説明

不全角化を抑制する物質のスクリーニング方法、同方法によりスクリーニングされた物質及び不全角化を抑制する方法

【課題】 本発明は、表皮の不全角化のメカニズムを解明することで、従来技術とは異なる全く新規なアプローチで表皮不全角化の抑制・治療手段を開発することを課題とする。
【解決手段】 本発明は、扁平上皮細胞癌関連抗原−1(Squamous Cell Carcinoma Antigen Type 1、以下「SCCA−1」と称す)が保有するシステインプロテアーゼ阻害活性を抑制する候補物質の活性を指標とする、表皮不全角化を抑制する物質のスクリーニング方法、そのような方法によりスクリーニングされた表皮不全角化を抑制する物質、そしてさらには表皮細胞中のSCCA−1のカスパーゼ−14阻害活性を抑制することで、表皮細胞の角化の正常化を図り、表皮不全角化を抑制する方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扁平上皮細胞癌関連抗原−1(Squamous Cell Carcinoma Antigen Type 1、以下「SCCA−1」と称す)が保有するシステインプロテアーゼ阻害活性を抑制する候補物質の活性を指標とする、表皮不全角化を抑制する物質のスクリーニング方法、そのような方法によりスクリーニングされた表皮不全角化を抑制する物質、そしてさらには表皮細胞中のSCCA−1のカスパーゼ−14阻害活性を抑制することで、表皮細胞の角化の正常化を図り、表皮不全角化を抑制する方法を提供する。
【背景技術】
【0002】
ケラチノサイトは終末分化することで、有害な環境に対する「角化層」と称される保護バリアーを形成する。終末分化のプロセスは、分化プログラムのもとで正確に制御され、増殖型基底細胞から始まり、有棘細胞、顆粒細胞、そして最後に角質細胞に至る。顆粒細胞から角化細胞への過渡期には、ケラチノサイトの内側及び外側に劇的な変化が生じる。ケラチノサイトは、核、細胞小器官を失い、一方で周囲の脂質層、角化外皮と称される強化された細胞膜及びケラチンパターンを獲得する。ケラチンパターンは内部構造の柔軟な、なおかつ緊張した状態を維持する。過去の報告によれば、分化中のケラチノサイトは、DNA断片化及びTUNEL陽性細胞の存在など、アポトーシスの特徴を示す(Haake A.R., J. Invest. Dermatol. 101, 107-12(1993))。ヒト角化細胞抽出物中にはカスパーゼ様活性が検出され、そしてヒトケラチノサイト中にはいくつかのカスパーゼが発現されている。しかし、他の報告によれば、典型的なプロアポトーシスカスパーゼ、例えばカスパーゼ−3、−6及び−7、終末分化の際に活性化されないとのことである。分化の異常はしばしば、「不全角化」と称される角化層中の核の恒久的な存在を招く。不全角化は皮膚のバリアー機能の深刻な破壊をもたらす。しかしながら、どのような因子が脱核プロセスに関与しているか、また、このプロセスがケラチノサイト分化中にどのようにして調節されるかは、今日まで十分に解明されていなかった。
【0003】
カスパーゼはよく知られたアポトーシス細胞死実行因子であり、これらは基質をアスパラギン酸残基の後方で切断する、進化の過程で保存されたシステインプロテアーゼである。哺乳動物のカスパーゼは、その構造及び機能に従って3つのサブ群、すなわち開始カスパーゼ、実行カスパーゼ及び炎症性カスパーゼに分けられる。実行カスパーゼの重要な役割は、CAD(カスパーゼ活性化型DNアーゼ)のインヒビターICADを分解することであり、結果として、CADを活性ヌクレアーゼとして遊離させる点にある(Enari M. et al., Nature 391, 43-50 (1998))。カスパーゼ活性は様々な分子で調節される。とりわけ、いくつかのカスパーゼと直接的に連携する阻害的タンパク質群が3つある。バキュロウィルス抗アポトーシス性タンパク質p35は、セリン及びその他のシステインプロテイナーゼ12に作用することなく、カスパーゼ−1,−3,−6,−7,−8及び-10を阻害する(Zhou Q. et al., Biochemistry 37, 10757-65(1998))。バキュロウィルスはまた別の抗アポトーシス性タンパク質、アポトーシス性タンパク質インヒビター(IAP)を合成する。IAPの相同体は哺乳動物においても見いだされている(Verhagen A. M. et al., Genome Biol. 2, REVIEWS 3009 (2001))。哺乳動物IAPは、カスパーゼ−14を阻害することにより、又はプロアポトーシス促進因子、例えばDIABLO/Smacと拮抗することにより、アポトーシスをブロックする(Wu G. Nature 408, 1008-12(2000))。サイトカイン応答修飾因子A(Crm A)は、牛痘ウィルスの遺伝子生成物であり、アポトーシス性カスパーゼ及び炎症性カスパーゼを阻害することができる(Garcia-Calvo M et al. J. Biol. Chem. 273, 32608-13(1998))。興味深いことに、Crm Aはセルピン超科に属し、セルピンの一部、例えばPI−9及びPAI−1がカスパーゼ−1及びカスパーゼ−3のそれぞれとの相互作用によってアポトーシスを抑制できることが示唆されている(Annand R. R. et al., Biochem. J. 342Pt3, 655-65(1999))。ケラチノサイトの終末分化がアポトーシス現象の一部であるかどうか、また、このプロセスにおいて任意の調節タンパク質が関与するのかどうかを知ることは興味深い。
【0004】
カスパーゼ−14はカスパーゼファミリーの最新メンバーであり、専ら分化のケラチノサイトおいて発現される。カスパーゼ−14はカスパーゼファミリーメンバー間で相同なESTとして同定された。最近の研究が示したところによれば、角化細胞中のカスパーゼ−14はプロセッシングされてヘテロダイマーになり、そしてカスパーゼ−1に対応する合成基質Trp-Glu-His-Asp-AFCに対し酵素活性を示す、とのことである(Mikolajczyk J. et al., Biochemistry 43, 10560-9 (2004))。この加水分解活性はタンパク質分解切断及びコスモトロピック塩の存在を必要とする。カスパーゼ−14の一次構造は、炎症性カスパーゼ、例えばカスパーゼ−1、−4及び−5と極めて近いものの、分化されたケラチノサイトに限定されるカスパーゼ−14の発現は、ケラチノサイト終末分化における別の態様での関与を示唆する(Lippens S. et al., Cell Death Differ. 7, 1218-24(2000))。しかしながら、カスパーゼ−14の活性化メカニズム、天然の基質又は調節因子はまだ解明されていない。
【0005】
【特許文献1】特開2004−002289
【非特許文献1】J. Invest. Dermatol. 118, 147-54(2002)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、表皮の不全角化のメカニズムを解明することで、従来技術とは異なる全く新規なアプローチで表皮不全角化の抑制・治療手段を開発することを課題とする。不全角化を伴うアトピー性皮膚炎、乾癬といった皮膚病に対する特効薬がないことを考慮すると、皮膚科学、化粧品学分野における本発明が与える影響は大きい。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本願は以下の発明を包含する。
[1] 表皮不全角化を抑制する物質のスクリーニング方法であって、扁平上皮細胞癌関連抗原−1(SCCA−1)が保有するシステインプロテアーゼ阻害活性を抑制する候補物質の活性を指標とすることを特徴とする方法。
[2] 以下のアッセイ系(1), (2), (3):
(1)システインプロテアーゼの活性を測定し、その測定値[x]を得る;
(2)i)候補物質を前記(1)に規定のシステインプロテアーゼの酵素活性的に同等量と混合し、インキュベーションする;そして
ii)当該(2)i)のインキュベーション混合物のシステインプロテアーゼ活性を前記(1)と同一条件下で測定し、その測定値[y]を得る;並びに
(3) i)SCCA−1と、(2)i)で使用したのと同量の前記候補物質とを混合し、インキュベーションする;
ii)当該(3)i)のインキュベーション混合物を前記(1)に規定のシステインプロテアーゼの酵素活性的に同等量と混合し、前記(2)i)と同一条件下でインキュベーションする;そして
iii)上記(3)ii)のインキュベーション混合物のシステインプロテアーゼ活性を前記(1)と同一条件下で測定し、その測定値[z]を得る;
を含んで成り、ここで以下の条件
{[z]/[x]×100}−{100−[y]/[x]×100}>0
が満たされれば、前記候補物質は、SCCA−1が保有するシステインプロテアーゼ阻害活性を抑制する活性を有するものと決定され、表皮不全角化を抑制する物質として選定される、[1]の方法。
[3] {[z]/[x]×100}−{100−[y]/[x]×100}>3
が満たされることを条件とする、[2]の方法。
[4] {[z]/[x]×100}−{100−[y]/[x]×100}>16
が満たされることを条件とする、[3]の方法。
[5] 前記システインプロテアーゼがカスパーゼ−14である、[1]〜[4]のいずれかの方法。
[6] 前記システインプロテアーゼがパパインである、[1]〜[4]のいずれかの方法。
[7] ヒメガマエキス、ブドウエキス、トマトエキス、キュウリエキス、キウイエキス及びタイソウエキスから成る群から選択される1又は数種の生薬を活性成分として含有することを特徴とする、表皮不全角化を抑制する皮膚外用組成物。
[8] ヒメガマエキスを含有することを特徴とする、[7]の皮膚外用組成物。
[9] 前記表皮不全角化が乾癬を原因とする、[7]又は[8]の組成物。
[10] 前記表皮不全角化がアトピー性皮膚炎を原因とする、[7]又は[8]の組成物。
[11] 表皮細胞中のSCCA−1のカスパーゼ−14阻害活性を抑制することで、表皮細胞の角化の正常化を図り、表皮不全角化を抑制する方法。
[12] 表皮にヒメガマエキス、ブドウエキス、トマトエキス、キュウリエキス、キウイエキス及びタイソウエキスから成る群から選択される1又は数種の生薬を活性成分として含有する皮膚外用組成物を塗布することにより、表皮細胞中のSCCA−1のカスパーゼ−14阻害活性を抑制する、[11]の方法。
[13] 前記皮膚外用組成物がヒメガマエキスを含有することを特徴とする、[12]の方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明により、従来技術とは異なる全く新規なアプローチで表皮不全角化の抑制・治療手段の提供が可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
SCCAは扁平上皮癌細胞から抽出される抗原であり、子宮頚部、肺、食道、皮膚の扁平上皮細胞癌で高い血中濃度を示し、扁平上皮細胞癌の診断によく利用されている(H. Kato et al. Cancer 40:1621-1628 (1977); N.Mino et al. Cancer 62: 730-734 (1988))。SCCAはまた、乾癬表皮の上層において発現の亢進が認められることでも知られる(Takeda A.ら、 J. Invest. Dermatol. (2002) 118(1), 147-154)。乾癬は皮膚病の一つであり、表皮細胞の増殖・分化異常と炎症細胞浸潤を特徴とする慢性、再発性の炎症性不全角化症である。乾癬は遺伝的素因に種々の環境因子が加わって発症すると考えられる(Hopso-Havu et al. British Journal of Dermatology (1983) 109, 77-85)。SCCAは染色体18q21.3上にタンデムに並んでいる二つの遺伝子SCCA−1及びSCCA−2遺伝子によりコードされる。それらによりコードされるタンパク質、SCCA−1及びSCCA−2は共に分子量約45,000のタンパク質であり、非常に相同性が高いが、反応部位のアミノ酸配列が異なり、異なる機能を有していると考えられている(Schick et al. J. Biol. Chem. (1997) 27213, 1849-55)。
【0010】
本発明に係る表皮不全角化を抑制する物質のスクリーニング方法は、SCCA−1が保有するシステインプロテアーゼ阻害活性を抑制する候補物質の活性を指標とする。システインプロテアーゼとしては、理想的にはカスパーゼ−14を使用するのが最も好ましいが、その他のカスパーゼファミリー、あるいは入手容易性を考慮すると、周知のあらゆるその他のシステインプロテアーゼ、例えばパパイン、カテプシン、例えばカテプシンB、カテプシンL、ブロメライン、フィシン、などで代用することができる。
【0011】
好適な態様において、上記スクリーニング方法は、システインプロテアーゼの活性をアッセイする系(1)、候補物質のみの存在下でシステインプロテアーゼの活性をアッセイする系(2)、及び候補物質及びSCCA−1を予めインキュベーションしておき、当該インキュベーション混合物の存在下でシステインプロテアーゼの活性をアッセイする系(3)、から構成される。アッセイ系(2)を含ませることで、候補物質自体が及ぼし得るシステインプロテアーゼに対する影響を知ることができる。なお、アッセイ系(1)、(2)、(3)を実施する順序は特に制限されることはなく、アッセイ条件が同じであるなら、アッセイは同日でも異なる日で行ってもよい。
システインプロテアーゼの酵素活性の測定は、システインプロテアーゼの基質として慣用のもの、例えばNα−ベンゾイル−L−アルギニン4−ニトロアニリド塩酸塩(L−BAPNA)を用い、当業者周知の方法により実施することができる。
【0012】
特に好適な態様において、当該スクリーニング方法は以下のとおりに実施できる。
(1)システインプロテアーゼの活性をアッセイする系
適当なアッセイ用緩衝液、例えばHEPESバッファー中でシステインプロテアーゼを所定時間インキュベーションする。次いで、システインプロテアーゼの基質、例えばL−BAPNAを添加し、所定温度にて所定時間インキュベーション後、発色させ、システインプロテアーゼの酵素活性[x]を測定する。
(2)候補物質のみの存在下でシステインプロテアーゼの活性をアッセイする系
上記アッセイ用緩衝液と候補物質を所定時間インキュベーション後、システインプロテアーゼを添加し、(1)と同条件下でシステインプロテアーゼの活性[y]を測定する。このシステインプロテアーゼ酵素活性[y]の、上記[x]に対する%{[y]/[x]×100}を求める。
{[y]/[x]×100}の値は、上記のとおり試験物質が有するシステインプロテアーゼ阻害活性の目安となり、即ちその値が100に近いほど、試験物質が有するシステインプロテアーゼ阻害活性が低いことを意味する。また、100から上記{[y]/[x]×100}の値を差し引いた値{100−[y]/[x]×100}も求める。この場合、その値が0に近いほど、試験物質が有するシステインプロテアーゼ阻害活性が低いことを意味する。
(3)SCCA−1、候補物質及びシステインプロテアーゼを含有する系の酵素活性の測定
上記アッセイ用緩衝液とSCCA−1を混合し、それに候補物質加え、所定時間インキュベーションする。(1)又は(2)と同条件でシステインプロテアーゼの活性[z]を測定する。このシステインプロテアーゼ酵素活性[z]の、上記[x]に対する%{[z]/[x]×100}を求める。
{[z]/[x]×100}の値は、SCCA−1が有するシステインプロテアーゼ阻害活性と試験物質自体が有するシステインプロテアーゼ阻害活性の総計の目安となり、即ちその値が100に近いほど、その総阻害活性が低いことを意味する。
最後に、{[z]/[x]×100}から{100−[y]/[x]×100}を差し引いた値を求める。この差が大きいほど、SCCA−1、候補物質及びシステインプロテアーゼを含有する系におけるSCCA−1が有するシステインプロテアーゼ阻害活性が低いことの目安となり、即ち、候補物質によるSCCA−1のシステインプロテアーゼ阻害活性の抑制が顕著であることを示唆する。
【0013】
上記方法によりスクリーニングされた物質はSCCA−1が保有するシステインプロテアーゼ阻害活性抑制効果を有するものと推定され、延いては不全角化抑制機能を有し、不全角化抑制剤として有用である可能性が高い。
このような物質の不全角化抑制機能の確認は、不全角化を起こした皮膚、例えばモデル動物の皮膚に適用し、治癒効果をみることで簡単に行うことができる。従って、本発明に係るスクリーニング方法は、無数に存在する候補物質、例えば生薬の中から表皮不全角化を抑制する物質を一次スクリーニングするための方法として極めて有用である。不全角化の認められる症状には、例えば乾癬、アトピー性皮膚炎、汗腔角化症、日光角化症、脂漏性角化症、扁平鱗癬、などの皮膚疾患があり、よって本発明に係るスクリーニング方法により選択された物質は、これらの皮膚疾患の治療・予防に有用であり得る。
【0014】
本発明者は、上記スクリーニング方法により、各種生薬のSCCA−1が保有するシステインプロテアーゼ阻害活性抑制効果を検討したところ、ヒメガマエキス、ブドウエキス、トマトエキス、キュウリエキス、キウイエキス及びタイソウエキスがそのような抑制効果を有すること見出した。従って、別の観点において、本発明はヒメガマエキス、ブドウエキス、トマトエキス、キュウリエキス、キウイエキス及びタイソウエキスから成る群から選択される1又は数種の生薬を活性成分として含有することを特徴とする、表皮不全角化を抑制する皮膚外用組成物を提供する。
【0015】
これらの植物からのエキスは、植物原材料を必要に応じて乾燥させ、さらに必要に応じて細断又は粉砕した後、水性抽出剤又は有機溶剤により抽出することにより得られる。水性抽出剤としては、例えば、冷水、温水、又は沸点もしくはそれより低温の熱水を用いることができ、また有機溶剤としては、メタノール、エタノール、1,3−ブタンジオール、エーテル等を、常温で又は加熱して用いることができる。
【0016】
本発明に係る外用組成物における上記エキスは、1種又は2種以上が任意に選択され用いることができる。上記エキスの含有量は、前記外用組成物全量中0.001〜20.0質量%が好ましく、さらに好ましくは0.01〜10.0質量%である。特に、0.1〜5.0質量%が好ましい。含有量が0.001質量%未満であると、本発明の効果が充分に発揮されない場合があり、一方20.0質量%を越えると製剤化が難しいのであまり好ましくない場合がある。
【0017】
本発明の外用組成物は、常法に従って製造すればよく、また上記エキス単独でも調製可能であるが、上記エキス以外に、通常化粧品や医薬品等の皮膚外用剤に用いられる成分、例えば、油分、界面活性剤、粉末、色材、水、保湿剤、増粘剤、アルコール類、各種皮膚栄養剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、香料、防腐剤等を必要に応じて適宜配合することができる。
【0018】
その他、エデト酸二ナトリウム、エデト酸三ナトリウム、クエン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム、グルコン酸等の金属封鎖剤、カフェイン、タンニン、ベラパミル、およびその誘導体、甘草抽出物、グラブリジン、火棘の果実の熱水抽出物、各種生薬、酢酸トコフェロール、グリチルリチン酸およびその誘導体またはその塩等の薬剤、ビタミンC、アスコルビン酸リン酸マグネシウム、アスコルビン酸グルコシド、アルブチン、コウジ酸等の美白剤、グルコース、フルクトース、マンノース、ショ糖、トレハロース等の糖類、レチノール、レチノイン酸、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノールなどのビタミンA類なども適宜配合することができる。
【0019】
本発明の外用組成物は、外皮に適用される化粧料、医薬部外品等、特に好適には化粧料として活用することが可能であり、その剤型も水溶液系、可溶化系、乳化系、粉末系、油液系、ゲル系、軟膏系、エアゾール系、水−油2層系、水−油−粉末3層系等、幅広い剤型を採り得る。すなわち、基礎化粧品であれば、洗顔料,化粧水,乳液,クリーム,ジェル,エッセンス(美容液),パック,マスク等の形態に、上記の多様な剤型において広く適用可能である。また、メーキャップ化粧品であれば、ファンデーション等、トイレタリー製品としてはボディソープ,石けん等の形態に広く適用可能である。さらに、医薬部外品であれば、各種の軟膏剤等の形態に広く適用が可能である。そして、これらの剤型及び形態に、本発明の外用組成物の採り得る形態が限定されるものではない。
【0020】
本発明はまた、表皮細胞中のSCCA−1のカスパーゼ−14阻害活性を抑制することで、表皮細胞の角化の正常化を図り、表皮不全角化を抑制する方法を提供する。不全角化の認められる症状には、上述のとおり、例えば乾癬、アトピー性皮膚炎、汗腔角化症、日光角化症、脂漏性角化症、扁平鱗癬、などの皮膚疾患が挙げられる。好ましくは、本発明に係る皮膚外用組成物を肌に適用することで実施されるが、その用法、用量は特に限定されるものではく、皮膚外用組成物の剤型や処置する肌の角化不全状態により適宜決定される。
【0021】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、この実施例により、本発明の技術的範囲が限定的に解釈されるべきものではない。なお、以下の実施例等で、配合量を表す数値は、特に断わらない限り、配合される対象全体に対する質量%で表される。
【実施例】
【0022】
材料及び方法
材料
Ac-WEHD-MCA、Ac-YVAD-MCA、Ac-VDVAD-MCA、Ac-DEVD-MCA、Ac-VEID-MCA、Ac-IETD-MCA、Ac-LEHD-MCAはPeptide Institute, Inc.(日本、大阪府)から購入した。
ベンジルオキシカルボニル(Z)-YVAD-FMK、Z-VDVSD-FMK、Z-DEVD-FMK、Z-VEID-FMK、Z-IETD-FMK、Z-LEHD-FMK及びZ-VAD-FMKは、BioVision(Mountain View, CA)から購入した。組換えカスパーゼ-1〜10はBIOMOL Research Labs, Inc.(Plymouth Meeting, PA)から得た。
カスパーゼ−14のプロ形及び大サブユニットの検出のために、H-99抗体(Santa Cruz Biotechnology, Inc)を使用した。H-99抗体はヒトカスパーゼ−14のアミノ酸24-122に対応するペプチドに対し生起された抗体であり、従ってカスパーゼ−14のプロ酵素及びそのプロセッシングされた形態、即ち、その大サブユニットと反応する。
カスパーゼ−14の小サブユニットの検出のためには、C-20抗体(Santa Cruz)を使用した。開裂部位特異的抗体(h14D146)は、ヒトカスパーゼ−14の推定プロセッシング部位に相当する合成ペンタペプチドTVGGDを用い、ウサギを免疫化することにより作成した。
【0023】
WEHD-MCA加水分解活性の測定
Mikolajczyk J. et al., Biochemistry 43, 10560-9 (2004)に記載の方法に多少の変更を加え、Ac-WEHD-MCAを基質として、カスパーゼ−14活性を測定した。簡単には、アッセイ混合物を、45μLの0.1M HEPES緩衝液(pH 7.5)、0.06M NaCl、0.01% CHAPS、5mM DTT、1.3M クエン酸ナトリウム及び10μM WEHD-MCAから作製した(全て、最終濃度で表示)。この混合物に酵素試料(5μl)を添加し、これを10〜30分間にわたってインキュベートした。反応を150μlの0.1Mのモノクロロ酢酸により停止させ、そしてFluoroskan Ascent FL(Thermo Electron Co., Wolsam, MA)を用い、355nmの励起波長及び460nmの発光波長により測定を行った。インヒビターアッセイの場合、カスパーゼ−14及びペプチドインヒビターを室温で15分間、アッセイ緩衝液中でインキュベートし、そして5μlの100μM WEHD-MCAを添加することによりアッセイを開始した。
【0024】
カスパーゼ−14の精製
健常人の踵からこすり取ったヒト角化細胞(約14g)を、ガラスホモジナイザーを使用して、0.14M NaClを含有する0.1M Tris-HCl(pH 8.0)で抽出した。60分間にわたって15,000gで遠心分離した後、上澄みを得た。Amicon Ultra(Millipore, MA)で濃縮し、Fast Desalting カラムHR10/10(Amersham Biosciences)で脱塩した後、粗生成物をHiPrep 16/10 Q XLカラムに塗布した。カラムを20mM Tris-HCl(pH 8.0)で洗浄し、そして0〜1Mの線形NaCl勾配で溶離させた。画分は抗カスパーゼ−14抗体(H-99)(Santa Cruz Biotechnology, CA)及びh14D146抗体を使用するウェスタンブロットにより追跡した。また、各画分についてAc-Tyr-Glu-His-Asp-メチル-クマリンアミド(WEHD-MCA)(Peptide Institute, Inc.日本国大阪)に対する加水分解活性を測定した。陽性を示した画分を同緩衝液で平衡させたMono Q カラムに載せ、これを最大1MのNaCl勾配で溶離させた。カスパーゼ−14画分をさらにMono S陽イオン交換クロマトグラフィーにより分離した。カラムを20mM酢酸緩衝液(pH4.5)で平衡にし、そして0〜1MのNaCl勾配で溶離させた。陽性を示した画分を濃縮し、そしてこれを25mMエタノールアミン(pH 8.3)で平衡にしたクロマトフォーカシングMono Pカラムに載せた。Polybuffer(pH 5.0)46mlを使用し、pH8から5に至るpH勾配を形成させながら、溶離を行った。カスパーゼ−14はSuperdex 75 ゲルクロマトグラフィーを用い最終的に精製した。タンパク質濃度はBioRad Protein Assay Kit (BioRad Lab, Hercules, CA)で決定した。
【0025】
組換えカスパーゼ−14及びSCCA−1の調製
カスパーゼ−14をコードするcDNAを順方向プライマー:AAGGATCCAATCCGCGGTCTTTGGAAGAGGAG(配列番号1)及び逆方向プライマー:TTTCTGCAGGTTGCAGATACAGCCGTTTCCGGAGGGTGC(配列番号2)を使用するPCRによってケラチノサイトcDNAから単離・増幅した。PCR生成物をpQE-100 DoubleTag ベクター(Qiagen, Valencia, CA)中にクローニングし、そしてE.coli JM109中で発現させた。
SSCA1 cDNAを乾癬cDNAライブラリー(Takeda A et al., J. Invest. Dermatol., 118, 147-54(2002))から分離し、そしてpQE30ベクター(Quiagen)中にクローニングした。組換えタンパク質をNi-NTA Agarose(Quiagen)及びMono Qクロマトグラフィーで精製した。
【0026】
免疫組織化学
ヒト頭皮試験片を患者の同意のもと、形成外科手術により得た。組織をリン酸緩衝液(pH7.4)中の4%パラホルムアルヒド(PFA)で固定し、パラフィン中に包埋した。薄切片を調製し、そして4℃で一晩にわたって適切な抗体と一緒にインキュベートした。ペルオキシダーゼ接合ヤギ抗ウサギIgG(ニチレイ社製)を二次抗体として使用し、発色試薬としてのDABと反応させた。
TUNEL陽性細胞及び活性カスパーゼの二重免疫検出の場合、Texas Red(登録商標)色素接合抗ウサギIgG(ロバ)を二次抗体として使用した。TUNEL反応はフルオレセインin situ 細胞死検出キット(Roche Diagnostics)を使用し、その製造者の指示書に従って実施した。
ICADのウェスタンブロット及び免疫組織化学分析の場合、抗ICAD IgG(FL331, Santa Cruz Biotechnology)及びDFF45/ICAD Ab-2(NeoMarkers, Fremont, CA)を使用した。
【0027】
活性アトピー性皮膚炎(AD)患者の皮膚内には、クラスター化した不全角化が往々にして観察されることが報告されている(Sakurai K. et al., J. Dermatol. Sci. 30, 37-42(2002); Piloto Valdes, L. et al., Allergol. Immunopathol. (Madr) 18, 321-4(1990))。本実験においては、非侵襲的方法を用い、不全角化性皮膚におけるICAD及びSCCA−1の局在を調べた。AD又は健常有志の皮膚から表在性角化層を採取し、そして医療用接着剤Aron Alpha A(Sankyo Co., Tokyo)を使用してスライドガラス上に付着させた。3%パラホルムアルデヒドで固定したあと、試料に0.1% Triton X-100を浸透させ、そしてこの試料を抗ICAD又は抗SCCA−1抗体で一晩にかけて4℃で免疫染色した。Alexa Fluor 400接合型抗ラビット(ICAD)又は抗マウスIgG(SCCA−1)をそれぞれ二次抗体として、1時間にわたって室温で使用した。核の視覚化のために、試料を0.1%ヨウ化ピリジウム溶液中に5分間浸漬し、そしてPBSで3回洗浄した。蛍光観察のために、Leica DMLA顕微鏡を使用した。
【0028】
ウェスタンブロット分析
SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法により、5〜20%勾配のゲルでタンパク質を分離した。電気泳動後、タンパク質をポリビニリジンジフルオライド膜(Immobilon-P、Millipore, Bedford, MA)上に転写し、そしてH-99, h14D146又はC20を含む抗カスパーゼ−14抗体と一緒にインキュベートした。ペルオキシダーゼ標識抗ウサギIgG(Sigma)又は抗ヤギIgGを二次抗体として使用し、そして免疫反応性タンパク質をECL-プラス(Amersham)を用い化学発光法で視覚化させた。
【0029】
結果
角化細胞中のカスパーゼ−14はAsp146でプロセッシングされる
ウェスタンブロット分析によると、H-99抗体は角化細胞抽出物中の17KDaのバンドしか検出しなかった(図2)。この結果は、プロセッシングされていない30KDaの形態を含む、全皮膚又は皮膚等価モデル由来の抽出物についての結果とは一致しない。この17KDaバンドはh14D146抗体(図2B)でも認識され、活性カスパーゼ−14(p17)の大サブユニットであると推定される。このことは、カスパーゼ−14の成熟が、終末分化の最終段階中にAsp146での開裂によって達成されることを示唆する。さらに、30KDaのバンドが、皮膚等価モデルにおいて、H-99及びh14D146抗体によっても認識され、このことは、Asp146における切断を示唆する。
【0030】
角化細胞抽出物からのカスパーゼ−14の調製
角化細胞中のカスパーゼ−14の大部分はプロセッシングされた形態、それ故、活性型で存在すると推定されるので(Eckhart L. et al., J. Invest. Dermatol. 115, 1148-51 (2000); Lippens S. et al., Cell Death Differ. 7, 1218-24(2000); Mikolajczyk, J. et al., Biochemistry 43, 10560-9(2004))、ヒト角化細胞は優れたカスパーゼ−14精製源であると考えられる。しかしながら、ヒト角化細胞がカスパーゼ−1様酵素を含有することも知られている(Takahashi T., J. Invest. Dermatol. 111, 367-72(1998))。カスパーゼ−1の基質、例えばWEHD-基質は、カスパーゼ−1及びカスパーゼ−14の両者によって加水分解することができる。本発明者は先ず、1.3M クエン酸ナトリウム及び5mM ジチオスレイトールの有無で、カスパーゼ−1によるWEHD-MCA加水分解を試験した。WEHD-MCAは標準のカスパーゼアッセイ緩衝液中でカスパーゼ−1の優れた基質であるにもかかわらず、コスモトロピックイオンの存在下では、カスパーゼ−1はこの基質を加水分解できないことが確認された(データーは示さない)。従って、それぞれの画分を、WEHD-MCAに対する加水分解活性、H-99に対する反応性、及びh14D146抗体といった3通りの方法で評価した。表1は、連続クロマトグラフィーの結果を示す。HiPrep Q カラムを使用した最初の陰イオン交換クロマトグラフィーの後、収率は170%の上昇を示し、比活性は約10倍上昇した。この上昇はおそらく、内在性のインヒビターからのカスパーゼ−14の隔離によるものと考えられる。ウェスタンブロット分析によれば、画分No.16〜20は分子量17 KDaのH-99陽性且つ14D146陽性バンドを含有することが示された。これらの画分は、WEHD-MCA加水分解活性も認められた。続くMono Q 陰イオン交換クロマトグラフィーにおいて、画分No.25〜No.29は、17 KDaのH-99陽性且つh14D146陽性バンドの存在による判定に従い、プロセッシングされた形態のカスパーゼ−14を含有する。これらの画分だけがWEHD-MCA加水分解活性を示した。Mono S陽イオンクロマトグラフィ及びMono Pクロマトフォーカシングは主だった夾雑タンパク質を除去するのに有効であり、そして比活性はそれぞれにより3.5倍及び7倍上昇させた。ここでもまた、H-99陽性且つh14D146陽性画分だけがWEHD-MCA加水分解活性を示した。Superdex 75クロマトグラフィーによる最終段階は分子量30 KDaのピークを分離し、このピークはWEHD-MCA加水分解活性ピークと一致した。SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動法は、この調製物が17KDa及び11KDaの断片を含むことを示した。前者はH-99抗体及びh14D146抗体の両者に対して陽性を示し、後者はC20抗体で認識された。このことは、ヒトカスパーゼ−14が大サブユニット(17KDa)及び小サブユニット(11KDa)から成るヘテロダイマーとして精製されたことを示唆する。また、Superdex 75ゲルクロマトグラフィーは、他のカスパーゼとは異なり、ヒト角化細胞中のカスパーゼ−14はグランザイムB活性化型のようにモノマーとして存在することを示した。表1はカスパーゼ−14の精製率をまとめている。約100mgの可溶性タンパク質抽出物から出発して、精製タンパク質11.8μgを得た。比活性は764倍上昇し、収率は9.1%であった。
【表1】

【0031】
精製カスパーゼ−14の酵素特性
精製カスパーゼ−14の酵素特性を調べた(図3〜4)。カスパーゼ−14は様々なカスパーゼインヒビター、例えばYVAD-FMK(カスパーゼ−1インヒビター)、VDVAD-FMK(カスパーゼ−2インヒビター)、DEVD-FMK(カスパーゼ−3インヒビター)、IETD−FMK(カスパーゼ−8インヒビター)、LEHD−FMK(カスパーゼ−9インヒビター)及びVAD−FMK(pan−カスパーゼインヒビター)に対する感受性を有した(図3)。なお、VEID−FMKの効果はほとんどなかった。とりわけYVAD-FMKは、カスパーゼ−14活性に対して極めて強力な阻害効果を示した。このことはおそらく、カスパーゼ−1とカスパーゼ−14との間の構造類似性によるものと考えられる。pan-カスパーゼインヒビターVAD-FMKは、VAD-FMKと同程度にカスパーゼ−14活性を抑制した。システインプロテイナーゼに対するクラス特異的インヒビターであるヨード酢酸(IAA)、又はセリンプロテイナーゼに対するクラス特異的インヒビターである4-(2-アミノエチル)ベンゼンスルホニルフルオリド(AEBSF)は、この研究における試験濃度では有意な阻害効果を示さなかった。
【0032】
ICAD分解に対する精製カスパーゼ−14の効果
カスパーゼ−14の天然基質の模索中に、本発明者はICADに対するカスパーゼ−14の効果を試験した。というのも、核の消失は終末分化にとって極めて重要な事象の1つであるからである。通常のカスパーゼアッセイ緩衝液中で組換えICADタンパク質と共に精製カスパーゼ−14をインキュベートすると、抗ICAD IgGを用いたウェスタンブロット分析による判定によれば、精製カスパーゼ−14はICADに対し何ら加水分解活性を示さなかった(図4A)。しかし、コスモトロピック塩の存在下では、インタクトなICADタンパク質が減少し、2つの主要な分解生成物が増加することから、精製カスパーゼ−14はICADに対して限定的な分解作用を示した。
【0033】
SCCA−1によりカスパーゼ−14が阻害される
SCCA−1はセルピン超科に属するものの、システインプロテイナーゼ、例えばパパイン及びカテプシンLを阻害する(Takeda A. et al., Biol. Chem. 383, 1231-6(2002))。このことは、SCCA−1がCrm-A32のような固有のクロスクラスインヒビターであることを示す。従って、本発明者はSCCA−1がカスパーゼメンバーを阻害できるかどうかを試験した。カスパーゼ−14の場合、コスモトロピック条件を利用した。組換え活性カスパーゼをSCCA−1と共にインキュベートしても、カスパーゼメンバー(1〜10)のいずれも酵素活性について何ら影響を受けなかった。これとは逆に、SCCA−1は用量依存式にカスパーゼ−14のWEHD-MCAに対する活性を抑制した(図4C)。SCCA−1はカスパーゼ−14によるICAD分解も阻害した。インキュベーションを延長しても、酵素活性の回復を示すことはなかった。このことは、カスパーゼ−14とSCCA−1との強い結合を示唆する(図4B)。
【0034】
活性カスパーゼ−14及びTUNEL陽性細胞の局在
カスパーゼ−14が脱核プロセスに関与するかどうかを調べるため、本発明者は、活性カスパーゼ−14及びTUNELの二重染色を行った。図5Aに示すとおり、プロ形及び活性型を含むカスパーゼ−14は、正常ヒト表皮内の有棘細胞から角化細胞にかけて局在していた。このことは過去の所見(Lippens et al.,(2000)、前掲)と合致する。h14D146抗体で検出された活性カスパーゼ−14は、角化細胞及び顆粒細胞の一部に限定されていた(図5B)。角化細胞のほとんどは遍在的に染色された。TUNEL陽性細胞は、角化層のすぐ下側に観察されたが、これらの陽性細胞の多くは著しく制限された(図5C)。興味深いことに、TUNEL陽性細胞は、専らh14D146陽性細胞と共に局在していた。このことは、これらの細胞中でDNA断片化が起きており、活性カスパーゼ−14がこのプロセスに関与していることを示唆している。
【0035】
不全角化性核におけるICAD及びSCCA−1の共局在
正常なヒト上皮の縦断面では、FL331抗体を使用することで、基底細胞及び基底上細胞の核内にICADの局在が主にあることがわかる。細胞質は、基底細胞から顆粒細胞において弱く陽性を示した。角化層においては、ICADに対する免疫反応性は大幅に低減した。N末端ペプチド抗体DFF45/ICAD Ab-2を使用しても事実上同じ結果が得られた(データーは示さず)。AD患者の表在性角化層を抗ICAD抗体(FL-331)で染色した場合、様々なサイズのクラスター領域がこの抗体に対して陽性を示した(図6B)。PIによる核染色は、不全角化性の核がこれらの斑状の島内に常に見いだされることを示した(図6C)。表在性角化層の明視野は、凹凸の多い粗い表面を示した(図6D)。重畳画像は、不全角化部位がICAD陽性部位と一致することを示した(図6E及び5F)。これらの結果は、終末分化において核を排除するのにICAD分解が必要とされることを示唆する。
【0036】
正常な皮膚の場合、極めて低レベルのSCCA−1が顆粒層内で検出された(図7G)。活性ADを有する表在性角化層内でも、陽性部位の斑状分布が顕著な強い免疫染色が見いだされた(図7H)。同様に、SCCA−1陽性領域は、PI陽性の核の層、即ち不全角化部位と一致した(図7J〜L)。これらの結果をまとめると、ICAD/CAD系が脱核プロセスの主要な役割を果たし、そしてSCCA−1はサプレッサーとしてこの反応に関与することを示唆する。
【0037】
考察
カスパーゼ−14は大部分が表皮内で発現され、その他の組織内ではほとんど発現されない(Van de Craen, M et al., Cell Death Differ. 5, 836-46 (1998))。過去の報告によれば、ケラチノサイトの終末分化はカスパーゼ−14のプロセッシングと連携しているとのことであり、このことは、カスパーゼ科プロテイナーゼの活性化を示唆する(Lippens, S et al., Cell Death Differ 7, 1218-24 (2000); Eckhart l. Biochem. Biophys. Res. Commun. 277, 655-9(2000); Hu S. J. Biol. Chem 273, 29648-53(1988))。最近、Mikolajaczyk et al., (2004)前掲)は、グランザイムB切断カスパーゼ−14がコスモトロピック塩の存在下で酵素的に活性であることを実証した。この研究において、本発明者は、ヒトカスパーゼ−14がケラチノサイト分化の最終段階において活性であるかどうかを調べるために、完全に分化されたケラチノサイトからのカスパーゼ−14の精製を試みた。本発明者は、大サブユニット、プロ形(H-99)(Asp146(h14D146)に推定カスパーゼ切断部位を有する)及び小サブユニット(C20)をそれぞれ認識する3種の抗体を使用した。最終調製物は2つのタンパク質バンド、すなわちh14D146抗体によって認識された17KDaのタンパク質バンド、及びC20抗体によって認識された11KDaのタンパク質バンドから成った。これらのタンパク質バンドは、活性カスパーゼ−14の大及び小サブユニットである。精製工程の間、H-99陽性の17KDaのバンドが、h14D146抗体と一緒に認識された。このことは、大サブユニットがそのカルボキシル末端においてAsp146で終わることを示唆している。小サブユニットのアミノ末端領域はLys153-Asp-Ser-Pro-Glnとして同定され、このことは、プロセッシングがIle152とLys153との間で生じることを示唆する。この部位はカスパーゼメンバーとしては奇異な切断部位である。このことは、包皮抽出物から免疫沈降させたカスパーゼ−14が同じ部位で切断を示すという、Chien他の発見(Biochem. Biophys. Res. Commun. 2002 Aug 30;296(4);911-7)と合致する。従って、ヒトカスパーゼ−14は高活性ヘテロダイマーとして均質に精製されたと結論付けた。カスパーゼ−14の成熟には、2つの部位Asp146及びIle152におけるプロセッシング、並びにリンカー領域Xxx147及びIle152内の6つの残基の除去が関与するものと示唆された。2つの異なる切断部位(一方は酸性、他方は疎水性)の存在はまた、カスパーゼ−14の活性化が多数の酵素により多段階的に行われることを示唆する。
【0038】
精製カスパーゼ−14の酵素学的特性は極めて独自のものであった。精製カスパーゼ−14は、既知のカスパーゼインヒビターに対し比較的広いインヒビター感受性を示した。とりわけ、カスパーゼ1インヒビターYVAD-FMKが最も強い阻害作用を示した。YVAD-FMKはWEHD-MCA並びに別のカスパーゼ−1基質であるYCAD-MCAに対して最も高い活性を示した。このことは、カスパーゼ-1とカスパーゼ−14との密な関係を示唆する。しかし、本発明者が明らかにしたところでは、カスパーゼ−14は顕著に異なる特性を有している。本発明者は、SCCA−1がカスパーゼ−14に対する内在性インヒビターであることを初めて解明した。SCCA−1の最も特異的な特性は、カスパーゼ−14に対する著しい特異性である。カスパーゼ1〜10の他の構成員がSCCA−1による影響を受けることはない。合成基質DEVD-MCA又は天然基質ICADを使用して、SCCA−1がカスパーゼ−3活性を阻害することはなかった。これはCrm Aとは対照的である。Crm Aもセルピン超科に属し、カスパーゼ−1及びカスパーゼ−8を含む多数のカスパーゼを抑制することができることで知られる(Gagliardini V. et al., Science 263, 826-8(1994))。XIAPはカスパーゼ−3, −7及び−9を阻害することで知られる(Srinivasula S. M. et al., Nature 410, 112-6(2001))。抗アポトーシス性タンパク質p35はカスパーゼ−1, −3, −6, −7, −8及び−10を阻害することから、より広いスペクトルを有すると考えられる。これらの阻害タンパク質Crm A, IAP及びp35の全てがいくつかの開始及び実行カスパーゼの一部を抑制し得るという事実は、これらの分子が典型的なアポトーシス経路の実行に関与していることを示唆する。他方、本発明者の結果が強く示唆しているのは、SCCA−1が通常のアポトーシス事象におけるキープレーヤーではないが、カスパーゼ−14により媒介される脱核プロセスにおける重要なレギュレーターである、ということである。
【0039】
このプロセスの分子メカニズムは解明されていなかった。本発明者は、ヒトカスパーゼ−14がコスモトロピック塩の存在下において、ICADを分解できることを明らかにした。ICAD(DNA断片化因子「DFF45」とも称される)は、カスパーゼ活性化型DNアーゼ(CAD) (又はDFF40)と称されるマグネシウム依存性エンドヌクレアーゼに対するインヒビターである。ICAD/CAD系は、アポトーシス性細胞死中の染色体DNAの分解において主要な役割を演じる。CADに結合したICADは、不活性複合体として存在する。カスパーゼ−3は、ICADに対し限られたタンパク質分解を示し、2つの部位Asp117及びAsp224で切断する。この切断はCADを活性化し、DNA分解を開始させる(Nagata S. Exp. Cell Res. 256, 12-8 (2000))。カスパーゼ−3はアポトーシスの際の大量の細胞タンパク質の切断にとっては必ずしも必要でないが、ICADの切断にとっては必須である(Tang D. et al., J. Biol. Chem. 273, 28549-52(1998))。このことは、カスパーゼ−3がDNA断片化に極めて重要であり、他の実行カスパーゼ、即ちカスパーゼ−6や7は重要ではないことを示す。興味深いことに、カスパーゼ−14はICADから、12KDa及び35KDaの似たような切断断片を生成した。配列分析は同一の切断部位を示した。このことは、カスパーゼ−14がカスパーゼ−3の完璧な代替物となり得ることを示唆している。カスパーゼ−14はICADを分解し得るものの、下記の理由から、プロアポトーシスカスパーゼ−3とは明らかに異なる。第1に、カスパーゼ−14の過剰発現はアポトーシス性細胞死を誘導しない(Van de Craen. Cell Death Differ. 5, 838-46(1998))。このことはカスパーゼ−3とは対照的である。第2に、カスパーゼ−14は種々のアポトーシス性刺激では活性化されない(Lippens et al. (2000)、前掲)。開始カスパーゼ又はその他のカスパーゼメンバーは、プロ−カスパーゼ−14をプロセッシングすることができなかった。このことは過去の所見と一致する(Lippens et al. (2000)、前掲)。活性化は終末分化においてのみ発生する(Eckhart L. et al., (2000)、前掲)。第3に、カスパーゼ−14の合成は、成人組織における分化中のケラチノサイトに限定される(Eckhart L. Biochem. Biophys. Res. Commun. 277, 655-9(2000))。また、ICAD切断に対するカスパーゼ−14の能力は、カスパーゼ−3とは顕著に異なる様式で調節される。カスパーゼ−14によるICAD分解は、異常な高濃度のコスモトロピックイオンを必要とする。このようなイオン濃度では、他のカスパーゼはほとんど活性ではなかった。総合的に見て、カスパーゼ−14は、ケラチノサイト分化プログラムがその活性化を調節することから、カスパーゼメンバーの中では特殊な位置づけにあるように考えられる。
【0040】
ケラチノサイト終末分化におけるICAD/CAD系の関与は、in vivo実験によってさらに裏づけされる。免疫組織化学的研究は、ICADが基底ケラチノサイトから有棘ケラチノサイトにかけて核内に存在し、顆粒細胞で消失し、核の消失は終末分化の際に起こることが示された。AD患者の表在性表皮内には、ICADの強い免疫染色が斑状部位に示された。これらの領域は若干粗い表面を有し、半透明性が低い。まさにこれらの領域上に、PI陽性な、未消化の核の集合が共局在していた。他の領域が抗ICAD抗体で染色されることはなかった。また、AD患者の皮膚からのテープストリッピング試料はインタクトなICADタンパク質の存在を示したが、健常人の抽出物中では検出されることはなかった。これらの結果は、ICADが終末分化の際の脱核プロセスに関与していることを示唆する。
【0041】
正常な表皮ではSCCA−1はほとんど発現されない。他方、乾癬表皮、粘膜及び食道においては、強い発現が報告されている(Takeda A. et al., J. Invest. Dermatol. 118, 147-54(2002))。興味深いことには、これらの組織には不全角化が伴っている。本発明者は、不全角化部位にはSCCA−1の強い染色も見いだされることを明らかにした。さらに、SCCA−1及びICADは、核の集合が存在する箇所と同じ部位に常に共局在していた。SCCA−1又はICADが陰性である他の表皮表面部分はなかったので、不全角化部位におけるこれらの分子の共局在は、これらの分子が脱核プロセスの抑制に関与することを示唆する。パン-カスパーゼインヒビターVAD-FMKにより、皮膚等価モデルにおいて核が消失しなくなることが報告されている(Weil他、1999)。VAD-FMKが最も強力なカスパーゼ−14インヒビターの1つであるという本発明者の発見は、カスパーゼ−14がおそらくこの反応における候補であるという可能性を高める。カスパーゼ−14は、乾癬皮膚の不全角化部位内ではダウンレギュレートされ、また口腔表皮内には存在しない。口腔表皮では、核の消失は何らかの形で損なわれるか、或いは行われない(Lippens et al., (2000)、前掲)。興味深いことには、SCCA−1はこれらの組織内でアップレギュレートされる。おそらく、これらの分子の異常発現は、核の恒久的な存在などを含む、不完全な分化を引き起こすものと考えられる。
【0042】
皮膚内のカスパーゼ−14の活性化メカニズムは全体的によくわかっていない。皮膚又は皮膚等価モデルにおいてのみ活性化が観察され、細胞培養系では観察されない(Eckhart L. et al. (2000)、前掲)。実際に、本発明者は種々の条件を試した。これらの条件には、血清の添加、集密になってからカルシウムの存在下もしくは非存在下での14日目までの培養期間の延長、カルシウムイオノフォアA23187による処理、又は多くの分化マーカーをアップレギュレートするのに十分な30分間にわたる空気暴露を含む。これらの分化刺激は顕著なカスパーゼ−14mRNA発現を誘導するものの、カスパーゼ−14活性を引き起こすのに効果的な刺激はなかった(データーは示さない)。活性化プロセスは厳密に制御され、単層培養中で強く抑制される。層化及び空気暴露がその活性化に必要と思われる。カスパーゼ−14の活性化は、アポトーシスプログラムによってではなく、分化プログラムによる制御を介して行われるのが明らかである。終末分化プロセス中には、セリン、システイン及びアスパラギン酸プロテイナーゼを含む多くのプロテイナーゼも活性化される。トリプシン様及びキモトリプシン様血清プロテイナーゼは、最も外側の角化細胞を脱落させる役割を演じることが示唆されている。システインプロテイナーゼの一部、例えばカテプシンB及びLは分化されたケラチノサイト中でアップレギュレートされる。カテプシンD、アスパラギン酸プロテイナーゼもまた、角化細胞を脱落させる役割を演じることが示唆されている。これらの酵素は他の分化メカニズム、例えばカスパーゼ−14の活性化に関与することがある。
【0043】
以上をまとめると、本発明者は、ヒト角化細胞抽出物からカスパーゼ−14を精製した。カスパーゼ−14は核の消失を誘導し、この消失はアポトーシス様であるが、しかしケラチノサイト分化の最終段階でICAD分解を介して生じる区別可能な変化であることが強く示唆される。このプロセスはいくつかのアポトーシス性因子を共有するものの、これは損傷された細胞の排除を招く細胞死プロセスではなく、主要な役割であるバリアー機能のための構造全体を完成することを目的とした構成プロセスである。カスパーゼ−14又はSCCA−1の異常発現は分化プログラムに直接的に影響を及ぼし、その結果、不全角化及びバリアー機能崩壊が生じる。
【0044】
スクリーニング方法
不全角化を抑制する物質のスクリーニングは以下のとおりにして実施した。試験した生薬は以下のとおりである。
ヒメガマエキス(一丸ファルコス)
ブドウエキス(一丸ファルコス)
トマトエキス(一丸ファルコス)
キュウリエキス(一丸ファルコス)
キウイエキス(一丸ファルコス)
タイソウエキス(一丸ファルコス)
トルメンチラ(一丸ファルコス)
(1)システインプロテアーゼの酵素活性の測定
アッセイ用緩衝液(50mMのHEPES(pH7.5)、5mMのDTT、2.5mMのEDTA、0.1%のCHAPS)80μlと1μg/mlのパパイン(Sigma)20μlを混合し、室温にて15分インキュベーションした。次いで、2.5mMの基質Nα−ベンゾイル−L−アルギニン4−ニトロアニリド塩酸塩(L−BAPNA)20μlを添加し、37℃で15分インキュベーションした。これにエタノール中の25%の酢酸溶液30μl及び0.2%のp−ジメチルアミノシンナムアルデヒド30μlを添加して発色させ、545nmの吸光度を測定した。この吸光度をシステインプロテアーゼの酵素活性[x]とする。
(2)不全角化を抑制する候補生薬とシステインプロテアーゼを含有する系の酵素活性の測定
上記アッセイ用緩衝液60μlと候補物質20μlを室温にて30分インキュベーションした。これに、1μg/mlのパパイン20μlを添加し、室温にて15分インキュベーションした。次いで、2.5mMのL−BAPNA20μlを添加し、37℃で15分インキュベーションした。これにエタノール中の25%の酢酸溶液30μl及び0.2%のp−ジメチルアミノシンナムアルデヒド30μlを添加して発色させ、545nmの吸光度を測定した。この吸光度をシステインプロテアーゼの酵素活性[y]とし、試験した各物質についての上記[x]に対する%を以下の表2中の[サンプルのみ]の列に示す。
[サンプルのみ]の値は、試験生薬自体が有するシステインプロテアーゼ阻害活性の目安となり、即ちその値が100に近いほど、試験生薬が有するシステインプロテアーゼ阻害活性が低いことを意味する。また、下記の表2に、100から上記[サンプルのみ]の値を差し引いた値[100−[サンプルのみ]]も示す。この場合、その値が0に近いほど、試験生薬が有するシステインプロテアーゼ阻害活性が低いことを意味する。
(3)SCCA−1、候補生薬及びシステインプロテアーゼを含有する系の酵素活性の測定
上記アッセイ用緩衝液40μlと組換えSCCA−1 20μlを混合し、それに候補生薬物質20μl加え、室温にて30分インキュベーションした。これに、1μg/mlのパパイン20μlを添加し、室温にて15分インキュベーションした。次いで、2.5mMのL−BAPNA20μlを添加し、37℃で15分インキュベーションした。これにエタノール中の25%の酢酸溶液30μl及び0.2%のp−ジメチルアミノシンナムアルデヒド30μlを添加して発色させ、545nmの吸光度を測定した。この吸光度をシステインプロテアーゼの酵素活性[z]とし、試験した各物質についての上記[x]に対する%を以下の表2中の[SCCA−1+]の列に示す。
[SCCA−1+]の値は、SCCA−1が有するシステインプロテアーゼ阻害活性と試験生薬自体が有するシステインプロテアーゼ阻害活性の総計の目安となり、即ちその値が100に近いほど、その総阻害活性が低いことを意味する。
また、表中の[差]の列は、[SCCA−1+]から[100−[サンプルのみ]]を差し引いた値を示す。この差が大きいほど、SCCA−1、候補生薬及びシステインプロテアーゼを含有する系におけるSCCA−1が有するシステインプロテアーゼ阻害活性が低いことの目安となり、即ち、候補生薬によるSCCA−1のシステインプロテアーゼ阻害活性の抑制が顕著であることを示唆する。
【0045】
この結果を以下の表2にまとめた。
【表2】

その結果、ヒメガマエキス、ブドウエキス、トマトエキス、キュウリエキス、キウイエキス及びタイソウエキス、特にヒメガマエキスがSCCA−1のシステインプロテアーゼ阻害活性を有意に抑制することがわかった。従って、これらのエキスが表皮不全角化を抑えるのに有効であるものと考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】皮膚抽出物のウェスタンブロット分析を示す。H-99抗体及びh14D146抗体を使用することにより、チモーゲン及び活性カスパーゼ-14の存在を免疫ブロット法で分析した。10μg(レーン1,2及び4)及び1μg(レーン3)の全皮膚抽出物、皮膚等価抽出物及び角化細胞抽出物を適用した。
【図2】精製カスパーゼ-14の分析を示す。(A)SDSポリアクリルアミドゲル電気泳動後、Superdex 75クロマトグラフィーから得られた画分No.25をPVDF膜に移し、そしてクーマジーブリリアントブルーで染色した。17KDa及び11KDaの2つのタンパク質バンドが示された。(B)H-99、h14D146及びC20抗体を使用したウェスタンブロット分析。17KDaバンドがH99抗体及びh14D146抗体の双方に対して陽性を示し、また11KDaバンドがC20抗体で認識されることが示された。
【図3】精製カスパーゼ-14に対する種々の合成インヒビターの効果を示す。カスパーゼに対するペプチドインヒビター(YVAD, VDVAD, DEVD, VEID, IETD, LEHD, DNLD)、並びにシステインプロテイナーゼ(IAA)及びセリンプロテイナーゼ(AEBSF)に対するクラス特異的インヒビターと一緒に、カスパーゼ-14をインキュベートした。1.3M クエン酸ナトリウム及び5mM DTTの存在においてWEHD-MCAを基質として使用して、残留酵素活性を測定した。試験した酵素濃度はそれぞれ、5, 2.5及び1.25μMとした。値は重複アッセイの平均値を表す。
【図4】(A)ICADに対する精製カスパーゼ-14の切断活性を示す。(B)FL331抗体を使用したウェスタンブロット分析を示す。33KDa及び27KDaの切断生成物が示された。10μM SCCA−1を用いた前インキュベーションによって、ICAD切断は完全に抑制された。コスモトロフィック塩の存在においてのみ、ICAD分解が観察された。アミノ末端に特異的な抗体を使用したウェスタンブロット分析は、カスパーゼ−14との延長されたインキュベーション中にインタクトなICAD分子の消失を示した。混合物にSCCA−1を添加すると、ICAD分解はもはや検出されず、16時間のインキュベーション後、影響を受けないままであった(B)。(C)合成カスパーゼ基質に対する加水分解活性を、コスモトロピック塩の存在において調査した結果を示す。
【図5】活性カスパーゼ-14及びTUNELポジティブ細胞の局在を示す。正常なヒトの皮膚の薄い切片をH−99抗体(A)、h14D146抗体(B)及びTUNEL(C)で染色した。Texas-Redを蛍光検出(B)のために使用した。TUNELにはFITCを用い、そして免疫染色にはTexas Redを用いて、TUNEL及びカスパーゼのための二重染色を実施した。
【図6】ICAD及び不全角化核の共局在を示す。正常なヒトの皮膚の薄い切片を抗ICAD抗体FL331で染色した(A)。下表皮のほとんどの核はこの抗体に対して陽性を示した。AD患者皮膚に由来する角化細胞の表在層上のICADを抗体で染色したときには、種々のサイズの陽性部位が示された(B)。核クラスターを示すヨウ化プロピジウム(PI)による核染色がしばしば認められた(C)。同じ部位の明視野は、表面上のオーバーラップされたスケールを示した(D)。重畳画像は、不全角化部位においてのみICADが存在することを明らかにした(E)。明視野における核染色の重畳画像も示されている(F)。
【図7】SCCA−1及び不全角化核の共局在を示す。SCCA−1は、正常な皮膚切片(A)内ではほとんど検出することができなかった(A)。AD患者皮膚の表在層において、SCCA−1陽性部位は示された(B)。これらの部位上でのみ、核クラスターが認められた(C)。明視野を(D)に示す。重畳画像は、SCCA−1陽性部位が、好ましくは未消化核が存在する部位と重なることを示す(E)。SCCA−1染色及び明視野に対応する別の重畳画像も示す(F)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表皮不全角化を抑制する物質のスクリーニング方法であって、扁平上皮細胞癌関連抗原−1(SCCA−1)が保有するシステインプロテアーゼ阻害活性を抑制する候補物質の活性を指標とすることを特徴とする方法。
【請求項2】
以下のアッセイ系(1), (2), (3):
(1)システインプロテアーゼの活性を測定し、その測定値[x]を得る;
(2)i)候補物質を前記(1)に規定のシステインプロテアーゼの酵素活性的に同等量と混合し、インキュベーションする;そして
ii)当該(2)i)のインキュベーション混合物のシステインプロテアーゼ活性を前記(1)と同一条件下で測定し、その測定値[y]を得る;並びに
(3) i)SCCA−1と、(2)i)で使用したのと同量の前記候補物質とを混合し、インキュベーションする;
ii)当該(3)i)のインキュベーション混合物を前記(1)に規定のシステインプロテアーゼの酵素活性的に同等量と混合し、前記(2)i)と同一条件下でインキュベーションする;そして
iii)上記(3)ii)のインキュベーション混合物のシステインプロテアーゼ活性を前記(1)と同一条件下で測定し、その測定値[z]を得る;
を含んで成り、ここで以下の条件
{[z]/[x]×100}−{100−[y]/[x]×100}>0
が満たされれば、前記候補物質は、SCCA−1が保有するシステインプロテアーゼ阻害活性を抑制する活性を有するものと決定され、表皮不全角化を抑制する物質として選定される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
{[z]/[x]×100}−{100−[y]/[x]×100}>3
が満たされることを条件とする、請求項2記載の方法。
【請求項4】
{[z]/[x]×100}−{100−[y]/[x]×100}>16
が満たされることを条件とする、請求項3記載の方法。
【請求項5】
前記システインプロテアーゼがカスパーゼ−14である、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記システインプロテアーゼがパパインである、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
ヒメガマエキス、ブドウエキス、トマトエキス、キュウリエキス、キウイエキス及びタイソウエキスから成る群から選択される1又は数種の生薬を活性成分として含有することを特徴とする、表皮不全角化を抑制する皮膚外用組成物。
【請求項8】
ヒメガマエキスを含有することを特徴とする、請求項7記載の皮膚外用組成物。
【請求項9】
前記表皮不全角化が乾癬を原因とする、請求項7又は8の記載の組成物。
【請求項10】
前記表皮不全角化がアトピー性皮膚炎を原因とする、請求項7又は8記載の組成物。
【請求項11】
表皮細胞中のSCCA−1のカスパーゼ−14阻害活性を抑制することで、表皮細胞の角化の正常化を図り、表皮不全角化を抑制する方法。
【請求項12】
表皮にヒメガマエキス、ブドウエキス、トマトエキス、キュウリエキス、キウイエキス及びタイソウエキスから成る群から選択される1又は数種の生薬を活性成分として含有する皮膚外用組成物を塗布することにより、表皮細胞中のSCCA−1のカスパーゼ−14阻害活性を抑制する、請求項11記載の方法。
【請求項13】
前記皮膚外用組成物がヒメガマエキスを含有することを特徴とする、請求項12記載の方法。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2006−254875(P2006−254875A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−80566(P2005−80566)
【出願日】平成17年3月18日(2005.3.18)
【出願人】(000001959)株式会社資生堂 (1,748)
【Fターム(参考)】