説明

ワーク加熱装置及び潤滑剤塗布システム

【課題】ワークを迅速に加熱することが可能なワーク加熱装置及び潤滑剤塗布システムを提供する。
【解決手段】本発明のワーク加熱装置10は、隙間を空けて横並びに配置された1対のベルトコンベア21,21を有し、隙間を跨いだ状態で1対のベルトコンベア21,21上にワーク90を載置して搬送する。そして、ベルトコンベア21,21による搬送経路の途中の温水噴出部30においては、ワーク90に対して上下両方向から温水をかけて加熱し、エアー吹付部35においては、ワーク90に対して上下両方向からエアーを吹き付けて乾燥させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷間鍛造用の水性潤滑剤をワークに塗布する前にワークを加熱するワーク加熱装置及びそのワーク加熱装置を備えた潤滑剤塗布システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種のワーク加熱装置は、ワークに温風を吹き付けて加熱する構成になっていた。なお、冷間鍛造用の水性潤滑剤をワークに塗布する前に、予めワークを加熱しておく理由は以下の通りである。即ち、ワークが予め加熱されていると、水性潤滑剤を塗布したときに、ワークの熱により水性潤滑剤が迅速に乾燥して流動が防がれ、水性潤滑剤から形成される潤滑被膜の膜厚が均一になって鍛造品質が向上するからである(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−190052号公報(段落[0015],[0025])
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記した従来のワーク加熱装置を用いると、ワークの加熱に長時間を要し、生産効率が低くなるという問題があった。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたもので、ワークを迅速に加熱することが可能なワーク加熱装置及び潤滑剤塗布システムの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するためになされた請求項1の発明に係るワーク加熱装置は、冷間鍛造用の水性潤滑剤がワークに塗布される前に、ワークを加熱するワーク加熱装置であって、ワークに向けて温水を噴出して加熱する温水噴出部と、温水噴出部にて加熱されたワークにエアーを吹き付けて乾燥させるエアー吹付部とを備えたところに特徴を有する。
【0007】
請求項2の発明は、請求項1に記載のワーク加熱装置において、隙間を空けて横並びに配置された1対のベルトコンベアを有し、隙間を跨いだ状態で1対のベルトコンベア上にワークを載置して搬送可能なワーク搬送装置を設け、ワーク搬送装置によるワーク搬送方向の上流側に温水噴出部を配置する一方、下流側にエアー吹付部を配置し、温水噴出部は、1対のベルトコンベアの間に配置されてワークに対して下方から温水を噴出する下側温水噴出ノズルと、下側温水噴出ノズルに対してワークを挟んで上下方向で対向する位置に配置されて、ワークに対して上方から温水を噴出する上側温水噴出ノズルとからなり、エアー吹付部は、1対のベルトコンベアの間に配置されてワークに対して下方からエアーを吹き付ける下側エアー噴出ノズルと、下側エアー噴出ノズルに対してワークを挟んで上下方向で対向する位置に配置されて、ワークに対して上方からエアーを吹き付ける上側エアー噴出ノズルとからなるところに特徴を有する。
【0008】
請求項3の発明は、請求項2に記載のワーク加熱装置において、ワーク搬送装置は、ワークを一定1ピッチ毎、間欠的に搬送するように構成され、複数の温水噴出部と1つのエアー吹付部とが、ワーク搬送方向に一定ピッチの間隔で配置されたところに特徴を有する。
【0009】
請求項4の発明は、請求項2又は3に記載のワーク加熱装置において、1対のベルトコンベアの下方に配置されて、温水噴出部から噴出された温水を回収する温水回収容器と、温水回収容器にて回収した温水を加熱して温水噴出部に供給する温水加熱器とを備えたところに特徴を有する。
【0010】
請求項5の発明は、請求項2乃至4の何れか1の請求項に記載のワーク加熱装置において、温水噴出部及びエアー吹付部とそれらから温水又はエアーを受けた状態のワークとを覆うミスト飛散防止ケースを設けると共に、ミスト飛散防止ケース内を、温水噴出部を収容した加熱領域とエアー吹付部を収容した乾燥領域とに区画する中間区画壁を設け、ミスト飛散防止ケースのうちワーク搬送方向の両端部壁と中間区画壁とには、上側温水噴出ノズル及び上側エアー噴出ノズルより低い位置に、ワークの通過を許容するワーク通過口が貫通形成され、1対のベルトコンベアの両端部は、それぞれ一定ピッチ以上、ミスト飛散防止ケースの外側まで延ばされたところに特徴を有する。
【0011】
請求項6の発明は、請求項2乃至5の何れか1の請求項に記載のワーク加熱装置において、ワークは、等速ジョイントのアウターレースであって、一端有底の筒部の底壁の外面中心部から円柱部を突出させた構造をなすと共に、底壁の外面外縁部には面取り斜面が形成され、ワーク搬送装置は、ワークの筒部の開口縁における2箇所を1対のベルトコンベア上に載置した状態で搬送可能に構成され、下側温水噴出ノズルは、ワークの筒部の内部に向けて温水を噴出する一方、上側温水噴出ノズルは、ワークの面取り斜面における少なくとも2箇所と円柱部の端面とに向けて上方から温水を注ぐように噴出するところに特徴を有する。
【0012】
請求項7の発明に係る潤滑剤塗布システムは、請求項1乃至6に記載のワーク加熱装置と、ワーク加熱装置で加熱しかつ乾燥させたワークに冷間鍛造用の水性潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布装置とからなる潤滑剤塗布システムであって、潤滑剤塗布装置は、ワークを収容可能な潤滑剤塗布ケースと、潤滑剤塗布ケースの上面に形成された上面ワーク収容口と、ワーク加熱装置で加熱しかつ乾燥させたワークを把持して上面ワーク収容口から潤滑剤塗布ケース内に収容して保持するワーク搬送ロボットと、潤滑剤塗布ケース内で水性潤滑剤を霧状にしてワークに吹き付けて塗布する潤滑剤吹付部とを備えてなるところに特徴を有する。
【0013】
請求項8の発明は、請求項7に記載の潤滑剤塗布システムにおいて、ワーク搬送ロボットは、把持したワークをその中心軸回りに回転駆動するワーク回転駆動部を有し、潤滑剤吹付部は、ワーク回転駆動部によって回転駆動されているワークに対し、そのワークの中心軸と交差する方向から水性潤滑剤を吹き付けるように配置されたところに特徴を有する。
【発明の効果】
【0014】
[請求項1の発明]
請求項1のワーク加熱装置では、温水でワークを加熱するので、温風で加熱していた従来のものに比べて効率よくワークに熱が伝わり迅速に加熱することができる。また、温水にワークを沈めるのではなく、温水がワークに向けて噴出され、ワーク表面を温水が流れるので、ワークに熱を奪われた温水がワークの回りに滞留することがなく、この点においても効率よくかつ迅速にワークを加熱することができる。
【0015】
[請求項2の発明]
請求項2のワーク加熱装置では、隙間を空けて横並びに配置された1対のベルトコンベア上にワークが跨るように載置されて、温水噴出部からエアー吹付部へと順次送給される。そして、温水噴出部では、上側温水噴出ノズルと下側温水噴出ノズルとにより、上と下の両方向から温水がワークにかけられる。これにより、迅速にワークを加熱することができる。次いで、ワークがエアー吹付部へと送給されると、上側エアー噴出ノズルと下側エアー噴出ノズルとにより、上と下の両方向からエアーがワークに吹き付けられる。これにより、迅速にワークを乾燥させることができる。
【0016】
[請求項3の発明]
請求項3のワーク加熱装置では、1対のベルトコンベア上にワークを一定ピッチで並べて搬送すれば、それらワークが複数の温水噴出部を順次通過して複数回に亘って加熱された後、エアー吹付部にて乾燥される。これにより、ワークの乾燥時間より加熱時間を長くすることができ、ワークを十分に加熱することが可能になる。
【0017】
[請求項4の発明]
請求項4のワーク加熱装置は、ワークを加熱するために使用した温水を回収しかつ加熱してワーク加熱用に再利用するので、温水に残された熱の有効利用が図られ、環境性能にも優れる。
【0018】
[請求項5の発明]
請求項5のワーク加熱装置は、温水噴出部及びエアー吹付部とワークをミスト飛散防止ケースで覆ったので、周囲へのミストの飛散を防止することができる。また、1対のベルトコンベアの両端部を、それぞれ一定ピッチ以上、ミスト飛散防止ケースの外側まで延ばしたので、それらベルトコンベアの上流側の端部にワークを載置すれば、ベルトコンベアの駆動によってワークがミスト飛散防止ケース内に取り込まれる。また、ベルトコンベアの下流側の端部では、ミスト飛散防止ケースから排出されたワークを、ベルトコンベア上で、後工程への搬送を待って待機させることができる。
【0019】
[請求項6の発明]
請求項6の構成によれば、アウターレースの筒部の内側と外側の両方から加熱することができる。
【0020】
[請求項7の発明]
請求項7の潤滑剤塗布システムによれば、潤滑剤塗布装置でワークに水性潤滑剤を塗布する前に、ワーク加熱装置によって迅速にワークを加熱することができるので、潤滑剤塗布装置の稼働率を高めることができる。
【0021】
[請求項8の発明]
請求項8の潤滑剤塗布システムによれば、ワークを回転駆動した状態でそのワークの中心軸と交差する方向から水性潤滑剤を吹き付けるので、ワークに均一に水性潤滑剤が塗布される。これにより、水性潤滑剤が乾燥してなる潤滑剤層の厚さの均一化が図られる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の一実施形態に係るワーク加熱装置の側断面図
【図2】潤滑剤塗布システムの側断面図
【図3】ワーク加熱装置の図1におけるA−A切断面の側断面図
【図4】温水噴出部の側断面図
【図5】ワーク加熱装置の図1におけるB−B切断面の側断面図
【図6】潤滑剤塗布装置の図2におけるC−C切断面の側断面図
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態を図1〜図6に基づいて説明する。図1には、本実施形態のワーク加熱装置10が示され、図2には、ワーク加熱装置10と潤滑剤塗布装置11とを含む潤滑剤塗布システム70が示されている。そして、ワーク加熱装置10でワーク90を加熱しかつ乾燥させた後、潤滑剤塗布装置11のワーク90に冷間鍛造用の水性潤滑剤を塗布する。
【0024】
本実施形態のワーク90は、例えば、等速ジョイントの一部を構成するアウターレースであって、図3に示すように一端有底の筒部91の底壁92から円柱部93を突出させた構造をなしている。また、円柱部93は、底壁92の外面中央に配置され、底壁92の外面外縁部には面取り斜面94が形成されている。なお、筒部91は、軸方向に延びた凹溝と突条とが周方向複数繰り返された形状になっている。そして、このワーク90としてのアウターレースが潤滑剤塗布システム70によって水性潤滑剤を塗布された後、冷間鍛造によって「しごき成形」されて、最終形状のアウターレースが完成する。
【0025】
図1に示すように、ワーク加熱装置10は、複数のワーク90を水平に移動して搬送するためのワーク搬送装置20を備えている。図3に示すように、ワーク搬送装置20は、隙間を空けて横並びに配置された1対のベルトコンベア21,21で構成されている。それら各ベルトコンベア21は、図1に示すように、1対のプーリ21P,21Pの間に搬送ベルト21Bを架け渡してなる。また、搬送ベルト21Bのうちプーリ21P,21Pの間に張られた1対の直線部分は、水平方向に延びかつ上下方向で対向している。さらに、図2に示すように、両ベルトコンベア21,21のプーリ21P,21Pは、共通の駆動シャフト21Sにキー連結されている。これにより、両ベルトコンベア21,21の搬送ベルト21B,21Bの送給速度は、同一になっている。
【0026】
図3に示すように、搬送ベルト21Bのうち上側の直線部分は、下方から支持レール22にて支持されて下方への弛みが規制されている。また、1対のベルトコンベア21,21の支持レール22,22同士が長手方向の複数箇所で連絡梁23によって連結されている。これにより、ベルトコンベア21,21同士の間隔が一定に保たれている。そして、図1に示した第1搬送ロボットR1が、ワーク90を把持してワーク搬送装置20の始端部(図1の右側端部)にワーク90を載置する。詳細には、第1搬送ロボットR1により、ワーク90は、図3に示すように、筒部91の開放側端面がベルトコンベア21,21間の隙間を跨いで両搬送ベルト21B,21Bの上面に当接した状態で載置される。そして、第1搬送ロボットR1がワーク90をワーク搬送装置20の始端部に載置する度に、搬送ベルト21B,21Bが一定ピッチ(以下、適宜「送給ピッチ」と呼ぶ)ずつ送給される。なお、図1においては、ワーク90,90同士の間隔が送給ピッチとして現れている。
【0027】
ワーク加熱装置10には、ミスト飛散防止ケース24が備えられている。ミスト飛散防止ケース24は、全体が略直方体状をなし、図1に示すように、ミスト飛散防止ケース24の下端寄り位置を、ワーク搬送装置20(ベルトコンベア21,21)が水平方向に貫通して、ワーク搬送装置20の両端部(始端部と終端部)がミスト飛散防止ケース24の外側に露出している。また、図3に示すように、ミスト飛散防止ケースのうち下端側の底壁24Aは、一カ所に向かって傾斜しており、その最下端部に温水回収ダクト24Dが接続され、そこから後述する使用済みの温水が排出される。なお、本実施形態では、ミスト飛散防止ケース24の下端部が、本発明に係る「温水回収容器」になっている。
【0028】
図1に示すように、ミスト飛散防止ケース24は、ワーク搬送方向においては、前記送給ピッチの略5倍程度の大きさをなしている。また、ミスト飛散防止ケース24内には、ワーク送給方向の終端部から1送給ピッチ分だけ上流側に離れた位置に中間区画壁25が設けられ、この中間区画壁25によってミスト飛散防止ケース24内がワーク送給方向の上流側の加熱部屋24Xと乾燥部屋24Yとに区画されている。
【0029】
ミスト飛散防止ケース24のうちワーク送給方向に並んだ1対の側壁24S,24Sと中間区画壁25には、代表例として図5に側壁24Sを示したように、1対のベルト挿通孔26A,26Aとワーク挿通孔26Bとが形成されている。1対のベルト挿通孔26A,26Aは、ミスト飛散防止ケース24の下端寄り位置に配置されて横長矩形状をなし、これらベルト挿通孔26A,26Aにベルトコンベア21,21における搬送ベルト21B,21Bの直線部分が挿通されている。これにより、上述の如く、ミスト飛散防止ケース24の下端寄り位置をワーク搬送装置20(ベルトコンベア21,21)が水平方向に貫通した構成になっている。
【0030】
ワーク挿通孔26Bは、ワーク搬送装置20上で起立したワーク90を通過可能とするためのものであって、上側のベルト挿通孔26Aにおける左右方向の中央部に連通して上方に延びている。そして、ワーク挿通孔26Bの下側略半分は、ワーク90の筒部91に対応して比較的幅広になっていて、ワーク挿通孔26Bの上側略半分は、ワーク90の円柱部93に対応して比較的幅狭になっている。なお、ワーク挿通孔26Bは、大きさ、形状が若干異なる複数種類のアウターレースとしてのワーク90が通過可能な大きさになっている。
【0031】
また、ミスト飛散防止ケース24内には、1対のガイドレール26G,26Gが延びている。ガイドレール26G,26Gは、ワーク送給方向全体に亘って延びた断面円形の線材で構成され、ミスト飛散防止ケース24の内側面から張り出した複数の支持アーム26Hによって支持されてベルトコンベア21,21の上方に配置されている。そして、これらガイドレール26G,26Gによって、ワーク90が1対のベルトコンベア21,21の上に跨った状態が維持されている。
【0032】
図1に示すように、加熱部屋24Xには、ワーク搬送方向に例えば4つの温水噴出部30が備えられている。各温水噴出部30は、図3に示すように、温水噴出部30は、1対のベルトコンベア21,21の間に配置されてワーク90に対して下方から温水を噴出可能な下側温水噴出ノズル32と、その下側温水噴出ノズル32に対してワーク90を挟んで上下方向で対向する位置に配置されて、ワーク90に対して上方から温水を噴出可能な上側温水噴出ノズル31とからなる。
【0033】
詳細には、加熱部屋24Xのうちワーク搬送方向と直交する方向の一方に配置された前面壁24Fには、各温水噴出部30毎に1対の配管挿通孔27,27が上下に対をなして形成されている。その上側の配管挿通孔27には、ワーク搬送方向と直交する水平方向に延びた温水供給パイプ31Aの先端に接続された角形配管31Bが挿通され、その角形配管31Bの先端部が上側温水噴出ノズル31になっている。角形配管31Bは、温水供給パイプ31A内に連通したメイン流路31Mを備え、角形配管31Bの先端部の上側温水噴出ノズル31においてメイン流路31Mから3つの噴出流路31Sが下方に分岐して延びている。
【0034】
一方、下側の配管挿通孔27には、ワーク搬送方向と直交する水平方向に延びた温水供給パイプ32Aが挿通され、その温水供給パイプ32Aの先端部から上方に下側温水噴出ノズル32が突出している。下側温水噴出ノズル32は、温水供給パイプ32A内に比べて絞られた流路(図示せず)を備えている。
【0035】
ミスト飛散防止ケース24の外側前方には、ワーク送給方向に延びた図示しない第1と第2の基幹パイプが上下に並べて平行に延びている。そして、温水供給パイプ31A群の基端部が第1基幹パイプに共通して接続されると共に、温水供給パイプ32A群の基端部が第2基幹パイプに共通して接続されている。また、図3に示すように、第1基幹パイプの基端部には、第1手動開閉バルブ31Vを介して温水供給装置40が接続されると共に、第2基幹パイプの基端部には、第2手動開閉バルブ32Vを介して温水供給装置40が接続されている。これにより、第1手動開閉バルブ31Vを開くと、温水供給装置40から各上側温水噴出ノズル31に温水が供給され、第2手動開閉バルブ32Vを開くと、温水供給装置40から各下側温水噴出ノズル32に温水が供給される。本実施形態では、第1及び第2の手動開閉バルブ31V,32Vが一定の開度に開いた状態に維持されている。そして、上側温水噴出ノズル31の3つの噴出流路31Sから下方に向け3筋の温水が流れるように噴出され、上側温水噴出ノズル31の真下にワーク90が配置されたときに、ワーク90における外面全体が温水によって覆われる。具体的には、図4に示すように、上側温水噴出ノズル31のうち中央の噴出流路31Sから噴出した温水は、ワーク90における円柱部93の端面に降り注ぎ、円柱部93の外周面全体を伝わって下方に流れる。また、上側温水噴出ノズル31のうち両サイドの噴出流路31S,31Sから噴出した温水は、ワーク90のうち筒部91の肩部に相当する面取り斜面94に降り注ぎ、その面取り斜面94を伝わって側方に広がり、筒部91の外周面の略全体を伝わって下方に流れる。これにより、ワーク90における外面全体が温水によって覆われる。
【0036】
また、下側温水噴出ノズル32からは、上方に向けかつ広角に温水が噴出されて、下側温水噴出ノズル32の真上にワーク90が配置されたときに、ワーク90における筒部91内の略全体に温水が掛けられる。
【0037】
なお、上側温水噴出ノズル31及び下側温水噴出ノズル32から噴出される温水は、温水供給装置40で加熱されることで、例えば75〜95度になっている。また、使用済みの温水は、前述のようにミスト飛散防止ケース24の下端部の温水回収ダクト24Dに集められて温水供給装置40に取り込まれて再利用される。
【0038】
図1に示すように、乾燥部屋24Y内には、下流側に配置された温水噴出部30に対してワーク搬送装置20による1送給ピッチ分の間隔を空けて、エアー吹付部35が備えられている。そのエアー吹付部35は、図5に示すように1対のベルトコンベア21,21の間に配置されてワーク90に対して下方からエアーを吹付ける下側エアー噴出ノズル37と、下側エアー噴出ノズル37に対してワーク90を挟んで上下方向で対向する位置に配置されて、ワーク90に対して上方からエアーを吹付ける上側エアー噴出ノズル36とからなる。詳細には、乾燥部屋24Yにおける前面壁24Fにも、加熱部屋24Xの前面壁24Fと同様に、上下に1対の配管挿通孔27,27が形成されている。そして、それら配管挿通孔27,27に挿通されたエアー供給パイプ36A,37Aの端部に上側エアー噴出ノズル36及び下側エアー噴出ノズル37が設けられている。また、エアー供給パイプ36A,37Aの基端部には、電磁弁35Xと加熱器35Yとコンプレッサ35Zとが順番に接続されている。
【0039】
下側エアー噴出ノズル37には、エアー噴出口が1つだけ備えられ、下側エアー噴出ノズル37から噴出されたエアーは、ワーク90の筒部91における内面全体に吹き付けられる。上側エアー噴出ノズル36には、例えば、下側エアー噴出ノズル37のエアー噴出口と対向する位置とその周りを4等分した位置とにそれぞれエアー噴出口が備えられている。そして、これらエアー噴出口から噴出されたエアーがワーク90の外面全体に吹き付けられる。そして、ワーク90が上側エアー噴出ノズル36と下側エアー噴出ノズル37との間に配置されたときに電磁弁35Xが開き、コンプレッサ35Zから送給されたエアーが加熱器35Yで加熱されて電磁弁35Xを介して上側エアー噴出ノズル36及び下側エアー噴出ノズル37に送給され、それら上側エアー噴出ノズル36及び下側エアー噴出ノズル37のエアー噴出口から高温のエアー(温風)がワーク90に向けて吹き付けられる。
【0040】
ワーク加熱装置10に関する説明は以上である。潤滑剤塗布装置11は、図2に示すように、潤滑剤塗布ケース50を備えている。図6に示すように、潤滑剤塗布ケース50は、上面に形成された上面ワーク収容口51を有し、ここからワーク90を潤滑剤塗布ケース50内に収容することができる。そのワーク90の搬送のために、潤滑剤塗布装置11には第2搬送ロボットR2(本発明の「ワーク搬送ロボット」に相当する)が備えられている。第2搬送ロボットR2は、ワーク90の円柱部93の基端部を把持可能なロボットハンド99を先端に有し、ロボットハンド99を水平移動する水平駆動機構とロボットハンド99を上下動させる上下駆動機構とさらにロボットハンド99を鉛直軸回りに回転させるワーク回転駆動機構とを備えている。そして、ワーク加熱装置10で加熱されかつ乾燥されたワーク90が、ミスト飛散防止ケース24から排出されてワーク搬送装置20の終端部に配置されると(図1参照)、第2搬送ロボットR2がそのワーク90を把持して上昇し、潤滑剤塗布ケース50の上面ワーク収容口51から潤滑剤塗布ケース50内に挿入してから一定速度で回転させ、その後、上昇して所定の回収場所にワーク90を載置する。
【0041】
潤滑剤塗布ケース50内には、本発明に係る潤滑剤吹付部52が設けられている。潤滑剤吹付部52は、1対の潤滑剤吹付ノズル53,54から構成されている。一方の潤滑剤吹付ノズル53は、潤滑剤塗布ケース50内でロボットハンド99に把持されたワーク90から側方に所定距離だけ離され、潤滑剤吹付ノズル53の噴出口の中心軸が、水平方向を向いてワーク90の筒部91における上下方向の中間位置と交差するように配置されている。そして、潤滑剤吹付ノズル53は、水性潤滑剤を霧状にして噴出し、ワーク90の上下方向に全体に水性潤滑剤を吹き付ける。このとき、ワーク90がロボットハンド99によって回転駆動されているので、水性潤滑剤がワーク90の外面全体に均一に吹き付けられる。
【0042】
他方の潤滑剤吹付ノズル54は、潤滑剤塗布ケース50内でロボットハンド99に把持されたワーク90から下方に所定距離だけ離され、潤滑剤吹付ノズル54の噴出口の中心軸が、ワーク90の中心軸に対して所定角(例えば、35度)だけ傾けられて、ワーク90の筒部91における内側面と交差するように配置されている。そして、潤滑剤吹付ノズル54も、水性潤滑剤を霧状にして噴出し、筒部91の内面の上下方向に全体に水性潤滑剤を吹き付ける。このとき、ワーク90がロボットハンド99によって回転駆動されているので、水性潤滑剤が筒部91の内面全体に均一に吹き付けられる。
【0043】
なお、潤滑剤塗布ケース50内内には、ワーク90に塗布された水性潤滑剤を乾燥させるためのエアーを噴出する乾燥用エアー噴出ノズル55や、潤滑剤吹付ノズル53,54の先端を製造するためのエアーを噴出する清掃用エアー噴出ノズル56を設けられている。
【0044】
本実施形態の潤滑剤塗布システム70に関する説明は以上である。次に、潤滑剤塗布システム70の作用効果について説明する。ワーク90は、金属の円柱体から複数回の冷間鍛造工程を経て、図3に示すように、筒部91と円柱部93とを備えた形状に成形される。そして、ワーク90は、ショットブラスト工程を経て、第1搬送ロボットR1によって1つずつワーク加熱装置10におけるワーク搬送装置20の始端部上面に載置される。詳細には、ワーク搬送装置20は、1対のベルトコンベア21,21の搬送ベルト21B,21Bを一定ピッチ送給したら、所定時間停止した後、また一定ピッチ送給するという動作を繰り返す。そして、第1搬送ロボットR1は、ワーク搬送装置20の送給停止期間中にワーク90を、両ベルトコンベア21,21上に跨るように載置する。これにより、複数のワーク90が、ワーク搬送装置20上でワーク搬送方向に一定ピッチ毎、並べて載置された状態で送給され、順次、ワーク加熱装置10におけるミスト飛散防止ケース24の内部に進入していく。
【0045】
ミスト飛散防止ケース24内に進入したワーク90は、ミスト飛散防止ケース24内で停止したときに温水噴出部30における上側温水噴出ノズル31と下側温水噴出ノズル32との間に配置され、それら上側温水噴出ノズル31及び下側温水噴出ノズル32が噴出され続けている温水を外面と内面の両方に浴びて、加熱される。このとき、ワーク90に付着している異物も洗い流される。また、ミスト飛散防止ケース24内でワーク90が一定ピッチで送給されると、隣の温水噴出部30に移動し、そこでも同様に温水を浴びて加熱される。そして、ワーク90は、全ての温水噴出部30を通過した後、エアー吹付部35における上側エアー噴出ノズル36と下側エアー噴出ノズル37との間に配置され、温風を外面と内面の両方に浴びて乾かされる。その後、ワーク90は、一定ピッチ送給されてミスト飛散防止ケース24外のワーク搬送装置20の終端部で待機する。
【0046】
ワーク搬送装置20の終端部で待機したワーク90は、第2搬送ロボットR2のロボットハンド99によって把持されて持ち上げられ、潤滑剤塗布ケース50の上面ワーク収容口51内に挿入される。そして、潤滑剤塗布ケース50内でワーク90は、ロボットハンド99と共に中心軸回りに一定速度で回転駆動され、この状態で潤滑剤吹付ノズル53,54から噴出された霧状の水性潤滑剤が、ワーク90の外面と内面の両方に塗布される。そして、乾燥用エアー噴出ノズル55からのエアーによってワーク90の表面の水性潤滑剤が乾かされて、潤滑剤被膜がワーク90表面に形成される。そして、第2搬送ロボットR2がワーク90を潤滑剤塗布ケース50から離脱させて、外部における所定箇所にワーク90を載置する。そして、ワーク90は、冷間鍛造工程に送給されてしごき成形され、最終形状のアウターレースが完成する。
【0047】
このように本実施形態のワーク加熱装置10によれば、温水でワーク90を加熱するので、温風で加熱していた従来のものに比べて効率よくワーク90に熱が伝わり迅速に加熱することができる。また、温水にワーク90を沈めるのではなく、温水がワーク90に向けて噴出され、ワーク90の表面を温水が流れるので、ワーク90に熱を奪われた温水がワーク90の回りに滞留することがない。しかも、ワーク90の内面にも温水が掛けられるので、これらの点においてもワーク90を迅速に加熱することができる。また、乾燥させる際も、エアー吹付部35に備えた上側エアー噴出ノズル36と下側エアー噴出ノズル37とにより、温風をワーク90の内外に吹き付けるので、ワーク90を迅速に乾燥させることができる。さらには、エアー吹付部35による1つの乾燥工程の前に温水噴出部30による加熱工程を複数設けたので、ワーク90の乾燥時間より加熱時間を長くなり、ワーク90を十分に加熱することができる。その上、ワーク90を加熱するために使用した温水を回収しかつ温水供給装置40で加熱してワーク加熱用に再利用するので、温水に残された熱の有効利用が図られ、環境性能にも優れる。また、上述のごとく、ワーク加熱装置10によりワーク90を迅速に加熱するので、潤滑剤塗布装置11の待ち時間を減らし又はなくすことができ、潤滑剤塗布装置11の稼働率を高めることが可能になる。しかも、ワーク90を回転駆動した状態でそのワーク90の中心軸と交差する方向から水性潤滑剤を吹き付けるので、ワーク90に均一に水性潤滑剤が塗布される。これにより、水性潤滑剤が乾燥してなる潤滑剤層の厚さの均一化が図られ、鍛造品質の向上にも繋がる。
【0048】
[他の実施形態]
本発明は、前記実施形態に限定されるものではなく、例えば、以下に説明するような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれ、さらに、下記以外にも要旨を逸脱しない範囲内で種々変更して実施することができる。
【0049】
(1)前記実施形態のワーク加熱装置10及び潤滑剤塗布システム70は、等速ジョイントのアウターレースを加熱及び潤滑剤塗布の対象のワークとしていたが、ワークは冷間鍛造品であれば、アウターレースに限定されるものではない。
【0050】
(2)前記実施形態のワーク加熱装置10は、ワーク90に向かって上下両方向から温水及び熱風を噴出する構成であったが、ワークに対して上方のみから又は、下方のみから温水及び熱風を噴出する構成にしてもよい。また、ワークに向かって側方から又は、斜め側方から温水及び熱風を噴出する構成としてもよい。
【符号の説明】
【0051】
10 ワーク加熱装置
11 潤滑剤塗布装置
20 ワーク搬送装置
21 ベルトコンベア
24 ミスト飛散防止ケース
25 中間区画壁
30 温水噴出部
31 上側温水噴出ノズル
32 下側温水噴出ノズル
35 エアー吹付部
36 上側エアー噴出ノズル
37 下側エアー噴出ノズル
40 温水供給装置
50 潤滑剤塗布ケース
51 上面ワーク収容口
52 潤滑剤吹付部
70 潤滑剤塗布システム
90 ワーク
91 筒部
92 底壁
93 円柱部
94 斜面
R1 第1搬送ロボット
R2 第2搬送ロボット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷間鍛造用の水性潤滑剤がワークに塗布される前に、前記ワークを加熱するワーク加熱装置であって、
前記ワークに向けて温水を噴出して加熱する温水噴出部と、
前記温水噴出部にて加熱された前記ワークにエアーを吹き付けて乾燥させるエアー吹付部とを備えたことを特徴とするワーク加熱装置。
【請求項2】
隙間を空けて横並びに配置された1対のベルトコンベアを有し、前記隙間を跨いだ状態で前記1対のベルトコンベア上に前記ワークを載置して搬送可能なワーク搬送装置を設け、
前記ワーク搬送装置によるワーク搬送方向の上流側に前記温水噴出部を配置する一方、下流側に前記エアー吹付部を配置し、
前記温水噴出部は、前記1対のベルトコンベアの間に配置されて前記ワークに対して下方から温水を噴出する下側温水噴出ノズルと、前記下側温水噴出ノズルに対して前記ワークを挟んで上下方向で対向する位置に配置されて、前記ワークに対して上方から温水を噴出する上側温水噴出ノズルとからなり、
前記エアー吹付部は、前記1対のベルトコンベアの間に配置されて前記ワークに対して下方からエアーを吹き付ける下側エアー噴出ノズルと、前記下側エアー噴出ノズルに対して前記ワークを挟んで上下方向で対向する位置に配置されて、前記ワークに対して上方からエアーを吹き付ける上側エアー噴出ノズルとからなることを特徴とする請求項1に記載のワーク加熱装置。
【請求項3】
前記ワーク搬送装置は、前記ワークを一定1ピッチ毎、間欠的に搬送するように構成され、複数の前記温水噴出部と1つの前記エアー吹付部とが、前記ワーク搬送方向に前記一定ピッチの間隔で配置されたことを特徴とする請求項2に記載のワーク加熱装置。
【請求項4】
前記1対のベルトコンベアの下方に配置されて、前記温水噴出部から噴出された前記温水を回収する温水回収容器と、前記温水回収容器にて回収した温水を加熱して前記温水噴出部に供給する温水加熱器とを備えたことを特徴とする請求項2又は3に記載のワーク加熱装置。
【請求項5】
前記温水噴出部及び前記エアー吹付部とそれらから温水又はエアーを受けた状態の前記ワークとを覆うミスト飛散防止ケースを設けると共に、前記ミスト飛散防止ケース内を、前記温水噴出部を収容した加熱領域と前記エアー吹付部を収容した乾燥領域とに区画する中間区画壁を設け、
前記ミスト飛散防止ケースのうち前記ワーク搬送方向の両端部壁と前記中間区画壁とには、前記上側温水噴出ノズル及び前記上側エアー噴出ノズルより低い位置に、前記ワークの通過を許容するワーク通過口が貫通形成され、
前記1対のベルトコンベアの両端部は、それぞれ一定ピッチ以上、前記ミスト飛散防止ケースの外側まで延ばされたことを特徴とする請求項2乃至4の何れか1の請求項に記載のワーク加熱装置。
【請求項6】
前記ワークは、等速ジョイントのアウターレースであって、一端有底の筒部の底壁の外面中心部から円柱部を突出させた構造をなすと共に、前記底壁の外面外縁部には面取り斜面が形成され、
前記ワーク搬送装置は、前記ワークの前記筒部の開口縁における2箇所を前記1対のベルトコンベア上に載置した状態で搬送可能に構成され、
前記下側温水噴出ノズルは、前記ワークの前記筒部の内部に向けて温水を噴出する一方、前記上側温水噴出ノズルは、前記ワークの前記面取り斜面における少なくとも2箇所と前記円柱部の端面とに向けて上方から温水を注ぐように噴出することを特徴とする請求項2乃至5の何れか1の請求項に記載のワーク加熱装置。
【請求項7】
請求項1乃至6に記載のワーク加熱装置と、前記ワーク加熱装置で加熱しかつ乾燥させた前記ワークに冷間鍛造用の水性潤滑剤を塗布する潤滑剤塗布装置とからなる潤滑剤塗布システムであって、
前記潤滑剤塗布装置は、
前記ワークを収容可能な潤滑剤塗布ケースと、
前記潤滑剤塗布ケースの上面に形成された上面ワーク収容口と、
前記ワーク加熱装置で加熱しかつ乾燥させた前記ワークを把持して前記上面ワーク収容口から前記潤滑剤塗布ケース内に収容して保持するワーク搬送ロボットと、
前記潤滑剤塗布ケース内で前記水性潤滑剤を霧状にして前記ワークに吹き付けて塗布する潤滑剤吹付部とを備えてなることを特徴とする潤滑剤塗布システム。
【請求項8】
前記ワーク搬送ロボットは、把持した前記ワークをその中心軸回りに回転駆動するワーク回転駆動部を有し、
前記潤滑剤吹付部は、前記ワーク回転駆動部によって回転駆動されている前記ワークに対し、そのワークの中心軸と交差する方向から水性潤滑剤を吹き付けるように配置されたことを特徴とする請求項7に記載の潤滑剤塗布システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−125866(P2011−125866A)
【公開日】平成23年6月30日(2011.6.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−283700(P2009−283700)
【出願日】平成21年12月15日(2009.12.15)
【出願人】(000110343)トリニティ工業株式会社 (147)
【Fターム(参考)】