説明

二光束干渉計

【課題】 少ないエネルギーで回転鏡を反復回動させて正確にセンターバースト位置に停止できる二光束干渉計の提供。
【解決手段】 光源Aからの光を固定鏡2と一対の回転鏡3a、3bとに二分割し、これら固定鏡2並びに回転鏡3a、3bから戻った光を再び合成して干渉光を得る二光束干渉計であって、上下方向に沿って延設され、その上下に前記一対の回転鏡3a、3bを互いに平行な姿勢で保持する回転アーム4と、回転アーム4を回動可能に保持する支持軸5と、回転アーム4の下端部で支持軸5を支点として回転アーム4を反復揺動させる駆動源7と、回転鏡3a、3bからの光を反射して回転鏡3a、3bに戻す固定反射鏡9とからなり、回転アーム4の回動を停止して回転アーム4が自重により静止した位置で、二分割された固定鏡側の光と回転鏡側の光の光路差が0のセンターバースト位置となるように、上下の回転鏡3a、3bの位置が予め調整される構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光源からの赤外光を二分するビームスピリッタと、二分されたそれぞれの光をビームスピリッタに戻す一対の回転鏡並びに固定鏡を備えた二光束干渉計に関するものである。
【背景技術】
【0002】
二光束干渉計は、例えばフーリエ変換型赤外分光光度計(FTIR)において、インターフェログラムデータ収集のために使用される。このような二光束干渉計は、光源から発した赤外光をビームスピリッタで二方向に分割し、一方の光の光路長を一定に固定し、他方の光の光路長を変化させてそれぞれの光をビームスピリッタに戻して合成すると、光路長の変化に応じて光の強度が変化する干渉光(インターフェログラム)となる。この干渉光を光検出器に送って干渉光データを収集する。
【0003】
ビームスピリッタで二方向に分割された一方の光の光路長を変化させる方法として、図5に示すものがある。
レーザ等の光源10から発した光は、反射鏡20を介してビームスピリッタ11で固定鏡12側と移動鏡13側の二方向に分割され、その固定鏡12及び移動鏡13でそれぞれ反射して戻ってきた光はビームスピリッタで合成されて光検出器14に送られる。移動鏡13は入射光軸方向に前後に移動することによって移動鏡13に分かれた光の光路長を変化させる。移動鏡13を前後に直動させる機構として、例えば図6に示すように、移動鏡13から後方に向かって直線的に延びるスライダ15をリニアガイド16等で往復移動可能に保持させ、スライダ15の後端を原動機17で揺動するアーム18に連結することによって駆動するものがある。
なお、赤外光源21を点灯させたときには、赤外光源21から発した赤外光が、平行鏡22を介してビームスピリッタ11で固定鏡12側と移動鏡13側の二方向に分割され、その固定鏡12及び移動鏡13でそれぞれ反射して戻ってきた光がビームスピリッタ11で合成されて光検出器14に送られることになる。
【0004】
干渉計の干渉効率を最良に保つためには、センターバースト位置(移動鏡の往復運動を停止したときに固定鏡側と移動鏡側の光路差が0の位置)で止まることが望ましい。しかし上記の直動機構を用いた場合、移動鏡13を停止したときに運動の慣性等によって前後にぶれてセンターバースト位置に正確に停止させることが容易ではない。
【0005】
また、移動鏡を前後に移動させる別の手段として特許文献1で開示されたものがある。図7は、この特許文献1の第3図を示す。干渉計の枠体部分に固定されるボディ20にベース21が左右の平行なプレート22、23を介して吊り下げられており、ベース21に移動鏡13が取り付けられている。プレート22、23はそれぞれボディ20とベース21との4ケ所の連結部分aで揺動可能に連結されている。ベース21はコイル24が固定されており、コイル24に電流を流すことにより、コイル24がマグネット25とポールピース26の磁界によってローレンツ力を受け、これによりベース21を介して移動鏡13が矢印方向に移動する構成となっている。
【0006】
この図7の構成によれば、移動鏡13を停止したときに移動鏡13を保持するベース21が自重により静止した位置でセンターバーストとなるように、移動鏡の位置を予め調整しておくことにより、センターバースト位置での停止が容易であるといった効果がある。しかし、移動鏡13の動作時に自ら微振動が生じないように、しかもプレート22、23の揺動がスムーズに行うように左右のプレート22、23の4ケ所の連結部分aを樹脂フイルム等のフレキシブルな連結素材で柔軟に連結させる必要がある。そのため、移動鏡13の停止時に重力方向に対する衝撃等の外乱に対して弱くなるといった欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公平07−104206号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
また、移動鏡を前後に移動させる別の手段として、図8に示すものがある。この手段では前記移動鏡に変えて、平行に配置された一対の回転鏡13a、13bが用いられている。回転鏡13a、13bは鉛直方向に延びる駆動軸27を介して回動する回動アーム28の両端に保持されている。光源10から発した光は、反射鏡20を介してビームスピリッタ11で固定鏡12側と回転鏡13a、13b側の二方向に分割される。回転鏡13a、13bに向かった光は、回転鏡13aから回転鏡13bを経て固定された反射鏡29で反射され、入射時の逆光路を経てビームスピリッタ11に戻されて固定鏡12からの光と合成され、光検出器14に送られる。この際、回転アーム28を駆動軸27を介して反転揺動させることにより、光源10からの回転鏡13aの光入射角度を変えて、回転鏡13aと13b間の光路長を変化させる構成となっている。
【0009】
しかし、この構成によれば、回転鏡13a、13bを支持する回転アーム28の中心に配置した駆動軸27を反復回転運動させて回転鏡13a、13bを回動するようにしているから、駆動軸27に大きな駆動力が必要となる。特に、反復回転運動は、正方向に回転運動している回転鏡13a、13bを制動停止させるとともに逆方向に回転させる運動を反復させるものであるから、大きなエネルギーを必要とするとともに、回転鏡13a、13bをセンターバースト位置で正確に停止させることが困難であるといった問題点があった。
【0010】
そこで本発明は、一対の回転鏡を用いた干渉計であって、回転鏡をセンターバースト位置で正確に停止させることができるとともに、少ないエネルギーで回転鏡を反復回動させて低消費電力で正確にセンターバースト位置に停止させることのできる二光束干渉計を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明では次のような技術的手段を講じた。即ち、本発明の二光束干渉計にあっては、光源から発した光をビームスピリッタにより固定鏡と一対の回転鏡とに向けて二分割し、これら固定鏡並びに回転鏡から戻された光を再び合成して干渉光を得る二光束干渉計であって、上下方向に沿って延設され、その上部と下部に前記一対の回転鏡を互いに平行な姿勢でかつ鏡面を対面させた状態で保持する回転アームと、水平方向を回転軸として回転アームを回動可能に保持する支持軸と、自重により安定した位置で静止して重心を下げるように、下部の回転鏡が保持された位置より下方となる回転アームの下端部で回転アームを支持軸を支点として反復揺動させる駆動源と、回転鏡からの光を反射して回転鏡に戻す固定反射鏡とからなり、回転アームの回動を停止して回転アームが自重により静止したときに、ビームスピリッタにより二分割された固定鏡側の光と回転鏡側の光の光路差が0となるセンターバースト位置となるように、上下の回転鏡の位置が予め調整されている構成とした。
【発明の効果】
【0012】
本発明の二光束干渉計は上記のごとく構成されているので、上下に回転鏡を保持する回転アームの回動を停止したときに、回転アームが自重により安定した位置で静止する。この静止した位置で、ビームスピリッタにより二分割された固定鏡側の光と回転鏡側の光の光路差が0となるセンターバースト位置となるように予め調整されているので、複雑な付帯機器を使用することなく正確に回転鏡をセンターバースト位置に停止させることができ、これにより簡単な機構で干渉効率の高い干渉計を得ることができる。
また、重心の下がった回転アームの下端部に回転アームを反復揺動させる駆動源が連結されているので、回動アームを反復揺動させるエネルギーは小さくてすみ、特に重心の下がった回転アームの揺動運動は支持軸を支点とした振り子運動として動作し、一度振り子運動が始まると、摩擦力と空気抵抗により減衰したエネルギーを与えれば振り子運動を続けることができるので、駆動源の消費電力を著しく低減したランニングコストの安い干渉計を得ることができる。
さらに、回転アームの支持軸は回転アームを回動可能に支持すればよいから、支持軸やこれを受ける軸受けには鋼製の軸やベアリング等の強固な部品を使用することができ、これにより重力方向に加えられた衝撃等の外乱に対して十分に耐えることができるといった効果がある。
【0013】
(その他の課題を解決するための手段及び効果)
本発明において、前記回転アームは左右一対で構成され、左右の回転アームの上下方向における中間部位に支持軸が配置されており、左右の回転アームの下端部に、水平方向に伸びた力点軸が配置されており、前記駆動源が力点軸と連結されている構成とするのがよい。
これにより、上下一対の回転鏡は安定した状態で保持できるとともに、駆動源からの駆動力を回転アームに効果的に伝達することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明にかかる二光束干渉計の一実施態様を示す概略的な説明図。
【図2】上記干渉計の要部を示す斜視図。
【図3】上記干渉計における回転鏡側の光の光路を説明するための説明図。
【図4】回転アームを少し回動させたときの回転鏡側の光の光路を説明するための図3同様の説明図。
【図5】従来の二光束干渉計の一例を示す説明図。
【図6】従来の二光束干渉計における移動鏡の駆動機構の一例を示す側面図。
【図7】従来の二光束干渉計における移動鏡の駆動機構の他の例を示す断面図。
【図8】従来の二光束干渉計の他の例を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明にかかる二光束干渉計の詳細を、図1ないし図4で示した実施形態に基づいて詳細に説明する。この実施例で示された二光束干渉計は、フーリエ変換型赤外分光光度計(FTIR)において、インターフェログラム(干渉光)のデータ収集のために使用される。
【0016】
図1における符号Aはレーザ発信器等の光源であり、符号1は光源Aからの光を固定鏡2と、上下一対の回転鏡3a、3bに二分割するビームスピリッタである。回転鏡3a、3bは上下方向に沿って延設された左右の回転アーム4の上部と下部とにその鏡面を対面させた状態で互いに平行に固定保持されている。上下の回転鏡3a、3bは、ビームスピリッタ1から送られてくる光を上部の回転鏡3aで受けて下部の回転鏡3bに送れるように光路に対して傾斜して配置されており、さらに下部の回転鏡3bで反射した光を受けて再び下部の回転鏡3bに戻す固定反射鏡9が設けられている。
【0017】
左右の回転アーム4は上下方向における中間部位において支持軸5を介して干渉計の機枠部分6に支持されている。左右の回転アーム4の下端部には、水平方向に伸びた力点軸8aが配置されており、回転アーム4を支持軸5を支点として反復揺動させる駆動源7が力点軸8aと連結シャフト8を介して連結されている。なお、駆動源7を停止したときに、駆動源7との伝導が絶たれて回転アーム4がフリーとなるように駆動源7と回転アーム4とが連携されている。そのため、駆動源7として、例えばボイスモータと呼ばれる電磁ソレノイドを用いるのが好ましいが、往復運動を行う機械的な機構のものを使用することもできる。
【0018】
さらに、駆動源7を停止して回転アーム4の回動が止まったときに、回転アーム4が自重により安定した姿勢に静止できるように重心を下げて支持軸5に保持されている。また、回転アーム4の回動を停止して回転アーム4が自重により静止したときに、ビームスピリッタ1により二分割された固定鏡2側の光と回転鏡3a、3b側の光の光路差が0となるセンターバースト位置となるように、上下の回転鏡3a、3bの位置が予め調整されている。
【0019】
上記の構成において、光源Aから発した光は、反射鏡20を介してビームスピリッタ1で固定鏡2側と回転鏡3a、3b側の二方向に分割され、固定鏡2に向かった光は固定鏡2で反射されてビームスピリッタに戻される。また回転鏡3a、3bに向かった光は、先ず上部の回転鏡3aで屈曲されて下部の回転鏡3bに送られ、さらにこの光は固定反射鏡9に送られて反射する。
固定反射鏡9で反射された光は、入射時の逆光路となる下部の回転鏡3bから上部の回転鏡3aを経てビームスピリッタ1に戻され、固定鏡2からの光と再合成されて干渉光となり、光検出器Bに送られてデータが収集される。この際、回転鏡3a、3b側に送られた光の光路長は、回転アーム4の揺動量によって変化する。即ち、図3で示す上部回転鏡3aの光反射点P1と下部回転鏡3bの光反射点P2を結ぶ光路長L1は、図4で示すように、回転アーム4を反時計方向に揺動させたときにはL2で示したように長くなる。
【0020】
また、回転アーム4の回動を停止したときに、回転アーム4は自重により安定した位置で静止する。この静止した位置で、ビームスピリッタ1により二分割された固定鏡2側の光と回転鏡3a、3b側の光の光路差が0となるセンターバースト位置となるように予め回転鏡3a、3bの位置が調整されているので、複雑な付帯機器を使用することなく正確に回転鏡3a、3bをセンターバースト位置に停止させることができる。
【0021】
さらに、重心の下がった回転アーム4の下端部に回転アーム4を反復揺動させる駆動源7が連結されているので、回動アーム4を反復揺動させるエネルギーは小さくてすむ。特に、重心の下がった回転アーム4の揺動運動は支持軸5を支点とした振り子運動として動作し、一度振り子運動が始まると、摩擦力と空気抵抗により減衰したエネルギーを補給すれば振り子運動を続けることができるので、低消費電力の干渉計を得ることができる。
【0022】
また、回転アーム4の支持軸5は回転アーム4を回動可能に支持すればよいものであるから、支持軸5やこれを受ける軸受けには鋼製の軸やベアリング等の強固な部品を使用することが可能となり、これにより重力方向に加えられた衝撃等の外乱に対して十分に耐えることができる丈夫な支持構造を得ることができる。
【0023】
以上本発明の代表的な実施例について説明したが、本発明は必ずしも上記の実施形態に特定されるものではなく、その目的を達成し、請求の範囲を逸脱しない範囲内で適宜修正、変更することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の二光束干渉計は、例えばフーリエ変換型赤外分光光度計(FTIR)において、インターフェログラムのデータ収集のために使用できる。また、赤外線の他に紫外線の領域で透過率などの光学特性を測定する分野で利用することができる。
【符号の説明】
【0025】
A 光源
B 光検出器
1 ビームスピリッタ
2 固定鏡
3a 上部の回転鏡
3b 下部の回転鏡
4 回転アーム
5 支持軸
6 機枠
7 駆動源
9 固定反射鏡

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源から発した光をビームスピリッタにより固定鏡と一対の回転鏡とに向けて二分割し、これら固定鏡並びに回転鏡から戻された光を再び合成して干渉光を得る二光束干渉計であって、
上下方向に沿って延設され、その上部と下部に前記一対の回転鏡を互いに平行な姿勢でかつ鏡面を対面させた状態で保持する回転アームと、
水平方向を回転軸として回転アームを回動可能に保持する支持軸と、
自重により安定した位置で静止して重心を下げるように、下部の回転鏡が保持された位置より下方となる回転アームの下端部で回転アームを支持軸を支点として反復揺動させる駆動源と、
回転鏡からの光を反射して回転鏡に戻す固定反射鏡とからなり、
回転アームの回動を停止して回転アームが自重により静止したときに、ビームスピリッタにより二分割された固定鏡側の光と回転鏡側の光の光路差が0となるセンターバースト位置となるように、上下の回転鏡の位置が予め調整されている二光束干渉計。
【請求項2】
前記回転アームは左右一対で構成され、左右の回転アームの上下方向における中間部位に支持軸が配置されており、左右の回転アームの下端部に、水平方向に伸びた力点軸が配置されており、前記駆動源が力点軸と連結されている請求項1に記載の二光束干渉計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−194102(P2012−194102A)
【公開日】平成24年10月11日(2012.10.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−59147(P2011−59147)
【出願日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】