説明

ワイヤーハーネス固定部材

【課題】取り外し作業性及び解体性に優れたワイヤーハーネス固定部材を提供する。
【解決手段】ワイヤーハーネスWHの外周に巻き付ける結束バンド部2と、結束バンド部2をワイヤーハーネスWHに巻き付けた状態で固定する結束ロック部3と、結束バンド部2に連結され、被取付部材30のネジ孔31に係止される係止爪19が外周面に設けられた差し込み部12とを備え、差し込み部12には、ネジ孔31への挿入方向に沿って結束バンド部2を差し込むことができるバンド差し込みスペース18が形成され、バンド差し込みスペース18に結束バンド部2が未挿入の状態では差し込みスペース18を利用して差し込み部12が縮径方向に変形可能に設けられた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤーハーネスを被取付部材のネジ孔を利用して固定することができるワイヤーハーネス固定部材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のワイヤーハーネス固定部材としては、種々の形態のものがあり(特許文献1参照)、例えばエンジンの周囲を配策する場合には、鋳造品のエンジンにネジ孔が設けられ、このネジ止孔を利用して固定するようなワイヤーハーネス固定部材もある。
【0003】
この種の従来のワイヤーハーネス固定部材100は、図8に示すように、合成樹脂材にて形成され、ワイヤーハーネスWHの外周に巻き付ける結束バンド部101と、この結束バンド部101をワイヤーハーネスWHに巻き付けた状態で固定する結束ロック部102と、結束バンド部101及び結束ロック部102に連結され、被取付部材110のネジ孔111に差し込むことができる差し込み部103とから構成されている。差し込み部103の外周面には係止爪104が設けられている。この係止爪104は、被取付部材110のネジ孔111に対し挿入抵抗が小さく、且つ、引き抜き抵抗が大きくなるよう向きが設定されている。
【0004】
次に、ワイヤーハーネス固定部材100によるワイヤーハーネスWHの固定作業を説明する。ワイヤーハーネスWHの固定位置に結束バンド部101を巻き付ける。そして、ワイヤーハーネスWHを巻き付けた結束バンド部101を結束ロック部102で固定する。次に、差し込み部103を被取付部材110のネジ孔111に差し込む。すると、差し込み部103の係止爪104がネジ孔111のネジ山と噛み合うことによって係止される。以上により、ワイヤーハーネスWHはワイヤーハーネス固定部材100を介して被取付部材110のネジ孔111を利用して固定することができる。
【特許文献1】特開2003−180023号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、前記従来例では、ワイヤーハーネス固定部材100をネジ孔111より取り外すには、係止爪104とネジ孔111のネジ山との係合力より大きな引っ張り力で引き抜く必要がある。従って、ワイヤーハーネス固定部材100の取り外し作業時に大きな力が必要であるため、取り外し作業性が悪い。その上、差し込み部103に大きな引っ張り力が作用するため、図9に示すように、ワイヤーハーネス固定部材100の差し込み部103が破損する場合が多く、破損した差し込み部103がネジ孔111内に残留し、解体性の面でも問題である。
【0006】
そこで、本発明は、前記した課題を解決すべくなされたものであり、取り外し作業性及び解体性に優れたワイヤーハーネス固定部材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1の発明は、ワイヤーハーネスの外周に巻き付ける結束バンド部と、前記結束バンド部を前記ワイヤーハーネスに巻き付けた状態で固定する結束ロック部と、前記結束バンド部と前記結束ロック部の少なくともいずれか一方に連結され、被取付部材のネジ孔に係止される係止爪が外周面に設けられた差し込み部とを備え、前記差し込み部には、前記ネジ孔への挿入方向に沿って前記結束バンド部を差し込むことができるバンド差し込みスペースが形成され、前記バンド差し込みスペースに前記結束バンド部が未挿入の状態では前記差し込みスペースを利用して前記差し込み部が縮径方向に変形可能に設けられたことを特徴とする。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1記載のワイヤーハーネス固定部材であって、前記結束バンド部と前記結束ロック部は、一体部材のバンドクリップとして構成され、前記バンドクリップの前記結束バンド部を挿通することによって連結する連結部と前記差し込み部は、一体部材の差し込みクリップとして構成されたことを特徴とする。
【0009】
請求項3の発明は、請求項2記載のワイヤーハーネス固定部材であって、前記差し込みクリップは、前記連結部と前記差し込み部が前記ネジ孔への挿入方向に沿って2分割した2つの分割部材から構成され、組み付けされた2つの前記分割部材の間にできる隙間によって前記バンド差し込みスペースが形成されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、ワイヤーハーネス固定部材を被取付部材のネジ孔を利用して取り付けするには、差し込み部の差し込みスペースに結束バンド部の余長部分を挿入し、差し込み部を被取付部材のネジ孔に差し込む。すると、差し込み部の係止爪がネジ孔のネジ山に噛み合い、非常に大きな引っ張り力が作用しない限り抜けることはない状態で係止される。また、被取付部材のネジ孔を利用して固定されたワイヤーハーネス固定部材を取り外すには、差し込み部の差し込みスペースより結束バンドの余長部分を引き抜き、差し込みスペースを利用して差し込み部を縮径方向に変形させる。すると、差し込み部の係止爪とネジ孔のネジ山との噛み合いが小さく、若しくは、ほとんどなくなくすことができるため、差し込み部の縮径状態を維持しつつネジ孔より引き抜けば、小さな引き抜き抵抗を受け、若しくは、ほとんど引き抜き抵抗を受けることなく取り外すことができる。以上より、差し込み部を容易に引き抜くことができるため、取り外し作業性が良い。又、差し込み部を破損する可能性が殆どないため、破損した差し込み部がネジ孔内に残留せず、解体性に優れている。
【0011】
請求項2の発明によれば、ワイヤーハーネス固定部材はバンドクリップと差し込みクリップとからなるため、固定するワイヤーハーネスの径や固定するネジ孔の径に応じて使用するバンドクリップと差し込みクリップの大きさ、材質等を自由に組み合わせできる。
【0012】
又、結束バンドの長さ違いを複数種類必要な場合には、従来では複数種類のワイヤーハーネス固定部材を作製する必要があったが、本発明では差し込みクリップが同じものを使用できるため、結束バンドのみを複数種類作製すれば良く、ひいては、部品等の種類の増加抑制に繋がる。
【0013】
請求項3の発明によれば、差し込みクリップは2つの分割部材を組み付けることによって構成されるため、差し込み部の縮径方向への変形量を大きなものとすることが可能である。これにより、取付状態での固定力の向上と、取り外し作業性の向上を共に図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。
【0015】
図1〜図7は本発明の一実施形態を示し、図1(a)はワイヤーハーネス固定部材Aの取付状態を示す断面図、図1(b)はワイヤーハーネス固定部材Aの斜視図、図2はワイヤーハーネス固定部材Aの組み付け前の斜視図、図3及び図4はそれぞれワイヤーハーネス固定部材Aの取付け作業を示す斜視図、図5〜図7はそれぞれワイヤーハーネス固定部材Aの取付け作業を示す断面図である。
【0016】
図1〜図3に示すように、ワイヤーハーネス固定部材Aは、共に合成樹脂材で形成されたバンドクリップ1と差し込みクリップ10とから構成されている。
【0017】
バンドクリップ1は、長尺状のもので、ワイヤーハーネスWHの外周に巻き付ける結束バンド部2と、この結束バンド部2の基端に設けられた結束ロック部3とから構成されている。結束バンド部2は、可撓性があり、その表面には長手方向に間隔を置いて鋸ぎり刃状の係止爪(図示せず)が形成されている。結束バンド部2の先端側は先に向かうに従って肉薄になるテーパ状に形成されている。結束ロック部3は、結束バンド部2が通ることができるロック用通路4を有する。このロック用通路4内には結束バンド部2の係止爪(図示せず)が係止される被係止爪部(図示せず)が設けられている。
【0018】
差し込みクリップ10は、結束バンド部2を連結する連結部11と、被取付部材30(例えば鋳造品のエンジン)のネジ孔31に差し込むことによって差し込みできる差し込み部12とから構成されている。差し込みクリップ10は、連結部11と差し込み部12がネジ孔31への挿入方向に沿って2分割した2つの分割部材10A,10Bから構成されている。2つの分割部材10A,10Bは、連結部11側に設けられた一対のヒンジ部13と、同じく連結部11側に設けられた一対の係止アーム部14及び被係止部15とによって連結されている。
【0019】
このように2つの分割部材10A,10Bの組み付けによって構成された連結部11は、バンドクリップ1の結束バンド部2を挿通する第1バンド挿通孔16を有し、この第1バンド挿通孔16に結束バンド部2を通すことによってバンドクリップ1と差し込みクリップ10が連結される。又、連結部11を構成する一方の分割部材10A側には、第2バンド挿通孔17が形成されている。第2バンド挿通孔17は、下記するバンド差し込みスペース18に開口されている。2つの分割部材10A,10Bの組み付けによって構成された差し込み部12には、2つの分割部材10A,10Bの対向面の間にできる隙間によってバンド差し込みスペース18が形成されている。差し込み部12の外周面には、係止爪19が設けられている。この係止爪19は、被取付部材30のネジ孔31に対し挿入抵抗が小さく、且つ、引き抜き抵抗が大きくなるよう向きが設定されている。
【0020】
次に、ワイヤーハーネス固定部材AによるワイヤーハーネスWHの固定作業を説明する。先ず、図2に示すように、バンドクリップ1の結束バンド部2の先端を差し込みクリップ10の連結部11の第1バンド挿通孔16に挿入する(図3参照)。次に、図4に示すように、ワイヤーハーネスWHを差し込みクリップ10の連結部11の上面に載置し、ワイヤーハーネスWHの外周に結束バンド部2を巻き付ける。そして、ワイヤーハーネスWHに巻き付けた結束バンド部2の先端側を結束ロック部3のロック用通路4に通し、ワイヤーハーネスWHを強く締結した結束バンド部2を結束ロック部3で固定する。次に、結束バンド部2の先端側の余剰部分を連結部11の第2バンド挿通孔17に通し、更にバンド差し込みスペース18に通す。次に、図5に示すように、差し込み部12を被取付部材30のネジ孔31に差し込む。すると、図1(b)に示すように、差し込み部12の直径A(図1(b)に示す)がネジ孔31のネジ山の直径より大きいため、差し込み部12の係止爪19がネジ孔31のネジ山と噛み合い、非常に大きな引っ張り力が作用しない限り抜けることはない状態で係止される。
【0021】
以上により、ワイヤーハーネスWHはワイヤーハーネス固定部材Aを介して被取付部材30のネジ孔31を利用して固定することができる。
【0022】
次に、被取付部材30のネジ孔31を利用して固定されたワイヤーハーネス固定部材Aの取り外し作業を説明する。先ず、図6に示すように、結束バンド部2の先端側をバンド差し込みスペース18及び第2バンド挿通孔17より引き抜く。次に、図7に示すように、差し込みクリップ10を構成する2つの分割部材10A,10Bの連結部11の位置を把持し、双方の分割部材10A,10B間に圧縮力fを作用させる。すると、双方の分割部材10A,10B間に結束バンド部2が未挿入のバンド差し込みスペース18があるため、一対のヒンジ部13と一対の係止アーム部14が撓み、この弾性撓み変形によって差し込み部12が縮径方向に変形する。これにより、差し込み部12の直径B(図7に示す)が小さくなり、差し込み部12の係止爪19とネジ孔31のネジ山との噛み合いが小さく、若しくは、ほとんどなくなる。この差し込み部12の縮径状態を維持しつつネジ孔31より引き抜けば、小さな引き抜き抵抗を受けつつ、若しくは、引き抜き抵抗をほとんど受けることなく取り外すことができる。以上より、差し込み部12を容易に引き抜くことができるため、取り外し作業性が良い。又、差し込み部12を破損する可能性が殆どないため、破損した差し込み部12がネジ孔31内に残留するような事態が発生せず、解体性に優れている。
【0023】
結束バンド部2と結束ロック部3は、一体部材のバンドクリップ1として構成され、バンドクリップ1の結束バンド部2を挿通することによって連結する連結部11と差し込み部12は、一体部材の差し込みクリップ10として構成されている。従って、ワイヤーハーネス固定部材Aはバンドクリップ1と差し込みクリップ10とからなるため、ワイヤーハーネスWHの径やネジ孔31の径に応じて使用するバンドクリップ1と差し込みクリップ10の大きさ、材質等を自由に組み合わせできる。
【0024】
又、結束バンド部2の長さ違いを複数種類必要な場合には、従来では複数種類のワイヤーハーネス固定部材を作製する必要があったが、この実施形態では差し込みクリップ10が同じものを使用できるため、結束バンド部2のみを複数種類作製すれば良く、ひいては、部品等の種類の増加抑制に繋がる。
【0025】
差し込みクリップ10は、連結部11と差し込み部12がネジ孔31への挿入方向に沿って2分割した2つの分割部材10A,10Bから構成され、組み付けされた2つの分割部材10A,10Bの間にできる隙間によってバンド差し込みスペース18が形成されている。従って、差し込みクリップ10は2つの分割部材10A,10Bを組み付けることによって構成されるため、差し込み部12の縮径方向への変形量を大きなものとすることが可能である。これにより、取付状態での固定力の向上と、取り外し作業性の向上を共に図ることができる。
【0026】
尚、この実施形態では、差し込み部12は、連結部11を介して結束バンド部2に連結されているが、連結部11を介して結束ロック部3に、又は、結束バンド部2と結束ロック部3の双方に連結されるよう構成しても良い。
【0027】
尚、この実施形態では、バンド差し込みスペース18は、分割部材10A,10B同士の間にできる隙間によって形成されているが、差し込み部12を一体部材として構成し、この一体部材の差し込み部12に差し込み孔等を設けて差し込みスペース18を構成しても良い。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態を示し、(a)はワイヤーハーネス固定部材の取付状態を示す断面図、(b)はワイヤーハーネス固定部材の斜視図である。
【図2】本発明の一実施形態を示し、ワイヤーハーネス固定部材の組み付け前の斜視図である。
【図3】本発明の一実施形態を示し、ワイヤーハーネス固定部材の取付け作業を示す斜視図である。
【図4】本発明の一実施形態を示し、ワイヤーハーネス固定部材の取付け作業を示す斜視図である。
【図5】本発明の一実施形態を示し、ワイヤーハーネス固定部材の取付け作業の断面図である。
【図6】本発明の一実施形態を示し、ワイヤーハーネス固定部材の取外し作業を示す断面図である。
【図7】本発明の一実施形態を示し、ワイヤーハーネス固定部材の取外し作業を示す断面図である。
【図8】従来例のワイヤーハーネス固定部材の断面図である。
【図9】従来例のワイヤーハーネス固定部材が取外し作業で途中で破損した状態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0029】
A ワイヤーハーネス固定部材
1 差し込みクリップ
2 結束バンド部
3 結束ロック部
10 差し込みクリップ
10A,10B 分割部材
11 連結部
12 差し込み部
18 バンド差し込みスペース
19 係止爪
30 被取付部材
31 ネジ孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ワイヤーハーネスの外周に巻き付ける結束バンド部と、前記結束バンド部を前記ワイヤーハーネスに巻き付けた状態で固定する結束ロック部と、前記結束バンド部と前記結束ロック部の少なくともいずれか一方に連結され、被取付部材のネジ孔に係止される係止爪が外周面に設けられた差し込み部とを備え、
前記差し込み部には、前記ネジ孔への挿入方向に沿って前記結束バンド部を差し込むことができるバンド差し込みスペースが形成され、前記バンド差し込みスペースに前記結束バンド部が未挿入の状態では前記差し込みスペースを利用して前記差し込み部が縮径方向に変形可能に設けられたことを特徴とするワイヤーハーネス固定部材。
【請求項2】
請求項1記載のワイヤーハーネス固定部材であって、
前記結束バンド部と前記結束ロック部は、一体部材のバンドクリップとして構成され、前記バンドクリップの前記結束バンド部を挿通することによって連結する連結部と前記差し込み部は、一体部材の差し込みクリップとして構成されたことを特徴とするワイヤーハーネス固定部材。
【請求項3】
請求項2記載のワイヤーハーネス固定部材であって、
前記差し込みクリップは、前記連結部と前記差し込み部が前記ネジ孔への挿入方向に沿って2分割した2つの分割部材から構成され、組み付けされた2つの前記分割部材の間にできる隙間によって前記バンド差し込みスペースが形成されたことを特徴とするワイヤーハーネス固定部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−119229(P2010−119229A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−291192(P2008−291192)
【出願日】平成20年11月13日(2008.11.13)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】