乳カゼインの酵素的水解物中で同定される生物活性ペプチド及び該ペプチドの製造方法
本発明は、生物活性生成物であって、乳タンパク質(特に、カゼイン)から誘導される生物活性乳製品の製造用乳タンパク質から誘導される生物活性生成物の製造に関する。16種の新規なペプチドは、これらを含有するタンパク質の化学的処理、生物工学的処理又は酵素的処理によって得ることができ、これらのペプチドは、抗菌活性、生体外でのアンギオテンシン変換酵素抑制活性及び/又は抗高血圧活性及び/又は抗酸化活性を有するペプチドをもたらす。この種の栄養と薬効のある生成物は、水解物又は生物活性ペプチドの形態で食品工業と薬品工業において使用するために適している。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、乳タンパク質から誘導される生物活性生成物(bioactive products)の製造に関する。この種のタンパク質を酵素的処理に付すことによって、抗菌活性及び/又は生体外でのアンギオテンシン変換インヒビター活性(AEC-抑制活性)及び/又は抗高血圧活性及び/又は抗酸化活性を有するペプチドがもたらされる。この種のペプチドは食品工業及び製薬工業における使用原料として適している。
【背景技術】
【0002】
ヒトの栄養素としての乳の役割は出生時から重要であり、また、乳は高い栄養価と機能的価値を有する食品である。最近の新たな生物工学的分離技術の発達により、乳の異なる成分の分別が可能となり、このような乳成分は新規な食品の原料として使用されるだけでなく、乳成分の消費の増大に寄与する非食品的目的や新たな用途における原料としても使用されている。このため、乳成分からの単離タンパク質の製造に携わる多くの企業の関心事は、乳成分の一部の成分(例えば、カゼインや乳漿タンパク質等)の用途の拡大と多様化である。このことは、ラクトフェリンの製造に含まれる産業が該当する。ラクトフェリンは抗菌剤として使用されており、また、ベビーフード、ヨーグルト、栄養剤、特殊配合物、歯科用製品及び皮膚科用製品においても既に使用されている。さらに、ラクトフェリンは、その抗菌活性に起因して、新鮮なミルクの保存寿命を延長させるための添加剤としても使用されている。
【0003】
近年、機能性食品が食品産業に参入するようになっているが、これはダイエットと健康との間の関連性に対する消費者の高い意識に起因するものである。食品に配合された場合に、単なる栄養学的役割を越える特別な生物学的活性を発揮する成分として定義される機能性成分の中でも、多様性と多機能性に起因して卓越した地位を占めている成分のうちの1種は生物活性ペプチドである。この種のペプチドは、前駆体タンパク質中においては不活性なフラグメントであるが、生体内及び/又は生体外における加水分解過程によって放出されると、体内において種々の生理学的機能を発揮する。
【0004】
この種のペプチドが1979年に発見されて以来、種々の生物学的活性(例えば、抗菌活性、抗高血圧活性、免疫調節活性、抗血栓症活性、オピオイド活性及び抗酸化活性等)を有する食物タンパク質から誘導されるペプチドが知られている。このようなペプチドは食品及び/又は薬剤の分野において潜在的な用途を有しており、また、該ペプチドは種々の方法によって供給してもよいが、現在最も多く利用されている方法は、酵素的加水分解法と微生物的発酵法である。
【0005】
特に注目に値する生物活性ペプチドは抗菌特性を発揮するペプチドである(R.フロリス、I.レシオ、B.バークフート及びS.ビッセル、「乳タンパク質及びその誘導体の抗菌/抗ウイルス効果」、カレント・ファーマシューティカル・デザイン、2003年、第9巻、第1257頁〜第1275頁参照)。乳の抗菌活性は長年に亘って研究されてきており、該活性は、一般的には乳中に存在する抗菌活性を有する種々のタンパク質(例えば、イムノグロブリン、ラクトフェリン、ラクトペルオキシダーゼ及びリゾチーム等)に起因するとされている。しかしながら、最近になって、乳タンパク質から誘導されるペプチドの抗菌活性も証明されている。現在までのところ、乳タンパク質から誘導される抗菌性ペプチドの作用機構に関する決定的な研究はなされていないが、予備的な研究報文には、これらのペプチドの生物活性配列の一部がバクテリアの膜と相互作用してこれを平滑化する機能を有しているということが記載されている(D.チャップル、D.J.マソン、C.L.ジョアノウ、E.W.オデル、V.グラント、R.W.エバンス、「大腸菌の血清型0111に対するヒトのラクトフェリン上の螺旋表面領域に対する抗菌性合成ペプチド相同体の機能と構造との関連性」、インフェクション・アンド・イミュニティー、1998年、第66巻、第2434頁〜第2440頁参照)。ウシを入手源とするカゼインの酵素による水解物から得られる抗菌活性を有するペプチドが特許文献に記載されている。例えば、αs2-カゼインはEP1114060公報(発明の名称:生物学的流体からのカチオン性ペプチドの製造法)に記載されており、また、β-カゼインとκ- カゼインはWO99/26971公報(発明の名称:抗菌性ペプチド)に記載されている。類似の加水分解法により、乳漿タンパク質から誘導される抗菌特性を有するペプチドが単離されて同定されている。例えば、ラクトフェリンはWO2004/089986公報(発明の名称:トランスフェリン族からの抗菌性ペプチド)に記載されている。
【0006】
特に重要な別の生物活性ペプチド群は、先進諸国における高血圧に関連する冠動脈疾患の発生率が高いということを考慮するならば、抗高血圧活性を有するペプチド群である。この種のペプチドの多くのものは、アンギオテンシン変換酵素(ACE)の抑制によるレンニン-アンギオテンシン系の調節によって作用する(T.タカノ、「乳誘導ペプチドと高血圧の低下」、インターナショナル・デイリー・ジャーナル、1998年、第8巻、第375頁〜第381頁参照)。但し、この種のペプチドの効果が別の機構によってもたらされるという可能性を除外するものではない。
【0007】
ACE-抑制活性(ACEIa)を有する種々のペプチドが発見されている。例えば、この種のペプチドは、カゼインの酵素による水解物から得られており(米国特許第6514941号明細書参照;発明の名称:抗高血圧性ペプチドに富むカゼイン水解物の製造法)、また、乳漿からも得られている(WO01/85984公報;発明の名称:抗高血圧性ペプチドを製造するための乳漿タンパク質の酵素的処理、得られる生成物、及びほ乳類における高血圧症の処置)。抗高血圧性活性を有するペプチドの構造と活性との関連性に関する研究により、該活性がもたらされる過程における特定の疎水性アミノ酸の基本的な役割が明らかにされている(H.S.チョン、F.L.ワン、M.A.オンデッチ、E.F.サボ及びD.W.クッシュマン、「アンギオテンシン変換酵素の抑制剤とペプチド基質との結合;COOH-末端ジペプチド配列の重要性」、ジャーナル・オブ・バイオロジカルケミストリー、1980年、第255巻、第401頁〜第407頁参照)。
【0008】
一部のこの種のアミノ酸の存在は、抗酸化活性を発揮させるためには必須であると考えられており、また、最近になって、該活性の重要性が増している(H.M.チェン、K.ムラモト、F.ヤマウチ、K.フジモト及びK.ノキハラ、「大豆タンパク質の消化物中に存在するペプチドフラグメントから構築されるヒスチジン含有ペプチドの抗酸化性特性」、ジャーナル・オブ・アグリカルチュラル・アンド・フードケミストリー、1998年、第46巻、第49頁〜第53頁参照)。種々の変性疾患、例えば、癌、アルツハイマー疾患、白内障又は老化自体は細胞成分、脂質、タンパク質又はDNAの酸化に関連している。このような疾患は、生物体の抗酸化系と酸化剤との間の不均衡の結果として発現する。このような理由から、規定食中への抗酸化性化合物の配合は、このようなタイプの疾患の予防において有用である。さらに、商品中に存在するこのような抗酸化性化合物は、このような食品の腐敗及び該食品への不快な匂いと味の付与の原因となる脂肪の酸化過程を遅延させる。
【0009】
最近の研究によれば、種々の乳タンパク質とこれらの誘導体が異なる作用機構によって抗酸化活性を発揮する機能を有することが明らかにされている。このため、水解カゼイン(K.スエツナ、H.ウケダ及びH.オチ、「カゼインから誘導されるペプチドの単離及び遊離ラジカル捕獲活性の特性化」、ジャーナル・オブ・ニュートリショナルバイオケミストリー、2000年、第11巻、第128頁〜第131頁;EP1188767公報、発明の名称:カゼインから単離された抗酸化性ペプチド並びに該ペプチドの調製法、単離法及び同定法)又は乳漿タンパク質(B.ヘルナンデス-レデスマ、A.ダバロス、B.ボルトロメ及びL.アミゴ、「α-ラクトアルブミンとβ-ラクトグロブリンからの酵素による抗酸化性水解物の調製;HPLC-MS/MSによる活性ペプチドの同定」、ジャーナル・オブ・アグリカルチュラル・アンド・フードケミストリー、2005年、第53巻、第588頁〜第593頁)からの遊離ラジカルとキレート化する機能を有するペプチドが関連文献に記載されている。さらに、カゼインは、脂肪の酸化過程を触媒する酵素に対して抑制活性を示すペプチドの主要な原料となっている(S.G.リバル、S.ホルナロリ、C.G.ベリュ及びH.J.ウィケルス、「カゼインとカゼイン水解物I;リポオキシゲナーゼ抑制性ペプチド」、ジャーナル・オブ・アグリカルチュラル・アンド・フードケミストリー、2001年、第49巻、第287頁〜第294頁)。
【0010】
今日まで行われている大部分の研究はウシのカゼインから誘導されるペプチドの生物学的活性を中心に展開されている。しかしながら、ウシ以外のカゼイン、例えば、ヒツジのカゼインやヤギのカゼイン等から誘導されるペプチドによって発揮される生物学的活性に関するデータはほとんど公表されていない。J.A.ゴメス-ルイス、I.レシオ及びA.ピラントは、大腸菌JM103の代謝活性に対して投与量依存性の強力な抑制効果がβ-カゼインの水解物によってもたらされることを報告している(「ヒツジカゼイン水解物の抗菌活性;予備研究」、ミルヒビッセンシャフト-ミルクサイエンス・インターナショナル、2005年、第60巻、第41頁〜第45頁参照)。しかしながら、この研究においては、該抑制効果をもたらすペプチドの同定はおこなわれていない。
【0011】
これに対して、マンチェゴチーズの製造において特徴的な発酵/熟成過程中にヒツジのカゼインから放出されるいくつかの配列(一部の配列はACE-抑制活性を発揮している)は実際に同定されている(J.A.ゴメス-ルイス、M.ラモス及びI.レシオ、「高性能液体クロマトグラフィー-タンデム型マススペクトロメトリーによるマンチェゴチーズにおけるアンギオテンシン-変換酵素抑制性ペプチドの同定と調製」、ジャーナル・オブ・クロマトグラフィー A、2004年、第1054巻、第269頁〜第277頁)。これらの配列のCI50値(酵素活性を50%抑制する濃度)は24.1〜1275.4μMである。この研究においては、最も大きなACE-抑制活性を示すペプチドは、配列VRYL(SEQ.ID.No.11)のαs1-カゼインフラグメントf(205-208)のペプチドであり、該ペプチドのCI50値は24.1μMである(J.A.ゴメス-ルイス、M.ラモス及びI.レシオ、「マンチェゴチーズから単離されたペプチドのアンギオテンシン変換酵素抑制活性;シミュレート化胃腸消化条件下での安定性」、Int. デイリー・ジャーナル、2004年、第1075頁〜第1080頁)。
【0012】
しかしながら、この種のペプチドの腸管障壁の透過能及び生体内での抗高血圧効果の発揮能に関するデータは公表されていない。生体外でACE抑制活性を示す多くのペプチドは、生体内で試験する場合には該活性を全て失うか、又は部分的に失うということに留意すべきであり、また、生体外で重要なACE-抑制活性を示さないペプチドであっても、生体内においては消化酵素の作用に起因して該活性を示すことがあることに留意すべきである(M.マエノ、N.ヤマモト及びT.タカノ、「ラクトバシルス・ヘルベチカス(Lactobacillus helveticus)CP790からのタンパク質分解酵素によって生産されるカゼイン水解物から得られる抗高血圧性ペプチドの同定」、ジャーナル・オブ・デイリー・サイエンス、1996年、第79巻、第1316頁〜第1321頁)。さらに、種々の生物学的活性(例えば、抗高血圧活性、抗菌活性及び/又は抗酸化活性等)を発揮する種々のタイプのカゼインから放出されるペプチドの多機能性の耐性に関する研究は行われていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
食物タンパク質の配列内には、加水分解によって放出されると、生物学的活性を示す領域がある。生物活性ペプチドとして知られているこの種のフラグメントは、胃腸酵素の作用によるタンパク質の加水分解中に生体内で生成され、また、生体外においても、特定の酵素の作用に起因して生成されることがあり、あるいは、特定の食品の調製時に生成されることがある。乳タンパク質の高い生物学的品質を考慮するならば、規定食の一部として摂取されたときに、基礎的な栄養学的機能を発揮すると共に健康の保持と病気の予防に有用な代謝的効果又は生理学的効果を発揮する生物活性ペプチドを乳タンパク質から得ることは特に重要である。乳タンパク質からの生物活性ペプチドの製造は、常套の栄養学的価値を超えてこの栄養素の新たな用途(例えば、薬剤及び栄養と薬効のある製品の製造等)の開発を可能にする。また、この種のペプチドの製造は、健康的で安全な高品質食品であって、乳製品の提供の目的とより高い価値の最大限の利用に貢献する高品質食品の開発に寄与すると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は、乳タンパク質から誘導される生成物であって、抗菌活性及び/又は生体外でのACE-抑制活性及び/又は抗高血圧活性及び/又は抗酸化活性を有する生物活性ペプチドを含有する該生成物を、カゼインフラクションの酵素的加水分解によって製造することからなる。
【0015】
生物活性ペプチドは、該ペプチドの放出に適した部位でのタンパク質鎖の切断を可能にする加水分解条件下でタンパク質分解酵素(好ましくは、ペプシン及び適用可能な「コロラーゼ(Corolase)PP」(登録商標))を使用することにより、1種又は複数種のタンパク質、ペプチド又はこれらのフラグメントの加水分解によって製造される。両方の酵素を使用して模擬胃腸消化をおこなう場合には、胃腸的に同化される条件にあって血流中へ流入する最小限の機能的ペプチドユニットが得られる。この特性は、これらのペプチドを経口投与以外の他の投与形態で使用することを可能とし、また、これらのペプチドの吸収速度を増大させる。この種のペプチドは化学的合成法又は組換え法等によって製造してもよい。これらのペプチドはペプチド自体として摂取してもよく、あるいは粗製水解物、低分子量濃縮物、又はサイズに基づく分離法若しくはクロマトグラフィー法によって得られるその他の活性サブフラクションから摂取してもよい。
【0016】
これらの水解物、これらのフラクション又はペプチドは、食物の防腐剤又は摂取されたときに身体の自然な防御機能の増進させる成分として食品の成分を構成してもよく、あるいは、病気の処置用薬剤、特に血圧及び/又は細菌性感染症を抑制するための薬剤の調製用成分として使用してもよい。本発明は、乳タンパク質の有する全ての特性を最大限に利用すると共に該タンパク質の価値をより高めることによって、乳タンパク質の用途を拡大する。
【0017】
本発明は、乳カゼインから生物活性ペプチドを製造する方法を提供する。この種の生物活性ペプチドは、下記のアミノ酸配列を有することが確認されたペプチドである:
:SEQ.ID No.1、SEQ.ID No.2、SEQ.ID No.3、SEQ.ID No.4、SEQ.ID No.5、SEQ.ID No.6、SEQ.ID No.7、SEQ.ID No.8、SEQ.ID No.9、SEQ.ID No.10、SEQ.ID No.12、SEQ.ID No.13、SEQ.ID No.14、SEQ.ID No.15、SEQ.ID No.16及びSEQ.ID No.17(後記の表1参照)。
これらのペプチドの内の一部のペプチドは抗菌活性及び/又は生体外でのACE-抑制活性及び/又は抗高血圧活性及び/又は抗酸化活性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の出発原料は、動物又は植物を起源とする1種又は複数種のタンパク質又はペプチドを含有するいずれかの適当な基質、又は微生物に由来するいずれかの適当な基質であって、関連する生物活性ペプチドのアミノ酸配列を有する該基質であってもよい。αs2-カゼイン配列(SEQ.ID No.1、SEQ.ID No.2、SEQ.ID No.3、SEQ.ID No.4、SEQ.ID No.5、SEQ.ID No.6、SEQ.ID No.7、SEQ.ID No.8、SEQ.ID No.9、SEQ.ID No.10;後記の表1参照)に関連する基質、異なるタイプのαs2-カゼインを含有する調製物、これらのフラクション、ペプチド又はこれらのあらゆるサイズを有するフラグメントは明らかに使用することができ、これらは単独で使用してもよく、あるいは他のタンパク質と併用してもよい。
【0019】
αs1-カゼイン配列(SEQ.ID No.12、SEQ.ID No.13)に関連する基質、異なるタイプのαs1-カゼイン、これらのフラクション、ペプチド又はこれらの所望のサイズを有するフラグメントを含有する調製物も明らかに使用することができ、これらは単独で使用してもよく、あるいは他のタンパク質と併用してもよい。β-カゼイン配列(SEQ.ID No.12、SEQ.ID No.13)に関連する基質、異なるタイプのβ-カゼイン、これらのフラクション、ペプチド又はこれらの所望のサイズを有するフラグメントを含有する調製物も明らかに使用することができ、これらは単独で使用してもよく、あるいは他のタンパク質と併用してもよい。
【0020】
従って、所望の1種又は複数種のペプチドに応じて、純粋なαs1-カゼイン、純粋なαs2-カゼイン、純粋なβ-カゼイン、全カゼイン、カゼイン塩、含有成分の異なる乳、発酵乳製品、乳タンパク質水解物、副乳製品及び動物飼料用乳誘導体等を使用することが可能である。
【0021】
上記の出発原料は水中又は緩衝溶液中へ適当な濃度で溶解又は分散させる。この場合、pHは、タンパク質分解酵素が作用するために適当な値に調整する。タンパク質分解酵素としては、出発原料中に存在するタンパク質を分解して関連するペプチドをもたらす酵素であれば、いずれの酵素を使用してもよいが、好ましくは、pH2.0〜3.0の条件下においてペプシンを使用する。基質の発酵とタンパク質の加水分解をもたらすタンパク質分解性微生物を使用してもよい。
【0022】
加水分解の条件(pH、温度、酵素−基質比、反応の中断等)は、最も活性な水解物が選択的に得られるように最適化される。1つの特定の実施態様においては、生物活性ペプチドは、次の条件下で加水分解をおこなうことによって製造される。
酵素:ペプシン、
pH:3.0、
酵素−基質比:3.7/100(p/p)、
加水分解温度:37℃、及び
加水分解時間:10分間〜24時間(好ましくは30分未満)。
【0023】
SEQ.ID No.15及びSEQ.ID No.17(表1参照)として同定され、生体外でのACE-抑制活性及び/又は抗高血圧活性を有する生物活性ペプチドは、これらの構造と胃腸酵素に対する耐性に起因して、最小の機能性ペプチドユニットとなる。該ペプチドユニットは、胃腸内で消化された後では、胃腸内で同化され得る状態にあり、血流中へ流入する。出発原料は、動物又は植物を起源とする1種又は複数種のタンパク質又はペプチドを含有するいずれかの適当な基質、又は関連する生物活性ペプチドのアミノ酸配列(SEQ.ID No.15及びSEQ.ID No.17;表1参照)を含む微生物に由来するいずれかの適当な基質であってもよく、好ましくは、αs2-カゼイン及びβ-カゼインである。異なるタイプのαs2-カゼイン又はβ-カゼインを含有するいずれかの調製物、又はペプチド又はいずれかのサイズを有するこれらのフラグメントは明らかに使用することができ、これらは単独で使用してもよく、あるいはその他のタンパク質と併用してもよい。例えば、純粋なαs2-カゼイン、純粋なβ-カゼイン、全カゼイン、カゼイン塩、含有成分の異なる乳、発酵乳製品、乳タンパク質水解物、副乳製品及び動物の飼料用乳誘導体等を使用することが可能である。
【0024】
加水分解の条件(pH、温度、酵素−基質比、反応の中断等)は、最も活性な水解物が選択的に得られるように最適化される。1つの特定の実施態様においては、この最適化は、ペプシンで加水分解されたカゼイン、該カゼインの3000Da未満のフラクション、又は特定の配列(PVYRYL SEQ.ID No.7及びHLPLPLL SEQ.ID No.13)を含む合成ペプチドの加水分解を、酵素として「コロラーゼPP」を使用し、pHが7〜8で、酵素−基質比が1:25(p/p)で、温度が37℃の条件下において約2.5時間おこなうことによって達成される。この反応は、水浴中において反応系を95℃で10分間加熱することによって中断させる。コロラーゼPPは、タンパク質分解性のブタの膵臓酵素の調製品であって、トリプシンとケモトリプシンのほかにアミノペプチダーゼとカルボキシペプチダーゼを含有する。
【0025】
次いで、生物活性ペプチドの濃縮が望まれる場合、及び抗菌活性を有するペプチドがカチオン性である場合には、生物活性ペプチドを含有するフラクションの分離をカチオン交換クロマトグラフィー(FPLC)によっておこなう。より高いカチオン性フラクションからは、カチオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー等、又は好ましくは逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)を使用して活性なサブフラクションを単離することができる。あるいは、生物活性ペプチドは、例えば、限外濾過、透析、適当な孔径を有する膜を用いる電気透析、又はゲル−フィルタークロマトグラフィー等を使用することによって水解物から濃縮させることができる。
【0026】
完全水解物とそのフラクションのほかに、後記の表1に示す次のペプチドは生物活性特性(主として、抗菌活性及び/又はACE−抑制活性及び/又は抗高血圧活性及び/又は抗酸化活性)を発揮し、この種のペプチドも本発明の対象である:SEQ.ID No.1、SEQ.ID No.2、SEQ.ID No.3、SEQ.ID No.4、SEQ.ID No.5、SEQ.ID No.6、SEQ.ID No.7、SEQ.ID No.8、SEQ.ID No.9、SEQ.ID No.10、SEQ.ID No.12、SEQ.ID No.13、SEQ.ID No.14。特に、次の配列によって同定されるペプチドはグラム陽性バクテリアに対して抗菌活性を発揮し、また、少なくともSEQ.ID No.3の配列で同定されるペプチドは大腸菌に対して強力な抗菌活性をさらに発揮する:SEQ.ID No.1、SEQ.ID No.2、SEQ.ID No.3、SEQ.ID No.4、SEQ.ID No.5、SEQ.ID No.6、SEQ.ID No.7、SEQ.ID No.8、SEQ.ID No.9、SEQ.ID No.10。
【0027】
さらに、SEQ.ID No.1及びSEQ.ID No.7の配列によって同定されるペプチドは強力な生体外でのACE−抑制活性を発揮し、また、SEQ.ID No.7の配列によって同定されるペプチドは、自然発症高血圧ラット(SHR)へ経口投与されたときに抗高血圧活性を発揮する。このほかに、少なくともSEQ.ID No.7の配列によって同定されるペプチドは、酸素ラジカル-キレート化機構によってかなり高い抗酸化活性を示す。同様に、補正書においてSEQ.ID No.14の配列によって同定されるβカゼインから得られたペプチドは高いACE−抑制活性も発揮する。ペプシン又はコロラーゼPPで加水分解されたカゼインのほかに、表1においてSEQ.ID No.15及びSEQ.ID No.17の配列によって同定されるペプチドも、自然発症高血圧ラット(SHR)において抗高血圧活性を発揮し、これらのペプチドも本発明の対象である。この種のペプチドが、副作用がほとんどなくて良好な耐性が期待される幅広く消費されている生成物から調製される天然ペプチドであるという事実に特に注目すべきである。
【0028】
ペプシンによる水解物中で同定された下記の配列で規定される生物活性ペプチド及びコロラーゼPPによって得られたペプチド(SEQ.ID No.15、SEQ.ID No.16及びSEQ.ID No.17;表1参照)に関しては、これらの配列を考慮した上で、現在利用できる技術を利用することにより、化学的なペプチド合成法及び/又は酵素的ペプチド合成法あるいは組換え法に従って、この種のペプチドを得ることが可能である:SEQ.ID No.1、SEQ.ID No.2、SEQ.ID No.3、SEQ.ID No.4、SEQ.ID No.5、SEQ.ID No.6、SEQ.ID No.7、SEQ.ID No.8、SEQ.ID No.9、SEQ.ID No.10、SEQ.ID No.12、SEQ.ID No.13、SEQ.ID No.14。
【0029】
【表1】
【0030】
ウシ起源のαs2-カゼインタンパク質は知られていたが(EP1114060公報;生物学的流体からのカチオン性ペプチドの製造法)、ペプシンで加水分解されたヒツジのαs2-カゼインから生物活性ペプチドを製造する方法は先行技術文献には記載されていない。マンチェゴチーズに含まれるウシのαs2-カゼインとその他のヒツジカゼインから誘導だれるACE-抑制活性を有するペプチドは従来から同定されているが(J.A.ゴメス-ルイス、M.ラモス及びI.レシオ、「高速液体クロマトグラフィーを連結したマススペクトロメトリーによるマンチェゴチーズ中のアンギオテンシン変換酵素抑制性ペプチドの同定と生成」、ジャーナル・オブ・クロマトグラフィーA、2004年、第1054巻、第269頁〜第277頁)、この種のペプチドの生体内での抗高血圧活性に関する研究はなされていない。従来から同定されているACE-抑制活性を有するペプチドの1種は、配列VRYL(SEQ.ID.No.11)を有するヒツジのαs2-カゼインの205〜208フラグメントである(CI50:24.1μM)。
【0031】
しかしながら、本発明による配列SEQ.ID.No.7(PYVRYL)(CI50:1.94μM)は、従来から知られている該フラグメントに比べて12倍高いACE-抑制活性を有しており、このことは、かなり高い抗高血圧活性及び/又は抗酸化活性及び/又は抗菌活性を発揮させるためには、本発明において見出された該配列全体が必要であることを示す。抗高血圧活性及び/又は抗酸化活性及び/又は抗菌活性を発揮させるためには、SEQ.ID.No.7の配列全体も必要である。さらに、本発明によるSEQ.ID.No.7配列の模擬胃腸内消化後において、最小の活性フラグメントはPYV SEQ.ID.No.15配列のフラグメントであることも示される。
【0032】
一方、この方法によれば、酵素製剤と模擬胃腸内消化条件を採用することによって、特定の生物活性ペプチド(SEQ.ID.No.15、SEQ.ID.No.16、SEQ.ID.No.17;表1参照)を得ることが可能となる。従って、得られるフラグメントは、加水分解の最終生成物であって、胃腸管内に吸収されて抗高血圧作用の直接的な原因となる物質である可能性がある。しかしながら、血漿ペプチダーゼによるさらなる加水分解は除外されない。小さな活性フラグメントの製造は有利である。何故ならば、この種のフラアグメントは種々の経路によって容易に投与することができ、経口投与されると迅速に作用するからである。
【0033】
全乳、乳成分、カゼイン及びカゼイン塩等の乳製品は、抗菌活性及び/又はACE-抑制活性及び/又は抗高血圧活性及び/又は抗酸化活性を有する生物活性ペプチドを調製するための基質であって、容易に入手しうる安価な基質である。この種の乳製品は、機能性食品、添加剤、食品成分、又は動物及び主としてヒトにおけるあらゆるタイプの感染症及び/又は動脈性高血圧症の治療用及び/又は予防用薬剤として使用に供するためには、熱処理(例えば、低温殺菌処理等)に付すか、又は乾燥処理若しくは凍結乾燥処理に付される。
【0034】
水解物、低分子量フラクション、ペプチド、これらの誘導体若しくは薬学的に許容される塩又はこれらの任意の混合物の使用量、又はいずれかの疾患を処置するためのこれらの投与量は種々の要因(例えば、年齢、病気又は疾患の程度、投与経路及び投与頻度等)によって左右される。これらの化合物は、いずれかの投与形態(固体状又は液体状)で投与してもよく、また、いずれかの適当な投与経路によって投与してもよいが(例えば、経口投与、気管支投与、直腸投与又は局所投与等)、特に固体状又は液体状の形態で経口投与するように調製される。
【0035】
一般的には、この種の生成物(即ち、完全水解物、これらのフラクション及びこれらを構成するペプチド)の製造法は、可能な限り多量の生物活性ペプチドが得られるように調整するか、又は一般的には中分子量若しくは低分子量を有する高濃度の疎水性ペプチドに起因する苦味を許容できる程度に調整するよって最適化することができる。
【0036】
分析方法
1.抗菌活性の測定
抗菌活性は、次の文献に記載の方法に従って測定した:A.ペレグリニ、C.デルチング、U.トーマス、P.フンチカー、「ウシのβ-ラクトグロブリンにおける4つの殺菌性領域の単離と特性化」、ビオキミカ・エ・ビオフィジカ・アクタ、2001年、第1526巻、第131頁〜第140頁。この場合、微生物としては次の微生物を使用した:
i)大腸菌(Escherichia coli)[アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)、ロックヴィル、メリーランド、米国]ATCC 25922、
ii)リステリア・イノキュア(Listeria innocua)[コレクシオーン・エスパニョーラ・デ・クルチボス・チポ(CECT)、ヴァレンシア、スペイン]CECT 910T、
iii)表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)CECT 231、
iv)エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis )CECT 795、
v) セラチア・マルケセンス(Serratia marcescens )CECT 854、及び
vi)スタフィロコッカス・カルノサス(Staphylococcus carnosus )CECT 4491T。
【0037】
これらの微生物の懸濁液を1%の濃度でブロス(broth)中へ接種した。即ち、大腸菌、セラチア・マルケセンス及びスタフィロコッカス属の菌株はトルプトーゼ・ソイ・ブロス(Tryptose Soy Broth;TSB)中へ接種し、エンテロコッカス・フェカーリス及びリステリア・イノキュアは脳-心臓浸出物(BHI)ブロス中へ接種した。インキュベーションは、セラチア・マルケセンスの場合は30℃でおこない、その他の微生物の場合は37℃でおこなった。
【0038】
測定を開始するための微生物の接種物は、TSB-寒天又はBHI-寒天中で増殖したコロニーを10mlのTSB又はBHI中において、37℃又は30℃で一夜インキュベートした後で得た。微生物の懸濁液(1ml)は対応する培養液を用いて1/50に希釈し、次いで各菌株に対して適当な温度において、個体群密度が1〜4×108コロニー形成単位(CFU)/mlになるまでインキュベートした。培養物を2000×gでの遠心分離処理に10分間付し、沈降した微生物を15mlの燐酸塩緩衝液(pH:7.4)を用いて2回洗浄し、個体群密度を106CFU/mlに調整した。複数のウェルを備えた無菌プレート(グライナー・ラボルテヒニーク社(フリッケンハウゼン、ドイツ)製)上において、微生物の懸濁液50μl、被検物資50μl及び燐酸塩緩衝液100μlを、各場合において適当な2%培養液と混合し、得られた混合物を37℃又は30℃において2時間インキュベートした。次いで、混合物を10−5に希釈し、各希釈液100μlをTSB-寒天プレート又はBHI-寒天プレート上へ添加し、これらのプレートを24時間インキュベートした後、コロニー数をカウントした。
【0039】
抗菌活性は次式によって計算した:
抗菌活性=log (N0/Nf)
式中、N0は試験開始時のコロニーの数(CFU/ml)を示し、Nfは最終的なコロニーの数(CFU/ml)を示す。
【0040】
2.アンギオテンシン変換酵素抑制活性(ACEIa)の測定
ACE-抑制活性は、下記の文献i)に記載の方法を修正した文献ii)に記載されている方法に従って生体外で測定した:
i)D.W.クッシュマン及びH.S.チョン、「ウサキの肺中のアンギオテンシン-変換酵素の特性と分光光度的アッセイ」、バイオケミカル・ファーマコロジー、1971年、第20巻、第1637頁〜第1648頁、及び
ii)Y.K.キム、S.ヨーン、D.Y.ユー、B.レンネルダール及びB.H.チュン、「大腸菌内で発現された組換えヒトαs1-カゼインから誘導された新規なアンギオテンシン-I-変換酵素抑制性ペプチド」、ジャーナル・オブ・デイリー・リサーチ、1999年、第66巻、第431頁〜第439頁。
【0041】
基質としては、シグマ・ケミカル社(セントルイス、ミズリー、米国)製の「ヒプリル・ヒスチジル・ロイシン(hipuril histidil leucine;HHL)」を使用した。0.3MのNaClを含有する0.1M硼酸塩緩衝液(pH:8.3)に該基質を溶解させることによって、最終濃度が5mMの基質溶液を調製した。ACE-抑制活性がアッセイされるべき各試料40μlを基質溶液100μl中へ添加した。シグマ社製のACE酵素「CE3.4.5.1」を50%グリセロールに溶解させた後、試験の実施時に、再蒸留水を用いて該溶液を1/10に希釈した。反応は、水浴中において37℃で30分間おこなった。1NのHCl(150μl)を用いて反応系のpHを低下させることによって酵素を不活性化させた。生成する馬尿酸を酢酸エチル(1000μl)で抽出した。渦状の撹拌処理を20秒間おこなった後、周囲温度での遠心分離処理(3000×g)に10分間付した。有機相から750μlの試料を採取し、該試料を98℃での加熱蒸発処理に10分間付した。馬尿酸残渣を再蒸留水(800μl)中へ再溶解させ、該溶液を撹拌処理に20秒間付した後、228nmでの吸光度を測定した。吸光度の測定には、ベックマン・インスツルメント社(ヒュラトン、米国)製のデュア-70分光光度計を使用した。
【0042】
下記の式を用いてACE-抑制活性の百分率を計算した:
ACE-抑制活性(%)=[(A対照−A試料)/(A対照−Aブランク)] ×100
バックグラウンド吸光度を補正するためにブランクを使用した。ブランクには基質、酵素、及び試料の代わりの再蒸留水(20μl)を含有させ、このときの反応は時間が0の時に停止させた。対照にはインヒビターの不存在下での基質上での酵素作用の100%が課され、該対照は試料の代わりに水を20μl含有し、そのインキュベーション時間は試料の場合と同様である。
【0043】
結果はCI50(μM)又は酵素の活性が50%抑制される濃度で示す。タンパク質の濃度は、パターン(pattern)としてウシ血清アルブミンを使用するビシンコニニン酸(bicinchoninic acid)試験法(ピース-ロッコード社;イリノイ、米国)を利用して決定した。
【0044】
3.抗酸化活性の測定
酸素ラジカル吸収能(oxygen radical absorption capacity;ORAC )は、下記の文献の研究者によって開発された方法によって測定した:
B.X.オウ、M.ハンプシュ-ウッディル、R.L.プリオー、「蛍光プローブとしてフルオレセインを用いる改良された酸素ラジカル吸収能アッセイの開発と有効性」、2001年、第49巻、第4619頁〜第4626頁。
この方法は、2,2’アゾ-ビス-2-アミジノプロパンジヒドロクロリドの熱分解によってその場で生成されるペルオキシラジカルによるフルオレセインの酸化に基づく方法である(λexo = 493nm及びλcm= 515nm)。抗酸化剤の存在により、フルオレセインの分解は防止されるか、又は遅延される。
【0045】
フルオレセインの作用溶液(60nM)は、75nM燐酸塩緩衝液(pH:7.5)を溶媒とするフルオレセイン母液(100μM)から日毎に調製した。対照抗酸化剤としては、6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-カルボン酸(トロロックス(Trolox))を使用した。この抗酸化剤は、燐酸塩緩衝液を溶媒として濃度が20nMの溶液(母液)として調製し、−20℃で保存した。濃度が12.5μM、25μM、40μM、50μM及び100μMのパターン溶液を前記の母液から調製し、これらのパターン溶液を分析することによって、トロロックスの検量線を作成した。AAPHを燐酸塩緩衝液に溶解させることによって調製した溶液(最終濃度:143mM)は、分解を抑制するために低温で保存した。
【0046】
アッセイを実施するために、375μlの試料を375μlのAAPH溶液と2.225mlのフルオレセイン溶液と混合し、得られた混合物を37℃でインキュベートした。RF-1501型蛍光計(シマズ社製)を用いて5分間毎に蛍光を測定した(λexo = 493nm及びλcm= 515nm)。蛍光の安定性が実験中に確保されているかどうかを確認するためのフルオレセインと燐酸塩緩衝液を含有するブランク、及びフルオレセイン、AAPH及び燐酸塩緩衝液を含有する正の最大酸化対照から成るアッセイについて対照試験をおこなった。最大抗酸化活性の対照として、40μMのトロロックス溶液を各組の被検試料中へ添加した。全ての試料の分析は3回おこなった。
【0047】
抗酸化活性は、フルオレセインの蛍光低下曲線の「曲線下の面積(area under curve;AUC)」を測定することによって定量化し、トロロックス当量(trolox equivalent)(ORAC値)で表示した。AUCは次式を用いて計算される:
AUC=(0.5+f5/f0+f10/f0+f15/f0+.....+f30/f0)
式中、f0は時間が0のときの蛍光を示し、f5等は時間が5分等のときの蛍光を示す。
【0048】
ペプチドに対する相対的なORAC値は次式を用いて決定される:
ORAC=[(AUC試料-AUCブランク)/(AUCトロロックス-AUCブランク)]×
[(トロロックスの容量モル濃度)/(試料の容量モル濃度)]
【0049】
4.イオン交換クロマトグラフィー(FPLC)によるペプチドフラクションの単離
カチオン型ペプチドフラクションの単離は、下記の文献に記載の方法によっておこなった。但し、FPLC系において「ハイロード(HiLoad)」(登録商標)26/10SPセファローズ高速カチオン交換カラム[ファイーマシア社(ウプサラ、スウェーデン)製]を使用することによって該方法の一部を改変した。
I.レシオ、S.ヴィッセル、「ウシのαs2-カゼインの配列内の2種の抗菌性領域の同定」、ビオキミカ・エ・ビオフィジカ・アクタ、1999年、第1428巻、第314頁〜第326頁。
【0050】
A相及びB相はそれぞれ10nMのNH4HCO3(HCOOHを用いてpHを7.0に調整した)及び1.5MのNH3を含有した。濃度を5mg/mlに調整した試料をA相に溶解させた後、その5mlをファーマシア製の「スーパーループ(Superloop)」(登録商標)を用いて注入した。水解物は5ml/分の流速で溶離した。100%の溶剤Aを20分間適用した後、溶剤A中の溶剤Bの濃度が0〜50%になる濃度勾配を60分間適用し、次いで50%の溶剤Bを20分間適用した。検出は214nmの吸光度でおこなった。カラムと移動相の温度は9℃に設定した。フラクションはクロマトグラフィー分析を数回行った後に捕集した。
【0051】
5.逆相高速液体クロマトグラフィー(RF-HPLC)を用いる半予備的スケールでのペプチドフラクションの単離
ウォーターズ社(ミルフォード、マサチューセッツ、米国)製のシステムであって、2台のプログラム制御ポンプ「ウォーターズ・デルタ600型」、966型ダイオードアレイ(diode array)検出器、717型プラス自動注入器、及びフラクションの自動捕集器からなるシステム使用した。カラムガードとしてC18カートリッジ(ウォーターズ社製)を備えた「C18プレプ・ノバ・パック(登録商標)HRカラム(7.8×300mm;孔径6μm)」を使用した。分析は30℃でおこない、検出は214nmと280nmでおこなった。データの取得は、ウォーターズ社製の「ミレニウム・ソフトウェア(ヴァージョン3.2)」を用いておこなった。
【0052】
αs2-カゼイン試料は2.5mg/mlの濃度で調製し、注入に先立って遠心分離処理(16000×g)に10分間付した。試料を溶離させるために、0.1%及び0.08%のトリフルオロ酢酸を含有する2成分のミリQ(登録商標)水勾配(相A)及びアセトニトリル(相B)をそれぞれ使用した(流速:4ml/分)。相Bの勾配は0〜40%(50分間)及び40〜70%(5分間)に設定し、カラムは70%のBを用いて5分間洗浄した後、出発状態にするための再状態調整処理に25分間付した。300μlの試料を注入した。全カゼイン試料は100mg/mlの濃度に調整し、注入に先立って、0.45μmの孔径を有するフィルターを通過させた。試料を溶離させるために、0.1%及び0.08%のトリフルオロ酢酸を含有する2成分のミリQ(登録商標)水勾配(相A)及びアセトニトリル(相B)をそれぞれ使用した(流速:4ml/分)。相Bの勾配は0〜35%(70分間)及び35〜70%(5分間)に設定し、カラムは70%のBを用いて5分間洗浄した後、出発状態にするための再状態調整処理に20分間付した。50μlの試料を注入した。
【0053】
6.タンデム型マススペクトロメトリーによる分析(オフライン)
この分析には、「エスクワイア(Esquire)3000イオントラップ(ion trap)システム」[ブルッカー・ダルトニーク社(ブレーメン、ドイツ)製]を使用した。試料溶液は、蟻酸を0.01%(v/v)含有する水/アセトニトリル50%(v/v)溶液を溶媒として2mg/mlの濃度で調製した。この試料溶液は、「22型シリンジポンプ」[ハーバード・アパレイタス社(サウスネイチック、マサチューセッツ、米国)製]を使用して電気噴霧ネブライザー内へ4μl/分の流速で注入した。このシステムにおいては、噴霧/乾燥ガスとして窒素ガスを使用し、5×10−3bar のヘリウム圧条件下で作動させた。マススペクトルは、100〜2000m/zの間隔で、13000Da/秒の速度によって得た。ペプチド配列を同定するためのタンデム型マススペクトルの解析は「バイオツールズ2.1プログラム」[ブルッカー・ダルトニーク社(ブレーメン、ドイツ)製]を使用しておこなった。
【0054】
7.タンデム型マススペクトロメトリーへオンラインで接続したRP−HPLC(RP−HPLC−MS/MS)による分析
この分析には、「エスクワイア−LCシステム」[ブルッカー・ダルトニーク社(ベレーメン、ドイツ)製]を使用した。HPLC(1100シリーズ)システムは四元ポンプ、自動インジェクター、溶離液の脱気系、及び波長可変型紫外線検出器[アジレント・テクノロジーズ社(ヴァルトブロン、ドイツ)]を具備する。該紫外線検出器は「エスクワイア3000イオントラップ型マススペクトロスコピー」(ブルッカー・ダルトニーク社製)へオンラインで接続させた。カラムとしては、長さが250mmで、内径が4.6mmで、充填粒子の粒径が5μmである「ハイポア(Hi-Pore)C18カラム」[バイオ−ラード・ラボラトリーズ社(リッチモンド、カリホルニア、米国)]を使用した。溶剤Aとしては、水とトリフルオロ酢酸との混合物(混合比;1000:0.37)を使用し、溶剤Bとしては、アセトニトリルとトリフルオロ酢酸との混合物(混合比;1000:0.27)を使用した。4.5mg/mlの濃度に調製した試料溶液(50μl)を注入した。流速は0.8ml/分とし、60分間における溶剤A中の溶剤Bの一次勾配は0%〜50%とした。溶離液は、直前のセクションに記載の条件と同じ条件下において、質量−吸光分光分析法によって214nmで監視した。但し、この場合には、ネブライザーを通過する試料溶液の注入速度は275μl/分とした。
【0055】
8.自然発症高血圧ラット(SHR)における抗高血圧活性に関する試験
同定された数種のペプチドの自然発症高血圧ラット(SHR)の血圧に対する効果を検討した。この試験に使用したペプチドは化学的に合成した。この試験においては、生後17〜20週間のオスのSHR(体重:300〜350g)を使用した。これらのラットはチャールズ・リヴァー・ラボラトリーズ・エスパーニャ社から入手した。1ケージあたり5匹の割合で複数のケージ内に収容した。これらのケージは定温(25℃)で12時間の明暗サイクル条件下に保持し、ラットには好きなときに水と餌を与えた。収縮期血圧(SBP)と拡張期血圧(DBP)を測定した。この測定においては、尾部-カフ(tail-cuff)法を使用した。この方法に関しては、次の文献を参照されたい:R.D.ブニャーク、「覚醒時のラットにおける収縮期血圧を測定するための尾部-カフ法の検証」、J. Appl. Physiol. 、1973年、第34巻、第279頁〜第282頁。
【0056】
レチカ社製の装置「Le5001」を使用することによって、SBP値及びDBP値をディジタル形式で自動的に得た。この装置を使用することによって、被検動物の心拍数の記録と増進が可能となる。尾部-カフと変換器をラットの尾部へ装着させる前に、ラットを37℃付近の温度条件下に曝すことによって尾動脈の拡張を促進させた。さらに、測定の信頼性を保証するために、当該試験を実施する前に、ラットを2週間にわたって試験手順に慣らさせた。SBP値及びDBP値は、これらの2種の測定値の各々について連続的に測定を3回行った後の平均値を計算することによって決定した。上記の試験に使用した自然発症高血圧ラット(SHR)は、190〜220mmHgのSBP値及び130〜180mmHgのDBP値を示した。
【0057】
被験生成物は、午前9時〜午前10時の時間内において胃内カテーテルを用いて投与した。この場合、被験投与物は1mlの蒸留水に溶解させた状態で投与した。SBP値とDBP値は投与の前に読み取り、また、投与後のこれらの値は2時間毎に読み取り、投与から8時間経過するまで測定した。さらに、SBP値とDBP値は、被験生成物を投与してから24時間経過後にも測定した。カテーテルを挿入したラットにおけるSBPとDBPの概日性変化(circadian variation)を評価するための負対照として、胃内カテーテルを用いて1mlの水を投与したラットを用いた同様の試験において得られたSBPとDBPの測定値を用いた。正対照として、カプトプリル(プロトタイプのACE-抑制剤)を50mg/kg投与したラットを用いた同様の試験において得られたSBPとDBPの測定値を用いた。この投与量のカプトプリルは、蒸留水1mlに溶解させた状態で各々のラットへ投与した。
【0058】
得られた結果を分類し、少なくとも6回の均等試験における測定値の標準誤差(SEM)の±平均値を計算した。これらを比較するために、分散の一元分析(one-way analysis)をおこなった後、ボンフェロニ試験(Bonferroni test)をおこなった。p<0.05の値差は有意なものとした。
【0059】
次に添付図面について簡単に説明する。
図1は、ペプシンを用いる加水分解処理に30分間付したヒツジのαs2-カゼインをカチオン交換クロマトグラフィーに付して得られたクロマトグラムを示す。この場合、5種のフラクション(FA〜FE)を選択し、これらのフラクションを手動で捕集し、X軸に時間(分)をプロットした。
【0060】
図2Aは、ペプシンを用いる加水分解処理に30分間付したヒツジのαs2-カゼインから捕集されたFCフラクションを半予備的規模での逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)に付して得られたクロマトグラムを示す。この場合、4種のサブフラクション(FC1〜FC4)を選択し、これらのサブフラクションを手動で捕集し、X軸に時間(分)をプロットした。
【0061】
図2Bは、ペプシンを用いる加水分解処理に30分間付したヒツジのαs2-カゼインから捕集されたFDフラクションを半予備的規模での逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)に付して得られたクロマトグラムを示す。この場合、2種のサブフラクション(FD1〜FD2)を選択し、これらのサブフラクションを手動で捕集し、X軸に時間(分)をプロットした。
【0062】
図3は、半予備的規模でのRP-HPLCによるFCフラクションとFDフラクションから得られた種々のサブフラクションの抗菌活性を示す。
【0063】
図4は、自然発症高血圧ラットにおける収縮期血圧(SBP)の低下及び拡張期血圧(DBP)の低下が、1mlの水(○)、50mg/kgのカプトプリル(□)、3mg/kgのPYVRYL(▲)及び3mg/kgのLKKISQ(◆)を胃内カテーテルでこれらのラットへ投与することによってもたらされたことを示す。「T(h)」は水等の投与後の経過時間(時)を示す。これらのデータは、少なくとも6匹のラットにおけるSEMの±平均値を示しており、水の場合はaP<0.05であり、カプトプリルの場合はbP<0.05であり、また、PYVRYLの場合はcP<0.05である。
【0064】
図5は、自然発症高血圧ラットにおける収縮期血圧(SBP)の低下及び拡張期血圧(DBP)の低下が、1mlの水(○)、50mg/kgのカプトプリル(□)、400mg/kgのカゼイン(◆)、400mg/kgのカゼイン水解物(▲)及び200mg/kgのカゼイン水解物(F<3000Da)(■)を胃内カテーテルでこれらのラットへ投与することによってもたらされたことを示す。「T(h)」は水等の投与後の経過時間(時)を示す。これらのデータは、少なくとも4匹のラットにおけるSEMの±平均値を示しており、水の場合はaP<0.05であり、カプトプリルの場合はbP<0.05であり、また、カゼイン(400mg/kg)の場合はcP<0.05である。
【0065】
図6のAは、ペプシンを用いる加水分解処理に3時間付したカゼインから得られた3000Daの少量のフラクションを半予備的規模での逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)に付して得られたクロマトグラムを示す。この場合、X軸における時間(分)に対して、214nmにおける吸光度をY軸にプロットした。
図6のBは、RP-HPLCによって得られた図6のAに対応するクロマトグラフィーフラクションのアンギオテンシン-変換酵素抑制活性を示す。この場合、強いACE-抑制活性を有する3種のフラクション(F3、F5及びF6)を自動的に捕集した。
【0066】
図7は、ペプシンと「コロラーゼPP」を用いる連続的な加水分解処理に付した前後における合成ペプチドPYVRYL SEQ.ID.No.7のRP-HPLCによるクロマトグラムを示す。この場合、X軸の時間(分)に対して、214nmにおける吸光度をY軸にプロットした。
【0067】
図8は、自然発症高血圧ラットにおける収縮期血圧(SBP)の低下及び拡張期血圧(DBP)の低下が、1mlの水(○)、50mg/kgのカプトプリル(□)、3mg/kgのPYVRYL(◆)及び2mg/kgのPYV(■)を胃内カテーテルでこれらのラットへ投与することによってもたらされたことを示す。「T(h)」は水等の投与後の経過時間(時)を示す。これらのデータは、少なくとも4匹のラットにおけるSEMの±平均値を示しており、水の場合はaP<0.05であり、カプトプリルの場合はbP<0.05であり、また、3mg/kgのPYVRYLの場合はcP<0.05である。
【0068】
図9は、ペプシンと「コロラーゼPP」を用いる連続的な加水分解処理に付した前後における合成ペプチドHLPLPLL SEQ.ID.No.14のRP-HPLCによるクロマトグラムを示す。この場合、X軸の時間(分)に対して、214nmにおける吸光度をY軸にプロットした。
【0069】
図10は、自然発症高血圧ラットにおける収縮期血圧(SBP)の低下及び拡張期血圧(DBP)の低下が、1mlの水(○)、50mg/kgのカプトプリル(□)、及び7mg/kgのHLPLP(●)を胃内カテーテルでこれらのラットへ投与することによってもたらされたことを示す。「T(h)」は水等の投与後の経過時間(時)を示す。これらのデータは、少なくとも4匹のラットにおけるSEMの±平均値を示しており、水の場合はaP<0.05であり、カプトプリルの場合はbP<0.05である。
【実施例】
【0070】
以下に説明する実施例は、本発明を例示的に説明するものであって、本発明の範囲を制限するものではない。
実施例1
抗菌活性、ACE-抑制活性、抗高血圧活性及び抗酸化活性を有する生物活性ペプチドを、ペプシンで加水分解されたヒツジのαs2-カゼインから製造する方法
次の文献に記載の方法に従ってヒツジのカゼイン残屑(rest)から得られたαs2-カゼインを基質として使用することによって水解物を得た:H.J.ヴレーマン、J.A.M.ファン・リール、「ウシのカゼインからのαs2-カゼインの大規模単離」、ネザーランズ・ミルク・アンド・デイリー・ジャーナル、1990年、第44巻、第43頁〜第48頁。酵素としては、シグマ・ケミカル社(セントルイス、米国)から入手したブタの胃から採取したブタペプシン(E.C.3.4.23.1.570 U/mgタンパク質)を使用した。ヒツジのαs2-カゼインの0.5%水溶液を調製し、該水溶液のpHは1MのHClを用いて3.0に調整した後、ペプシンを添加した[酵素/基質比:3.7/100(p/p)]。加水分解を37℃で30分間おこなった。反応系を80℃で15分間加熱することによってペプシンを不活性化させた後、該系のpHを1MのNaOHで7.0に調整した。水解物を5℃で16000×gの条件下での遠心分離処理に15分間付した後で捕集した上澄み液をFPLCによる分析処理に付し(図1参照)、分離された5種のフラクション(FA〜FE)を手動で捕集した後、凍結乾燥した。
【0071】
これらの5種のフラクションの2.5mg/ml濃度における抗菌活性を測定した。対照としては大腸菌(5.9×103CFU/ml)を使用した。得られた結果によれば、FCフラクション及びFDフラクションが抗菌活性を示し、それぞれ2.54及び0.6のオーダーで微生物数を低減させた。
【0072】
抗菌活性をもたらすペプチドを同定するために、FCフラクションとFDフラクションを半予備的規模でのRP-HPLCによる分析処理に付した。図2はFCフラクションのクロマトグラフィー図形(図2A)とFDフラクションのクロマトグラフィー図形(図2B)を示す。FCフラクションからは4種のサブフラクション(FC1〜FC4)が分離され、FDフラクションからは2種のサブフラクション(FD1〜FD2)が分離された。これらのフラクションの各々のフラクションは、分離後にアセトニトリルを蒸発させ、次いで凍結乾燥させた。これらのサブフラクションの大腸菌(6.2×106CFU/ml)に対する抗菌活性は、2.5mg/mlの濃度で測定した。
【0073】
図3は、大腸菌に対するこれらのサブフラクションの抗菌活性の値を示す。これらのサブセクションの内で特にFC1に注目すべきである。即ち、該サブフラクションは、試験した濃度[log (Nf/N0)>6]において殺菌効果を示したと考えられるので、比較的大きな抗菌活性を示したことになる。FC4サブフラクション、FD1サブフラクション及びFD2サブフラクションは穏やかな抗菌活性を示し、微生物の減少値はそれぞれ1.24、1.31及び1.64のオーダーである。
【0074】
FC1サブフラクション、FC4サブフラクション、FD1サブフラクション及びFD2サブフラクションは、先に説明した方法に従って、イオントラップ分析器を用いるマススペクトロメトリーによって分析した。同定されたペプチドを以下の表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
実施例2
抗菌活性を有する化学的に合成されたペプチド
ペプシンを用いる加水分解処理に30分間付したヒツジのαs2-カゼインから得られたサブフラクション中に一般的に存在するペプチド(SEQ.ID.No.1、SEQ.ID.No.2、SEQ.ID.No.3及びSEQ.ID.No.7)を化学的に合成した。即ち、これらのペプチドはフモック固相法(Fmoc solid-phase method )に従って合成し、該ペプチドの純度はRP-HPLC-MS/MSによって確認した。
【0077】
次の微生物に対するこれらの合成ペプチドの抗菌活性は0.05mMの濃度で測定した:大腸菌、セラチア・マルケセンス、スタフィロコッカス・カルノサス、スタフィロコッカス・エピデルミジス、エンテロコッカス・フェカーリス及びリステリア・イノキュア。これらの合成ペプチドの抗菌活性を以下の表3に示す。
【0078】
【表3】
【0079】
これらのペプチドはグラム陽性細菌、特に試験に供したスタフィロコッカス属の菌株に対して高い抗菌活性を示す。これらのペプチドの内の3種(SEQ.ID.No.1、SEQ.ID.No.2、及びSEQ.ID.No.3)はスタフィロコッカス・カルノサスに対して抗菌活性を示す。しかしながら、グラム陰性細菌(大腸菌及びセラチア・マルケセンス)は全てのこれらのペプチドの作用に対して高い耐性を示す。但し、SEQ.ID.No.3として同定されたペプチドが大腸菌に対して高い抗菌活性を示すという事実には特に注目すべきである。
【0080】
実施例3
ACE-抑制活性と抗高血圧活性を有する化学的に合成されたペプチド
化学的に合成されたペプチドの内の2種のペプチド(特に、実施例1において言及した配列SEQ.ID.No.1及びSEQ.ID.No.7)のACE-抑制活性を測定した。CI50値又は酵素活性を50%抑制するために必要なタンパク質の濃度で表示される活性の結果を以下の表4に示す。これらの2種のペプチドは強力なACE−抑制活性を示す。
【0081】
【表4】
【0082】
SEQ.ID.No.1及びSEQ.ID.No.7の抗高血圧活性に関する試験をおこなった。この試験は、これらのペプチド3mg/kgの濃度で自然発症高血圧ラット(SHR)へ投与することによっておこなった。これらのペプチドは蒸留水に溶解させ、得られた溶液1mlに含まれる相当する量のペプチドを各々のラットへ投与した。
【0083】
図4は、3mg/kgのSEQ.ID.No.1ペプチド及びSEQ.ID.No.7ペプチドを自然発症高血圧ラット(SHR)へ投与した後の種々の時点において測定した該ラットにおけるSBPとDBPの低下度を示す。SEQ.ID.No.7ペプチドの投与によって、これらの被検動物におけるSBP及びDBPを著しく低下させることができる。これらの変数の低下は、該ペプチドの投与から4時間経過後にピークに達する。この低下現象は、抗高血圧活性を示すことが証明されているカプトプリルの投与によってもたらされるSBPとDBPの低下現象の経時変化と類似の経時変化を示す。これらの結果は、配列SEQ.ID.No.7によって同定されたペプチドが、急性の被検体(acute basis)へ経口投与されたときに、明確で顕著な抗高血圧効果をもたらすことを示す。
【0084】
実施例4
抗酸化活性を有する化学的に合成されたペプチド
実施例1において言及したSEQ.ID.No.7配列の抗酸化活性を測定した。ペルオキシルラジカルのキレート化活性は次の通りである:
ORACPYVRYL=1.82μmol トロロックス当量/μmol ペプチド
これらの結果は、PYVRYL(SEQ.ID.No.7)が1μmol のトロロックスよりも1.82倍高い抗酸化活性を発揮することを示す。
【0085】
実施例5
ACE-抑制活性を有する生物活性ペプチドを、ペプシンを用いてウシカゼインから製造する方法
原料牛乳の等電沈殿によって得られたウシカゼイン基質を用いて加水分解をおこなった。酵素としては、シグマ・ケミカル社(セントルイス、米国)から入手したブタの胃から採取したブタペプシン(E.C.3.4.23.1.570 U/mgタンパク質)を使用した。ウシのカゼインの0.5%水溶液を調製し、該水溶液のpHは1MのHClを用いて2.0に調整した後、ペプシンを添加した[酵素/基質比:3.7/100(p/p)]。加水分解を37℃で3時間おこなった。反応系を80℃で20分間加熱することによってペプシンを不活性化させた後、該系のpHを1MのNaOHで7.0に調整した。水解物を5℃で16000×gの条件下での遠心分離処理に15分間付した後で捕集した上澄み液を、孔径が3000Daの親水性膜(「セントリペップ(Centripep)」;アミコン社(ビバリー、マサチューセッツ、米国)製)を用いる限外濾過処理に付した。
【0086】
全水解物と透過液(3000Da未満の分子量を有する水解物のフラクション)のACE-抑制活性と抗高血圧活性を、前記の分析法に従ってSHRにおいて決定した。CI50値又は酵素活性を50%抑制するために必要なタンパク質の濃度で表示されるACE-抑制活性、及びケルダール法によって測定したタンパク質の含有量を以下の表5に示す。
【0087】
【表5】
【0088】
図5は、カゼイン水解物の投与後及びカゼイン水解物フラクション(分子量:3000Da未満)の投与後から種々の時点でのSHRにおけるSBPとDBPの低下を示す。図5から明らかなように、カゼイン水解物の投与によって、これらのラットにおけるSBPとDBPの著しい低下がもたらされる。また、3000Da未満の分子量を有するカゼイン水解物フラクションを投与する場合にもたらされるSHRにおけるSBPとDBPの低下度は、カゼイン水解物の投与後にもたらされる対応する低下度と類似する。これらの値の低下は、これらの被験物の投与から2時間後にピークに達する。非加水分解カゼインを投与する場合には、SHRにおけるSBPの著しい改善はみられず、また、DBPの低下度も前記の被験物を投与した場合に比べて非常に小さい。これらの結果は、カゼイン水解物及びカゼイン水解物フラクション(分子量:3000Da未満)を急性の被検体へ経口投与する場合には、明確な抗高血圧効果がもたらされることを示す。
【0089】
ACE-抑制活性と抗高血圧活性をもたらすペプチドを同定するために、限外濾過後の透過液を半予備的規模でのRP-HPLCによる分離処理に付すことによって8種のフラクションを捕集した。アセトニトリル溶媒を蒸発させた後、クロマトグラフィーのフラクションを凍結乾燥させ、次いでACE-抑制活性とタンパク質含有量をビシンコニニン酸(bicinchoninic acid)法によって決定した。図6は、クロマトグラム、得られたフラクション、及び各々のフラクションに関するACE-抑制活性(CI50値)を示す。図6に示すフラクション(F3、F5及びF6)は大きなACE-抑制活性(即ち、小さなCI50値)を示す。前述の方法により、タンデム型マススペクトロメトリーへオンラインで接続したRP-HPLC(RP-HPLC-MS/MS)を使用してこれらのフラクションを分析した。同定された主要なペプチドを以下の表6に示す。
【0090】
【表6】
【0091】
これらのクロマトグラフィーフラクションから得られた主要なペプチドを固体相フモック(Fmoc法によって化学的に合成し、これらの純度をRP-HPLC-MS/MSによって確認した。化学的に合成したペプチド、特に配列SEQ.ID No.12、SEQ.ID No.13及びSEQ.ID No.14で示されるペプチドのACE-抑制活性を測定した。CI50値又はACE活性を50%抑制するために必要なタンパク質の濃度で表示される測定結果を以下の表7に示す。同定された3種の主要なペプチドの内の少なくとも2種のペプチドは強いACE-抑制活性を示した。
【0092】
【表7】
【0093】
実施例6
αs2-カゼインPYVRYL SEQ.ID No.7の加水分解によって得られたフラグメントを模擬胃腸内消化処理に付した後のペプチドのACE-抑制活性と抗高血圧活性
αs2-カゼイン水解物中において先に同定されたPYVRYL SEQ.ID No.7ペプチドを化学的に合成し、次の文献に記載の模擬的胃腸内消化を発現する2段階の加水分解処理に付した:A.C.アルティング、R.J.G.M.マイイェル、E.C.H.ファン・ベレスタイン、「幼児の模擬胃腸内条件下におけるウシ血清アルブミンのABBOSエピトープの不完全除去」、ダイアベーテス・ケア、1997年、第20巻、第875頁〜第880頁。この目的のために、合成ペプチドの水溶液(10mg/ml)を、最初に、シウグマ社から入手したペプシン(E.C.3.4.4.1、570U/mgタンパク質)を用いる37℃での加水分解処理に90分間付し(pH2.0;酵素-基質比1:50(p/p))、次いで、レーム社(ダルムシュタット、独国)製の「コロラーゼPP」を用いる37℃での加水分解処理に2.5時間付した(pH7〜8;酵素-基質比1:25(p/p))。該反応溶液を水浴中において95℃で10分間加熱することによって反応を中断させた。
【0094】
図7は、PYVRYLペプチドSEQ.ID No.7がペプシンとコロラーゼPPを用いるインキュベーション処理に付した後では完全に加水分解することを示す。RP-HPLC-MS/MSによって同定された主要なフラグメントはトリペプチドPVY SEQ.ID No.15である。このペプチドを化学的に合成し、そのACE-抑制活性(CI50値)を測定したところ、741.3μMであった。この値は、該ペプチドのACE-抑制活性が出発ペプチドの対応する値の1/370であることを示す。このトリペプチドPVY SEQ.ID No.15の抗高血圧活性は、該トリペプチドをSHRへ投与することによって測定した。このトリペプチドを蒸留水に溶解させ、所定濃度の水溶液1mlを投与した。
【0095】
図8は、PYV SEQ.ID No.15を2mg/kg投与した後及びPYVRYLペプチドSEQ.ID No.7を3mg/kg投与した後の種々の時点でのSHRにおけるSBPとDBPの低下を示す。図8から明らかなように、これらのラットにおいては、いずれのペプチドを投与してもSBPとDBPの著しい低下がもたらされる。PYV SEQ.ID No.15によるSBPに関するピーク効果は、該ペプチドの投与後2時間で発生するが、PYVRYLペプチドSEQ.ID No.7によるピーク効果は、該ペプチドの投与後4時間経過するまで発生しない。SEQ.ID No.15を投与する場合の抗高血圧効果のより速い発生は、次の事実に起因すると考えられる。即ち、この配列のペプチドが投与されると、生体内では発生しなければならない酵素的消化過程が回避される。これらの結果はSEQ.ID No.15の抗高血圧活性を例証する。もっとも、原則的には、この抗高血圧活性はACE-抑制活性に起因しない。PYVペプチドSEQ.ID No.15の強力な抗高血圧活性は現在までのところ知られていなかったという点に注目することが重要である。
【0096】
実施例7
完全カゼインHLPLPLL SEQ.ID No.14の加水分解によって得られたフラグメントを模擬胃腸内消化処理に付した後のペプチドのACE-抑制活性と抗高血圧活性
全カゼイン水解物のフラクション(分子量:3000Da未満)中において予め同定されたHLPLPLLペプチドSEQ.ID No.14を化学的に合成し、次の文献に記載の模擬的胃腸内消化を発現する2段階の加水分解処理に付した:A.C.アルティング、R.J.G.M.マイイェル、E.C.H.ファン・ベレスタイン、「幼児の模擬胃腸内条件下におけるウシ血清アルブミンのABBOSエピトープの不完全除去」、ダイアベーテス・ケア、1997年、第20巻、第875頁〜第880頁。この目的のために、合成ペプチドの水溶液(10mg/ml)を、最初に、シウグマ社から入手したペプシン(E.C.3.4.4.1、570U/mgタンパク質)を用いる37℃での加水分解処理に90分間付し(pH2.0;酵素-基質比1:50(p/p))、次いで、レーム社(ダルムシュタット、独国)製の「コロラーゼPP」を用いる37℃での加水分解処理に2.5時間付した(pH7〜8;酵素-基質比1:25(p/p))。該反応溶液を水浴中において95℃で10分間加熱することによって反応を中断させた。
【0097】
図9は、RP-HPLC-MS/MSによって同定されたHLPLPLLペプチドSEQ.ID No.14の加水分解によって得られたペプチドを示す。これらのペプチドはHLPLPLヘキサペプチドSEQ.ID No.16及びHLPLPペンタペプチドSEQ.ID No.17に相当する。HLPLPL SEQ.ID No.16は中間フラグメントであるが、ペンタペプチドHLPLP SEQ.ID No.17は胃腸内酵素の作用に対して耐性を示すので、HLPLPLLペプチドSEQ.ID No.14の最終的なタンパク質加水分解生成物であると考えられる。HLPLPペンタペプチドSEQ.ID No.17のACE-抑制活性(CI50値)を測定したところ、21μMであった。同様にして、加水分解によって得られた最終的なペプチドHLPLP SEQ.ID No.17をSHRへ7mg/kg投与したときの抗高血圧活性を測定した。SBPとDBPの低下現象を図10に示す。これらのラットにおいてはSBPとDBPの著しい低下現象がみられたが、この場合には、抗高血圧効果は少なくとも部分的にはACE-抑制活性に起因する。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】図1は、ペプシンを用いる加水分解処理に30分間付したヒツジのαs2-カゼインをカチオン交換クロマトグラフィーに付して得られたクロマトグラムを示す。
【図2A】図2Aは、ペプシンを用いる加水分解処理に30分間付したヒツジのαs2-カゼインから捕集されたFCフラクションを半予備的規模での逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)に付して得られたクロマトグラムを示す。
【図2B】図2Bは、ペプシンを用いる加水分解処理に30分間付したヒツジのαs2-カゼインから捕集されたFDフラクションを半予備的規模での逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)に付して得られたクロマトグラムを示す。
【図3】図3は、半予備的規模でのRP-HPLCによるFCフラクションとFDフラクションから得られた種々のサブフラクションの抗菌活性を示す。
【図4】図4は、自然発症高血圧ラットにおける収縮期血圧(SBP)の低下及び拡張期血圧(DBP)の低下が、1mlの水(○)、50mg/kgのカプトプリル(□)、3mg/kgのPYVRYL(▲)及び3mg/kgのLKKISQ(◆)を胃内カテーテルでこれらのラットへ投与することによってもたらされたことを示す。
【図5】図5は、自然発症高血圧ラットにおける収縮期血圧(SBP)の低下及び拡張期血圧(DBP)の低下が、1mlの水(○)、50mg/kgのカプトプリル(□)、400mg/kgのカゼイン(◆)、400mg/kgのカゼイン水解物(▲)及び200mg/kgのカゼイン水解物(F<3000Da)(■)を胃内カテーテルでこれらのラットへ投与することによってもたらされたことを示す。
【図6】図6Aは、ペプシンを用いる加水分解処理に3時間付したカゼインから得られた3000Daの少量のフラクションを半予備的規模での逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)に付して得られたクロマトグラムを示し、図6Bは、RP-HPLCによって得られた図6のAに対応するクロマトグラフィーフラクションのアンギオテンシン-変換酵素抑制活性を示す。
【図7】図7は、ペプシンと「コロラーゼPP」を用いる連続的な加水分解処理に付した前後における合成ペプチドPYVRYL SEQ.ID.No.7のRP-HPLCによるクロマトグラムを示す。
【図8】図8は、自然発症高血圧ラットにおける収縮期血圧(SBP)の低下及び拡張期血圧(DBP)の低下が、1mlの水(○)、50mg/kgのカプトプリル(□)、3mg/kgのPYVRYL(◆)及び2mg/kgのPYV(■)を胃内カテーテルでこれらのラットへ投与することによってもたらされたことを示す。
【図9】図9は、ペプシンと「コロラーゼPP」を用いる連続的な加水分解処理に付した前後における合成ペプチドHLPLPLL SEQ.ID.No.14のRP-HPLCによるクロマトグラムを示す。
【図10】図10は、自然発症高血圧ラットにおける収縮期血圧(SBP)の低下及び拡張期血圧(DBP)の低下が、1mlの水(○)、50mg/kgのカプトプリル(□)、及び7mg/kgのHLPLP(●)を胃内カテーテルでこれらのラットへ投与することによってもたらされたことを示す。
【技術分野】
【0001】
この発明は、乳タンパク質から誘導される生物活性生成物(bioactive products)の製造に関する。この種のタンパク質を酵素的処理に付すことによって、抗菌活性及び/又は生体外でのアンギオテンシン変換インヒビター活性(AEC-抑制活性)及び/又は抗高血圧活性及び/又は抗酸化活性を有するペプチドがもたらされる。この種のペプチドは食品工業及び製薬工業における使用原料として適している。
【背景技術】
【0002】
ヒトの栄養素としての乳の役割は出生時から重要であり、また、乳は高い栄養価と機能的価値を有する食品である。最近の新たな生物工学的分離技術の発達により、乳の異なる成分の分別が可能となり、このような乳成分は新規な食品の原料として使用されるだけでなく、乳成分の消費の増大に寄与する非食品的目的や新たな用途における原料としても使用されている。このため、乳成分からの単離タンパク質の製造に携わる多くの企業の関心事は、乳成分の一部の成分(例えば、カゼインや乳漿タンパク質等)の用途の拡大と多様化である。このことは、ラクトフェリンの製造に含まれる産業が該当する。ラクトフェリンは抗菌剤として使用されており、また、ベビーフード、ヨーグルト、栄養剤、特殊配合物、歯科用製品及び皮膚科用製品においても既に使用されている。さらに、ラクトフェリンは、その抗菌活性に起因して、新鮮なミルクの保存寿命を延長させるための添加剤としても使用されている。
【0003】
近年、機能性食品が食品産業に参入するようになっているが、これはダイエットと健康との間の関連性に対する消費者の高い意識に起因するものである。食品に配合された場合に、単なる栄養学的役割を越える特別な生物学的活性を発揮する成分として定義される機能性成分の中でも、多様性と多機能性に起因して卓越した地位を占めている成分のうちの1種は生物活性ペプチドである。この種のペプチドは、前駆体タンパク質中においては不活性なフラグメントであるが、生体内及び/又は生体外における加水分解過程によって放出されると、体内において種々の生理学的機能を発揮する。
【0004】
この種のペプチドが1979年に発見されて以来、種々の生物学的活性(例えば、抗菌活性、抗高血圧活性、免疫調節活性、抗血栓症活性、オピオイド活性及び抗酸化活性等)を有する食物タンパク質から誘導されるペプチドが知られている。このようなペプチドは食品及び/又は薬剤の分野において潜在的な用途を有しており、また、該ペプチドは種々の方法によって供給してもよいが、現在最も多く利用されている方法は、酵素的加水分解法と微生物的発酵法である。
【0005】
特に注目に値する生物活性ペプチドは抗菌特性を発揮するペプチドである(R.フロリス、I.レシオ、B.バークフート及びS.ビッセル、「乳タンパク質及びその誘導体の抗菌/抗ウイルス効果」、カレント・ファーマシューティカル・デザイン、2003年、第9巻、第1257頁〜第1275頁参照)。乳の抗菌活性は長年に亘って研究されてきており、該活性は、一般的には乳中に存在する抗菌活性を有する種々のタンパク質(例えば、イムノグロブリン、ラクトフェリン、ラクトペルオキシダーゼ及びリゾチーム等)に起因するとされている。しかしながら、最近になって、乳タンパク質から誘導されるペプチドの抗菌活性も証明されている。現在までのところ、乳タンパク質から誘導される抗菌性ペプチドの作用機構に関する決定的な研究はなされていないが、予備的な研究報文には、これらのペプチドの生物活性配列の一部がバクテリアの膜と相互作用してこれを平滑化する機能を有しているということが記載されている(D.チャップル、D.J.マソン、C.L.ジョアノウ、E.W.オデル、V.グラント、R.W.エバンス、「大腸菌の血清型0111に対するヒトのラクトフェリン上の螺旋表面領域に対する抗菌性合成ペプチド相同体の機能と構造との関連性」、インフェクション・アンド・イミュニティー、1998年、第66巻、第2434頁〜第2440頁参照)。ウシを入手源とするカゼインの酵素による水解物から得られる抗菌活性を有するペプチドが特許文献に記載されている。例えば、αs2-カゼインはEP1114060公報(発明の名称:生物学的流体からのカチオン性ペプチドの製造法)に記載されており、また、β-カゼインとκ- カゼインはWO99/26971公報(発明の名称:抗菌性ペプチド)に記載されている。類似の加水分解法により、乳漿タンパク質から誘導される抗菌特性を有するペプチドが単離されて同定されている。例えば、ラクトフェリンはWO2004/089986公報(発明の名称:トランスフェリン族からの抗菌性ペプチド)に記載されている。
【0006】
特に重要な別の生物活性ペプチド群は、先進諸国における高血圧に関連する冠動脈疾患の発生率が高いということを考慮するならば、抗高血圧活性を有するペプチド群である。この種のペプチドの多くのものは、アンギオテンシン変換酵素(ACE)の抑制によるレンニン-アンギオテンシン系の調節によって作用する(T.タカノ、「乳誘導ペプチドと高血圧の低下」、インターナショナル・デイリー・ジャーナル、1998年、第8巻、第375頁〜第381頁参照)。但し、この種のペプチドの効果が別の機構によってもたらされるという可能性を除外するものではない。
【0007】
ACE-抑制活性(ACEIa)を有する種々のペプチドが発見されている。例えば、この種のペプチドは、カゼインの酵素による水解物から得られており(米国特許第6514941号明細書参照;発明の名称:抗高血圧性ペプチドに富むカゼイン水解物の製造法)、また、乳漿からも得られている(WO01/85984公報;発明の名称:抗高血圧性ペプチドを製造するための乳漿タンパク質の酵素的処理、得られる生成物、及びほ乳類における高血圧症の処置)。抗高血圧性活性を有するペプチドの構造と活性との関連性に関する研究により、該活性がもたらされる過程における特定の疎水性アミノ酸の基本的な役割が明らかにされている(H.S.チョン、F.L.ワン、M.A.オンデッチ、E.F.サボ及びD.W.クッシュマン、「アンギオテンシン変換酵素の抑制剤とペプチド基質との結合;COOH-末端ジペプチド配列の重要性」、ジャーナル・オブ・バイオロジカルケミストリー、1980年、第255巻、第401頁〜第407頁参照)。
【0008】
一部のこの種のアミノ酸の存在は、抗酸化活性を発揮させるためには必須であると考えられており、また、最近になって、該活性の重要性が増している(H.M.チェン、K.ムラモト、F.ヤマウチ、K.フジモト及びK.ノキハラ、「大豆タンパク質の消化物中に存在するペプチドフラグメントから構築されるヒスチジン含有ペプチドの抗酸化性特性」、ジャーナル・オブ・アグリカルチュラル・アンド・フードケミストリー、1998年、第46巻、第49頁〜第53頁参照)。種々の変性疾患、例えば、癌、アルツハイマー疾患、白内障又は老化自体は細胞成分、脂質、タンパク質又はDNAの酸化に関連している。このような疾患は、生物体の抗酸化系と酸化剤との間の不均衡の結果として発現する。このような理由から、規定食中への抗酸化性化合物の配合は、このようなタイプの疾患の予防において有用である。さらに、商品中に存在するこのような抗酸化性化合物は、このような食品の腐敗及び該食品への不快な匂いと味の付与の原因となる脂肪の酸化過程を遅延させる。
【0009】
最近の研究によれば、種々の乳タンパク質とこれらの誘導体が異なる作用機構によって抗酸化活性を発揮する機能を有することが明らかにされている。このため、水解カゼイン(K.スエツナ、H.ウケダ及びH.オチ、「カゼインから誘導されるペプチドの単離及び遊離ラジカル捕獲活性の特性化」、ジャーナル・オブ・ニュートリショナルバイオケミストリー、2000年、第11巻、第128頁〜第131頁;EP1188767公報、発明の名称:カゼインから単離された抗酸化性ペプチド並びに該ペプチドの調製法、単離法及び同定法)又は乳漿タンパク質(B.ヘルナンデス-レデスマ、A.ダバロス、B.ボルトロメ及びL.アミゴ、「α-ラクトアルブミンとβ-ラクトグロブリンからの酵素による抗酸化性水解物の調製;HPLC-MS/MSによる活性ペプチドの同定」、ジャーナル・オブ・アグリカルチュラル・アンド・フードケミストリー、2005年、第53巻、第588頁〜第593頁)からの遊離ラジカルとキレート化する機能を有するペプチドが関連文献に記載されている。さらに、カゼインは、脂肪の酸化過程を触媒する酵素に対して抑制活性を示すペプチドの主要な原料となっている(S.G.リバル、S.ホルナロリ、C.G.ベリュ及びH.J.ウィケルス、「カゼインとカゼイン水解物I;リポオキシゲナーゼ抑制性ペプチド」、ジャーナル・オブ・アグリカルチュラル・アンド・フードケミストリー、2001年、第49巻、第287頁〜第294頁)。
【0010】
今日まで行われている大部分の研究はウシのカゼインから誘導されるペプチドの生物学的活性を中心に展開されている。しかしながら、ウシ以外のカゼイン、例えば、ヒツジのカゼインやヤギのカゼイン等から誘導されるペプチドによって発揮される生物学的活性に関するデータはほとんど公表されていない。J.A.ゴメス-ルイス、I.レシオ及びA.ピラントは、大腸菌JM103の代謝活性に対して投与量依存性の強力な抑制効果がβ-カゼインの水解物によってもたらされることを報告している(「ヒツジカゼイン水解物の抗菌活性;予備研究」、ミルヒビッセンシャフト-ミルクサイエンス・インターナショナル、2005年、第60巻、第41頁〜第45頁参照)。しかしながら、この研究においては、該抑制効果をもたらすペプチドの同定はおこなわれていない。
【0011】
これに対して、マンチェゴチーズの製造において特徴的な発酵/熟成過程中にヒツジのカゼインから放出されるいくつかの配列(一部の配列はACE-抑制活性を発揮している)は実際に同定されている(J.A.ゴメス-ルイス、M.ラモス及びI.レシオ、「高性能液体クロマトグラフィー-タンデム型マススペクトロメトリーによるマンチェゴチーズにおけるアンギオテンシン-変換酵素抑制性ペプチドの同定と調製」、ジャーナル・オブ・クロマトグラフィー A、2004年、第1054巻、第269頁〜第277頁)。これらの配列のCI50値(酵素活性を50%抑制する濃度)は24.1〜1275.4μMである。この研究においては、最も大きなACE-抑制活性を示すペプチドは、配列VRYL(SEQ.ID.No.11)のαs1-カゼインフラグメントf(205-208)のペプチドであり、該ペプチドのCI50値は24.1μMである(J.A.ゴメス-ルイス、M.ラモス及びI.レシオ、「マンチェゴチーズから単離されたペプチドのアンギオテンシン変換酵素抑制活性;シミュレート化胃腸消化条件下での安定性」、Int. デイリー・ジャーナル、2004年、第1075頁〜第1080頁)。
【0012】
しかしながら、この種のペプチドの腸管障壁の透過能及び生体内での抗高血圧効果の発揮能に関するデータは公表されていない。生体外でACE抑制活性を示す多くのペプチドは、生体内で試験する場合には該活性を全て失うか、又は部分的に失うということに留意すべきであり、また、生体外で重要なACE-抑制活性を示さないペプチドであっても、生体内においては消化酵素の作用に起因して該活性を示すことがあることに留意すべきである(M.マエノ、N.ヤマモト及びT.タカノ、「ラクトバシルス・ヘルベチカス(Lactobacillus helveticus)CP790からのタンパク質分解酵素によって生産されるカゼイン水解物から得られる抗高血圧性ペプチドの同定」、ジャーナル・オブ・デイリー・サイエンス、1996年、第79巻、第1316頁〜第1321頁)。さらに、種々の生物学的活性(例えば、抗高血圧活性、抗菌活性及び/又は抗酸化活性等)を発揮する種々のタイプのカゼインから放出されるペプチドの多機能性の耐性に関する研究は行われていない。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
食物タンパク質の配列内には、加水分解によって放出されると、生物学的活性を示す領域がある。生物活性ペプチドとして知られているこの種のフラグメントは、胃腸酵素の作用によるタンパク質の加水分解中に生体内で生成され、また、生体外においても、特定の酵素の作用に起因して生成されることがあり、あるいは、特定の食品の調製時に生成されることがある。乳タンパク質の高い生物学的品質を考慮するならば、規定食の一部として摂取されたときに、基礎的な栄養学的機能を発揮すると共に健康の保持と病気の予防に有用な代謝的効果又は生理学的効果を発揮する生物活性ペプチドを乳タンパク質から得ることは特に重要である。乳タンパク質からの生物活性ペプチドの製造は、常套の栄養学的価値を超えてこの栄養素の新たな用途(例えば、薬剤及び栄養と薬効のある製品の製造等)の開発を可能にする。また、この種のペプチドの製造は、健康的で安全な高品質食品であって、乳製品の提供の目的とより高い価値の最大限の利用に貢献する高品質食品の開発に寄与すると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この発明は、乳タンパク質から誘導される生成物であって、抗菌活性及び/又は生体外でのACE-抑制活性及び/又は抗高血圧活性及び/又は抗酸化活性を有する生物活性ペプチドを含有する該生成物を、カゼインフラクションの酵素的加水分解によって製造することからなる。
【0015】
生物活性ペプチドは、該ペプチドの放出に適した部位でのタンパク質鎖の切断を可能にする加水分解条件下でタンパク質分解酵素(好ましくは、ペプシン及び適用可能な「コロラーゼ(Corolase)PP」(登録商標))を使用することにより、1種又は複数種のタンパク質、ペプチド又はこれらのフラグメントの加水分解によって製造される。両方の酵素を使用して模擬胃腸消化をおこなう場合には、胃腸的に同化される条件にあって血流中へ流入する最小限の機能的ペプチドユニットが得られる。この特性は、これらのペプチドを経口投与以外の他の投与形態で使用することを可能とし、また、これらのペプチドの吸収速度を増大させる。この種のペプチドは化学的合成法又は組換え法等によって製造してもよい。これらのペプチドはペプチド自体として摂取してもよく、あるいは粗製水解物、低分子量濃縮物、又はサイズに基づく分離法若しくはクロマトグラフィー法によって得られるその他の活性サブフラクションから摂取してもよい。
【0016】
これらの水解物、これらのフラクション又はペプチドは、食物の防腐剤又は摂取されたときに身体の自然な防御機能の増進させる成分として食品の成分を構成してもよく、あるいは、病気の処置用薬剤、特に血圧及び/又は細菌性感染症を抑制するための薬剤の調製用成分として使用してもよい。本発明は、乳タンパク質の有する全ての特性を最大限に利用すると共に該タンパク質の価値をより高めることによって、乳タンパク質の用途を拡大する。
【0017】
本発明は、乳カゼインから生物活性ペプチドを製造する方法を提供する。この種の生物活性ペプチドは、下記のアミノ酸配列を有することが確認されたペプチドである:
:SEQ.ID No.1、SEQ.ID No.2、SEQ.ID No.3、SEQ.ID No.4、SEQ.ID No.5、SEQ.ID No.6、SEQ.ID No.7、SEQ.ID No.8、SEQ.ID No.9、SEQ.ID No.10、SEQ.ID No.12、SEQ.ID No.13、SEQ.ID No.14、SEQ.ID No.15、SEQ.ID No.16及びSEQ.ID No.17(後記の表1参照)。
これらのペプチドの内の一部のペプチドは抗菌活性及び/又は生体外でのACE-抑制活性及び/又は抗高血圧活性及び/又は抗酸化活性を有する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
本発明の出発原料は、動物又は植物を起源とする1種又は複数種のタンパク質又はペプチドを含有するいずれかの適当な基質、又は微生物に由来するいずれかの適当な基質であって、関連する生物活性ペプチドのアミノ酸配列を有する該基質であってもよい。αs2-カゼイン配列(SEQ.ID No.1、SEQ.ID No.2、SEQ.ID No.3、SEQ.ID No.4、SEQ.ID No.5、SEQ.ID No.6、SEQ.ID No.7、SEQ.ID No.8、SEQ.ID No.9、SEQ.ID No.10;後記の表1参照)に関連する基質、異なるタイプのαs2-カゼインを含有する調製物、これらのフラクション、ペプチド又はこれらのあらゆるサイズを有するフラグメントは明らかに使用することができ、これらは単独で使用してもよく、あるいは他のタンパク質と併用してもよい。
【0019】
αs1-カゼイン配列(SEQ.ID No.12、SEQ.ID No.13)に関連する基質、異なるタイプのαs1-カゼイン、これらのフラクション、ペプチド又はこれらの所望のサイズを有するフラグメントを含有する調製物も明らかに使用することができ、これらは単独で使用してもよく、あるいは他のタンパク質と併用してもよい。β-カゼイン配列(SEQ.ID No.12、SEQ.ID No.13)に関連する基質、異なるタイプのβ-カゼイン、これらのフラクション、ペプチド又はこれらの所望のサイズを有するフラグメントを含有する調製物も明らかに使用することができ、これらは単独で使用してもよく、あるいは他のタンパク質と併用してもよい。
【0020】
従って、所望の1種又は複数種のペプチドに応じて、純粋なαs1-カゼイン、純粋なαs2-カゼイン、純粋なβ-カゼイン、全カゼイン、カゼイン塩、含有成分の異なる乳、発酵乳製品、乳タンパク質水解物、副乳製品及び動物飼料用乳誘導体等を使用することが可能である。
【0021】
上記の出発原料は水中又は緩衝溶液中へ適当な濃度で溶解又は分散させる。この場合、pHは、タンパク質分解酵素が作用するために適当な値に調整する。タンパク質分解酵素としては、出発原料中に存在するタンパク質を分解して関連するペプチドをもたらす酵素であれば、いずれの酵素を使用してもよいが、好ましくは、pH2.0〜3.0の条件下においてペプシンを使用する。基質の発酵とタンパク質の加水分解をもたらすタンパク質分解性微生物を使用してもよい。
【0022】
加水分解の条件(pH、温度、酵素−基質比、反応の中断等)は、最も活性な水解物が選択的に得られるように最適化される。1つの特定の実施態様においては、生物活性ペプチドは、次の条件下で加水分解をおこなうことによって製造される。
酵素:ペプシン、
pH:3.0、
酵素−基質比:3.7/100(p/p)、
加水分解温度:37℃、及び
加水分解時間:10分間〜24時間(好ましくは30分未満)。
【0023】
SEQ.ID No.15及びSEQ.ID No.17(表1参照)として同定され、生体外でのACE-抑制活性及び/又は抗高血圧活性を有する生物活性ペプチドは、これらの構造と胃腸酵素に対する耐性に起因して、最小の機能性ペプチドユニットとなる。該ペプチドユニットは、胃腸内で消化された後では、胃腸内で同化され得る状態にあり、血流中へ流入する。出発原料は、動物又は植物を起源とする1種又は複数種のタンパク質又はペプチドを含有するいずれかの適当な基質、又は関連する生物活性ペプチドのアミノ酸配列(SEQ.ID No.15及びSEQ.ID No.17;表1参照)を含む微生物に由来するいずれかの適当な基質であってもよく、好ましくは、αs2-カゼイン及びβ-カゼインである。異なるタイプのαs2-カゼイン又はβ-カゼインを含有するいずれかの調製物、又はペプチド又はいずれかのサイズを有するこれらのフラグメントは明らかに使用することができ、これらは単独で使用してもよく、あるいはその他のタンパク質と併用してもよい。例えば、純粋なαs2-カゼイン、純粋なβ-カゼイン、全カゼイン、カゼイン塩、含有成分の異なる乳、発酵乳製品、乳タンパク質水解物、副乳製品及び動物の飼料用乳誘導体等を使用することが可能である。
【0024】
加水分解の条件(pH、温度、酵素−基質比、反応の中断等)は、最も活性な水解物が選択的に得られるように最適化される。1つの特定の実施態様においては、この最適化は、ペプシンで加水分解されたカゼイン、該カゼインの3000Da未満のフラクション、又は特定の配列(PVYRYL SEQ.ID No.7及びHLPLPLL SEQ.ID No.13)を含む合成ペプチドの加水分解を、酵素として「コロラーゼPP」を使用し、pHが7〜8で、酵素−基質比が1:25(p/p)で、温度が37℃の条件下において約2.5時間おこなうことによって達成される。この反応は、水浴中において反応系を95℃で10分間加熱することによって中断させる。コロラーゼPPは、タンパク質分解性のブタの膵臓酵素の調製品であって、トリプシンとケモトリプシンのほかにアミノペプチダーゼとカルボキシペプチダーゼを含有する。
【0025】
次いで、生物活性ペプチドの濃縮が望まれる場合、及び抗菌活性を有するペプチドがカチオン性である場合には、生物活性ペプチドを含有するフラクションの分離をカチオン交換クロマトグラフィー(FPLC)によっておこなう。より高いカチオン性フラクションからは、カチオン交換クロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィー等、又は好ましくは逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)を使用して活性なサブフラクションを単離することができる。あるいは、生物活性ペプチドは、例えば、限外濾過、透析、適当な孔径を有する膜を用いる電気透析、又はゲル−フィルタークロマトグラフィー等を使用することによって水解物から濃縮させることができる。
【0026】
完全水解物とそのフラクションのほかに、後記の表1に示す次のペプチドは生物活性特性(主として、抗菌活性及び/又はACE−抑制活性及び/又は抗高血圧活性及び/又は抗酸化活性)を発揮し、この種のペプチドも本発明の対象である:SEQ.ID No.1、SEQ.ID No.2、SEQ.ID No.3、SEQ.ID No.4、SEQ.ID No.5、SEQ.ID No.6、SEQ.ID No.7、SEQ.ID No.8、SEQ.ID No.9、SEQ.ID No.10、SEQ.ID No.12、SEQ.ID No.13、SEQ.ID No.14。特に、次の配列によって同定されるペプチドはグラム陽性バクテリアに対して抗菌活性を発揮し、また、少なくともSEQ.ID No.3の配列で同定されるペプチドは大腸菌に対して強力な抗菌活性をさらに発揮する:SEQ.ID No.1、SEQ.ID No.2、SEQ.ID No.3、SEQ.ID No.4、SEQ.ID No.5、SEQ.ID No.6、SEQ.ID No.7、SEQ.ID No.8、SEQ.ID No.9、SEQ.ID No.10。
【0027】
さらに、SEQ.ID No.1及びSEQ.ID No.7の配列によって同定されるペプチドは強力な生体外でのACE−抑制活性を発揮し、また、SEQ.ID No.7の配列によって同定されるペプチドは、自然発症高血圧ラット(SHR)へ経口投与されたときに抗高血圧活性を発揮する。このほかに、少なくともSEQ.ID No.7の配列によって同定されるペプチドは、酸素ラジカル-キレート化機構によってかなり高い抗酸化活性を示す。同様に、補正書においてSEQ.ID No.14の配列によって同定されるβカゼインから得られたペプチドは高いACE−抑制活性も発揮する。ペプシン又はコロラーゼPPで加水分解されたカゼインのほかに、表1においてSEQ.ID No.15及びSEQ.ID No.17の配列によって同定されるペプチドも、自然発症高血圧ラット(SHR)において抗高血圧活性を発揮し、これらのペプチドも本発明の対象である。この種のペプチドが、副作用がほとんどなくて良好な耐性が期待される幅広く消費されている生成物から調製される天然ペプチドであるという事実に特に注目すべきである。
【0028】
ペプシンによる水解物中で同定された下記の配列で規定される生物活性ペプチド及びコロラーゼPPによって得られたペプチド(SEQ.ID No.15、SEQ.ID No.16及びSEQ.ID No.17;表1参照)に関しては、これらの配列を考慮した上で、現在利用できる技術を利用することにより、化学的なペプチド合成法及び/又は酵素的ペプチド合成法あるいは組換え法に従って、この種のペプチドを得ることが可能である:SEQ.ID No.1、SEQ.ID No.2、SEQ.ID No.3、SEQ.ID No.4、SEQ.ID No.5、SEQ.ID No.6、SEQ.ID No.7、SEQ.ID No.8、SEQ.ID No.9、SEQ.ID No.10、SEQ.ID No.12、SEQ.ID No.13、SEQ.ID No.14。
【0029】
【表1】
【0030】
ウシ起源のαs2-カゼインタンパク質は知られていたが(EP1114060公報;生物学的流体からのカチオン性ペプチドの製造法)、ペプシンで加水分解されたヒツジのαs2-カゼインから生物活性ペプチドを製造する方法は先行技術文献には記載されていない。マンチェゴチーズに含まれるウシのαs2-カゼインとその他のヒツジカゼインから誘導だれるACE-抑制活性を有するペプチドは従来から同定されているが(J.A.ゴメス-ルイス、M.ラモス及びI.レシオ、「高速液体クロマトグラフィーを連結したマススペクトロメトリーによるマンチェゴチーズ中のアンギオテンシン変換酵素抑制性ペプチドの同定と生成」、ジャーナル・オブ・クロマトグラフィーA、2004年、第1054巻、第269頁〜第277頁)、この種のペプチドの生体内での抗高血圧活性に関する研究はなされていない。従来から同定されているACE-抑制活性を有するペプチドの1種は、配列VRYL(SEQ.ID.No.11)を有するヒツジのαs2-カゼインの205〜208フラグメントである(CI50:24.1μM)。
【0031】
しかしながら、本発明による配列SEQ.ID.No.7(PYVRYL)(CI50:1.94μM)は、従来から知られている該フラグメントに比べて12倍高いACE-抑制活性を有しており、このことは、かなり高い抗高血圧活性及び/又は抗酸化活性及び/又は抗菌活性を発揮させるためには、本発明において見出された該配列全体が必要であることを示す。抗高血圧活性及び/又は抗酸化活性及び/又は抗菌活性を発揮させるためには、SEQ.ID.No.7の配列全体も必要である。さらに、本発明によるSEQ.ID.No.7配列の模擬胃腸内消化後において、最小の活性フラグメントはPYV SEQ.ID.No.15配列のフラグメントであることも示される。
【0032】
一方、この方法によれば、酵素製剤と模擬胃腸内消化条件を採用することによって、特定の生物活性ペプチド(SEQ.ID.No.15、SEQ.ID.No.16、SEQ.ID.No.17;表1参照)を得ることが可能となる。従って、得られるフラグメントは、加水分解の最終生成物であって、胃腸管内に吸収されて抗高血圧作用の直接的な原因となる物質である可能性がある。しかしながら、血漿ペプチダーゼによるさらなる加水分解は除外されない。小さな活性フラグメントの製造は有利である。何故ならば、この種のフラアグメントは種々の経路によって容易に投与することができ、経口投与されると迅速に作用するからである。
【0033】
全乳、乳成分、カゼイン及びカゼイン塩等の乳製品は、抗菌活性及び/又はACE-抑制活性及び/又は抗高血圧活性及び/又は抗酸化活性を有する生物活性ペプチドを調製するための基質であって、容易に入手しうる安価な基質である。この種の乳製品は、機能性食品、添加剤、食品成分、又は動物及び主としてヒトにおけるあらゆるタイプの感染症及び/又は動脈性高血圧症の治療用及び/又は予防用薬剤として使用に供するためには、熱処理(例えば、低温殺菌処理等)に付すか、又は乾燥処理若しくは凍結乾燥処理に付される。
【0034】
水解物、低分子量フラクション、ペプチド、これらの誘導体若しくは薬学的に許容される塩又はこれらの任意の混合物の使用量、又はいずれかの疾患を処置するためのこれらの投与量は種々の要因(例えば、年齢、病気又は疾患の程度、投与経路及び投与頻度等)によって左右される。これらの化合物は、いずれかの投与形態(固体状又は液体状)で投与してもよく、また、いずれかの適当な投与経路によって投与してもよいが(例えば、経口投与、気管支投与、直腸投与又は局所投与等)、特に固体状又は液体状の形態で経口投与するように調製される。
【0035】
一般的には、この種の生成物(即ち、完全水解物、これらのフラクション及びこれらを構成するペプチド)の製造法は、可能な限り多量の生物活性ペプチドが得られるように調整するか、又は一般的には中分子量若しくは低分子量を有する高濃度の疎水性ペプチドに起因する苦味を許容できる程度に調整するよって最適化することができる。
【0036】
分析方法
1.抗菌活性の測定
抗菌活性は、次の文献に記載の方法に従って測定した:A.ペレグリニ、C.デルチング、U.トーマス、P.フンチカー、「ウシのβ-ラクトグロブリンにおける4つの殺菌性領域の単離と特性化」、ビオキミカ・エ・ビオフィジカ・アクタ、2001年、第1526巻、第131頁〜第140頁。この場合、微生物としては次の微生物を使用した:
i)大腸菌(Escherichia coli)[アメリカン・タイプ・カルチャー・コレクション(ATCC)、ロックヴィル、メリーランド、米国]ATCC 25922、
ii)リステリア・イノキュア(Listeria innocua)[コレクシオーン・エスパニョーラ・デ・クルチボス・チポ(CECT)、ヴァレンシア、スペイン]CECT 910T、
iii)表皮ブドウ球菌(Staphylococcus epidermidis)CECT 231、
iv)エンテロコッカス・フェカーリス(Enterococcus faecalis )CECT 795、
v) セラチア・マルケセンス(Serratia marcescens )CECT 854、及び
vi)スタフィロコッカス・カルノサス(Staphylococcus carnosus )CECT 4491T。
【0037】
これらの微生物の懸濁液を1%の濃度でブロス(broth)中へ接種した。即ち、大腸菌、セラチア・マルケセンス及びスタフィロコッカス属の菌株はトルプトーゼ・ソイ・ブロス(Tryptose Soy Broth;TSB)中へ接種し、エンテロコッカス・フェカーリス及びリステリア・イノキュアは脳-心臓浸出物(BHI)ブロス中へ接種した。インキュベーションは、セラチア・マルケセンスの場合は30℃でおこない、その他の微生物の場合は37℃でおこなった。
【0038】
測定を開始するための微生物の接種物は、TSB-寒天又はBHI-寒天中で増殖したコロニーを10mlのTSB又はBHI中において、37℃又は30℃で一夜インキュベートした後で得た。微生物の懸濁液(1ml)は対応する培養液を用いて1/50に希釈し、次いで各菌株に対して適当な温度において、個体群密度が1〜4×108コロニー形成単位(CFU)/mlになるまでインキュベートした。培養物を2000×gでの遠心分離処理に10分間付し、沈降した微生物を15mlの燐酸塩緩衝液(pH:7.4)を用いて2回洗浄し、個体群密度を106CFU/mlに調整した。複数のウェルを備えた無菌プレート(グライナー・ラボルテヒニーク社(フリッケンハウゼン、ドイツ)製)上において、微生物の懸濁液50μl、被検物資50μl及び燐酸塩緩衝液100μlを、各場合において適当な2%培養液と混合し、得られた混合物を37℃又は30℃において2時間インキュベートした。次いで、混合物を10−5に希釈し、各希釈液100μlをTSB-寒天プレート又はBHI-寒天プレート上へ添加し、これらのプレートを24時間インキュベートした後、コロニー数をカウントした。
【0039】
抗菌活性は次式によって計算した:
抗菌活性=log (N0/Nf)
式中、N0は試験開始時のコロニーの数(CFU/ml)を示し、Nfは最終的なコロニーの数(CFU/ml)を示す。
【0040】
2.アンギオテンシン変換酵素抑制活性(ACEIa)の測定
ACE-抑制活性は、下記の文献i)に記載の方法を修正した文献ii)に記載されている方法に従って生体外で測定した:
i)D.W.クッシュマン及びH.S.チョン、「ウサキの肺中のアンギオテンシン-変換酵素の特性と分光光度的アッセイ」、バイオケミカル・ファーマコロジー、1971年、第20巻、第1637頁〜第1648頁、及び
ii)Y.K.キム、S.ヨーン、D.Y.ユー、B.レンネルダール及びB.H.チュン、「大腸菌内で発現された組換えヒトαs1-カゼインから誘導された新規なアンギオテンシン-I-変換酵素抑制性ペプチド」、ジャーナル・オブ・デイリー・リサーチ、1999年、第66巻、第431頁〜第439頁。
【0041】
基質としては、シグマ・ケミカル社(セントルイス、ミズリー、米国)製の「ヒプリル・ヒスチジル・ロイシン(hipuril histidil leucine;HHL)」を使用した。0.3MのNaClを含有する0.1M硼酸塩緩衝液(pH:8.3)に該基質を溶解させることによって、最終濃度が5mMの基質溶液を調製した。ACE-抑制活性がアッセイされるべき各試料40μlを基質溶液100μl中へ添加した。シグマ社製のACE酵素「CE3.4.5.1」を50%グリセロールに溶解させた後、試験の実施時に、再蒸留水を用いて該溶液を1/10に希釈した。反応は、水浴中において37℃で30分間おこなった。1NのHCl(150μl)を用いて反応系のpHを低下させることによって酵素を不活性化させた。生成する馬尿酸を酢酸エチル(1000μl)で抽出した。渦状の撹拌処理を20秒間おこなった後、周囲温度での遠心分離処理(3000×g)に10分間付した。有機相から750μlの試料を採取し、該試料を98℃での加熱蒸発処理に10分間付した。馬尿酸残渣を再蒸留水(800μl)中へ再溶解させ、該溶液を撹拌処理に20秒間付した後、228nmでの吸光度を測定した。吸光度の測定には、ベックマン・インスツルメント社(ヒュラトン、米国)製のデュア-70分光光度計を使用した。
【0042】
下記の式を用いてACE-抑制活性の百分率を計算した:
ACE-抑制活性(%)=[(A対照−A試料)/(A対照−Aブランク)] ×100
バックグラウンド吸光度を補正するためにブランクを使用した。ブランクには基質、酵素、及び試料の代わりの再蒸留水(20μl)を含有させ、このときの反応は時間が0の時に停止させた。対照にはインヒビターの不存在下での基質上での酵素作用の100%が課され、該対照は試料の代わりに水を20μl含有し、そのインキュベーション時間は試料の場合と同様である。
【0043】
結果はCI50(μM)又は酵素の活性が50%抑制される濃度で示す。タンパク質の濃度は、パターン(pattern)としてウシ血清アルブミンを使用するビシンコニニン酸(bicinchoninic acid)試験法(ピース-ロッコード社;イリノイ、米国)を利用して決定した。
【0044】
3.抗酸化活性の測定
酸素ラジカル吸収能(oxygen radical absorption capacity;ORAC )は、下記の文献の研究者によって開発された方法によって測定した:
B.X.オウ、M.ハンプシュ-ウッディル、R.L.プリオー、「蛍光プローブとしてフルオレセインを用いる改良された酸素ラジカル吸収能アッセイの開発と有効性」、2001年、第49巻、第4619頁〜第4626頁。
この方法は、2,2’アゾ-ビス-2-アミジノプロパンジヒドロクロリドの熱分解によってその場で生成されるペルオキシラジカルによるフルオレセインの酸化に基づく方法である(λexo = 493nm及びλcm= 515nm)。抗酸化剤の存在により、フルオレセインの分解は防止されるか、又は遅延される。
【0045】
フルオレセインの作用溶液(60nM)は、75nM燐酸塩緩衝液(pH:7.5)を溶媒とするフルオレセイン母液(100μM)から日毎に調製した。対照抗酸化剤としては、6-ヒドロキシ-2,5,7,8-テトラメチルクロマン-2-カルボン酸(トロロックス(Trolox))を使用した。この抗酸化剤は、燐酸塩緩衝液を溶媒として濃度が20nMの溶液(母液)として調製し、−20℃で保存した。濃度が12.5μM、25μM、40μM、50μM及び100μMのパターン溶液を前記の母液から調製し、これらのパターン溶液を分析することによって、トロロックスの検量線を作成した。AAPHを燐酸塩緩衝液に溶解させることによって調製した溶液(最終濃度:143mM)は、分解を抑制するために低温で保存した。
【0046】
アッセイを実施するために、375μlの試料を375μlのAAPH溶液と2.225mlのフルオレセイン溶液と混合し、得られた混合物を37℃でインキュベートした。RF-1501型蛍光計(シマズ社製)を用いて5分間毎に蛍光を測定した(λexo = 493nm及びλcm= 515nm)。蛍光の安定性が実験中に確保されているかどうかを確認するためのフルオレセインと燐酸塩緩衝液を含有するブランク、及びフルオレセイン、AAPH及び燐酸塩緩衝液を含有する正の最大酸化対照から成るアッセイについて対照試験をおこなった。最大抗酸化活性の対照として、40μMのトロロックス溶液を各組の被検試料中へ添加した。全ての試料の分析は3回おこなった。
【0047】
抗酸化活性は、フルオレセインの蛍光低下曲線の「曲線下の面積(area under curve;AUC)」を測定することによって定量化し、トロロックス当量(trolox equivalent)(ORAC値)で表示した。AUCは次式を用いて計算される:
AUC=(0.5+f5/f0+f10/f0+f15/f0+.....+f30/f0)
式中、f0は時間が0のときの蛍光を示し、f5等は時間が5分等のときの蛍光を示す。
【0048】
ペプチドに対する相対的なORAC値は次式を用いて決定される:
ORAC=[(AUC試料-AUCブランク)/(AUCトロロックス-AUCブランク)]×
[(トロロックスの容量モル濃度)/(試料の容量モル濃度)]
【0049】
4.イオン交換クロマトグラフィー(FPLC)によるペプチドフラクションの単離
カチオン型ペプチドフラクションの単離は、下記の文献に記載の方法によっておこなった。但し、FPLC系において「ハイロード(HiLoad)」(登録商標)26/10SPセファローズ高速カチオン交換カラム[ファイーマシア社(ウプサラ、スウェーデン)製]を使用することによって該方法の一部を改変した。
I.レシオ、S.ヴィッセル、「ウシのαs2-カゼインの配列内の2種の抗菌性領域の同定」、ビオキミカ・エ・ビオフィジカ・アクタ、1999年、第1428巻、第314頁〜第326頁。
【0050】
A相及びB相はそれぞれ10nMのNH4HCO3(HCOOHを用いてpHを7.0に調整した)及び1.5MのNH3を含有した。濃度を5mg/mlに調整した試料をA相に溶解させた後、その5mlをファーマシア製の「スーパーループ(Superloop)」(登録商標)を用いて注入した。水解物は5ml/分の流速で溶離した。100%の溶剤Aを20分間適用した後、溶剤A中の溶剤Bの濃度が0〜50%になる濃度勾配を60分間適用し、次いで50%の溶剤Bを20分間適用した。検出は214nmの吸光度でおこなった。カラムと移動相の温度は9℃に設定した。フラクションはクロマトグラフィー分析を数回行った後に捕集した。
【0051】
5.逆相高速液体クロマトグラフィー(RF-HPLC)を用いる半予備的スケールでのペプチドフラクションの単離
ウォーターズ社(ミルフォード、マサチューセッツ、米国)製のシステムであって、2台のプログラム制御ポンプ「ウォーターズ・デルタ600型」、966型ダイオードアレイ(diode array)検出器、717型プラス自動注入器、及びフラクションの自動捕集器からなるシステム使用した。カラムガードとしてC18カートリッジ(ウォーターズ社製)を備えた「C18プレプ・ノバ・パック(登録商標)HRカラム(7.8×300mm;孔径6μm)」を使用した。分析は30℃でおこない、検出は214nmと280nmでおこなった。データの取得は、ウォーターズ社製の「ミレニウム・ソフトウェア(ヴァージョン3.2)」を用いておこなった。
【0052】
αs2-カゼイン試料は2.5mg/mlの濃度で調製し、注入に先立って遠心分離処理(16000×g)に10分間付した。試料を溶離させるために、0.1%及び0.08%のトリフルオロ酢酸を含有する2成分のミリQ(登録商標)水勾配(相A)及びアセトニトリル(相B)をそれぞれ使用した(流速:4ml/分)。相Bの勾配は0〜40%(50分間)及び40〜70%(5分間)に設定し、カラムは70%のBを用いて5分間洗浄した後、出発状態にするための再状態調整処理に25分間付した。300μlの試料を注入した。全カゼイン試料は100mg/mlの濃度に調整し、注入に先立って、0.45μmの孔径を有するフィルターを通過させた。試料を溶離させるために、0.1%及び0.08%のトリフルオロ酢酸を含有する2成分のミリQ(登録商標)水勾配(相A)及びアセトニトリル(相B)をそれぞれ使用した(流速:4ml/分)。相Bの勾配は0〜35%(70分間)及び35〜70%(5分間)に設定し、カラムは70%のBを用いて5分間洗浄した後、出発状態にするための再状態調整処理に20分間付した。50μlの試料を注入した。
【0053】
6.タンデム型マススペクトロメトリーによる分析(オフライン)
この分析には、「エスクワイア(Esquire)3000イオントラップ(ion trap)システム」[ブルッカー・ダルトニーク社(ブレーメン、ドイツ)製]を使用した。試料溶液は、蟻酸を0.01%(v/v)含有する水/アセトニトリル50%(v/v)溶液を溶媒として2mg/mlの濃度で調製した。この試料溶液は、「22型シリンジポンプ」[ハーバード・アパレイタス社(サウスネイチック、マサチューセッツ、米国)製]を使用して電気噴霧ネブライザー内へ4μl/分の流速で注入した。このシステムにおいては、噴霧/乾燥ガスとして窒素ガスを使用し、5×10−3bar のヘリウム圧条件下で作動させた。マススペクトルは、100〜2000m/zの間隔で、13000Da/秒の速度によって得た。ペプチド配列を同定するためのタンデム型マススペクトルの解析は「バイオツールズ2.1プログラム」[ブルッカー・ダルトニーク社(ブレーメン、ドイツ)製]を使用しておこなった。
【0054】
7.タンデム型マススペクトロメトリーへオンラインで接続したRP−HPLC(RP−HPLC−MS/MS)による分析
この分析には、「エスクワイア−LCシステム」[ブルッカー・ダルトニーク社(ベレーメン、ドイツ)製]を使用した。HPLC(1100シリーズ)システムは四元ポンプ、自動インジェクター、溶離液の脱気系、及び波長可変型紫外線検出器[アジレント・テクノロジーズ社(ヴァルトブロン、ドイツ)]を具備する。該紫外線検出器は「エスクワイア3000イオントラップ型マススペクトロスコピー」(ブルッカー・ダルトニーク社製)へオンラインで接続させた。カラムとしては、長さが250mmで、内径が4.6mmで、充填粒子の粒径が5μmである「ハイポア(Hi-Pore)C18カラム」[バイオ−ラード・ラボラトリーズ社(リッチモンド、カリホルニア、米国)]を使用した。溶剤Aとしては、水とトリフルオロ酢酸との混合物(混合比;1000:0.37)を使用し、溶剤Bとしては、アセトニトリルとトリフルオロ酢酸との混合物(混合比;1000:0.27)を使用した。4.5mg/mlの濃度に調製した試料溶液(50μl)を注入した。流速は0.8ml/分とし、60分間における溶剤A中の溶剤Bの一次勾配は0%〜50%とした。溶離液は、直前のセクションに記載の条件と同じ条件下において、質量−吸光分光分析法によって214nmで監視した。但し、この場合には、ネブライザーを通過する試料溶液の注入速度は275μl/分とした。
【0055】
8.自然発症高血圧ラット(SHR)における抗高血圧活性に関する試験
同定された数種のペプチドの自然発症高血圧ラット(SHR)の血圧に対する効果を検討した。この試験に使用したペプチドは化学的に合成した。この試験においては、生後17〜20週間のオスのSHR(体重:300〜350g)を使用した。これらのラットはチャールズ・リヴァー・ラボラトリーズ・エスパーニャ社から入手した。1ケージあたり5匹の割合で複数のケージ内に収容した。これらのケージは定温(25℃)で12時間の明暗サイクル条件下に保持し、ラットには好きなときに水と餌を与えた。収縮期血圧(SBP)と拡張期血圧(DBP)を測定した。この測定においては、尾部-カフ(tail-cuff)法を使用した。この方法に関しては、次の文献を参照されたい:R.D.ブニャーク、「覚醒時のラットにおける収縮期血圧を測定するための尾部-カフ法の検証」、J. Appl. Physiol. 、1973年、第34巻、第279頁〜第282頁。
【0056】
レチカ社製の装置「Le5001」を使用することによって、SBP値及びDBP値をディジタル形式で自動的に得た。この装置を使用することによって、被検動物の心拍数の記録と増進が可能となる。尾部-カフと変換器をラットの尾部へ装着させる前に、ラットを37℃付近の温度条件下に曝すことによって尾動脈の拡張を促進させた。さらに、測定の信頼性を保証するために、当該試験を実施する前に、ラットを2週間にわたって試験手順に慣らさせた。SBP値及びDBP値は、これらの2種の測定値の各々について連続的に測定を3回行った後の平均値を計算することによって決定した。上記の試験に使用した自然発症高血圧ラット(SHR)は、190〜220mmHgのSBP値及び130〜180mmHgのDBP値を示した。
【0057】
被験生成物は、午前9時〜午前10時の時間内において胃内カテーテルを用いて投与した。この場合、被験投与物は1mlの蒸留水に溶解させた状態で投与した。SBP値とDBP値は投与の前に読み取り、また、投与後のこれらの値は2時間毎に読み取り、投与から8時間経過するまで測定した。さらに、SBP値とDBP値は、被験生成物を投与してから24時間経過後にも測定した。カテーテルを挿入したラットにおけるSBPとDBPの概日性変化(circadian variation)を評価するための負対照として、胃内カテーテルを用いて1mlの水を投与したラットを用いた同様の試験において得られたSBPとDBPの測定値を用いた。正対照として、カプトプリル(プロトタイプのACE-抑制剤)を50mg/kg投与したラットを用いた同様の試験において得られたSBPとDBPの測定値を用いた。この投与量のカプトプリルは、蒸留水1mlに溶解させた状態で各々のラットへ投与した。
【0058】
得られた結果を分類し、少なくとも6回の均等試験における測定値の標準誤差(SEM)の±平均値を計算した。これらを比較するために、分散の一元分析(one-way analysis)をおこなった後、ボンフェロニ試験(Bonferroni test)をおこなった。p<0.05の値差は有意なものとした。
【0059】
次に添付図面について簡単に説明する。
図1は、ペプシンを用いる加水分解処理に30分間付したヒツジのαs2-カゼインをカチオン交換クロマトグラフィーに付して得られたクロマトグラムを示す。この場合、5種のフラクション(FA〜FE)を選択し、これらのフラクションを手動で捕集し、X軸に時間(分)をプロットした。
【0060】
図2Aは、ペプシンを用いる加水分解処理に30分間付したヒツジのαs2-カゼインから捕集されたFCフラクションを半予備的規模での逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)に付して得られたクロマトグラムを示す。この場合、4種のサブフラクション(FC1〜FC4)を選択し、これらのサブフラクションを手動で捕集し、X軸に時間(分)をプロットした。
【0061】
図2Bは、ペプシンを用いる加水分解処理に30分間付したヒツジのαs2-カゼインから捕集されたFDフラクションを半予備的規模での逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)に付して得られたクロマトグラムを示す。この場合、2種のサブフラクション(FD1〜FD2)を選択し、これらのサブフラクションを手動で捕集し、X軸に時間(分)をプロットした。
【0062】
図3は、半予備的規模でのRP-HPLCによるFCフラクションとFDフラクションから得られた種々のサブフラクションの抗菌活性を示す。
【0063】
図4は、自然発症高血圧ラットにおける収縮期血圧(SBP)の低下及び拡張期血圧(DBP)の低下が、1mlの水(○)、50mg/kgのカプトプリル(□)、3mg/kgのPYVRYL(▲)及び3mg/kgのLKKISQ(◆)を胃内カテーテルでこれらのラットへ投与することによってもたらされたことを示す。「T(h)」は水等の投与後の経過時間(時)を示す。これらのデータは、少なくとも6匹のラットにおけるSEMの±平均値を示しており、水の場合はaP<0.05であり、カプトプリルの場合はbP<0.05であり、また、PYVRYLの場合はcP<0.05である。
【0064】
図5は、自然発症高血圧ラットにおける収縮期血圧(SBP)の低下及び拡張期血圧(DBP)の低下が、1mlの水(○)、50mg/kgのカプトプリル(□)、400mg/kgのカゼイン(◆)、400mg/kgのカゼイン水解物(▲)及び200mg/kgのカゼイン水解物(F<3000Da)(■)を胃内カテーテルでこれらのラットへ投与することによってもたらされたことを示す。「T(h)」は水等の投与後の経過時間(時)を示す。これらのデータは、少なくとも4匹のラットにおけるSEMの±平均値を示しており、水の場合はaP<0.05であり、カプトプリルの場合はbP<0.05であり、また、カゼイン(400mg/kg)の場合はcP<0.05である。
【0065】
図6のAは、ペプシンを用いる加水分解処理に3時間付したカゼインから得られた3000Daの少量のフラクションを半予備的規模での逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)に付して得られたクロマトグラムを示す。この場合、X軸における時間(分)に対して、214nmにおける吸光度をY軸にプロットした。
図6のBは、RP-HPLCによって得られた図6のAに対応するクロマトグラフィーフラクションのアンギオテンシン-変換酵素抑制活性を示す。この場合、強いACE-抑制活性を有する3種のフラクション(F3、F5及びF6)を自動的に捕集した。
【0066】
図7は、ペプシンと「コロラーゼPP」を用いる連続的な加水分解処理に付した前後における合成ペプチドPYVRYL SEQ.ID.No.7のRP-HPLCによるクロマトグラムを示す。この場合、X軸の時間(分)に対して、214nmにおける吸光度をY軸にプロットした。
【0067】
図8は、自然発症高血圧ラットにおける収縮期血圧(SBP)の低下及び拡張期血圧(DBP)の低下が、1mlの水(○)、50mg/kgのカプトプリル(□)、3mg/kgのPYVRYL(◆)及び2mg/kgのPYV(■)を胃内カテーテルでこれらのラットへ投与することによってもたらされたことを示す。「T(h)」は水等の投与後の経過時間(時)を示す。これらのデータは、少なくとも4匹のラットにおけるSEMの±平均値を示しており、水の場合はaP<0.05であり、カプトプリルの場合はbP<0.05であり、また、3mg/kgのPYVRYLの場合はcP<0.05である。
【0068】
図9は、ペプシンと「コロラーゼPP」を用いる連続的な加水分解処理に付した前後における合成ペプチドHLPLPLL SEQ.ID.No.14のRP-HPLCによるクロマトグラムを示す。この場合、X軸の時間(分)に対して、214nmにおける吸光度をY軸にプロットした。
【0069】
図10は、自然発症高血圧ラットにおける収縮期血圧(SBP)の低下及び拡張期血圧(DBP)の低下が、1mlの水(○)、50mg/kgのカプトプリル(□)、及び7mg/kgのHLPLP(●)を胃内カテーテルでこれらのラットへ投与することによってもたらされたことを示す。「T(h)」は水等の投与後の経過時間(時)を示す。これらのデータは、少なくとも4匹のラットにおけるSEMの±平均値を示しており、水の場合はaP<0.05であり、カプトプリルの場合はbP<0.05である。
【実施例】
【0070】
以下に説明する実施例は、本発明を例示的に説明するものであって、本発明の範囲を制限するものではない。
実施例1
抗菌活性、ACE-抑制活性、抗高血圧活性及び抗酸化活性を有する生物活性ペプチドを、ペプシンで加水分解されたヒツジのαs2-カゼインから製造する方法
次の文献に記載の方法に従ってヒツジのカゼイン残屑(rest)から得られたαs2-カゼインを基質として使用することによって水解物を得た:H.J.ヴレーマン、J.A.M.ファン・リール、「ウシのカゼインからのαs2-カゼインの大規模単離」、ネザーランズ・ミルク・アンド・デイリー・ジャーナル、1990年、第44巻、第43頁〜第48頁。酵素としては、シグマ・ケミカル社(セントルイス、米国)から入手したブタの胃から採取したブタペプシン(E.C.3.4.23.1.570 U/mgタンパク質)を使用した。ヒツジのαs2-カゼインの0.5%水溶液を調製し、該水溶液のpHは1MのHClを用いて3.0に調整した後、ペプシンを添加した[酵素/基質比:3.7/100(p/p)]。加水分解を37℃で30分間おこなった。反応系を80℃で15分間加熱することによってペプシンを不活性化させた後、該系のpHを1MのNaOHで7.0に調整した。水解物を5℃で16000×gの条件下での遠心分離処理に15分間付した後で捕集した上澄み液をFPLCによる分析処理に付し(図1参照)、分離された5種のフラクション(FA〜FE)を手動で捕集した後、凍結乾燥した。
【0071】
これらの5種のフラクションの2.5mg/ml濃度における抗菌活性を測定した。対照としては大腸菌(5.9×103CFU/ml)を使用した。得られた結果によれば、FCフラクション及びFDフラクションが抗菌活性を示し、それぞれ2.54及び0.6のオーダーで微生物数を低減させた。
【0072】
抗菌活性をもたらすペプチドを同定するために、FCフラクションとFDフラクションを半予備的規模でのRP-HPLCによる分析処理に付した。図2はFCフラクションのクロマトグラフィー図形(図2A)とFDフラクションのクロマトグラフィー図形(図2B)を示す。FCフラクションからは4種のサブフラクション(FC1〜FC4)が分離され、FDフラクションからは2種のサブフラクション(FD1〜FD2)が分離された。これらのフラクションの各々のフラクションは、分離後にアセトニトリルを蒸発させ、次いで凍結乾燥させた。これらのサブフラクションの大腸菌(6.2×106CFU/ml)に対する抗菌活性は、2.5mg/mlの濃度で測定した。
【0073】
図3は、大腸菌に対するこれらのサブフラクションの抗菌活性の値を示す。これらのサブセクションの内で特にFC1に注目すべきである。即ち、該サブフラクションは、試験した濃度[log (Nf/N0)>6]において殺菌効果を示したと考えられるので、比較的大きな抗菌活性を示したことになる。FC4サブフラクション、FD1サブフラクション及びFD2サブフラクションは穏やかな抗菌活性を示し、微生物の減少値はそれぞれ1.24、1.31及び1.64のオーダーである。
【0074】
FC1サブフラクション、FC4サブフラクション、FD1サブフラクション及びFD2サブフラクションは、先に説明した方法に従って、イオントラップ分析器を用いるマススペクトロメトリーによって分析した。同定されたペプチドを以下の表2に示す。
【0075】
【表2】
【0076】
実施例2
抗菌活性を有する化学的に合成されたペプチド
ペプシンを用いる加水分解処理に30分間付したヒツジのαs2-カゼインから得られたサブフラクション中に一般的に存在するペプチド(SEQ.ID.No.1、SEQ.ID.No.2、SEQ.ID.No.3及びSEQ.ID.No.7)を化学的に合成した。即ち、これらのペプチドはフモック固相法(Fmoc solid-phase method )に従って合成し、該ペプチドの純度はRP-HPLC-MS/MSによって確認した。
【0077】
次の微生物に対するこれらの合成ペプチドの抗菌活性は0.05mMの濃度で測定した:大腸菌、セラチア・マルケセンス、スタフィロコッカス・カルノサス、スタフィロコッカス・エピデルミジス、エンテロコッカス・フェカーリス及びリステリア・イノキュア。これらの合成ペプチドの抗菌活性を以下の表3に示す。
【0078】
【表3】
【0079】
これらのペプチドはグラム陽性細菌、特に試験に供したスタフィロコッカス属の菌株に対して高い抗菌活性を示す。これらのペプチドの内の3種(SEQ.ID.No.1、SEQ.ID.No.2、及びSEQ.ID.No.3)はスタフィロコッカス・カルノサスに対して抗菌活性を示す。しかしながら、グラム陰性細菌(大腸菌及びセラチア・マルケセンス)は全てのこれらのペプチドの作用に対して高い耐性を示す。但し、SEQ.ID.No.3として同定されたペプチドが大腸菌に対して高い抗菌活性を示すという事実には特に注目すべきである。
【0080】
実施例3
ACE-抑制活性と抗高血圧活性を有する化学的に合成されたペプチド
化学的に合成されたペプチドの内の2種のペプチド(特に、実施例1において言及した配列SEQ.ID.No.1及びSEQ.ID.No.7)のACE-抑制活性を測定した。CI50値又は酵素活性を50%抑制するために必要なタンパク質の濃度で表示される活性の結果を以下の表4に示す。これらの2種のペプチドは強力なACE−抑制活性を示す。
【0081】
【表4】
【0082】
SEQ.ID.No.1及びSEQ.ID.No.7の抗高血圧活性に関する試験をおこなった。この試験は、これらのペプチド3mg/kgの濃度で自然発症高血圧ラット(SHR)へ投与することによっておこなった。これらのペプチドは蒸留水に溶解させ、得られた溶液1mlに含まれる相当する量のペプチドを各々のラットへ投与した。
【0083】
図4は、3mg/kgのSEQ.ID.No.1ペプチド及びSEQ.ID.No.7ペプチドを自然発症高血圧ラット(SHR)へ投与した後の種々の時点において測定した該ラットにおけるSBPとDBPの低下度を示す。SEQ.ID.No.7ペプチドの投与によって、これらの被検動物におけるSBP及びDBPを著しく低下させることができる。これらの変数の低下は、該ペプチドの投与から4時間経過後にピークに達する。この低下現象は、抗高血圧活性を示すことが証明されているカプトプリルの投与によってもたらされるSBPとDBPの低下現象の経時変化と類似の経時変化を示す。これらの結果は、配列SEQ.ID.No.7によって同定されたペプチドが、急性の被検体(acute basis)へ経口投与されたときに、明確で顕著な抗高血圧効果をもたらすことを示す。
【0084】
実施例4
抗酸化活性を有する化学的に合成されたペプチド
実施例1において言及したSEQ.ID.No.7配列の抗酸化活性を測定した。ペルオキシルラジカルのキレート化活性は次の通りである:
ORACPYVRYL=1.82μmol トロロックス当量/μmol ペプチド
これらの結果は、PYVRYL(SEQ.ID.No.7)が1μmol のトロロックスよりも1.82倍高い抗酸化活性を発揮することを示す。
【0085】
実施例5
ACE-抑制活性を有する生物活性ペプチドを、ペプシンを用いてウシカゼインから製造する方法
原料牛乳の等電沈殿によって得られたウシカゼイン基質を用いて加水分解をおこなった。酵素としては、シグマ・ケミカル社(セントルイス、米国)から入手したブタの胃から採取したブタペプシン(E.C.3.4.23.1.570 U/mgタンパク質)を使用した。ウシのカゼインの0.5%水溶液を調製し、該水溶液のpHは1MのHClを用いて2.0に調整した後、ペプシンを添加した[酵素/基質比:3.7/100(p/p)]。加水分解を37℃で3時間おこなった。反応系を80℃で20分間加熱することによってペプシンを不活性化させた後、該系のpHを1MのNaOHで7.0に調整した。水解物を5℃で16000×gの条件下での遠心分離処理に15分間付した後で捕集した上澄み液を、孔径が3000Daの親水性膜(「セントリペップ(Centripep)」;アミコン社(ビバリー、マサチューセッツ、米国)製)を用いる限外濾過処理に付した。
【0086】
全水解物と透過液(3000Da未満の分子量を有する水解物のフラクション)のACE-抑制活性と抗高血圧活性を、前記の分析法に従ってSHRにおいて決定した。CI50値又は酵素活性を50%抑制するために必要なタンパク質の濃度で表示されるACE-抑制活性、及びケルダール法によって測定したタンパク質の含有量を以下の表5に示す。
【0087】
【表5】
【0088】
図5は、カゼイン水解物の投与後及びカゼイン水解物フラクション(分子量:3000Da未満)の投与後から種々の時点でのSHRにおけるSBPとDBPの低下を示す。図5から明らかなように、カゼイン水解物の投与によって、これらのラットにおけるSBPとDBPの著しい低下がもたらされる。また、3000Da未満の分子量を有するカゼイン水解物フラクションを投与する場合にもたらされるSHRにおけるSBPとDBPの低下度は、カゼイン水解物の投与後にもたらされる対応する低下度と類似する。これらの値の低下は、これらの被験物の投与から2時間後にピークに達する。非加水分解カゼインを投与する場合には、SHRにおけるSBPの著しい改善はみられず、また、DBPの低下度も前記の被験物を投与した場合に比べて非常に小さい。これらの結果は、カゼイン水解物及びカゼイン水解物フラクション(分子量:3000Da未満)を急性の被検体へ経口投与する場合には、明確な抗高血圧効果がもたらされることを示す。
【0089】
ACE-抑制活性と抗高血圧活性をもたらすペプチドを同定するために、限外濾過後の透過液を半予備的規模でのRP-HPLCによる分離処理に付すことによって8種のフラクションを捕集した。アセトニトリル溶媒を蒸発させた後、クロマトグラフィーのフラクションを凍結乾燥させ、次いでACE-抑制活性とタンパク質含有量をビシンコニニン酸(bicinchoninic acid)法によって決定した。図6は、クロマトグラム、得られたフラクション、及び各々のフラクションに関するACE-抑制活性(CI50値)を示す。図6に示すフラクション(F3、F5及びF6)は大きなACE-抑制活性(即ち、小さなCI50値)を示す。前述の方法により、タンデム型マススペクトロメトリーへオンラインで接続したRP-HPLC(RP-HPLC-MS/MS)を使用してこれらのフラクションを分析した。同定された主要なペプチドを以下の表6に示す。
【0090】
【表6】
【0091】
これらのクロマトグラフィーフラクションから得られた主要なペプチドを固体相フモック(Fmoc法によって化学的に合成し、これらの純度をRP-HPLC-MS/MSによって確認した。化学的に合成したペプチド、特に配列SEQ.ID No.12、SEQ.ID No.13及びSEQ.ID No.14で示されるペプチドのACE-抑制活性を測定した。CI50値又はACE活性を50%抑制するために必要なタンパク質の濃度で表示される測定結果を以下の表7に示す。同定された3種の主要なペプチドの内の少なくとも2種のペプチドは強いACE-抑制活性を示した。
【0092】
【表7】
【0093】
実施例6
αs2-カゼインPYVRYL SEQ.ID No.7の加水分解によって得られたフラグメントを模擬胃腸内消化処理に付した後のペプチドのACE-抑制活性と抗高血圧活性
αs2-カゼイン水解物中において先に同定されたPYVRYL SEQ.ID No.7ペプチドを化学的に合成し、次の文献に記載の模擬的胃腸内消化を発現する2段階の加水分解処理に付した:A.C.アルティング、R.J.G.M.マイイェル、E.C.H.ファン・ベレスタイン、「幼児の模擬胃腸内条件下におけるウシ血清アルブミンのABBOSエピトープの不完全除去」、ダイアベーテス・ケア、1997年、第20巻、第875頁〜第880頁。この目的のために、合成ペプチドの水溶液(10mg/ml)を、最初に、シウグマ社から入手したペプシン(E.C.3.4.4.1、570U/mgタンパク質)を用いる37℃での加水分解処理に90分間付し(pH2.0;酵素-基質比1:50(p/p))、次いで、レーム社(ダルムシュタット、独国)製の「コロラーゼPP」を用いる37℃での加水分解処理に2.5時間付した(pH7〜8;酵素-基質比1:25(p/p))。該反応溶液を水浴中において95℃で10分間加熱することによって反応を中断させた。
【0094】
図7は、PYVRYLペプチドSEQ.ID No.7がペプシンとコロラーゼPPを用いるインキュベーション処理に付した後では完全に加水分解することを示す。RP-HPLC-MS/MSによって同定された主要なフラグメントはトリペプチドPVY SEQ.ID No.15である。このペプチドを化学的に合成し、そのACE-抑制活性(CI50値)を測定したところ、741.3μMであった。この値は、該ペプチドのACE-抑制活性が出発ペプチドの対応する値の1/370であることを示す。このトリペプチドPVY SEQ.ID No.15の抗高血圧活性は、該トリペプチドをSHRへ投与することによって測定した。このトリペプチドを蒸留水に溶解させ、所定濃度の水溶液1mlを投与した。
【0095】
図8は、PYV SEQ.ID No.15を2mg/kg投与した後及びPYVRYLペプチドSEQ.ID No.7を3mg/kg投与した後の種々の時点でのSHRにおけるSBPとDBPの低下を示す。図8から明らかなように、これらのラットにおいては、いずれのペプチドを投与してもSBPとDBPの著しい低下がもたらされる。PYV SEQ.ID No.15によるSBPに関するピーク効果は、該ペプチドの投与後2時間で発生するが、PYVRYLペプチドSEQ.ID No.7によるピーク効果は、該ペプチドの投与後4時間経過するまで発生しない。SEQ.ID No.15を投与する場合の抗高血圧効果のより速い発生は、次の事実に起因すると考えられる。即ち、この配列のペプチドが投与されると、生体内では発生しなければならない酵素的消化過程が回避される。これらの結果はSEQ.ID No.15の抗高血圧活性を例証する。もっとも、原則的には、この抗高血圧活性はACE-抑制活性に起因しない。PYVペプチドSEQ.ID No.15の強力な抗高血圧活性は現在までのところ知られていなかったという点に注目することが重要である。
【0096】
実施例7
完全カゼインHLPLPLL SEQ.ID No.14の加水分解によって得られたフラグメントを模擬胃腸内消化処理に付した後のペプチドのACE-抑制活性と抗高血圧活性
全カゼイン水解物のフラクション(分子量:3000Da未満)中において予め同定されたHLPLPLLペプチドSEQ.ID No.14を化学的に合成し、次の文献に記載の模擬的胃腸内消化を発現する2段階の加水分解処理に付した:A.C.アルティング、R.J.G.M.マイイェル、E.C.H.ファン・ベレスタイン、「幼児の模擬胃腸内条件下におけるウシ血清アルブミンのABBOSエピトープの不完全除去」、ダイアベーテス・ケア、1997年、第20巻、第875頁〜第880頁。この目的のために、合成ペプチドの水溶液(10mg/ml)を、最初に、シウグマ社から入手したペプシン(E.C.3.4.4.1、570U/mgタンパク質)を用いる37℃での加水分解処理に90分間付し(pH2.0;酵素-基質比1:50(p/p))、次いで、レーム社(ダルムシュタット、独国)製の「コロラーゼPP」を用いる37℃での加水分解処理に2.5時間付した(pH7〜8;酵素-基質比1:25(p/p))。該反応溶液を水浴中において95℃で10分間加熱することによって反応を中断させた。
【0097】
図9は、RP-HPLC-MS/MSによって同定されたHLPLPLLペプチドSEQ.ID No.14の加水分解によって得られたペプチドを示す。これらのペプチドはHLPLPLヘキサペプチドSEQ.ID No.16及びHLPLPペンタペプチドSEQ.ID No.17に相当する。HLPLPL SEQ.ID No.16は中間フラグメントであるが、ペンタペプチドHLPLP SEQ.ID No.17は胃腸内酵素の作用に対して耐性を示すので、HLPLPLLペプチドSEQ.ID No.14の最終的なタンパク質加水分解生成物であると考えられる。HLPLPペンタペプチドSEQ.ID No.17のACE-抑制活性(CI50値)を測定したところ、21μMであった。同様にして、加水分解によって得られた最終的なペプチドHLPLP SEQ.ID No.17をSHRへ7mg/kg投与したときの抗高血圧活性を測定した。SBPとDBPの低下現象を図10に示す。これらのラットにおいてはSBPとDBPの著しい低下現象がみられたが、この場合には、抗高血圧効果は少なくとも部分的にはACE-抑制活性に起因する。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】図1は、ペプシンを用いる加水分解処理に30分間付したヒツジのαs2-カゼインをカチオン交換クロマトグラフィーに付して得られたクロマトグラムを示す。
【図2A】図2Aは、ペプシンを用いる加水分解処理に30分間付したヒツジのαs2-カゼインから捕集されたFCフラクションを半予備的規模での逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)に付して得られたクロマトグラムを示す。
【図2B】図2Bは、ペプシンを用いる加水分解処理に30分間付したヒツジのαs2-カゼインから捕集されたFDフラクションを半予備的規模での逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)に付して得られたクロマトグラムを示す。
【図3】図3は、半予備的規模でのRP-HPLCによるFCフラクションとFDフラクションから得られた種々のサブフラクションの抗菌活性を示す。
【図4】図4は、自然発症高血圧ラットにおける収縮期血圧(SBP)の低下及び拡張期血圧(DBP)の低下が、1mlの水(○)、50mg/kgのカプトプリル(□)、3mg/kgのPYVRYL(▲)及び3mg/kgのLKKISQ(◆)を胃内カテーテルでこれらのラットへ投与することによってもたらされたことを示す。
【図5】図5は、自然発症高血圧ラットにおける収縮期血圧(SBP)の低下及び拡張期血圧(DBP)の低下が、1mlの水(○)、50mg/kgのカプトプリル(□)、400mg/kgのカゼイン(◆)、400mg/kgのカゼイン水解物(▲)及び200mg/kgのカゼイン水解物(F<3000Da)(■)を胃内カテーテルでこれらのラットへ投与することによってもたらされたことを示す。
【図6】図6Aは、ペプシンを用いる加水分解処理に3時間付したカゼインから得られた3000Daの少量のフラクションを半予備的規模での逆相高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)に付して得られたクロマトグラムを示し、図6Bは、RP-HPLCによって得られた図6のAに対応するクロマトグラフィーフラクションのアンギオテンシン-変換酵素抑制活性を示す。
【図7】図7は、ペプシンと「コロラーゼPP」を用いる連続的な加水分解処理に付した前後における合成ペプチドPYVRYL SEQ.ID.No.7のRP-HPLCによるクロマトグラムを示す。
【図8】図8は、自然発症高血圧ラットにおける収縮期血圧(SBP)の低下及び拡張期血圧(DBP)の低下が、1mlの水(○)、50mg/kgのカプトプリル(□)、3mg/kgのPYVRYL(◆)及び2mg/kgのPYV(■)を胃内カテーテルでこれらのラットへ投与することによってもたらされたことを示す。
【図9】図9は、ペプシンと「コロラーゼPP」を用いる連続的な加水分解処理に付した前後における合成ペプチドHLPLPLL SEQ.ID.No.14のRP-HPLCによるクロマトグラムを示す。
【図10】図10は、自然発症高血圧ラットにおける収縮期血圧(SBP)の低下及び拡張期血圧(DBP)の低下が、1mlの水(○)、50mg/kgのカプトプリル(□)、及び7mg/kgのHLPLP(●)を胃内カテーテルでこれらのラットへ投与することによってもたらされたことを示す。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の特性a)〜c)によって特徴付けられる生物活性ペプチド:
a)抗菌活性及び/又は生体外でのACE-抑制活性及び/又は生体内での抗高血圧活性及び/又は抗酸化活性を有する。
b)ペプシン-加水分解化ラクターゼカゼイン酵素水解物の状態で存在する。
c)次のアミノ酸配列を有する:SEQ.ID No.1、SEQ.ID No.2、SEQ.ID No.3、SEQ.ID No.4、SEQ.ID No.5、SEQ.ID No.6、SEQ.ID No.7、SEQ.ID No.8、SEQ.ID No.9、SEQ.ID No.10、SEQ.ID No.12、SEQ.ID No.13、SEQ.ID No.14。
【請求項2】
アミノ酸配列SEQ.ID No.2、SEQ.ID No.5、SEQ.ID No.6、SEQ.ID No.7、SEQ.ID No.8、又はSEQ.ID No.10を有する請求項1記載の生物活性ペプチドであって、SEQ.ID No.7を含むこと及びαs2-カゼインから誘導されることによって特徴付けられる該生物活性ペプチド。
【請求項3】
請求項2記載の生物活性ペプチドから誘導される生物活性ペプチドであって、SEQ.ID No.7の模擬胃腸内消化後に得られる末端単位及びSEQ.ID No.15によって特徴付けられる該生物活性ペプチド。
【請求項4】
アミノ酸配列SEQ.ID No.1、SEQ.ID No.3、SEQ.ID No.4、又はSEQ.ID No.9を有する請求項1記載の生物活性ペプチドであって、SEQ.ID No.1を含むこと及びαs2-カゼインから誘導されることによって特徴付けられる該生物活性ペプチド。
【請求項5】
アミノ酸配列SEQ.ID No.12、又はSEQ.ID No.13を有する請求項1記載の生物活性ペプチドであって、αs1-カゼインから誘導されることによって特徴付けられる該生物活性ペプチド。
【請求項6】
アミノ酸配列SEQ.ID No.14を有する請求項1記載の生物活性ペプチドであって、β-カゼインから誘導されることによって特徴付けられる該生物活性ペプチド。
【請求項7】
請求項2記載の生物活性ペプチドから誘導される生物活性ペプチドであって、SEQ.ID No.14の模擬胃腸内消化のシミュレーション後に得られる末端単位並びにSEQ.ID No.16及びSEQ.ID No.17によって特徴付けられる該生物活性ペプチド。
【請求項8】
グラム陽性菌に対して抗菌活性を示すことによって特徴付けられる請求項1から3いずれかに記載の生物活性ペプチド。
【請求項9】
アミノ酸配列EQ.ID No.3及び大腸菌のようなグラム陰性菌に対して抗菌活性を示すことによって特徴付けられる請求項1から3いずれかに記載の生物活性ペプチド。
【請求項10】
アミノ酸配列SEQ.ID No.1、SEQ.ID No.7、SEQ.ID No.12、SEQ.ID No.13、SEQ.ID No.14、SEQ.ID No.15、SEQ.ID No.16及びSEQ.ID No.17、及び生体外においてACE-抑制活性を示すことによって特徴付けられ請求項1から7いずれかに記載の生物活性ペプチド。
【請求項11】
アミノ酸配列SEQ.ID No.7、SEQ.ID No.12、SEQ.ID No.13、SEQ.ID No.14、SEQ.ID No.15、SEQ.ID No.16及びSEQ.ID No.17、及び抗高血圧活性を示すことによって特徴付けられ請求項1から7いずれかに記載の生物活性ペプチド。
【請求項12】
アミノ酸配列SEQ.ID No.7及び酸素ラジカルのキレート化によって抗酸化活性を示すことによって特徴付けられ請求項1から3いずれかに記載の生物活性ペプチド。
【請求項13】
化学的若しくは酵素的な合成法又は組換え法によって得られる請求項1から12いずれかに記載の生物活性ペプチド。
【請求項14】
αs1-カゼイン、αs2-カゼイン、β-カゼイン、全カゼイン、含有成分の異なる乳、副乳製品又は発酵乳製品の酵素加水分解法によって得られる請求項13記載の生物活性ペプチド。
【請求項15】
下記の工程a)〜d)を含む請求項1から14いずれかに記載の生物活性ペプチドの製造方法:
a)動物又は植物を起源とする1種又は複数種のタンパク質又はペプチドを含有するいずれかの適当な基質である出発原料又は微生物に由来する出発原料(好ましくはカゼイン又は全乳)であって、請求項1記載のいずれかの生物活性ペプチドのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有する出発原料を加水分解によって入手し、
b)該出発原料を、タンパク質分解酵素が作用するために適当なpH条件下の水中又は緩衝溶液中へ適当な濃度で溶解させるか、又は分散させ、
c)出発物質中に存在するタンパク質を切断して所望のペプチドをもたらすタンパク質分解酵素(好ましくは、pH3.0の条件下でのペプシン)又は基質の発酵をおこなうタンパク質分解性微生物を該溶液又は分散液中へ添加し、次いで
d)反応を10分間〜24時間(好ましくは30分間〜3時間)おこなう。
【請求項16】
下記の工程a)〜d)を含む請求項3、7、10、11、13又は14いずれかに記載の生物活性ペプチドの製造方法:
a)動物又は植物を起源とする1種又は複数種のタンパク質又はペプチドを含有するいずれかの適当な基質である出発原料又は微生物に由来する出発原料(好ましくはカゼイン又は全乳)であって、請求項3及び7記載のいずれかの生物活性ペプチドのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有する出発原料を加水分解によって入手し、
b)該出発原料を、タンパク質分解酵素が作用するために適当なpH条件下の水中又は緩衝溶液中へ適当な濃度で溶解させるか、又は分散させ、
c)出発物質中に存在するタンパク質を切断して所望のペプチドをもたらすタンパク質分解酵素を該溶液又は分散液中へ添加するか(この場合、好ましくは、ペプシンをpHが3.0で、酵素/基質比が3.7/100(p/p)となる条件下で使用して加水分解を37℃でおこなうか、又はコロラーゼPPをpHが7〜8で酵素/基質比が1/25(p/p)となる条件下で使用して加水分解を37℃でおこなう)、又は基質の発酵をおこなうタンパク質分解性微生物を該溶液又は分散液中へ添加し、次いで
d)反応を10分間〜24時間おこなう(この場合、好ましい反応時間は、ププシンの場合は30分間であり、コロラーゼPPの場合は約2.5時間であり、また、反応は、反応系を水浴中において95℃で10分間加熱することによって停止させる)。
【請求項17】
請求項1から5いずれかに記載の生物活性ペプチドであって、請求項15記載の方法を使用することによって製造される該生物活性ペプチド。
【請求項18】
請求項3から7いずれかに記載の生物活性ペプチドであって、請求項16記載の方法を使用することによって製造される該生物活性ペプチド。
【請求項19】
請求項1から7いずれかに記載のペプチドであって、固有の酵素的水解物、該水解物のフラクション又は精製物から得られる該ペプチドを少なくとも1種含有することによって特徴付けられる生物活性生成物。
【請求項20】
請求項1から14、17、18及び19のいずれかに記載の生物活性生成物の薬学的誘導体若しくはその塩又は混合物である生物活性ペプチド。
【請求項21】
請求項1から14及び17から20のいずれかに記載の生物活性生成物であって、抗菌活性及び/又は生体外でのAEC-抑制活性及び/又は生体内での抗高血圧活性及び/又は抗酸化活性を有する該生物活性生成物を少なくとも1種含有する薬剤組成物。
【請求項22】
請求項1から14及び17から20のいずれかに記載の生物活性生成物であって、抗菌活性、生体外でのAEC-抑制活性及び/又は生体内での抗高血圧活性及び/又は抗酸化活性を有する該生物活性生成物を少なくとも1種含有する機能性食品の添加剤、成分又は栄養剤。
【請求項23】
請求項1から14、17から20及び22のいずれかに記載の生物活性生成物であって、抗菌活性、生体外でのAEC-抑制活性及び/又は生体内での抗高血圧活性及び/又は抗酸化活性を有する該生物活性生成物を少なくとも1種含有する機能性食品。
【請求項24】
請求項21記載の薬剤組成物の使用であって、微生物感染症の予防及び/又は処置のための薬剤の製造における該使用。
【請求項25】
請求項21記載の薬剤組成物の使用であって、高血圧症の予防及び/又は処置のための薬剤の製造における該使用。
【請求項26】
請求項22記載の機能性食品の添加剤又は成分の使用であって、微生物感染症の予防に適した機能性食品の製造における該使用。
【請求項27】
請求項22記載の機能性食品の添加剤又は成分の使用であって、高血圧症の軽減に適した機能性食品の製造における該使用。
【請求項1】
下記の特性a)〜c)によって特徴付けられる生物活性ペプチド:
a)抗菌活性及び/又は生体外でのACE-抑制活性及び/又は生体内での抗高血圧活性及び/又は抗酸化活性を有する。
b)ペプシン-加水分解化ラクターゼカゼイン酵素水解物の状態で存在する。
c)次のアミノ酸配列を有する:SEQ.ID No.1、SEQ.ID No.2、SEQ.ID No.3、SEQ.ID No.4、SEQ.ID No.5、SEQ.ID No.6、SEQ.ID No.7、SEQ.ID No.8、SEQ.ID No.9、SEQ.ID No.10、SEQ.ID No.12、SEQ.ID No.13、SEQ.ID No.14。
【請求項2】
アミノ酸配列SEQ.ID No.2、SEQ.ID No.5、SEQ.ID No.6、SEQ.ID No.7、SEQ.ID No.8、又はSEQ.ID No.10を有する請求項1記載の生物活性ペプチドであって、SEQ.ID No.7を含むこと及びαs2-カゼインから誘導されることによって特徴付けられる該生物活性ペプチド。
【請求項3】
請求項2記載の生物活性ペプチドから誘導される生物活性ペプチドであって、SEQ.ID No.7の模擬胃腸内消化後に得られる末端単位及びSEQ.ID No.15によって特徴付けられる該生物活性ペプチド。
【請求項4】
アミノ酸配列SEQ.ID No.1、SEQ.ID No.3、SEQ.ID No.4、又はSEQ.ID No.9を有する請求項1記載の生物活性ペプチドであって、SEQ.ID No.1を含むこと及びαs2-カゼインから誘導されることによって特徴付けられる該生物活性ペプチド。
【請求項5】
アミノ酸配列SEQ.ID No.12、又はSEQ.ID No.13を有する請求項1記載の生物活性ペプチドであって、αs1-カゼインから誘導されることによって特徴付けられる該生物活性ペプチド。
【請求項6】
アミノ酸配列SEQ.ID No.14を有する請求項1記載の生物活性ペプチドであって、β-カゼインから誘導されることによって特徴付けられる該生物活性ペプチド。
【請求項7】
請求項2記載の生物活性ペプチドから誘導される生物活性ペプチドであって、SEQ.ID No.14の模擬胃腸内消化のシミュレーション後に得られる末端単位並びにSEQ.ID No.16及びSEQ.ID No.17によって特徴付けられる該生物活性ペプチド。
【請求項8】
グラム陽性菌に対して抗菌活性を示すことによって特徴付けられる請求項1から3いずれかに記載の生物活性ペプチド。
【請求項9】
アミノ酸配列EQ.ID No.3及び大腸菌のようなグラム陰性菌に対して抗菌活性を示すことによって特徴付けられる請求項1から3いずれかに記載の生物活性ペプチド。
【請求項10】
アミノ酸配列SEQ.ID No.1、SEQ.ID No.7、SEQ.ID No.12、SEQ.ID No.13、SEQ.ID No.14、SEQ.ID No.15、SEQ.ID No.16及びSEQ.ID No.17、及び生体外においてACE-抑制活性を示すことによって特徴付けられ請求項1から7いずれかに記載の生物活性ペプチド。
【請求項11】
アミノ酸配列SEQ.ID No.7、SEQ.ID No.12、SEQ.ID No.13、SEQ.ID No.14、SEQ.ID No.15、SEQ.ID No.16及びSEQ.ID No.17、及び抗高血圧活性を示すことによって特徴付けられ請求項1から7いずれかに記載の生物活性ペプチド。
【請求項12】
アミノ酸配列SEQ.ID No.7及び酸素ラジカルのキレート化によって抗酸化活性を示すことによって特徴付けられ請求項1から3いずれかに記載の生物活性ペプチド。
【請求項13】
化学的若しくは酵素的な合成法又は組換え法によって得られる請求項1から12いずれかに記載の生物活性ペプチド。
【請求項14】
αs1-カゼイン、αs2-カゼイン、β-カゼイン、全カゼイン、含有成分の異なる乳、副乳製品又は発酵乳製品の酵素加水分解法によって得られる請求項13記載の生物活性ペプチド。
【請求項15】
下記の工程a)〜d)を含む請求項1から14いずれかに記載の生物活性ペプチドの製造方法:
a)動物又は植物を起源とする1種又は複数種のタンパク質又はペプチドを含有するいずれかの適当な基質である出発原料又は微生物に由来する出発原料(好ましくはカゼイン又は全乳)であって、請求項1記載のいずれかの生物活性ペプチドのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有する出発原料を加水分解によって入手し、
b)該出発原料を、タンパク質分解酵素が作用するために適当なpH条件下の水中又は緩衝溶液中へ適当な濃度で溶解させるか、又は分散させ、
c)出発物質中に存在するタンパク質を切断して所望のペプチドをもたらすタンパク質分解酵素(好ましくは、pH3.0の条件下でのペプシン)又は基質の発酵をおこなうタンパク質分解性微生物を該溶液又は分散液中へ添加し、次いで
d)反応を10分間〜24時間(好ましくは30分間〜3時間)おこなう。
【請求項16】
下記の工程a)〜d)を含む請求項3、7、10、11、13又は14いずれかに記載の生物活性ペプチドの製造方法:
a)動物又は植物を起源とする1種又は複数種のタンパク質又はペプチドを含有するいずれかの適当な基質である出発原料又は微生物に由来する出発原料(好ましくはカゼイン又は全乳)であって、請求項3及び7記載のいずれかの生物活性ペプチドのアミノ酸配列を含むアミノ酸配列を有する出発原料を加水分解によって入手し、
b)該出発原料を、タンパク質分解酵素が作用するために適当なpH条件下の水中又は緩衝溶液中へ適当な濃度で溶解させるか、又は分散させ、
c)出発物質中に存在するタンパク質を切断して所望のペプチドをもたらすタンパク質分解酵素を該溶液又は分散液中へ添加するか(この場合、好ましくは、ペプシンをpHが3.0で、酵素/基質比が3.7/100(p/p)となる条件下で使用して加水分解を37℃でおこなうか、又はコロラーゼPPをpHが7〜8で酵素/基質比が1/25(p/p)となる条件下で使用して加水分解を37℃でおこなう)、又は基質の発酵をおこなうタンパク質分解性微生物を該溶液又は分散液中へ添加し、次いで
d)反応を10分間〜24時間おこなう(この場合、好ましい反応時間は、ププシンの場合は30分間であり、コロラーゼPPの場合は約2.5時間であり、また、反応は、反応系を水浴中において95℃で10分間加熱することによって停止させる)。
【請求項17】
請求項1から5いずれかに記載の生物活性ペプチドであって、請求項15記載の方法を使用することによって製造される該生物活性ペプチド。
【請求項18】
請求項3から7いずれかに記載の生物活性ペプチドであって、請求項16記載の方法を使用することによって製造される該生物活性ペプチド。
【請求項19】
請求項1から7いずれかに記載のペプチドであって、固有の酵素的水解物、該水解物のフラクション又は精製物から得られる該ペプチドを少なくとも1種含有することによって特徴付けられる生物活性生成物。
【請求項20】
請求項1から14、17、18及び19のいずれかに記載の生物活性生成物の薬学的誘導体若しくはその塩又は混合物である生物活性ペプチド。
【請求項21】
請求項1から14及び17から20のいずれかに記載の生物活性生成物であって、抗菌活性及び/又は生体外でのAEC-抑制活性及び/又は生体内での抗高血圧活性及び/又は抗酸化活性を有する該生物活性生成物を少なくとも1種含有する薬剤組成物。
【請求項22】
請求項1から14及び17から20のいずれかに記載の生物活性生成物であって、抗菌活性、生体外でのAEC-抑制活性及び/又は生体内での抗高血圧活性及び/又は抗酸化活性を有する該生物活性生成物を少なくとも1種含有する機能性食品の添加剤、成分又は栄養剤。
【請求項23】
請求項1から14、17から20及び22のいずれかに記載の生物活性生成物であって、抗菌活性、生体外でのAEC-抑制活性及び/又は生体内での抗高血圧活性及び/又は抗酸化活性を有する該生物活性生成物を少なくとも1種含有する機能性食品。
【請求項24】
請求項21記載の薬剤組成物の使用であって、微生物感染症の予防及び/又は処置のための薬剤の製造における該使用。
【請求項25】
請求項21記載の薬剤組成物の使用であって、高血圧症の予防及び/又は処置のための薬剤の製造における該使用。
【請求項26】
請求項22記載の機能性食品の添加剤又は成分の使用であって、微生物感染症の予防に適した機能性食品の製造における該使用。
【請求項27】
請求項22記載の機能性食品の添加剤又は成分の使用であって、高血圧症の軽減に適した機能性食品の製造における該使用。
【図1】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【公表番号】特表2008−545774(P2008−545774A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−515233(P2008−515233)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際出願番号】PCT/ES2006/070079
【国際公開番号】WO2006/131586
【国際公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(593005895)コンセホ・スペリオール・デ・インベスティガシオネス・シエンティフィカス (67)
【氏名又は名称原語表記】CONSEJO SUPERIOR DE INVESTIGACIONES CIENTIFICAS
【Fターム(参考)】
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際出願番号】PCT/ES2006/070079
【国際公開番号】WO2006/131586
【国際公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(593005895)コンセホ・スペリオール・デ・インベスティガシオネス・シエンティフィカス (67)
【氏名又は名称原語表記】CONSEJO SUPERIOR DE INVESTIGACIONES CIENTIFICAS
【Fターム(参考)】
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