説明

二軸配向ポリエステルフィルム

【課題】滑り性に優れ、かつ炭酸カルシウム粒子を含んでいても熱履歴による色目悪化が抑制され、耐熱変色性に優れた二軸配向ポリエステルフィルムを提供する。
【解決手段】炭酸カルシウム粒子およびホスホネート化合物を含有する二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、該ホスホネート化合物が下記一般式(I)で表されるホスホネート化合物であり、


(RおよびRは1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、Xは、−CH−または−CH(Y)−を表す(Yはフェニル基を示す))かつ炭酸カルシウム粒子とホスホネート化合物との含有比およびホスホネート化合物の含有量がそれぞれ特定の値を満たす二軸配向ポリエステルフィルム。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は耐熱変色性および滑り性に優れた二軸配向ポリエステルフィルムに関する。更に詳しくは、複数回にわたって熱履歴を受けた場合、あるいは熱履歴時間が長い場合にも色目悪化が抑制され、かつ滑り性も兼ね備えた炭酸カルシウム粒子含有二軸配向ポリエステルフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルフィルム、特にポリエチレンテレフタレートやポリエチレンナフタレンジカルボキシレートからなる二軸配向フィルムは、優れた機械的性質、耐熱性、耐薬品性などを有するため、磁気テープ、強磁性薄膜テープ、写真フィルム、包装用フィルム、電子部品用フィルム、電気絶縁フィルム、金属ラミネート用フィルム及び保護用フィルム等の素材として広く用いられている。電気絶縁材料としては、ポリエチレンテレフタレートフィルムをはじめ、性能向上に伴う電気機器の発熱量の増加により、耐熱性の高いポリエチレンナフタレンジカルボキシレートフィルム(特許文献1)が用いられるようになってきている。
【0003】
モータのウエッジやスロットへの電気絶縁フィルムの挿入方法として、機械による自動挿入法が採用されており、フィルムに対して高い滑り性が求められている。そこで、高い滑り性を付与する滑剤として比較的粒径の大きい粒子が用いられており、一例として炭酸カルシウム粒子が用いられている。
【0004】
炭酸カルシウム粒子は滑剤として従来から使用されており、また白色性を高める目的でポリエステルフィルムに多量含有させるなどの使用形態が知られている。しかし単に炭酸カルシウムを多量に含有させるだけでは粒子の表面活性によって粒子とポリエステルとの相互作用が生じ、耐熱性が低下するなどとともに異物や発泡が生じたり、得られたフィルムの白度が十分でないため、トリメチルホスフェートなどのリン化合物を併用することが提案されている(特許文献2、特許文献3、特許文献4)。さらに、より一層の耐熱安定性の向上や変色、発泡などを抑制する方法として、炭酸カルシウムに特定のホスホネート化合物を用いることが提案されている(特許文献5)。
【0005】
一方、炭酸カルシウムを滑剤として比較的少量添加する場合、主として炭酸カルシウムの分散性を向上させる目的でトリメチルホスフェートなどのリン化合物を併用することが特許文献6に開示されている。また炭酸カルシウムなどの不活性粒子の凝集を抑制し、またポリエステルの熱安定性を高める目的で、触媒としてチタン化合物を用い、特定のホスホネート化合物をチタン触媒量との差が少ない範囲で併用することが特許文献7に開示されている。
【0006】
このように炭酸カルシウム粒子を多量に含む場合には従来から色目が問題になることはあったが、滑剤目的で数重量%程度しか含まない場合にまで色目が問題視されることはなかった。しかし近年プラスチック製品の回収および再利用が進むに伴い、少量の炭酸カルシウムを含むフィルムにおいても複数回にわたる熱履歴を受けた場合、あるいは熱履歴時間が長い場合には着色が生じる問題が顕在化するようになってきた。そこで、このような熱履歴を受けた場合でも色目悪化が抑制され、かつ滑り性も兼ね備えた二軸配向ポリエステルフィルムが望まれているのが現状である。
【0007】
【特許文献1】特開平01−232020号公報
【特許文献2】特開平07−331038号公報
【特許文献3】特開平08−143756号公報
【特許文献4】特開平09−272793号公報
【特許文献5】特開平10−237275号公報
【特許文献6】特開平06−157877号公報
【特許文献7】特開2004−043539号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、かかる従来技術の課題を解消し、炭酸カルシウム粒子を含むポリエステルフィルムであっても複数回にわたる熱履歴を受けた場合あるいは熱履歴時間が長い場合の色目悪化が抑制され、かつ滑り性も兼ね備えた二軸配向ポリエステルフィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、滑剤として炭酸カルシウム粒子を含むポリエステルフィルムにおいて熱履歴を受ける総時間が長くても色目悪化を抑制するためには、特定のホスホネート化合物を用い、しかも炭酸カルシウム粒子に対して従来用いられていなかった高比率の範囲でホスホネート化合物を用いることで初めて十分な耐熱変色性が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明によれば、本発明の目的は、炭酸カルシウム粒子およびホスホネート化合物を含有する二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、該ホスホネート化合物が下記一般式(I)で表されるホスホネート化合物であり、
【化1】

(上記式(I)中、RおよびRは、それぞれ互いに独立に1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、Xは、−CH−または−CH(Y)−を表す(Yはフェニル基を示す))
かつ炭酸カルシウム粒子とホスホネート化合物との含有比およびホスホネート化合物の含有量がそれぞれ下記式(1)、下記式(2)
1≦Ca/P≦40 ・・・・・(1)
(上式(1)中、Caはフィルム中の炭酸カルシウム粒子のカルシウム元素としての濃度(単位:ppm)、Pはフィルム中のホスホネート化合物のリン元素としての濃度(単位:ppm)をそれぞれ示す)
80≦P≦150 ・・・・・(2)
(上式(2)中、Pはフィルム中のホスホネート化合物のリン元素としての濃度(単位:ppm)を示す)
を満たす二軸配向ポリエステルフィルムによって達成される。
【0011】
また、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、その好ましい態様として、ポリエステルがポリエチレンナフタレンジカルボキシレートであること、主触媒としてアンチモン化合物をフィルム中のアンチモン元素として60〜300ppm含有すること、炭酸カルシウムの含有量がポリエステルフィルムの重量を基準として0.02〜1.5重量%であること、下記式(2)で表わされる300℃、30分加熱処理後のフィルムの変色指数
変色指数(%)=(300℃,30分熱処理後のフィルムのYID)/(300℃,1分熱処理後のフィルムのYID)×100 ・・・(2)
が180未満であること、フィルム表面の十点平均粗さRzが120〜200nmであること、の少なくともいずれか一つを具備するものも包含する。
また、本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは電気絶縁用フィルムとして好適に用いられる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、複数回にわたる熱履歴を受けた場合、あるいは熱履歴時間が長い場合の色目悪化が抑制され、かつ滑り性も兼ね備えた炭酸カルシウム粒子含有二軸配向ポリエステルフィルムを提供することができ、その工業的価値は極めて高い。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を詳しく説明する。
<ポリエステル>
本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステルは、ジオールとジカルボン酸との重縮合によって得られるポリマーである。かかるジカルボン酸として、例えばテレフタル酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、アジピン酸およびセバシン酸が挙げられ、またジオールとして、例えばエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、1,6−ヘキサンジオールが挙げられる。これらのポリエステルの中で、具体的にポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート、ポリ(1,4−シクロヘキサンジメチレンテレフタレート)、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートが例示され、特に耐熱性の観点から、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートが好ましく、さらに高い耐熱性が必要とされる場合にはポリエチレンナフタレンジカルボキシレートが特に好ましい。また本発明の熱履歴による色目悪化に関する課題は、加工温度の高いポリエチレンナフタレンジカルボキシレートにおいて特に色目悪化が顕著であることから、ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを用いた場合に改善効果が高い。
【0014】
本発明のポリエステル樹脂は、単独でも他のポリエステルとの共重合体、2種以上のポリエステルとの混合体のいずれであってもかまわない。共重合体または混合体における他の成分は、繰返し構造単位のモル数を基準として20モル%以下、さらに10モル%以下であることが好ましい。
【0015】
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレート(以下、PENと略記することがある)は、ジカルボン酸成分としてナフタレンジカルボン酸が用いられ、ジオール成分としてエチレングリコールが用いられる。ナフタレンジカルボン酸としては、たとえば2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、1,5−ナフタレンジカルボン酸を挙げることができ、これらの中で2,6−ナフタレンジカルボン酸が好ましい。ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートがコポリマーである場合、コポリマーを構成する共重合成分としては、分子内に2つのエステル形成性官能基を有する化合物を用いることができ、かかる化合物としては例えば、蓚酸、アジピン酸、フタル酸、セバシン酸、ドデカンジカルボン酸、イソフタル酸、テレフタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸、テトラリンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸等の如きジカルボン酸;p−オキシ安息香酸、p−オキシエトキシ安息香酸の如きオキシカルボン酸;或いはトリメチレングリコール、テトラメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、シクロヘキサンメチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、ジエチレングリコール、ポリエチレンオキシドグリコールの如きジオールを好ましく用いることができる。これらの共重合成分は、1種または2種以上用いてもよい。これらの共重合成分の中で、好ましい酸成分としてイソフタル酸、テレフタル酸、4,4’−ジフェニルジカルボン酸、2,7−ナフタレンジカルボン酸またはp−オキシ安息香酸であり、好ましいジオール成分としては、トリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ネオペンチルグリコールまたはビスフェノールスルホンのエチレンオキサイド付加物である。
【0016】
ポリエチレンナフタレンジカルボキシレートがポリマーブレンドである場合、ブレンド成分としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンイソフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリエチレン4,4’−テトラメチレンジフェニルジカルボキシレート、ポリエチレン−2,7−ナフタレンジカルボキシレート、ポリトリメチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリネオペンチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート、ポリ(ビス(4−エチレンオキシフェニル)スルホン)−2,6−ナフタレンジカルボキシレート等のポリエステルを挙げることができる。これらのブレンド成分は、1種または2種以上用いてもよい。
【0017】
また、本発明のポリエステルは、例えば安息香酸、メトキシポリアルキレングリコールなどの一官能性化合物によって末端の水酸基および/またはカルボキシル基の一部または全部を封鎖したものであってよく、極く少量の例えばグリセリン、ペンタエリスリトール等の如き三官能以上のエステル形成性化合物で実質的に線状のポリマーが得られる範囲内で共重合したものであってもよい。
【0018】
本発明のポリエステルの固有粘度は、o−クロロフェノール中、35℃において0.40dl/g以上であることが好ましく、0.40〜0.85dl/gであることがさらに好ましい。固有粘度が下限に満たない場合、フィルム製膜時に切断が多発したり、成形加工後の製品の強度が不足することがある。一方、固有粘度が上限を越える場合は重合時の生産性が低下することがある。また二軸配向フィルムに製膜した後のポリエステルの固有粘度は0.38dl/g以上0.83dl/g以下であることが好ましい。
【0019】
本発明のポリエチレンナフタレンジカルボキシレートは、従来公知の方法で、例えばジカルボン酸とグリコールの反応で直接低重合度ポリエステルを得る方法や、ジカルボン酸の低級アルキルエステルとグリコールとをエステル交換触媒を用いて反応させた後、重合触媒の存在下で重合反応を行う方法で得ることができる。このエステル交換触媒は公知のものを用いることができる。また重合触媒も公知のものを用いることができ、主触媒としてアンチモン化合物が例示される。アンチモン化合物はフィルム中のアンチモン元素として60〜300ppmの範囲で用いることが好ましい。重合触媒量が下限に満たない場合、ポリエステル製造時の生産性が遅延し、一方重合触媒量が上限を超える場合は溶融時の熱劣化が激しく、重合触媒に起因する色目悪化が生じることがある。具体的なアンチモン化合物として、三酸化アンチモン、五酸化アンチモンが例示される。またごく少量の範囲でチタン化合物を用いてもよく、テトラエトキシチタン、テトラブトキシチタン、トリメリット酸チタン、硫酸チタン、塩化チタンが例示される。重合触媒由来の色目悪化を防ぐ観点から、本発明では重合触媒としてアンチモン化合物が好ましく用いられる。アンチモン化合物は、さらに好ましくは70〜250ppmの範囲で用いられる。
【0020】
<炭酸カルシウム粒子>
本発明のポリエステルフィルムは、主たる滑剤として炭酸カルシウム粒子を含有する。炭酸カルシウム粒子を滑剤として用いる場合、一般に用いられる滑剤の中でも高い滑り性を付与することが可能であることから、例えば炭酸カルシウム粒子を含有する二軸配向ポリエステルフィルムを電気絶縁フィルムとして用いた場合、モータのウエッジやスロットにフィルムを機械で自動挿入することができる。
【0021】
炭酸カルシウム粒子の含有量は、ポリエステルフィルムの重量を基準として0.02〜1.5重量%であることが好ましい。炭酸カルシウム粒子の含有量が下限に満たない場合、高い滑り性が得られないため、例えば電気絶縁フィルムとして用いた場合にモータのウエッジやスロットにフィルムを機械で自動挿入させる際に詰まるなどして不良率が高くなることがある。一方、炭酸カルシウム粒子を上限を超える範囲で含有させてもそれ以上の滑り性が得られないばかりか、再溶融における色目が悪化する傾向にある。
【0022】
炭酸カルシウム粒子の平均粒径は0.01〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.1〜5.0μm、特に好ましくは0.2〜2.0μmである。ここで、平均粒径とは各粒径の炭酸カルシウム粒子とその存在量との積算曲線から、50体積%に相当する「等価球直径」を指す。平均粒径が下限に満たない場合、高い滑り性が得られないため、例えば電気絶縁フィルムとして用いた場合にモータのウエッジやスロットにフィルムを機械で自動挿入させる際に詰まるなどして不良率が高くなることがある。一方、平均粒径が上限を超える場合、フィルム製膜時に製膜性が不良となることがある。
【0023】
<ホスホネート化合物>
本発明のポリエステルフィルムは、ホスホネート化合物として下記一般式(I)
【化2】

(上記式(I)中、RおよびRは、それぞれ互いに独立に1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、Xは、−CH−または−CH(Y)−を表す(Yはフェニル基を示す))
で表されるホスホネート化合物を用い、かつフィルム中のホスホネート化合物のリン元素としての濃度が80〜150ppmであることが必要である。
【0024】
かかるホスホネート化合物を用いることにより、80〜150ppmという高濃度範囲でフィルム中に含有させることが可能になる。従来のリン化合物、例えばリン酸、ホスホン酸およびそれらのアルキルエステル化合物をこのような高濃度範囲で用いた場合、重合反応速度の遅延が生じ、またリン化合物自身の耐熱安定性が十分でないためにリン化合物由来の変色が生じたり、ポリエステルの熱安定性を低下させることがある。本発明のホスホネート化合物を用いる際、該ホスホネート化合物のリン元素としての濃度が下限に満たないと、熱履歴による色目悪化を抑制することができない。一方、該ホスホネート化合物のリン元素としての濃度が上限を超える場合、ポリエステル製造工程において重合反応速度の遅延が生じる。
【0025】
かかるホスホネート化合物は、式(I)で示される化合物であれば特に限定されるものではなく、例えばメチルジエチルホスホノアセテート、エチルジメチルホスホノアセテート、トリエチルホスホノアセテート、エチルジイソプロピルホスホノアセテート、イソプロピルジエチルホスホノアセテート、tert−ブチルジエチルホスホノアセテート、ジメチル(フェニルメトキシカルボニルメチル)ホスホネート等が挙げられる。これらの中でも特にトリエチルホスホノアセテートが好ましい。ホスホネート化合物の含有量は、さらに好ましくは90〜140ppmである。
【0026】
ホスホネート化合物の添加時期は、エステル交換反応またはエステル化反応の終了時以降、延伸製膜工程迄の間のいずれかの段階であれば特に制限されない。またホスホネート化合物の添加は一度に行ってもよく、また2回以上に分割して行ってもよい。ホスホネート化合物の添加方法として、所定量のホスホネート化合物を直接添加する方法、あるいはホスホネート化合物を高濃度含有する、いわゆるマスターポリマー(マスターバッチ)を添加する方法が例示される。
【0027】
所定量のホスホネート化合物を直接添加する方法としては、i)重合工程または製膜前の溶融ポリエステルに所定量のホスホネート化合物を直接添加する方法、ii)重合工程または製膜前の溶融ポリエステルに媒体で希釈した所定量のホスホネート化合物を添加する方法、あるいはiii)固体状のポリエステルに所定量のホスホネート化合物を添加し、これらを混合してから溶融混練する方法などが挙げられる。
【0028】
またマスターポリマー(マスターバッチ)を添加する方法としては、i)重合工程または製膜前の溶融ポリエステルに所定量のホスホネート化合物を含むマスターポリマーを添加する方法、ii)固体状のポリエステルに所定量のホスホネート化合物を含むマスターポリマーを添加し、これらを混合してから溶融混練する方法などが挙げられる。
これらの中でも好ましいホスホネート化合物の添加時期として、エステル交換反応の終了時が挙げられる。
【0029】
<Ca/P比>
本発明の特徴の1つは、二軸配向ポリエステルフィルム中の炭酸カルシウム粒子とホスホネート化合物との含有比が特定範囲にある場合に熱履歴による色目悪化が抑制されることにあり、炭酸カルシウム粒子とホスホネート化合物との含有比は下記式(1)を満たすことが必要である。
1≦Ca/P≦40 ・・・・・(1)
(上式(1)中、Caはフィルム中の炭酸カルシウム粒子のカルシウム元素としての濃度(単位:ppm)、Pはフィルム中のホスホネート化合物のリン元素としての濃度(単位:ppm)をそれぞれ示す)
上記式(1)で表されるように、炭酸カルシウム粒子に対して非常に高比率のホスホネート化合物を含有させることで初めて複数回にわたる熱履歴あるいは長時間に渡る熱履歴を受けた際にポリエステルフィルムの色目悪化を抑制することができる。
【0030】
Ca/Pの下限は好ましくは7以上、さらに好ましくは10以上、特に好ましくは20以上であり、一方Ca/Pの上限は好ましくは35以下、さらに好ましくは33以下、特に好ましくは30以下である。Ca/Pが上限を越える場合、炭酸カルシウム粒子に対するホスホネート化合物の配合割合が少ないために炭酸カルシウム粒子の活性を十分の抑えることができず、熱履歴によるフィルム変色の度合いが大きくなる。一方、Ca/Pが下限に満たない場合は、ホスホネート化合物による炭酸カルシウムの活性抑制効果がそれ以上期待できないだけでなく、過剰のホスホネート化合物によって重合反応速度の遅延が生じることがある。
なお、炭酸カルシウム粒子以外にエステル交換反応触媒としてカルシウム化合物が用いられる場合、触媒としてのカルシウム元素は上式(1)のカルシウム濃度に含めないものとする。
【0031】
<他添加剤>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、炭酸カルシウム粒子以外の滑剤として、表面活性の小さい耐熱安定性の良好な粒子を併用してもよい。ここで耐熱安定性の良好な粒子とは不活性粒子を指し、シリカ粒子、ならびに架橋シリコーン樹脂、架橋ポリスチレン、架橋アクリル樹脂粒子等のごとき耐熱性の高いポリマーよりなる粒子が例示され、これらの中でも球状シリカ粒子が好ましい。炭酸カルシウム粒子以外の粒子の平均粒径は、炭酸カルシウム粒子の平均粒径よりも0.1μm以上小さく、かつポリエステルフィルムの重量を基準として0.5重量%以下の範囲で含有されることが好ましい。
また本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、必要に応じて少量の帯電防止剤、遮光剤、安定剤等を含んでいてもよい。
【0032】
<変色指数>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、再溶融における変色が小さいことが特徴であり、具体的には、下記式(3)で表わされる300℃、30分加熱処理後のフィルムの変色指数が180未満であることが好ましい。
変色指数(%)=(300℃,30分熱処理後のフィルムのYID)/(300℃,1分熱処理後のフィルムのYID)×100 ・・・(3)
上式(3)で表される変色指数は以下の手順によって測定される。80mm×80mm四方に空間を設けた300μm厚のスペーサーを、加熱プレス機(井元製作所製、型式IMC−16CE)の加熱盤上に載せ、加熱盤を300℃に設定する。フレーク状に細かく切り裂いた二軸配向フィルムを、スペーサーの空間部に入れ、0.5MPaの圧力にて2分間加圧し、その後圧力を2.0MPaに上げて1分間加圧した後、サンプルを取り出し水中で急冷させ300μm厚のシートを得る。得られたシートを色差計(日本電色工業社製、Σ―90)を使用して下記式(II)によりイエローインデックス(YID)を求め、300℃,1分熱処理後のフィルムのYIDとする。ここで、X、Y、Zは国際CIE規格に定められる光の3刺激値である。
YID=100/Y*(1.28*X−1.06*Z) ・・・(II)
【0033】
同様に、2.0MPaでの加圧時間を1分から30分に変更する以外は同様の作業を繰り返して得られたシートのイエローインデックス(YID)を上式(II)により求め、300℃,30分熱処理後のフィルムのYIDとする。
2.0MPaでの加圧時間30分におけるYID、および2.0MPaでの加圧時間1分におけるYIDを用いて上式(3)により変色指数(%)が求められる。
該変色指数は、高温での溶融加工時間が長い場合の変色の度合いを表しており、変色指数が小さければ小さいほど溶融加工後のフィルムの変色が小さいことを示している。該変色指数は、さらに好ましくは150以下である。変色指数が上限を超える場合、フィルムは黄色味が強くなってしまい、ポリエステルフィルムが本来有する色相と異なる色相との認識を与えてしまう。
【0034】
変色の理由として、炭酸カルシウムの表面活性によってポリエステルの耐熱性が下がり、そのため熱履歴によって着色しやすくなることが考えられ、特にポリエステルとしてポリエチレンナフタレンジカルボキシレートを用いた場合、加工温度が高いため通常のリン化合物を配合させた場合や本発明のホスホネート化合物が炭酸カルシウム粒子に対して少ない場合は変色の度合いが大きくなる傾向にある。変色指数を上述の範囲にするためには、本発明の特定のホスホネート化合物を炭酸カルシウム粒子に対して1≦Ca/P≦40の高配合比で配合させることによって達成されるものである。
【0035】
<フィルム表面の十点平均粗さRz>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、フィルム表面の十点平均粗さRzが100〜200nmであることが好ましい。フィルム表面の十点平均粗さRzの下限は、さらに好ましくは120nm以上である。ここでフィルム表面の十点平均粗さRzは、JIS規格のB0601に準じて求められる値である。かかるフィルム表面粗さは、主たる滑剤として炭酸カルシウム粒子を用い、さらに特定のホスホニウム化合物を特定比率で用いることにより達成され、電気絶縁フィルムとして用いた場合にモータのウエッジやスロットにフィルムを機械で自動挿入することができる。フィルム表面の十点平均粗さRzが下限に満たない場合は、高い滑り性が得られないことがあり、例えば電気絶縁フィルムとして用いた場合にモータのウエッジやスロットにフィルムを機械で自動挿入させる際に詰まるなどして不良率が高くなることがある。一方、十点平均粗さRzが上限を超える場合は、それ以上の滑り性が得られないばかりか、炭酸カルシウム粒子量が多すぎて色目が悪化したり、過剰のホスホネート化合物によって重合反応速度の遅延が生じることがある。
【0036】
<製膜方法>
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、二軸延伸されるのであれば公知の製膜方法を用いて製造することができ、例えば十分に乾燥させたポリエステルを融点〜(融点+70)℃の温度で溶融押出し、キャスティンクドラム上で急冷して未延伸フィルムとし、次いで該未延伸フィルムを逐次または同時二軸延伸し、熱固定する方法で製造することができる。逐次二軸延伸により製膜する場合、未延伸フィルムを縦方向に2.5〜5.0倍延伸し、次いでステンターにて横方向に2.5〜5.5倍延伸する。熱固定は、融点以下の温度で緊張下又は制限収縮下で熱固定するのが好ましい。また同時二軸延伸の場合、上記の延伸温度、延伸倍率、熱固定温度等を適用することができる。
【0037】
このようにして得られた二軸配向ポリエステルフィルムは、フィルム厚みが0.5〜400μmの範囲にあることが好ましく、さらに好ましくは25〜380μm、特に好ましい範囲は150〜350μmである。
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、通常、単層で用いられるが、発明の効果を損なわない範囲において、塗膜層等が積層された積層体であってもよい。
【0038】
本発明によれば、本発明の上記二軸配向ポリエステルフィルムは電気絶縁用フィルムなどに好適に使用され、モータのウエッジやスロットへのかかる電気絶縁フィルムを挿入する際に、機械による自動挿入法で製造することができ、同時に、再利用フィルムを含む場合、溶融熱履歴の回数が多い場合、熱履歴時間が長い場合においても着色・変色が少なく、フィルムの色目悪化が抑制される。
【実施例】
【0039】
以下、実施例により本発明を詳述するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各特性値は以下の方法で測定した。また、実施例中の部および%は、特に断らない限り、それぞれ重量部および重量%を意味する。
【0040】
(1)ポリエステルフィルム中のP、Ca量
フィルム5gを300℃に加熱溶融して、40mmφ、厚み5mmの円形ディスクを作成し、理学電気工業(株)製 蛍光X線装置3270型を用いて、フィルム中のP、Ca量をそれぞれ求め、カルシウム原子(Ca)とリン原子(P)との比率(Ca/P)比率を求めた。なお、Caはフィルム中の炭酸カルシウム粒子のカルシウム元素としての濃度(単位:ppm)、Pはフィルム中のリン化合物のリン元素としての濃度(単位:ppm)をそれぞれ示す。
【0041】
(2)滑剤の平均粒径
株式会社島津製作所製、商品名「SACP−4L型セントリフュグル パーティクル サイズ アナライザー(Centrifugal ParticleSize Analyser)」を用い測定した。得られた遠心沈降曲線を基に計算した各粒径の粒子とその存在量との積算曲線から、50マスパーセントに相当する粒径「等価球直径」を読み取り、この値を上記平均粒径とした(単行本「粒度測定技術」日刊工業新聞社発行、1975年、頁242〜247参照)。
【0042】
(3)耐熱変色性
80mm×80mm四方に空間を設けた300μm厚のスペーサーを加熱プレス機(井元製作所製、型式IMC−16CE)の加熱盤上に載せ、加熱盤を300℃に設定した。フレーク状に細かく切り裂いた二軸配向フィルムをスペーサーの空間部に入れ、0.5MPaの圧力にて2分間加圧し、その後圧力を2.0MPaに上げて1分間加圧した。サンプルを取り出し、水中で急冷させて300μm厚のシートを得た。同じく、フレーク状に細かく切り裂いた二軸配向フィルムを用い、2.0MPaでの加圧時間を30分に変更する以外は同様の作業を実施した。色差計(日本電色工業社製、Σ―90)を使用して、二枚のシートのイエローインデックス(YID)を下記式(II)により求めた。ここで、X、Y、Zは国際CIE規格に定められる光の3刺激値である。
YID=100/Y*(1.28*X−1.06*Z) ・・・(II)
2.0MPaでの加圧時間30分におけるYID値、2.0MPaでの加圧時間1分におけるYID値を用いて下記式(3)により変色指数(%)を求め、下記基準にて耐変色性を評価した。変色指数の低いものほど変色しにくく、良好と判断される。
変色指数(%)=(300℃、30分熱処理後のフィルムのYID)/(300℃、1分熱処理後のフィルムのYID)×100 ・・・(3)
○: 変色指数 150以下
△: 変色指数 150より大きく、180未満
×: 変色指数 180以上 (茶色に変色)
【0043】
(4)フィルム表面の十点平均粗さRz
小坂研究所社製の表面粗さ測定器SE-3FATを用い、JIS B0601の測定法により、フィルム表面の十点平均粗さRzを求めた。
【0044】
[実施例1]
2,6−ナフタレンジカルボン酸ジメチル100部、エチレングリコール60部をエステル交換触媒として酢酸マンガン四水塩0.03部を使用し、滑剤として平均粒径0.5μmの炭酸カルシウム粒子をポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート樹脂組成物の重量を基準として0.8重量%、平均粒径0.2μmの球状シリカ粒子を0.06重量%、および平均粒径0.1μmの球状シリカ粒子を0.1重量%含有するように添加して、常法に従ってエステル交換反応をさせた後、トリエチルホスホノアセテート0.109部を添加し、実質的にエステル交換反応を終了させた。
ついで、三酸化アンチモン0.024部を添加し、引き続き高温、高真空化で常法にて重合反応を行い、固有粘度0.60dl/gのポリエチレン−2,6−ナフタレンジカルボキシレート(PEN)を得た。このPENポリマーを175℃で5時間乾燥させた後、押出機に供給し、溶融温度300℃で溶融し、ダイスリットより押出した後、表面温度60℃に設定したキャスティングドラム上で冷却固化させて未延伸フィルムを作成した。
【0045】
この未延伸フィルムを140℃で連続製膜方向に3.3倍延伸する。その後、145℃で幅方向に3.7倍に逐次に二軸延伸し、さらに235℃で10秒間熱固定処理し、厚み100μmの二軸配向フィルムを得てロールに巻き取った。
得られた二軸配向フィルムの評価結果を表1に示す。本フィルムは熱履歴による変色が小さく、耐熱変色性に優れたフィルムであった。
【0046】
[実施例2〜14、比較例1〜4]
炭酸カルシウム粒子のカルシウム元素としての濃度、およびトリエチルホスホノアセテートのリン元素としての濃度をそれぞれ表1に記載のように変更した以外は実施例1と同様の方法で二軸配向フィルムを得た。得られた二軸配向フィルムの評価結果を表1に示す。なお、比較例2は重合速度が遅延し、ポリマーの固有粘度は0.40dl/gに満たなかった。
【0047】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明の二軸配向ポリエステルフィルムは、滑り性に優れ、かつ炭酸カルシウム粒子を含んでいても熱履歴による色目悪化が抑制され、耐熱変色性に優れており、例えば電気絶縁用フィルムとして好適に用いられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭酸カルシウム粒子およびホスホネート化合物を含有する二軸配向ポリエステルフィルムにおいて、該ホスホネート化合物が下記一般式(I)で表されるホスホネート化合物であり、
【化1】

(上記式(I)中、RおよびRは、それぞれ互いに独立に1〜4個の炭素原子を有するアルキル基を表し、Xは、−CH−または−CH(Y)−を表す(Yはフェニル基を示す))
かつ炭酸カルシウム粒子とホスホネート化合物との含有比およびホスホネート化合物の含有量がそれぞれ下記式(1)、下記式(2)
1≦Ca/P≦40 ・・・・・(1)
(上式(1)中、Caはフィルム中の炭酸カルシウム粒子のカルシウム元素としての濃度(単位:ppm)、Pはフィルム中のホスホネート化合物のリン元素としての濃度(単位:ppm)をそれぞれ示す)
80≦P≦150 ・・・・・(2)
(上式(2)中、Pはフィルム中のホスホネート化合物のリン元素としての濃度(単位:ppm)を示す)
を満たすことを特徴とする二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項2】
ポリエステルがポリエチレンナフタレンジカルボキシレートである請求項1に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項3】
主触媒としてアンチモン化合物をフィルム中のアンチモン元素として60〜300ppm含有する請求項1または2に記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項4】
炭酸カルシウムの含有量がポリエステルフィルムの重量を基準として0.02〜1.5重量%である請求項1〜3のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項5】
下記式(3)で表わされる300℃、30分加熱処理後のフィルムの変色指数
変色指数(%)=(300℃,30分熱処理後のフィルムのYID)/(300℃,1分熱処理後のフィルムのYID)×100 ・・・(3)
が180未満である請求項1〜4のいずれかに記載に二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項6】
フィルム表面の十点平均粗さRzが100〜200nmである請求項1〜5のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルム。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の二軸配向ポリエステルフィルムからなる電気絶縁用フィルム。

【公開番号】特開2007−332298(P2007−332298A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−167058(P2006−167058)
【出願日】平成18年6月16日(2006.6.16)
【出願人】(301020226)帝人デュポンフィルム株式会社 (517)
【Fターム(参考)】