説明

乗り物用エアバッグ装置

【課題】 エアバッグの前後寸法の略真ん中に配されるセンターピラー等をさほど大きな容量でないインフレータでも上側から下側への乗り越えが可能な乗り物用エアバッグ装置を提供する。
【解決手段】 エアバッグ1の下端からロール状に巻かれた状態のロール部を車体上部5に巻装且つ支持してなる乗り物用エアバッグ装置であって、エアバッグ1の上端に導かれたインフレータ10から噴出されたガスGをエアバッグ1の下端に導くことを可能にしたガス導入部7をエアバッグ1内に設置し、車両衝突時にインフレータ10から噴出されたガスGをエアバッグ1の下端に直ちに供給し、エアバッグ1を巻き戻すように下向きに展開可能なるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等乗り物用エアバッグ装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
乗り物、例えば、自動車の車体上部には、側面衝突時に下向きに展開して乗員頭部を保護するエアバッグが収納されている。エアバッグの下端の前端には、ストラップの一端が結合されている。ストラップの他端はフロントピラー(Aピラーとも1stピラーともいう)の固定点に結合されている(エアバッグの後端がストラップによりリヤピラー(Cピラーとも3rdピラーともいう)に連結される場合もある。)。
【0003】
エアバッグの展開時に、エアバッグの前端とフロントピラーとが、略水平なストラップにより連結され、展開時におけるエアバッグの前端位置の後退を防止している。エアバッグは、下端側からロール状に巻き取った折り畳み状態で車体に設置される。ストラップは、巻き取られたエアバッグの前端から、フロントピラーに沿った状態で、斜め下方の固定点に向けて設置される(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2001−171464号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような従来の技術にあっては、車両衝突時におけるエアバッグの展開状態では、インフレータより噴出されてなるガスがエアバッグの前後方向に導かれることで、エアバッグが膨張展開されることになる。従って、エアバッグの前後寸法の略真ん中に配されるセンターピラー(Bピラーとも2ndピラーともいう)を上側から下側に乗り越えねばならず、乗り越えるだけの容量の大きなインフレータにせねばならないことになり、インフレータの大型化を招くおそれがあり、それはそのまま製造原価の高騰やインフレータ収納空間の大型化によるレイアウトの不自由さを招くおそれがある。
【0006】
本発明は、このような従来の技術に着目してなされたものであり、エアバッグの前後寸法の略真ん中に配されるセンターピラー等をさほど大きな容量でないインフレータでも上側から下側への乗り越えが可能な乗り物用エアバッグ装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1に記載の発明は、エアバッグの下端からロール状に巻かれた状態のロール部を車体上部に巻装且つ支持してなる乗り物用エアバッグ装置であって、エアバッグの上端に導かれたインフレータから噴出されたガスをエアバッグの下端に導くことを可能にしたガス導入部をエアバッグ内に設置し、車両衝突時にインフレータから噴出されたガスをエアバッグの下端に直ちに供給し、エアバッグを巻き戻すように下向きに展開可能なるようにしたことを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、前記エアバッグにおけるロール部の上部に配される前記ガス導入部には、前記インフレータから噴出されたガスを前記エアバッグの前後方向にも供給可能としたことを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、前記ガス導入部が、前記エアバッグの前後方向の中央部に配していることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、前記ガス導入部が、センターピラー又はセンターピラー近傍の領域に配していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
請求項1記載の発明によれば、折畳み状態で車体上部に設置されるエアバッグは、車両衝突時にインフレータから噴出されたガスを、エアバッグのガス導入部により、エアバッグの下端に直ちに供給可能であるので、エアバッグを巻き戻すように下向きに展開可能であるばかりか、エアバッグの前後寸法の略真ん中に配されるセンターピラーをさほど大きな容量でないインフレータでも上側から下側への乗り越えが可能である。
【0012】
請求項2記載の発明によれば、前記エアバッグのガス導入部により上側から下側への膨張展開速度が速いだけでなく、前後への膨張展開速度が速いことになり、その分エアバッグの展開速度が向上する。
【0013】
請求項3記載の発明によれば、前記ガス導入部が、前記エアバッグの前後方向の中央部に配しているため、エアバッグのすみずみにガスが供給される時間が短く、その分エアバッグの展開速度が向上する。
【0014】
請求項4記載の発明によれば、前記ガス導入部が、センターピラー又はセンターピラー近傍の領域に配しているため、センターピラーに重なるか又はセンターピラー近傍の領域にあるエアバッグの展開の円滑性が高まり、その分エアバッグの展開速度が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係るエアバッグを折畳み状態で車体上部に設置した状態を示す側面部。
【図2】図1のエアバッグを下方へ向けてカーテン状に展開させた状態を示す側面図。
【図3】ロール部を巻き取った状態を示すエアバッグであり、図1のSA−SA線に沿った断面図。
【図4】図3に示すロール部から膨張展開してセンターピラーを乗り越えたばかりのエアバッグの断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、エアバッグの前後寸法の略真ん中に配されるセンターピラー等をさほど大きな容量でないインフレータでも上側から下側への乗り越えが可能な乗り物用エアバッグ装置を提供するという目的を、エアバッグの下端からロール状に巻かれた状態のロール部を車体上部に巻装且つ支持してなる乗り物用エアバッグ装置であって、エアバッグの上端に導かれたインフレータから噴出されたガスをエアバッグの下端に導くことを可能にしたガス導入部をエアバッグ内に設置し、車両衝突時にインフレータから噴出されたガスをエアバッグの下端に直ちに供給し、エアバッグを巻き戻すように下向きに展開可能なるようにしたことで、実現した。以下、本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0017】
図1〜図4は、本発明の一実施例を示す図である。図1及び図2は、自動車の上部を車室内側から見た図で、エアバッグ1の展開前の状態(図1)と、展開後の状態(図2)を示している。符号2は車両前後方向の一番前側FRにあるフロントピラー(Aピラーとも1stピラーともいう。)、同4は車両前後方向の一番後側RRにあるリヤピラー(Cピラーとも3rdピラーともいう。)、同3は前記フロントピラー2及び前記リヤピラー4の間にあるセンタピラー(Bピラーとも2ndピラーともいう。)を示している。各ピラー2、3、4の上部には、前後方向に沿ってサイドルーフレール(車体上部)5が形成されている。前記センタピラー3は、前記したように、前記フロントピラー2及び前記リヤピラー4の間にあるピラーのことをいい、単数の固有名詞ではない。例えば、ミニバン等車両前後方向に3つ以上の窓を備える車両の場合、前から2番目のピラーも、同じく前から3番目であって一番後側RRに配されるピラー(リヤピラー)の1つ前側FRのピラーも併せてセンターピラー3として本発明では取り扱う。また、本発明では、センターピラー3等の「等」とは、センターピラー3近傍の領域を含めた概念であることを示している。
【0018】
エアバッグ1は、前後方向FR、RRに長い袋形状で、ガス導入部7により区切られた膨張部6を有する。エアバッグ1の上端には、複数の取付片8が設けられ、その部分が図示せぬブラケットを介して、サイドルーフレール5に固定され、車室内側から天井材13により覆われている。エアバッグ1の前後中央部には、前記ガス導入部7に連通したガス噴射口9が形成され、そこにインフレータ10が接続されている。
【0019】
エアバッグ1の下端の前端には、ストラップ11の後端が結合され、ストラップ11の前端は、フロントピラー2の固定点12に結合されている。ストラップ11は、水平状態でフロントピラー2とエアバッグ1とを連結し、図2に示す展開時におけるエアバッグ1の前端の後退移動を防止している。エアバッグ1は、折畳み状態で、サイドルーフレール5に設置される。
【0020】
次に、エアバッグ1の折畳み方について説明する。袋状のエアバッグ1の全体を、まず平坦状にしてから、下端を図示せぬ一対の治具で挟んで巻き取り、ロール部14を形成する(図1参照)。ロール部14は、きつく巻き取らず、ゆるめに巻き取って形成する。
【0021】
ロール部14を形成した後、ストラップ11が取付けられたロール部14の中心を前側FRに引き出す(図1参照。)。
【0022】
折畳み状態が完成した後、エアバッグ1を、長手方向に縫製による開裂部を有するラップ筒(図示省略)内に挿入して、折畳み状態を保持する。ラップ筒の上部には、取付片8を突出させるスリットが形成されている。
【0023】
折畳み状態のエアバッグ1はラップ筒に保持された状態で、前述のように、サイドルーフレール5に沿って取付けられる。エアバッグ1の前端1aからは、所定寸法の引出部15が前側FRに突出し、引出部15からは更に所定長さのストラップ11が前側FRに延びている。この引出部15とストラップ11との合計長さは、ちょうどエアバッグ1の前端1aから、フロントピラー2に沿って固定点12に至る距離と合致している。このように、引出部15とストラップ11の両方の長さで、フロントピラー2の固定点12に届くように設定されているため、ストラップ11自体の長さは従来よりも短くなっている。
【0024】
前記ガス導入部7は、前記センターピラー3に前後関係で合致した位置に煙突状、即ち、上端はエアバッグ1の上端部を介してガス噴射口9に臨み、下端はエアバッグ1の下端部に臨む中空円柱状に形成されてなる第1導入部7aと、該第1導入部7aの下端部の前側FR端部及び後側RR端部から前後に中空円柱状に形成されてなる第2導入部7bとより構成されてなる。前記第1導入部7a及び前記第2導入部7bは、縫製によりエアバッグ1内を仕切られてなる。前側FRの第2導入部7bは、図2に示す状態で時計方向に、螺旋状に形成されてなる。後側RRの第2導入部7bは、図2に示す状態で反時計方向に、螺旋状に形成されてなる。第2導入部7bの端末は、円弧状の停止部7cが形成されることで、第2導入部7bの端末の糸ほぐれが防止される。
【0025】
そして、自動車の側面衝突時には、インフレータ10からエアバッグ1内にガスGが噴射され、ガス噴射口9を介してガス導入部7の第1導入部7aによって上側UPから下側LWRに一気にエアバッグ1が膨張する。エアバッグ1の第1導入部7aが膨張すると、図4に示すように、センターピラー3及び該センターピラー3の室内側Rに配されてなるピラーガーニッシュ3aを乗り越えて、エアバッグ1の展開が可能となる。
【0026】
折畳み状態でサイドルーフレール5である位置に設置されるエアバッグ1は、車両衝突時にインフレータ10から噴出されたガスGを、エアバッグ1のガス導入部7により、エアバッグ1の下端に直ちに供給可能であるので、エアバッグ1を巻き戻すように下向きに展開可能であるばかりか、エアバッグ1の前後寸法の略真ん中に配されるセンターピラー3をさほど大きな容量でないインフレータ10でも上側UPから下側LWRへの乗り越えが可能である。
【0027】
また、前記エアバッグ1のガス導入部7により上側UPから下側LWRへの膨張展開速度が速いだけでなく、前後FR、RRへの膨張展開速度が速いことになり、その分エアバッグ1の展開速度が向上する。
【0028】
更に、前記ガス導入部7の第1導入部7aが前記エアバッグ1の前後方向の中央部に配しているため、エアバッグ1のすみずみにガスGが供給される時間が短く、その分エアバッグ1の展開速度が向上する。
【0029】
更に、前記ガス導入部7が、センターピラー3又はセンターピラー3近傍の領域に配しているため、センターピラー3に重なるか又はセンターピラー3近傍の領域にあるエアバッグ1の展開の円滑性が高まり、その分エアバッグ1の展開速度が向上する。
【0030】
この実施例によれば、前述のように、エアバッグ1の前端1aに引出部15を設けたため、通常時の設置状態におけるエアバッグ1の前端1aからフロントピラー2に沿って固定点12に至るまでの斜めの経路を、ストラップ11+引出部14の合計長さで届かせることができる。従って、ストラップ11自体の長さは短くて済み、エアバッグ1の展開時において、ストラップ11によりエアバッグ1の前端1aの位置をより前側FRに引き寄せることができ、展開したエアバッグ1による保護範囲が拡大する。
【産業上の利用可能性】
【0031】
以上の実施例では、エアバッグ1の前端をストラップ11でフロントピラー2に連結する構造を示したが、エアバッグ1の後端をストラップ11でリヤピラー4に連結する構造にしても良い。また、ストラップ11は、図に示すような紐状のものに限定するものではなく、フロントピラー2或いはリアピラー4とエアバッグ1との隙間を埋める部材を張出したものでも良い。
【0032】
また、以上の実施例では、インフレータ10の配される位置が、エアバッグ1の前後中央とした構造を示したが、エアバッグ1の後方又は後端或いは前方又は前端に、インフレータ10を配する構造にしても良い。即ち、ガス噴出口9は、エアバッグ1の前後中央から前側FR又は後側RRに離れた箇所に設定され、エアバッグ1の上部の車両前後方向にガスを流すガス導入部7を介して第1ガス導入部7aにガスGが供給されるようにしても良い。
【0033】
また、以上の実施例では、前側FRの第2導入部7bを時計方向に、後側RRの第2導入部7bを反時計方向に形成した構造を示したが、その逆でも良いし、両方とも同じでも良い。
【符号の説明】
【0034】
1 エアバッグ
3 センターピラー
5 サイドルーフレール(車体上部)
7 ガス導入部
7a 第1導入部
7b 第2導入部
10 インフレータ
14 ロール部
G ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エアバッグの下端からロール状に巻かれた状態のロール部を車体上部に巻装且つ支持してなる乗り物用エアバッグ装置であって、
エアバッグの上端に導かれたインフレータから噴出されたガスをエアバッグの下端に導くことを可能にしたガス導入部をエアバッグ内に設置し、車両衝突時にインフレータから噴出されたガスをエアバッグの下端に直ちに供給し、エアバッグを巻き戻すように下向きに展開可能なるようにしたことを特徴とする乗り物用エアバッグ装置。
【請求項2】
請求項1記載の乗り物用エアバッグ装置であって、
前記エアバッグにおけるロール部の上部に配される前記ガス導入部には、前記インフレータから噴出されたガスを前記エアバッグの前後方向にも供給可能としたことを特徴とする乗り物用エアバッグ装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2記載の乗り物用エアバッグ装置であって、
前記ガス導入部が、前記エアバッグの前後方向の中央部に配していることを特徴とする乗り物用エアバッグ装置。
【請求項4】
請求項1乃至請求項3何れか1項記載の乗り物用エアバッグ装置であって、
前記ガス導入部が、センターピラー又はセンターピラー近傍の領域に配していることを特徴とする乗り物用エアバッグ装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−245872(P2012−245872A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−118919(P2011−118919)
【出願日】平成23年5月27日(2011.5.27)
【出願人】(000229955)日本プラスト株式会社 (740)
【Fターム(参考)】