説明

乗員保護装置

【課題】車両の側突時または横転時等に、車両用シートに着座した乗員を効果的に保護できるようにする。
【解決手段】ショルダーベルト5およびラップベルト6からなるウェビング7と、該ウェビングの一端部を巻取可能に支持するリトラクター8と、該ウェビング7の他端部を車体に固定するラップアンカー9と、上記ウェビング7に設けられたタング10を係脱可能に支持するバックル11とを有するシートベルト装置2を備え、車両の衝突時に上記ウェビング7を乗員に圧着させる圧着機構と、上記乗員の上半身を揺動変位させてその肩部を車幅方向の内方側に移動させるように上記ウェビング7を駆動する駆動機構(13)と、車両の側部から衝撃荷重が入力された時に、上記圧着機構を作動させてウェビング7を乗員に圧着させた後に上記駆動機構を作動させるように制御するシートベルト制御手段とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートに着座した乗員をウェビングによって拘束するシートベルト装置を備えた乗員保護装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、下記特許文献1に示されるように、乗員の肩部から胸部を拘束するショルダーベルトと、乗員の腰部を拘束するラップベルトとを備え、ラップベルトの先端を第1の先端ベルト部と、第2の先端ベルト部とに二股に分岐させ、第1の先端ベルト部を、シート座面の下方を経由させて、シート座面の下方に設けられた駆動装置に固定し、かつ第2の先端ベルト部を車体側面に設けられたシートベルトアンカーに固定したシートベルト装置が知られている。
【0003】
また、下記特許文献2に示されるように、車両用シートに着座した乗員をウェビングにより拘束するシートベルト手段と、乗員と車両側部との間にサイドエアバッグを膨張展開させて乗員を保護するサイドエアバッグ手段とを備えた車両用シートにおいて、上記シートベルト手段は、車両の側突時または横転時に上記ウェビングによる乗員の拘束力を高めるようにウェビングを牽引するプリテンショナを備え、上記シートベルト手段がプリテンショナによりウェビングを牽引して乗員の拘束力を高めた状態で、上記サイドエアバッグの膨張展開により乗員を保護することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−290259号公報
【特許文献2】特開2008−207764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1に開示されたシートベルト装置では、車両の側方から荷重が加わる衝突時もしくは衝突予測時に、上記駆動装置を作動させてラップベルトの一部を駆動することにより、乗員の腰部を車体の中央側に寄せて側突荷重から乗員を保護するように構成されている。しかし、上記ラップベルトの一部を駆動するだけでは、乗員の上半身を車体の中央側へ充分に移動させることが困難であり、車両の側突時等に、より効果的に乗員を保護できるようにすることが望まれていた。
【0006】
また、上記特許文献2に開示された車両用シートでは、車両の側突時または横転時等にプリテンショナを作動させてウェビングによる乗員の拘束力を高めることにより、乗員をシートバックおよびシートクッションに対して正常な着座姿勢に拘束した状態で、サイドエアバッグを展開させるように構成されている。しかし、この構成では、上記サイドエアバッグをスムーズに展開させる際に、該サイドエアバックが乗員に干渉するのを確実に防止することは困難であり、車両の側突時等に、車両用シートに着座した乗員を効果的に保護できるようにすることが望まれていた。
【0007】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、車両の側突時または横転時等に、車両用シートに着座した乗員を効果的に保護することができる乗員保護装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る発明は、車両用シートに着座した乗員の肩部から腰部にかけて斜めに掛け渡されるショルダーベルトおよび乗員の腰部を跨いで車幅方向に延びるように設置されたラップベルトからなるウェビングと、該ウェビングの一端部を巻取可能に支持するリトラクターと、該ウェビングの他端部を車体に固定するラップアンカーと、該ウェビングに設けられたタングを係脱可能に支持するバックルとを有するシートベルト装置を備えた乗員保護装置において、車両の衝突時に上記ウェビングに張力を付与して該ウェビングを乗員に圧着させる圧着機構と、上記乗員の上半身を揺動変位させてその肩部を車幅方向の内方側に移動させるように上記ウェビングを駆動する駆動機構と、車両の側部から衝撃荷重が入力された時に、上記圧着機構を作動させてウェビングを乗員に圧着させた後に上記駆動機構を作動させるように制御するシートベルト制御手段とを有するものである。
【0009】
請求項2に係る発明は、上記請求項1に記載の乗員保護装置において、車両用シートの車幅方向外方側に上記リトラクターおよびラップアンカーが配設されるとともに、該リトラクターに設けられた第1プリテンショナ機構により上記圧着機構が構成され、上記ラップアンカーの支持部に設けられた第2プリテンショナ機構により上記駆動機構が構成されたものである。
【0010】
請求項3に係る発明は、上記請求項2に記載の乗員保護装置において、上記ラップアンカーの支持部に設けられた第2プリテンショナ機構を作動させる際に、乗員に圧着されたウェビングの圧着力を維持しつつ、該ウェビングがリトラクターから引き出されるのを許容する引出機構がリトラクターに設けられたものである。
【0011】
請求項4に係る発明は、上記請求項1〜3のいずれか1項に記載の乗員保護装置において、車両の側方から衝撃荷重が入力された時に、車両用シートに着座した乗員と車室の側壁との間にエアバッグを展開させるサイドエアバッグ装置を備えたものである。
【0012】
請求項5に係る発明は、上記請求項1に記載の乗員保護装置において、上記圧着機構が、ウェビングにエアを供給して該ウェビングを膨張させるエアベルト機構により構成されたものである。
【0013】
請求項6に係る発明は、上記請求項1または5に記載の乗員保護装置において、車両用シートの車幅方向内方側に上記リトラクターおよびラップアンカーが配設されるとともに、車両用シートの車幅方向外方側に上記バックルが配設され、上記ラップアンカーの支持部に設けられた第2プリテンショナ機構により上記駆動機構が構成され、かつ該第2プリテンショナ機構の作動時に、上記ラップベルトを車幅方向の外方側に送り出す送出機構が上記バックルの支持部に設けられたものである。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る発明では、車両の側突時または横転時等に、上記圧着機構を作動させることにより、上記ウェビングに所定の張力を付与してショルダーベルトおよびラップベルトを乗員にそれぞれ適正に圧着させて乗員を拘束した後、上記駆動機構を作動させることにより、乗員の上半身を揺動変位させてその肩部を車幅方向の内方側に押動するように構成したため、車両用シートに着座した乗員と車体側部との間に所定の間隙を確保することができる。したがって、車両の側部から入力される衝撃荷重が該乗員に及ぶのを効果的に防止して乗員を保護できるという利点がある。
【0015】
請求項2に係る発明では、車両の前突時又は後突時に乗員を保護するために設けられた上記第1プリテンショナ機構を利用して車両の側突時または横転時等に、上記ウェビング7に張力を付与して該ウェビングを乗員に圧着させることができとともに、上記ラップアンカーの支持部に設けられた第2プリテンショナ機構により上記ショルダーベルトおよびラップベルトを駆動することができるため、シートベルト装置の構造を効果的に簡略化しつつ、乗員の上半身を効果的に揺動変位させて乗員を保護できるという利点がある。
【0016】
請求項3に係る発明では、上記第2プリテンショナ機構の作動時に、乗員に圧着されたウェビングの圧着力を維持しつつ、該ウェビングが上記リトラクターから引き出されるのを許容する引出機構を設けたため、上記リトラクターおよび第2プリテンショナ機構の付勢力が同時にウェビングに付与されること起因して、該ウェビングから乗員に過大な拘束力が作用して乗員が違和感を受けるのを効果的に防止しつつ、上記第2プリテンショナ機構によりウェビングを適正に駆動して上記乗員の上半身を揺動変位させることができる。
【0017】
請求項4に係る発明では、車両の側方から衝撃荷重が入力された時に、車両用シートに着座した乗員と車室の側壁との間にサイドエアバッグを展開させるサイドエアバッグ装置を備えた車両において、上記第圧着機構を作動させてウェビングを乗員に圧着させた後に、上記駆動機構を作動させてショルダーベルトおよびラップベルトを駆動することにより乗員の上半身を揺動変位させて乗員の肩部を車幅方向の内方側に押動するように構成したため、上記サイドエアバッグ装置を作動させてサイドエアバッグを膨張展開させる際に、該サイドエアバッグが上記乗員の肩部に干渉するのを効果的に防止することができる。したがって、車両の側突時または横転時等に、上記サイドエアバッグを適正に膨張展開させることにより、乗員を効果的に保護できるという利点がある。
【0018】
請求項5に係る発明では、車両の側突時または横転時等に、上記ショルダーベルトおよびラップベルトに設けられたバッグ部を膨張させることにより、ショルダーベルトおよびラップベルトの面積を増大させた状態で、これらを乗員に対して適正に圧着させることができるため、上記駆動機構を作動させることにより、車両用シートに着座した乗員を効果的に揺動変位させることができる。
【0019】
請求項6に係る発明では、車両用シートの車幅方向内方側に上記リトラクターおよびラップアンカーを配設するとともに、車両用シートの車幅方向外方側に上記バックルを配設し、上記ラップアンカーの支持部に設けられた第2プリテンショナ機構により上記駆動機構を構成したため、車両の側突時または横転時等に、上記第1プリテンショナ機構またはエアベル機構からなる圧着機構を作動させることにより、上記ウェビングに所定の張力を付与してショルダーベルトおよびラップベルトを乗員にそれぞれ適正に圧着させて乗員を拘束した後、上記第2プリテンショナ機構からなる駆動機構を作動させることにより、ショルダーベルトおよびラップベルトを駆動して乗員の上半身を効果的に揺動変位させることできる。そして、上記第2プリテンショナ機構の作動時に、バックルの支持部に設けられた送出機構によりラップベルトを車幅方向の外方側に送り出すように構成したため、ラップベルトの端部が固定された状態で上記第2プリテンショナ機構の付勢力がウェビングに付与されることに起因して、該ウェビングから乗員に過大な圧着力が付与されて該乗員が違和感を受けるのを効果的に防止しつつ、上記第2プリテンショナ機構の駆動力に応じて、ウェビングを適正に駆動して乗員の上半身を効果的に揺動変位させることができるという利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る乗員保護装置の実施形態を示す正面図である。
【図2】上記乗員保護装置の実施形態を示す側面図である。
【図3】リトラクターの具体的構成を示す断面図である。
【図4】第2プリテンショナ機構の具体的構成を示す説明図である。
【図5】サイドエアバッグ装置の具体的構成を示す平面断面図である。
【図6】制御ユニットの具体的構成を示すブロック図である。
【図7】本発明に係る乗員保護装置の作用を示すタイムチャートである。
【図8】上記乗員保護装置の作用を示す動作イメージ図である。
【図9】本発明に係る乗員保護装置の別の実施形態を示す正面図である。
【図10】本発明に係る乗員保護装置のさらに別の実施形態を示す正面図である。
【図11】ラップアンカーに設けられた送出機構の具体的構成を示す正面図である。
【図12】上記送出機構の具体的構成を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1および図2は、本発明に係る乗員保護装置の実施形態を示している。該乗員保護装置は、車両用シート1に着座した乗員を保護するシートベルト装置2と、車両の側方から衝撃荷重が入力された時に、車両用シート1に着座した乗員を車両の側突荷重等から保護するサイドエアバッグ装置3と、該サイドエアバッグ装置3および上記シートベルト装置2を制御する後述の制御ユニット4とを有している。
【0022】
上記シートベルト装置2は、乗員の肩部から腰部にかけて斜めに掛け渡されるショルダーベルト5および乗員の腰部を跨いで車幅方向に延びるように設置されるラップベルト6からなるウェビング7と、該ウェビング7の一端部を巻取可能に支持するリトラクター8と、該ウェビング7の他端部を車体に固定するラップアンカー9と、上記ウェビング7に沿って摺動自在に設けられたタング10が着脱可能に係止されるバックル11とを有する三点式シートベルト機構である。
【0023】
上記リトラクター8は、車両用シート1の車幅方向外方側に配設されるとともに、車両用シート1の後方に位置するセンタピラーCPの下部等に固定されている。また、上記リトラクター8には、図3に示すように、車両の衝突時に上記ウェビング7に所定の張力を付与して該ウェビング7を乗員に圧着させる第1プリテンショナ機構12からなる圧着手段と、リトラクター8からショルダーベルト5が急激に引き出されるのを規制するロードリミッタ14とが設けられている。
【0024】
上記第1プリテンショナ機構12は、ウェビング7を巻き取る巻取リール15と一体に回転するようにその回転軸に取り付けられたピニオンギア16と、該ピニオンギア16を回転駆動するラックギア17と、該ラックギア17を駆動するインフレータ18とを有している。そして、車体に設けられた衝突センサによって車両の前突または後突が確認された時、または車両側部から衝撃荷重が入力された時等に、インフレータ18から供給されたガス圧に応じ、上記ラックギア17を下方の待機位置から上方の駆動位置に移動させて上記ピニオンギア16を回転駆動することにより、ウェビング7を急速に巻き取って乗員に圧着させるように構成されている。
【0025】
上記リトラクター8のロードリミッタ14は、ショルダーベルト5に作用する張力が一定値以上となった場合に、リトラクター8による上記巻取リール15のロック状態を解除することにより、リトラクター8からウェビング7が引き出されるのを許容し、これに応じて該ウェビング7から乗員に与えられる拘束力を緩和する機能を有している。なお、上記ウェビング7に作用する張力に応じて巻取リール15の回転軸を捩り変形させ、あるいは上記リトラクター8に設けられた巻取モータを逆回転させる等により、上記ウェビング7がリトラクター8から引き出されるように構成してもよい。
【0026】
また、上記ロードリミッタ14は、後述するようにラップアンカー9に設けられた第2プリテンショナ機構13の作動時に上記ショルダーベルト5に付与される張力に応じ、リトラクター8による上記巻取リール15のロック状態を解除する等により、リトラクター8からショルダーベルト5が引き出されるのを許容し、乗員に圧着されたショルダーベルト5の圧着力を維持しつつ、該ショルダーベルト5が上記リトラクター8から引き出されるのを許容する引出機構を構成している。
【0027】
すなわち、上記ロードリミッタ14がショルダーベルト5の引出許容状態となることによりリトラクター8から引き出されるウェビング7の引出量は、下記第2プリテンショナ機構13の作動に応じて下方に引っ張られるラップベルト6の引張量に対応した値に設定されている。これにより、上記第2プリテンショナ機構13の作動時に、上記乗員に対するウェビング7の圧着力が略一定値に維持された状態で、乗員の腰部を跨いで車幅方向に延びるように設置されたラップベルト6が車幅方向の外方側に引っ張られるとともに、乗員の肩部から腰部に沿って斜めに掛け渡された上記ショルダーベルト5が斜め内側下向きに引っ張られるように構成されている。
【0028】
上記リトラクター8から上方に引き出されたショルダーベルト5は、センタピラーCPの上部に設けられたショルダーアンカー19により摺動可能に支持されている。そして、上記ウェビング7の他端部を係止するラップアンカー9は、フロアパネルFP上に設置された第2プリテンショナ機構13により車両用シート1の車幅方向外方側部に支持されている。該第2プリテンショナ機構13は、図4に示すように、下記制御ユニット4から出力される制御信号に応じて大量の燃焼ガスを発生するインフレータ25と、該インフレータ25で発生した燃焼ガスが流入するシリンダ26と、シリンダ26内に配設されたピストン(図示せず)と、該ピストンに基端部が連結されたワイヤ部材27とを有している。
【0029】
上記ワイヤ部材27は、ケーシング29に回転自在に支持されたプーリ28に巻掛けられるとともに、該プーリ28から上方に導出された導出部がラップアンカー9に設けられたピン30に支持されている。下記制御ユニット4の制御信号に応じてインフレータ25の内部に収納された火薬(図示せず)が点火されて燃焼すると、そのガス圧に応じて上記シリンダ26内をピストンが移動することにより、上記ラップアンカー9がワイヤ部材27を介して引き下げられるように構成されている。
【0030】
そして、上記第2プリテンショナ機構13から付与される引き下げ力に応じ、上記車両用シート1に着座した乗員の上半身を揺動変位させてその肩部を車幅方向の内方側に移動させるようにウェビング7を駆動する駆動機構が、上記第2プリテンショナ機構13により構成されている。すなわち、上記第2プリテンショナ機構13が作動状態となると、乗員の腰部を跨いで車幅方向に延びるように設置されたラップベルト6が車幅方向の外方側に引っ張られて乗員の腰部が車幅方向の外方側に引っ張られるとともに、これに対応して乗員の肩部から腰部に掛け渡されたショルダーベルト5が斜め内側下向きに引っ張られる。これにより、後述するように上記乗員の上半身が揺動変位してその肩部が車幅方向の内方側に押動されるようになっている。
【0031】
上記サイドエアバッグ装置3は、図5に示すように、車両用シート1に着座した乗員と車室の側壁との間に膨張して展開するサイドエアバッグ32と、該サイドエアバッグ32を膨張させるための燃焼ガスを供給するインフレータ33とを有し、上記サイドエアバッグ32が折り畳まれてインフレータ33とともにユニット化された状態で、車両用シート1のシートバック34に形成された凹部35内に収容されている。該凹部35は、上記シートバック34の車幅方向外方側部に形成されるとともに、その前面部にはスリット36が形成され、上記サイドエアバッグ32が該スリット36を拡開変形させてシートバック34の前方側へ展開するようになっている。
【0032】
上記制御ユニット4には、図6に示すように、車体に設けられた側突センサ37または横転センサ38の出力信号に基づいて車両の側部に対する衝撃荷重の入力を検出する衝撃検出手段39と、その検出結果に応じて上記シートベルト装置2の第1,第2プリテンショナ機構12,13およびロードリミッタ14に所定のタイミングで作動指令信号A,C,Dを出力するシートベルト制御手段40と、上記衝撃検出手段39の検出結果に応じてサイドエアバッグ装置3のインフレータ33に所定のタイミングで作動指令信号Bを出力するエアバッグ制御手段41とが設けられている。
【0033】
上記制御ユニット4において実行される制御動作を図7に示すタイムチャートおよび図8に示す動作イメージ図に基づいて説明する。なお、図7(a)〜(c)は、上記ウェビング7に付与された張力に応じて、上記リトラクター8、ラップアンカー9およびバックル11に作用する反力の変化状態を示し、図7の(d)は、サイドエアバッグ32に対する燃焼ガスの供給状態を示している。
【0034】
上記衝撃検出手段39により車両の側部から衝撃荷重が入力されたことが検出されると、この時点t1で、上記シートベルト制御手段40からリトラクター8に設けられた第1プリテンショナ機構12に作動指令信号Aが出力されるとともに、上記エアバッグ制御手段41からサイドエアバッグ装置3のインフレータ33に作動指令信号Bが出力される。
【0035】
そして、上記時点t1で出力された作動指令信号Aに応じてリトラクター8の第1プリテンショナ機構12が作動状態となることにより、図8の(a)に示すように、ウェビング7をリトラクター8に引き込む方向の引張力H1が作用すると、上記ウェビング7に所定の張力が付与されて上記ショルダーベルト5およびラップベルト6が乗員の胸部および腰部にそれぞれ圧着されることになる。また、上記時点t1で、作動指令信号Bに応じてサイドエアバッグ装置3のインフレータ33が作動状態となることにより、サイドエアバッグ32に対する燃焼ガスの供給が開始されて該サイドエアバック32が膨張し始める。
【0036】
上記リトラクター8に設けられた第1プリテンショナ機構12からなる圧着手段の作動後に所定時間が経過する等により、乗員に対するウェビング7の圧着が完了した時点t2で、上記ラップアンカー9の支持部に設けられた第2プリテンショナ機構13に上記シートベルト制御手段40から作動指令信号Cが出力されるとともに、リトラクター8に設けられたロードリミッタ14に作動指令信号Dが出力される。
【0037】
上記時点2で出力された作動指令信号Cに応じて第2プリテンショナ機構13が作動状態となることにより、図8の(b)に示すように、ウェビング7の他端部に設けられたラップアンカー9を下方に引っ張る所定の引張力H2が作用し、これに応じて乗員の腰部に沿って車幅方向に延びるように設置されたラップベルト6が車幅方向の外方側に引っ張られるとともに、乗員の肩部から腰部に沿って斜めに掛け渡された上記ショルダーベルト5が斜め内側下向きに引っ張られることになる。
【0038】
また、上記時点2で、シートベルト制御手段40からロードリミッタ14に出力された作動指令信号Dに応じて上記リトラクター8による巻取リール15のロック状態が解除される等により、リトラクター8からウェビング7が引き出されることが許容される。この結果、上記バックル11に設けられた第2プリテンショナ機構13を作動させる際に、乗員に圧着されたショルダーベルト5およびラップベルト6の圧着力が一定値に維持された状態で、該ショルダーベルト5が上記乗員の肩部から腰部に沿って斜め内側下向きに引っ張られるとともに、ラップベルト6が車幅方向の内方側に引っ張られ、これにより図8の(c)に示すように、車両用シート1に着座した乗員の上半身を反時計方向に揺動変位させる所定の押動力H3が付与されることになる。
【0039】
そして、上記指令信号C,Dの出力時点から所定時間が経過した時点t3で、上記サイドエアバッグ32の膨張展開が終了するように、該サイドエアバッグ32の容量および上記サイドエアバッグ装置3のインフレータ33からサイドエアバッグ32に供給される燃焼ガスの供給速度等が設定されている。
【0040】
上記のように車両用シート1に着座した乗員の肩部から腰部にかけて斜めに掛け渡されるショルダーベルト5および乗員の腰部を跨いで車幅方向に延びるように設置されるラップベルト6からなるウェビング7と、該ウェビング7の一端部を巻取可能に支持するリトラクター8と、該ウェビング7の他端部を車体に固定するラップアンカー9と、上記ウェビング7に設けられたタング10を係脱可能に支持するバックル11とを有するシートベルト装置2を備えた乗員保護装置において、車両の衝突時に上記ウェビング7に張力を付与して該ウェビング7を乗員に圧着させる第1プリテンショナ機構12からなる圧着機構と、上記乗員の上半身を揺動変位させてその肩部を車幅方向の内方側に移動させるように上記ウェビング7を駆動する第2プリテンショナ機構13からなる駆動機構と、車両の側部から衝撃荷重が入力された時に、上記第1プリテンショナ機構12を作動させてウェビング7を乗員に圧着させた後に上記第2プリテンショナ機構13を作動させるように制御するシートベルト制御手段40とを設けたため、車両の側突時または横転時等に、車両用シート1に着座した乗員を効果的に保護することができるという利点がある。
【0041】
すなわち、上記実施形態では、車両用シートの車幅方向外方側に上記リトラクター8を配設するとともに、該リトラクター8に設けられた第1プリテンショナ機構12によって上記圧着機構を構成し、車両の側突時または横転時等に、上記第1プリテンショナ機構12を作動させることにより、上記ウェビング7の一端部をリトラクター8内に引き込んで該ウェビング7に所定の張力を付与するように構成したため、上記ショルダーベルト5およびラップベルト6を乗員にそれぞれ適正に圧着させて乗員を拘束することができる。
【0042】
しかも、車両の前突時又は後突時に、ウェビング7を乗員に圧着させて乗員を拘束することにより、車両に作用する衝突荷重から乗員を保護するために設けられた上記第1プリテンショナ機構12を利用して車両の側突時または横転時等に、上記ウェビング7に張力を付与して該ウェビング7を乗員に圧着させることができるため、シートベルト装置2の構造を効果的に簡略化できるという利点もある。
【0043】
そして、上記車両用シート1の車幅方向外方側に、上記ウェビング7の他端部を車体の固定するラップアンカー9を配設するとともに、該ラップアンカー9を下方に引っ張る第2プリテンショナ機構13によって上記駆動機構を構成し、第1プリテンショナ機構12の作動後に所定のタイミングで上記第2プリテンショナ機構13を作動させて上記ラップアンカー9を例えば50mm程度下方に引っ張るようにすれば、上記乗員に圧着されたラップベルト6を50mmの程度、車幅方向の外方側に向けて引っ張ることができる。また、これに応じて上記ウェビング7がタング10により支持されつつ、ショルダーベルト5が50mm程度、斜め内側下向きに引っ張られる結果、乗員の重心を車幅方向に移動させることなく、その上半身を図8(c)の反時計方向に揺動変位させることにより、該乗員の肩部を車幅方向の内方側へ積極的に移動させることができる。
【0044】
したがって、車両の側突時または横転時等に、車両用シート1に着座した乗員の肩部と車体側部との間に充分な間隙を確保することにより、車両の側部から入力される衝撃荷重が該乗員に及ぶのを効果的に防止して乗員を保護することができる。しかも、上記サイドエアバッグ装置3を作動させてサイドエアバッグ32を膨張展開させる際に、該サイドエアバッグ32が上記乗員の肩部に干渉してその膨張展開が阻害されるという事態の発生を効果的に防止できるという利点がある。
【0045】
また、上記実施形態では、ラップアンカー9に設けられた第2プリテンショナ機構13からなる駆動機構を作動させる際に、乗員に圧着されたウェビング7の圧着力を略一定値に維持しつつ、該ウェビング7が上記リトラクター8から引き出されるのを許容する上記ロードリミッタ14等からなる引出機構を該リトラクター8に設けたため、該リトラクター8および上記第2プリテンショナ機構13の付勢力が同時にウェビング7に付与されることに起因して、該ウェビング7から過大な拘束力が乗員に作用して乗員が違和感を受けるのを効果的に防止することができる。しかも、上記第2プリテンショナ機構13によるウェビング7の駆動力が、上記リトラクター8の引張力に応じて減殺されるという事態の発生等を効果的に防止し、上記第2プリテンショナ機構13によりウェビング7を適正に駆動できるという利点がある。
【0046】
そして、上記のように車両の側方から衝撃荷重が入力された時に、車両用シート1に着座した乗員と車室の側壁との間にサイドエアバッグ32を展開させるサイドエアバッグ装置3を備えた車両において、車両の側部から衝撃荷重が入力された時に、上記第1プリテンショナ機構12からなる圧着機構を作動させてウェビング7を乗員に圧着させた後に、上記第2プリテンショナ機構13からなる駆動機構を作動させてショルダーベルト5およびラップベルト6を駆動することにより乗員の肩部を車幅方向の内方側に移動させるように構成した場合には、上記サイドエアバッグ装置3を作動させてサイドエアバッグ32を膨張展開させる際に、該サイドエアバッグ32が上記乗員の肩部に干渉するのを効果的に防止することができる。したがって、車両の側突時または横転時等に、上記サイドエアバッグ32を適正に膨張展開させることにより、乗員を効果的に保護することができる。
【0047】
なお、車両の前突時又は後突時に、ウェビング7を乗員に圧着させて乗員を拘束するために設けられた上記第1プリテンショナ機構12を利用して車両の側突時または横転時等に、上記ウェビング7に張力を付与して該ウェビング7を乗員に圧着させる圧着機構を構成してなる上記実施形態に代え、図9に示すように、ウェビング7にエアを供給して該ウェビング7を膨張させるエアベルト機構42により上記圧着機構を構成してもよい。
【0048】
上記エアベルト機構42は、ショルダーベルト5およびラップベルト6に設けられたバッグ部5a,6aに接続されたエアパイプ43と、このエアパイプ43を介して上記バッグ部5a,6a内に燃焼ガスを供給して該バッグ部5a,6aを膨張させるインフレータ44とを備えている。そして、車両の側部から衝撃荷重が入力された時に、上記シートベルト制御手段40から出力される作動指令信号に応じ、上記インフレータ44を作動させてバッグ部5a,6aを膨張させ、その圧力によりショルダーベルト5およびラップベルト6を乗員にそれぞれ圧着させるように構成されている。
【0049】
上記構成によれば、車両の側突時または横転時等に、上記バッグ部5a,6aを膨張させて、ショルダーベルト5およびラップベルト6の面積を増大させた状態で、これらを乗員に対して適正に圧着させることができるため、上記第2プリテンショナ機構13からなる駆動機構の作動させることにより、車両用シート1に着座した乗員を車幅方向の内方側へ効果的に移動させることができる。
【0050】
また、図10に示すように、車両用シート1の車幅方向内方側(車室の中央側)に、上記ウェビング7の一端部を巻取可能に支持するリトラクター8と、該ウェビング7の他端部を車体に固定するラップアンカー9とが配設されるとともに、車両用シート1の車幅方向外方側に配設されたサイドシルSSの内側壁面に上記タング10を係脱可能に支持するバックル11が設けられ、かつ車両用シート1のシートバック34の車幅方向内方側上部に、ショルダーベルト5を支持するショルダーアンカー45が設けられた車両用シート装置においても、本発明を適用可能である。
【0051】
上記実施形態に係る車両用シート装置では、リトラクター8に設けられた第1プリテンショナ機構12により圧着機構が構成されるとともに、上記リトラクター8の支持部に設けられた第2プリテンショナ機構13により該リトラクター8を下方に引っ張るように駆動する駆動機構が構成されている。また、車両用シート1の車幅方向内方側に位置するフロアパネルFP上に、上記ラップアンカー9を支持する支持プレート21が固定され、該支持プレート21には、図11および図12に示すように、ラップアンカー9の取付軸20を摺動可能に支持する長孔21aが上下方向に延びるように形成されるとともに、該長孔21aの下端部に上記取付軸20を着脱可能に係止する係止部材22が設けられている。
【0052】
上記係止部材22は、制御ユニット4から出力される制御信号に応じてスライドバー23を出没駆動するソレノイドアクチュエータからなり、通常時には、上記スライドバー23を突出させて上記長孔21aの下端部に上記取付軸20を係止するように構成されている。そして、制御ユニット4のシートベルト制御手段40から係止部材22に係止解除信号に出力されると、スライドバー23が係止部材22のケース内に引き込まれて上記取付軸20の係止状態が解除されることにより、上記ラップアンカー9が上方にスライド変位するとともに、ラップベルト6が車幅方向の外方側に移動することが許容されるようになっている。
【0053】
すなわち、上記ラップアンカー9に設けられた第2プリテンショナ機構13の作動時に、上記取付軸20の係止状態を解除することにより、バックル11の取付軸20を長孔21aに沿って摺動可能とし、上記第2プリテンショナ機構13から付与される張力H2に対応させて、車両用シート1に着座した乗員の腰部を拘束するラップベルト6を車幅方向の内方側に送り出すとともに、乗員の腰部を拘束するショルダーベルト5を斜め内側上向きに送り出す送出機構が、上記支持プレート21および係止部材22等により構成されている。
【0054】
上記係止部材22がラップベルト6の送出許容状態となることにより上方に移動する上記ラップアンカー9の移動量は、上記第2プリテンショナ機構13の作動に応じて下方に引っ張られるショルダーベルト5の引張量に対応した値に設定されている。これにより、上記乗員に対するウェビング7の圧着力が略一定値に維持された状態で、乗員の腰部を拘束するラップベルト6が車幅方向の内側に引っ張られるとともに、乗員の胸部を拘束する上記ショルダーベルト5が斜め内側上向きに引っ張られるようになっている。
【0055】
そして、車両の側突時等に、上記リトラクター8に設けられた第1プリテンショナ機構12を作動させ、所定の引張力H1でウェビング7をリトラクター8内に巻き込むことにより該ウェビング7を乗員に圧着させた後、所定のタイミングで上記リトラクター8の支持部に設けられた第2プリテンショナ機構13を作動させ、所定の引張力H2でウェビング7の一端部を下方に引っ張るとともに、上記係止部材22によるラップアンカー9の係止状態を解除してその上方移動を許容する。これにより、上記ショルダーベルト5およびラップベルト6を乗員に圧着させた状態で、ラップベルト6を車幅方向の内方側に移動させるとともに、ショルダーベルト5を斜め内側上向きに移動させ、これに対応して車両用シート1に着座した乗員を揺動変位させて、その肩部を所定距離だけ車体の内方側へ積極的に移動させる押動力H3を作用させることができる。
【0056】
なお、上記リトラクター8に設けられた巻取モータを回転駆動する等により、ウェビング7の一端部を下方に引っ張るように駆動する駆動機構を構成してもよい。また、上記ソレノイドアクチュエータからなる係止部材22を設けた構成に代え、ラップアンカー9の取付軸20を支持する支持部を燃焼ガス圧に応じて強制的にスライド変位させるインフレータを設ける等により、上記タング10およびバックル11ラップベルト6を上方に移動させるように構成してもよい。さらに、図10に示すように、ショルダーベルト5のバッグ5aおよびラップベルト6のバッグ部6aにエアを供給するエアベルト機構42により上記ウェビング7に張力を付与して該ウェビング7を乗員に圧着させる圧着機構を構成してもよい。
【符号の説明】
【0057】
1 車両用シート
2 シートベルト装置
3 サイドエアバッグ装置
5 ショルダーベルト
6 ラップベルト
7 ウェビング
8 リトラクター
9 ラップアンカー
10 タング
11 バックル
12 第1プリテンショナ機構
13 第2プリテンショナ機構
14 ロードリミッタ(引出機構)
21 支持プレート(送出機構)
22 係止部材(送出機構)
32 サイドエアバッグ
40 シートベルト制御手段
42 エアベルト機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用シートに着座した乗員の肩部から腰部にかけて斜めに掛け渡されるショルダーベルトおよび乗員の腰部を跨いで車幅方向に延びるように設置されたラップベルトからなるウェビングと、該ウェビングの一端部を巻取可能に支持するリトラクターと、該ウェビングの他端部を車体に固定するラップアンカーと、該ウェビングに設けられたタングを係脱可能に支持するバックルとを有するシートベルト装置を備えた乗員保護装置において、車両の衝突時に上記ウェビングに張力を付与して該ウェビングを乗員に圧着させる圧着機構と、上記乗員の上半身を揺動変位させてその肩部を車幅方向の内方側に移動させるように上記ウェビングを駆動する駆動機構と、車両の側部から衝撃荷重が入力された時に、上記圧着機構を作動させてウェビングを乗員に圧着させた後に上記駆動機構を作動させるように制御するシートベルト制御手段とを有することを特徴とする乗員保護装置。
【請求項2】
車両用シートの車幅方向外方側に上記リトラクターおよびラップアンカーが配設されるとともに、該リトラクターに設けられた第1プリテンショナ機構により上記圧着機構が構成され、上記ラップアンカーの支持部に設けられた第2プリテンショナ機構により上記駆動機構が構成されたことを特徴とする請求項1に記載の乗員保護装置。
【請求項3】
上記ラップアンカーの支持部に設けられた第2プリテンショナ機構を作動させる際に、乗員に圧着されたウェビングの圧着力を維持しつつ、該ウェビングがリトラクターから引き出されるのを許容する引出機構がリトラクターに設けられたことを特徴とする請求項2に記載の乗員保護装置。
【請求項4】
車両の側方から衝撃荷重が入力された時に、車両用シートに着座した乗員と車室の側壁との間にエアバッグを展開させるサイドエアバッグ装置を備えたことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の乗員保護装置。
【請求項5】
上記圧着機構が、ウェビングにエアを供給して該ウェビングを膨張させるエアベルト機構により構成されたことを特徴とする請求項1に記載の乗員保護装置。
【請求項6】
車両用シートの車幅方向内方側に上記リトラクターおよびラップアンカーが配設されるとともに、車両用シートの車幅方向外方側に上記バックルが配設され、上記ラップアンカーの支持部に設けられた第2プリテンショナ機構により上記駆動機構が構成され、かつ該第2プリテンショナ機構の作動時に、上記ラップベルトを車幅方向の外方側に送り出す送出機構が上記バックルの支持部に設けられたことを特徴とする請求項1または5に記載の乗員保護装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2011−116191(P2011−116191A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273808(P2009−273808)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(000003137)マツダ株式会社 (6,115)
【Fターム(参考)】