説明

三次元繊維構造体

【課題】 力学特性に優れ、その力学特性の推定が容易な有底円筒形状の構造を有する繊維強化複合材の骨格材として適した三次元繊維構造体を提供する。
【解決手段】 有底円筒状に形成された三次元繊維構造体Wは、筒部2及び底部1が、所定方向に配列された繊維束Fからなる複数の糸層を積層して形成された疑似等方性の配向となる積層糸群3を有し、積層糸群3は各糸層と直交する方向に配列された厚さ方向糸によって結合されている。底部1は±30°及び90°の3方向に配列された繊維束Fで疑似等方性に構成され、筒部2は0°、±45°及び90°の4方向に配列された繊維束で疑似等方性に構成されている。底部1に配列された繊維束Fは筒部2に配列された繊維束Fと連続している。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は三次元繊維構造体に係り、詳しくは有底円筒状構造を有する三次元繊維構造体に関するものである。
【0002】
【従来の技術】繊維強化複合材は軽量の構造材料として広く使用されている。複合材用補強基材として三次元織物(三次元繊維構造体)がある。この三次元織物を骨格材として、樹脂あるいは無機物をマトリックスとした複合材はロケット、航空機、自動車、船舶及び建築物の構造材として幅広い用途が期待されている。
【0003】三次元繊維構造体の製造方法として、多数のピン又は糸案内管が配列されたベースプレートあるいは支持枠上に、糸(繊維束)をピン又は糸案内管で折り返しながら配列して形成した糸層を複数積層して積層糸群を形成し、厚さ方向に配列される糸により各糸層を結合する方法がある。しかし、板材以外の立体的な構造物の骨格材となる大型で複雑な形状の三次元繊維構造体を製造するのは難しく手間がかかるため、三次元繊維構造体としては単純な形状のものしかない。
【0004】特開昭61−201063号公報には、ベースプレートの形状を変えることにより、円筒状の三次元繊維構造体や図12に示すような、円錐台筒状、ドーム状の三次元繊維構造体Wが得られることが開示されている。しかし、形状が有底円筒状の三次元繊維構造体Wは従来なかった。
【0005】有底円筒状の繊維強化複合材の骨格材の製造方法として、図11(a)〜(d)に示すように、糸51が互いに直交する状態で織成された平織物又は繻子織物からなるクロス材(布)52を、円筒状の治具53の端部を基準にして順次積層した後、適宜の箇所を手作業によって糸で縫い合わせる方法がある。図11(c),(d)はクロス材52を治具53の上に配置するときの、クロス材52を構成する糸51の配列方向を示す模式図である。糸51の配列方向は図11(c)に示す0°(図11(c)における左右方向)、90°(図11(c)における上下方向)、図11(d)に示す±45°の配列方向がある。そして、図11(c)及び図11(d)に示す状態が交互になるようにして所定枚数のクロス材52が積層される。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】前記クロス材52を積層して形成された有底円筒状の骨格材は、底部の糸の配列は0°、90°、±45に正確に設定できる。しかし、図11(b)に示すように、底部における配列が0°及び90°のクロス材52を治具53の円筒部54に皺が無い状態に沿わせると、円筒部における糸51の配列は0°及び90°の他に不確定な角度で配列される部分が混在する状態となる。その結果、複合材とした場合に、強度、弾性率等の力学的特性の推定が困難であるという問題がある。また、治具53の円筒部54にクロス材52を皺がないように沿わせることも難しい。さらに、クロス材52では配列方向が異なる糸51が同一平面上に存在するため、糸51は配列方向の異なる糸と対応する部分で屈曲した状態で配列される。従って、真っ直ぐに配列された糸に比較して、複合材の強度を高める効果が小さいという問題がある。
【0007】本発明は前記の問題点に鑑みてなされたものであって、その目的は力学特性に優れ、その力学特性の推定が容易となる有底円筒形状の構造を有する繊維強化複合材の骨格材として適した三次元繊維構造体を提供することにある。
【0008】
【課題を解決するための手段】前記の目的を達成するため、請求項1に記載の発明では、円筒状の筒部とその一端を塞ぐ底部とを備えた三次元繊維構造体であって、前記筒部及び底部が、所定方向に配列された繊維束からなる複数の糸層を積層して形成された疑似等方性の配向となる積層糸群と、各糸層と直交する方向に配列されて前記積層糸群を結合する厚さ方向糸とを含み、かつ底部に配列された繊維束は筒部に配列された繊維束と連続している。
【0009】請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、前記筒部は軸方向に対して0°、+45°、−45°及び90°の4方向に配列された繊維束で疑似等方性に構成され、前記底部は+30°、−30°及び90°の3方向に配列された繊維束で疑似等方性に構成されている。
【0010】請求項3に記載の発明では、請求項1又は請求項2に記載の2個の有底筒状の三次元繊維構造体が、その底部が互いに当接する状態に配置され、その筒部の周囲に疑似等方性に構成された筒状の積層糸群が配置され、各筒部を貫通する厚さ方向糸で各筒部を構成する積層糸群が結合されている。
【0011】従って、請求項1に記載の発明の三次元繊維構造体は、筒部及び底部がそれぞれ疑似等方性の配向となる積層糸群を厚さ方向糸で結合した構成のため、クロス材を積層して糸で縫ったものに比較して、複合材としたときの強度に優れ、力学特性の推定が容易となる。また、底部に配列された繊維束は筒部に配列された繊維束と連続しているため、三次元繊維構造体自身の形態安定性が向上し、取り扱いが容易となる。
【0012】請求項2に記載の発明では、請求項1に記載の発明において、底部は+30°、−30°及び90°の3方向に配列された繊維束で構成されているため、同じ強度で疑似等方性とするのに必要な繊維束の量が、0°、+45°、−45°及び90°の4方向に配列された繊維束で疑似等方性とする場合に比較して少なくなる。
【0013】請求項3に記載の発明では、円筒の中間部に軸方向と直交する区画壁が形成された構造の三次元繊維構造体を、請求項1又は請求項2に記載の2個の有底筒状の三次元繊維構造体に基づいて簡単に得ることができる。
【0014】
【発明の実施の形態】(第1の実施の形態)以下、本発明を具体化した第1の実施の形態を図1〜図8に従って説明する。図1(a)は有底円筒状の三次元繊維構造体Wの底部1を上にした模式斜視図である。図1(b)はその底部1及び筒部2を構成する繊維束Fの配列を示す模式図である。
【0015】三次元繊維構造体Wの底部1及び筒部2はそれぞれ所定方向に配列された繊維束Fからなる複数の糸層3a〜3gを積層して形成された疑似等方性の配向となる積層糸群3を有する。各糸層3a〜3c及び各糸層3d〜3gはそれぞれ糸層と直交して積層糸群3の厚さ方向に配列される厚さ方向糸z(図2(a),(b)に図示)により結合されている。厚さ方向糸zは三次元繊維構造体Wの外側から各糸層3a〜3c及び各糸層3d〜3gを貫いて折り返し状に配列されるとともに、折り返しループ4に厚さ方向糸zと直交する方向に配列された抜け止め糸5により抜け止めされた状態で配列されている。
【0016】図1(b)、図3(b)、図4(a)及び図4(b)に示すように、底部1を構成する積層糸群3は、繊維束Fの配向角が90°に配列された糸層3aと、配向角が+30°に配列された糸層3bと、配向角が−30°に配列された糸層3cとが所定数積層されて疑似等方性に構成されている。この実施の形態では図2(a)に示すように、各糸層3a〜3cがそれぞれ2層ずつ、合計6層で積層糸群3が構成されている。また、各糸層3a〜3cは厚さ方向の中央(中立面)を境に鏡面対称となるように配列されている。この実施の形態では外側に配向角が+30°に配列された繊維束Fの糸層3bが配置され、中央側に配向角が−30°に配列された繊維束Fの糸層3cが配置されている。そして、両糸層3b,3cの間に配向角が90°に配列された繊維束Fの糸層3aがそれぞれ配置されている。
【0017】筒部2を構成する積層糸群3は、繊維束Fの配向角が0°に配列された糸層3dと、繊維束Fの配向角が90°に配列された糸層3eと、配向角が+45°に配列された糸層3fと、配向角が−45°に配列された糸層3gとが所定数積層されて疑似等方性に構成されている。この実施の形態では図2(b)に示すように、各糸層3d〜3gがそれぞれ2層ずつ、合計8層で積層糸群3が構成されている。また、各糸層3d〜3gは厚さ方向の中央を境に鏡面対称となるように配列されている。この実施の形態では外側に配向角が+45°に配列された繊維束Fの糸層3fが配置され、中央側に配向角が−45°に配列された繊維束Fの糸層3gが配置されている。そして、両糸層3f,3gの間に、配向角が90°に配列された繊維束Fの糸層3eと、配向角が0°に配列された繊維束Fの糸層3dとがそれぞれ配置されている。
【0018】図3(a)に示すように、筒部2を構成する配向角が0°に配列された繊維束Fは、1本の繊維束Fが周方向に順次配列位置をずらした状態で配列することにより形成されている。従って、厳密にいえば配向角は0°ではないが、実質的に0°である。
【0019】図3(b)に示すように、筒部2を構成する配向角θが90°に配列された繊維束Fと、底部1を構成する配向角θが90°に配列された繊維束Fとは、1本の同じ繊維束Fで構成されている。繊維束Fは一部が筒部2の両端で折り返し、一部が筒部2と底部1とに跨って位置するように配列されている。
【0020】図4(a)に示すように、筒部2を構成する配向角θが+45°に配列された繊維束Fと、底部1を構成する配向角θが+30°に配列された繊維束Fとは、1本の同じ繊維束Fで構成されている。繊維束Fは一部が筒部2の両端で折り返し、一部が筒部2と底部1とに跨る状態で、かつその配向角θが所定の角度となるように配列されている。
【0021】図4(b)に示すように、筒部2を構成する配向角θが−45°に配列された繊維束Fと、底部1を構成する配向角θが−30°に配列された繊維束Fとは、1本の同じ繊維束Fで構成されている。繊維束Fは一部が筒部2の両端で折り返し、一部が筒部2と底部1とに跨る状態で、かつその配向角θが所定の角度となるように配列されている。従って、この実施の形態の三次元繊維構造体Wは、底部1に配列された繊維束Fは筒部2に配列された繊維束Fと必ず連続した状態で配列されている。
【0022】なお、図3(a),(b)及び図4(a),(b)では繊維束Fの配列を分かり易くするため、繊維束Fの間隔を広く表してしているが、実際は配列後の繊維束Fは互いに接触する程度に近接して配列される。また、筒部2における配向角θとは三次元繊維構造体Wの軸と直交する平面に対する繊維束Fのなす角度を意味する。底部1における配向角θは三次元繊維構造体Wの軸を含む基準面に対する繊維束Fのなす角度を意味し、筒部2における配向角θを基準にして設定されている。
【0023】各繊維束Fを構成する繊維の材質としては複合材の用途(要求物性)に応じてカーボン繊維、ガラス繊維、セラミック繊維、ポリアラミド繊維等種々のものが使用される。この実施の形態においては、各繊維束Fとしてカーボン繊維のロービング(トウ)が使用されている。ロービング(トウ)とは細い単繊維のフィラメントを多数本束ねた実質無撚りの繊維束を意味する。従って、図2(a),(b)では繊維束Fの長さ方向と直交する断面の形状を便宜上円として表しているが、実際は積層糸群3として積層された状態では扁平な楕円となる。
【0024】次に前記のように構成された三次元繊維構造体Wの製造に使用する治具の構成を説明する。この治具は三次元繊維構造体Wの形状に対応した積層糸群3の配列と、配列された積層糸群3への厚さ方向糸zの挿入時における積層糸群3の保持とに使用される。
【0025】図6〜図8に示すように、治具11は互いに平行に配置された一組の円環状のリング部材12,13と、両リング部材12,13間に互いに近接して配設されて円筒部を形成する複数の第1及び第2のプレート14,15とを備えている。両リング部材12,13は同じ外径に形成されるとともに、各プレート14,15がリング部材12,13に対して内側から取り外し可能に係合される段部12a,13a(図7及び図8に図示)を備えている。各プレート14,15の両端には段部12a,13aと係合する段部が形成され、リング部材12,13間に取り付けられた状態でその外面が円筒の周面を形成するように、外面がリング部材12,13の外周面と同じ曲率に形成されている。各第1のプレート14はリング部材12,13に係合されるとともに、ねじ(図示せず)を介してリング部材12,13に固定され、第2のプレート15は段部12a,13aとの嵌合によりリング部材12,13に固定されている。
【0026】両リング部材12,13にはその端部外周部に、規制部材としての多数の規制ピン16が所定ピッチで取り外し可能に固定されている。リング部材12に固定された規制ピン16は、リング部材12の軸方向と直交する平面に対してほぼ45°の角度をなすように固定され、リング部材13に固定された規制ピン16は、同じく軸方向と直交する平面に対して平行に固定されている。また、第1のプレート14にも規制ピン17が所定ピッチで取り外し可能に固定されている。
【0027】次に前記のように構成された治具11を使用して有底円筒状の三次元繊維構造体Wを製造する方法を説明する。規制ピン16,17が固定された治具11の外側に所定の順序で繊維束Fを順次配列して積層糸群3を形成する。先ず、図4(a)に示すように、筒部2での配向角θが+45°、底部1での配向角θが+30°となるように、繊維束Fが規制ピン16と係合して折り返すように配列される。繊維束Fは図のSからスタートしてEで終わるように、即ち、配列初期と終期において、繊維束Fは筒部2に対応する両端位置で折り返し、その他は筒部2と底部1とを交互に通過するようにして、底部1と反対側のリング部材13に固定された規制ピン16と係合して折り返すように配列される。
【0028】次に図3(b)に示すように、筒部2及び底部1での配向角θが90°となるように、繊維束Fが規制ピン16と係合して折り返すように配列される。この場合も繊維束Fは図のSからスタートしてEで終わるように、即ち、配列初期と終期において、繊維束Fは筒部2に対応する両端位置で折り返し、その他は筒部2と底部1とを交互に通過するようにして、底部1と反対側のリング部材13に固定された規制ピン16と係合して折り返す。
【0029】次に図3(a)に示すように、筒部2での配向角θが0°となるように、筒部2の周方向に沿って繊維束Fが配列される。この場合繊維束Fは規制ピン17と係合して折り返すことなく、図のSからスタートしてEで終わるように、プレート14,15によって構成される円筒面に対して一方向へ巻き付けるようにして配列される。プレート14に固定された規制ピン17は、繊維束Fが周方向と直交する方向にずれるのを規制する役割を果たす。
【0030】次に図4(b)に示すように、筒部2での配向角θが−45°、底部1での配向角θが−30°となるように、繊維束Fが規制ピン16と係合して折り返すように配列される。この場合も繊維束Fは図のSからスタートしてEで終わるように、配列初期と終期において繊維束Fは筒部2に対応する両端位置で折り返し、その他は筒部2と底部1とを交互に通過するようにして、底部1と反対側のリング部材13に固定された規制ピン16と係合して折り返す。
【0031】そして、前記と同じ順で再び繊維束Fが順次配列されて、底部1に糸層3a〜3cが合計3n層(この実施の形態ではn=2)、筒部2に糸層3d〜3gが合計4n層(この実施の形態ではn=2)配列された有底円筒状の積層糸群3が形成される。繊維束Fの配列作業は、手作業あるいは多軸ロボットのアームに糸供給部を装備した装置により行われる。なお、積層糸群3の密度を高めるとともに厚さを調整するため、各糸層の配列が完了するたび、あるいは適宜の糸層が形成された時点毎に糸層をプレスプレート(図示せず)で押圧して積層糸群を圧縮してもよい。
【0032】全ての糸層の配列終了後、図7及び図8に示すように、積層糸群3を保持した状態で治具11を回転駆動される支持ブラケット18に取り付けて、厚さ方向糸挿入装置により積層糸群3への厚さ方向糸zの挿入作業を行う。支持ブラケット18は回転軸19に対して一体回転可能に固定されるとともに、支持ブラケット18に支持された治具11の内側に手を差し入れることが可能な形状に形成されている。回転軸19は図示しないモータにより間欠的に回転されるようになっている。
【0033】厚さ方向糸挿入装置は、特開平8−218249号公報等に開示された装置と基本的に同様に構成され、複数本の厚さ方向糸挿入用の挿入針20が一列に配設された針支持体21が駆動機構により往復移動可能に構成されている。挿入針20の本数は底部1の半径の1/2より少し短い長さに数ミリピッチで配列するのに必要な本数が設けられる。図7では模式的に4本図示されている。針支持体21は挿入針20の目に通された厚さ方向糸zが積層糸群3を貫通してループを形成することが可能な挿通位置と、挿入針20が積層糸群3から離間する待機位置とに往復移動される。
【0034】そして、底部1と対応する積層糸群3への厚さ方向糸zの挿入は、先ず図7に示すように、複数本の挿入針20が底部1の外周寄りにおいて半径方向に沿って配列された所定位置で往復移動される。回転軸19の回動が停止した状態で針支持体21が往動されて挿入針20が前進端に達した後、針支持体21がわずかに後退され積層糸群3から挿入針20の目に連なる厚さ方向糸zが抜け止め糸針(図示せず)の通過を許容するループを形成した状態となる。
【0035】次に抜け止め糸針を使用して手作業で抜け止め糸5が前記ループに挿通される。その後、針支持体21とともに挿入針20が後退し、積層糸群3から離脱して待機位置に配置される。この状態で張力調整部(図示せず)の作用により厚さ方向糸zが引き戻され、積層糸群3内に挿入された厚さ方向糸zが抜け止め糸5により抜け止めされた状態で締付けられる。次に回転軸19が所定角度回動され、挿入針20が次の厚さ方向糸挿入位置と対向する状態となる。以下、前記と同様にして順次厚さ方向糸zの挿入サイクルが実行される。そして、回転軸19が1回転した状態で底部1の外周寄りの部分に対する厚さ方向糸zの挿入作業が完了する。
【0036】次に針支持体21の位置が底部1の中心寄りに移動され、その状態で再び、厚さ方向糸zの挿入作業が行われる。厚さ方向糸zの挿入ピッチを外周寄りと中心寄りとでほぼ同じにするため、中心寄りの位置における厚さ方向糸zの挿入作業時には、間欠的に回動される回転軸19の1回毎の回動角は外周寄りの位置における挿入作業時より大きくなる。そして、前記と同様にして厚さ方向糸zの挿入が行われて底部1への厚さ方向糸zの挿入が完了すると、図5に示すように、底部には厚さ方向糸zが同心円状に配列された状態となる。
【0037】次に積層糸群3の筒部2への厚さ方向糸zの挿入が行われる。筒部2への厚さ方向糸zの挿入作業を行う前に、第1のプレート14に固定されている規制ピン17が全部取り外される。そして、図8に示すように、挿入針20が積層糸群3の筒部2と対向する状態となるように配置される。なお、規制ピン17の取り外し作業は、底部1への厚さ方向糸の挿入作業前に行ってもよい。
【0038】そして、厚さ方向糸zの挿入箇所と対応する位置に固定されている第1のプレート14又は第2のプレート15が順次取り外された状態で、底部1への厚さ方向糸zの挿入と同様にして厚さ方向糸zの挿入が行われる。そして、挿入針20が1往復されると、回転軸が所定角度回動されて次の厚さ方向糸挿入位置が挿入針20と対向する状態となる。第1のプレート14又は第2のプレート15が取り外された箇所と対応する位置が挿入針20と対向しない状態になると、取り外されていた第1のプレート14又は第2のプレート15が当該位置に再び固定され、次の第1のプレート14又は第2のプレート15が取り外されて厚さ方向糸zの挿入が行われる。以下、順次厚さ方向糸zの挿入が行われて回転軸19が1回転すると、1周分の挿入作業が完了する。次に挿入針20の位置が図8に示す位置から下方へ移動された後、再び前記と同様にして厚さ方向糸zの挿入が行われる。
【0039】必要な箇所への厚さ方向糸zの挿入が完了すると、三次元繊維構造体Wが完成する。そして、治具11が支持ブラケット18から取り外された後、規制ピン16がリング部材12,13から取り外されるとともに、各プレート14,15がリング部材12,13から取り外されて治具11が分解され、三次元繊維構造体Wの製造が完了する。
【0040】前記のように構成された三次元繊維構造体Wは繊維強化複合材の強化材(骨格材)として使用され、マトリックスとして樹脂や無機物が使用される。例えばマトリックスとして樹脂を使用する場合には三次元繊維構造体Wに樹脂(例えばエポキシ樹脂)が含浸された後、硬化されて繊維強化複合材が完成する。また、例えば、マトリックスが無機物であるカーボン/カーボン複合材を構成する場合は、三次元繊維構造体Wに樹脂を含浸、硬化させた後、焼成して製作する。
【0041】この実施の形態では以下の効果を有する。
(1) 有底円筒状の三次元繊維構造体Wの筒部2及び底部1が、所定方向に配列された繊維束Fからなる複数の糸層3a〜3c、3d〜3gを積層して形成された疑似等方性の配向となる積層糸群3を、各糸層3a〜3c、3d〜3gと直交する方向に配列された厚さ方向糸zにより結合することにより形成されている。従って、クロス材を重ねた場合に比較して糸層の数が同じ場合強度が向上する。また、有底円筒形状の構造を有する力学特性に優れた繊維強化複合材が得られるとともに、その力学特性の推定が容易となる。
【0042】(2) 三次元繊維構造体Wの底部1に配列された繊維束Fは筒部2に配列された繊維束Fと連続している。従って、底部1あるいは筒部2に作用した力が他の部分に円滑に伝達され、応力集中が生じ難い。
【0043】(3) 底部1が+30°、−30°及び90°の3方向に配列された繊維束Fで疑似等方性に構成されているため、底部1を同じ強度で疑似等方性とするのに必要な繊維束Fの量が、0°、+45°、−45°及び90°の4方向に配列された繊維束Fで疑似等方性とする場合に比較して少なくなる。
【0044】(4) 最外層及び最内層を構成する糸層が、繊維束Fが斜め方向に配列された糸層(この実施の形態では糸層3b及び糸層3f)で形成されているため、繊維束Fが0°又は90°で配列された糸層3d又は3a,3eで形成した場合と比較して、最外層及び最内層に配列された繊維束Fの密度が高くなり、表面の平滑性が向上する。
【0045】(5) 厚さ方向糸zが三次元繊維構造体Wの外側から折り返し状に積層糸群3に挿入され、内側で抜け止め糸5により抜け止めされた構成のため、厚さ方向糸zを内側から挿入する構成に比較して、厚さ方向糸挿入装置による挿入が容易になる。
【0046】(6) 底部1を構成する各糸層3a〜3c及び筒部2を構成する各糸層3d〜3gがそれぞれ厚さ方向の中立面に対してほぼ鏡面対称に配置されているため、複合材を形成した際に反りが生じ難くなる。
【0047】(7) 各糸層3a〜3gを構成する繊維束Fとして、少なくとも一つの糸層の繊維束Fの配列に1本の繊維束Fが途中で切断されずに使用されているため、各糸層を構成する繊維束Fを適切な張力を付与した状態で配列するのが容易となり、複合材としたときの物性の向上に寄与する。
【0048】(8) 底部1に対する厚さ方向糸zの挿入は、複数本の挿入針20が半径方向に一列に配列された状態で往復移動され、治具11とともに積層糸群3が間欠的に回動されて厚さ方向糸zを挿入すべき箇所が順次挿入針20と対応する状態となる。従って、挿入針20が往復移動する位置を順次変更する構成に比較して厚さ方向糸挿入装置の構成が簡単になる。
【0049】(9) 円筒状の治具11の筒部の大半が、内側から取り外し可能に構成された複数の第1及び第2のプレート14,15により構成されているため、積層糸群3の筒部2を構成する繊維束Fを正確に円筒状に配列することができ、しかも厚さ方向糸zの挿入に支障を来さない。
【0050】(10) 治具11を構成する第1のプレート14に規制ピン17が所定ピッチで着脱可能に固定されているため、筒部2を構成する配向角θが0°の繊維束Fを配列する際に、繊維束Fが周方向と直交する方向にずれるのが規制され、複合材としたときの物性の向上に寄与する。
【0051】(第2の実施の形態)次に第2の実施の形態を図9及び図10に基づいて説明する。この実施の形態では三次元繊維構造体Wの形状が前記実施の形態の三次元繊維構造体Wと異なっている。三次元繊維構造体Wは円筒の中間部に軸方向と直交する区画壁が形成された構造となっている。また、使用する治具11のリング部材12に固定される規制ピン16は、リング部材12の軸方向と直交する平面に対して平行に固定されている点が前記実施の形態の治具11と異なっている。
【0052】この形状の三次元繊維構造体Wを製造する場合は、先ず前記実施の形態と同様にして有底円筒状の積層糸群3を2個形成する。次に図9に示すように、治具11に保持された状態の積層糸群3の底部1を当接させた状態に配置し、その状態で円筒の底部1と対応する位置に厚さ方向糸zを挿入する。次に規制ピン17を取り外して、筒部2と対応する位置に厚さ方向糸zを挿入する。このとき厚さ方向糸zの挿入密度を前記実施の形態の筒部2の挿入密度のほぼ半分とする。その結果、2個の有底円筒の底部が当接された形状の中間体が形成される。
【0053】次に図10に示すように、両有底円筒の筒部2の外側に新たに円筒状に疑似等方性の積層糸群6を形成する。その後、筒部2に厚さ方向糸zを挿入する。厚さ方向糸zは既に挿入されている厚さ方向糸zと同程度の挿入密度で挿入される。そして、厚さ方向糸zの挿入後、両治具11を分解すると所望の三次元繊維構造体Wが得られる。外側に配列される円筒部の疑似等方性の積層糸群6を構成する繊維束は、配向角θの組合せが+30°、−30°及び90°の3方向あるいは0°、+45°、−45°及び90°の4方向のいずれであってもよい。
【0054】なお、実施の形態は前記に限定されるものでなく、例えば、次のように具体化してもよい。
○ 底部1も筒部2と同様に配向角θが0°、+45°、−45°及び90°の4方向に配列された繊維束Fで疑似等方性に構成してもよい。この構成とするには図4R>4(a)に示す配列パターンにおいて、筒部2を構成する配向角θが+45°に配列された繊維束Fの底部1における配向角θを+30°から+45°に変更し、図4(b)に示す配列パターンにおいて、筒部2を構成する配向角θが−45°に配列された繊維束Fの底部1における配向角θを−30°から−45°に変更する。また、図3(b)に示す配列パターンにおいて、底部1を90°回転させて底部1における配向角θが0°で、筒部2における配向角θが90°の繊維束Fからなる糸層を新たに設ける。筒部2を構成する配向角θが0°の繊維束Fは図3(a)に示す配列パターンと同じにする。この場合、筒部2を構成する配向角θが90°の繊維束Fからなる糸層3eの比率が前記実施の形態の三次元繊維構造体Wに比較して多くなる。その結果、複合材を製作したときに、円筒の軸方向に対する圧縮強度が強くなる。
【0055】○ 底部1と筒部2の両方を配向角θが0°、+30°及び−30°の3方向に配列された繊維束Fで疑似等方性に構成してもよい。この構成は筒部2における配向角θが0°の繊維束Fの糸層3dを無くし、図4(a)及び図4(b)にの筒部2における繊維束の配向角θをそれぞれ+30°及び−30°にする。
【0056】○ 底部1及び筒部2を構成する糸層の厚さ方向における配置は、厚さ方向の中立面に対して鏡面対称に限らず、疑似等方性を構成する配向角θの組合せの糸層が存在すればよい。
【0057】○ 厚さ方向糸zは外側から内側に向かって折り返し状に挿入する代わりに、内側から外側に向かって折り返し状に挿入して抜け止め糸5を外側に配置してもよい。また、抜け止め糸5を使用せずに厚さ方向糸zの挿入針を積層糸群3を外側から内側へ、内側から外側へと交互に貫通させて、厚さ方向糸zを蛇行状態で配列させてもよい。
【0058】○ 厚さ方向糸zの挿入ピッチは図2(a),(b)に示すように配向角θが±30°又は±45°の繊維束Fの配列ピッチと等しい必要はなく、適宜変更してもよい。
【0059】○ 積層糸群3を鏡面対称に配置する構成において、中立面に配列される繊維束Fを2回に分けて配列する代わりに、2本分に相当する繊維束Fを1回で配列してもよい。しかし、2回に分けて配列する方が、繊維束Fを2種類準備したり、途中で繊維束Fの交換を行ったりする必要がないため好ましい。また、複合材としたときの強度も、2回に分けて配列したものの方が良くなる。
【0060】○ 治具11に着脱可能に固定される規制ピン17を省略してもよい。規制ピン17は筒部2を構成する配向角θが0°の繊維束Fを配列する際に、繊維束Fが周方向と直交する方向にずれるのを規制するが、張力を適正に調整して配列すれば規制ピン17がなくても所定の位置に正確に配列することはできる。
【0061】○ 前記実施の形態の三次元繊維構造体Wでは治具11のリング部材12,13と対応する部分には厚さ方向糸zが挿入されていないが、治具11から取り外した後、当該部分に厚さ方向糸zを挿入してもよい。
【0062】前記実施の形態から把握できる請求項記載以外の発明(技術的思想)について、以下にその効果とともに記載する。
(1) 円筒状の筒部とその一端を塞ぐ底部とを備えた三次元繊維構造体であって、前記底部が0°、+45°、−45°及び90°の4方向に配列された繊維束からなる複数の糸層を積層して形成された疑似等方性の配向となる積層糸群と、各糸層と直交する方向に配列されて前記積層糸群を結合する厚さ方向糸とを含み、前記筒部が0°、+45°、−45°及び90°の4方向に配列された繊維束からなり、かつ90°の方向に配列された繊維束の量が疑似等方性の配向より多い複数の糸層を積層して形成された積層糸群と、各糸層と直交する方向に配列されて前記積層糸群を結合する厚さ方向糸とを含み、かつ底部に配列された繊維束は筒部に配列された繊維束と連続している三次元繊維構造体。この場合、筒部を構成する繊維束のうち、筒部の軸方向と平行に延びる繊維束の比率が多くなり、複合材としたときの軸方向への圧縮強度が向上する。
【0063】(2) 円環状の一組のリング部材と、両リング部材間に互いに近接して配設されて円筒部を形成するとともに、前記両リング部材の内側から取り外し可能に設けられた複数のプレートとを備え、各プレートの外周面の曲率が前記リング部材の外周面の曲率と同じに形成され、少なくとも前記両リング部材には所定ピッチで規制部材(規制ピン)が周方向に沿って着脱可能に固定されている繊維束(糸)配列用の治具。この治具を使用すると有底円筒状の三次元繊維構造体の製造が容易になる。
【0064】
【発明の効果】以上詳述したように請求項1〜請求項3に記載の発明の三次元繊維構造体を骨格材として繊維強化複合材を形成すれば、有底円筒形状の構造を有する力学特性に優れた繊維強化複合材が得られるとともに、その力学特性の推定が容易となる。
【0065】請求項2に記載の発明によれば、底部を同じ強度で疑似等方性とするのに必要な繊維束の量が、0°、+45°、−45°及び90°の4方向に配列された繊維束で疑似等方性とする場合に比較して少なくなる。
【0066】請求項3に記載の発明によれば、円筒の中間部に軸方向と直交する区画壁が形成された構造の三次元繊維構造体を、請求項1又は請求項2に記載の2個の有底筒状の三次元繊維構造体に基づいて簡単に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 (a)は第1の実施の形態の三次元繊維構造体の模式斜視図、(b)は底部及び筒部の繊維束の配列を示す模式図。
【図2】 (a)は底部の部分模式断面図、(b)は筒部の部分拡大模式断面図。
【図3】 (a)は筒部を構成する配向角0°の繊維束の配列を示し、(b)は底部及び筒部を構成する配向角90°の繊維束の配列を示す模式展開図。
【図4】 (a)は配向角が30°で底部を構成し配向角が45°で筒部を構成する繊維束の、(b)は配向角が−30°で底部を構成し配向角が−45°で筒部を構成する繊維束の配列をそれぞれ示す模式展開図。
【図5】 底部に対する厚さ方向糸の配列状態を示す模式図。
【図6】 治具の模式斜視図。
【図7】 積層糸群の底部への厚さ方向糸の挿入状態を示す模式断面図。
【図8】 積層糸群の筒部への厚さ方向糸の挿入状態を示す模式断面図。
【図9】 第2の実施の形態の三次元繊維構造体の製造途中の模式断面図。
【図10】 同じく製造途中の模式断面図。
【図11】 従来の円筒状の繊維強化複合材の製法の手順を示す模式図。
【図12】 従来の三次元繊維構造体の模式斜視図。
【符号の説明】
1…底部、2…筒部、3,6…積層糸群、3a〜3g…糸層、z…厚さ方向糸、F…繊維束、W…三次元繊維構造体。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 円筒状の筒部とその一端を塞ぐ底部とを備えた三次元繊維構造体であって、前記筒部及び底部が、所定方向に配列された繊維束からなる複数の糸層を積層して形成された疑似等方性の配向となる積層糸群と、各糸層と直交する方向に配列されて前記積層糸群を結合する厚さ方向糸とを含み、かつ底部に配列された繊維束は筒部に配列された繊維束と連続している三次元繊維構造体。
【請求項2】 前記筒部は軸方向に対して0°、+45°、−45°及び90°の4方向に配列された繊維束で疑似等方性に構成され、前記底部は+30°、−30°及び90°の3方向に配列された繊維束で疑似等方性に構成されている請求項1に記載の三次元繊維構造体。
【請求項3】 請求項1又は請求項2に記載の2個の有底筒状の三次元繊維構造体が、その底部が互いに当接する状態に配置され、その筒部の周囲に疑似等方性に構成された筒状の積層糸群が配置され、各筒部を貫通する厚さ方向糸で各筒部を構成する積層糸群が結合されている三次元繊維構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2000−328392(P2000−328392A)
【公開日】平成12年11月28日(2000.11.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−140487
【出願日】平成11年5月20日(1999.5.20)
【出願人】(000003218)株式会社豊田自動織機製作所 (4,162)
【Fターム(参考)】