説明

交通情報の作成装置並びにその方法及びプログラム

【解決手段】交通情報収集のために必要なプローブデータを送信することのできる特定の車載装置6を搭載した、所定台数以上のプローブ車両からプローブデータを取得するために最適な収集周期Tを算出し、前記収集周期Tを用いてプローブ車両からプローブデータを取得し、前記収集周期T内に取得したプローブデータに基づいて交通情報を算出する。
【効果】プローブ車両の割合や交通量の少ないときでも、必要な数のプローブデータを集めることができる。従って、交通情報の算出精度が低下することがなく、精度の維持安定に有効である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、交通情報収集のために必要なプローブデータを送信することのできる特定の車載装置を搭載したプローブ車両からプローブデータを取得して、交通情報を作成する装置並びにその方法及びプログラムに関するものである。
ここで「プローブ車両」とは、交通情報収集のために必要なプローブデータを送信することのできる特定の車載装置を搭載した車両をいう。
【0002】
「プローブデータ」とは、車載装置で取得した車両位置、車両速度、通過時刻等のデータをいう。プローブデータは、所定時間ごと、所定走行距離ごと、所定加減速度ごと、又は所定方位変化ごとの車両の位置、速度、通過時刻等のデータであり、車両の停止時、発進時の車両の位置、時刻のデータを含む。
【背景技術】
【0003】
任意の時刻の旅行時間を求めるためにプローブデータを利用することが行われている。ここで「旅行時間」とは、車両が所定の区間を走行するのに要する時間をいい、「区間」とは、高速道路のインターチェンジ間や道路リンク、VICSリンクなど、旅行時間の計測対象となる区間をいう。
旅行時間は交通状況を表す指標として、一般的な車両を想定した値にしなければならないので、プローブデータを使って旅行時間などの交通情報を算出するには、一定数以上のプローブデータを使って統計的な処理を行う必要がある。
【0004】
例えば旅行時間を算出する場合、5台のプローブデータが得られれば、一般車両を含めた通過車両全体の、交通状況の平均値との誤差を5%程度にすることができると報告されているように、従来の計測方式と同様、一定台数以上のプローブデータを収集してそれらの平均値を用いる方が、誤差を軽減する上で望ましいといえる。
一定の収集周期ごとに、収集できたプローブデータを利用するような交通管理システムでは、ある収集周期で、一定数のプローブデータが得られない場合がある。このような数少ないプローブデータに基づいて旅行時間などの算出処理を行っても、精度が上がらない。
【0005】
これは、プローブ車両の全車両に占める割合が低いため、一定数のプローブデータが得られないからである。
一般に言えることは、収集周期を短く設定するほど、実時間からの遅れが少ない旅行時間の計測が可能になるが、プローブデータ数が集まらない可能性がある。また、 収集周期を長く設定するほど、プローブデータ数が集まるので、精度は向上するが、実時間からの計測遅延は大きくなる。
【特許文献1】特開2005-276209号公報
【特許文献2】特開平8-106593号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、こうしたプローブデータを使った交通情報の算出において、情報精度を高めるために、プローブデータの収集周期をダイナミックに可変とする交通情報の作成装置並びにその方法及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の交通情報の作成装置は、交通情報収集のために必要なプローブデータを送信することのできる特定の車載装置を搭載したプローブ車両からプローブデータを取得する取得手段と、所定台数以上のプローブ車両からプローブデータを取得するために最適な収集周期を算出する算出手段と、前記収集周期内に取得したプローブデータに基づいて交通情報を作成する作成手段とを備えるものである。
【0008】
この発明によれば、プローブデータを取得するために最適な収集周期を算出しているので、プローブ車両の割合や交通量の少ないときでも、実時間に対する計測遅延を最小にしながら、確実に、必要な数のプローブデータを集めることができる。従って、交通情報の算出精度が低下することがなく、常に、交通情報の精度の維持安定に有効な装置とすることができる。
【0009】
前記算出手段は、一般車両に占めるプローブ車両の存在割合、プローブ車両の通過台数の少なくとも1つと、道路の交通量とに基づいて、収集周期を算出することができる。一般車両に占めるプローブ車両の存在割合、すなわちプローブ車両の通過台数を道路の交通量で割った値が大きく、道路の交通量が多いほど、収集周期を短くでき、交通情報のリアルタイム性を高めることができる。また、一般車両に占めるプローブ車両の存在割合が小さく、道路の交通量が少ないときは、収集周期を長くして、交通情報の算出精度を維持することができる。
【0010】
また、本発明の交通情報の作成方法及びプログラムは、前記交通情報の作成装置の発明と実質同一発明に係る方法及びプログラムである。
【発明の効果】
【0011】
以上のように、本発明によれば、プローブデータを取得するために最適な収集周期を算出しているので、プローブ車両の割合や交通量の少ないときでも、実時間に対する計測遅延を最小にしながら、確実に、必要な数のプローブデータを集めることができる。従って、交通情報の算出精度が低下することがなく、常に、交通情報の精度の維持安定に有効な装置とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態を、添付図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の交通情報の作成装置の全体構成を示すブロック図である。
交通情報の作成装置は、地上交通センタ3と、車両感知器1,2とを備えている。車両感知器1,2は、超音波式、ループコイル式、光学式などの車両感知器であり、交通情報の作成対象となる道路の交通量(単位時間あたりの通過台数)を測定する。
【0013】
地上交通センタ3には処理装置31と、車載装置と通信するための路上装置5とが含まれている。
処理装置31は、図1に示したように、路上装置5と同一の場所に設置されているが、同一の場所に設置されている必要は必ずしもなく、路上装置5とは別の場所に設置され、通信回線でつながれていてもよい。
【0014】
車載装置6は、プローブ車両に搭載されている。各車載装置6は車両識別のためのコードを持って、このコードを使って路上装置5と通信することができる。
プローブ車両の車載装置6は、通信装置とともに、GPS受信機などの位置検出装置を備えていて、時刻ごとの自車両の位置を検出することができる。
プローブ車両の車載装置6で取得された位置データ、速度データ等は、プローブデータとして、車載の通信装置から送信される。送信されたデータは、路上装置5で受信され、処理装置31に送られる。
【0015】
車載装置6と路上装置5との間の路車間通信の方式としては、光ビーコン、無線LAN、DSRC(Dedicated Short Range Communication)等の双方向通信方式を用いることができる。また、携帯電話や専用無線等により、車両と地上交通センタ3とを直接結ぶ通信を用いても良い。
図2は、プローブ車両の車載装置6から送信されるプローブデータのフォーマットを示す。
【0016】
プローブデータは、当該プローブ車両がデータを取得した時刻、当該プローブ車両の緯度、経度、高度、速度、方位、その他(車載装置情報、測位情報、DOP[Dilution of Precision]など)の項目によって構成される。
なお、データ量を低減するために、最初の時刻における情報(始端情報)を記録しておき、データ蓄積部分では、時刻差、緯度差、経度差、速度差、方位差、時刻差など、前の値からの差分情報を格納している。
【0017】
このプローブ車両のプローブデータは、路上装置5で受信され、地上交通センタ3に蓄積される。
ここで、地上交通センタ3におけるプローブデータの収集周期をT(分)とする。
一収集周期にn台以上のプローブ車両からプローブデータが得られる確率をs(n)と書く。s(n)は次のようにして求められる。
【0018】
一収集周期にp台の車両が、路上装置5を通過するとする。この中でn台のプローブ車両が通る確率は、
pCn(k)n(1−k)p-n
で表される。kは、全車両の中にプローブ車両が存在する割合である。
n台以上のプローブ車両が通る確率s(n)は、
s(n)=1−ΣpCi(k)i(1−k)p-i
で表される(総和Σは、i=0からi=n−1までとる)。
【0019】
したがって、全車両の中にプローブ車両が存在する割合kと、一収集周期あたりの通過台数pが決まれば、s(n)を求めることができる。
一方、1時間あたり(60/T)回の収集周期が存在する。したがって、1時間にわたって、すべての周期でn台以上のプローブ車両からプローブデータが得られる確率は、s(n) (60/T)である。
【0020】
一収集周期に、n台未満のプローブ車両からしかプローブデータが得られなかった場合、この周期は「欠測」したという。
収集周期は、1時間あたり(60/T)回得られるので、この(60/T)回ある収集周期のうち、1回「欠測」する確率は、
{(60/T)−1}/(60/T)
である。
【0021】
すべての周期でn台以上のプローブ車両からプローブデータが得られる確率s(n) (60/T)が、(60/T)回ある収集周期のうち1回「欠測」する確率よりも高くなるように、収集周期Tを選べばよい。すなわち、
s(n) (60/T)>{(60/T)−1}/(60/T)・・(1)
となる。
【0022】
上の(1)式の意味は次のとおりである。任意の時刻の旅行時間値を求めるために、一収集周期あたり、n台以上のプローブデータを使用する必要があるとする。n台のプローブデータが確実に得られるために必要な一収集周期の時間Tとして、前記(1)式を満たすようなTを求めるとよい。
前記(1)式中のs(n)は、交通量やプローブ車両の存在割合によって変化するため、一定数のプローブデータが確実に得られるために必要な収集周期Tも、交通量やプローブ車両の割合の大きさに影響を受けることはもちろんである。
【0023】
例えば、一収集周期あたり、5台以上のプローブデータを使用するような運用システムでは、2車線道路において5台以上のプローブデータを得るための収集周期T分の理論値を計算したところ、図3のようになる。
図3で、1車線あたり、1時間あたりの通過台数が600台、900台、1200台、1500台、1800台、2400台の場合について収集周期T分を算出している。
【0024】
図3のグラフから、プローブ車両の存在割合が多いほど、収集周期Tは短くて済むことが示されている。また、通過台数が多いほど、収集周期Tは短くて済むことが示されている。
例えば、プローブ車両の割合が5%であれば、1500[台/時間/車線]以上の交通量のある路線においては、収集周期Tを5分程度にすれば5台以上のプローブデータを使って計測値を求めることができ、また、15%程度のプローブ車両の割合であれば、収集周期Tを4分程度にすれば、600[台/時間/車線]以上の交通量の路線であれば、5台以上のプローブデータを使って計測値を求めることが可能となることが示されている。
【0025】
以上の考察により、ETC識別情報やトラカンデータから交通量の状況やプローブ車両の割合を推定し、図3のグラフに示される最適な収集周期を求めて、これらの推定結果にあわせて収集周期Tをダイナミックに変更すれば、誤差の小さい安定した旅行時間の情報提供が可能となると考えられる。
図4は、旅行時間の算出を例にとって、旅行時間計測対象区間ごとに行う処理装置31の行うフローチャートである。
【0026】
以下に説明する処理の全部又は一部は、CD−ROMやハードディスクなど所定の媒体に記録されたプログラムを、処理装置31のコンピュータが実行することにより実現される。
処理周期D分ごとに処理を行うものとする。まず、処理周期を開始する(ステップS1)。ここで処理周期Dは、収集周期Tを決定するための周期であり、処理周期D以内では、決定された一定の収集周期Tが用いられる。プローブ車両の存在割合が小さい場合や、交通量が少ない場合には、一般的に、D<Tである。
【0027】
次に、交通状況を把握する(ステップS2)。具体的には、当該区間の車両感知器によって交通量を求めるとともに、プローブ車両割合は、当該区間の路上装置にプローブデータを送信したプローブ車両の台数を、上記の交通量で割ることにより決定する。
次に、前記(1)式に基づいて、確実にプローブ車両n台のプローブデータが得られる収集周期Tを決定する(ステップS3)。この決定された収集周期Tは、過去に決定された収集周期と同一であることもあり、違うこともある。交通量が時間的に減少していく場合、収集周期Tは増大する傾向にあり、交通量が時間的に増加していく場合、収集周期Tは減少する傾向にある。
【0028】
この収集周期Tを用いて、プローブ車両を待ち受けする(ステップS4)。
なお今回の処理周期D分が終了すると(ステップS5)、収集周期Tに基づく旅行時間データに対して、平滑化重みを用いた平滑計算(ステップS14)を行う。
今回の処理周期D分が終了していなければ、新しいプローブデータが取得されたかどうか判断し(ステップS6)、取得されれば、そのプローブデータに基づいて当該区間の旅行時間の解析を行う(ステップS7)。
【0029】
速度が大きくばらつくなど、閾値以上の速度変動(異常走行挙動)がなく(ステップS8)、速度が閾値以上に速くなければ(ステップS9)、当該プローブ車両の旅行時間のデータの信頼性は高いものとして、平滑化重みγを付与する(ステップS12)。速度が閾値よりも速ければ、当該プローブ車両の旅行時間のデータの信頼性は低いものとして、平滑化重みβを付与する(ステップS11)。閾値以上の速度変動(異常走行挙動)があれば、当該プローブ車両の旅行時間のデータの信頼性は最も低いものとして、平滑化重みαを付与する(ステップS10)。α<β<γの関係がある。
【0030】
そしてこれらの旅行時間データを平滑化重みとともにメモリに格納する(ステップS13)。
以上のようにして、確実にプローブ車両n台のプローブデータが得られる収集周期Tをダイナミックに決定し、この収集周期Tを用いて、プローブ車両を待ち受けすることにより、旅行時間の算出精度を維持することができる。
【0031】
以上で、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の実施は、前記の形態に限定されるものではない。例えば、作成する交通情報として、旅行時間以外に、突発事象の検知等があげられる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の交通情報の作成装置の全体構成を示すブロック図である。
【図2】プローブ車両の車載装置6から送信されるプローブデータの項目例を示す図である。
【図3】一収集周期あたり、所定台数以上のプローブデータを得るための収集周期T分の理論値を計算したグラフである。
【図4】処理装置31の行う旅行時間の計測例を説明するためのフローチャートである。
【符号の説明】
【0033】
1,2 車両感知器
3 地上交通センタ
5 路上装置
6 車載装置
31 処理装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
交通情報収集のために必要なプローブデータを送信することのできる特定の車載装置を搭載したプローブ車両からプローブデータを取得する取得手段と、
所定台数以上のプローブ車両からプローブデータを取得するために最適な収集周期を算出する算出手段と、
前記収集周期内に取得したプローブデータに基づいて交通情報を作成する作成手段とを備えることを特徴とする交通情報の作成装置。
【請求項2】
前記算出手段は、一般車両に占めるプローブ車両の存在割合、プローブ車両の通過台数の少なくとも1つと、道路の交通量とに基づいて、収集周期を算出する請求項1記載の交通情報の作成装置。
【請求項3】
交通情報収集のために必要なプローブデータを送信することのできる特定の車載装置を搭載した、所定台数以上のプローブ車両からプローブデータを取得するために必要な収集周期を算出し、
プローブ車両から前記収集周期内のプローブデータを取得し、
前記収集周期内に取得したプローブデータに基づいて交通情報を作成することを特徴とする交通情報の作成方法。
【請求項4】
交通情報収集のために必要なプローブデータを送信することのできる特定の車載装置を搭載した、所定台数以上のプローブ車両からプローブデータを取得するために必要な収集周期を算出する手順と、
プローブ車両から前記収集周期内のプローブデータを取得する手順と、
前記収集周期内に取得したプローブデータに基づいて交通情報を作成する手順とを含むことを特徴とする交通情報の作成プログラム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−257421(P2007−257421A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82450(P2006−82450)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.VICS
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(595094138)財団法人道路新産業開発機構 (3)
【Fターム(参考)】