説明

ワイヤソー

【課題】ワーク切断部間でのワイヤ張力の調整をより応答性良く行う。
【解決手段】ワイヤソーは第1、第2のワーク切断部1A,1Bを有する。各ワーク切断部1A,1Bの各々一対のガイドローラ10a,10bにはワイヤWが巻回され、これによりワーク切断用のワイヤ群が形成されている。ワーク切断部1A,1Bの間にはワイヤWの張力を検出するテンションゲージ18が設けられ、コントローラ50は、テンションゲージ18による検出張力に基づき、当該張力が許容値を外れている場合には、ワーク切断部1A,1BのうちワイヤWの走行方向下流側に位置するワーク切断部1A(又は1B)のガイドローラ10a,10bの回転速度を所定速度だけ変更する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、切断用ワイヤにより構成されたワイヤ群に対して半導体インゴット等のワークを切り込み送りすることにより当該ワークを切断するワイヤソーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から半導体インゴット等のワークをスライス状に切り出す手段としてワイヤソーが知られている。ワイヤソーは、複数のガイドローラ間に切断用ワイヤが巻き掛けられることにより該ワイヤが多数本並んだワイヤ群が形成され、ワイヤをその軸方向に高速走行させながら、前記ワイヤ群に対してワイヤ軸方向と直交する方向にワークを切断送りすることにより、ワークをスライス状に多数毎同時に切り出すように構成されている。
【0003】
この種のワイヤソーの一つとして、例えば特許文献1には、ワイヤ群を形成する第1、第2の2つのワーク切断部(メイン・ロール部)を設け、ワイヤ繰り出し・巻取り装置から繰り出される1本の切断用ワイヤを各ワーク切断部に順次案内しながら他のワイヤ繰り出し・巻取り装置に巻き取ることにより、各ワーク切断部において各々ワークをスライス状に切り出し得るようにしたものが提案されている。
【0004】
ところで、ワークの切断作業では、ワイヤ張力を適正に保つことが重要であるが、上記のように2つのワーク切断部を有するワイヤソーでは、上流側(ワイヤ走行方向上流側)のワーク切断部の切断作業の影響により、下流側のワーク切断部に案内される切断用ワイヤの張力が変動する。そのため、特許文献1のワイヤソーでは、両ワーク切断部の間にテンションゲージ及び張力調整機構(ダンサーローラ)を設け、上流側のワーク切断部を経由した切断用ワイヤの張力を調整してから下流側のワーク切断部に案内することにより、下流側のワーク切断部のワイヤ張力を適切に保つことが行われている。
【特許文献1】実開2000−61805号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、切断用ワイヤの張力をテンションゲージにより検出した後、張力調整機構を駆動して切断用ワイヤの張力調整を行う上記特許文献1のような構成は、必ずしも応答性が良いものとは言えず、この点に改善の余地がある。
【0006】
本発明は、複数のワーク切断部を有するワイヤソーにおいて、一のワーク切断部から他のワーク切断部に案内されるワイヤの張力調整をより応答性良く行うことを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、複数のガイドローラをそれぞれ有する一対のワーク切断部を備え、ワイヤ繰出し装置から繰り出された切断用ワイヤが前記ワーク切断部に順次案内されてワイヤ巻取り装置で巻き取られると共に前記各ワーク切断部の複数のガイドローラに巻回されることにより各ワーク切断部にそれぞれワーク切断用のワイヤ群が形成されるワイヤソーであって、前記ワーク切断部のガイドローラを回転駆動する駆動手段と、一のワーク切断部から他のワーク切断部に至る過程で前記切断用ワイヤの張力を検出するワイヤ張力検出手段と、前記駆動手段を制御することにより各ワーク切断部のガイドローラを所定速度で駆動する制御手段と、を備え、前記制御手段は、前記ワイヤ張力検出手段による検出張力に基づき、前記他のワーク切断部に案内される切断用ワイヤの張力が所定の範囲内に収まるように前記両ワーク切断部のうち少なくとも一方側のワーク切断部のガイドローラの回転速度を変更するように構成されたものである。
【0008】
このワイヤソーでは、一のワーク切断部から他のワーク切断部に至る切断用ワイヤの張力がワイヤ張力検出手段により検出され、ワイヤ張力が所定の範囲内に収まるように両ワーク切断部のうち少なくとも一方側のワーク切断部のガイドローラの回転速度が制御される。つまり一のワーク切断部のガイドローラと他のワーク切断部のガイドローラとの速度差が制御されることにより切断用ワイヤの張力が調整される。このような構成によると、駆動中のガイドローラの速度を変更するだけで速やかに切断用ワイヤの張力を変更することができるため、従来のように、ワイヤ張力の検出後、張力調整機構を一から駆動してワイヤ張力を変更する構成に比べてタイムラグが少なくなる。
【0009】
この場合、例えば制御手段が、ワイヤ張力検出手段による検出張力が所定の範囲内に収まるように前記ガイドローラの回転速度をフィードバック制御するようにしてもよい。
【0010】
なお、上記のようにガイドローラの回転速度が変更されると、前記一のワーク切断部から他のワーク切断部に至る切断用ワイヤのワイヤ長の変動に伴いワイヤに弛みや過剰な緊張が生じることが考えられる。従って、上記のようなワイヤソーにおいては、前記一のワーク切断部から他のワーク切断部に至る切断用ワイヤを案内するプーリとこのプーリを弾性的に付勢する付勢手段とを含み、前記一のワーク切断部から他のワーク切断部に至る切断用ワイヤのワイヤ長の変動に伴う前記プーリの弾性変位によりワイヤ張力の変動を緩和する緩衝機構を備えているのが好適である。
【0011】
この構成によれば、切断用ワイヤに弛みや過剰な緊張が生じることを回避することができ、このような弛みや過剰な緊張に起因した切断用ワイヤの縺れや断線等の発生を未然に防止することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、一のワーク切断部から他のワーク切断部に至る切断用ワイヤの張力を、各ワーク切断部の少なくとも一方側のワーク切断部のガイドローラの回転速度を変更することにより調整するように構成したため、従来のように、ワイヤ張力の検出後、張力調整機構(ダンサーローラ)を一から駆動してワイヤ張力を変更する構成に比べると応答性よく切断用ワイヤの張力を調整することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の好ましい実施の形態について図面を用いて説明する。
【0014】
図1は、本発明に係るワイヤソーの全体を概略的に示している。この図に示すワイヤソーは、上下2段のワーク切断部1A,1B(第1ワーク切断部1A,第2ワーク切断部1B)、一対のワイヤ繰出し・巻取り装置12A,12B、ワイヤ張力調節装置15A,15B、テンションゲージ17〜19、ガイドプーリ21〜34等を備えている。
【0015】
ワーク切断部1A,1Bには、それぞれ水平方向に並ぶ一対のガイドローラ10a,10bが配置されている。各ワーク切断部1A,1Bの前記一対のガイドローラ10a,10bは、並び方向が互いに平行で、かつその並び方向と直交する方向(同図では上下方向)に並ぶように配置されている。そして、各ワーク切断部1A,1Bのガイドローラ10a,10bがそれぞれ駆動モータ11A,11B(本発明の駆動手段に相当する)によって駆動されるようになっている。
【0016】
各ワイヤ繰出し・巻取り装置12A,12B(適宜、第1ワイヤ繰出し・巻取り装置12A、第2ワイヤ繰出し・巻取り装置12Bという)は、切断用のワイヤWが巻かれるボビン13A,13Bと、これを回転駆動するボビン駆動モータ14A,14Bと、を備えている。
【0017】
そして、一方のワイヤ繰出し・巻取り装置12Aのボビン13Aから繰出されたワイヤWが、ガイドプーリ21、22、ワイヤ張力調節装置15Aのプーリ16、テンションゲージ17のプーリ17a及びガイドプーリ24〜26の順に掛けられ、ワーク切断部1Aのガイドローラ10a,10bの順にその外周面のガイド溝(図示省略)に嵌め込まれながらこれらガイドローラ10a,10b同士の間に多数回螺旋状に巻回された(巻き掛けられた)後、ガイドプーリ27,28、テンションゲージ18のプーリ18a及びガイドプーリ29の順に掛けられ、さらにワーク切断部1Bのガイドローラ10a,10bの順にその外周面のガイド溝(図示省略)に嵌め込まれながらこれらガイドローラ10a,10b同士の間に多数回螺旋状に巻回された(巻き掛けられた)後、ガイドプーリ30,31、テンションゲージ19のプーリ19a、ワイヤ張力調節装置15Bのプーリ16、ガイドプーリ33,34の順に掛けられ、他方のワイヤ繰出し・巻取り装置12Bのボビン13Bに巻き取られ、前記ワイヤ張力調節装置15A,15BによってワイヤWに所定の張力が与えられている。
【0018】
そして、ワーク切断部1A,1Bの各駆動モータ11A,11Bによるガイドローラ10aの回転駆動方向と、各ボビン駆動モータ14A,14Bによるボビン13A,13Bの回転駆動方向が正逆に切換えられることにより、図1中に実線矢印で示すように、ワイヤWが第1ワイヤ繰出し・巻取り装置12Aのボビン13Aから繰り出されて第2ワイヤ繰出し・巻取り装置12Bのボビン13Bに巻き取られる状態(第1走行状態という)と、ワイヤWが第2ワイヤ繰出し・巻取り装置12Bのボビン13Bから繰り出されて第1ワイヤ繰出し・巻取り装置12Aのボビン13Aに巻き取られる状態(第2走行状態という)とに切換えられるようになっている。この構成により、ワーク切断部1A,1Bのガイドローラ10a,10bの間に多数本のワイヤW(適宜、ワイヤ群という)が互いに平行な状態で張られ、このワイヤ群がその軸方向に高速で往復駆動されるようになっている。
【0019】
前記ワーク切断部1A,1Bの側方部には、円柱状のワーク44(インゴット)を移動させるためのワーク送り装置40が設けられている。このワーク送り装置40は、上下一列に並ぶ一対のワーク保持部42A,42Bを有する垂直テーブル41と、ワーク送りモータ43とを備えている。
【0020】
ワーク保持部42A,42Bは、それぞれスライスベース(図示省略)を介して前記ワーク44をその結晶軸に基づいて目的の結晶方位が得られる向きに保持するものであり、上側のワーク保持部42A(第1ワーク保持部42A)は、第1ワーク切断部1Aのガイドローラ10a,10b間に形成されるワイヤ群のうち上側のワイヤ群の上方でワーク44を保持し、下側のワーク保持部42Bは、第1ワーク切断部1Aと第2ワーク切断部1Bのガイドローラ10a,10b間に形成される上側のワイヤ群との間に介在して、当該上側のワイヤ群の上方にワーク44を保持するように設けられている。
【0021】
一方、ワーク送りモータ43は、図略のボールネジとの組み合わせにより前記垂直テーブル41と共にワーク44を一体に昇降させる(すなわち切断送りする)ものである。
【0022】
つまり、このワイヤソーでは、各ワーク切断部1A,1Bのガイドローラ10a,10b間に形成されたワイヤ群がその長手方向に同時に高速駆動されながら、各ガイドローラ10a,10b間を切断領域として、前記ワーク送り装置40の駆動により各ワーク保持部42A,42Bに保持されたワーク44が前記切断領域のワイヤ群に対して同時に、かつガイドローラ10a,10bの周囲に巻回されたワイヤ郡の外側から内側(同図では上側から下側)に向かって同じ方向に切断送りされることにより、各ワーク44から一度に多数枚のウエハ(薄片)が同時に切り出されるようになっている。
【0023】
なお、このワイヤソーには、ワーク44の切断動作を統括的に制御するコントローラ50(本発明の制御手段に相当する)が設けられており、稼働中は、ワイヤ繰出し・巻取り装置12A,12Bの各ボビン駆動モータ14A,14Bがこのコントローラ50により駆動制御されることによりワイヤWが所定方向に高速駆動される。また、ワイヤWの駆動中は、テンションゲージ17,19よる検出値に基づいてワイヤ張力調節装置15A,15Bの駆動がコントローラ50によって制御されることにより各ワイヤ繰出し・巻取り装置12A,12Bから繰り出されるワイヤWの張力が調整されると共に、前記テンションゲージ18(本発明のワイヤ張力検出手段に相当する)による検出値に基づき各ワーク切断部1A,1Bのガイドローラ10a,10bの駆動がコントローラ50により制御されることにより、ワーク切断部1A,1Bの一方側から他方側に案内されるワイヤWの張力が調整されるようになっている。
【0024】
ここで、ワーク切断部1A,1B間におけるワイヤWの張力制御について、図2のフローチャートを用いて説明する。
【0025】
ワイヤソーが起動すると、コントローラ50は、まず、図外のモータ制御回路に制御信号を出力することにより各ワイヤ繰出し・巻取り装置12A,12Bのボビン13A,13Bを駆動すると共に予め設定された回転数(回転速度)でワーク切断部1A,1Bのガイドローラ10a,10bを駆動する(ステップS1,S3)。
【0026】
そして、ガイドローラ10a,10bの回転速度が目標値に達すると、コントローラ50は、テンションゲージ18からの出力信号に基づき、ワーク切断部1A,1B間のワイヤWの張力(検出張力)が設定された許容値の範囲内であるか否かを判断し(ステップS5)、ここでYESと判断した場合には、ステップS3に移行する。
【0027】
これに対してステップS5でNOと判断した場合には、さらに検出張力が許容値より低いか否かを判断し(ステップS7)、ここでYESと判断した場合には、コントローラ50は、前記モータ制御回路に制御信号を出力し、ワイヤ走行方向下流側に位置するワーク切断部1A(又は1B)のガイドローラ10a,10bの回転速度を予め設定された速度分だけ増速させる(ステップS9)。具体的には、ワイヤWが前記第1走行状態(図1中の実線矢印参照)のときには、第2ワーク切断部1Bのガイドローラ10a,10bの回転速度を増速させ、第2走行状態(図1中の破線矢印参照)のときには、第1ワーク切断部1Aのガイドローラ10a,10bの回転速度を増速せる。このようにワーク切断部1A,1Bのうち下流側に位置するワーク切断部のガイドローラ10a,10bの回転速度を増速させると、その分ワイヤWが下流側に引っ張られ、これによってワーク切断部1A,1B間のワイヤWの張力が上昇することとなる。
【0028】
なお、コントローラ50は、ワーク切断部1A(又は1B)のガイドローラ10a,10bのうち一方側のガイドローラ10aを主ローラとしてその回転速度を制御し、他方側のガイドローラ10bについてはワイヤ群に弛みが生じないように当該ローラ10bをトルク制御するようになっている。
【0029】
一方、ステップS7においてNOと判断した場合には、コントローラ50は、モータ制御回路に制御信号を出力し、ワイヤ走行方向下流側に位置するワーク切断部1A(又は1B)のガイドローラ10a,10bの回転速度を予め設定された速度分だけ減速させる(ステップS11)。このようにワーク切断部1A,1Bのうち下流側に位置するモータ切断部のガイドローラ10a,10bの回転速度を減速させると、その分ワークWが緩み、ワーク切断部1A,1B間のワイヤWの張力が低下することとなる。
【0030】
以上のように、このワイヤソーでは、ワーク切断部1A,1B間のワイヤWの張力をテンションゲージ18により検出し、その検出値が許容範囲内にない場合には、その範囲内に収まるようにワイヤWの張力を調整(変更)するが、上記の通り、このワイヤソーでは、ワーク切断部1A,1Bのガイドローラ10a,10bの回転速度を変更することによってワイヤWの張力を調整(変更)するように構成されているため、従来のこの種のワイヤソー、つまりワイヤの張力をテンションゲージで検出しながら専用の張力調整機構(ダンサーローラ)を駆動してワイヤの張力を調整する従来のワイヤソーに比べると、ワイヤWの張力を速やかに調整することができる。すなわち、実施形態のワイヤソーでは、既に駆動しているガイドローラ10a,10bの回転速度を変更してワイヤWの張力を変更するため、張力調整機構を一から作動させてワイヤの張力を変更する従来構成に比べると、テンションゲージによる張力検出後、ワイヤ張力を変更するまでのタイムラグが少なくなり、その分ワイヤWの張力を速やかに修正できる。
【0031】
従って、上記のワイヤソーによると、ワーク切断部1A,1B間でのワイヤ張力をより適切に許容値の範囲内に保つことができ、その結果、ワイヤWの断線等のトラブルをより確実に防止することが可能となる。
【0032】
なお、上述したワイヤソーは、本発明に係るワイヤソーの好ましい実施形態の一例であって、その具体的な構成は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【0033】
例えば、上記実施形態では、ワーク切断部1A,1B間のワイヤWの張力調整に際して、ワイヤ走行方向における下流側のワーク切断部1A(又は1B)のガイドローラ10a,10bの回転速度を変更するようにしているが、勿論、ワイヤ走行方向における上流側のワーク切断部1A(又は1B)のガイドローラ10a,10bの回転速度を変更するようにしても同様の作用効果を享受することができる。
【0034】
また、このようにワーク切断部1A,1Bの一方側のガイドローラ10a,10bの回転速度だけを変更する以外に、ワーク切断部1A,1B双方のガイドローラ10a,10bの回転速度を変更するようにしてもよい。例えば、前記許容値に対する検出張力の偏差が大きい場合には、ワーク切断部1A,1B双方のガイドローラ10a,10bの回転速度を変更することによってより速やかにワイヤ張力を調整することが可能となる。従って、前記許容値に対する検出張力の偏差に応じて、当該偏差が所定値より小さい場合にはワーク切断部1A,1Bの一方側のガイドローラ10a,10bの回転速度を変更し、前記偏差が所定値以上の場合にはワーク切断部1A,1B双方のガイドローラ10a,10bの回転速度を変更するようにしてもよい。
【0035】
また、コントローラ50は、テンションゲージ18による検出張力が許容値から外れている場合には、検出張力と許容値との偏差に応じて当該偏差が「0」となるようにガイドローラ10a,10bの回転速度の補正値を演算し、その補正値に基づいてガイドローラ10a,10bの回転速度を変更するようにしてもよい。つまり、テンションゲージ18による検出張力に基づき、その値が許容値に収まるように前記ガイドローラ10a,10bの回転速度をフィードバック制御するようにしてもよい。この構成によれば、より確実に前記許容値の範囲内でワイヤWを駆動することが可能となる。
【0036】
なお、ワイヤ張力を調整するためにワーク切断部1A(又は1B)のガイドローラ10a,10bの回転速度を変更すると、その直後、ワーク切断部1A、1B間のワイヤ長の変動が生じて一時的にワイヤWに弛みや過剰な緊張が生じ、場合によってはワイヤWの縺れや断線原因となることが考えられる。従って、上記ワイヤソーにおいては、このようなワイヤWの弛みや過剰な緊張の発生を回避するための緩衝機構を設けておくのが好ましい。
【0037】
図3は、上記ワイヤソーに緩衝機構を組込んだ例を模式的に示している。この図に示すように緩衝機構は、水平方向に変位可能なプーリ53と、このプーリ53を水平方向に付勢力する引張りバネ54(付勢手段)とを含んだ構成とされ、ワイヤWが、ガイドプーリ27,緩衝機構の前記プーリ53、ガイドプーリ52,28、テンションゲージ18のプーリ18a及びガイドプーリ29の順に掛けられている。つまり、ワーク切断部1A,1B間のワイヤ長が長くなると引張りバネ54の弾発力により図中(−)側にプーリ53が変位することによりワイヤWの弛みが防止され、逆に、ワーク切断部1A,1B間のワイヤ長が短くなると引張りバネ54の弾発力により抗して図中(+)側にプーリ53が変位することによりワイヤWの過剰な緊張が防止される。つまり、一のワーク切断部1A(1B)から他のワーク切断部1B(1A)に至るワークWのワイヤ長の変動に伴う前記プーリ53の弾性変位によりワイヤ張力の変動が緩和されるようになっている。
【0038】
なお、図3に示す緩衝機構は、引張りバネ54により直接プーリ53に付勢力を与える構成であるが、図4(a)に示すように、支点軸58回りに回動可能なアーム56を設けその先端に前記プーリ53を支持した上で、同図(b)に示すように支点軸58に装着したねじりコイルバネ59により前記アーム56を介してプーリ53に付勢力を与えるように構成してもよい。この場合も、図3の例と同様の作用効果を享受することができる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明に係るワイヤソーの全体構成を示す概略図である。
【図2】第1、第2のワーク切断部の間のワイヤ張力制御の一例を示すフローチャートである。
【図3】ワイヤの緩衝機構を組込んだ例を示す模式図である。
【図4】ワイヤの緩衝機構を組込んだ例を示す模式図である((a)は正面図、(b)は断面図)。
【符号の説明】
【0040】
1A 第1ワーク切断部
1B 第2ワーク切断部
10a,10b ガイドローラ
11A,11B 駆動モータ
12A 第1ワイヤ繰出し・巻取り装置
12B 第2ワイヤ繰出し・巻取り装置
18 テンションゲージ
40 ワーク送り装置
43 ワーク送りモータ
44 ワーク
50 コントローラ
W ワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のガイドローラをそれぞれ有する一対のワーク切断部を備え、ワイヤ繰出し装置から繰り出された切断用ワイヤが前記ワーク切断部に順次案内されてワイヤ巻取り装置で巻き取られると共に前記各ワーク切断部の複数のガイドローラに巻回されることにより各ワーク切断部にそれぞれワーク切断用のワイヤ群が形成されるワイヤソーであって、
前記ワーク切断部のガイドローラを回転駆動する駆動手段と、
一のワーク切断部から他のワーク切断部に至る過程で前記切断用ワイヤの張力を検出するワイヤ張力検出手段と、
前記駆動手段を制御することにより各ワーク切断部のガイドローラを所定速度で駆動する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記ワイヤ張力検出手段による検出張力に基づき、前記他のワーク切断部に案内される切断用ワイヤの張力が所定の範囲内に収まるように前記両ワーク切断部のうち少なくとも一方側のワーク切断部のガイドローラの回転速度を変更することを特徴とするワイヤソー。
【請求項2】
請求項1に記載のワイヤソーにおいて、
前記制御手段は、ワイヤ張力検出手段による検出張力が所定の範囲内に収まるように前記ガイドローラの回転速度をフィードバック制御することを特徴とするワイヤソー。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のワイヤソーにおいて、
前記一のワーク切断部から他のワーク切断部に至る切断用ワイヤを案内するプーリとこのプーリを弾性的に付勢する付勢手段とを含み、前記一のワーク切断部から他のワーク切断部に至る切断用ワイヤのワイヤ長の変動に伴う前記プーリの弾性変位によりワイヤ張力の変動を緩和する緩衝機構を備えていることを特徴とするワイヤソー。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−89173(P2010−89173A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−258740(P2008−258740)
【出願日】平成20年10月3日(2008.10.3)
【出願人】(391003668)トーヨーエイテック株式会社 (145)
【Fターム(参考)】