説明

中空光ファイバ及びその製造方法

【課題】長波長レーザ光を低損失で伝送でき、且つ、比較的簡単な工程で長尺にすることができる中空光ファイバ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の中空光ファイバ1は、線膨張係数がA1、軟化点がT1のガラス管2と、前記ガラス管の内周面に形成された、線膨張係数がA1よりもわずかに大きい値A2で、且つ、融点がT1に近い値T2である金属層3から成る。金属層3は、エアロゾル容器内にガスを送り込んで前記微粒子原料をエアロゾル化し、前記ガスと共に前記エアロゾル化した微粒子原料を、線膨張係数がA2とほぼ等しいか或いはわずかに小さい値A1で、且つ軟化点がT2に近い値T1であるガラス管2内に送り込み、前記ガラス管2内を排気しつつ該ガラス管2の外周方向から前記ガラス管2を加熱することにより該ガラス管の内周面に形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、長尺伝送路を低損失で伝搬させることができる中空光ファイバ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、外科手術や切開手術、あるいは手術時における血液の止血のために、さらには歯科治療において、長波長レーザ光が利用されるようになっている。このような医療分野で利用される長波長レーザ光の波長は1μm以上(2μm帯、3μm帯、10.6μm帯)であり、これら各種波長帯のレーザ光源、およびそのレーザ光を低損失で伝送させる光ファイバの開発が重要な課題となっている。
【0003】
医療分野の治療用レーザ光源としては、波長2.1μmのHo:YAGレーザ、2.94μmのEr:YAGレーザ、10.6μmのCOレーザが既に実用化されている。
一方、医療分野への適用を目指した光ファイバとしては、光を伝搬するコア部が空気や不活性ガスで構成された中空状の光ファイバの開発が進められている。その一例として、ガラスキャピラリーチューブの内周面に銀鏡反応により銀被膜を形成してクラッドとし、光を銀被膜の表面で反射させることにより伝送させる10.6μm帯の中空光ファイバがある(非特許文献1)。
【0004】
また、医療以外の分野、例えば半導体の微細加工や物質の表面改質などの分野においては、波長の短いレーザを用いた加工が盛んに行われるようになっている。加工には、例えばArFレーザ(発振波長193nm)、F2レーザ(発振波長157nm)、KrFレーザ(発振波長248nm)、エキシマレーザ(発振波長266nm)等が用いられ、これらのレーザ光を伝送させるための中空光ファイバが開発されている(非特許文献2、特許文献1〜5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2003-114344号公報
【特許文献2】特開2003-315588号公報
【特許文献3】特開2006-243306号公報
【特許文献4】特開2009-198728号公報
【特許文献5】特開2009-204683号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】本郷,小池,鈴木,"医療用赤外中空ファイバの開発",日立電線,No.24,2005-1,pp.7-12
【非特許文献2】松浦,"真空紫外域および軟X線用中空ファイバ型光伝送路の研究",The Murata Science Foundation, Annual Report,No.18,2004, pp.265-268
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上述の中空光ファイバには次のような課題が存在する。
銀被膜をクラッドとする中空光ファイバは、コア(空気)の屈折率がクラッド(銀被膜)の屈折率よりも低いため、コアとクラッドの境界、すなわち銀被膜の表面(内周面)で光が反射する際に損失を伴う。損失を低減させるためには、銀被膜の表面を鏡面状態に保ち、銀被膜の表面における反射率を高めることが必要となる。しかし、銀鏡反応で銀被膜を形成した場合、銀被膜の表面を鏡面状態に保つことが難しいため、また、銀被膜表面における構造不整のため、散乱損失の大幅な増大を招く。そこで、銀被膜の表面に誘電体被膜を形成して反射率を高める工夫をしているが、誘電体被膜の形成工程は複雑であり、また、均一な組成の被膜を均一な膜厚で形成することが難しい。
【0008】
従来の中空光ファイバでは、MOCVD装置を用いて銀被膜等の金属薄膜を形成する方法も採用されている。しかし、MOCVD装置は非常に高価であるため、製造コストの上昇を招く。また、従来は、長さ2m程度の短尺のガラスキャピラリーチューブの内周面に銀鏡反応により銀被膜を形成することで中空光ファイバを製造しているため、長尺(数十m以上)にすることが難しい。さらに、単品生産であるため、低コスト化、高歩留まり生産の実現が難しかった。
【0009】
そこで、本発明の目的は、長波長レーザ光を低損失で伝送でき、且つ、比較的簡単な工程で長尺にすることができる中空光ファイバ及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の中空光ファイバ及びその製造方法は、上記課題を解決するために成されたものであり、特には、不要な応力やひずみがかかりにくい安定した構造を実現することを目的に成されたものである。
【0011】
具体的には、本出願の第1発明に係る中空光ファイバは、
a) 線膨張係数がA1、軟化点がT1のガラス管と、
b) 前記ガラス管の内周面に形成された、線膨張係数がA1よりもわずかに大きい値A2で、且つ、融点がT1に近い値T2である第1金属層と
からなることを特徴とする。
ここで、「A1よりもわずかに大きい値A2」とは、A2がA1よりも大きく、且つA1の1.2倍程度までの値であることをいう。また、「T1に近い値T2」とは、T2がT1±300℃程度であることをいう。
【0012】
第2発明は、上記第1発明において、さらに、前記ガラス管の外周面に、前記第1金属層と同じ金属から成る第2金属層を形成したことを特徴とする。
【0013】
第3発明は、上記第1発明又は第2発明において、さらに、前記ガラス管の内周面と前記第1金属層との間に、線膨張係数がA1よりも小さい値A3で、且つ、融点がT1に近い値T3である緩衝層を形成したことを特徴とする。
【0014】
第1発明或いは第2発明においては、前記ガラス管を硬質ガラス管から形成し、前記第1金属層を金、銀、アルミニウムのいずれかから形成することが好ましい。
【0015】
第3発明においては、前記ガラス管を硬質ガラス管又はパイレックス(登録商標)ガラス管から形成し、前記緩衝層をSi又はSiNから形成し、前記第1金属層を金、銀、アルミニウムのいずれかから形成することが好ましい。
【0016】
また、本出願の第4発明の中空光ファイバの製造方法は、
線膨張係数がA2で、融点がT2の金属のサブミクロン粒径をもつ微粒子原料をエアロゾル化し、該エアロゾル化微粒子原料を線膨張係数がA2とほぼ等しいか或いはわずかに小さい値A1で、且つ軟化点がT2に近い値T1であるガラス管内に送り込み、
前記ガラス管内を排気しつつ該ガラス管の外周方向から前記ガラス管を加熱することにより該ガラス管の内周面に前記微粒子原料から成る第1金属層を形成して中空光ファイバを製造することを特徴とする。
【0017】
本出願の第5発明の中空光ファイバの製造方法は、第4発明において、さらに、前記ガラス管の外周面に、前記第1金属層と同じ金属のサブミクロン粒径をもつ微粒子原料をエアロゾル化して吹きつけることにより、前記微粒子原料から成る第2金属層を形成したことを特徴とする。
【0018】
第4発明又は第5発明においては、前記微粒子原料をエアロゾル化するための容器を備え、前記ガラス管からの排気を前記容器に戻すようにすると良い。
【0019】
本出願の第6発明の中空光ファイバの製造方法は、線膨張係数がA2で、融点がT2の金属のサブミクロン粒径をもつ微粒子原料をエアロゾル化し、該エアロゾル化微粒子原料を線膨張係数がA2とほぼ等しいか或いはわずかに小さい値A1で、且つ軟化点がT2に近い値T1であるガラス管内に送り込み、前記ガラス管内を排気しつつ該ガラス管の外周方向から前記ガラス管を加熱することにより該ガラス管の内周面に前記微粒子原料から成る第1金属層を形成して中空光ファイバプリフォーム管を作成する工程と、
前記中空光ファイバプリフォーム管内を不活性雰囲気に保ちつつ該中空光ファイバプリフォーム管の先端を溶融し、一定速度で延伸して光ファイバに線引きする工程と
を備えることを特徴とする。
【0020】
また、本出願の第7発明の中空光ファイバの製造方法は、線膨張係数がA2で、融点がT2の金属のサブミクロン粒径をもつ微粒子原料をエアロゾル化し、該エアロゾル化微粒子原料を線膨張係数がA2とほぼ等しいかあるいはわずかに小さい値A1で、且つ軟化点がT2に近い値T1であるガラス管内に送り込み、前記ガラス管内を排気しつつ該ガラス管の外周方向から前記ガラス管を加熱することにより該ガラス管の内周面に前記微粒子原料から成る第1金属層を形成する工程と、
前記ガラス管の外周面に、前記第1金属層と同じ金属のサブミクロン粒径をもつ微粒子原料をエアロゾル化して吹き付けることにより該ガラス管の外周面に前記微粒子原料から成る第2金属層を形成して中空光ファイバプリフォーム管を作成する工程と、
前記中空光ファイバプリフォーム管内を不活性雰囲気に保ちつつ該中空光ファイバプリフォーム管の先端を溶融し、一定速度で延伸して光ファイバに線引きする工程と
を備えることを特徴とする。
【0021】
さらに、本出願の第8発明の中空光ファイバの製造方法は、第6発明又は第7発明において、さらに、前記ガラス管の内周面に第1金属層を形成する前に、線膨張係数がA1よりも小さいA3で、且つ融点がT1に近い値T3の緩衝層を、シラン系ガスあるいはシラン系ガスと窒素系ガスを用いて気相化学反応により形成する予備工程を備えることを特徴とする。
【0022】
上述の第6発明及び第7発明の製造方法においては、前記ガラス管が硬質ガラス管から成り、前記第1金属層が金、銀、アルミニウムのいずれかから形成されることが好ましい。
上記第8発明では、前記ガラス管を硬質ガラス管又はパイレックスガラス管から形成し、前記緩衝層をSi又はSiNから形成し、前記第1金属層を金、銀、アルミニウムのいずれかから形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0023】
本発明の中空光ファイバは、ガラス管の線膨張係数A1よりも第1金属層の線膨張係数A2の方がわずかに大きい値であるので、ガラス管の内周面に第1金属層を形成するときに不要な応力がかかりにくい。また、ガラス管の軟化点T1と第1金属層の融点T2がほぼ等しいため、ガラス管の内周面に高純度の金属層を容易に形成することができる。
【0024】
また、ガラス管の外周面にも内周面に形成した第1金属層と同じ金属の第2金属層を形成にすれば、ガラス管と第1金属層の線膨張係数が異なることに起因する非対称構造に基づくひずみを低減することができる。また、環境温度の変化によって中空光ファイバに不要な応力やひずみが加わることを抑制できる。
【0025】
さらに、ガラス管と金属層の間に、線膨張係数がA1よりも小さい値A3で、且つ、融点がT1に近い値T3である緩衝層を介在させると、ガラス管および金属層の材質をより広範囲から選ぶことが可能となり、一層低損失であって高強度の光ファイバを実現することができる。また、緩衝層と金属層が2層構造になっているので、中空内を伝搬している光信号が中空光ファイバ外周から外へ漏洩するのを阻止することができる。
【0026】
また、本発明の中空光ファイバの製造方法によれば、いわゆるエアロゾル化ガスデポジション法により金属のエアロゾル化微粒子原料をガラス管に送り込んで第1金属層を形成したので、結晶構造が非常に緻密で粒径の均一な金属層をガラス管の内周面に形成することができる。このため、第1金属層で光信号を一様に反射することができ、散乱損失の小さい中空光ファイバを得ることができる。しかも、本発明の製造方法で得られる中空光ファイバは、ガラス管の線膨張係数A1よりも第1金属層の線膨張係数A2の方がわずかに大きい値であるので、ガラス管の内周面に第1金属層を形成するときに不要な応力がかかりにくい。また、ガラス管の軟化点T1と金属層の融点T2がほぼ等しいため、ガラス管の内周面に高純度の金属層を容易に形成することができる。
【0027】
また、ガラス管の外周面にも金属のサブミクロン粒径をもつ微粒子原料をエアロゾル化して吹き付けて、第1金属層と同様の第2金属層を形成することにより、ガラス管と第1金属層の線膨張係数が非対称であることにより起因するひずみを低減することができる。このため、得られた中空光ファイバが、環境温度の変化により変形することを防ぐことができる。
【0028】
さらに、シラン系ガスあるいはシラン系ガスと窒素系ガスを用いた気相化学反応を利用して、ガラス管と第1金属層との間に高純度で均一な構造の緩衝層を介在させることにより、第1金属層の表面(内周面)を均一な鏡面状態にすることができる。このため、さらなる低損失な中空光ファイバを製造することができる。
【0029】
本発明の中空光ファイバの製造方法では、エアロゾル化ガスデポジション法によりガラス管の内周面に第1金属層を形成して得られた中空光ファイバプリフォーム管を、その内部を不活性雰囲気に保ちつつ不活性雰囲気に保たれた加熱炉で線引き延伸するようにしたので、1km以上の長尺の中空光ファイバを容易に製造することができる。また、線引き延伸によりコアとクラッドの境界面としての第1金属層の内周面における構造不整を極めて小さくすることができるため、より一層、低損失で且つ曲げに強い中空光ファイバを得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施例1に係る中空光ファイバの概略構成図であり、(a)は横断面図、(b)は縦断面図。
【図2】中空光ファイバの製造工程図。
【図3】ガラス管の内周面に金属層を形成する方法を説明するための図。
【図4】長尺な中空光ファイバに適した製造工程図。
【図5】ファイバプリフォーム管を線引き延伸する方法を説明するための図。
【図6】本発明の実施例2に係る中空光ファイバの図1相当図。
【図7】図2相当図。
【図8】ガラス管の外周面に金属層を形成する方法を説明するための図。
【図9】図4相当図。
【図10】本発明の実施例3に係る中空光ファイバの図1相当図。
【図11】図4相当図。
【図12】ガラス管の内周面に緩衝層を形成する方法を説明するための図。
【図13】本発明の第1の変形例を示すものであり、ガラス管の内周面に金属層を形成する方法の別の例を説明するための図。
【図14】本発明の第2の変形例を示すものであり、ガラス管の内周面に金属層を形成する方法の別の例を説明するための図。
【図15】本発明の第3の変形例を示すものであり、ガラス管の内周面に緩衝層を形成した後、金属層を形成する方法の別の例を説明するための図。
【図16】本発明の第4の変形例を示すものであり、ガラス管の内周面に金属層を形成する経済的な方法を説明するための図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の具体的な実施例について説明する。
【実施例1】
【0032】
図1は、本発明の実施例1に係る中空光ファイバを示す。同図(a)は中空光ファイバの径方向に沿う横断面図、同図(b)はX1-X1線に沿う縦断面図である。この中空光ファイバ1は、ガラス管2とその内周面に形成された金属層3から成る。ガラス管2の線膨張係数をA1、軟化点をT1とすると、金属層3には、線膨張係数がA1よりわずかに大きい値A2であり、融点がT1に近い値T2である金属が用いられている。中空光ファイバ1は細径のガラス管2で構成され、そのガラス管2の内周面に形成された金属層3がクラッドとして機能する。従って、図1に矢印5で示すように中空光ファイバ1内に入射した信号は、金属層3の表面で反射されてガラス管2の中空部4内を伝送する。
【0033】
前記中空光ファイバ1の外径は、伝送させる光信号のパワー、ビームスポットサイズ、および照射させる対象物の大きさに応じて選ばれる。例えば赤外光を伝送させる場合、中空光ファイバ1の外径は小さいもので150μm程度、大きいもので1000μm程度に設定されるのが一般的である。ただし、必要に応じて上記以外の大きさの外径を有する中空光ファイバ1を製造することもできる。
また、中空光ファイバ1の内径は小さいもので80μm程度、大きいもので800μm程度が一般的である。
【0034】
金属層3の厚みは伝送させる光信号の光学的スキンデプスよりも十分に大きければ良く、精密に制御する必要はないが、成膜時における膜厚の均一性、鏡面状態を保持するためには0.5μmから5μmの範囲が好ましい。また、金属層3が薄すぎると反射面としての均一性が悪くなり、逆に厚すぎると線膨張係数のわずかな違いにより余分な応力がガラス管2に加わるので好ましくない。
なお、ガラス管2の外周には、中空光ファイバ1を曲げやすく、且つ扱いやすくするために、シリコン樹脂、ナイロン樹脂、UV樹脂、ポリイミド樹脂等の樹脂をコーテイングするとよい。
【0035】
次に、上記中空光ファイバ1の製造方法について図2〜図5を用いて説明する。まず、短尺な中空光ファイバ1に適した製造方法の例を図2及び図3を用いて説明する。
S1で示す工程は、中空光ファイバ1の出発材となる細径のガラス管2の内周面をクリーニングガスで洗浄する工程である。クリーニングガスとしてはCF、Cガスなどを用いることができる。不活性ガスと共にクリーニングガスをガラス管2の中に送り込み、当該ガラス管2の内周面を清浄化する。ガラス管2の外周を200℃から500℃の範囲で加熱しながら洗浄工程を行うと、ガラス管2の内周面がクリーニングガスでエッチングされるため、前記ガラス管2の内周面の荒れに起因する構造不整を低減することができる。
【0036】
S2で示す工程は、ガラス管2の内周面に金属層3を形成する工程である。ここでは、エアロゾル化ガスデポジション法によりガラス管2の内周面に金属層3が形成される。即ち、まず、線膨張係数がA2で、融点がT2の金属のサブミクロン粒径をもつ微粒子原料14をエアロゾル容器13に入れておく。そして、不活性ガスをバルブ16を通して搬送管17aからエアロゾル容器13内に送り込む微粒子原料14をエアロゾル化する。不活性ガスにはAr、He、N2などを用いることができる。尚、微粒子原料14をエアロゾル化する方法は上記した作成条件に限定されない。例えば、エアロゾル容器を加熱してエアロゾル化しやすくする方法を用いてもよい。
【0037】
エアロゾル化した微粒子原料14は前記不活性ガスと共に容器13内から搬送管17bに送り込まれる。搬送管17bはガラス管2内に一方端から挿入されており、先端部に出口17cが設けられている。従って、搬送管17bに送り込まれたエアロゾル化した微粒子原料14を含む不活性ガスは、矢印14aで示すように出口17cからガラス管2内に吹き出される。金属層3の形成開始時は、搬送管17bの出口17cはガラス管2の他端付近に位置しており、その後、徐々に矢印11で示す方向にガラス管2が移動されることにより、ガラス管2内における出口17cの位置が他端部から一端部に移動する。また、ガラス管2は、その外周から加熱源10で加熱されると共に当該ガラス管2内に吹き出された微粒子原料を含む不活性ガスは他端部から矢印18に示すように排気される。
【0038】
なお、加熱源10には、電気炉、高周波炉、酸水素バーナなどを用いることができる。
また、ガラス管としては硬質ガラス管を挙げることができ、金属のサブミクロン粒径をもつ微粒子原料としては、金、銀、アルミニウム、銅などを挙げることができる。これら金属の微粒子原料から金属層を形成する際の加熱温度は150℃から400℃の範囲が好ましい。この温度範囲で金属層を形成すると、ナノ粒子生成のための蒸発過程がないので、材料組成の変動を生じることなく所望の金属層を形成することができる。
【0039】
この結果、ガラス管2内に吹き出した金属微粒子原料14により該ガラス管2の内周面全体に金属層3が形成され、もって中空光ファイバ1が製造される。特に、本実施例ではエアロゾル化ガスデポジション法により金属層3を形成したので、結晶構造が緻密で粒径の均一な金属層3をガラス管2の内周面に形成することができる。この結果、信号光に対して良好な反射面を実現することができる。
なお、ガラス管2を矢印12で示した方向に回転させながら金属層3の形成工程を行うようにすると、ガラス管2の内周面に円周方向及び長手方向に均一な膜厚の金属層3を形成することができる。
【0040】
また、金属層3の線膨張係数A2はガラス管2の線膨張係数A1よりもわずかに大きい値であるので、金属層3を形成して中空光ファイバ1を作成する時に当該中空光ファイバ1に不要な応力やひずみがかかりにくい。またガラス管2の軟化点T1と金属層3の融点T2がほぼ等しいので、ガラス管2の内面に高純度の金属層3を容易に形成することができる。
【0041】
上述の製造方法を用いた短尺な中空光ファイバ1の具体的な製造例を以下に示す。
ガラス管2として、長さが2m、外径が800μm、内径が600μmの硬質ガラス管を作成しておき、その硬質ガラス管2内に一方端から挿入した搬送管17bに粒径1μm以下であるサブミクロン粒径の金の微粒子原料14をArガス(100cc/min(=1×10-4 m3/min)でエアロゾル化して送り込む。そして、ガラス管2内を他端部から排気しつつ上記ガラス管2の外周を加熱源10で200℃に加熱し、ガラス管2を一端部から他端部に向かう方向に0.5mm/secの速度で移動させながら、かつ上記ガラス管2を15rpm(15/60s-1)で回転させる。この結果、上記ガラス管2の内周面に厚みが約0.5μmの金層3が形成され、所望の中空光ファイバ1が得られた。
【0042】
次に、長尺な中空光ファイバ1の製造方法について図4及び図5を用いて説明する。
長尺な中空光ファイバ1の製造方法は、ガラス管2の内周面に金属層を形成して中空のファイバプリフォーム管21を作成する第1工程(S2‘)、前記ファイバプリフォーム管21内を不活性雰囲気に保ちつつ不活性雰囲気に保った線引き炉23内に一定速度で挿入し、溶融したファイバプリフォーム管21の下端を一定速度で延伸して中空形状の光ファイバ1を製造する第2工程(S3)とから成る。
第1工程は、図2のS2で示す工程とほぼ同じであるため、説明を省略する。また、図4には示していないが、短尺な中空光ファイバ1の製造工程と同様、第1工程の前に洗浄工程を行っても良い。
【0043】
第2工程では、ファイバプリフォーム管21を、その内部に不活性ガスを矢印22aで示すように流した状態、あるいはファイバプリフォーム管21の内部を不活性雰囲気に保った状態で、不活性雰囲気に保たれた線引き炉23内に一定速度vpで挿入する。そして、線引き炉23内で溶融したファイバプリフォーム管21の下端を一定速度vfで延伸してドラム30で巻き取ることによって中空形状の光ファイバ1を製造する。
【0044】
ここで、中空光ファイバ1の直径dは、光ファイバプリフォーム管21の直径をDとすると、
d=D(vp/vf)1/2
で与えられる。
【0045】
線引き炉23内を不活性雰囲気に保つ方法として、線引き炉23の上と下にガス導入ノズル24a、24bを設け、これらのノズル24a、24b内に矢印で示すように不活性ガスを送り込む。このとき、ノズル24a、24bに送り込まれた不活性ガスは、線引き炉23内に矢印25a、25bで示すように流れるようにし、線引き炉23の外に26a、26b、26c、26dで示すように流れ出るようにする。
このように光ファイバプリフォーム管21内を不活性雰囲気に保ちつつ不活性雰囲気に保たれた線引き炉23内で線引き延伸することにより、金属層の酸化を防ぐことができる。
【0046】
上述の製造方法を用いた長尺な中空光ファイバ1の具体的な製造例を以下に示す。
ガラス管2として外径が20mm、内径が17mm、長さが80cmの硬質ガラス管を用い、そのガラス管2の内周面に形成する金属層3として厚さ30μmの金層をエアロゾル化ガスデポジション法で形成する。硬質ガラス管の線膨張係数は8.5×10-6/K、軟化点は785℃であるのに対して、金層の線膨張係数は9×10-6/K、融点は1063℃であり、両者はよく似た物性である。このため、硬質ガラス管の内周面にエアロゾル化ガスデポジション法で金層を形成することができ、この結果、中空状のファイバプリフォーム管を作成することができる。
次に、得られたファイバプリフォーム管内を不活性雰囲気に保ちつつ不活性雰囲気に保たれた約1000℃近い温度の加熱炉で加熱して線引き延伸する。これにより、約1kmの長尺の中空光ファイバを製造することができた。この長尺な中空光ファイバ1は外径が500μm、内径が約425μm、金層の厚みが約0.75μmであった。
【0047】
なお、上記した中空光ファイバ1においては、硬質ガラス管の線膨張率と金属層の線膨張係数が近い値であるので、ファイバプリフォーム管を線引き延伸する際に過剰な応力が発生してクラックが発生することを極力防止できる。また、得られた中空光ファイバ1は取り扱う上で割れや極端なひずみの発生、曲げによる破断などの実用的な問題が起き難かった。
【0048】
得られた中空光ファイバ1を長さ10mにし、その中空部4に赤外光として波長10.6μmのCO2レーザ光(出力60W、ビームスポット径180μm)を入射させ、出口端でのCO2レーザ光の出力を測定した。その結果、入射光の約80%が伝搬していることがわかった。このように低損失特性が得られたのは線引き延伸によりコアとクラッド境界面の構造不整を極めて小さくすることができたためであると考えられる。
【実施例2】
【0049】
図6は本発明の実施例2に係る中空光ファイバを示す。同図(a)は上記光ファイバの径方向に沿う横断面図、同図(b)は(a)のX2-X2線方向の縦断面図である。実施例2の中空光ファイバ6は、ガラス管2の外周面にも内周面に形成した金属層3と同じ金属から成る金属層7を形成した点が実施例1の中空光ファイバ1と異なる。以下の説明ではガラス管2の内周面に形成した金属層を第1金属層3と呼び、外周面に形成した金属層を第2金属層7と呼ぶ。
【0050】
実施例2の中空光ファイバ6においても、矢印5で示すように中空光ファイバ6内に入射した光信号は、第1金属層3の表面で反射されてガラス管2の中空部4内を伝送する。
ガラス管2の内周面にのみ金属層3を形成した構造ではガラス管2と金属層3の線膨張係数の違いに起因する非対称性によりひずみが生じるが、ガラス管2の内周面及び外周面の両方に同じ金属から成る金属層を形成した構造では、このようなひずみの発生を低減することができる。これにより、環境温度の変化により中空光ファイバ6に不要な応力やひずみが加わることを抑制できる。
【0051】
なお、第2金属層7は光信号の反射に寄与しないため、光学的スキンデプスとは無関係に膜厚を設定できるが、上述したひずみ発生を低減すること、光信号の漏れをふせぐこと、破損を防ぐことなどを考慮に入れて設定すると良く、その厚みは0.3μmから5μmの範囲が好ましい。本発明者は、ガラス管2の内周面及び外周面に形成する金属層3,7の厚みが5μm以下であれば、50mmの曲げ半径で中空光ファイバ6を曲げても実用上問題とならないことを確認している。
【0052】
図7〜図9を用いて上記中空光ファイバ6の製造方法を説明する。まず、短尺な中空光ファイバ6に適した製造方法の例を図7及び図8を用いて説明する。短尺な中空光ファイバ6の製造方法は、S4で示す工程を有する点が図2に示す製造方法と異なる。即ち、中空光ファイバ6の出発材となる細径のガラス管2の内周面に第1金属層3を形成(S2)した後に、ガラス管2の外周面にも第1金属層3と同じ金属から成る第2金属層7を形成する(S4)。
【0053】
図8は、第2金属層7の形成工程(S4)で用いる装置を示している。図8の装置は図3に示す装置とほぼ同じ装置であるため、図3に示す装置と同一部分には同一符号を付している。まず、不活性ガス15をバルブ16を通して搬送管17aからエアロゾル容器13内に送り込み、サブミクロン粒径をもつ金属微粒子原料14をエアロゾル化すると、そのエアロゾル化した微粒子原料14は不活性ガスと共に搬送管17dに送り込まれ、当該搬送管17dの出口17eから吹き出される。
【0054】
搬送管17dはガラス管2の外周面から一定距離離間して配置されており、金属層7の形成開始時は、搬送管17dの出口17eはガラス管2の他端付近に位置している。その後、徐々に矢印11で示す方向にガラス管2が移動されることにより、ガラス管2の外周面に対する出口17eの位置が他端部から一端部に移動する。このとき、ガラス管2が矢印12で示した方向に回転される。この結果、ガラス管2の外周面に金属微粒子原料14から成る第2金属層7が円周方向及び長手方向に均一に形成される。
【0055】
図9は長尺な中空光ファイバ6の製造方法を示している。この製造方法は、ガラス管2の内周面に第1金属層を形成する第1工程(S2‘)、ガラス管2の外周面に第2金属層を形成して中空の光ファイバプリフォーム管を作成する中間工程(S4’)、前記光ファイバプリフォーム管内を不活性雰囲気に保ちつつ不活性雰囲気に保った線引き炉内に一定速度で挿入して溶融したプリフォーム管の下端を一定速度で延伸して中空形状の光ファイバを製造する第2工程(S3)とから成る。
第1工程及び中間工程は、図8のS2で示す工程及びS4で示す工程とほぼ同じである。また、第2工程は、図4の第2工程とほぼ同じであるため、説明を省略する。
【実施例3】
【0056】
図10は本発明の実施例3に係る中空光ファイバを示す。同図(a)は上記光ファイバの径方向に沿う横断面図、同図(b)は(a)のX3-X3線方向の縦断面図である。実施例3の中空光ファイバ8は、ガラス管2の内周面と金属層3との間に、線膨張係数がA1よりも小さい値A3で、融点がT1に近い値T3である緩衝層9が介在している点が実施例1の中空光ファイバ1と異なる。緩衝層9を介在させることにより、中空光ファイバ8を構成するガラス管2及び金属層3の材質をより広範囲から選ぶことができる。例えば、ガラス管2にはパイレックスガラス管や硬質ガラス管を用いることができ、金属層3には、金、銀、アルミニウム、銅等を用いることができる。
【0057】
これらの材質から選ぶことにより、サブミクロン粒径をもつ金属微粒子原料を用いて均一な金属層3をガラス管2の内周面に成膜することができるようになる。このため、赤外光に対して良好な反射面を実現することができ、一層の低損失な中空光ファイバの実現が可能となる。
【0058】
また、緩衝層9と金属層3の2層構造になっているので、中空部4内を伝搬する赤外光が中空光ファイバ8の外周から外部へ漏洩することを阻止することができる。従って、例えば、波長10.6μmの赤外光は人体に間違って照射されると非常に危険な光であるが、このような赤外光を用いた場合でも光ファイバ8からの漏洩を阻止できるため、使用上、安全な中空光ファイバを実現することができる。
【0059】
さらに、中空部4内を伝搬する赤外光が中空光ファイバ8の外周から外部へ漏洩することを阻止するために緩衝層を設けた。緩衝層9と金属層3の2層構造にすることにより破損し難い、高強度な中空光ファイバを提供することができる。また、2層構造にすることによりガラス管2の内周面の荒れを緩衝層で緩和し、その上に金属層3を形成することによって結果的にクラッド表面の構造不整を大幅に低減できるため、より一層低損失な光ファイバを得ることが可能となる。
【0060】
前記緩衝層9は、ガラス管2と金属層3との機械的、物理的なつながりを緩和させることを目的として設けるため、その材質の候補としてSiかSiNを用いることができる。緩衝層9の厚みは金属層3の厚みよりも薄いことが望ましく、0.1μmから2μmの範囲が好ましい。
【0061】
中空光ファイバ8を構成するガラス管2の材質として硬質ガラス管を、緩衝層9の材質としてSi或いはSiNを挙げることができる。硬質ガラスの線膨張係数は8.5×10-6/K、軟化点は785℃であり、Siの線膨張係数は4.2×10-6/K、SiNの線膨張係数は2.2×10-6/Kである。また、金属層3として金層(線膨張係数は9×10-6/K)、銀層(線膨張係数は19×10-6/K)、Al層(線膨張係数は23.2×10-6/K)を挙げることができる。これらの材質を用いることにより、線膨張係数の高い硬質ガラス管2とさらに線膨張係数の高い金属層3の間に、ガラス管2及び金属層3のいずれよりも線膨張係数が小さい緩衝層9が介在することになる。このため、機械的に安定した光ファイバ構造を実現することができる。また、金属層3としてより反射率の高い金属層を選定することができる。
【0062】
具体的な製造例について説明する。まず、ガラス管2として外径が20mm、内径が17mm、長さが80cmの硬質ガラス管を用い、そのガラス管の内周面に、シラン系ガスあるいはシラン系ガスと窒素系ガスを用いて気相化学反応法によりSiN層から成る緩衝層9を約20μmの厚みに形成する。その後、緩衝層9の表面にエアロゾル化ガスデポジション法で金層からなる金属層3を約30μmの厚みに形成し、もって中空状の光ファイバプリフォーム管を得た。
【0063】
次に、この中空状の光ファイバプリフォーム管内を不活性雰囲気に保ちつつ約1000℃近い温度の不活性雰囲気の線引き炉で加熱して線引き延伸することにより約1kmの長尺の中空光ファイバ8(外径が500μm、内径が約425μm、緩衝層の厚みが約0.5μm、金層の厚みが約0.75μm)を得ることができた。
この中空光ファイバ8を長さ10mに切断し、その中空光ファイバ8内の中空部4に赤外域の光として波長10.6μmのCO2レーザ光(出力60W、ビームスポット径180μm)を入射させ、中空光ファイバ8の出口端でCO2レーザ光の出力を測定した。その結果、80%近い値の光が伝搬したことがわかった。
【0064】
この中空光ファイバ8は、実施例1の中空光ファイバ1よりも曲げ易かった。
また、実施例3の別の試作例として、硬質ガラス管の代わりにパイレックスガラス管から成るガラス管2を用いた構造についても検討したが、硬質ガラス管をガラス管2とした構造と同様の効果を有する光ファイバが得られることがわかった。
【0065】
次に、上記中空光ファイバ8の製造方法について図11及び図12を用いて説明する。ここでは長尺な中空光ファイバ8に適した製造方法を例に挙げて説明する。この製造方法は、ガラス管2の内周面に金属層3を形成する前に緩衝層9を形成する予備工程(PS1)を有する点が図4に示す製造方法と異なる。
【0066】
予備工程では、まず、ガラス旋盤20にガラス管2を取り付けて矢印12で示すように円周方向に回転させ、このガラス管2内にその一方側から原料ガスであるSiH4ガスとN2ガス(あるいはNH4ガス)をキャリアガスと共に送り込む。
ここで、ガラス管2は、その直径が15mmから40mmの範囲が好ましく、この直径が大きいほど長尺の光ファイバを作成することができる。また、ガラス管2の肉厚は1mmから4mmの範囲が好ましく、厚いほど長尺の光ファイバを作成することができる。さらに、SiH4ガスとN2ガス(あるいはNH4ガス)のガス流量は50cc/minから1000cc/minの範囲が好ましく、緩衝層9の所望の屈折率を考慮に入れて選ぶ。原料ガスの流量が多いほど成膜速度を大きくすることができる。キャリアガスにはArかN2を用い、そのガス流量は原料ガス全体の流量と同程度か少し少ない方が好ましい。キャリアガスの流量が少ないと成膜速度は低下するが、膜の均一性は良くなり、逆にキャリアガスの流量が多いと成膜速度は大きくなるが、膜厚の均一性が低下する。
【0067】
次に、ガラス管2の他方側から矢印19aで示すように排気しつつ該ガラス管2の外周方向から加熱源10を用いて該ガラス管2を400℃から600℃の範囲で加熱する。加熱源10には、電気炉、酸水素バーナなどを用いることができる。
【0068】
そして、ガラス管2の一方側から他方側に向けて矢印11bで示す方向に加熱源10を移動させることにより加熱された領域のガラス管2の内周面にSiN層9を形成し、該加熱源10が他方端に達したら該加熱源10を矢印11aで示す方向に移動させて一方端側の最初の位置に戻して上記と同様のSiN 層9の成膜方法を複数回繰り返すことによって上記SiN 層9を複数層に形成して中空状のファイバプリフォーム管を得る。
【0069】
この製造方法で得られる中空状のファイバプリフォーム管は、熱分解反応の利用による気相化学反応によってガラス管2の内周面にSiN層を形成しているので、均一な超微粒子で構成された緩衝層9(SiN層)を均一な厚みでガラス管2内に密着性良く形成することができる。このため、その後に形成する金属層3も均一な厚みで鏡面状態に形成することができる。その結果、金属層3は、例えば赤外線光の光を効率よく反射させてガラス管2内の中空部4内を伝送させることができる。しかも、不純物の混入が非常に少ない均一なSiN層を形成することができる。さらに、上記した反応は閉じた系で行われることから、外部からの不純物の混入を抑えることができるため、より一層均一なSiN層を形成することができ、不要な散乱の極めて少ない、低損失な光ファイバを得ることができる。
【0070】
なお、上記SiH4ガスの代わりに、SiH2Cl2を用いてもよい。SiH4ガスの代わりにSiH2Cl2を用いると、SiH4ガスの場合よりも約300℃も高い温度(700℃から800℃の範囲)でガラス管2の内壁面に気相化学反応を利用してより均一なSiN層を形成することができる。
【0071】
尚、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、適宜の変更が可能である。
図13は、ガラス管2を縦置きしてガラス管2の内周面に金属層3を形成する方法の別の例を示している。縦置きしたガラス管2には、その下端部から上方に向けて搬送管17bが挿入される。搬送管17bには、サブミクロン粒径をもつ金属微粒子原料14をエアロゾル化したものが不活性ガスと共に流され、先端の出口17cから矢印14aのように吹き出される。
【0072】
図14は、ガラス管2の内周面に金属層3を形成する方法の別の例を示している。この例では、ガラス管2の入口付近に配置された搬送管17bの出口17cから、エアロゾル化した金属微粒子原料14を不活性ガスと共に矢印で示すように吹き出させて、ガラス管2の内周面に順次長手方向に金属層3を形成する。この方法によれば、細径で且つ長尺なガラス管2であっても、エアロゾル化したサブミクロン粒径をもつ金属微粒子原料14を不活性ガスと共に該ガラス管2内に供給して金属層3を形成することができる。なお、この方法においても、金属層3を形成する際、ガラス管2を円周方向に回転させても良い。
図15は、図14に示す方法でガラス管2の内周面に緩衝層9を形成した後、金属層3を形成する例を示している。図15に示す方法でも、図14に示す方法と同様の作用、効果が得られる。
【0073】
図16は本発明の変形例3を示しており、ガラス管2の他端部側から排気したガスをエアロゾル容器13に導入する不活性ガスに重畳させるようにした点が上記した実施例1〜3と異なる。このような構成の変形例3によれば、排気ガス中に含まれるサブミクロン粒径を持つ金属微粒子を有効に活用することができ、経済的に中空光ファイバを製造することができる。
【0074】
さらに、本発明の中空光ファイバは、波長10.6μmの赤外域の光信号を伝送させる光ファイバ用以外に、赤外域の波長2.1μmのHo:YAGレーザ伝送用、2.94μmのEr:YAGレーザ伝送用にも同様に適用することができる。また赤外域以外に紫外域の光信号、例えば、QスイッチNd:YAGレーザ第4高調波(波長266nm)伝送用にも適用することができる。このレーザを用いて本発明の中空光ファイバ内を伝送させれば、軟組織、硬組織への効果的な治療を期待できる。また半導体の微細加工や物質の表面改質において、ArFレーザ(発振波長193nm)やF2レーザ(発振波長157nm)、さらにはエキシマレーザ(発振波長266nm)を用いた加工用にも本発明の中空光ファイバを適用することができる。
【符号の説明】
【0075】
1,6,8…中空光ファイバ
2…ガラス管
3…金属層(ガラス管の内周面の金属層)
4…中空部
7…金属層(ガラス管の外周面の金属層)
9…緩衝層
10…加熱源
13…エアロゾル容器
14…金属微粒子原料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
a) 線膨張係数がA1、軟化点がT1のガラス管と、
b) 前記ガラス管の内周面に形成された、線膨張係数がA1よりもわずかに大きい値A2で、且つ、融点がT1に近い値T2である第1金属層と
からなる中空光ファイバ。
【請求項2】
前記ガラス管の外周面に、前記第1金属層と同じ金属から成る第2金属層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の中空光ファイバ。
【請求項3】
前記ガラス管の内周面と前記第1金属層との間に、線膨張係数がA1よりも小さい値A3で、且つ、融点がT1に近い値T3である緩衝層を有すること特徴とする請求項1又は2に記載の中空光ファイバ。
【請求項4】
前記ガラス管が硬質ガラス管から成り、前記第1金属層が金、銀、アルミニウムのいずれかから形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の中空光ファイバ。
【請求項5】
前記ガラス管が硬質ガラス管又はパイレックス(登録商標)ガラス管から成り、前記緩衝層がSi又はSiNから形成され、前記第1金属層が金、銀、アルミニウムのいずれかから形成されていることを特徴とする請求項3に記載の中空光ファイバ。
【請求項6】
線膨張係数がA2で、融点がT2の金属のサブミクロン粒径をもつ微粒子原料をエアロゾル化し、該エアロゾル化微粒子原料を線膨張係数がA2とほぼ等しいか或いはわずかに小さい値A1で、且つ軟化点がT2に近い値T1であるガラス管内に送り込み、
前記ガラス管内を排気しつつ該ガラス管の外周方向から前記ガラス管を加熱することにより該ガラス管の内周面に前記微粒子原料から成る第1金属層を形成して中空光ファイバを製造する方法。
【請求項7】
前記ガラス管の外周面に、前記第1金属層と同じ金属のサブミクロン粒径をもつ微粒子原料をエアロゾル化して吹きつけることにより、前記微粒子原料から成る第2金属層を形成したことを特徴とする請求項6に記載の中空光ファイバの製造方法。
【請求項8】
前記微粒子原料をエアロゾル化するための容器を備え、前記ガラス管からの排気を前記容器内に戻すことを特徴とする請求項6又は7に記載の中空光ファイバの製造方法。
【請求項9】
線膨張係数がA2で、融点がT2の金属のサブミクロン粒径をもつ微粒子原料をエアロゾル化し、該エアロゾル化微粒子原料を線膨張係数がA2とほぼ等しいかあるいはわずかに小さい値A1で、且つ軟化点がT2に近い値T1であるガラス管内に送り込み、
前記ガラス管内を排気しつつ該ガラス管の外周方向から前記ガラス管を加熱することにより該ガラス管の内周面に前記微粒子原料から成る第1金属層を形成して中空光ファイバプリフォーム管を作成する工程と、
前記中空光ファイバプリフォーム管内を不活性雰囲気に保ちつつ該中空光ファイバプリフォーム管の先端を溶融し、一定速度で延伸して光ファイバに線引きする工程と
を備えることを特徴とする中空光ファイバの製造方法。
【請求項10】
線膨張係数がA2で、融点がT2の金属のサブミクロン粒径をもつ微粒子原料をエアロゾル化し、該エアロゾル化微粒子原料を線膨張係数がA2とほぼ等しいかあるいはわずかに小さい値A1で、且つ軟化点がT2に近い値T1であるガラス管内に送り込み、前記ガラス管内を排気しつつ該ガラス管の外周方向から前記ガラス管を加熱することにより該ガラス管の内周面に前記微粒子原料から成る第1金属層を形成する工程と、
前記ガラス管の外周面に、前記第1金属層と同じ金属のサブミクロン粒径をもつ微粒子原料をエアロゾル化して吹き付けることにより該ガラス管の外周面に前記微粒子原料から成る第2金属層を形成して中空光ファイバプリフォーム管を作成する工程と、
前記中空光ファイバプリフォーム管内を不活性雰囲気に保ちつつ該中空光ファイバプリフォーム管の先端を溶融し、一定速度で延伸して光ファイバに線引きする工程と
を備えることを特徴とする中空光ファイバの製造方法。
【請求項11】
前記ガラス管の内周面に第1金属層を形成する前に、線膨張係数がA1よりも小さいA3で、且つ融点がT1に近い値T3の緩衝層を、シラン系ガスあるいはシラン系ガスと窒素系ガスを用いて気相化学反応により形成する予備工程を備えることを特徴とする請求項6〜10のいずれかに記載の中空光ファイバの製造方法。
【請求項12】
前記ガラス管が硬質ガラス管から成り、前記第1金属層が金、銀、アルミニウムのいずれかから形成されることを特徴とする請求項6〜10のいずれかに記載の中空光ファイバの製造方法。
【請求項13】
前記ガラス管が硬質ガラス管又はパイレックスガラス管から成り、前記緩衝層がSi又はSiNから形成され、前記第1金属層が金、銀、アルミニウムのいずれかから形成されていることを特徴とする請求項11に記載の中空光ファイバの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−164318(P2011−164318A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−26145(P2010−26145)
【出願日】平成22年2月9日(2010.2.9)
【出願人】(392017004)湖北工業株式会社 (16)
【Fターム(参考)】