説明

予測装置及び予測システム及びコンピュータプログラム及び予測方法

【課題】観測対象の将来の位置を高い精度で予測する。
【解決手段】観測装置810(位置観測装置)は、移動体(観測対象)の位置を観測する。ジャイロセンサ820(角速度観測装置)は、移動体の角速度を観測する。バイアス補正部141(角速度誤差推定装置)は、観測装置810が観測した位置に基づいて、ジャイロセンサ820が観測した角速度の誤差を推定する。バイアス補正部141(角速度補正装置)は、推定した誤差に基づいて、ジャイロセンサ820が観測した角速度を補正する。運動状態外挿部180(予測位置算出装置)は、バイアス補正部141が補正した角速度に基づいて、移動体の将来の位置を予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、移動する観測対象の将来の位置を予測する予測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
観測対象の将来の位置を予測するには、観測対象の現在の位置や速度などを精度よく推定する必要がある。
観測対象の位置を観測する方式には、レーダや全地球測位システム(GPS)受信機などの位置観測装置を用いる方式がある。いずれの方式も観測誤差があるので、カルマンフィルタなどの追尾フィルタを用いて、観測対象の現在の位置や速度などを推定する技術がある。
カルマンフィルタなどの追尾フィルタは、観測対象が等速直線運動など所定の運動モデルにしたがって運動していることを前提とする場合がある。運動モデルが観測対象の実際の運動に合致していない場合は推定精度が低くなるので、複数の運動モデルを切り替えて観測対象の現在の位置や速度などを推定する技術がある。
また、観測対象の角速度を観測する方式には、ジャイロセンサなどの角速度観測装置を用いる方式がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−120500号公報
【特許文献2】特開2005−274300号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
観測対象の運動状態が変化した場合、追尾フィルタは一般に応答が遅いので、運動モデルをすぐに切り替えることはできない。角速度観測装置は一般に応答が速いが、観測誤差があるので、そのままでは、運動モデルの選択に用いることはできない。
この発明は、例えば、上記のような課題を解決するためになされたものであり、観測対象の将来の位置を高い精度で予測することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明にかかる予測装置は、位置観測装置が観測した観測対象の位置と、角速度観測装置が観測した上記観測対象の角速度とに基づいて、上記観測対象の将来の位置を予測する予測装置において、
上記予測装置は、角速度誤差推定装置と、角速度補正装置と、予測位置算出装置とを有し、
上記角速度誤差推定装置は、上記位置観測装置が観測した位置に基づいて、上記角速度観測装置が観測した角速度の誤差を推定し、
上記角速度補正装置は、上記角速度誤差推定装置が推定した誤差に基づいて、上記角速度観測装置が観測した角速度を補正し、
上記予測位置算出装置は、上記角速度補正装置が補正した角速度に基づいて、上記観測対象の将来の位置を予測することを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
角速度観測装置が観測した角速度の誤差を補正した精度の高い角速度に基づいて、観測対象の将来の位置を予測するので、観測対象が旋回している場合でも観測対象の将来の位置を高い精度で予測することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施の形態1における追尾システム800の構成の一例を示すブロック構成図。
【図2】実施の形態1におけるバイアス補正部141の構成の一例を示す詳細ブロック図。
【図3】実施の形態1における観測装置810が観測位置を観測する時刻と、ジャイロセンサ820がジャイロ角速度を観測する時刻との間の関係の一例を示す図。
【図4】実施の形態1における観測角速度位置予測部143及び推定角速度位置予測部144が予測する予測位置631,632の関係の一例を示す図。
【図5】実施の形態1における真の角速度606とジャイロ角速度616と追尾角速度626との関係の一例を示す図。
【図6】実施の形態1における真の角速度606とジャイロ角速度616と追尾角速度626との関係の別の例を示す図。
【図7】実施の形態1におけるバイアス補正処理S710の流れの一例を示すフローチャート図。
【図8】実施の形態1における旋回判定部142の構成の一例を示す詳細ブロック図。
【図9】実施の形態1における旋回判定部142の動作を説明するための図。
【図10】実施の形態1におけるモデル選択部132の構成の一例を示す詳細ブロック図。
【図11】実施の形態1における推移確率更新部212の動作の例を説明するための図。
【図12】実施の形態1における推移確率更新部212が更新する推移確率の例を示す図。
【図13】実施の形態1における運動状態外挿部180の動作を説明するための図。
【図14】実施の形態2における追尾システム800の構成の一例を示すブロック構成図。
【図15】実施の形態3における追尾システム800の構成の一例を示すブロック構成図。
【図16】実施の形態3におけるバイアス補正部141の構成の一例を示す詳細ブロック図。
【図17】実施の形態3における観測角速度位置予測部143及び直線位置予測部148が予測する予測位置631,633の関係の一例を示す図。
【図18】実施の形態4における予測システム801の構成の一例を示すシステム構成図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
実施の形態1.
実施の形態1について、図1〜図13を用いて説明する。
【0009】
図1は、この実施の形態における追尾システム800の構成の一例を示すブロック構成図である。
【0010】
追尾システム800(予測システム)は、観測装置810(位置観測装置)を有する。観測装置810は、航空機、船舶、車両などの移動体(観測対象)の位置を観測する。観測装置810が観測した移動体の位置を「観測位置」と呼ぶ。観測装置810は、例えば、レーダ、GPS受信機などのセンサである。観測装置810は、例えばレーダのように、移動体を外部から観測する装置であってもよいし、例えばGPS受信機のように、移動体に搭載された装置であってもよい。
【0011】
追尾システム800は、ジャイロセンサ820(角速度観測装置)を有する。ジャイロセンサ820は、観測対象である移動体に搭載されている。ジャイロセンサ820は、搭載された移動体の角速度を観測する。ジャイロセンサ820が観測した角速度を「ジャイロ角速度」(JYRO角速度)と呼ぶ。
【0012】
追尾システム800は、目標追尾装置100(追尾部130、運動状態判定部140、バイアス補正値メモリ150、運動性能記憶部160、運動状態外挿部180)を有する。目標追尾装置100は、観測装置810及びジャイロセンサ820の観測結果に基づいて、移動体の将来の位置を高精度に推定する。
【0013】
目標追尾装置100は、バイアス補正値メモリ150(角速度誤差記憶装置)を有する。バイアス補正値メモリ150は、後述するバイアス補正部141が算出したバイアス誤差を記憶する。
目標追尾装置100は、運動性能記憶部160を有する。運動性能記憶部160は、移動体の最高速度、最大加速度、最大角速度など移動体の運動性能を記憶している。運動性能記憶部160は、例えば、移動体の種別と、その種別に属する移動体の運動性能との組を、データベース形式(運動性能データベース)で記憶している。
【0014】
目標追尾装置100(予測装置)は、追尾部130を有する。
追尾部130は、複数の追尾フィルタ131(追尾装置)を有する。なお、符号にアルファベット小文字を添えて「追尾フィルタ131a」「追尾フィルタ131b」などと記載することにより、複数の追尾フィルタ131を区別する場合がある。
追尾フィルタ131は、所定の運動モデルに基づいて、追尾処理をする。すなわち、追尾フィルタ131は、移動体が所定の運動モデルにしたがって運動しているものと仮定して、観測装置810が観測した観測位置に基づいて、移動体の位置や速度などを推定する。以下、追尾フィルタ131が推定した移動体の位置や速度などの推定値を「追尾位置」「追尾速度」などと呼ぶ。追尾フィルタ131は、例えばカルマンフィルタ、アルファ−ベータ(α−β)フィルタ、アルファ−ベータ−ガンマ(α−β−γ)フィルタやその他のフィルタなどである。
各追尾フィルタ131a〜131cは、それぞれ異なる運動モデルを持っている。各追尾フィルタ131a〜131cは、それぞれが持つ運動モデルにしたがって移動体が運動しているものと仮定して、移動体の位置や速度などを推定する。例えば、追尾フィルタ131aは、運動モデルとして旋回運動モデルを持っている。すなわち、追尾フィルタ131aは、移動体が旋回運動をしているものと仮定して、移動体の位置・速度・角速度などを推定する。また、例えば、追尾フィルタ131bは、運動モデルとして等速直線運動モデルを持っている。すなわち、追尾フィルタ131b(直線位置推定装置)は、移動体が等速直線運動をしているものと仮定して、追尾位置・速度などを推定する。また、例えば、追尾フィルタ131cは、運動モデルとして等加速度運動モデルを持っている。すなわち、追尾フィルタ131cは、移動体が等加速度運動をしているものと仮定して、移動体の位置・速度・加速度などを推定する。
なお、旋回運動モデルを持つ追尾フィルタ131は、移動体が所定の角速度で旋回運動をしていると仮定する構成(所定角速度位置推定装置)であってもよい。その場合、複数の追尾フィルタ131が旋回運動モデルを持ち、それぞれが異なる角速度を仮定する構成であってもよい。
等加速度運動モデルを持つ追尾フィルタ131も同様に、移動体が所定の加速度で等加速度運動をしていると仮定する構成であってもよい。その場合、複数の追尾フィルタ131が等加速度運動モデルを持ち、それぞれが異なる加速度を仮定する構成であってもよい。
【0015】
追尾部130は、モデル選択部132(予測位置算出装置)を有する。モデル選択部132は、後述する旋回判定部142の判定結果などに基づいて、移動体の実際の運動に最もよく合致している運動モデルを選択する。モデル選択部132は,選択した運動モデルに基づいて、移動体の位置・速度・角速度・加速度などの推定値を算出する。以下、モデル選択部132が算出した移動体の位置・角速度などの推定値を「推定位置」「推定角速度」などと呼ぶ。
例えば、モデル選択部132は、複数の追尾フィルタ131がそれぞれ持っている運動モデルが、移動体の実際の運動に合致している確率を算出し、算出した確率に基づいて、各追尾フィルタ131a〜131cが推定した追尾位置などに重み付けをして合成し、推定位置を算出する。
あるいは、モデル選択部132は、複数の追尾フィルタ131のなかから、移動体の実際の運動に運動モデルが合致している確率が最も高い追尾フィルタ131を選択し、選択した追尾フィルタ131が推定した追尾位置などを、推定位置などとして採用する。
【0016】
また、追尾フィルタ131は、推定した追尾位置や追尾速度などがどの程度の誤差を含むかを推定する。例えば、追尾フィルタ131は、追尾位置や追尾速度などの誤差分散や誤差共分散を算出する。
モデル選択部132は、追尾フィルタ131が算出した誤差分散や誤差共分散に基づいて、推定位置や推定速度などの誤差分散や誤差共分散を算出する。例えば、モデル選択部132は、複数の追尾フィルタ131が算出した誤差分散や誤差共分散を合成して、推定位置や推定速度などの誤差分散や誤差共分散を算出する。あるいは、モデル選択部132は、選択した追尾フィルタ131が算出した誤差分散や誤差共分散を、推定位置や推定速度などの誤差分散や誤差共分散として採用する。
【0017】
目標追尾装置100は、運動状態判定部140を有する。運動状態判定部140は、ジャイロセンサ820が観測したジャイロ角速度に基づいて、移動体の運動状態を判定する。
運動状態判定部140は、バイアス補正部141(角速度誤差推定装置および角速度補正装置)を有する。バイアス補正部141は、ジャイロセンサ820が観測したジャイロ角速度のバイアス誤差を推定する。バイアス補正部141は、推定したバイアス誤差に基づいて、ジャイロ角速度を補正し、補正したジャイロ角速度を出力する。バイアス補正部141は、例えば、追尾フィルタ131が推定した追尾角速度(TRK角速度)、モデル選択部132が算出した推定角速度などに基づいて、ジャイロセンサ820が観測したジャイロ角速度のバイアス誤差を推定する。
運動状態判定部140は、旋回判定部142(旋回判定装置)を有する。旋回判定部142は、バイアス補正部141が補正したジャイロ角速度や、運動性能記憶部160が記憶した移動体の運動性能などにに基づいて、移動体が旋回しているか否かを判定する。
【0018】
目標追尾装置100は、運動状態外挿部180(予測位置算出装置)を有する。運動状態外挿部180は、移動体の将来の位置を予測する。運動状態外挿部180が予測した移動体の位置を「予測位置」と呼ぶ。運動状態外挿部180は、モデル選択部132が算出した推定位置・推定速度などや、旋回判定部142の判定結果などに基づいて、予測位置を算出する。
【0019】
図2は、この実施の形態におけるバイアス補正部141の構成の一例を示す詳細ブロック図である。
バイアス補正部141は、旋回運動モデルを持つ追尾フィルタ131aが推定した追尾角速度を入力する。バイアス補正部141は、モデル選択部132が算出した推定位置・推定速度・誤差分散・誤差共分散を入力する。バイアス補正部141は、ジャイロセンサ820が観測したジャイロ角速度を入力する。なお、ジャイロセンサ820が観測したジャイロ角速度をバイアス補正部141が直接入力する代わりに、ジャイロセンサ820が観測したジャイロ角速度を平滑処理する平滑処理部(追尾フィルタ)を設け、平滑処理部が平滑処理したジャイロ角速度を、バイアス補正部141が入力する構成としてもよい。
【0020】
バイアス補正部141は、観測角速度位置予測部143(観測角速度位置予測装置)を有する。観測角速度位置予測部143は、モデル選択部132が算出した推定位置や推定速度などに基づいて、移動体の将来の位置を予測する。ただし、観測角速度位置予測部143は、移動体の角速度として、モデル選択部132が算出した推定角速度ではなく、バイアス補正部141が入力したジャイロ角速度を用いる。観測角速度位置予測部143は、ジャイロ角速度に基づいて、移動体の将来の位置を予測する。
【0021】
図3は、この実施の形態における観測装置810が観測位置を観測する時刻と、ジャイロセンサ820がジャイロ角速度を観測する時刻との間の関係の一例を示す図である。
一般に、ジャイロセンサ820の観測間隔は、観測装置810の観測間隔より短い。ある時点において、ジャイロセンサ820が最も新しいジャイロ角速度を観測した時刻をtとし、観測装置810が最も新しい観測位置を観測した時刻をtとする。一般に、時刻tと時刻tとは一致せず、時刻tのほうが時刻tよりも後の時刻である。
追尾フィルタ131は、観測装置810が観測した観測位置に基づいて、追尾位置などを推定するので、追尾フィルタ131が推定した追尾位置などは、時刻tにおけるものである。モデル選択部132が算出した推定位置なども、同様に、時刻tにおけるものである。
モデル選択部132が算出した推定位置などと、ジャイロセンサ820が観測したジャイロ角速度とを組み合わせて、移動体の将来の位置を予測するためには、推定位置などの時刻と、ジャイロ角速度の時刻とが一致している必要がある。
【0022】
このため、観測角速度位置予測部143は、例えば、時刻tにおける推定位置などに基づいて外挿処理を行い、時刻tにおける推定位置などを算出する。
例えば、観測角速度位置予測部143は、次の式の右辺を計算することにより、時刻tにおける推定位置などを算出する。
【数11】

ただし、山型付きのx(文中において「x^」と表記する。)は、推定値ベクトルである。推定値ベクトルx^は、k次の列ベクトルである。推定値ベクトルx^は、時刻tの関数である。推定値ベクトルx^の要素は、所定の座標系で表した時刻tにおける推定位置の座標などである。推定値ベクトルx^の次数kは、推定値の数である。例えば、3次元座標で表された位置および速度を推定値とする場合、次数kは6である。
Fは、状態遷移行列である。状態遷移行列Fは、k次の正方行列である。状態遷移行列Fは、時間Δtの関数である。状態遷移行列Fは、所定の運動モデルにおいて、ある時刻における移動体の位置などを表わすベクトルを、時間Δtが経過した後における移動体の位置などを表わすベクトルへ写す写像を表わす。
すなわち、この式は、時刻tにおける推定値ベクトルx^(t)に、時間(t−t)の経過を表わす状態遷移行列F(t−t)を作用させて、時刻tにおける推定値ベクトルx^(t)を算出することを意味している。
なお、状態遷移行列Fの運動モデルは、モデル選択部132が選択した追尾フィルタ131の運動モデルであってもよいし、等速直線運動モデルや旋回運動モデルなどあらかじめ定めた所定の運動モデルであってもよい。通常、時刻tと時刻tとの差は十分小さいので、運動モデルの差による違いはほとんどない。
【0023】
観測角速度位置予測部143は、算出した時刻tにおける推定位置などに基づいて、時刻tにおけるジャイロ角速度で移動体が旋回運動をしているという運動モデルにしたがい、時刻tから所定の時間ΔTが経過した時刻t(すなわち、t=t+ΔT)における移動体の位置などを予測する。
例えば、観測角速度位置予測部143は、次の式の右辺を計算することにより、時刻tにおける移動体の位置などを算出する。
【数12】

ただし、x^は、時刻tにおけるジャイロ角速度で推定角速度を置き換えた推定値ベクトルである。Fは、時刻tにおけるジャイロ角速度で移動体が旋回運動をしているという運動モデルに基づく状態遷移行列である。
すなわち、この式は、時刻tにおける推定値ベクトルx^(t)に、移動体が時刻tにおけるジャイロ角速度で旋回運動をしているという運動モデルに基づく時間ΔTの経過を表わす状態遷移行列Fを作用させて、時刻tにおける推定値ベクトルx^(t)を算出することを意味している。
【0024】
また、観測角速度位置予測部143は、モデル選択部132が算出した誤差分散や誤差共分散に基づいて、予測した移動体の将来の位置の誤差分散や誤差共分散を推定する。
【0025】
推定位置などと同様、誤差分散などの時刻とジャイロ角速度の時刻とを一致させるため、観測角速度位置予測部143は、例えば、時刻tにおける誤差分散などに基づいて、時刻tにおける誤差分散などを算出する。
例えば、観測角速度位置予測部143は、次の式の右辺を計算することにより、時刻tにおける誤差分散などを算出する。
【数13】

ただし、Pは、推定値ベクトルx^の誤差の分散共分散行列である。分散共分散行列Pは、k次の正方行列である。分散共分散行列Pは、時刻tの関数である。分散共分散行列Pの要素は、時刻tにおける推定値ベクトルの各要素の誤差の間の分散または共分散である。
上付きのTは、行列の転置を表わす。
Qは、システム雑音の分散共分散行列である。分散共分散行列Qは、k次の正方行列である。分散共分散行列Qは、時間Δtの関数である。分散共分散行列Qの要素は、時間Δtが経過する間に発生するシステム雑音の分散または共分散である。
すなわち、この式は、時刻tにおける推定誤差の分散共分散行列P(t)に、時間(t−t)の経過を表わす状態遷移行列F(t−t)の転置行列を左から作用させ、時間(t−t)の経過を表わす状態遷移行列F(t−t)を右から作用させたものに、時間(t−t)の経過により発生したシステム雑音の分散共分散行列Q(t−t)を加えて、時刻tにおける推定誤差の分散共分散行列P(t)を算出することを意味している。
【0026】
観測角速度位置予測部143は、算出した時刻tにおける誤差分散などに基づいて、時刻tにおけるジャイロ角速度で移動体が旋回運動をしているという運動モデルにしたがい、時刻tにおける誤差分散などを算出する。
例えば、観測角速度位置予測部143は、次の式の右辺を計算することにより、時刻tにおける誤差分散などを算出する。
【数14】

ただし、Pは、時刻tにおけるジャイロ角速度で移動体が旋回運動をしているという運動モデルに基づく予測の誤差の分散共分散行列である。
この式は、時刻tにおける推定誤差の分散共分散行列P(t)に、移動体が時刻tにおけるジャイロ角速度で旋回運動をしているという運動モデルに基づく時間ΔTの経過を表わす状態遷移行列F(ΔT)の転置行列を左から作用させ、移動体が時刻tにおけるジャイロ角速度で旋回運動をしているという運動モデルに基づく時間ΔTの経過を表わす状態遷移行列F(ΔT)を右から作用させたものに、時間ΔTの経過により発生したシステム雑音の分散共分散行列Q(ΔT)を加えて、時刻tについての予測誤差の分散共分散行列P(t)を算出することを意味している。
【0027】
観測角速度位置予測部143は、例えば上記のようにして、時刻tにおける移動体の位置や誤差分散などを予測する。
なお、観測角速度位置予測部143は、バイアス補正部141が入力したジャイロ角速度ではなく、後述する角速度補正部147が補正したジャイロ角速度に基づいて、移動体の位置や誤差分散などを予測する構成であってもよい。
【0028】
バイアス補正部141は、推定角速度位置予測部144(推定角速度位置予測装置)を有する。推定角速度位置予測部144は、モデル選択部132が算出した推定位置や推定速度などに基づいて、移動体の将来の位置を予測する。ただし、推定角速度位置予測部144は、移動体の角速度として、モデル選択部132が算出した推定角速度ではなく、追尾フィルタ131aが推定した追尾角速度を用いる。推定角速度位置予測部144は、追尾角速度に基づいて、移動体の将来の位置を予測する。
また、推定角速度位置予測部144は、モデル選択部132が算出した誤差分散や誤差共分散に基づいて、予測した移動体の将来の位置の誤差分散や誤差共分散を推定する。
すなわち、観測角速度位置予測部143が推定角速度としてジャイロ角速度を用いるのに対し、推定角速度位置予測部144は、推定角速度として追尾角速度を用いて、観測角速度位置予測部143と同様の処理をする。なお、追尾フィルタ131aが推定した追尾角速度の時刻と、モデル選択部132が算出した推定位置などの時刻とは、同じであるから、時刻を一致させるための計算は不要である。
【0029】
推定角速度位置予測部144は、例えば、次の式の右辺を計算することにより、時刻tにおける推定位置や誤差分散などを算出する。
【数15】

ただし、x^は、時刻tにおける追尾角速度で推定角速度を置き換えた推定値ベクトルである。Fは、時刻tにおける追尾角速度で移動体が旋回運動をしているという運動モデルに基づく状態遷移行列である。Pは、時刻tにおける追尾角速度で移動体が旋回運動をしているという運動モデルに基づく予測の誤差の分散共分散行列である。
【0030】
推定角速度位置予測部144は、例えば上記のようにして、移動体の位置や誤差分散などを予測する。
なお、推定角速度位置予測部144は、追尾フィルタ131aが推定した追尾角速度ではなく、モデル選択部132が算出した推定角速度に基づいて(すなわち、推定角速度を追尾角速度で置き換えることなくそのまま用いて)、移動体の位置や誤差分散などを予測する構成であってもよい。
【0031】
バイアス補正部141は、条件判定部145(条件判定装置)を有する。条件判定部145は、ジャイロセンサ820が観測したジャイロ角速度の誤差を推定する条件(所定の条件)が満たされているか否かを判定する。
【0032】
図4は、この実施の形態における観測角速度位置予測部143及び推定角速度位置予測部144が予測する予測位置631,632の関係の一例を示す図である。
観測位置611a〜611dは、時刻tまでの時点で、観測装置810が観測した移動体600の観測位置を表わす。このうち、観測位置611dは、時刻tに観測した最も新しい観測位置である。
追尾部130は、観測位置611a〜611dに基づいて、時刻tにおける移動体600の推定位置621を算出する。
観測角速度位置予測部143は、追尾部130が推定した推定位置621などに基づいて、時刻tにおける移動体600の推定位置622などを算出する。
観測角速度位置予測部143は、算出した推定位置622などと、ジャイロ角速度とに基づいて、時刻tにおける移動体600の予測位置631を算出する。
推定角速度位置予測部144は、追尾部130が推定した推定位置621などと、追尾フィルタ131aが推定した追尾角速度とに基づいて、時刻tにおける移動体600の予測位置632を算出する。
【0033】
観測装置810が観測した観測位置やジャイロセンサ820が観測したジャイロ角速度に誤差がなければ、ジャイロ角速度と追尾角速度とは一致する。したがって、観測角速度位置予測部143が予測した移動体600の予測位置631と推定角速度位置予測部144が予測した移動体600の予測位置632とは一致するはずである。
しかし、実際には、誤差の影響により、予測位置631と予測位置632とは一致しない。
【0034】
ジャイロセンサ820が観測したジャイロ角速度には、ランダムな誤差と、時刻にかかわらずほぼ一定なバイアス誤差とが含まれる。また、モデル選択部132が推定した推定位置などにも、ランダムな誤差が含まれる。
このうち、ランダムな誤差の影響は、観測角速度位置予測部143や推定角速度位置予測部144が予測した誤差分散などによりある程度予想できる。
したがって、誤差分散などにより予想される範囲を超えて、予測した予測位置631と予測位置632とが異なる場合には、ジャイロセンサ820が観測したジャイロ角速度のバイアス誤差の影響によるものと考えられる。
【0035】
条件判定部145は、例えば、観測角速度位置予測部143が予測した予測位置631と推定角速度位置予測部144が予測した予測位置632との差が、予想される範囲内であるか否かを判定し、予想される範囲を超えている場合に、ジャイロ角速度の誤差を推定する条件が満たされていると判定する。
この判定には、統計学上の手法を用いることができる。条件判定部145は、例えばカイ二乗検定により、予測位置631と予測位置632との差が、予想される範囲内であるか否かを判定する。例えば、条件判定部145は、次の式の右辺を計算することにより、検定値を算出する。
【数16】

ただし、εは、検定値である。
条件判定部145は、算出した検定値εを、所定の閾値εthと比較する。閾値εthは、所定の有意水準に基づいて、例えばカイ二乗分布表から求めたものである。検定値εが閾値εth以下である場合、条件判定部145は、予測位置631と予測位置632との差が、予想される範囲内であると判定する。検定値εが閾値εthより大きい場合、条件判定部145は、予測位置631と予測位置632との差が、予想される範囲を超えていると判定する。
【0036】
図5は、この実施の形態における真の角速度606とジャイロ角速度616と追尾角速度626との関係の一例を示す図である。
横軸は、時刻tを表わす。縦軸は、角速度ωを表わす。
例えば、移動体600が、直進運動をしたのち、ある時刻を境に、旋回運動に移ったとする。
移動体600の真の角速度606は、直進運動中は0であり、旋回運動中はある値で一定であるものとする。
ジャイロセンサ820にバイアス誤差がない場合であっても、それ以外の誤差要因により、ジャイロセンサ820が観測するジャイロ角速度616は、真の角速度606と完全には一致しない。しかし、ジャイロ角速度616は、真の角速度606の変化に遅れることなく、追随して変化する。
これに対し、追尾フィルタ131aが推定する追尾角速度626は、算出間隔が、ジャイロ角速度616の観測間隔よりも長く、ランダムな誤差の影響が大きい。また、追尾角速度626は、真の角速度606の変化に対して、すぐには追随せず、ゆっくりと変化する。したがって、真の角速度606が変化した直後は、過渡応答により、真の角速度606と追尾角速度626との差が大きくなる。
【0037】
このように、旋回時には、追尾角速度の過渡応答による差が生じるので、予測位置631と予測位置632との差が、予想される範囲を超えていると条件判定部145が判定する場合がある。このため、条件判定部145は、バイアス補正区間を設定する。バイアス補正区間とは、時系列的に並べられた複数の判定結果のうち、最新の判定結果を含む連続したN回分の判定結果(Nは所定の正の整数。)のことである。条件判定部145は、バイアス補正区間のなかで、予測位置631と予測位置632との差が予想される範囲を超えていると判定した回数を数える。条件判定部145は、この回数がM回以上(Mは、N以下の所定の正の整数。)である場合に、一定のバイアスが生じているものとみなし、バイアス誤差を推定する条件が満たされていると判定する。
【0038】
バイアス補正部141は、角速度誤差推定部146(角速度誤差推定装置)を有する。角速度誤差推定部146は、バイアス誤差を推定する条件が満たされていると条件判定部145が判定した場合に、ジャイロセンサ820が観測したジャイロ角速度の誤差を推定する。
【0039】
角速度誤差推定部146は、例えば、カルマンフィルタを用いて、ジャイロセンサ820のバイアス誤差を推定する。角速度誤差推定部146は、例えば、次の式で定義される観測モデルを用いる。
【数17】

ただし、Δωは、時刻kにおけるバイアス誤差の真の値を表わす。zは、時刻kにおけるバイアス誤差の観測値を表わす。vは、時刻kにおけるバイアス誤差の観測誤差を表わす。ωJ,kは、時刻kにおいてジャイロセンサ820が観測したジャイロ角速度を表わす。ωT,kは、時刻kについて追尾フィルタ131aが推定した追尾角速度を表わす。vJ,kは、時刻kにおいてジャイロセンサ820が観測したジャイロ角速度の観測誤差を表わす。vT,kは、時刻kについて追尾フィルタ131aが推定した追尾角速度の推定誤差を表わす。
【0040】
また、角速度誤差推定部146は、例えば、次の式で定義される状態方程式を用いる。
【数18】

ただし、wは、時刻k−1から時刻kまでの間に発生するシステム雑音を表わす実数である。
【0041】
図6は、この実施の形態における真の角速度606とジャイロ角速度616と追尾角速度626との関係の別の例を示す図である。
この例において、ジャイロセンサ820が観測するジャイロ角速度616は、バイアス誤差Δωを含む。バイアス誤差Δωは、時刻にかかわらず、基本的に不変である。
【0042】
角速度誤差推定部146は、例えば上記のようにして、バイアス誤差Δωを推定する。
バイアス補正値メモリ150は、角速度誤差推定部146が推定したバイアス誤差Δωを記憶する。
【0043】
角速度補正部147は、バイアス補正値メモリ150が記憶したバイアス誤差Δωを用いて、バイアス補正部141が入力したジャイロ角速度ωを補正する。例えば、角速度補正部147は、ジャイロ角速度ωからバイアス誤差Δωを差し引いた差(ω−Δω)を計算することにより、補正したジャイロ角速度を得る。
角速度誤差推定部146がバイアス誤差Δωを推定した場合、角速度誤差推定部146が推定したバイアス誤差Δωをバイアス補正値メモリ150が記憶する。角速度補正部147は、そのバイアス誤差Δωを用いて、ジャイロ角速度ωの誤差を補正する。
角速度誤差推定部146がバイアス誤差Δωを推定しなかった場合は、角速度誤差推定部146が以前に推定したバイアス誤差Δωをバイアス補正値メモリ150が記憶している。角速度補正部147は、角速度誤差推定部146が以前に推定したバイアス誤差Δωを用いて、ジャイロ角速度ωの誤差を補正する。
角速度補正部147は、補正したジャイロ角速度を出力する。
【0044】
図7は、この実施の形態におけるバイアス補正処理S710の流れの一例を示すフローチャート図である。
バイアス補正処理S710において、バイアス補正部141は、ジャイロ角速度のバイアス誤差を補正する。
【0045】
バイアス補正処理S710は、予測位置算出工程S711を有する。予測位置算出工程S711は、バイアス補正処理S710の最初に実行される。
予測位置算出工程S711において、観測角速度位置予測部143は、ジャイロ角速度ωに基づいて、予測位置や予測誤差分散などを算出する。また、推定角速度位置予測部144は、追尾角速度ωに基づいて、予測位置や予測誤差分散などを算出する。
【0046】
バイアス補正処理S710は、条件判定工程S712を有する。条件判定工程S712は、予測位置算出工程S711のあとに実行される。
条件判定工程S712において、条件判定部145は、予測位置算出工程S711で観測角速度位置予測部143及び推定角速度位置予測部144が算出した予測位置や予測誤差分散などに基づいて、検定値εを算出する。条件判定部145は、算出した検定値εを閾値εthと比較して、判定式を満たすか否かを判定する。条件判定部145は、判定結果を記憶する。条件判定部145は、記憶した判定結果のなかから、今回の判定結果を含む過去N回分の判定結果を取得して、判定式を満たさない(すなわち、検定値εが閾値εthより大きい)と判定した回数を数える。条件判定部145は、数えた回数を整数Mと比較する。条件判定部145は、比較の結果に基づいて、条件分岐する。
【0047】
バイアス補正処理S710は、バイアス誤差推定処理S713を有する。バイアス誤差推定処理S713は、条件判定工程S712において、判定式を満たさなかった回数がM回以上であると条件判定部145が判定した場合に実行される。
バイアス誤差推定処理S713において、角速度誤差推定部146は、ジャイロ角速度ωのバイアス誤差Δωを推定する。
【0048】
バイアス補正処理S710は、バイアス誤差記憶工程S714を有する。バイアス誤差記憶工程S714は、バイアス誤差推定処理S713のあとに実行される。
バイアス誤差記憶工程S714において、バイアス補正値メモリ150は、バイアス誤差推定処理S713で角速度誤差推定部146が推定したバイアス誤差Δωを記憶する。
【0049】
バイアス補正処理S710は、バイアス誤差読出工程S715を有する。バイアス誤差読出工程S715は、条件判定工程S712において、判定式を満たさなかった回数がM回未満であると条件判定部145が判定した場合に実行される。
バイアス誤差読出工程S715において、角速度補正部147は、バイアス補正値メモリ150が記憶したバイアス誤差Δωを読み出す。
【0050】
バイアス補正処理S710は、ジャイロ角速度補正工程S716を有する。ジャイロ角速度補正工程S716は、バイアス誤差記憶工程S714のあと及びバイアス誤差読出工程S715のあとに実行される。
ジャイロ角速度補正工程S716において、角速度補正部147は、バイアス誤差推定処理S713で角速度誤差推定部146が推定したバイアス誤差Δωあるいは角速度誤差推定部146で読み出したバイアス誤差Δωに基づいて、ジャイロ角速度ωを補正する。
【0051】
バイアス補正処理S710は、ジャイロ角速度補正工程S716までで終わりとなる。
【0052】
図8は、この実施の形態における旋回判定部142の構成の一例を示す詳細ブロック図である。
【0053】
旋回判定部142は、最大角速度取得部191を有する。最大角速度取得部191は、運動性能記憶部160が記憶した移動体の運動性能のなかから、移動体の性能限界値である最大の角速度ωmaxを取得する。
【0054】
旋回判定部142は、異常値判定部192を有する。異常値判定部192は、最大角速度取得部191が取得した角速度ωmaxに基づいて、バイアス補正部141が出力した(補正済の)ジャイロ角速度ωが異常値であるか否かを判定する。例えば、異常値判定部192は、ジャイロ角速度ωの絶対値が角速度ωmaxより大きい場合に、ジャイロ角速度ωが異常値であると判定する。異常値判定部192は、異常値であると判定したジャイロ角速度ωを除去し、異常値でないと判定したジャイロ角速度ωだけを出力する。
【0055】
旋回判定部142は、閾値比較部193を有する。閾値比較部193は、異常値判定部192が出力したジャイロ角速度ωを、所定の閾値ωminと比較して、どちらが大きいか判定する。
なお、閾値ωminは、あらかじめ定めた定数である構成でもよいし、ジャイロ角速度の誤差の標準偏差を算出し、算出した標準偏差(もしくはその定数倍)を閾値ωminとする構成でもよい。
【0056】
旋回判定部142は、回数判定部195を有する。回数判定部195は、ジャイロ角速度ωが閾値ωmin以上であると閾値比較部193が連続して判定した回数を算出する。
例えば、回数判定部195は、連続判定回数を記憶しておく。ジャイロ角速度ωが閾値ωmin以上であると閾値比較部193が判定した場合、回数判定部195は、記憶した連続判定回数を1増加させる。ジャイロ角速度ωが閾値ωmin未満であると閾値比較部193が判定した場合、回数判定部195は、記憶した連続判定回数を0に初期化する。
回数判定部195は、算出した連続判定回数を所定の整数M’と比較して、どちらが大きいか判定する。連続判定回数が整数M’以上である場合、旋回判定部142は移動体が旋回していると判定する。
【0057】
旋回判定部142は、判定結果出力部196を有する。連続判定回数が整数M’以上であると回数判定部195が判定した場合、判定結果出力部196は、移動体が旋回しているという判定結果を出力する。なお、判定結果出力部196は、異常値判定部192が出力したジャイロ角速度を移動体の角速度として出力することにより、移動体が旋回していると判定した判定結果を表わす構成としてもよい。移動体が旋回していないと判定した場合は、ジャイロ角速度を出力しないことにより、その判定結果を表わす構成でもよいし、移動体の角速度として0を出力することにより、移動体が旋回していないと判定した判定結果を表わす構成でもよい。
【0058】
図9は、この実施の形態における旋回判定部142の動作を説明するための図である。
ジャイロ角速度ωが角速度ωmaxより大きい場合は、異常値判定部192が除去し、その時刻におけるジャイロ角速度は、欠測扱いとなる。閾値比較部193は、異常値判定部192が出力したジャイロ角速度を閾値ωminと比較する。閾値比較部193の比較結果に基づいて、回数判定部195が連続判定回数を算出し、判定結果出力部196が出力する判定結果が定まる。なお、異常値判定部192が除去した場合も含めてジャイロ角速度が欠測の場合は、閾値比較部193が比較そのものを行わないので、回数判定部195による連続判定回数の算出には影響しない。
【0059】
図10は、この実施の形態におけるモデル選択部132の構成の一例を示す詳細ブロック図である。
【0060】
モデル選択部132は、モデル確率記憶部213を有する。モデル確率記憶部213は、追尾フィルタ131a〜131cそれぞれについて、その追尾フィルタ131が持っている運動モデルが、移動体の実際の運動に合致している確率を記憶している。モデル確率記憶部213が記憶している確率を「モデル確率」と呼ぶ。
【0061】
モデル選択部132は、重付平均算出部215を有する。重付平均算出部215は、モデル確率記憶部213が記憶したモデル確率に基づいて、各追尾フィルタ131a〜131cが推定した追尾位置などを合成して、推定位置などを算出する。重付平均算出部215は、例えば、次の式の右辺を計算することにより、推定位置などを算出する。
【数19】

ただし、x^は、重付平均算出部215が算出する推定位置などを表わす推定値ベクトルである。推定値ベクトルx^は、k次の列ベクトルである。X^は、追尾値行列である。追尾値行列X^は、k行j列の行列である。追尾値行列X^のi列目(iは1以上j以下の整数。)は、i番目の追尾フィルタ131の追尾値ベクトルx^である。追尾値行列X^の列数jは、運動モデルの数である。追尾値ベクトルx^は、k次の列ベクトルである。追尾値ベクトルの各要素は、その追尾フィルタ131が推定した推定位置の座標などである。pは、モデル確率ベクトルである。モデル確率ベクトルは、j次の列ベクトルである。モデル確率ベクトルのi行目の要素は、i番目の追尾フィルタ131が持っている運動モデルのモデル確率である。
この式は、各運動モデルの追尾値を、モデル確率により重み付けして合成して、推定値を算出することを意味する。
【0062】
モデル選択部132は、推移確率記憶部211を有する。推移確率記憶部211は、2つの追尾フィルタ131のペアそれぞれについて、移動体の実際の運動が、第一の追尾フィルタ131が持っている運動モデルに合致している状態から、第二の追尾フィルタ131が持っている運動モデルに合致している状態へ推移する確率(モデル間の推移確率パラメータ)を記憶している。推移確率記憶部211が記憶している確率を「推移確率」と呼ぶ。
【0063】
モデル選択部132は、モデル確率更新部214(重み算出装置)を有する。モデル確率更新部214は、推移確率記憶部211が記憶した推移確率に基づいて、モデル確率記憶部213が記憶したモデル確率を更新する。モデル確率更新部214は、例えば、次の式の右辺を計算することにより、モデル確率を更新する。
【数20】

ただし、PT,kは、時刻kにおける推移確率行列である。推移確率行列Pは、j次の正方行列である。推移確率行列PT,kのa行b列の要素(a及びbは、1以上j以下の整数。)は、b番目の追尾フィルタ131からa番目の追尾フィルタ131への推移確率である。なお、aとbとが等しい場合は、その追尾フィルタ131の運動モデルが維持される確率を表わす。推移確率行列PT,kの次数jは、運動モデルの数である。
【0064】
モデル選択部132は、推移確率更新部212を有する。推移確率更新部212は、運動状態判定部140が判定した運動状態に基づいて、推移確率記憶部211が記憶した推移確率を更新する。
【0065】
図11は、この実施の形態における推移確率更新部212の動作の例を説明するための図である。
推移確率更新部212は、旋回判定部142が出力したジャイロ角速度を入力する。推移確率更新部212は、入力したジャイロ角速度を、所定の累積区間において積分する。
【0066】
図12は、この実施の形態における推移確率更新部212が更新する推移確率の例を示す図である。
例えば、運動モデルが2つあり、運動モデルAは等速直線運動モデル、運動モデルBは旋回運動モデルであるとする。推移確率更新部212は、例えば、ジャイロ角速度を積分した値を用いて、運動モデルAから運動モデルBへの推移確率pA→Bを段階的に変化させる。時間方向の累積値を用いることにより、ジャイロ角速度のデータが欠落した場合に、推移確率が急激に変動するのを防ぐ。推移確率更新部212は、例えば、次の式の右辺を計算することにより、推移確率pA→Bを算出する。
【数21】

ただし、pminは、推移確率の下限値である。pmaxは、推移確率の上限値である。下限値pmin及び上限値pmaxは、あらかじめ定めた0以上1以下の実数である。
この式によれば、累積区間におけるジャイロ角速度ωの合計が、移動体の性能限界値である角速度の最大値ωmax以上の場合、推移確率更新部212は、推移確率pA→Bを上限値pmaxとする。また、累積区間におけるジャイロ角速度ωの合計が0の場合、推移確率更新部212は、推移確率pA→Bを下限値pminとする。累積区間におけるジャイロ角速度ωの合計が0と最大値ωmaxとの間である場合、推移確率更新部212は、推移確率pA→Bを、下限値pminと上限値pmaxとの間の値とする。
【0067】
なお、モデル選択部132は、追尾フィルタ131が推定した追尾位置などを重み付け平均して、推定位置などを算出するのではなく、追尾フィルタ131のなかから1つを選択して、選択した追尾フィルタ131が推定した追尾位置などを、推定位置などとする構成であってもよい。
例えば、重付平均算出部215に代えて、フィルタ選択部を設ける。フィルタ選択部は、モデル確率記憶部213が記憶したモデル確率に基づいて、モデル確率が最も高い運動モデルを持つ追尾フィルタ131を選択する。フィルタ選択部は、選択した追尾フィルタ131が推定した追尾位置などを、推定位置などとして出力する。
モデル選択部132は、更に、簡略化した構成として、推移確率パラメータを用いずにモデルを切り替える構成であってもよい。例えば、モデル選択部132は、累積区間の間に旋回判定部142が判定した判定結果に基づいて、移動体が旋回していると判定した回数の割合を算出する。モデル選択部132は、算出した割合が所定の割合を超える場合、旋回運動モデルを持つ追尾フィルタ131を選択し、算出した割合が所定の割合未満の場合、等速直線運動モデルを持つ追尾フィルタ131を選択する。モデル選択部132は、選択した追尾フィルタ131が推定した追尾位置などを、推定位置などとして出力する。
【0068】
運動状態外挿部180は、モデル選択部132が算出した推定位置などと、旋回判定部142が出力したジャイロ角速度ωとに基づいて、移動体の将来の位置を予測する。運動状態外挿部180は、例えば、次の式の右辺を計算することにより、時刻tにおける移動体の位置などの予測値を算出する。
【数22】

ただし、Fは、移動体が等速直線運動をしているという運動モデルにおける状態遷移行列である。Fは、移動体が角速度ωで旋回運動をしているという運動モデルにおける状態遷移行列である。tは、モデル選択部132が算出した最新の推定位置などの時刻である。
この式は、追尾部130が算出した最新の推定位置などに基づいて、移動体が旋回していないと旋回判定部142が判定した場合は、等速直線運動モデルを用いて移動体の運動状態を外挿し、移動体が旋回していると旋回判定部142が判定した場合は、旋回モデルを用いて移動体の運動状態を外挿することにより、移動体の位置を予測することを意味する。
【0069】
図13は、この実施の形態における運動状態外挿部180の動作を説明するための図である。
【0070】
旋回判定部142は、ジャイロセンサ820がジャイロ角速度を観測するたびに、移動体が旋回しているか否かを判定するので、移動体が旋回しているか否かを旋回判定部142が判定する間隔は、一般に、モデル選択部132が推定位置などを算出する間隔よりも短い。このため、モデル選択部132が算出した最新の推定位置などの時刻tよりも後に、旋回判定部142による判定が変わる場合がある。例えば、この図のように、時刻tにおいて、移動体が旋回していないと旋回判定部142が判定していたが、時刻t以降は、移動体が旋回していると旋回判定部142が判定したとする。その場合、運動状態外挿部180は、例えば、次の式の右辺を計算することにより、時刻tにおける移動体の位置などを予測する。
【数23】

この式は、追尾部130が算出した時刻tにおける推定位置などに基づいて、等速直線運動モデルを用いて時刻tにおける推定位置などを算出し、算出した時刻tの推定位置などに基づいて、旋回運動モデルを用いて時刻tにおける推定することを意味している。
【0071】
なお、ジャイロ角速度のランダムな観測誤差を取り除くため、カルマンフィルタなどによって平滑化したジャイロ角速度に基づいて、運動状態外挿部180は、移動体の位置を予測する構成であってもよい。
【0072】
目標追尾装置100は、複数の異なる運動モデルで構成される追尾フィルタ131を用いて目標(移動体)の観測値から推定値を算出し、ジャイロの角速度から運動状態を判別して、運動状態に基づいて目標の将来位置を予測する。
運動状態判定部140は、ジャイロの角速度を追尾部130で算出した角速度を用いてバイアス補正し、バイアス補正後の角速度を用いて運動状態を判別する。
追尾部130は、運動状態から適切な運動モデルを選択し、推定値を算出する。
運動状態外挿部180は、推定値と運動状態に基づいて時間外挿する。
センサ観測位置から算出した角速度を用いて、ジャイロの角速度に生じるバイアス誤差を除去し、補正後の角速度を用いることで、より早く目標の運動変化を検出し、目標の運動に応じた適切な運動モデルに基づく精度の高い予測をすることができる。
【0073】
運動状態判定部140は、追尾部130から得られる推定位置からジャイロの角速度および追尾部の角速度のそれぞれで時間外挿して算出した予測値の差分を予測誤差共分散行列を用いたカイ二乗判定によって、同一とみなされない場合はジャイロの角速度に含まれるバイアス誤差推定を行う。
【0074】
運動状態判定部140は、ジャイロの角速度に含まれるバイアス誤差をカルマンフィルタによって推定する。
【0075】
運動状態判定部140は、ジャイロの角速度の中で運動性能データベースの性能限界値を超える値を除去する。
【0076】
運動状態判定部140は、ジャイロの角速度の観測時刻と追尾部の推定時刻が異なる場合、観測時刻と推定時刻の差を時間外挿することで、ジャイロ角速度の観測時刻に追尾推定値の時刻を合わせる。
【0077】
追尾部130は、運動状態判定部140で算出された角速度を用いてモデル推移確率を変更する。
【0078】
追尾部130は、運動状態判定部140で算出された角速度が大きい場合は旋回運動モデルもしくは加速度運動モデルへ変更する。
【0079】
運動状態外挿部180は、運動状態判定部140で算出された角速度を用いて時間外挿した位置を出力する。
【0080】
運動状態外挿部180は、運動状態判定部140で算出された角速度を平滑処理した値を用いて時間外挿した位置を出力する。
【0081】
運動状態外挿部180は、運動状態判定部140で旋回と判定された時刻までは等速直線運動モデルに基づく時間外挿を行い,旋回判定された時刻から所望の時刻までは前記運動状態判定部140で算出された角速度を用いて時間外挿した位置を出力する。
【0082】
追尾部130は、レーダもしくはGPSなどのセンサから得られる観測位置より複数の運動モデルに基づく追尾処理を実施して目標の推定位置を計算する。運動状態判定部140は、追尾部130で推定した角速度からジャイロセンサから得られる角速度のバイアス誤差を補正して、その角速度より目標の旋回を判定する。運動状態外挿部180は、運動フェーズに基づいた時間外挿によって将来位置を予測する。
これにより、目標が等速直線運動と仮定して将来位置を算出する場合と比較して、目標旋回時でも、位置予測精度を高くすることができる。また、ジャイロセンサから得られる角速度にバイアス誤差がある場合でも、位置予測精度を高くすることができる。
【0083】
予測装置(目標追尾装置100)は、位置観測装置(観測装置810)が観測した観測対象(移動体)の位置と、角速度観測装置(ジャイロセンサ820)が観測した上記観測対象の角速度(ジャイロ角速度)とに基づいて、上記観測対象の将来の位置を予測する。
上記予測装置(100)は、角速度誤差推定装置(角速度誤差推定部146)と、角速度補正装置(角速度補正部147)と、予測位置算出装置(モデル選択部132、運動状態外挿部180)とを有する。
上記角速度誤差推定装置(146)は、上記位置観測装置(810)が観測した位置に基づいて、上記角速度観測装置(820)が観測した角速度の誤差を推定する。
上記角速度補正装置(角速度補正部147)は、上記角速度誤差推定装置(146)が推定した誤差に基づいて、上記角速度観測装置(810)が観測した角速度を補正する。
上記予測位置算出装置(132,180)は、上記角速度補正装置(147)が補正した角速度に基づいて、上記観測対象の将来の位置を予測する。
角速度観測装置が観測した角速度の誤差を補正した精度の高い角速度に基づいて、観測対象の将来の位置を予測するので、観測対象が旋回している場合でも観測対象の将来の位置を高い精度で予測することができる。
【0084】
上記予測装置(100)は、角速度誤差記憶装置(バイアス補正値メモリ150)を有する。
上記角速度誤差推定装置(146)は、所定の条件を満たす場合に、上記角速度観測装置(820)が観測した角速度の誤差を推定する。
上記角速度誤差記憶装置(150)は、上記角速度誤差推定装置(146)が推定した誤差を記憶する。
上記角速度補正装置(147)は、上記角速度誤差記憶装置(150)が記憶した誤差に基づいて、上記角速度観測装置(820)が観測した角速度を補正する。
所定の条件を満たす場合のみ、角速度観測装置が観測した角速度の誤差を推定し、それ以外の場合は、角速度誤差記憶装置が記憶した誤差を用いて、角速度観測装置が観測した角速度の誤差を補正するので、例えば、位置観測装置が観測した観測位置の精度が低い場合に、角速度の誤差の推定精度が落ちるのを防ぐことができる。
【0085】
上記予測装置(100)は、追尾装置(追尾部130)と、条件判定装置(条件判定部145)とを有する。
上記追尾装置(130)は、上記位置観測装置(810)が観測した位置に基づいて、上記観測対象の角速度を推定する。
上記条件判定装置(145)は、上記角速度観測装置(820)が観測した角速度と上記追尾装置(130)が推定した角速度とに基づいて、所定の条件を満たすか否かを判定する。
上記角速度誤差推定装置(146)は、上記所定の条件を満たすと上記条件判定装置(145)が判定した場合に、上記角速度観測装置(820)が観測した角速度の誤差を推定する。
位置観測装置が観測した位置に基づいて観測対象の角速度を推定し、角速度の誤差を推定する条件を満たすか判定するので、例えば、観測対象の角速度の推定精度が低い場合に、角速度の誤差の推定精度が落ちるのを防ぐことができる。
【0086】
上記予測装置(100)は、推定角速度位置予測装置(推定角速度位置予測部144)と、観測角速度位置予測装置(観測角速度位置予測部143)とを有する。
上記推定角速度位置予測装置(144)は、上記追尾装置(130)が推定した角速度に基づいて、上記観測対象の将来の位置を予測する。
上記観測角速度位置予測装置(143)は、上記角速度観測装置(820)が観測した角速度に基づいて、上記観測対象の将来の位置を予測する。
上記条件判定装置(145)は、上記推定角速度位置予測装置(144)が予測した位置と、上記観測角速度位置予測装置(143)が予測した位置とに基づいて、上記所定の条件を満たすか否かを判定する。
推定した観測対象の角速度に基づいて予測した観測対象の位置と、観測した角速度に基づいて予測した観測対象の位置とに基づいて、角速度の誤差を推定する条件を満たすか判定するので、例えば、観測対象の位置の予測精度が低い場合に、角速度の誤差の推定精度が落ちるのを防ぐことができる。
【0087】
上記条件判定装置(145)は、上記推定角速度位置予測装置(144)が予測した位置と、上記観測角速度位置予測装置(143)が予測した位置との間に有意な差があるか否かを検定する。
上記角速度誤差推定装置(146)は、上記推定角速度位置予測装置(144)が予測した位置と、上記観測角速度位置予測装置(143)が予測した位置との間に有意な差があると上記条件判定装置(145)が判定した場合に、上記角速度観測装置(820)が観測した角速度の誤差を推定する。
2つの予測位置の間に有意な差があるか否かを検定して、角速度の誤差を推定する条件を満たすか判定するので、角速度の誤差を推定する必要がある場合のみ、角速度の誤差を推定することができ、計算負荷を減らすことができる。
【0088】
上記予測装置(100)は、直線位置推定装置(追尾フィルタ131)を有する。
上記直線位置推定装置(131)は、上記観測対象が直線運動をしているものとして、上記位置観測装置(810)が観測した位置に基づいて、上記観測対象の位置を推定する。
上記予測位置算出装置(132,180)は、上記観測対象が旋回していないと上記旋回判定装置(142)が判定した場合に、上記直線位置推定装置(131)が推定した位置に基づいて、上記観測対象の将来の位置を予測する。
観測対象が旋回していないと判定した場合は、直線運動モデルに基づいて推定した位置に基づいて、観測対象の将来の位置を予測するので、予測精度を高めることができる。
【0089】
上記予測装置(100)は、複数の所定角速度位置推定装置(追尾フィルタ131)を有する。
上記複数の所定角速度位置推定装置(131)は、それぞれ異なる所定の角速度で上記観測対象が旋回運動しているものとして、上記位置観測装置(810)が観測した位置に基づいて、上記観測対象の位置を推定する。
上記予測位置算出装置(132,180)は、上記角速度補正装置(147)が補正した角速度と、上記複数の所定角速度位置推定装置(131)が推定した位置とに基づいて、上記観測対象の位置を算出し、算出した上記観測対象の位置に基づいて、上記観測対象の将来の位置を予測する。
所定の角速度の旋回運動モデルに基づいて観測対象の位置を推定するので、計算負荷を減らすことができる。また、補正した角速度と、複数の所定角速度位置推定装置が推定した位置とに基づいて、観測対象の位置を算出するので、観測対象の位置を高い精度で推定することができ、観測対象の将来の位置を高い精度で予測することができる。
【0090】
上記予測装置(100)は、重み算出装置(モデル確率更新部214)を有する。
上記重み算出装置(214)は、上記角速度補正装置(147)が補正した角速度に基づいて、上記複数の所定角速度位置推定装置(131)それぞれの重み付け(モデル確率)を算出する。
上記予測位置算出装置(重付平均算出部215)は、上記重み算出装置(214)が算出した重み付けにしたがって、上記複数の所定角速度位置推定装置(131)それぞれが推定した位置を合成して、上記観測対象の位置を算出する。
補正した角速度に基づいて算出した重み付けに基づいて、複数の所定角速度位置推定装置が推定した位置を合成するので、観測対象の位置を高い精度で推定することができ、観測対象の将来の位置を高い精度で予測することができる。
【0091】
上記予測装置(100)は、旋回判定装置(旋回判定部142)を有する。
上記旋回判定装置(142)は、上記角速度補正装置(147)が補正した角速度に基づいて、上記観測対象(移動体)が旋回しているか否かを判定する。
上記予測位置算出装置(132,180)は、上記旋回判定装置(142)が判定した結果に基づいて、上記観測対象の将来の位置を予測する。
旋回判定装置の判定結果に基づいて、観測対象の将来の位置を予測するので、観測対象の将来の位置を高い精度で予測することができる。
【0092】
上記予測位置算出装置(フィルタ選択部)は、上記角速度補正装置(147)が補正した角速度に基づいて、上記複数の所定角速度位置推定装置(131)のなかから、採用する所定角速度位置推定装置(131)を選択し、選択した所定角速度位置推定装置(131)が推定した位置に基づいて、上記観測対象の将来の位置を算出する。
補正した角速度に基づいて、複数の所定角速度位置推定装置が推定した位置のなかから観測対象の位置を選択するので、観測対象の位置を高い精度で推定することができ、観測対象の将来の位置を高い精度で予測することができる。
【0093】
予測システム(追尾システム800)は、観測対象の位置を観測する位置観測装置(810)と、上記観測対象の角速度を観測する角速度観測装置(820)と、予測装置(100)とを有する。
角速度観測装置が観測した角速度の誤差を補正した精度の高い角速度に基づいて、観測対象の将来の位置を予測するので、観測対象が旋回している場合でも観測対象の将来の位置を高い精度で予測することができる。
【0094】
上記予測装置(100)が、位置観測装置(810)が観測した観測対象の位置と、角速度観測装置(820)が観測した上記観測対象の角速度とに基づいて、観測対象の将来の位置を予測する予測方法は、以下の工程を有する。
上記角速度誤差推定装置(146)が、上記位置観測装置(810)が観測した位置に基づいて、上記角速度観測装置(820)が観測した角速度の誤差を推定する。
上記角速度補正装置(147)が、上記角速度誤差推定装置(146)が推定した誤差に基づいて、上記角速度観測装置(820)が観測した角速度を補正する。
上記予測位置算出装置(132,180)が、上記角速度補正装置(147)が補正した角速度に基づいて、上記観測対象の将来の位置を予測する。
角速度観測装置が観測した角速度の誤差を補正した精度の高い角速度に基づいて、観測対象の将来の位置を予測するので、観測対象が旋回している場合でも観測対象の将来の位置を高い精度で予測することができる。
【0095】
複数の運動モデルを持つ追尾装置から適切な運動モデルを選択するので、観測対象の現在の位置を高い精度で推定し、観測対象の将来の位置を高い精度で予測することができる。センサで観測される位置と追尾予測位置との差(残差)を用いて適切な運動モデルを選択する場合と比べて、サンプル数が必要なく、迅速に運動モデルの選択をすることができる。
【0096】
実施の形態2.
実施の形態2について、図14を用いて説明する。
なお、実施の形態1と共通する部分については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0097】
図14は、この実施の形態における追尾システム800の構成の一例を示すブロック構成図である。
【0098】
目標追尾装置100は、実施の形態1で説明した構成に加えて、更に、地図記憶部170を有する。地図記憶部170は、移動体が移動する領域の形状など、移動体の運動状態を推定する手がかりとなる情報(地図データ)を記憶している。例えば、移動体が車両である場合、地図記憶部170は、道路の形状を記憶している。あるいは、移動体が航空機である場合、地図記憶部170は、飛行計画経路を記憶している。例えば、直線道路上や、飛行計画経路の直線区間であれば、移動体は直線運動することが予想される。
【0099】
バイアス補正部141の条件判定部145(直線判定装置)は、モデル選択部132が算出した移動体の推定位置を、地図記憶部170が記憶した情報と照合して、移動体が直線運動することが予想される直線区間内に存在するか否かを判定する。条件判定部145は、直線区間内に移動体がある場合、ジャイロ角速度のバイアス誤差を推定すると判定する。
【0100】
バイアス補正部141の角速度誤差推定部146は、ジャイロ角速度のバイアス誤差を推定すると条件判定部145が判定した場合、ジャイロセンサ820が観測したジャイロ角速度のバイアス誤差を推定する。推定の方式は、実施の形態1で説明したカルマンフィルタを用いた方式でもよいが、この実施の形態では、異なる方式について説明する。
角速度誤差推定部146は、ジャイロセンサ820が観測したジャイロ角速度の平均値を算出し、追尾フィルタ131が推定した追尾角速度の平均値を算出し、算出した平均値の差を算出することにより、ジャイロ角速度のバイアス誤差を得る。角速度誤差推定部146は、例えば、次の式の右辺を計算することにより、ジャイロ角速度のバイアス誤差Δωを算出する。
【数24】

ただし、Iは、直線区間内に移動体がある間に、ジャイロセンサ820がジャイロ角速度ωを観測した数である。Jは、直線区間内に移動体がある間に、追尾フィルタ131が追尾角速度ωを推定した数である。
すなわち、この式は、直線区間内に移動体がある間に、ジャイロセンサ820が観測したジャイロ角速度ωを平均し、追尾フィルタ131が推定した追尾角速度ωを平均して、2つの平均の差を取ることにより、ジャイロ角速度のバイアス誤差Δωを算出することを意味する。
【0101】
モデル選択部132の推移確率更新部212は、移動体の推定位置を、地図記憶部170が記憶した情報と照合して、移動体が存在する区間を判定する。直線区間内に移動体があると判定した場合、推移確率更新部212は、推移確率記憶部211が記憶した推移確率を更新して、直線運動モデルへの推移確率を高くする。また、推移確率更新部212は、カーブ区間内に移動体があると判定した場合、推移確率更新部212は、推移確率記憶部211が記憶した推移確率を更新して、旋回モデルへの推移確率を高くする。
【0102】
なお、推移確率を介さずにモデル確率を更新する構成であってもよい。例えば、直線区間内に移動体があると判定した場合、モデル選択部132のモデル確率更新部214は、直線運動モデルのモデル確率を1、それ以外の運動モデルのモデル確率を0にする。また、カーブ区間内に移動体があると判定した場合、モデル確率更新部214は、直線運動モデルのモデル確率を0、旋回運動モデルのモデル確率を1にする。
【0103】
追尾部130は、地図データを参照し、直線路では等速直線運動モデル、カーブ路では旋回運動モデルもしくは加速度運動モデルへ変更する。
【0104】
上記予測装置(目標追尾装置100)は、直線判定装置(条件判定部145)を有する。
上記直線判定装置(145)は、上記位置観測装置(観測装置810)が観測した位置に基づいて、上記観測対象(移動体)が直線運動をしているか否かを判定する。
上記角速度誤差推定装置(角速度誤差推定部146)は、上記観測対象が直線運動をしていると上記直線判定装置(145)が判定した場合に、上記角速度観測装置(ジャイロセンサ820)が観測した角速度の誤差を推定する。
観測対象が直線運動をしていると判定した場合に、角速度観測装置が観測した角速度の誤差を推定するので、角速度の誤差を高い精度で推定することができ、観測対象の将来の位置を高い精度で予測することができる。
【0105】
実施の形態3.
実施の形態3について、図15〜図17を用いて説明する。
なお、実施の形態1及び実施の形態2と共通する部分については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0106】
図15は、この実施の形態における追尾システム800の構成の一例を示すブロック構成図である。
追尾部130は、1つの追尾フィルタ131bを有する。追尾フィルタ131bは、等速直線運動モデルに基づいて、移動体の位置などを推定する。追尾フィルタ131bは、例えば、α−βフィルタ、カルマンフィルタやその他のフィルタなどである。追尾フィルタ131bとしてα−βフィルタを使うことにより、カルマンフィルタなどよりも計算負荷を軽くすることができる。
【0107】
図16は、この実施の形態におけるバイアス補正部141の構成の一例を示す詳細ブロック図である。
観測角速度位置予測部143は、追尾フィルタ131bが推定した追尾位置などと、ジャイロセンサ820が観測したジャイロ角速度とに基づいて、移動体がジャイロ角速度で旋回運動をしているという運動モデルにしたがって、移動体の将来の位置を予測する。
バイアス補正部141は、推定角速度位置予測部144に代えて、直線位置予測部148を有する。直線位置予測部148は、追尾フィルタ131bが推定した追尾位置などに基づいて、移動体が等速直線運動をしているという運動モデルにしたがって、移動体の将来の位置を予測する。
【0108】
図17は、この実施の形態における観測角速度位置予測部143及び直線位置予測部148が予測する予測位置631,633の関係の一例を示す図である。
観測位置611a〜611dは、時刻tまでの時点で、観測装置810が観測した移動体600の観測位置を表わす。このうち、観測位置611dは、時刻tに観測した最も新しい観測位置である。
追尾部130は、観測位置611a〜611dに基づいて、時刻tにおける移動体600の推定位置621を算出する。
観測角速度位置予測部143は、追尾部130が推定した推定位置621などに基づいて、時刻tにおける移動体600の推定位置622などを算出する。
観測角速度位置予測部143は、算出した推定位置622などと、ジャイロ角速度とに基づいて、時刻tにおける移動体600の予測位置631を算出する。
直線位置予測部148は、追尾部130が推定した推定位置621などに基づいて、時刻tにおける移動体600の予測位置633を算出する。
【0109】
条件判定部145は、カイ二乗検定などにより、観測角速度位置予測部143が算出した予測位置631と、直線位置予測部148が算出した予測位置633との間に、有意な差があるか否かを判定する。2つの予測位置631,633の間に有意な差がある場合、条件判定部145は、ジャイロ角速度の誤差を推定すると判定する。
【0110】
角速度誤差推定部146は、ジャイロ角速度の誤差を推定すると条件判定部145が判定した場合に、ジャイロ角速度の誤差を推定する。角速度誤差推定部146は、例えば、ジャイロセンサ820が観測したジャイロ角速度ωをそのまま、ジャイロ角速度のバイアス誤差Δωの観測値とする。すなわち、移動体が直線運動をしていると仮定して、ジャイロ角速度のバイアス誤差Δωを推定する。
【0111】
移動体が等速直線運動をしていない場合、追尾フィルタ131bの運動モデルと実際の移動体の運動とが合致していないので、追尾フィルタ131bによる推定の精度が落ち、推定の誤差分散が大きくなる。予測位置631と予測位置633との間には有意な差があるとは言えなくなるので、条件判定部145は、ジャイロ角速度の誤差を推定しないと判定する。
逆に言えば、ジャイロ角速度の誤差を推定すると条件判定部145が判定した場合、追尾フィルタ131bの運動モデルが実際の移動体の運動に合致していることを意味するから、移動体は、等速直線運動をしていると考えられる。
【0112】
角速度誤差推定部146は、例えば、カルマンフィルタを用いて、ジャイロ角速度のバイアス誤差Δωの推定値を算出する。角速度誤差推定部146は、例えば、次の式で定義される観測モデルを用いる。
【数25】

【0113】
なお、条件判定部145は、実施の形態2で説明したように、地図記憶部170が記憶した情報に基づいて、直線区間内に移動体がいるか否かを判定する構成であってもよい。条件判定部145は、直線区間内に移動体がいると判定した場合、ジャイロ角速度の誤差を推定すると判定する。
【0114】
目標追尾装置100は、等速直線運動モデルの追尾フィルタ131bを用いて目標(移動体)の観測値から推定値を算出し、ジャイロの角速度から運動状態を判別して、運動状態に基づいて目標の将来位置を予測する。
運動状態判定部140は、ジャイロの角速度を追尾部130から得られる推定値を用いてバイアス補正し、バイアス補正後の角速度を用いて運動状態を判別する。
追尾部130は、運動状態から等速直線運動モデルに基づいて推定値を算出する。
運動状態外挿部180は、推定値と運動状態に基づいて時間外挿する。
【0115】
追尾部130は、追尾フィルタ131bとしてα−βフィルタを用いる。
【0116】
運動状態判定部140は、追尾部130から得られる推定位置からジャイロの角速度を用いて時間外挿して算出した予測値と等速直線運動と仮定して時間外挿して算出した予測値の差分を予測誤差分散によるカイ二乗判定によって、同一とみなされない場合はジャイロの角速度に含まれるバイアス誤差推定を行う。
【0117】
運動状態判定部140は、地図データを用いて目標が直線路に存在している場合はバイアス補正処理を実施し、それ以外の経路ではバイアス補正処理を行わない。
【0118】
実施の形態4.
実施の形態4について、図18を用いて説明する。
なお、実施の形態1乃至実施の形態3と共通する部分については、同一の符号を付し、説明を省略する。
【0119】
図18は、この実施の形態における予測システム801の構成の一例を示すシステム構成図である。
予測システム801は、複数の観測対象(移動体)の将来の位置を予測して、観測対象同士が衝突する危険があるか否かを判定する。
【0120】
予測システム801は、位置観測装置811を有する。位置観測装置811は、観測対象の位置を観測する。位置観測装置811は、例えばレーダやGPSなどである。位置観測装置811が観測した位置を観測位置と呼ぶ。
【0121】
予測システム801は、角速度観測装置821を有する。角速度観測装置821は、観測対象の角速度を観測する。角速度観測装置821は、例えばジャイロスコープである。角速度観測装置821が観測した角速度を観測角速度と呼ぶ。
【0122】
予測システム801は、予測装置101を有する。予測装置101は、位置観測装置811が観測した観測位置や角速度観測装置821が観測した観測角速度に基づいて、観測対象の現在位置や運動状態を推定する。予測装置101は、推定した結果に基づいて、観測対象の将来の位置を予測する。予測装置101は、予測した結果に基づいて、観測対象同士が衝突する危険があるか否かを判定する。
予測装置101は、例えば、コンピュータである。
予測装置101は、図示していない記憶装置を有する。記憶装置は、コンピュータプログラムやデータなどを記憶する。記憶装置は、例えば、揮発性メモリ(RAM)、不揮発性メモリ(ROM)、磁気ディスク装置、光学ディスク装置などである。
予測装置101は、図示していない処理装置を有する。処理装置は、記憶装置が記憶したコンピュータプログラムを実行することにより、記憶装置が記憶したデータを処理し、予測装置101全体を制御する。
予測装置101は、図示していない入力装置を有する。入力装置は、予測装置101の外部からデータ、信号、操作などの情報を入力し、処理装置が処理するデータに変換する。入力装置が変換したデータは、処理装置が直接処理してもよいし、記憶装置が一時的に記憶してもよい。
予測装置101は、図示していない出力装置を有する。出力装置は、処理装置が処理したデータや記憶装置が記憶したデータなどを、データ、信号、画像、音声など予測装置101の外部に出力できる形式に変換し、外部に出力する。
以下に説明する予測装置101の機能ブロックは、記憶装置が記憶したコンピュータプログラムを、処理装置が実行することにより、実現される。なお、予測装置101は、一台のコンピュータであってもよいし、予測装置101の一または複数の機能ブロックを実現するコンピュータが複数集まったものであってもよい。
なお、予測装置101の機能ブロックは、コンピュータにより実現するのではなく、アナログ回路やデジタル回路などの電子回路により実現してもよいし、機械的構成など電気的構成以外の構成により実現してもよい。
【0123】
予測装置101は、追尾装置231を有する。追尾装置231は、処理装置がデータを処理することにより、位置観測装置811が観測した観測位置に基づいて、観測対象の位置、速度、角速度など観測対象の現在の運動状態を推定する。追尾装置231が推定した観測対象の現在の運動状態を表わす数値を推定値と呼ぶ。追尾装置231は、例えば、カルマンフィルタを用いて、推定値を推定する。また、追尾装置231は、観測対象の現在の運動状態の推定の精度を推定する。追尾装置231は、例えば、推定値の誤差の期待値の分散や共分散などを算出する。
【0124】
予測装置101は、角速度誤差推定装置246を有する。角速度誤差推定装置246は、処理装置がデータを処理することにより、角速度観測装置821が観測した観測角速度と、追尾装置231が推定した角速度の推定値とに基づいて、観測角速度の誤差を推定する。角速度誤差推定装置246は、例えば、角速度観測装置821が観測した観測角速度と、追尾装置231が推定した角速度の推定値との差を観測値とし、カルマンフィルタなどにより、観測角速度のバイアス誤差やゲイン誤差などを推定する。角速度誤差推定装置246が推定した観測角速度の誤差を、誤差推定値と呼ぶ。
なお、角速度観測装置821が観測角速度を観測した時刻と、追尾装置231が角速度の推定値を推定する根拠となった観測位置を位置観測装置811が観測した時刻とが異なる場合、角速度誤差推定装置246は、例えば、位置観測装置811が観測位置を観測した時刻を基準として、その前後において追尾装置231が観測した観測角速度を平滑処理することにより、位置観測装置811が観測位置を観測した時刻における観測角速度を算出する。平滑処理により算出された観測角速度を平滑角速度と呼ぶ。角速度誤差推定装置246は、算出した平滑角速度と、追尾装置231が推定した角速度の推定値との差に基づいて、観測角速度の誤差を推定する。なお、角速度誤差推定装置246は、実施の形態1で説明した方式で、観測時刻を合わせる構成であってもよい。
【0125】
予測装置101は、条件判定装置245を有する。条件判定装置245は、処理装置がデータを処理することにより、追尾装置231が推定した推定の精度に基づいて、誤差推定値を推定をするか否かを判定する。追尾装置231が推定した角速度の推定値の精度が低い場合、それを基準として誤差推定値を推定すると、かえって誤差推定値の精度が落ちる場合があるので、条件判定装置245は、誤差推定値を推定しないと判定する。条件判定装置245は、例えば、追尾装置231が算出した誤差分散の値を所定の閾値と比較して、誤差分散の値が閾値より小さい場合に、誤差推定値を推定すると判定する。
角速度誤差推定装置246は、条件判定装置245の判定結果に基づき、誤差推定値を推定すると条件判定装置245が判定した場合に、観測角速度の誤差を推定する。
【0126】
予測装置101は、角速度誤差記憶装置250を有する。角速度誤差記憶装置250は、記憶装置がデータを記憶することにより、角速度誤差推定装置246が推定した誤差推定値を記憶する。
【0127】
なお、条件判定装置245を設けず、角速度誤差推定装置246は、常に、誤差推定値を推定する構成であってもよい。角速度誤差推定装置246は、追尾装置231が推定した推定精度に基づいて、カルマンフィルタで用いる観測誤差分散共分散行列の値を変化させる構成であってもよい。角速度誤差推定装置246は、例えば、追尾装置231が算出した誤差分散の値を、観測誤差分散共分散行列の要素の値とする。
【0128】
予測装置101は、角速度補正装置247を有する。角速度補正装置247は、処理装置がデータを処理することにより、角速度誤差記憶装置250が記憶した誤差推定値を使って、角速度観測装置821が観測した観測角速度の誤差を補正する。角速度補正装置247は、例えば、観測角速度から誤差推定値を差し引いた差を算出することにより、誤差を補正した観測角速度を得る。角速度補正装置247が誤差を補正した観測角速度を、補正済角速度と呼ぶ。
【0129】
予測装置101は、予測位置算出装置280を有する。予測位置算出装置280は、処理装置がデータを処理することにより、追尾装置231が推定した観測対象の現在の運動状態と、角速度補正装置247が補正した補正済角速度とに基づいて、観測対象の将来の運動状態を予測する。予測位置算出装置280が予測した観測対象の将来の運動状態を表わす数値を予測値と呼ぶ。
【0130】
予測装置101は、衝突危険判定装置290を有する。衝突危険判定装置290は、処理装置がデータを処理することにより、予測位置算出装置280が予測した観測対象の将来の運動状態に基づいて、複数の観測対象同士が衝突する危険があるか否かを判定する。衝突危険判定装置290は、衝突する危険があると判定した場合、そのことを警告する警告メッセージを出力する。衝突危険判定装置290が出力した警告メッセージは、例えば、管制画面に表示され、あるいは、観測対象に対して送信されるなどして、衝突の危険を回避する行動を促す。
【0131】
上記予測装置101は、衝突危険判定装置290を有し、複数の観測対象それぞれについて、上記観測対象の将来の位置を予測する。
上記衝突危険判定装置290は、上記予測位置算出装置280が予測した位置に基づいて、上記複数の観測対象が衝突する危険があるか否かを判定する。
観測対象の将来の位置を高い精度で予測するので、衝突の危険を高い精度で判定することができる。
【0132】
上記コンピュータプログラムは、コンピュータが実行することにより、上記コンピュータが予測装置101として機能する。
角速度観測装置が観測した角速度の誤差を補正した精度の高い角速度に基づいて、観測対象の将来の位置を予測するので、観測対象が旋回している場合でも観測対象の将来の位置を高い精度で予測することができる予測装置を実現することができる。
【符号の説明】
【0133】
100 目標追尾装置、101 予測装置、130 追尾部、131 追尾フィルタ、132 モデル選択部、140 運動状態判定部、141 バイアス補正部、142 旋回判定部、143 観測角速度位置予測部、144 推定角速度位置予測部、145 条件判定部、146 角速度誤差推定部、147 角速度補正部、148 直線位置予測部、150 バイアス補正値メモリ、160 運動性能記憶部、170 地図記憶部、180 運動状態外挿部、191 最大角速度取得部、192 異常値判定部、193 閾値比較部、195 回数判定部、196 判定結果出力部、211 推移確率記憶部、212 推移確率更新部、213 モデル確率記憶部、214 モデル確率更新部、215 重付平均算出部、231 追尾装置、245 条件判定装置、246 角速度誤差推定装置、247 角速度補正装置、250 角速度誤差記憶装置、280 予測位置算出装置、290 衝突危険判定装置、600 移動体、606 真の角速度、611 観測位置、616 ジャイロ角速度、621,622 推定位置、626 追尾角速度、631〜633 予測位置、800 追尾システム、801 予測システム、810 観測装置、811 位置観測装置、820 ジャイロセンサ、821 角速度観測装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置観測装置が観測した観測対象の位置と、角速度観測装置が観測した上記観測対象の角速度とに基づいて、上記観測対象の将来の位置を予測する予測装置において、
上記予測装置は、角速度誤差推定装置と、角速度補正装置と、予測位置算出装置とを有し、
上記角速度誤差推定装置は、上記位置観測装置が観測した位置に基づいて、上記角速度観測装置が観測した角速度の誤差を推定し、
上記角速度補正装置は、上記角速度誤差推定装置が推定した誤差に基づいて、上記角速度観測装置が観測した角速度を補正し、
上記予測位置算出装置は、上記角速度補正装置が補正した角速度に基づいて、上記観測対象の将来の位置を予測することを特徴とする予測装置。
【請求項2】
上記予測装置は、角速度誤差記憶装置を有し、
上記角速度誤差推定装置は、所定の条件を満たす場合に、上記角速度観測装置が観測した角速度の誤差を推定し、
上記角速度誤差記憶装置は、上記角速度誤差推定装置が推定した誤差を記憶し、
上記角速度補正装置は、上記角速度誤差記憶装置が記憶した誤差に基づいて、上記角速度観測装置が観測した角速度を補正することを特徴とする請求項1に記載の予測装置。
【請求項3】
上記予測装置は、追尾装置と、条件判定装置とを有し、
上記追尾装置は、上記位置観測装置が観測した位置に基づいて、上記観測対象の角速度を推定し、
上記条件判定装置は、上記角速度観測装置が観測した角速度と上記追尾装置が推定した角速度とに基づいて、所定の条件を満たすか否かを判定し、
上記角速度誤差推定装置は、上記所定の条件を満たすと上記条件判定装置が判定した場合に、上記角速度観測装置が観測した角速度の誤差を推定することを特徴とする請求項2に記載の予測装置。
【請求項4】
上記予測装置は、推定角速度位置予測装置と、観測角速度位置予測装置とを有し、
上記推定角速度位置予測装置は、上記追尾装置が推定した角速度に基づいて、上記観測対象の将来の位置を予測し、
上記観測角速度位置予測装置は、上記角速度観測装置が観測した角速度に基づいて、上記観測対象の将来の位置を予測し、
上記条件判定装置は、上記推定角速度位置予測装置が予測した位置と、上記観測角速度位置予測装置が予測した位置とに基づいて、上記所定の条件を満たすか否かを判定することを特徴とする請求項3に記載の予測装置。
【請求項5】
上記条件判定装置は、上記推定角速度位置予測装置が予測した位置と、上記観測角速度位置予測装置が予測した位置との間に有意な差があるか否かを検定し、
上記角速度誤差推定装置は、上記推定角速度位置予測装置が予測した位置と、上記観測角速度位置予測装置が予測した位置との間に有意な差があると上記条件判定装置が判定した場合に、上記角速度観測装置が観測した角速度の誤差を推定することを特徴とする請求項4に記載の予測装置。
【請求項6】
上記予測装置は、直線判定装置を有し、
上記直線判定装置は、上記位置観測装置が観測した位置に基づいて、上記観測対象が直線運動をしているか否かを判定し、
上記角速度誤差推定装置は、上記観測対象が直線運動をしていると上記直線判定装置が判定した場合に、上記角速度観測装置が観測した角速度の誤差を推定することを特徴とする請求項2乃至請求項5のいずれかに記載の予測装置。
【請求項7】
上記予測装置は、旋回判定装置を有し、
上記旋回判定装置は、上記角速度補正装置が補正した角速度に基づいて、上記観測対象が旋回しているか否かを判定し、
上記予測位置算出装置は、上記旋回判定装置が判定した結果に基づいて、上記観測対象の将来の位置を予測することを特徴とする請求項1乃至請求項6のいずれかに記載の予測装置。
【請求項8】
上記予測装置は、直線位置推定装置を有し、
上記直線位置推定装置は、上記観測対象が直線運動をしているものとして、上記位置観測装置が観測した位置に基づいて、上記観測対象の位置を推定し、
上記予測位置算出装置は、上記観測対象が旋回していないと上記旋回判定装置が判定した場合に、上記直線位置推定装置が推定した位置に基づいて、上記観測対象の将来の位置を予測することを特徴とする請求項7に記載の予測装置。
【請求項9】
上記予測装置は、複数の所定角速度位置推定装置を有し、
上記複数の所定角速度位置推定装置は、それぞれ異なる所定の角速度で上記観測対象が旋回運動しているものとして、上記位置観測装置が観測した位置に基づいて、上記観測対象の位置を推定し、
上記予測位置算出装置は、上記角速度補正装置が補正した角速度と、上記複数の所定角速度位置推定装置が推定した位置とに基づいて、上記観測対象の位置を算出し、算出した上記観測対象の位置に基づいて、上記観測対象の将来の位置を予測することを特徴とする請求項1乃至請求項8のいずれかに記載の予測装置。
【請求項10】
上記予測装置は、重み算出装置を有し、
上記重み算出装置は、上記角速度補正装置が補正した角速度に基づいて、上記複数の所定角速度位置推定装置それぞれの重み付けを算出し、
上記予測位置算出装置は、上記重み算出装置が算出した重み付けにしたがって、上記複数の所定角速度位置推定装置それぞれが推定した位置を合成して、上記観測対象の位置を算出することを特徴とする請求項9に記載の予測装置。
【請求項11】
上記予測位置算出装置は、上記角速度補正装置が補正した角速度に基づいて、上記複数の所定角速度位置推定装置のなかから、採用する所定角速度位置推定装置を選択し、選択した所定角速度位置推定装置が推定した位置に基づいて、上記観測対象の将来の位置を算出することを特徴とする請求項9または請求項10に記載の予測装置。
【請求項12】
上記予測装置は、衝突危険判定装置を有し、複数の観測対象それぞれについて、上記観測対象の将来の位置を予測し、
上記衝突危険判定装置は、上記予測位置算出装置が予測した位置に基づいて、上記複数の観測対象が衝突する危険があるか否かを判定することを特徴とする請求項1乃至請求項11のいずれかに記載の予測装置。
【請求項13】
観測対象の位置を観測する位置観測装置と、上記観測対象の角速度を観測する角速度観測装置と、請求項1乃至請求項12のいずれかに記載の予測装置とを有することを特徴とする予測システム。
【請求項14】
コンピュータが実行することにより、上記コンピュータが請求項1乃至請求項12のいずれかに記載の予測装置として機能することを特徴とするコンピュータプログラム。
【請求項15】
角速度誤差推定装置と、角速度補正装置と、予測位置算出装置とを有する予測装置が、位置観測装置が観測した観測対象の位置と、角速度観測装置が観測した上記観測対象の角速度とに基づいて、観測対象の将来の位置を予測する予測方法において、
上記角速度誤差推定装置が、上記位置観測装置が観測した位置に基づいて、上記角速度観測装置が観測した角速度の誤差を推定し、
上記角速度補正装置が、上記角速度誤差推定装置が推定した誤差に基づいて、上記角速度観測装置が観測した角速度を補正し、
上記予測位置算出装置が、上記角速度補正装置が補正した角速度に基づいて、上記観測対象の将来の位置を予測することを特徴とする予測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2011−220727(P2011−220727A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−87516(P2010−87516)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】