説明

伝熱板の製造方法および伝熱板

【課題】小さい押圧力で、熱媒体用管を確実に所望の形状に変形できる伝熱板の製造方法および伝熱板を提供する。
【解決手段】熱部品を加熱または冷却するための熱媒体を循環させる熱媒体用管20を板状のベース部材10の内部に収容した伝熱板1の製造方法において、ベース部材10の表面11に開口するとともに熱媒体用管20の外径寸法よりも長い深さ寸法を有する凹溝12に、熱媒体用管20を挿入し、凹溝12内の熱媒体用管20上部の凹溝12の開口部12aに蓋板30を挿入し、その蓋板30を凹溝12の底部12b側に押圧することで、熱媒体用管20を塑性変形させて凹溝12に当接させるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱部品を加熱または冷却するための熱媒体を循環させる熱媒体用管を板状のベース部材の内部に収容した伝熱板の製造方法および伝熱板に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、コンピュータの中央演算装置等の熱部品を冷却するための伝熱板は、冷却水などの冷却用熱媒体を循環させる熱媒体用管を板状のベース部材の内部に収容して構成されている。熱媒体用管は熱伝導の観点より、ベース部材に密着しているのが好ましい。例えば、特許文献1に示された伝熱板は、図6に示すように、熱伝導性プレート100(ベース部材)に形成された溝101に、伸縮性チューブ102(熱媒体用管)を挿入して、この伸縮性チューブ102を他の熱伝導性プレート103で溝101内に押し込んで、伸縮性チューブ102を変形させて溝101に密着させるように構成されている。
【0003】
【特許文献1】特開2007−24457号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の伝熱板では、伸縮性チューブ102を溝に挿入した際に、伸縮性チューブ102の上部が熱伝導性プレート100の表面104から上方に突出している(図6参照)ので、他の熱伝導性プレート103で溝101内に押し込む際の伸縮性チューブ102の変形部分(図示せず)が溝101の外側に広がってしまい、伸縮性チューブ102を所望の形状に変形させることができない場合があるといった問題があった。また、伸縮性チューブ102を押し込む他の熱伝導性プレート103が、一枚の板で形成されているので、伸縮性チューブ102を押し込む押圧力が分散してしまい、大きな押圧力を必要とする問題があった。
【0005】
そこで、本発明は前記の問題を解決するために案出されたものであって、小さい押圧力で、熱媒体用管を所望の形状に変形できる伝熱板の製造方法および伝熱板を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するための請求項1に係る発明は、熱部品を加熱または冷却するための熱媒体を循環させる熱媒体用管を板状のベース部材の内部に収容した伝熱板の製造方法において、前記ベース部材の表面に開口するとともに前記熱媒体用管の外径寸法よりも長い深さ寸法を有する凹溝に、前記熱媒体用管を挿入し、前記凹溝内の前記熱媒体用管上部の前記凹溝の開口部に蓋板を挿入し、その蓋板を前記凹溝の底部側に押圧することで、前記熱媒体用管を塑性変形させて前記凹溝に当接させるようにしたことを特徴とする伝熱板の製造方法である。
【0007】
このような製造方法によれば、熱媒体用管は、凹溝の内部に完全に収容された状態で押圧されるので、凹溝の外側に変形することはなく、所望の形状に確実に変形させることができ、さらには、熱媒体用管とベース部材との接触面積が大きくなり、熱伝導性を高めることができる。また、蓋板は、凹溝ごとに設けられるので、蓋板を押圧するプレス機と蓋板との接触面積が小さくなるので、蓋板を集中的に押圧することができる。したがって、小さい押圧力で効率的に熱媒体用管を変形させることができ、製造が容易になる。
【0008】
請求項2に係る発明は、前記蓋板が、前記凹溝の開口部に挿入された際に前記ベース部材の表面よりも突出しており、前記蓋板の突出部分先端を前記ベース部材の表面まで押圧することで、前記熱媒体用管を塑性変形させることを特徴とする請求項1に記載の伝熱板の製造方法である。
【0009】
このような製造方法によれば、蓋板の突出部分先端を前記ベース部材の表面まで押圧することで、熱媒体用管を塑性変形させているので、熱媒体用管の変形量管理を容易に行うことができる。
【0010】
請求項3に係る発明は、前記凹溝の底部が、その幅方向両端の底部入隅部が曲面加工された曲面状に形成されており、前記熱媒体用管は、前記凹溝の底部に沿って略楕円状に塑性変形することを特徴とする請求項1または請求項2に記載の伝熱板の製造方法である。
【0011】
このような製造方法によれば、その幅方向両端の底部入隅部が曲面加工された曲面状に形成されているので、熱媒体用管の変形部分が凹溝に追従しやすく、密着性が高まり、熱伝導性が向上する。
【0012】
請求項4に係る発明は、前記蓋板が、押圧後に摩擦撹拌接合によって前記ベース部材に固定されることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の伝熱板の製造方法である。
【0013】
このような製造方法によれば、摩擦撹拌接合によって蓋板とベース部材とが一体的に固定されるので、伝熱板の表面で一様に伝熱することができるとともに、熱伝導性をさらに向上させることができる。また、摩擦撹拌接合する際には、ベース部材と蓋板との境界部分を目視できるので、接合位置の特定を容易に行うことができる。
【0014】
請求項5に係る発明は、塑性変形された前記熱媒体用管の周囲に形成された空隙部に、前記摩擦撹拌接合の摩擦熱によって流動化させた塑性流動材を流入させることを特徴とする請求項4に記載の伝熱板の製造方法である。
【0015】
このような製造方法によれば、熱媒体用管とベース部材との密着性をより一層高めることができ、熱伝導性をさらに向上させることができる。
【0016】
請求項6に係る発明は、熱部品を加熱または冷却するための熱媒体を循環させる熱媒体用管を板状のベース部材の内部に収容した伝熱板において、前記ベース部材は、その表面に開口するとともに前記熱媒体用管の外径寸法よりも長い深さ寸法を有する凹溝を備え、前記熱媒体用管は、前記凹溝に挿入されその上部の前記凹溝の開口部に挿入された蓋板を前記凹溝の底部側に押圧することで塑性変形されて前記凹溝の底部に当接されていることを特徴とする伝熱板である。
【0017】
このような構成によれば、請求項1に係る発明と同様に、熱媒体用管は、凹溝の内部に完全に収容された状態で押圧されるので、凹溝の外側に変形することはなく、所望の形状に確実に変形させることができ、熱媒体用管とベース部材との接触面積が大きくなり、熱伝導性を高めることができる。また、蓋板は、凹溝ごとに設けられ、蓋板を熱媒体用管へ直接押圧することで、熱媒体用管を変形させているので、蓋板への押圧力を熱媒体用管の変形に直接的に利用することができ、押圧力を小さくすることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、小さい押圧力で、熱媒体用管を所望の形状に変形でき、熱伝導性が高い伝熱板を容易に製造することができるといった優れた効果を発揮する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、本発明を実施するための第一の最良の形態について、図面を適宜参照しながら詳細に説明する。
【0020】
図1乃至図3に示すように、第一の実施形態に係る伝熱板1は、熱部品を加熱または冷却するための熱媒体を循環させる熱媒体用管20を板状のベース部材10の内部に収容して構成されている。そして、ベース部材10は、その表面11に開口するとともに熱媒体用管20の外径寸法よりも長い深さ寸法を有する凹溝12を備えている。熱媒体用管20は、凹溝12に挿入され、その上部の凹溝12の開口部12aに挿入された蓋板30を凹溝12の底部12b側に押圧することで塑性変形されて、凹溝12の底部12bに当接されている。なお、本実施形態では、熱媒体用管20は、塑性変形前に断面円形を呈している。
【0021】
ベース部材10および蓋板30は、図2の(b)および図3に示すように、摩擦撹拌接合により形成された塑性化領域W,Wによって一体化されている。さらに、凹溝12と熱媒体用管20の外側面と蓋板30の下面とで形成された空隙部P,P(図1の(c)参照)には、摩擦撹拌接合により構成された塑性流動材Qが流入されている。
【0022】
ベース部材10は、熱媒体用管20に流れる熱媒体の熱を外部に伝達させる役割を果たすものであって、アルミニウムまたはアルミニウム合金(例えば、JIS:A6061)からなる押出形材にて構成されている。図1に示すように、ベース部材10の片側の表面11には、凹溝12が開口して形成されている。
【0023】
凹溝12は、熱媒体用管20および蓋板30が収容される部分であって、ベース部材10の長手方向に亘って直線状に連続して形成されている。凹溝12は、ベース部材10の表面11に対して直交する内表面(内壁面)を有している。凹溝12の底部12bは、その幅方向両端の底部入隅部が曲面加工された曲面状に形成されており、凹溝12は、断面U字状を呈するように形成されている。凹溝12は、塑性変形前の熱媒体用管20の水平方向の外径寸法(直径寸法)よりも長い幅寸法を備えている。また、凹溝12の深さ寸法は、熱媒体用管20の高さ方向の外径寸法(直径寸法)よりも長く、且つ熱媒体用管20の高さ方向の外径寸法と蓋板30の厚さ寸法とを加えた寸法よりも短くなっている。
【0024】
熱媒体用管20は、塑性変形前は断面円形を呈した筒状部材にて構成されており、押圧されて塑性変形することで凹溝12の底部12bに面接触する。熱媒体用管20は、その内部に例えば、冷却水、冷却ガス、高温液、あるいは高温ガスなどの熱媒体を循環させて、ベース部材10に熱を伝達させる部材であって、例えば銅等の熱伝導性の高い部材で構成されている。
【0025】
蓋板30は、図1に示すように、アルミニウムまたはアルミニウム合金(例えば、JIS:A6061)からなる押出形材にて構成されており、断面矩形を呈している。蓋板30は、凹溝12の幅寸法と同等の幅寸法を有している。
【0026】
空隙部Pは、図1の(c)に示すように、塑性変形後の熱媒体用管20の上面と、凹溝12の内側面と、蓋板30の下面とにより囲まれた空間であって、本実施形態においては、熱媒体用管20の上端と、蓋板30の下面とが、接触しているので、この接触部分を隔てて、図中左右方向に二つの空隙部P,Pが形成されている。空隙部Pは、外側が広がった断面略三角形を呈している。なお、空隙部Pは、凹溝12、熱媒体用管20および蓋板30の形状に基づいて適宜決定されるものであり、前記した形態に限定されるものではない。
【0027】
塑性化領域W,Wは、図2及び図3に示すように、突合せ部V,V(図1の(c)参照)に摩擦攪拌接合を施した際に、ベース部材10及び蓋板30の一部が塑性流動して一体化された領域である。なお、塑性化領域W,Wは、図2および図3においては、ハッチングにて示している。
【0028】
突合せ部V,Vに沿って、後記する回転ツール45(図2の(a)参照)を用いて摩擦攪拌接合を施すと、突合せ部V,Vの周辺にかかるベース部材10および蓋板30の金属材料が、回転ツール45の摩擦熱により流動化する。この際、流動化した金属材料(塑性流動材Q)は、空隙部P,Pに流入して隙間を埋めるとともに、硬化してベース部材10と蓋板30とを一体的に接合する。
【0029】
摩擦攪拌接合を行う際には、空隙部Pの形状や大きさ等に基づいて、回転ツール45の押し込み量及び挿入位置等を設定することにより、空隙部Pに塑性流動材Qを好適に流入させることができる。つまり、熱媒体用管20に接触しないように回転ツールを近接させて、空隙部Pに塑性流動材Qが隙間なく流入させることが好ましい。
【0030】
次に、伝熱板1の製造方法について説明する。
【0031】
本実施形態に係る製造方法で伝熱板1を製造するに際しては、図1の(a)に示すように、まず、ベース部材10の表面11に開口して形成された凹溝12に、熱媒体用管20を挿入する(管挿入工程)。このとき、熱媒体用管20は、凹溝12の幅方向中央部に位置するように挿入する。凹溝12内の熱媒体用管20上部の凹溝12の開口部12aに蓋板30を挿入する(凹溝閉塞工程)。
【0032】
本実施形態では、熱媒体用管20は、外径12.7mmで、厚さ1mmの銅管が用いられている。そして、凹溝12は、幅17mmで、深さ16.7mmに形成され、蓋板30は、幅17mmで、厚さ8mmに形成されている。
【0033】
なお、ベース部材10は、アルミニウム合金の押出形材にて構成されており、凹溝12は押出時に形成されているが、アルミニウム合金製の平板の表面に、公知の切削加工等により半円形断面を備えた凹溝を形成するようにしてもよい。
【0034】
蓋板30を熱媒体用管20上に挿入すると、蓋板30は、ベース部材10の表面11よりも4mm突出した状態となっている。
【0035】
その後、図1の(b)に示すように、プレス機40にセットして蓋板30を凹溝12の底部12b側に押圧する。本実施形態では、蓋板30の突出部分先端がベース部材10の表面11と同じ高さになるまで押圧する(押圧工程)。
【0036】
これによって、蓋板30が凹溝12の内部に押し込まれて、熱媒体用管20が、凹溝12の底部12bとの間に挟まれ押圧されて塑性変形する。このとき、熱媒体用管20、凹溝12および蓋板30が前記のような寸法および形状に設定されているので、熱媒体用管20は、図1の(c)に示すように、扁平形状に塑性変形する。また、蓋板30の側面と凹溝12の内側面とが面接触するとともに、蓋板30の上面が、ベース部材10の表面11と面一なる。ここで、凹溝12の内側面と蓋板30の側面によって突合せ部V,Vが形成される。
【0037】
このとき、熱媒体用管20は、凹溝12の内部に完全に収容された状態で、閉塞された空間内で蓋板30に押圧されるので、凹溝12の内表面に沿って変形することとなり、凹溝12の外側に変形することはなく、所望の形状に確実に変形させることができる。したがって、熱媒体用管20とベース部材10とは密に接触することとなり、熱媒体用管20とベース部材10との接触面積が大きくなるので、伝熱板1の熱伝導性を高めることができる。また、凹溝12が複数設けられている場合でも、蓋板30は、一つの凹溝12に一つずつ挿入されるので、プレス機40と蓋板30との接触面積を小さくできる。したがって、プレス機40の押圧力を蓋板30に集中的に伝達することができ、小さい押圧力で、熱媒体用管20を変形させることができる。すなわち、プレス機40の蓋板30への押圧力を、熱媒体用管20の変形に直接的に利用することで、押圧力を小さくすることができ、製造が容易になる。
【0038】
また、凹溝12の底部12bの幅方向両端の入隅部が曲面状に形成されているので、熱媒体用管20の変形部分が凹溝12の内表面に追従しやすく、熱媒体用管20が凹溝12の底部12bの形状に沿って変形する。これによって、熱媒体用管20が、凹溝12の底部12bの内表面に面接触することとなり、熱媒体用管20とベース部材10との密着性が高まり、伝熱板1の熱伝導性を向上することができる。
【0039】
さらに、凹溝12、熱媒体用管20および蓋板30は、前記したような所定寸法に形成されており、これによって、蓋板30が、凹溝12の開口部12aに挿入された際にベース部材10の表面11よりも突出する。そして、蓋板30の突出部分先端をベース部材10の表面11まで押圧することで、熱媒体用管20を塑性変形させるようにしたことによって、蓋板30の押込み長さは一定に保たれるので、熱媒体用管20の変形量管理および変形形状管理を容易に行うことができる。
【0040】
次に、図2の(a)に示すように、突合せ部V,V(図2の(a)中ではV)に沿って、摩擦撹拌接合を順次施す(摩擦撹拌接合工程)。このとき、突合せ部V,Vは、ベース部材10の表面11で目視することができるので、摩擦撹拌接合を正確な位置で確実に行うことができる。
【0041】
摩擦撹拌接合は、公知の回転ツール45を用いて行う。回転ツール45は、例えば、工具鋼からなり、円柱形のツール本体46と、その底面46aの中心部から同心軸で垂下するピン47とを有する。ピン47は、先端に向けて幅狭となるテーパ状に形成されている。なお、ピン47の周面には、その軸方向に沿って図示しない複数の小溝や径方向に沿ったネジ溝が形成されていてもよい。
【0042】
摩擦撹拌接合は、ベース部材10及び蓋板30を図示しない冶具により拘束した状態で、各突合せ部V,Vに高速回転する回転ツール45を押し込み、突合せ部V,Vに沿って移動させる。高速回転するピン47により、その周囲のベース部材10及び蓋板30のアルミニウム合金材料は、摩擦熱によって加熱され流動化する。そして、この流動した物質(塑性流動材Q)が、空隙部Pに流入する。
【0043】
以上の工程によって、図3に示すように、突合せ部V,V(図1の(c)参照)に沿って塑性化領域W,Wが形成され、ベース部材10と蓋板30とで、熱媒体用管20が密閉される。さらに、空隙部Pに塑性流動材Qが流入されて(図2の(a)参照)空隙部Pが充填されるため、各部材同士が密着され、熱伝導性の高い伝熱板1を形成することができる。
【0044】
また、前記したように、熱媒体用管20の変形量管理および変形形状管理を容易に行うことができるので、熱媒体用管20を所望の形状に塑性変形できる。したがって、熱媒体用管20とベース部材10との密着性をより一層高めることができ、熱伝導性をさらに高めることができる。
【0045】
さらに、本実施形態によれば、ベース部材10が伝熱板1の厚さ方向全体に亘って一体に形成されているので、特許文献1のように、上面と下面とが別部材で形成されたものと比較して、熱を伝熱板1の全体に亘って一様に伝達することができる。
【0046】
また、以上のような伝熱板1によれば、熱媒体用管20を扁平形状に塑性変形させているので、熱媒体の流量に対して熱媒体用管20の表面積を大きくすることができ、熱伝導性をより一層高めることができる。
【0047】
さらに、本実施形態では、断面円形の熱媒体用管20を凹溝12内に挿入した後に変形させているので、熱媒体用管20の加工を容易に行うことができる。すなわち、一つの伝熱板で凹溝が複数形成されている場合は、熱媒体用管は各凹溝を繋ぐように平面視S字状に形成されることとなるが、扁平形状に形成された熱媒体用管をS字状に変形するのは困難である。しかし、本実施形態に係る伝熱板の製造方法では、断面円形の熱媒体用管を、S字状に変形した後に、凹溝内で塑性変形するので、平面視S字状の扁平形状の熱媒体管を容易に形成することができる。
【0048】
また、ベース部材10と蓋板30とが、塑性化領域W,Wにおいて、両者の金属材料が摩擦撹拌接合により塑性流動化されるとともに、流動化された塑性流動材Qが空隙部Pに流入されているので、ベース部材10と蓋板30とを接合するとともに、空隙部Pを埋めることができる。また、摩擦撹拌接合の際に、熱媒体用管20は、後記する回転ツールのツール本体(ジョルダ)の底面によって加圧されるので、凹溝12の底部12bとの接触性を高めることができる。これにより、熱媒体用管20中を循環する熱媒体からの熱エネルギーを、ベース部材10に効率よく伝達することができる。
【0049】
次に、本発明を実施するための第二の最良の形態について、図面を適宜参照しながら詳細に説明する。
【0050】
図4および図5に示すように、第二の実施形態に係る伝熱板1の製造方法は、蓋板30が、アルミニウム合金製の押出形材に代えて、鉄製治具31によって構成されていることを特徴とする。
【0051】
鉄製治具31は、熱媒体用管20を押圧する際の蓋板として利用されるものであって、その下面には、円弧状の凹部31aが形成されている。凹部31aは、所定の曲率半径で形成されており、熱媒体用管の上端部が円滑な曲面状に塑性変形するように構成されている。また、鉄製治具31は、凹溝12の幅寸法よりも僅かに小さい幅寸法を有している。さらに、鉄製治具31は、第一の実施形態のアルミニウム合金製の押出形材からなる蓋板30と同様に、熱媒体用管20の上部で凹溝12内に挿入したときに、鉄製治具31が、ベース部材10の表面11よりも突出するような寸法を有している。
【0052】
本実施形態に係る製造方法で伝熱板1を製造するに際しては、図4の(a)に示すように、まず、ベース部材10の表面11に開口して形成された凹溝12に、熱媒体用管20を挿入して(管挿入工程)、凹溝12内の熱媒体用管20上部の凹溝12の開口部12aに鉄製治具31(蓋板30)を挿入する(凹溝閉塞工程)。
【0053】
このとき、鉄製治具31は、ベース部材10の表面11よりも突出している。なお、鉄製治具31は、凹溝12よりも小さい幅寸法で形成されているので、熱媒体用管20の上部に載置するだけでよい。
【0054】
その後、図4の(b)に示すように、プレス機40にセットして鉄製治具31を凹溝12の底部12b側に押圧する(押圧工程)。本実施形態では、鉄製治具31は、4トンの荷重をかけて、鉄製治具31の突出部分先端がベース部材10の表面11と同じ高さになるまで押圧する。これによって、鉄製治具31が凹溝12の内部に押し込まれて、熱媒体用管20が、鉄製治具31と凹溝12の底部12bとの間に挟まれて押圧され扁平形状に塑性変形する。このとき、鉄製治具31の下面には、凹部31aが形成されているので、熱媒体用管20は凹部31aに沿って変形し、塑性変形が円滑に行われる。なお、凹部31aは、一定曲率に限定されるものではなく、曲率が徐々に変化する楕円形状等の他の形状であってもよいのは勿論である。
【0055】
プレス機40による鉄製治具31の押圧が完了したならば、図4の(c)に示すように、鉄製治具31を凹溝12から取り出して、別途の蓋板32を凹溝12内に挿入する(蓋板挿入工程)。この蓋板32は、断面矩形を呈しており、凹溝12の幅寸法と同等の幅寸法と、鉄製治具31の凹部31aの中央部と上面との厚さ寸法(最も薄い部分の寸法)と同等の厚さ寸法を有しており、凹溝12に嵌合されることとなる。そして、凹溝12に嵌合された蓋板32は、その上面が、ベース部材10の表面11と面一となるとともに、蓋板32の側面と凹溝12の内側面とが面接触する。ここで、凹溝12の内側面と蓋板32の側面によって突合せ部V,Vが形成される。
【0056】
以下の工程は、第一の実施形態と同様である。図5の(b)に示すように、突合せ部V,V(図5の(b)中ではV)に沿って、摩擦撹拌接合を順次施す(摩擦撹拌接合工程)。これによって、突合せ部V,Vの周囲のベース部材10及び蓋板32のアルミニウム合金材料が、摩擦熱によって加熱され流動化して、この流動した物質(塑性流動材Q)が、空隙部Pに流入する。このとき、蓋板32は、断面矩形であって、その下面が平面状であるので、熱媒体用管20との間に形成される空隙部Pは、凹溝12の内側面に繋がる。すなわち、凹部31aを有する鉄製治具31で熱媒体用管20を押圧させて、熱媒体用管20の上面の円弧状に形成し、その上部に平板状の蓋板32を載置したことによって、空隙部Pが凹溝12の内側面に確実に繋がる。したがって、塑性流動材Qが、空隙部Pに確実に流入して、各部同士の密着性が高まり、伝熱板1の熱伝導性を高めることができる。
【0057】
以上の工程によって、第一の実施形態と略同様の構成の伝熱板1が製造される(図5の(c)参照)。本実施形態では、第一の実施形態で得られる作用効果の他に、以下のような作用効果が得られる。要するに、本実施形態では、底面に曲面状の凹部31aが形成された鉄製治具31を用いて、熱媒体用管20を押圧しているので、熱媒体用管20の上面が凹部31aに沿って円滑に変形され、変形形状を管理しやすくなる。また、熱媒体用管20の上面中央部が内側に凹まないので、熱媒体用管20と蓋板32との間に塑性流動材Qを確実に流入させることができ、各部材同士の密着性を高めることができる。
【0058】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は前記実施形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜に設計変更が可能である。例えば、前記実施形態では、一つの伝熱板1に一列の凹溝12が設けられているが、凹溝を複数設けてもよいのは勿論である。
【図面の簡単な説明】
【0059】
【図1】本発明に係る伝熱板の製造方法の第一の実施形態を示した図であって、(a)はベース部材に熱媒体用管と蓋板を挿入した状態を示した側面図、(b)は蓋板と熱媒体用管を押圧する状態を示した側面図、(c)は熱媒体用管を塑性変形した状態を示した側面図である。
【図2】本発明に係る伝熱板の製造方法の第一の実施形態を示した図であって、(a)は摩擦撹拌接合を施している状態を示した断面図、(b)は摩擦撹拌接合が完了した状態を示した断面図である。
【図3】本発明に係る伝熱板を示した斜視図である。
【図4】本発明に係る伝熱板の製造方法の第二の実施形態を示した図であって、(a)はベース部材に熱媒体用管と鉄製治具(蓋板)を挿入した状態を示した側面図、(b)は鉄製治具と熱媒体用管を押圧する状態を示した側面図、(c)は熱媒体用管を塑性変形した状態を示した側面図である。
【図5】本発明に係る伝熱板の製造方法の第二の実施形態を示した図であって、(a)は熱媒体用管上に他の蓋板を挿入した状態を示した側面図、(b)は摩擦撹拌接合を施している状態を示した断面図、(c)は摩擦撹拌接合が完了した状態を示した断面図である。
【図6】従来の伝熱板を示した側面図である。
【符号の説明】
【0060】
1 伝熱板
10 ベース部材
11 (ベース部材の)表面
12 凹溝
12a (凹溝の)開口部
12b (凹溝の)底部
20 熱媒体用管
30 蓋板
31 鉄製治具(蓋板)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱部品を加熱または冷却するための熱媒体を循環させる熱媒体用管を板状のベース部材の内部に収容した伝熱板の製造方法において、
前記ベース部材の表面に開口するとともに前記熱媒体用管の外径寸法よりも長い深さ寸法を有する凹溝に、前記熱媒体用管を挿入し、
前記凹溝内の前記熱媒体用管上部の前記凹溝の開口部に蓋板を挿入し、
その蓋板を前記凹溝の底部側に押圧することで、前記熱媒体用管を塑性変形させて前記凹溝に当接させるようにした
ことを特徴とする伝熱板の製造方法。
【請求項2】
前記蓋板は、前記凹溝の開口部に挿入された際に前記ベース部材の表面よりも突出しており、
前記蓋板の突出部分先端を前記ベース部材の表面まで押圧することで、前記熱媒体用管を塑性変形させる
ことを特徴とする請求項1に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項3】
前記凹溝の底部は、その幅方向両端の底部入隅部が曲面加工された曲面状に形成されており、
前記熱媒体用管は、前記凹溝の底部に沿って略楕円状に塑性変形する
ことを特徴とする請求項1または請求項2に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項4】
前記蓋板は、押圧後に摩擦撹拌接合によって前記ベース部材に固定される
ことを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項5】
塑性変形された前記熱媒体用管の周囲に形成された空隙部に、前記摩擦撹拌接合の摩擦熱によって流動化させた塑性流動材を流入させる
ことを特徴とする請求項4に記載の伝熱板の製造方法。
【請求項6】
熱部品を加熱または冷却するための熱媒体を循環させる熱媒体用管を板状のベース部材の内部に収容した伝熱板において、
前記ベース部材は、その表面に開口するとともに前記熱媒体用管の外径寸法よりも長い深さ寸法を有する凹溝を備え、
前記熱媒体用管は、前記凹溝に挿入されその上部の前記凹溝の開口部に挿入された蓋板を前記凹溝の底部側に押圧することで塑性変形されて前記凹溝の底部に当接されている
ことを特徴とする伝熱板。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−61470(P2009−61470A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−231179(P2007−231179)
【出願日】平成19年9月6日(2007.9.6)
【出願人】(000004743)日本軽金属株式会社 (627)
【Fターム(参考)】