説明

ワイヤハーネスの配索構造

【課題】ワイヤハーネスの外装材で保護しにくい分岐位置に近接して外部干渉材が位置する場合、ワイヤハーネスの分岐位置の電線群を簡単に外部干渉材から保護する。
【解決手段】ワイヤハーネスの幹線から枝線が分岐する分岐部において、車体パネルから突出する外部干渉材に近接する位置の前記枝線または幹線の電線群にコルゲートチューブを外装し、該コルゲートチューブの分岐部先端側にコルゲートクランプを外嵌固定し、該コルゲートクランプの車体係止ボックスの外面を前記外部干渉材が突出する車体パネルに当接させ、該コルゲートクランプおよび前記コルゲートチューブで外装した前記電線群の外面と前記外部干渉材との距離が車体パネルからの外部干渉材の突出寸法より大きくなるようにしている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車に配索するワイヤハーネスの配索構造に関し、特に、ワイヤハーネスの配索経路に外部干渉材がある場合にワイヤハーネスの保護を簡単確実に図るものである。
【背景技術】
【0002】
自動車内には搭載される電装品と接続するワイヤハーネスが配索されており、該ワイヤハーネスの配索経路に沿って、金属製の車体パネルのバリや溶接部から出るスパッタ等の外部干渉材が存在する場合がある。これらの金属製の外部干渉材がワイヤハーネスを構成する電線群に接触して電線の絶縁被覆を破損して芯線に接触するとショートが発生する恐れがある。
【0003】
そのため、例えば、特開平9−219915号公報(特許文献1)で提案されている車体パネルへのハーネス配索構造では、図5に示すように、ドアパネル100に形成されている作業穴100Hの周縁端のエッジ100eとドアハーネス110とを接触させないために、ドアハーネス110をドアパネル100に係止するクリップ120と周壁作業穴100Hの周縁端との間にエンボス部130をドアパネル100に設け、エンボス部130でドアハーネス110を押圧してエッジとなる作業穴の周縁端から遠ざけて非接触状態を保持している。
【0004】
前記特許文献1では、車体パネルを加工してエンボス部を突設する必要がある。車体パネル側で対策を施す代わりに、ワイヤハーネス側で保護対策を施す場合が多い。その場合、外部干渉材が近接位置にある経路を通る箇所では、ワイヤハーネスを構成する多数の電線群を樹脂成形品からなるプロテクタやコルゲートチューブで外装し、あるいは絶縁樹脂テープをハーフラップ巻きして外部干渉材との干渉を防止し、ショートの発生を確実に無くしている。
【0005】
しかしながら、ワイヤハーネスの幹線から枝線が分岐する箇所では、連続したコルゲートチューブで保護することができず、ワイヤハーネスの分岐部で電線群が露出することになる。よって、ワイヤハーネスの分岐部に近接した位置に外部干渉材が位置する場合は、図6(A)(B)(C)に示す方法で保護している。図6(A)に示す方法では、ワイヤハーネスの分岐部100Pを厚肉素材からなる可撓性を有するビニルシートまたはチューブ150で包み込み、その外周に粘着テープを巻き付けてワイヤハーネスに固定している。図6(B)に示す方法では、ボックス形状に樹脂成形した剛性を有するプロテクタ160内に分岐部100Pを挿通し、プロテクタ160を粘着テープでワイヤハーネスに固定している。図6(C)では分岐部100Pを厚肉粘着ビニルテープ180をX状に股掛け状に多数回巻着付けて保護している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−219915号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記図6(A)(B)(C)の方法を採用するとワイヤハーネスの分岐部を外装保護できるが、いずれも図6(A)に示すように粘着テープ200を巻き付ける必要がある。特に、図6(C)に示す厚肉粘着ビニルテープ180を股掛けしてX字状に巻き付ける場合は厚肉粘着ビニルテープ180はぐるぐる巻きされて外観が悪い形状となる。このように、いずれの方法も作業手数がかかりワイヤハーネスの生産性を阻害し、かつ、分岐部の仕上がりが歪む形状となってワイヤハーネスの組付作業性を阻害する。更には外観上の見栄えが悪くなる等の問題もある。
【0008】
本発明は前記問題に鑑みてなされたもので、ワイヤハーネスの分岐部の近傍に外部干渉材が位置する場合、該分岐部においてコルゲートチューブ等で外装できずに露出する電線群を外部干渉材から簡単に保護できるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するため、本発明は、ワイヤハーネスの幹線から枝線が分岐する分岐部において、車体パネルから突出する外部干渉材に近接する位置の前記枝線または幹線の電線群にコルゲートチューブを外装し、該コルゲートチューブの分岐部先端側にコルゲートクランプを外嵌固定し、該コルゲートクランプの車体係止ボックスを前記外部干渉材が突出する車体パネルに当接させ、該コルゲートクランプおよび前記コルゲートチューブで外装した前記電線群の外面と前記外部干渉材との距離が車体パネルからの外部干渉材の突出寸法より大きくしていることを特徴とするワイヤハーネスの配索構造を提供している。
【0010】
前記のように、本発明では、ワイヤハーネスの分岐部を外部干渉材から保護するために前記ビニルシートやチューブ等で外装したり、プロテクタや樹脂成形品のハードプロテクタを取り付けたり、粘着テープで2重巻きする代わりに、外部干渉材に近接する枝線または幹線の電線群と該外部干渉材との間に、電線群が外部干渉材に近接できない隙間をコルゲートチューブとコルゲートクランプとで確保して、外部干渉材と電線群との接触で電線群に損傷が生じるのを防止している。
【0011】
前記のように、コルゲートクランプは外部干渉材が突出する車体パネルからの離反距離確保の為にコルゲートチューブに外嵌するものであり、電線群を外装しているコルゲートチューブの外面から車体パネルに達するまでの寸法を少なくとも10mm以上、コルゲートクランプの車体係止ボックスの突出量が大きな場合は更に大きな寸法で離反することができる。最終的にはコルゲートチューブで外装されている外面から車体パネルまでの距離を60〜100mm程度離すことができる。
【0012】
前記コルゲートクランプの車体係止ボックスに車体パネルから突設したクランプ取付用ブラケットを挿入係止しても良いし、該コルゲートクランプの車体係止ボックスの外面を車体パネルに当接するだけでもよい。
【0013】
前記コルゲートチューブは押し出し成形品からなる汎用のもので、環状の山部と谷部とが軸線方向に交互に設けられているものである。また、該コルゲートチューブに外嵌するコルゲートクランプも樹脂成形品からなり、汎用のものを用いることができる。該コルゲートクランプはコルゲートチューブに外嵌する一対の半円環部の一端同士を薄肉ヒンジ部で連結し、これら半円環部の内周面にコルゲートチューブの山部と谷部に嵌合する凹凸部を設けている。一方の半円環部の他端の外面に車体係止ボックスを突設し、該車体係止ボックスに他方の半円環部の先端に設けた係止片の挿入係止部と車体パネルから突設するブラケットの挿入係止部を設けた形状である。該コルゲートクランプの車体係止ボックスの突出厚さ、該コルゲートクランプの半円環部の肉厚、さらに、コルゲートチューブの周壁の肉厚が、該コルゲートチューブで外装される電線群の外面に加えられる厚さとなって、車体パネルから突出する外部干渉材から距離を離す役割を果たすことになる。
【0014】
このように、ワイヤハーネスの分岐部を外部干渉材から保護するために、外部干渉材と近接する位置の電線群にコルゲートチューブを外装し、該コルゲートチューブにコルゲートクランプを外嵌して取り付けるだけでよい。コルゲートチューブに対するコルゲートクランプの取り付けはワンタッチで行うことができ、コルゲートクランプの一対の半円環部をコルゲートチューブにかぶせ、一方の先端に設けた車体係止ボックスに他方の先端の係止片を挿入するだけで簡単に取り付けることができる。
【0015】
また、ワイヤハーネスの分岐部に近接した位置の外部干渉材から電線群をコルゲートチューブとコルゲートクランプとで確実に離しているため、該ワイヤハーネスの分岐部を従来用いられている前記ビニルシートやチューブでの外装や、ハードプロテクタでの保護や粘着テープの二重巻きで保護する必要はない。よって、乗員がワイヤハーネスの分岐部を外観できる位置にある場合は、分岐部にシート等を巻き付けて露出した電線群を簡単に被覆することが好ましいが、乗員からは見えない位置のインストルメントパネル内部に位置する場合は、分岐部をシートやテープを巻き付けて被覆する必要はない。
【発明の効果】
【0016】
前記のように、ワイヤハーネスの分岐部を外部干渉材から保護するためにビニルシートやチューブでの外装やハードプロテクタを分岐部に取り付けて粘着テープで固着したり、粘着テープを2重に股掛けして巻回する必要はなく、ワイヤハーネスに外装したコルゲートチューブにコルゲートクランプを取り付けるだけでよいため、ワイヤハーネスの生産性を高めることができる。かつ、粘着テープによる複数回の巻き付けにより歪む形状とならず、分岐部の仕上がり状態も改善することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施形態を示す斜視図である。
【図2】(A)は平面図、(B)は側面図である。
【図3】本発明の実施形態で用いるコルゲートクランプの斜視図である。
【図4】コルゲートクランプを枝線に外装したコルゲートチューブに取り付けた状態を示す斜視図である。
【図5】従来例を示す図面である。
【図6】(A)(B)(C)は他の従来例を示す図面である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を図面を参照して説明する。
実施形態のワイヤハーネス1は、図1および図2に示すように、自動車のインストルメントパネル内に配索している。該ワイヤハーネス1の幹線2から枝線3が分岐するT字状の分岐位置Pに近接した下方位置に、金属製のインストルメント・ステー20とパイプ・メンバー21のアーク溶接部22が位置し、該アーク溶接部22のスパッタ(溶融金属)の残渣突起物が外部干渉材25として位置する。この外部干渉材25はワイヤハーネスの分岐位置Pから枝線3の突出側の下方に位置する。
【0019】
前記ワイヤハーネス1の幹線2の分岐位置Pを挟む両側2aと2bにそれぞれ樹脂成形品からなるコルゲートチューブ5、6を外装し、枝線3にもコルゲートチューブ7を外装している。これらワイヤハーネス1に外装したコルゲートチューブ5、6、7はT字状の分岐位置Pに外装できないため、分岐位置Pでは幹線2および枝線3が露出し、この露出した枝線3の下方に前記外部干渉材25が位置する。なお、幹線2側の外装材はコルゲートチューブ5、6に限定されない。
【0020】
前記枝線3の電線群3Wが露出する部分が外部干渉材25と接触しないように、枝線3に外装するコルゲートチューブ7の分岐位置側の先端にコルゲートクランプ10を取り付け、該コルゲートクランプ10の係止ボックス11を前記インストルメント・ステー20に押し当てるようにしている。
【0021】
前記コルゲートチューブ7は汎用の押出成形品からなり、環状の山部7aと谷部7bとが軸線方向に交互に設けられているものである。前記コルゲートチューブ5、6も同様である。
【0022】
前記コルゲートチューブ7に外嵌する前記コルゲートクランプ10も汎用の樹脂成形品からなる。該コルゲートクランプ10はコルゲートチューブ7に外嵌する一対の半円環部12、13の一端同士を薄肉ヒンジ部14で連結し、これら半円環部12、13の内周面にコルゲートチューブ7の谷部7bに嵌合する凸部12a、13aを設けている。一方の半円環部12の他端の外面に前記係止ボックス11を突設し、該係止ボックス11に他方の半円環部13の先端に設けた係止片15の挿入係止部11aと車体パネルから突設するブラケットの挿入係止部11bを設けた形状である。
前記コルゲートクランプ10の係止ボックス11の突出厚さ(t)、該コルゲートクランプ10の半円環部の肉厚、さらにコルゲートチューブ7の厚さが枝線3の電線群3Wの外面3sに加えられる厚さとなって、インストルメント・ステー20に接することとなる。
本実施形態のコルゲートクランプ10の前記突出厚さ(t)は約15mm〜30mmである。
【0023】
前記のように、ワイヤハーネス1の枝線3にコルゲートチューブ7を外装し、該コルゲートチューブの分岐位置側の先端にコルゲートクランプ10を被せ、半円環部12の係止ボックス11に半円環部13の先端の係止片15を挿入するとロック結合してコルゲートクランプ10はコルゲートチューブ7にワンタッチで固定できる。
このように、ワイヤハーネス1の枝線3にコルゲートチューブ7を外装し、該コルゲートチューブ7にコルゲートクランプ10を外嵌固定しておく。
【0024】
前記ワイヤハーネス1を自動車のインストルメントパネルの内部となる位置に配索する際に、前記コルゲートクランプ10の係止ボックス11の外面をインストルメント・ステー20に当接させる。ワイヤハーネス1の配索位置は、該ワイヤハーネス1の幹線2に外装したコルゲートチューブ5、6をコルゲートクランプ(図示せず)を介して車体パネルに固定することで位置決め保持され、よって、前記コルゲートクランプ10をインストルメント・ステー20に固定しなくとも係止ボックス11の外面をインストルメント・ステー20に当接保持しておくことができる。
【0025】
前記のように、枝線3に外装したコルゲートチューブ7にコルゲートクランプ10を外嵌固定し、該コルゲートクランプ10の外方へ突出した係止ボックス11を外部干渉材25が突出したインストルメント・ステー20に押し当ててスペースを設けている。これにより、分岐位置Pの枝線3の露出した電線群3Wを外部干渉材25から距離を空けて保持することができる。
【0026】
よって、分岐位置Pの電線群をコルゲートチューブで保護することができず、露出した状態であっても、外部干渉材25との間に距離をあけると共に離間距離を確実に保持していることで、電線群を露出状態のままとしておくことができる。そのため、分岐位置にビニルシートやチューブで外装したり、ハードプロテクタを取り付けたり、粘着樹脂テープを股掛けして何回も巻き付けて電線群を外部干渉材から保護する必要はない。
また、本実施形態のワイヤハーネスはインストルメントパネル内部に配索され、乗員が外観できない位置に配索されるため、外観上から分岐位置をテープやシートを巻き付けて、露出した電線群を被覆する必要はない。
なお、乗員が外観できる位置にワイヤハーネスの分岐部が位置する場合は、分岐位置をシートやテープで被覆してもよいが、該被覆は見栄え向上であり分岐位置の電線の保護用ではないため、何回も巻回する必要はない。
【0027】
本発明は前記実施形態に限定されず、前記外部干渉材と電線との距離を確保するために取り付けたコルゲートクランプに、車体パネルに突設したブラケットを挿入係止し、車体パネルに固定してもよい。
【0028】
さらに、車体パネルからバリ、エッジが突出し、これらがワイヤハーネスの分岐位置に近接して外部干渉材となる場合にも、本発明を適用できる。
さらに、前記実施形態では枝線側に外部干渉材が位置するため、枝線に外装するコルゲートチューブにコルゲートクランプを外嵌しているが、幹線側に外部干渉材が位置する場合は、幹線に外装したコルゲートチューブの先端にコルゲートクランプを外嵌固定している。
【符号の説明】
【0029】
1 ワイヤハーネス
2 幹線
3 枝線
7 コルゲートチューブ
10 コルゲートクランプ
11 係止ボックス
20 インストルメント・ステー
21 パイプ・メンバー
25 外部干渉材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤハーネスの幹線から枝線が分岐する分岐部において、車体パネルから突出する外部干渉材に近接する位置の前記枝線または幹線の電線群にコルゲートチューブを外装し、該コルゲートチューブの分岐部先端側にコルゲートクランプを外嵌固定し、該コルゲートクランプの車体係止ボックスの外面を前記外部干渉材が突出する車体パネルに当接させ、該コルゲートクランプおよび前記コルゲートチューブで外装した前記電線群の外面と前記外部干渉材との距離が車体パネルからの外部干渉材の突出寸法より大きくなるようにしていることを特徴とするワイヤハーネスの配索構造。
【請求項2】
前記コルゲートクランプの車体係止ボックスに車体パネルから突設したクランプ取付用のブラケットを挿入係止し、または前記コルゲートクランプの車体係止ボックスの外面を前記車体パネルに当接するだけで前記ブラケットを係止していない請求項1に記載のワイヤハーネスの配索構造。
【請求項3】
前記コルゲートチューブは環状の山部と谷部とが軸線方向に交互に設けられた樹脂成形品からなり、該コルゲートチューブに外嵌するコルゲートクランプも樹脂成形品からなり、前記コルゲートチューブに外嵌する一対の半円環部の一端同士を薄肉ヒンジ部で連結し、一方の半円環部の他端の外面に前記車体係止ボックスを突設し、該車体係止ボックスに他方の半円環部の先端に設けた係止片の挿入係止部と車体パネルから突設するブラケットの挿入係止部を設けた形状である請求項1または請求項2に記載のワイヤハーネスの配索構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−223057(P2012−223057A)
【公開日】平成24年11月12日(2012.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−89523(P2011−89523)
【出願日】平成23年4月13日(2011.4.13)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【Fターム(参考)】