説明

ワイヤ放電加工機およびワイヤ放電加工方法

【課題】 放電にむらを生じにくくする手段を提供する。
【解決手段】 ワイヤ放電加工機10は、被加工物Wを保持する作業台12、被加工物Wを加工するワイヤ20、ワイヤ20を被加工物Wに対して走行させる走行部22,24、ワイヤ20と被加工物Wとの間に電圧を印加して放電を生じさせる電圧印加部38から構成されている。ワイヤ20の外周面52には鍍金層60が形成され、砥粒56に被覆層58が形成された導電性砥粒54が電着されている。導電性砥粒54に鍍金層58が被るため、鍍金層60の厚さを薄くすることができ、電着に要する時間を短縮できる。また、導電性砥粒54が鍍金層60によって被覆されているため、放電によるスパーク62にむらが生じにくい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワイヤ放電加工機およびワイヤ放電加工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ワイヤ放電加工機は、ワイヤを被加工物に対して走行させつつ、ワイヤと被加工物との間に高電圧を印加して、ワイヤと被加工物との間に放電を生じさせることにより被加工物を加工する。このようなワイヤ放電加工機においては、被加工物を機械的にも加工するために、ワイヤにダイヤモンド等の砥粒が電着により固着されている(特許文献1〜4参照)。
【特許文献1】特開昭57−96729号公報
【特許文献2】特開昭54−14085号公報
【特許文献3】特開昭54−20485号公報
【特許文献4】特開昭60−16368号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、上記のようなワイヤに砥粒が電着されたワイヤ放電加工機においては、放電によるスパークにむらが生じ易いため、加工速度が低下し易いという欠点がある。
【0004】
本発明は、斯かる実情に鑑み、放電にむらを生じにくくする手段を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、被加工物を保持する保持手段と、被加工物を加工するワイヤと、被加工物に対してワイヤを走行させる走行手段と、ワイヤと被加工物との間に電圧を印加して放電を生じさせる電圧印加手段とを備え、ワイヤは、その表面に導電性を有する砥粒が電着されているワイヤ放電加工機である。
【0006】
この構成によれば、ワイヤの表面に導電性を有する砥粒が電着されているので、電着された砥粒自体が導電性を有することに加えて、電着された砥粒の表面の大部分が導電性の鍍金層に被覆されることになる。そのため、放電によるスパークにむらが生じにくくなる。
【0007】
なお、本明細書で、「導電性を有する砥粒」とは、ダイヤモンド半導体等から成る砥粒のように砥粒自体が導電性を有するものと、金属膜をコーティングされた砥粒のようにコーティングにより導電性を有するものの両方を含む。
【0008】
また本発明は、被加工物を保持する保持手段と、被加工物を加工するワイヤと、被加工物に対してワイヤを走行させる走行手段と、ワイヤと被加工物との間に電圧を印加して放電を生じさせる電圧印加手段と、を備え、ワイヤは、その表面に導電性を有する物質が被覆された砥粒が電着されているワイヤ放電加工機である。
【0009】
この構成によれば、ワイヤはその表面に導電性を有する物質が被覆された砥粒が電着されているため、電着された砥粒自体が導電性を有し、砥粒の表面が導電性の鍍金層に被覆される。そのため、放電によるスパークにむらが生じにくくなる。また、砥粒の表面が導電性を有する物質により被覆されているため、砥粒の電着強度を一層高いものとできる。
【0010】
また、本発明の別の態様によれば、表面に導電性を有する砥粒が電着されたワイヤを被加工物に対して走行させつつ、ワイヤと被加工物との間に電圧を印加して放電を生じさせて被加工物を加工するワイヤ放電加工方法が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によるワイヤ放電加工機およびワイヤ放電加工方法によれば、放電にむらを生じにくくすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0013】
図1は、本発明の実施形態に係るワイヤ放電加工機の構成を示す図である。図1に示すように本実施形態のワイヤ放電加工機10は、被加工物Wを保持する作業台12(保持手段)、被加工物Wを加工するワイヤ20、ワイヤ20を被加工物Wに対して走行させる走行部22,24(走行手段)、ワイヤ20と被加工物Wとの間に電圧を印加して放電を生じさせる電圧印加部38(電圧印加手段)、被加工物Wの加工部位に加工液を供給する加工液供給部42、および装置全体を制御する制御部48から構成されている。
【0014】
作業台12は、作業台駆動機14,16が備えられ、被加工物Wを保持した作業台12をX軸方向およびY軸方向に移動させる。作業台駆動機14,16は、それぞれ作業台駆動部18に接続されており、作業台駆動部18によって制御される。これにより、作業台12に保持された被加工物Wとワイヤ20とが接する箇所を自在に変更させて、被加工物Wの所望箇所を加工することができるようにされている。
【0015】
ワイヤの供給側(図の上側)とワイヤの回収側(図の下側)とにそれぞれ設けられた走行部22,24は、ワイヤ20を巻き付けるためのリール26,28がそれぞれ取り付けられている。ワイヤ20は、ガイドプーリ30,32,34,36によって誘導される。ガイドプーリ30,32,34,36は、ワイヤ20の走行方向に従って回転動可能とされている。このため、ガイドプーリ30,32,34,36は、砥粒が電着されたワイヤ20を誘導しても磨耗が少ないようにされている。
【0016】
電圧印加部38に接続された電圧印加電極40がワイヤ20に接触するように備えられている。電圧印加部38は作業台12とも電気的に接続されている。これにより、ワイヤ20と作業台12に保持された被加工物Wとの間に電圧を印加して放電を生じさせることができるようになっている。
【0017】
加工液供給部42に接続された加工液供給ノズル44,46はワイヤ20を囲繞するように配置され、被加工物Wの加工部位に加工液を供給することができるようになっている。
【0018】
以上説明した作業台駆動部18、走行部22,24、電圧印加部38、および加工液供給部42は、それぞれ制御部48に接続されており、所定の動作をするように制御される。
【0019】
図2は、本実施形態に係るワイヤの一部を示す斜視図である。図2に示すように、本実施形態に係るワイヤ20は、ピアノ線、撚り線等からなる線状体である芯線50の外周面52に、導電性砥粒54が電着されて構成されている。芯線の太さは例えば1mm未満とすることができる。
【0020】
図3は、本実施形態に係るワイヤの横断面の外周面付近を拡大した図である。図3に示すように、ワイヤ20の外周面52にはNi等の鍍金層60が形成され、ダイヤモンド、CNB等からなる砥粒56に被覆層58が形成された導電性砥粒54が、鍍金層60に埋め込まれるように電着されている。導電性砥粒54を電着すると、図3に示すように導電性砥粒54に鍍金層60が被るため、電着強度を高めることができる。そのため、鍍金層60の厚さを薄くすることができ、電着に要する時間を短縮できる。砥粒56の表面には、電着時の効率を向上させるため、Ti、Ni、Cu、TiC、SiCから選択されるいずれかからなる被覆層58が形成されている。より好適には、TiCからなる被覆層58とすることが、砥粒56および被覆層58の抵抗率が適当な値となるため好適である。砥粒56の平均粒径は、1〜60μmとすることが好適である。なお、図3では、完全に導電性砥粒54が鍍金層60に覆われているが、加工による鍍金層60および被覆層58の磨耗により、砥粒56の一部が露出していても良い。また、図4に示すように、加工前に切れ味を良くするために鍍金層60と被覆層58の一部を除去して砥粒56の一部を露出させる石出し加工がなされていても良い。
【0021】
砥粒56に形成された被覆層58の厚さは、10μm以下とし、より好ましくは0.1μm未満、さらに好ましくは0.05μm以下と薄くされている。または、被覆層58の質量は、砥粒56の質量の10%未満とすることが好ましく、より好ましくは5%未満となるようする。
【0022】
砥粒の表面に被覆層を形成する方法としては、CVD法、PVD法、めっき法、浸漬法等を用いて形成することができる。
【0023】
図5は、本実施形態に係るワイヤの芯線に砥粒を電着する工程を示す図である。図5に示すように、鍍金槽64は鍍金浴66によって満たされている。鍍金浴66は、例えば、スルファミン酸ニッケル、塩化ニッケル、ホウ酸からなるスルファミン酸浴とされている。鍍金浴66には、被覆層が表面に形成された導電性砥粒が混入されている。芯線50は、図中の矢印方向に鍍金浴66中に浸漬されつつ搬送されるようになっている。芯線50を保持するプーリの一部は、陰極68とされ、負電位を印加されるようになっている。また、鍍金浴66中に浸漬された芯線50を囲繞するように陽極70が設けられ、正電位を印加されるようになっている。
【0024】
電着時には、芯線50を矢印方向に搬送しつつ、陰極68および陽極70に電圧を印加する。導電性砥粒を用いることで砥粒が芯線50に電着される速度は速くなるため、芯線50の搬送速度は、1m/分以上が可能となる。このため、砥粒をワイヤに電着する時間を短縮することができ、ワイヤ放電加工機のワイヤを製造するコストを低減することが可能となる。
【0025】
以下、本実施形態のワイヤ放電加工機の動作について説明する。図1に示すように、被加工物Wを作業台12に載置し、走行部22,24によりリール26,28を回転させてワイヤ20を被加工物Wに対して走行させる。加工液供給ノズル44,46から被加工物Wの加工部位に加工液を供給しつつ、電圧印加部38によりワイヤ20と被加工物Wとの間に電圧を印加する。被加工物Wの加工は、主にワイヤ20と被加工物Wとの間で生じた放電によるスパークによって行われる。
【0026】
図6は、従来のワイヤの縦断面の外周面付近を拡大した図である。図6に示すように、従来の被覆されていない砥粒56を鍍金層60によって芯線の外周面58に電着したワイヤ20では、砥粒56が導電性を有さないため、砥粒56が鍍金層60により被覆されず、露出したままとなる。そのため、必要な強度で砥粒56を電着しようとすると、鍍金層60を厚くする必要があり、電着に時間を要することになる。また、電圧を印加しても導電性を有しない砥粒56の付近で放電によるスパーク62が生じにくくなり、スパークにむらが生じる。このため、加工速度が低下する。
【0027】
一方、図3に示すように本実施形態では、導電性砥粒54自体が導電性を有することに加えて、導電性砥粒54の大部分が鍍金層60によって被覆されているため、放電によるスパーク62にむらが生じにくい。そのため、放電による加工効率は向上し、加工速度を向上させることができる。図4のように導電性砥粒56に石出し加工を行った場合でも、スパーク62の一部が小さくなるだけで、導電性を有さない砥粒を用いた場合に比べて、スパーク62にむらが生じにくくすることができる。放電によって加工し切れなかった部分は、走行するワイヤ20に電着された導電性砥粒54により機械的に加工される。
【0028】
なお、本発明のワイヤ放電加工機およびワイヤ放電加工方法は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施形態に係るワイヤ放電加工機の構成を示す図である。
【図2】本実施形態に係るワイヤの一部を示す斜視図である。
【図3】本実施形態に係るワイヤの縦断面の外周面付近を拡大した図である。
【図4】図3の砥粒に石出し加工を施した様子を示す図である。
【図5】本実施形態に係るワイヤの芯線に超砥粒を電着する工程を示す図である。
【図6】従来のワイヤの縦断面の外周面付近を拡大した図である。
【符号の説明】
【0030】
10…ワイヤ放電加工機、12…作業台、14,16…作業台駆動機、18…作業台駆動部、20…ワイヤ、22,24…走行部、26,28…リール、30,32,34,36…ガイドプーリ、38…電圧印加部、40…電圧印加電極、42…加工液供給部、44,46…加工液供給ノズル、48…制御部、50…芯線、52…外周面、54…導電性砥粒、56…砥粒、58…被覆層、60…鍍金層、62…スパーク、64…鍍金槽、66…鍍金浴、68…陰極、70…陽極、W…被加工物。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物を保持する保持手段と、
前記被加工物を加工するワイヤと、
前記被加工物に対して前記ワイヤを走行させる走行手段と、
前記ワイヤと前記被加工物との間に電圧を印加して放電を生じさせる電圧印加手段と、
を備え、
前記ワイヤは、その表面に導電性を有する砥粒が電着されている、
ワイヤ放電加工機。
【請求項2】
被加工物を保持する保持手段と、
前記被加工物を加工するワイヤと、
前記被加工物に対して前記ワイヤを走行させる走行手段と、
前記ワイヤと前記被加工物との間に電圧を印加して放電を生じさせる電圧印加手段と、
を備え、
前記ワイヤは、その表面に導電性を有する物質が被覆された砥粒が電着されている、
ワイヤ放電加工機。
【請求項3】
表面に導電性を有する砥粒が電着されたワイヤを被加工物に対して走行させつつ、前記ワイヤと前記被加工物との間に電圧を印加して放電を生じさせて前記被加工物を加工する、ワイヤ放電加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−307669(P2007−307669A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−140581(P2006−140581)
【出願日】平成18年5月19日(2006.5.19)
【出願人】(000116781)旭ダイヤモンド工業株式会社 (99)
【Fターム(参考)】