説明

二次電池

【課題】高出力及び高容量を両立可能な二次電池を提供する。
【解決手段】電極群18には、正極板5、負極板6が捲回されている。正極板5では、合剤層の厚みを44μmから88μmまでほぼ一定の勾配で変化させて形成されており、密度が厚みにかかわらず2.7g/cmに設定されている。負極板6では、合剤層の厚みを35μmから70μmまでほぼ一定の勾配で変化させて形成されており、密度が1g/cmに設定されている。正極板5、負極板6は、いずれも合剤層の厚みの小さな部分が軸芯10側に捲回されている。正極板5、負極板6には、複数の集電タブがそれぞれ集電体の一定長さに対して1つずつ形成されている。合剤層の厚みの小さな軸芯10側で電荷移動の抵抗が小さくなり、厚みの大きな外周側で活物質量が大きくなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は二次電池に係り、特に、集電体に活物質を含む合剤層が塗着されており集電体から複数の集電タブがそれぞれ導出された正、負極板間にセパレータを介在させた電極群を有する二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池は、VTRカメラやノートパソコン、携帯電話等の各種携帯型機器や情報機器用の電源として広く使用されており、最近では、電気自動車等の動力用電源としても期待されている。一般に、二次電池は、電池容器内に電極群が収容され、電解液注液後、電池容器が封口されている。この電極群は、正負極板が直接接触しないようにセパレ−タを挟んで対向させて捲回又は積層され形成されている。正負極板には、活物質を含む合剤が金属箔(集電体)に略均等に塗付されて合剤層が形成されている。
【0003】
上述した各種機器では、始動(電源投入)時に大きな電流が必要であり、その後比較的小さな負荷で継続的な出力が求められる場合が多いため、電源として使用される二次電池には高出力及び高容量を両立させることが要求されている。二次電池を高容量化するためには、電池内における活物質の占有体積をできるだけ大きくすることが必要であり、合剤層の厚みを大きくすることが有効である。一方、高出力を得るためには、物質移動、電荷移動の観点から合剤層の厚みを小さくすることが好ましい。このとき、高出力を得るために合剤層の厚みを小さくして略均等に形成させ、高容量化を図るために正負極板の捲回数又は積層数を大きくすると、正負極板に挟まれるセパレータ分の体積が増大するため、活物質の占有体積の増大が不十分となる。二次電池を高容量化する技術としては、例えば、1本の集電タブを有する二次電池において少なくとも正極板に塗着された合剤層の厚みを集電タブから遠ざかるに従い小さくして合剤層内の電荷移動を均一化する技術が開示されている(特許文献1参照)。
【0004】
【特許文献1】特開2000−21453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術では、電荷移動が均一化して容量は向上するものの、集電タブが1本であり集電タブ近傍の合剤層の厚みが大きくされているため、抵抗が大きくなり高出力を得ることは難しい。また、1つの電池内で正極板の合剤層の厚みを変えた場合には、対向する正負極板の単位体積あたりで、正極板の放電容量と負極板の放電容量との比が異なる部分が生じるため、充放電時に正負極板の一方のみに負荷がかかることもある。このため、相反する特性である高容量と高出力とを両立させる技術は、要求が多いながらも開発に到っていないのが現状である。
【0006】
本発明では上記事案に鑑み、高出力及び高容量を両立可能な二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の第1の態様は、集電体に活物質を含む合剤層が塗着されており前記集電体から複数の集電タブがそれぞれ導出された正、負極板間にセパレータを介在させた電極群を有する二次電池において、前記正、負極板は、いずれも前記合剤層の厚みが前記電極群の内側より外側が大きく、かつ、前記合剤層のかさ密度がそれぞれ略均一であり、前記集電タブは前記電極群の端面から前記集電体の一定長さに対して1つずつ導出されていることを特徴とする。
【0008】
第1の態様では、正、負極板はいずれも合剤層の厚みが電極群の内側より外側が大きく、かつ、合剤層のかさ密度がそれぞれ略均一なため、電極群の内側で電荷移動の抵抗が小さくなることから、高出力が要求されるときは抵抗の小さい電極群の内側からの出力が主に寄与し、電極群の端面から集電体の一定長さに対して1つずつ導出された集電タブを介して放電されると共に、電極群の外側で活物質量が大きくなることから、電気量が持続的に要求されるときは活物質量の豊富な電極群の外側からの出力が主に寄与し集電タブを介して放電されるので、高出力、高容量を両立させることができる。
【0009】
また、本発明の第2の態様は、集電体に活物質を含む合剤層が塗着されており前記集電体から複数の集電タブがそれぞれ導出された正、負極板間にセパレータを介在させた電極群を有する二次電池において、前記正、負極板は、いずれも前記合剤層の単位面積あたりの重量が前記電極群の内側より外側が大きく、かつ、前記合剤層のかさ密度がそれぞれ略均一であり、前記集電タブは前記電極群の端面から前記集電体の一定長さに対して1つずつ導出されていることを特徴とする。
【0010】
第2の態様では、正、負極板はいずれも合剤層の単位面積あたりの重量が電極群の内側より外側が大きく、かつ、合剤層のかさ密度がそれぞれ略均一なため、電極群の内側で電荷移動の抵抗が小さくなることから、高出力が要求されるときは抵抗の小さい電極群の内側からの出力が主に寄与し、電極群の端面から集電体の一定長さに対して1つずつ導出された集電タブを介して放電されると共に、電極群の外側で活物質量が大きくなることから、電気量が持続的に要求されるときは活物質量の豊富な電極群の外側からの出力が主に寄与し集電タブを介して放電されるので、高出力、高容量を両立させることができる。
【0011】
第1、第2の態様において、電極群が、合剤層の厚み又は単位面積あたりの重量の異なる少なくとも2組みの正、負極板を有するようにしてもよい。このとき、少なくとも2組みの正、負極板を有する電極群間に絶縁性の薄板を介在させていることが好ましい。また、合剤層を正、負極板の集電体の両面に塗着して、該合剤層の厚み又は単位面積あたりの重量が集電体の両面で異なるようにしてもよい。この場合において、二次電池をリチウムイオン二次電池としてもよい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、正、負極板はいずれも合剤層の厚み又は単位面積あたりの重量が電極群の内側より外側が大きく、かつ、合剤層のかさ密度がそれぞれ略均一なため、高出力が要求されるときは抵抗の小さい電極群の内側からの出力が主に寄与し、電極群の端面から集電体の一定長さに対して1つずつ導出された集電タブを介して放電されると共に、電気量が持続的に要求されるときは活物質量の豊富な電極群の外側からの出力が主に寄与し集電タブを介して放電されるので、高出力、高容量を両立させることができる、という効果を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して、本発明を円筒型リチウムイオン二次電池に適用した実施の形態について説明する。
【0014】
(構成)
本実施形態の円筒型リチウムイオン二次電池20は、図1に示すように、電池容器となるニッケルメッキが施されたスチール製で有底円筒状の電池缶19並びに電気絶縁性で中空円筒状の軸芯10の周囲に帯状の正極板及び負極板がセパレータを介して断面渦巻状に捲回された電極群18を有している。
【0015】
電極群18の上側には、正極板からの電位を集電するためのアルミニウム製で円盤状の正極集電部材13が配置されている。正極集電部材13は、軸芯10の上端部に固定されている。正極集電部材13の周縁には、電極群18の上端面から導出された複数の正極タブ11の端部が超音波溶接されている。正極集電部材13の上方には、正極外部端子となる円盤状の電池蓋17が配置されている。正極集電部材13の上面略中央部にはアルミニウム製でリボン状の正極リード板の一端が固定されており、正極リード板の他端は電池蓋17の下面に接合されている。
【0016】
一方、電極群18の下側には負極板からの電位を集電するための銅製で円盤状の負極集電部材14が配置されており、負極集電部材14は軸芯10の下端部に固定されている。負極集電部材14の周縁には、電極群18の下端面から導出された複数の負極タブ12の端部が溶接されている。負極集電部材14の下部には負極リード板が溶接されており、負極リード板は電池缶19の内底部に抵抗溶接されている。
【0017】
電池蓋17は、絶縁性の樹脂製ガスケットを介して電池缶19の上部にカシメられて固定されている。このため、リチウムイオン二次電池20の内部は密封されている。また、電池缶19内には、非水電解液が所定量注液されている。非水電解液には、例えば、エチレンカーボネートやジエチルカーボネート等のカーボネート系混合溶媒中に6フッ化リン酸リチウム(LiPF)を1モル/リットル溶解して使用することができる。なお、電池缶19内の電極群18は非水電解液注液前に60°C、20時間の真空乾燥で水分除去されている。
【0018】
図2に示すように、電極群18は、軸芯10の周囲に、正極板1及び負極板2が、これら両極板が直接接触しないように厚さ30μmで微多孔性のポリエチレン製のセパレータ7を介して捲回されている。正極板1及び負極板2は、電極群18の外径の約半分の直径に捲回されている。正極板1及び負極板2の捲回周囲には、厚さ100μmでポリプロピレン製の絶縁シート9が1周分巻き付けられている。絶縁シート9の周囲には、合剤層の単位面積あたりの重量を、それぞれ正極板1及び負極板2より大きくした正極板3及び負極板4が、正極板1及び負極板2と同様にして捲回されている。従って、電極群18は、合剤層の単位面積あたりの重量の異なるそれぞれ2種類の正極板1、3及び負極板2、4を有している。また、電極群18は、軸芯10(捲回中心)側に単位面積あたりの重量の小さな正極板1及び負極板2が配置され、外周側に単位面積あたりの重量の大きな正極板3及び負極板4が配置されている。正極板1及び負極板2の電極群と、正極板3及び負極板4の電極群との間には絶縁シート9が介在している。
【0019】
正極板1、3の合剤層の幅(図2の縦方向)は負極板2、4の合剤層の幅内に収まるように配置されており、正極板1、3の合剤層の全面を負極板2、4の合剤層とそれぞれ対向させて捲回されている。正極タブ11及び負極タブ12は、それぞれ電極群18の両端面の互いに反対側に導出されている。電極群18及び正極集電部材13の外周面全周には、図示を省略した絶縁被覆が施されている。
【0020】
電極群18を構成する正極板1、3は、正極集電体として厚さ20μmのアルミニウム箔を有している。アルミニウム箔の両面には、正極活物質としてリチウムマンガン複合酸化物粉末を含む正極合剤が略均等に塗着されて合剤層が形成されている。正極合剤には、正極活物質の85重量部に対して、導電剤として炭素粉末の10重量部及びバインダ(結着材)としてポリフッ化ビニリデン(以下、PVDFと略記する。)の5重量部が配合されている。正極合剤は、粘度調整溶媒としてN−メチルピロリドン(以下、NMPと略記する。)が用いられ、プラネタリミキサで略均一に混練され真空脱泡処理されている。アルミニウム箔に正極合剤を塗工するときには、合剤層の単位面積あたりの重量(以下、正極塗工量という。)を調整可能な塗工機が使用される。正極塗工量は、正極板1ではアルミニウム箔片面あたり120g/mに設定されており、正極板3では240g/mに設定されている。正極板1、3は、いずれも正極合剤のかさ密度が2.7g/cmとなるように、ロールプレス機でプレス加工されている。このため、正極塗工量が正極板3より小さい正極板1では、合剤層の厚みも小さくなる。アルミニウム箔の長寸方向一側の側縁には、正極合剤の未塗工部が形成されている。未塗工部は略均等な間隔で櫛歯状に裁断されており、複数の正極タブ11が形成されている。このため、正極タブ11は、アルミニウム箔の一定長さに対して1つずつ形成されている。
【0021】
一方、負極板2、4は、負極集電体として厚さ10μmの銅箔を有している。銅箔の両面には、負極活物質として非晶質炭素粉末を含む負極合剤が塗着されて合剤層が形成されている。負極合剤には、負極活物質の90重量部に対して、導電剤としてアセチレンブラックの5重量部及びバインダとしてPVDFの5重量部が配合されており、負極合剤は正極合剤と同様にして調製されている。銅箔に負極合剤を塗工するときには、正極合剤の塗工と同様の塗工機が使用される。合剤層の単位面積あたりの重量(以下、負極塗工量という。)は、負極板2では銅箔片面あたり35g/mに設定されており、負極板4では70g/mに設定されている。負極板2、4は、いずれも負極合剤のかさ密度が1g/cmとなるように、ロールプレス機でプレス加工されている。このため、負極塗工量が負極板4より小さい負極板2では、合剤層の厚みも小さくなる。銅箔の長寸方向一側の側縁には、負極合剤の未塗工部が形成されており、正極板1、3と同様にして複数の負極タブ12が形成されている。このため、負極タブ12は、銅箔の一定長さに対して1つずつ形成されている。なお、負極合剤の塗工部の幅は正極合剤の塗工部の幅より約2%大きく設定されている。
【0022】
(作用等)
次に、本実施形態のリチウムイオン二次電池20の作用等について説明する。
【0023】
本実施形態のリチウムイオン二次電池20では、電極群18は、軸芯10側に正極塗工量を小さくした正極板1及び負極塗工量を小さくした負極板2が捲回されており、外周側に正極塗工量を大きくした正極板3及び負極塗工量を大きくした負極板4が捲回されている。すなわち、電極群18は、正負極塗工量の異なる2組みの正負極板を有している。このため、正極板1、負極板2をセパレータ7を介して対向させた軸芯10側では充放電時の電荷移動の抵抗が小さくなり、正極板3、負極板4をセパレータ7を介して対向させた外周側では正負極板共に活物質量が大きくなる。これにより、高出力が要求されるときは、電荷移動の抵抗が小さな正極板1、負極板2からの出力が主に寄与して放電され、それに続いて大きな電気量が持続的に要求されるときは、活物質量が大きな正極板3、負極板4からの出力が主に寄与して放電される。また、正極板1、3には、アルミニウム箔の一定長さに対して1つずつ導出された複数の集電タブ11が形成されており、負極板2、4には、銅箔の一定長さに対して1つずつ導出された複数の集電タブ12が形成されている。従って、高出力が要求されるときでも、電気量が持続的に要求されるときでも、負荷側からの要求に対し、電極群18を構成する正負極塗工量の異なる2組みの正負極板の物質移動や電荷移動の抵抗差に応じて電気量が集電されるので、高出力及び高容量を両立させることができる。
【0024】
また、本実施形態のリチウムイオン二次電池20では、正負極塗工量を小さくした正極板1、負極板2が、正負極塗工量を大きくした正極板3、負極板4がそれぞれ対向するように捲回されており、正極板1、3、及び、負極板2、4ではそれぞれ正負極合剤のかさ密度が同じに形成されている。このため、正極板1、3の単位体積あたりの放電容量と、負極板2、4の単位体積あたりの放電容量との比は、正負極塗工量にかかわらず電極群18の軸芯10側及び外周側でほぼ一定となる。これにより、充放電時に正負極板のいずれか一方のみに負荷がかかることを防止することができる。更に、正極板1、負極板2を捲回した外側には絶縁シート9が1周分巻き付けられている。このため、例えば、正極塗工量を大きくした正極板1と負極塗工量を大きくした負極板4とを対向させるような、厚みが異なることによる正負極板の対向不良が生じることを防止することができる。
【0025】
更に、本実施形態のリチウムイオン二次電池20では、電極群18の軸芯10側に正極板1、負極板2が、外周側に正極板3、負極板4がそれぞれ捲回されている。このため、正負極塗工量を小さくした正極板1、負極板2が小さな捲回径で捲回され、正負極塗工量を大きくした正極板3、負極板4が大きな捲回径で捲回されるので、正負極板の捲回時に合剤層にひび割れ等の損傷が生じることを防止することができる。
【0026】
また更に、正極板3、負極板4で正負極塗工量を大きくしたため、セパレータ7の使用量が減少するので、正極板1、負極板2の1組みの捲回数を増大させる場合と比較して、セパレータ7の体積分で正負極活物質量を増大させることができ高容量化を図ることができる。更にまた、正負極塗工量の大きな正負極板を有する電池と、小さな正負極板を有する電池とを並列に接続する場合と比べて制御回路や電池構成が複雑にならない、という利点もある。
【0027】
これに対して、従来のリチウムイオン二次電池では、正負極塗工量が略均一な1組みの正負極板が捲回されているので、高出力、高容量を両立させることは難しい。また、高出力を得るために合剤層の厚みを小さくし、高容量化を図るために捲回数を増大させると、正負極間に介在するセパレータの体積分で活物質量が減少するため、高容量化が不十分となる。更に、正負極塗工量の大きな部分と小さな部分とを有するようにしても、対向する正負極板の単位体積あたりの放電容量の比が異なると、充放電時に正負極板の一方のみに負荷がかかることがある。これに代えて、正負極塗工量を大きくした正負極板を有する電池と、正負極塗工量を小さくした正負極板を有する電池とを並列に接続して高出力、高容量を両立させようとするには、制御回路や電池構成が複雑になる。本実施形態のリチウムイオン二次電池20では、これらの問題を解決することができるものである。
【0028】
なお、本実施形態のリチウムイオン二次電池20では、正負極塗工量の異なる2組みの正負極板を用いて電極群18を形成したが、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、正負極塗工量の異なる3組み以上の正負極板を用いてもよく、正負極塗工量に代えて合剤層の厚みが異なるようにしてもよい。また、合剤層の厚みをほぼ一定の勾配(厚みの増加率)で変化させて形成した1組みの正負極板を用いてもよい。このことは、例えば、図3に示すように、リチウムイオン二次電池20の電極群18を、軸芯10の周囲に、合剤層の厚みを正負極板の長手方向でほぼ一定の勾配となるように形成した正極板5、負極板6をセパレータ7を介して捲回し、正極板5、負極板6共に合剤層の厚みの小さい方を軸芯10側に配置することで実現することができる。
【0029】
正極板5の作製では、アルミニウム箔に正極合剤を塗工する際に、合剤層の厚みをシーケンス制御可能な塗工機を用いて塗工始め部分の厚みを44μm(片面あたり塗工量120g/m)に設定し、漸次厚みを増大させて塗工終わり部分の厚みが88μm(片面あたり塗工量240g/m)となるように塗工する。このとき、合剤層の厚みの勾配を塗工始め部分から塗工終わり部分までほぼ一定にする。正極合剤塗工後のプレス加工時には、ロールプレス機のクリアランスをシーケンス制御等でプレス中に変更可能な機械を用いて、正極合剤のかさ密度が合剤層の厚みにかかわらず2.7g/cmにプレス加工する。一方、負極板6の作製では、正極板5の作製と同様にして、塗工始め部分の合剤層の厚みを35μm(片面あたり塗工量35g/m)に設定し、漸次厚みを増大させて塗工終わり部分の厚みが70μm(片面あたり塗工量70g/m)となるように塗工する。プレス加工時には、正極板5と同様にして負極合剤のかさ密度1g/cmにプレス加工する。作製した正極板5及び負極板6を厚みの小さい(塗工始め)部分を軸芯10側にして捲回することで、電極群18には合剤層の厚みが軸芯10側から漸次増大する正負極板が配置される。これにより、高出力及び高容量を両立させることができる。
【0030】
このように1つの電池内で合剤層の厚みの大きな正負極板と厚みの小さな正負極板とを混在させる場合は、対向する正負極板の放電容量の比が異なると充放電時に正負極板の一方のみに負荷がかかるため、対向する正負極板の単位体積あたりの放電容量の比をほぼ一定とすることが望ましい。このため、正負極板の1組みを捲回するときは、合剤層の厚みを漸減又は漸増させることが必要であるが、合剤層の厚みの勾配を正確に制御することは容易ではない。正負極合剤の塗工時にシーケンス制御可能な塗工機を用いる等の煩雑さを考慮すれば、合剤層の厚み又は正負極塗工量の異なる少なくとも2組みの正負極板を捲回することが好ましい。このとき、対向する正負極板の放電容量の比が異なることを回避するため、合剤層の厚み又は正負極塗工量を変更する境界で一度正負極板の捲回を終結し、絶縁性の薄板等を配置した後に厚みの異なる正負極板を捲回することが好ましい。
【0031】
また、本実施形態のリチウムイオン二次電池20では、正負極板を捲回して電極群18を作製する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、正負極板を短冊状に裁断して積層するようにしてもよい。このことは、例えば、図4に示すように、角型リチウムイオン二次電池の電極群18では、正極板1、負極板2を交互に積層し、積層した正負極板の両側に絶縁シート9を配設した後、絶縁シート9の両外側に正極板3、負極板4を交互に積層することで実現することができる。正極板1、3は、袋状に加工されたセパレータ7で被覆されている。正極板1、負極板2を積層した積層厚みは、電極群18の積層方向の全体の厚みの約半分に積層されている。各正極板には、1辺の一側にそれぞれ1本の正極タブが形成されており、各負極板には1辺の他側にそれぞれ1本の負極タブが形成されている。このため、1辺の長さに対して1つずつの正負極タブが導出されている。正負極板の積層時には、正極タブと負極タブとが重ならないように配置されている。
【0032】
角型リチウムイオン二次電池の電池缶は、直方体の形状を有しており、ステンレス製で板状の電池蓋と嵌合可能に直方体の一面が開口されている。電極群18は、電池缶と絶縁するためにポリプロピレン製の内箱に挿入後、電池缶に挿入されている。正極タブはアルミニウム製で角柱状のストラップ15に超音波溶接されており、負極タブは銅製で角柱状の図示しないストラップに超音波溶接されている。それぞれのストラップは、電池蓋に電気絶縁部材を介して固定された正負極外部端子にボルトで締結されている。正負極外部端子には、それぞれアルミニウム製及び銅製の材質が用いられている。また、電池蓋には、テーパーネジを螺合可能で非水電解液を注液するための注液口が形成されている。電池蓋の外周及び電池缶の開口部はレーザ溶接で封口されている。電極群18は、水分除去のため、非水電解液注液前に60°Cで20時間真空乾燥処理されている。電池缶内には注液口から非水電解液が注液されており、注液口にはシールテープを巻いたテーパーネジが螺合されている。
【0033】
このように正負極板を積層して電極群18を作製する場合は、対向させる正負極板の放電容量比がほぼ一定となるように合剤層の厚みを調整(制御)すればよいので、正負極塗工量を調整することと比較して、合剤層の厚みの異なる少なくとも2組みの正負極板を有する電極群18を容易に実現することができる。
【0034】
更に、本実施形態のリチウムイオン二次電池20では、正負極板共に合剤層の厚み又は正負極塗工量を集電体の両面で同じに形成する例を示したが、本発明はこれに限定されるものではなく、集電体の両面で合剤層の厚み又は正負極塗工量を変えるようにしてもよい。この場合には、対向する正負極板の単位体積あたりの放電容量をほぼ一定とするため、合剤層の厚み又は正負極塗工量を大きくした面同士、小さくした面同士をそれぞれ対向させることが好ましい。また、集電体の両面で合剤層の厚み又は正負極塗工量を変えると、プレス加工時に正負極板が湾曲して反りが生じるため、正負極板の捲回時にある程度のテンションをかけて捲回することが好ましい。このような反りが生じると正負極板を積層しにくくなるため、正負極板を積層する積層式の電池では集電体両面で合剤層の厚み又は正負極塗工量を同じにすることが好ましい。
【0035】
また更に、本実施形態のリチウムイオン二次電池20では、正極板1及び負極板2の電極群と、正極板3及び負極板4の電極群との間に介在させる絶縁シートに厚さ100μmでポリプロピレン製の絶縁シート9を用いる例を示したが、本発明はこれに限定されるものではない。絶縁シートとしては、合剤層の厚み又は正負極塗工量の異なる複数組みの正負極板を絶縁可能であればよく、例えば、ポリエチレン等のポリオレフィン製等の材質を用いてもよく、また、厚さについても特に制限はない。
【0036】
更にまた、本実施形態のリチウムイオン二次電池20では、合剤層の厚み、正負極塗工量、正負極合剤のかさ密度等の具体的な数値を例示したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、通常用いられる範囲で適宜選定すればよい。また、本実施形態では、リチウムイオン二次電池20を例示したが、本発明は二次電池一般に適用可能であることはいうまでもない。
【実施例】
【0037】
以下、本実施形態に従い作製したリチウムイオン二次電池20の実施例について説明する。なお、比較のために作製した比較例のリチウムイオン二次電池についても併記する。また、各実施例及び比較例の電池では、電池容量を同じに設定した。
【0038】
(実施例1)
実施例1では、正負極塗工量の異なる2組みの正負極板を軸芯10の周囲に捲回してリチウムイオン二次電池20(以下、電池1という。)を作製した(図2参照)。
【0039】
(実施例2)
実施例2では、合剤層の厚みを軸芯10側から外周側に向けて漸次増大させた正負極板を用いてリチウムイオン二次電池(以下、電池2という。)を作製した(図3参照)。
【0040】
(実施例3)
実施例3では、正負極塗工量の異なる2組みの正負極板を積層した角型のリチウムイオン二次電池(以下、電池3という。)を作製した(図4参照)。
【0041】
(比較例1)
比較例1では、正極塗工量を180g/m(正極板1、3の平均の塗工量)、負極塗工量を52.5g/m(負極板2、4の平均の塗工量)とする以外は実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池(以下、電池4という。)を作製した。すなわち、比較例1の電池4では、正負極塗工量を略均一にした1組みの正負極板を用いた電池である。
【0042】
(試験)
実施例及び比較例の各電池について、0.5C(2時間率)及び3C(1/3時間率)の電流値で放電して放電容量に対する電池電圧の変化を測定し、放電曲線を作成した。0.5C、3Cの放電曲線を図4、図5にそれぞれ示す。なお、図4、図5において、放電容量は、電池容量に対する百分率(単位%)を示している。
【0043】
図4、図5に示すように、正負極塗工量を略均一にした1組みの正負極板を用いた電池4では、放電初期の電圧降下が大きくなり、放電容量の増加に伴う電池電圧の低下も大きくなった。これに対して、合剤層の厚み又は正負極塗工量の異なる正負極板を捲回又は積層した電池1〜電池3では、いずれの放電率においても、放電初期の電圧降下が小さく、平均放電電圧を向上させることができた。従って、電池1〜電池3では、放電容量(単位Ah)が同じ電池4と比較して、高出力が可能であり、より多くの電力量(単位Wh)を供給可能なことが判明した。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、高出力及び高容量を両立可能な二次電池を提供するものであり、製造、販売に寄与し、産業上利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明を適用した実施形態の円筒型リチウムイオン二次電池を示す断面図である。
【図2】実施形態の円筒型リチウムイオン二次電池の電極群を示す断面図である。
【図3】本発明が適用可能な円筒型リチウムイオン二次電池で合剤層の厚みを捲き始め部分から捲き終わり部分までほぼ一定の勾配で漸次増大させた正負極板を捲回した電極群を示す断面図である。
【図4】本発明が適用可能な角形リチウムイオン二次電池で正負極合剤の塗工量の異なる2組みの正負極板を積層した電極群を示す断面図である。
【図5】2時間率放電におけるリチウムイオン二次電池の放電容量と放電電圧との関係を示すグラフである。
【図6】1/3時間率放電におけるリチウムイオン二次電池の放電容量と放電電圧との関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0046】
1、3、5 正極板
2、4、6 負極板
9 絶縁シート(絶縁性薄板)
11 正極タブ(集電タブ)
12 負極タブ(集電タブ)
18 電極群
20 円筒型リチウムイオン二次電池(二次電池)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集電体に活物質を含む合剤層が塗着されており前記集電体から複数の集電タブがそれぞれ導出された正、負極板間にセパレータを介在させた電極群を有する二次電池において、前記正、負極板は、いずれも前記合剤層の厚みが前記電極群の内側より外側が大きく、かつ、前記合剤層のかさ密度がそれぞれ略均一であり、前記集電タブは前記電極群の端面から前記集電体の一定長さに対して1つずつ導出されていることを特徴とする二次電池。
【請求項2】
集電体に活物質を含む合剤層が塗着されており前記集電体から複数の集電タブがそれぞれ導出された正、負極板間にセパレータを介在させた電極群を有する二次電池において、前記正、負極板は、いずれも前記合剤層の単位面積あたりの重量が前記電極群の内側より外側が大きく、かつ、前記合剤層のかさ密度がそれぞれ略均一であり、前記集電タブは前記電極群の端面から前記集電体の一定長さに対して1つずつ導出されていることを特徴とする二次電池。
【請求項3】
前記電極群が、前記合剤層の厚みの異なる少なくとも2組みの正、負極板を有することを特徴とする請求項1に記載の二次電池。
【請求項4】
前記電極群が、前記合剤層の単位面積あたりの重量の異なる少なくとも2組みの正、負極板を有することを特徴とする請求項2に記載の二次電池。
【請求項5】
前記少なくとも2組みの正、負極板を有する電極群間に絶縁性の薄板が介在していることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の二次電池。
【請求項6】
前記合剤層は、前記正、負極板の集電体の両面に塗着されており、該合剤層の厚みが前記集電体の両面で異なることを特徴とする請求項1に記載の二次電池。
【請求項7】
前記合剤層は、前記正、負極板の集電体の両面に塗着されており、該合剤層の単位面積あたりの重量が前記集電体の両面で異なることを特徴とする請求項2に記載の二次電池。
【請求項8】
前記二次電池がリチウムイオン二次電池であることを特徴とする請求項1乃至請求項7のいずれか1項に記載の二次電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−12703(P2006−12703A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−190837(P2004−190837)
【出願日】平成16年6月29日(2004.6.29)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成15年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(再)委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願)
【出願人】(000001203)新神戸電機株式会社 (518)
【Fターム(参考)】