予備還元焼結鉱の製造方法およびこれを利用した高炉操業方法
【課題】高炉でのコークスの使用量を低減可能な、また、コークス炉ガスが適用可能な予備還元焼結鉱の製造方法を提供する。
【解決手段】焼結ケーキの破砕物を還元炉の上部より装入して、該焼結ケーキの破砕物を予備還元した予備還元焼結ケーキを前記還元炉の下部から排出し、該予備還元焼結ケーキから粒径5mm以上の予備還元焼結鉱を得る方法であって、前記焼結ケーキの破砕物を420〜970℃の温度範囲の状態で、前記還元炉に装入し、前記還元炉に還元ガスとして濃度が50体積%で温度が700℃以上のH2ガスを吹き込み、該予備還元焼結ケーキが、金属化率が25〜60mass%であり、かつ粒径5〜50mmの粒子が50mass%以上で構成されることを特徴とする、予備還元焼結鉱の製造方法。
【解決手段】焼結ケーキの破砕物を還元炉の上部より装入して、該焼結ケーキの破砕物を予備還元した予備還元焼結ケーキを前記還元炉の下部から排出し、該予備還元焼結ケーキから粒径5mm以上の予備還元焼結鉱を得る方法であって、前記焼結ケーキの破砕物を420〜970℃の温度範囲の状態で、前記還元炉に装入し、前記還元炉に還元ガスとして濃度が50体積%で温度が700℃以上のH2ガスを吹き込み、該予備還元焼結ケーキが、金属化率が25〜60mass%であり、かつ粒径5〜50mmの粒子が50mass%以上で構成されることを特徴とする、予備還元焼結鉱の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鉱石の焼結鉱の製造工程における、高温の破砕焼結ケーキを高温のガスによって予備還元して作製する予備還元焼結鉱の製造方法に関する。また、この予備還元焼結鉱を用い、還元材比の低減および生産性を向上できる高炉の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1.高炉法
図1は、高炉法のシステム形態を示す模式図である。銑鉄製造において、消費エネルギー、生産性および生産規模の観点から、我が国では、焼結機、コークス炉および高炉を用いた、いわゆる「高炉法」が広く普及している。図1に示すように、高炉法では、まず、鉄源である粉鉄鉱石と、溶剤である石灰石と、熱源である粉コークスとを混合した配合原料を、グレート炉形式の焼結機によって焼結した焼結ケーキを破砕・整粒して、塊状の焼結鉱を製造する。一方で、コークス炉を用いて、粘結性石炭を1050℃で室炉乾留して塊状のコークスを製造する。そして、鉄源である焼結鉱と、熱源かつ還元材であるコークスとを高炉に装入することによって、還元・溶融反応を経て銑鉄を得ることができる。
【0003】
高炉操業における生産性は、炉内の通気性に大きく支配されるため、通気性を低下させないように粒度や強度がより大きな鉄源や還元材が望まれている。それゆえ、粉鉄鉱石の使用にあたっては、そのまま高炉に装入するのではなく、事前に塊状化すべく、上述のように焼結化処理を施して焼結鉱としてから装入している。
【0004】
一方、石炭の使用にあたっても、低強度の石炭をそのまま高炉に装入するのではなく、事前に高強度化すべく、上述のように乾留溶融処理を施してコークスとしてから、還元剤として装入している。
【0005】
もちろん、これらの鉄源と還元材の処理には、大きなエネルギー消費と、設備とを必要とする。しかし、高炉をも含めた製銑工程全体としては、エネルギー使用量や生産コストは極めて低く最良の銑鉄の製造方法として広く認知されている。
【0006】
高炉法が極めて効率的な理由として、プロセスとしての物流が相互に補完されている点も挙げられる。例えば、コークス製造工程で製造されるコークスケーキは破砕され、塊状のものと粉状のものとが発生する。塊状のものは高炉で使用され、粉状のものは焼結燃料として使用される。また、高炉やコークス炉で発生するダスト類は回収されて、焼結原料および焼結燃料として使用される。
【0007】
2.高炉法の対抗技術
さて、このような高炉法に対抗する銑鉄製造技術として、天然ガスを還元材として、ペレット鉱や塊鉄鉱石をシャフト炉で還元し、得られた還元鉄を高温状態でブリケットHBI(ホットブリケットアイアン)化する方法がある。この方法は、コークスを使用しないことが特徴であり、シャフト炉内での通気性を確保するための空隙の形成を担う原料としてコークス以外の原料を使用しなければならない。そのため、粉鉄鉱石を直接使用することができない。そればかりか、還元過程で強度が低下した鉄鉱石が割れて粉が発生する、還元粉化の状況の管理が重要となり、還元粉化の性状が良好でない焼結鉱を使用することは困難とされている。天然ガスだけで還元するため、極めて大きなエネルギー消費量となることが特徴であることはもちろんである。
【0008】
また、直接的に石炭を還元材とする銑鉄製造方法がある。この方法は、粉鉄鉱石と石炭との混合原料を、ロータリーキルン炉やロータリーハース炉で、加熱、還元し、生成した還元鉄を高温状態でブリケットHBI化する方法である。この方法では、炉内に通気する還元ガスによって鉄鉱石を還元するのではなく、高温加熱炉の内部において、添加する石炭由来の固体カーボンによって還元することを反応原理とする。この方法は、固体カーボンを必ず必要とする方法であり、熱効率が悪いため、エネルギー原単位やコストが高く、また銑鉄を量産する方法としても課題が多い。
【0009】
その他にも、溶解炉中に鉄源を装入し、微粉炭と酸素(空気)を吹き込み、溶融状態にして急速還元して銑鉄を製造するとともに、その際に発生する還元ガスで鉄鉱石を還元し、溶解炉に装入する鉄源を還元鉄とする方法がある。この方法も、粉鉄鉱石と石炭とを直接使用し、コークスを使用しないため、通気性の確保が難しく、エネルギー原単位やコストの面でも高炉法以上の成果は収めていない。
【0010】
3.炭酸ガスの発生抑制
近年、地球温暖化問題により、炭酸ガスの発生抑制が要求されており、とりわけ炭酸ガスの発生量の多い銑鉄製造工程において強く要求されている。従来は、消費エネルギーや製造コストがプロセス採用評価の基軸とされてきたが、新たに炭酸ガス発生量という概念が重要となってきている。
【0011】
一般に、銑鉄製造の鉄源としては、酸化鉄鉄鉱石(主成分Fe2O3)が広く用いられている。鉄鉱石を脱酸素(還元)するための材料(還元材)としては、石炭、天然ガス等が用いられている。還元の反応効率を高めるため、直接的に使用するのではなく、焼結鉱、ペレット鉱、還元鉄等の鉄源の加工や、コークスやコークス炉ガスに乾留分離した還元材の加工や、ガス組成の改質処理によって、効率を高める工夫が、もちろんなされている。
【0012】
還元材を構成している元素は主にCとHである。還元材として、C成分の含有率が低く、H成分の含有率が高いものを使用すれば、炭酸ガスの発生抑制に有利なことは論じるまでもない。この点で、炭酸ガスの発生抑制には、還元材としてH成分の含有率が高い天然ガスやコークス炉ガスが好ましく、石炭や、特に大部分がカーボンからなるコークスの使用は好ましくない。しかし、還元ガスを炉内に流通させる方法にあっては、生産性を確保するため、通気スペーサーであるコークスの使用量を低減するには、この通気性の確保の面で多大なる困難がともなう。
【0013】
また、通気性の確保の面から、鉄源としての装入物には、塊状であり、還元粉化しないことが強く望まれる。
【0014】
以上の考え方に基づき、特許文献1には、コークスを還元材の主体とし、鉄源の一部として高強度の還元鉄HBIを使用して、コークス原単位を低減する技術が開示されている。
【0015】
また、非特許文献1には、天然ガスやコークス炉ガスを高炉に吹き込み、コークス使用量を低減する技術が開示されている。
【0016】
4.還元鉄HBIの問題点
高炉操業の鉄源として還元鉄HBIを使用する方法は、高炉操業における還元材であるコークスの使用量を低減できる技術である。しかし、還元鉄HBIを製造する際に、高炉よりも還元効率が悪く、還元材を多大に消費し、銑鉄製造トータルでの炭酸ガス発生量の抑制にならないという問題がある。これについて、非特許文献2では、高金属化率の還元鉄ではなく、予備還元鉄(部分還元鉄)の高炉での使用が有利であると考察している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平09−013109号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】西尾浩明、宮下恒雄、鉄と鋼、Vol.59 No.12 P.1506−1522(1973)
【非特許文献2】国友和也、内藤誠章、学振54委−2352(2005.6.23)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかし、非特許文献2は、粉鉄鉱石を天然ガスによって還元した部分還元鉱を用いることを対象とする論文であり、高炉操業に耐えうる強度を有する予備還元ブリケットの製造については触れていない。
【0020】
ペレット鉱や塊鉄鉱石であれば還元粉化は少なく、塊状の予備還元鉱を篩分級により得ることが可能である。しかし、焼結鉱を対象とした場合、還元粉化が激しく、塊状の予備還元鉱を得るには、極めて収率が悪いという問題が想定される。そのため、予備還元鉱の塊成化が大きな課題となっている。
【0021】
ペレット鉱や塊鉄鉱石はCaO含有率が低く、構成鉱物はヘマタイト、マグネタイト、珪酸塩が主体である。一方、焼結鉱はCaO含有率が高く、構成鉱物はカルシウムフェライトが主体である。カルシウムフェライトは、珪酸塩と異なり、被還元性が高いものの還元粉化しやすい性質がある。このため、焼結ケーキはペレット鉱や塊鉄鉱石と比較して還元粉化しやすい。
【0022】
また、COガス還元が発熱反応であるのに対して、H2ガス還元は吸熱反応である。そのため、高炉に天然ガスやコークス炉ガスを改質処理したH2リッチなガスを直接吹き込んだ場合、高炉内温度を低下せしめ、反応不活性化により操業悪化を招くという問題がある。
【0023】
コークス炉ガスは、石炭乾留により生成するものであり、従来の高炉法では製銑工程ではほとんど使用されておらず、輸送され、近傍工場での加熱処理炉や発電炉に利用されている。そのため、コークス炉ガスの使用には大規模設備が必要とされ、問題もある。このことから、コークス炉ガスの製銑工程での自己活用は、高炉法の効率化には避けて通れない根本的な課題といえる。
【0024】
本発明は、この問題に鑑みてなされたものであり、その課題は、現行の焼結機‐コークス炉‐高炉プロセスの存在を前提として、高炉でのコークスの使用量を低減可能な、また、コークス炉ガスが適用可能な予備還元焼結鉱の製造方法を提供することにある。また、この方法で製造された予備還元焼結鉱を高炉で使用し、高炉でのコークス使用量の低減が可能な高炉の操業方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討し、後述の実験を行い、以下の(a)〜(c)を満たすことにより、上述の予備還元焼結鉱を製造できるとの知見を得た。
【0026】
(a)焼結ケーキの破砕物は、420〜970℃で還元炉に装入する。
(b)還元炉に吹き込む還元ガスは、H2ガス濃度が50体積%以上かつ温度が700℃以上とする。
(c)焼結ケーキを還元して得られた予備還元焼結ケーキは、金属化率が25〜60mass%であり、かつ粒径が5〜50mmの粒子が50mass%以上を占める構成とする。
【0027】
本発明は、以上の知見に基づいて完成されたものであり、下記(1)〜(9)の予備還元焼結鉱の製造方法および高炉操業方法を要旨としている。
【0028】
(1)焼結ケーキの破砕物を還元炉の上部より装入して、該焼結ケーキの破砕物を予備還元した予備還元焼結ケーキを前記還元炉の下部から排出し、該予備還元焼結ケーキから粒径5mm以上の予備還元焼結鉱を得る方法であって、前記焼結ケーキの破砕物を420〜970℃の温度範囲の状態で、前記還元炉に装入し、前記還元炉に還元ガスとして濃度が50体積%で温度が700℃以上のH2ガスを吹き込み、該予備還元焼結ケーキが、金属化率が25〜60mass%であり、かつ粒径5〜50mmの粒子が50mass%以上で構成されることを特徴とする、予備還元焼結鉱の製造方法。
【0029】
(2)ドワイトロイド型の焼結設備を使用し、前記焼結設備の焼結ケーキ排出部の近傍のストランドの上部にバーナーを配置し、前記バーナーから燃焼ガスを吹き込むことにより、焼結ケーキを加熱することを特徴とする、前記(1)に記載の予備還元焼結鉱の製造方法。
【0030】
(3)前記バーナーの燃料として、コークス炉ガス、天然ガス、または前記還元炉の排出ガスを使用することを特徴とする前記(2)に記載の予備還元焼結鉱の製造方法。
【0031】
(4)前記還元炉に吹き込む還元ガスとして、H2とCOの体積比(H2/CO)が2.0以上となるように、天然ガスまたはコークス炉ガスを改質することを特徴とする前記(1)〜(3)に記載の予備還元焼結鉱の製造方法。
【0032】
(5)前記還元炉の上部および下部にガス出入口を設け、前記還元炉に吹き込む還元ガスを前記還元炉の上部から下部に流動させることを特徴とする前記(1)〜(4)に記載の予備還元焼結鉱の製造方法。
【0033】
(6)前記還元炉が、水平回転式の二重円筒型であり、水封シールを有することを特徴とする前記(1)〜(5)に記載の予備還元焼結鉱の製造方法。
【0034】
(7)前記焼結ケーキのCaO含有率が7.0〜13.0mass%であることを特徴とする前記(1)〜(6)に記載の予備還元焼結鉱の製造方法。
【0035】
(8)前記予備還元焼結ケーキを、篩分級し、篩下産物を成型機によってブリケット型の予備還元焼結鉱とすることを特徴とする前記(1)〜(7)に記載の予備還元焼結鉱の製造方法。
【0036】
(9)前記(1)〜(8)に記載の予備還元焼結鉱の製造方法によって製造された予備還元焼結鉱を、高炉原料の一部として使用する高炉操業方法。
【0037】
本発明および本明細書において、「焼結ケーキ」とは、焼結機上で作製された焼結物の大塊であって、篩処理を施されていないものをいう。「焼結鉱」とは、高炉の装入物をいい、高炉に装入する前の篩処理によって、高炉に装入できる処理が施された焼結ケーキおよびその破砕物をいう。焼結ケーキと焼結鉱とでは、化学成分として概ね差はない。また、「予備還元焼結ケーキ」とは、予備還元炉において予備還元した状態の焼結ケーキであって、篩処理を施されていないものをいい、「予備還元焼結鉱」とは、高炉に装入できる処理が施された予備還元焼結ケーキをいう。
【0038】
本発明において、「焼結ケーキの金属化率」とは、焼結ケーキに含まれる金属鉄のmass%(金属Fe%)を全鉄分のmass%(T.Fe%)で除した値(金属Fe%/T.Fe%)をいう。
【0039】
以下の記述において、焼結鉱等の成分組成を表す「mass%」を、単に「%」とも表記する。
【発明の効果】
【0040】
本発明の予備還元焼結鉱の製造方法によれば、高炉でのコークスの使用量を低減可能な予備還元焼結鉱を製造することができる。また、コークス炉ガスを製銑工程で自己活用することができる。
【0041】
本発明の高炉操業方法によれば、コークス使用量を低減し、炭酸ガスの発生を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】高炉法のシステム形態を示す模式図である。
【図2】本発明の予備還元焼結鉱の製造方法および高炉操業方法の適用可能な高炉法システムの構成図である。
【図3】焼結鍋試験装置の模式図である。
【図4】原料層全体の温度分布の時間変化を示す図であり、同図(a)は第一の焼結方法を適用した場合、同図(b)は第二の焼結方法を適用した場合を示す。
【図5】焼結終了時における、測定された原料層の高さ方向の温度分布の近似曲線処理結果である。
【図6】排ガス温度の時間変化を示す図である。
【図7】還元試験装置の模式図である。
【図8】還元試験での質量変化から算出した焼結ケーキの金属化率の変化を示す図である。
【図9】30分間還元を行った後取り出した焼結ケーキの粒度分布である。
【図10】予備還元炉の高さ方向における焼結ケーキの温度および金属化率のシミュレーション結果であり、同図(a)は並流型の結果、同図(b)は向流型の結果である。
【図11】二重円筒型シャフト炉の模式図である。
【図12】二重円筒型シャフト炉の水封シール構造を示す断面図である。
【図13】ブリケットの金属化率およびCaO含有率の圧壊強度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
1.概要
本発明の方法は、従来のように、製造した焼結ケーキの全量を製造したままの状態で高炉に装入するのではなく、焼結ケーキの破砕物の一部を高炉とは別の予備還元機能を有する炉で処理を行って、予備還元焼結鉱を製造し、これを高炉原料の一部として使用して、還元材であるコークスの使用量を低減せしめることを最終目的とするものである。以下に、本発明の予備還元焼結鉱の製造方法について詳述する。
【0044】
2.高炉法のシステムの構成
図2は、本発明の予備還元焼結鉱の製造方法および高炉操業方法の適用可能な高炉法システムの構成図である。図2に示す高炉法システムは、ドワイトロイド(DL)型の焼結機1、破砕物容器2、予備還元炉3、篩装置4、成型機5および高炉6を備える。
【0045】
焼結機1では、配合原料11が焼結され、焼結ケーキ12が生成されるとともに、破砕され、焼結ケーキ破砕物13が製造される。破砕物容器2は、焼結機1で製造された焼結ケーキ破砕物13を受ける容器であり、予備還元炉3の炉頂まで焼結ケーキ破砕物13を搬送するコンテナーを兼ねる。予備還元炉3では、焼結ケーキ破砕物13を予備還元し、予備還元焼結ケーキ31を生成する。
【0046】
篩装置4では、予備還元炉3から排出された予備還元焼結ケーキ31を篩上産物である塊状予備還元焼結鉱31aと、篩下産物である粉状予備還元焼結ケーキ31bに分級する。成型機5では、篩下産物である粉状予備還元焼結ケーキ31bを塊成化し、ブリケット型の予備還元焼結鉱(以下、「予備還元ブリケット」ともいう。)51を成形する。高炉6には、篩装置4の篩上産物である塊状予備還元焼結鉱31aと、成型機5で成形された予備還元ブリケット51が送り込まれる。
【0047】
3.焼結ケーキ破砕物
まず、予備還元の対象となる、焼結ケーキ破砕物について説明する。焼結ケーキ破砕物は、従来製造している焼結ケーキから製造する方法と同一の方法で製造するものでもよい。ただし、予備還元炉に装入する際に、温度が420〜970℃である必要がある。
【0048】
3−1.焼結ケーキ破砕物の加熱方法
3−1−1.使用ガス
焼結ケーキ破砕物をこの温度範囲とするには、焼結原料(配合原料)における燃料の比率を大きくする等の、熱的に有利となる工夫を行う必要がある。しかし、単に原料だけの工夫では、焼結ケーキが高温になりにくいため、積極的に焼結ベッドにバーナーから高温燃焼ガスを吹き込む方法が加熱方法として効果的である。この場合、バーナーで用いるガス燃料としては、H2/CO比(H2とCOの体積比の値)が高い天然ガスやコークス炉ガス等のガスを使用することが、炭酸ガス発生量の低減には必要となる。ガス燃料として、予備還元炉から排出される還元ガスを使用することも、もちろん可能である。
【0049】
3−1−2.ガスの吹き込み位置
高温燃焼ガスの焼結層での吹き込み位置は、前記図2に示す焼結機1の焼結ストランドの上部において、FFP(Flame Front Point;燃焼前線到達点)から排鉱端までの間とすることが好ましい。この位置での高温燃焼ガスの吹き込みにより、FFP地点では、ほぼ常温近くまで冷却されていた焼結ケーキの表層部は、再度約1200℃まで加熱される。FFPは、排ガスの温度が急上昇する地点であり、前記図2に示す焼結機1において、全ストランドの長さを100%として、点火開始点1aを0%位置、排鉱端1bを100%位置とすれば、75%付近に位置する。
【0050】
焼結層(焼結ケーキ)内の原料中の、燃料が存在し燃焼している部分での、高温燃焼ガスの吹き込みは、焼結層吸引空気中の酸素濃度を低下せしめることになるため、避けなければならない。
【0051】
3−2.焼結ケーキの破砕
焼結機1の排鉱端1bまで搬送された高温の焼結ケーキ12は、排鉱端1bでパレットが傾転することによって、焼結ケーキ排出部から排出され、鬼歯型のクラッシャーによって破砕され、焼結ケーキ破砕物13が製造される。そして、焼結ケーキ破砕物13は、破砕物容器2によって運搬され、420〜970℃の状態で予備還元炉3の炉頂に装入される。
【0052】
4.予備還元
4−1.本発明における予備還元の方法および効果
予備還元炉3は、炉頂部から装入された装入物が、重力によって荷下がり移動し、炉下部から排出される構造を持つ。予備還元炉3は、焼結冷却機(不図示)のように焼結ケーキ排出部の下に位置してもよいし、別途、焼結機1から離れたところに設置してもよい。焼結機1から離れたところに設置する場合、耐火物容器コンテナーを使用して焼結ケーキ破砕物13を搬送すればよい。
【0053】
予備還元炉3には、420〜970℃の焼結ケーキ破砕物13が炉頂部から装入され、還元材(還元ガス)として濃度が50体積%以上かつ温度が700℃以上のH2ガスが側面に設けられたガス投入口3aから吹き込まれる。予備還元炉3では、還元材として、塊コークスやCOリッチなガスを使用することはなく、後述するH2濃度が50体積%以上の還元ガスが用いられる。このため、予備還元を行うとH2Oガスが多量に発生するものの、COガスや炭酸ガスの発生量は少なく、製銑工程全体として炭酸ガス発生量を抑制することができる。
【0054】
H2ガスは、COガスに比べて圧倒的に分子径が小さく、固体の微細な気孔まで容易に浸透できる。そのため、短時間で酸化鉄の還元を進行させることができるという特性を有する。したがって、等モル量の還元ガスを使用した場合で比較すると、H2ガスはCOリッチなガスよりも、目標還元率を達成するための炉内滞留時間が短くてよく、予備還元炉の容積は小さくても十分に機能を発揮できる。
【0055】
ただし、これはあくまでも同一温度条件においてである。H2ガスによる酸化鉄の還元は吸熱反応であるため、H2ガスを還元ガスとして使用した場合は炉内の装入物の温度が低下する。これに対して、COガスによる酸化鉄の還元は発熱反応であるため、COガスを還元ガスとして使用した場合は炉内の装入物の温度は上昇する傾向となる。それゆえ、実際にはH2ガスによる還元はCOガスによる還元よりも反応が遅くなる。
【0056】
そこで、本発明では、予備還元炉に420〜970℃の高温の焼結ケーキ破砕物を装入し、H2ガスによる還元によって装入物の温度が低下しても反応温度が担保されるようにしている。この点で、常温の焼結鉱を炉内に装入する従来の高炉法と大きく異なる。
【0057】
4−2.焼結ケーキ破砕物の温度範囲
予備還元炉に装入する焼結ケーキ破砕物の温度は、できる限り装置の設置空間を低減すべく予備還元炉の容積を低減させるため、また、還元速度の向上を図るため、できるだけ高くする必要がある。
【0058】
本発明において、予備還元炉に装入する焼結ケーキ破砕物の下限温度を420℃としたのは、420℃未満であると還元反応が遅くなり過ぎて効果を発揮しないからである。また、焼結ケーキ破砕物はカルシウムフェライト鉱物を含有するため、還元粉化が激しくなるからである。一方、上限温度を970℃としたのは、970℃を超える温度では装入物同士が固着する傾向が顕著となり、予備還元炉内での荷下がり性が悪化するためである。
【0059】
4−3.還元ガスの条件
4−3−1.組成
本発明では、還元ガスの組成の条件を、H2濃度を50体積%以上とした。そのため、予備還元炉では吸熱反応が発熱反応よりもリッチな条件となる。この条件において、上述の420〜970℃の焼結ケーキ破砕物を装入することにより還元反応速度が担保される。この点で、従来の還元炉と大きく異なる。
【0060】
還元ガスはH2濃度が50体積%以上であればよい。このようなH2リッチなガスは、例えばCH4を含有するコークス炉ガスや天然ガスを、水蒸気、燃焼排ガス、空気、酸素等によって改質することによって得ることが可能である。還元ガスに、CO、CO2、CH4、N2またはH2Oが混入しても、還元効率が悪化するだけで本発明の効果に何ら支障をもたらさない。コークス炉ガスを用いることにより、コークス炉ガスを製銑工程で自己活用することができ、高炉法の効率化を図ることができる。
【0061】
ガス組成は、H2とCOの体積比(H2/CO)が2.0以上が好ましい。H2/COが2.0以上のH2リッチなガスとすることにより、H2/COが2.0未満の場合と比較して還元速度を大幅に高め、予備還元炉の容積をさらに低減することができる。
【0062】
4−3−2.温度
予備還元炉に吹き込む還元ガスの温度は、700℃以上とする。700℃以上でないと、酸化鉄のH2ガス還元によって吸熱反応が進行し、炉温が低下して還元効率が悪化する。
【0063】
4−3−3.予備還元炉における還元ガスの出入口
上述のように、予備還元炉は、装入物が、炉頂部から装入され、重力によって荷下がり移動し、炉下部から排出される構造を持つ。そのため、本発明に適用する予備還元炉は、還元ガスを炉頂に投入して炉下部側壁や炉底部から排出させる並流型としてもよいし、逆に炉下部側壁や炉底部から還元ガスを吹き込んで炉頂部から排出させる向流型としてもよい。前記図2には、予備還元炉3として、炉下部側壁にガス投入口3aを有する向流型のものを示した。
【0064】
酸化鉄を還元できるものであれば、還元ガスの流動方向は何ら規定しない。しかし、向流型と比べて並流型の方が、装入物の温度がより高く確保されるため効果的である。
【0065】
4−3−4.予備還元炉の形式
予備還元炉の形式としては、炉底部から装入物を排出するシャフト炉型が適用できる。この他に、炉底板が存在し、この炉底板が炉壁とともに水平回転し、炉下部側壁から装入物をスクレーパー等でかきだす方式も適用できる。このように、予備還元炉については、何ら形式を規定しない。
【0066】
炉壁や炉床が水平回転する型式のものでは、回転移動する部分は吹き込む還元ガスをシールする必要があるため、水封方式が採用される。このような水平回転式であって、二重円筒炉壁を有する予備還元炉は、細長いシャフト炉と比較して、層高が低くかつ断面積の大きな移動層を形成するのに有効である。また、還元ガスの吹き込み口も二重円筒炉壁の両側面を利用することができるため、予備還元された装入物を安定して排出できる利点がある。二重円筒炉壁を有する予備還元炉については、後述する。
【0067】
4−4.予備還元の効果
従来、高炉をはじめとするシャフト炉では、炉下部から投入された高温の還元ガスは、炉上部方向へ移動するに従って、装入物と熱交換されて温度が低下し、炉頂では200℃の低温で排出される。これが、炉頂から装入した常温の原料が炉下部方向へ荷下がり移動し、それに対向して還元ガスが流動する向流型の熱効率が良好である理由である。
【0068】
このような向流型の場合、シャフト炉高さ方向で、高温から低温への温度変化が必ず存在する。このような温度変化で問題となるのが焼結鉱である。従来から、焼結鉱は420〜600℃付近でFe2O3からFe3O4に還元される時に膨張して、激しく粉化することが知られている。この還元粉化が大きな問題であるため、シャフト炉では焼結鉱は使用できない。
【0069】
一方、本発明の方法では、予備還元炉に、420〜970℃の高温の焼結ケーキ破砕物を装入するとともに、投入還元ガス温度が700℃以上であるため、シャフト炉内において、焼結ケーキの還元粉化が問題となる420〜600℃の区間が短くなり、さらに、装入する焼結ケーキ破砕物が600℃以上である場合には、この還元粉化減少は発生しない。そのため、鉄鉱石の焼結物である焼結ケーキ破砕物であっても使用することができる。
【0070】
本発明の方法によって、焼結ケーキ破砕物を予備還元して得られた予備還元焼結ケーキは、装入した焼結ケーキ破砕物より幾分かは粒度が低下するものの、焼結鉱が粉化するという従来のシャフト炉での問題は生じない。
【0071】
さらに、予備還元炉から排出された予備還元焼結ケーキは、排出直後には高温状態にあるので、前記図2に示すようにN2ガス等で熱交換を行わせしめ、回収した熱エネルギーを発電機7での発電等に活用することもできる。
【0072】
5.篩装置での分級
5−1.篩上産物の利用方法
常温に冷却された予備還元焼結ケーキは、前記図2に示すように、篩装置4によって粒径5mm程度を境界として分級される。篩上産物である塊状予備還元焼結鉱31aは、粒径が5mm以上であり、高炉の通気性を確保できるため、そのまま高炉原料(予備還元焼結鉱)として使用される。
【0073】
5−2.篩下産物の利用方法
一方、篩下産物である粉状予備還元焼結ケーキ31bは、従来のように焼結返鉱粉として焼結原料中に配合して再利用してもよい。しかし、折角予備還元した鉱粉を酸化処理する焼結プロセスに戻すのは、生産効率および炭酸ガス発生量の抑制の面から好ましくない。粉状予備還元焼結ケーキ31bは高炉で使用できるようにするため、成型機5によってブリケット化して、予備還元ブリケット51とすることが好ましい。予備還元ブリケット51は、粒径5mm以上とすることにより、高炉原料(予備還元焼結鉱)として使用することができる。
【0074】
従来技術では、焼結返鉱を圧縮成型してブリケット化することは困難とされてきた。しかし、粉状予備還元焼結ケーキ31bは、25〜60%の金属鉄を含有するとともに、粒度が小さく容易に還元されるため、予備還元焼結ケーキ全体の平均よりも高い金属鉄の含有率であることから、高炉での使用に耐えうる十分に高強度の予備還元ブリケット51を製造することができる。
【0075】
高強度の予備還元ブリケットの製造方法として、本出願人が出願した特願2009−214259号に記載のブリケット養生技術を適用することが好ましい。この場合、予備還元ブリケットは、焼結鉱組成として、CaO含有率が7%以上13%以下であることが好ましい。CaO含有率が7%以上であることが好ましい理由は、部分還元鉄を含有する還元鉄ブリケットの強度向上方法として含水養生した場合に、CaO成分が存在すると水和固化が発達し、より強固の結合となるためであり、焼結鉱のようなCaO含有率の高い原料では効果的である。また、CaO含有率が13%以下であることが好ましい理由は、CaO含有率が13%よりも高いとFe品位が低すぎて高炉に使用する鉄源として好適ではないからである。
【0076】
もちろん、この他にも従来から実施されている還元炉から排出される高温の固体還元鉄から、熱間成型機を使用してHBI鉱を製造してもよい。しかし、熱間成形処理は、冷間成形処理と比較して、成型機の設備規模が大きいこと、成型機のロール寿命が短いこと、トラブルが大きいこと等、問題が多い。そのため、冷間成形処理が好ましい。
【0077】
5−3.篩装置での分級およびブリケット化の効果
このようにして製造された、篩上産物である塊状予備還元焼結鉱と、予備還元ブリケットを高炉原料の一部として使用することによって、高炉操業における還元負荷を低減するとともに、高炉内での還元粉化の発生を抑制することができるためコークス比を低減することができる。
【0078】
また、篩下産物であり、金属化率の高い粉状予備還元焼結ケーキを予備還元ブリケットとして高炉で使用することによって、粉状のままで焼結プロセスに戻す場合と比較して、製銑プロセス全体としての炭酸ガス発生量を抑制することができる。
【0079】
5−4.予備還元焼結ケーキの金属化率の規定理由
本発明において、予備還元焼結ケーキの金属化率を25〜60%と規定した理由について説明する。篩上産物である塊状予備還元焼結鉱および予備還元ブリケットの金属化率が25%未満であると、金属化率が低すぎて高炉での還元負荷の低減効果が小さく、本発明の方法を適用するだけの価値がないためである。一方、予備還元焼結ケーキの金属化率が60%よりも高いと、予備還元炉で必要となる還元ガス量が多くなりすぎて、製銑工程でのトータル消費エネルギーが大きく増加する問題が生じる。
【0080】
本発明の方法は、上述のH2系ガスを使用した予備還元炉と高炉との還元負荷バランスの適正化によって、炭酸ガス発生量を抑制する方法である。この点から、予備還元焼結ケーキの金属化率は25〜60%であることが必要である。
【0081】
5−5.予備還元焼結ケーキの粒径の規定理由
予備還元焼結ケーキの粒径について説明する。強度が高すぎる予備還元焼結ケーキや、固着状の粒径50mm以上の粗粒の含有率の高い予備還元焼結ケーキでは、予備還元炉における荷下がりや排出切り出しとして問題が多い。逆に、強度が低すぎるため、または予備還元炉温が低かったため予備還元焼結ケーキの、予備還元炉内での還元粉化が著しい状況や、粒径5mm以下の細粒が予備還元焼結ケーキの主体である状況では、予備還元炉における通気性が悪くなり、炉内ガス流や荷下がり等が偏り、予備還元炉操業に支障が生じる。
【0082】
以上の観点から、本発明の方法では、予備還元焼結ケーキは、粒径5〜50mmの粒子が50mass%以上を占める構成とする。このような粒度の予備還元焼結ケーキは、焼結機における焼結ケーキの強度制御や、予備還元炉の操業の操作によって得ることができる。
【0083】
5−6.本発明の方法で製造された予備還元焼結鉱の効果
本発明の方法で製造された予備還元焼結鉱は、通常の焼結鉱とは異なり、予備還元されている。そのため、Fe2O3を含有しておらず、高炉で使用するに際し、還元粉化による通気性悪化を引き起こさず、通気性が改善できるという利点を有する。この利点により、コークス比の低減にともなう通気性の悪化を相殺することができ、良好な高炉操業を維持できる。
【0084】
また、本発明の方法で製造された予備還元焼結鉱を高炉原料の一部として使用して高炉を操業することにより、高炉におけるコークスの還元材作用と通気スペース作用とを担保し、大幅なコークス比の低減を達成し、炭酸ガス発生抑制を推進できる、優れた高炉法システムを構築することができる。
【0085】
6.本発明を完成させるために行った要素検討結果
本発明を完成させるため、以下の通り、焼結工程と予備還元工程について要素検討を行った。
【0086】
6−1.焼結工程の検討
図3は、焼結鍋試験装置の模式図である。本発明の方法では、420〜970℃の焼結ケーキ破砕物を製造する必要がある。一般に、焼結ケーキは、前記図2に示すようにDL型焼結機によって多量に連続的に生産される。今回行った要素検討のための実験では、焼結シミュレーターとして広く用いられている、図3に示す焼結鍋試験装置を用いて、高温の焼結ケーキの製造を実証した。焼結鍋試験装置は、直径300mm、高さ500mmの円筒形の容器14と、容器14の下部に設けられた風箱15からなる。容器14と風箱15との境界には網状のグレートと床敷鉱層16が設けられている。
【0087】
6−1−1.実験方法
本実験では、原料として、鉄鉱石、石灰石、燃料であるコークス、および水分を表1に示す2種類の配合比率(焼結ケーキAおよび焼結ケーキB)で配合した配合原料を使用した。
【0088】
【表1】
【0089】
まず、焼結ケーキAの配合原料を使用した実験について説明する。この配合原料を、直径600mmの回転ドラムミキサーで4分間混合して、造粒原料を製造した。この造粒原料を、図3に示す焼結鍋試験装置の円筒形の容器14に装入する。この状態で、風箱15を通して送風機(不図示)によって、1〜3Nm3/minの吸引量で排ガスが吸引される。風箱15の内部には温度計17が設置されており、排ガスの温度を測定することができる。本実験において、温度計17で測定した排ガスの温度が60℃付近で安定している状況から、急速に400℃まで温度上昇を開始する時点をFFPと呼ぶ。
【0090】
焼結鍋試験装置の上方には、LPG焚きのバーナー18が配置されており、バーナー18で燃焼された高温ガスが造粒原料からなる原料層19の表面に吹き付けられる。このような高温ガスの吹き付けを、焼結プロセスでは表面点火と呼ぶ。表面点火により、焼結反応が開始する。以下、焼結反応の進行にともなって焼結ケーキに変化した原料層も含めて「原料層」という。
【0091】
本実験では、通常の製造方法(以下「第一の焼結方法」という。)と、焼結ケーキの温度を上昇させるための製造方法(以下「第二の焼結方法」という。)で、焼結ケーキを製造した。
【0092】
第一の焼結方法では、表面点火の点火時間を1.0分間として、焼結ケーキを製造した。すなわち、点火開始から1.0分を経過した時点でバーナー18を消火し、その後は常温の空気が原料層19を通過するように、風箱15を通して送風機によって吸引した。そして、風箱15内の排ガスの温度が最高温度を示す、点火開始から28分経過時点まで送風し、送風を停止した後、生成した焼結ケーキを容器14から排出した。
【0093】
一方、第二の焼結方法では、焼結ケーキの温度上昇を図るため、第一の焼結方法の表面点火条件に加えて、送風を停止する直前の、点火開始から25分から28分までの3分間、バーナー18で燃焼されたガスを原料層19の表面に吹きつけ、最終加熱処理した。
【0094】
容器14には、原料層19の表面から、80mm、240mmおよび400mm位置に熱電対14aを配置した。これらの熱電対14aによって原料層19内部の温度を測定し、焼結過程における温度変化を記録した。
【0095】
6−1−2.実験結果
図4は、原料層全体の温度分布の時間変化を示す図であり、同図(a)は第一の焼結方法を適用した場合、同図(b)は第二の焼結方法を適用した場合を示す。
【0096】
熱電対14aを用いて記録した原料層19内の温度に基づいて、原料層19全体の温度分布を数学的に補間推定した。その結果を図4に模式的に示す。最終加熱処理によって、原料層19上部の温度が上昇したことがわかる。
【0097】
図5は、焼結終了時(点火開始から28分後)における、測定された原料層(焼結ケーキ)の高さ方向の温度分布の近似曲線処理結果である。また、表2には、本実験の焼結終了時における原料層19の平均温度を示す。
【0098】
【表2】
【0099】
焼結終了時の原料層19すなわち焼結ケーキの平均温度は、第一の焼結方法では421℃、第二の焼結方法では822℃であり、バーナー18による最終加熱処理によって、400℃上昇させることができた。
【0100】
図6は、排ガス温度の時間変化を示す図である。図6から、第一の焼結方法、第二の焼結方法のいずれにおいても排ガス温度の急速な上昇が点火開始から23分で生じた。すなわちFFPは点火開始から23分であった。
【0101】
このように、焼結過程の終了直前に、最終加熱処理として、燃焼ガス焚きバーナーを用いて焼結ケーキの表面に高温ガスを供給すると、吸引作用によって焼結ケーキの温度は容易に上昇させることができ、また温度を目標値に制御できることがわかった。
【0102】
本実験結果を、前記図2に示す実際の焼結機の場合に置き換えると、点火開始から燃焼完了までの時間が28分であることから、全ストランドの長さを100%とすると、焼結パレットの水平移動速度は100%/28分、すなわち3.6%/分である。そして、点火開始点を0%位置、排鉱端を100%位置とすれば、点火開始から25分から28分までの3分間の追加燃焼は、焼結機のストランドの上部の焼結ケーキ排出部近傍である89〜100%の位置で行うこととなる。最終加熱処理に用いるバーナーは、この範囲をカバーするようにストランドの上部に配置すればよい。また、点火開始から23分であったFFPは、23分÷28分≒0.82より、82%位置に相当する。
【0103】
6−1−3.焼結ケーキBの場合
配合原料として前記表1の焼結ケーキBの配合原料を用いて、同様の焼結鍋試験装置を用いた実験を実施した。この場合、点火時間を焼結ケーキAの1分間から2分間に延長して点火を強化するとともに、燃料である粉コークスの配合比率を4.5%から5.5%に増加し、水分量を7.0%から6.6%に低下させて、焼結ケーキAの場合よりも投入熱量を増加させた。
【0104】
本実験の点火開始から28分の時点における平均焼結ケーキ温度の結果を、焼結ケーキAの結果と併せて、表2に示した。焼結ケーキBの場合には、投入熱量を増加させたため第一の焼結方法では573℃、第二の焼結方法では最終加熱処理によって971℃まで上昇させることができた。
【0105】
6−2.予備還元工程の検討
次に、予備還元工程について検討するため、上述の焼結シミュレーションで得られた、燃焼ケーキを用いて還元実験を行った。
【0106】
6−2−1.実験方法
図7は、還元試験装置の模式図である。図7に示すように、還元試験装置は、円筒反応管容器32と、これを囲繞する電気加熱炉33を備える。円筒反応管容器32は、予備還元炉に見立てたものであり、直径74mmとした。還元ガスとして、組成(体積比)がH2:CO:CO2=76:21:3のガスを用い、流量を9.4NL/minとした。試料として、上述の焼結シミュレーションにおいて第二の焼結方法によって焼結ケーキAの配合原料から得られた焼結ケーキを500g用いた。
【0107】
この焼結ケーキを常温の状態で円筒反応管容器32に装入し、焼結ケーキ充填層34を形成した。円筒反応管容器32内の焼結ケーキは、温度が900℃となるように電気加熱炉33によって加熱制御した。同様に、円筒反応管容器32に導入される還元ガスも900℃に加熱した。還元ガスは、円筒反応管容器32の下部から投入され、焼結ケーキ充填層34中を下部から上部に通過し、円筒反応管容器32の上部から排出される。
【0108】
6−2−2.実験結果
図8は、還元試験での質量変化から算出した焼結ケーキの金属化率の変化を示す図である。図8に示すように、金属化率は還元開始から20分経過した時点で25%に達し、30分経過した時点で60%に達した。このように、還元反応を最初から高温で行えば、30分程度の極めて短い時間で焼結ケーキを金属化率60%程度まで予備還元することが可能である。
【0109】
図9は、30分間還元を行った後取り出した焼結ケーキの粒度分布である。焼結ケーキは高温で還元されるため、還元後であっても還元粉化現象はほとんど認められず、還元後の焼結ケーキの粒度構成は、高炉において良好とされる5〜50mmのものが50%以上であることがわかる。図9には、同様の実験を、第一の焼結方法によって焼結ケーキAから得られた焼結ケーキを用いて実施した結果も示す。
【0110】
同様の実験を、第二の焼結方法によって焼結ケーキBから得られた焼結ケーキを用いて実施した。その結果、金属化率は、還元時間が18分で25%、27分で60%であり、粒度構成は5〜50mmのものが61%であった。
【0111】
6−2−3.好ましいガス組成
さらに、同様の実験を、表3に示す組成1〜10のガスを用いて、還元時間を25分として行った。その条件および結果を表3に示す。
【0112】
【表3】
【0113】
表3にはガス組成と併せて25分間の還元後の金属化率を示した。表3からわかるように、H2濃度が100体積%の場合(組成1)を除き、H2濃度およびH2/CO濃度比の上昇にともなって、金属化率が上昇する傾向がある。還元炉の滞留時間が25分であると仮定すると、H2濃度が50体積%以上であれば、金属化率は25%以上であった(組成1〜9)。また、H2/CO濃度比が2.0以上の高いケース(組成2、3、4、5および8)において、35%以上の高い金属化率を示した。すなわち、これらの条件のガス組成は、予備還元に関する生産効率が高く、好ましい。
【0114】
6−3.予備還元炉についての検討
6−3−1.シミュレーション条件
さらに、予備還元炉の方式や、予備還元炉内の状況を明確にするために、数学モデルシミュレーションを用いて検討した。表4に、シミュレーションに適用したシャフト炉タイプの予備還元炉の仕様および操業条件を示す。
【0115】
【表4】
【0116】
6−3−2.シミュレーション結果
図10は、予備還元炉の高さ方向における焼結ケーキの温度および金属化率のシミュレーション結果であり、同図(a)は並流型の結果、同図(b)は向流型の結果である。同図では、予備還元炉の上半分である還元部分のみを示す。
【0117】
焼結ケーキは、シャフト炉である予備還元炉の炉頂部から装入され、重力によって装入物が降下し、荷下がり移動する移動層を形成する。上述のように、並流型とは、還元ガスの流動方向が焼結ケーキの移動方向と同一となる形式、すなわちガスが炉頂部から投入され、下部から排出される形式である。向流型とは、還元ガスの流動方向が焼結ケーキの移動方向と逆になる形式、すなわちガスが下部から投入され、炉頂部から排出される形式である。
【0118】
図10(a)および(b)に示すように、並流型、向流型のいずれのケースも、炉の長さが8mあれば、目標値である金属化率60%を十分に達成できる。
【0119】
さらに、このシミュレーション結果を検討すると、並流型シャフト炉では、長さ2.0m程度で十分金属化率60%を達成できる。向流型シャフト炉では、炉頂部と下方の排鉱部は必要であるものの、中間部の5m程度は無駄であるため、長さ3.0m程度で十分と考えられる。
【0120】
また、図10(a)に示す並流型シャフト炉の場合、焼結ケーキは炉頂では960℃のガスによって加熱され、その後還元反応によって吸熱される。しかし、装入時の温度である800℃をほぼ維持できており、良好な炉内温度状況を維持していると言える。もちろん、下部の熱保存帯は不要なので、炉長は短くすることができる。
【0121】
一方、図10(b)に示す向流型シャフト炉の場合、焼結ケーキ温度は炉頂では800℃であるものの、下部から上昇する還元ガスの温度が600℃程度まで低下しているため、この還元ガスと吸熱還元反応によって焼結ケーキは冷却され、600℃の熱保存帯が形成される。そして、最後の排鉱部付近において、960℃の投入還元ガスによって加熱還元される。このように、無駄な600℃の保存帯が存在するため、この部分の炉長は短縮することができる。
【0122】
以上の結果に基づき、予備還元炉として用いるシャフト炉の形式は、並流型、向流型のどちらでもよい。しかし、これらの二つの形式のうち、並流型がより効率的であり、好ましい。
【0123】
本発明の方法に適用する予備還元炉の形式は、移動層タイプに限られず、固定層や十字流等の形式でもよく、形式にこだわるものではない。
【0124】
6−3−3.二重円筒型シャフト炉
しかし、前記図2に示すシャフト炉のような、ペンシル円筒型の断面積が小さい形式の炉では、上述のように装入物が構成する充填層の高さが数mに達し、大きな送風圧を必要とする。また、ガスの投入または排出も下部炉壁からとなり、炉下部でのガスが炉中心部に流れにくいという欠点も有する。そこで、炉の断面積を大きくとることのできる、二重円筒型形式の移動層等の適用が最も好ましい態様である。
【0125】
図11は、二重円筒型シャフト炉の模式図である。図11に示すように、二重円筒型シャフト炉35は、炉頂部から焼結ケーキ破砕物13を投入する点は、円筒シャフト炉と同様である。しかし、円筒シャフト炉よりも、炉径が大きく、外壁37の中心部に内壁36の炉壁が存在し、二重円筒型を構成する。この形式の炉は、炉径を大きくすると炉壁からの投入ガスが炉中心部まで到達しにくいという根本的な問題点を解決できるとともに、断面積を大きくとって送風圧を低減することができる。
【0126】
また、還元ガスは、内壁36および外壁37の両方に設けたガス投入口36aおよび37aから還元ガスを投入することができる。ただし、断面積が大きくなると、焼結ケーキ破砕物13を予備還元した予備還元焼結ケーキ31の排出が困難となる。この場合には、炉壁や炉底を回転させて、スクレーパー等により強制的に排出することも可能である。
【0127】
図12は、二重円筒型シャフト炉の水封シール構造を示す断面図である。二重円筒形シャフト炉35の炉壁等を回転させると、大気と還元ガスのシールが必要となる。この場合、送風圧が水柱数百mm程度であるので、図12に示すような水封シール構造38を適用し、大気と還元ガスのシールをすることができる。水封シール構造38は、以下のような構造である。
【0128】
上側は、二重円筒形シャフト炉35の上面全体を覆う環状の蓋38aと、それぞれ環状の内側水槽38bおよび外側水槽38cとを備える。二重円筒形シャフト炉35は、内壁36および外壁37の上端を下方に向けて延長した延長部36bおよび延長部37bを有する。蓋38aの内側の側面は、内側水槽38bの内側の側面と接続されており、内側水槽38bに収容した水に内壁36の延長部36bを浸漬する。蓋38aの外側の側面は、外側水槽38cの外側の側面と接続されており、外側水槽38cに収容した水に外壁37の延長部37bを浸漬する。
【0129】
下側は、二重円筒形シャフト炉35の下面全体を覆う環状の水槽38dからなる。水槽38dは、内周側と外周側に溝部を備える。内周側の溝部に収容した水には内壁36の下端を浸漬し、外周側の溝部に収容した水には外壁37の下端を浸漬する。
【実施例】
【0130】
1.粉状予備還元焼結ケーキのブリケット成形
焼結ケーキの破砕物を還元炉で予備還元して得られた予備還元焼結ケーキを篩分級し、発生した篩下産物である粉状予備還元焼結ケーキを用いたブリケット成形の実施例について説明する。
【0131】
粉状予備完全焼結ケーキとして、CaO成分含有率が7.0%および13.0%の焼結ケーキから製造した、粒度が−5mmのものを用いた。圧縮成型機を用いて、この粉状予備還元焼結ケーキから、径28mm、長さ12mmの円柱形のブリケットを作製し、水浸処理後、放置乾燥して完成した。完成したブリケットを、圧縮試験に供し、圧壊強度を測定した。
【0132】
図13は、ブリケットの金属化率およびCaO含有率の圧壊強度との関係を示す図である。図13から、金属化率が20%以上であれば、CaO含有率が7%のものおよび13%のもの、いずれも高炉において使用可能と考えられる50kgf/塊の強度を有した。この結果から、そのままの状態では高炉では使用できない、篩下産物の粉状予備還元焼結ケーキを、成型処理を施すことによって使用可能とすることができることがわかった。
【0133】
2.予備還元焼結鉱の高炉での使用による改善効果
本発明の方法で製造された予備還元焼結鉱の高炉で使用することによる改善効果について、高炉シミュレーションモデルを適用して検討した。予備還元焼結鉱として、篩上産物である粒度5mmの塊状予備還元焼結鉱と、篩下産物である粒度−5mmの粉状予備還元焼結ケーキから作製したブリケットをモデルとして使用した。シミュレーションに適用した、高炉、予備還元焼結鉱、原料量および還元材の条件を表5に示す。比較例として、予備還元焼結鉱を使用しない場合を「従来法」として示す。また、予備還元前の焼結ケーキおよび予備還元焼結鉱の組成を表6に示す。
【0134】
【表5】
【0135】
【表6】
【0136】
シミュレーションの結果を、条件と併せて表5に示す。表5および表6からわかるように、金属化率40%、CaO含有率9%の予備還元焼結鉱を432kg/p−t使用した場合、432kg/p−t×27.4%≒118kg/p−tより、金属鉄量で約118kg/p−tに相当する高炉還元負荷を低減し、および高炉で消費する塊コークス量を360kg/p−tから301kg/p−tに低減できた。また、銑鉄の生産量を2.10(p−t/D.m3)から2.34(p−t/D.m3)まで増加した。
【0137】
このように、本発明の高炉操業方法は、高炉操業を大きく改善できる方法であり、この方法を適用することにより、優れた銑鉄製造システムを構築することができる。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明の予備還元焼結鉱の製造方法によれば、高炉でのコークスの使用量を低減可能な予備還元焼結鉱を製造することができる。また、コークス炉ガスを製銑工程で自己活用することができる。
【0139】
本発明の高炉操業方法によれば、コークス使用量を低減し、炭酸ガス排出量の少ない、優れた銑鉄製造システムを構築することができる。
【符号の説明】
【0140】
1:焼結機、 1a:点火開始点、 1b:排鉱端、 11:配合原料、
12:焼結ケーキ、 13:焼結ケーキ破砕物、 14:容器、 14a:熱電対、
15:風箱、 16:床敷、 17:温度計、 18:バーナー、 19:原料層、
2:容器、 3:予備還元炉、 3a:ガス投入口、 31:予備還元焼結ケーキ、
31a:塊状予備還元焼結鉱、 31b:粉状予備還元焼結ケーキ、
32:円筒反応管容器、 33:電気加熱炉、 34:焼結ケーキ充填層、
35:二重円筒型シャフト炉、 36:内壁、 36a:ガス投入口、
36b:延長部、37:外壁、 37a:ガス投入口、 37b:延長部、
38:水封シール構造、 38a:蓋、 38b:内側水槽、 38c:外側水槽、
38d:水槽、 4:篩装置、 5:成型機、 51:予備還元ブリケット、
6:高炉、 7:発電機
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄鉱石の焼結鉱の製造工程における、高温の破砕焼結ケーキを高温のガスによって予備還元して作製する予備還元焼結鉱の製造方法に関する。また、この予備還元焼結鉱を用い、還元材比の低減および生産性を向上できる高炉の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
1.高炉法
図1は、高炉法のシステム形態を示す模式図である。銑鉄製造において、消費エネルギー、生産性および生産規模の観点から、我が国では、焼結機、コークス炉および高炉を用いた、いわゆる「高炉法」が広く普及している。図1に示すように、高炉法では、まず、鉄源である粉鉄鉱石と、溶剤である石灰石と、熱源である粉コークスとを混合した配合原料を、グレート炉形式の焼結機によって焼結した焼結ケーキを破砕・整粒して、塊状の焼結鉱を製造する。一方で、コークス炉を用いて、粘結性石炭を1050℃で室炉乾留して塊状のコークスを製造する。そして、鉄源である焼結鉱と、熱源かつ還元材であるコークスとを高炉に装入することによって、還元・溶融反応を経て銑鉄を得ることができる。
【0003】
高炉操業における生産性は、炉内の通気性に大きく支配されるため、通気性を低下させないように粒度や強度がより大きな鉄源や還元材が望まれている。それゆえ、粉鉄鉱石の使用にあたっては、そのまま高炉に装入するのではなく、事前に塊状化すべく、上述のように焼結化処理を施して焼結鉱としてから装入している。
【0004】
一方、石炭の使用にあたっても、低強度の石炭をそのまま高炉に装入するのではなく、事前に高強度化すべく、上述のように乾留溶融処理を施してコークスとしてから、還元剤として装入している。
【0005】
もちろん、これらの鉄源と還元材の処理には、大きなエネルギー消費と、設備とを必要とする。しかし、高炉をも含めた製銑工程全体としては、エネルギー使用量や生産コストは極めて低く最良の銑鉄の製造方法として広く認知されている。
【0006】
高炉法が極めて効率的な理由として、プロセスとしての物流が相互に補完されている点も挙げられる。例えば、コークス製造工程で製造されるコークスケーキは破砕され、塊状のものと粉状のものとが発生する。塊状のものは高炉で使用され、粉状のものは焼結燃料として使用される。また、高炉やコークス炉で発生するダスト類は回収されて、焼結原料および焼結燃料として使用される。
【0007】
2.高炉法の対抗技術
さて、このような高炉法に対抗する銑鉄製造技術として、天然ガスを還元材として、ペレット鉱や塊鉄鉱石をシャフト炉で還元し、得られた還元鉄を高温状態でブリケットHBI(ホットブリケットアイアン)化する方法がある。この方法は、コークスを使用しないことが特徴であり、シャフト炉内での通気性を確保するための空隙の形成を担う原料としてコークス以外の原料を使用しなければならない。そのため、粉鉄鉱石を直接使用することができない。そればかりか、還元過程で強度が低下した鉄鉱石が割れて粉が発生する、還元粉化の状況の管理が重要となり、還元粉化の性状が良好でない焼結鉱を使用することは困難とされている。天然ガスだけで還元するため、極めて大きなエネルギー消費量となることが特徴であることはもちろんである。
【0008】
また、直接的に石炭を還元材とする銑鉄製造方法がある。この方法は、粉鉄鉱石と石炭との混合原料を、ロータリーキルン炉やロータリーハース炉で、加熱、還元し、生成した還元鉄を高温状態でブリケットHBI化する方法である。この方法では、炉内に通気する還元ガスによって鉄鉱石を還元するのではなく、高温加熱炉の内部において、添加する石炭由来の固体カーボンによって還元することを反応原理とする。この方法は、固体カーボンを必ず必要とする方法であり、熱効率が悪いため、エネルギー原単位やコストが高く、また銑鉄を量産する方法としても課題が多い。
【0009】
その他にも、溶解炉中に鉄源を装入し、微粉炭と酸素(空気)を吹き込み、溶融状態にして急速還元して銑鉄を製造するとともに、その際に発生する還元ガスで鉄鉱石を還元し、溶解炉に装入する鉄源を還元鉄とする方法がある。この方法も、粉鉄鉱石と石炭とを直接使用し、コークスを使用しないため、通気性の確保が難しく、エネルギー原単位やコストの面でも高炉法以上の成果は収めていない。
【0010】
3.炭酸ガスの発生抑制
近年、地球温暖化問題により、炭酸ガスの発生抑制が要求されており、とりわけ炭酸ガスの発生量の多い銑鉄製造工程において強く要求されている。従来は、消費エネルギーや製造コストがプロセス採用評価の基軸とされてきたが、新たに炭酸ガス発生量という概念が重要となってきている。
【0011】
一般に、銑鉄製造の鉄源としては、酸化鉄鉄鉱石(主成分Fe2O3)が広く用いられている。鉄鉱石を脱酸素(還元)するための材料(還元材)としては、石炭、天然ガス等が用いられている。還元の反応効率を高めるため、直接的に使用するのではなく、焼結鉱、ペレット鉱、還元鉄等の鉄源の加工や、コークスやコークス炉ガスに乾留分離した還元材の加工や、ガス組成の改質処理によって、効率を高める工夫が、もちろんなされている。
【0012】
還元材を構成している元素は主にCとHである。還元材として、C成分の含有率が低く、H成分の含有率が高いものを使用すれば、炭酸ガスの発生抑制に有利なことは論じるまでもない。この点で、炭酸ガスの発生抑制には、還元材としてH成分の含有率が高い天然ガスやコークス炉ガスが好ましく、石炭や、特に大部分がカーボンからなるコークスの使用は好ましくない。しかし、還元ガスを炉内に流通させる方法にあっては、生産性を確保するため、通気スペーサーであるコークスの使用量を低減するには、この通気性の確保の面で多大なる困難がともなう。
【0013】
また、通気性の確保の面から、鉄源としての装入物には、塊状であり、還元粉化しないことが強く望まれる。
【0014】
以上の考え方に基づき、特許文献1には、コークスを還元材の主体とし、鉄源の一部として高強度の還元鉄HBIを使用して、コークス原単位を低減する技術が開示されている。
【0015】
また、非特許文献1には、天然ガスやコークス炉ガスを高炉に吹き込み、コークス使用量を低減する技術が開示されている。
【0016】
4.還元鉄HBIの問題点
高炉操業の鉄源として還元鉄HBIを使用する方法は、高炉操業における還元材であるコークスの使用量を低減できる技術である。しかし、還元鉄HBIを製造する際に、高炉よりも還元効率が悪く、還元材を多大に消費し、銑鉄製造トータルでの炭酸ガス発生量の抑制にならないという問題がある。これについて、非特許文献2では、高金属化率の還元鉄ではなく、予備還元鉄(部分還元鉄)の高炉での使用が有利であると考察している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平09−013109号公報
【非特許文献】
【0018】
【非特許文献1】西尾浩明、宮下恒雄、鉄と鋼、Vol.59 No.12 P.1506−1522(1973)
【非特許文献2】国友和也、内藤誠章、学振54委−2352(2005.6.23)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかし、非特許文献2は、粉鉄鉱石を天然ガスによって還元した部分還元鉱を用いることを対象とする論文であり、高炉操業に耐えうる強度を有する予備還元ブリケットの製造については触れていない。
【0020】
ペレット鉱や塊鉄鉱石であれば還元粉化は少なく、塊状の予備還元鉱を篩分級により得ることが可能である。しかし、焼結鉱を対象とした場合、還元粉化が激しく、塊状の予備還元鉱を得るには、極めて収率が悪いという問題が想定される。そのため、予備還元鉱の塊成化が大きな課題となっている。
【0021】
ペレット鉱や塊鉄鉱石はCaO含有率が低く、構成鉱物はヘマタイト、マグネタイト、珪酸塩が主体である。一方、焼結鉱はCaO含有率が高く、構成鉱物はカルシウムフェライトが主体である。カルシウムフェライトは、珪酸塩と異なり、被還元性が高いものの還元粉化しやすい性質がある。このため、焼結ケーキはペレット鉱や塊鉄鉱石と比較して還元粉化しやすい。
【0022】
また、COガス還元が発熱反応であるのに対して、H2ガス還元は吸熱反応である。そのため、高炉に天然ガスやコークス炉ガスを改質処理したH2リッチなガスを直接吹き込んだ場合、高炉内温度を低下せしめ、反応不活性化により操業悪化を招くという問題がある。
【0023】
コークス炉ガスは、石炭乾留により生成するものであり、従来の高炉法では製銑工程ではほとんど使用されておらず、輸送され、近傍工場での加熱処理炉や発電炉に利用されている。そのため、コークス炉ガスの使用には大規模設備が必要とされ、問題もある。このことから、コークス炉ガスの製銑工程での自己活用は、高炉法の効率化には避けて通れない根本的な課題といえる。
【0024】
本発明は、この問題に鑑みてなされたものであり、その課題は、現行の焼結機‐コークス炉‐高炉プロセスの存在を前提として、高炉でのコークスの使用量を低減可能な、また、コークス炉ガスが適用可能な予備還元焼結鉱の製造方法を提供することにある。また、この方法で製造された予備還元焼結鉱を高炉で使用し、高炉でのコークス使用量の低減が可能な高炉の操業方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0025】
本発明者らは、上記の課題を解決するために検討し、後述の実験を行い、以下の(a)〜(c)を満たすことにより、上述の予備還元焼結鉱を製造できるとの知見を得た。
【0026】
(a)焼結ケーキの破砕物は、420〜970℃で還元炉に装入する。
(b)還元炉に吹き込む還元ガスは、H2ガス濃度が50体積%以上かつ温度が700℃以上とする。
(c)焼結ケーキを還元して得られた予備還元焼結ケーキは、金属化率が25〜60mass%であり、かつ粒径が5〜50mmの粒子が50mass%以上を占める構成とする。
【0027】
本発明は、以上の知見に基づいて完成されたものであり、下記(1)〜(9)の予備還元焼結鉱の製造方法および高炉操業方法を要旨としている。
【0028】
(1)焼結ケーキの破砕物を還元炉の上部より装入して、該焼結ケーキの破砕物を予備還元した予備還元焼結ケーキを前記還元炉の下部から排出し、該予備還元焼結ケーキから粒径5mm以上の予備還元焼結鉱を得る方法であって、前記焼結ケーキの破砕物を420〜970℃の温度範囲の状態で、前記還元炉に装入し、前記還元炉に還元ガスとして濃度が50体積%で温度が700℃以上のH2ガスを吹き込み、該予備還元焼結ケーキが、金属化率が25〜60mass%であり、かつ粒径5〜50mmの粒子が50mass%以上で構成されることを特徴とする、予備還元焼結鉱の製造方法。
【0029】
(2)ドワイトロイド型の焼結設備を使用し、前記焼結設備の焼結ケーキ排出部の近傍のストランドの上部にバーナーを配置し、前記バーナーから燃焼ガスを吹き込むことにより、焼結ケーキを加熱することを特徴とする、前記(1)に記載の予備還元焼結鉱の製造方法。
【0030】
(3)前記バーナーの燃料として、コークス炉ガス、天然ガス、または前記還元炉の排出ガスを使用することを特徴とする前記(2)に記載の予備還元焼結鉱の製造方法。
【0031】
(4)前記還元炉に吹き込む還元ガスとして、H2とCOの体積比(H2/CO)が2.0以上となるように、天然ガスまたはコークス炉ガスを改質することを特徴とする前記(1)〜(3)に記載の予備還元焼結鉱の製造方法。
【0032】
(5)前記還元炉の上部および下部にガス出入口を設け、前記還元炉に吹き込む還元ガスを前記還元炉の上部から下部に流動させることを特徴とする前記(1)〜(4)に記載の予備還元焼結鉱の製造方法。
【0033】
(6)前記還元炉が、水平回転式の二重円筒型であり、水封シールを有することを特徴とする前記(1)〜(5)に記載の予備還元焼結鉱の製造方法。
【0034】
(7)前記焼結ケーキのCaO含有率が7.0〜13.0mass%であることを特徴とする前記(1)〜(6)に記載の予備還元焼結鉱の製造方法。
【0035】
(8)前記予備還元焼結ケーキを、篩分級し、篩下産物を成型機によってブリケット型の予備還元焼結鉱とすることを特徴とする前記(1)〜(7)に記載の予備還元焼結鉱の製造方法。
【0036】
(9)前記(1)〜(8)に記載の予備還元焼結鉱の製造方法によって製造された予備還元焼結鉱を、高炉原料の一部として使用する高炉操業方法。
【0037】
本発明および本明細書において、「焼結ケーキ」とは、焼結機上で作製された焼結物の大塊であって、篩処理を施されていないものをいう。「焼結鉱」とは、高炉の装入物をいい、高炉に装入する前の篩処理によって、高炉に装入できる処理が施された焼結ケーキおよびその破砕物をいう。焼結ケーキと焼結鉱とでは、化学成分として概ね差はない。また、「予備還元焼結ケーキ」とは、予備還元炉において予備還元した状態の焼結ケーキであって、篩処理を施されていないものをいい、「予備還元焼結鉱」とは、高炉に装入できる処理が施された予備還元焼結ケーキをいう。
【0038】
本発明において、「焼結ケーキの金属化率」とは、焼結ケーキに含まれる金属鉄のmass%(金属Fe%)を全鉄分のmass%(T.Fe%)で除した値(金属Fe%/T.Fe%)をいう。
【0039】
以下の記述において、焼結鉱等の成分組成を表す「mass%」を、単に「%」とも表記する。
【発明の効果】
【0040】
本発明の予備還元焼結鉱の製造方法によれば、高炉でのコークスの使用量を低減可能な予備還元焼結鉱を製造することができる。また、コークス炉ガスを製銑工程で自己活用することができる。
【0041】
本発明の高炉操業方法によれば、コークス使用量を低減し、炭酸ガスの発生を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】高炉法のシステム形態を示す模式図である。
【図2】本発明の予備還元焼結鉱の製造方法および高炉操業方法の適用可能な高炉法システムの構成図である。
【図3】焼結鍋試験装置の模式図である。
【図4】原料層全体の温度分布の時間変化を示す図であり、同図(a)は第一の焼結方法を適用した場合、同図(b)は第二の焼結方法を適用した場合を示す。
【図5】焼結終了時における、測定された原料層の高さ方向の温度分布の近似曲線処理結果である。
【図6】排ガス温度の時間変化を示す図である。
【図7】還元試験装置の模式図である。
【図8】還元試験での質量変化から算出した焼結ケーキの金属化率の変化を示す図である。
【図9】30分間還元を行った後取り出した焼結ケーキの粒度分布である。
【図10】予備還元炉の高さ方向における焼結ケーキの温度および金属化率のシミュレーション結果であり、同図(a)は並流型の結果、同図(b)は向流型の結果である。
【図11】二重円筒型シャフト炉の模式図である。
【図12】二重円筒型シャフト炉の水封シール構造を示す断面図である。
【図13】ブリケットの金属化率およびCaO含有率の圧壊強度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
1.概要
本発明の方法は、従来のように、製造した焼結ケーキの全量を製造したままの状態で高炉に装入するのではなく、焼結ケーキの破砕物の一部を高炉とは別の予備還元機能を有する炉で処理を行って、予備還元焼結鉱を製造し、これを高炉原料の一部として使用して、還元材であるコークスの使用量を低減せしめることを最終目的とするものである。以下に、本発明の予備還元焼結鉱の製造方法について詳述する。
【0044】
2.高炉法のシステムの構成
図2は、本発明の予備還元焼結鉱の製造方法および高炉操業方法の適用可能な高炉法システムの構成図である。図2に示す高炉法システムは、ドワイトロイド(DL)型の焼結機1、破砕物容器2、予備還元炉3、篩装置4、成型機5および高炉6を備える。
【0045】
焼結機1では、配合原料11が焼結され、焼結ケーキ12が生成されるとともに、破砕され、焼結ケーキ破砕物13が製造される。破砕物容器2は、焼結機1で製造された焼結ケーキ破砕物13を受ける容器であり、予備還元炉3の炉頂まで焼結ケーキ破砕物13を搬送するコンテナーを兼ねる。予備還元炉3では、焼結ケーキ破砕物13を予備還元し、予備還元焼結ケーキ31を生成する。
【0046】
篩装置4では、予備還元炉3から排出された予備還元焼結ケーキ31を篩上産物である塊状予備還元焼結鉱31aと、篩下産物である粉状予備還元焼結ケーキ31bに分級する。成型機5では、篩下産物である粉状予備還元焼結ケーキ31bを塊成化し、ブリケット型の予備還元焼結鉱(以下、「予備還元ブリケット」ともいう。)51を成形する。高炉6には、篩装置4の篩上産物である塊状予備還元焼結鉱31aと、成型機5で成形された予備還元ブリケット51が送り込まれる。
【0047】
3.焼結ケーキ破砕物
まず、予備還元の対象となる、焼結ケーキ破砕物について説明する。焼結ケーキ破砕物は、従来製造している焼結ケーキから製造する方法と同一の方法で製造するものでもよい。ただし、予備還元炉に装入する際に、温度が420〜970℃である必要がある。
【0048】
3−1.焼結ケーキ破砕物の加熱方法
3−1−1.使用ガス
焼結ケーキ破砕物をこの温度範囲とするには、焼結原料(配合原料)における燃料の比率を大きくする等の、熱的に有利となる工夫を行う必要がある。しかし、単に原料だけの工夫では、焼結ケーキが高温になりにくいため、積極的に焼結ベッドにバーナーから高温燃焼ガスを吹き込む方法が加熱方法として効果的である。この場合、バーナーで用いるガス燃料としては、H2/CO比(H2とCOの体積比の値)が高い天然ガスやコークス炉ガス等のガスを使用することが、炭酸ガス発生量の低減には必要となる。ガス燃料として、予備還元炉から排出される還元ガスを使用することも、もちろん可能である。
【0049】
3−1−2.ガスの吹き込み位置
高温燃焼ガスの焼結層での吹き込み位置は、前記図2に示す焼結機1の焼結ストランドの上部において、FFP(Flame Front Point;燃焼前線到達点)から排鉱端までの間とすることが好ましい。この位置での高温燃焼ガスの吹き込みにより、FFP地点では、ほぼ常温近くまで冷却されていた焼結ケーキの表層部は、再度約1200℃まで加熱される。FFPは、排ガスの温度が急上昇する地点であり、前記図2に示す焼結機1において、全ストランドの長さを100%として、点火開始点1aを0%位置、排鉱端1bを100%位置とすれば、75%付近に位置する。
【0050】
焼結層(焼結ケーキ)内の原料中の、燃料が存在し燃焼している部分での、高温燃焼ガスの吹き込みは、焼結層吸引空気中の酸素濃度を低下せしめることになるため、避けなければならない。
【0051】
3−2.焼結ケーキの破砕
焼結機1の排鉱端1bまで搬送された高温の焼結ケーキ12は、排鉱端1bでパレットが傾転することによって、焼結ケーキ排出部から排出され、鬼歯型のクラッシャーによって破砕され、焼結ケーキ破砕物13が製造される。そして、焼結ケーキ破砕物13は、破砕物容器2によって運搬され、420〜970℃の状態で予備還元炉3の炉頂に装入される。
【0052】
4.予備還元
4−1.本発明における予備還元の方法および効果
予備還元炉3は、炉頂部から装入された装入物が、重力によって荷下がり移動し、炉下部から排出される構造を持つ。予備還元炉3は、焼結冷却機(不図示)のように焼結ケーキ排出部の下に位置してもよいし、別途、焼結機1から離れたところに設置してもよい。焼結機1から離れたところに設置する場合、耐火物容器コンテナーを使用して焼結ケーキ破砕物13を搬送すればよい。
【0053】
予備還元炉3には、420〜970℃の焼結ケーキ破砕物13が炉頂部から装入され、還元材(還元ガス)として濃度が50体積%以上かつ温度が700℃以上のH2ガスが側面に設けられたガス投入口3aから吹き込まれる。予備還元炉3では、還元材として、塊コークスやCOリッチなガスを使用することはなく、後述するH2濃度が50体積%以上の還元ガスが用いられる。このため、予備還元を行うとH2Oガスが多量に発生するものの、COガスや炭酸ガスの発生量は少なく、製銑工程全体として炭酸ガス発生量を抑制することができる。
【0054】
H2ガスは、COガスに比べて圧倒的に分子径が小さく、固体の微細な気孔まで容易に浸透できる。そのため、短時間で酸化鉄の還元を進行させることができるという特性を有する。したがって、等モル量の還元ガスを使用した場合で比較すると、H2ガスはCOリッチなガスよりも、目標還元率を達成するための炉内滞留時間が短くてよく、予備還元炉の容積は小さくても十分に機能を発揮できる。
【0055】
ただし、これはあくまでも同一温度条件においてである。H2ガスによる酸化鉄の還元は吸熱反応であるため、H2ガスを還元ガスとして使用した場合は炉内の装入物の温度が低下する。これに対して、COガスによる酸化鉄の還元は発熱反応であるため、COガスを還元ガスとして使用した場合は炉内の装入物の温度は上昇する傾向となる。それゆえ、実際にはH2ガスによる還元はCOガスによる還元よりも反応が遅くなる。
【0056】
そこで、本発明では、予備還元炉に420〜970℃の高温の焼結ケーキ破砕物を装入し、H2ガスによる還元によって装入物の温度が低下しても反応温度が担保されるようにしている。この点で、常温の焼結鉱を炉内に装入する従来の高炉法と大きく異なる。
【0057】
4−2.焼結ケーキ破砕物の温度範囲
予備還元炉に装入する焼結ケーキ破砕物の温度は、できる限り装置の設置空間を低減すべく予備還元炉の容積を低減させるため、また、還元速度の向上を図るため、できるだけ高くする必要がある。
【0058】
本発明において、予備還元炉に装入する焼結ケーキ破砕物の下限温度を420℃としたのは、420℃未満であると還元反応が遅くなり過ぎて効果を発揮しないからである。また、焼結ケーキ破砕物はカルシウムフェライト鉱物を含有するため、還元粉化が激しくなるからである。一方、上限温度を970℃としたのは、970℃を超える温度では装入物同士が固着する傾向が顕著となり、予備還元炉内での荷下がり性が悪化するためである。
【0059】
4−3.還元ガスの条件
4−3−1.組成
本発明では、還元ガスの組成の条件を、H2濃度を50体積%以上とした。そのため、予備還元炉では吸熱反応が発熱反応よりもリッチな条件となる。この条件において、上述の420〜970℃の焼結ケーキ破砕物を装入することにより還元反応速度が担保される。この点で、従来の還元炉と大きく異なる。
【0060】
還元ガスはH2濃度が50体積%以上であればよい。このようなH2リッチなガスは、例えばCH4を含有するコークス炉ガスや天然ガスを、水蒸気、燃焼排ガス、空気、酸素等によって改質することによって得ることが可能である。還元ガスに、CO、CO2、CH4、N2またはH2Oが混入しても、還元効率が悪化するだけで本発明の効果に何ら支障をもたらさない。コークス炉ガスを用いることにより、コークス炉ガスを製銑工程で自己活用することができ、高炉法の効率化を図ることができる。
【0061】
ガス組成は、H2とCOの体積比(H2/CO)が2.0以上が好ましい。H2/COが2.0以上のH2リッチなガスとすることにより、H2/COが2.0未満の場合と比較して還元速度を大幅に高め、予備還元炉の容積をさらに低減することができる。
【0062】
4−3−2.温度
予備還元炉に吹き込む還元ガスの温度は、700℃以上とする。700℃以上でないと、酸化鉄のH2ガス還元によって吸熱反応が進行し、炉温が低下して還元効率が悪化する。
【0063】
4−3−3.予備還元炉における還元ガスの出入口
上述のように、予備還元炉は、装入物が、炉頂部から装入され、重力によって荷下がり移動し、炉下部から排出される構造を持つ。そのため、本発明に適用する予備還元炉は、還元ガスを炉頂に投入して炉下部側壁や炉底部から排出させる並流型としてもよいし、逆に炉下部側壁や炉底部から還元ガスを吹き込んで炉頂部から排出させる向流型としてもよい。前記図2には、予備還元炉3として、炉下部側壁にガス投入口3aを有する向流型のものを示した。
【0064】
酸化鉄を還元できるものであれば、還元ガスの流動方向は何ら規定しない。しかし、向流型と比べて並流型の方が、装入物の温度がより高く確保されるため効果的である。
【0065】
4−3−4.予備還元炉の形式
予備還元炉の形式としては、炉底部から装入物を排出するシャフト炉型が適用できる。この他に、炉底板が存在し、この炉底板が炉壁とともに水平回転し、炉下部側壁から装入物をスクレーパー等でかきだす方式も適用できる。このように、予備還元炉については、何ら形式を規定しない。
【0066】
炉壁や炉床が水平回転する型式のものでは、回転移動する部分は吹き込む還元ガスをシールする必要があるため、水封方式が採用される。このような水平回転式であって、二重円筒炉壁を有する予備還元炉は、細長いシャフト炉と比較して、層高が低くかつ断面積の大きな移動層を形成するのに有効である。また、還元ガスの吹き込み口も二重円筒炉壁の両側面を利用することができるため、予備還元された装入物を安定して排出できる利点がある。二重円筒炉壁を有する予備還元炉については、後述する。
【0067】
4−4.予備還元の効果
従来、高炉をはじめとするシャフト炉では、炉下部から投入された高温の還元ガスは、炉上部方向へ移動するに従って、装入物と熱交換されて温度が低下し、炉頂では200℃の低温で排出される。これが、炉頂から装入した常温の原料が炉下部方向へ荷下がり移動し、それに対向して還元ガスが流動する向流型の熱効率が良好である理由である。
【0068】
このような向流型の場合、シャフト炉高さ方向で、高温から低温への温度変化が必ず存在する。このような温度変化で問題となるのが焼結鉱である。従来から、焼結鉱は420〜600℃付近でFe2O3からFe3O4に還元される時に膨張して、激しく粉化することが知られている。この還元粉化が大きな問題であるため、シャフト炉では焼結鉱は使用できない。
【0069】
一方、本発明の方法では、予備還元炉に、420〜970℃の高温の焼結ケーキ破砕物を装入するとともに、投入還元ガス温度が700℃以上であるため、シャフト炉内において、焼結ケーキの還元粉化が問題となる420〜600℃の区間が短くなり、さらに、装入する焼結ケーキ破砕物が600℃以上である場合には、この還元粉化減少は発生しない。そのため、鉄鉱石の焼結物である焼結ケーキ破砕物であっても使用することができる。
【0070】
本発明の方法によって、焼結ケーキ破砕物を予備還元して得られた予備還元焼結ケーキは、装入した焼結ケーキ破砕物より幾分かは粒度が低下するものの、焼結鉱が粉化するという従来のシャフト炉での問題は生じない。
【0071】
さらに、予備還元炉から排出された予備還元焼結ケーキは、排出直後には高温状態にあるので、前記図2に示すようにN2ガス等で熱交換を行わせしめ、回収した熱エネルギーを発電機7での発電等に活用することもできる。
【0072】
5.篩装置での分級
5−1.篩上産物の利用方法
常温に冷却された予備還元焼結ケーキは、前記図2に示すように、篩装置4によって粒径5mm程度を境界として分級される。篩上産物である塊状予備還元焼結鉱31aは、粒径が5mm以上であり、高炉の通気性を確保できるため、そのまま高炉原料(予備還元焼結鉱)として使用される。
【0073】
5−2.篩下産物の利用方法
一方、篩下産物である粉状予備還元焼結ケーキ31bは、従来のように焼結返鉱粉として焼結原料中に配合して再利用してもよい。しかし、折角予備還元した鉱粉を酸化処理する焼結プロセスに戻すのは、生産効率および炭酸ガス発生量の抑制の面から好ましくない。粉状予備還元焼結ケーキ31bは高炉で使用できるようにするため、成型機5によってブリケット化して、予備還元ブリケット51とすることが好ましい。予備還元ブリケット51は、粒径5mm以上とすることにより、高炉原料(予備還元焼結鉱)として使用することができる。
【0074】
従来技術では、焼結返鉱を圧縮成型してブリケット化することは困難とされてきた。しかし、粉状予備還元焼結ケーキ31bは、25〜60%の金属鉄を含有するとともに、粒度が小さく容易に還元されるため、予備還元焼結ケーキ全体の平均よりも高い金属鉄の含有率であることから、高炉での使用に耐えうる十分に高強度の予備還元ブリケット51を製造することができる。
【0075】
高強度の予備還元ブリケットの製造方法として、本出願人が出願した特願2009−214259号に記載のブリケット養生技術を適用することが好ましい。この場合、予備還元ブリケットは、焼結鉱組成として、CaO含有率が7%以上13%以下であることが好ましい。CaO含有率が7%以上であることが好ましい理由は、部分還元鉄を含有する還元鉄ブリケットの強度向上方法として含水養生した場合に、CaO成分が存在すると水和固化が発達し、より強固の結合となるためであり、焼結鉱のようなCaO含有率の高い原料では効果的である。また、CaO含有率が13%以下であることが好ましい理由は、CaO含有率が13%よりも高いとFe品位が低すぎて高炉に使用する鉄源として好適ではないからである。
【0076】
もちろん、この他にも従来から実施されている還元炉から排出される高温の固体還元鉄から、熱間成型機を使用してHBI鉱を製造してもよい。しかし、熱間成形処理は、冷間成形処理と比較して、成型機の設備規模が大きいこと、成型機のロール寿命が短いこと、トラブルが大きいこと等、問題が多い。そのため、冷間成形処理が好ましい。
【0077】
5−3.篩装置での分級およびブリケット化の効果
このようにして製造された、篩上産物である塊状予備還元焼結鉱と、予備還元ブリケットを高炉原料の一部として使用することによって、高炉操業における還元負荷を低減するとともに、高炉内での還元粉化の発生を抑制することができるためコークス比を低減することができる。
【0078】
また、篩下産物であり、金属化率の高い粉状予備還元焼結ケーキを予備還元ブリケットとして高炉で使用することによって、粉状のままで焼結プロセスに戻す場合と比較して、製銑プロセス全体としての炭酸ガス発生量を抑制することができる。
【0079】
5−4.予備還元焼結ケーキの金属化率の規定理由
本発明において、予備還元焼結ケーキの金属化率を25〜60%と規定した理由について説明する。篩上産物である塊状予備還元焼結鉱および予備還元ブリケットの金属化率が25%未満であると、金属化率が低すぎて高炉での還元負荷の低減効果が小さく、本発明の方法を適用するだけの価値がないためである。一方、予備還元焼結ケーキの金属化率が60%よりも高いと、予備還元炉で必要となる還元ガス量が多くなりすぎて、製銑工程でのトータル消費エネルギーが大きく増加する問題が生じる。
【0080】
本発明の方法は、上述のH2系ガスを使用した予備還元炉と高炉との還元負荷バランスの適正化によって、炭酸ガス発生量を抑制する方法である。この点から、予備還元焼結ケーキの金属化率は25〜60%であることが必要である。
【0081】
5−5.予備還元焼結ケーキの粒径の規定理由
予備還元焼結ケーキの粒径について説明する。強度が高すぎる予備還元焼結ケーキや、固着状の粒径50mm以上の粗粒の含有率の高い予備還元焼結ケーキでは、予備還元炉における荷下がりや排出切り出しとして問題が多い。逆に、強度が低すぎるため、または予備還元炉温が低かったため予備還元焼結ケーキの、予備還元炉内での還元粉化が著しい状況や、粒径5mm以下の細粒が予備還元焼結ケーキの主体である状況では、予備還元炉における通気性が悪くなり、炉内ガス流や荷下がり等が偏り、予備還元炉操業に支障が生じる。
【0082】
以上の観点から、本発明の方法では、予備還元焼結ケーキは、粒径5〜50mmの粒子が50mass%以上を占める構成とする。このような粒度の予備還元焼結ケーキは、焼結機における焼結ケーキの強度制御や、予備還元炉の操業の操作によって得ることができる。
【0083】
5−6.本発明の方法で製造された予備還元焼結鉱の効果
本発明の方法で製造された予備還元焼結鉱は、通常の焼結鉱とは異なり、予備還元されている。そのため、Fe2O3を含有しておらず、高炉で使用するに際し、還元粉化による通気性悪化を引き起こさず、通気性が改善できるという利点を有する。この利点により、コークス比の低減にともなう通気性の悪化を相殺することができ、良好な高炉操業を維持できる。
【0084】
また、本発明の方法で製造された予備還元焼結鉱を高炉原料の一部として使用して高炉を操業することにより、高炉におけるコークスの還元材作用と通気スペース作用とを担保し、大幅なコークス比の低減を達成し、炭酸ガス発生抑制を推進できる、優れた高炉法システムを構築することができる。
【0085】
6.本発明を完成させるために行った要素検討結果
本発明を完成させるため、以下の通り、焼結工程と予備還元工程について要素検討を行った。
【0086】
6−1.焼結工程の検討
図3は、焼結鍋試験装置の模式図である。本発明の方法では、420〜970℃の焼結ケーキ破砕物を製造する必要がある。一般に、焼結ケーキは、前記図2に示すようにDL型焼結機によって多量に連続的に生産される。今回行った要素検討のための実験では、焼結シミュレーターとして広く用いられている、図3に示す焼結鍋試験装置を用いて、高温の焼結ケーキの製造を実証した。焼結鍋試験装置は、直径300mm、高さ500mmの円筒形の容器14と、容器14の下部に設けられた風箱15からなる。容器14と風箱15との境界には網状のグレートと床敷鉱層16が設けられている。
【0087】
6−1−1.実験方法
本実験では、原料として、鉄鉱石、石灰石、燃料であるコークス、および水分を表1に示す2種類の配合比率(焼結ケーキAおよび焼結ケーキB)で配合した配合原料を使用した。
【0088】
【表1】
【0089】
まず、焼結ケーキAの配合原料を使用した実験について説明する。この配合原料を、直径600mmの回転ドラムミキサーで4分間混合して、造粒原料を製造した。この造粒原料を、図3に示す焼結鍋試験装置の円筒形の容器14に装入する。この状態で、風箱15を通して送風機(不図示)によって、1〜3Nm3/minの吸引量で排ガスが吸引される。風箱15の内部には温度計17が設置されており、排ガスの温度を測定することができる。本実験において、温度計17で測定した排ガスの温度が60℃付近で安定している状況から、急速に400℃まで温度上昇を開始する時点をFFPと呼ぶ。
【0090】
焼結鍋試験装置の上方には、LPG焚きのバーナー18が配置されており、バーナー18で燃焼された高温ガスが造粒原料からなる原料層19の表面に吹き付けられる。このような高温ガスの吹き付けを、焼結プロセスでは表面点火と呼ぶ。表面点火により、焼結反応が開始する。以下、焼結反応の進行にともなって焼結ケーキに変化した原料層も含めて「原料層」という。
【0091】
本実験では、通常の製造方法(以下「第一の焼結方法」という。)と、焼結ケーキの温度を上昇させるための製造方法(以下「第二の焼結方法」という。)で、焼結ケーキを製造した。
【0092】
第一の焼結方法では、表面点火の点火時間を1.0分間として、焼結ケーキを製造した。すなわち、点火開始から1.0分を経過した時点でバーナー18を消火し、その後は常温の空気が原料層19を通過するように、風箱15を通して送風機によって吸引した。そして、風箱15内の排ガスの温度が最高温度を示す、点火開始から28分経過時点まで送風し、送風を停止した後、生成した焼結ケーキを容器14から排出した。
【0093】
一方、第二の焼結方法では、焼結ケーキの温度上昇を図るため、第一の焼結方法の表面点火条件に加えて、送風を停止する直前の、点火開始から25分から28分までの3分間、バーナー18で燃焼されたガスを原料層19の表面に吹きつけ、最終加熱処理した。
【0094】
容器14には、原料層19の表面から、80mm、240mmおよび400mm位置に熱電対14aを配置した。これらの熱電対14aによって原料層19内部の温度を測定し、焼結過程における温度変化を記録した。
【0095】
6−1−2.実験結果
図4は、原料層全体の温度分布の時間変化を示す図であり、同図(a)は第一の焼結方法を適用した場合、同図(b)は第二の焼結方法を適用した場合を示す。
【0096】
熱電対14aを用いて記録した原料層19内の温度に基づいて、原料層19全体の温度分布を数学的に補間推定した。その結果を図4に模式的に示す。最終加熱処理によって、原料層19上部の温度が上昇したことがわかる。
【0097】
図5は、焼結終了時(点火開始から28分後)における、測定された原料層(焼結ケーキ)の高さ方向の温度分布の近似曲線処理結果である。また、表2には、本実験の焼結終了時における原料層19の平均温度を示す。
【0098】
【表2】
【0099】
焼結終了時の原料層19すなわち焼結ケーキの平均温度は、第一の焼結方法では421℃、第二の焼結方法では822℃であり、バーナー18による最終加熱処理によって、400℃上昇させることができた。
【0100】
図6は、排ガス温度の時間変化を示す図である。図6から、第一の焼結方法、第二の焼結方法のいずれにおいても排ガス温度の急速な上昇が点火開始から23分で生じた。すなわちFFPは点火開始から23分であった。
【0101】
このように、焼結過程の終了直前に、最終加熱処理として、燃焼ガス焚きバーナーを用いて焼結ケーキの表面に高温ガスを供給すると、吸引作用によって焼結ケーキの温度は容易に上昇させることができ、また温度を目標値に制御できることがわかった。
【0102】
本実験結果を、前記図2に示す実際の焼結機の場合に置き換えると、点火開始から燃焼完了までの時間が28分であることから、全ストランドの長さを100%とすると、焼結パレットの水平移動速度は100%/28分、すなわち3.6%/分である。そして、点火開始点を0%位置、排鉱端を100%位置とすれば、点火開始から25分から28分までの3分間の追加燃焼は、焼結機のストランドの上部の焼結ケーキ排出部近傍である89〜100%の位置で行うこととなる。最終加熱処理に用いるバーナーは、この範囲をカバーするようにストランドの上部に配置すればよい。また、点火開始から23分であったFFPは、23分÷28分≒0.82より、82%位置に相当する。
【0103】
6−1−3.焼結ケーキBの場合
配合原料として前記表1の焼結ケーキBの配合原料を用いて、同様の焼結鍋試験装置を用いた実験を実施した。この場合、点火時間を焼結ケーキAの1分間から2分間に延長して点火を強化するとともに、燃料である粉コークスの配合比率を4.5%から5.5%に増加し、水分量を7.0%から6.6%に低下させて、焼結ケーキAの場合よりも投入熱量を増加させた。
【0104】
本実験の点火開始から28分の時点における平均焼結ケーキ温度の結果を、焼結ケーキAの結果と併せて、表2に示した。焼結ケーキBの場合には、投入熱量を増加させたため第一の焼結方法では573℃、第二の焼結方法では最終加熱処理によって971℃まで上昇させることができた。
【0105】
6−2.予備還元工程の検討
次に、予備還元工程について検討するため、上述の焼結シミュレーションで得られた、燃焼ケーキを用いて還元実験を行った。
【0106】
6−2−1.実験方法
図7は、還元試験装置の模式図である。図7に示すように、還元試験装置は、円筒反応管容器32と、これを囲繞する電気加熱炉33を備える。円筒反応管容器32は、予備還元炉に見立てたものであり、直径74mmとした。還元ガスとして、組成(体積比)がH2:CO:CO2=76:21:3のガスを用い、流量を9.4NL/minとした。試料として、上述の焼結シミュレーションにおいて第二の焼結方法によって焼結ケーキAの配合原料から得られた焼結ケーキを500g用いた。
【0107】
この焼結ケーキを常温の状態で円筒反応管容器32に装入し、焼結ケーキ充填層34を形成した。円筒反応管容器32内の焼結ケーキは、温度が900℃となるように電気加熱炉33によって加熱制御した。同様に、円筒反応管容器32に導入される還元ガスも900℃に加熱した。還元ガスは、円筒反応管容器32の下部から投入され、焼結ケーキ充填層34中を下部から上部に通過し、円筒反応管容器32の上部から排出される。
【0108】
6−2−2.実験結果
図8は、還元試験での質量変化から算出した焼結ケーキの金属化率の変化を示す図である。図8に示すように、金属化率は還元開始から20分経過した時点で25%に達し、30分経過した時点で60%に達した。このように、還元反応を最初から高温で行えば、30分程度の極めて短い時間で焼結ケーキを金属化率60%程度まで予備還元することが可能である。
【0109】
図9は、30分間還元を行った後取り出した焼結ケーキの粒度分布である。焼結ケーキは高温で還元されるため、還元後であっても還元粉化現象はほとんど認められず、還元後の焼結ケーキの粒度構成は、高炉において良好とされる5〜50mmのものが50%以上であることがわかる。図9には、同様の実験を、第一の焼結方法によって焼結ケーキAから得られた焼結ケーキを用いて実施した結果も示す。
【0110】
同様の実験を、第二の焼結方法によって焼結ケーキBから得られた焼結ケーキを用いて実施した。その結果、金属化率は、還元時間が18分で25%、27分で60%であり、粒度構成は5〜50mmのものが61%であった。
【0111】
6−2−3.好ましいガス組成
さらに、同様の実験を、表3に示す組成1〜10のガスを用いて、還元時間を25分として行った。その条件および結果を表3に示す。
【0112】
【表3】
【0113】
表3にはガス組成と併せて25分間の還元後の金属化率を示した。表3からわかるように、H2濃度が100体積%の場合(組成1)を除き、H2濃度およびH2/CO濃度比の上昇にともなって、金属化率が上昇する傾向がある。還元炉の滞留時間が25分であると仮定すると、H2濃度が50体積%以上であれば、金属化率は25%以上であった(組成1〜9)。また、H2/CO濃度比が2.0以上の高いケース(組成2、3、4、5および8)において、35%以上の高い金属化率を示した。すなわち、これらの条件のガス組成は、予備還元に関する生産効率が高く、好ましい。
【0114】
6−3.予備還元炉についての検討
6−3−1.シミュレーション条件
さらに、予備還元炉の方式や、予備還元炉内の状況を明確にするために、数学モデルシミュレーションを用いて検討した。表4に、シミュレーションに適用したシャフト炉タイプの予備還元炉の仕様および操業条件を示す。
【0115】
【表4】
【0116】
6−3−2.シミュレーション結果
図10は、予備還元炉の高さ方向における焼結ケーキの温度および金属化率のシミュレーション結果であり、同図(a)は並流型の結果、同図(b)は向流型の結果である。同図では、予備還元炉の上半分である還元部分のみを示す。
【0117】
焼結ケーキは、シャフト炉である予備還元炉の炉頂部から装入され、重力によって装入物が降下し、荷下がり移動する移動層を形成する。上述のように、並流型とは、還元ガスの流動方向が焼結ケーキの移動方向と同一となる形式、すなわちガスが炉頂部から投入され、下部から排出される形式である。向流型とは、還元ガスの流動方向が焼結ケーキの移動方向と逆になる形式、すなわちガスが下部から投入され、炉頂部から排出される形式である。
【0118】
図10(a)および(b)に示すように、並流型、向流型のいずれのケースも、炉の長さが8mあれば、目標値である金属化率60%を十分に達成できる。
【0119】
さらに、このシミュレーション結果を検討すると、並流型シャフト炉では、長さ2.0m程度で十分金属化率60%を達成できる。向流型シャフト炉では、炉頂部と下方の排鉱部は必要であるものの、中間部の5m程度は無駄であるため、長さ3.0m程度で十分と考えられる。
【0120】
また、図10(a)に示す並流型シャフト炉の場合、焼結ケーキは炉頂では960℃のガスによって加熱され、その後還元反応によって吸熱される。しかし、装入時の温度である800℃をほぼ維持できており、良好な炉内温度状況を維持していると言える。もちろん、下部の熱保存帯は不要なので、炉長は短くすることができる。
【0121】
一方、図10(b)に示す向流型シャフト炉の場合、焼結ケーキ温度は炉頂では800℃であるものの、下部から上昇する還元ガスの温度が600℃程度まで低下しているため、この還元ガスと吸熱還元反応によって焼結ケーキは冷却され、600℃の熱保存帯が形成される。そして、最後の排鉱部付近において、960℃の投入還元ガスによって加熱還元される。このように、無駄な600℃の保存帯が存在するため、この部分の炉長は短縮することができる。
【0122】
以上の結果に基づき、予備還元炉として用いるシャフト炉の形式は、並流型、向流型のどちらでもよい。しかし、これらの二つの形式のうち、並流型がより効率的であり、好ましい。
【0123】
本発明の方法に適用する予備還元炉の形式は、移動層タイプに限られず、固定層や十字流等の形式でもよく、形式にこだわるものではない。
【0124】
6−3−3.二重円筒型シャフト炉
しかし、前記図2に示すシャフト炉のような、ペンシル円筒型の断面積が小さい形式の炉では、上述のように装入物が構成する充填層の高さが数mに達し、大きな送風圧を必要とする。また、ガスの投入または排出も下部炉壁からとなり、炉下部でのガスが炉中心部に流れにくいという欠点も有する。そこで、炉の断面積を大きくとることのできる、二重円筒型形式の移動層等の適用が最も好ましい態様である。
【0125】
図11は、二重円筒型シャフト炉の模式図である。図11に示すように、二重円筒型シャフト炉35は、炉頂部から焼結ケーキ破砕物13を投入する点は、円筒シャフト炉と同様である。しかし、円筒シャフト炉よりも、炉径が大きく、外壁37の中心部に内壁36の炉壁が存在し、二重円筒型を構成する。この形式の炉は、炉径を大きくすると炉壁からの投入ガスが炉中心部まで到達しにくいという根本的な問題点を解決できるとともに、断面積を大きくとって送風圧を低減することができる。
【0126】
また、還元ガスは、内壁36および外壁37の両方に設けたガス投入口36aおよび37aから還元ガスを投入することができる。ただし、断面積が大きくなると、焼結ケーキ破砕物13を予備還元した予備還元焼結ケーキ31の排出が困難となる。この場合には、炉壁や炉底を回転させて、スクレーパー等により強制的に排出することも可能である。
【0127】
図12は、二重円筒型シャフト炉の水封シール構造を示す断面図である。二重円筒形シャフト炉35の炉壁等を回転させると、大気と還元ガスのシールが必要となる。この場合、送風圧が水柱数百mm程度であるので、図12に示すような水封シール構造38を適用し、大気と還元ガスのシールをすることができる。水封シール構造38は、以下のような構造である。
【0128】
上側は、二重円筒形シャフト炉35の上面全体を覆う環状の蓋38aと、それぞれ環状の内側水槽38bおよび外側水槽38cとを備える。二重円筒形シャフト炉35は、内壁36および外壁37の上端を下方に向けて延長した延長部36bおよび延長部37bを有する。蓋38aの内側の側面は、内側水槽38bの内側の側面と接続されており、内側水槽38bに収容した水に内壁36の延長部36bを浸漬する。蓋38aの外側の側面は、外側水槽38cの外側の側面と接続されており、外側水槽38cに収容した水に外壁37の延長部37bを浸漬する。
【0129】
下側は、二重円筒形シャフト炉35の下面全体を覆う環状の水槽38dからなる。水槽38dは、内周側と外周側に溝部を備える。内周側の溝部に収容した水には内壁36の下端を浸漬し、外周側の溝部に収容した水には外壁37の下端を浸漬する。
【実施例】
【0130】
1.粉状予備還元焼結ケーキのブリケット成形
焼結ケーキの破砕物を還元炉で予備還元して得られた予備還元焼結ケーキを篩分級し、発生した篩下産物である粉状予備還元焼結ケーキを用いたブリケット成形の実施例について説明する。
【0131】
粉状予備完全焼結ケーキとして、CaO成分含有率が7.0%および13.0%の焼結ケーキから製造した、粒度が−5mmのものを用いた。圧縮成型機を用いて、この粉状予備還元焼結ケーキから、径28mm、長さ12mmの円柱形のブリケットを作製し、水浸処理後、放置乾燥して完成した。完成したブリケットを、圧縮試験に供し、圧壊強度を測定した。
【0132】
図13は、ブリケットの金属化率およびCaO含有率の圧壊強度との関係を示す図である。図13から、金属化率が20%以上であれば、CaO含有率が7%のものおよび13%のもの、いずれも高炉において使用可能と考えられる50kgf/塊の強度を有した。この結果から、そのままの状態では高炉では使用できない、篩下産物の粉状予備還元焼結ケーキを、成型処理を施すことによって使用可能とすることができることがわかった。
【0133】
2.予備還元焼結鉱の高炉での使用による改善効果
本発明の方法で製造された予備還元焼結鉱の高炉で使用することによる改善効果について、高炉シミュレーションモデルを適用して検討した。予備還元焼結鉱として、篩上産物である粒度5mmの塊状予備還元焼結鉱と、篩下産物である粒度−5mmの粉状予備還元焼結ケーキから作製したブリケットをモデルとして使用した。シミュレーションに適用した、高炉、予備還元焼結鉱、原料量および還元材の条件を表5に示す。比較例として、予備還元焼結鉱を使用しない場合を「従来法」として示す。また、予備還元前の焼結ケーキおよび予備還元焼結鉱の組成を表6に示す。
【0134】
【表5】
【0135】
【表6】
【0136】
シミュレーションの結果を、条件と併せて表5に示す。表5および表6からわかるように、金属化率40%、CaO含有率9%の予備還元焼結鉱を432kg/p−t使用した場合、432kg/p−t×27.4%≒118kg/p−tより、金属鉄量で約118kg/p−tに相当する高炉還元負荷を低減し、および高炉で消費する塊コークス量を360kg/p−tから301kg/p−tに低減できた。また、銑鉄の生産量を2.10(p−t/D.m3)から2.34(p−t/D.m3)まで増加した。
【0137】
このように、本発明の高炉操業方法は、高炉操業を大きく改善できる方法であり、この方法を適用することにより、優れた銑鉄製造システムを構築することができる。
【産業上の利用可能性】
【0138】
本発明の予備還元焼結鉱の製造方法によれば、高炉でのコークスの使用量を低減可能な予備還元焼結鉱を製造することができる。また、コークス炉ガスを製銑工程で自己活用することができる。
【0139】
本発明の高炉操業方法によれば、コークス使用量を低減し、炭酸ガス排出量の少ない、優れた銑鉄製造システムを構築することができる。
【符号の説明】
【0140】
1:焼結機、 1a:点火開始点、 1b:排鉱端、 11:配合原料、
12:焼結ケーキ、 13:焼結ケーキ破砕物、 14:容器、 14a:熱電対、
15:風箱、 16:床敷、 17:温度計、 18:バーナー、 19:原料層、
2:容器、 3:予備還元炉、 3a:ガス投入口、 31:予備還元焼結ケーキ、
31a:塊状予備還元焼結鉱、 31b:粉状予備還元焼結ケーキ、
32:円筒反応管容器、 33:電気加熱炉、 34:焼結ケーキ充填層、
35:二重円筒型シャフト炉、 36:内壁、 36a:ガス投入口、
36b:延長部、37:外壁、 37a:ガス投入口、 37b:延長部、
38:水封シール構造、 38a:蓋、 38b:内側水槽、 38c:外側水槽、
38d:水槽、 4:篩装置、 5:成型機、 51:予備還元ブリケット、
6:高炉、 7:発電機
【特許請求の範囲】
【請求項1】
焼結ケーキの破砕物を還元炉の上部より装入して、該焼結ケーキの破砕物を予備還元した予備還元焼結ケーキを前記還元炉の下部から排出し、該予備還元焼結ケーキから粒径5mm以上の予備還元焼結鉱を得る方法であって、
前記焼結ケーキの破砕物を420〜970℃の温度範囲の状態で、前記還元炉に装入し、
前記還元炉に還元ガスとして濃度が50体積%で温度が700℃以上のH2ガスを吹き込み、
該予備還元焼結ケーキが、金属化率が25〜60mass%であり、かつ粒径5〜50mmの粒子が50mass%以上で構成されることを特徴とする、予備還元焼結鉱の製造方法。
【請求項2】
ドワイトロイド型の焼結設備を使用し、前記焼結設備の焼結ケーキ排出部の近傍のストランドの上部にバーナーを配置し、前記バーナーから燃焼ガスを吹き込むことにより、焼結ケーキを加熱することを特徴とする、請求項1に記載の予備還元焼結鉱の製造方法。
【請求項3】
前記バーナーの燃料として、コークス炉ガス、天然ガス、または前記還元炉の排出ガスを使用することを特徴とする請求項2に記載の予備還元焼結鉱の製造方法。
【請求項4】
前記還元炉に吹き込む還元ガスとして、H2とCOの体積比(H2/CO)が2.0以上となるように、天然ガスまたはコークス炉ガスを改質することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の予備還元焼結鉱の製造方法。
【請求項5】
前記還元炉の上部および下部にガス出入口を設け、前記還元炉に吹き込む還元ガスを前記還元炉の上部から下部に流動させることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の予備還元焼結鉱の製造方法。
【請求項6】
前記還元炉が、水平回転式の二重円筒型であり、水封シールを有することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の予備還元焼結鉱の製造方法。
【請求項7】
前記焼結ケーキのCaO含有率が7.0〜13.0mass%であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の予備還元焼結鉱の製造方法。
【請求項8】
前記予備還元焼結ケーキを、篩分級し、篩下産物を成型機によってブリケット型の予備還元焼結鉱とすることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の予備還元焼結鉱の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8に記載の予備還元焼結鉱の製造方法によって製造された予備還元焼結鉱を、高炉原料の一部として使用する高炉操業方法。
【請求項1】
焼結ケーキの破砕物を還元炉の上部より装入して、該焼結ケーキの破砕物を予備還元した予備還元焼結ケーキを前記還元炉の下部から排出し、該予備還元焼結ケーキから粒径5mm以上の予備還元焼結鉱を得る方法であって、
前記焼結ケーキの破砕物を420〜970℃の温度範囲の状態で、前記還元炉に装入し、
前記還元炉に還元ガスとして濃度が50体積%で温度が700℃以上のH2ガスを吹き込み、
該予備還元焼結ケーキが、金属化率が25〜60mass%であり、かつ粒径5〜50mmの粒子が50mass%以上で構成されることを特徴とする、予備還元焼結鉱の製造方法。
【請求項2】
ドワイトロイド型の焼結設備を使用し、前記焼結設備の焼結ケーキ排出部の近傍のストランドの上部にバーナーを配置し、前記バーナーから燃焼ガスを吹き込むことにより、焼結ケーキを加熱することを特徴とする、請求項1に記載の予備還元焼結鉱の製造方法。
【請求項3】
前記バーナーの燃料として、コークス炉ガス、天然ガス、または前記還元炉の排出ガスを使用することを特徴とする請求項2に記載の予備還元焼結鉱の製造方法。
【請求項4】
前記還元炉に吹き込む還元ガスとして、H2とCOの体積比(H2/CO)が2.0以上となるように、天然ガスまたはコークス炉ガスを改質することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の予備還元焼結鉱の製造方法。
【請求項5】
前記還元炉の上部および下部にガス出入口を設け、前記還元炉に吹き込む還元ガスを前記還元炉の上部から下部に流動させることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の予備還元焼結鉱の製造方法。
【請求項6】
前記還元炉が、水平回転式の二重円筒型であり、水封シールを有することを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれかに記載の予備還元焼結鉱の製造方法。
【請求項7】
前記焼結ケーキのCaO含有率が7.0〜13.0mass%であることを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の予備還元焼結鉱の製造方法。
【請求項8】
前記予備還元焼結ケーキを、篩分級し、篩下産物を成型機によってブリケット型の予備還元焼結鉱とすることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれかに記載の予備還元焼結鉱の製造方法。
【請求項9】
請求項1乃至請求項8に記載の予備還元焼結鉱の製造方法によって製造された予備還元焼結鉱を、高炉原料の一部として使用する高炉操業方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2011−140694(P2011−140694A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2008(P2010−2008)
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】
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