両親媒性グリコペプチド
血液脳関門を通過することができる両親媒性のグリコペプチドが提供される。当該グリコペプチドは、種々の神経障害および行動障害を治療するために有効である。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2004年3月29日に出願されたU.S.出願シリアルNo.60/557,740、2004年6月25日に出願されたU.S.出願シリアルNo.60/583,257、および2005年1月5日に出願されたU.S.出願シリアルNo.60/641,492の優先権を主張し、これらの各々を参照により本明細書の開示内容の一部とする。
【連邦政府による資金提供を受けた研究または開発に関する陳述】
【0002】
本明細書に記載される発明は、ONR-N00014-02-1-0471およびNSF-CHE9526909により資金提供を受けた。したがって、政府が本発明に対して一定の権利を有し得る。
【発明の背景】
【0003】
発明の分野
本発明は、両親媒性であるグリコペプチドに関する。本発明のグリコペプチドは、血液脳関門(BBB)を通過することができる。その結果、当該グリコペプチドは、種々の神経障害および行動障害を治療するためのものである。
【0004】
背景の説明
内因性オピオイドペプチドは、総称エンドルフィンとしてひとまとめにされ、1970年代半ばに発見されて以来、熱心な研究の対象であった(1)。神経ペプチドは、副作用のほとんどない非常に選択的な薬理学的関与の可能性を有している。これらの天然に存在するオピオイドペプチドおよびこれらの誘導体を、血液脳関門(BBB)を通過可能にすることができれば、精神薬理学の新たな展望が、探究へと開かれるでしょう。30年の研究の後、多くの有効で選択的なオピオイドアゴニストが開発され、安定性の問題が大幅に克服された。オピオイドペプチドの薬剤としての使用を妨げる残る主要な問題は、バイオアベイラビリティの低さであり、これは、BBBの透過の低さによるものである(2)。BBBは、脳血管の毛細血管床における内皮細胞から構成される(3)。BBBは、望ましくない化学物質に対するバリアとして機能し、CNSの適切な機能のために生命維持に必要な栄養物が入ることを許容する(4)。その流れは、双方向性であり、CNSからの物質の搬出(流出トランスポート)および血液からの物質の搬入(流入トランスポート)を許容する。BBBは、物理的な障害物を表すだけでなく、代謝的な障害物も表し、酸化酵素およびペプチダーゼ(たとえばアミノペプチダーゼ、アリールアミダーゼおよびエンケファリナーゼ)の両方を保有する。このため、代謝的に不安定な物質(たとえばペプチド)は、CNSに到達する前に一般には分解される。また、多くのペプチドが、迅速に血流へと逆行して搬出されるように、CNSへの流入は、薬剤が有効な濃度で蓄積することを保証しないことに留意すべきである(5)。BBB透過の問題を解決する幾つかのストラテジー、たとえば非天然アミノ酸の置換(6)、コンフォメーションの拘束(constraints)の使用(7)、および親油性側鎖または他のトランスポートベクターの追加(8)が報告されている。グリコシル化は、成功した方法論であることが証明され、グリコペプチドにペプチドのファーマコホア(pharmacophore)を組み込むことにより、短いペプチド「メッセージ」の安定性およびバイオアベイラビリティの両方が改良されている(9)。エンケファリンに基くオピオイドグリコペプチドアゴニストを用いた従来のBBB透過の研究により、グリコシル化されていない元のペプチドと比較して、これら化合物の脳デリバリー速度は3倍まで増大することが示されている(10)。人工的な膜システムにおけるグリコペプチドを用いた近年の研究は、グリコペプチドの両親媒性がBBB透過において重要な因子であることを示す(11)。加えて、グリコシル化のタイプが、組織分布のパターンを変化させることができること(12)、BBB透過を変化させることができること(13)、ペプチド/レセプター相互作用を変化させることができること(11、14)を示唆する証拠が存在する。
【0005】
内因性オピオイドペプチド
内因性神経ペプチドのβ−エンドルフィンは、μおよびδレセプターに結合する31残基の天然に存在するオピオイドペプチドアゴニストである。そのN末端の5残基は、Met−エンケファリン配列と同一であり、そのファーマコホアであると考えることができる。β−エンドルフィンのC−末端領域が、レセプター結合およびオピオイドアゴニズム(agonism)に関与する両親媒性のα−ヘリックス構造を有し(15)、タンパク分解に対する抵抗性を誘導することができること(16)がかつて示されている。Schwyzerによれば、N−末端配列が必須の「メッセージ」であり、C−末端のヘリックス領域が、メッセージのデリバリーを他の有用なオピオイドレセプターのサブセットに制限する「アドレス」である(17)。Kaiserと共同研究者は、β−エンドルフィンが、N−末端のMet-エンケファリンペプチド配列、6〜12残基の親水性リンカー領域、およびヘリックスブレーカー残基Pro(13)とGly(30)の間の両親媒性ヘリックス領域から構成されることを提案した(18)。この提案は、その後、両親媒性を備えた人工C−末端へリックス領域を用いて幾つかのβ−エンドルフィン模倣物を合成することにより証明された(19)。これらのde novo両親媒性ヘリックスは、β−エンドルフィンのC−末端領域と相同ではなく、CD測定により大部分がα−ヘリックスであることが示された。これらのハイブリッド構造は、β−エンドルフィンと比較したときに、in vitroで優れたオピオイドアゴニズム(agonism)を示した。これらの研究により、C−末端ヘリックスの両親媒性は、C−末端に存在する特定のアミノ酸の同定よりも、これら化合物の選択性に重要な役割を果たすことが強く示唆された(20)。ジノルフィンA(1-17)もまた、内因性オピオイドペプチドであるが、κオピオイドレセプターに優先的に結合し、Leu−エンケファリンと同一のN−末端メッセージセグメントを有する(21)。C−末端領域中のアドレス配列は、κレセプターに対して選択性を付与することが示唆されている(22)。ジノルフィンAは、種々の分光測定による構造分析を受けると、広がった構造および/またはランダムコイル構造をとる(23)。DPCミセルにおける2D 1H-NMR研究は、ジノルフィンA(1-17)が、より少数のオーダーのN−末端セグメント、Phe(4)とPro(10)またはLys(11)との間の明確なα−ヘリックスセグメント、およびTrp(14)からGln(17)までのβ−ターンを含有することを示す(24)。NMRの結果に基いて、α−へリックスとC−末端のβ−ターンの両方が、ジノルフィン−ミセル相互作用によるものであり、in vivoで細胞膜に結合したときに、全長ペプチドの重要な構造的特徴であり得ると著者らは結論づけた。また、Lunaによる研究(25)は、ジノルフィンA(1-17)のメッセージセグメントにおいてヘリックス構造が重要であるという考えをサポートする。大きなオピオイドペプチドにおいてヘリックスC−末端アドレスセグメントの生物学的な重要性は、Kyleと共同研究者による最近の研究により更にサポートされている(26)。彼らは、NCのC末端にあるα−ヘリックス−促進残基 α−アミノイソブチル酸(Aib)およびN−メチルアラニン(MeAla)を利用して、幾つかの効力のあるノシセプチン(nociceptin)(NC)ペプチドを合成することに成功した。ノシセプチンは、近年同定されたオピオイドレセプター類似1レセプター(ORL-1)に対する内因性リガンドである。よって、グリコシル化によりBBB透過を促進することもできるC−末端両親媒性ヘリックスアドレスセグメントを組合せることにより、オピオイドアゴニストβ−エンドルフィンまたはジノルフィンペプチド類似体のデザインに取り組むことは理に適っていると思われる。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、両親媒性のグリコペプチドを提供することである。これらグリコペプチドは、純水中で本質的に非ヘリックスであるが、脂質二重層の存在下でヘリックス構造をとる。炭水化物の存在は、ヘリックス構造が膜から離れて、水溶性ランダムコイルを形成することを許容し、その結果、グリコペプチドは、膜に埋もれたままではなく、膜から膜へと移動することができ、時間ごとにヘリックスの両親媒性構造を再形成することができる。この構造的ダイナミックの結果、本発明のグリコペプチドは、血液脳関門(BBB)を通過することができる。その結果、グリコペプチドは、種々の神経障害および行動障害を治療するためのものである。
【0007】
よって、本発明は、少なくとも9個のアミノ酸残基を含み、かつ当該アミノ酸残基の少なくとも一つがグリコシル化されている、両親媒性グリコペプチドを提供する。
【0008】
また本発明は、当該グリコペプチドおよび少なくとも一の薬学的に許容されるキャリアおよび/または賦形剤を含む薬学的組成物を提供する。
【0009】
また本発明は、効果的な量の当該グリコペプチドを、それを必要とする被検体に投与することを含む、痛みを軽減する方法を提供する。
【0010】
また本発明は、効果的な量の当該グリコペプチドを、それを必要とする被検体に投与することを含む、痛覚脱失を与える方法を提供する。
【0011】
更に、本発明は、効果的な量の当該グリコペプチドを、それを必要とする被検体に投与することを含む、不安、うつ病、肥満、神経性食欲不振、恐怖症、統合失調症、パーキンソン病およびアルツハイマー病を治療する方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【0012】
本発明および付随する本発明の利点の多くは、添付の図面を伴って考慮すると、以下の詳細な説明を参酌することによりよく理解されるように、本発明および付随する本発明の利点の多くの更なる完全な認識は、容易に得られるでしょう。
【0013】
上述のとおり、本発明は、少なくとも9個のアミノ酸残基を含み、かつ当該アミノ酸残基の少なくとも一つがグリコシル化されている、両親媒性グリコペプチドを提供する。本明細書で使用されるとおり、本明細書で使用される用語「両親媒性」は、ペプチドおよびタンパク質化学の分野で一般に使用されるのと同じ意味を有する。このため、本発明のグリコペプチドは、親水性および疎水性の両方の官能基を保持する。とりわけ、グリコペプチドが、本明細書で詳細に記載されるようにヘリックスコンフォメーションをとる場合、以下で詳細に記載されるように、そのシーケンスは、疎水性表面と親水性表面を示す。
【0014】
本発明の好ましい態様において、グリコペプチドは、脂質二重層の存在下でヘリックスコンフォメーションをとり、これは、BBBの内皮層におけるそのコンフォメーションを反映する。また、グリコペプチドは、TFE-水の混合液、ミセルおよび/またはビセルの存在下でヘリックスコンフォメーションをとる。ヘリシティーは、円偏光二色性により、NMRにより、および逆相HPLCにより測定することができる。これら方法で測定すると、グリコペプチドは、少なくとも10%のヘリシティーを有する。好ましい態様において、グリコペプチドは、少なくとも15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%または90%のヘリシティーを有する。
【0015】
別の態様において、グリコペプチドは、脂質二重層の非存在下で水中において実質的に非ヘリックスである。ヘリシティーは、円偏光二色性により測定することができる。この方法で測定すると、グリコペプチドは、最大で5%のヘリシティーを有する。好ましい態様において、グリコペプチドは、最大で4%、3%、2%または1%のヘリシティーを有する。実際、ヘリシティーの程度は、特定のアッセイ技術の検出レベル以下であってもよい。
【0016】
特に好ましい態様において、グリコペプチドは、脂質二重層の非存在下で水中において実質的に非ヘリックスであり、脂質二重層の存在下でヘリックスコンフォメーションをとる。かかる化合物の好ましい態様は、直前に記載されるとおりである。
【0017】
このコンフォメーションダイナミックの結果、本発明のグリコペプチドは、血液脳関門を通過することができる。好ましい態様において、グリコペプチドのBBB取込みは、0.001〜5マイクロリットル/皮質のグラム/分である(下記表1参照)。この範囲は、この間の具体的な範囲および部分的範囲のすべてを含み、たとえば、0.002、0.005、0.01、0.02、0.05、0.1、0.2および0.4を含む。別の態様において、グリコペプチドは水溶性である。
【0018】
本発明の好ましい態様において、グリコペプチドのアミノ酸配列は、N−末端のオピオイドメッセージ配列、C−末端のアドレス配列、および当該メッセージ配列と当該アドレス配列の間のリンカー配列を含む。多種多様なオピオイドメッセージ配列およびアドレス配列が周知であり、同一のアドレス配列を伴った非オピオイドメッセージ配列に加えて、本発明で使用され得る。適切なメッセージ配列には、以下のものが含まれる:
デルタ−選択的メッセージ配列
Met-エンケファリン Y-G-G-F-M
DSLET Y-dS-G-F-L-S
DTLET Y-dT-G-F-L-T
DSTBULET Y-dS(OtBu)-G-F-L-T
DPDPE Y-dPen-G-F-dPen (SS)
デルトルフィン(Deltorphin) Y-dM-F-H-L-M-D-CONH2
Mu−およびカッパ−選択的メッセージ配列
Leu-エンケファリン Y-G-G-F-L
LYM-147 Y-dA-G-MeF
DAMGO Y-dA-G-MeF-NH-CH2CH20H
デルモルフィン(Dermorphin) Y-dA-F-G-Y-P-S
ベータ−エンドルフィン Y-G-G-F-M-T-S-Q-T-P-L-V-T-T-L-F-K-N-A-I-I-K-N-A-Y-K-K-G-E
アルファ−ネオ−エンドルフィン Y-G-G-F-L-R-K-Y
ベータ−ネオ−エンドルフィン Y-G-G-F-L-R-K-Y-P
ペプチドE Y-G-G-F-M-R-R-V-G-R-P-E-W-W-M-D-Y-Q-K-R-Y-G-G-F-L
ペプチドF G-G-E-V-L-G-K-R-Y-G-G-F-M
ノシセプチン(Nociceptin) (FQ) F-G-G-F-L-R-R-I-R-P-K-L-K-W-N-N-Q
ダイノルフィンA(1-17) Y-G-G-F-L-R-R-I-R-P-K-L-K-W-D-N-Q
ダイノルフィンA (1-13) Y-G-G-F-L-R-R-I-R-P-K-L-K
ダイノルフィンB Y-G-G-F-L-R-R-Q-F-K-V-V-T
モルフィセプチン(Morphiceptin) Y-P-F-P
ベータ−カソモルフィン(Casomorphin) Y-P-F-P-G-P-I
エンドモルフィン(Endomorphin)-1 Y-P-W-F
エンドモルフィン(Endomorphin)-2 Y-P-F-F
ルビスコリン(Rubiscolin)-6 Y-P-L-D-L-F
上記リストの配列において、dA、dS、dT、dM、dPenは、それぞれ、D-アラニン、D-セリン、D-トレオニン、D-メチオニンおよびD-ペニシリミンを表す。
【0019】
リンカー配列に関しては、原則として、任意の比較的短いアミノ酸配列、または比較的短い炭素原子の配列をリンカーとして使用することができる。両親媒性ヘリックス輸送配列をメッセージ配列とオーバーラップさせることを望む場合、短い非要求性(non-demanding)リンカー、たとえば単一のグリシンまたは2個のグリシンを使用してもよい。適度に安定な両親媒性ヘリックス輸送配列を望む場合、ヘリックス脱安定化アミノ酸、たとえば単一のプロリンを使用してもよい。ヘリックスアドレス領域を終結させて、メッセージ配列とオーバーラップさせないことを望む場合、ヘリックス−ブレーカー、たとえばβアラニン、2個のプロリン、または更に長い配列を使用することができる。リンカーは、特定のメッセージ配列に適合するように変化させることができ、BBB輸送速度に対して大きな影響を及ぼす。所定のアドレスおよびメッセージ配列に対して最適なリンカーは、ルーチンの実験を用いて決定することができる。
【0020】
一つの態様において、グリコペプチドは、少なくとも10個のアミノ酸残基を含む。他の態様において、グリコペプチドは、少なくとも11個〜少なくとも50個のアミノ酸残基を含有していてもよい。この範囲は、この間の具体的な値および部分的範囲のすべてを含む。たとえば、グリコペプチドは、少なくとも11、12、14、15、17、19、20、25、30、35、40または45個のアミノ酸残基を含有していてもよい。好ましい態様において、グリコペプチドは、最大で60個のアミノ酸残基を含有していてもよい。他の態様において、その配列は、最大で55、50または45個のアミノ酸残基を含んでいてもよい。このように、本発明のグリコペプチドは、10〜60残基の長さのアミノ酸配列を有していてもよい。この範囲は、この間の具体的な値および部分的範囲のすべてを含み、たとえば12、15、20、25、30、40および50個のアミノ酸残基を含む。
【0021】
一つの態様において、グリコペプチドは、グリコシル化されたエンケファリンである。別の態様において、グリコペプチドは、グリコシル化されたエンドルフィンである。
【0022】
グリコペプチドは、N−末端配列Y-a-G-F-、T-t-G-F-、Y-t-G-F-L-、Y-t-G-F-L-P-、Y-t-G-F-L-βA-、またはY-t-G-F-L-G-G-を有していてもよい。記号“a”、“t”および“βA”は、それぞれ、D-アラニン、D-トレオニンおよびβ-アラニンを表す。別途記載しない限り、小文字で表記される単一のアミノ酸は、D-アミノ酸を指す。他の適切なN−末端配列には、Y-G-G-、Y-G-G-F-、Y-m-F-、Y-m-F-H-、Y-a-F-、Y-a-F-G-、Y-P-F、Y-P-F-P-、Y-P-F-F-、Y-P-W、およびY-P-W-F-が含まれる。加えて、多くの非オピオイド配列が本発明において使用されてもよく、副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)、黄体化ホルモン(lutenizing hormone)(LH)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(chorionogonadotropin)(hCG)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、血管作動性腸管ペプチド(VIP)、ブラジキニン、バソプレッシン、ニューロキニン、サブスタンスP、プロラクチン、および多くの他の視床下部ペプチドホルモンに由来する配列が含まれる。
【0023】
本明細書で使用される「グリコシル化された」という用語は、アミノ酸残基がグリコシル基を用いて機能的にされることを意味する。グリコシル基は、サッカリドユニットから構成される。これら用語は、ペプチドおよびタンパク質化学の分野で周知であり、本明細書で使用されるとおり、かかる意味を有する。好ましい態様において、グリコシル基は、最大で8個のサッカリドユニットを有する。より好ましくは、グリコシル基は、最大で4個のサッカリドユニットを有する。別の態様において、グルコシル基は、最大でジサッカリドであり、すなわちグリコシル基は、最大で2個のサッカリドユニットを有する。このように、サッカリドユニットの総数は、1〜8個とすることができ、この間の具体的な値および範囲のすべてを含む。グリコシル基の例には、β-D-グルコース、β-マルトース、β-ラクトース、β-メリビオース、β-マルトトリオース(β-maltotriose)が含まれる。他の例には、スクロース、トレハロース、サッカロース、マルトース、セロビオース、ゲンチビオース(gentibiose)、イソマルトースおよびプリメビオース(primeveose)が含まれる。他のグリコシル基には、ガラクトース、キシロース、マンノース、マノサミン酸(manosaminic acid)、フコース、GalNAc、GlcNAc、イドース、イズロン酸、グルクロン酸およびシアル酸が含まれる。
【0024】
本発明の一つの態様において、1個のアミノ酸残基がグルコシル化されている。別の態様において、2個のアミノ酸残基がグルコシル化されている。他の態様において、グリコペプチドは、3または4個以上のグリコシル化されたアミノ酸残基を有していてもよい。
【0025】
好ましい態様において、グリコペプチドは、グリコシル化された少なくとも一つのセリン残基を含む。別の好ましい態様において、グリコペプチドは、グリコシル化された2個のセリン残基を含む。一つの具体的な態様において、グリコペプチドは、1個のセリングルコシド残基を含有する。別の具体的な態様において、グリコペプチドは、2個のセリングルコシド残基を含有する。
【0026】
グリコペプチドを調製する適切な方法は周知である。固相ペプチド合成の周知の方法を使用して、本発明のグリコペプチドを調製することができる。グリコシル基は、当該配列のアドレスセグメントの側鎖にO−連結することにより、アミノ酸配列に連結されることが好ましい。参照により本明細書に組み込まれるTetrahedron Asymmetry 16, 65-75 (2005)およびU.S.5,727,254を参照されたい。
【0027】
本発明の特定の態様において、本発明のグリコペプチドは、デルタオピオイドレセプター、muオピオイドレセプターまたはカッパオピオイドレセプターに対して選択的である。この態様において、グリコペプチドは、レセプターアゴニストである。実際、任意のg-タンパク質共役受容体(GPCR)は、これらコンセプトを用いてデザインされるグリコペプチドに対するターゲットとすることができる。
【0028】
その結果、本発明のグリコペプチドは、これらレセプターにより媒介される種々の神経障害および/または行動障害を治療するために有効である。このため、グリコペプチドは、それを必要とする被検体に効果的な量のグリコペプチドを投与することにより痛みを軽減するために使用することができる。また、グリコペプチドは、それを必要とする被検体に効果的な量を投与することにより痛覚脱失を提供するために使用することもできる。また、グリコペプチドは、それを必要とする被検体に効果的な量を投与することにより、不安、うつ病、肥満、神経性食欲不振、恐怖症、統合失調症、パーキンソン病およびアルツハイマー病を治療するために使用することもできる。
【0029】
被検体は、好ましくはヒトである。また、被検体は、非ヒト動物、とりわけ哺乳類であってもよい。適切な動物には、マウス、ラット、イヌ、ウマ、ヒツジ、およびサルが含まれる。
【0030】
また本発明は、グリコペプチドおよび少なくとも一つの薬学的に許容されるキャリアおよび/または賦形剤を含む薬学的組成物を含む。本発明のグリコペプチドは、当該技術分野で一般的に知られている方法および賦形剤により、薬剤投与のために調製することができる(Remington’s Pharmaceutical Sciences, E.W. Martin)。キャリアおよび賦形剤には、水、pH緩衝液、たとえばクエン酸緩衝液またはリン酸緩衝液、Tweensまたは他の洗浄剤などの「湿潤剤」、塩化ナトリウムなどの塩、チオールなどの還元剤、デキストロース、ラクトース、スクロース等の糖、グリセロール、グリコール、オイル、保存剤、抗菌剤などが含まれ得る。組成物は、投与用の液体、パウダー、固体またはゲル形態で調製され得る。投与は、非経口ルート、たとえば静脈内、腹腔内または皮下、経口、鼻内、吸入、坐剤を介して直腸、または他の公知の薬剤投与ルートを経由してもよい。投与量および投与スケジュールは、薬理学の当業者により容易に決定される。グリコペプチドの適切な投与量の範囲は、0.001マイクログラム/体重キロ〜30ミリグラム/体重キロである。
【0031】
グリコペプチドのデザイン原理
3つのシリーズのグリコシル化β-エンドルフィン類似体が、研究のためにデザインされ合成された。ペプチドの配列は、β-エンドルフィンと相同ではないが、C−末端領域は、両親媒性ヘリックスコンフォメーションが得られるようにデザインされ、一または複数のセリングリコシドをもつ。マウスにおけるこれら化合物の完成した血液脳関門研究は、別途公表されるが(27)、多くの目立ったBBBの結果の幾つかは、オピオイド結合および機能アッセイとともに本明細書で示される。非常に長いエンドルフィングリコペプチド類似体の幾つかが、非常に短いエンケファリングリコペプチド類似体よりも高速でマウスBBBを透過することは注目すべきである。この研究において、我々は、2D-1HNMRおよび円偏光二色性(CD)により測定される、水、TFE−水の混合液、SDSミセルおよびビセル中の各々のβ−エンドルフィングリコペプチド類似体のデザインおよびコンフォメーション分析に焦点をあてる。有機溶媒のトリフルオロエタノール(TFE)は、従来から二次構造の形成を促進するために使用されている(28)。その後、ペプチド−膜の相互作用を研究するために洗浄剤ミセルの使用が提案された(29)。最近、より扁平な膜の環境をうまく模倣するために、リン脂質ビセルの使用が提案され、これは、有機溶媒およびミセル以上に優れているために勢いを得ている(30)。NMR研究で使用されるビセルは、ディスク形状の集合体であり、これは、二重層ドメインディスクを形成する長鎖のリン脂質、たとえばジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)を、二重層の端を閉じる短鎖の界面活性剤リン脂質、たとえばジヘキサノイルホスファチジルコリン(DHPC)とともに混合することにより形成される(30b, 31)。大きな正曲率を示すミセルとは異なって、リン脂質ビセルは、非常に低い曲率を有する真の流体膜二重層セグメントを構成する(図1)。幾つかの膜結合酵素は、ミセル溶液中ではその活性を失うが、リン脂質ビセルに結合したときにしばしば活性が保持されることが示されている(32)。また、Met-エンケファリンは、ミセル環境においてよりも多くの流体ビセルの存在下において、様々なコンフォーメーションアンサンブルを示すことが以前に示されている(33)。SDSミセルおよびビセルシステムにおける細胞透過ペプチドのコンフォメーション研究は、これらペプチドが両方のシステムにおいて非常に類似の構造をとるが、ミセルにおけるペプチドの位置は、リン脂質二重層における位置とは顕著に異なることを示す(34)。このように、BBBを横断するグリコペプチドの行動を理解するために、TFE-水の混合液、並びに膜模倣のミセルおよびビセルにおけるグリコペプチドのコンフォメーション特性を研究することは重要である。
【0032】
Robert Schwyzerは、彼の「膜コンパートメント理論」の開発とともにペプチド−レセプター相互作用における膜の重要性を指摘した。この理論によれば、細胞膜の脂質相は、レセプターとリガンドのためのマトリクスとして機能する(14)。Max Delbruckは、「膜コンパートメント化」と関連して、レセプター−リガンドの相互作用の理論的研究を行なった(35)。彼は、レセプターに対する2D調査は、レセプターに対する3D調査よりずっと効率的であることを見出し、最初の相互作用は、リガンドの膜への吸着であることを提案した。また、膜への挿入(insertion)は、溶液のコンフォメーションとは異なるリガンドの特異的なコンフォメーションを誘導することができ、この膜結合コンフォメーションは、バイオ活性なコンフォメーションであると思われる。
【0033】
ヘリックスは、球状タンパク質に最も一般に存在する二次構造エレメントであり、これは、すべての残基の三分の一を占める(36)。1974年にSegrestと共同研究者らは、タンパク質関与の脂質相互作用のユニークな構造/機能の構造モチーフとして、両親媒性(amphipathic)(a.k.a. 両親媒性(amphiphilic))ヘリックスを、初めて理論づけた(37)。天然のα−ヘリックスの50%以上が両親媒性であると推定される(38)。これらタンパク質は、(親水性N−末端と疎水性C−末端を有する)一次構造、または一つの面を指し示す極性残基と反対側にある非極性残基を備えた二次構造の何れかにより、疎水性領域と親水性領域を保持する点でユニークである。これにより、これらタンパク質は、その親水性側を細胞の水性外部に露出し、その疎水性側を親油性膜に露出して、細胞膜に「フロート」することが許容される。幾つかの機能的特性は、両親媒性ヘリックスと関連しており、これには、脂質の連結、融合または溶解の形態にある膜の混乱、ホルモンレセプター触媒作用、膜貫通シグナル伝達、キナーゼ−カルモジュリンのシグナル伝達の調節、および膜貫通ヘリックスバンドルの形成が含まれる(39)。両親媒性細胞透過ペプチド(cell penetrating peptides CPP)は、サイトゾルへの薬剤デリバリーのために使用されている(40)。これらのクラスL(たとえば溶解性)両親媒性ヘリックスは、細胞表面に凝集し、その後回転して脂質二重層を通って孔を形成すると考えられる。これは、BBBの透過にとって優れた科学的モデルではない。むしろ、凝集したり孔を形成したりしないクラスA(たとえばアポリポタンパク質)両親媒性ヘリックスは、内皮層においてエンドサイトーシスに関与するため望ましいと思われる。クラスA両親媒性ヘリックスは、グリコペプチドがサイトゾルに入ったり膜に非常に深く侵入したりするのを妨害し、これは、BBBを横断するという面において、不可逆的なできごととなり得る。このように、これら研究で使用される両親媒性ヘリックスの親水性面を形成する残基は、180°に近い大きな角度をふさぐように選択され、膜において「うまく機能する(ride high)」クラスA両親媒性ヘリックスを提供すべきであり、凝集して孔を形成することが起こりにくい。
【0034】
これら研究においてヘリックスグリコペプチドは、ヘリックス形成の古典的研究(41)に合わせて、両親媒性を導入する単純なEdmundsonホイールアプローチと組合せてデザインした(図2)。分子メカニクスの計算により、グリコペプチドのヘリックス両親媒性構造が裏付けられた(図3)。疎水性残基と親水性残基を異なるカラーでラベルした溶媒アクセス領域(コナリー表面)は、これら分子が、膜環境においてクラスA両親媒性ヘリックスとして存在することを示唆し、我々が、トランスサイトーシスによる細胞バリアの透過を達成する最適なオン・オフ速度(on and off rates)を確立することが、我々の希望であった(10, 11)。
【0035】
従来の研究で使用されたのと同一のδ−選択的DTLESメッセージセグメント(42)が、これら研究を通して使用された。メッセージおよびアドレスセグメントは、ペプチドリンカーを介して努力して連結され、ヘリックスを「中断する(break)」。3セットのグリコペプチドは、共通のメッセージセグメントYtGFLを用いて、リンカーと両親媒性ヘリックスアドレスセグメントを変えてデザインした(表1)。1st世代のヘリックスグリコペプチド(1-4)は、共通のGlyリンカーを有するが、アドレスセグメントの配列の長さが異なる(単純なトランケーション)。一つまたは二つのグリコシル化部位を導入して、その両親媒性物(amphipath)の膜からの解離を促進する。これら4つの1st世代のグリコペプチドのうち、グリコペプチド2のみが、測定可能な水溶性を示した。2nd世代のグリコペプチド(5−8)は、僅かな疎水性領域と第三のグリコシル化部位を努力して導入して、これらを水溶性にした。2nd世代のヘリックスのすべてが、実際に水溶性であった。1stおよび2nd世代のグリコペプチドの両方において、Glyリンカーは、ヘリックスを終結させるのに有効ではなく、これは、YtGFLメッセージへと広がった(propagete)。3rd世代のヘリックスグリコペプチド(9−12)において、3種類のリンカー、Pro、β-Ala、Gly-Glyを同一のヘリックスセグメントとともに使用し、これは、非常に短く、ヘリックス形成を促進することが公知の残基Aibを含有していた。ProおよびGly-Glyのいずれも、ヘリックスを終結させるのにあまり有効ではなかた。C末端ヘリックスセグメントの長さは、3rd世代のデザインにおいて、二つの完全なα−ヘリックスターンを形成するのに十分な9個の残基の長さで固定した。C−末端ヘリックスアドレスセグメントのいずれもが、天然のβ−エンドルフィンまたはダイノルフィンのC−末端セグメントに対して配列相同性を有していなかった。ヘリックス形成に関与する安定化力は、局所的であるため、たとえば、内部水素結合のレギュラーネットワーク、荷電側鎖の間の静電的相互作用であるため、ヘリックスのデザインは、β−シートのデザインより簡単である(43)。短い安定なヘリックスペプチドを作成するために従来使用されたストラテジーには、以下のものが含まれる:i)ヘリックス安定化Ala残基の組込み(44)、ii)α−メチル化アミノ酸の使用(45)、iii)一つのα−ヘリックスターンにより隔てられた残基の間の塩橋の追加(46)、iv)共有結合型大環状分子の組込み(47)、およびv)ヘリックス形成を開始させる非ペプチドテンプレートの添加(48)。このように、我々のデザインは、タンパク質のフォールディング原理およびアミノ酸特性(たとえばストラテジーi−iii)に純粋に基くものである。疎水性残基および親水性残基は、ヘリックスホイールプロットにC−末端ヘリックスセグメントをプロットすることにより適切に配置した(エドモンドダイアグラム)。また、我々は、NMR特徴づけを容易にする手法でアミノ酸を配置した。Trp、PheおよびLeuは、1stおよび2nd世代のグリコペプチドにおいて疎水性アミノ酸として選択したが、3rd世代では、疎水性残基のなかでLeuが優れたヘリックス性質を有するため、Leuのみを疎水性残基として選択した(49)。Glu-およびLys+は、親水性残基として選択し、iおよびi+4の位置に配置したときに塩橋を形成する(47)。α−ヘリックスの先端(N-cap)または終端(C-cap)に位置したときに主鎖のアミドNHまたはカルボニル基と水素結合を形成することができる側鎖を備えた残基の存在は、ペプチドおよびタンパク質においてヘリックスコンフォメーションを安定化させ、核となる(nucleate)ことが見出された。Aspに続いてAsnは、天然のタンパク質ヘリックスにおいて最も好ましいN-cap残基であり、主鎖のNH水素とi、i+2またはi、i+3タイプのH−結合を形成する(50)。よって、3rd世代のへリックスグリコペプチドにおいて、Asnは、リンカー残基の直後に配置し、その側鎖のアミドと主鎖との間でAsxタイプの水素結合を形成することによりヘリックスを開始させた(51)。ヘリックスセグメントのデザインで使用された他の重要なデザイン特徴は、安定性および溶解性を高め、凝集を防ぐために、中央にヘリコ起源の(helicogenic)Aib残基を配置し、iおよびi+4の位置に荷電残基GluおよびLysを配置し、静電的塩橋を有する。
【表1】
【0036】
議論
グリコペプチド9は、マウスにおいて血液脳関門を効率よく通過することが見出されたが、グリコペプチド11はそうではなく、このことは、血液脳関門を通過する9の能力が、脂質二重層に対する高い親和性と関連していることを示唆する。この結合親和性は、ペプチド部分の構造が、膜との相互作用を担うことを示唆する。9と関連した非グリコシル化ペプチド(Supporting Infoにおける9u)は、膜への結合が僅かに低下することを示す(KD=400 nM、データ示さず)。非グリコシル化ペプチドを伴う更なる研究は、この点を更に調査することが必要であるが、グリコシル化を高めると、リポソームとの相互作用が増大することが、短いグリコペプチドを用いて以前に観察されている(11)。このことは、炭水化物が、おそらく膜表面近くのH2O分子の「撹乱されていない層(unstirred layer)」と相互作用することにより、膜からの拡散速度を遅延させることを示す。
【0037】
入手可能な情報によれば、グリコシドの役割は、膜からグリコペプチドを引き離して、膜から膜へと薬剤を「跳びまわらせる(hop)」ことであることが示唆される。この「跳びまわり(hops)」は、ヘリックスバックボーンコンフォメーションを維持して短い移動とすることができるし、あるいは水相におけるヘリックス→ランダムコイルの移行により長い移動とすることもできる(図4)。膜は、ヘリックス形成を促進する触媒とみなすことができるし(17)(時計回り運動)、あるいは水溶液中のヘリックス形成は、膜結合を達成するために克服しなければならないエネルギーバリアとみなすことができる(反時計回り運動)。CDおよびNMRの結果は、グリコペプチドが、膜二重層の存在下または非存在下において二つの別の行動をとることを示す。水性媒質では、発生期の(nascent)ヘリックスのみが、コンフォメーションアンサンブルを占める多くのランダムコイル構造(たとえば図4b、1,2,3,・・・)を伴って観察される。膜二重層の存在下では、少数の両親媒性構造(たとえばA,B,C・・・)がアンサンブルを占める。これら研究および他の研究(10、11、27)から、グリコシル化の程度(すなわちジサッカリドvsモノサッカリド)は、個々のミクロ状態の構造に大きな影響を及ぼさないことが明らかであると思われる。よって、グルコシル化の増大の主な役割は、全体の水性アンサンブルのエネルギーを低下させることである。グリコシル化の程度の変更は、水性vs膜結合状態の集団密度の調整を考慮すべきである(52)。
【0038】
両親媒性アドレスセグメントの相互作用は、メッセージセグメントのレセプター結合に対して密接な関係を有しているが、薬剤輸送およびBBB透過に対する両親媒性物(amphipath)の密接な関係も、非常に重要である。BBB透過は、脳キャピラリーの内皮の血液側において、吸収性エンドサイトーシスプロセスを介して起こり(図5)、その後、脳側でエキソサイトーシスが起こり、全体的なトランスサイトーシスメカニズムに至る。このプロセスが効率的であるためには、グリコペプチドが、しばらくの期間、膜に結合可能でなければならず、また、しばらくの期間、水性状態で存在可能でなければならない。インビトロでのグリコペプチド−膜の相互作用に関して動的情報を得るためには、更なる研究が行なわれる必要があり、グリコシル化ストラテジーを完全に利用するためには、BBB輸送プロセスに関してインビボの更なる情報が必要である。
【0039】
結論
CDおよびNMR研究は、グリコペプチド9−12が、H2O中で発生期の(nascent)ヘリックス−ランダムコイル構造を形成すること、これら水性ランダムコイルの膜模倣物への露出は、高い両親媒性のヘリックス二次構造をつくることができることを示す。幾つかのラインのインビトロ研究(CD、NMR、PWR)は、膜誘導型のヘリックス形成が陰イオン性および両イオン性の膜模倣物の存在下で容易に起こることを示す。ヘリックスアドレス領域の膜への結合は、オピオイドレセプターにおいてアゴニズム(agonism)を改変することができ、オピオイド結合のカイネティクスに影響を及ぼすかもしれない。PWRにより決定される膜結合親和性(マイクロモル〜ナノモルのKD値)は、膜親和性が、オピオイドレセプターに対する親和性に匹敵するか、またはオピオイドレセプターに対する親和性を超えることを示す。膜への両親媒性結合は、BBB輸送速度と関連すると思われる。ヒトの脳で産生される250の公知の神経ペプチドが存在するため、グリコシル化される対応物の完全な理解は、神経ペプチドの天然の結合選択性を利用して広範囲の神経学的障害を治療する新規な薬理学の展望につなげることができる。
【実施例】
【0040】
実験手順
材料
アミノ酸、カップリング試薬およびRink−アミド樹脂は、Advanced ChemTech (Louisville, USA)から購入した。NMR実験で使用したドデシル硫酸ナトリウム−d25を含む他のすべての試薬は、Sigma (St.Louis, MO)から購入した。重水素化リン脂質、ジヘキサノイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン−d22(DHPC)、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン−d54(DMPC)および1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホ−1−グリセロール−d54(DMPG)は、Avanti Polar Lipids (Alabaster, AL)から購入した。
【0041】
ペプチドの合成および精製
必要なグリコシルアミノ酸は、以前に公表された方法を用いて合成した(53)。グリコペプチドは、Rinkアミド樹脂上で、フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)化学を採用する標準的な固相方法によりマニュアルで合成した(54)。側鎖の保護基は、グリコペプチドが樹脂にまだ結合している間に、合成の最後に1回のステップで除去されるように選択した。合成で使用される側鎖の保護アミノ酸は、Fmoc-Lys(Boc)-OH、Fmoc-Glu(OtBu)-OH、Fmoc-Asn(Trt)-OH、Fmoc-DThr(But)-OHおよびFmoc-Tyr(But)-OHであった。アミドカップリングは、HBTU/HOBt/DIPEAとであった。各々のカップリングは、マニュアルのペプチド合成管において、溶媒としてDMFを用いて、N2を用いて90分間攪拌することにより行なった。カップリングは、Kaiserニンヒドリン試験によりモニターした。Fmoc基は、DMF中の20%ピペリジン溶液を用いて除去した。グリコペプチドが組み立てられ(assemble)、最後のFmoc基が除去されると、-OAc保護基は、CH3OH中の80% H2NNH2・H2Oを用いて、炭水化物から切断した。グリコペプチドは、側鎖の保護基も除去するF3CCOOH:Et3SiH:H2O:PhOMe:CH2Cl2 (9:0.5:0.5:0.05:1)混合液を用いて、樹脂から切断した。クルードなグリコペプチドは、氷冷エーテルを用いて沈殿させ、濾過し、H2Oに再溶解し、凍結乾燥させた。グリコペプチドは、プレパレイティブRP(C-18)カラムを用いたRP-HPLCにより、0.1% TFAを含有するアセトニトリル−水の勾配を用いて精製した。最終グリコペプチドの均質性は、分析RP-HPLCおよび質量分析により確認した。
【0042】
円偏光二色性
円偏光二色性実験はすべて、温度コントロール手段としてEndcal Model RTE4DD水循環器を用いて、Aviv Associates model 60DSで行なった。この装置は、d-10-カンホスルホン酸を用いることによりキャリブレーションを行なった。スペクトルは、連続モードにより、1.5 nmバンド幅、3つの二次応答(three second response)、およびパス長が0.1 cmのセルでの0.5 nmのスキャンステップを用いて、200〜250 nmの間で記録した。3回または5回のスキャンを集計して、各スペクトルについて平均した。グリコペプチドのストック溶液は、Cahn/Ventron Instruments Model 21自動分析電気てんびんを用いて必要な量をはかり、1 mLの0.5−1.0 mM溶液を作成することにより調製し、pHを所望の値に調整した。サンプルは、ストック溶液を70−80μMに希釈することにより調製した。観察されるスペクトルはすべて、ベースラインを減算し、Microcal Origin Ver.5.0ソフトウェア(Microcal Software Inc, USA)を用いた5点の近接の平均により平らにした。モル楕円率は、式[θ]=[θ]obs・(MRW)/10・l・C(ここで、[θ]obsは、観察されるミリ度(millidegree)の楕円率、MRWは、平均残基重量、lは、センチメートルのセルのパス長、Cは、mg/mLのグリコペプチドの濃度である)を用いて決定した。パーセントα−ヘリシティーは、式%ヘリックス=[θ]n→π*/-40,000(1-2.5/n)・100(ここで、nは、グリコペプチドの(C−末端アミドを含む)アミド結合の数を示し、[θ]n→π*は、222 nmにおけるn→π*遷移バンドのモル楕円率である)を用いることにより決定した(55)。
【0043】
NMRスペクトロスコピー
すべてのNMRスペクトルは、Bruker DRX600 600MHzスペクトロメーターで記録した。NMR実験のためのグリコペプチド濃度は、2-3 mMから変化させた。グリコペプチドは、予め混合された30% TFE−水混合液の0.6 mL溶液にペプチドを溶解することにより、TFE−水溶液中で調製した。ミセルのサンプルは、0.6 mLのH2O/D2O(体積比9:1)にグリコペプチドと100当量の過重水素化(perdeuterated)SDSを溶解することにより調製した。ビセルは、重水素化リン脂質から作製した。両性イオン性ビセルは、短鎖リン脂質ジヘキサノイル-sn-グリセロ-3-ホルファチジルコリン-d22(DHPC)と長鎖1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン-d54(DMPC)を2:1のモル比でH2O中に混合することにより作製した。陰イオン性ミセルは、DMPCの代わりに10モル%の1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-1-グリセロール-d54(DMPG)を使用することにより調製した。グリコペプチドのビセルに対する比は、1:25であった。グリコペプチドをビセル溶液に添加した後、そのシステムを一連の3つの凍結/融解/軽いボルテクス振盪のサイクルにかけた。各サンプルのpHを、必要に応じてDClまたはNaODを用いることにより4.5に調整した。TSP(3-(トリメチルシリル)-d4-プロピオン酸)を内部標準として添加した。F3CCD2OD/H2O混合液中の実験は、293 Kであり、ミセル/ビセル中の実験は、298 Kまたは311 Kであった。二次元二重量子フィルター相関(DQF-COSY)、回転座標オーバーハウザーエンハンスメント(56)(ROESY)、核オーバーハウザーエンハンスメント(57)(NOESY)、および全相関スペクトル(58)(TOCSY)を、標準的パルスシーケンスを用いて得て、XWINNMR(Bruker Inc)およびFELIX2000(Accelrys Inc, San Diego, CA)を用いて処理した。TOCSYスペクトルのミキシング時間は、80または100 msであった。ROESYスペクトルのミキシング時間は、150または250 msであり、NOESYスペクトルのミキシング時間は、200または300 msで
あった。すべての実験は、t1において750インクリメント、それぞれ16/32/64スキャン、1.5 sリラクゼーション遅延、サイズ2または4Kとし、スペクトルの処理は、両次元において、シフトしたサイン・ベル・ウィンドウ・マルチプリケーション(shifted sine bell window multiplications)であった。水の抑制は、H2OシグナルのプレサチュレーションによりF3CCD2OD/H2Oサンプルについて達成された。H2Oの抑制技術は、膜模倣溶媒に対して満足な結果が得られなかったので、WATERGATEパルスシーケンスを、H2Oシグナルを抑制する溶媒のために使用した(59)。カップリング定数(3JαH-NH)は、2D DQF-COSYスペクトルから測定した。
【0044】
構造決定
構造計算のための距離の拘束(distance constraint)は、ROESYまたはNOESYピークの積分体積から求めた。NOE積分体積は、それぞれ上部結合距離として3.0、4.0、5.0 Åを用いて、強い、中程度、弱いに分類した。分子ダイナミクスシミュレーションは、終始一貫した原子価力フィールド(CVFF)を備えたINSIGHT/DISCOVERパッケージ(Accelrys Inc, San Diego, CA)を用いて行なった(60)。すべての計算は、事実とは無関係に(in vacuo)行なった。距離依存性誘電定数(2.5・R、ここでRは距離(Å)である)を用いた。観察されるαCHプロトンのCSIプロットおよびNOEパターンに基けば、すべてのグリコペプチドの開始構造は、N−末端セグメント1−6の拡張コンフォメーション、およびC−末端セグメント7−16のヘリックスコンフォメーションを有していた。GluおよびLys側鎖の荷電形態は、計算の間ずっと考慮された。すべてのペプチド結合は、100 kcal mol-1エネルギーペナルティーにより、トランスコンフォメーションに拘束された。25 kcal mol-1の力の定数を備えた距離の拘束は、2.0Åの共通の低い結合を備えたフラットボトムのポテンシャルウェルの形態で適用した。残基間の(inter-residue)NOEsに由来する距離の拘束のみを計算に含めた。立体特異的な割当てはなされず、そのため、NOE拘束を課したときに、仮の原子相関をジアステレオ性プロトンのすべてについて適用した(61)。αCH化学シフトインデックス(CSI)に基く二面角の拘束を、ヘリックスタイプのデビエイション(deviation)を示す残基に課した。このため、>−0.10 ppmのCSIに関して、φおよびψの拘束は、それぞれ−90°〜−30°および−60°〜0°の範囲であったが、<−0.10 ppmのCSIに関して、対応する範囲は、ψで−180°〜−30°、φで−90°〜180°であった。開始構造は、所定の位置で(in place)すべての拘束を伴って、最初に最急降下アルゴリズムを用いて、次いで共役勾配アルゴリズムにより、最小化し、最後にシミュレートアニーリングプロトコールを行なった。200ピコセコンド分子ダイナミクスランを1,000 Kで行い、次いで、トータル35 psの間、7ステップで300 Kに冷却し、その後、最急降下および共役勾配の最小化を行なった。2ピコセコンドの間隔で、100個の最終的な最小化構造をサンプリングした。
【0045】
プラズモン波ガイド共鳴(PWR)スペクトロスコピー
これら実験に使用したPWR装置は、1000分の一度のスペクトル分解能を有する、Proterion Corp. (Piscataway, NJ) から入手したAviv Betaプロトタイプバージョンデバイスであった。自己組織化される固体サポート脂質膜は、自由に懸濁された脂質二重層の形態のために使用された方法に従って調製した(62)。これは、薄い誘電性フィルム(SiO2)を水相から分離するテフロン(登録商標)シートにおいて、オリフィス(orifice)を横切って少量の脂質溶液を分散させることを伴う。水和したSiO2の親水性表面は、脂質分子の極性基を引き付け、脂質分子の初期のオリエンテーションを誘導し、炭化水素鎖が過剰な脂質溶液の小滴に向いている。PWRセルのサンプルコンパートメントに水性バッファーを添加することにより誘導される二重層形成の次のステップは、低粘稠化プロセスおよび脂質溶液のプラトー−ギブス境界の形成を伴い、これは、テフロンスペーサーに膜を固定する。本実験において、脂質フィルムは、スクアレン/ブタノール/メタノール(0.05:9.5:0.5、v/v)中に5 mg/mLの卵のホスファチジルコリン(PC)を含有する溶液から形成した。脂質は、Avanti Polar Lipids (Birmingham, AL)から購入した。すべての実験は、25℃の一定の温度で、0.5 mM EDTAおよび10 mM KCl(pH=7.3)を含有する10 mM Tris-バッファーを用いて、1 mLのサンプルセルにおいて行なった。脱イオン水に溶解したグリコシル化ペプチドの一部を、PWRセルサンプルに徐々に注入し、平衡に達するまでシグナルをモニターした(安定なPWRシグナル)。最後に、セルサンプルにおけるペプチド濃度の関数として、PWRスペクトルの共鳴の最小の位置をプロットし、脂質二重層へのリガンドの結合を記載するためのシンプルな双曲線関数を用いて適合させることにより、解離定数(Kd値)を得た。データ分析は、GraphPac Prism(CraphPad Software Inc., CA, USA)を用いて行なった。
【0046】
第一世代のヘリックスグリコペプチド
1st世代のシリーズにおいて、アドレスセグメントを含むヘリックスの長さは、安定なヘリックス形成のために必要な最小の長さを決定するために変化させた。8個の残基の両親媒性配列を、ヘリックスのためのベース繰返しユニットとして使用し、全長は10〜14個の残基を使用した(表1)。1st世代のグリコペプチドは、NMRおよびCDにより調査され、ヘリックスの安定性に対する長さの効果を決定した。CDデータは、これらグリコペプチドが、水中でランダムコイルであり、SDSミセルの存在下でヘリックスになることを示唆した。しかし、アドレスのヘリックスの長さと残基ごとのグリコペプチドのヘリシティーの程度との間に、直接的相関関係をつくることはできなかった。実際、最も短い化合物のグリコペプチド1は、アドレス領域が12残基であるが、CDにより最大レベルのヘリシティーを示した。これらグリコペプチドは、H2O中でほとんど溶解しないため、ミセル結合構造を水性状態と比較することはできなかった。当該化合物に関するNMR研究は、NMRコンセントレーション(concentration)における低い溶解度のため、問題を含んでいた。1st世代のグリコペプチドの一つ、グリコペプチド2のみが、水における有意な溶解度を示し、H2O/D2OにおけるNMR研究を行い、残基特異的なコンフォメーション特性を得た。幾つかのヘリックスの診断ピークが観察された(データ示さず)。これら長距離の「ヘリックス」NOEの幾つかは、グリシンスペーサー残基を横切って移動し、これには、G3αH⇔L7NH、F4αH⇔L8NHおよびL5αH⇔A9NHが含まれる。これにより、グリシンのスペーサーが、当初望んだとおりヘリシティーを終結させないこと、並びにメッセージセグメントのコンフォメーションが、アドレスセグメントのヘリシティーにより影響を受けることが示唆された。これらおよび他のNOEは、水中のヘリシティーの程度を示唆したが、水におけるグリコペプチド2のCDスペクトルは、当該化合物がCDにより主にランダムコイルであると決定されたため、この結論に異議を唱えた。
【0047】
グリコペプチド2は、1st世代シリーズの唯一の水溶性化合物であったため、インビトロでの結合研究およびインビボでの抗侵害受容(antinociception)研究を続けたのは、当該グリコペプチドのみであった。両方のレセプター結合アッセイにおいて、化合物は、当該レセプターにおいて優れた能力をもって、多少δ−選択的であることが観察された。以前の研究(10)のエンケファリン−ベースのグリコペプチドと比較すると、μ−レセプターにおける活性は、両アッセイにおいて減少したが、当該薬剤は、インビボ実験を保証する十分な活性を保持していた。試験の際、i.c.v.投与後の化合物のA50値は、マウスあたり120ピコモルを示した。これにより、当該薬剤は、この投与ルートを介してモルフィリンより約18倍高い効力を有することが示された。このA50値は、BBB透過のための両親媒性ヘリックスC末端の使用の成功を確証し、α−ヘリックスグリコペプチドエンケファリン類似体も、インビボで抗侵害受容(antinociceptive)効果を提供できることを示す。
【表2】
【0048】
a [θ]の単位は、deg・cm2・dmol-1である。
【0049】
b [θ]π→π*の陰性極大は、205〜209 nmの間で観察された。
【0050】
c [θ]n→π*の陰性極大は、222〜225 nmの間で観察された。
【0051】
d R=[θ]n→π*/[θ]π→π*。0.15−0.40の低い値が310−ヘリックスについて観察される。
【0052】
e %ヘリシティーは、リファレンス53に従って計算した。すべてのデータは、pH=7.0、18℃で、SDSミセル(30 mM)の存在下で観察された。
【0053】
第2世代のヘリックスグリコペプチド
この世代の主な関心事は、水の溶解性および親油性vs親水性の比であった。このシリーズのグリコペプチドはすべて、3個のグルコシルセリンを有し、高い水溶性を有していた。これらグリコペプチドのコンフォメーション特性は、CDにより研究した(図6および表2)。グリコペプチドは、CDによれば水中でほとんどランダムコイルであったが、SDSミセルではほとんどヘリックスフォールディングをとる。この世代のグリコペプチドは、1st世代のものよりヘリックスが少なかった。[θ]n→π*(=222 nm)と[θ]π→π*(=205 nm)との比として規定されるパラメーターRは、グリコペプチド7について0.45であり、これは、グリコペプチドバックボーンが310−ヘリックスフォールディングを受けることを示唆する。グリコペプチド7のC末端ヘリックスセグメントは、グリコペプチド8と同じアミノ酸を有しているが反転しており、これらが明らかに異なるCDスペクトルを示すことに注目することは興味深い。この結果は、ペプチド配列におけるアミノ酸の配置は、特定のフォールディングパターンを得るためには、アミノ酸特性単独よりも重要であることを示唆する。NMRにより三次元構造を決定する試みは、低品質のTOCSYスペクトルにより妨害され、これは、明瞭なスピン−システム同定にとって通常不可欠である。NOESYスペクトル(ROESYスペクトルではない)は、高品質であった。この理由は、おろらく、グリコペプチドのSDSミセルとの結びつきによる有効分子量の増大であり、これは、非常に長い相関(τc)時間により裏付けられる。
【0054】
マウスへのi.c.v.投与(別々に公表される結果)は、グリコペプチド5、6および7が、マウスあたり100ピコモル以下のA50値を有する、有効な抗侵害受容(antinociceptive)剤であることを示した。ヘリシティーの程度とグリコペプチドが提供する痛覚脱失レベルとの間に直接的相関関係は存在しなかった。最小の親油性化合物および中程度の親油性化合物はすべて、2−3hの正常な効力時間をもって、優れた痛覚脱失を示した。これは、最大の親油性シリーズ、グリコペプチド8ではそうではなかった。この化合物は、インビボで最も低い効力を示したが、最長の作用の持続時間を示した。これは、おそらく直接的には、グリコペプチドの高い親油性によるものである。この化合物は、細胞膜に対して最大の親和性をおそらく有する。表面と水性外部との間の分配係数が十分に高い場合、表面への結合は、ごく僅かな(less of)可逆的現象に至る。このことが起こった場合、脳での拡散は速度の遅いプロセスであり、これは、薬剤が早急にオピオイドレセプターに到達しないことを意味する。この遅い拡散プロセスが、長期持続時間と低い効力を説明する。
【0055】
レセプターと拮抗する(agonize)薬剤の量は、この場合、それほど高くなく、低い効力につながる。しかし、高い親油性のため、並びにその結果、脳での拡散が遅くなるため、薬剤は、長期間有効なままであり、その結果、長期の作用持続期間につながる。
【0056】
第3世代のヘリックスグリコペプチド
両親媒性ヘリックスグリコペプチドの前の世代の部分的成功が、ヘリックスの再デザインのきっかけとなり、3rd世代のグリコペプチド(9−12)を作成した。C−末端の両親媒性ヘリックスセグメントは、9残基の長さで固定し、2つの完全なα−ヘリックスターンを形成した。この世代では、ヘリックス促進性α−アミノイソ酪酸(Aib)残基は、両親媒性ヘリックスアドレスセグメントの中央に配置する。Aib残基を賢明に配置すると、8残基の長さまで短いペプチドは、結晶状態において、並びに溶液状態においてヘリックスコンフォメーションをとることが観察された(63)。ここで議論される3rd世代のde novoグリコペプチドの幾つかは、マウスにおいてBBB透過の改良および鎮痛効果を示した。よって、輸送メカニズムを解明するためには、とりわけ膜モデルシステムの存在下において、分子コンフォメーションを研究することは興味深い。円偏光二色性および2D 1H-NMRは、コンフォメーションを研究するための我々の主要なツールであった。
【0057】
CDによるコンフォメーション分析
円偏光二色性(CD)は、ペプチドおよびタンパク質の両方において二次構造を同定するための強力で簡単なツールである(64)。ペプチドはすべてH2O、TFE-H2O混合液、SDSミセルおよびリン脂質ビセルにおいてCD分析を行った。典型的な結果を図6に示す。H2O中において、200 nm付近にネガティブバンドが観察され、これは、π→π*電子遷移に起因し、ランダムコイルペプチドに典型的である。タンパク質のヘリックス領域に由来する配列は、しばしば弱いヘリックスCDシグナルをもち、一連のdNN(i, i+1)NOEsを得ることができるが、長距離NOEsではないことを見出した。この挙動は、発生期の(nascent)ヘリックスとして説明される(65)。これら発生期のヘリックスにおいて、ヘリックスCDシグナルは、TFEの添加により誘導することができる(66)。グリコペプチドのすべては、TFE中においてヘリックスCDシグナルが増大した。TFE濃度が増大するにつれ、ヘリシティーのパーセンテージは増大するが、30% TFEで最大に達した。TFEにおけるヘリシティーの増大は、バックボーンのアミドへの水素結合に対するH2Oによる競合の減少に起因することができる。これは、H2Oにおける長距離NOEsではない、連続的なdNN(i, i+1)NOEsの観察を考慮すると、グリコペプチドがH2Oにおいて発生期のヘリックスであることを示唆する。SDSミセルおよび陰イオン性ビセルの存在下において、200 nmのバンドは、レッドシフト(より高い値)を受け、追加のショルダーは、n→π*遷移の結果、222 nm付近に現れる。追加のショルダーの出現は、グリコペプチドが、H2O中で発生期の形態(1回ターン)でのみ存在するヘリックスコンフォメーションを主にとることを示唆する。222 nmの陰性極大(n→π*遷移バンド)は、ポリペプチドおよびタンパク質のへリックス含量を計算するために使用される。100%ヘリックスであるペプチドの容認された値は、およそ-35,000である。30%までのバンドの振幅の変化は、ヘリックスの長さに依存することが観察された(67)。α−ヘリックス鎖の長さが増大するにつれ、振幅は増大する。したがって、タンパク質およびポリペプチドにおけるヘリックス含量の定量的処理において、α−ヘリックスCDの鎖長の依存性の重要度を考慮しなければならない。ヘリシティーのパーセンテージは、SDS濃度およびpHとは無関係である(データ示さず)。両性イオン性ビセルの存在下において、グリコペプチドのすべては、H2Oで観察されたのと同様のCDスペクトルが得られたが、陰イオン性ビセルは、グリコペプチドを更にヘリックスになるように強制した。[θ]π→π*バンドおよび[θ]n→π*バンドの強度は、完全なα−ヘリックスペプチドとほぼ等しいことが予測される。310−ヘリックスでは、[θ]n→π*(222 nm)バンドの強度は、[θ]π→π*(205 nm)遷移バンドに対して劇的に低下し、適度なブルーシフトを受ける傾向がある(68)。これは、溶媒としてTFEを用いた場合であった。[θ]n→π*遷移バンドの適度なブルーシフトおよび強度の低下は、TFE中のグリコペプチドのすべてについて観察される。このことは、グリコペプチドがTFE溶媒中で完全なα−ヘリックスコンフォメーションをとらないことを示唆する。結合する糖部分でのみ異なるグリコペプチド9(Pro/Glc)および12(Pro/ラクトース)は、SDSミセルの存在下、および陰イオン性ビセルにおいて完全なヘリックスをとる。ジサッカリドは、モノサッカリドと比較して、溶媒のすべてにおいてヘリシティーのパーセンテージが増大した。グリコペプチド10(β−Alaリンカー)および11(Gly−Glyリンカー)は、媒質の何れにおいても完全なヘリックスをとらなかった。位置6における単一アミノ酸の変異が、CDスペクトルの重大な変化を起こすことは注目に値するものである。リンカーの位置[すなわち、AA(6)]は、バイオ活性にとって非常に重要であることも示唆される。膜模倣性媒質において完全なヘリックスをとるグリコペプチド9は、他のグリコペプチドと比較して、ずっと優れたBBB透過率を示した。よって、膜誘導型α−ヘリックスコンフォメーションは、その輸送活性にとって重大であることが明らかである。
【表3】
【0058】
a [θ]の単位は、deg・cm2・dmol-1である。
【0059】
b [θ]π→π*の最小は、205〜209 nmの間で観察される。
【0060】
c [θ]n→π*の陰性極大は、222〜225 nmの間で観察される。
【0061】
d R=[θ]n→π*/[θ]π→π*。0.15−0.40の低い値が310−ヘリックスについて観察される。
【0062】
e %ヘリシティーは、リファレンス53に従って計算した。
【0063】
f 計算方法についてはテキスト参照。
【0064】
NMRによるコンフォメーション分析
円偏光二色性は、異なる溶媒でのグリコペプチドの全体的分子コンフォメーションについて全般的な情報を提供した。優れた薬剤デザインのために必要な残基特異的な情報を得るために、グリコペプチドのすべては、H2O/D2Oにおいて、TFE/H2O/D2Oにおいて、SDSミセルおよびリン脂質ビセルの存在下において、2D 1H-NMRを用いて分析した。すべての媒質における化学シフトの割当て(assignment)は、TOCSYおよびNOESY/ROESYスペクトルを組合せて使用することにより行なった。スピンシステムの同定は、TOCSYスペクトル用いて行い、一連の割当ては、TOCSYおよびROESY/NOESYを用いて行なった。非対角線クロスピークの密集が観察されたが、一連のdαN(i, i+1)、dNN(i, i+1)およびdβN(i, i+1)NOEsの観察に基いて、種々の溶媒におけるグリコペプチドについて明瞭なプロトンの割当てを行なった(69)。すべてのグリコペプチドのアミノ酸の完全な化学シフト値は、補足データで提供される。標準的なROESY実験は、H2OおよびTFE-H2O混合液中のサンプルについて高品質のスペクトルを得たが、膜模倣性溶媒については失敗した。これは、ミセルおよびビセルとグリコペプチドの結びつきによるものであり、これにより、相関時間を増大させる高分子量の分子集合体が生成された。標準的なNOESY実験は、SDSおよびビセルサンプルのために使用された。ミセルおよびビセルと両親媒性グリコペプチドの結びつきは、グリコペプチドのすべてにおいてブロードなNMRシグナルを引き起こしたが、一連の割当てを不明瞭にしなかった。
【0065】
αCH化学シフトインデックス
観察されるαCH化学シフトを、化学シフトインデックス(CSI)と称されるランダムコイル値と比較したときの違いは、(グリコ)ペプチドに存在する特異的な二次構造エレメントの確かな最初の指標を提供することが、今日充分に確立されており、これは、CDの品質に匹敵する(70)。αCHプロトン共鳴の平均アップフィールドシフトから(グリコ)ペプチドの局所的ヘリックス集団を推定できることが証明されている(71)。ランダムコイルに由来する連続的なマイナスの偏差(deviation)(アップフィールドシフトのαCH共鳴)の観察は、α−ヘリックスコンフォメーションを示す。報告されるランダムコイルの値と比較した観察されるコンフォメーションシフトの値は、図7に要約される。現時点で、グリコシル化セリンについて容認されたランダムコイルαCH値がなく、この位置のCSI値は不確かである。すべての溶媒のコンフォメーションシフトの値は、Wrightと共同研究者らにより記載されたランダムコイル値を用いて得られた。これらリファレンスのシフトは、pH=5.0、4.2℃で得られたが、Wuthrichと共同研究者らによりpH=7.0、35℃でランダムコイル値が得られたときにごく小さい偏差(±0.04)が観察されたため、条件に対してほとんど感受性がないと思われる(68)。αCH化学シフトに基く二次構造の数量化は、種々の貢献、たとえば、静電的効果、環電流シフト、およびその他の磁気異方性を厳密に説明することができないため、当該文献で無視される。しかし、密接に関連した(グリコ)ペプチドの間でヘリックス含量の定性的比較をすることが可能である。3rd世代のグリコペプチドは、位置6においてアミノ酸1つだけが異なっているため、ヘリックス含量は、αCH化学シフト値に基いて求めた(表3)。Gieraschと共同研究者らにより記載される方法が使用された(69a)。まず、ヘリックス領域におけるすべてのアップフィールドシフトを加算し、ペプチド結合の総数で割ることにより、平均コンフォメーションシフトを各グリコペプチドについて計算した。その後、各グリコペプチドについて全体的ヘリックス含量を求めるために、平均コンフォメーションシフトを、100%ヘリシティーについて割当てられた0.35 ppmで割った。β−アラニンおよびグリコシル化セリン残基について利用可能なランダムコイル値が存在しないため、計算に含めなかった。ヘリコ起源の(helicogenic)Aib残基は、α−プロトンを欠失し、Aib残基により提供されるヘリシティーについての計算に含める補正はなかった。この方法により求められるヘリックス含量は、CDにより求められるヘリックス含量と相互に関連があった。ヘリックス含量は、水およびTFE中でグリコペプチドのすべてについてほぼ同じであったが、膜環境においては有意な違いが存在した。このことは、各グリコペプチドが、SDSミセルまたはリン脂質ビセルと異なった仕方で相互作用することを示唆する。グリコペプチド11は、CDおよびNMRの両方により、他のグリコペプチドと比較して、膜においてヘリックス含量が少ないことが示され、グリコペプチド9および10と比較して、BBB透過率が低いことが分かった。よって、膜誘導型ヘリックスは、BBBを通るグリコペプチドの輸送に主要な役割を果たすと思われる。
【0066】
逆相HPLC保持時間(両親媒性の正当な指標)を各グリコペプチドの残基あたりのヘリシティーと比較することにより、両親媒性物(amphipaths)のヘリックスの性質が更に確認される(図8)。この相関関係は、同様の現象が各ケースで測定されるため、かなり自然である。あるケース(y−軸)では、水性ランダムコイル(発生期のヘリックス)コンフォメーションアンサンブルとヘリックスミセル結合両親媒性アンサンブルとの間の平衡を楕円率(CDデータ)で測定する。他のケース(x−軸)では、同一のランダムコイルアンサンブルとヘリックスC18−シリカ結合両親媒性アンサンブルとの間の平衡を、保持時間(HPLCデータ)で測定する。二種類の溶媒システムを溶出のために使用したため、二つのラインが観察される(CH3OH/H2O vs CH3CN/H2O)が、両方のケースにおいて線形相関が明らかである。ペプチド部分のへリックスの性質は、相の境界、ミセルまたは炭化水素修飾のシリカビーズへの吸着を担っており、ヘリシティーの程度は、吸着の程度を決定する。
【0067】
H2Oにおけるコンフォメーション分析
グリコペプチドすべての化学シフトは、水中で充分に分散される。観察されるROEsは図9に要約される。広がった構造で一般に観察される強いdαN(i, i+1)NOEsは、グリコペプチドのほぼ全長に沿ってみられた。局所的なヘリックスまたはターンのコンフォメーション状態を示すdNN(i, i+1)NOEsは、グリコペプチドのすべてにおいてすべての残基について観察された。長距離NOEsに関する他のヘリックスサインは、いずれのグリコペプチドにおいても観察されなかった。連続的dNN(i, i+1)NOEsの観察は、すべての残基について、一過的なαRコンフォメーションフォールドを示した。これらは、ヘリックスサインの媒質(medium)および/または長距離NOEsが観察されなければ、発生期のヘリックスのみ定義された(65)。水におけるNMRの結果は、デザインの検討から予測されるとおり、グリコペプチドのすべて、少なくともC末端セグメントが、ヘリックス性質を有することを意味する。
【0068】
TFE−H2Oにおけるコンフォメーション分析
発生期のヘリックスは、TFEの存在下において追加のヘリックスサイン(長距離NOEs)を示した。CD実験は、ヘリックス含量が30% TFEで最大に達することを示した。よって、30% TFE−H2O(v/v)混合液を、更なる研究のために選択した。観察されるROEsは図10に要約される。多くのヘリックス特異的なNOEsが、グルコペプチドのすべてのC末端でみられ、これらには、連続的ストレッチのdNN(i, i+1)NOEsに加えて、dαN(i, i+3)およびdαN(i, i+4)が含まれる。グリコペプチドすべてのC末端セグメントにおけるdαN(i, i+4)クロスピークの存在は、各グリコペプチドの幾つかの集団が、310−ヘリックスコンフォメーションよりむしろα−ヘリックスコンフォメーションをとることを示した。Aib残基は、αCHプロトンを欠いているため、そうでなければ観察される多くの潜在的媒質(medium)および長距離NOEsは、C末端で観察されなかった。セグメントG(3)−L(5)におけるdNN(i, i+1)の出現は、N−末端における媒質の欠如または長距離NOEsとともに、グリコペプチドが、局所的なターンコンフォメーションの状態にあるか、または局所的ヘリックスと広がったコンフォメーションとの間の平衡状態にあることを示唆した。TFE−H2O混合液においてグリコペプチドのすべてについて観察されるGly αCHプロトンのスプリッティングは、N−末端セグメントのGly(3)が、堅く固定されたコンフォメーションで存在することを示唆した。
【0069】
SDSミセルの存在下におけるコンフォメーション分析
モル比1:100のグリコペプチド/ミセルを、すべての実験のために使用した。この溶媒において、プロトン共鳴のライン幅は、H2OおよびTFE−H2O混合液と比べてブロードであり、これは、グリコペプチドのSDSミセルとの結びつき、その結果の非常に高い分子量によるものである。平均SDSミセルは、約60−70の洗浄剤分子から構成されると予測され(73)、その結果、大きな集合体、およびそれに従って遅い分子タンブリングになり、これが共鳴の過剰な広がりにつながる。しかし、スペクトルは、幾つかの密集しかなく、充分に分散されており、完全な一連の割当てをすることができる。観察されるNOEsは図11に要約される。グリコペプチドすべてのNOESYスペクトルの評価により、ヘリックス構造と一致した特徴が明らかになった。一連のdNN(i, i+1)NOEsの連続的ストレッチは、多くのヘリックスサイン、たとえばdNN(i, i+2)、dαN(i, i+3)およびdαN(i, i+4)NOEsとともに、グリコペプチドのほぼ全長について観察された。Ser(15)残基に結合した糖部分でのみ異なるグリコペプチド9および12は、僅かに異なるNOEパターンを示した。モノサッカリド9のNOEパターン、とりわけdNN(i, i+2)[2/4および3/5]の観察は、N−末端メッセージが、ジッサカリド12より整然としていることを示唆する。
【0070】
シミュレートアニーリング分子ダイナミクス分析は、すべてのグリコペプチドについて行なわれ、NOE−由来の距離の拘束および二面角(φおよびψ)の拘束を用いて、NMR構造のアンサンブルを得た。グリコペプチドすべてのC−末端領域Leu(8/9)−Ser(15/16)は、α−ヘリックスコンフォメーションをとったが、N−末端領域は、すべてのケースにおいて非常に柔軟であった。オピオイドメッセージセグメントは、各ケースにおいてほとんどランダムコイル(すなわち、局所的ターンコンフォメーションと広がったコンフォメーションとの間の平衡)であった。
【0071】
ビセルの存在下におけるコンフォメーション分析
グリコペプチド9は、研究されるヘリックスグリコペプチドのすべての間で最大のBBB透過を示す。よって、それを、優れた膜模倣性リン脂質ビセル媒質において、更なるNMR分析を行なった(図1)。両性イオン性ビセルにおいて、グリコペプチド9は、ランダムコイルコンフォメーションに特徴的なCDスペクトルを示したが、NMR分析は、グリコペプチドのバックボーンがヘリックスであることを示唆した。CSIプロット(図7)およびNOEパターン(図12)は、α−ヘリックスコンフォメーションと一致する。ヘリックスサインNOEs dαN(i, i+3)およびdαN(i, i+4)は、ペプチドバックボーンの長さにわたって観察された。
【0072】
グリコペプチド9について溶媒をCF3CH2OH:H2Oからミセル、ビセルへ変更したため、NOESY/ROESYスペクトルのαCH−NHフィンガープリント領域を比較することは有効である。TFE:H2Oの拘束を受けていない環境(図13)から、ミセルの存在下の幾分拘束された環境(図14)、αCHプロトンが識別可能である、ビセルの存在下の更に拘束された環境(図15)へとGly(3)が変化することを我々はみることができるとおり、Gly(3)は、とりわけ有益である。シミュレートアニーリング分子ダイナミクス分析を行い、NOE−由来の距離の拘束を用いて、構造のアンサンブルを得た(図16)。グリコペプチド9は、残基5−16から連続的なヘリックスコンフォメーションをとり、Leu(5)でヘリックスコンフォメーションが開始するが、SDSミセルの存在下では、ヘリックスの開始はAsn(7)である。Pro残基のφねじれ角(N−Cα回転)は、−60°(±20°)に制限され、その結果、Proの局所的コンフォメーションは、ψ=−30°(±20°)[αR]またはψ=+120°(±30°) [ポリプロリンコンフォメーション] に制限される。Proが、ヘリックスの連続的ストレッチにおいてポリプロリンコンフォメーション[φ=−60°(±20°)およびψ=+120°(±30°)]をとった場合、これは、ヘリックスの終結という結果につながる(74)。しかし、φ=−60°(±20°)およびψ=+120°(±30°)コンフォメーションにおけるProは、α−ヘリックス構造と両立可能である。よって、9が、残基Leu(5)−Ser(15)から広がる広がったヘリックスを形成することは驚くことではない。dαN(i, i+3)[4/7、5/8および6/9]およびdαN(i, i+4)[4/8および5/9]の観察は、Pro(6)がヘリックスストレッチにあることを示す。
【表4】
【0073】
*SDSミセルの存在下におけるNOE拘束を用いたシミュレートアニーリング分子ダイナミクス計算に由来する平均バックボーンねじれ角。RMSD値は括弧内に示す。30°より大きく逸脱するねじれ角は、太字で記す。
【0074】
グリコペプチドと本当の脂質二重層との相互作用
プラズモン波ガイド共鳴スペクトロスコピー(75)(PWR)を使用して、卵ホスファチジルコリンから構成される二つのグリコペプチドの脂質二重層の相互作用をモニターした。固体に支持される脂質二重層は、脂質二重層と直接接触するテフロンブロックにおいて、小さなオリフィス(orifice)を横切って作成し(76)、(0.5 M EDTA、10 mM KClを添加したpH 7.4の10 mM Tris-Clバッファー中に溶解した)グリコペプチドの漸増量を細胞サンプルに添加し、スペクトルの変化をモニターした。PWRの結果(図17)は、脂質二重層の形成およびグリコペプチドの添加が、p−およびs−偏光の両方について、大きな角度への共鳴角度位置のシフトを引き起こすことを示す。一般的に、かかる共鳴角度位置の増大は、ペプチド−脂質二重層の質量が増大した結果、屈折率が増大したことに起因することができる(77)。グリコペプチド9と脂質二重層との相互作用は、二相プロセスを伴い、高い角度へのスペクトルの初期のシフトが生じ(データ示さず)、その後、分のオーダーで起こる小さな角度への小さなシフト(二重層に対してなおポジティブである)が続く(曲線3)。共鳴角度のシフトは、脂質二重層に対する各グリコペプチドの漸増的添加に関してプロットすることができ、双曲線フィットによって適合させて、親和性定数を提供する。図18において、グリコペプチド9は、脂質二重層に対して非常に高い親和性(7-8 nM)を有することをみることができる。グリコペプチド9と脂質二重層との相互作用は、p−分極よりもs−分極において大きなシフトを生じ、かかる大きな構造変化は、垂直面よりも脂質二重層に対して平行面において、脂質/ペプチドで起こることに注目することは興味深い(78)。このデータは、このグリコペプチドが両親媒性でありα−ヘリックスであるという事実とともに、グリコペプチドが、脂質二重層に対して平行に配向された長軸で、脂質二重層と相互作用することを示す。これは、NMRデータ、並びに両親媒性アドレス領域をデザインするために使用した原理と一致する。グリコペプチド11の脂質二重層との相互作用は、約4,000倍弱く(KD=30μM)、μM濃度のグリコペプチドでさえも、観察されるスペクトルシフトが非常に小さい。スペクトルは、9で観察されたものに反して変化し、遅く単調なプロセスを伴う(データ示さず)。
【表5】
【0075】
*両性イオン性ビセルの存在下において測定されたNOEsを用いたシミュレートアニーリング分子ダイナミクス計算に由来する。RMSD値は括弧内に示す。
【0076】
明らかに、上記教示を踏まえれば、本発明の多くの改変および変更が可能である。したがって、添付の特許請求の範囲内において、本明細書に具体的に記載されるのとは他の手法で本発明を実施してもよいことを理解すべきである。
【参考文献】
【0077】
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】CDおよびNMR研究に使用される膜の模倣物。ビセルは、ミセルよりずっと小さい膜の曲率を有し、本当の流体二重層を有し、膜結合グリコペプチド構造を更に予測する。
【図2】1st−3rd世代のグリコペプチドデザインするために、これらを両親媒性α−ヘリックスの輪として図示する(2および9を示す)。親水性残基は赤で示され、疎水性残基は青で示される。メッセージセグメントYtGFは、ヘリックスの一部として図示しない。予測される膜の位置は、グレーの線で示される。
【図3】グリコペプチド9は、計算されるコナリー(Connolly)表面と、「完全な」両親媒性ヘリックス(左の方へのN−末端メッセージセグメント)として図示される。この表面は、親水性(赤)および疎水性(青)の表面を示すために着色される。理想的な「クラスA」および「クラスL」の両親媒性ヘリックスは、同じ色スキームでエドモンドダイアグラム(エンド・ビュー)として図示する。
【図4】a)コンフォメーションアンサンブルの変化は膜により促進される。α−ヘリックスの溶解形態は、膜の相互作用につながる高いエネルギーの中間体とみなされてもよいし、膜は、ヘリックス形成につながる触媒とみなされてもよい。b)各グリコペプチドは、低エネルギーの膜結合ミクロ状態の小さなセット、並びに高エネルギーの溶解ミクロ状態のずっと大きなセットを有する。
【図5】推定されるエンドサイトーシス輸送メカニズム。両親媒性グリコペプチド(左側の3つの小さな球)は、血液側のBBBの内皮に吸着し、エンドサイトーシスを受けて小胞を形成できることが推定される。小胞が内皮細胞層の脳側へと進んだ後、エキソサイトーシスは、グリコペプチドを中枢神経系に運搬することができる。
【図6】SDS両親媒性媒質における1st−2nd世代のヘリックスグリコペプチドの遠UV CDスペクトル。ミセルの濃度は、30 mM、pH=7.0、T=18℃であった。種々の溶媒媒質におけるグリコペプチド9および10の遠UV CDスペクトル。使用したグリコペプチド濃度は、74〜80μMであった。ミセル濃度は30 mMであり、ビセル濃度は10 mM、25℃でpH=4.5であった。ビセルZは、両性イオン性ビセルを指す。ビセルAは、陰イオン性ビセルを指す。
【図7】ランダムコイルの値からの化学シフト偏差のプロット。AibおよびβAla残基は、プロットに示さない。連続するマイナス偏差は、ヘリックスコンフォメーションに特徴的である。ランダムコイルの値は、リファレンス70からとった。
【図8】グリコペプチドについてのパーセントヘリシティー(残基あたり)に対するRP-HPLC保持時間のプロット。
【図9】H2O:D2O(9:1)中、pH=4.5、20℃で観察されるROEsの概要。ラインの太さは、相対的なROE強度を示す。
【図10】TFE/H2O(3:7)中、pH=4.5、15℃で観察されるROEsの概要。ラインの太さは、およそのROE強度を示す。
【図11】SDSミセル中、pH=4.5、25℃で観察されるNOEsの概要。ラインの太さは、およそのNOE強度を示す。
【図12】両性イオン性ビセル中、pH=4.5、25℃で観察されるNOEsの概要。ラインの太さは、およそのNOE強度を示す。
【図13】CF3CH2OH:H2O(3:7)中、pH=4.5、15℃(混合時間=150ms)でのROESYスペクトルのフィンガープリント領域(αCH-NH)。DαN(i, i+2), dαN(i, i+3)およびdαN(i, i+4)ROEsは、下線を付す。
【図14】SDSミセル中、pH=4.5、25℃(混合時間=300msec)でのNOESYスペクトルの(αCH-NH)のフィンガープリント領域。中距離および長距離NOEsは、下線を付す。
【図15】両性イオン性ビセル中、pH=4.5、25℃(混合時間=300msec)でのNOESYスペクトルのフィンガープリント(αCH-NH)領域。フィンガープリント領域におけるヘリックスサインdαN(i, i+2), dαN(i, i+3)およびdαN(i, i+4)NOEsは、下線を付す。アミド領域における一連のdNN(i, i+1)NOEsの観察は、局所的なヘリックスコンフォメーションを示す。潜在的なdNN(i, i+1)NOEsの幾つかは、対角線に近いため、定量化することはできない。グリコペプチド対ビセル(glycopeptide-to-bicelle)比は1.25であった。
【図16】9についての溶媒システムの比較。200 psシミュレートアニーリング分子ダイナミクスから得られる、NOE由来の最低エネルギーのコンフォメーション。溶媒がH2OからCF3CH2OH/H2O、SDSミセル、ビセルへと変化するにつれ、ヘリシティーは増大し、バックボーンは硬くなる。
【図17】p-偏光(左パネル)およびs-偏光(右パネル)について、緩衝液(1)、脂質二重層形成(2)、およびグリコペプチド9相互作用に関して観察されるPWRスペクトル変化。示されるデータは、20 nMの各グリコペプチドについての平衡化状態に関する。
【図18】グリコペプチド9および11と脂質二重層との相互作用についての結合曲線。示される解離定数は、データを単一の双曲線関数を通って適合させることにより計算した。
【関連出願の相互参照】
【0001】
本出願は、2004年3月29日に出願されたU.S.出願シリアルNo.60/557,740、2004年6月25日に出願されたU.S.出願シリアルNo.60/583,257、および2005年1月5日に出願されたU.S.出願シリアルNo.60/641,492の優先権を主張し、これらの各々を参照により本明細書の開示内容の一部とする。
【連邦政府による資金提供を受けた研究または開発に関する陳述】
【0002】
本明細書に記載される発明は、ONR-N00014-02-1-0471およびNSF-CHE9526909により資金提供を受けた。したがって、政府が本発明に対して一定の権利を有し得る。
【発明の背景】
【0003】
発明の分野
本発明は、両親媒性であるグリコペプチドに関する。本発明のグリコペプチドは、血液脳関門(BBB)を通過することができる。その結果、当該グリコペプチドは、種々の神経障害および行動障害を治療するためのものである。
【0004】
背景の説明
内因性オピオイドペプチドは、総称エンドルフィンとしてひとまとめにされ、1970年代半ばに発見されて以来、熱心な研究の対象であった(1)。神経ペプチドは、副作用のほとんどない非常に選択的な薬理学的関与の可能性を有している。これらの天然に存在するオピオイドペプチドおよびこれらの誘導体を、血液脳関門(BBB)を通過可能にすることができれば、精神薬理学の新たな展望が、探究へと開かれるでしょう。30年の研究の後、多くの有効で選択的なオピオイドアゴニストが開発され、安定性の問題が大幅に克服された。オピオイドペプチドの薬剤としての使用を妨げる残る主要な問題は、バイオアベイラビリティの低さであり、これは、BBBの透過の低さによるものである(2)。BBBは、脳血管の毛細血管床における内皮細胞から構成される(3)。BBBは、望ましくない化学物質に対するバリアとして機能し、CNSの適切な機能のために生命維持に必要な栄養物が入ることを許容する(4)。その流れは、双方向性であり、CNSからの物質の搬出(流出トランスポート)および血液からの物質の搬入(流入トランスポート)を許容する。BBBは、物理的な障害物を表すだけでなく、代謝的な障害物も表し、酸化酵素およびペプチダーゼ(たとえばアミノペプチダーゼ、アリールアミダーゼおよびエンケファリナーゼ)の両方を保有する。このため、代謝的に不安定な物質(たとえばペプチド)は、CNSに到達する前に一般には分解される。また、多くのペプチドが、迅速に血流へと逆行して搬出されるように、CNSへの流入は、薬剤が有効な濃度で蓄積することを保証しないことに留意すべきである(5)。BBB透過の問題を解決する幾つかのストラテジー、たとえば非天然アミノ酸の置換(6)、コンフォメーションの拘束(constraints)の使用(7)、および親油性側鎖または他のトランスポートベクターの追加(8)が報告されている。グリコシル化は、成功した方法論であることが証明され、グリコペプチドにペプチドのファーマコホア(pharmacophore)を組み込むことにより、短いペプチド「メッセージ」の安定性およびバイオアベイラビリティの両方が改良されている(9)。エンケファリンに基くオピオイドグリコペプチドアゴニストを用いた従来のBBB透過の研究により、グリコシル化されていない元のペプチドと比較して、これら化合物の脳デリバリー速度は3倍まで増大することが示されている(10)。人工的な膜システムにおけるグリコペプチドを用いた近年の研究は、グリコペプチドの両親媒性がBBB透過において重要な因子であることを示す(11)。加えて、グリコシル化のタイプが、組織分布のパターンを変化させることができること(12)、BBB透過を変化させることができること(13)、ペプチド/レセプター相互作用を変化させることができること(11、14)を示唆する証拠が存在する。
【0005】
内因性オピオイドペプチド
内因性神経ペプチドのβ−エンドルフィンは、μおよびδレセプターに結合する31残基の天然に存在するオピオイドペプチドアゴニストである。そのN末端の5残基は、Met−エンケファリン配列と同一であり、そのファーマコホアであると考えることができる。β−エンドルフィンのC−末端領域が、レセプター結合およびオピオイドアゴニズム(agonism)に関与する両親媒性のα−ヘリックス構造を有し(15)、タンパク分解に対する抵抗性を誘導することができること(16)がかつて示されている。Schwyzerによれば、N−末端配列が必須の「メッセージ」であり、C−末端のヘリックス領域が、メッセージのデリバリーを他の有用なオピオイドレセプターのサブセットに制限する「アドレス」である(17)。Kaiserと共同研究者は、β−エンドルフィンが、N−末端のMet-エンケファリンペプチド配列、6〜12残基の親水性リンカー領域、およびヘリックスブレーカー残基Pro(13)とGly(30)の間の両親媒性ヘリックス領域から構成されることを提案した(18)。この提案は、その後、両親媒性を備えた人工C−末端へリックス領域を用いて幾つかのβ−エンドルフィン模倣物を合成することにより証明された(19)。これらのde novo両親媒性ヘリックスは、β−エンドルフィンのC−末端領域と相同ではなく、CD測定により大部分がα−ヘリックスであることが示された。これらのハイブリッド構造は、β−エンドルフィンと比較したときに、in vitroで優れたオピオイドアゴニズム(agonism)を示した。これらの研究により、C−末端ヘリックスの両親媒性は、C−末端に存在する特定のアミノ酸の同定よりも、これら化合物の選択性に重要な役割を果たすことが強く示唆された(20)。ジノルフィンA(1-17)もまた、内因性オピオイドペプチドであるが、κオピオイドレセプターに優先的に結合し、Leu−エンケファリンと同一のN−末端メッセージセグメントを有する(21)。C−末端領域中のアドレス配列は、κレセプターに対して選択性を付与することが示唆されている(22)。ジノルフィンAは、種々の分光測定による構造分析を受けると、広がった構造および/またはランダムコイル構造をとる(23)。DPCミセルにおける2D 1H-NMR研究は、ジノルフィンA(1-17)が、より少数のオーダーのN−末端セグメント、Phe(4)とPro(10)またはLys(11)との間の明確なα−ヘリックスセグメント、およびTrp(14)からGln(17)までのβ−ターンを含有することを示す(24)。NMRの結果に基いて、α−へリックスとC−末端のβ−ターンの両方が、ジノルフィン−ミセル相互作用によるものであり、in vivoで細胞膜に結合したときに、全長ペプチドの重要な構造的特徴であり得ると著者らは結論づけた。また、Lunaによる研究(25)は、ジノルフィンA(1-17)のメッセージセグメントにおいてヘリックス構造が重要であるという考えをサポートする。大きなオピオイドペプチドにおいてヘリックスC−末端アドレスセグメントの生物学的な重要性は、Kyleと共同研究者による最近の研究により更にサポートされている(26)。彼らは、NCのC末端にあるα−ヘリックス−促進残基 α−アミノイソブチル酸(Aib)およびN−メチルアラニン(MeAla)を利用して、幾つかの効力のあるノシセプチン(nociceptin)(NC)ペプチドを合成することに成功した。ノシセプチンは、近年同定されたオピオイドレセプター類似1レセプター(ORL-1)に対する内因性リガンドである。よって、グリコシル化によりBBB透過を促進することもできるC−末端両親媒性ヘリックスアドレスセグメントを組合せることにより、オピオイドアゴニストβ−エンドルフィンまたはジノルフィンペプチド類似体のデザインに取り組むことは理に適っていると思われる。
【発明の概要】
【0006】
本発明の目的は、両親媒性のグリコペプチドを提供することである。これらグリコペプチドは、純水中で本質的に非ヘリックスであるが、脂質二重層の存在下でヘリックス構造をとる。炭水化物の存在は、ヘリックス構造が膜から離れて、水溶性ランダムコイルを形成することを許容し、その結果、グリコペプチドは、膜に埋もれたままではなく、膜から膜へと移動することができ、時間ごとにヘリックスの両親媒性構造を再形成することができる。この構造的ダイナミックの結果、本発明のグリコペプチドは、血液脳関門(BBB)を通過することができる。その結果、グリコペプチドは、種々の神経障害および行動障害を治療するためのものである。
【0007】
よって、本発明は、少なくとも9個のアミノ酸残基を含み、かつ当該アミノ酸残基の少なくとも一つがグリコシル化されている、両親媒性グリコペプチドを提供する。
【0008】
また本発明は、当該グリコペプチドおよび少なくとも一の薬学的に許容されるキャリアおよび/または賦形剤を含む薬学的組成物を提供する。
【0009】
また本発明は、効果的な量の当該グリコペプチドを、それを必要とする被検体に投与することを含む、痛みを軽減する方法を提供する。
【0010】
また本発明は、効果的な量の当該グリコペプチドを、それを必要とする被検体に投与することを含む、痛覚脱失を与える方法を提供する。
【0011】
更に、本発明は、効果的な量の当該グリコペプチドを、それを必要とする被検体に投与することを含む、不安、うつ病、肥満、神経性食欲不振、恐怖症、統合失調症、パーキンソン病およびアルツハイマー病を治療する方法を提供する。
【発明の詳細な説明】
【0012】
本発明および付随する本発明の利点の多くは、添付の図面を伴って考慮すると、以下の詳細な説明を参酌することによりよく理解されるように、本発明および付随する本発明の利点の多くの更なる完全な認識は、容易に得られるでしょう。
【0013】
上述のとおり、本発明は、少なくとも9個のアミノ酸残基を含み、かつ当該アミノ酸残基の少なくとも一つがグリコシル化されている、両親媒性グリコペプチドを提供する。本明細書で使用されるとおり、本明細書で使用される用語「両親媒性」は、ペプチドおよびタンパク質化学の分野で一般に使用されるのと同じ意味を有する。このため、本発明のグリコペプチドは、親水性および疎水性の両方の官能基を保持する。とりわけ、グリコペプチドが、本明細書で詳細に記載されるようにヘリックスコンフォメーションをとる場合、以下で詳細に記載されるように、そのシーケンスは、疎水性表面と親水性表面を示す。
【0014】
本発明の好ましい態様において、グリコペプチドは、脂質二重層の存在下でヘリックスコンフォメーションをとり、これは、BBBの内皮層におけるそのコンフォメーションを反映する。また、グリコペプチドは、TFE-水の混合液、ミセルおよび/またはビセルの存在下でヘリックスコンフォメーションをとる。ヘリシティーは、円偏光二色性により、NMRにより、および逆相HPLCにより測定することができる。これら方法で測定すると、グリコペプチドは、少なくとも10%のヘリシティーを有する。好ましい態様において、グリコペプチドは、少なくとも15%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、85%または90%のヘリシティーを有する。
【0015】
別の態様において、グリコペプチドは、脂質二重層の非存在下で水中において実質的に非ヘリックスである。ヘリシティーは、円偏光二色性により測定することができる。この方法で測定すると、グリコペプチドは、最大で5%のヘリシティーを有する。好ましい態様において、グリコペプチドは、最大で4%、3%、2%または1%のヘリシティーを有する。実際、ヘリシティーの程度は、特定のアッセイ技術の検出レベル以下であってもよい。
【0016】
特に好ましい態様において、グリコペプチドは、脂質二重層の非存在下で水中において実質的に非ヘリックスであり、脂質二重層の存在下でヘリックスコンフォメーションをとる。かかる化合物の好ましい態様は、直前に記載されるとおりである。
【0017】
このコンフォメーションダイナミックの結果、本発明のグリコペプチドは、血液脳関門を通過することができる。好ましい態様において、グリコペプチドのBBB取込みは、0.001〜5マイクロリットル/皮質のグラム/分である(下記表1参照)。この範囲は、この間の具体的な範囲および部分的範囲のすべてを含み、たとえば、0.002、0.005、0.01、0.02、0.05、0.1、0.2および0.4を含む。別の態様において、グリコペプチドは水溶性である。
【0018】
本発明の好ましい態様において、グリコペプチドのアミノ酸配列は、N−末端のオピオイドメッセージ配列、C−末端のアドレス配列、および当該メッセージ配列と当該アドレス配列の間のリンカー配列を含む。多種多様なオピオイドメッセージ配列およびアドレス配列が周知であり、同一のアドレス配列を伴った非オピオイドメッセージ配列に加えて、本発明で使用され得る。適切なメッセージ配列には、以下のものが含まれる:
デルタ−選択的メッセージ配列
Met-エンケファリン Y-G-G-F-M
DSLET Y-dS-G-F-L-S
DTLET Y-dT-G-F-L-T
DSTBULET Y-dS(OtBu)-G-F-L-T
DPDPE Y-dPen-G-F-dPen (SS)
デルトルフィン(Deltorphin) Y-dM-F-H-L-M-D-CONH2
Mu−およびカッパ−選択的メッセージ配列
Leu-エンケファリン Y-G-G-F-L
LYM-147 Y-dA-G-MeF
DAMGO Y-dA-G-MeF-NH-CH2CH20H
デルモルフィン(Dermorphin) Y-dA-F-G-Y-P-S
ベータ−エンドルフィン Y-G-G-F-M-T-S-Q-T-P-L-V-T-T-L-F-K-N-A-I-I-K-N-A-Y-K-K-G-E
アルファ−ネオ−エンドルフィン Y-G-G-F-L-R-K-Y
ベータ−ネオ−エンドルフィン Y-G-G-F-L-R-K-Y-P
ペプチドE Y-G-G-F-M-R-R-V-G-R-P-E-W-W-M-D-Y-Q-K-R-Y-G-G-F-L
ペプチドF G-G-E-V-L-G-K-R-Y-G-G-F-M
ノシセプチン(Nociceptin) (FQ) F-G-G-F-L-R-R-I-R-P-K-L-K-W-N-N-Q
ダイノルフィンA(1-17) Y-G-G-F-L-R-R-I-R-P-K-L-K-W-D-N-Q
ダイノルフィンA (1-13) Y-G-G-F-L-R-R-I-R-P-K-L-K
ダイノルフィンB Y-G-G-F-L-R-R-Q-F-K-V-V-T
モルフィセプチン(Morphiceptin) Y-P-F-P
ベータ−カソモルフィン(Casomorphin) Y-P-F-P-G-P-I
エンドモルフィン(Endomorphin)-1 Y-P-W-F
エンドモルフィン(Endomorphin)-2 Y-P-F-F
ルビスコリン(Rubiscolin)-6 Y-P-L-D-L-F
上記リストの配列において、dA、dS、dT、dM、dPenは、それぞれ、D-アラニン、D-セリン、D-トレオニン、D-メチオニンおよびD-ペニシリミンを表す。
【0019】
リンカー配列に関しては、原則として、任意の比較的短いアミノ酸配列、または比較的短い炭素原子の配列をリンカーとして使用することができる。両親媒性ヘリックス輸送配列をメッセージ配列とオーバーラップさせることを望む場合、短い非要求性(non-demanding)リンカー、たとえば単一のグリシンまたは2個のグリシンを使用してもよい。適度に安定な両親媒性ヘリックス輸送配列を望む場合、ヘリックス脱安定化アミノ酸、たとえば単一のプロリンを使用してもよい。ヘリックスアドレス領域を終結させて、メッセージ配列とオーバーラップさせないことを望む場合、ヘリックス−ブレーカー、たとえばβアラニン、2個のプロリン、または更に長い配列を使用することができる。リンカーは、特定のメッセージ配列に適合するように変化させることができ、BBB輸送速度に対して大きな影響を及ぼす。所定のアドレスおよびメッセージ配列に対して最適なリンカーは、ルーチンの実験を用いて決定することができる。
【0020】
一つの態様において、グリコペプチドは、少なくとも10個のアミノ酸残基を含む。他の態様において、グリコペプチドは、少なくとも11個〜少なくとも50個のアミノ酸残基を含有していてもよい。この範囲は、この間の具体的な値および部分的範囲のすべてを含む。たとえば、グリコペプチドは、少なくとも11、12、14、15、17、19、20、25、30、35、40または45個のアミノ酸残基を含有していてもよい。好ましい態様において、グリコペプチドは、最大で60個のアミノ酸残基を含有していてもよい。他の態様において、その配列は、最大で55、50または45個のアミノ酸残基を含んでいてもよい。このように、本発明のグリコペプチドは、10〜60残基の長さのアミノ酸配列を有していてもよい。この範囲は、この間の具体的な値および部分的範囲のすべてを含み、たとえば12、15、20、25、30、40および50個のアミノ酸残基を含む。
【0021】
一つの態様において、グリコペプチドは、グリコシル化されたエンケファリンである。別の態様において、グリコペプチドは、グリコシル化されたエンドルフィンである。
【0022】
グリコペプチドは、N−末端配列Y-a-G-F-、T-t-G-F-、Y-t-G-F-L-、Y-t-G-F-L-P-、Y-t-G-F-L-βA-、またはY-t-G-F-L-G-G-を有していてもよい。記号“a”、“t”および“βA”は、それぞれ、D-アラニン、D-トレオニンおよびβ-アラニンを表す。別途記載しない限り、小文字で表記される単一のアミノ酸は、D-アミノ酸を指す。他の適切なN−末端配列には、Y-G-G-、Y-G-G-F-、Y-m-F-、Y-m-F-H-、Y-a-F-、Y-a-F-G-、Y-P-F、Y-P-F-P-、Y-P-F-F-、Y-P-W、およびY-P-W-F-が含まれる。加えて、多くの非オピオイド配列が本発明において使用されてもよく、副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)、黄体化ホルモン(lutenizing hormone)(LH)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(chorionogonadotropin)(hCG)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、血管作動性腸管ペプチド(VIP)、ブラジキニン、バソプレッシン、ニューロキニン、サブスタンスP、プロラクチン、および多くの他の視床下部ペプチドホルモンに由来する配列が含まれる。
【0023】
本明細書で使用される「グリコシル化された」という用語は、アミノ酸残基がグリコシル基を用いて機能的にされることを意味する。グリコシル基は、サッカリドユニットから構成される。これら用語は、ペプチドおよびタンパク質化学の分野で周知であり、本明細書で使用されるとおり、かかる意味を有する。好ましい態様において、グリコシル基は、最大で8個のサッカリドユニットを有する。より好ましくは、グリコシル基は、最大で4個のサッカリドユニットを有する。別の態様において、グルコシル基は、最大でジサッカリドであり、すなわちグリコシル基は、最大で2個のサッカリドユニットを有する。このように、サッカリドユニットの総数は、1〜8個とすることができ、この間の具体的な値および範囲のすべてを含む。グリコシル基の例には、β-D-グルコース、β-マルトース、β-ラクトース、β-メリビオース、β-マルトトリオース(β-maltotriose)が含まれる。他の例には、スクロース、トレハロース、サッカロース、マルトース、セロビオース、ゲンチビオース(gentibiose)、イソマルトースおよびプリメビオース(primeveose)が含まれる。他のグリコシル基には、ガラクトース、キシロース、マンノース、マノサミン酸(manosaminic acid)、フコース、GalNAc、GlcNAc、イドース、イズロン酸、グルクロン酸およびシアル酸が含まれる。
【0024】
本発明の一つの態様において、1個のアミノ酸残基がグルコシル化されている。別の態様において、2個のアミノ酸残基がグルコシル化されている。他の態様において、グリコペプチドは、3または4個以上のグリコシル化されたアミノ酸残基を有していてもよい。
【0025】
好ましい態様において、グリコペプチドは、グリコシル化された少なくとも一つのセリン残基を含む。別の好ましい態様において、グリコペプチドは、グリコシル化された2個のセリン残基を含む。一つの具体的な態様において、グリコペプチドは、1個のセリングルコシド残基を含有する。別の具体的な態様において、グリコペプチドは、2個のセリングルコシド残基を含有する。
【0026】
グリコペプチドを調製する適切な方法は周知である。固相ペプチド合成の周知の方法を使用して、本発明のグリコペプチドを調製することができる。グリコシル基は、当該配列のアドレスセグメントの側鎖にO−連結することにより、アミノ酸配列に連結されることが好ましい。参照により本明細書に組み込まれるTetrahedron Asymmetry 16, 65-75 (2005)およびU.S.5,727,254を参照されたい。
【0027】
本発明の特定の態様において、本発明のグリコペプチドは、デルタオピオイドレセプター、muオピオイドレセプターまたはカッパオピオイドレセプターに対して選択的である。この態様において、グリコペプチドは、レセプターアゴニストである。実際、任意のg-タンパク質共役受容体(GPCR)は、これらコンセプトを用いてデザインされるグリコペプチドに対するターゲットとすることができる。
【0028】
その結果、本発明のグリコペプチドは、これらレセプターにより媒介される種々の神経障害および/または行動障害を治療するために有効である。このため、グリコペプチドは、それを必要とする被検体に効果的な量のグリコペプチドを投与することにより痛みを軽減するために使用することができる。また、グリコペプチドは、それを必要とする被検体に効果的な量を投与することにより痛覚脱失を提供するために使用することもできる。また、グリコペプチドは、それを必要とする被検体に効果的な量を投与することにより、不安、うつ病、肥満、神経性食欲不振、恐怖症、統合失調症、パーキンソン病およびアルツハイマー病を治療するために使用することもできる。
【0029】
被検体は、好ましくはヒトである。また、被検体は、非ヒト動物、とりわけ哺乳類であってもよい。適切な動物には、マウス、ラット、イヌ、ウマ、ヒツジ、およびサルが含まれる。
【0030】
また本発明は、グリコペプチドおよび少なくとも一つの薬学的に許容されるキャリアおよび/または賦形剤を含む薬学的組成物を含む。本発明のグリコペプチドは、当該技術分野で一般的に知られている方法および賦形剤により、薬剤投与のために調製することができる(Remington’s Pharmaceutical Sciences, E.W. Martin)。キャリアおよび賦形剤には、水、pH緩衝液、たとえばクエン酸緩衝液またはリン酸緩衝液、Tweensまたは他の洗浄剤などの「湿潤剤」、塩化ナトリウムなどの塩、チオールなどの還元剤、デキストロース、ラクトース、スクロース等の糖、グリセロール、グリコール、オイル、保存剤、抗菌剤などが含まれ得る。組成物は、投与用の液体、パウダー、固体またはゲル形態で調製され得る。投与は、非経口ルート、たとえば静脈内、腹腔内または皮下、経口、鼻内、吸入、坐剤を介して直腸、または他の公知の薬剤投与ルートを経由してもよい。投与量および投与スケジュールは、薬理学の当業者により容易に決定される。グリコペプチドの適切な投与量の範囲は、0.001マイクログラム/体重キロ〜30ミリグラム/体重キロである。
【0031】
グリコペプチドのデザイン原理
3つのシリーズのグリコシル化β-エンドルフィン類似体が、研究のためにデザインされ合成された。ペプチドの配列は、β-エンドルフィンと相同ではないが、C−末端領域は、両親媒性ヘリックスコンフォメーションが得られるようにデザインされ、一または複数のセリングリコシドをもつ。マウスにおけるこれら化合物の完成した血液脳関門研究は、別途公表されるが(27)、多くの目立ったBBBの結果の幾つかは、オピオイド結合および機能アッセイとともに本明細書で示される。非常に長いエンドルフィングリコペプチド類似体の幾つかが、非常に短いエンケファリングリコペプチド類似体よりも高速でマウスBBBを透過することは注目すべきである。この研究において、我々は、2D-1HNMRおよび円偏光二色性(CD)により測定される、水、TFE−水の混合液、SDSミセルおよびビセル中の各々のβ−エンドルフィングリコペプチド類似体のデザインおよびコンフォメーション分析に焦点をあてる。有機溶媒のトリフルオロエタノール(TFE)は、従来から二次構造の形成を促進するために使用されている(28)。その後、ペプチド−膜の相互作用を研究するために洗浄剤ミセルの使用が提案された(29)。最近、より扁平な膜の環境をうまく模倣するために、リン脂質ビセルの使用が提案され、これは、有機溶媒およびミセル以上に優れているために勢いを得ている(30)。NMR研究で使用されるビセルは、ディスク形状の集合体であり、これは、二重層ドメインディスクを形成する長鎖のリン脂質、たとえばジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)を、二重層の端を閉じる短鎖の界面活性剤リン脂質、たとえばジヘキサノイルホスファチジルコリン(DHPC)とともに混合することにより形成される(30b, 31)。大きな正曲率を示すミセルとは異なって、リン脂質ビセルは、非常に低い曲率を有する真の流体膜二重層セグメントを構成する(図1)。幾つかの膜結合酵素は、ミセル溶液中ではその活性を失うが、リン脂質ビセルに結合したときにしばしば活性が保持されることが示されている(32)。また、Met-エンケファリンは、ミセル環境においてよりも多くの流体ビセルの存在下において、様々なコンフォーメーションアンサンブルを示すことが以前に示されている(33)。SDSミセルおよびビセルシステムにおける細胞透過ペプチドのコンフォメーション研究は、これらペプチドが両方のシステムにおいて非常に類似の構造をとるが、ミセルにおけるペプチドの位置は、リン脂質二重層における位置とは顕著に異なることを示す(34)。このように、BBBを横断するグリコペプチドの行動を理解するために、TFE-水の混合液、並びに膜模倣のミセルおよびビセルにおけるグリコペプチドのコンフォメーション特性を研究することは重要である。
【0032】
Robert Schwyzerは、彼の「膜コンパートメント理論」の開発とともにペプチド−レセプター相互作用における膜の重要性を指摘した。この理論によれば、細胞膜の脂質相は、レセプターとリガンドのためのマトリクスとして機能する(14)。Max Delbruckは、「膜コンパートメント化」と関連して、レセプター−リガンドの相互作用の理論的研究を行なった(35)。彼は、レセプターに対する2D調査は、レセプターに対する3D調査よりずっと効率的であることを見出し、最初の相互作用は、リガンドの膜への吸着であることを提案した。また、膜への挿入(insertion)は、溶液のコンフォメーションとは異なるリガンドの特異的なコンフォメーションを誘導することができ、この膜結合コンフォメーションは、バイオ活性なコンフォメーションであると思われる。
【0033】
ヘリックスは、球状タンパク質に最も一般に存在する二次構造エレメントであり、これは、すべての残基の三分の一を占める(36)。1974年にSegrestと共同研究者らは、タンパク質関与の脂質相互作用のユニークな構造/機能の構造モチーフとして、両親媒性(amphipathic)(a.k.a. 両親媒性(amphiphilic))ヘリックスを、初めて理論づけた(37)。天然のα−ヘリックスの50%以上が両親媒性であると推定される(38)。これらタンパク質は、(親水性N−末端と疎水性C−末端を有する)一次構造、または一つの面を指し示す極性残基と反対側にある非極性残基を備えた二次構造の何れかにより、疎水性領域と親水性領域を保持する点でユニークである。これにより、これらタンパク質は、その親水性側を細胞の水性外部に露出し、その疎水性側を親油性膜に露出して、細胞膜に「フロート」することが許容される。幾つかの機能的特性は、両親媒性ヘリックスと関連しており、これには、脂質の連結、融合または溶解の形態にある膜の混乱、ホルモンレセプター触媒作用、膜貫通シグナル伝達、キナーゼ−カルモジュリンのシグナル伝達の調節、および膜貫通ヘリックスバンドルの形成が含まれる(39)。両親媒性細胞透過ペプチド(cell penetrating peptides CPP)は、サイトゾルへの薬剤デリバリーのために使用されている(40)。これらのクラスL(たとえば溶解性)両親媒性ヘリックスは、細胞表面に凝集し、その後回転して脂質二重層を通って孔を形成すると考えられる。これは、BBBの透過にとって優れた科学的モデルではない。むしろ、凝集したり孔を形成したりしないクラスA(たとえばアポリポタンパク質)両親媒性ヘリックスは、内皮層においてエンドサイトーシスに関与するため望ましいと思われる。クラスA両親媒性ヘリックスは、グリコペプチドがサイトゾルに入ったり膜に非常に深く侵入したりするのを妨害し、これは、BBBを横断するという面において、不可逆的なできごととなり得る。このように、これら研究で使用される両親媒性ヘリックスの親水性面を形成する残基は、180°に近い大きな角度をふさぐように選択され、膜において「うまく機能する(ride high)」クラスA両親媒性ヘリックスを提供すべきであり、凝集して孔を形成することが起こりにくい。
【0034】
これら研究においてヘリックスグリコペプチドは、ヘリックス形成の古典的研究(41)に合わせて、両親媒性を導入する単純なEdmundsonホイールアプローチと組合せてデザインした(図2)。分子メカニクスの計算により、グリコペプチドのヘリックス両親媒性構造が裏付けられた(図3)。疎水性残基と親水性残基を異なるカラーでラベルした溶媒アクセス領域(コナリー表面)は、これら分子が、膜環境においてクラスA両親媒性ヘリックスとして存在することを示唆し、我々が、トランスサイトーシスによる細胞バリアの透過を達成する最適なオン・オフ速度(on and off rates)を確立することが、我々の希望であった(10, 11)。
【0035】
従来の研究で使用されたのと同一のδ−選択的DTLESメッセージセグメント(42)が、これら研究を通して使用された。メッセージおよびアドレスセグメントは、ペプチドリンカーを介して努力して連結され、ヘリックスを「中断する(break)」。3セットのグリコペプチドは、共通のメッセージセグメントYtGFLを用いて、リンカーと両親媒性ヘリックスアドレスセグメントを変えてデザインした(表1)。1st世代のヘリックスグリコペプチド(1-4)は、共通のGlyリンカーを有するが、アドレスセグメントの配列の長さが異なる(単純なトランケーション)。一つまたは二つのグリコシル化部位を導入して、その両親媒性物(amphipath)の膜からの解離を促進する。これら4つの1st世代のグリコペプチドのうち、グリコペプチド2のみが、測定可能な水溶性を示した。2nd世代のグリコペプチド(5−8)は、僅かな疎水性領域と第三のグリコシル化部位を努力して導入して、これらを水溶性にした。2nd世代のヘリックスのすべてが、実際に水溶性であった。1stおよび2nd世代のグリコペプチドの両方において、Glyリンカーは、ヘリックスを終結させるのに有効ではなく、これは、YtGFLメッセージへと広がった(propagete)。3rd世代のヘリックスグリコペプチド(9−12)において、3種類のリンカー、Pro、β-Ala、Gly-Glyを同一のヘリックスセグメントとともに使用し、これは、非常に短く、ヘリックス形成を促進することが公知の残基Aibを含有していた。ProおよびGly-Glyのいずれも、ヘリックスを終結させるのにあまり有効ではなかた。C末端ヘリックスセグメントの長さは、3rd世代のデザインにおいて、二つの完全なα−ヘリックスターンを形成するのに十分な9個の残基の長さで固定した。C−末端ヘリックスアドレスセグメントのいずれもが、天然のβ−エンドルフィンまたはダイノルフィンのC−末端セグメントに対して配列相同性を有していなかった。ヘリックス形成に関与する安定化力は、局所的であるため、たとえば、内部水素結合のレギュラーネットワーク、荷電側鎖の間の静電的相互作用であるため、ヘリックスのデザインは、β−シートのデザインより簡単である(43)。短い安定なヘリックスペプチドを作成するために従来使用されたストラテジーには、以下のものが含まれる:i)ヘリックス安定化Ala残基の組込み(44)、ii)α−メチル化アミノ酸の使用(45)、iii)一つのα−ヘリックスターンにより隔てられた残基の間の塩橋の追加(46)、iv)共有結合型大環状分子の組込み(47)、およびv)ヘリックス形成を開始させる非ペプチドテンプレートの添加(48)。このように、我々のデザインは、タンパク質のフォールディング原理およびアミノ酸特性(たとえばストラテジーi−iii)に純粋に基くものである。疎水性残基および親水性残基は、ヘリックスホイールプロットにC−末端ヘリックスセグメントをプロットすることにより適切に配置した(エドモンドダイアグラム)。また、我々は、NMR特徴づけを容易にする手法でアミノ酸を配置した。Trp、PheおよびLeuは、1stおよび2nd世代のグリコペプチドにおいて疎水性アミノ酸として選択したが、3rd世代では、疎水性残基のなかでLeuが優れたヘリックス性質を有するため、Leuのみを疎水性残基として選択した(49)。Glu-およびLys+は、親水性残基として選択し、iおよびi+4の位置に配置したときに塩橋を形成する(47)。α−ヘリックスの先端(N-cap)または終端(C-cap)に位置したときに主鎖のアミドNHまたはカルボニル基と水素結合を形成することができる側鎖を備えた残基の存在は、ペプチドおよびタンパク質においてヘリックスコンフォメーションを安定化させ、核となる(nucleate)ことが見出された。Aspに続いてAsnは、天然のタンパク質ヘリックスにおいて最も好ましいN-cap残基であり、主鎖のNH水素とi、i+2またはi、i+3タイプのH−結合を形成する(50)。よって、3rd世代のへリックスグリコペプチドにおいて、Asnは、リンカー残基の直後に配置し、その側鎖のアミドと主鎖との間でAsxタイプの水素結合を形成することによりヘリックスを開始させた(51)。ヘリックスセグメントのデザインで使用された他の重要なデザイン特徴は、安定性および溶解性を高め、凝集を防ぐために、中央にヘリコ起源の(helicogenic)Aib残基を配置し、iおよびi+4の位置に荷電残基GluおよびLysを配置し、静電的塩橋を有する。
【表1】
【0036】
議論
グリコペプチド9は、マウスにおいて血液脳関門を効率よく通過することが見出されたが、グリコペプチド11はそうではなく、このことは、血液脳関門を通過する9の能力が、脂質二重層に対する高い親和性と関連していることを示唆する。この結合親和性は、ペプチド部分の構造が、膜との相互作用を担うことを示唆する。9と関連した非グリコシル化ペプチド(Supporting Infoにおける9u)は、膜への結合が僅かに低下することを示す(KD=400 nM、データ示さず)。非グリコシル化ペプチドを伴う更なる研究は、この点を更に調査することが必要であるが、グリコシル化を高めると、リポソームとの相互作用が増大することが、短いグリコペプチドを用いて以前に観察されている(11)。このことは、炭水化物が、おそらく膜表面近くのH2O分子の「撹乱されていない層(unstirred layer)」と相互作用することにより、膜からの拡散速度を遅延させることを示す。
【0037】
入手可能な情報によれば、グリコシドの役割は、膜からグリコペプチドを引き離して、膜から膜へと薬剤を「跳びまわらせる(hop)」ことであることが示唆される。この「跳びまわり(hops)」は、ヘリックスバックボーンコンフォメーションを維持して短い移動とすることができるし、あるいは水相におけるヘリックス→ランダムコイルの移行により長い移動とすることもできる(図4)。膜は、ヘリックス形成を促進する触媒とみなすことができるし(17)(時計回り運動)、あるいは水溶液中のヘリックス形成は、膜結合を達成するために克服しなければならないエネルギーバリアとみなすことができる(反時計回り運動)。CDおよびNMRの結果は、グリコペプチドが、膜二重層の存在下または非存在下において二つの別の行動をとることを示す。水性媒質では、発生期の(nascent)ヘリックスのみが、コンフォメーションアンサンブルを占める多くのランダムコイル構造(たとえば図4b、1,2,3,・・・)を伴って観察される。膜二重層の存在下では、少数の両親媒性構造(たとえばA,B,C・・・)がアンサンブルを占める。これら研究および他の研究(10、11、27)から、グリコシル化の程度(すなわちジサッカリドvsモノサッカリド)は、個々のミクロ状態の構造に大きな影響を及ぼさないことが明らかであると思われる。よって、グルコシル化の増大の主な役割は、全体の水性アンサンブルのエネルギーを低下させることである。グリコシル化の程度の変更は、水性vs膜結合状態の集団密度の調整を考慮すべきである(52)。
【0038】
両親媒性アドレスセグメントの相互作用は、メッセージセグメントのレセプター結合に対して密接な関係を有しているが、薬剤輸送およびBBB透過に対する両親媒性物(amphipath)の密接な関係も、非常に重要である。BBB透過は、脳キャピラリーの内皮の血液側において、吸収性エンドサイトーシスプロセスを介して起こり(図5)、その後、脳側でエキソサイトーシスが起こり、全体的なトランスサイトーシスメカニズムに至る。このプロセスが効率的であるためには、グリコペプチドが、しばらくの期間、膜に結合可能でなければならず、また、しばらくの期間、水性状態で存在可能でなければならない。インビトロでのグリコペプチド−膜の相互作用に関して動的情報を得るためには、更なる研究が行なわれる必要があり、グリコシル化ストラテジーを完全に利用するためには、BBB輸送プロセスに関してインビボの更なる情報が必要である。
【0039】
結論
CDおよびNMR研究は、グリコペプチド9−12が、H2O中で発生期の(nascent)ヘリックス−ランダムコイル構造を形成すること、これら水性ランダムコイルの膜模倣物への露出は、高い両親媒性のヘリックス二次構造をつくることができることを示す。幾つかのラインのインビトロ研究(CD、NMR、PWR)は、膜誘導型のヘリックス形成が陰イオン性および両イオン性の膜模倣物の存在下で容易に起こることを示す。ヘリックスアドレス領域の膜への結合は、オピオイドレセプターにおいてアゴニズム(agonism)を改変することができ、オピオイド結合のカイネティクスに影響を及ぼすかもしれない。PWRにより決定される膜結合親和性(マイクロモル〜ナノモルのKD値)は、膜親和性が、オピオイドレセプターに対する親和性に匹敵するか、またはオピオイドレセプターに対する親和性を超えることを示す。膜への両親媒性結合は、BBB輸送速度と関連すると思われる。ヒトの脳で産生される250の公知の神経ペプチドが存在するため、グリコシル化される対応物の完全な理解は、神経ペプチドの天然の結合選択性を利用して広範囲の神経学的障害を治療する新規な薬理学の展望につなげることができる。
【実施例】
【0040】
実験手順
材料
アミノ酸、カップリング試薬およびRink−アミド樹脂は、Advanced ChemTech (Louisville, USA)から購入した。NMR実験で使用したドデシル硫酸ナトリウム−d25を含む他のすべての試薬は、Sigma (St.Louis, MO)から購入した。重水素化リン脂質、ジヘキサノイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン−d22(DHPC)、1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスファチジルコリン−d54(DMPC)および1,2−ジミリストイル−sn−グリセロ−3−ホスホ−1−グリセロール−d54(DMPG)は、Avanti Polar Lipids (Alabaster, AL)から購入した。
【0041】
ペプチドの合成および精製
必要なグリコシルアミノ酸は、以前に公表された方法を用いて合成した(53)。グリコペプチドは、Rinkアミド樹脂上で、フルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)化学を採用する標準的な固相方法によりマニュアルで合成した(54)。側鎖の保護基は、グリコペプチドが樹脂にまだ結合している間に、合成の最後に1回のステップで除去されるように選択した。合成で使用される側鎖の保護アミノ酸は、Fmoc-Lys(Boc)-OH、Fmoc-Glu(OtBu)-OH、Fmoc-Asn(Trt)-OH、Fmoc-DThr(But)-OHおよびFmoc-Tyr(But)-OHであった。アミドカップリングは、HBTU/HOBt/DIPEAとであった。各々のカップリングは、マニュアルのペプチド合成管において、溶媒としてDMFを用いて、N2を用いて90分間攪拌することにより行なった。カップリングは、Kaiserニンヒドリン試験によりモニターした。Fmoc基は、DMF中の20%ピペリジン溶液を用いて除去した。グリコペプチドが組み立てられ(assemble)、最後のFmoc基が除去されると、-OAc保護基は、CH3OH中の80% H2NNH2・H2Oを用いて、炭水化物から切断した。グリコペプチドは、側鎖の保護基も除去するF3CCOOH:Et3SiH:H2O:PhOMe:CH2Cl2 (9:0.5:0.5:0.05:1)混合液を用いて、樹脂から切断した。クルードなグリコペプチドは、氷冷エーテルを用いて沈殿させ、濾過し、H2Oに再溶解し、凍結乾燥させた。グリコペプチドは、プレパレイティブRP(C-18)カラムを用いたRP-HPLCにより、0.1% TFAを含有するアセトニトリル−水の勾配を用いて精製した。最終グリコペプチドの均質性は、分析RP-HPLCおよび質量分析により確認した。
【0042】
円偏光二色性
円偏光二色性実験はすべて、温度コントロール手段としてEndcal Model RTE4DD水循環器を用いて、Aviv Associates model 60DSで行なった。この装置は、d-10-カンホスルホン酸を用いることによりキャリブレーションを行なった。スペクトルは、連続モードにより、1.5 nmバンド幅、3つの二次応答(three second response)、およびパス長が0.1 cmのセルでの0.5 nmのスキャンステップを用いて、200〜250 nmの間で記録した。3回または5回のスキャンを集計して、各スペクトルについて平均した。グリコペプチドのストック溶液は、Cahn/Ventron Instruments Model 21自動分析電気てんびんを用いて必要な量をはかり、1 mLの0.5−1.0 mM溶液を作成することにより調製し、pHを所望の値に調整した。サンプルは、ストック溶液を70−80μMに希釈することにより調製した。観察されるスペクトルはすべて、ベースラインを減算し、Microcal Origin Ver.5.0ソフトウェア(Microcal Software Inc, USA)を用いた5点の近接の平均により平らにした。モル楕円率は、式[θ]=[θ]obs・(MRW)/10・l・C(ここで、[θ]obsは、観察されるミリ度(millidegree)の楕円率、MRWは、平均残基重量、lは、センチメートルのセルのパス長、Cは、mg/mLのグリコペプチドの濃度である)を用いて決定した。パーセントα−ヘリシティーは、式%ヘリックス=[θ]n→π*/-40,000(1-2.5/n)・100(ここで、nは、グリコペプチドの(C−末端アミドを含む)アミド結合の数を示し、[θ]n→π*は、222 nmにおけるn→π*遷移バンドのモル楕円率である)を用いることにより決定した(55)。
【0043】
NMRスペクトロスコピー
すべてのNMRスペクトルは、Bruker DRX600 600MHzスペクトロメーターで記録した。NMR実験のためのグリコペプチド濃度は、2-3 mMから変化させた。グリコペプチドは、予め混合された30% TFE−水混合液の0.6 mL溶液にペプチドを溶解することにより、TFE−水溶液中で調製した。ミセルのサンプルは、0.6 mLのH2O/D2O(体積比9:1)にグリコペプチドと100当量の過重水素化(perdeuterated)SDSを溶解することにより調製した。ビセルは、重水素化リン脂質から作製した。両性イオン性ビセルは、短鎖リン脂質ジヘキサノイル-sn-グリセロ-3-ホルファチジルコリン-d22(DHPC)と長鎖1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスファチジルコリン-d54(DMPC)を2:1のモル比でH2O中に混合することにより作製した。陰イオン性ミセルは、DMPCの代わりに10モル%の1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスホ-1-グリセロール-d54(DMPG)を使用することにより調製した。グリコペプチドのビセルに対する比は、1:25であった。グリコペプチドをビセル溶液に添加した後、そのシステムを一連の3つの凍結/融解/軽いボルテクス振盪のサイクルにかけた。各サンプルのpHを、必要に応じてDClまたはNaODを用いることにより4.5に調整した。TSP(3-(トリメチルシリル)-d4-プロピオン酸)を内部標準として添加した。F3CCD2OD/H2O混合液中の実験は、293 Kであり、ミセル/ビセル中の実験は、298 Kまたは311 Kであった。二次元二重量子フィルター相関(DQF-COSY)、回転座標オーバーハウザーエンハンスメント(56)(ROESY)、核オーバーハウザーエンハンスメント(57)(NOESY)、および全相関スペクトル(58)(TOCSY)を、標準的パルスシーケンスを用いて得て、XWINNMR(Bruker Inc)およびFELIX2000(Accelrys Inc, San Diego, CA)を用いて処理した。TOCSYスペクトルのミキシング時間は、80または100 msであった。ROESYスペクトルのミキシング時間は、150または250 msであり、NOESYスペクトルのミキシング時間は、200または300 msで
あった。すべての実験は、t1において750インクリメント、それぞれ16/32/64スキャン、1.5 sリラクゼーション遅延、サイズ2または4Kとし、スペクトルの処理は、両次元において、シフトしたサイン・ベル・ウィンドウ・マルチプリケーション(shifted sine bell window multiplications)であった。水の抑制は、H2OシグナルのプレサチュレーションによりF3CCD2OD/H2Oサンプルについて達成された。H2Oの抑制技術は、膜模倣溶媒に対して満足な結果が得られなかったので、WATERGATEパルスシーケンスを、H2Oシグナルを抑制する溶媒のために使用した(59)。カップリング定数(3JαH-NH)は、2D DQF-COSYスペクトルから測定した。
【0044】
構造決定
構造計算のための距離の拘束(distance constraint)は、ROESYまたはNOESYピークの積分体積から求めた。NOE積分体積は、それぞれ上部結合距離として3.0、4.0、5.0 Åを用いて、強い、中程度、弱いに分類した。分子ダイナミクスシミュレーションは、終始一貫した原子価力フィールド(CVFF)を備えたINSIGHT/DISCOVERパッケージ(Accelrys Inc, San Diego, CA)を用いて行なった(60)。すべての計算は、事実とは無関係に(in vacuo)行なった。距離依存性誘電定数(2.5・R、ここでRは距離(Å)である)を用いた。観察されるαCHプロトンのCSIプロットおよびNOEパターンに基けば、すべてのグリコペプチドの開始構造は、N−末端セグメント1−6の拡張コンフォメーション、およびC−末端セグメント7−16のヘリックスコンフォメーションを有していた。GluおよびLys側鎖の荷電形態は、計算の間ずっと考慮された。すべてのペプチド結合は、100 kcal mol-1エネルギーペナルティーにより、トランスコンフォメーションに拘束された。25 kcal mol-1の力の定数を備えた距離の拘束は、2.0Åの共通の低い結合を備えたフラットボトムのポテンシャルウェルの形態で適用した。残基間の(inter-residue)NOEsに由来する距離の拘束のみを計算に含めた。立体特異的な割当てはなされず、そのため、NOE拘束を課したときに、仮の原子相関をジアステレオ性プロトンのすべてについて適用した(61)。αCH化学シフトインデックス(CSI)に基く二面角の拘束を、ヘリックスタイプのデビエイション(deviation)を示す残基に課した。このため、>−0.10 ppmのCSIに関して、φおよびψの拘束は、それぞれ−90°〜−30°および−60°〜0°の範囲であったが、<−0.10 ppmのCSIに関して、対応する範囲は、ψで−180°〜−30°、φで−90°〜180°であった。開始構造は、所定の位置で(in place)すべての拘束を伴って、最初に最急降下アルゴリズムを用いて、次いで共役勾配アルゴリズムにより、最小化し、最後にシミュレートアニーリングプロトコールを行なった。200ピコセコンド分子ダイナミクスランを1,000 Kで行い、次いで、トータル35 psの間、7ステップで300 Kに冷却し、その後、最急降下および共役勾配の最小化を行なった。2ピコセコンドの間隔で、100個の最終的な最小化構造をサンプリングした。
【0045】
プラズモン波ガイド共鳴(PWR)スペクトロスコピー
これら実験に使用したPWR装置は、1000分の一度のスペクトル分解能を有する、Proterion Corp. (Piscataway, NJ) から入手したAviv Betaプロトタイプバージョンデバイスであった。自己組織化される固体サポート脂質膜は、自由に懸濁された脂質二重層の形態のために使用された方法に従って調製した(62)。これは、薄い誘電性フィルム(SiO2)を水相から分離するテフロン(登録商標)シートにおいて、オリフィス(orifice)を横切って少量の脂質溶液を分散させることを伴う。水和したSiO2の親水性表面は、脂質分子の極性基を引き付け、脂質分子の初期のオリエンテーションを誘導し、炭化水素鎖が過剰な脂質溶液の小滴に向いている。PWRセルのサンプルコンパートメントに水性バッファーを添加することにより誘導される二重層形成の次のステップは、低粘稠化プロセスおよび脂質溶液のプラトー−ギブス境界の形成を伴い、これは、テフロンスペーサーに膜を固定する。本実験において、脂質フィルムは、スクアレン/ブタノール/メタノール(0.05:9.5:0.5、v/v)中に5 mg/mLの卵のホスファチジルコリン(PC)を含有する溶液から形成した。脂質は、Avanti Polar Lipids (Birmingham, AL)から購入した。すべての実験は、25℃の一定の温度で、0.5 mM EDTAおよび10 mM KCl(pH=7.3)を含有する10 mM Tris-バッファーを用いて、1 mLのサンプルセルにおいて行なった。脱イオン水に溶解したグリコシル化ペプチドの一部を、PWRセルサンプルに徐々に注入し、平衡に達するまでシグナルをモニターした(安定なPWRシグナル)。最後に、セルサンプルにおけるペプチド濃度の関数として、PWRスペクトルの共鳴の最小の位置をプロットし、脂質二重層へのリガンドの結合を記載するためのシンプルな双曲線関数を用いて適合させることにより、解離定数(Kd値)を得た。データ分析は、GraphPac Prism(CraphPad Software Inc., CA, USA)を用いて行なった。
【0046】
第一世代のヘリックスグリコペプチド
1st世代のシリーズにおいて、アドレスセグメントを含むヘリックスの長さは、安定なヘリックス形成のために必要な最小の長さを決定するために変化させた。8個の残基の両親媒性配列を、ヘリックスのためのベース繰返しユニットとして使用し、全長は10〜14個の残基を使用した(表1)。1st世代のグリコペプチドは、NMRおよびCDにより調査され、ヘリックスの安定性に対する長さの効果を決定した。CDデータは、これらグリコペプチドが、水中でランダムコイルであり、SDSミセルの存在下でヘリックスになることを示唆した。しかし、アドレスのヘリックスの長さと残基ごとのグリコペプチドのヘリシティーの程度との間に、直接的相関関係をつくることはできなかった。実際、最も短い化合物のグリコペプチド1は、アドレス領域が12残基であるが、CDにより最大レベルのヘリシティーを示した。これらグリコペプチドは、H2O中でほとんど溶解しないため、ミセル結合構造を水性状態と比較することはできなかった。当該化合物に関するNMR研究は、NMRコンセントレーション(concentration)における低い溶解度のため、問題を含んでいた。1st世代のグリコペプチドの一つ、グリコペプチド2のみが、水における有意な溶解度を示し、H2O/D2OにおけるNMR研究を行い、残基特異的なコンフォメーション特性を得た。幾つかのヘリックスの診断ピークが観察された(データ示さず)。これら長距離の「ヘリックス」NOEの幾つかは、グリシンスペーサー残基を横切って移動し、これには、G3αH⇔L7NH、F4αH⇔L8NHおよびL5αH⇔A9NHが含まれる。これにより、グリシンのスペーサーが、当初望んだとおりヘリシティーを終結させないこと、並びにメッセージセグメントのコンフォメーションが、アドレスセグメントのヘリシティーにより影響を受けることが示唆された。これらおよび他のNOEは、水中のヘリシティーの程度を示唆したが、水におけるグリコペプチド2のCDスペクトルは、当該化合物がCDにより主にランダムコイルであると決定されたため、この結論に異議を唱えた。
【0047】
グリコペプチド2は、1st世代シリーズの唯一の水溶性化合物であったため、インビトロでの結合研究およびインビボでの抗侵害受容(antinociception)研究を続けたのは、当該グリコペプチドのみであった。両方のレセプター結合アッセイにおいて、化合物は、当該レセプターにおいて優れた能力をもって、多少δ−選択的であることが観察された。以前の研究(10)のエンケファリン−ベースのグリコペプチドと比較すると、μ−レセプターにおける活性は、両アッセイにおいて減少したが、当該薬剤は、インビボ実験を保証する十分な活性を保持していた。試験の際、i.c.v.投与後の化合物のA50値は、マウスあたり120ピコモルを示した。これにより、当該薬剤は、この投与ルートを介してモルフィリンより約18倍高い効力を有することが示された。このA50値は、BBB透過のための両親媒性ヘリックスC末端の使用の成功を確証し、α−ヘリックスグリコペプチドエンケファリン類似体も、インビボで抗侵害受容(antinociceptive)効果を提供できることを示す。
【表2】
【0048】
a [θ]の単位は、deg・cm2・dmol-1である。
【0049】
b [θ]π→π*の陰性極大は、205〜209 nmの間で観察された。
【0050】
c [θ]n→π*の陰性極大は、222〜225 nmの間で観察された。
【0051】
d R=[θ]n→π*/[θ]π→π*。0.15−0.40の低い値が310−ヘリックスについて観察される。
【0052】
e %ヘリシティーは、リファレンス53に従って計算した。すべてのデータは、pH=7.0、18℃で、SDSミセル(30 mM)の存在下で観察された。
【0053】
第2世代のヘリックスグリコペプチド
この世代の主な関心事は、水の溶解性および親油性vs親水性の比であった。このシリーズのグリコペプチドはすべて、3個のグルコシルセリンを有し、高い水溶性を有していた。これらグリコペプチドのコンフォメーション特性は、CDにより研究した(図6および表2)。グリコペプチドは、CDによれば水中でほとんどランダムコイルであったが、SDSミセルではほとんどヘリックスフォールディングをとる。この世代のグリコペプチドは、1st世代のものよりヘリックスが少なかった。[θ]n→π*(=222 nm)と[θ]π→π*(=205 nm)との比として規定されるパラメーターRは、グリコペプチド7について0.45であり、これは、グリコペプチドバックボーンが310−ヘリックスフォールディングを受けることを示唆する。グリコペプチド7のC末端ヘリックスセグメントは、グリコペプチド8と同じアミノ酸を有しているが反転しており、これらが明らかに異なるCDスペクトルを示すことに注目することは興味深い。この結果は、ペプチド配列におけるアミノ酸の配置は、特定のフォールディングパターンを得るためには、アミノ酸特性単独よりも重要であることを示唆する。NMRにより三次元構造を決定する試みは、低品質のTOCSYスペクトルにより妨害され、これは、明瞭なスピン−システム同定にとって通常不可欠である。NOESYスペクトル(ROESYスペクトルではない)は、高品質であった。この理由は、おろらく、グリコペプチドのSDSミセルとの結びつきによる有効分子量の増大であり、これは、非常に長い相関(τc)時間により裏付けられる。
【0054】
マウスへのi.c.v.投与(別々に公表される結果)は、グリコペプチド5、6および7が、マウスあたり100ピコモル以下のA50値を有する、有効な抗侵害受容(antinociceptive)剤であることを示した。ヘリシティーの程度とグリコペプチドが提供する痛覚脱失レベルとの間に直接的相関関係は存在しなかった。最小の親油性化合物および中程度の親油性化合物はすべて、2−3hの正常な効力時間をもって、優れた痛覚脱失を示した。これは、最大の親油性シリーズ、グリコペプチド8ではそうではなかった。この化合物は、インビボで最も低い効力を示したが、最長の作用の持続時間を示した。これは、おそらく直接的には、グリコペプチドの高い親油性によるものである。この化合物は、細胞膜に対して最大の親和性をおそらく有する。表面と水性外部との間の分配係数が十分に高い場合、表面への結合は、ごく僅かな(less of)可逆的現象に至る。このことが起こった場合、脳での拡散は速度の遅いプロセスであり、これは、薬剤が早急にオピオイドレセプターに到達しないことを意味する。この遅い拡散プロセスが、長期持続時間と低い効力を説明する。
【0055】
レセプターと拮抗する(agonize)薬剤の量は、この場合、それほど高くなく、低い効力につながる。しかし、高い親油性のため、並びにその結果、脳での拡散が遅くなるため、薬剤は、長期間有効なままであり、その結果、長期の作用持続期間につながる。
【0056】
第3世代のヘリックスグリコペプチド
両親媒性ヘリックスグリコペプチドの前の世代の部分的成功が、ヘリックスの再デザインのきっかけとなり、3rd世代のグリコペプチド(9−12)を作成した。C−末端の両親媒性ヘリックスセグメントは、9残基の長さで固定し、2つの完全なα−ヘリックスターンを形成した。この世代では、ヘリックス促進性α−アミノイソ酪酸(Aib)残基は、両親媒性ヘリックスアドレスセグメントの中央に配置する。Aib残基を賢明に配置すると、8残基の長さまで短いペプチドは、結晶状態において、並びに溶液状態においてヘリックスコンフォメーションをとることが観察された(63)。ここで議論される3rd世代のde novoグリコペプチドの幾つかは、マウスにおいてBBB透過の改良および鎮痛効果を示した。よって、輸送メカニズムを解明するためには、とりわけ膜モデルシステムの存在下において、分子コンフォメーションを研究することは興味深い。円偏光二色性および2D 1H-NMRは、コンフォメーションを研究するための我々の主要なツールであった。
【0057】
CDによるコンフォメーション分析
円偏光二色性(CD)は、ペプチドおよびタンパク質の両方において二次構造を同定するための強力で簡単なツールである(64)。ペプチドはすべてH2O、TFE-H2O混合液、SDSミセルおよびリン脂質ビセルにおいてCD分析を行った。典型的な結果を図6に示す。H2O中において、200 nm付近にネガティブバンドが観察され、これは、π→π*電子遷移に起因し、ランダムコイルペプチドに典型的である。タンパク質のヘリックス領域に由来する配列は、しばしば弱いヘリックスCDシグナルをもち、一連のdNN(i, i+1)NOEsを得ることができるが、長距離NOEsではないことを見出した。この挙動は、発生期の(nascent)ヘリックスとして説明される(65)。これら発生期のヘリックスにおいて、ヘリックスCDシグナルは、TFEの添加により誘導することができる(66)。グリコペプチドのすべては、TFE中においてヘリックスCDシグナルが増大した。TFE濃度が増大するにつれ、ヘリシティーのパーセンテージは増大するが、30% TFEで最大に達した。TFEにおけるヘリシティーの増大は、バックボーンのアミドへの水素結合に対するH2Oによる競合の減少に起因することができる。これは、H2Oにおける長距離NOEsではない、連続的なdNN(i, i+1)NOEsの観察を考慮すると、グリコペプチドがH2Oにおいて発生期のヘリックスであることを示唆する。SDSミセルおよび陰イオン性ビセルの存在下において、200 nmのバンドは、レッドシフト(より高い値)を受け、追加のショルダーは、n→π*遷移の結果、222 nm付近に現れる。追加のショルダーの出現は、グリコペプチドが、H2O中で発生期の形態(1回ターン)でのみ存在するヘリックスコンフォメーションを主にとることを示唆する。222 nmの陰性極大(n→π*遷移バンド)は、ポリペプチドおよびタンパク質のへリックス含量を計算するために使用される。100%ヘリックスであるペプチドの容認された値は、およそ-35,000である。30%までのバンドの振幅の変化は、ヘリックスの長さに依存することが観察された(67)。α−ヘリックス鎖の長さが増大するにつれ、振幅は増大する。したがって、タンパク質およびポリペプチドにおけるヘリックス含量の定量的処理において、α−ヘリックスCDの鎖長の依存性の重要度を考慮しなければならない。ヘリシティーのパーセンテージは、SDS濃度およびpHとは無関係である(データ示さず)。両性イオン性ビセルの存在下において、グリコペプチドのすべては、H2Oで観察されたのと同様のCDスペクトルが得られたが、陰イオン性ビセルは、グリコペプチドを更にヘリックスになるように強制した。[θ]π→π*バンドおよび[θ]n→π*バンドの強度は、完全なα−ヘリックスペプチドとほぼ等しいことが予測される。310−ヘリックスでは、[θ]n→π*(222 nm)バンドの強度は、[θ]π→π*(205 nm)遷移バンドに対して劇的に低下し、適度なブルーシフトを受ける傾向がある(68)。これは、溶媒としてTFEを用いた場合であった。[θ]n→π*遷移バンドの適度なブルーシフトおよび強度の低下は、TFE中のグリコペプチドのすべてについて観察される。このことは、グリコペプチドがTFE溶媒中で完全なα−ヘリックスコンフォメーションをとらないことを示唆する。結合する糖部分でのみ異なるグリコペプチド9(Pro/Glc)および12(Pro/ラクトース)は、SDSミセルの存在下、および陰イオン性ビセルにおいて完全なヘリックスをとる。ジサッカリドは、モノサッカリドと比較して、溶媒のすべてにおいてヘリシティーのパーセンテージが増大した。グリコペプチド10(β−Alaリンカー)および11(Gly−Glyリンカー)は、媒質の何れにおいても完全なヘリックスをとらなかった。位置6における単一アミノ酸の変異が、CDスペクトルの重大な変化を起こすことは注目に値するものである。リンカーの位置[すなわち、AA(6)]は、バイオ活性にとって非常に重要であることも示唆される。膜模倣性媒質において完全なヘリックスをとるグリコペプチド9は、他のグリコペプチドと比較して、ずっと優れたBBB透過率を示した。よって、膜誘導型α−ヘリックスコンフォメーションは、その輸送活性にとって重大であることが明らかである。
【表3】
【0058】
a [θ]の単位は、deg・cm2・dmol-1である。
【0059】
b [θ]π→π*の最小は、205〜209 nmの間で観察される。
【0060】
c [θ]n→π*の陰性極大は、222〜225 nmの間で観察される。
【0061】
d R=[θ]n→π*/[θ]π→π*。0.15−0.40の低い値が310−ヘリックスについて観察される。
【0062】
e %ヘリシティーは、リファレンス53に従って計算した。
【0063】
f 計算方法についてはテキスト参照。
【0064】
NMRによるコンフォメーション分析
円偏光二色性は、異なる溶媒でのグリコペプチドの全体的分子コンフォメーションについて全般的な情報を提供した。優れた薬剤デザインのために必要な残基特異的な情報を得るために、グリコペプチドのすべては、H2O/D2Oにおいて、TFE/H2O/D2Oにおいて、SDSミセルおよびリン脂質ビセルの存在下において、2D 1H-NMRを用いて分析した。すべての媒質における化学シフトの割当て(assignment)は、TOCSYおよびNOESY/ROESYスペクトルを組合せて使用することにより行なった。スピンシステムの同定は、TOCSYスペクトル用いて行い、一連の割当ては、TOCSYおよびROESY/NOESYを用いて行なった。非対角線クロスピークの密集が観察されたが、一連のdαN(i, i+1)、dNN(i, i+1)およびdβN(i, i+1)NOEsの観察に基いて、種々の溶媒におけるグリコペプチドについて明瞭なプロトンの割当てを行なった(69)。すべてのグリコペプチドのアミノ酸の完全な化学シフト値は、補足データで提供される。標準的なROESY実験は、H2OおよびTFE-H2O混合液中のサンプルについて高品質のスペクトルを得たが、膜模倣性溶媒については失敗した。これは、ミセルおよびビセルとグリコペプチドの結びつきによるものであり、これにより、相関時間を増大させる高分子量の分子集合体が生成された。標準的なNOESY実験は、SDSおよびビセルサンプルのために使用された。ミセルおよびビセルと両親媒性グリコペプチドの結びつきは、グリコペプチドのすべてにおいてブロードなNMRシグナルを引き起こしたが、一連の割当てを不明瞭にしなかった。
【0065】
αCH化学シフトインデックス
観察されるαCH化学シフトを、化学シフトインデックス(CSI)と称されるランダムコイル値と比較したときの違いは、(グリコ)ペプチドに存在する特異的な二次構造エレメントの確かな最初の指標を提供することが、今日充分に確立されており、これは、CDの品質に匹敵する(70)。αCHプロトン共鳴の平均アップフィールドシフトから(グリコ)ペプチドの局所的ヘリックス集団を推定できることが証明されている(71)。ランダムコイルに由来する連続的なマイナスの偏差(deviation)(アップフィールドシフトのαCH共鳴)の観察は、α−ヘリックスコンフォメーションを示す。報告されるランダムコイルの値と比較した観察されるコンフォメーションシフトの値は、図7に要約される。現時点で、グリコシル化セリンについて容認されたランダムコイルαCH値がなく、この位置のCSI値は不確かである。すべての溶媒のコンフォメーションシフトの値は、Wrightと共同研究者らにより記載されたランダムコイル値を用いて得られた。これらリファレンスのシフトは、pH=5.0、4.2℃で得られたが、Wuthrichと共同研究者らによりpH=7.0、35℃でランダムコイル値が得られたときにごく小さい偏差(±0.04)が観察されたため、条件に対してほとんど感受性がないと思われる(68)。αCH化学シフトに基く二次構造の数量化は、種々の貢献、たとえば、静電的効果、環電流シフト、およびその他の磁気異方性を厳密に説明することができないため、当該文献で無視される。しかし、密接に関連した(グリコ)ペプチドの間でヘリックス含量の定性的比較をすることが可能である。3rd世代のグリコペプチドは、位置6においてアミノ酸1つだけが異なっているため、ヘリックス含量は、αCH化学シフト値に基いて求めた(表3)。Gieraschと共同研究者らにより記載される方法が使用された(69a)。まず、ヘリックス領域におけるすべてのアップフィールドシフトを加算し、ペプチド結合の総数で割ることにより、平均コンフォメーションシフトを各グリコペプチドについて計算した。その後、各グリコペプチドについて全体的ヘリックス含量を求めるために、平均コンフォメーションシフトを、100%ヘリシティーについて割当てられた0.35 ppmで割った。β−アラニンおよびグリコシル化セリン残基について利用可能なランダムコイル値が存在しないため、計算に含めなかった。ヘリコ起源の(helicogenic)Aib残基は、α−プロトンを欠失し、Aib残基により提供されるヘリシティーについての計算に含める補正はなかった。この方法により求められるヘリックス含量は、CDにより求められるヘリックス含量と相互に関連があった。ヘリックス含量は、水およびTFE中でグリコペプチドのすべてについてほぼ同じであったが、膜環境においては有意な違いが存在した。このことは、各グリコペプチドが、SDSミセルまたはリン脂質ビセルと異なった仕方で相互作用することを示唆する。グリコペプチド11は、CDおよびNMRの両方により、他のグリコペプチドと比較して、膜においてヘリックス含量が少ないことが示され、グリコペプチド9および10と比較して、BBB透過率が低いことが分かった。よって、膜誘導型ヘリックスは、BBBを通るグリコペプチドの輸送に主要な役割を果たすと思われる。
【0066】
逆相HPLC保持時間(両親媒性の正当な指標)を各グリコペプチドの残基あたりのヘリシティーと比較することにより、両親媒性物(amphipaths)のヘリックスの性質が更に確認される(図8)。この相関関係は、同様の現象が各ケースで測定されるため、かなり自然である。あるケース(y−軸)では、水性ランダムコイル(発生期のヘリックス)コンフォメーションアンサンブルとヘリックスミセル結合両親媒性アンサンブルとの間の平衡を楕円率(CDデータ)で測定する。他のケース(x−軸)では、同一のランダムコイルアンサンブルとヘリックスC18−シリカ結合両親媒性アンサンブルとの間の平衡を、保持時間(HPLCデータ)で測定する。二種類の溶媒システムを溶出のために使用したため、二つのラインが観察される(CH3OH/H2O vs CH3CN/H2O)が、両方のケースにおいて線形相関が明らかである。ペプチド部分のへリックスの性質は、相の境界、ミセルまたは炭化水素修飾のシリカビーズへの吸着を担っており、ヘリシティーの程度は、吸着の程度を決定する。
【0067】
H2Oにおけるコンフォメーション分析
グリコペプチドすべての化学シフトは、水中で充分に分散される。観察されるROEsは図9に要約される。広がった構造で一般に観察される強いdαN(i, i+1)NOEsは、グリコペプチドのほぼ全長に沿ってみられた。局所的なヘリックスまたはターンのコンフォメーション状態を示すdNN(i, i+1)NOEsは、グリコペプチドのすべてにおいてすべての残基について観察された。長距離NOEsに関する他のヘリックスサインは、いずれのグリコペプチドにおいても観察されなかった。連続的dNN(i, i+1)NOEsの観察は、すべての残基について、一過的なαRコンフォメーションフォールドを示した。これらは、ヘリックスサインの媒質(medium)および/または長距離NOEsが観察されなければ、発生期のヘリックスのみ定義された(65)。水におけるNMRの結果は、デザインの検討から予測されるとおり、グリコペプチドのすべて、少なくともC末端セグメントが、ヘリックス性質を有することを意味する。
【0068】
TFE−H2Oにおけるコンフォメーション分析
発生期のヘリックスは、TFEの存在下において追加のヘリックスサイン(長距離NOEs)を示した。CD実験は、ヘリックス含量が30% TFEで最大に達することを示した。よって、30% TFE−H2O(v/v)混合液を、更なる研究のために選択した。観察されるROEsは図10に要約される。多くのヘリックス特異的なNOEsが、グルコペプチドのすべてのC末端でみられ、これらには、連続的ストレッチのdNN(i, i+1)NOEsに加えて、dαN(i, i+3)およびdαN(i, i+4)が含まれる。グリコペプチドすべてのC末端セグメントにおけるdαN(i, i+4)クロスピークの存在は、各グリコペプチドの幾つかの集団が、310−ヘリックスコンフォメーションよりむしろα−ヘリックスコンフォメーションをとることを示した。Aib残基は、αCHプロトンを欠いているため、そうでなければ観察される多くの潜在的媒質(medium)および長距離NOEsは、C末端で観察されなかった。セグメントG(3)−L(5)におけるdNN(i, i+1)の出現は、N−末端における媒質の欠如または長距離NOEsとともに、グリコペプチドが、局所的なターンコンフォメーションの状態にあるか、または局所的ヘリックスと広がったコンフォメーションとの間の平衡状態にあることを示唆した。TFE−H2O混合液においてグリコペプチドのすべてについて観察されるGly αCHプロトンのスプリッティングは、N−末端セグメントのGly(3)が、堅く固定されたコンフォメーションで存在することを示唆した。
【0069】
SDSミセルの存在下におけるコンフォメーション分析
モル比1:100のグリコペプチド/ミセルを、すべての実験のために使用した。この溶媒において、プロトン共鳴のライン幅は、H2OおよびTFE−H2O混合液と比べてブロードであり、これは、グリコペプチドのSDSミセルとの結びつき、その結果の非常に高い分子量によるものである。平均SDSミセルは、約60−70の洗浄剤分子から構成されると予測され(73)、その結果、大きな集合体、およびそれに従って遅い分子タンブリングになり、これが共鳴の過剰な広がりにつながる。しかし、スペクトルは、幾つかの密集しかなく、充分に分散されており、完全な一連の割当てをすることができる。観察されるNOEsは図11に要約される。グリコペプチドすべてのNOESYスペクトルの評価により、ヘリックス構造と一致した特徴が明らかになった。一連のdNN(i, i+1)NOEsの連続的ストレッチは、多くのヘリックスサイン、たとえばdNN(i, i+2)、dαN(i, i+3)およびdαN(i, i+4)NOEsとともに、グリコペプチドのほぼ全長について観察された。Ser(15)残基に結合した糖部分でのみ異なるグリコペプチド9および12は、僅かに異なるNOEパターンを示した。モノサッカリド9のNOEパターン、とりわけdNN(i, i+2)[2/4および3/5]の観察は、N−末端メッセージが、ジッサカリド12より整然としていることを示唆する。
【0070】
シミュレートアニーリング分子ダイナミクス分析は、すべてのグリコペプチドについて行なわれ、NOE−由来の距離の拘束および二面角(φおよびψ)の拘束を用いて、NMR構造のアンサンブルを得た。グリコペプチドすべてのC−末端領域Leu(8/9)−Ser(15/16)は、α−ヘリックスコンフォメーションをとったが、N−末端領域は、すべてのケースにおいて非常に柔軟であった。オピオイドメッセージセグメントは、各ケースにおいてほとんどランダムコイル(すなわち、局所的ターンコンフォメーションと広がったコンフォメーションとの間の平衡)であった。
【0071】
ビセルの存在下におけるコンフォメーション分析
グリコペプチド9は、研究されるヘリックスグリコペプチドのすべての間で最大のBBB透過を示す。よって、それを、優れた膜模倣性リン脂質ビセル媒質において、更なるNMR分析を行なった(図1)。両性イオン性ビセルにおいて、グリコペプチド9は、ランダムコイルコンフォメーションに特徴的なCDスペクトルを示したが、NMR分析は、グリコペプチドのバックボーンがヘリックスであることを示唆した。CSIプロット(図7)およびNOEパターン(図12)は、α−ヘリックスコンフォメーションと一致する。ヘリックスサインNOEs dαN(i, i+3)およびdαN(i, i+4)は、ペプチドバックボーンの長さにわたって観察された。
【0072】
グリコペプチド9について溶媒をCF3CH2OH:H2Oからミセル、ビセルへ変更したため、NOESY/ROESYスペクトルのαCH−NHフィンガープリント領域を比較することは有効である。TFE:H2Oの拘束を受けていない環境(図13)から、ミセルの存在下の幾分拘束された環境(図14)、αCHプロトンが識別可能である、ビセルの存在下の更に拘束された環境(図15)へとGly(3)が変化することを我々はみることができるとおり、Gly(3)は、とりわけ有益である。シミュレートアニーリング分子ダイナミクス分析を行い、NOE−由来の距離の拘束を用いて、構造のアンサンブルを得た(図16)。グリコペプチド9は、残基5−16から連続的なヘリックスコンフォメーションをとり、Leu(5)でヘリックスコンフォメーションが開始するが、SDSミセルの存在下では、ヘリックスの開始はAsn(7)である。Pro残基のφねじれ角(N−Cα回転)は、−60°(±20°)に制限され、その結果、Proの局所的コンフォメーションは、ψ=−30°(±20°)[αR]またはψ=+120°(±30°) [ポリプロリンコンフォメーション] に制限される。Proが、ヘリックスの連続的ストレッチにおいてポリプロリンコンフォメーション[φ=−60°(±20°)およびψ=+120°(±30°)]をとった場合、これは、ヘリックスの終結という結果につながる(74)。しかし、φ=−60°(±20°)およびψ=+120°(±30°)コンフォメーションにおけるProは、α−ヘリックス構造と両立可能である。よって、9が、残基Leu(5)−Ser(15)から広がる広がったヘリックスを形成することは驚くことではない。dαN(i, i+3)[4/7、5/8および6/9]およびdαN(i, i+4)[4/8および5/9]の観察は、Pro(6)がヘリックスストレッチにあることを示す。
【表4】
【0073】
*SDSミセルの存在下におけるNOE拘束を用いたシミュレートアニーリング分子ダイナミクス計算に由来する平均バックボーンねじれ角。RMSD値は括弧内に示す。30°より大きく逸脱するねじれ角は、太字で記す。
【0074】
グリコペプチドと本当の脂質二重層との相互作用
プラズモン波ガイド共鳴スペクトロスコピー(75)(PWR)を使用して、卵ホスファチジルコリンから構成される二つのグリコペプチドの脂質二重層の相互作用をモニターした。固体に支持される脂質二重層は、脂質二重層と直接接触するテフロンブロックにおいて、小さなオリフィス(orifice)を横切って作成し(76)、(0.5 M EDTA、10 mM KClを添加したpH 7.4の10 mM Tris-Clバッファー中に溶解した)グリコペプチドの漸増量を細胞サンプルに添加し、スペクトルの変化をモニターした。PWRの結果(図17)は、脂質二重層の形成およびグリコペプチドの添加が、p−およびs−偏光の両方について、大きな角度への共鳴角度位置のシフトを引き起こすことを示す。一般的に、かかる共鳴角度位置の増大は、ペプチド−脂質二重層の質量が増大した結果、屈折率が増大したことに起因することができる(77)。グリコペプチド9と脂質二重層との相互作用は、二相プロセスを伴い、高い角度へのスペクトルの初期のシフトが生じ(データ示さず)、その後、分のオーダーで起こる小さな角度への小さなシフト(二重層に対してなおポジティブである)が続く(曲線3)。共鳴角度のシフトは、脂質二重層に対する各グリコペプチドの漸増的添加に関してプロットすることができ、双曲線フィットによって適合させて、親和性定数を提供する。図18において、グリコペプチド9は、脂質二重層に対して非常に高い親和性(7-8 nM)を有することをみることができる。グリコペプチド9と脂質二重層との相互作用は、p−分極よりもs−分極において大きなシフトを生じ、かかる大きな構造変化は、垂直面よりも脂質二重層に対して平行面において、脂質/ペプチドで起こることに注目することは興味深い(78)。このデータは、このグリコペプチドが両親媒性でありα−ヘリックスであるという事実とともに、グリコペプチドが、脂質二重層に対して平行に配向された長軸で、脂質二重層と相互作用することを示す。これは、NMRデータ、並びに両親媒性アドレス領域をデザインするために使用した原理と一致する。グリコペプチド11の脂質二重層との相互作用は、約4,000倍弱く(KD=30μM)、μM濃度のグリコペプチドでさえも、観察されるスペクトルシフトが非常に小さい。スペクトルは、9で観察されたものに反して変化し、遅く単調なプロセスを伴う(データ示さず)。
【表5】
【0075】
*両性イオン性ビセルの存在下において測定されたNOEsを用いたシミュレートアニーリング分子ダイナミクス計算に由来する。RMSD値は括弧内に示す。
【0076】
明らかに、上記教示を踏まえれば、本発明の多くの改変および変更が可能である。したがって、添付の特許請求の範囲内において、本明細書に具体的に記載されるのとは他の手法で本発明を実施してもよいことを理解すべきである。
【参考文献】
【0077】
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】CDおよびNMR研究に使用される膜の模倣物。ビセルは、ミセルよりずっと小さい膜の曲率を有し、本当の流体二重層を有し、膜結合グリコペプチド構造を更に予測する。
【図2】1st−3rd世代のグリコペプチドデザインするために、これらを両親媒性α−ヘリックスの輪として図示する(2および9を示す)。親水性残基は赤で示され、疎水性残基は青で示される。メッセージセグメントYtGFは、ヘリックスの一部として図示しない。予測される膜の位置は、グレーの線で示される。
【図3】グリコペプチド9は、計算されるコナリー(Connolly)表面と、「完全な」両親媒性ヘリックス(左の方へのN−末端メッセージセグメント)として図示される。この表面は、親水性(赤)および疎水性(青)の表面を示すために着色される。理想的な「クラスA」および「クラスL」の両親媒性ヘリックスは、同じ色スキームでエドモンドダイアグラム(エンド・ビュー)として図示する。
【図4】a)コンフォメーションアンサンブルの変化は膜により促進される。α−ヘリックスの溶解形態は、膜の相互作用につながる高いエネルギーの中間体とみなされてもよいし、膜は、ヘリックス形成につながる触媒とみなされてもよい。b)各グリコペプチドは、低エネルギーの膜結合ミクロ状態の小さなセット、並びに高エネルギーの溶解ミクロ状態のずっと大きなセットを有する。
【図5】推定されるエンドサイトーシス輸送メカニズム。両親媒性グリコペプチド(左側の3つの小さな球)は、血液側のBBBの内皮に吸着し、エンドサイトーシスを受けて小胞を形成できることが推定される。小胞が内皮細胞層の脳側へと進んだ後、エキソサイトーシスは、グリコペプチドを中枢神経系に運搬することができる。
【図6】SDS両親媒性媒質における1st−2nd世代のヘリックスグリコペプチドの遠UV CDスペクトル。ミセルの濃度は、30 mM、pH=7.0、T=18℃であった。種々の溶媒媒質におけるグリコペプチド9および10の遠UV CDスペクトル。使用したグリコペプチド濃度は、74〜80μMであった。ミセル濃度は30 mMであり、ビセル濃度は10 mM、25℃でpH=4.5であった。ビセルZは、両性イオン性ビセルを指す。ビセルAは、陰イオン性ビセルを指す。
【図7】ランダムコイルの値からの化学シフト偏差のプロット。AibおよびβAla残基は、プロットに示さない。連続するマイナス偏差は、ヘリックスコンフォメーションに特徴的である。ランダムコイルの値は、リファレンス70からとった。
【図8】グリコペプチドについてのパーセントヘリシティー(残基あたり)に対するRP-HPLC保持時間のプロット。
【図9】H2O:D2O(9:1)中、pH=4.5、20℃で観察されるROEsの概要。ラインの太さは、相対的なROE強度を示す。
【図10】TFE/H2O(3:7)中、pH=4.5、15℃で観察されるROEsの概要。ラインの太さは、およそのROE強度を示す。
【図11】SDSミセル中、pH=4.5、25℃で観察されるNOEsの概要。ラインの太さは、およそのNOE強度を示す。
【図12】両性イオン性ビセル中、pH=4.5、25℃で観察されるNOEsの概要。ラインの太さは、およそのNOE強度を示す。
【図13】CF3CH2OH:H2O(3:7)中、pH=4.5、15℃(混合時間=150ms)でのROESYスペクトルのフィンガープリント領域(αCH-NH)。DαN(i, i+2), dαN(i, i+3)およびdαN(i, i+4)ROEsは、下線を付す。
【図14】SDSミセル中、pH=4.5、25℃(混合時間=300msec)でのNOESYスペクトルの(αCH-NH)のフィンガープリント領域。中距離および長距離NOEsは、下線を付す。
【図15】両性イオン性ビセル中、pH=4.5、25℃(混合時間=300msec)でのNOESYスペクトルのフィンガープリント(αCH-NH)領域。フィンガープリント領域におけるヘリックスサインdαN(i, i+2), dαN(i, i+3)およびdαN(i, i+4)NOEsは、下線を付す。アミド領域における一連のdNN(i, i+1)NOEsの観察は、局所的なヘリックスコンフォメーションを示す。潜在的なdNN(i, i+1)NOEsの幾つかは、対角線に近いため、定量化することはできない。グリコペプチド対ビセル(glycopeptide-to-bicelle)比は1.25であった。
【図16】9についての溶媒システムの比較。200 psシミュレートアニーリング分子ダイナミクスから得られる、NOE由来の最低エネルギーのコンフォメーション。溶媒がH2OからCF3CH2OH/H2O、SDSミセル、ビセルへと変化するにつれ、ヘリシティーは増大し、バックボーンは硬くなる。
【図17】p-偏光(左パネル)およびs-偏光(右パネル)について、緩衝液(1)、脂質二重層形成(2)、およびグリコペプチド9相互作用に関して観察されるPWRスペクトル変化。示されるデータは、20 nMの各グリコペプチドについての平衡化状態に関する。
【図18】グリコペプチド9および11と脂質二重層との相互作用についての結合曲線。示される解離定数は、データを単一の双曲線関数を通って適合させることにより計算した。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも9個のアミノ酸残基を含み、かつ当該アミノ酸残基の少なくとも一つがグリコシル化されている、両親媒性グリコペプチド。
【請求項2】
前記アミノ酸残基が、N−末端のオピオイドメッセージ配列、C−末端のアドレス配列、および当該メッセージ配列と当該アドレス配列の間のリンカー配列を含む、請求項1のグリコペプチド。
【請求項3】
前記N−末端配列が、Y-t-G-F-またはY-a-G-F-である、請求項1のグリコペプチド。
【請求項4】
前記N−末端配列が、Y-t-G-F-L-P-である、請求項1のグリコペプチド。
【請求項5】
前記N−末端配列が、Y-t-G-F-L-βA-である、請求項1のグリコペプチド。
【請求項6】
前記N−末端配列が、Y-t-G-F-L-G-G-である、請求項1のグリコペプチド。
【請求項7】
グリコシル化されたエンケファリンである、請求項1のグリコペプチド。
【請求項8】
グリコシル化されたエンドルフィンである、請求項1のグリコペプチド。
【請求項9】
脂質二重層の存在下でヘリックスコンフォメーションをとる、請求項1のグリコペプチド。
【請求項10】
脂質二重層の非存在下で水中において実質的に非ヘリックスである、請求項1のグリコペプチド。
【請求項11】
脂質二重層の非存在下で水中において実質的に非ヘリックスであり、脂質二重層の存在下でヘリックスコンフォメーションをとる、請求項1のグリコペプチド。
【請求項12】
1個のアミノ酸残基がグリコシル化されている、請求項1のグリコペプチド。
【請求項13】
2個のアミノ酸残基がグリコシル化されている、請求項1のグリコペプチド。
【請求項14】
グリコシル化された少なくとも一つのセリン残基を含む、請求項1のグリコペプチド。
【請求項15】
グリコシル化された2個のセリン残基を含む、請求項1のグリコペプチド。
【請求項16】
最大で8個のサッカリドユニットを有するグリコシルユニットでグリコシル化されている、請求項1のグリコペプチド。
【請求項17】
最大で4個のサッカリドユニットを有するグリコシルユニットでグリコシル化されている、請求項1のグリコペプチド。
【請求項18】
最大で2個のサッカリドユニットを有するグリコシルユニットでグリコシル化されている、請求項1のグリコペプチド。
【請求項19】
最大で1個のサッカリドユニットを有するグリコシルユニットでグリコシル化されている、請求項1のグリコペプチド。
【請求項20】
1個のセリングルコシド残基を含有する、請求項1のグリコペプチド。
【請求項21】
2個のセリングルコシド残基を含有する、請求項1のグリコペプチド。
【請求項22】
少なくとも10個のアミノ酸残基を含む、請求項1のグリコペプチド。
【請求項23】
少なくとも12個のアミノ酸残基を含む、請求項1のグリコペプチド。
【請求項24】
少なくとも14個のアミノ酸残基を含む、請求項1のグリコペプチド。
【請求項25】
少なくとも15個のアミノ酸残基を含む、請求項1のグリコペプチド。
【請求項26】
少なくとも17個のアミノ酸残基を含む、請求項1のグリコペプチド。
【請求項27】
少なくとも19個のアミノ酸残基を含む、請求項1のグリコペプチド。
【請求項28】
最大で60個のアミノ酸残基を含む、請求項1のグリコペプチド。
【請求項29】
水中で円偏光二色性により測定されるとおり最大5%のヘリシティーを有し、脂質二重層の存在下で少なくとも10%のヘリシティーを有する、請求項1のグリコペプチド。
【請求項30】
血液脳関門を通過する、請求項1のグリコペプチド。
【請求項31】
デルタオピオイドレセプター、muオピオイドレセプターおよびカッパオピオイドレセプターから成る群より選択される少なくとも一つのレセプターに対して選択的である、請求項1のグリコペプチド。
【請求項32】
前記アミノ酸配列が、N−末端の非オピオイドメッセージ配列、C−末端のアドレス配列、および当該メッセージ配列と当該アドレス配列の間のリンカー配列を含む、請求項1のグリコペプチド。
【請求項33】
前記非オピオイドメッセージ配列が、副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)、黄体化ホルモン(lutenizing hormone)(LH)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(chorionogonadotropin)(hCG)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、血管作動性腸管ペプチド(VIP)、ブラジキニン、バソプレッシン、ニューロキニン、サブスタンスPまたはプロラクチンに由来する、請求項32のグリコペプチド。
【請求項34】
請求項1のグリコペプチドおよび少なくとも一の薬学的に許容されるキャリアおよび/または賦形剤を含む薬学的組成物。
【請求項35】
効果的な量の請求項1のグリコペプチドを、それを必要とする被検体に投与することを含む、痛みを軽減する方法。
【請求項36】
効果的な量の請求項1のグリコペプチドを、それを必要とする被検体に投与することを含む、痛覚脱失を提供する方法。
【請求項37】
効果的な量の請求項1のグリコペプチドを、それを必要とする被検体に投与することを含む、不安、うつ病、肥満、神経性食欲不振、恐怖症、統合失調症、パーキンソン病およびアルツハイマー病を治療する方法。
【請求項1】
少なくとも9個のアミノ酸残基を含み、かつ当該アミノ酸残基の少なくとも一つがグリコシル化されている、両親媒性グリコペプチド。
【請求項2】
前記アミノ酸残基が、N−末端のオピオイドメッセージ配列、C−末端のアドレス配列、および当該メッセージ配列と当該アドレス配列の間のリンカー配列を含む、請求項1のグリコペプチド。
【請求項3】
前記N−末端配列が、Y-t-G-F-またはY-a-G-F-である、請求項1のグリコペプチド。
【請求項4】
前記N−末端配列が、Y-t-G-F-L-P-である、請求項1のグリコペプチド。
【請求項5】
前記N−末端配列が、Y-t-G-F-L-βA-である、請求項1のグリコペプチド。
【請求項6】
前記N−末端配列が、Y-t-G-F-L-G-G-である、請求項1のグリコペプチド。
【請求項7】
グリコシル化されたエンケファリンである、請求項1のグリコペプチド。
【請求項8】
グリコシル化されたエンドルフィンである、請求項1のグリコペプチド。
【請求項9】
脂質二重層の存在下でヘリックスコンフォメーションをとる、請求項1のグリコペプチド。
【請求項10】
脂質二重層の非存在下で水中において実質的に非ヘリックスである、請求項1のグリコペプチド。
【請求項11】
脂質二重層の非存在下で水中において実質的に非ヘリックスであり、脂質二重層の存在下でヘリックスコンフォメーションをとる、請求項1のグリコペプチド。
【請求項12】
1個のアミノ酸残基がグリコシル化されている、請求項1のグリコペプチド。
【請求項13】
2個のアミノ酸残基がグリコシル化されている、請求項1のグリコペプチド。
【請求項14】
グリコシル化された少なくとも一つのセリン残基を含む、請求項1のグリコペプチド。
【請求項15】
グリコシル化された2個のセリン残基を含む、請求項1のグリコペプチド。
【請求項16】
最大で8個のサッカリドユニットを有するグリコシルユニットでグリコシル化されている、請求項1のグリコペプチド。
【請求項17】
最大で4個のサッカリドユニットを有するグリコシルユニットでグリコシル化されている、請求項1のグリコペプチド。
【請求項18】
最大で2個のサッカリドユニットを有するグリコシルユニットでグリコシル化されている、請求項1のグリコペプチド。
【請求項19】
最大で1個のサッカリドユニットを有するグリコシルユニットでグリコシル化されている、請求項1のグリコペプチド。
【請求項20】
1個のセリングルコシド残基を含有する、請求項1のグリコペプチド。
【請求項21】
2個のセリングルコシド残基を含有する、請求項1のグリコペプチド。
【請求項22】
少なくとも10個のアミノ酸残基を含む、請求項1のグリコペプチド。
【請求項23】
少なくとも12個のアミノ酸残基を含む、請求項1のグリコペプチド。
【請求項24】
少なくとも14個のアミノ酸残基を含む、請求項1のグリコペプチド。
【請求項25】
少なくとも15個のアミノ酸残基を含む、請求項1のグリコペプチド。
【請求項26】
少なくとも17個のアミノ酸残基を含む、請求項1のグリコペプチド。
【請求項27】
少なくとも19個のアミノ酸残基を含む、請求項1のグリコペプチド。
【請求項28】
最大で60個のアミノ酸残基を含む、請求項1のグリコペプチド。
【請求項29】
水中で円偏光二色性により測定されるとおり最大5%のヘリシティーを有し、脂質二重層の存在下で少なくとも10%のヘリシティーを有する、請求項1のグリコペプチド。
【請求項30】
血液脳関門を通過する、請求項1のグリコペプチド。
【請求項31】
デルタオピオイドレセプター、muオピオイドレセプターおよびカッパオピオイドレセプターから成る群より選択される少なくとも一つのレセプターに対して選択的である、請求項1のグリコペプチド。
【請求項32】
前記アミノ酸配列が、N−末端の非オピオイドメッセージ配列、C−末端のアドレス配列、および当該メッセージ配列と当該アドレス配列の間のリンカー配列を含む、請求項1のグリコペプチド。
【請求項33】
前記非オピオイドメッセージ配列が、副腎皮質刺激ホルモン放出因子(CRF)、黄体化ホルモン(lutenizing hormone)(LH)、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(chorionogonadotropin)(hCG)、卵胞刺激ホルモン(FSH)、血管作動性腸管ペプチド(VIP)、ブラジキニン、バソプレッシン、ニューロキニン、サブスタンスPまたはプロラクチンに由来する、請求項32のグリコペプチド。
【請求項34】
請求項1のグリコペプチドおよび少なくとも一の薬学的に許容されるキャリアおよび/または賦形剤を含む薬学的組成物。
【請求項35】
効果的な量の請求項1のグリコペプチドを、それを必要とする被検体に投与することを含む、痛みを軽減する方法。
【請求項36】
効果的な量の請求項1のグリコペプチドを、それを必要とする被検体に投与することを含む、痛覚脱失を提供する方法。
【請求項37】
効果的な量の請求項1のグリコペプチドを、それを必要とする被検体に投与することを含む、不安、うつ病、肥満、神経性食欲不振、恐怖症、統合失調症、パーキンソン病およびアルツハイマー病を治療する方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公表番号】特表2007−530697(P2007−530697A)
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−506410(P2007−506410)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【国際出願番号】PCT/US2005/010233
【国際公開番号】WO2005/097158
【国際公開日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(503356875)ジ・アリゾナ・ボード・オブ・リージェンツ・オン・ビハーフ・オブ・ザ・ユニバーシティー・オブ・アリゾナ (7)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【国際出願番号】PCT/US2005/010233
【国際公開番号】WO2005/097158
【国際公開日】平成17年10月20日(2005.10.20)
【出願人】(503356875)ジ・アリゾナ・ボード・オブ・リージェンツ・オン・ビハーフ・オブ・ザ・ユニバーシティー・オブ・アリゾナ (7)
【Fターム(参考)】
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