説明

主軸支持装置

【課題】転がり軸受3、3の潤滑状態が不良である事を、これら各転がり軸受3、3に損傷が発生する以前に判定自在とする。
【解決手段】導電性セラミック製の転動体6、6を組み込んだ上記各転がり軸受3、3の外輪4と内輪5との間の電位差を求める。この電位差は、潤滑状態の良否により変化するので、この電位差を表す信号を制御器15に入力すれば、上記課題を解決できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明に係る転がり軸受の運転状態監視装置は、工作機械の主軸を支持する為の転がり軸受等、微量潤滑の下で運転される転がり軸受の潤滑状態の良否を判定する為に利用する。
【背景技術】
【0002】
工作機械の主軸は、玉軸受、ころ軸受等の転がり軸受により支持された状態で高速回転する。この様な転がり軸受の潤滑は、回転抵抗を低く、且つ、その変動を僅少に抑える為、オイルエア、オイルミスト等による微量潤滑で行なっている。グリース潤滑による場合も、グリースの封入量を少なく抑えている。言い換えれば、上記転がり軸受内には、必要最小限の潤滑油しか供給しない。従って、オイルエア供給装置等の給油手段が故障したり、グリースが枯渇したりして、潤滑不良が発生すると、短時間の間に焼き付き等の重大な損傷に結び付き易い。
【0003】
この為に従来から、上記転がり軸受を設置した部分で発生する振動や音を検知したり、この部分の温度を検知したり、或は上記転がり軸受を組み込んだ工作機械等の運転時間を測定する等により、この転がり軸受のメンテナンスをする為の情報を得る様にしていた。
【0004】
振動や音、或は温度情報は、潤滑不良に基づいて或る程度損傷が発生してからその値が変化するものである為、必ずしも転がり軸受の損傷防止を十分に図れるとは言えない。又、運転時間を測定するのでは、給油装置の故障による潤滑不良には対応できない。
これらの事を考慮した場合、実際に潤滑不良の状態が発生した事を、この潤滑不良に基づく損傷が発生する以前に検知できる監視装置の実現が望まれる。
【0005】
一方、マシニングセンタ等の各種工作機械に組み込まれる、高速回転する主軸を支持する為の転がり軸受を構成する転動体には、窒化珪素等のセラミック製の転動体を使用する場合がある。この様なセラミック製の転動体を使用する理由は、セラミック製の転動体は、軽量で、熱膨張量が少なく(線膨張率が低く)、しかも、優れた耐摩耗性及び耐焼き付き性を有する為である。但し、セラミック製の転動体は、通常の軸受鋼製の転動体とは特性が異なるので、異常監視の方法に関しても、それに応じた考慮が必要である。
【0006】
【特許文献1】特開昭62−87463号公報
【特許文献2】特開昭62−265177号公報
【特許文献3】特開昭64−15523号公報
【特許文献4】特開平2−43699号公報
【特許文献5】特開平3−29744号公報
【特許文献6】特開平10−87370号公報
【特許文献7】特開2000−154064号公報
【特許文献8】特開2000−192969号公報
【特許文献9】特公平8−16030号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、この様な事情に鑑みて、セラミック製の転動体を組み込んだ転がり軸受の異常の有無を、迅速に且つ正確に判断できる転がり軸受の運転状態監視装置を実現すべく考えたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の転がり軸受の運転状態監視装置は、それぞれが金属製で互いに対向する状態で設けられた1対の軌道輪と、これら両軌道輪の互いに対向する面に形成された軌道面同士の間に設けられた、それぞれがセラミック製である複数個の転動体とを備え、これら各軌道面とこれら各転動体の転動面との当接部に潤滑油を介在させた状態で運転される転がり軸受の運転状態を監視する為のものである。
この為に、上記各セラミック製転動体のうちの少なくとも1個の転動体を導電性セラミック製とすると共に、一方の軌道輪若しくはこの一方の軌道輪と電気的に導通している部材と、他方の軌道輪若しくはこの他方の軌道輪と電気的に導通している部材との間の抵抗値若しくはこの抵抗値に基づいて変化する電位差を監視し、この抵抗値若しくはこの抵抗値に基づいて変化する電位差が所定範囲から外れた場合に潤滑状態が不良であるとする。
【発明の効果】
【0009】
上述の様に構成する本発明の転がり軸受の運転状態監視装置によれば、転がり軸受の潤滑状態が不良である事を、潤滑不良に基づく損傷が発生する以前に検知できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図1は、本発明の転がり軸受の運転状態監視装置を、工作機械に組み込んだ場合に就いて示している。鋼等の金属製のハウジング1の内側に、やはり鋼等の金属製の主軸2を、1対の転がり軸受3、3により回転自在に支持している。これら各転がり軸受3、3は、その内周面に外輪軌道を有する金属製の外輪4と、その外周面に内輪軌道を有する金属製の内輪5と、これら外輪軌道と内輪軌道との間に転動自在に設けられた、それぞれがセラミック製である複数の転動体6、6と、これら各転動体6、6を転動自在に保持する為の、合成樹脂製の保持器7とから成る。
【0011】
上記各転動体6、6のうち、少なくとも1個(好ましくは円周方向に離隔した位置にある複数個、更に好ましくは全部)の転動体6を、導電性セラミック製としている。この転動体6を構成する為の導電性セラミックとしては、例えば、特許文献1〜9等に記載されて従来から知られている各種のものを使用できる。更には、特願2001−203783号に開示されている様に、遷移金属の窒化物、炭化物、硼化物、酸化物のうちから選択される1種又は2種以上を10〜60重量%含む導電性セラミック製の転動体も、使用可能である。
【0012】
上述の様に、導電性セラミック自体は、従来から各種のものが知られており、又、本願発明の実施に使用できる導電性セラミックの種類は特に問わないので、この導電性セラミックの組成に関する説明は省略する。尚、前記各転がり軸受3、3にそれぞれ複数個ずつ組み込む転動体6、6は、同種のものを使用する。導電性セラミック製の転動体と非導電性セラミック製の転動体とを混在させる場合には、両種の転動体の主成分を同じとする等により、比重、熱膨張係数等ができるだけ近いものを使用する。
【0013】
本発明の転がり軸受の運転状態監視装置では、上述の様な導電性セラミック製の転動体6、6を組み込んだ各転がり軸受3、3の潤滑状態を知る為に、前記外輪4を内嵌固定したハウジング1と、前記内輪5を外嵌固定した主軸2との間の電位差を測定自在としている。
【0014】
この為に図示の例では、上記ハウジング1と、上記主軸2と、上記各転がり軸受3、3と、直流電源8と、抵抗9とを互いに直列に接続した、閉回路を構成している。尚、この閉回路を構成する導線10の一端は、上記ハウジング1に対し直接接続している。これに対して、この導線10の他端は上記主軸2に、ブラシ11を介して導通させている。即ち、上記ハウジング1の端部に支持した、合成樹脂等の絶縁材製のホルダ12に支持したブラシ11を、ばね13により上記主軸2又はこの主軸2に固定した導体の外周面に押し付けると共に、上記ブラシ11に上記導線10の他端を接続する事により、この導線10の他端と上記主軸2とを導通させている。
【0015】
又、上記導線10の途中には電圧計14を、上記直流電源8及び抵抗9と並列に設けている。従って、この電圧計14は、上記ハウジング1と上記主軸2との間の電位差(上記各転がり軸受3、3を構成する外輪4と内輪5との間の電位差に等しい)を検出する。尚、上記直流電源8の電圧値は、0.1〜10V程度の範囲内で、設計的考慮により決定する。又、上記抵抗9の抵抗値も、1kΩ〜1MΩ程度の範囲内で、設計的考慮により決定する。
【0016】
上述の様な電圧計14の測定値は、比較器及び判定器を内蔵した制御器15に入力している。この制御器15は、この電圧計14の測定値と予め設定した基準値とを比較し、この測定値が基準値を境として、潤滑不良の側に外れた場合に、警報を発すると共に、上記主軸2を停止させる。又、図示の例では、上記ハウジング1の振動を検知する為の振動計16の検出信号も、上記制御器15に入力している。そしてこの制御器15は、この検出信号により表される、上記ハウジング1の振動の値が所定値を越えた場合に、警報を発すると共に、上記主軸2を停止させる。
【0017】
上述の様に構成する本発明の転がり軸受の運転状態監視装置によれば、次の様にして、上記各転がり軸受3、3の潤滑状態が不良である事を、これら各転がり軸受3、3に潤滑不良に基づく損傷が発生する以前に知る事ができる。
先ず、上記各転がり軸受3、3の潤滑状態が良好である場合には、上記ハウジング1と上記主軸2との間の電気抵抗が高く、反対に上記潤滑状態が不良である場合にはこの電気抵抗が低くなる。即ち、潤滑状態が良好である場合には、前記外輪軌道及び内輪軌道と上記各転動体6、6の転動面との間に十分な油膜が介在する。そして、絶縁材である油の膜が介在する分、上記ハウジング1と上記主軸2との間の電気抵抗が高くなり、これらハウジング1と主軸2との間の電位差が高く(直流電源8の電圧に近く)なる。
【0018】
これに対して、潤滑状態が不良である場合には、前記外輪軌道及び内輪軌道と上記各転動体6、6の転動面との間に油膜が存在しないか、仮に存在しても不十分となる。この様な状態では、上記外輪軌道及び内輪軌道と上記各転動体6、6の転動面との接触状態が、直接接触に近い接触状態となって、上記ハウジング1と上記主軸2との間の電気抵抗が低くなり、これらハウジング1と主軸2との間の電位差が低くなる。そこで、前記電圧計14の測定値V14が、上記直流電源8の電圧V8 よりも所定以上低く(例えば「V14<0.8V8 」に)なった場合に、上記外輪軌道及び内輪軌道と上記各転動体6、6の転動面との間に十分な油膜が形成されていない、即ち潤滑不良の状態にあると判定する。そこで、前記制御器15が、前記各転がり軸受3、3の潤滑状態が不良であると判定したならば、前記主軸2を停止させると共に、図示しない警報器(ブザー或は警告灯)により警報を発する。
【0019】
尚、工作機械等の運転時には、局部的に潤滑不良の状態が出現して、極く短時間の後に復旧する場合もある。この為、上記制御器15が潤滑不良と判定した瞬間に上記主軸2を停止させたり警報を発したりすると、上記工作機械の緊急停止等が必要以上に行なわれる可能性がある。そこで、上記制御器15に、潤滑不良の状態が所定時間(数秒)以上継続した場合にのみ、上記主軸2を停止させたり警報を発したりさせる事もできる。又、工作機械の運転時(切削加工時)には、前記ハウジング1に支持した刃物と、上記主軸2側に支持した被加工物とが接触して、これらハウジング1と主軸2とが電気的に短絡される場合がある。この様な場合には、前記電圧計14の測定値はほぼ零Vとなる。この様な場合に上記制御器15が、潤滑不良であると判定すると、やはり無用な緊急停止を行なう事になる。そこで、上記電圧計14の測定値が所定値(例えば0.01V8 )以上である事を条件に、潤滑状態の良否判定を行なわせる事もできる。
【0020】
更に、図示の例では、上記ハウジング1の振動を振動計16により検出し、この振動の大きさによっても、工作機械の運転状態を判定自在としているので、この工作機械に重大な損傷が発生する事を、より確実に防止できる。即ち、何らかの原因で上記電圧計14の検出値から潤滑不良の状態を判定できなかったり、或はこれら各転がり軸受3、3に寿命により表面剥離等の損傷が発生した場合、焼き付き等、これら各転がり軸受3、3以外の部分にまで損傷が及ぶ様な事態になる以前に、上記主軸2を停止させる事ができる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の転がり軸受の運転状態監視装置は、以上に述べた通り構成され作用するが、実際に潤滑不良の状態が発生した事を、この潤滑不良に基づく損傷が発生する以前に検知できる為、工作機械等、各種回転装置が潤滑不良に基づいて故障する事を有効に防止できる。尚、本発明は、ラジアル転がり軸受に限らず、スラスト転がり軸受の運転状態監視にも利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の実施の形態の1例を示す回路図。
【符号の説明】
【0023】
1 ハウジング
2 主軸
3 転がり軸受
4 外輪
5 内輪
6 転動体
7 保持器
8 直流電源
9 抵抗
10 導線
11 ブラシ
12 ホルダ
13 ばね
14 電圧計
15 制御器
16 振動計

【特許請求の範囲】
【請求項1】
それぞれが金属製で互いに対向する状態で設けられた1対の軌道輪と、これら両軌道輪の互いに対向する面に形成された軌道面同士の間に設けられた、それぞれがセラミック製である複数個の転動体とを備え、これら各軌道面とこれら各転動体の転動面との当接部に潤滑油を介在させた状態で運転される転がり軸受の運転状態を監視する為、上記各セラミック製転動体のうちの少なくとも1個の転動体を導電性セラミック製とすると共に、一方の軌道輪若しくはこの一方の軌道輪と電気的に導通している部材と、他方の軌道輪若しくはこの他方の軌道輪と電気的に導通している部材との間の抵抗値若しくはこの抵抗値に基づいて変化する電位差を監視し、この抵抗値若しくはこの抵抗値に基づいて変化する電位差が所定範囲から外れた場合に潤滑状態が不良であるとする、転がり軸受の運転状態監視装置。

【図1】
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【公開番号】特開2007−298527(P2007−298527A)
【公開日】平成19年11月15日(2007.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−178164(P2007−178164)
【出願日】平成19年7月6日(2007.7.6)
【分割の表示】特願2001−358638(P2001−358638)の分割
【原出願日】平成13年11月26日(2001.11.26)
【出願人】(000004204)日本精工株式会社 (8,378)
【Fターム(参考)】