説明

不織布及びその製造方法

【課題】 極細混在繊維を使用しなくても、極細繊維が分散した、不織布が本来有する濾過性や液体保持性能などの各種特性に優れる不織布を提供すること、及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 本発明の不織布は、平均繊維径が4μm以下、かつ単一樹脂成分からなる極細単繊維を主体とし、この極細単繊維間が皮膜状の樹脂によって融着した、極細単繊維が束状態になく、個々の極細単繊維が分散した不織布であり、前記不織布の空隙率が50〜95%、かつ単位目付あたりにおける引張り強さが1.5N/g以上である。このような不織布は、極細単繊維の集合体を主体とする繊維集合体群を、融着性樹脂粉体とともに、圧縮気体の作用によりノズルから気体中に噴出させて、粉体含有繊維ウエブを形成した後、融着性樹脂粉体で融着し、厚さ調整して製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は不織布及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
不織布は構成繊維、繊維ウエブの形成方法、或いは繊維ウエブの結合方法を適宜組み合わせることにより、各種機能を付与することができるため、各種用途に適用されている。例えば、平均繊維径が4μm以下の極細繊維を含む不織布は、濾過性能に優れているため、液体や気体用のフィルタとして好適に使用することができ、また、液体保持性能に優れているため、電池用のセパレータとしても好適に使用することができる。
【0003】
この平均繊維径が4μm以下の極細繊維を含む不織布を製造する1つの方法として、ある溶剤に対して溶解除去可能な樹脂成分(海成分)中に、この溶剤に対して溶解除去が困難な樹脂成分(島成分)が分散した繊維(いわゆる海島型繊維)を使用して、カード法やエアレイ法などにより繊維ウエブを形成し、次いでニードルや水流の作用によって繊維同士を絡合させて絡合繊維ウエブを形成した後、海島型繊維の海成分を溶剤で溶解除去することにより、島成分からなる極細繊維を発生させる方法がある。この方法によれば、平均繊維径が4μm以下の極細繊維を含む不織布を製造することができるが、極細繊維が束となった状態にあり、太い繊維との差があまりないため、濾過性能や液体保持性能などの点において不十分なものであった。
【0004】
そのため、本願出願人は「繊維径が4μm以下で繊維長が3mm以下の極細繊維を分散した状態で含み、付着物の付着率が0.5mass%以下である極細繊維分散不織布」を提案した(特許文献1)。この極細繊維分散不織布を製造する場合、実際には、高密度ポリエチレンとポリプロピレンとからなる島成分をもつ海島型繊維の海成分を除去して製造した、高密度ポリエチレンとポリプロピレンとが混在した極細混在繊維によって融着して、製造していた。この極細混在繊維のように、2種類以上の樹脂が存在する極細繊維を製造するのは煩雑で、高度な技術を必要とするため高価であった。そのため、極細繊維が分散した安価な不織布が待望されていた。
【0005】
【特許文献1】特開2002−155458号公報(請求項1、実施例など)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上述のような現状に鑑み、極細混在繊維を使用しなくても、極細繊維が分散した、不織布が本来有する濾過性や液体保持性能などの各種特性に優れる不織布を提供すること、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の請求項1にかかる発明は、「平均繊維径が4μm以下、かつ単一樹脂成分からなる極細単繊維を主体とし、この極細単繊維間が皮膜状の樹脂によって融着した、極細単繊維が束状態になく、個々の極細単繊維が分散した不織布であり、前記不織布の空隙率が50〜95%、かつ単位目付あたりにおける引張り強さが1.5N/g以上であることを特徴とする不織布。」である。
【0008】
本発明の請求項2にかかる発明は、「極細単繊維がポリオレフィン系樹脂からなることを特徴とする、請求項1記載の不織布。」である。
【0009】
本発明の請求項3にかかる発明は、「皮膜状の樹脂がポリオレフィン系樹脂からなることを特徴とする、請求項1又は請求項2記載の不織布。」である。
【0010】
本発明の請求項4にかかる発明は、「平均繊維径が4μm以下、かつ単一樹脂成分からなる極細単繊維の集合体を主体とする繊維集合体群を、融着性樹脂粉体とともに、圧縮気体の作用によりノズルから気体中に噴出させて、前記繊維集合体群を個々の極細単繊維に分割し、分散させるとともに、融着性樹脂粉体を分散させる工程、分散した極細単繊維及び融着性樹脂粉体を集積して粉体含有繊維ウエブを形成する工程、及び前記融着性樹脂粉体を溶融させることにより、極細単繊維同士を融着性樹脂粉体によって融着させる工程、融着させた粉体含有繊維ウエブを、前記融着性樹脂粉体の融点より50℃以上低い温度で加圧する工程、とを含む、空隙率が50〜95%、かつ単位目付あたりにおける引張り強さが1.5N/g以上の不織布の製造方法。」である。
【0011】
本発明の請求項5にかかる発明は、「極細単繊維がポリオレフィン系樹脂からなることを特徴とする、請求項4記載の不織布の製造方法。」である。
【0012】
本発明の請求項6にかかる発明は、「融着性樹脂粉体がポリオレフィン系樹脂からなることを特徴とする、請求項4又は請求項5記載の不織布の製造方法。」である。
【0013】
本発明の請求項7にかかる発明は、「融着性樹脂粉体の平均粒子径が0.5〜50μmであることを特徴とする、請求項4〜請求項6のいずれかに記載の不織布の製造方法。」である。
【0014】
本発明の請求項8にかかる発明は、「融着性樹脂粉体のメルトフローインデックスが20〜100g/10min.であることを特徴とする、請求項4〜請求項7のいずれかに記載の不織布の製造方法。」である。
【0015】
本発明の請求項9にかかる発明は、「繊維集合体群と融着性樹脂粉体との質量比率が、1:0.5〜2であることを特徴とする、請求項4〜請求項8のいずれかに記載の不織布の製造方法。」である。
【0016】
本発明の請求項10にかかる発明は、「融着性樹脂粉体の融点よりも10℃以上高い温度で熱処理をして、融着性樹脂粉体を溶融させることを特徴とする、請求項4〜請求項9のいずれかに記載の不織布の製造方法。」である。
【発明の効果】
【0017】
本発明の請求項1にかかる発明は、極細単繊維が束状態になく、個々に分散した極細単繊維間が皮膜状の樹脂によって融着しているため、濾過性や液体保持性能などの各種特性に優れている。
【0018】
本発明の請求項2にかかる発明は、極細単繊維がポリオレフィン系樹脂からなるため、耐薬品性に優れ、各種用途に適用することができる。例えば、耐アルカリ性を必要とするアルカリ電池用セパレータ用途であっても好適に使用できる。
【0019】
本発明の請求項3にかかる発明は、皮膜状の樹脂がポリオレフィン系樹脂からなるため、耐薬品性に優れ、各種用途に適用することができる。例えば、耐アルカリ性を必要とするアルカリ電池用セパレータ用途であっても好適に使用できる。
【0020】
本発明の請求項4にかかる発明は、融着性樹脂粉体によって融着させており、従来の極細混在繊維を使用しないため、濾過性や液体保持性能などの各種特性に優れる不織布を安価に製造できる方法である。
【0021】
本発明の請求項5にかかる発明は、極細単繊維がポリオレフィン系樹脂からなるため、耐薬品性に優れ、各種用途に適用できる不織布を製造できる。
【0022】
本発明の請求項6にかかる発明は、融着性樹脂粉体がポリオレフィン系樹脂からなるため、耐薬品性に優れ、各種用途に適用できる不織布を製造できる。
【0023】
本発明の請求項7にかかる発明は、融着性樹脂粉体の平均粒子径が0.5〜50μmであるため、融着性樹脂粉体が粉体含有繊維ウエブ中に均一に分散保持され、単位目付あたりにおける引張り強さの強い不織布を製造できる。また、極細単繊維の広い表面積を有効に活用することができる。
【0024】
本発明の請求項8にかかる発明は、融着性樹脂粉体のメルトフローインデックスが20〜100g/10min.であり、溶融時に極細単繊維同士の交点に移動し、また極細単繊維間に皮膜を形成するのに適した粘性及び流動性を示すため、単位目付あたりにおける引張り強さの強い不織布を製造できる。
【0025】
本発明の請求項9にかかる発明は、繊維集合体群と融着性樹脂粉体との質量比率が、1:0.5〜2であるため、実用上、十分な単位目付あたりの引張り強さと、50%以上の高い空隙率を併せもつ不織布を製造できる。
【0026】
本発明の請求項10にかかる発明は、融着性樹脂粉体の融点よりも10℃以上高い温度で熱処理をして、融着性樹脂粉体を溶融させているため、溶融時に極細単繊維同士の交点に移動し、また極細単繊維間に皮膜を形成するのに適した粘性及び流動性とすることができ、単位目付あたりにおける引張り強さの強い不織布を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
本発明の不織布は濾過性や液体保持性能など各種特性に優れているように、平均繊維径が4μm以下であり、しかも製造しやすく、安価であるように、単一樹脂成分からなる極細単繊維を主体としている。この極細単繊維の平均繊維径が小さければ小さい程、濾過性や液体保持性能などの各種特性に優れているため、極細単繊維の平均繊維径は3μm以下であるのが好ましく、2μm以下であるのがより好ましい。他方、極細単繊維の平均繊維径の下限は特に限定するものではないが、0.01μm程度が適当である。本明細書における「繊維径」は、繊維の横断面形状が円形である場合にはその直径をいい、繊維の横断面形状が非円形である場合には横断面積と面積の同じ円の直径をいい、「平均繊維径」は無作為に選んだ繊維500本の繊維径の数平均値をいう。
【0028】
本発明の極細単繊維は分散性に優れているように、その繊維長は3mm以下であるのが好ましい。より好ましい繊維長は2mm以下である。なお、極細単繊維の繊維長の下限は特に限定するものではないが、0.1mm程度が適当である。また、繊維長が均一であるように、3mm以下の長さに切断された極細単繊維であるのが好ましい。
【0029】
本発明の極細単繊維を構成する単一樹脂成分は任意の成分(例えば、有機成分又は無機成分)から構成することができ、例えば、ポリアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリ塩化ビニリデン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアクリロニトリル系樹脂、ポリオレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂など)、ポリスチレン系樹脂(例えば、結晶性ポリスチレン、非晶性ポリスチレンなど)、芳香族ポリアミド系樹脂、又はポリウレタン系樹脂などの有機成分、あるいは、ガラス、炭素、チタン酸カリウム、炭化珪素、窒化珪素、酸化亜鉛、ホウ酸アルミニウム、ワラストナイトなどの無機成分から構成することができる。これらの中でも、極細単繊維がポリオレフィン系樹脂からなると、耐薬品性に優れ、各種用途に適用することができるため好適であり、例えば、耐アルカリ性を必要とするアルカリ電池用セパレータ用途であっても好適に使用することができる。なお、ポリオレフィン系樹脂として、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体を挙げることができる。また、極細単繊維がポリアミド系樹脂からなると、親水性に優れるため、親水性を必要とする用途に適用することができる。例えば、高い電解液保持性を必要とする電池用セパレータ用途に好適に使用することができる。
【0030】
本発明の極細単繊維は、不織布の地合いが優れているように、各極細単繊維が、その繊維軸方向において直径が実質的に変化しない(すなわち、実質的に同じ直径を有している)のが好ましい。このように、個々の極細単繊維において繊維軸方向に直径が実質的に同一で変化していない極細単繊維は、例えば、紡糸口金部で海成分中に口金規制して島成分を押し出して複合する複合紡糸法で製造した海島型繊維の海成分を除去して得ることができる。一般的に、混合紡糸法で製造した海島型繊維の海成分を除去したり、メルトブロー法によっては、前記個々の極細単繊維において繊維軸方向に直径が実質的に同一で変化していない極細単繊維を得ることは困難である。
【0031】
また、本発明の極細単繊維は未延伸であることもできるが、強度的に優れているように、延伸されているのが好ましい。この「延伸」とは、紡糸工程とは別の延伸工程(例えば、延伸ねん糸機による延伸工程)により延伸されていることをいう。例えば、メルトブロー法のように溶融押し出した樹脂に対して熱風を吹き付けて繊維化した繊維は、紡糸工程と延伸工程とが同じであるため延伸されていない。また、海島型繊維が延伸されている場合、この海島型繊維の海成分を除去することによって得られる島成分からなる極細単繊維は延伸された状態にある。
【0032】
本発明の不織布は前述のような極細単繊維を主体(不織布構成繊維の50mass%以上)としているため、濾過性能や液体保持性能に優れている。前述のような極細単繊維量が多ければ多い程、前記性能に優れているため、極細単繊維は不織布構成繊維の70mass%以上を占めているのが好ましく、90mass%以上を占めているのがより好ましく、100mass%極細単繊維であるのが最も好ましい。
【0033】
前記極細単繊維以外の繊維として、平均繊維径が4μmを越える太繊維を使用することができる。この太繊維を使用する場合、平均繊維径の上限は特に限定するものではないが、極細単繊維との平均繊維径の差が大きすぎると、不織布の地合いを損ねる傾向があるため、太繊維の平均繊維径の上限は50μm程度であるのが好ましい。なお、太繊維の繊維長は分散性に優れるように、3mm以下であるのが好ましく、2mm以下であるのがより好ましい。太繊維の繊維長の下限は特に限定するものではないが、0.1mm程度が適当である。また、太繊維も均一な長さであるように、3mm以下の長さに切断されたものであるのが好ましい。なお、太繊維は極細単繊維と同様の有機成分又は無機成分1種類又は2種類以上から構成することができる。この太繊維は未延伸であってもよいが、強度的に優れているように、延伸されているのが好ましい。
【0034】
本発明の不織布は、前述のような極細単繊維が束状態になく、個々の極細単繊維が分散した不織布であるため、極細単繊維を主体とする濾過性能、液体保持性能などの各種特性を発揮することができる。例えば、海島型繊維の海成分を除去した段階では、島成分からなる極細単繊維が一定方向に配向した束状態にあるが、本発明の不織布は極細単繊維が個々の極細単繊維に分割、分離しており、束状態にはなく、極細単繊維が互いに交差し、分散した状態にある。
【0035】
本発明の不織布は前述の通り、個々の極細単繊維が分散した状態にあるが、その状態の極細単繊維間が皮膜状の樹脂によって融着した状態にある。このように、皮膜状の樹脂によって融着しているため、濾過性や液体保持性能などの各種特性に優れており、しかも従来の極細混在繊維を使用していないため安価である。この「皮膜状」とは本発明の不織布の表面における電子顕微鏡写真である図1からもわかるように、樹脂が極細単繊維の直径よりも広く拡がった状態にあることをいい、この皮膜状の樹脂による融着は極細単繊維同士の交差点のみならず、交差点以外の箇所においても存在しているのが強度、濾過性、或いは液体保持性能の点から好ましい。皮膜状の樹脂による融着は極細単繊維により形成された空隙を有効に利用できるように、不織布の表面全体にはなく、部分的にあるのが好ましい。なお、従来の極細混在繊維の融着によって極細単繊維同士を融着した場合には、大部分の融着点が極細単繊維同士の交差点にあり、その融着点は極細単繊維の直径よりも広く拡がっておらず、皮膜状にはない。
【0036】
この皮膜状の樹脂は極細単繊維間を融着できる限り、特に限定するものではないが、ポリオレフィン系樹脂やポリアミド系樹脂からなるのが好ましい。前者のポリオレフィン系樹脂からなると、耐薬品性に優れ、各種用途に適用することができ、後者のポリアミド系樹脂からなると、親水性に優れ、親水性を必要とする用途に適用することができる。より具体的には、ポリオレフィン系樹脂として、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−ビニルアルコール共重合体、エチレン−アクリル酸共重合体、エチレン−メタクリル酸共重合体を挙げることができ、ポリアミド系樹脂としてナイロン6−ナイロン12共重合体を挙げることができる。特に、極細単繊維の構成成分と皮膜状の樹脂成分とが同一系統であると、親和性に優れ、融着力が強く、引っ張り強さの強い不織布であることができるため好適である。例えば、極細単繊維、皮膜状の樹脂の両方がポリオレフィン系樹脂から構成されていたり、極細単繊維、皮膜状の樹脂の両方がポリアミド系樹脂から構成されているのが好ましい。
【0037】
本発明の不織布は前述のような極細単繊維間が皮膜状の樹脂によって融着しているが、空隙率は50〜95%である。空隙率が50%未満であると、皮膜状の樹脂量が多く、極細単繊維によって形成される空隙に皮膜状の樹脂が充填されており、極細単繊維を主体としていることによる濾過性などの特性が低下してしまうためである。他方で、95%を超えると、不織布としての形態安定性が悪く、取り扱いにくいためで、92%以下であるのがより好ましく、90%以下であるのが更に好ましく、85%以下であるのが更に好ましく、80%以下であるのが更に好ましい。なお、不織布の空隙率は次の式によって得られる値をいう。
空隙率={1−W/(T×d)}×100
ここで、Wは目付(g/m)を意味し、Tは不織布の厚さ(μm)を意味し、dは極細単繊維構成樹脂の密度(g/cm)と皮膜状の樹脂の密度(g/cm)の質量平均値をいう。例えば、密度dの極細単繊維が、不織布中、a(mass%)含まれており、密度dの皮膜状の樹脂が、不織布中、b(mass%)含まれている場合、次の式から算出される値をいう。
密度(d)=d×a/100+d×b/100
【0038】
本発明の不織布は、前述の皮膜状の樹脂によって強固に融着しており、不織布の取り扱い性に優れるように、単位目付あたりにおける引張り強さが1.5N/g以上である。好ましくは1.8N/g以上であり、より好ましくは2.0N/g以上である。なお、「引張り強さ」は、不織布から長方形の試料(幅:50mm、長さ:200mm)を不織布のたて方向、よこ方向に、それぞれ5枚ずつ採取した後に、JIS P−8113に準じ、引張り試験機((株)オリエンテック社製、UCT−500)を使用して、つかみ間隔100mmでそれぞれ測定し、その測定値を算術平均した、たて方向及びよこ方向の平均値をいい、「単位目付あたりにおける引張り強さ」は前記引張り強さを目付で除した商をいう。なお、目付はJIS P 8124(紙及び板紙−坪量測定方法)に規定する方法に基いて得られる坪量をいう。なお、不織布のたて方向は長手方向を意味し、よこ方向はたて方向に直交する方向を意味する。
【0039】
本発明の不織布の目付、厚さは特に限定するものではないが、目付は15〜70g/mであるのが好ましく、20〜50g/mであるのがより好ましい。また、厚さは0.03〜1.6mmであるのが好ましく、0.04〜1.1mmであるのがより好ましい。なお、厚さは無荷重時の厚さが1mm未満の場合は、JIS B 7502に規定する方法による測定値、すなわち、18N/cm荷重時の外側マイクロメーターによる測定値をいい、無荷重時の厚さが1mm以上の場合には、JIS L 1096−8.5.1(織物の厚さ)の項に準じ、20gf/cmの圧力下で測定した値をいう。
【0040】
本発明の不織布は使用用途が制限されないように、界面活性剤や糊剤などの付着物の付着率が0.5mass%以下であるのが好ましい。このように付着物の付着率が低いと、不織布使用中に、不織布から付着物が脱離する危険性が低く、様々な好ましい効果をもたらす。例えば、不織布をフィルタとして使用した場合、フィルタ(不織布)自体が汚染物質を発生すると、フィルタとしての役割が半減するが、付着物量が少ないと、付着物が脱離する可能性が低いため、フィルタとして好適に使用することができる。また、不織布を電池用のセパレータとして使用した場合、使用中に付着物が溶出し、化学反応に悪影響を及ぼす場合があるが、付着物量が少ないと、付着物が溶出する可能性が低いため、電池用セパレータとして好適に使用することができる。この付着物の付着率が小さければ小さい程、前記効果に優れているため、付着率は0.3mass%以下であるのが好ましく、0.1mass%以下であるのがより好ましく、0.08mass%以下であるのが更に好ましく、0.06mass%以下であるのが更に好ましく、0.04mass%以下であるのが更に好ましく、0.02mass%以下であるのが更に好ましい。
【0041】
この付着物の付着率は、不織布の質量に対する付着物の質量の百分率をいう。すなわち、次の式から算出される値をいう。
A={(ms+ms)/mf}×100 ・・式(1)
〔ここで、Aは付着物の付着率(%)、msは熱水抽出物の質量(g)、msは熱メタノール抽出物の質量(g)、mfは不織布の質量(g)を、それぞれ意味する〕
【0042】
なお、熱水抽出物の質量(ms)と熱メタノール抽出物の質量(ms)は、次の手順によって得られる値である。
(熱水抽出物)
1.約5gの不織布試験片を採り、絶乾質量(g)を求める。
2.ウォーターバス、丸底フラスコ、及びリービッヒ冷却器を用意する。
3.丸底フラスコに100mLの超純水を入れた後、丸底フラスコの上部にリービッヒ冷却器を取り付ける。その後、ウォーターバスに丸底フラスコを浸漬し、ウォーターバスを100℃に加温し、超純水を還流させて、超純水の温度を温度98〜100℃とする。
4.丸底フラスコに不織布試験片を入れた後、超純水の温度を98〜100℃に維持した状態で、発生する水蒸気を還流する操作を15分間実施して、付着物を抽出する。
5.抽出した還流水を、あらかじめ絶乾質量(g)を求めておいた蒸発皿に移す。
6.前記使用した丸底フラスコに100mLの超純水を入れた後、丸底フラスコの上部にリービッヒ冷却器を取り付ける。その後、ウォーターバスに丸底フラスコを浸漬し、ウォーターバスを100℃に加温し、超純水を還流させて、超純水の温度を温度98〜100℃とする。
7.丸底フラスコに前記抽出した不織布試験片を再度入れた後、超純水の温度を98〜100℃に維持した状態で、発生する水蒸気を還流する操作を15分間実施して、付着物を再度抽出する。
8.再度抽出した還流水を、前記使用した蒸発皿に移した後、100℃に加温したウォーターバス上で、約10mLになるまで蒸発させる。
9.前記蒸発皿を150℃のオーブンに入れて蒸発乾固させ、付着物の抽出絶乾質量(g)を量る。そして、抽出絶乾質量と蒸発皿の絶乾質量との差から熱水抽出物の質量(単位:g)を算出する。
10.前記1〜9までの操作を繰り返し、別の不織布試験片の熱水抽出物の質量(単位:g)を算出する。
11.前記2枚の不織布試験片の熱水抽出物の質量(単位:g)の算術平均値を、前記式(1)で使用する熱水抽出物の質量(ms)とする。
(熱メタノール抽出物)
1.丸底フラスコに100mLのメタノール(特級)を入れた後、丸底フラスコの上部にリービッヒ冷却器を取り付ける。その後、ウォーターバスに丸底フラスコを浸漬し、ウォーターバスを65℃に加温し、メタノールを還流させて、メタノールの温度を温度62〜64℃とする。
2.丸底フラスコに、熱水抽出物量の計測に使用したあとの不織布試験片を入れた後、メタノールの温度を温度62〜64℃に維持した状態で、発生する蒸気を還流する操作を15分間実施して、付着物を抽出する。
3.抽出した還流メタノールを、あらかじめ絶乾質量(g)を求めておいた蒸発皿に移す。
4.前記使用した丸底フラスコに100mLのメタノール(特級)を入れた後、丸底フラスコの上部にリービッヒ冷却器を取り付ける。その後、ウォーターバスに丸底フラスコを浸漬し、ウォーターバスを65℃に加温し、メタノールを還流させて、メタノールの温度を温度62〜64℃とする。
5.丸底フラスコに前記抽出した不織布試験片を再度入れた後、メタノールの温度を温度62〜64℃に維持した状態で、発生する蒸気を還流する操作を15分間実施して、付着物を再度抽出する。
6.再度抽出した還流メタノールを、前記使用した蒸発皿に移した後、66℃に加温したウォーターバス上で、約10mLになるまで蒸発させる。
7.前記蒸発皿を150℃のオーブンに入れて蒸発乾固させ、付着物の抽出絶乾質量(g)を量る。そして、抽出絶乾質量と蒸発皿の絶乾質量との差から熱メタノール抽出物の質量(単位:g)を算出する。
8.前記1〜7までの操作を繰り返し、別の熱水抽出物量の計測に使用したあとの不織布試験片の熱メタノール抽出物の質量(単位:g)を算出する。
9.前記2枚の不織布試験片の熱メタノール抽出物の質量(単位:g)の算術平均値を前記式(1)で使用する熱メタノール抽出物の質量(ms)とする。
【0043】
この熱水抽出物としては、糊剤(例えば、アクリルアミド、ポリアクリル酸ソーダ、ポリアルギン酸ソーダ、ポリエチレンオキサイド、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルアルコールなど)があり、熱メタノール抽出物としては、界面活性剤(親水基と親油基の両方を有する化合物、例えば、ノニオン系界面活性剤)がある。
【0044】
本発明の不織布は1層である必要はなく、極細単繊維が分散した層を2層以上含んでいることができる。極細単繊維が分散した層を2層以上備えていると、様々な特性を付与することができる。例えば、極細単繊維の存在量の異なる極細単繊維が分散した層を2層以上備えていることによって、濾過性能を高めることができる。また、極細単繊維を含まない層(例えば、ネット、織物、編物、繊維径が4μmを超える繊維からなる不織布など)を含んでいることもできる。
【0045】
本発明の不織布は極細単繊維を含んでいることによる各種特性(例えば、濾過性能、絶縁性、液体保持性能、払拭性、及び/又は隠蔽性など)に優れ、強度も優れているため、各種用途に使用することができる。例えば、気体又は液体用フィルタ(ヘパフィルタ、バグフィルタ、カートリッジフィルタなど)、脱臭フィルタ用基材、消臭フィルタ用基材、マスク用基材(手術用、産業用など)、フィルタプレス、手術用ドレープ、手術用ガウン、おむつカバーリング、電池用セパレータ、吸水シート(加湿器用など)などの各種用途に使用することができる。
【0046】
本発明の不織布は、例えば、平均繊維径が4μm以下、かつ単一樹脂成分からなる極細単繊維の集合体を主体とする繊維集合体群を、融着性樹脂粉体とともに、圧縮気体の作用によりノズルから気体中に噴出させて、前記繊維集合体群を個々の極細単繊維に分割し、分散させるとともに、融着性樹脂粉体を分散させる工程、分散した極細単繊維及び融着性樹脂粉体を集積して粉体含有繊維ウエブを形成する工程、及び前記融着性樹脂粉体を溶融させることにより、極細単繊維同士を融着性樹脂粉体によって融着させる工程、融着させた粉体含有繊維ウエブを、前記融着性樹脂粉体の融点より50℃以上低い温度で加圧する工程によって製造することができる。
【0047】
より具体的には、まず、前述のような平均繊維径が4μm以下、かつ単一樹脂成分からなる極細単繊維の集合体を主体とする繊維集合体群と、融着性樹脂粉体とを準備する。なお、極細単繊維の集合体の状態は極細単繊維が一定方向に配向した束状態であっても良いし、ランダムに配向した状態にあっても良いが、前者の束状態にある方が個々の極細単繊維が均一に分散した不織布としやすいため好適である。この極細単繊維は前述の通り、ポリオレフィン系樹脂から構成されているのが好ましい。また、繊維集合体群は極細単繊維の集合体が更に集合したもので、各種性能に優れるように、極細単繊維が繊維集合体群の50mass%以上を占め、好ましくは70mass%以上を占め、より好ましくは90mass%以上を占め、最も好ましくは100mass%を占める。なお、平均繊維径の点において異なる、2種類以上の極細単繊維の集合体を併用しても良い。
【0048】
なお、極細単繊維の集合体が絡んだ状態にあると、後述のような圧縮気体の作用によっても、極細単繊維を均一に分散させるのが困難になるため、極細単繊維の集合体は絡んだ状態にないのが好ましい。例えば、機械的に分割可能な分割性繊維をビーターなどによって叩解した極細単繊維集合体、ビーターなどによって叩解したパルプ、或いはフラッシュ紡糸法により得られた極細単繊維集合体などは、極細単繊維同士が絡んだ状態にあるため使用しないのが好ましい。
【0049】
他方、融着性樹脂粉体は前述の不織布の皮膜状の樹脂のもととなるものであるため、前述の通り、ポリオレフィン系樹脂又はポリアミド系樹脂からなるのが好ましい。特には、極細単繊維の構成成分と同一系統の融着性樹脂粉体を使用する。前述の通り、極細単繊維がポリオレフィン系樹脂から構成されているのが好ましいため、融着性樹脂粉体もポリオレフィン系樹脂から構成されているのが好ましい。
【0050】
この融着性樹脂粉体の平均粒子径は特に限定するものではないが、平均粒子径が大きすぎると、融着性樹脂粉体が溶融し、固化して形成される皮膜状の樹脂1つあたりの面積が広くなり、極細単繊維の広い表面積を有効に活用することが困難になり、また、融着性樹脂粉体を均一に分散させることが困難になるため、平均粒子径は50μm以下であるのが好ましく、30μm以下であるのがより好ましく、20μm以下であるのが更に好ましい。他方、融着性樹脂粉体の平均粒子径が小さすぎると、融着性樹脂粉体の融着点の数は増加するものの、融着性樹脂粉体が溶融し、固化して形成される融着した皮膜状の樹脂1つあたりの面積が小さすぎて、極細単繊維間を接着する力が弱く、十分な引張り強さを得ることが困難になる傾向があるため、平均粒子径は0.5μm以上であるのが好ましく、1μm以上であるのがより好ましい。この「平均粒子径」は、レーザー回折・散乱式粒度分布測定装置((株)セイシン企業製)により測定した重量分布平均粒径の値をいう。
【0051】
また、融着性樹脂粉体のメルトフローインデックスが低すぎると、溶融粘度や流動性が悪く、溶融時に極細単繊維同士の交点に移動しにくく、また、融着性樹脂粉体が溶融し、固化して融着する際に、皮膜状態で極細単繊維間を融着することが困難となる傾向があり、同一温度条件で接着した場合の引張り強さが低下するため、融着性樹脂粉体のメルトフローインデックスは20g/10min.以上であるのが好ましく、30g/10min.以上であるのがより好ましい。他方、メルトフローインデックスが高すぎると、溶融粘度や流動性が高すぎて、融着性樹脂粉末が融着する際に、粉体含有繊維ウエブの底部に移動してしまい、粉体含有繊維ウエブの上部はあまり融着しておらず、極細単繊維間の融着点の数が減少してしまうことから、引張り強さが低下し、極端な場合には、不織布の底部にフィルムを形成することになるため、100g/10min.以下であるのが好ましく、90g/10min.以下であるのがより好ましい。この「メルトフローインデックス」は、JIS K7210(条件4、試験温度190℃、試験荷重21.18N)により得られる値をいう。
【0052】
このような繊維集合体群と融着性樹脂粉体とは、繊維集合体群と融着性樹脂粉体との質量比率が、1:0.5〜2であるように配合するのが好ましい。融着性樹脂粉体量がこれよりも少ないと、不織布の強度が不足する傾向があり、他方で、融着性樹脂粉体量がこれよりも多いと、極細単繊維等によって形成される空隙を埋めてしまい、多孔性であることによる不織布の性能を十分に発揮することが困難になる傾向があるためで、より好ましくは1:0.7〜1.5である。
【0053】
なお、前述の繊維集合体群及び融着性樹脂粉体として、付着物の付着率の低いものを使用すると、付着物の付着率の低い不織布を製造することができるため好適である。この付着物の付着率の低い繊維集合体群及び融着性樹脂粉体は、例えば、アセトンなどの溶媒によって洗浄することによって得ることができる。なお、海島型繊維の海成分を抽出除去して製造した極細単繊維集合体は、付着物の付着率の低いものである。この場合であっても、抽出除去後、更にアセトンなどの溶媒により洗浄すれば、より付着物量を少なくすることができる。
【0054】
次いで、前述のような繊維集合体群と融着性樹脂粉体とを、ノズルへ供給するとともに、圧縮気体の作用によりノズルから気体中に噴出させて、繊維集合体群を個々の極細単繊維に分割し、分散させるとともに、融着性樹脂粉体を分散させる。このノズルを通過する圧縮気体の流れが実質的に層流であるのが好ましい。層流であると、極細単繊維同士の絡みが生じにくいため、極細単繊維が分散しやすくなる。一般的に、ノズルへ供給される繊維の平均繊維径が4μm以下(特には2μm以下)と細く、剛性が低い(柔らかい)場合、束状の極細単繊維集合体群の場合、或いは極細単繊維が有機成分からなり剛性が低い(柔らかい)場合には、絡みやすくなる。しかし、このような場合でも、ノズルへ供給する圧縮気体の流れを実質的に層流とすることによって、絡みを抑制することができる。なお、ノズルとしてベンチュリー管を使用することにより、ノズルを通過する圧縮気体の流れを実質的に層流とすることができる。
【0055】
なお、前記ノズルの噴出口から噴出させた前記融着性樹脂粉体及び繊維集合体群を、ノズル噴射口の前方に設けた衝突部材に衝突させ、極細単繊維及び融着性樹脂粉体の分散性を高めることができる。特に、ノズルを通過する圧縮気体の流れが層流である場合には、融着性樹脂粉体及び極細単繊維が分散しやすいように、衝突部材を設けるのが好ましい。
【0056】
圧縮気体としては任意の気体を利用することができるが、空気を用いるのが作業上好適である。また、圧縮気体は個々の極細単繊維に分割し、分散させるとともに、融着性樹脂粉体を分散させることができるように、ノズルの噴出口における気体通過速度が100m/sec以上であるのが好ましい。この「気体通過速度」は、ノズルから噴出された気体の1気圧における流量(m/sec)を、ノズル噴出口における横断面積(m)で除した値をいう。また、圧縮気体の圧力は、個々の極細単繊維に分割し、分散させるとともに、融着性樹脂粉体を分散させることができるように、2kg/cm以上であるのが好ましい。
【0057】
次いで、この分散した極細単繊維及び融着性樹脂粉体を集積して粉体含有繊維ウエブを形成する。この極細単繊維及び融着性樹脂粉体の集積は、例えば、多孔性のロールやネットなどの捕集部材を利用して実施することができる。なお、極細単繊維及び融着性樹脂粉体は自然落下させて集積することができるし、或いは捕集部材の下方から気体を吸引して集積することもできる。
【0058】
次いで、この粉体含有繊維ウエブ中に含まれている融着性樹脂粉体を溶融させることにより、極細単繊維同士を融着性樹脂粉体によって融着させる。この工程は、融着性樹脂粉体を溶融させ、融着させることができる限り、特に限定するものではないが、融着性樹脂粉体が溶融して粉体形状を消失し、液体状となった融着性樹脂が極細単繊維間(特には、極細単繊維の交差点)に凝集し、凝固して皮膜状態で融着できるように、融着性樹脂粉体の融点よりも10℃以上高く(好ましくは20℃以上)、極細単繊維の融点以下で熱処理をして、融着性樹脂粉体を溶融させるのが好ましい。
【0059】
なお、融着性樹脂粉体を溶融させ、凝固させて融着する際に、粉体含有繊維ウエブに対して過度の圧力が加わると、融着性樹脂が極細単繊維等によって形成された空隙に充填された状態となり、つまり、空隙率が低くなり、多孔構造であることの効果が得られなくなるため、無加圧下で溶融させるか、加圧しても、融着性樹脂が空隙に充填されない程度の軽度の加圧下で溶融させるのが好ましい。このような条件下で溶融させることのできる装置として、例えば、サクションドラムドライヤー、サクションコンベアドライヤー、フュージングオーブンなどを挙げることができる。なお、「融点」はJIS K 7121-1987に規定されている示差走査熱量分析(DSC)法により得られる融点をいう。
【0060】
そして、前記融着させた粉体含有繊維ウエブを、融着性樹脂粉体の融点より50℃以上低い温度で加圧して、本発明の不織布、つまり、空隙率が50〜95%で、単位目付あたりにおける引張り強さが1.5N/g以上の不織布を得ることができる。このように加圧することによって、所望の空隙率とすることができる。
【0061】
なお、この加圧時に融着した融着性樹脂を再度溶融させると、極細単繊維等によって形成された空隙に融着性樹脂が充填された状態となるため、融着性樹脂粉体の融点よりも50℃以上低い温度で加圧する。また、圧力は前記空隙率及び引っ張り強さの不織布となるような圧力であれば良く、特に限定するものではないが、カレンダーロール間で加圧する場合は、線圧1〜50Kg/cmであるのが好ましく、2〜40Kg/cmであるのがより好ましい。
【0062】
以上は、本発明の不織布の基本的な製造方法であるが、融着性樹脂粉体及び極細単繊維が均一に分散しやすいように、融着性樹脂粉体と繊維集合体群をノズルへ供給する前に、ミキサーなどを利用して混合するのが好ましい。
【0063】
また、粉体含有繊維ウエブを形成した後、融着性樹脂粉体を融着させる前に、粉体含有繊維ウエブを同じ又は異なるノズルに再度供給し、融着性樹脂粉体及び極細単繊維をノズルから気体中に噴出させて再分散させ、粉体含有繊維ウエブを形成することを繰り返し行うことができる。
【0064】
なお、平均繊維径の点において異なる極細単繊維の集合体の量が連続的に又は不連続的に変わるように、繊維集合体群をノズルへ供給しても良い。このように変化させると、平均繊維径の違いによって、見掛密度の異なる層又は領域を、厚さ方向に有する不織布を製造することができる。また、平均粒径及び/又は組成の点で異なる2種類以上の融着性樹脂粉体の配合量を、連続的に又は不連続的に変化させながらノズルへ供給することもできる。
【0065】
また、分散した極細単繊維及び融着性樹脂粉体を集積して粉体含有繊維ウエブを形成する際に、分散した極細単繊維及び融着性樹脂粉体を、極細単繊維を含まない材料(例えば、ネット、織物、編物、繊維径が4μmを超える繊維からなる不織布など)の上に集積させて、積層体を形成することもできる。なお、不織布を形成した後に、その不織布を前記のような極細単繊維を含まない材料と一体化することもできる。
【0066】
次に、本発明の不織布の製造に用いることのできる製造装置について、不織布製造装置の1態様の模式的説明図である図2に沿って説明する。なお、極細単繊維の集合体のみからなる繊維集合体群を用いる場合について説明する。
【0067】
まず、融着性樹脂粉体と極細単繊維の繊維集合体群を、ミキサーなどの混合装置10に装入して、極細単繊維の集合体群をより小さい集合体群に分割したり、極細単繊維に分割したり、解したり、或いは混合する。
【0068】
次いで、この解したり、或いは融着性樹脂粉体と混合された極細単繊維の集合体群は、混合装置10から供給管11を介してノズル30へ供給される。移送には、混合装置10に設けた搬送用気体供給装置(図示せず)から供給される適当な搬送用気体を用いることができる。ノズル30には、圧縮気体導入口20から圧縮気体が導入される。この圧縮気体の作用によって、融着性樹脂粉体と混合された極細単繊維の集合体群が確実にノズル30へ移動し、ノズル30から勢いよく、分散室40内の気体40a中へと噴出される。この気体40aへ噴出される際に、ノズル30内と気体40aとの気圧差によって、極細単繊維集合体群から極細単繊維70aが発生し、融着性樹脂粉体70bと共に、分散室40内で分散する。更に、ノズル30から噴出した極細単繊維70a及び融着性樹脂粉体70bを衝突部材45に衝突させることによって、極細単繊維集合体群の分割及び極細単繊維70aの分散を促進し、融着性樹脂粉体70bの分散を促進する。前記ノズル30の噴出口と衝突部材45の平坦部(衝突部)との距離は好ましくは1〜100mm、より好ましくは5〜40mm、更に好ましくは5〜30mm、更に好ましくは10〜30mm、最も好ましくは10〜20mmである。
【0069】
分散室40内の気体40a中に分散した極細単繊維70a及び融着性樹脂粉体70bは、分散室40内を降下し、分散室40の底部に設けたネットからなる捕集部材50上に集積して、粉体含有繊維ウエブ80を形成する。本発明で用いる製造装置においては、図2に示すとおり、分散室40の底部の捕集部材50の下方に気体吸引装置60を設けることができ、この気体吸引装置60によって分散室40内の気体40aを吸引し、極細単繊維70a及び融着性樹脂粉体70bの集積を促進することができる。
【0070】
次いで、エンドレスベルト状の捕集部材50により、粉体含有繊維ウエブ80を熱融着装置90へと搬送し、この熱融着装置90の熱の作用によって、融着性樹脂粉体70bを溶融させることにより、極細単繊維同士を融着する。その後、融着性樹脂粉体の融点よりも50℃以上低い温度に設定された一対のロール95a、95bによって加圧して、本発明の不織布83を製造することができる。そして、この不織布83は巻き取り装置100に巻き取られる。
【実施例】
【0071】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0072】
(実施例1)
共重合ポリエステルからなる海成分中に、ポリプロピレンからなる島成分が25個存在し、複合紡糸法により得た海島型繊維(繊度=1.7dtex、切断繊維長=1mm)を用意した。この海島型繊維を10mass%水酸化ナトリウム水溶液中に浸漬して、海成分である共重合ポリエステルを抽出除去した後、風乾して、ポリプロピレン極細単繊維(平均繊維径=2μm、切断繊維長=1mm、融点:160℃、フィブリル化していない、延伸されている、繊維軸方向において実質的に同じ直径を有する、付着物の付着率=0.02mass%未満)が束状となった極細単繊維の集合体を得た。
【0073】
他方、融着性樹脂粉体として、低密度ポリエチレン樹脂粉体(融点=107℃、平均粒子径=6μm、メルトフローインデックス=75g/10min.)を用意した。
【0074】
次いで、図2に示す不織布製造装置と同様の装置を用いて、不織布を製造した。すなわち、束状の極細単繊維の集合体群と低密度ポリエチレン樹脂粉体とをミキサーに供給して、これらを解すとともに混合した後、噴出口における横断面形状が円形(直径=8.5mm)のベンチュリー管に供給するとともに、ベンチュリー管の圧縮気体導入口から層流の圧縮空気(圧力=5kg/cm)を導入して、前記ベンチュリー管から前記混合物を空気中に噴出(ベンチュリー管の噴出口における気体通過速度=118m/s)し、前記ベンチュリー管の噴出口前方に設けた衝突部材に衝突させて、ポリプロピレン極細単繊維と低密度ポリエチレン樹脂粉体とを分散させた。前記ベンチュリー管の噴出口と衝突部材との距離は15mmであった。
【0075】
次いで、この分散させたポリプロピレン極細単繊維と低密度ポリエチレン樹脂粉体とを、ネットからなる捕集部材上に載置しておいた基材(目付が8g/mのポリエステル繊維製湿式不織布)上に集積させ、粉体含有繊維ウエブを形成した。なお、集積させる際には、捕集部材の下に設置されたサクションボックスにより空気を吸引(3m/min)した。この粉体含有繊維ウエブにおけるポリプロピレン極細単繊維と低密度ポリエチレン樹脂粉体との質量比率は1:1となっていた。
【0076】
次いで、粉体含有繊維ウエブを担持する湿式不織布基材を、温度132℃に設定され、ニップを開放した連続式接着機(アサヒ繊維機械工業(株)、JRシリーズ、モデルJR−600)で熱処理を実施し、低密度ポリエチレン樹脂粉体により融着して、融着繊維ウエブ−湿式不織布複合材を形成した。
【0077】
そして、この融着繊維ウエブ−湿式不織布複合材から融着繊維ウエブを剥離した後、融着繊維ウエブをスチールロールとコットンロールとからなるカレンダーロール(温度:50℃、線圧:25Kg/cm)に通して、目付40g/m、厚さ90μm(マイクロメーター使用)、空隙率51.7%、単位目付あたりにおける引っ張り強さが2.2N/gの不織布を製造した。なお、この不織布の付着物の付着率は0.02mass%未満であった。また、この不織布表面における電子顕微鏡写真を観察したところ(図3参照)、ポリプロピレン極細単繊維は束状態にはなく、個々の極細単繊維が分散した状態にあり、部分的に皮膜状の樹脂によって融着していた。
【0078】
この不織布を図4に示すような親水化処理装置によって、親水化を実施した。つまり、誘電体2a、2bとしてポリテトラフルオロエチレン膜(実質的に非多孔質、厚さ:0.1mm、大きさ:200mm×250mm)を担持した、一対の平板状ステンレススチール電極1a、1b(大きさ:150mm×210mm)を、誘電体同士が対向するように配置した放電処理装置の誘電体2a、2bによって、前記不織布3を一方の平板状ステンレススチール電極1aの自重を利用して挟持した。次いで、大気圧下、空気中で、両極性正弦波電圧(高周波電源4:AGI−020(春日電気製)、出力:800W、単位面積あたりの出力:1.6W/cm、単位面積あたりのエネルギー:12.7J/cm、周波数:20kHz)を両電極1a、1bに10秒間印加して、不織布3の内部空隙で放電を発生させ、親水化を実施して、親水化不織布を製造した。
【0079】
この親水化不織布の通気度、水酸化カリウム保液率、及び水酸化カリウムの加圧下保液率を、下記の方法によりそれぞれ測定した。その結果、通気度2.5cm/cm・sec.、水酸化カリウム保液率270%、水酸化カリウムの加圧下保液率5.7%であった。このように、通気性があり、しかも水酸化カリウム溶液の保持性に優れるものであったため、密閉型ニッケル水素二次電池用のセパレータとして好適に使用できるものであった。
1.通気度;
親水化不織布を裁断し、15cm×15cmの試験片を3枚採取し、その算術平均値を算出したこと以外は、JIS L 1096−8.27.1 A法(フラジール法)に則って測定した。
2.水酸化カリウム保液率;
(1)親水化不織布を裁断し、10cm×10cmの試験片を3枚採取した後、各試験片を温度20±2℃、相対湿度65±5%の環境下に2時間以上放置して、水分平衡に至らせた後、各試験片の質量(M、単位:g)を測定した(小数点第3桁まで)。
(2)各試験片を比重1.3(20℃)の水酸化カリウム水溶液の浴中に60分間浸漬させて十分吸収させた。
(3)各試験片を浴中から引き上げ、各試験片を10分間吊るすことにより、保持されていない水酸化カリウム水溶液を除去した後、各試験片の質量(M1、単位:g)を測定した(小数点第3桁まで)。
(4)次式により水酸化カリウム保液率(R、単位:%)を、各試験片について算出した後、各試験片の算術平均値を算出し、水酸化カリウム保液率とした。
R={(M1−M)/M}×100
3.水酸化カリウムの加圧下保液率;
(1)直径30mmの円形の試験片を親水化不織布の幅方向に均等に3枚採取した後、試験片を温度20±2℃、相対湿度65±5%の環境下に2時間以上放置して、水分平衡に至らせた後、各試験片の質量(M2、単位:g)を測定した(小数点第4桁まで)。
(2)各試験片を比重1.3(20℃)の水酸化カリウム水溶液の浴中に、−750mmHg以下の減圧下、10分間浸漬させて十分吸収させた。
(3)各試験片を浴中から引き上げ、各試験片の両面を3枚ずつのろ紙(ADVANTEC社製、TYPE2)で挟んだ後、加圧機により、4.52MPaの圧力を30秒間かけた。
(4)加圧後、速やかに各試験片を取り出し、各試験片の質量(M3、単位:g)を測定した(小数点第4桁まで)。
(5)次式により水酸化カリウムの加圧下保液率(Rp、単位:%)を、各試験片について算出した後、各試験片の算術平均値を算出(小数点第1桁まで)し、水酸化カリウムの加圧下保液率とした。
Rp={(M3−M2)/M2}×100
【0080】
(実施例2〜7及び比較例1〜6)
実施例1と同じポリプロピレン極細単繊維(平均繊維径=2μm、切断繊維長=1mm、融点:160℃、フィブリル化していない、延伸されている、繊維軸方向において実質的に同じ直径を有する、付着物の付着率=0.02mass%未満)が束状となった極細単繊維の集合体と、表1に示すような低密度ポリエチレン樹脂粉体を用いて、実施例1と全く同様の操作により、表1に示すような質量比率で極細単繊維と低密度ポリエチレン樹脂粉体とを含む粉体含有繊維ウエブを形成した。
【0081】
【表1】

【0082】
次いで、粉体含有繊維ウエブを担持する湿式不織布基材を、表2に示すような温度条件で熱処理を実施し、低密度ポリエチレン樹脂粉体により融着して、融着繊維ウエブ−湿式不織布複合材を形成した。なお、実施例2〜比較例4の熱処理には実施例1と同じ装置を用い、比較例5、6の熱処理にはオーブンを用いた。
【0083】
そして、この融着繊維ウエブ−湿式不織布複合材から融着繊維ウエブを剥離した後、融着繊維ウエブをスチールロールとコットンロールとからなるカレンダーロールを用いて、表2に示すような条件で加圧処理を行い、表2に示すような目付、厚さ(いずれもマイクロメーター使用)、空隙率、及び単位目付あたりにおける引っ張り強さを有する不織布を製造した。なお、いずれの不織布の付着物の付着率も0.02mass%未満であった。
【0084】
【表2】

【0085】
実施例2〜実施例7の不織布表面における電子顕微鏡写真を観察したところ、ポリプロピレン極細単繊維は束状態にはなく、個々の極細単繊維が分散した状態にあり、部分的に皮膜状の樹脂によって融着していた。なお、実施例7の不織布においては、皮膜状の樹脂が不織布表面に露出した状態にあり、また、皮膜状の樹脂1つあたりの面積が、実施例1〜6の不織布の皮膜状の樹脂1つあたりの面積よりも広い状態にあった。
【0086】
また、比較例1〜比較例4の不織布表面における電子顕微鏡写真を観察したところ、ポリプロピレン極細単繊維は束状態にはなく、個々の極細単繊維が分散した状態にあり、部分的に皮膜状の樹脂によって融着していたが、引張り強さはいずれも1.5N/gに達せず、強度の弱いものであった。
【0087】
比較例5の不織布表面における電子顕微鏡写真を観察したところ、ポリプロピレン極細単繊維は束状態にはなく、個々の極細単繊維が分散した状態にあったが、低密度ポリエチレン樹脂粉体が粒子形状で存在し、皮膜状の樹脂による融着は殆ど見られず、引っ張り強さの極めて弱いものであった。
【0088】
比較例6の不織布表面における電子顕微鏡写真を観察したところ、ポリプロピレン極細単繊維は束状態にはなく、個々の極細単繊維が分散した状態にあったが、低密度ポリエチレン樹脂粉体が融着し、ところどころに穴の開いた連続皮膜を形成して、極細単繊維によって形成された空隙を埋めており、空隙率が低く、極細単繊維の広い表面積を有効に利用できないものであった。
【図面の簡単な説明】
【0089】
【図1】本発明の不織布の表面における電子顕微鏡写真
【図2】不織布製造装置の1態様の模式的説明図
【図3】本発明の実施例1の不織布の表面における電子顕微鏡写真
【図4】実施例1において使用した親水化処理装置の模式的断面図
【符号の説明】
【0090】
1a、1b 電極
2a、2b 誘電体
3 不織布
4 高周波電源
10 混合装置
11 供給管
20 圧縮気体導入口
30 ノズル
40 分散室
45 衝突部材
50 捕集部材
60 気体吸引装置
70a 極細単繊維
70b 融着性樹脂粉体
80 粉体含有繊維ウエブ
83 不織布
90 熱融着装置
95a、95b ロール
100 巻き取り装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均繊維径が4μm以下、かつ単一樹脂成分からなる極細単繊維を主体とし、この極細単繊維間が皮膜状の樹脂によって融着した、極細単繊維が束状態になく、個々の極細単繊維が分散した不織布であり、前記不織布の空隙率が50〜95%、かつ単位目付あたりにおける引張り強さが1.5N/g以上であることを特徴とする不織布。
【請求項2】
極細単繊維がポリオレフィン系樹脂からなることを特徴とする、請求項1記載の不織布。
【請求項3】
皮膜状の樹脂がポリオレフィン系樹脂からなることを特徴とする、請求項1又は請求項2記載の不織布。
【請求項4】
平均繊維径が4μm以下、かつ単一樹脂成分からなる極細単繊維の集合体を主体とする繊維集合体群を、融着性樹脂粉体とともに、圧縮気体の作用によりノズルから気体中に噴出させて、前記繊維集合体群を個々の極細単繊維に分割し、分散させるとともに、融着性樹脂粉体を分散させる工程、
分散した極細単繊維及び融着性樹脂粉体を集積して粉体含有繊維ウエブを形成する工程、
及び前記融着性樹脂粉体を溶融させることにより、極細単繊維同士を融着性樹脂粉体によって融着させる工程、
融着させた粉体含有繊維ウエブを、前記融着性樹脂粉体の融点より50℃以上低い温度で加圧する工程、
とを含む、空隙率が50〜95%、かつ単位目付あたりにおける引張り強さが1.5N/g以上の不織布の製造方法。
【請求項5】
極細単繊維がポリオレフィン系樹脂からなることを特徴とする、請求項4記載の不織布の製造方法。
【請求項6】
融着性樹脂粉体がポリオレフィン系樹脂からなることを特徴とする、請求項4又は請求項5記載の不織布の製造方法。
【請求項7】
融着性樹脂粉体の平均粒子径が0.5〜50μmであることを特徴とする、請求項4〜請求項6のいずれかに記載の不織布の製造方法。
【請求項8】
融着性樹脂粉体のメルトフローインデックスが20〜100g/10min.であることを特徴とする、請求項4〜請求項7のいずれかに記載の不織布の製造方法。
【請求項9】
繊維集合体群と融着性樹脂粉体との質量比率が、1:0.5〜2であることを特徴とする、請求項4〜請求項8のいずれかに記載の不織布の製造方法。
【請求項10】
融着性樹脂粉体の融点よりも10℃以上高い温度で熱処理をして、融着性樹脂粉体を溶融させることを特徴とする、請求項4〜請求項9のいずれかに記載の不織布の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−184701(P2008−184701A)
【公開日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−17469(P2007−17469)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(000229542)日本バイリーン株式会社 (378)
【Fターム(参考)】