説明

交流電源の瞬低補償装置

【課題】電源切換時の負荷電圧の振動や落ち込みを確実に抑制でき、しかも複雑で高速演算できる制御要素が不要になる。
【解決手段】平常時(0〜T1)は交流電源から高速スイッチ1を通して負荷6に給電し、インバータ2はACRブロック15で出力電流をほぼゼロに制御しておき、交流電源の瞬低発生(T1)が確認された時(T2)は、高速スイッチを開放し、インバータからAVRでフィルタ3と連系トランス4を通して負荷6に供給する瞬低補償装置において、コンデンサ電流抑制補償部18は、平常時はコンデンサ電流ICに比例した補償電流をインバータの電流指令に加算してコンデンサ電流の変化を抑制しておき、時刻T1にはインバータからの補償電流によってコンデンサ電流の急変を抑制し、このACRを瞬低発生時(T1)から瞬低発生確認(T2)まで継続してコンデンサ電流を低レベルの振動電流に抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、瞬低補償装置に係り、特に商用系統などの交流電源の瞬低(瞬時停電)発生時に負荷への給電を交流電源から瞬低補償用インバータ側に切り換える電源切換制御に関する。
【背景技術】
【0002】
図3に瞬低補償装置の構成例を示す(例えば、特許文献1参照)。瞬低補償装置は、高速スイッチ1、インバータ2、LCフィルタ3、連系トランス4および蓄電部5によって主回路が構成される。この瞬低補償装置は、平常時は高速スイッチ1を閉じて商用系統などの交流電源から受電する交流電力を負荷6に給電し、インバータ2は電流指令IREFを電流指令とする電流自動制御(ACR)で系統と連系して待機するか蓄電部5の充電を行い、瞬低発生時は高速スイッチ1を開放してインバータ2からLCフィルタ3と連系トランス4を通して負荷6に電力を供給する。各部の電圧電流を図3のように定義し、高速スイッチ1のゲート信号をgateSW、インバータ2のゲート信号をgateINVとする。
【0003】
図4は特許文献1に記載される瞬低補償装置の制御装置を主回路と一体で示す。PLL回路11は系統電圧検出値VSからPLL動作によって位相同期した周期信号を得、正弦波発生器12ではPLL回路11からの周期信号から定格電圧に相当する系統電圧に同期した三相の基準電圧VBASEを作成する。瞬低検出ブロック13は、系統電圧検出値VSと閾値との比較から瞬低検出信号dipdet(常時は0,検出時は1)を発生する。この信号と反転回路(NOT)から、電圧制御(AVR)ブロック14のゲインgAVRと電流制御(ACR)ブロック15のゲインgACRのオン・オフ切り換えを行い、さらに高速スイッチ1のオン・オフゲート信号gateSWも作成する。16はインバータ2の出力指令V*を制限するリミッタ、17はインバータ2の出力指令V*に応じたパルス幅変調波形を得るPWM制御部である。
【0004】
図4における各部波形を図5にタイムチャートで示す。図5の系統電圧検出値VSは定格値を1とした単位法で表す。時刻T1において瞬低が発生し、時刻T2で瞬低を検出したときにゲート信号gateSWをゼロ(オフ)にして高速スイッチ1を遮断し、電流制御ブロック15の電流制御ゲインgACRを「0」にすると共に、電圧制御ブロック14の電圧制御ゲインgAVRを「1」に切り換える。
【0005】
なお、瞬低の誤検出を防止するために、通常は瞬低発生時刻から瞬低検出までには確認時間を設ける。例えば、瞬低を任意のN回検出した場合、瞬低発生から時刻T2後に瞬低判定出力を得るなどの方法を用いる。
【0006】
図4に戻って、インバータ2のゲートgateINVは、電流制御ブロック15または電圧制御ブロック14の出力に基準正弦波電圧VBASEを加算し,リミッタ16によるリミッタを施して作成した電圧指令V*にPWM制御部17でPWM変調を施して作成する。そして、インバータ2は、系統連系時には電流制御ブロック15の電流指令値IREFとインバータ電流IINVの偏差がゼロになるように電流自動制御(ACR)を行い、瞬低検出時には電圧制御ブロック14の電圧指令値VREFと負荷電圧VLの偏差がゼロになるように電圧自動制御(AVR)を行う。
【0007】
以上のように、従来の瞬低補償装置の電源切換制御は、瞬低を検出してから高速スイッチを遮断し、インバータを電流制御(ACR)から電圧制御(AVR)に切り換える。ここで、瞬低が発生した場合は系統電圧VSが低下するため、LCフィルタ3のフィルタCから連系トランス4および高速スイッチ1を通して系統側への放電が発生し、フィルタC電圧VCは急激に落ち込む。一方、インバータ2からの給電は瞬低検出(T2)後から開始されるため、瞬低発生(T1)から瞬低検出(T2)までの期間、負荷電圧VLもフィルタC電圧VCと同様に落ち込んだ波形となる。
【0008】
図6に従来の電源切換制御による各部電圧・電流波形の詳細を示す。時刻T1で瞬低が発生し、系統電圧VSが低下するとコンデンサ電流ICは振動的な波形になる。電源切換制御装置は、瞬低を検出してから、高速スイッチ1を遮断して、インバータ2をそれまでの電流制御(ACR)から電圧制御(AVR)に切り換える場合、インバータ電流IINVは時刻T2から立ち上がる。その結果、時刻T1から時刻T2の間において、振動的なコンデンサ電流ICに起因して負荷電圧および負荷電流に振動と落ち込みが生じ、瞬低補償性能を低下させる。
【0009】
この対策として、特許文献1では、インバータ電流IINVとコンデンサC電流ICの共振によるコンデンサC電流ICの振動を抑制する第1の制御ブロックと、瞬低に発生によるフィルタCの放電電流ICを検出し、インバータ2からフィルタCと同じ方向に放電させる第2の制御ブロックを設けている。
【0010】
このうち、第1の制御ブロックは、インバータ電流IINVを入力とし、インバータ出力からフィルタCまでの伝達関数を考慮した振動抑制電流Idumpを発生し、これをインバータ電流指令に加える。第2の制御ブロックは、瞬低検出時のフィルタCの急峻な放電に対し、瞬低発生時に放電するフィルタCの検出電流ICに合わせて、インバータ2からフィルタCと同方向の電流を出力するための補償電流を演算で求め、これをインバータの電流指令IREFに加算する。
【0011】
他の電源切換方式として、系統からインバータへの電源切換期間(時刻T1〜T2)に、インバータ2の出力電流指令IREFを現在の負荷電流ILに切り換えることで高速スイッチ1の遮断動作時のアーク発生を抑制するものがある(例えば特許文献2,3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2010−187459号公報
【特許文献2】特開2003−153450号公報
【特許文献3】特開2008−29091号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記の特許文献1による電源切換方式では、検出するインバータ電流IINVを基にしたコンデンサ電流ICの振動抑制と、検出するコンデンサ電流ICを基にした負荷電流、負荷電圧の落ち込み抑制となり、これらの実現には制御装置におけるインバータからフィルタCまでの伝達関数とその係数等を装置毎に予め正確に求めておく必要があり、さらに複雑で高速演算できる手段(制御要素)が必要となる。
【0014】
なお、特許文献2,3では、瞬低発生から検出までの期間(T1〜T2)に負荷電流ILの変化を検出してインバータの電流指令とするフィードバック制御になるため、高速スイッチ1の開放時のアーク電流を遮断するのに必要な応答性を確保できるが、コンデンサ電流ICの振動に起因した負荷電圧や負荷電流の振動と落ち込み抑制には応答性で問題があった。
【0015】
本発明の目的は、電源切換時の負荷電圧の振動や落ち込みを確実に抑制でき、しかも複雑で高速演算できる制御要素を不要にした交流電源の瞬低補償装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、瞬低補償性能の低下は瞬低発生時(T1)にフィルタCに発生する振動電流に起因していることに着目し、インバータの電流自動制御(ACR)状態ではフィルタのコンデンサ電流ICの検出値に比例した補償電流をインバータの電流指令に加算しておくことで、平常時(0〜T1)ではインバータの電流出力をフィルタのコンデンサのダンピング抵抗として作用させることでコンデンサ電流の変化を抑制する補償電流を発生しておき、この制御状態で瞬低発生時(T1)にはインバータからの補償電流によってコンデンサ電流の急変を抑制し、この電流自動制御(ACR)を瞬低発生時(T1)から瞬低発生確認(T2)まで継続してコンデンサ電流を低レベルの振動電流に抑制するようにしたもので、以下の構成を特徴とする。
【0017】
(1)平常時(0〜T1)は、交流電源から高速スイッチを通して負荷に給電すると共に、瞬低補償用インバータは系統と連系し、電流指令IREFに応じて出力電流をほぼゼロに電流自動制御(ACR)しておき、
前記交流電源の瞬低発生(T1)を検出し、これを確認した時(T2)は、前記高速スイッチを開放制御すると共に、前記インバータを電圧自動制御(AVR)に切り換え、この交流出力をLC型またはLCL型のフィルタと連系トランスを通して負荷に供給する交流電源の瞬低補償装置において、
平常時(0〜T1)は、前記フィルタのコンデンサ電流ICの検出値に比例した補償電流IC_DUMPを前記インバータの電流指令に加算しておくことで該コンデンサ電流の変化を抑制しておき、この制御状態で瞬低発生時(T1)には前記インバータからの補償電流IC_DUMPによってコンデンサ電流の急変を抑制し、この電流自動制御(ACR)を瞬低発生時(T1)から瞬低発生確認(T2)まで継続してコンデンサ電流を低レベルの振動電流に抑制するコンデンサ電流抑制補償部を備えたことを特徴とする。
【0018】
(2)前記コンデンサ電流抑制補償部は、前記コンデンサ電流を制御指令とし、このコンデンサ電流をゲインKPの比例アンプで増幅し、この出力を前記電流自動制御(ACR)出力に補償電流IC_DUMPとして加算する構成としたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
以上のとおり、本発明によれば、インバータの電流自動制御(ACR)状態ではフィルタのコンデンサ電流ICの検出値に比例した補償電流IC_DUMPをインバータの電流指令に加算しておくことで該コンデンサ電流の変化を抑制しておき、この制御状態で瞬低発生時(T1)には前記インバータからの補償電流IC_DUMPによってコンデンサ電流の急変を抑制し、この電流自動制御(ACR)を瞬低発生時(T1)から瞬低発生確認(T2)まで継続してコンデンサ電流を低レベルの振動電流に抑制するようにしたため、電源切換時の負荷電圧の振動や落ち込みを確実に抑制でき、しかも複雑で高速演算できる制御要素が不要になる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る瞬低補償装置の制御装置と主回路の構成図。
【図2】本発明に係る電源切換制御による各部電圧・電流波形の詳細波形。
【図3】従来の瞬低補償装置の構成例。
【図4】特許文献1の瞬低補償装置の制御装置と主回路の構成図。
【図5】従来の電源切換時の各部のタイムチャート。
【図6】従来の電源切換制御による各部電圧・電流波形の詳細波形。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図1は、瞬低補償装置の制御装置を主回路と一体で示す。同図が図4と異なる部分はコンデンサ電流抑制補償部18を設けた点にある。
【0022】
コンデンサ電流抑制補償部18は、インバータ2が電流自動制御(ACR)状態ではフィルタのコンデンサCで検出されるコンデンサ電流ICを補償電流指令とし、このコンデンサ電流ICをゲインKPの比例アンプで増幅し、この出力を電流制御(ACR)ブロック15の出力に加算してインバータ2の電流指令IREFに加算しておく。
【0023】
図2に電源切換制御による各部電圧・電流波形の詳細を示す。瞬低発生時刻T1までは、インバータ2の電流指令IREFはほぼゼロで、電流自動制御(ACR)ブロック15によってインバータ電流Iinvはほぼゼロになるように制御されている。
【0024】
この制御状態で、コンデンサ電流抑制補償部18は、コンデンサ電流ICにゲインKPを掛けてコンデンサ電流抑制のための補償電流IC_DUMPを発生している。この補償電流IC_DUMPは電流自動制御(ACR)ブロック15のACR出力から減算することにより、コンデンサ電流ICの変化を抑制する。この期間の補償電流IC_DUMPをI0とする。
【0025】
この制御状態で瞬低発生時(T1)には、コンデンサ電流ICの変化が検出されないが、インバータ2からの補償電流によってコンデンサ電流の急変を抑制し、この急変を抑制したコンデンサ電流ICの変化に対し、T1〜T2の期間では、瞬低発生によりコンデンサCからの放電電流がそれまでの電流I0よりも大きくなり、I1>I0の関係として検出される。このためACRブロック15の出力と補償電流IC_DUMPの差が大きくなり、インバータ2の電流Iinv増の指令となって瞬低発生時(T1)から瞬低発生確認(T2)まで継続してコンデンサ電流を低レベルの振動電流に抑制する。
【0026】
このACRブロック15からの電流制御指令は、PWM変調してインバータ2のゲートgateINVを作成することで、インバータ2からはコンデンサ電流ICを低レベルの振動電流に抑制制御する。
【0027】
したがって、コンデンサ電流抑制補償部18は、時間0〜T1までの定常状態においてはフィルタCのダンピング抵抗の役割を担い、時間T1〜T2までの瞬低発生時においてはコンデンサ電流を低レベルの振動電流に抑制する。
【0028】
ここで、コンデンサ電流抑制補償部18は、検出電流ICをゲインKPの比例アンプで増幅して補償電流IC_DUMPを発生しておくという構成となり、特許文献1のように、インバータ2からフィルタCまでの伝達関数とその係数等を装置毎に予め正確に求めておく構成に比べてその実現が容易となる。しかも、特許文献2,3のように、負荷電流ILの変化を検出してフィードバック制御するのではなく、瞬低発生前の定常状態(0〜T1)でコンデンサ電流ICの抑制制御をしており、瞬低発生から瞬低検出までの遅れおよび負荷電流の変化検出までの遅れによる影響を小さくして、コンデンサ電流ICから直接に振動電流抑制を行なうことができ、電源切換時の負荷電圧VLの振動や落ち込みを確実に抑制できる。
【0029】
なお、瞬低発生(時刻T1)の判定は、例えば、制御装置内部で系統と同期した基準の正弦波を生成し、これを基準の正弦波と検出した系統電圧と比較し、所定の値以上に検出値が低下したことで瞬低発生を判断することができる。また、瞬低検出(時刻T2)の判定は、例えば、系統電圧波形と検出波形との差異が一定値以上になり、これが一定時間継続したことが確認されたときに瞬低検出と判断することができる。
【0030】
また、実施形態では、フィルタ3をコイルLとコンデンサCをL字型に構成したLCフィルタとする場合を示すが、これはT字型のLCLフィルタに適用できる。
【符号の説明】
【0031】
1 高速スイッチ
2 インバータ
3 LCフィルタ
4 連系トランス
5 蓄電部
6 負荷
14 電圧制御ブロック
15 電流制御ブロック
16 リミッタ
17 PWM制御部
18 コンデンサ電流抑制補償部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平常時(0〜T1)は、交流電源から高速スイッチを通して負荷に給電すると共に、瞬低補償用インバータは系統と連系し、電流指令IREFに応じて出力電流をほぼゼロに電流自動制御(ACR)しておき、
前記交流電源の瞬低発生(T1)を検出し、これを確認した時(T2)は、前記高速スイッチを開放制御すると共に、前記インバータを電圧自動制御(AVR)に切り換え、この交流出力をLC型またはLCL型のフィルタと連系トランスを通して負荷に供給する交流電源の瞬低補償装置において、
平常時(0〜T1)は、前記フィルタのコンデンサ電流ICの検出値に比例した補償電流IC_DUMPを前記インバータの電流指令に加算しておくことで該コンデンサ電流の変化を抑制しておき、この制御状態で瞬低発生時(T1)には前記インバータからの補償電流IC_DUMPによってコンデンサ電流の急変を抑制し、この電流自動制御(ACR)を瞬低発生時(T1)から瞬低発生確認(T2)まで継続してコンデンサ電流を低レベルの振動電流に抑制するコンデンサ電流抑制補償部を備えたことを特徴とする交流電源の瞬低補償装置。
【請求項2】
前記コンデンサ電流抑制補償部は、前記コンデンサ電流を制御指令とし、このコンデンサ電流をゲインKPの比例アンプで増幅し、この出力を前記電流自動制御(ACR)出力に補償電流IC_DUMPとして加算する構成としたことを特徴とする請求項1に記載の交流電源の瞬低補償装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−5616(P2013−5616A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−135039(P2011−135039)
【出願日】平成23年6月17日(2011.6.17)
【出願人】(000006105)株式会社明電舎 (1,739)
【Fターム(参考)】