説明

二値化処理方法及び画像処理装置

【課題】
照明環境が変動しても、背景の輝度が常に規定の輝度に制御された画像を得ることができるとともに、前記画像は背景とワークとのコントラストが高い状態とすることができるので、二値化により背景とワークを安定的に分離できる二値化処理方法及び画像処理装置を提供する。
【解決手段】
S20では、所定シャッタ時間で撮像された撮像画像における背景領域における背景基準計測点の現在の輝度を取得する。S30では、背景基準計測点の現在の輝度、目標背景輝度、定数を使用して、本撮影のシャッタ時間を算出する。S40では、算出した本撮影のシャッタ時間でカメラによりワーク台、載置板及びワークを撮像する。S50では、S40で取得した撮像画像を予め準備段階で設定した二値化閾値で二値化する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二値化処理方法及び画像処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ワークの外観検査や種類の判定を行う画像処理装置では、ワークが固定されておらず、ワークの位置が移動する場合には、まず始めに撮像画像のどこがワークでどこが背景かを認識する処理を行う。一般的には、ワークと背景の中間の輝度を閾値として二値化を行うことでワーク背景を分離する。
【0003】
二値化を行う場合、閾値の取り方によって二値化後の結果、すなわち二値化画像が変わる。図7に示すようにワーク台100上に載置されたワークWを、モノクロカメラ110で、256階調で撮像した場合、図8(a)に示すように適正露出で撮影された画像を閾値140で二値化すると、図8(b)に示すようにうまくワークと背景を分離できる。図8(b)において、ハッチング領域は、二値化により輝度値が「0」(黒)となった領域を示し、非ハッチング領域は、二値化により輝度値が「255」(白)となった領域を示している。
【0004】
一方、露出不足の状態で撮影された画像を同じ閾値140で二値化するとワークと背景を分離できない。図9(a)は露出不足で撮影された撮像画像を示している。図9(b)は図9(a)の撮像画像を閾値140で二値化した結果の画像を示している。なお、説明の便宜上、図9(b)では、背景の領域において、細かいハッチング領域の部分は、全体が、輝度値が「0」(黒)となった領域を示し、荒いハッチング領域の部分は、部分的に輝度値が「0」(黒)となった領域であって、黒点が点在している領域を示している。又、図9(b)において、ワークのハッチング領域は全て輝度値が「0」(黒)となった領域となっており、実際には前記背景の一様に輝度値が「0」(黒)となった領域との境界はなくなっているものと理解されたい。なお、図9(c)では、図9(a)の撮像画像を閾値110で二値化した結果、うまくワークと背景を分離できた画像を示している。
【0005】
上記のように背景とワークとをうまく分離できない場合、主な従来の対処法としては次の2つがある。
<対処法1>
対処法1は撮像画像毎に最適な二値化を設定する方法である。撮像画像毎に最適な二値化を設定する方法はいくつか提案されており、例えば、ヒストグラム法がある。ヒストグラム法は、画像の輝度を調べてヒストグラムを図10(a)に示すように作成し、ワークと背景の間の鞍部Kの輝度を閾値とすると、きれいにワークと背景とが分離できるとされている。なお、図10(a)において、横軸は輝度、縦軸は度数を表す。
【0006】
<対象法2>
対処法2は、外光を遮断する閉空間の中でワークを配置して照明条件を一定にすることにより、常に同じ明るさの画像を得られるようにする方法である。
【0007】
又、特許文献1では、K−means法(K−平均法)を使用して、画像の輝度データを所定個数のグループに分割するようにしている。そして、各グループの代表値を取得し、輝度レベルが隣り合う前記代表値の差が最大となる最大距離区間の中点を閾値に設定して、該閾値で画像を二値化処理する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2002−319021号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところが、対処法1のヒストグラム法では、図10(b)に示すようにいつも明確な鞍部Kができるとは限らず、画像処理装置が自動で判断するのは困難な場合がある。このように撮像画像に合わせた最適な閾値設定で二値化処理を行う方法は、常に適切に設定できるとは限らず、コンピュータで自動処理するには非常に高度な技術が要求される。
【0010】
又、一般に産業用カメラは、露出計や自動露出制御機構を持たないため、照明の明るさの変動や外乱光の影響で、ワークと背景を分離する二値化処理に失敗することがある。
又、対処法2では、ワークを撮像する場合、閉空間が必要であるため、閉空間の設置場所などの制約が発生し、又、照度を一定にするための照明条件を維持するために、一定期間毎に照明ランプ等の光源を交換しなければならない等、照明に係るコストも大きくなる問題がある。
【0011】
又、特許文献1のK−means法では、最初のグループ(すなわち、クラスタ)を設定するときの初期値によって、結果が依存することが知られており、異なる初期値設定により異なる結果の二値化画像となってしまう問題がある。又、前記初期値の設定には、確実な方法がない。
【0012】
本発明の目的は、上記課題を解決することができるとともに、照明環境が変動しても、背景の輝度が常に規定の輝度に制御された画像を得ることができるとともに、前記画像は背景とワークとのコントラストが高い状態とすることができるので、二値化により背景とワークを安定的に分離できる二値化処理方法及び画像処理装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記問題点を解決するために、請求項1の発明は、所定シャッタ時間で撮影されたカメラの撮像画像における輝度をpとし、任意のシャッタ時間Tvのときの輝度をVとしたとき、下記式(イ)、式(ロ)が成立することを利用して、
V=A・Tv+I ……(イ)、A=m・p+n ……(ロ)
(なお、Iは、カメラの撮像画像における暗電流時の輝度、Aは係数であり、m,nは前記所定シャッタ時間において定まる定数である。)
前記所定シャッタ時間で得た撮像画像を基に得られた輝度I、定数m,nをカメラ固有値として第1記憶手段に記憶する第1段階と、前記カメラのシャッタ速度を変えて第1撮影対象物と第2撮影対象物とを同時に複数回撮影した複数の撮像画像に基づき、第1撮影対象物に設けられた基準部位の特定画素領域の目標背景輝度と、第2撮影対象物の輝度との中間値を二値化閾値として第2記憶手段に記憶する第2段階と、前記所定シャッタ時間で、前記カメラにより第1撮影対象物と第2撮影対象物とを同時に撮影して得られた撮像画像における基準部位の特定画素領域のプレ撮影輝度を取得する第3段階と、前記プレ撮影輝度を前記pとし、前記目標背景輝度を前記Vとし、かつ、輝度I、定数m,nを使用して、式(イ)、式(ロ)に基づいてシャッタ時間Tvを算出する第4段階と、第4段階で算出したシャッタ時間Tvで前記カメラで第1撮影対象物と第2撮影対象物とを撮像する第5段階と、第5段階で取得した撮像画像を前記二値化閾値で二値化する第6段階を含む二値化処理方法を要旨としている。
【0014】
請求項2の発明は、請求項1において、前記第1撮影対象物は、ワークを載置するワーク台であり、前記第2撮影対象物は前記ワークであることを特徴とする。
請求項3の発明は、所定シャッタ時間で撮影されたカメラの撮像画像における輝度をpとし、任意のシャッタ時間Tvのときの輝度をVとしたとき、下記式(イ)、式(ロ)が成立することを利用して、
V=A・Tv+I ……(イ)、A=m・p+n ……(ロ)
(なお、Iは、カメラの撮像画像における暗電流時の輝度、Aは係数であり、m,nは前記所定シャッタ時間において定まる定数である。)
前記所定シャッタ時間で得た撮像画像を基に得られた輝度I、定数m,nをカメラ固有値として記憶する第1記憶手段と、前記カメラのシャッタ速度が変えられて前記第1撮影対象物と第2撮影対象物とを同時に複数回撮影された複数の撮像画像に基づいて得られた基準部位の特定画素領域の目標背景輝度と、第2撮影対象物の輝度との中間値を二値化閾値として記憶する第2記憶手段と、前記所定シャッタ時間で、前記カメラにより前記第1撮影対象物と第2撮影対象物とを同時に撮影して得られた撮像画像における前記基準部位の特定画素領域のプレ撮影輝度を取得する第1取得手段と、前記プレ撮影輝度を前記pとし、前記目標背景輝度を前記Vとして、式(イ)、式(ロ)に基づいてシャッタ時間Tvを算出する算出手段と、前記シャッタ時間Tvで前記カメラを撮像させて第1撮影対象物と第2撮影対象物との撮像画像を取得する第2取得手段と、前記第2取得手段が取得した撮像画像を前記二値化閾値で二値化する二値化手段を含む画像処理装置を要旨としている。
【0015】
請求項4の発明は、請求項3において、前記第1撮影対象物は、ワークを載置するワーク台であり、前記第2撮影対象物は前記ワークであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1の発明によれば、照明環境が変動しても、背景の輝度が常に規定の輝度に制御された画像を得ることができるとともに、前記画像は背景とワークとのコントラストが高い状態とすることができるので、二値化により背景とワークを安定的に分離できる二値化処理方法を提供できる。
【0017】
請求項2の発明によれば、ワークとワーク台との撮像画像を安定的に分離できる二値化処理方法となる。
請求項3の発明によれば、照明環境が変動しても、背景の輝度が常に規定の輝度に制御された画像を得ることができるとともに、前記画像は背景とワークとのコントラストが高い状態とすることができるので、二値化により背景とワークを安定的に分離できる画像処理装置を提供できる。
【0018】
請求項4の発明によれば、ワークとワーク台との撮像画像を安定的に分離できる画像処理装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本実施形態の画像処理装置の全体概略図。
【図2】二値化処理のフローチャート。
【図3】画像処理装置のブロック図。
【図4】カメラのシャッタ時間と輝度とが一次式で表されることを示す特性図。
【図5】特定シャッタ時間において、前記一次式の傾きと輝度の関係を示す特性図。
【図6】二値化閾値の設定の説明図。
【図7】カメラとワーク、ワーク台
【図8】(a)は適正露出で撮影された画像の説明図、(b)は(a)を二値化した画像の説明図。
【図9】(a)は適正露出で撮影されなかった画像の説明図、(b)は(a)を不適正な閾値により二値化した画像の説明図、(c)は適正な閾値により二値化した画像の説明図。
【図10】(a)、(b)は、ヒストグラム法により得られたヒストグラム。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を具体化した二値化処理方法及び画像処理装置の一実施形態を図1〜図6を参照して説明する。図1は、本実施形態の画像処理装置10を示している。
本実施形態の画像処理装置10は、ワーク台60上に載置されたワークWをカメラ30で撮像した撮像画像に対して画像処理を行う。
【0021】
カメラ30は、CCD、CMOS等の固体撮像デバイスを有するモノクロビデオカメラからなり、カメラ30から出力された画像信号に基づき所定のフレームレート(例えば、1秒間に30フレーム)での動画像の撮像が可能である。カメラ30はカラーカメラ或いはモノクロカメラのいずれでもよい。本実施形態のカメラ30は、256階調で撮像が可能であるが、256階調に限定するものではなく、他の数値の階調であってもよい。又、カメラ30は、図示しない支持手段により支持されてワーク台60上方に配置されている。本実施形態では、ワーク台60上に、ワークWの置く範囲を規定する載置板62が置かれ、載置板62上にワークWが載置される。ワーク台60及び載置板62は、第1撮影対象物に相当する。なお、載置板62は、ワーク台60と同色とする。ワークWは第2撮影対象物に相当する。
【0022】
画像処理装置10は、カメラ30から出力された画像信号に基づいて、撮像範囲内(撮像して画像取り込みが行われる撮像対象となる範囲)の画像に応じた画像データを生成する。すなわち、前記ビデオカメラより得られた画像信号は、画像処理装置10によりコンピュータでの処理が可能なRGBのカラー画像(或いはモノクロ画像)からなるフレーム画像(M×Nの画素からなる)に変換される。なお、撮像画像の解像度は、例えば水平方向画素数をM=640画素、垂直方向画素数をN=480画素としている。尚、フレームレート、変換される画像及び解像度は、上記の例に限定するものではない。
【0023】
画像処理装置10は、コンピュータからなり、CPU11、ROM12、RAM13、画像メモリ15、カメラインターフェイス14、モニタインターフェイス16、及び入力インターフェイス17を備えている。CPU11と前記各部はバス18を介して入力出力が可能である。
【0024】
CPU11は、第1取得手段、第2取得手段、及び二値化手段、及び算出手段に相当する。又、RAM13は、第1記憶手段及び第2記憶手段に相当する。
ROM12は、CPU11が画像処理プログラムを含む各種処理プログラムが格納されている。
【0025】
RAM13は、CPU11の処理により各種データを格納するワークエリアである。カメラインターフェイス14は、カメラ30から出力された画像信号を入力するとともに、CPU11から出されたシャッタ時間をコントロールする制御指令を出力し、カメラ30のシャッタ時間の制御が可能である。画像メモリ15は、CPU11が、前記画像信号に基づいて処理して生成された各フレーム画像(画像データ)を格納する。画像処理装置10は、液晶表示装置等からなるディスプレイ20がモニタインターフェイス16を介して接続されている。ディスプレイ20は、モニタインターフェイス16を介して、CPU11による各種処理における所定の表示を行うとともに、画像メモリ15に格納された撮像画像(画像データ)を表示する。又、入力インターフェイス17は、CPU11による各種処理に必要な各種データの入力を行う入力装置21との接続を行う。
【0026】
(実施形態の作用)
上記のように構成された画像処理装置10の作用及び二値化処理を説明する。
<1.第1事前準備作業>
第1事前準備作業は、カメラ30で被写体(ワークW、載置板62及びワーク台60)を撮影するときの、露出と被写体の色と撮像画像上での被写体領域の輝度の関係を調べ、画像処理装置10に登録する作業である。
【0027】
一般的な産業用カメラは、絞りが手動式であり、絞りは固定して使用する。本実施形態のカメラ30も一般的な産業用カメラであり、ここでは、CPU11からの制御指令でシャッタ時間を変更することで、露出を変え、絞りは、実際の装置で使用したい値に固定されているとする。
【0028】
露出(本実施形態では、シャッタ時間Tv)を変えた時の被写体の輝度Vの変化は線形性があり、輝度Vは、
V=A・Tv+I ……(イ)
の形で表現できる。
【0029】
Aは係数であり、被写体の色に依存し、カメラによって異なる。輝度Iは、露出ゼロ(すなわち、シャッタ時間Tvが0)の時の輝度(平均輝度)であり、カメラの撮像素子の暗電流によって発生し、カメラにより異なるカメラ固有値である。以下では、Iを暗電流輝度とする。
【0030】
本実施形態では、図4に示すように、異なる4種類の色をそれぞれ有する物体(被写体)を、異なるシャッタ時間でカメラ30で撮影し、そのときの、シャッタ時間とCPU11が取得した撮像画像の輝度との関係を示す。被写体の色は限定するものではないが、反射率が大きく異なる4色を選択した方が好ましい。又、4種類ではなく、4種類未満の複数の色、或いは5種類以上の色の被写体に対しそれぞれカメラ30で撮影してもよい。
【0031】
図4の例では、反射率0%(黒)、25%、50%、75%の4色のグレーの被写体を異なるシャッタ時間で撮影し、そのときの輝度をオペレータはプロットとして各色の線形近似式を求めた。以下、反射率0%(黒)、25%、50%、75%のそれぞれを色1〜4とする。なお、ここでの輝度は、フレーム画像の平均輝度である。
【0032】
この例では、4色の一次式の係数(傾き)Aは、色1:4.62、色2:3.04、色3:1.56、色4:0.47であり、Iが16であることが求められた。
この暗電流輝度Iを、オペレータは入力装置21により入力し、RAM13に記憶する。
【0033】
次に、図4においてある特定条件(すなわち、所定シャッタ時間)における、各色別の輝度を図5に示すような輝度pと係数(傾き)Aの関係のグラフにプロットする。
図5は一例を示している。この例では、図4におけるシャッタ時間Tv=20(ms)の時の各色の輝度pを、それぞれ係数Aを横軸にしてプロットしたものである。
【0034】
具体的には、係数Aが4.62である色1のTv=20(ms)における輝度が108.4であるから、図5では、横軸108.4、縦軸4.62の位置にプロットする。このようにしてプロットして得られるグラフも線形性があり下記式(ロ)の一次式が成立する。
【0035】
A=m・p+n ……(ロ)
m,nは、所定シャッタ時間において、定まる定数である。
図5では、所定シャッタ時間である20ms時の場合、m=0.05、n=−0.83となる。なお、本実施形態では、所定シャッタ時間を20msとしているが、所定シャッタ時間は20msに限定するものではなく、他の異なる数値であってもよい。
【0036】
ここで、式(イ)に式(ロ)を代入すると、
V=(m・p+n)・Tv+I ……(ハ)
となる。ここで、上記のように求められた暗電流輝度I,定数m,nを式(ハ)に代入すると、
V=(0.05・p−0.83)・Tv+16 ……(ニ)
となる。これは、所定シャッタ時間20msで撮影すると、輝度pとなる色はシャッタ時間をTvにして撮影すると、輝度がVとなることを表している。
【0037】
上記のようにして得られた定数m,n(上記の例では、m=0.05,n=−0.83)を、オペレータは入力装置21により入力し、RAM13に記憶する。
ここで、定数m,nは、カメラのアンプのゲイン等により決まるカメラ固有値である。第1事前準備作業は、請求項1の第1段階に相当する。
【0038】
<2.第2事前準備作業>
第2事前準備作業は、目標背景輝度と二値化閾値の設定作業である。なお、ワーク台60には、基準部位としての背景基準計測点Rを有する(図1参照)。背景基準計測点Rは、カメラ30の撮影時にワーク台60及び載置板62により隠れない部位であって、カメラ30の視野に入る位置に位置している。なお、背景基準計測点Rは、ワークWの置き位置を規制した上で、計測点を設けるようにしてもよい。
【0039】
具体的には、図1に示すようにワークW、ワーク台60、及び載置板62を撮像範囲(視野)内に入るようにした状態で、カメラ30によりワークW、ワーク台60、及び載置板62を、CPU11からの制御指令でシャッタ時間を変えながら撮影する。これにより、CPU11は、シャッタ時間を変えた撮像画像、すなわち、撮像画像の中のワーク領域と背景領域を有する撮像画像(M×Nの画素からなる)を取得する。オペレータは、各シャッタ時間における前記撮像画像において、背景基準計測点Rの領域における背景輝度並びにワーク領域のワーク輝度をそれぞれ求め、図6に示すようにプロットする。図6中、横軸がシャッタ時間、縦軸が輝度である。図6において、□は背景基準計測点Rのプロット、△はワーク領域のプロットである。
【0040】
図6において、シャッタ時間が短いと、ワーク色と背景色(ワーク台の色)のコントラストが小さく、シャッタ時間が長いと前記コントラストが大きくなり、二値化による分離が容易になる。なお、過度に長いシャッタ時間は、撮影時間も長くなるため、適切なシャッタ時間になるように、かつ、背景が飽和しないレベルで、かつ、背景とワークが十分なコントラストを持つときの値をオペレータは目標背景輝度Vとして決定し、オペレータは入力装置21を使用してRAM13に登録する。
【0041】
前記のように目標背景輝度Vが決定されると、その時のシャッタ時間は一義的に決まるため、撮像画像のワーク領域のワーク輝度も決まることになる。二値化閾値は目標背景輝度とワーク輝度の間にとればよいため、オペレータはこのときの目標背景輝度(すなわち、背景色)とワーク色の中間値を二値化閾値として入力装置21を使用してRAM13に登録する。背景輝度とワーク輝度はそれぞれバラツキを有するため、前記中間値を選択することが好ましい。
【0042】
なお、求めたい背景が、画像上ではいくらの輝度で写っていると良いかということであるため、計測中の照明の明るさや、カメラのレンズの絞り等の条件は任意の値で問題ない。第2事前準備作業は第2段階に相当する。
【0043】
<3.運用時の処理>
次に、図2のフローチャートを参照して、画像処理装置10の運用時の処理を説明する。なお、この処理は、ROM12に格納した画像処理プログラムにより実行される。
【0044】
S10ではワーク台60、載置板62及びワークWを図1に示す状態で配置した状態で、カメラ30により、カメラ固有値を調べたときの所定シャッタ時間(本実施形態では20ms)でプレ撮影を行い、CPU11は、取得した撮像画像を画像メモリ15に格納する。
【0045】
S20では、CPU11は、S10で取得した撮像画像から、輝度を一定に制御したい箇所、すなわち、背景領域における背景基準計測点Rの現在の輝度pを計測し、この値をRAM13に登録する。
【0046】
S20は第3段階に相当する。撮像画像における背景基準計測点Rの領域は基準部位の特定画素領域に相当する。又、背景領域における背景基準計測点Rの現在の輝度pは、撮像画像における基準部位の特定画素領域のプレ撮影輝度に相当する。
【0047】
S30では、CPU11は、適正シャッタ時間を算出する。具体的には、CPU11は、式(ハ)を変形した下式(ホ)に、予めRAM13に登録(記憶)したカメラ固有値(暗電流輝度I,定数m,n)、及びS20で登録した背景輝度の現在の輝度p、目標背景輝度Vを代入して適正シャッタ時間Tvを算出する。
【0048】
Tv=(V−I)/(m・p+n) ……(ホ)
なお、この適正シャッタ時間Tvで撮像すると、背景基準計測点Rにおける背景領域の輝度を目標背景輝度Vとすることができることになる。S30は、第4段階に相当する。
【0049】
S40では、S30で算出された適正シャッタ時間Tvで、カメラ30を駆動して本撮影を行う。S40は、第5段階に相当する。
S50では、S40でカメラ30から取得した本撮影の撮像画像を、RAM13に登録した二値化閾値で二値化処理し二値化処理した画像を画像メモリ15に格納し、このフローチャートを終了する。S50は、第6段階に相当する。
【0050】
<具体例>
S10〜S50の処理において、具体的な数値を入れて説明する。
なお、ワーク台60に設定された背景基準計測点の輝度、すなわち、目標背景輝度を一定値「140」に制御するものとする。又、第2事前準備作業において、目標背景輝度を「140」としたとき、ワーク色の平均輝度は「60」であるとし、二値化閾値である中間値は「100」に設定されたものとする。又、第1事前準備作業、及び第2事前準備作業において、I=16、m=0.05,n=−0.83がRAM13に登録されていたとする。
【0051】
S10では、所定シャッタ時間(本実施形態では20ms)でプレ撮影を行う。
S20でのプレ撮影では背景基準計測点の現在の輝度pは「80」であったとする。
S30では、式(ホ)に、予め登録済みのI=16、m=0.05,n=−0.83)、S20で登録されたp=80、目標背景輝度V=140を代入すると、
Tv=(140−16)/(0.05*80−0.83)
≒39
となり、シャッタ時間39msが得られる。
【0052】
S40では、このシャッタ時間39msで撮影する。
S50では、本撮影で取得した撮像画像は背景領域の平均輝度が「140」、ワーク色領域の平均輝度が「60」になっているので、二値化閾値としての中間値「100」で二値化すると、ワークと背景(ワーク台60及び載置板62)をうまく分離できる。
【0053】
本実施形態では、下記の特徴を有する。
(1) 本実施形態の二値化処理方法は、第1事前準備作業(第1段階)で、所定シャッタ時間で得た撮像画像を基に得られた輝度I、定数m,nをカメラ固有値としてRAM(第1記憶手段)に記憶する。
【0054】
又、第2事前準備作業(第2段階)では、カメラ30のシャッタ速度を変えてワーク台60、載置板62(第1撮影対象物)とワークW(第2撮影対象物)とを同時に複数回撮影した複数の撮像画像に基づき、ワーク台60に設けられた背景基準計測点R(基準部位)の領域(特定画素領域)の目標背景輝度Vと、ワークW(第2撮影対象物)の輝度との中間値を二値化閾値としてRAM13(第2記憶手段)に記憶する。又、S20(第3段階)では、所定シャッタ時間で、カメラ30によりワーク台60、載置板62(第1撮影対象物)とワークW(第2撮影対象物)とを同時に撮影して得られた撮像画像における背景領域における背景基準計測点Rの現在の輝度p(プレ撮影輝度)を取得する。又、S30(第4段階)では、背景基準計測点Rの現在の輝度p、目標背景輝度V、輝度I、定数m,nを使用して、式(イ)、式(ロ)から得られる式(ハ)に基づいてシャッタ時間Tvを算出する。そして、S40(第5段階)では、S30で算出したシャッタ時間Tvでカメラ30によりワーク台60、載置板62及びワークWを撮像する。S50(第6段階)でS40で取得した撮像画像を二値化閾値で二値化する。
【0055】
この結果、本実施形態では、照明環境が変動しても、背景の輝度が常に規定の輝度に制御された画像を得ることができるとともに、前記画像は背景とワークとのコントラストが高い状態とすることができるので、二値化により背景とワークを安定的に分離できる。
【0056】
又、露出計により、画面全体の明るさを制御する方法では、全体の明るさは一定になるものの、ワークや背景の輝度はカメラ視野内のワークの割合に依存して変わってしまう問題がある。それに対して、本実施形態によれば、直接背景の輝度を目標背景輝度として固定化しているため、常に同じ結果の二値化画像が得られる。
【0057】
従来、二値化閾値を最適化する方法もあるが、画像がコントラストの低い状態で撮影されてしまうと、ワークと背景をうまく分離できない虞がある。それに対して、本実施形態では、撮像画像自体を二値化に適した高コントラストな画像に最適化しているため、安定してワークと背景とを分離できる。
【0058】
又、本実施形態では、撮影時には、閉空間を必要としないため、閉空間の設置場所などの制約がなく、又、照度を一定にするための照明条件を維持する必要もないために、照明に係るコストを低減できる。
【0059】
(2) 本実施形態の二値化処理方法は、第1撮影対象物として、ワークWを載置するワーク台60及び載置板62とし、第2撮影対象物はワークWとしている。この結果、ワークと、ワーク台60及び載置板62とをきれいに分離できる。
【0060】
(3) 本実施形態の画像処理装置のRAM13は、第1記憶手段として、所定シャッタ時間で得た撮像画像を基に得られた輝度I、定数m,nをカメラ固有値としてに記憶する。画像処理装置のRAM13は、第2記憶手段として、カメラ30のシャッタ速度を変えてワーク台60、載置板62(第1撮影対象物)とワークW(第2撮影対象物)とを同時に複数回撮影した複数の撮像画像に基づき、ワーク台60に設けられた背景基準計測点R(基準部位)の領域(特定画素領域)の目標背景輝度Vと、ワークW(第2撮影対象物)の輝度との中間値を二値化閾値として記憶する。又、画像処理装置のCPU11は、第1取得手段として、所定シャッタ時間で、カメラ30によりワーク台60、載置板62(第1撮影対象物)とワークW(第2撮影対象物)とを同時に撮影して得られた撮像画像における背景領域における背景基準計測点Rの現在の輝度p(プレ撮影輝度)を取得する。画像処理装置のCPU11は、算出手段として、背景基準計測点Rの現在の輝度p、目標背景輝度V、輝度I、定数m,nを使用して、式(イ)、式(ロ)から得られる式(ハ)に基づいてシャッタ時間Tvを算出する。画像処理装置のCPU11は、第2取得手段として、シャッタ時間Tvでカメラ30を撮像させてワーク台60、載置板62(第1撮影対象物)とワークW(第2撮影対象物)との撮像画像を取得するとともに、二値化手段として、取得した撮像画像を中間値(二値化閾値)で二値化する。
【0061】
この結果、本実施形態では、上記(1)の作用効果を奏する画像処理装置を提供できる。
(4) 本実施形態の画像処理装置は、第1撮影対象物として、ワークWを載置するワーク台60及び載置板62とし、第2撮影対象物はワークWとしている。この結果、ワークと、ワーク台60及び載置板62とをきれいに分離できる画像処理装置を提供できる。
【0062】
なお、本発明の実施形態は前記実施形態に限定されるものではなく、下記のように変更しても良い。
・ 前記実施形態では、第1記憶手段及び第2記憶手段は、共通のRAM13としたが、第1記憶手段及び第2記憶手段は異なる記憶手段としてもよい。例えば第1記憶手段をRAM13として、第2記憶手段を図示しないハードディスク等の記憶装置としてもよい。
【0063】
・ 前記実施形態では、カメラ30はモノクロビデオカメラとしたが、カラービデオカメラに変更してもよい。
・ 前記実施形態において載置板62を省略し、ワークWを直接ワーク台60上に載置するようにしてもよい。この場合、第1撮影対象物は、ワーク台のみとなる。
【0064】
・ 前記実施形態では、第1撮影対象物として、ワークWを載置するワーク台60及び載置板62とし、第2撮影対象物はワークWとしたが、これに限定するものではない。カメラの撮像範囲内に、複数の撮像対象物がある場合に、その1つを第1撮影対象物とし、残りの1つ又は複数の撮像対象物を第2撮影対象物とするようにしてもよい。この場合、第2撮影対象物は、第1撮影対象物とは異なる色(明度)を有するようにする。例えば、第1撮影対象物が明るい色(明度)を有するものであれば、第2撮影対象物は暗い色(明度)を有するものとする。
【符号の説明】
【0065】
10…画像処理装置、
11…CPU(算出手段、第1取得手段、第2取得手段及び二値化手段)、
13…RAM(第1記憶手段、第2記憶手段)、
30…カメラ、60…ワーク台(第1撮影対象物)、
62…載置板(第1撮影対象物)、W…ワーク(第2撮影対象物)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定シャッタ時間で撮影されたカメラの撮像画像における輝度をpとし、任意のシャッタ時間Tvのときの輝度をVとしたとき、下記式(イ)、式(ロ)が成立することを利用して、
V=A・Tv+I ……(イ)、A=m・p+n ……(ロ)
(なお、Iは、カメラの撮像画像における暗電流時の輝度、Aは係数であり、m,nは前記所定シャッタ時間において定まる定数である。)
前記所定シャッタ時間で得た撮像画像を基に得られた輝度I、定数m,nをカメラ固有値として第1記憶手段に記憶する第1段階と、前記カメラのシャッタ速度を変えて第1撮影対象物と第2撮影対象物とを同時に複数回撮影した複数の撮像画像に基づき、第1撮影対象物に設けられた基準部位の特定画素領域の目標背景輝度と、第2撮影対象物の輝度との中間値を二値化閾値として第2記憶手段に記憶する第2段階と、前記所定シャッタ時間で、前記カメラにより第1撮影対象物と第2撮影対象物とを同時に撮影して得られた撮像画像における基準部位の特定画素領域のプレ撮影輝度を取得する第3段階と、前記プレ撮影輝度を前記pとし、前記目標背景輝度を前記Vとし、かつ、輝度I、定数m,nを使用して、式(イ)、式(ロ)に基づいてシャッタ時間Tvを算出する第4段階と、第4段階で算出したシャッタ時間Tvで前記カメラで第1撮影対象物と第2撮影対象物とを撮像する第5段階と、第5段階で取得した撮像画像を前記二値化閾値で二値化する第6段階を含む二値化処理方法。
【請求項2】
前記第1撮影対象物は、ワークを載置するワーク台であり、前記第2撮影対象物は前記ワークであることを特徴とする請求項1に記載の二値化処理方法。
【請求項3】
所定シャッタ時間で撮影されたカメラの撮像画像における輝度をpとし、任意のシャッタ時間Tvのときの輝度をVとしたとき、下記式(イ)、式(ロ)が成立することを利用して、
V=A・Tv+I ……(イ)、A=m・p+n ……(ロ)
(なお、Iは、カメラの撮像画像における暗電流時の輝度、Aは係数であり、m,nは前記所定シャッタ時間において定まる定数である。)
前記所定シャッタ時間で得た撮像画像を基に得られた輝度I、定数m,nをカメラ固有値として記憶する第1記憶手段と、前記カメラのシャッタ速度が変えられて第1撮影対象物と第2撮影対象物とを同時に複数回撮影された複数の撮像画像に基づいて得られた基準部位の特定画素領域の目標背景輝度と、第2撮影対象物の輝度との中間値を二値化閾値として記憶する第2記憶手段と、前記所定シャッタ時間で、前記カメラにより前記第1撮影対象物と第2撮影対象物とを同時に撮影して得られた撮像画像における前記基準部位の特定画素領域のプレ撮影輝度を取得する第1取得手段と、前記プレ撮影輝度を前記pとし、前記目標背景輝度を前記Vとして、式(イ)、式(ロ)に基づいてシャッタ時間Tvを算出する算出手段と、前記シャッタ時間Tvで前記カメラを撮像させて第1撮影対象物と第2撮影対象物との撮像画像を取得する第2取得手段と、前記第2取得手段が取得した撮像画像を前記二値化閾値で二値化する二値化手段を含む画像処理装置。
【請求項4】
前記第1撮影対象物は、ワークを載置するワーク台であり、前記第2撮影対象物は前記ワークであることを特徴とする請求項3に記載の画像処理装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−59213(P2012−59213A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−204643(P2010−204643)
【出願日】平成22年9月13日(2010.9.13)
【出願人】(000110321)トヨタ車体株式会社 (1,272)
【Fターム(参考)】