説明

乗物用シート

【課題】後面衝突時に乗員の上体からシートバックに掛かる荷重を、受圧部材に効率よく伝えることができる乗物用シートを提供する。
【解決手段】シートバッククッション50に乗員から所定以上の後方への荷重が掛かるとシートバック内の受圧部材20が後方へ移動するように構成された乗物用シートである。シートバッククッション50は、乗員の上体部を支持する中央部51と、中央部51の左右方向両側に中央部51と連続して設けられた側部52とを有し、中央部51と各側部52との境界に対応する部位に沿って、前面および後面の両面に、連続的または断続的な凹みからなる前面凹部(前面溝53)および後面凹部(後面溝54)が形成され、後面凹部は、前面凹部の左右方向内側に配置される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用シートなどの乗物用シートに関し、特に、後面衝突時の頸部へ加わる衝撃の低減を図った乗物用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車が後部から追突されたり、後退走行時に追突したりするなど、自動車の後面で衝突するいわゆる後面衝突の際には着座している乗員の頭部は慣性によって後傾し、頸部が衝撃を受ける虞がある。
【0003】
そのため、車両用シートなどの乗物用シートには、後面衝突による衝撃から乗員の頭部や頸部を保護し頸部への衝撃を軽減するために、シートバック上方に乗員の頭部を後方から受けるヘッドレストを設けている。そして、後面衝突時の衝撃を効果的に軽減するためには、後面衝突時に乗員の頭部とヘッドレストとの間の隙間を速やかに減少させるのが望ましい。
【0004】
このため、後面衝突時に乗員の上体を後方へ移動させ、この移動による荷重を受圧部材(可動プレート)によって受けてヘッドレストを前方に動かし、乗員の頭部を支持して頸部への衝撃を軽減するように構成したシートバックが提案されている(特許文献1)。
【0005】
後面衝突時に乗員の頭部とヘッドレストとの間の隙間を速やかに減少させるには、特許文献1のようにヘッドレストを前方に動かすことによる方法もあるが、乗員の上体をシートバックに深く入り込ませることで、乗員の頭部がヘッドレストに近づき、結果として隙間を減少させることでも実現できると考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−341402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、前記した特許文献1のようにヘッドレストが動作する構成および動作しない構成のいずれにおいても、後面衝突時に乗員の上体により所定以上の荷重でシートバック内の受圧部材を後方に押して、シートバック内に乗員の上体が入り込むときには、できるだけ深くシートバック内に乗員が入り込むのが望ましい。
【0008】
しかし、従来の乗物用シートにおいては、シートバック内に設けられるシートバッククッションが変形しにくいため、後面衝突時に乗員の上体からシートバックに掛かる荷重が受圧部材に伝わるのに、シートバッククッションが抵抗となるという問題があった。
【0009】
本発明は、以上のような背景に鑑みてなされたものであり、後面衝突時に乗員の上体からシートバックに掛かる荷重を、受圧部材に効率よく伝えることができる乗物用シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記した課題を解決する本発明の乗物用シートは、左右に離間して配置され上下方向に延在するサイドフレームと、前記サイドフレーム間に配置された受圧部材と、前記受圧部材と前記サイドフレームとを連結する連結部材と、少なくとも前記受圧部材の前方に設けられたシートバッククッションとを備え、当該シートバッククッションに乗員から所定以上の後方への荷重が掛かると前記受圧部材が後方へ移動するように構成された乗物用シートであって、前記シートバッククッションは、前記乗員の上体部を支持する中央部と、前記中央部の左右方向両側に前記中央部と連続して設けられた側部とを有し、前記中央部と前記各側部との境界に対応する部位に沿って、前面および後面の両面に、連続的または断続的な凹みからなる前面凹部および後面凹部が形成され、前記後面凹部は、前記前面凹部の左右方向内側に配置されたことを特徴とする。
【0011】
このような構成によれば、シートバッククッションは、中央部と各側部との境界に対応する部位に沿って、前面と後面にそれぞれ連続的または断続的な凹みからなる前面凹部および後面凹部が配置される。そして、後面凹部が前面凹部よりも左右方向内側に配置されることで、中央部と各側部とを接続する接続部(前面凹部から後面凹部にかけての部分)は、水平断面で見ると、左右方向外側から内側へ延び、さらに前方へ延びる形状となる。そのため、後面衝突時には、この接続部が変形することで中央部が相対的に後方へ移動しやすい。すなわち、シートバッククッションが抵抗となりにくく、乗員の上体からシートバックにかかる荷重を受圧部材に効率よく伝えることができる。
【0012】
前記した乗物用シートにおいては、前記後面凹部の底部は、前記前面凹部の底部より前方に位置することが望ましい。このように、後面凹部の底部が前面凹部の底部より前方に位置すると、後面凹部と前面凹部との間の接続部がより前後方向に延びるので、シートバッククッションの中央部に後方への荷重が掛かったときに、接続部の向き(形状)が大きく変わることができ、中央部が側部に対して後方により移動し易くなる。
【0013】
前記した乗物用シートにおいては、前記シートバッククッションを覆う表皮部材をさらに備え、前記表皮部材は、前記前面凹部に入れ込まれた入れ込み部を有し、当該入れ込み部は、前記前面凹部の底部に結合され、前記後面凹部の底部は、前記入れ込み部の先端よりも前方に位置するのが望ましい。
【0014】
このように、後面凹部が、表皮部材の入れ込み部の先端より前方に位置する程度に深く形成されることで、接続部は、前後方向にさらに長く延びて存在するので、中央部が側部に対してより後方に移動しやすくなる。
【0015】
前記した乗物用シートにおいては、前記シートバッククッションは、後面に裏地が設けられ、前記裏地は、前記中央部と前記各側部との境界に対応する部位に切れ目が設けられた構成とすることができる。
【0016】
このような構成によれば、裏地によりシートバッククッションの補強などをした場合であっても、中央部と各側部を繋ぐ接続部でのシートバッククッションの変形を妨げないので、中央部が側部に対して後方に移動し易い。
【0017】
前記した乗物用シートにおいては、前記連結部材は、前記サイドフレームに回動可能に支持され、前記受圧部材が連結された回動部材と、回動部材を付勢する付勢部材とを有し、前記サイドフレームは、前記回動部材の回動範囲を規制するストッパを左右方向内側に突出して有し、前記サイドフレームは、前記ストッパと前記回動部材の間に前記シートバッククッションが入り込むのを防止するために、前記ストッパに対応して少なくとも一部が左右方向内側に延びた構成とすることができる。
【0018】
このような構成によれば、後面衝突時にシートバッククッションが相対的に後方に移動したときに、サイドフレームの左右方向内側に延びた部分によって、シートバッククッションの一部がストッパと回動部材の間に入り込むことが抑制される。そのため、回動部材の作動を確実にして、中央部を側部に対して十分に後方に移動させることができる。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に記載の構成によれば、シートバッククッションが中央部と各側部との接続部で変形し易いため、シートバッククッションが抵抗となりにくく、乗員の上体からシートバックにかかる荷重を受圧部材に効率よく伝えることができる。
【0020】
請求項2に記載の構成によれば、中央部と各側部との接続部が前後方向に延びるので、シートバッククッションの中央部に後方への荷重が掛かったときに、接続部の向き(形状)が大きく変わることができ、中央部が側部に対して後方により移動し易くなる。
【0021】
請求項3に記載の構成によれば、中央部と各側部との接続部は、前後方向にさらに長く延びて存在するので、中央部が側部に対してより後方に移動しやすくなる。
【0022】
請求項4に記載の構成によれば、裏地によりシートバッククッションの補強などをした場合であっても、接続部でのシートバッククッションの変形を妨げないので、中央部が側部に対して後方に移動し易い。
【0023】
請求項5に記載の構成によれば、回動部材の作動を確実にして、中央部を側部に対して十分に後方に移動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】車両用シートの斜視図である。
【図2】シートフレームの斜視図である。
【図3】連結部材の拡大斜視図である。
【図4】連結部材の分解斜視図である。
【図5】図1のV−V断面図である。
【図6】通常時のシートバックフレームを示す側断面図(a)と後面衝突時のシートバックフレームの状態を示す側断面図(b)である。
【図7】通常時のシートバッククッションを示す水平断面図(a)と後面衝突時のシートバッククッションを示す水平断面図(b)である。
【図8】変形例に係る乗物用シートの図1のV−V断面に相当する図である。
【図9】受圧部材の第1の変形例の正面図(a)と、(a)のIX−IX断面図(b)である。
【図10】受圧部材の第2の変形例の正面図(a)と、(a)のX−X断面図(b)である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照しながら、本発明の一実施形態について説明する。
図1に示すように、本発明の乗物用シートの一例としての車両用シートSは、シートバックS1、着座部S2およびヘッドレストS3を備えて構成されている。
【0026】
車両用シートSの中には、図2に示すようなシートフレームFが設けられている。シートフレームFは、シートバックS1のフレームであるシートバックフレーム1と、着座部S2のフレームである着座フレーム2とから構成されている。着座フレーム2とシートバックフレーム1は、リクライニング機構3を介して連結されている。シートバックフレーム1および着座フレーム2の外側には、クッションおよび表皮(シートバックS1について図5参照)が設けられることで、シートバックS1および着座部S2が構成される。
【0027】
シートバックフレーム1は、左右に離間して配置され上下方向に延在するサイドフレーム10と、このサイドフレーム10の上端部を連結する上部フレーム21と、下端部を連結する下部フレーム22とにより枠状に構成されている。そして、左右のサイドフレーム10の間には、板状の樹脂からなる受圧部材20が配置され、受圧部材20は、連結部材4を介してサイドフレーム10に連結されている。なお、本明細書において、前後左右はシートバックS1を立てた通常状態において、車両用シートSに着座する乗員を基準とする。
【0028】
上部フレーム21には、ピラー支持部23が設けられ、ピラー支持部23には、図示しないヘッドレストフレームが設けられる。ヘッドレストフレームの外側にクッション部材を設けることで前記したヘッドレストS3が構成される。
【0029】
サイドフレーム10は、板金をプレス加工して成形され、図3に示すように、ほぼ平板状の側板11と、この側板11の前端部を内側にU字状に折り返してなる前縁部12と、後端部をL字型に内側に屈曲させた後縁部13とを有している。そして、図4に示すように、乗員の脇腹に相当する高さ位置、例えば下端から20cm程度の位置には、後述する回動部材40を支持する支持孔14が形成され、支持孔14の周りは、若干の絞り加工がされて内側へ突出し、曲部15を形成している。曲部15は、支持孔14の周囲の剛性を高める役割を果たす。支持孔14の上方には、コイルバネ48の上端が支持されるバネ係止部16が設けられ、支持孔14の下方には内側に突出して設けられたストッパ17,18が前後に離れて設けられている。ストッパ17,18は、回動部材40の作動範囲を規制する役割を果たす。そして、ストッパ17,18の前後には、それぞれ前縁部12と後縁部13とが左右方向内側に延びていることで、回動部材40とストッパ17,18の間にシートバッククッション50が入り込むのを抑制している。
【0030】
連結部材4は、図4に示すように、回動部材40と、当該回動部材40をサイドフレーム10に回動可能に支持するためのボルト61と、受圧部材20が前方に付勢される向きに回動部材40を付勢する付勢部材の一例としてのコイルバネ48と、受圧部材20の下部を回動部材40に連結する下部ワイヤ46と、受圧部材20の上部をサイドフレーム10に連結する上部ワイヤ47(図2参照)と、を含んでなる。連結部材4は、受圧部材20の左右両側に左右対称に設けられている。
【0031】
下部ワイヤ46および上部ワイヤ47は、受圧部材20に形成された図示しない爪部にそれぞれ係止されている。上部ワイヤ47は、サイドフレーム10に設けられた係止孔49(図2参照)に係合されている。
【0032】
図4に示すように、回動部材40は板金をプレス加工してなり、上下に延びる本体部41と、本体部41の後端部を内側にL字状に折り曲げてなる後縁部42とを有している。このように後端部側を折り曲げることで、前方の空間、つまり、乗員がシートバックS1内に入り込む空間を残しつつ適度な剛性を確保している。本体部41の中央のやや上よりには軸孔43が形成されている。そして、軸孔43から下方に離れた本体部41の下端部には係止孔44が形成され、係止孔44には下部ワイヤ46が係合されている。軸孔43には、ボルト61の軸部61Aが挿通され回動部材40が軸支される。詳しくは、ボルト61は、サイドフレーム10の外側から支持孔14に挿通されサイドフレーム10に接着または溶接により取り付けられている。そして、サイドフレーム10の内側に突出した軸部61Aに回動部材40の軸孔43が挿通され、回動部材40が軸部61A周りに回動可能な状態でナット65が締め付けられる。
【0033】
回動部材40の係止孔44のやや上にはコイルバネ48の下端が係止されるバネ係止部45が突出して設けられている。コイルバネ48は、前記したサイドフレーム10のバネ係止部16に上端が係止され、引っ張られた状態で下端がコイルバネ48のバネ係止部45に係止される。回動部材40のバネ係止部45は、側面視においてサイドフレーム10のバネ係止部16と支持孔14を結んだ線よりも前方に位置しているので、回動部材40は、常時、コイルバネ48によって図4における時計回りに回転力が与えられている。
【0034】
前記したストッパ17,18は、回動部材40の軸孔43よりも下方においてそれぞれ回動部材40の前後に位置しており、回動部材40の前後への移動を所定位置までに規制している。
【0035】
このようにして、通常時において、回動部材40は下部が前方へ回転するように付勢され、ストッパ17によりその位置が規制されている。受圧部材20は、回動部材40の係止孔44を介して、コイルバネ48の付勢力により前方に付勢されており、この付勢力により乗員の上体がシートバックS1にもたれかかる力を受け止めている。コイルバネ48は、通常の運転環境において受圧部材20を介して引っ張られる力よりも初期の引っ張り荷重が大きく設定されている。そして、後面衝突時に掛かる引っ張り荷重よりは小さな初期荷重とされていることで、後述するように、乗員の上体の体重を受圧部材20が受けて、この受けた力が下部ワイヤ46を介して回動部材40を後方(図4における半時計回り)に回動させるようになっている。
【0036】
図5に示すように、シートバックフレーム1の外側には、受圧部材20およびサイドフレーム10の前方およびサイドフレーム10の側方および後方を覆うシートバッククッション50が設けられている。シートバッククッション50の外側には、布地や皮革からなる表皮部材70が設けられている。
【0037】
シートバッククッション50は、乗員の上体部を支持する中央部51と、中央部51の左右方向両側(図7も参照)に中央部51と連続して設けられた側部52とを有している。側部52は、通常、中央部51よりやや前方に張り出して、乗員の体側を支持するように構成されることが多いが、このような形態に限らず、中央部51とほぼ同一面に形成されることもある。この場合、乗員が着座すべき位置を、表皮の縫い目やデザインなどにより示して、乗員が受圧部材20の前方に上体を合わせて着座できるようにしておくとよい。
【0038】
シートバッククッション50の前面には、中央部51と、左右両方の側部52との境界に沿って、前面凹部の一例として、上下方向に連続的に設けられた凹みからなる前面溝53が形成されている。シートバッククッション50の後面には、中央部51と、左右両方の側部52との境界に沿って、上下に連続して延びる後面凹部の一例としての後面溝54が形成されている。後面溝54は、前面溝53の左右方向内側に配置されている。このため、中央部51と側部52の接続部59(濃いハッチングで示した部分)は、図5に示した接続部中心線L1のように、側部52から左右方向内側に延びた後、前方に向けて延びている。そして、後面溝54があることにより、シートバッククッション50は、後面溝54の底部54Aとシートバッククッション50の前面との間の厚みが薄くなっている。これにより、接続部59が変形しやすく、中央部51が側部52に対し後方へ移動するのが容易となっている。
【0039】
後面溝54は、その底部54Aが前面溝53の底部53Aよりも前方に位置している。このため、接続部59は図5の接続部中心線L1に示すように、特に、内側部分で前方に向けて延びる形状、つまり前方に向けて長い形状となり、中央部51が側部52に対して後方に移動しやすくなっている。
【0040】
前面溝53の底部53Aには、後述する表皮部材70を留める係止リング56が複数上下に並んで(1つのみ図示)に設けられている。
【0041】
表皮部材70は、シートバッククッション50の中央部51の前面を覆う中央表皮部71と、側部52を覆うショルダー表皮部72と、シートバックS1の後面を覆う裏側表皮部73を有している。中央表皮部71とショルダー表皮部72との接続部分は、前面溝53に入れ込まれる入れ込み部74となっており、入れ込み部74は、縫合部78により縫合されて広がるのが防止されている。そして、入れ込み部74の先端74A(図5の後端)には、フック75が設けられている。フック75は、係止リング56に対応して設けられ、それぞれが係止リング56に係合している。
【0042】
後面溝54の深さは深いほど接続部59の変形による中央部51の後方への移動を容易にするので、後面溝54の底部54Aの位置は、図5に仮想線L2で示した後面溝の形状のように、入れ込み部74の先端74Aよりも前方に位置しているのが望ましい。
【0043】
シートバッククッション50の後面には、シートバッククッション50を補強するための裏地55が設けられている。この裏地55は、織布や、不織布、プラスチックシートなどが用いられる。裏地55は、接続部59の後面に対応する部位(境界に対応する部位)に上下に連続的に切れ目55Aが形成されている。この切れ目55Aは、図5のように、中央部51に対応する裏地55Bと側部52に対応する裏地55Cとが左右方向に所定距離離れるように、いわばスリットのように形成されていてもよいし、図示はしないが、裏地55をカッターなどで切り込んで裏地55Bと裏地55Cとが左右方向にほとんど離れないように形成されていてもよい。このような切れ目55Aにより、裏地55によりシートバッククッション50が補強される場合であっても、接続部59の変形が容易となる。
【0044】
以上のように構成された本実施形態に係るシートバックフレーム1の作用について説明する。
図6(a)に示すように、通常時において、回動部材40は、バネ係止部45においてコイルバネ48に引き上げられて下部が前方に付勢され、ストッパ17に当接することで位置決めされている。このとき、乗員Pの上体がシートバックS1(図示省略)に寄りかかる力は、クッション(図示省略)を介して受圧部材20に掛かるが、コイルバネ48の初期加重は、通常の運転環境において受圧部材20を介して引かれる荷重よりも大きく設定されているため、受圧部材20は動作することなく乗員Pの上体から掛かる荷重を受け止めることができる。
【0045】
そして、後面衝突時には、図6(b)に示すように、乗員Pの上体は、シートバックS1に対し後方に移動して、シートバックS1に押し付けられて弓なりに曲がり、受圧部材20に荷重F1が掛かる。受圧部材20は、下部ワイヤ46を介して回動部材40の下部に対し後方へ回動させる力を掛ける。この力がコイルバネ48により回動部材40を前方へ付勢する荷重を超えると、回動部材40は後方へ回動して、図6(b)に位置する向きになる。これにより、乗員Pの上体はシートバックS1内に深く入り込んで、入り込まない場合に比較すると相対的に頭がヘッドレストS3に近づいて、頸部への衝撃が緩和される。なお、本明細書において、乗員をシートバック内に深く入り込ませるとは、乗員の体でシートバッククッション50を押して、シートバッククッション50があった位置に乗員の体を移動させることを意味する。
【0046】
コイルバネ48は、回動部材40の後方への回動により延びて引っ張り荷重は高くなるが、バネ係止部45の後方への移動量に対する下方(コイルバネ48が延びる方向)への移動量の割合は徐々に小さくなるので、回動部材40は、後面衝突時に乗員Pの荷重がコイルバネ48の初期荷重による支持力を一度超えれば、途中で止まることなく図6(b)の向きまで一気に回動する。すなわち、コイルバネ48による回動部材40の回動力は、回動部材40の回動範囲内において、初期位置が最大となるように回動部材40の初期位置および作動後の位置の姿勢や、コイルバネ48の係止位置が設定されている。
【0047】
この後面衝突時のシートバッククッション50の変形について図7を参照して説明する。図7(a)のように、通常時は、接続部中心線L1の内側端部はほぼ前方へ向いている。後面衝突が発生すると、図7(b)のように、乗員Pの荷重F1により中央部51が側部52に対し相対的に後方へ押され、接続部59が後方へ変形して接続部中心線L1の内側端部は、図7(a)よりも側方(内側)へ向く。このように、接続部59が、アームのように向きを変えながら変形することで、中央部51が側部52に対し後方に大きく移動しやすい。つまり、後面衝突時に乗員Pが後方へ動くのに際し、シートバッククッション50が抵抗となりにくく、乗員Pの上体からシートバックS1(シートバッククッション50の中央部51)に掛かる荷重を効率よく受圧部材20に伝えることができる。
【0048】
そして、本実施形態の車両用シートSによれば、後面溝54の底部54Aは、前面溝53の底部53Aや、表皮部材70の入れ込み部74の先端74Aよりも前方に位置しているので、接続部59が特に変形しやすく、中央部51が側部52に対して相対的に後方に移動しやすい。
【0049】
また、車両用シートSは、シートバッククッション50の後面に裏地55を有するが、裏地55は、接続部59に対応して上下に延びる切れ目55Aを有するので、後面衝突時に裏地55が接続部59の変形を阻害しにくく、中央部51が側部52に対して相対的に後方に移動しやすい。
【0050】
また、ストッパ17,18の付近は、それぞれ、サイドフレーム10の縁を折り曲げてなる前縁部12および後縁部13によりほぼ覆われているので、ストッパ17,18と回動部材40との間にストッパ17,18の前後からクッションやハーネスなどの他の部材が挟まることを抑制でき、回動部材40の十分なストロークを確保することができる。これによっても乗員PをシートバックS1内に深く入り込ませる確実性を高めることができる。
【0051】
以上に本発明の実施形態について説明したが、本発明は、以下の他の形態に示すように、適宜変形して実施することが可能である。なお、前記実施形態および以下の変形例において、シートバックフレーム1内には、シートバッククッション50やハーネスなどの部材が詰まるように配されるため、シートバックS1内のスペースを少しでも確保して、乗員PがシートバックS1内に入り込みやすいようにすることが有効である。
【0052】
前記実施形態においては、前面凹部の例として、上下に連続的に延びる前面溝53を例示したが、前面凹部は、上下に断続的に並んで配置された凹部であってもよい。もっとも、前面凹部は、前記実施形態のように、連続して形成された凹部からなる溝形状の方が、接続部59の変形を容易にすることができる。同様に、前記実施形態においては、後面凹部の例として、上下に連続的に延びる後面溝54を例示したが、後面凹部は、上下に断続的に並んで配置された凹部であってもよい。もっとも、後面凹部は、前記実施形態のように、連続して形成された凹部からなる溝形状の方が、接続部59の変形を容易にすることができる
【0053】
前記実施形態においては、回動部材40が、ヘッドレストS3から独立して回動する形態について説明したが、特許文献1のように、受圧部材の動作に伴いヘッドレストS3が前方へ移動する乗物用シートに本発明を適用することもできる。
【0054】
前記実施形態においては、裏地55の切れ目の例として、上下方向に連続的に延びるものを示したが、本発明にいう切れ目は、上下方向に断続的に延びる、いわばミシン目状の切れ目であってもよい。
【0055】
前記実施形態においては、前面凹部および後面凹部がそれぞれ1つのみの形態を示したが、図8に示すように、前面凹部153および後面凹部154を繰り返し設けてシートバッククッション150の接続部159をアコーデオン状に形成してもよい。このような形態によれば、接続部159の変形がより容易になるので、中央部151を側部152に対してより後方へ移動させやすくなる。
【0056】
前記実施形態においては、裏地55をシートバッククッション50の後面に設けたが、裏地55と同様の力布をシートバッククッション50の少なくとも前面における中央部51と側部52とに跨って設けてもよい。この場合、中央部51と側部52の境界に対応する部位で接続部59の変形が容易になるように、当該部分に破断部、つまり裏地55の切れ目55Aと同様、上下に連続して切れている部分や、ミシン目のように断続的に切れている部分、もしくは薄肉となって弱くなっている部分を設けるとよい。例えば、シートバッククッション50の前面に張り付けた力布のうち、前面凹部(前面溝53)に張り付いた部分で、上下に延びるミシン目を設けるとよい。このようにすることで、後面衝突時に力布に掛かる荷重が破断部に集中して、力布が破断したり、場合によっては接続部59が破断するので中央部51が後方に移動しやすくなる。
【0057】
また、このような力布を、シートバッククッション50に張り付けるのではなく、表皮部材70の裏に、張り付けまたは縫い付けなどにより設けてもよい。この場合、力布における中央部51と側部52の境界に対応する部分、例えば入れ込み部74に対応する部位に上下に延びる破断部を設けておくとよい。これによっても、表皮部材70は、後面衝突時に力布の破断部に対応する部分で荷重が集中するので当該破断部で力布および表皮部材70が破断し易く、シートバッククッション50の中央部51が後方へ移動しやすくなる。
【0058】
さらに、表皮部材70自体が、シートバッククッション50の中央部51および側部52の境界に対応する部分に破断部が設けられていてもよい。このようにすることで、後面衝突時に表皮部材70が破断部において破断して、中央部51が後方へ移動しやすくなる。
【0059】
また、受圧部材20を変形しやすくすることで、後面衝突時に乗員Pを後方へ移動しやすくすることもできる。
例えば図9(a),(b)に示すように、第1の変形例に係る受圧部材120は、左右方向中央に、上下全体に延びる薄肉部121が形成される。薄肉部121は、受圧部材120の前面に凹部122を、後面に凹部123を設けることにより形成されている。そして、下部ワイヤ46および上部ワイヤ47は、薄肉部121における受圧部材120の屈曲を阻害しないように、適度に変形容易な材質および直径で構成される。このような薄肉部121を設けることで、後面衝突時に受圧部材120が薄肉部121において屈曲しやすくなり、乗員Pを後方へ移動させやすくなる。なお、薄肉部121は、受圧部材120の上下方向の一部にのみ延びるように設けられていてもよい。
【0060】
また、図10(a),(b)に示すように、第2の変形例に係る受圧部材220は、左右方向中央に、上下全体に延びる薄肉部221が形成され、薄肉部221上に、断続的な孔225が並んで形成される。薄肉部221は、受圧部材220の前面に凹部222を、後面に凹部223を設けることにより形成されている。このような薄肉部221および孔225を設けることで、後面衝突時に受圧部材220が薄肉部221において破断し易くなり、乗員Pを後方へ移動させやすくなる。
【0061】
また、前記実施形態においては、乗物用シートの適用例として車両用シートSを示したが、本発明の乗物用シートは、その他の乗物用シート、例えば、船舶用や航空機用のシートに適用することもできる。
【符号の説明】
【0062】
4 連結部材
10 サイドフレーム
11 側板
12 前縁部
13 後縁部
17 ストッパ
20 受圧部材
40 回動部材
48 コイルバネ
50 シートバッククッション
51 中央部
52 側部
53 前面溝
53A 底部
54 後面溝
54A 底部
55 裏地
55A 切れ目
59 接続部
70 表皮部材
74 入れ込み部
74A 先端
S 車両用シート
S1 シートバック

【特許請求の範囲】
【請求項1】
左右に離間して配置され上下方向に延在するサイドフレームと、前記サイドフレーム間に配置された受圧部材と、前記受圧部材と前記サイドフレームとを連結する連結部材と、少なくとも前記受圧部材の前方に設けられたシートバッククッションとを備え、当該シートバッククッションに乗員から所定以上の後方への荷重が掛かると前記受圧部材が後方へ移動するように構成された乗物用シートであって、
前記シートバッククッションは、
前記乗員の上体部を支持する中央部と、前記中央部の左右方向両側に前記中央部と連続して設けられた側部とを有し、前記中央部と前記各側部との境界に対応する部位に沿って、前面および後面の両面に、連続的または断続的な凹みからなる前面凹部および後面凹部が形成され、
前記後面凹部は、前記前面凹部の左右方向内側に配置されたことを特徴とする乗物用シート。
【請求項2】
前記後面凹部の底部は、前記前面凹部の底部より前方に位置することを特徴とする請求項1に記載の乗物用シート。
【請求項3】
前記シートバッククッションを覆う表皮部材をさらに備え、
前記表皮部材は、前記前面凹部に入れ込まれた入れ込み部を有し、当該入れ込み部は、前記前面凹部の底部に結合され、
前記後面凹部の底部は、前記入れ込み部の先端よりも前方に位置することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の乗物用シート。
【請求項4】
前記シートバッククッションは、後面に裏地が設けられ、
前記裏地は、前記中央部と前記各側部との境界に対応する部位に切れ目が設けられたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の乗物用シート。
【請求項5】
前記連結部材は、前記サイドフレームに回動可能に支持され、前記受圧部材が連結された回動部材と、回動部材を付勢する付勢部材とを有し、
前記サイドフレームは、前記回動部材の回動範囲を規制するストッパを左右方向内側に突出して有し、
前記サイドフレームは、前記ストッパと前記回動部材の間に前記シートバッククッションが入り込むのを防止するために、前記ストッパに対応して少なくとも一部が左右方向内側に延びていることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の乗物用シート。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−179748(P2010−179748A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−24202(P2009−24202)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(000220066)テイ・エス テック株式会社 (625)
【Fターム(参考)】