説明

中空マイクロカプセル及びその製造方法

【課題】小粒径の中空マイクロカプセルを制御性良く製造することの可能な中空マイクロカプセルを製造する方法及びそれにより製造された中空マイクロカプセルを提供すること
【解決手段】芯物質として揮発性溶媒と、保護膜形成物質として1,1−ジクロロエチレン、アクリル酸系モノマー、及びアクリロニトリル又はメタクリロニトリルを含有するビニル基を有するモノマー混合物を含む分散相を、連続相と混合して分散液を形成し、分散液中の重合反応により保護膜内に揮発性溶媒を含むマイクロカプセルを形成する工程、及び前記マイクロカプセルの形成中又は形成後に、前記揮発性溶媒を気化させて、前記保護膜内に気体を含む中空マイクロカプセルを形成する工程を具備し、前記モノマー混合物は30〜50質量%の1,1−ジクロロエチレンを含有し、アクリル酸系モノマーの配合量はアクリロニトリル又はメタクリロニトリルの配合量より多いことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中空マイクロカプセル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロカプセルは、様々な機能を有する芯物質を含む機能性高分子微粒子である。近年、マイクロカプセルに対する医療、食品、工業分野でのニーズが高くなり、マイクロカプセルの更なる高機能化への様々な試みがなされてきており、種々の機能性高分子微粒子の開発が活発に行われている。
【0003】
従来、懸濁重合により生成される中空マイクロカプセルとして、例えば、特許文献1に記載されている熱膨張性マイクロカプセルが知られている。熱膨張性マイクロカプセルとは、芯物質として低沸点有機溶媒を含み、保護膜形成物質としてのビニル基含有モノマーを重合して得た熱可塑性樹脂からなる保護膜内に低沸点有機溶媒を含むマイクロカプセルである。
【0004】
この熱膨張性マイクロカプセルを加熱すると、マイクロカプセルの樹脂膜が軟化したときに芯物質である低沸点有機溶媒が気化して膨張し、樹脂膜が薄く延ばされて、大きな粒径の中空マイクロカプセルが形成される。
【0005】
このような中空マイクロカプセルは、加熱により気体が膨張して膜が延びるため、重合による膜生成後のカプセルと比べ、膜厚が薄くなり、ガスバリア性が低下して芯物質である気体が膨張前にカプセルの外に漏れてしまう場合がある。そうすると、マイクロカプセルが潰れ、中空マイクロカプセルを得ることが出来ない。従って、熱膨張性マイクロカプセルの保護膜形成物質に用いるモノマーとしては、これまで、ガスバリア性を有する保護膜を形成し得る物質が求められてきた。
しかし、熱膨張性マイクロカプセルは、通常、数十倍に膨張し、熱膨張前の粒径は10〜15μm程度が必要であるため、膨張後には、極めて大きな粒径の中空マイクロカプセルとならざるを得ない。
【0006】
小粒径の熱膨張性マイクロカプセルを製造する方法として、親水基と長鎖炭化水素基を有する化合物を用いる方法(例えば、特許文献2参照),及び低沸点の揮発性膨張剤及び界面活性剤の存在下でモノマーを重合する方法(例えば、特許文献3参照)が知られている。
【0007】
しかし、これらの方法は、重合前の粒径が約10μm以下の小粒子を数十倍に膨張させるものであり、膨張前と膨張後とでは粒径が大きく変化し、粒径の制御が極めて困難であるという問題がある。
【0008】
また、膨張させるためにブタン、イソブタンなどのような常温常圧中で気体で存在するが、少ない加圧により容易に液体となる物質を芯物質として使用する場合、反応中に加圧密閉容器を使用する必要があるため、装置コストが高くなるという問題があった。
【特許文献1】特公昭42−286534号公報
【特許文献2】特開平5−309262号公報
【特許文献3】特開2003−220329号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、以上のような事情の下になされ、小粒径の中空マイクロカプセルを制御性良く製造することの可能な中空マイクロカプセルを製造する方法及びそれにより製造された中空マイクロカプセルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、中空マイクロカプセルの保護膜形成物質について、検討を重ねた結果、所定の配合組成のビニル基を有するモノマー混合物を用いた場合に、適度のガス透過性を有する保護膜が得られ、芯物質としての揮発性溶媒を気化させても、マイクロカプセルの粒径が大きく変化することがなく、しかもカプセルが潰れることなく中空マイクロカプセルが得られることを見出した。本発明は、このような知見に基づきなされたものである。
【0011】
即ち、本発明の第1の態様は、芯物質として揮発性溶媒と、保護膜形成物質として1,1−ジクロロエチレン、アクリル酸系モノマー、及びアクリロニトリル又はメタクリロニトリルを含有するビニル基を有するモノマー混合物を含む分散相を、連続相と混合して分散液を形成し、分散液中の重合反応により保護膜内に揮発性溶媒を含むマイクロカプセルを形成する工程、及び前記マイクロカプセルの形成中又は形成後に、前記揮発性溶媒を気化させて、前記保護膜内に気体を含む中空マイクロカプセルを形成する工程を具備し、前記モノマー混合物は30〜50質量%の1,1−ジクロロエチレンを含有し、アクリル酸系モノマーの配合量はアクリロニトリル又はメタクリロニトリルの配合量より多いことを特徴とする中空マイクロカプセルの製造方法を提供する。
【0012】
上記中空マイクロカプセルの製造方法において、重合反応は、懸濁集合または乳化重合とすることが出来る。
アクリル酸系モノマーは、ビニル基を有するモノマー混合物中に20〜40質量%存在することが望ましい。アクリル酸系モノマーとしては、アクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、及びスチレンからなる群から選ばれるものを用いることが出来る。
【0013】
揮発性溶媒としては、ペンタン、ヘキサン、又はシクロヘキサンを用いることが出来る。保護膜形成物質100質量部に対し、揮発性溶媒は、5〜50質量部であることが望ましい。
【0014】
重合反応に供される分散液は、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、及びコロイダルシリカからなる群から選ばれる乳化安定剤を含むことが出来る。
本発明の第2の態様は、以上のような方法により製造された中空マイクロカプセルを提供する。
【発明の効果】
【0015】
本発明によると、所定の組成のビニル基を有するモノマー混合物を用いて形成された保護膜がガス透過性を有するため、保護膜内に含まれる揮発性溶媒を気化させて、気体を形成する際に、マイクロカプセルの過剰の膨張が抑制され、そのためマイクロカプセルの粒径の制御を容易に行うことが出来、所望の粒径のマイクロカプセルを得ることが可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、発明を実施するための最良の形態について説明する。
本発明の一実施形態に係る中空マイクロカプセルの製造方法は、芯物質として揮発性溶媒と、保護膜形成物質として、所定の配合組成のビニル基を有するモノマー混合物を含む分散相を、連続相と混合して分散液を形成し、分散液中の重合反応により保護膜内に揮発性溶媒を含むマイクロカプセルを形成し、揮発性溶媒を気化させて、保護膜内に気体を含む中空マイクロカプセルを形成するものである。
【0017】
このような中空マイクロカプセルの製造方法において、保護膜形成物質としては、1,1−ジクロロエチレン、アクリル酸系モノマー、及びアクリロニトリル又はメタクリロニトリルを含有するビニル基を有するモノマー混合物が使用される。このモノマー混合物において、1,1−ジクロロエチレンの配合量は、30〜50質量%であり、アクリル酸系モノマーの配合量がアクリロニトリル又はメタクリロニトリルの配合量より多いことが必要である。
【0018】
このような配合組成のビニル基を有するモノマー混合物を保護膜形成物質として用いることにより、常温常圧下での重合反応により、適度のガス透過性を有する保護膜が得られ、良好な中空マイクロカプセルを形成することが出来る。
【0019】
この場合、モノマー混合物中の1,1−ジクロロエチレンの配合量が30質量%未満では、加熱によりカプセル内部のガスが膨張して、保護膜形成物質が膨張しやすいマイクロカプセルとなり、50質量%を越えると、保護膜形成物質が柔らかくなり、中空マイクロカプセルがつぶれやすくなる。また、モノマー混合物中のアクリル酸系モノマーの配合量がアクリロニトリル又はメタクリロニトリルの配合量より少ないと、加熱によりカプセル内部のガスが膨張して、保護膜形成物質も膨張しやすいマイクロカプセルとなる。
【0020】
アクリル酸系モノマーとしては、アクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸2-メトキシエチル、アクリル酸2-メトキシブチル等を挙げることが出来る。
【0021】
芯物質としては、保護膜形成物質が重合し、ポリマー(固体)が形成されたときに、このポリマーを溶解しない非水溶性の有機溶媒であるのが好ましい。特に、ポリマーを溶解せずにモノマーとの混合性が良好な脂肪族系の有機溶媒を用いることが望ましい。また、気化して膨張し、中空マイクロカプセルを形成するために、低い沸点を有するものであるのが望ましい。
以上を考慮すると、芯物質としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、シクロペンタンなどを用いるのが好ましい。
【0022】
芯物質の液体成分は、保護膜形成物質を100質量部としたときに、5〜50質量部であれば良好な中空マイクロカプセルを得ることができる。5質量部未満では、液体成分が保護膜形成物質の重合反応中に揮発してしまい、カプセルが形成されにくく、一方、50質量部を越えると、液体成分を保持することが困難となる。
【0023】
芯物質としての揮発性溶媒と保護膜形成物質としてのモノマー混合物を含む分散相を、連続相に徐々に加え、高速分散させることにより分散液が得られる。連続相としては、水を用いることが出来る。
【0024】
このような分散液を、懸濁重合又は重合反応により重合反応させることにより、保護膜内に揮発性溶媒を含むマイクロカプセルのスラリーが得られる。重合反応としては、マイクロカプセルの粒径を0.1〜50μmに制御することが容易である懸濁重合を用いることが望ましい。
【0025】
懸濁重合は、分散剤の存在下で所定温度、例えば40〜80℃で、所定時間、例えば6〜24時間、攪拌しつつ反応させることにより行うことができる。重合開始剤としては、通常のラジカル重合に使用可能なものを使用すれば良い。
【0026】
反応中に安定な分散液、即ち、懸濁液又は乳化液を維持するために、懸濁重合及び乳化重合の双方に使用可能な乳化安定剤を使用することが望ましい。乳化安定剤としては、例えば、ヒドロキシメチルセルロースなどのセルロース系水溶性高分子や、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、無機物としてコロイダルシリカなどを使用することができる。
【0027】
なお、反応中に、保護膜内の揮発性溶媒が気化するとともに、気化した揮発性溶媒は、空気と置換されるため、保護膜内に空気を含む中空マイクロカプセルが得られる。或いは、一旦、マイクロカプセルのスラリーを洗浄して、マイクロカプセルと水とを分離した後、乾燥して、保護膜内の揮発性溶媒を気化させこともできる。揮発性溶媒を気化させるための乾燥条件は、特に制限はないが、保護膜の温度特性及び揮発性溶媒の揮発性を考慮して、適切な温度及び時間で加熱乾燥させるのが望ましい。そのような温度及び時間は、例えば60〜120℃で1〜24時間である。
【0028】
保護膜内の揮発性溶媒が気化した場合、保護膜内は膨張するが、形成された保護膜は、ガス透過性を有するため、気化したガスは保護膜を透過し、所定の大きさを越える膨張が生ずることはない。そのため、膨張前後でマイクロカプセルの粒径が大きく変化することはなく、マイクロカプセルの粒径の制御を容易に行うことができる。
【0029】
以下に、本発明の実施例について説明する。
【0030】
実施例
下記表1に示す配合組成の各成分を混合し、分散相および連続相を形成した。次いで、これら分散相と連続相を混合し、ホモジナイザーのような高速撹拌乳化装置を用いて、4種のエマルジョン(実施例1〜4)を形成した。
【0031】
次に、撹拌装置、温度計、及び還流冷却管を備えた四ツ口フラスコ内に、上記エマルジョンを加えて、装置内部を窒素置換した。撹拌しながら反応温度が60℃となるように加熱し、16時間反応させた。
【0032】
反応後、洗浄及び凍結乾燥して、粉末化し、4種の微粒子を得た。
【0033】
得られた微粒子の粒径を、LA−920(レーザー回折/散乱方式粒度分布計、(株)堀場製作所製)で測定したところ、メジアン径で6.1μm(実施例1)、5.4μm(実施例2)、5.2μm(実施例3)、6.0μm(実施例4)であった。
【0034】
顕微鏡およびSEMで外観と断面を観察したところ、すべての微粒子が、中空マイクロカプセルであることを確認することができた。
【表1】

【0035】
※1:パーロイルIPP(日本油脂(株)製)
※2:PVP K−30(ポリビニルピロリドン、和光純薬(株)製)
比較例
下記表2に示す配合組成の各成分を混合し、分散相および連続相を形成し、実施例と同様の手順で3種の微粒子を得た。
【0036】
得られた微粒子の粒径を、LA−920(レーザー回折/散乱方式粒度分布計、(株)堀場製作所製)で測定したところ、メジアン径で4.6μm(比較例1)、5.3μm(比較例2)、5.4μm(比較例3)であった。
【0037】
顕微鏡およびSEMで外観と断面を観察したところ、比較例1および2の微粒子は、粒子がつぶれて、球状を保っていなかった。比較例3の微粒子では、乾燥後の粒子内部に液体が含有していることが観察され、保護膜内に液体を含むマイクロカプセルとなっていた。
【表2】

【0038】
※1:パーロイルIPP(日本油脂(株)製品)
※2:PVP K−30(和光純薬(株)製 ポリビニルピロリドン)
上記表1及び表2に示す結果から、実施例1〜4では、1,1−ジクロロエチレンを全体のモノマー量に対して30〜50質量%とし、アクリル酸系モノマーの配合量をアクリロニトリルよりも多くしているため、常温常圧下での重合反応によりいずれも良好な中空マイクロカプセルが得られている。
【0039】
これに対し、比較例1では、アクリル酸系モノマーの配合量よりもアクリロニトリルの配合量が多く、比較例2では、アクリル酸系モノマーの配合量よりもアクリロニトリルの配合量が多いことと、1,1−ジクロロエチレンが全体のモノマー量に対して50質量%を越えているため、いずれも球形の中空マイクロカプセルが得られていない。比較例3では、クリル酸系モノマーの配合量よりもアクリロニトリルの配合量が多いことと、1,1−ジクロロエチレンが存在しないため、保護膜内に液体を含むマイクロカプセルしか得られていない。
【0040】
なお、実施例1〜4では、アクリロニトリルを用いているが、アクリロニトリルの代わりにメタクリロニトリルを使用しても良く、また、アクリル酸系モノマーとしてアクリル酸メチルを使用したが、アクリル酸系モノマーの代わりにスチレンなどのビニル基を1つ有するモノマーを使用しても良い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
芯物質として揮発性溶媒と、保護膜形成物質として1,1−ジクロロエチレン、アクリル酸系モノマー、及びアクリロニトリル又はメタクリロニトリルを含有するビニル基を有するモノマー混合物を含む分散相を、連続相と混合して分散液を形成し、分散液中の重合反応により保護膜内に揮発性溶媒を含むマイクロカプセルを形成する工程、及び
前記マイクロカプセルの形成中又は形成後に、前記揮発性溶媒を気化させて、前記保護膜内に気体を含む中空マイクロカプセルを形成する工程
を具備し、前記モノマー混合物は30〜50質量%の1,1−ジクロロエチレンを含有し、アクリル酸系モノマーの配合量はアクリロニトリル又はメタクリロニトリルの配合量より多いことを特徴とする中空マイクロカプセルの製造方法。
【請求項2】
前記重合反応は、懸濁集合または乳化重合であることを特徴とする請求項1に記載の中空マイクロカプセルの製造方法。
【請求項3】
前記アクリル酸系モノマーは、ビニル基を有するモノマー混合物中に20〜40質量%存在することを特徴とする請求項1又は2に記載の中空マイクロカプセルの製造方法。
【請求項4】
前記アクリル酸系モノマーは、アクリル酸、アクリル酸メチル、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、及びスチレンからなる群から選ばれる請求項1〜3のいずれかに記載の中空マイクロカプセルの製造方法。
【請求項5】
前記揮発性溶媒は、ペンタン、ヘキサン、及びシクロヘキサンからなる群から選ばれる請求項1〜4のいずれかに記載の中空マイクロカプセルの製造方法。
【請求項6】
前記保護膜形成物質100質量部に対し、前記揮発性溶媒は5〜50質量部であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の中空マイクロカプセルの製造方法。
【請求項7】
前記分散液は、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、及びコロイダルシリカからなる群から選ばれる乳化安定剤を含むことを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の中空マイクロカプセルの製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載の方法により製造されたことを特徴とする中空マイクロカプセル。

【公開番号】特開2006−326501(P2006−326501A)
【公開日】平成18年12月7日(2006.12.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−154220(P2005−154220)
【出願日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(000104124)カシオ電子工業株式会社 (601)
【出願人】(000001443)カシオ計算機株式会社 (8,748)
【Fターム(参考)】