説明

乳がん治療転帰の予測

タモキシフェンまたは別の抗エストロゲン抗乳がん剤による治療に対する反応性または無反応性と相関する、ER+乳がん症例中の発現プロファイル(特性)を特定するための方法と合成物が提供される。この発現プロファイルは独立乳がん症例に由来する基準乳腺組織標本の抽出に基づいて特定されるが、乳がんを患う被検者のタモキシフェンまたは別の抗エストロゲン抗乳がん剤による治療の効果を予測するための信頼性の高い分子的な判定基準セットを提供する。乳がん症例におけるタモキシフェンまたは別の抗エストロゲン抗乳がん剤に対する反応性を、複数のバイオマーカーを使用して予測するための方法と合成物も提供される。2つのバイオマーカーはタモキシフェンに対する反応性と相関する発現の増進を示し、また他の2つのバイオマーカーはタモキシフェンに対する反応性と相関する発現の減退を示す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本願は2003年9月19日と2004年2月23日にそれぞれ提出された米国仮出願第60/504,087号および第60/547,199号の各明細書ならびに2003年12月2日と2004年2月6日にそれぞれ提出された米国特許出願第10/727,100号および第10/773,761号の各明細書に基づく優先権の利益を主張する。これら4件の各明細書は参照によりその全文がここに開示される。
【0002】
本発明の分野
本発明はタモキシフェン(ノルバデックス)および他「抗エストロゲン」抗乳がん剤たとえば他の「選択的エストロゲン受容体調節薬(SERM)」、「選択的エストロゲン受容体抑制薬(SERD)」およびアロマターゼ阻害薬(AI)などの使用による乳がん治療との臨床的関連性を有する遺伝子発現プロファイルまたはパターンの特定と使用に関する。本発明は特に、タモキシフェンまたは他「抗エストロゲン」抗乳がん剤による治療後の女性患者の生存率/乳がん再発と相関する発現を示す遺伝子の識別番号(identities)を提供する。該遺伝子発現プロファイルは核酸発現、タンパク質発現または他発現形式のいずれで表わされようが、乳がんを患う被検者のうちタモキシフェンまたは別の「抗エストロゲン」抗乳がん剤による治療に対して積極的に反応しそうな人々と反応しそうもない、従って他療法の候補となる人々との選別に使用されよう。本発明はまた多数の遺伝子から、タモキシフェンおよび他「抗エストロゲン」薬による乳がん治療に対する反応性の強力な予測因子となる発現パターンをもつ一連の配列の識別番号(identities)を提供する。
【背景技術】
【0003】
本発明の背景
乳がんは女性の間で断然発症率が高いがんである。毎年、米国と全世界で、それぞれ18万人と100万人の女性が乳がんと診断されている。乳がんは50〜55歳の年齢層の女性では第1位の死因であり、また西半球の女性の間では最も発症率が高い予防不能の悪性腫瘍である。米国では推定216万7,000人の女性が乳がんである[National Cancer Institute, Surveillance Epidemiology and End Results (NCI SEER) program, Cancer Statistics Review (CSR), www-seer.ims.nci.nih.gov/Publications/ CSR1973 (1998)]。米・国立がん研究所(NCI)のある報告書は1995〜1997年のがん罹患率をもとに、米国で女性が生涯に乳がんを発症する割合を8人に1人(約12.8%)と推定している(NCI-SEER出版物SEER Cancer Statistics Review 1973-1997)。乳がんは米国では皮膚がんに次いで女性の間で発症率の高いがんである。米国では2001年に推定25万100の新規乳がん症例が診断される見込みである。そのうち19万2,200症例は女性の進行(浸潤)乳がん(前年比5%増)、4万6,400症例は女性の初期(非浸潤)乳がん(前年比9%増)、また約1,500症例は男性乳がんとなる見込みである(Cancer Facts & Figures 2001, American Cancer Society)。2001年には推定4万600人の乳がん死が見込まれる(内訳は女性が4万300人、男性が400人)。乳がんは女性のがん死の原因としては肺がんに次ぎ第2位である。乳がんと診断された女性の86%近くは5年後もなお生存しそうであるが、10年後にはそのうち24%が乳がんで死亡し、また20年後には半分近く(47%)が乳がんで死亡していよう。
【0004】
女性は誰でも乳がんになる危険がある。70%の乳がんは年齢以外の危険因子をもたない女性で発症する(U.S. General Accounting Office, Breast Cancer, 1971-1991: Prevention, Treatment and Research. GAO/PEMD-92-12, 1991)。家族歴と関連があるのは5〜10%の乳がんにすぎない[Henderson IC, Breast Cancer in : Murphy GP, Lawrence WL, Lenhard RE (Eds). Clinical Oncology, Atlanta, GA: American Cancer Society;1995: 198-219]。
【0005】
各乳房には15〜20の腺葉があり、各腺葉内には多数の小葉がある。小葉の末端には乳汁を産生する何十もの小さな腺房がある。これらの腺葉、小葉および腺房はみな乳管という細い管で連絡しあっている。乳管は乳輪という黒ずんだ皮膚領域の中心にある乳首につながっている。乳房内には筋肉は存在せず、筋肉は乳房の下にあって肋骨を覆っている。各乳房には血管とリンパ管も走っている。リンパ管はリンパという無色の液体を運搬し、またリンパ節につながっている。乳房近くの腋窩(腋の下)、鎖骨上および胸郭にはリンパ節の集まりが見られる。
【0006】
乳房の腫瘍には良性と悪性がある。良性腫瘍はがん性ではないので、他の身体部位に拡大することがないし、命を脅かすものでもない。切除が可能であり、ほとんどの場合、再発しない。悪性腫瘍はがん性であり、近くの組織や臓器に浸潤し、それらを破壊する可能性がある。悪性腫瘍細胞は血流またはリンパ系に侵入し転移する可能性がある。乳がん細胞は、乳房外に転移すると、しばしば腋の下のリンパ節(腋窩リンパ節)に認められる。これらのリンパ節でがん細胞が認められときは、がんはすでに他のリンパ節または臓器たとえば骨、肝臓、肺などに拡大している可能性がある。
【0007】
主要かつ活発な研究では重点が早期発見、治療、予防に置かれてきた。前がん性およびがん性の乳管上皮細胞の有無の検査などもそうした重点の1つである。乳管上皮細胞については、たとえば細胞形態学を、またタンパク質マーカー、核酸マーカー、染色体異常、生化学マーカー、およびがん細胞または前がん細胞の存在を示唆するような他の特徴的な変化の有無を、分析する。これは乳がんで報告されている種々の分子変異の解明につながり、現にいくつかの分子変異についてはヒト乳房臨床標本で十分に解明されてきた。分子変異の例はステロイド(エストロゲンおよびプロゲステロン)受容体の存在/不存在、HER-2発現/増殖(Mark, HF et al.「in situハイブリダイゼーションで蛍光法により検出される病期I〜IV乳がんにおけるHER-2/neu遺伝子増幅」Genet Med; 1(3):98-103, 1999)、(細胞周期のG0を除く各段階に存在し、腫瘍細胞増殖マーカーとして使用される)Ki-67、および(がん遺伝子、がん抑制遺伝子、血管新生マーカーなどを含む)予後マーカーたとえばp53、p27、カテプシンD、pS2、多剤耐性(MDR)遺伝子およびCD31などである。
【0008】
タモキシフェンは初期および転移性の両ホルモン受容体陽性乳がんの女性に最もよく処方される抗エストロゲン薬である[概説はClarke, R. et al. “Antiestrogen resistance in breast cancer and the role of estrogen receptor signaling (乳がんの抗エストロゲン耐性とエストロゲン受容体シグナル伝達の役割).” Oncogene 22, 7316-39 (2003) およびJordan, C. “Historical perspective on hormonal therapy of advanced breast cancer(乳がんの先進ホルモン療法に関する歴史的視点).” Clin. Ther. 24 Suppl A, A3-16 (2202)を参照]。術後補助療法としてのタモキシフェン療法は年々の再発リスクを40〜50%低下させて、リンパ節陰性患者の10年生存率を5.6%高め、またリンパ節陽性患者の10年生存率を10.9%高める効果がある[Group, E.B.C.T.C Tamoxifen for early breast cancer. Cochrane Database Syst Rev, CD000486 (2001)]。タモキシフェンは主にエストロゲン受容体(ER)へのエストロゲンの結合を競合阻害する機能を果たすと考えられる。ER発現の絶対レベルやプロゲステロン受容体(PR、機能的ER経路の指標)発現の絶対レベルは目下、臨床現場におけるタモキシフェンに対する反応性の最良の予測因子となっている[Group, (2001) and Bardou, V.J. et al. “Progesterone receptor status significantly improves outcome prediction over estrogen receptor status alone for adjuvant endocrine therapy in two large breast cancer databases(2大乳がんデータベースでは、エストロゲン受容体状態だけでなくプロゲステロン受容体状態も加わると補助内分泌療法の治療転帰予測が有意に改善する).” J Clin Oncol 21, 1973-9 (2003)]。
【0009】
しかし、ER+/PR+腫瘍の25%、ER+/PR-症例の66%およびER-/PR+症例の55%は、大部分が不明のままである機序により、タモキシフェンに対して反応できないか、または初期耐性を示す[たとえばClarke et al.; Nicholson, R.I. et al. “The biology of antihormone failure in breast cancer(乳がん抗ホルモン剤療法無効の生物学).” Breast Cancer Res Treat 80 Suppl 1, S29-34; Discussion S35(2003) およびOsborne, C.K. et al. “Growth factor receptor cross-talk with estrogen receptor as a mechanism for tamoxifen resistance in breast cancer(乳がんのタモキシフェン耐性機序としての増殖因子受容体のエストロゲン受容体との信号伝達クロストーク).” Breast 12, 362-7(2003)などを参照]。現時点では、これらの無反応者の特定を可能にするような信頼性の高い手段は存在しない。これらの患者には代替ホルモン療法のほうが臨床効果は高いという可能性がある。たとえばレトロゾールおよびアナストロゾールなどのようなアロマターゼ阻害薬[Ellis, M.J. et al. “Letrozole is more effective neoadjuvant endocrine therapy than tamoxifen for ErbB-1- and/or ErbB-2-positive, estrogen receptor positive primary breast cancer: evidence from a phase III randomized trial(ErbB-1-および/またはErbB-2-陽性、エストロゲン受容体陽性の原発性乳がんの新補助内分泌療法ではタモキシフェンよりもレトロゾールのほうが有効: 第三相無作為臨床試験で立証).” J Clin Oncol 19, 3808-16 (2001); Buzdar, A.U. “Anastrozole: a new addition to the armamentarium against advanced breast cancer.(アナストロゾール: 進行乳がんの新治療薬).” Am J Clin Oncol 21, 161-6 (1998); およびGoss, P.E. et al. “A randomized trial of letrozole in postmenopausal women after five years of tamoxifen therapy for early-stage breast cancer(5年間の初期乳がんタモキシフェン療法後の閉経女性に対するレトロゾールの無作為臨床試験).” N Engl J Med 349, 1793-802 (2003)] ; 化学療法薬、または他シグナル伝達経路の阻害薬、たとえばトラズツズマブおよびゲフィチニブによる治療である。従って、タモキシフェンの治療転帰を正確に予測することができれば、タモキシフェン(TAM)が有効ではなさそうな、従って追加または代替療法を追求してもよさそうな患者の特定により、初期乳がん管理が著しく改善されるはずである。
【0010】
本明細書中の文献の引用はそれらが関連公知技術であることを承認するものではない。文献の日付または内容に関する表明または表示はすべて出願人が入手した情報に依拠しており、文献の日付または内容の正しさを何ら承認するものではない。
【発明の開示】
【0011】
本発明の要約
本発明は、乳がんと臨床的に関係のある遺伝子発現パターン(またはプロファイルまたは「特性」)および個別遺伝子配列の発現レベルの特定と使用に関する。特に患者の生存および乳がん再発(たとえば乳がんの転移)との相関が認められる遺伝子の識別番号が提供される。該遺伝子発現プロファイルは核酸発現、タンパク質発現または他発現形式のいずれで表わされようが、乳がんを患う被検者の生存および転移を含む乳がん再発の可能性を予測するために使用されよう。
【0012】
従って本発明は生存転帰が良好または不良の患者との相関が認められる(従って両患者の区別を可能にする) 遺伝子発現パターン(またはプロファイルまたは「特性」)および個別遺伝子配列の発現レベルの特定と使用をもたらす。一実施態様では、本発明はエストロゲン受容体(α異性体)陽性(ER+)乳がん患者をタモキシフェン(TAM)または別の「抗エストロゲン」薬(たとえば「選択的エストロゲン受容体調節薬(SERM)」、「選択的エストロゲン受容体抑制薬(SERD)」およびアロマターゼ阻害薬(AI)など)の使用による乳がん治療に対して反応性であるまたは反応性である見込みが大きい患者とそうした治療に対して無反応性であるまたは無反応性である見込みが大きい患者とに区分することを可能にするパターンを提供する。別の実施態様では本発明は、検出可能レベルのER発現を示さないものの、何らかの低レベルのER発現があるため本発明の適用による利益を受けることになりそうな乳がん患者(いわゆる「ER-」被検者)に適用されよう。反応性は経時的な生存転帰の良好性という点から考えてもよい。このように、これらのパターンはER+乳がんの患者を少なくとも2つのサブタイプに区分することを可能にする。
【0013】
本発明は第1の態様で、TAMまたは別の「抗エストロゲン」抗乳がん剤による治療後の生存転帰が良好または不良となる見込みの (ER+またはER-)乳がん患者を、本明細書で開示する発現パターンの検査により、特定するための非主観的な手段を提供する。従って、従来主観的な解釈によって乳がん患者の予後診断/治療方針を下していたような場合に、本発明は客観的な遺伝子発現パターンを提供するが、そうしたパターンは単独でまたは主観的な判断基準と組み合わせて使用することにより、ER+またはER-乳がん患者のTAMまたは別の「抗エストロゲン」抗乳がん剤による治療後の生存やがん再発を含めた転帰または予想される転帰の、一段と正確な評価をもたらす。本発明の発現パターンはこうして、ER+またはER-乳がんの予後を診断する手段を提供する。さらに該発現パターンは、他の手段では検査しにくい小さなリンパ節陰性腫瘍を検査する手段としても使用可能である。
【0014】
該遺伝子発現パターンは、乳がんの転帰をかなり正確に弁別することができる1つまたは複数の遺伝子を含む。該遺伝子配列はER+乳がんの転帰と相関するものとして特定され、その発現レベルはER+であれER-であれ患者の好ましい治療方針の決定につながるほどである。本発明は従って一実施態様では、乳がんを患う被検者の転帰を予測する方法を提供するが、この予測は該被検者に由来する細胞込み標本について、TAMまたは別の抗エストロゲン抗乳がん剤による治療後の乳がんの転帰と相関するものとして本明細書で開示する1つまたは複数の遺伝子の発現を検査することによる。
【0015】
TAM治療を受けるER+被検者の最高40%は無反応者であるかもしれないという可能性があるため、遺伝子の発現を乳がんの転帰およびTAMへの反応性と相関させることができれば、特に有利である。そうした無反応者を早期に高い信頼性を以って特定することができるため、無反応者向け代替療法(別の「抗エストロゲン」薬による乳がん治療または他の乳がん治療)の検討および/または適用が可能になる。つまり、TAM無反応者を特定することができれば、医療当事者は効果が望めないTAM療法に時間を浪費することなく代替療法の検討および/または採用に踏み切ることができる。無効な療法に時間を浪費している間にもがんはさらに増殖するのであり、そうした増殖のために代替療法が奏功する見込みも時間と共に小さくなる。従って本発明はまた、開示の方法を使用して代替療法による治療に適した無反応者を特定することにより無反応者の生存転帰を改善する方法を提供する。
【0016】
本発明の遺伝子発現パターンは以下に開示する要領で特定される。一般に、ある標本について遺伝子発現プロファイルの大きな抽出見本が、多数の遺伝子に対応するmRNAの発現レベルを定量化することにより、得られる。次いで、このプロファイルを分析して、TAMまたは別の「抗エストロゲン」抗乳がん剤による治療後のRE+乳がんの転帰と正相関または負相関するような発現を示す遺伝子を特定する。すると、本発明の方法によってあるヒト遺伝子部分集合の発現プロファイルが特定の転帰と相関するものとして特定されることになろう。ある遺伝子と特定の延命転帰との相関に関する信頼性は、標本数を多くすれば向上する。十分な信頼性を欠いたままでは、特定遺伝子が実際に転帰と相関するかどうか不確実のままであり、また特定遺伝子の発現を乳がん患者の転帰の特定に首尾よく使用できるかも不確実のままである。本発明は本明細書で開示する遺伝子配列の識別番号または識別番号とは無関係に使用される実際の配列に基づいて実施してよいが、開示の配列の発現との相関が認められる他の任意の配列を使用して実施してもよい。そうした追加の配列は本明細書で開示する方法を含めた技術上周知の任意の手段で識別してよい。
【0017】
ある転帰に対して他の転帰よりも強く相関する遺伝子のプロファイルは、乳がんを患う被検者に由来する標本を検査して該被検者のTAMまたは別の「抗エストロゲン」薬に対する反応性(または無反応性)を予測するために使用してもよい。そうした検査は該被検者のための治療処置を、特定された乳がん転帰を基に決定する方法の一部として採用してもよい。
【0018】
後述のように、相関遺伝子は分子発現表現型をある乳がん転帰に正確に相関させるために、単独で使用して相当の精度を実現するようにしてもよいし、また組み合わせて使用して精度をさらに高めるようにしてもよい。この相関は本明細書で開示するような生存転帰の予測を分子的に支える手段である。相関遺伝子の追加の用途は細胞および組織の区分; 診断および/または予後の判定; および治療法の決定および/または変更である。
【0019】
弁別能を付与するのは、個別遺伝子の発現についての関連性の確認であって、実際の発現レベルを決定するために使用される検査法ではない。検査では、該検査が該遺伝子の発現を「トランスクリプトーム」(ゲノム遺伝子の全転写産物)または「プロテオーム」(ゲノム遺伝子の全翻訳産物)に定量的または定性的に反映する限りで、本明細書で開示するような特定される個別遺伝子の任意の識別特性を利用してもよい。追加の検査には関連プロテオームメンバーのポリペプチド断片の検出に基づくものなどがある。識別特性の非限定的な例は、独自の核酸配列であってコード化に使用されるもの(DNA)または発現に使用されるもの(RNA)、該遺伝子、または該遺伝子によってコードされるタンパク質に対して特異的なエピトープ、または該タンパク質の活性などである。必要なのは、乳がん転帰の弁別に必要な遺伝子配列と発現検査に使用する適切な含細胞標本だけである。
【0020】
別の実施態様では、本発明は単純な生検では不可能なやり方で不純細胞から切り離したまたは他の方法で分離または精製した、単一細胞の、または均質細胞集団の、大域的または準大域的な遺伝子発現を解析することにより、遺伝子発現パターンの特定を可能にする。多数の遺伝子の発現は異なる患者に由来する細胞の間でも同じ患者の標本に由来する細胞の間でも変動するため、個別遺伝子の発現および遺伝子発現パターンに由来する多数のデータを基準データとして使用してモデルを生成させるが、そうしたモデルは特定の乳がん転帰との相関が最も強い発現を示す個別遺伝子の特定を可能にする。
【0021】
追加の実施態様では、本発明は個別発現パターンによって生成させたモデルによって特定される遺伝子の発現を検出するための物理的および方法論的な手段を提供する。そうした手段は、遺伝子発現の根底をなすDNA鋳型の、遺伝子発現の中間体として使用されるRNAの、または遺伝子によって発現されるタンパク性産物の、1つまたは複数の側面の検査を対象としてもよい。
【0022】
さらなる実施態様では、乳がん転帰の識別能ありとモデルによって特定される遺伝子は未知の乳房由来細胞標本の細胞状態の特定に使用してもよい。該標本は非侵襲的手段で分離するのが好ましい。該未知標本中の該遺伝子の発現は測定し、乳がん転帰との相関が認められる遺伝子発現パターンの基準データ中の該遺伝子の発現と比較してもよい。随意に、基準標本との比較は基準標本に基づいて構築されたモデルとの比較でもよい。
【0023】
本発明の利点の1つは、不純物の非乳腺細胞(浸潤リンパ球または他の免疫系細胞など)が存在せず、特定される遺伝子に、または後続の遺伝子発現分析によるに乳がん患者の生存転帰の特定に、悪影響を及ぼす心配がないことである。生検を使用して遺伝子発現プロファイルを生成させる場合にはそうした不純細胞の混入が見られる。しかし、また本明細書で指摘するように、本発明はたとえ不純細胞が存在する場合でも相当の精度で使用できる遺伝子の識別番号を含む。
【0024】
本発明は第2の態様で、TAMまたは別の「抗エストロゲン」抗乳がん剤による治療後の生存転帰の良不良を予想させる乳がん患者の特定のための、多数の遺伝子の発現またはその組み合わせを基礎とした客観的な手段を提供する。これらの遺伝子は、ER+乳がんのTAM治療後の臨床転帰の予測能が大きいと判明している本明細書で開示する発現パターンの要素である。
【0025】
本発明は従って、ER+乳がんでTAM反応性と相関して発現差を示すものとして特定される遺伝子配列を提供する。2つの遺伝子配列はTAM治療に反応するER+乳腺細胞中で発現の増進を(また無反応症例では発現増進の欠如を)示す。他の2つの遺伝子配列はTAM治療に反応するER+乳腺細胞中で発現の減退を(また無反応症例では発現減退の欠如を)示す。
【0026】
TAM反応性のER+乳腺細胞中で発現が増進すると判明した第1の配列セットはヒト第3染色体の3p21.1にマッピングされるインターロイキン17受容体B(IL17RB)配列である。IL17RBは別名インターロイキン17B受容体(IL17BR)であり、それに対応する配列は、また従って本発明の実施に使用してもよいが、UniGene Cluster Hs.5470によって識別される。
【0027】
TAM反応性のER+乳腺細胞中で発現が増進すると判明した第2の配列セットは、コリンデヒドロゲナーゼ(CHDH)の新たに特定された転写領域の配列であり、ヒト第3染色体の3p21.1にマッピングされる。これは3p14.3にマッピングされるL型電位依存性カルシウムチャンネルのアルファー1Dサブユニット(CACNA1D)の位置に近い。本発明は部分的には、AI240933配列を(Hs.399966)内のCACNA1Dの転写部分に対応するものとして特定している公開データベースのエラーを思いがけず発見したことに依拠している。後述のように、CHDHとCACNA1Dの転写領域は、転写が互いにそれぞれの調節領域から他方の調節領域に向けて進むように、収束的に配向している。言い換えれば、両者は第3染色体の同じ領域内で相補鎖から収束的に転写される。
【0028】
従って、本発明はCACNA1Dの転写に関しては間違った配向となるがCHDHの転写に関しては正しい配向となりかつCHDH転写の3'に位置するAI240933の識別番号を含む。仮説にこだわらず、もっぱら本発明の理解を深めるために言えば、AI240933配列はCHDH転写産物の3'末端の一部であると考えられる。それはおそらくCHDHの3'非翻訳領域(UTR)の一部であろう。本発明はHs.126688によって識別される配列だけでなく、CHDHに対応する配列で実施してもよい。
【0029】
TAM反応性ER+乳腺細胞で低発現レベルとなることが判明した第1の配列セットは第17遺伝子の17q21.2にマッピングされているホメオボックスB13(HOXB13)の配列である。HOXB13に対応する配列は、また従って本発明の実施に使用してもよいが、UniGene Cluster Hs.66731によって識別される。
【0030】
TAM反応性ER+乳腺細胞で低発現レベルとなることが判明した第2の配列セットはキノリン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ(QPRT、別名nicotinate-nucleotide pyrophosphorylase, carboxylating)の配列であり、第16遺伝子の16p12.1にマッピングされている。QPRTに対応する配列は本発明の実施に使用してもよいが、UniGene Cluster Hs.335116によって識別される。
【0031】
本発明はこれらの遺伝子配列の識別番号または割り当てられた識別番号とは無関係に使用される実際の配列に基づいて実施してよいが、開示の配列の発現との相関が認められる他の任意の配列を使用して実施してもよい。そうした追加の配列は本明細書で開示する方法を含めた技術上周知の任意の手段で識別してよい。
【0032】
従って、被特定配列はTAMまたは別の「抗エストロゲン」薬による乳がん治療に対する被検者のER+またER-乳がんの反応性または無反応性を、被検者に由来する組織標本または含細胞標本中の乳腺細胞の分析によって判定するための方法に使用してもよい。非限定的な例として、IL17BRおよび/またはCHDH配列の発現増進の欠如、および/またはHOXB13および/またはQPRT配列の発現減退の欠如を無反応症例の指標として使用してもよい。本発明は、ER+またはER-患者のTAMまたは別のSERMに対する反応性を判定するための非経験的手段を提供する。これはTAMまたは別の「抗エストロゲン」薬による乳がん治療後に「模様眺め」する方式にまさる。これらの配列の発現レベルもまた、通常の手段では検査しにくい小さなリンパ節陰性腫瘍を検査する手段としても使用可能である。
【0033】
被特定配列の発現レベルは単独で使用してもよいし、TAMまたは別の「抗エストロゲン」薬による乳がん治療に対する反応性を予測しうる他配列と組み合わせて使用してもよい。本発明の配列は単独でまたは互いに組み合わせて、たとえば個別遺伝子に対応する配列の発現に基づく分析の場合よりも予測力を高めている可能性のある発現レベル比の形で、使用するのが好ましい。本発明は、過少発現配列の発現レベルの過剰発現配列の発現レベルに対する比を、反応性または無反応性の指標として提供する。たとえばHOXB13かQPRTかいずれかのIL17BRまたはCHDHに対する比を使用してもよい。またもちろん、IL17BRかCHDHかいずれかのHOXB13またはQPRTに対する比を使用してもよい。
【0034】
本発明は、分子発現表現型をER+またはER-乳がんの被検者の生理学的反応と相関させるための手段を提供する。この相関は乳がんの被検者を分子的に診断したり治療法を検定したりするための手段をもたらす。該配列の追加の用途は細胞および組織の区分や診断および/または予後の確定などである。該配列を使用して標本中の細胞を、TAMまたは別の「抗エストロゲン」薬による乳がん治療に対し反応性または無反応性と鑑別する方法は、該標本の由来源である被検者のそうした細胞を、また被検者自体を、治療するために採用する治療方法の選定または変更に使用してもよい。
【0035】
本発明のそうした方法は、乳がん発症リスクの高い被検者にタモキシフェンまたは別の「抗エストロゲン」抗乳がん剤を化学発がん抑制薬または化学的予防薬として投与するとの決定を支えるために使用してもよい。本発明のこれらの方法は、細胞形態学とGailリスクモデルの組み合わせによる高リスク患者の特定を提唱しているFabian らの研究(J Natl Cancer Inst. 92(15):1217-27, 2000)を発展させたものである。該方法はTan-Chiuら(J Natl Cancer Inst. 95(4): 302-307, 2003)が論じているような乳がんの相対リスク評価と組み合わせて使用してもよい。非限定的な例は任意の低侵襲標本採取法たとえば無作為(乳輪内皮)細針吸引法または乳管洗浄法(Fabian らが開示している、随意にマンモグラム陽性結果と組み合わせた、またはマンモグラム陽性結果の追加としての、両性または悪性乳房腫瘍の検査法など)による乳細胞についての、(Tan-Chiuらが開示しているような)高リスク被検者の場合に想定される「抗エストロゲン」抗乳がん剤の投与療法の決定を支えるための、開示遺伝子配列の発現レベル検査などである。従って、そうした検査は「抗エストロゲン」抗乳がん剤の適用が化学発がん抑制薬または化学的予防薬として有効である可能性の高い被検者の特定につながろう。本発明によって可能となるそうした適用はタモキシフェン投与で認められるような薬効をもたらす可能性があると見られる(たとえばWickerham D.L., Breast Cancer Res. and Treatment 75 Suppl 1:S7-12, Discussion S33-5, 2000を参照)。本発明の他の用途分野は転移がんを含む進行乳がんについての、「抗エストロゲン」抗乳がん剤による治療に対する反応性または無反応性の検査などである。
【0036】
本発明の検査は、該検査が開示配列の発現を定量的または定性的に反映する限りで、該配列の発現レベルに関連する手段を利用してもよいが、定量的検査手段を優先させるのが好ましい。TAMまたは別の「抗エストロゲン」抗乳がん剤への反応性に関する、従ってまた該抗乳がん剤による治療の転帰に関する予測能を付与するのは、個別遺伝子の発現についての関連性の確認であって、実際の発現レベルを決定するために使用される検査法ではない。識別特性の非限定的な例は、独自の核酸配列であってコード化に使用されるもの(DNA)または発現に使用されるもの(RNA)、開示遺伝子、または該遺伝子によってコードされるタンパク質に対して特異的なエピトープ、または該タンパク質の活性などである。代替手段の例は、発現水準上昇の指標としての核酸増幅の検出、および発現水準低下の指標としての核酸の不活性化、欠失またはメチル化などである。言い換えれば本発明は、開示遺伝子の発現の根底をなすDNA鋳型の、遺伝子発現の中間体として使用されるRNAの、または遺伝子によって発現されるタンパク性産物およびそのタンパク質分解断片の、1つまたは複数の側面を検査することによって実施してもよい。そのようなものとして、そうしたDNA、RNAおよびタンパク性産物の存在、量、安定性、または分解(および速度)の検出は本発明の実施に使用してもよい。
【0037】
本発明の実施は、開示配列と被検者標本の細胞によって発現される配列との間の小さな不一致の存在による影響を受けない。そうした不一致の存在の比限定的な例は、種内個体間の、たとえばHomo sapiensという種内の個別人間患者間の、配列多型の場合に見られる。適切な含細胞標本の発現検査による本発明の実施には、開示配列(および小さな不一致に起因するその変異配列)が非正常または異常乳腺細胞および乳がんの存在と相関するという知見が得られれば十分である。
【0038】
一実施態様では、本発明は開示配列の発現レベルの特定を、ER+またはER-細胞を含む標本中での該配列の分析により可能にする。好ましい一実施態様では、該標本は単純な生検では不可能なやり方で不純細胞から切り取ったまたは他の方法で分離または精製した、単一細胞を、または均質細胞集団を含む。あるいは、組織「切片」内の非切り取り細胞を使用してもよい。そうした分析のための多数の手段が利用可能であり、標本中の大域的または準大域的な遺伝子発現の検査の範囲内での(たとえばマイクロアレイ上での遺伝子発現プロファイリングの一部としての)発現検出法、または定量的PCR (Q-PCR)法またはリアルタイムQ-PCR法などのような特異的検出法などがその例である。
【0039】
該標本は非侵襲的または低侵襲的な手段で単離するのが好ましい。該標本中の開示配列の発現は決定後に非正常またはがん性乳腺細胞の基準データ中の該配列の発現と比較してもよい。あるいは、該発現レベルを、正常または非がん性細胞中の、好ましくは同じ標本または患者に由来するそうした細胞中の、発現レベルと比較してもよい。本発明の、定量的PCRを利用する実施態様では、該発現レベルを同じ標本中の基準遺伝子の発現レベルと比較してもよいし、また発現レベル比を使用してもよい。
【0040】
本発明の実施で個別乳腺細胞を単離する場合には、開示配列の発現の検出に影響を及ぼしかねないような不純な非乳腺細胞(浸潤リンパン球または他の免疫系細胞など)は混入しないというのが1つの利点となる。生検を利用して遺伝子発現プロファイルを生成させる場合には、そうした不純細胞が混入する。しかし、単離、非単離どちらのタイプの標本を使用しようが、遺伝子発現差およびER+乳がん転帰との相関の分析は、本明細書で開示するように、有意の予測能をもちうるものとしての開示配列の信頼性レベルの向上につながる。
【0041】
本発明は、主にヒト乳がんとの関連で開示しているが、乳がんを発症する可能性がある任意の他動物の乳がんとの関連で実施することもできる。本発明の適用に好ましい動物は哺乳動物特に農業生産上重要な動物(非限定的な例はウシ、ヒツジ、ウマ、その他「家畜」)およびペットとして重要な動物(非限定的な例はイヌ、ネコなど)である。
【0042】
本発明の以上の態様および実施態様は、複数「抗エストロゲン」抗乳がん剤の併用に対しても同様に適用してよい。複数抗乳がん剤が併用される場合には、複数のSERM、SERDまたはAIの任意の組み合わせをTAMまたは別の「抗エストロゲン」抗乳がん剤の代りに使用してよい。アロマターゼは乳腺、肝臓、筋肉および脂肪などを含む体組織内の主要エストロゲン合成酵素である。仮説にこだわらず、もっぱら本発明の理解を深めるために言えば、AIはTAMおよび他「抗エストロゲン」抗乳がん剤と同じように機能するものと理解されているが、TAMなどの「抗エストロゲン」薬は乳腺組織中でエストロゲン受容体のアンタゴニストとして、従って抗乳がん剤として作用すると考えられている。AIは非ステロイド系、ステロイド系のいずれでもよい。非ステロイド系AIはヘム補欠分子族を介してアロマターゼを阻害するが、その非限定的例は転移性乳がんに使用されている、または転移性乳がん治療薬として見込まれているアナストロゾール(アリミデックス)、レトロゾール(フェマーラ)、ボロゾール(rivisor)などである。ステロイド系AIはアロマターゼを不活性化するものであり、その非限定的な例はエキセメスタン(アロマシン)、アンドロステンジオン、ホルメスタン(レンタロン)などである。
【0043】
エストロゲンのレベルを引き下げるための他の療法には外科的卵巣切除法または化学的卵巣アブレーション法などがある。前者は卵巣の物理的除去であり、後者は薬物を使用して卵巣のエストロゲン産生を阻止するものである。後者の非限定的な例はゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニストたとえばゴセレリン(ゾラデックス)の使用である。もちろん、本発明は1つまたは複数の「抗エストロゲン」抗乳がん剤による治療の代りにこれらの療法と組み合わせて実施してもよい。
【0044】
本発明は補助タモキシフェン単独での治療を受けた患者60人に由来するホルモン受容体陽性の浸潤性乳腺腫瘍の全ゲノム的マイクロアレイ分析の実行に部分的に依拠して、臨床転帰の大きな予測因子となる2遺伝子の発現比を特定する。この発現比は標準パラフィン包埋臨床材料の、PCRに基づく分析に適合させるのが容易であるが、後述のように、患者20人の独立集合において検証された。
【発明を実施するための最良の形態】
【0045】
本発明の実施態様
本明細書で使用する用語の意味は次のとおりである:
遺伝子発現「パターン」、「プロファイル」または「特性」はTAMまたは別の「抗エストロゲン」抗乳がん剤によるER+乳がん治療に対する反応性と相関する相対的な遺伝子発現をいう。反応性またはその欠如は生存転帰として表示されようが、該生存転帰は、該転帰の識別と予測を可能にするような発現「パターン」、「プロファイル」または「特性」と相関する。
【0046】
「選択的エストロゲン受容体調節薬」またはSERMは「抗エストロゲン」薬であって、ある種の組織中ではエストロゲンと同様に作用するが(アゴニスト)、別の組織中ではエストロゲン作用を阻止する(アンタゴニスト)。「選択的エストロゲン受容体抑制薬」(またはSERD)または「純」抗エストロゲン薬はあらゆる組織でエストロゲン活性を阻害する薬剤を含む。Howell et al. (Best Practice & Res. Clin. Endocrinol. Metab. 18(1):47-66, 2004)を参照。本発明の好ましいSERMは乳腺組織および細胞(乳がん組織および細胞を含む)中でエストロゲンのアンタゴニストである薬剤である。そうした薬剤の非限定的な例はTAM、ラロキシフェン、GW5638、およびICI 182,780などである。種々のSERMの想定される作用機序が概説されてきた(たとえばJordan et al., 2003, Breast Cancer Res. 5:281-283; Hall et al., 2001, J. Biol. Chem. 276(40): 36869-36872; Dutertre et al. 2000, J. Pharmacol. Exp. Therap. 295(2): 431-437; Wijayaratne et al., 1999, Endocrinology 140 (12):5828-5840などを参照)。本発明に関連するSERMの他の非限定的な例はトリフェニルエチレン類たとえばタモキシフェン、GW5638、TAT-59、クロミフェン、トレミフェン、ドロロキシフェンおよびイドキシフェン; ベンゾチオフェン類たとえばアルゾキシフェン(LY353381またはLY353381-HCl); ベンゾピラン類たとえばEM-800; ナフタレン類たとえばCP-336; それにERA-923などである。
【0047】
SERDまたは「純」抗エストロゲン薬の非限定的な例はICI 182,780(フルベストラントまたはファスロデックス)または経口用類似物SR16243およびZK191703、それに前述のようなアロマターゼ阻害薬および化学的卵巣アブレーション薬などである。
【0048】
本明細書で使用する限りでのSERDに包摂される薬剤としては他にプロゲストミメティクスなどのようなプロゲステロン受容体阻害剤および関連薬物たとえば酢酸メドロキシプロゲステロン、メゲースおよびRU-486; ペプチド系ER作用阻害剤たとえばLH-RHアナログ(ロイプロリド、ゾラデックス、[D-Trp6]LH-RH)、ソマスタチン・アナログ、およびERのLXXLLモチーフミメティクス、さらにはチボロンおよびレスベラトロールなどがある。前述のように、本発明の好ましいSERMは乳腺組織および細胞(乳がん組織および細胞を含む)中でエストロゲンのアンタゴニストである薬剤である。そうした好ましいSERMの非限定的な例は任意のSERMの実際の、または想定される(in vivo)代謝産物たとえば4-ヒドロキシタモキシフェン(タモキシフェンの代謝産物)、EM652(またはEM-800がEM-652のプロドラッグである場合にはSHC57068)およびGW7604(GW5638の代謝産物)などである。若干の個別SERMの検討についてはWillson et al. (1997, Endocrinology 138(9):3901-3911)およびDauvois et al. (1992, Proc. Nat’l. Acad. Sci., USA 89:4037-4041を参照。
【0049】
他に、タモキシフェンまたは4-ヒドロキシタモキシフェンと同様に、関連性のある遺伝子発現プロファイルを生成するようなSERMも好ましい。そうしたSERMを特定するための手段の一例はLevenson et al. (2002, Cancer Res. 62:4419-4426)が開示している。
【0050】
「遺伝子」はRNA、タンパク性産物のいずれであれ離散的産物をコードするポリヌクレオチドである。当然、複数のポリヌクレオチドが個別産物をコードしうる場合もある。この用語は同じ産物をコードする遺伝子の対立遺伝子および多型、または染色体上の位置や有糸分裂時の組み換え能に基づく、機能的に関連した(機能の獲得、喪失、変調を含む)そのアナログを包含する。
【0051】
「配列」または「遺伝子配列」は離散的配列のヌクレオチド塩基からなる核酸分子またはポリヌクレオチドである。この用語はRNA、タンパク質のいずれであれ離散的産物をコードする塩基配列(すなわちコード領域)ならびに「コード領域」に先行または後続する塩基配列を包含する。後者の非限定的な例は遺伝子の5'および3'非翻訳領域などである。当然、複数のポリヌクレオチドが個別産物をコードしうる場合もある。また当然、開示配列の対立遺伝子や多型が存在し、該開示配列、対立遺伝子または多型の発現レベルを特定するために本発明の実施に使用される場合もある。対立遺伝子または多型の特定は1つには染色体上の位置や有糸分裂時の組み換え能に基づく。
【0052】
「相関する」、「相関」またはそれと同等の用語は、1つまたは複数の遺伝子の発現と乳がん細胞および/または乳がん患者の生理学的反応との関連をいう。遺伝子は発現レベルに上下があっても、なお反応性、無反応性、または乳がん生存率または転帰との相関を示す場合もある。本発明はたとえばIL17BRおよび/またはCHDH配列の発現の増進とTAMまたは別の「抗エストロゲン」抗乳がん剤に対するER+乳腺細胞の反応性との相関を提供する。従って、この場合の増進は反応性を示す。逆に発現レベルの無変化を含めた増進の欠如は無反応性を示す。同様にして、本発明はたとえばHOXB13および/またはQPRT配列の発現の減退とTAMまたは別の「抗エストロゲン」抗乳がん剤に対するER+乳腺細胞の反応性との相関を提供する。従って、この場合の減退は反応性を示し、また発現レベルの無変化を含めた減退の欠如は無反応性を示す。増進および減退は非正常細胞と正常細胞の発現比として容易に表示されよう。その場合、比1は差異が存在しないことを示し、比2および0.5は非正常細胞の正常細胞に対する発現がそれぞれ2倍、2分の1であることを示す。発現レベルは後述の定量的方法で容易に求められる。
【0053】
たとえば遺伝子発現の増進は次の比で示すことができる: 約1.1、約1.2、約1.3、約1.4、約1.5、約1.6、約1.7、約1.8、約1.9、約2、約2.5、約3、約3.5、約4、約4.5、約5、約5.5、約6、約6.5、約7、約7.5、約8、約8.5、約9、約9.5、約10、約15、約20、約30、約40、約50、約60、約70、約80、約90、約100、約150、約200、約300、約400、約500、約600、約700、約800、約900または約1000。比2は100%(2倍)の発現増進にあたる。遺伝子発現の減退は次の比で示すことができる: 約0.9、約0.8、約0.7、約0.6、約0.5、約0.4、約0.3、約0.2、約0.1、約0.05、約0.01、約0.005、約0.001、約0.0005、約0.0001、約0.00005、約0.00001、約0.000005または約0.000001。
【0054】
任意の表現型については、該表現型と相関関係にある増進レベルの遺伝子配列の発現の、該表現型と相関関係にある減退レベルの遺伝子配列の発現に対する比もまた、該表現型の指標として使用することができる。非限定的な一例として、タモキシフェンによる乳がん治療に対して無反応性の表現型はHOXB13および/またはQPRTの発現増進ともIL17BRおよび/またはCHDHの発現減退とも相関する可能性がある。従って、HOXB13またはQPRTのIL17BRまたはCHDHに対する発現レベル比を無反応性の指標として使用してもよい。
【0055】
「ポリヌクレオチド」はリボヌクレオチド、デオキシリボヌクレオチドのいずれかのヌクレオチドの、任意の長さの重合体である。この用語は分子の一次構造を指すだけであり、従って一本鎖および二本鎖のDNA、RNAを包含する。この用語はまた、非修飾体のポリヌクレオチドだけでなく、技術上周知の標識、メチル化、「キャップ」、アナログによる1つまたは複数の天然ヌクレオチドの置換およびインターヌクレオチド部修飾(非荷電結合たとえばホスホロチオアート結合やホスホロジチオアート結合など)を含む既知タイプの修飾体をも包含する。
【0056】
用語「増幅する」は広義で使用し、DNAまたはRNAポリメラーゼを用いて酵素的に作ることができる増幅産物の創出を意味する。「増幅」は本明細書では一般に所期配列特に標本の所期配列の複数のコピーを作ることをいう。「複数のコピー」は2以上のコピーを意味する。「コピー」は鋳型配列に対する完全な配列相同性または同一性を必ずしも意味しない。mRNAを増幅する方法は一般に技術上周知であり、例として逆転写PCR(RT-PCR)法や米国特許出願第10/062,857号(2001年10月25日提出)明細書、米国仮出願第60/298,847号(2001年6月15日提出)および第60/257,801号(2000年12月22日提出)の各明細書で開示されている方法があるが、以上の明細書はすべて参照によりここにその全体が開示される。使用可能と思われるもう1つの方法は定量的PCR(Q-PCR)法である。あるいは、技術上周知の方法によってRNAを直接、対応するcDNAとして標識してもよい。
【0057】
「対応する」は、ある核酸分子が別の核酸分子に対して相当量の配列同一性を有することを意味する。「相当量」は95%以上、通常98%以上、特に99%以上を意味し、また配列同一性はBLASTアルゴリズムを使用してAltschul et al. (1990), J. Mol. Biol. 215:403-410に記載の要領で(公開デフォルト設定すなわちw=4、t=17のパラメーターを使用して)求める。
【0058】
「マイクロアレイ」は、ガラス、プラスチック、または合成メンブランなどを非限定的な例とする固相担体上に、好ましくは離散的な、各々規定面積を有する領域を、線状配列または2次元配列または3次元配列したものである。マイクロアレイ上の離散的領域の密度は単一固相担体の表面上で検出することになる固定化ポリヌクレオチドの総数によって決まり、好ましくは約50個/cm2以上、より好ましくは約100個/cm2以上、さらになお好ましくは約500個/cm2以上であるが、ただし約1000個/cm2以下であるのが好ましい。マイクロアレイに含まれる固定化ポリヌクレオチドの総数は約500未満、約1000未満、約1500未満、約2000未満、約2500未満または約3000未満であるのが好ましい。DNAマイクロアレイは本明細書では、標本に由来する増幅体またはクローン体のポリヌクレオチドとのハイブリダイズに使用される、チップまたは他表面上に配列させたオリゴヌクレオチドまたはポリヌクレオチドである。マイクロアレイ上の各特定プライマー群の位置が既知であるため、標本ポリヌクレオチドの識別番号はマイクロアレイ上の特定位置への結合を基に決定することができる。本発明の実施ではマイクロアレイの使用に代わる方法として、単一遺伝子配列の発現の検出を目的とした固相担体上の、1つまたは複数の位置の2次元または3次元配置を含めて、任意サイズのアレイを使用してもよい。
【0059】
本発明は過剰発現または過少発現する遺伝子の特定に依拠するため、本発明の一実施態様は標本細胞のmRNAまたはその増幅体またはクローン体の、特定遺伝子配列に特有のポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションによる発現の測定を必要とする。このタイプの好ましいポリヌクレオチドは他の遺伝子配列では見られない少なくとも約20の、少なくとも約22の、少なくとも約24の、少なくとも約26の、少なくとも約28の、少なくとも約30の、または少なくとも約32の連続塩基対の遺伝子配列を含む。前文中の用語「約」は記載値からの1の増減をいう。さらになお好ましいのは、他の遺伝子配列では見られない少なくともまたは約50の、少なくともまたは約100の、少なくともまたは約150の、少なくともまたは約200の、少なくともまたは約250の、少なくともまたは約300の、少なくともまたは約350の、少なくともまたは約400の、少なくともまたは約450の、または少なくともまたは約500の連続塩基対の遺伝子配列を含むポリヌクレオチドである。前文中の用語「約」は記載数値からの10%の増減をいう。もちろんポリヌクレオチドは鎖長が長くなれば、標本の核酸とのハイブリダイゼーションに影響を及ぼさない程度の小さな(たとえば突然変異の存在に起因する)ミスマッチを含んでもよい。そうしたポリヌクレオチドはまた、本明細書で開示する遺伝子の配列またはその特有部分とハイブリダイズすることができるポリヌクレオチド・プローブともいう。そうしたポリヌクレオチドは標識をして、検出しやすくしてもよい。好ましくは、該配列は遺伝子によってコードされるmRNAの配列、そうしたmRNAに対応するcDNA、および/またはそうした配列の増幅体である。本発明の好ましい実施態様では、該ポリヌクレオチド・プローブはアレイ上、他固相担体デバイス上、または該プローブを局在させるスポット内に、固定化される。
【0060】
本発明の別の実施態様では、PCR法やその変法[たとえばQ-PCR法、RT-PCR法およびリアルタイムPCR法(標本中の各配列に対応するmRNAコピーの初期量を測定する手段としてのそれを含む)、随意にリアルタイムRT-PCR法またはリアルタイムQ-PCR法]などの方法によって開示配列の全部または一部を増幅し検出する。そうした方法では、開示配列に対して部分的に相補的である1つまたは2つのプライマーを、核酸合成のプライミングに使用することになろう。新規合成核酸は随意に標識し、直接、または本発明のポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションを介して、検出されるようにする。新規合成核酸は本発明のポリヌクレオチド(を含む配列)と、ハイブリダイゼーションを可能にするような条件下で、接触させることができる。発現した核酸の発現を検出する方法としては他にRNAseプロテクション法(液相ハイブリダイゼーションなど)や細胞のin situハイブリダイゼーションがある。
【0061】
あるいは、また別の実施態様では、遺伝子の発現を関心細胞標本中の発現タンパク質を分析して測定してもよいが、その分析には該細胞標本中の、または被検者の体液中の、個別遺伝子産物(タンパク質)またはそのタンパク質分解断片の1つまたは複数のエピトープに対して特異的である1つまたは複数の抗体を使用する。細胞標本は細胞表面マーカーに対する標識抗体の使用とそれに続くFACS(蛍光活性化細胞選別)法などにより被検者の血液から濃縮した乳がん上皮細胞の標本でもよい。そうした抗体は標識して、遺伝子産物への結合後の検出が容易に行えるようにするのが好ましい。本発明の実施への使用に好適である検出方法の非限定的な例は、含細胞標本または組織に関する免疫組織化学法、含細胞組織または血液標本に関する(抗体サンドイッチ法を含む)ELISA法、質量分析、および免疫PCR法などである。
【0062】
用語「標識」は標識分子の存在を示す検出可能シグナルを生み出しうる組成物をいう。好適な標識の例は放射性同位体、ヌクレオチド発色団、酵素、基質、蛍光分子、化学発光部分、磁性粒子、生物発光部分などである。従って、標識は顕微鏡的、光化学的、生化学的、免疫化学的、電気的、光学的または化学的な手段によって検出しうる任意の組成物である。
【0063】
用語「担体」はビーズ、粒子、ディップスティック、繊維、フィルター、メンブランなどのような通常の担体、およびスライドガラスなどのようなシランまたはシリケート担体をいう。
【0064】
「乳腺組織標本」または「乳腺細胞標本」は本明細書では、乳がんを患っているまたは発症する危険があると疑われる個体から分離した乳腺組織または乳汁の標本をいう。そうした標本は(培養細胞と対比される)一次分離株であり、その回収には任意の非侵襲的または低侵襲的手段たとえば乳管洗浄法、細針吸引法、針生検、米国特許第6,328,709号明細書で開示されている装置と方法、または他の任意好適なも技術的に承認されている手段を用いてよい。あるいは、外科生検などの侵襲的方法で「標本」を回収してもよい。
【0065】
「発現」および「遺伝子発現」は核酸素材の転写および/または翻訳を包含する。
「含む」とその同族語は包含的な意味で使用しており、「包含する」やその同族語と同等の意味をもつ。
【0066】
ある事象たとえばハイブリダイゼーション、鎖延長などが生起することを「可能にする」条件またはある事象の生起に「好適な」条件とは、そうした事象の生起を妨げないような条件である。従って、これらの条件は該事象を許容し、増進し、促進し、および/または導く。そうした条件は、技術上周知であり本明細書で開示してもいるが、たとえばヌクレオチド配列の性質、温度、および緩衝条件などに依存する。これらの条件はまた、所期事象の種類たとえばハイブリダイゼーション、切断、鎖延長または転写に依存する。
配列「変異」は本明細書では、本明細書で開示する関心遺伝子の配列の、基準配列との比較で見た、任意の変異をいう。配列変異の例は置換、欠失または挿入などの機構による配列中の単一ヌクレオチドの変化または複数のヌクレオチドの変化などである。単一ヌクレオチド多型(SNP)もまた本明細書でいう配列変異である。本発明は相対的な遺伝子発現レベルに依拠するため、本発明の実施に際しては本明細書で開示する遺伝子の非コード領域の変異を検査してもよい。
【0067】
「検出」は遺伝子発現およびその変化の直接および間接検出を含む任意の検出のための手段を包含する。たとえば「検出可能な程度に、より少ない」産物の観測は直接、間接いずれでもよいし、またこの用語は何らかの減退を(検出可能シグナルの不存在を含めて)示す。同様にして、「検出可能な程度に、より多い」産物は直接、間接いずれで観測されるにせよ、何らかの増進を示す。
【0068】
開示配列の発現の増進および減退は正常細胞中の発現に対する増減率または倍数変化として次のように定義される。増進は正常細胞中の発現レベルに対する10、20、30、40、50、60、70、80、90、100、120、140、160、180または200%の増進でもよいし、正常細胞中の発現レベルの1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5または10倍の倍数変化でもよい。減退は正常細胞中の発現レベルに対する10、20、30、40、50、55、60、65、70、75、80、82、84、86、88、90、92、94、96、98、99または100%の減退でもよい。
【0069】
本明細書で使用する諸々の専門および学術用語の意味は、特に断らない限り、当業者が一般に理解している意味と同じである。
【0070】
本発明の態様
本発明は第1の態様において、タモキシフェン(TAM)または別の「抗エストロゲン」抗乳がん剤による治療を受けた被検者の乳がん転帰を弁別するような遺伝子発現パターン(またはプロファイルまたは「特性」)の特定と使用に関する。そうしたパターンは通常の技量をもつ乳がん病理学者が精査するような多数の基準細胞または組織標本を使用して本発明の方法により特定されるが、正常または他の非がん性細胞とは対照的な乳がん細胞を反映する。標本の由来源としての被検者によって経験される転帰を発現データと相関させれば、TAMまたは別の「抗エストロゲン」抗乳がん剤による治療後の転帰と相関するパターンを特定することができる。総合的な遺伝子発現パターンは人により、がんにより、またがん細胞により異なるため、本明細書で開示するようにある種の細胞と発現または過少発現する遺伝子とを相関させることができれば乳がん転帰の識別を可能にする遺伝子が特定されよう。
【0071】
本発明は、特にER+乳がん症例において、乳がん転帰に関して発現差を示すと考えられる、または発現差を示す見込みが強い、任意数の遺伝子を使用して実施してもよい。その特定には、100〜1000細胞のレーザー・キャプチャー・マイクロダイセクション(LCM)などを非限定的に含むマイクロダイセクション法によって単離された種々の均質乳がん細胞集団の発現プロファイルを使用してもよい。該発現プロファイルを構成する各遺伝子の発現レベルを特定の転帰と相関させてもよい。また複数遺伝子の発現レベルをクラスター化して特定の転帰との相関を確認してもよい。
【0072】
被検者がタモキシフェンによる治療を受けているときに乳がん転帰と有意の相関を有する遺伝子を使用して、タモキシフェンまたは別の「抗エストロゲン」抗乳がん剤による治療に被検者が反応する場合の転帰と該治療が奏功しない場合の転帰とを最大限に識別するような遺伝子発現モデルを生成させてもよい。あるいは、有意の相関を有する遺伝子を、もっと低い相関を有する遺伝子と組み合わせて使用して、結果的に転帰識別能の有意の低下を招かないようにしてもよい。そうしたモデルは、クラスター分析、サポートベクターマシン(SVM)、ニューラルネットワーク、または他の技術上周知のアルゴリズムなどを非限定的に含む技術上承認されている任意好適の手段によって生成させてもよい。該モデルは識別のためにモデルに使用した遺伝子の発現を基に未知標本の区分を予測することができる。種々のモデルの性能を検定し、モデルの予測能には無益または有害であるウェイト(遺伝子)の特定に役立てるには、“leave one out”(1個抜き)交差検証法を使用してよい。交差検証法はモデルの予測能を強めるような遺伝子の特定にも使用してよい。
【0073】
タモキシフェン治療に関連する特定の乳がん転帰との相関が前記モデルによって確認された遺伝子は、相対的にある特定の転帰を示しそうな被検者を特定する能力に寄与する遺伝子だけに遺伝子発現分析を絞り込む能力を与えくれる。乳がん細胞中の他遺伝子の発現では、乳がん転帰に関する情報の提供が、従って乳がん転帰の識別が、相対的に不可能であろう。
【0074】
当業者には自明であろうが、該モデルは小さな基準遺伝子発現データセットを使用しても大いに有用であり、またさらに多くの基準データを含めれば、精度向上幅は追加データごとに縮小するものの、精度をさらに高めることができる。TAMまたは別の「抗エストロゲン」抗乳がん剤による治療後の種々の転帰の識別を目的とした本明細書で特定し開示する遺伝子の使用による追加基準遺伝子発現データの準備は、型通りの作業であり、当業者は、これらの遺伝子の発現レベルを基にして未知標本の状態を予測するための前述のモデルを生成させるために、容易に実行することができる。
【0075】
本発明の実施に際しての遺伝子発現レベル(の上昇または低下)の測定には、技術上周知の任意の方法を使用してよい。本発明の好ましい一実施態様では、本明細書で特定し開示する遺伝子にハイブリダイズするRNAの検出に基づく発現を使用する。これはRT-PCR法、米国特許第6,794,141号明細書で開示されている方法、およびRNA安定化または不安定化配列の存在または不存在の検出方法などを非限定的に含む技術上周知の、または技術上同等と認められている、任意のRNA検出または増幅+検出法によって容易に実行される。
【0076】
あるいは、DNA状態の検出に基づく発現を用いてもよい。特定の乳がん転帰と相関して発現が減退した遺伝子については、被特定遺伝子のDNAのメチル化または欠失を検出してもよい。これはQ-PCR法を非限定的に含む技術上周知のPCR系の方法によって行うのが容易である。逆に特定の乳がん転帰と相関して発現が増進した遺伝子については、被特定遺伝子のDNAの増幅を検出してもよい。これは技術上周知のPCR系の方法、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)法および化学発色ハイブリダイゼーション(CISH)法によって行うのが容易である。
【0077】
タンパク質レベルまたは活性の存在、上昇または低下の検出に基づく発現を使用してもよい。検出には技術上周知の、かつ該タンパク質の検出に好適と認められている任意の免疫組織化学(IHC)的な方法、血液ベースの方法(特に分泌タンパク質の場合)、(該タンパク質に対する自己抗体を含む)抗体ベースの方法、(がん由来)剥落細胞ベースの方法、質量分析ベースの方法、および(標識リガンドの使用を含む)画像ベースの方法を使用してもよい。抗体ベースと画像ベースの方法は、がん細胞の由来源が不明の場合に、(乳管洗浄や細針吸引などのような)非侵襲的方法で得られた細胞の使用によりがんと診断された後のがんの定位にも有効である。標識抗体またはリガンドは患者体内のがん腫の定位または体液由来の剥落細胞の濃縮支援に使用してもよい。
【0078】
発現状態の判定に核酸ベースの検査法を使用する好ましい実施態様では、本明細書で開示する1つまたは複数の遺伝子配列の、アレイとしての固相基板を非限定的に含む固相担体への、またはビーズへの固定化を、または技術上周知のビーズベース技術を、使用する。あるいは、技術上周知の溶液ベースの発現検査法を使用してもよい。固定化遺伝子は、該遺伝子に対応するDNAまたはRNAとハイブリダイズしうるような、該遺伝子に固有の(または他の形で特有の)ポリヌクレオチドの形をとってもよい。これらのポリヌクレオチドは該遺伝子の完全長配列でもよいし、また(該配列の5'または3'末端からの削除による完全長配列より1ヌクレオチド短い技術上周知の配列を上限とする)短い部分配列であって、該遺伝子に対応するDNAまたはRNAとのハイブリダイゼーションに影響が及ばないように(ミスマッチまたは非相補塩基対の挿入などによる)切断を最適に最小化した部分配列でもよい。好ましくは、使用するポリヌクレオチドは3’末端に由来し、長さはたとえば遺伝子または発現発列のポリアデニル化シグナルまたはポリアデニル化部位から約350、約300、約250、約200、約150、約100または約50ヌクレオチドである。開示遺伝子に対する変異を含むポリヌクレオチドもまた、該変異の存在が検出可能なシグナルを生成させるハイブリダイゼーションをなお可能にする限りで、使用してよい。
【0079】
固定化遺伝子またはその相補配列を使用する目的は、それに関して被検者(たとえば標本の由来源としての患者)の転帰が未知である標本乳腺細胞から調製した核酸標本の状態の判定でもよいし、あるいは該細胞にすでに割り当てられている状態の再確認でもよい。本発明を限定することなく、そうした細胞はER+またはER-乳がん患者に由来してもよい。固定化ポリヌクレオチドに求められるのはただ、該標本に由来する対応核酸分子と特異的に、好適な条件下で、ハイブリダイズするに足る量である。単一の相関遺伝子配列だけでも2つの乳がん転帰を十分な精度で識別しうるが、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、11以上または任意の整数の、本明細書で特定する遺伝子を組み合せて識別能のあるサブセットとして使用して方法の精度を高めるようにしてもよい。本発明は特に、複数の、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、10以上、11以上または任意の整数の、本明細書の図表中で開示する遺伝子の、乳がん生存転帰の特定へのサブセットとしての使用のための選定を見込む。
【0080】
もちろん後掲の表2、3および/またはXXXに記載の遺伝子のうち1以上、2以上、3以上、4以上、5以上、6以上、7以上、8以上、9以上、任意の整数、または全部の遺伝子を使用してもよい。本発明および本明細書に収めた表との関連で使用する「アクセッション」は各遺伝子の配列のGenBankアクセッション番号をいい、それらの配列は参照によりその全体が、GenBankから本願提出日に閲覧した状態のまま、本明細書に組み込まれる。P値は後続の実施例で開示するような値をいう。「E-xx」という表示は「xx」を2桁の数とするべき指数の値の代替表記であり、従って「E-xx」は10-xxである。たとえば「E-xx」の左側の数字と組み合せると、表示される値は左側の数字×10-xxとなる。表で使用されている「遺伝子名」は遺伝子がコード/発現するものの簡単な名前である。
【0081】
本発明の実施への使用が好ましいのは、0.02未満または程度、0.01未満または程度、0.005未満または程度、0.001未満または程度のp値によって特定される相関を有する遺伝子である。本発明は、TAMまたは別の「抗エストロゲン」抗乳がん剤による治療後の種々の転帰を識別するような発現を示す遺伝子の使用を含むが、そうした使用は患者に由来する乳がん標本の検査に基づく該患者の乳がん生存転帰の同時識別を可能にする。
【0082】
第2の態様では、これも本明細書で開示する遺伝子のサブセットの使用の実施態様となるが、本発明はTAMまたは別の「抗エストロゲン」抗乳がん剤による治療へのER+乳がんの反応性の判定を目的とした複数の配列セットの特定と使用に関する。乳がんおよび正常乳腺細胞におけるこれらの配列の発現差はTAMまたは別の「抗エストロゲン」抗乳がん剤への被検者の反応性の予測に使用される。
【0083】
ホルモン療法に対する反応の予測に役立ちそうな初期段階のER+浸潤性乳がんにおける遺伝子発現パターンを特定するために、一様に補助タモキシフェンだけで治療した60人の女性患者に由来する腫瘍を対象にマイクロアレイ遺伝子発現分析を行った。これらの患者は1987〜1997年にMassachusetts General Hospitalを訪ねた合計103人のER+初期段階患者から特定したが、それらの患者については腫瘍試料が瞬間凍結されていて、かつ最低5年間の追跡調査結果が得られた(詳細は表1を参照)。このコホートのうち、28人(46%)の女性は遠隔転移を起こし、再発までの平均期間は4年であった(タモキシフェン無反応者)。また32人(54%)の女性は10年の平均追跡調査期間にわたり無再発であった(タモキシフェン反応者)。TNM分類[Singletary, S.E. et al. “Revision of the American Joint Committee on Cancer staging system for breast cancer(アメリカがん合同委員会乳がん病期分類の改訂).” J. Clin Oncol 20, 3628-36 (2002)を参照]および腫瘍悪性度[Dalton, L.W. et al. “Histologic grading of breast cancer: linkage of patient outcome with level of pathologist agreement(乳がんの組織学的悪性度評価: 患者転帰の、病理学者の同意レベルと関連).” Mod Pathol 13, 730-5 (2000)を参照]の点では反応者と無反応者に差はなかった。
【0084】
遠隔転移の可能性および全生存率が診断時の原発性腫瘍の生物学的特性から予測しうることは遺伝子発現プロファイルを乳がんの臨床転帰に関連付ける過去の研究報告で立証済みである[Huang, E. et al. “Gene expression predictors of breast cancer outcomes (乳がん転帰の予測因子としての遺伝子発現).” Lancet 361, 1590-6(2003); Sorlie, T. et al. “Gene expression patterns of breast carcinomas distinguish tumor subclasses with clinical implications (乳がんの遺伝子発現パターンによる腫瘍亜分類の、臨床上意義のある区別).” Proc Natl Acad Sci USA 98: 10869-74 (2001); Sorlie, T. et al. “Repeated observation of breast tumor subtypes in independent gene expression data sets (独立遺伝子発現データセットでの乳腺腫瘍サブタイプの反復的観察).” Proc Natl Acad Sci USA 100: 8418-23 (2003); Sotiriou, C. et al. “Breast cancer classification and prognosis based on gene expression profiles from population-based study (住民対象研究に由来する遺伝子発現プロファイルに基づく乳がん分類および予後).” Proc Natl Acad Sci USA 100: 10393-8 (2003); van’t Veer, L.J. et al. “Gene expression profiling predicts clinical outcome of breast cancer (遺伝子発現プロファイリングによる乳がん臨床転帰の予測).” Nature 415, 530-6 (2002); およびvan de Vijver, M.J. et al. “A gene-expression signature as a predictor of survival in breast cancer (乳がん生存率の予測因子としての遺伝子発現特性).” N Engl J Med 347, 1999-2009 (2002)を参照]。特に、70遺伝子発現特性は諸々の既知臨床病理学的パラメーターをしのぐ強力な予測因子であることが判明した。しかし、これらの研究では患者は補助療法をまったく受けなかった(van’t Veer, L.J. et al. Nature 2002)か、またはホルモンおよび化学療法レジメンによる非一様治療を受けた(Huang, E. et al.; Sortie, T. et al.; Sortie, T. et al.; Sotiriou, C. et al.; およびvan de Vijver, M.J. et al.)。ここでの研究対象コホートのような、タモキシフェンだけによる治療を受けたER+初期段階乳がん患者は70遺伝子特性で検査した住民の部分集合にすぎない。注目に値するのは、70遺伝子特性を構成する遺伝子のうち61遺伝子が後述の要領で使用したマイクロアレイ上に存在したものの、定義された部分集合の患者の中では臨床転帰との有意の関連は観測されなかった。
【0085】
本明細書で開示する遺伝子配列の集合はESR1、PGR、ERBB2およびEGFRを含めた既存バイオマーカーと比較すると、TAM治療に対する反応性の予測能が有意に大きい。多変量解析によれば、これらの3遺伝子は腫瘍の大きさ、リンパ節の陰性/陽性状態および腫瘍の悪性度とは無関係に臨床転帰の有意の予測因子であることが示唆された。ERおよびプロゲステロン受容体(PR)の発現はTAMへの反応に関する主要な臨床病理学的予測因子となってきた。しかし、ER+腫瘍の最高40%はTAMに反応しないか、またはTAM耐性になる。そこで本発明は、TAMまたは他内分泌療法が有効そうである患者および耐性になり腫瘍を再発しそうな患者を特定することにより患者管理の改善を図れるようにするための、被特定バイオマーカーの使用を提供する。
【0086】
前述のように、本発明によって特定される配列はER+乳がん細胞と相関して発現する。たとえばIL17BRは、I.M.A.G.E. Consortium Cluster NM_018725およびNM_172234によって識別されるが(“The I.M.A.G.E. Consortium: An Integrated Molecular Analysis of Genomes and their Expression,” Lennon et al., 1996, Genomics 33:151-152; http://image.llnl.govをも参照)、TAM治療への反応性の予測に有用であると判明している。
【0087】
本発明の好ましい実施態様では、該クラスターのIL17BR配列ならびにUniGene Homo sapiens クラスターHs.5470のうちの任意の配列またはその固有部分を使用してもよい。同様にして、本明細書で開示する任意のIL17BR配列によってコードされるタンパク質の全部または一部をコードする任意の配列を使用してもよい。I.M.A.G.E. Consortiumクラスターのコンセンサス配列は次のとおりであるが、下線部は(終止コドンで終了する)割り当てコード領域であり、その前と後にそれぞれ5'非翻訳および/または非コード領域と3'非翻訳および/または非コード領域を伴う:
【0088】
【表1】

【0089】
【表2】

【0090】
【表3】

I.M.A.G.E. Consortium およびUniGeneクラスターに属することが確認されている配列のI.M.A.G.E. Consortium Clone ID番号および対応するGenBankアクセッション番号は次のとおりである。Clone ID番号は欠くが、それでもなおIL17BRの配列であることが確認されている配列も含まれる。これらの配列にはIL17BRに対応する「センス」鎖および相補鎖配列も含まれ。各GenBankアクセッション番号は添付の付録に収める。
【0091】
【表4】

【0092】
【表5】

【0093】
【表6】

【0094】
好ましい実施態様では、AF208111またはAF208111.1によって識別される次のIL17BR配列のうちの任意の配列またはその固有部分を本発明の実施に使用してもよい。
【0095】
【表7】

【0096】
本発明の好ましい実施態様では、該クラスターのCHDH配列ならびにUniGene Homo sapiens クラスターHs.126688のうちの任意の配列またはその固有部分を使用してもよい。同様にして、本明細書で開示する任意のCHDH配列(新たにアセンブルされたコンティグの配列を含む)によってコードされるタンパク質の全部または一部をコードする任意の配列を使用してもよい。I.M.A.G.E. Consortiumクラスターのコンセンサス配列は次のとおりであるが、下線部は(終止コドンで終了する)割り当てコード領域であり、その前と後にそれぞれ5'非翻訳および/または非コード領域と既知3'非翻訳および/または非コード領域を伴う:
【0097】
【表8】

【0098】
【表9】

【0099】
I.M.A.G.E. Consortium およびUniGeneクラスターに属することが確認されている配列のI.M.A.G.E. Consortium Clone ID番号および対応するGenBankアクセッション番号は次のとおりである。Clone ID番号は欠くが、それでもなおCHDHの配列であることが確認されている配列も含まれる。これらの配列にはCHDHに対応する「センス」鎖および相補鎖配列も含まれ。本発明の実施に使用される追加配列は図5でアラインメントされている配列であり、添付の付録にも収められている。
【0100】
【表10】

【0101】
【表11】

【0102】
【表12】

【0103】
好ましい一実施態様では、図5または6に収めたCHDH配列のうちの任意の配列またはその固有部分を本発明の実施に使用してもよい。
本発明のもう一組の好ましい実施態様では、I.M.A.G.E. ConsortiumクラスターNM_014298のQPRT配列ならびにUniGene Homo sapiens クラスターHs.126688のうちの任意の配列またはその固有部分、を使用してもよい。同様にして、本明細書で開示する任意のQPRT配列によってコードされるタンパク質の全部または一部をコードする任意の配列を使用してもよい。I.M.A.G.E. Consortiumクラスターのコンセンサス配列は次のとおりであるが、下線部は(終止コドンで終了する)割り当てコード領域であり、その前と後にそれぞれ5'非翻訳および/または非コード領域と3'非翻訳および/または非コード領域を伴う:
【0104】
【表13】

【0105】
I.M.A.G.E. Consortium およびUniGeneクラスターに属することが確認されている配列のI.M.A.G.E. Consortium Clone ID番号および対応するGenBankアクセッション番号は次のとおりである。Clone ID番号は欠くが、それでもなおQPRTの配列であることが確認されている配列も含まれる。これらの配列にはQPRTに対応する「センス」鎖および相補鎖配列も含まれ。各GenBankアクセッション番号は添付の付録に収める。
【0106】
【表14】

【0107】
【表15】

【0108】
【表16】

【0109】
【表17】

【0110】
本発明のもう一組の好ましい実施態様では、I.M.A.G.E. ConsortiumクラスターNM_00631のHOXB13配列ならびにUniGene Homo sapiens クラスターHs.66731のうちの任意の配列またはその固有部分を使用してもよい。同様にして、本明細書で開示する任意のHOXB13配列によってコードされるタンパク質の全部または一部をコードする任意の配列を使用してもよい。I.M.A.G.E. Consortiumクラスターのコンセンサス配列は次のとおりであるが、下線部は(終止コドンで終了する)割り当てコード領域であり、その前と後にそれぞれ5'非翻訳および/または非コード領域と3'非翻訳および/または非コード領域を伴う:
【0111】
【表18】

【0112】
I.M.A.G.E. Consortium およびUniGeneクラスターに属することが確認されている配列のI.M.A.G.E. Consortium Clone ID番号および対応するGenBankアクセッション番号は次のとおりである。Clone ID番号は欠くが、それでもなおHOXB13の配列であることが確認されている配列も含まれる。これらの配列にはHOXB13に対応する「センス」鎖および相補鎖配列も含まれ。各GenBankアクセッション番号は添付の付録に収める。
【0113】
【表19】

【0114】
【表20】

【0115】
【表21】

【0116】
好ましい一実施態様では、BC007092またはBC007092.1によって識別される次のHOXB13配列のうちの任意の配列またはその固有部分を本発明の実施に使用してもよい。
【0117】
【表22】

【0118】
SEQ ID NO.で識別される配列は5'リン酸末端から始まって3'ヒドロキシル末端に至る通常のDNA鎖表示法を用いて提供される。コード領域の割り当ては一般に、登録コンセンサス配列との比較によって行われるので、同じクラスターに割り当てられている他配列との食い違いを含む場合もある。本発明は、前述の3セットの各々に固有の配列の、それよりも短いセグメント(またはセグメントの組み合せ)を使用して実施することもできるので、そうした食い違いは本発明の実施には何ら影響しない。非限定的な例として、IL17BR、CHDH、QPRTまたはHOXB13核酸配列の、3'非翻訳領域配列および/またはコード領域の3末端に由来する配列からなるセグメントを、それぞれIL17BR、CHDH、QPRTまたはHOXB13発現検出用プローブとして使用しても、配列間の差異によるコード領域内の不一致の存在による影響を受けることはない。同様にして、開示のIL17BR、CHDH、QPRTまたはHOXB13配列によってコードされるタンパク質またはその断片を特異的に認識する抗体の使用も、提供されるコード領域の表示に食い違いがあっても支障はない。
【0119】
当業者には自明であろうが、前記配列には開示配列の固有性に寄与しない3'ポリA (または相補鎖上のポリT)ストレッチを含むものがある。開示配列の固有性とはIL17BR、CHDH、QPRTまたはHOXB13核酸にだけ見られる配列の部分または全体を、これらの遺伝子の3'非翻訳部分に見られる固有配列を含めて、いう。本発明の実施のための好ましい固有配列は3セットの各々についてコンセンサス配列に寄与し、以って若干の個人に見られる多型に対して特異的であるよりも多様な個人における発現の検出に役立つような配列である。あるいは個人または小集団に固有の配列を使用してもよい。好ましい固有配列は本明細書で開示するような鎖長の、本発明のポリヌクレオチド配列であるのが好ましい。
【0120】
本発明の実施に際して前記配列の発現レベル(の上昇または低下)を判定するには、技術上周知の任意の方法を使用してよい。本発明の好ましい一実施態様では、前記配列を含むポリヌクレオチドにハイブリダイズするRNAの検出に基づく発現を使用する。これはRT-PCR法(随意にリアルタイムPCR法)、米国特許第6,794,141号明細書で開示されている方法、米国特許第6,291,170号明細書で開示されている方法、および定量的PCR法などを非限定的に含む技術上周知の、または技術上同等と認められている、任意のRNA検出または増幅+検出法によって容易に実行される。RNA安定性の増進(その結果として観測される発現の増進)またはRNA安定性の減退(その結果として観測される発現の減退)を識別する方法を使用してもよい。これらの方法は開示のIL17BR、CHDH、QPRTまたはHOXB13配列を含むmRNAの安定性を増進または減退させる配列の検出をふくむ。これらの方法はまた、mRNA分解の増進の検出を含む。
【0121】
本発明の特に好ましい実施態様では、前記開示配列の3'非翻訳および/または非コード領域中に存在する配列を有するポリヌクレオチドを使用して乳腺細胞中のIL17BR、CHDH、QPRTまたはHOXB13配列の発現または無発現を検出する。そうしたポリヌクレオチドは随意に、前記開示配列のコード領域の3'部分に見られる配列を含んでもよい。コード領域と3'非コード領域の両方に見られる配列の組み合わせを含むポリヌクレオチドは連続配列とし、間に異種配列を介在させないのが好ましい。
【0122】
あるいは、本発明は乳腺細胞中のIL17BR、CHDH、QPRTまたはHOXB13配列の5'非翻訳および/または非コード領域中に存在する配列を有するポリヌクレオチドを使用して実施し、それらの発現レベルを検出するようにしてもよい。そうしたポリヌクレオチドは随意に、コード領域の5'部分に見られる配列を含んでもよい。コード領域と5'非コード領域の両方に見られる配列の組み合わせを含むポリヌクレオチドは連続配列とし、間に異種配列を介在させないのが好ましい。本発明はまた、IL17BR、CHDH、QPRTまたはHOXB13のコード領域に存在する配列を使用して実施してもよい。
【0123】
好ましいポリヌクレオチドは3'または5'非翻訳および/または非コード領域に由来する配列を含むが、該配列は少なくとも約16個、少なくとも約18個、少なくとも約20個、少なくとも約22個、少なくとも約24個、少なくとも約26個、少なくとも約28個、少なくとも約30個、少なくとも約32個、少なくとも約34個、少なくとも約36個、少なくとも約38個、少なくとも約40個、少なくとも約42個、少なくとも約44個または少なくとも約46個の連続ヌクレオチドからなる。前文中の用語「約」は記載値からの1の増減をいう。さらになお好ましいのは、少なくともまたは約50個、少なくともまたは約100個、少なくともまたは約150個、少なくともまたは約200個、少なくともまたは約250個、少なくともまたは約300個、少なくともまたは約350個または少なくともまたは約400個の連続ヌクレオチドからなる配列を含むポリヌクレオチドである。前文中の用語「約」は記載値からの10%の増減をいう。
【0124】
本発明のポリヌクレオチドに見られような前記コード領域の3'または5'末端に由来する配列は、コード領域の長さによって必然的に限定される場合を除いて、前記の場合と同じ長さである。あるコード領域の3'末端は該コード領域の3'側半分までの配列を含んでもよい。逆に言えば、あるコード領域の5'末端は該コード領域の5'側半分までの配列を含んでもよい。もちろん前記配列を、またはその一部分を含むコード領域およびポリヌクレオチドを、丸ごと使用してもよい。
【0125】
3'非翻訳および/または非コード領域に由来する配列とコード領域の関連3'末端とを組み合わせたポリヌクレオチドは、少なくともまたは約100個、少なくともまたは約150個、少なくともまたは約200個、少なくともまたは約250個、少なくともまたは約300個、少なくともまたは約350個または少なくともまたは約400個の連続ヌクレオチドであるのが好ましい。好ましくは、使用ポリヌクレオチドは遺伝子の3'末端に由来し、たとえば遺伝子または発現配列のポリアデニル化シグナルまたはポリアデニル化部位から約350、約300、約250、約200、約150、約100または約50ヌクレオチド以内などである。開示遺伝子の配列に対する変異を含むポリヌクレオチドもまた、該変異の存在が検出可能なシグナルを生成させるハイブリダイゼーションをなお可能にする限りで、使用してもよい。
【0126】
本発明の別の実施態様では、前記開示配列の5'および/または3'末端に由来するヌクレオチドの欠失を含むポリヌクレオチドを使用してもよい。欠失は好ましくは5'および/または3'末端に由来する1〜5、5〜10、10〜15、15〜20、20〜25、25〜30、30〜35、35〜40、40〜45、45〜50、50〜60、60〜70、70〜80、80〜90、90〜100、100〜125、125〜150、150〜175または175〜200ヌクレオチドの欠失であるが、欠失の範囲は開示配列の長さや発現レベルの検出にポリヌクレオチドを使えるようにするという必要性によって必然的に限定されよう。
【0127】
前記開示配列の3'末端に由来する本発明の他ポリヌクレオチドの例はQ-PCR用のプライマーおよび随意プローブのポリヌクレオチドなどである。好ましくは、該プライマーおよびプローブは遺伝子または発現配列のポリアデニル化シグナルまたはポリアデニル化部位から約350、約300、約250、約200、約150、約100または約50ヌクレオチド未満の領域を増幅するものである。
【0128】
本発明のさらに別の実施態様では、前記開示配列の3'末端を含む部分を含むポリヌクレオチドを使用してもよい。そうしたポリヌクレオチドは開示配列の3'末端に由来する少なくともまたは約50個、少なくともまたは約100個、少なくともまたは約150個、少なくともまたは約200個、少なくともまたは約250個、少なくともまたは約300個、少なくともまたは約350個または少なくともまたは約400個の連続ヌクレオチドを含むであろう。
【0129】
本発明はまた、乳腺細胞中のIL17BR、CHDH、QPRTまたはHOXB13の発現の検出に使用するポリヌクレオチドを包含する。該ポリヌクレオチドは、前記SEQ ID NO.に見られる配列と、IL17BR、CHDH、QPRTまたはHOXB13配列との組み合わせとしては天然には見られないような異種配列との組み合わせからなるもっと短いポリヌクレオチド配列を含んでもよい。
非限定的な例として、次の配列のうちの1つを含むポリヌクレオチドを本発明の実施に使用してもよい。
【0130】
【表23】

【0131】
SEQ ID NO:8はAI240933配列の一部分であり、SEQ ID NO:9はAJ272267(CHDH mRNA)配列の一部分である。両配列は図3に示す2つの60マーの位置に対応する。SEQ ID NO:10は開示のいくつかのHOXB13配列とハイブリダイズしうるポリヌクレオチドである。
【0132】
従って、本発明はSEQ ID NO: 8、9または10の配列とSEQ ID NO: 8、9または10には通常見られない1つまたは複数の異種配列との組み合わせからなるポリヌクレオチドを使用して実施してもよい。あるいはまた、本発明はSEQ ID NO: 8、9または10の配列とSEQ ID NO: 8、9または10に通常見られる1つまたは複数の配列との組み合わせからなるポリヌクレオチドを使用して実施してもよい。
【0133】
SEQ ID NO: 8または9を含む配列を有するポリヌクレオチドは、天然物、合成物のいずれであれ、TAMまたは別の「抗エストロゲン」抗乳がん剤に対して反応性である乳がん細胞中で過剰発現する核酸および該抗乳がん剤に対して無反応性である乳がん細胞中で過剰発現しない核酸の検出に使用してもよい。SEQ ID NO: 10を含む配列を有するポリヌクレオチドは、天然物、合成物のいずれであれ、TAMまたは別の「抗エストロゲン」抗乳がん剤に対して反応性である乳がん細胞中で過少発現する核酸および該抗乳がん剤に対して無反応性である乳がん細胞中で過少発現しない核酸の検出に使用してもよい。
【0134】
SEQ ID NO: 8および9に関して前述したようなポリヌクレオチドに使用してもよい追加の配列は次の配列であるが、これは開示のIL17BR配列の一部分に対して相補的である:
【0135】
【表24】

【0136】
SEQ ID NO: 10に関して前述したようなポリヌクレオチドに使用してもよい追加の配列は次の配列であるが、これは開示のIL17BR配列の一部分に対して相補的である:
【0137】
【表25】

【0138】
さらに、確定した配列のプライマーを使用してCHDH配列を部分的にPCR増幅し、その発現レベルを判定してもよい。たとえば次の配列を含むプライマーを使用してAI1240933配列の一部分を増幅してもよい。
【0139】
【表26】

【0140】
本発明の実施態様によっては、該プライマーは技術上周知の定量的RT-PCR法に、随意に、2本鎖核酸に結合する標識または検出可能プローブ[Sybr Green(登録商標)など]またはTaqManプローブなどのような特異的プローブの存在下に、使用してもよい。一実施態様では、そうしたプローブはAI240993 配列検出用の配列AGT AAG AAT GTC TTA AGA AGA GG (SEQ ID NO:15)を含んでもよい。
【0141】
さらに、天然核酸分子中に存在する、SEQ ID NO: 8〜15を含む他の配列特に固有配列を有するポリヌクレオチドを本発明の実施に使用してもよい。
【0142】
本発明の実施に使用する他のポリヌクレオチドは、前記配列に対し、ハイブリダイゼーション法の使用により発現を検出するに足る相同性を有するポリヌクレオチドを包含する。そうしたポリヌクレオチドは開示のIL17BR、CHDH、QPRTまたはHOXB13配列との同一性が約95%、約96%、約97%、約98%または約99%であるのが好ましい。同一性は前述のようにBLASTアルゴリズムを使用して求める。本発明の実施に使用する他のポリヌクレオチドは、本発明のポリヌクレオチドと、ストリンジェントな条件下に、またはそれと同等の条件下に、ハイブリダイズする能力を基に記述してもよい。該条件はハイブリダイゼーション:約30%v/v〜約50%ホルムアミドおよび約0.01M〜約0.15M塩、洗浄: 約55〜約65℃以上である。
【0143】
本発明のさらなる実施態様では、ヒトIL17BR、CHDH、QPRTまたはHOXB13配列の一方または両方の分子鎖を含む1本鎖核酸分子の集団がプローブとして提供され、該集団の少なくとも一部分が乳がん細胞のRNAから定量的に増幅される核酸分子の一方または両方の分子鎖とハイブリダイズするようにする。該集団はヒトIL17BR、CHDH、QPRTまたはHOXB13配列のアンチセンス鎖だけとし、乳がん細胞に由来する分子または増幅分子のセンス鎖が該集団の一部分とハイブリダイズするようにしてもよい。IL17BRまたはCHDHの場合には、該集団は正常乳腺細胞に由来するIL17BRまたはCHDH相補配列を含む発現(または増幅)核酸分子の量と比較して十分な超過量の、ヒトIL17BRまたはCHDH配列の該一方または両方の分子鎖を含むのが好ましい。この超過条件は乳がん細胞中の核酸発現量の増加を増加として容易に検出しうるようにする。
【0144】
あるいは、該1本鎖分子集団は乳がん細胞から増幅した核酸分子の一方または両方の分子鎖の全体に対し等量または超過量であるため、一方または両方の分子鎖の全体と十分にハイブリダイズすることができる。好ましい細胞はER+乳がん患者またはタモキシフェンまたは1つまたは複数の他「抗エストロゲン」抗乳がん剤による治療が見込まれる乳がん患者の細胞である。該1本鎖分子はもちろん、本明細書で開示するような任意のIL17BR、CHDH、QPRTまたはHOXB13配列を含む2本鎖核酸分子またはポリヌクレオチドの変性体でもよい。
【0145】
該集団はまた、IL17BRまたはCHDH配列を含む核酸分子に、正常乳腺細胞の核酸分子の場合の少なくとも2倍のレベルでハイブリダイズすると記述してもよい。前述の実施態様の場合と同様に、該核酸分子は乳がん細胞から、該細胞中での発現量を反映するよう、定量的に増幅したものでもよい。
【0146】
該集団は固相担体上に、随意にマイクロアレイ上の位置という形で、固定化するのが好ましい。該集団の一部分は非正常または異常乳腺細胞からRNA増幅法により定量的に増幅した核酸分子にハイブリダイズする。該増幅RNAは、使用増幅法がIL17BR、CHDH、QPRTまたはHOXB13を含む配列との関連で定量的である限り、乳がん細胞に由来するものでもよい。
【0147】
本発明の別の実施態様では、DNA状態の検出に基づく発現を使用してもよい。QPRTまたはHOXB13 DNAのメチル化、欠失または他の不活性化状態の検出は非正常乳腺細胞中に見られる発現減退の印として使用しうる。これはPCRに基づく技術上周知の方法で行うのが容易である。QPRTまたはHOXB13のプロモーター領域の状態を、QPRTまたはHOXB13配列の発現減退の印として検査してもよい。非限定的に例はプロモーター領域に見られる配列のメチル化状態である。
【0148】
逆に、DND配列の増幅の検出を非正常乳腺細胞中に見られる発現増進の印として使用してもよい。これは技術上周知の、PCRに基づく蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)法および化学発色ハイブリダイゼーション(CISH)法で行うのが容易である。
【0149】
発現状態の判定に核酸ベースの検査法を使用する好ましい実施態様では、本明細書で開示する1つまたは複数の遺伝子配列の、アレイとしての固相基板を非限定的に含む固相担体への、またはビーズへの固定化を、または技術上周知のビーズベース技術を、使用する。あるいは、技術上周知の溶液ベースの発現検査法を使用してもよい。固定化配列は、該配列に対応するDNAまたはRNAとハイブリダイズしうるような、開示のポリヌクレオチドの形をとってもよい。
【0150】
固定化ポリヌクレオチドを使用する目的は、標本乳がん細胞から調製した核酸標本の状態の、随意に該細胞のER状態を検出するための方法の一部としての、判定でもよい。本発明を限定することなく、そうした細胞は乳がんを患っているかまたは乳がんを発症するリスクがあると疑われる患者に由来してもよい。固定化ポリヌクレオチドに求められるのはただ、該標本に由来する対応核酸分子との特異的なハイブリダイゼーションを(他の核酸分子との検出可能なまたは顕著なハイブリダイゼーションを起こすことなく)起こすに足る量である。
【0151】
本発明のさらに別の実施態様では、開示遺伝子のうちの2遺伝子の発現レベル比を使用してTAMまたは別のSERMによる治療に対する反応を予測する。該発現レベル比は、同じ表現型と相関しながら、過少発現と過剰発現のように反対の発現パターンを示す2遺伝子の発現レベル比であるのが好ましい。非限定的な例はHOXB13のIL17BRに対する比またはQPRTのCHDHに対する比である。本発明のこの態様は1つには、そうした発現レベル比は個別遺伝子の発現レベルよりもTAM治療転帰との相関が強いとの観測結果に基づいている。たとえばHOXB13のIL17BRに対する発現レベル比は実測区分精度が77%である。
【0152】
非限定的な例として、Q-PCR法に基づく遺伝子発現レベルの検出に由来するCt値を使用して1つまたは複数の「抗エストロゲン」抗乳がん剤による治療に対する反応を予測するための発現レベル比を導き出してもよい。
【0153】
本発明の追加の態様
1つまたは少数の遺伝子だけを分析対象とする実施態様では、適正なプライマーの使用により標本乳がん細胞に由来する核酸を優先的に増幅させて、分析対象遺伝子だけが増幅され該細胞中で発現する他遺伝子に由来する不純なバックグラウンドシグナルが少なくなるようにしてもよい。あるいは、また多数の遺伝子を分析対象とする場合またはごく少数の細胞(または1つの細胞)を使用する場合には、該標本に由来する核酸を大域的に増幅した後で固定化ポリヌクレオチドにハイブリダイズさせる。もちろん技術上周知の方法によりRNAまたは対応するcDNAを増幅せずに直接標識し、使用してもよい。
【0154】
タンパク質レベルまたは活性の存在、上昇または低下の検出に基づく配列発現を使用してもよい。検出には技術上周知の、かつ該タンパク質の検出に好適と認められている任意の免疫組織化学(IHC)的な方法、体液ベースの方法(IL17BR、CHDH、QPRTまたはHOXB13ポリペプチドまたはその断片が血液などの体液に見られ場合)、(該タンパク質に対する自己抗体を含む)抗体ベースの方法、(がん由来)剥落細胞ベースの方法、質量分析ベースの方法、および(標識リガンドの使用を含む)画像ベースの方法を使用してもよい。抗体ベースと画像ベースの方法は、がん細胞の由来源が不明の場合に、(乳管洗浄や細針吸引などのような)非侵襲的方法で得られた細胞の使用によりがんと診断された後のがんの定位にも有効である。標識抗体またはリガンドは患者体内のがん腫の定位に使用してもよい。
【0155】
そうした検出方法用の抗体としてはポリクローナル抗体(随意に天然由来源から単離したポリクローナル抗体)やモノクローナル抗体があり、IL17BR、CHDH、QPRTまたはHOXB13ポリペプチドまたはその断片の抗原としての使用により調製される抗体を含む。そうした抗体およびその(Fab断片を比限定的に含む)断片は、他のポリペプチドではなくIL17BR、CHDH、QPRTまたはHOXB13ポリペプチド(またはその断片)に特異的に結合して検出可能なシグナルを生成する能力のために、非正常またはがん性乳腺細胞を発見または診断する働きをする。同じ能力を備える組み換え、合成およびハイブリッド抗体もまた本発明の実施に使用してよい。抗体はIL17BR、CHDH、QPRTまたはHOXB13ポリペプチド(またはその断片)による免疫付与で容易に生成させることができるし、また本発明の実施にはポリクローナル血清を使用してもよい。
【0156】
抗体ベースの検出方法は技術上周知であり、非限定的な例としてELISA法、サンドイッチ法、ウェスタンブロット法、フローサイトメトリー法などがある。そうした方法で分析対象となる標本はIL17BR、CHDH、QPRTまたはHOXB13ポリペプチドまたはその断片を含む任意のものである。非限定的な例は、該ポリペプチドを含有する乳腺細胞および細胞内容物、それに体液(血液、血清、唾液、リンパ液、ならびに粘膜および他細胞分泌物など)である。
【0157】
前記の検査実施態様は多種多様な形で、患者由来の乳がん細胞標本における遺伝子発現を基礎にした、TAMまたは別の「抗エストロゲン」抗乳がん剤による治療への反応の特定または検出に使用してよい。場合によっては、これは一次検診としてのマンモグラフィーまたは健康診断をすでに受けている患者に関する二次検診にあたろう。一次検診の結果が陽性ならば、その後の針生検、乳管洗浄、細針吸引または他の類似の方法によって前記の検査実施態様に使用する標本を、ER状態検査の前に、該検査と同時に、または該検査の後に、確保する。本発明は、乳腺細胞標本の調製を目的とした非侵襲的プロトコールたとえば乳管洗浄または細針吸引と組み合せると特に有用である。
【0158】
本発明は、乳がん転帰を識別(または線引き)するための、より客観的な判定基準セットを離散的な遺伝子セットの遺伝子発現プロファイルという形で提供する。本発明の特に好ましい実施態様では、検査法を使用してタモキシフェンまたは別の「抗エストロゲン」抗乳がん剤による治療後の転帰の良不良を識別する。転帰の識別では、約10か月、約20か月、約30か月、約40か月、約50か月、約60か月、約70か月、約80か月、約90か月、約100か月、または約150か月後の比較を行ってもよい。
【0159】
生存転帰の良不良は互いとの比較により相対的に示してもよいが、外科的介入による乳がん腫瘍切除から約60か月経過後の生存率50%超を「良好」な転帰とみなしてもよい。また、外科的介入から約60か月経過後の生存率約50%、70%、約80%または約90%超を「良好」な転帰とみなしてもよい。「不良」転帰は外科的介入による乳がん腫瘍切除から約60か月経過後の生存率を50%以下としてもよい。また、外科的介入から約40か月経過後の生存率約70%以下を、または約20か月経過後の生存率約80%以下を、「不良」転帰とみなしてもよい。
【0160】
少数の遺伝子の発現を基礎とする本発明の別の実施態様では、乳がん細胞標本の単離および分析を次の要領で行う:
(1) 乳管洗浄等の非侵襲的方法により患者から標本を採取する。
(2) 標本を調製し顕微鏡スライド上にコートする。留意すべきは、乳管洗浄の結果として前述の要領による細胞診の対象となる細胞群が得られることである。
(3) 病理検査または画像解析ソフトウェアで標本をスキャンして異型細胞の存在を調べる。
(4) 異型細胞が観測されたら、それらの細胞を(たとえばLCMなどのようなマイクロダイセクションにより)回収する。
(5) 回収細胞からRNAを抽出する。
(6) RNAを直接またはcDNAへの変換またはその増幅後に検査し、IL17BR、CHDH、QPRTまたはHOXB13配列の発現を調べる。
【0161】
本発明を使用すれば、熟練した医師は、本発明の実施によって下される予後判定に基づいてTAMまたは別の「抗エストロゲン」抗乳がん剤による治療を処方または保留することができる。
これは、触診可能な病変の検出後に乳腺細胞の細針吸引または針生検が続くような場合にも当てはまる。該細胞はプレーティング後に病理学者または自動画像システムによる精査を受け、前述のようにして分析用の細胞が選別される。
【0162】
しかし、本発明はまたFFPE材料として保存されているものを含めた固形組織生検材料と併用してもよい。たとえば固形生検材料を回収し調製して視覚化し、次いで開示の1つまたは複数の遺伝子の発現の判定に基づいて乳がん転帰を判定してもよい。別の非限定的な例として、固形生検材料を回収し調製して視覚化し、次いでIL17BR、CHDH、QPRTまたはHOXB13配列の発現を判定してもよい。好ましい一手段はポリヌクレオチドまたはタンパク質とのin situハイブリダイゼーションの使用による該遺伝子の発現を検査するためのプローブの特定である。
【0163】
代替方法として、固形組織生検材料を使用して分子を抽出し、続いて1つまたは複数の遺伝子の発現を分析してもよい。この方法だと、がん細胞またはがん性と疑われる細胞だけの視覚化と回収を不要にすることができる。もちろんこの方法は、積極的に選別された細胞だけを回収して、分析用分子の抽出に使用するように変更してもよい。その場合には、視覚化と選別は遺伝子発現分析の前提条件となろう。FFPE標本の場合には、開示の要領で細胞の回収とそれに続くRNAの抽出、増幅、検出を行う。
【0164】
前記の方法のさらなる変更態様では、非侵襲的または低侵襲的な標本採取法で得られた標本の使用によるTAMまたは別の「抗エストロゲン」抗乳がん剤による治療への反応を判定するだけの単純なPCRまたはアレイ・ベース検査法の一部として開示の配列を使用してもよい。標本からの配列発現の検出は、簡便と精度の向上期す意味で、開示配列ならびに正常および非正常乳腺細胞の間で発現レベルに差が生じることが判明している配列を含む他配列の発現を検査することができる単一マイクロアレイの使用によってもよい。
【0165】
本発明の他の用途例は、乳がん細胞標本をTAMまたは別の「抗エストロゲン」抗乳がん剤による治療への種々の反応を示すものとして識別する能力の提供である。これは客観的な遺伝子/分子レベルの判定基準に基づく前進をもたらす。
【0166】
発現パターンまたはプロファイル中の多数の遺伝子の発現を基礎とする本発明の別の実施態様では、乳がん細胞標本の単離および分析を次の要領で行う:
(1) 乳管洗浄等の非侵襲的方法により患者から標本を採取する。
(2) 標本を調製し顕微鏡スライド上にコートする。留意すべきは、乳管洗浄の結果として前述の要領による細胞診の対象となる細胞群が得られることである。
(3) 病理検査または画像解析ソフトウェアで標本をスキャンして非正常および/または異型細胞の存在を調べる。
(4) そうした細胞が観測されたら、それらの細胞を(たとえばLCMなどのようなマイクロダイセクションにより)回収する。
(5) 回収細胞からRNAを抽出する。
(6) RNAを精製、増幅および標識する。
(7) 乳がん転帰の識別との相関を示すものとして本明細書で開示するもののうちの1つまたは複数の遺伝子の全体または部分に対して相補的であるポリヌクレオチドを含むマイクロアレイと標識核酸を好適なハイブリダイゼーション条件下に接触させ、次いでプロセッシングとスキャニングにより、細胞中の該遺伝子の発現レベルを判定する各スポットの(細胞中の一般遺伝子発現に対応する対照に対する相対的な)強度パターンを獲得する。
(8) 該強度パターンを、転帰との相関を示す既知乳がん細胞標本中の(同じ対照に対する相対的な)遺伝子発現パターンとの比較によって解析する。
【0167】
前記方法の具体的な一例は、一次検診後の乳管洗浄の実行、非正常および/または異型細胞の観測および分析のための回収であろう。種々の乳がん生存転帰に対応する基準遺伝子発現データを用いて(最近傍型分析、SMVまたはニューラルネットワークなどを非限定的に含む)アルゴリズムによって生成させたモデルによって可能となる既知発現パターンとの比較により、該細胞は転帰が良好または不良である被検者との相関を示すものとして特定される。別の例は、外科的介入後に被検者から切除された乳腺腫瘍を獲得し、随意に該腫瘍に由来する乳がん細胞の、異型、非正常またはがん細胞の識別/特定のための分離および調製の前に該腫瘍の全部または一部をFFPE標本へと変換し、次いで該細胞を分離し、さらに前記のステップ5〜8へと進む。
【0168】
あるいは、該標本から正常細胞とがん細胞の両方を分析のために回収してもよい。これら両細胞の各々に関する遺伝子発現パターンは互いに比較されることになろうし、またその中でモデルおよび正常対個別比較も基準データセットに基づいて行われよう。このアプローチは、(標本と基準データセットの両方における)正常細胞および正常細胞とがん細胞の差異に由来するずっと多くの情報を利用して、該標本に由来するがん細胞中の遺伝子発現を基に患者の乳がん転帰を判定するので、がん細胞単独のアプローチよりもずっと強力でありうる。
【0169】
本明細書で特定される遺伝子はまた、ER+乳がん標本の乳がん生存および再発転帰を該標本中の該特定遺伝子の発現に基づいて予測することができるモデルの生成に使用してもよい。そうしたモデルは開示の、または他の技術上周知の、および技術上同等と認められる、任意のアルゴリズムにより、乳がん転帰の識別を目的とした開示の遺伝子(およびそのサブセット)を用いて生成させてもよい。該モデルは該標本に由来するサブセットの遺伝子の発現プロファイルを、該モデルの構築に使用される基準データのプロファイルと比較するための手段を提供する。該モデルは該標本プロファイルを各基準プロファイルと、または基準プロファイルに基づいて行われる線引きを確定するモデルと、比較することができる。加えて、該標本プロファイルに由来する相対値をモデルまたは基準プロファイルとの比較に使用してもよい。
【0170】
本発明の好ましい実施態様では、正常およびがん性として識別される、同じ被検者に由来する乳腺細胞標本を、随意に単一マイクロアレイの使用によって分析して、該モデルの生成に使用する遺伝子発現プロファイルを求めてもよい。これは正常標本の発現プロファイルからの相対的な差異に基づいて生存および再発転帰を識別する有利な手段をもたらしてくれる。これらの差異は従って、やはり該モデルの生成に使用した正常および個別がん性基準データの間の差異の比較に使用することができる。
【0171】
製造物品
本発明の材料および方法は周知の方法で生み出されるキットの作製に適するのが理想である。本発明は従って、開示配列の発現を検出するための(非限定的な例として本明細書で開示しているポリヌクレオチドおよび/または抗体などのような)試薬を含むキットを提供する。そうしたキットは随意に、該試薬に識別のための説明または表示、あるいは本発明の方法への使用に関する説明を添えて含む。そうしたキットは、該方法に使用する種々の試薬のうち各々1つまたは複数の(通常は濃縮)試薬を入れた容器を、たとえば既製マイクロアレイ、緩衝液、好適なヌクレオチド三リン酸(たとえばdATP、dCTP、dGTPおよびdTTP; またはrATP、rCTP、rGTPおよびrUTP)、逆転写酵素、DNAポリメラーゼ、RNAポリメラーゼ、および本発明の1つまたは複数のプライマー複合体(たとえば好適な長さのポリ(T)またはランダムプライマーを、RNAポリメラーゼに対して反応性のプロモーターに結合したもの)と共に含む。説明書一式も含めるのが普通であろう。
【0172】
本発明によって提供される方法は全自動化または半自動化してもよい。本発明の諸々の態様はまた、本質的に開示遺伝子のサブセットからなり、含細胞標本を介した乳がん生存転帰の識別と無関係の材料は除外されるようにして実施してもよい。
以上、本発明を一通り説明したが、その理解は以下の実施例を参照することによりさらに深まろう。ただし、以下の実施例はあくまでも説明が目的であって、特に断らない限り、本発明を限定するものではない。
【実施例】
【0173】
実施例1
一般的な方法
患者と腫瘍の選別基準および研究方案
本研究のための試験対象患者基準は次のとおりであった: 1987〜1997年にMassachusetts General Hospital (MGH)で診断を受けたER+乳がんの女性、標準乳腺手術(非定型的乳房切除術または腫瘍摘出術)および放射線療法とそれに続く5年間の全身的補助タモキシフェン療法による治療; 再発前に化学療法を受けた患者はいない。臨床および追跡調査データはMGH腫瘍登録に由来した。登録データに欠失はなかったが、閲覧可能な諸々の医療記録を二次的なデータ確認として再吟味した。
【0174】
初期診断時に採取された腫瘍試料がMGHの凍結およびホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織バンクから得られた。腫瘍細胞の割合が20%超の腫瘍標本を選別したが、全標本の平均は75%超であった。各標本について次の特性を評価した: 腫瘍タイプ(乳管対小葉)、腫瘍サイズ、Nottingham combined悪性度。エストロゲンおよびプロゲステロン受容体の発現を生化学的なホルモン結合分析および/または免疫組織化学的な染色により判定した[Long, A.A. et al. “High-specific in-situ hybridization. Methods and applications(高特異性in situハイブリダイゼーション: 方法と応用).” Diagn Mol Pathol 1, 45-47 (1992)]; 受容体の陽性は生化学および免疫組織化学検査の結果がそれぞれ3 fmol/mg超の腫瘍組織(Long et al.)および1%超の核染色と定義した。
【0175】
研究方案は次のとおりである:補助タモキシフェン療法での転帰または反応の予測に役立つ遺伝子発現特性を特定するために60個の凍結乳がん試料からなるトレーニングセットを選別した。反応者に由来する腫瘍はTNM病期および腫瘍悪性度を非反応者のそれにマッチさせた。このトレーニングセットで識別された遺伝子発現差を20個の浸潤性乳腺腫瘍からなる独立群においてホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)組織標本により検証した。
【0176】
LCM、RNAの単離および増幅
60症例コホート内の核凍結標本について、RNAを厚さ8μmの全組織切片とPixCell IIe LCMシステム(Arcturus, Mountain View, CA)使用のレーザーキャプチャーマイクロダイセクション法で獲得した4,000〜5,000個の悪性上皮細胞からなる高濃縮細胞群の両方から単離した。20症例テストセット内の各腫瘍標本につき、RNAを4枚の8μm厚FFPE組織切片から単離した。単離RNAを、RiboAmp(登録商標)キット(凍結標本)または他のFFPE用システムを使用して、キットメーカー(Arcturus Bioscience, Inc., Mountain View, CA)の説明書に従い、1ラウンドのT7ポリメラーゼin vitro転写に付した。標識cDNAを5-[3-アミノアリル]ウリジン5'-三リン酸(Sigma-Aldrich, St. Louis, MO)の存在下、T7ポリメラーゼ使用の第2ラウンドRNA in vitro転写により生成させた。Universal Human Reference RNA (Stratagene, San Diego, CA)を同様にして増幅した。精製aRNAを後でCy5(実験用標本)またはCy3(基準標本)色素(Amersham Biosciences)に結合させた。
【0177】
マイクロアレイ分析
インクジェットin situ合成技術(Agilent Technologies, Palo Alto, CA)を使用してカスタム設計の22,000-遺伝子オリゴヌクレオチド(60マー)マイクロアレイを作製した。Cy5標識標本RNAとCy3標識基準RNAを65℃、1×ハイブリダイゼーション緩衝液(Agilent Technologies)中で同時ハイブリダイズした。スライドを37℃で、0.1×SSC/0.005%Triton X-102により洗浄した。画像分析はAgilentの画像分析ソフトウェアを使用して行った。強度依存非線形回帰法を用いて生データのCy5/Cy3比を正規化した。
【0178】
全標本に由来する正規化Cy5/Cy3比からなるデータマトリックスは各遺伝子について中央値が中心となるようにした。各遺伝子の、全標本にわたる分散を計算し、上位25%の高分散遺伝子(5,475)を選別してさらなる分析に回した。Dr. Richard SimonおよびAmy Pengによって開発されたBRB ArrayTools (http://linus.nci.nih.gov/BRB-ArrayTools.htmlを参照)を使用して遺伝子発現差の有意性に関する識別および並べ替え検定を行った。GeneMathsソフトウェア(Applied-Maths, Belgium)により、コサイン相関と完全連結法を用いて階層的クラスター分析を行った。他の諸々の統計的手法(2標本t検定、受診者動作特性分析、多変量ロジスティック回帰分析および生存分析)はオープンソースの統計環境R(http://www.r-project.orgを参照)を用いて行った。ROC曲線の有意性の統計的検定はDeLongの方法によった[“Comparing the areas under two or more correlated receiver operating characteristic curves: a nonparametric approach(2以上の相関ROC曲線下面積の比較: ノンパラメトリックなアプローチ).” Biometrics 44, 837-45 (1988)]。無病生存率は診断データから計算した。イベントは第1遠隔転移としてスコアし、最終追跡調査時点で無病であり続けた患者は打ち切り例とした。生存曲線はKaplan-Meier推計値によって計算し、対数順位検定で比較した。
【0179】
リアルタイム定量的PCR分析
60症例トレーニング標本中の59標本を対象にリアルタイムPCRを行った(1症例は試料が不十分であったため除外した)。20症例検証標本に対しても同様のPCRを行った。要するに、2μgの増幅RNAを2本鎖cDNAに変換し、各症例につき12ngのcDNAをトリプリケートで、ABI7900HT(Applied Biosystems)によるリアルタイムPCRに使用した[Gelmini, S. et al. “Quantitative polymerase chain reaction-based homogeneous assay with fluorogenic probes to measure c-erbB-2 oncogene amplification(蛍光発生プローブを使用する定量的PCRベースの均一検定法によるc-erbB-2がん遺伝子増幅の測定).” Clin Chem 43, 752-8 (1998)参照]。各遺伝子につき使用したPCRプライマー対および蛍光発生MGBプローブ(5'→3')の配列はそれぞれ次のとおりである:
【0180】
【表27】

【0181】
正常、DCISおよびIDC標本中でのHOXB13の相対的発現レベルを次のようにして計算した。まずすべてのCT値を、全標識中の最大CT値(40)を差し引くことにより、調節し、次いで相対発現レベル=1/2^CTとした。
【0182】
in situハイブリダイゼーション
Roche Applied ScienceのDIG RNA標識キット(SP6/T7)を用いて、キット添付のプロトコールに従ってDIG標識RNAプローブを調製した。凍結組織切片を対象にin situハイブリダイゼーションを行った(Long et al.)。
【0183】
【表28】

【0184】
【表29】

【0185】
実施例2
発現差を示す遺伝子の特定
前述の22,000-遺伝子オリゴヌクレオチド・マイクロアレイを使用して遺伝子発現プロファイリングを行った。最初の分析では保存されていた一次生検材料に由来する凍結腫瘍組織切片から単離したRNAを使用した。得られた発現データセットをまず各遺伝子の総分散を基にフィルターにかけて高分散の上位5,475遺伝子(75パーセンタイル)を選別し、さらなる分析に回した。この縮小データセットを使用して、各遺伝子についてタモキシフェン反応者と非反応者を比較するt検定を行い、カットオフP値=0.001で、発現差を示す19遺伝子を特定した(表2)。これだけ多数の、またはそれ以上の数の、発現差を示す遺伝子が、患者クラスを治療転帰に関して無作為に並べ替え、t検定を2,000回反復することによって偶然に選別される確率は0.04と推定される。従って、この分析はタモキシフェン反応者と無反応者の原発性乳がんの間には統計的に有意の遺伝子発現差が存在することの証明となった。
【0186】
【表30】

【0187】
分析対象を腫瘍細胞に純化して、間質細胞の混入に起因する潜在的なばらつきを回避するために、同じコホートを各組織切片内の腫瘍細胞のレーザーキャプチャーダイセクション(LCM)後に再分析した。全組織切片データセットの場合と同じ分散に基づく遺伝子フィルタリングとt検定スクリーニングを用いて、発現差を示す9遺伝子配列をP<0.001で特定した(表3)。
【0188】
【表31】

【0189】
LCMと全組織切片の両方の分析で発現差を示すものとして特定されたのは次の3遺伝子だけである: ホメオボックス遺伝子HOXB13(AI700363およびBC007092として2回特定された)、インターロイキン17B受容体L17BR(AF208111)、および電位依存性カルシウムチャンネルCACNA1D (AI240933)。HOXB13はタモキシフェン無反応症例で過剰発現という差異を示したのに対し、IL17BRとCACNA1Dはタモキシフェン反応症例で過剰発現した。興味深いことに、QPRT配列は反応者と無反応者における発現レベルに関してHOXB13と類似性を有していた。これらの遺伝子について、2つの独立した分析での、臨床転帰と有意に関連する腫瘍由来マーカーとしての識別に基づいて、各々単独の場合と他遺伝子との併用の場合の実用性を評価した。
【0190】
臨床転帰マーカーとしてのHOXB13、IL17BRおよびCACNA1D発現の感受性と特異性を明らかにするために、受診者動作曲線(ROC)分析[Pepe, M.S. “An interpretation for the ROC curve and inference using GLM procedures (GLMプロシージャの使用によるROC曲線の解釈および推論).” Biometrics 56, 352-9 (2000)] を用いた。全組織切片に由来するデータに関しては、HOXB13、IL17BRおよびCACNA1Dの曲線下面積(AUC)はそれぞれ0.79、0.67、0.81であった(表4と図1上段を参照)。LCM由来データのROC分析では、それぞれのAUC値は0.76、0.8、0.76であった(表4と図1下段を参照)。
【0191】
【表32】

【0192】
統計的有意性検定によれば、これらのAUC値はいずれも、0.5すなわち臨床転帰をランダムに予測する独立モデルに由来する期待値を有意に上回った。従って、これらの3遺伝子は補助タモキシフェン療法の臨床転帰を予測するうえでの潜在的実用性を有する。比較として、タモキシフェンに対する反応の可能性の評価に目下使用されているマーカーを比較分析した。ER(遺伝子記号ESR1)とプロゲステロン受容体(PR、遺伝子記号PGR)の発現レベルはタモキシフェンに対する反応と正相関することが判明している[Fernandez, M.D., et al. “Quantitative oestrogen and progesterone receptor values in primary breast cancer and predictability of response to endocrine therapy(原発性乳がんにおける定量的ERおよびPR値と内分泌療法への反応の予測可能性).” Clin Oncol 9, 245-50 (1983); Ferno, M. et al. “Results of two or five years of adjuvant tamoxifen correlated to steroid receptor and S-phase levels(2年間または5年間の補助タモキシフェン療法の結果とステロイド受容体およびS期レベルの相関性).” South Sweden Breast Cancer Group, and South-East Sweden Breast Cancer Group. Breast Cancer Res Treat 59, 69-76 (2000); Nardelli, G.B., et al. “Estrogen and Progesterone receptors status in the prediction of response of breast cancer to endocrine therapy (preliminary report)(エストロゲンおよびプロゲステロン受容体の状態と内分泌療法に対する乳がんの反応の予測: 暫定報告).” Eur J Gynaecol Oncol 7, 151-8 (1986); およびOsborne, C.K., et al. “The value of estrogen and progesterone receptors in the treatment of breast cancer (乳がん治療におけるエストロゲンおよびプロゲステロン受容体の重要性).” U 46, 2884-8 (1980) を参照]。
【0193】
さらに、増殖因子シグナル伝達経路(EGFR、ERBB2)はエストロゲン依存性シグナル伝達を負に調節し、以ってタモキシフェンに対する反応性の消失に寄与すると考えられる[Dowsett, M. “Overexpression of HER-2 as a resistance mechanism to hormonal therapy for breast cancer (乳がんホルモン療法に対する耐性機構としてのHER-2の過剰発現).” Endocr Relat Cancer 8, 191-5 (2001) を参照]。これらの遺伝子はROC分析によりその臨床転帰との相関が確認されたが、AUCは0.55〜0.69の範囲にすぎず、PGRとERBB2が統計的有意性に到達する(表4を参照)。
【0194】
LCMデータセットは特に重要である。というのはEGFR、ERBB2、ESR1およびPGRは現在、免疫組織化学法または蛍光in situハイブリダイゼーション法のいずれかを使用して腫瘍細胞レベルで測定されているからである。HOXB13、IL17BRおよびCACNA1Dはいずれも個別の臨床転帰マーカーとして、EGFR、ERBB2、ESR1およびPGRの性能をしのいだ(Table 4を参照)。
【0195】
実施例3
HOXB13/IL17BR発現比の特定
次の要領でHOXB13/IL17BR発現比を転帰に関するロバストな複合予測因子として特定した。HOXB13とIL17BRは反対の発現パターンを示すので、HOXB13/IL17BR発現比を調べて、それがタモキシフェンに対する反応の複合予測因子としてより優れた性能を発揮するかどうか判定するようにした。実際、全組織切片、LCM両データセットで2遺伝子発現比のほうが遺伝子単独の場合よりも治療転帰との相関が強まることはt検定でもROC分析でも証明された(Table 5を参照)。HOXB13/IL17BRのAUC値は組織切片データセットでは0.81、LCMデータセットでは0.84であった。HOXB13とCACNA1Dとの組み合わせまたは3マーカーすべてを一緒にした分析では予測能の改善にはならなかった。
【0196】
【表33】

【0197】
HOXB13/IL17BR発現比を既知の乳がん予後因子たとえば患者の年齢、腫瘍のサイズ、悪性度、病期およびリンパ節陰性・陽性状態など[Fitzgibbons, P.L. et al. “Prognostic Factors in breast cancer. College of American Pathologists Consensus Statement 1999(乳がんの予後因子: 米国臨床病理医協会1999年合意声明).” Arch Pathol Lab Med 124, 966-78 (2000) を参照] と比較した。単変量ロジスティック回帰分析によれば、このコホートでは腫瘍サイズに限りかろうじて有意であった(P=0.04)が、患者選定時に反応者群と非反応者群を腫瘍のサイズ、悪性度、リンパ節状態などの点で十分にマッチさせてあるので、この結果は意外ではなかった。組織切片データのROC分析によれば、タモキシフェンに対する反応に関する既知の正の予測因子(ESR1およびPGR)および負の予測因子(ERBB2およびEGFR)のなかではPGRとERBB2に限って有意であった(表4を参照)。従って、HOXB13/IL17BR発現比を単独で含むロジスティック回帰モデルとHOXB13/IL17BR発現比を腫瘍サイズやPGRおよびERBB2の発現レベルと組み合せて含むロジスティック回帰モデルの比較を行った(Table 6を参照)。単独のHOXB13/IL17BR発現比は有意性の高い(P=0.0003)予測因子であり、オッズ比が10.2 (95%CI: 2.9〜35.6)である。多変量モデルでは、HOXB13/IL17BR発現比は唯一の有意変数(P=0.0002)であり、オッズ比が7.3(95%CI: 2.1〜26)である。従って、HOXB13/IL17BR発現比は補助タモキシフェン療法の治療転帰に関する強力な独立予測因子である。
【0198】
【表34】

【0199】
実施例4
HOXB13/IL17BR発現比の独立検証
複雑なマイクロアレイ特性の2遺伝子発現比への還元は、リアルタイム定量的PCR(RT-QPCR)分析などのような、より単純な検出戦略を可能にする。60トレーニング症例中59症例に由来する凍結組織切片を使用してRT-QPCRで求めたHOXB13/IL17BR発現比を分析した(図2パネルa)。RT-QPCRデータは凍結腫瘍試料のマイクロアレイデータとかなり一致した(相関係数はHOXB13がr=0.83、IL17BRがr=0.93)。さらに、PCR由来のHOXB13/IL17BR発現比はΔCTで表されるが[CTは所定の閾値に到達するまでのPCR増幅サイクル数(たとえば図2パネルaおよびb)であり、ΔCTはHOXB13とIL17BRの間のCT差である]、マイクロアレイ由来データと強く相関し(r=0.83)、また治療転帰とも強く相関した(t検定P=0.0001、図2パネルc)。従って、HOXB13/IL17BR発現比に関する通常のRT-QPCR分析は凍結腫瘍試料のマイクロアレイ系分析と同等であるように見受けられる。
【0200】
HOXB13/IL17BR発現比の予測能を独立の患者コホートで検証するために、1991〜2000年にMGHで補助タモキシフェンだけによる治療を受けた女性に由来するER+初期段階原発性乳がんであって、診療記録とパラフィン包埋組織が得られる20症例を追加的に特定した。この20症例のうち、10症例は平均5年の経過期間後に再発し、また10症例は9年の平均追跡調査期間、無病であり続けた(詳細は表9を参照)。
【0201】
【表35】

【0202】
RNAをホルマリン固定パラフィン包埋(FFPE)全組織切片から抽出し、直線的に増幅し、RT-QPCR分析用の鋳型として使用した。この独立患者コホートでのHOXB13/IL17BR発現比はトレーニングコホートの結果と同様に、臨床転帰と高い相関を示し(t検定P=0.035)、HOXB13の発現の増進(ΔCTの低下)が転帰不良と相関した(図2パネルd)。HOXB13/IL17BR発現比の予測精度を検定するために、凍結組織切片(n=59)に由来するRT-QPCRデータを使用してロジスティック回帰モデルを構築した。このトレーニングセットでは、該モデルは76%の総合精度で治療転帰を予測した(P=0.000065、95%信頼区間:63%〜86%)。陽性および陰性予測力はそれぞれ78%、75%であった。このモデルを検証コホートの20独立患者に適用すると、患者20人中15人で治療転帰が正しく予測され(総合精度75%、P=0.04、95%信頼区間: 51%〜91%)、陽性および陰性予測力はそれぞれ78%、73%であった。
【0203】
該モデルによる予測に基づく患者群のKaplan-Meier分析の結果として、トレーニングセットと独立テストセットの両方で有意差のある無病生存曲線が得られた(図2パネルeおよびf)。
【0204】
図8のパネルBに、患者60人コホートの切片標本およびLCM標本(それぞれsections、LCMで示す)に対する該発現比の適用のさらなる代表例を示す。そこには31のFFPE標本(FFPEで示す)に対する該発現比の適用例も示す。
【0205】
実施例5
CHDH発現の結果としての追加配列の特定
AI240933配列がCACNA1Dのコード鎖に対して相補的であるという事実から、CACNA1Dコード鎖配列以外の配列の発現が前記実施例2で検出されるかという疑問が生じた。そこで、ある配列アセンブリーを作製し、CHDHの一部として発現される、より大きな既知配列3'領域が特定されるようにした(図5および3を参照)。このより大きな配列は、既知CHDH配列とAI240933配列の両方の部分にまたがる計算された4283ヌクレオチド領域を増幅することができるプローブを使用するPCR分析により、発現が確認された(図4を参照)。
図5の配列アセンブリーは図6に示す、より大きなコンティグ配列の特定につながる。このより大きなコンティグが特定される可能性に対する追加の裏づけは該コンティグのマウスCHDH配列に対するアラインメントによってもたらされる。
CHDH配列とCACNA1D配列の間の、考えられる有力な関係を図7に示す。
【0206】
実施例6
QPRT/CHDH発現比の特定と使用
前記実施例3で開示した要領に準じてQPRT/CHDH発現比をロバストな複合予測因子として特定した。QPRTとCHDHの発現パターンを示すので、QPRT/CHDH発現比を調べて、タモキシフェンに対する反応の複合予測因子として性能を評価するようにした。図8のパネルAに、患者60人コホートの切片標本およびLCM標本(それぞれsections、LCMで示す)に対する該発現比の適用結果を示す。そこには31のFFPE標本(FFPEで示す)に対する該発現比の適用例も示す。
【0207】
追加の参考文献
Ma, X.J. et al. Gene expression profiles of human breast cancer progression (ヒト乳がん進行の遺伝子発現プロファイル). Proc Natl Acad Sci USA 100, 5974-9 (2003).
Nicholson, R.I. et al. Epidermal growth factor receptor expression in breast cancer: association with response to endocrine therapy (乳がんにおける上皮細胞増殖因子受容体の発現: 内分泌両方に対する反応との関連). Breast Cancer Res Treat 29, 117-25 (1994).
【0208】
本明細書で引用した諸々の文献は特許および特許出願の明細書、それに出版物を含めて、その旨の言及の有無に関係なく、参照をもってその全体が本明細書に組み込まれる。
本発明の説明は以上をもって尽きるが、本発明が広範囲の同等パラメーター、濃度および条件の下で、本発明の本質と範囲から逸脱することなく、また不当な実験に俟つことなく、実施しうることは言うまでもない、
【0209】
本発明はその具体的な実施態様との関連で説明したが、実施態様の変更は当然可能である。本願は、一般に本発明の原理に従う限り周知または慣用の範囲内での開示からの逸脱を含めて、本発明の変種、使用または改作をカバーするものである。
【0210】
付録
IL17BRクラスターの配列として特定された配列
【0211】
【表36】

【0212】
【表37】

【0213】
【表38】

【0214】
【表39】

【0215】
【表40】

【0216】
【表41】

【0217】
【表42】

【0218】
【表43】

【0219】
【表44】

【0220】
【表45】

【0221】
【表46】

【0222】
【表47】

【0223】
【表48】

【0224】
【表49】

【0225】
【表50】

【0226】
【表51】

【0227】
【表52】

【0228】
【表53】

【0229】
【表54】

【0230】
【表55】

【0231】
【表56】

【0232】
【表57】

【0233】
【表58】

【0234】
【表59】

【0235】
【表60】

【0236】
【表61】

【0237】
【表62】

【0238】
【表63】

【0239】
【表64】

【0240】
【表65】

【0241】
【表66】

【0242】
【表67】

【0243】
【表68】

【0244】
【表69】

【0245】
CHDH配列として特定された配列
【0246】
【表70】

【0247】
【表71】

【0248】
【表72】

【0249】
【表73】

【0250】
【表74】

【0251】
【表75】

【0252】
【表76】

【0253】
【表77】

【0254】
【表78】

【0255】
QPRT配列として特定された配列
【0256】
【表79】

【0257】
【表80】

【0258】
【表81】

【0259】
【表82】

【0260】
【表83】

【0261】
【表84】

【0262】
【表85】

【0263】
【表86】

【0264】
HOXB13配列として特定された配列
【0265】
【表87】

【0266】
【表88】

【0267】
【表89】

【0268】
【表90】

【0269】
【表91】

【0270】
【表92】

【0271】
【表93】

【0272】
【表94】

【0273】
【表95】

【0274】
【表96】

【0275】
【表97】

【0276】
【表98】

【0277】
【表99】

【0278】
【表100】

【0279】
【表101】

【0280】
【表102】

【0281】
【表103】

【0282】
【表104】

【0283】
【表105】

【0284】
【表106】

【0285】
【表107】

【0286】
【表108】

【0287】
Table 4に由来する、前記以外の配列
【0288】
【表109】

【0289】
【表110】

【0290】
【表111】

【0291】
【表112】

【0292】
【表113】

【0293】
【表114】

【0294】
【表115】

【0295】
【表116】

【0296】
【表117】

【0297】
Table 5に由来する、前記以外の配列
【0298】
【表118】

【0299】
【表119】

【0300】
【表120】

【0301】
【表121】

【図面の簡単な説明】
【0302】
【図1】図1は乳がん転帰予測因子としてのIL17BR、HOXB13およびCACNA1D発現レベルの受診者動作特性(ROC)分析であり、上段の3グラフは全組織切片に関し、下段の3グラフはレーザーマイクロダイセクション法で採取した細胞に関する。AUCは曲線下面積である。
【図2】図2はTAMに対する反応性または無反応性の指標としてのHOXB13発現のIL17BR発現に対する比の検証に関連する6つのパネルを含む。パネルaおよびbは反応者、無反応者両標本中でのQ-PCRによるHOXB13およびIL17BR配列の遺伝子発現分析の結果である。パネルcおよびdは反応者および無反応者のトレーニングおよび検証データセットのプロットであり、どちらの場合も0は反応者のデータポイントであり、1は無反応者のデータポイントである。パネルeおよびfは反応者および無反応者のトレーニングおよび検証データセットの、生存率の関数としてのプロットを示すが、各パネルの上の曲線は反応者を、下の曲線は無反応者を表す。
【図3】図3はCHDH遺伝子配列の既知3'領域と本発明によって特定された追加のCHDH 3’非翻訳領域とを示す略図である。
【図4】図4はPCR増幅反応の結果であり、該反応では図1の略図から期待されるものと一致するアンプリコンが生成される。使用PCRプライマーは次のとおりであった: 順方向CHDHプライマー: 5'-AAA GTC TTG GGA AAT GAG ACA AGT-3'; 逆方向プライマー83R: 5'-AGC TGT CAT TTG CCA GTG AGA-3'および81R: 5'-CTG TCA TTT GCC AGT GAG AGC3'。
【図5−1】図5はCHDH 3'末端領域を含むコンティグを特定するための28配列のアラインメントを示す。このアラインメントはAI240933配列を含み、該配列はアセンブルされたコンセンサス配列の3'末端を含む。
【図5−2】図5の続き。
【図5−3】図5の続き。
【図5−4】図5の続き。
【図5−5】図5の続き。
【図5−6】図5の続き。
【図5−7】図5の続き。
【図5−8】図5の続き。
【図5−9】図5の続き。
【図5−10】図5の続き。
【図5−11】図5の続き。
【図5−12】図5の続き。
【図6】図6は新しいCHDH 3'末端を含むアセンブルされたコンティグの配列を示す。
【図7】図7はヒト第3染色体のある領域の説明であり、そこではCACNA1Dの位置はHs.399966で識別され、またCHDHの位置はHs.126688で識別される。
【図8】図8パートAはTAMに対する反応性または無反応性の指標としてのQPRT発現のCHDH発現に対する比の検証に関連する6つのパネルを含む。上段の3パネル(QPRT:CHDH AI240993)はGenBank AI240993配列の発現用プローブを使用した比を表す。下段の3パネル(QPRT:CHDH AJ272267)はCHDHに対応する部分的なmRNAの配列として特定されているGenBank AJ272267配列の発現用プローブを使用した比を表す。図8パートBはTAM反応性の指標としてのHOXB13発現のIL17BR発現に対する比の、類似の使用を含む。反応者(R)および無反応者(NR)データセットのプロットが示されている。P値は2標本t-検定の値である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
乳がんを患う被検者がタモキシフェンまたは他の抗エストロゲン抗乳がん剤による治療を受けた場合の該被検者の生存転帰を判定する方法であって、該被検者に由来する乳がん細胞標本について表2または表3中の1つまたは複数の遺伝子の発現レベルを検査するステップを含む前記方法。
【請求項2】
発現レベルは転移によるがん再発の可能性を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
抗エストロゲン抗乳がん剤は選択的エストロゲン受容体調節薬(SERM)、選択的エストロゲン受容体抑制薬(SERD)またはアロマターゼ阻害薬(AI)より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
乳がん細胞標本はER+である、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
1つまたは複数の遺伝子の発現レベルを検査するステップは乳がん細胞標本からのmRNAの増幅によって調製される核酸の検出を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
1つまたは複数の遺伝子の発現レベルを検査するステップは乳がん細胞標本に由来する核酸の、定量的PCR法による検出を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
1つまたは複数の遺伝子の発現レベルを検査するステップは、該遺伝子によってコードされるタンパク質または該タンパク質のタンパク質分解断片の検出を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
タンパク質またはそのタンパク質分解断片の検出は被検者の血液中の、または該被検者の血液から濃縮した乳がん上皮細胞中の、該タンパク質またはそのタンパク質分解断片の検出を含む、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
1つまたは複数の遺伝子はIL17BR、CHDH、QPRTおよびHOXB13より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
乳がんのある被検者がタモキシフェンまたは別の抗エストロゲン抗乳がん剤による治療を受けた場合の該被検者の、または乳がんを患いタモキシフェンまたは別の抗エストロゲン抗乳がん剤による治療を受けている被検者の、予後を判定する方法であって、該被検者に由来する乳がん細胞標本について表2または表3中の1つまたは複数の遺伝子の発現レベルを検査するステップを含む前記方法。
【請求項11】
発現レベルは転移によるがん再発の可能性を示す、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
抗エストロゲン抗乳がん剤は選択的エストロゲン受容体調節薬(SERM)、選択的エストロゲン受容体抑制薬(SERD)またはアロマターゼ阻害薬(AI)より選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
乳がん細胞標本はER+である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
1つまたは複数の遺伝子の発現レベルを検査するステップは乳がん細胞標本からのmRNAの増幅によって調製される核酸の検出を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
1つまたは複数の遺伝子の発現レベルを検査するステップは乳がん細胞標本に由来する核酸の、定量的PCR法による検出を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
1つまたは複数の遺伝子の発現レベルを検査するステップは該遺伝子によってコードされるタンパク質または該タンパク質のタンパク質分解断片の検出を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
タンパク質またはそのタンパク質分解断片の検出は被検者の血液中の、または該被検者の血液から濃縮した乳がん上皮細胞中の、該タンパク質またはそのタンパク質分解断片の検出を含む、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
標本は低侵襲的手法によって採取されるか、または針生検材料、切除生検材料、入管洗浄標本、細針吸引標本、または該標本からマイクロダイセクトした細胞より選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項19】
1つまたは複数の遺伝子はIL17BR、CHDH、QPRTおよびHOXB13より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項20】
乳がん患者に対する治療処置を、タモキシフェンまたは別の抗エストロゲン抗乳がん剤による治療に対する該患者の予期される反応または無反応を基に決定する方法であって、
タモキシフェンまたは別の抗エストロゲン抗乳がん剤による治療に対する該患者の予期される反応または無反応を、該患者に由来する乳がん細胞標本について表2または表3中の1つまたは複数の遺伝子の発現レベルを検査することによって判定するステップ; および
そうした生存転帰が判定される患者に合った適切な治療法を選択するステップ;
を含む前記方法。
【請求項21】
発現レベルは転移によるがん再発の可能性を示す、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
抗エストロゲン抗乳がん剤は選択的エストロゲン受容体調節薬(SERM)、選択的エストロゲン受容体抑制薬(SERD)またはアロマターゼ阻害薬(AI)より選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項23】
乳がん細胞標本はER+である、請求項20に記載の方法。
【請求項24】
1つまたは複数の遺伝子の発現レベルを検査するステップは乳がん細胞標本からのmRNAの増幅によって調製される核酸の検出を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項25】
1つまたは複数の遺伝子の発現レベルを検査するステップは乳がん細胞標本に由来する核酸の、定量的PCR法による検出を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項26】
1つまたは複数の遺伝子の発現レベルを検査するステップは該遺伝子によってコードされるタンパク質または該タンパク質のタンパク質分解断片の検出を含む、請求項20に記載の方法。
【請求項27】
タンパク質またはそのタンパク質分解断片の検出は被検者の血液中の、または該被検者の血液から濃縮した乳がん上皮細胞中の、該タンパク質またはそのタンパク質分解断片の検出を含む、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
標本は低侵襲的手法によって採取されるか、または針生検材料、切除生検材料、入管洗浄標本、細針吸引標本、または該標本からマイクロダイセクトした細胞より選択される、請求項20に記載の方法。
【請求項29】
1つまたは複数の遺伝子はIL17BR、CHDH、QPRTおよびHOXB13より選択される、請求項1に記載の方法。
【請求項30】
乳がんのあるヒト被検者がタモキシフェンまたは別の抗エストロゲン抗乳がん剤による治療を受けた場合の該被検者の生存転帰を判定する方法であって、該被検者に由来する乳腺細胞標本について、1つまたは複数のヒトHOXB13、IL17BR、QPRTまたはCHDH配列の、または乳がん細胞中でそれらの発現と相関する発現を示す別の配列の、発現を検査するステップを含み、HOXB13および/またはQPRT配列の過少発現はタモキシフェンまたは別の抗エストロゲン抗乳がん剤による治療に対する反応性を、IL17BRおよび/またはCHDH配列の過剰発現は該治療に対する無反応性を、それぞれ示すことを特徴とする前記方法。
【請求項31】
抗エストロゲン抗乳がん剤は選択的エストロゲン受容体調節薬(SERM)、選択的エストロゲン受容体抑制薬(SERD)またはアロマターゼ阻害薬(AI)より選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
乳がん細胞標本はER+であるか、または低侵襲的手法によって採取されるか、または針生検材料、切除生検材料、入管洗浄標本、細針吸引標本、または該標本からマイクロダイセクトした細胞より選択される、請求項30に記載の方法。
【請求項33】
発現を検査するステップは乳がん細胞標本からのmRNAの増幅によって調製される核酸の検出を、または該乳がん細胞標本に由来する核酸の定量的PCR法による検出を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項34】
発現を検査するステップは遺伝子によってコードされるタンパク質または該タンパク質のタンパク質分解断片の検出を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項35】
タンパク質またはそのタンパク質分解断片の検出は被検者の血液中の、または該被検者の血液から濃縮した乳がん上皮細胞中の、該タンパク質またはそのタンパク質分解断片の検出を含む、請求項34に記載の方法。
【請求項36】
検査するステップはヒトHOXB13、IL17BR、QPRTまたはCHDH配列の3'非翻訳領域、コード領域または5'非翻訳領域から少なくとも15ヌクレオチドの配列を含むポリヌクレオチドとのハイブリダイゼーションによる、請求項30に記載の方法。
【請求項37】
検査するステップはHOXB13配列の過少発現の欠如またはIL17BRまたはCHDH配列の過剰発現の欠如に関するものである、請求項30に記載の方法。
【請求項38】
検査するステップはHOXB13またはQPRT配列のIL17BRまたはCHDH配列に対する発現レベル比を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項39】
検査するステップはタモキシフェンまたは別の抗エストロゲン抗乳がん剤に対する無反応性の指標としての、HOXB13またはQPRT配列のIL17BRまたはCHDH配列に対する発現レベル比を含む、請求項39に記載の方法。
【請求項40】
発現を検査するステップはHOXB13、IL17BR、QPRTまたはCHDH配列の不活性化またはメチル化の検査を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項41】
HOXB13またはQPRTの発現を検査するステップはHOXB13またはQPRT mRNA分解の検出を含む、請求項32に記載の方法。
【請求項42】
ヒトIL17BRまたはCACNA1DまたはHOXB13またはQPRT配列の一方または両方の分子鎖を含む1本鎖核酸分子の集団であって、該集団の少なくとも一部分は乳腺細胞のRNAから定量的に増幅される核酸分子の一方または両方の分子鎖とハイブリダイズすることを特徴とする1本鎖核酸分子の集団。
【請求項43】
集団はマイクロアレイなどのような固相担体上に固定化されている、請求項42に記載の集団。
【請求項44】
乳腺細胞から増幅される核酸分子は増幅RNA分子である、請求項42に記載の集団。
【請求項45】
乳腺細胞はER+である、請求項42に記載の集団。
【請求項46】
表2または表3中の1つまたは複数の遺伝子の核酸分子とハイブリダイズしうる、1つまたは複数の乳がん細胞に由来する核酸とハイブリダイズしたポリヌクレオチドプローブを含むアレイ。
【請求項47】
1つまたは複数の乳がん細胞はER+である、請求項46に記載のアレイ。
【請求項48】
1つまたは複数の乳がん細胞に由来する核酸はmRNA増幅によって調製される、請求項46に記載のアレイ。
【請求項49】
1つまたは複数の乳がん細胞に由来する核酸はcDNAである、請求項46に記載のアレイ。
【請求項50】
1つまたは複数のER+細胞は被検者からの組織切片に由来するかまたは該切片からマイクロダイセクトされる、請求項46に記載のアレイ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5−1】
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【図5−2】
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【図5−3】
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【図5−4】
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【図5−5】
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【図5−6】
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【図5−7】
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【図5−8】
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【図5−9】
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【図5−10】
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【図5−11】
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【図5−12】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−505630(P2007−505630A)
【公表日】平成19年3月15日(2007.3.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−527117(P2006−527117)
【出願日】平成16年9月17日(2004.9.17)
【国際出願番号】PCT/US2004/030789
【国際公開番号】WO2005/028681
【国際公開日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【出願人】(505333366)アビアラデックス,インコーポレイティド (6)
【Fターム(参考)】