説明

不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸製造用触媒とその製造方法、および不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸の製造方法

【課題】
機械的強度、活性および収率が優れた不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸合成用触媒の製造方法、触媒、およびその触媒を使用し、不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸を製造する方法を提供する。
【解決手段】
モリブデン、ビスマスおよび鉄を必須成分とする複合酸化物触媒の製造方法において、触媒成分元素の出発原料を混合した後、熱処理することにより得られる触媒前駆体の室温〜110℃の範囲における質量減量率L1を、0.5〜10質量%の範囲に調整し、この触媒前駆体を成形、焼成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、機械的強度に優れた不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸製造用の複合酸化物触媒の製造方法とその製造方法によって得られた触媒、およびその触媒を用いて、プロピレン、イソブチレン、t−ブチルアルコールおよびメチル−t−ブチルエーテルから選ばれる少なくとも一種の化合物を、分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化して、対応する不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
プロピレン、イソブチレン、t−ブチルアルコールまたはメチル−t−ブチルエーテルの気相接触酸化反応により対応する不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸を効率よく製造するための触媒に関して種々の製造方法が提案されている。
【0003】
たとえば、特許文献1には、触媒成分を含む混合溶液または水性スラリーを濃縮乾固し、その乾燥品を200〜450℃の範囲で塩分解を行い、次いで焼成する方法が開示されている。特許文献2には、触媒原料塩水溶液を加熱処理して灼熱減量が1%〜5%である触媒前駆体を得て、それを成型、焼成する方法が開示されている。特許文献3には、触媒原料塩または水性スラリーを加熱処理して、減量率が10%以上40%未満の触媒前駆体を調製し、バインダーを添加し成型、焼成する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−10587号公報
【特許文献2】特開2001−96162号公報
【特許文献3】特開2003−251183号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、これら従来方法によって製造された触媒は、機械的強度や、工業的規模で製造した際に、活性、選択性などの触媒性能の再現性に問題があり、機械的強度が高く、安定して高い性能の触媒を得るべく、触媒の製造方法にさらなる改良が望まれている。
【0006】
本発明の目的は、プロピレン、イソブチレン、t−ブチルアルコールおよびメチル−t−ブチルエーテルなどの、分子状酸素または分子状酸素含有ガスを用いた接触気相酸化により、対応する不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸を製造するための触媒であって、機械的強度、活性および収率が優れた触媒の安定した製造方法を提供することであり、本発明の別の目的は、その製造方法で製造された機械的強度、活性および収率が優れた触媒、ならびに該触媒の存在下に、プロピレン、イソブチレン、t−ブチルアルコールおよびメチル−t−ブチルエーテルから選ばれる少なくとも一種の化合物を、分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化して、対応する不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸を長期間安定して高収率で製造する方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、かかる課題を解決するべく、触媒の各製造工程を詳細に鋭意検討を行った結果、触媒成分元素の出発原料を混合した後、熱処理することにより得られる触媒前駆体を成型、焼成して得られる複合酸化物触媒の製造方法において、該触媒前駆体の性状が最終的に得られる触媒の機械的強度、活性および選択性などの性能に影響することを見出した。詳しくは触媒前駆体の性状として、該触媒前駆体の室温〜110℃の範囲における質量減量率L1を、0.5〜10質量%の範囲とすることで、機械的強度に優れ、かつ、安定して高い活性および選択性を示す触媒が製造できることを見出し本発明に至った。
【0008】
さらに、前記触媒前駆体の室温〜110℃の範囲における質量減量率L1と、110〜500℃の範囲における質量減量率L2との割合を特定の範囲、すなわち、下記式(1)で表わされる質量減量率割合Rを0.020〜0.50の範囲とすることで、高い活性、選択性を維持してより高い機械的強度の触媒が再現性よく製造できることも見出した。
【0009】
R= L1/L2 (1)
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、機械的強度、活性および収率が優れた不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸合成用複合酸化物触媒を安定して再現性よく製造することができ、その結果、高価な触媒の製造時のロスが大幅に削減できる。また、得られた触媒を用いて、プロピレン、イソブチレン、t−ブチルアルコールおよびメチル−t−ブチルエーテルなどを、分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより気相接触酸化することにより、それぞれ対応する不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸を長期間安定して高収率で製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明の範囲は以下の説明内容には制限されず、本発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更し実施することができる。
【0012】
本発明における不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸製造用触媒の製造方法は、まず、触媒成分元素の出発原料を混合した後、熱処理することにより得られる触媒前駆体の室温〜110℃の範囲における質量減量率L1を0.5〜10質量%、好ましくは0.5〜7質量%の範囲に調整することで達成される。
ここで質量減量率は触媒前駆体の熱重量分析(TG)により以下の方法で測定される。
[質量減量率の測定]
触媒前駆体から質量減量率測定のための試料として熱重量分析に要する量(約20mg)を精評し(室温の触媒前駆体質量)、熱重量分析(TG)装置により、室温より毎分10℃の速度で500℃まで昇温し、試料の質量を温度の関数として測定する。測定された試料の質量変化から、触媒前駆体の室温〜110℃の範囲における質量減量率L1、110〜500℃の範囲における質量減量率L2は、下記式より算出される。
【0013】
L1(質量%)=(W1−W2)/W1×100
L2(質量%)=(W2−W3)/W1×100
ここで、W1=室温での触媒前駆体質量(mg)
W2=110℃到達時の触媒前駆体質量(mg)
W3=500℃到達時の触媒前駆体質量(mg)
尚、分析に使用する熱重量分析(TG)装置は一般的な仕様のものでよく、示差熱分析(DTA)と同時に測定できるように構成されたもの(TG−DTA)が好適に使用される。
【0014】
さらに、本発明においては、上記触媒前駆体の室温〜110℃の範囲における質量減量率L1と、110〜500℃の範囲における質量減量率L2との割合、すなわち、下記式(1)で表される触媒前駆体の質量減量率割合Rが0.020〜0.50の範囲であるのが好ましい。
【0015】
R= L1/L2 (1)
本発明で使用することができる触媒成分元素の出発原料については特段の制限はなく、一般にこの種の触媒に使用される金属元素の酸化物、水酸化物、アンモニウム塩、硝酸塩、炭酸塩、硫酸塩、塩化物、有機酸塩などの塩類や、それらの水溶液、ゾルなど、あるいは、これらの混合物を組み合わせて用いることができる。中でも、アンモニウム塩や硝酸塩が好適に用いられる。
【0016】
これら触媒成分原料の出発原料を、例えば、水に溶解あるいは懸濁させて水溶液あるいは水性スラリー(以下、「出発原料混合液」と記すこともある。)とする。
【0017】
出発原料混合液は、この種の触媒に一般に用いられている方法により調製すればよく、上記出発原料の各々を水溶液あるいは水性スラリーとし、これらを順次混合すればよい。また、一つの出発原料を複数の水溶液あるいは水性スラリーとし分割して混合することもできる。出発原料の混合条件(混合順序、温度、圧力、pH等)については特に制限はない。こうして得られた出発原料混合液を加熱処理し、触媒前駆体を得る。
【0018】
本発明においては、触媒前駆体の室温〜110℃の範囲における質量減量率L1が、0.5〜10質量%に調整できる方法であればよく、触媒前駆体を得るための加熱処理方法および触媒前駆体の形態については特に限定はない。例えばスプレードライヤー、ドラムドライヤー等を用いて粉末状の触媒前駆体を得てもよいし、箱型乾燥機、トンネル型乾燥機等を用いて、空気気流中や、窒素などの不活性ガス気流中など気体流通下で加熱してブロック状またはフレーク状の触媒前駆体を得てもよい。好ましくは、出発原料混合液を濃縮、蒸発乾固して塊状の固形物を得て、箱型乾燥器、トンネル型乾燥器等を用いて乾燥すればよい。その際、触媒前駆体の室温〜110℃の範囲における質量減量率L1が0.5〜10質量%となるように加熱処理条件を設定する。例えば、箱型乾燥機を用いる場合、加熱ガス温度および/または加熱ガスの線速度および/または加熱処理時間を調節することで触媒前駆体の質量減量率L1は調整でき、加熱ガス温度が高いほど、加熱ガスの線速度が大きいほど、また、加熱処理時間が長いほど触媒前駆体の質量減量率を小さくすることができる。
【0019】
上記した加熱ガス温度や加熱ガス線速などの加熱処理条件は、使用する加熱装置(乾燥機)の種類や加熱装置の特性によって適宜選択されるべきであって一概に特定できないが、気体流通下、230℃以下の温度で3〜24時間処理すればよい。
【0020】
得られた触媒前駆体の室温〜110℃の範囲における質量減量率が10質量%以上となった場合、加熱ガス温度を変えるなど条件を変更して再度加熱処理を実施して質量減量率が上記範囲内に入るよう調整すればよい。
【0021】
また、乾燥器に搬入する塊状の固形物の大きさを適当な範囲に調整しても触媒前駆体の質量減量率L1は調整できる。サイズの小さい固形物が多い場合、乾燥時の固形物間での加熱ガスの流れが悪くなり蓄熱が生じ、逆に固形物のサイズが大きすぎると固形物内部での蓄熱により発熱するなどして、触媒前駆体の質量減量率L1の調整が難しくなることがある。そのため、固形物の任意の2端の距離が最長で30mm未満の固形物が、質量基準で固形物全体の5割未満とすることが好ましい。また、固形物の任意の2端の距離が最長で150mm以下であることがより好ましく、さらに、最長で100mm以上の固形物を全体の5割未満とすることが好ましい。
【0022】
このようにして、触媒前駆体の室温〜110℃の範囲における質量減量率L1を、0.5〜10質量%とすることで、触媒前駆体を成型、焼成して触媒とした際に機械的強度、活性および収率が優れた不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸合成用触媒が再現性よく得られる。その理由は定かではないが、室温〜110℃の範囲における質量減量率L1が0.5〜10質量%である場合、室温〜110℃での質量減少は、水分を主体とする液相であり、触媒前駆体を成型、焼成して触媒とする際に、触媒前駆体に含まれる水を主体とする液相が機械的強度、活性および収率が優れた不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸合成用触媒に好適な粒子、細孔容積、形状等の物性を発現させるのに有効で、その作用が後述する成型工程で添加する成型助剤やバインダー等よりも大きく影響するものと推測される。
【0023】
上記のように質量減量率L1を調整された触媒前駆体は、必要に応じて適当な粒度の粉体を得るための粉砕工程や分級工程を経て、続く成形工程に送られる。なお、上記触媒前駆体の粉体の粒度は、成形性に優れる点で500μm以下、好ましくは300μm以下である。
【0024】
触媒の成形方法としては、前記触媒前駆体を押し出し成形法や打錠成形法などにより一定の形状に成形する方法、一定の形状を有する任意の不活性担体上に担持する担持法などがある。これらの方法は適宜選択し、組み合わせて使用することもできるが、中でも、触媒活性成分を一定の形状を有する任意の不活性担体に担持させる担持法が好ましい。
【0025】
また、触媒前駆体は粉体状の不活性物質と混合して成型工程に使用することもできる。
【0026】
触媒形状に特に制限はなく、球状、円柱状、リング状、不定形などのいずれの形状でもよい。もちろん球状の場合、真球である必要はなく実質的に球状であればよく、円柱状およびリング状についても同様に断面形状は真円である必要は無く、実質的に円形であればよい。
【0027】
担持法としては、例えば、特開平6−381号公報および特開平10−28877号公報に記載の不活性担体に触媒活性成分を粉体状で担持させる方法などに準じて製造することができる。
【0028】
成形工程においては、成形性を向上させるための成形助剤やバインダーなどを用いることができる。具体例としては、エチレングリコール、グリセリン、プロピオン酸、マレイン酸、ベンジルアルコール、プロピルアルコール、ブチルアルコールまたはフェノール類の有機化合物や硝酸、硝酸アンモニウム、炭酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0029】
また、本触媒には機械的強度を向上させる目的で、補強材として一般に知られているガラス繊維や、シリカ、アルミナ、炭化珪素、窒化珪素などの無機質繊維を添加してもよい。
【0030】
これらの無機質繊維の添加方法については、特に制限はなく、触媒中に無機質繊維が均一に分散、含有されるようにし得るものであれば、いずれの方法も用いることができる。例えば、触媒活性成分の出発原料混合液に無機質繊維を添加しても、あるいは触媒活性成分の出発原料混合液を乾燥した後に得られる触媒前駆体に無機質繊維を添加してもよい。
【0031】
上記成形工程で得られた成形体あるいは担持体は、続く焼成工程に送られる。焼成温度としては350〜600℃、好ましくは400〜550℃、更に好ましくは420〜500℃、焼成時間としては好ましくは1〜10時間である。焼成雰囲気としては、酸化雰囲気であれば良いが、分子状酸素含有ガス雰囲気が好ましい。分子状酸素含有ガスとしては空気が好適に用いられる。焼成工程で用いる焼成炉には特に制限はなく、一般的に使用される箱型焼成炉あるいはトンネル型焼成炉等を用いればよい。
【0032】
本発明の製造方法は、従来より公知の酸化物触媒の製造に使用することができる。具体的には、下記一般式(1)で表される触媒活性成分を有する酸化物触媒の製造に好適に使用できる。
Mo12BiFe (1)
(ここで、Moはモリブデン、Biはビスマス、Feは鉄、Aはコバルトおよびニッケルからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素、Bはアルカリ金属、アルカリ土類金属およびタリウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素、Cはタングステン、ケイ素、アルミニウム、チタンおよびジルコニウムからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素、Dはリン、テルル、アンチモン、スズ、セリウム、鉛、ニオブ、マンガン、砒素および亜鉛からなる群より選ばれる少なくとも一種の元素、Oは酸素を表し、a、b、c、d、e、fおよびxはそれぞれBi、Fe、A、B、C、D及びOの原子比を表し、0<a≦10、0<b≦20、2≦c≦20、0<d≦10、0≦e≦30、0≦f≦4であり、xは各元素の酸化状態により定まる値をとる。)
本発明においては、プロピレン、イソブチレン、t−ブチルアルコールおよびメチル−t−ブチルエーテルから選ばれる少なくとも一種の化合物を、分子状酸素または分子状酸素含有ガスにより接触気相酸化して、対応する不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸を製造するに際して、上記の方法で製造された触媒の存在下に行えるものであれば、用いる反応器については特段の制限はなく、固定床反応器、流動床反応器、移動床反応器のいずれも用いることができるが、本願発明においては、固定床反応器が好適に用いられる。
【0033】
本発明で使用する反応原料は、プロピレン、イソブチレン、t−ブチルアルコールおよびメチル−t−ブチルエーテルから選ばれる少なくとも一種の化合物または該化合物含有ガスである。本発明は例えばプロピレンを出発原料とする2工程の接触気相酸化によるアクリル酸の製造における第1工程として重要であり、得られたアクロレイン含有の生成ガスをそのまま、あるいはアクロレインを分離し、必要に応じて、酸素、水蒸気その他のガスを添加して、第2工程のアクロレイン酸化に用いることもできる。
【0034】
本発明における、プロピレン、イソブチレン、t−ブチルアルコールおよびメチル−t−ブチルエーテルから選ばれる少なくとも一種の化合物または該化合物含有ガスを反応原料とし、分子状酸素または分子状酸素含有ガスでの接触気相酸化による不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸を製造する方法においては、反応条件に特に制限はなく、この種の反応に一般に用いられている条件下に実施することができる。例えば、プロピレンからアクロレインおよびアクリル酸を製造する反応の定常状態での設定条件として、反応原料ガス組成として、1〜15体積%好ましくは4〜12体積%のプロピレン、0.5〜25体積%好ましくは2〜20体積%の分子状酸素、0〜30体積%好ましくは0〜25体積%の水蒸気、残部が窒素などの不活性ガスからなる混合ガスを280〜430℃、好ましくは280〜400℃の温度範囲で0.1〜1.0MPaの反応圧力下で、100〜600hr−1(標準状態)、好ましくは120〜300hr−1(標準状態)のプロピレン空間速度で酸化触媒に接触させればよい。
【0035】
反応原料ガスとしての原料グレードについては特に制限はなく、例えば、原料としてプロピレンを用いる場合、ポリマーグレードやケミカルグレードのプロピレンなどを用いることができる。また、プロパンの脱水素反応や酸化脱水素反応によって得られるプロピレン含有の混合ガスも使用可能であり、この混合ガスに必要に応じ、空気または酸素などを添加して使用することもできる。
【実施例】
【0036】
以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。なお、以下では、便宜上、「質量部」を単に「部」、と記すことがある。なお、転化率および収率は以下の式により算定した。
転化率(モル%)
=(反応した出発原料のモル数/供給した出発原料のモル数)×100
収率(モル%)
=(生成した不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸のモル数/供給した出発原料のモル数)×100
[触媒強度測定方法]
内径25mm、長さ5000mmのステンレス製反応管を鉛直方向に設置し、該反応管の下端を厚さ1mmのステンレス製受け板で塞ぐ。約50gの触媒を評量し、該反応管の上端から反応管内に落下させた後、反応管下端のステンレス製受け板を外し、反応管から触媒を静かに抜き出す。抜き出した触媒を目開き5mmの篩でふるい、篩上に残った触媒の質量を計量した。
触媒強度(質量%)
=(篩上に残った触媒の質量/反応管上端から落下させた触媒の質量)×100
<実施例1>
[触媒調製]
イオン交換水500部に硝酸コバルト341部および硝酸ニッケル82部を溶解した。また、硝酸第二鉄92部および硝酸ビスマス128部を65重量%の硝酸75部とイオン交換水300部とからなる硝酸水溶液に溶解した。別に、イオン交換水1500部にパラモリブデン酸アンモニウム400部およびパラタングステン酸アンモニウム5.1部を添加し、攪拌しながら溶解した。得られた水溶液に上記別途調製した2つの水溶液を滴下、混合し、次いで硝酸カリウム1.9部をイオン交換水30部に溶解した水溶液を添加し懸濁液を得た。得られた懸濁液を加熱、粘土状になるまで攪拌した後、自然冷却し、塊状の固形物を得た。得られた塊状の固形物を破砕し、任意の2端の距離が最長で30mm以上100mm未満の固形物が7割、30mm未満の固形物が3割であった。これらをトンネル型乾燥器に搬入し、170℃で14時間乾燥後に、500μm以下に粉砕し、触媒前駆体粉体を得た。熱重量分析による該触媒前駆体粉体の室温〜110℃の範囲における質量減量率L1は5.8質量%、110〜500℃の範囲における質量減量率L2は18.1質量%であり、室温〜110℃の範囲における質量減量率L1と110〜500℃の範囲における質量減量率L2の割合Rは0.32であった。転動造粒機に平均粒径5.0mmのアルミナ球状担体340部を投入し、次いで結合剤として20質量%の硝酸アンモニウム水溶液とともに触媒粉体を徐々に投入して担体に担持させた後、空気雰囲気下470℃で6時間熱処理をして触媒1を得た。この触媒1の酸素および担体を除く金属元素組成は次のとおりであった。
【0037】
Mo12Bi1.4Ni1.5Co6.2Fe1.20.10.1
また、触媒1の次式より算出した担持率は約140質量%であった。
担持率(質量%)=(担持された触媒粉体の質量/使用した担体の質量)×100
さらに、触媒1の触媒強度は98.8質量%であった。
[反応器]
全長3000mm、内径25mmの鋼鉄製の反応管と、これを覆う熱媒体を流すためのシェルとからなる反応器を鉛直方向に用意した。反応管上部より触媒1を落下させて、反応帯の層長が2900mmとなるように充填した。
[酸化反応]
熱媒体温度を320℃に保ち、触媒を充填した反応管に、プロピレン7.0容量%、酸素13.5容量%、水蒸気10.1容量%、残りは窒素等の不活性ガスからなる混合ガスを、プロピレン空間速度125hr−1(標準状態)で導入し、プロピレン酸化反応を行った。プロピレン転化率は97.6%、アクロレインおよびアクリル酸収率は93.0%であった。
<実施例2>
実施例1において、硝酸コバルトを313部に、硝酸ニッケルを110部に、および硝酸ビスマスを110部に変更し、塊状の固形物を190℃で7時間乾燥した以外は実施例1と同様にして触媒2を得た。触媒前駆体粉体の熱重量分析による室温〜110℃の範囲における質量減量率L1は0.9質量%、110〜500℃の範囲における質量減量率L2は10.0質量%であり、室温〜110℃の範囲における質量減量率L1と110〜500℃の範囲における質量減量率L2の割合Rは0.090であった。この触媒2の酸素および担体を除く金属元素組成は次のとおりであった。
【0038】
Mo12Bi1.2NiCo5.7Fe1.20.10.1
また、触媒2の担持率は約140質量%であった。さらに、触媒2の触媒強度は99.0質量%であった。
[酸化反応]
得られた触媒2を、実施例1と同様に反応器に充填し、実施例1と同条件でプロピレン酸化反応を行った。プロピレン転化率は97.8%、アクロレインおよびアクリル酸収率は92.9%であった。
<実施例3>
実施例1において、得られた塊状の固形物を、任意の2端の距離が最長で30mm以上100mm未満の固形物を6割、100mm以上150mm未満の固形物を2割、30mm未満の固形物を2割になる様に破砕したこと、および180℃で11時間乾燥したこと以外は実施例1と同様にして触媒3を得た。熱重量分析による該触媒前駆体粉体の室温〜110℃の範囲における質量減量率L1は6.5質量%、110〜500℃の範囲における質量減量率L2は15.8質量%であり、室温〜110℃の範囲における質量減量率L1と110〜500℃の範囲における質量減量率L2の割合Rは0.41であった。この触媒3の酸素を除く金属元素組成は触媒1と同じであり、担持率は約140質量%であった。さらに、触媒3の触媒強度は99.1質量%であった。
[酸化反応]
得られた触媒3を、実施例1と同様に反応器に充填し、実施例1と同条件でプロピレン酸化反応を行った。プロピレン転化率は97.7%、アクロレインおよびアクリル酸収率は93.2%であった。
<実施例4>
実施例2において、塊状の固形物を145℃で15時間乾燥した以外は実施例2と同様にして触媒6を得た。触媒前駆体粉体の熱重量分析による室温〜110℃の範囲における質量減量率L1は9.1質量%、110〜500℃の範囲における質量減量率L2は24.3質量%であり、室温〜110℃の範囲における質量減量率L1と110〜500℃の範囲における質量減量率L2の割合Rは0.37であった。この触媒6の酸素を除く金属元素組成は触媒2と同じであり、担持率は約140質量%であった。さらに、触媒6の触媒強度は98.5質量%であった。
[酸化反応]
得られた触媒6を、実施例2と同様に反応器に充填し、実施例2と同条件でプロピレン酸化反応を行った。プロピレン転化率は97.5%、アクロレインおよびアクリル酸収率は93.2%であった。
<比較例1>
実施例1において、得られた塊状の固形物を、任意の2端の距離が最長で30mm以上100mm未満の固形物を3割、30mm未満の固形物を7割になる様に破砕したこと以外は実施例1と同様にして触媒4を得た。熱重量分析による該触媒前駆体粉体の室温〜110℃の範囲における質量減量率L1は0.30質量%、110〜500℃の範囲における質量減量率L2は16.7質量%であり、室温〜110℃の範囲における質量減量率L1と110〜500℃の範囲における質量減量率L2の割合Rは0.018であった。この触媒4の酸素を除く金属元素組成は触媒1と同じであり、担持率は約130質量%であった。さらに、触媒4の触媒強度は89.0質量%であった。
[酸化反応]
得られた触媒4を、実施例1と同様に反応器に充填し、実施例1と同条件でプロピレン酸化反応を行った。プロピレン転化率は97.1%、アクロレインおよびアクリル酸収率は91.2%であった。
【0039】
上記のように、触媒4は触媒強度が弱く、触媒充填時に触媒活性成分の粉化等により、触媒充填層の圧力損失が高くなり、逐次反応が進行したこともあり、アクロレインおよびアクリル酸収率が低下した。
<比較例2>
実施例2において、得られた塊状の固形物をそのまま乾燥した以外は実施例2と同様にして触媒5を得た。このとき塊状の固形物は、任意の2端の距離が最長で30mm以上100mm未満の固形物が3割、100mm以上150mm未満の固形物が6割、30mm未満の固形物が1割であった。熱重量分析による該触媒前駆体粉体の室温〜110℃の範囲における質量減量率L1は0.16質量%、110〜500℃の範囲における質量減量率L2は10.0質量%であり、室温〜110℃の範囲における質量減量率L1と110〜500℃の範囲における質量減量率L2の割合Rは0.016であった。この触媒5の酸素を除く金属元素組成は触媒2と同じであり、担持率は約130質量%であった。さらに、触媒5の触媒強度は91.3質量%であった。
[酸化反応]
得られた触媒5を、実施例1と同様に反応器に充填し、実施例1と同条件でプロピレン酸化反応を行った。プロピレン転化率は97.5%、アクロレインおよびアクリル酸収率は91.9%であった。
【0040】
上記のように、触媒5は触媒2に比べて触媒強度が弱く、アクロレインおよびアクリル酸収率も低かった。
<比較例3>
実施例2において、得られた塊状の固形物をそのまま135℃で12時間乾燥した以外は実施例2と同様にして触媒7を得た。このとき塊状の固形物は、任意の2端の距離が最長で30mm以上100mm未満の固形物が3割、100mm以上150mm未満の固形物が6割、30mm未満の固形物が1割であった。熱重量分析による該触媒前駆体粉体の室温〜110℃の範囲における質量減量率L1は13.8質量%、110〜500℃の範囲における質量減量率L2は27.1質量%であり、室温〜110℃の範囲における質量減量率L1と110〜500℃の範囲における質量減量率L2の割合Rは0.51であった。この触媒7の酸素を除く金属元素組成は触媒2と同じであり、担持率は約130質量%であった。さらに、触媒7の触媒強度は90.2質量%であった。
[酸化反応]
得られた触媒7を、実施例2と同様に反応器に充填し、実施例2と同条件でプロピレン酸化反応を行った。プロピレン転化率は96.9%、アクロレインおよびアクリル酸収率は91.5%であった。
【0041】
上記のように、触媒7は触媒5に比べて触媒強度が弱く、アクロレインおよびアクリル酸収率も低かった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
モリブデン、ビスマスおよび鉄を必須成分とする不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸製造用複合酸化物触媒の製造方法であって、触媒成分元素の出発原料を混合した後、熱処理することにより触媒前駆体を得る工程、該触媒前駆体を成型する工程、得られた成形体を焼成する工程とを含み、当該触媒前駆体の室温〜110℃の範囲における質量減量率L1が、0.5〜10質量%であることを特徴とする不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸製造用複合酸化物触媒の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸製造用複合酸化物触媒の製造方法において、下記式(1)で表される触媒前駆体の質量減量率割合Rが0.020〜0.50の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸製造用複合酸化物触媒の製造方法。
R= L1/L2 (1)
ここで、L2は触媒前駆体の110〜500℃の範囲における質量減量率(質量%)を表わす。
【請求項3】
請求項1または2に記載の方法により製造された不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸製造用の複合酸化物触媒。
【請求項4】
プロピレン、イソブチレン、t−ブチルアルコールおよびメチル−t−ブチルエーテルからなる群より選ばれる少なくとも1種の原料化合物の含有ガスを分子状酸素または分子状酸素含有ガスの存在下で接触気相酸化することにより、前記原料化合物に対応する不飽和アルデヒドおよび不飽和酸を製造する方法において、請求項3に記載の複合酸化物触媒を用いることを特徴とする不飽和アルデヒドおよび不飽和カルボン酸の製造方法。

【公開番号】特開2012−20240(P2012−20240A)
【公開日】平成24年2月2日(2012.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−160481(P2010−160481)
【出願日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】