説明

付着物中の絶縁油の分析方法

【課題】従来の四塩化炭素の代替品としてのクロロフロロカーボン系油分抽出用溶媒を用いた、付着物中の絶縁油の分析方法を提供する。
【解決手段】電気絶縁油を使用している電気機器の外表面の付着物1を取り出し、付着物1中の絶縁油分を電気絶縁油の沸点以下の炭化水素系油分抽出用溶媒5Aに抽出させ、絶縁油分を含有した炭化水素系油分抽出用溶媒5A′を加熱して炭化水素系油分抽出用溶媒5Aを完全に蒸発させ、炭化水素系油分抽出用溶媒5Aを完全に蒸発させて残存した絶縁油分を、クロロフロロカーボン系油分抽出用溶媒5Bに溶解させて分析液11を作製し、分析液11を赤外分光分析装置13により赤外分光分析する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、2種類の油分抽出用溶媒を用いた後、赤外分光分析する付着物中の絶縁油の分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉱油、シリコン油等の電気絶縁油(以下、絶縁油という。)が使用されている電気機器、例えば変圧器のケース、または、この変圧器に取り付けられているブッシング、油温計などの外表面に絶縁油のようなものが付着している場合、それがケースからの漏油であるかどうかを調査するため、その付着物に絶縁油が含まれているかを分析することがある。
【0003】
この場合、油分抽出用溶媒として四塩化炭素(化学名)を用いて上記付着物から絶縁油分を抽出させ、それを加熱して濃縮した後、四塩化炭素と絶縁油とが異なる赤外線吸収特性であることを利用して、赤外分光分析しているが、四塩化炭素を用いて絶縁油を赤外分光分析することは、非特許文献1に示されている。
【0004】
図4は、従来の付着物中の絶縁油の分析方法の処理手順を示すフローチャートである。図5は、従来の付着物中の絶縁油の分析方法の処理手順を示す工程図である。
【0005】
図示するように、ステップS1では、絶縁油を使用している変圧器に取り付けられたブッシングの外表面から、そこに付着している付着物1を紙ウエス等の付着物吸収材2で拭き取る。このように付着物1が拭き取られた付着物吸収材2から、図5(a)に示すように、採取物3が形成される。
【0006】
ステップS2では、図5(b)に示すように、ビーカ4に入った四塩化炭素5に採取物3を浸漬し、採取物3から付着物1中の絶縁油分を四塩化炭素5に抽出させる。この際、抽出を効果的かつ効率的に行うために、このビーカ4を超音波洗浄機の容器6内に入れ、超音波洗浄機を約10分間作動させる。
【0007】
ステップS3では、図5(c)に示すように、絶縁油分を含有した四塩化炭素5′がビーカ4から移し替えられた試験管7を、ヒータ8を有する湯浴槽9の80〜90℃の湯10中に入れて、四塩化炭素5に対する絶縁油分の比を1g/リットルを目途に絶縁油分を濃縮させる。なお、絶縁油分を含有した四塩化炭素5′をビーカ4に採取する際には、付着物吸収材2から十分に絞り出している。
【0008】
ステップS4では、試験管7が取り出されると、図5(d)に示すように、赤外分光分析用の分析液110が取得される。
【0009】
ステップS5では、図5(e)に示すように、分析液110を液体専用セル12に入れて、赤外分光分析装置13により赤外分光分析する。
【0010】
ところで、従来から使用していた四塩化炭素5は、オゾン層保護法に定める特定物質及び指定物で生産及び使用が全廃されることとなっているので、入手も使用もできない状況にある。そこで、業界においては、絶縁油に対する一般的な赤外分光分析に、その代替品として、クロロフロロカーボン、ハイドロクロロフロロカーボン(化学名)等のクロロフロロカーボン系油分抽出用溶媒(以下、クロロフロロカーボン系溶媒という。)を用いている。
【非特許文献1】JIS K 0117:2000,赤外分光分析方法通則
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来のように採取物3中に含有している絶縁油分が微量な場合、赤外分光分析する際に、絶縁油分を含有した四塩化炭素5′中の油濃度が赤外分光分析装置12の分解能を下回らないようにするために、この溶媒を加熱して絶縁油分を濃縮させている。しかしながら、上記のクロロフロロカーボン系溶媒を用いて従来の四塩化炭素5と同処理をしたときに、この溶媒の沸点が134℃と高いために、この温度で加熱すると絶縁油も蒸発してしまうという問題が生じる。
【0012】
本発明の目的は、従来の四塩化炭素の代替品としてのクロロフロロカーボン系溶媒を用いた、付着物中の絶縁油の分析方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
第1の発明は、電気絶縁油を使用している電気機器の外表面の付着物を取り出し、付着物中の絶縁油分を電気絶縁油の沸点以下の炭化水素系油分抽出用溶媒に抽出させ、絶縁油分を含有した炭化水素系油分抽出用溶媒を加熱して炭化水素系油分抽出用溶媒を完全に蒸発させ、炭化水素系油分抽出用溶媒を完全に蒸発させて残存した絶縁油分を、クロロフロロカーボン系油分抽出用溶媒に溶解させて分析液を作製し、分析液を赤外分光分析するようにしたものである。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、第1の発明によれば、従来の四塩化炭素の代替品としてのクロロフロロカーボン系溶媒を用いても付着物中の絶縁油が分析できる。したがって、絶縁油の有無が判定できるので、電気機器の漏油検査ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
図1は、本発明の付着物中の絶縁油の分析方法の処理手順の一実施形態を示すフローチャートである。図2は、本発明の付着物中の絶縁油の分析方法の処理手順を示す工程図である。
【0016】
図示するように、ステップS1では、変圧器に取り付けられるブッシングの外表面に、付着物1として絶縁油1滴(0.003g)を付着させ、そこに付着している付着物1を紙ウエス等の付着物吸収材2で拭き取る。このように付着物1が拭き取られた付着物吸収材2から、図2(a)に示すように、採取物3が形成される。なお、採取物3の重量を測定すると、拭き取られた付着物1は0.002gであった。
【0017】
ステップS2では、図2(b)に示すように、ビーカ4に50ml入った、絶縁油の沸点以下の炭化水素系油分抽出用溶媒(以下、炭化水素系溶媒という。)5Aとして、例えばn−ヘキサン(沸点:68℃)に採取物3を浸漬し、採取物3から付着物1中の絶縁油分を炭化水素系溶媒5Aに抽出させる。この際、抽出を効果的かつ効率的に行うために、このビーカ4を超音波洗浄機の容器6内に入れ、超音波洗浄機を約10分間作動させる。
【0018】
ステップS3では、図2(c)に示すように、絶縁油分を含有した炭化水素系溶媒5A′がビーカ4から移し替えられた試験管7を、ヒータ8を有する湯浴槽9の80℃の湯10中に約20分間入れて、炭化水素系溶媒5Aを完全に蒸発させる。なお、絶縁油分を含有した炭化水素系溶媒5A′を試験管7に採取する際には、付着物吸収材2から十分に絞り出している。
【0019】
ステップS4では、図2(d)に示すように、炭化水素系溶媒5Aを完全に蒸発させた試験管7にクロロフロロカーボン系溶媒5Bを2ml流し込み、試験管7に残存した油分を溶解させて赤外分光分析用の分析液11を作製する。この際、試験管7の内壁面に付いている全ての油分を集めるために、試験管7を振るようにする。
【0020】
ステップS5では、図2(e)に示すように、分析液11を液体専用セル12に入れて、分析液11を赤外分光分析装置13により赤外分光分析する。
【0021】
この分析結果を、図3に示す。同図には吸収ピーク(A),(B)があり、これらは絶縁油の赤外分光分析を行った特徴吸収ピークと同じである。したがって、本発明により付着物1中の絶縁油の有無の分析ができていることが分かった。
【0022】
上記の実施形態においては、絶縁油を使用している電気機器が設置されている場所で、電気機器の付着物1を拭き取るようにしたが、付着物1が付着している電気機器の構成部材を、その設置場所から分析設備がある場所に持ち帰ることが可能な場合、上記ステップS1の代わりに、絶縁油を使用している電気機器の外表面の付着物1が付着している電気機器の構成部材、例えばブッシングを外し、この分析場所で、上記ステップS2の代わりに、この構成部材(ブッシング)に炭化水素系溶媒5Aをかけるか、または、構成部材(ブッシング)を四塩化炭素5Aに浸漬させ、構成部材(ブッシング)から付着物1中の絶縁油分を炭化水素系溶媒5Aに抽出させるようにしてもよい。
【0023】
また上記の実施形態においては、炭化水素系溶媒5Aとして、n−ヘキサンとしたが、沸点が60〜90℃の石油ナフサ、n−ヘプタン、沈殿用ナフサ等の他の炭化水素系溶媒であってもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の付着物中の絶縁油の分析方法の処理手順の一実施形態を示すフローチャートである。
【図2】本発明の付着物中の絶縁油の分析方法の処理手順を示す工程図である。
【図3】本発明の付着物中の絶縁油の分析方法による分析結果を示す赤外分光分析のチャートである。
【図4】従来の付着物中の絶縁油の分析方法の処理手順を示すフローチャートである。
【図5】従来の付着物中の絶縁油の分析方法の処理手順を示す工程図である。
【符号の説明】
【0025】
1 付着物
5A 炭化水素系油分抽出用溶媒
5A′ 絶縁油分を含有した炭化水素系油分抽出用溶媒
5B クロロフロロカーボン系油分抽出用溶媒
11 分析液

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気絶縁油を使用している電気機器の外表面の付着物を取り出し、
前記付着物中の絶縁油分を前記電気絶縁油の沸点以下の炭化水素系油分抽出用溶媒に抽出させ、
前記絶縁油分を含有した炭化水素系油分抽出用溶媒を加熱して前記炭化水素系油分抽出用溶媒を完全に蒸発させ、
前記炭化水素系油分抽出用溶媒を完全に蒸発させて残存した前記絶縁油分を、クロロフロロカーボン系油分抽出用溶媒に溶解させて分析液を作製し、
前記分析液を赤外分光分析する付着物中の電気絶縁油の分析方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2007−85896(P2007−85896A)
【公開日】平成19年4月5日(2007.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−275207(P2005−275207)
【出願日】平成17年9月22日(2005.9.22)
【出願人】(000000262)株式会社ダイヘン (990)
【Fターム(参考)】