説明

伴奏追従システム

【課題】演奏者による演奏に追従して自動演奏の曲調を制御すること。
【解決手段】セッションを行う複数のセッションデバイス10の夫々に演奏音を目立たせる度合いの序列を示す優先順位を与える。そして、優先順位決定サーバ装置70は最も高い優先順位を与えられているセッションデバイス10による演奏のキーとテンポとをテンポ・ピッチ抽出回路30を通じて抽出し、抽出したキーとテンポに合わせて伴奏音のキーとテンポを追従させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、楽器の演奏音に良好な伴奏音を自動的に与える技術に関する。
【背景技術】
【0002】
複数の演奏者が参加して行われる音楽活動を支援する技術を開示した文献として、例えば、特許文献1などが挙げられる。この文献に開示された曲データ作成システムは、各演奏者の楽器を接続するクライアントPCと、それら各クライアントPCからの問い合わせに応答するサーバとから構成される。各クライアントPCは、曲データをサーバへアップロードする機能に加えてチャット機能を搭載する。そして、各演奏者らは、チャット機能によってお互いにコミュニケーションを取りつつ各々の創作した曲データをサーバへアップロードすることによって、曲データを合作できるようになっている。
【特許文献1】特開2001−195064号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところで、上述したような複数の演奏者が参加して行われる演奏活動においては、MIDI(musical instruments digital interface)データなどによって予め準備しておいた伴奏曲の再生に合わせて各演奏者が自らの楽器を演奏することも少なくない。伴奏曲に合わせて各演奏者が演奏を行うようにすることで、演奏のテンポにばらつきが生じるといった不都合を回避できるからである。
しかしながら、このように伴奏曲の再生と合わせて演奏を行う場合、各演奏者は伴奏曲のテンポに忠実な演奏を行わなければならないため、ある演奏箇所の楽音を本来よりも幾分長くのばしてみるといったような即興的な表現を盛り込む事がことが難しくなり、結果として、音楽的な面白みが半減してしまうという問題があった。
本発明は、このような問題を解決すべく案出されたものであり、演奏者による演奏に追従して自動伴奏の曲調を制御できるような仕組みを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明の好適な態様である伴奏追従システムは、複数の楽器から演奏音を夫々入力する入力手段と、伴奏曲となる一連の伴奏音の楽音情報を記憶した伴奏曲記憶手段と、前記各楽器のうち、演奏の主導権を与える楽器を所定の条件に従って特定する主導楽器特定手段と、前記伴奏曲記憶手段に記憶された楽音情報を基に伴奏音を生成し、生成した伴奏音を順次出力する伴奏曲出力手段と、前記主導楽器特定手段により特定された楽器から前記入力手段を介して入力される演奏音から当該楽器による演奏のテンポを抽出するテンポ抽出手段と、前記伴奏曲出力手段が順次出力する伴奏音のテンポを、前記テンポ抽出手段が抽出したテンポと一致するように制御するテンポ追従制御手段とを備える。
【0005】
この態様において、演奏音から前記主導楽器特定手段が特定した楽器による演奏の調を抽出する調抽出手段と、前記伴奏曲出力手段が順次出力する伴奏音の調を、前記調抽出手段が抽出した調と一致するように制御する調追従制御手段とを更に備えてもよい。
【0006】
また、前記主導権を与える楽器の遷移を演奏開始時からの経過時間と対応付けて記憶した主導権スケジュール記憶手段を備え、前記主導楽器特定手段は、前記主導権スケジュール記憶手段の記憶内容に従って前記主導権を与える楽器を順次特定するようにしてもよい。
【0007】
更に、前記各楽器又はそれらの演奏者の状態を夫々検知するセンサを備え、前記主導楽器特定手段は、前記各センサによる検知結果に応じて前記主導権を与える楽器を特定するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、演奏者による演奏に追従して自動伴奏の曲調を制御することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
(第1実施形態)
本願発明の第1実施形態について説明する。
まず、以降の説明において用いる主要な用語を定義しておく。「演奏者」とは、セッションデバイス(楽器)の持ち主としてセッションに参加する個人を意味する。「演奏音」とは、セッションデバイスを演奏することによって得られる楽音を意味する。「伴奏音」とは、演奏音を補強すべく電子的に作り出される楽音を意味する。「優先順位」とは、演奏音を目立たせる度合いの序列を表す数を意味する。
【0010】
本実施形態にかかる伴奏追従システムは、以下に示す2つの特徴を有している。1つ目の特徴は、予め準備された演奏曲を演奏する複数のセッションデバイスのうちの1つに演奏の主導権を与え、主導権を与えたセッションデバイスの演奏に伴奏曲のキー(調)とテンポとを自動追従させるようにした点である。2つ目の特徴は、主導権を与えるセッションデバイスをセッションの進行に従って順次切り替えるようにした点である。
【0011】
図1は、本実施形態にかかる伴奏追従システムの全体構成図である。図に示すように、このシステムは、複数のセッションデバイス10、セレクタ20、テンポ・ピッチ抽出回路30、音響ミキサー40、スピーカ50、伴奏再生装置60、及び優先順位決定サーバ装置70から構成される。
セッションデバイス10は、ピアノ、ベース、ドラムといった各種楽器であり、演奏音の楽音信号をセレクタ20と音響ミキサー40へ夫々供給する。
【0012】
セレクタ20は、楽音信号を各セッションデバイス10から入力するための複数の入力インターフェース21乃至23と、楽音信号をテンポ・ピッチ抽出回路30へ出力する唯一の出力インターフェース25とを備える。各入力インターフェース21乃至23には、各々を識別する固有の番号(以下、「インターフェース番号」と呼ぶ。)が割り振られている。このセレクタ20は、優先順位決定サーバ装置70からの指令に応じ、複数の入力インターフェース21乃至23のうちの1つから入力されてくる楽音信号を出力インターフェース25を介してテンポ・ピッチ抽出回路30へ出力する。
【0013】
テンポ・ピッチ抽出回路30は、セレクタ20を介して入力される演奏音の楽音信号からテンポとピッチとを抽出して優先順位決定サーバ装置70へ供給する。
このテンポ・ピッチ抽出回路30によるテンポの抽出手法としては、楽音信号によって表わされる波形の振幅が所定値を超えた箇所を強拍のアタック部として順次特定し、特定した各アタック部の時間間隔をテンポとして抽出するといったものが想定できる。また、ピッチの抽出手法としては、楽音信号が示す波形の基本周波数をピッチとして抽出するといったものが想定できる。
【0014】
音響ミキサー40は、各セッションデバイス10及び伴奏再生装置60から楽音信号を入力する複数の入力インターフェース41乃至44と、ミキシングされた楽音信号をスピーカ50へ出力する唯一の出力インターフェース45とを備える。なお、入力インターフェース44は、伴奏再生装置60の専用インターフェースとして確保されており、その他の入力インターフェース41乃至43には、セレクタ20の入力インターフェース21乃至23に対応したインターフェース番号が夫々割り振られている。
後の動作説明の項で詳述するように、この音響ミキサー40は、セッションデバイス10から入力インターフェース42乃至44を介して入力されてくる楽音信号のミキシング比率を、優先順位決定サーバ装置70からの指令に応じて適宜変更するようになっている。
【0015】
図2は、伴奏再生装置60のハードウェア構成図である。図に示すように、この装置60は、各種制御を行うCPU61、CPU61にワークエリアを提供するRAM62、IPL(initial program loader)を記憶したROM63、外部装置との間で各種情報の遣り取りを行う通信インターフェース64、音響ミキサー40へ楽音信号を出力する伴奏音出力インターフェース65、及び曲データベース66aを記憶したハードディスク66を備える。曲データベース66aには、各々が1つの伴奏曲と対応する複数の楽曲シーケンスデータが蓄積されている。
この曲データベース66aに蓄積された楽曲シーケンスデータの中には、優先順位遷移情報が予め記録された順位スケジュール固定タイプと、優先順位遷移情報が記録されておらず演奏者自身による設定が可能な順位スケジュール設定タイプの2つのタイプが混在する。ここで、優先順位遷移情報とは、各セッションデバイス10に与えられることになっている優先順位の遷移を時系列に従って表す情報を意味する。
図3は、順位スケジュール固定タイプの楽曲シーケンスデータを示すデータ構造図である。図に示すように、楽曲シーケンスデータはヘッダ部91とデータ部92を備える。ヘッダ部91には、演奏曲の曲名を示す曲名情報、演奏曲の標準的なキーとテンポとを示す曲調情報、演奏曲の演奏に必要な各楽器の楽器種別を示す楽器種別情報、及び順位スケジュール固定タイプであることを示すタイプ種別情報が記録される。
データ部92は、伴奏曲トラック93と演出スケジュールトラック94とに分かれている。伴奏曲トラック93には、伴奏曲となる一連の伴奏音を示すオーディオデータが時系列に従って記録されている。
【0016】
演出スケジュールトラック94には、優先順位遷移情報が記録されている。図3を参照してこれを更に詳述すると、この図に示す例の場合、セッションの開始から10秒経過するまでの間は、「ピアノ:1」、「ベース:2」、「ドラム:3」と記録され、10秒から20秒までの間は、「ピアノ:2」、「ベース:1」、「ドラム:3」と記録され、更に、20秒から30秒までの間は、「ピアノ:1」、「ベース:2」、「ドラム:3」と記録されている。つまり、セッションの開始から10秒までの間は最も高い優先順位がピアノに与えられ、10秒を経過するとピアノとベースの優先順位が逆転し、20秒を経過すると逆転した優先順位が基に戻るようになっていることを表わしている。後の動作説明の項で詳述するように、優先順位が最も高い「1」となっているセッションデバイス10には演奏の主導権が与えられ、セッションが行われている間は、主導権が与えられているセッションデバイス10の演奏に追従するように伴奏曲のキーとテンポが制御される。
一方、順位スケジュール設定タイプの楽曲シーケンスデータの場合、データ部92に演出スケジュールトラック94を有していない。また、ヘッダ部91には、曲名情報、曲調情報、楽器種別情報のほか、順位スケジュール設定タイプであることを示すタイプ種別情報が記録されても良い。
【0017】
図4は、優先順位決定サーバ装置70のハードウェア構成図である。図に示すように、この装置70は、各種制御を行うCPU71、CPU71にワークエリアを提供するRAM72、IPLを記憶したROM73のほか、通信インターフェース74、コンピュータディスプレイ75、マウス76、キーボード77、ハードディスク78などを備える。そして、ハードディスク78は、伴奏追従制御プログラム78aを記憶する。このプログラム78aは、本実施形態に特徴的な機能を実現させるための固有のプログラムである。RAM72をワークエリアとして利用しつつこのプログラムを実行するCPU71は、セレクタ20、音響ミキサー40、及び伴奏再生装置60へ各種指令を出力することによってシステム全体を制御する。
【0018】
次に、本実施形態の動作を説明する。本実施形態の動作は、セッション準備処理とセッション処理とに分けることができる。
まず、セッション準備処理の内容について説明する。
図5は、セッション準備処理を示すフローチャートである。図に示す処理は、演奏者のいずれかが、優先順位決定サーバ装置70のマウス76を操作することによって演奏準備の開始を指示すると開始される。
【0019】
演奏準備の開始が指示されると、優先順位決定サーバ装置70のCPU71は、曲名リストの送信を求めるメッセージを伴奏再生装置60へ送信する(S100)。
メッセージを受信した伴奏再生装置60のCPU61は、曲データベース66aに蓄積されている全楽曲シーケンスデータのヘッダ部91から曲名情報と楽器種別情報とを夫々読み出し、読み出した曲名情報と楽器種別情報の各対を優先順位決定サーバ装置70へ送信する(S110)。
【0020】
優先順位決定サーバ装置70のCPU71は、伴奏再生装置60から受信した曲名情報と楽器種別情報の各対を基に、演奏曲選択画面をコンピュータディスプレイ75に表示させる(S120)。
演奏曲選択画面の上段には、「今回のセッションで演奏する演奏曲をリストから選択して下さい。」という内容を示す文字列が表示される。その下には、各演奏曲の曲名とそれら各演奏曲の演奏に必要な楽器の楽器種別とを対応付けたリストが表示される。
【0021】
この画面を参照した演奏者は、同画面のリストに表示された各演奏曲の中から、今回のセッションに参加する全演奏者のセッションデバイス10が楽器種別として挙げられている演奏曲の1つを選択する。
演奏曲の1つが選択されると、優先順位決定サーバ装置70のCPU71は、セッションデバイス接続要求画面をコンピュータディスプレイ75に表示させる(S130)。
【0022】
図6は、セッションデバイス接続要求画面である。
この画面の上段には、「演奏曲が選択されました。セッションデバイスをセレクタと音響ミキサーに接続し、インターフェースの番号を入力してください。」という内容の文字列が表示される。その下には、選択された演奏曲の曲名とその演奏に必要な楽器とが表示される。更に、画面の下段には、各インターフェースに接続したセッションデバイス10の楽器種別を入力する入力欄が表示される。
【0023】
この画面を参照した各演奏者は、各々のセッションデバイス10をセレクタ20及び音響ミキサー40の同じインターフェース番号の入力インターフェースに夫々接続する。セッションデバイス10を接続した演奏者は、自らのセッションデバイス10を接続した入力インターフェースのインターフェース番号と対応する入力欄にその楽器種別を入力する。
セッションデバイス接続要求画面の入力欄に楽器種別が入力されると、優先順位決定サーバ装置70のCPU71は、優先順位管理テーブルをRAM72に形成する(S140)。
【0024】
図7は、優先順位管理テーブルのデータ構造図である。このテーブルを構成する1つのレコードは、「インターフェース」、「楽器」、及び「順位」の3つのフィールドを有している。「インターフェース」のフィールドには、セッションデバイス10が接続された各インターフェースのインターフェース番号が記憶される。「楽器」のフィールドには、セッションデバイス接続要求画面にて入力された楽器種別を示す楽器種別情報が記憶される。「順位」のフィールドには、後述するセッション処理が行われている間、優先順位を示す順位情報が記憶される。
優先順位管理テーブルを形成した優先順位決定サーバ装置70のCPU71は、ミキシング比率設定画面をコンピュータディスプレイ75に表示させる(S150)。
【0025】
図8は、ミキシング比率設定画面である。
この画面の上段には、「各優先順位のミキシング比率を設定してください。」という内容を示す文字列が表示される。その下には、各優先順位と対応するミキシング比率を入力する入力欄が表示される。
この画面を参照した演奏者は、各優先順位のミキシング比率を各々の入力欄に入力する。なお、高い優先順位の与えられているセッションデバイスの演奏音がより目立つような演出を行うべく、高い優先順位であるほどミキシング比率も高くなるような設定内容とすることが望ましい。
【0026】
ミキシング比率設定画面の全入力欄にミキシング比率が入力されると、優先順位決定サーバ装置70のCPU71は、ミキシング比率管理テーブルをRAM72に形成する(S160)。
図9は、ミキシング比率管理テーブルである。このテーブルを構成する1つのレコードは、「順位」と「比率」の2つのフィールドを有している。「順位」のフィールドには、優先順位が記憶される。「比率」のフィールドには、ミキシング比率設定画面にて各優先順位と対応付けて入力されたミキシング比率が記憶される。例えば、最も高い優先順位である「1」と対応する優先順位は「1:1.2」となっているが、これは、「1」の優先順位が付与されているセッションデバイス10の楽音信号が、1.2倍に増幅されてから他の楽音信号とミキシングされるべきことを表わしている。
【0027】
ミキシング比率管理テーブルを形成した優先順位決定サーバ装置70のCPU71は、演奏曲選択画面にて選択された演奏曲を指定する演奏曲指定情報を伴奏再生装置60へ送信する(S170)。
伴奏再生装置60のCPU61は、優先順位決定サーバ装置70から受信した演奏曲指定情報が指定する演奏曲の楽曲シーケンスデータを曲データベース66aから読み出す(S180)。
【0028】
続いて、CPU61は、曲調情報を記憶する領域(以下、「曲調情報記憶領域」と呼ぶ。)をRAM62に確保し、ステップ180で読み出した楽曲シーケンスデータのヘッダ部91に内包されている曲調情報をこの曲調情報記憶領域に記憶する(S190)。
CPU61は、ステップ180で読み出した楽曲シーケンスデータのヘッダ部91に内包されているタイプ種別情報を参照し、読み出した楽曲シーケンスデータが順位スケール固定タイプと順位スケジュール設定タイプのいずれに該当するか判断する(S200)。
【0029】
ステップ200において、順位スケジュール固定タイプに該当すると判断したCPU61は、楽曲シーケンスデータの演出スケジュールトラック94に内包されている優先順位遷移情報を優先順位決定サーバ装置70へ送信する(S210)。
優先順位決定サーバ装置70のCPU71は、伴奏再生装置60から送信された優先順位遷移情報をRAM72に記憶する(S220)。
【0030】
一方、ステップ200において、順位スケジュール設定タイプに該当すると判断した伴奏再生装置60のCPU61は、順位スケジュールの設定を求めるメッセージを優先順位決定サーバ装置70へ送信する(S230)。
メッセージを受信した優先順位決定サーバ装置70のCPU71は、ステップ110にて伴奏再生装置60から送信された楽器種別情報を基に順位スケジュール設定画面をコンピュータディスプレイ75に表示させる(S240)。
【0031】
順位スケジュール設定画面の上段には、「各セッションデバイスに与える優先順位のスケジュールを設定してください。」という内容を示す文字列が表示される。その下には、伴奏再生装置60から受信した楽器種別情報と対応する各セッションデバイス10に与える優先順位を時系列に従って入力する入力欄が表示される。
この画面を参照した演奏者は、各演奏者のセッションデバイス10に与える優先順位の遷移を同画面の入力欄に入力する。
順位スケジュール設定画面に優先順位の遷移が入力されると、優先順位決定サーバ装置70のCPU71は、その入力内容を基に生成した優先順位遷移情報をRAM72に記憶する(S250)。
以上で、セッション準備処理が終了する。
【0032】
図10は、セッション処理を示すフローチャートである。上述したセッション準備処理の終了後、セッションの開始が指示されると、伴奏再生装置60と優先順位決定サーバ装置70は、互いに同期を取りながら図に示す一連の処理を所定のサイクルに従って繰り返す。
まず、伴奏再生装置60側の処理について説明すると、同装置60のCPU61は、ステップ180で読み出しておいた楽曲シーケンスデータの伴奏曲トラック93に記録されているオーディオデータをトラックの先頭から順次読み出す(S300)。
【0033】
続いて、CPU61は、曲調変更情報を受信したか否か判断し(S310)、曲調変更情報を受信したときはステップ320に進む一方、曲調変更情報を受信していないときはステップ330に進む。曲調変更情報とは、伴奏曲のキーとテンポの変更を指示する情報であり、優先順位決定サーバ装置70側で生成される。ステップ320の内容は優先順位決定サーバ装置70側における処理の内容を述べた後に説明することとし、ここでは、ステップ330へ進む。
ステップ330において、CPU61は、ステップ180で読み出したオーディオデータを基に伴奏音の楽音信号を生成する。
【0034】
続いて、CPU61は、ステップ330にて生成した楽音信号が示すピッチをRAM62の曲調情報記憶領域の曲調情報が示すキーに合わせて調整し、同曲調情報が示すテンポに従ったタイミングで音響ミキサー40へ出力する(S340)。
伴奏再生装置60から出力された伴奏音の楽音信号は、音響ミキサー40を経由してスピーカ50へ入力され、スピーカ50から伴奏音として放音される。
【0035】
一方、優先順位決定サーバ装置70側の処理について説明すると、同装置70のCPU71は、伴奏再生装置60における伴奏曲の再生開始と同時に演奏開始からの経過時間の計時を開始する(S265)。
続いて、CPU71は、ステップ220又はステップ250にてRAM72に記憶しておいた優先順位遷移情報から現在の経過時間と対応する各楽器の優先順位を取得し、取得した優先順位を基に優先順位管理テーブルを更新する(S275)。
【0036】
本ステップにおける更新が行われる結果、仮に優先順位遷移情報が図3に示すような内容となっていた場合、演奏開始から10秒経過するまでの間は、優先順位管理テーブルにおける「ピアノ」と対応するレコードの「順位」のフィールドの記憶内容が「1」となり、10秒経過した後、「ベース」と対応するレコードの「順位」のフィールドの記憶内容が「1」へと切り替わることになる。
【0037】
優先順位管理テーブルを更新したCPU71は、その優先順位管理テーブルの各レコードのうちから、「順位」のフィールドの記憶内容が「1」となっているレコードを特定し、特定したレコードの「インターフェース」のフィールドに記憶されているインターフェース番号をセレクタ20へ通知する(S285)。
インターフェース番号の通知を受けたセレクタ20は、そのインターフェース番号と対応する入力インターフェースから入力されてくる楽音信号を出力インターフェースから出力させるべく、自身内部のデータパスを制御する。
この結果、各演奏者のうち最も高い優先順位が与えられている演奏者のセッションデバイス10からセレクタ20へ入力されきた楽音信号がテンポ・ピッチ抽出回路30へと入力され、同回路30にて抽出されたピッチとテンポが優先順位決定サーバ装置70へ供給される。
【0038】
優先順位決定サーバ装置70のCPU71は、所定時間長の間に供給されてくる一連の演奏音のピッチを解析し、それらの演奏音が従うキーを特定する(S295)。
優先順位決定サーバ装置70のCPU71は、テンポ・ピッチ抽出回路30から供給されるテンポとステップ295で特定したキーとを表す曲調変更情報を伴奏再生装置60へ送信する(S305)。
【0039】
曲調変更情報が伴奏再生装置60へ送信されると、伴奏再生装置60で実行されるループのその次のサイクルで到来するステップ310における判断結果は「YES」となり、ステップ320の処理が実行される。
ステップ320に進むと、伴奏再生装置60のCPU61は、RAM62の曲調情報記憶領域に記憶されている曲調情報の内容を伴奏再生装置60から受信した曲調変更情報に合せて書き換える。
【0040】
ここで、セッション処理が開始された当初は、いわゆる前奏区間となるため、セッションデバイス10による演奏音の楽音信号がセレクタ20及び音響ミキサー40に入力されず、その楽音信号が示すテンポとピッチとから得られる曲調変更情報も優先順位決定サーバ装置70から伴奏再生装置60へ送信されることはない。従って、曲調変更情報が送信されるまでの各サイクルにて到来するステップ310の判断結果は「NO」となり、RAM62の曲調情報記憶領域には、図5のステップ190にて同領域に記憶された曲調情報、つまり、標準的なキーとテンポとを示す曲調情報が保持され続けることになる。この結果、ステップ330では、標準的なキーに従ったピッチの演奏音を示す楽音信号が、標準的なテンポに従ったタイミングで音響ミキサー40へ出力される。
【0041】
一方、前奏区間が終わり、各セッションデバイス10の演奏音の楽音信号がセレクタ20及び音響ミキサー40へ入力され始めると、それらのうち最も高い優先順位のセッションデバイス10の楽音信号が示すテンポとピッチとから得た曲調変更情報が優先順位決定サーバ装置70から伴奏再生装置60へ送信される。
すると、その後のサイクルにて到来するステップ310の判断結果は「YES」となり、続くステップ320では、RAM62の曲調情報記憶領域に保持された曲調情報が、曲調変更情報が示すキーとテンポとを示す新たな曲調情報へと書き換えられる。この結果、曲調変更情報が送信された後のサイクルにて到来するステップ330では、最も高い優先順位が与えられているセッションデバイス10による演奏と同じキーに従ったピッチの演奏音を示す楽音信号が、その演奏と同じテンポに従ったタイミングで出力されることになる。
【0042】
図10において、曲調変更情報を送信した優先順位決定サーバ装置70のCPU71は、優先順位管理テーブルとミキシング比率管理テーブルの内容を基に生成したミキシング比率制御情報を音響ミキサー40へ出力する(S315)。
ミキシング比率制御情報は、インターフェース番号とミキシング比率の各対を示す情報である。このステップの内容を具体的に説明すると、まず、ステップ275で更新された後の優先順位管理テーブルから、入力インターフェースの各インターフェース番号と対応付けられている優先順位を取得する。続いて、ミキシング比率管理テーブルから、各優先順位について設定されているミキシング比率を取得する。その後、両テーブルにおいて共通の優先順位と対応付けられているインターフェース番号とミキシング比率とを夫々対にして音響ミキサー40へ出力する。
【0043】
以上説明した実施形態では、各セッションデバイス10の演奏音を補強すべく準備された伴奏音のキーとテンポが、最も高い優先順位を持つセッションデバイス10の演奏に合せて調節されるようになっている。従って、最も高い優先順位を持つセッションデバイス10の演奏者がある演奏箇所を本来とは異なるキーやテンポで演奏したような場合でも、そのような即興的な変化に伴奏曲のキーとテンポを追従させることができ、音楽的面白みが損なわれることのないセッションを演出できる。
【0044】
また、本実施形態においては、各演奏者のセッションデバイス10の優先順位の遷移を時系列に従って示す優先順位遷移情報が楽曲シーケンスデータの一部として予め準備されおり、セッションが開始されると、優先順位決定サーバ装置70がその優先順位遷移情報を順次参照しながら、各演奏者に与える優先順位を切り替えるようになっている。このようにセッションの進行と連動させて優先順位を適宜切り替えることによって、全ての演奏者が満足できるようなセッションを演出することができる。
【0045】
更に、本実施形態では、各優先順位毎のミキシング比率をセッションを開始する前に任意に設定できるようになっており、各セッションデバイス10から音響ミキサー40に入力された楽音信号はこの設定された比率に従ってミキシングされてからスピーカ50へ出力されるようになっている。従って、セッションに参加している演奏者の演奏を音量面からも良好に演出することができる。
【0046】
(第2実施形態)
本願発明の第2実施形態について説明する。
上記実施形態では、各種楽器毎の優先順位の遷移を示す優先順位遷移情報が楽曲シーケンスデータの演出スケジュールトラック94に記録され又は演奏者によって設定されるようになっており、セッションが行われている間は、優先順位遷移情報に従って各演奏者の優先順位が切り替えられるようになっていた。これに対し、本実施形態は、各演奏者の緊張度を測るバロメータの一つである発汗量をも加味して優先順位の切り替えを行う。
【0047】
図11は、本実施形態にかかる伴奏追従システムの全体構成図である。このシステムは、図1に示した各構成要素に加えて、センサ80を備える。
センサ80は、発汗センサであり、各演奏者に夫々1つずつ取り付けられる。このセンサ80は、各演奏者の発汗量を検知し、その検知結果を状態情報として優先順位決定サーバ装置70へ供給するようになっている。
【0048】
次に、本実施形態の動作を説明する。
本実施形態では、優先順位決定サーバ装置70における優先順位管理テーブルの更新の手順が第1実施形態と異なる。図10に示したステップ275では、優先順位決定サーバ装置70のCPU71が、ステップ220又はステップ250にてRAM72に記憶しておいた優先順位遷移情報から現在の経過時間と対応する各楽器の優先順位を取得し、取得した優先順位を基に優先順位管理テーブルを更新するようになっていた。つまり、優先順位管理テーブルの更新は、優先順位遷移情報のみに依存して行われた。
これに対し、本実施形態では、このステップ275を実行した後、更に別の判断ステップが挿入される。この判断ステップでは、各センサ80から供給される状態情報が示す発汗量が所定値を上回ったか否かが判断される。そして、この判断ステップにて、いずれかのセンサ80から供給された状態情報が示す発汗量が所定値を上回ったと判断されると、そのセンサ80を取り付けた演奏者によって演奏されているセッションデバイス10の優先順位を最も高いものに切り替える。
【0049】
以上説明した実施形態では、各演奏者にセンサ80を夫々取り付け、それら各センサ80の検知結果をも加味して優先順位を切り替えるようになっている。このように、センサ80の検知結果に連動させて優先順位を切り替えるようにすることによって、セッションの演出効果をより高めることができる。また、テンポを抽出することが困難なヴォーカル(肉声)などを交えて行われるセッションも好適に演出することができる。
【0050】
(他の実施形態)
本願発明は、種々の変形実施が可能である。
例えば、テンポを抽出することが不可能なリード楽器等のセッションデバイス10やヴォーカルなどを交えてセッションを行う場合、タップボタンなどの特殊な器具や、体もしくは楽器に取付けた振動センサを用いて演奏者のステップや首振りの間隔を検出し、検出した間隔をテンポとして優先順位決定サーバ装置70へ供給してもよい。
また、上記実施形態では、伴奏曲の内容を伴奏曲トラック93にオーディオデータとして記録していたが、これをMIDIデータとして記録してもよい。つまり、伴奏曲となる一連の伴奏音を示す楽音データであればそのデータ形式は問わない。
【0051】
上記実施形態において、セレクタ20は複数の入力インターフェースを備えており、優先順位決定サーバ装置70による指示の下、それらのうち1つの入力インターフェースから入力された楽音信号をピッチ・テンポ抽出回路30へ出力するようになっていた。これに対し、セレクタ20が唯一の入力インターフェースのみを備え、その入力インターフェースを介して各セッションデバイス10から入力されてくる楽音信号のうち、最も高い優先順位を与えられたセッションデバイス10の楽音信号を抽出してピッチ・テンポ抽出回路30へ出力するようにしてもよい。かかる変形例は、各セッションデバイス10が、自らを識別するIDを楽音信号と対にしてセレクタ20へ入力し、セレクタ20が各楽音信号と対を成すIDを参照することによってその供給元を特定することで実現できる。音響ミキサー40についても同様に、複数の入力インターフェースを備える必要はなく、唯一の入力インターフェースから入力されてくる楽音信号の供給元をそれらの楽音信号と対を成しているIDを基に特定するようにするとよい。
【0052】
上記実施形態では、伴奏再生装置60の曲データベース66aから読み出された楽曲シーケンスデータが順位スケジュール設定タイプであった場合のみ、順位スケジュールの設定を求めるメッセージが優先順位決定サーバ装置70へ送信され、同装置70のコンピュータディスプレイ75に表示される順位スケジュール設定画面を通じて演奏者自身が優先順位の遷移を設定するようになっていた。これに対し、読み出された楽曲シーケンスデータのタイプの如何にかかわらず演奏者自身による優先順位の遷移の設定を可能としてもよい。この変形例の場合、順位スケジュール固定タイプの楽曲シーケンスデータについて順位スケジュール設定画面を通じた設定が行われたときは、演奏者自身による設定が演出スケジュールトラック94よりも優先されることになる。
【0053】
第2実施形態は、センサ80が発汗センサであるとの前提で説明を行ったが、体温センサや、加速度センサなどでこれを代替してもよい。要するに、演奏者の緊張度やアピール度を測る何らかの属性値を定量化して供給できるセンサであればその種別は問わない。
また、第2実施形態は、優先順位遷移情報による優先順位管理テーブルの更新を基本としつつ、センサ80の検知結果に応じたイレギュラーな更新のロジックを重畳するものであったが、優先順位遷移情報の参照を行わず、センサ80の検知結果が示す発汗量が大きい順に高い優先順位を与えるような構成としてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】伴奏追従システムの全体構成図である(第1実施形態)。
【図2】伴奏再生装置のハードウェア構成図である。
【図3】楽曲シーケンスデータのデータ構造図である。
【図4】優先順位決定サーバ装置のハードウェア構成図である。
【図5】セッション準備処理を示すフローチャートである。
【図6】セッションデバイス接続要求画面である。
【図7】優先順位管理テーブルのデータ構造図である。
【図8】ミキシング比率設定画面である。
【図9】ミキシング比率管理テーブルである。
【図10】セッション処理を示すフローチャートである。
【図11】伴奏追従システムの全体構成図である(第2実施形態)。
【符号の説明】
【0055】
10…セッションデバイス、20…セレクタ、30…テンポ・ピッチ抽出回路、40…音響ミキサー、50…スピーカ、60…伴奏再生装置、61,71…CPU、62,72…RAM、63,73…ROM、64,74…通信インターフェース、65…伴奏音出力インターフェース、66,78…ハードディスク、70…優先順位決定サーバ装置、75…コンピュータディスプレイ、76…マウス、77…キーボード、78…ハードディスク、80…センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の楽器から演奏音を夫々入力する入力手段と、
伴奏曲となる一連の伴奏音の楽音情報を記憶した伴奏曲記憶手段と、
前記各楽器のうち、演奏の主導権を与える楽器を所定の条件に従って特定する主導楽器特定手段と、
前記伴奏曲記憶手段に記憶された楽音情報を基に伴奏音を生成し、生成した伴奏音を順次出力する伴奏曲出力手段と、
前記主導楽器特定手段により特定された楽器から前記入力手段を介して入力される演奏音から当該楽器による演奏のテンポを抽出するテンポ抽出手段と、
前記伴奏曲出力手段が順次出力する伴奏音のテンポを、前記テンポ抽出手段が抽出したテンポと一致するように制御するテンポ追従制御手段と
を備えた伴奏追従システム。
【請求項2】
請求項1に記載の伴奏追従システムにおいて、
演奏音から前記主導楽器特定手段が特定した楽器による演奏の調を抽出する調抽出手段と、
前記伴奏曲出力手段が順次出力する伴奏音の調を、前記調抽出手段が抽出した調と一致するように制御する調追従制御手段と
を更に備えた伴奏追従システム。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の伴奏追従システムにおいて、
前記主導権を与える楽器の遷移を演奏開始時からの経過時間と対応付けて記憶した主導権スケジュール記憶手段を備え、
前記主導楽器特定手段は、
前記主導権スケジュール記憶手段の記憶内容に従って前記主導権を与える楽器を順次特定する
伴奏追従システム。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれかに記載の伴奏追従システムにおいて、
前記各楽器又はそれらの演奏者の状態を夫々検知するセンサを備え、
前記主導楽器特定手段は、
前記各センサによる検知結果に応じて前記主導権を与える楽器を特定する
伴奏追従システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2006−201654(P2006−201654A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−15230(P2005−15230)
【出願日】平成17年1月24日(2005.1.24)
【出願人】(000004075)ヤマハ株式会社 (5,930)
【Fターム(参考)】