のワイヤグリッド偏光子の製造方法。
【請求項9】
前記エッチング液から前記基材フィルムを引き上げた後に、1次リンス液と接触させる工程を含むことを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか1項に記載のワイヤグリッド偏光子の製造方法。
【請求項10】
1次リンス液と接触させる工程が、流水による浸漬法またはスプレー法であることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか1項に記載のワイヤグリッド偏光子の製造方法。
【請求項11】
前記基材フィルムの光学特性の測定は、前記基材フィルムの平行透過率及び直線透過率の一方又は双方を測定することを特徴とする請求項1から請求項10のいずれか1項に記載のワイヤグリッド偏光子の製造方法。
【請求項12】
前記基材フィルムの光学特性の測定を、エッチング後に実施することを特徴とする請求項1から請求項11のいずれか1項に記載のワイヤグリッド偏光子の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−154303(P2011−154303A)
【公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−17129(P2010−17129)
【出願日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【出願人】(309002329)旭化成イーマテリアルズ株式会社 (771)
【Fターム(参考)】