説明

ワーク測定面の角度良否検査装置

【課題】1個のワークの内径部や外径部に測定面が複数あり、各測定面について端面に対する角度の良否検査が要求されたときに、その検査を所要時間を短縮して効率的に行えるようにすることを課題としている。
【解決手段】ワークWを、端面fを受けて水平な基準面3a上に位置決めしてセットする治具2と、変位測定用ゲージ6を昇降機構7で垂直方向に移動させ、測定面Aに接触させたゲージの接触子6aのこのときの径方向振れ量を電気信号に変換して出力する測定機8と、この測定機から検出信号を受けて測定面Aの端面fに対する直角度などの良否判定を行うパーソナルコンピュータとを組み合わせ、前記ゲージ6を複数設けて各ゲージによる複数の測定面の良否検査を同時に行うようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、1個のワークがそのワークの端面に対して規定の角度をもつように設計された測定面を複数有し、それらの測定面の角度良否の検査を、所要時間を短縮して効率的に行えるようにしたワーク測定面の角度良否検査装置に関する。なお、角度良否の検査とは、測定面の端面に対する直角度やテーパ角などが規定通りに確保されているか否かを調べる検査である。
【背景技術】
【0002】
焼結部品は、溶製材を機械加工して作られる部品に比べて量産性に優れ、コスト低減も図り易いが、焼結時の収縮、変形が部品の各所で一様にならないため、端面に対して規定の角度を確保すべき面が複数個所ある場合には、その面の全てについて角度の良否を検査しなければならず、その手間が多くなるのが難点である。
【0003】
粉末冶金法で製造される焼結部品の一例を図7に示す。例示の焼結部品20は円筒状をなし、内径部に軸方向に延びる溝21を計4条有している。各溝21は、部品20の端面22に対して直角になるように設計されるが、焼結時の収縮、変形によって少なくとも一部の溝については端面22に対する直角度(溝底面の直角度)が要求通りとならない事態が起こり得る。焼結部品の場合、各溝21の成形条件や焼結条件が一定になる保証がなく、どの溝の直角度が不良となるかは予測できない。従って、焼結後の直角度の検査は全品かつ全ての溝について行う必要がある。
【0004】
その検査を、従来は、直角測定機を用いて行っていた。この直角測定機は、ワーク(検査対象品)を、その端面を下にして治具の水平な基準面上にセットし、変位測定用ゲージの接触子をワークの測定面(図7の部品は溝21の底)に接触させ、この状態でゲージを治具上のガイドで案内して基準面に対して直角な方向(垂直方向)に移動させ、このときの接触子の振れ量(径方向変位量)を測定してその振れ量が許容範囲内に納まっているか否かで良、不良を判定するものであり、ひとつのワークに対して測定面が複数箇所ある場合には、測定面を1箇所ずつ順番に測定していく方法が採られていた。
【0005】
なお、下記特許文献1には、ワークに形成された孔にボールを挿入して移動させ、そのボールの周囲にエアーを流してこのエアーによる求心効果でボールを孔中心に位置決めし、ボールに取り付けられた光ファイバから照射される光量のピークポイントの変位から孔の真直度を測定する非接触式の測定機が開示されている。
また、下記特許文献2には、測定穴にガイドバーを挿入し、端面にミラーを形成した測定駒を測定穴の内壁に押圧し、この測定駒をガイドバーの凹溝で案内して穴軸方向に移動させ、前記ミラーの動きをこのミラーに対向させたオートコリメータで観測して測定穴の真直度を測定する測定具が開示されている。
【特許文献1】特開2004−61111号公報
【特許文献2】実開平5−66511号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
直角測定機を用いてひとつのワークに複数ある測定面を1箇所ずつ検査する従来の方法は、検査効率が悪く、検査に多くの時間がかかる。
【0007】
ワークが上述した焼結部品である場合、全品の全箇所検査が要求されるので、量産品のワークについては、多大の時間と労力を費やすことになり、生産性やコストに悪影響が出る。
【0008】
なお、特許文献1の測定装置や特許文献2の測定具は、ワークに設けられた穴の直角度は測定できるが、例えば、内径穴の穴面の周方向途中に掘り下げて設けられた溝などの直角度の測定には利用し難い。これらのうち、特許文献2の測定具は、測定駒を溝底に押圧する構造にして溝の直角度測定を行うことが可能であるが、これも一箇所ずつの測定となるので、検査時間が長くなる不具合は解消されない。
【0009】
この発明は、1個のワークの内径部や外径部に測定面が複数あり、各測定面について端面に対する角度の良否検査が要求されたときに、その検査を所要時間を短縮して効率的に行えるようにすることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、この発明においては、
端面に対して規定の角度をもつように設計される少なくとも2ヶの測定面を内径部や外径部に有するワークを、前記端面を受けて水平な基準面上に位置決めしてセッティングする治具と、
接触子を有する変位測定用ゲージを昇降機構で垂直方向に移動させ、前記測定面に接触させた前記接触子のこのときの径方向振れ量を電気信号に変換して出力する測定機と、
この測定機から検出信号を受けて前記測定面の端面に対する角度の良否判定を行うパーソナルコンピュータとを組み合わせた。また、前記ゲージを複数備えさせてワーク測定面の角度良否検査装置を構成し、複数のゲージによる複数の測定面の良否検査を同時に行うようにした。
【0011】
この検査装置は、下記(1)、(2)の形態のものが特に好ましい。
(1)前記ゲージを、各ゲージの接触子をワークの各測定面の位置に対応させて測定面と同数設けたもの。
(2)治具の前記基準面上に3個以上のボール又はころを定置させて設け、この3個以上のボール又はころでワークの端面を多点支持するようにしたもの。
【0012】
この検査装置は、ワークの内径部や外径部に段落ちして設けられた測定面のワーク端面に対する直角度の良否検査だけでなくワークの内径部又は外径部に設けられた溝のテーパ勾配の付いた溝底のワークの端面に対する傾き角(テーパ角)の良否検査などにも利用することができる。
【0013】
ワーク端面に対する測定面の直角度の検査とテーパ勾配の付いた溝底の傾き角の検査は、同一検査装置を使用して行うことができる。マスターワークを使用して予めゲージのゼロ点補正を行い、更に、パーソナルコンピュータの良否判定回路に判定の基準となすデータをインプットしておけば、スイッチやキーなどの操作により検査機能を切り替えて所望の検査を行うことができる。
【発明の効果】
【0014】
この発明の検査装置は、変位測定用のゲージを複数設けてその複数のゲージで複数の測定面の位置を同時に測定し、測定した面の角度良否をパーソナルコンピュータを使って判定するので、検査回数が減少し、測定箇所を順番に変えていく手間も省かれてワーク1個当たりの検査時間が短縮される。
【0015】
なお、ゲージをワークの測定面と同数設けたものは全数の測定面の検査を同時に行うことができ、検査の手間と時間が大幅に減少する。
【0016】
治具の基準面上に3個以上のボール又はころを定置させて設け、この3個以上のボール又はころでワークの端面を多点支持するようにしたものは、ワークの端面の平坦度がよくないときにもワークを安定して支持して検査の精度を向上させることができる。
【0017】
このほか、パーソナルコンピュータを使用して良否判定を行うので判定の条件設定にも自由度が生じ、測定面の直角度の検査だけでなく、機能を切り替えてテーパ勾配の付いた溝底の傾き角の検査なども同一検査装置を使用して行うことが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、添付図面の図1〜図6に基づいてこの発明の実施の形態を説明する。図1〜図4に示す角度良否検査装置1は、治具2と、ゲージ6と昇降機構7を備える測定機8と、パーソナルコンピュータ(以下、PCと記載)9を組み合わせている。
【0019】
治具2は、定盤3、位置決め具4、ワーク押え5の3要素で構成しており、定盤3の水平な上面を基準面3aにしてその基準面3a上にワークWを端面fが支持される状態にしてセットする。位置決め具4は基準面3a上に設けており、その位置決め具4でワークWを位置決めし、位置と向きが定まったワークをワーク押え5で押えつけて固定する。位置決め具4はワークを拘束するピンなどでよい。ワーク押え5は、弾性部材5a(図のそれはスプリング)の弾性復元力でワークWに押し付けるようにしている。例示のワーク押え5は、後述する昇降機構7のアームにガイド部材5bを垂下して設けてそのガイド部材5bでガイドしており、ゲージ6と共に降下してワークを押圧するが、昇降機構7から独立したものであっても差し支えない。また、ワーク押えは、ワークWを基準面3a上に確実にセットすることが目的であるため、一旦ワークを押圧してセットしてしまえば、セット後に実施する測定時は押圧しなくてもよい。
【0020】
ゲージ6は、ワークWに設けられた測定面Aと同数(図は4個)設けている。各ゲージ6は、付勢手段(図示せず)の力で測定面Aに押し当てる接触子6aを有しており、その接触子6aのワーク半径方向変位量を電気信号(デジタル信号)に変換して出力する。
【0021】
昇降機構7は、定盤3上に立設した支柱7aと、その支柱7aに支持される移動ガイド7bと、その移動ガイド7bに駆動される可動体7cを組み合わせたものになっている。移動ガイド7bはここではリニアモータガイドを採用したが、モータ駆動のボールねじなどであってもよい。可動体7cには、水平方向に張り出すアーム7dを設けており、このアーム7dにホルダ7eを垂下して設け、そのホルダ7eに4個のゲージ6を取り付けている。その4個のゲージ6は、4箇所の測定面Aの各々に個別に対応させて設けており、各測定面Aに各1個の接触子6aが押し当てられ、この状態で可動体7cを昇降させて4箇所の測定面の位置の測定が同時になされる。
【0022】
各ゲージ6は、マスターワーク(図示せず)を用いてゼロ点補正がなされる。そのゼロ点補正はマスターワークの測定面に接触子6aを接触させたときに得られる電気信号をゼロ点とし、接触子がゼロ点からワーク径方向に振れたときに検出信号が振れ量相当分増減するように行われる。
【0023】
各ゲージ6による検出信号は、アンプ10を介してPC9に入力される。PC9は、内蔵した判定回路(図示せず)のテーブルに予め基準値を記憶させており、その基準値と検出信号を比較して測定面の直角度などの良否判定を行う。
【0024】
その良否判定は、ゼロ点からの検出信号の増減量から接触子6aの振れ量(即ち、測定面の径方向変位量)を求め、その振れ量が許容範囲内(上限基準値と下限基準値の間)にあれば良と判定する方法で行える。また、接触子6aがワーク径方向の内、外のどちら側に振れたかも知ることができるので、例えば、径方向外側への振れは許容されるが径方向内側への振れは許されないワークの場合、径方向内側への振れを確認した段階で不良品の判定を下してその時点で検査を終了するといった設定にして無駄な検査が続行されないようにすることも可能である。
【0025】
図1の検査装置1は、精密な温度管理がなされる検査室を設けてその検査室内で検査を行うと、環境温度の変化による検査精度の悪化が起こらなくて好ましい。
【0026】
また、基準面3a上の少なくとも3箇所に図5に示すボール11又は図6に示すころ12を設け、その3個或いはそれ以上のボール11又はころ12でワークWを多点支持(図のそれは3点支持)するものにしておくと、ワークWの端面fの平坦度が反りなどによって十分に確保されていないときにも、ワークの安定した支持がなされて検査の精度が向上する。
【0027】
以上のように構成した検査装置1は、ワークWの例えば内径部(外径部でもよい)に設けられた測定面Aの直角度を検査する場合には、端面に対して測定面を直角に仕上げたマスターワーク(図示せず)を使用して各ゲージ6のゼロ点補正を予め行っておく。その後、治具2上に検査対象のワークWをセットする。そのセットは、各ゲージ6を昇降機構7と共に上方に退避させておいて行う。
【0028】
ワークWをセットし終えたら、昇降機構7を駆動して各ゲージ6を所定位置まで下降させ、位置の対応したゲージ6の接触子6aをワークの各測定面Aの最下部や最上部に接触させる。その後、各ゲージ6をホルダ7eと共に上昇或いは下降させて各測定面の位置の測定を同時に行う。このときのワーク押え5によるワークWの押えつけは、測定面Aの最下部から測定がなされる場合には測定面Aの最上部に接触子6aが到達するまで継続してなされ、一方、測定面Aの最上部から測定がなされる場合には、接触子6aが測定面Aの最上部に到達する前にワークWの押えつけがなされる。
【0029】
各ゲージから出力される検出信号はPC9に入力され、この信号がPC9内の判定回路において基準値と比較される。PC9内の判定回路は、比較した信号が判定基準の上限値を上回ったとき又は下限値を下回ったときに不良判定を下す。それ以外の場合(検出信号が判定基準の上限値と下限値内に収まっているとき)には良の判定を下すが、判定の条件は任意に設定できる。測定面の振れの方向がプラス方向かマイナス方向か(径方向の内側か外側か)を判断し、許容誤差が例えばプラス方向しか認められないワークについては、マイナス方向への振れを確認した段階で不良の判定を下すといったことも可能である。
【0030】
この検査装置1は、図8に示すようなワークW1の検査にも利用できる。図8のワークW1は、テーパ穴Thを有し、そのテーパ穴の周方向途中に段落ちした溝sが複数設けられ、その溝のテーパ勾配のついた溝底を測定面Aにしてその測定面の端面fに対する傾き角度(テーパ角)の良否を検査するのにも利用できる。この場合も、マスターワーク(図示せず)を用いてゲージ6のゼロ点補正を予め行い、上記と同様の手順で複数個所の測定面の良否検査を同時に行う。
【0031】
異なる検査を同一検査装置を用いて行う場合には、それぞれの検査において判定の基準になるデータをPC9の判定回路のテーブルに予め記憶させておき、スイッチやキーの操作で機能を切り替えて必要な検査を行えばよい。
【0032】
なお、1個のワークに測定面がn(n=2を除く偶数)箇所設けられ、各測定面がピッチPで割り出された位置にある場合には、例えば、nの半数のゲージを2Pの間隔で配置した検査装置を使用して全測定面の検査を2回に分けて行うことも可能である。この方法は、同時全数検査に比べると検査効率がよくないが、測定面と同数のゲージの設置が測定面の数が多すぎるなどの理由によって制限されるといったときに有効である。
【0033】
この発明の検査装置を試作し、その装置を使用した検査と各測定面を1箇所ずつ順番に測定する従来法での検査の所要時間を比較した。その結果、従来法では、4箇所に測定面を有するワークの場合、1個当たりの検査に約30秒の時間を費やしたが、4箇所の測定検査を同時に行うこの発明の装置ではその時間が約10秒に短縮された。
【0034】
既に述べたように、複数の測定面を有する焼結部品は全品の全箇所検査が要求されるので、この発明の装置は焼結部品の検査に利用するのに特に適しているが、焼結部品以外のワークの検査にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明の検査装置の一例を示す斜視図
【図2】図1の検査装置の要部の正面図
【図3】図1の検査装置の位置決め具を示す平面図
【図4】図1の検査装置でワークの測定面の検査を行っている状態の断面図
【図5】ワークをボールで多点支持する装置の要部を示す(a)平面図、(b)正面図
【図6】図5のボールをころに置き換えた例を示す斜視図
【図7】複数測定面の検査を行うワークの一例を示す斜視図
【図8】複数測定面の検査を行うワークの他の例を示す断面図
【符号の説明】
【0036】
1 角度良否検査装置
2 治具
3 定盤
3a 基準面
4 位置決め具
5 ワーク押え
5a 弾性部材
5b ガイド部材
6 ゲージ
6a 接触子
7 昇降機構
7a 支柱
7b 移動ガイド
7c 可動体
7d アーム
7e ホルダ
8 測定機
9 PC(パーソナルコンピュータ)
10 アンプ
11 ボール
12 ころ
20 焼結部品
21 溝
22 端面
W、W1 ワーク
A 測定面
f 端面
Th テーパ穴
s 溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
端面(f)に対して規定の角度をもつように設計される少なくとも2ヶの測定面(A)を内径部又は外径部に有するワーク(W)を、前記端面(f)を受けて水平な基準面(3a)上に位置決めしてセットする治具(2)と、
接触子(6a)を有する変位測定用ゲージ(6)を昇降機構(7)で垂直方向に移動させ、前記測定面(A)に接触させた前記接触子(6a)のこのときの径方向振れ量を電気信号に変換して出力する測定機(8)と、
この測定機(8)から検出信号を受けて前記測定面(A)の前記端面(f)に対する角度の良否判定を行うパーソナルコンピュータ(9)とを有し、
前記ゲージ(6)を複数備え、各ゲージによる複数の測定面(A)の良否検査を同時に行うようにしたワーク測定面の角度良否検査装置。
【請求項2】
前記ゲージ(6)を、各ゲージの接触子(6a)をワーク(W)の各測定面(A)の位置に対応させて測定面(A)と同数設けた請求項1に記載のワーク測定面の角度良否検査装置。
【請求項3】
治具の基準面(3a)上に3個以上のボール(11)又はころ(12)を定置させて設け、この3個以上のボール又はころでワーク(W)を多点支持するようにした請求項1又は2に記載のワーク測定面の角度良否検査装置。
【請求項4】
ワーク(W)の内径部又は外径部に段落ちして設けられた測定面(A)の、ワークの端面(f)に対する直角度の良否を検査するように構成された請求項1〜3のいずれかに記載のワーク測定面の角度良否検査装置。
【請求項5】
ワーク(W)の内径部又は外径部に設けられた溝のテーパ勾配のついた溝底を測定面(A)にしてその測定面のワークの端面(f)に対する傾き角の良否を検査するように構成された請求項1〜3のいずれかに記載のワーク測定面の角度良否検査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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