説明

伸縮アクチュエータ

【課題】軸を曲げた状態で回転運動を軸方向の運動に変換することが可能な、サービスロボットの駆動源として適宜な伸縮アクチュエータを提供する。
【解決手段】回転駆動手段と、該回転駆動手段に駆動されて軸方向の長さが変わる回転・軸長変換手段と、該回転・軸長変換手段を中に収め前記回転駆動手段の筐体に接合されて回転に伴う前記回転・軸長変換手段の全体形状の変形を規制する規制手段と、を備え、前記回転・軸長変換手段が、2つの部材から構成され、少なくとも一つが螺旋形状を有し回転により二つの部材の係合位置が変わって伸縮し、前記螺旋形状の他の部材を受け入れて係合する軸方向に繰り返し現れる部分の軸方向の寸法が、該部分に嵌りこんで係合する他の部材の形状の軸方向の寸法に、前記回転・軸長変換手段が曲げられたときに前記2つの部材が相互移動可能なようにさらに軸方向の隙間を加えたものにされる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、軸方向に伸縮する伸縮アクチュエータに関するものである。さらに詳しくはサービスロボットに使われることを想定した柔らかな動作が可能な、伸縮する軸が曲げられても軸方向の長さを変えることができる伸縮アクチュエータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
人に直に接するサービスロボットは、オフィス、家庭、公共空間など我々の生活に密着して付加価値を提供してくれるロボットである。サービスロボットは介護などの現場でのニーズが見込まれるものの、求められる機能を実現するための部品,特にロボットを動かすアクチュエータの性能と価格がまだ十分でないという問題がある。
【0003】
ロボットを多様に駆動するには多数のアクチュエータが必要になる。人型あるいは動物型のロボットでは手足を動かすために動物の筋肉に相当する伸縮動作をするアクチュエータが必要である。
【0004】
従来アクチュエータの駆動源として実用化されているものとして、パワードスーツなどで使われているエアポンプによる空気圧などの流体圧を用いるアクチュエータが報告されている(特許文献1を参照)。
【0005】
流体圧を用いるものは発火などの危険性がないものの加圧装置を別に用意する必要があり装置が大掛かりになるという問題がある。
【0006】
制御の容易性からは電動式のものが望まれることからリニアモータを用いた人工筋肉が報告されている(特許文献2を参照)。
【0007】
リニアモータで大きな伸縮距離を得ようとすると永久磁石やコイルを伸縮距離に応じて配置する必要があるので全体を容易に曲げられる可撓性を持たせることは難しい。そこで多数の磁石を可撓性材料を挟んで直列に接続して構成することで可撓性を持たせる発明が開示されている(特許文献3を参照)。
【0008】
上述のようにリニアモータを使う場合は多数の磁石やコイルを使うことになり部品点数が増えコスト面の制限が厳しくなる。そこで駆動源として簡便な電気モータを使い電気モータの軸の回転運動を軸方向の伸縮運動に変換することで伸縮アクチュエータを作ることが考えられる。
【0009】
従来、回転運動を伸縮運動に変換するにはねじを切ったスクリュー軸を回転させこれに螺合する部材がスクリュー軸の回転に伴い軸方向に移動する装置が公開されている(特許文献4、5を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2002−103270号公報
【特許文献2】特開2009−366号公報
【特許文献3】特開2005−58351号公報
【特許文献4】特開平6−79583号公報
【特許文献5】特開2009−283023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従来技術で説明したように、流体圧を用いたリニアモータを使う伸縮アクチュエータは装置が複雑になるという問題がある。また、従来技術で開示されているモータを駆動源として軸方向に駆動する装置は直線的な精密な位置決めを目的とするものなので回転軸を曲げて柔らかな動作をさせるサービスロボットの駆動源としては不適当である。そこで、本発明の課題は上記の問題を解決して軸を曲げてもモータなどの回転運動を軸方向の運動に変換することが可能なサービスロボットの駆動源として適宜な伸縮アクチュエータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載された伸縮アクチュエータは、回転駆動手段と、該回転駆動手段に駆動されて軸方向の長さが変わる回転・軸長変換手段と、前記回転・軸長変換手段を中に収め前記回転駆動手段の筐体に接合されて回転に伴う前記回転・軸長変換手段の全体形状の変形を規制する規制手段と、を備える伸縮アクチュエータであって、(イ)前記回転・軸長変換手段が前記回転駆動手段に接合されて回転駆動される第1部材とこれに係合して軸方向に移動する第2部材とからなり、(ロ)前記第1部材と前記第2部材のうち少なくとも一つの部材が軸方向に螺旋形状を有すると共に他の部材がこれに係合する形状を有し、(ハ)前記螺旋形状の他の部材を受け入れて係合する軸方向に繰り返し現れる部分の軸方向の寸法が、前記螺旋形状の軸方向に繰り返し現れる部分に嵌りこんで係合する他の部材の形状の軸方向の寸法に、前記第1部材と前記第2部材が係合した状態で曲げられたときに前記第2部材が移動可能なようにさらに軸方向の隙間を加えたものにされ、(ニ)前記回転駆動手段に駆動される前記第1部材の回転に伴い、前記螺旋形状に沿って前記第2部材が軸方向に移動して前記回転・軸長変換手段の軸方向の長さが変わることを特徴としている。
【0013】
使用時に、本発明に係る伸縮アクチュエータは両端を外部材に接続されて外部材の間隔を変える。アクチュエータに備えられた回転駆動手段の回転軸の回転で回転駆動される第1部材に係合する第2部材は螺旋形状に沿って軸方向に移動する。この螺旋形状は第1部材又は第2部材の片方に形成されていても両方に形成されていてもよい。ここで、規制手段は回転駆動手段の筐体に接続されているので第1部材が曲がった状態で回転しても全体として大きく回転することを妨げる。そして、第1部材と第2部材が係合した状態で曲がったときに、曲がりにより変形した螺旋形状に挟まれて第2部材の移動が妨げられることがないように前記螺旋形状の他の部材を受け入れて係合する軸方向に繰り返し現れる部分の軸方向の寸法が、前記螺旋形状の軸方向に繰り返し現れる部分に嵌りこんで係合する他の部材の形状の軸方向の寸法に、前記第1部材と前記第2部材が係合した状態で曲げられたときに前記第2部材が移動可能なようにさらに軸方向の隙間を加えたものであるので、曲がった状態でも第1部材が回転して第2部材は第1部材の回転に伴い軸方向に移動することができる。以下の説明で、例えば螺旋形状が第1部材に有る場合は第1部材の螺旋形状を案内部材65と言い、これに係合する第2部材が有する部材を被案内部材66と言う。また、第2部材が螺旋形状651を有し、これに係合する部材661が第1部材に有る場合は、第1部材にある形状を駆動部材と言い、第2部材にある螺旋形状を被駆動部材と言う。
【0014】
請求項2に記載された伸縮アクチュエータは、請求項1に記載の伸縮アクチュエータにおいて、前記第1部材および前記第2部材が同一のピッチを有する弦巻状のバネであることを特徴としている。すなわち、第1部材が案内部材又は駆動部材を兼ね、第2部材が被案内部材又は被駆動部材を兼ねている。
【0015】
第1部材および第2部材である弦巻状のバネ(コイルバネ)はバネ材料の軸方向の大きさよりも大きな間隔で螺旋状に形成されていて第1部材及び第2部材のバネが係合しても両者のバネ材料間に隙間が空いているので、バネが曲げられても第1部材のバネ材料に第2部材のバネ材料が挟まれて移動を妨げられることなく、第1部材バネの回転に伴って第2部材のバネが軸方向に移動することができる。
【0016】
請求項3に記載された伸縮アクチュエータは、請求項2に記載の伸縮アクチュエータにおいて、少なくとも一のバネを形成する部材の他のバネに接する部分が略平面状であり、一のバネの内径が他のバネの内径よりも小さく且つ一のバネの外径が他のバネの外径よりも大きく形成されていることを特徴としている。
【0017】
2本のバネの中、少なくとも一のバネのバネ材の他のバネに接する部分が略平面状であり一のバネの内径が他のバネの内径よりも小さく且つ一のバネの外径が他のバネの外径よりも大きいので、2本のバネが係合された状態で全体が曲げられても他のバネが一のバネから外れることが無くなり係合が確実となる。ここで、両方のバネの互いに接する部分を略平面状にしてもよい。
【0018】
請求項4に記載されて伸縮アクチュエータは、請求項1に記載の伸縮アクチュエータにおいて、前記第1部材と前記第2部材のうち一の部材が筒状の外部材であり他の部材が前記外部材の中に収まる内部材であって、少なくとも前記外部材の内側又は前記内部材の外側に前記螺旋形状が形成されていることを特徴としている。
【0019】
2つの部材のうち、一つの部材が他の部材を中に収める筒型であり、一の部材の中を他の部材が軸方向に相対的に移動する。ここで、螺旋形状は筒の内側に設けてもよく、筒に収まる他の部材の外側に設けても良い。また、両方に螺旋形状を設けてもよい。また、外部材となる筒型の部材を第1部材とし、その中に入る内部材を第2部材とするか、又は外部材となる筒型の部材を第2部材とし、その中に入る内部材を第1部材としてもよい。
【0020】
請求項5に記載の伸縮アクチュエータは請求項1ないし4何れか1項に記載のアクチュエータにおいて、前記第1部材、前記第2部材及び前記規制手段が可撓性を有し、前記規制手段の曲げ剛性が前記第1部材と前記第2部材の曲げ剛性の和よりも大きいことを特徴としている。
【0021】
前記第1部材、前記第2部材および前記規制手段が可撓性を有するので軸の全体を大きく曲げることができるとともに前記規制手段の曲げ剛性が前記第1部材と前記第2部材の曲げ剛性の和よりも大きいので、前記規制手段によって第1部材の全体としての回転が規制されて第1部材は規制された状態で回転することになる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の伸縮アクチュエータは、回転駆動手段と、該回転駆動手段に駆動されて軸方向の長さが変わる回転・軸長変換手段と、前記回転・軸長変換手段を中に収め前記回転駆動手段の筐体に接合されて回転に伴う前記回転・軸長変換手段の全体形状の変形を規制する規制手段と、を備える伸縮アクチュエータであって、(イ)前記回転・軸長変換手段が前記回転駆動手段に接合されて回転駆動される第1部材とこれに係合して軸方向に移動する第2部材とからなり、(ロ)前記第1部材と前記第2部材のうち少なくとも一つの部材が軸方向に螺旋形状を有すると共に他の部材がこれに係合する形状を有し、(ハ)前記螺旋形状の他の部材を受け入れて係合する軸方向に繰り返し現れる部分の軸方向の寸法が、前記螺旋形状の軸方向に繰り返し現れる部分に嵌りこんで係合する他の部材の形状の軸方向の寸法に、前記第1部材と前記第2部材が係合した状態で曲げられたときに前記第2部材が移動可能なようにさらに軸方向の隙間を加えたものにされ、(ニ)前記回転駆動手段に駆動される前記第1部材の回転に伴い、前記螺旋形状に沿って前記第2部材が軸方向に移動して前記回転・軸長変換手段の軸方向の長さが変わることを特徴としているので、軸が曲がった状態でも伸縮動作が可能になり、サービスロボットのように柔軟な動きをすることが求められる用途に幅広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】第1実施例の伸縮アクチュエータの断面図、(a)伸縮アクチュエータ伸びた状態の断面図、(b)伸縮アクチュエータ縮んだ状態の断面図。
【図2】規制手段の働きを説明する図、(a)曲がった軸が回転する状態を示す図、(b)規制手段で全体の回転を抑制された状態で軸を回転する様子を示す図。
【図3】ボルトとナットのかみ合わせの図。
【図4】第1部材と第2部材の係合の様子を示す図、(a)軸が直線の場合を示す図、(b)軸が曲がった場合を示す図、(c)軸の曲がり具合と隙間の関係を説明する図。
【図5】軸が曲がった状態の伸縮アクチュエータ10の様子を示す図。
【図6】第2実施例のアクチュエータの説明図、(a)螺旋形状の案内部材65に被案内部材66が係合している様子を示す図、(b)回転する第1部材64の螺旋状の案内部材65により駆動される被案内部材66を有する第2部材63が移動して伸縮動作をする様子を示す図、(c)回転する第1部材631の駆動部材661により駆動される螺旋状の被駆動部材651を有する第2部材641が軸方向に移動して伸縮動作をする様子を示す図。
【図7】関節に伸縮アクチュエータを取り付けた様子を示す図、(a)関節を曲げたときの図、(b)関節を伸ばしたときの図。
【図8】3個の伸縮アクチュエータを並列にした様子を示す図。
【図9】4脚の動物ロボットへの伸縮アクチュエータを適用した様子を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
(実施例1)以下に図面を用いて本発明の内容を説明する。図面1(a)には伸びた状態の伸縮アクチュエータ、図面1(b)には縮んだ状態の伸縮アクチュエータを示している。共通する部材は同じ符号が付されている。
【0025】
伸縮アクチュエータ10は、電動の回転モータ(以後、単に「モータ」という)1、モータの軸に接合部材6を介して接合されているコイルバネ3、モータ1とバネ3を収めた筒型の容器2、バネ3に係合する別のコイルバネ4から構成されている。バネ3が第1請求項の第1部材、バネ4が第2部材に相当する。両者が係合したものが回転・軸長変換手段に相当する。モータは回転駆動手段の一例である。筒型の容器2は、後述する規制手段である。筒の断面形状は特に問わないが、軸対象であることから円形が望ましい。
【0026】
モータの回転軸はモータの筺体に保持されて回転し、筒型の容器2は筺体に接続されているので回転しない固定部である。また筒型の容器2はアクチュエータにより駆動される外の部材Aに接続され、コイルバネ4も外の部材Bに接続される。使用時に伸縮アクチュエータは外の部材に接続されるので、その接続により回転運動が規制され、外の部材に接続された部材は回転する事がない。従って、第1部材が回転しても第2部材は回転しないで軸方向に移動することになる。
【0027】
ここでバネ3とバネ4はそれぞれ係合した状態でも軸方向のバネ部材の間に隙間があるものを使用する。係合するこの隙間は、螺旋形状の他の部材を受け入れて係合する軸方向に繰り返し現れる部分(バネ部材間の間隔)の軸方向の寸法が、前記部分に嵌りこんで係合する他の部材(バネ部材)の形状の軸方向の寸法よりも意図して大きく取られることで得られるものである。この隙間は後述する軸の曲がりに備えるためである。
【0028】
この状態でモータが回転すると接合部材6を介してバネ3が回転して回転しないバネ4との係合部分の長さがモータの回転に伴って変化する。図1のバネは左巻きなので、モータが反時計方向に回転すると互いの接合部分が互いに入り込んでバネ同士の重なりが大きくなり、伸縮アクチュエータ1の全長が短くなる。
【0029】
モータ1は容器2を通して部材Aに接続されている。また、バネ4のモータと反対側の端部が部材Bに接続されている。この状態でモータの回転に伴って伸縮アクチュエータの全長が伸縮すると部材Aおよび部材Bの距離が伸縮する。係合する2本のバネを組み合わせたものが回転・伸縮変換手段となり、モータの軸に接合されたバネが第1部材であり、これに係合するバネが第2部材に相当する。
【0030】
尚、以下の伸縮アクチュエータの図面では、モータが規制手段、例えば円筒の中に入っているが、モータは規制手段の外に有っても良く、モータ1の回転軸とこれに駆動される第1手段との間にギヤなどの減速機などが入っても良い。
【0031】
外部材Aへの接続は図面では規制手段2が接続されているが、規制手段2に穴を開けて、モータ1の外筺を直接接続してもよい。また、外部材Bへの接続は第2部材の第1部材と係合している部分から離れた端で行われる。
【0032】
次に図面1の筒2の機能について説明する。図2(a)に軸が曲がった状態で部材22が回転軸21の回転に伴って回転するときの様子を示す。部材22の全体が曲がった状態で回転する様子を横から見ると図2(a)の実線22と点線23の間をバネが行き来するように見える。
【0033】
次に、バネ22にモータの筺体のような固定部に接続されて回転しない規制手段24を被せて軸を回転すると曲がったバネの全体としての回転は規制され、回転駆動手段21からの回転駆動によりバネ22は規制手段24の中で変形しながら回転することになる。つまり、規制手段24によりバネの全体としての回転が規制されていることになり、図1の筒2がこの規制手段24に相当する。ここで、第1部材の曲げ剛性が規制手段の曲げ剛性よりも小さいと第1部材は規制手段の形に倣った形で回転することになる。第2部材が係合した状態でも全体回転を規制するために規制手段の曲げ剛性は第1部材と第2部材の曲げ剛性の和よりも大きくする。
【0034】
曲げ剛性は、ヤング率と断面二次モーメントの積で決まるので、第1部材、第2部材と規制手段と間の曲げ剛性の違いを作るには、断面形状を変えたり材料を変えることで多様に対応することができる。
【0035】
本発明において、案内部材に軸方向の隙間を設けるようになっていることについて以下に説明する。図3は通常のボルト31にナット32が係合している様子を示す。ここでボルトの中心軸33が下へ凸に曲がると、ボルト31の軸33に近い谷の部分が伸び、軸から遠い山の部分の間隔が縮んで狭くなる。そうするとボルトの山の面に接しているナット32の谷の部分との圧力が高くなり摩擦が増えてナット32の回転が妨げられることになる。従って、通常のボルトとナットの組み合わせでボルトを曲げるとナットが回らなくなりナットが移動し難くなる。つまり従来技術として特許文献4、5で開示されている精密駆動を目的とする回転運動を軸方向の運動に変換するものは、原理的に軸を曲げて使用することが出来ない。
【0036】
ここで軸方向に螺旋形状を有する部材とこれに係合する形状を有する部材において係合時にも軸方向の隙間が残るように螺旋形状の他の部材を受け入れて係合する軸方向に繰り返し現れる部分を形成することにより、軸が曲がった状態でも伸縮動作が可能になることを説明する。
【0037】
以下に、図4を用いて、螺旋形状の隙間について説明する。この図において、回転駆動手段に接合されて駆動する部材に螺旋形状が設けられている場合で説明する。駆動側に螺旋形状が有る場合にこれを案内部材と言う。以下の説明は、螺旋形状が被駆動側に有る場合にも適用され、また第1部材、第2部材の両方に有る場合にも適用される。
【0038】
図4(a)は直線状の軸43を持つ螺旋状の案内部材41に係合した被案内部材42が案内部材41の回転に伴って軸方向に移動する様子を説明する模式的な説明図である。案内部材41は軸に沿って螺旋状に形成されているので案内部材41に係合している被案内部材42を案内部材41の回転により軸方向に移動させる。ここで、案内部材41とこれに係合する被案内部材42の間に隙間dが設けられている。
【0039】
図4(a)の白抜きの矩形の間の部分が、螺旋形状の他の部材を受け入れて係合する軸方向に繰り返し現れる部分であり、その寸法の決め方を以下に説明する。ハッチのついた矩形が前記螺旋形状の他の部材を受け入れて係合する軸方向に繰り返し現れる部分に嵌りこんで係合する他の部材の形状になる。図4に示すように白抜きの矩形間の部分である凹パターンの中にハッチの矩形の凸パターンが入りさらに隙間dが設けられている。つまり、螺旋形状の他の部材を受け入れて係合する軸方向に繰り返し現れる部分(白抜きの矩形間の部分)の寸法は、前記螺旋形状の他の部材を受け入れて係合する軸方向に繰り返し現れる部分に嵌りこんで係合する他の部材(ハッチの矩形)の形状の軸方向の寸法に隙間dを加えたものになる。ここで凹凸の表現はそれぞれ凹凸パターンの設けられた母材に対しての凹凸である。また、コイルバネのように母材が無い場合はバネ材料の空間部分が凹であり、バネ材料の有る部分が凸であると把握できる。
【0040】
次に図4(b)は曲がった軸43の案内部材41に係合した被案内部材42が軸43の回転に伴って軸方向に移動する様子を説明する模式的な説明図である。軸43が曲がると案内部材41とこれに係合する被案内部材42の間の隙間dはd’になりその距離が短くなる。dからd’への変化量は軸43の曲がりの曲率半径が小さくなると変化量が大きくなるので、必要な曲がり量に応じて隙間の大きさを決めればよい。
【0041】
ここで、曲がりの程度を表す曲率半径と隙間の関係を図4(c)を用いて説明する。曲率半径をRとして全体を曲げると図4(c)の右側の案内部材41の中心からΔS離れた左側の案内部材41が持ち上がり、軸との間に角度Δθが生じる。ここで案内部材41の軸方向への高さをhとすると、左側の駆動部材がΔθ傾くことで、隙間dがhΔθの大きさだけ縮んでd’になる。
【0042】
ここで、曲率半径R=ΔS/Δθとすると、Δd=d−d’=hΔS/Rとなる。曲がった状態で隙間が確保されるためにはd’>0が必要になることからd’=d−hΔS/R>0であり、これから最初に確保されるべき隙間dの大きさがd>hΔS/Rとなる。
【0043】
隙間の大きさdの軸方向の駆動部材間の距離ΔS(ねじのピッチに相当)に対する割合は、d/ΔS>h/Rとなり、駆動部材の高さが高いほど、所要の曲率半径が小さいほど大きな割合の隙間が必要になる。
【0044】
必用な曲率半径Rを定め、螺旋形状の高さ(h)とピッチΔSを適宜に決めて、螺旋形状の他の部材を受け入れて係合する軸方向に繰り返し現れる部分の寸法において所定の間dを確保することで、図4(b)にあるように軸が曲がっても隙間d’が確保されて軸が曲がった状態での伸縮動作が可能となる。
【0045】
具体的な寸法を以下に検討する。所望の曲率半径R=100mm、螺旋形状のピッチΔS=5mm、螺旋形状の凹凸パターンの高さh=3mmとすると、少なくとも隙間dは0.15mmよりも大きいことが必要になる。ここで曲率半径を半分のR=50mmとして他のパラメータをそのままにすると最低必要な隙間dは0.3mmとなる。このように大きな隙間は、従来のボルトとナットを組み合わせた精密な駆動系では到底考えられない。
【0046】
図5は、第1部材と第2部材にコイルバネを用いた伸縮アクチュエータで軸を曲げた状態での伸縮動作を示す図である。コイルバネは軸方向のバネ部材間の間隔をバネ部材の太さ以上に取って軸方向に隙間を設けることで軸が曲がっても第1部材の回転により第2部材との係合部分の長さが変化して伸縮アクチュエータとなる。図5に示すように、伸縮アクチュエータが接続されているA部材とB部材が平行でなくなっても両部材間の距離を変えることができる。
【0047】
バネ材料の形状は広く使われている円状でもよいが、係合する際に互いに接するバネ材料の軸方向の断面形状を略平面状にすることで曲面状の断面形状に比べて係合が確実になる。また、略平面状にしたバネの内径をこれに接するバネの内径よりも小さくし、略平面状にしたバネの外径をこれに接するバネの外径より大きくすることで、曲げたときにも確実な係合が得られる。
【0048】
(第2実施例)図6において、モータの回転軸に接合された部材が第1部材であり、この第1部材に係合する部材が第2部材であって、両者により回転・軸長変換手段が構成される。ここで、モータの回転軸と第1部材の間にギヤなどによる変速機を設けても良い。伸縮アクチュエータ60、601は外部の部材AとBに接続されて、外部材Aと外部材Bの間の距離をモータ1の回転により変える。
【0049】
図6において、外部材Aへの接続は規制手段62、621で行われているが、モータ1を規制手段62、621の外へ出して外部材Aへの接続をモータ1の外筺で行っても良い。また、外部材Bへの接続は第2部材の第1部材と係合している部分から離れた端で行われる。
【0050】
図6(a)において、螺旋形状である案内部材65を有する駆動する部材である第1部材64と、これに係合する被案内部材66を有し第1部材64の回転に伴って軸方向に駆動されて移動する第2部材63を示す。第1部材64が図6(a)に示す方向に回転するとこれに備えられた螺旋形状である案内部材65に係合した被案内部材66が軸方向に移動するように駆動され第2部材63が図6(a)に示す方向へ移動する。
【0051】
逆に、図6(a)において螺旋形状を有する部材64を被駆動部材である第2部材とし、螺旋形状に係合する矩形のこま66を駆動部材とすることもできる。この場合は、棒63に支えられた駆動部材66が回転して、これに係合する螺旋形状65が軸方向に駆動され螺旋形状を有する部材64が軸方向に移動する。
【0052】
以下に、図6(a)で説明した原理を適用した実施例を説明する。図6(b)にモータ1と第1部材64を規制手段となる筒状の容器62に収め、容器62の内側に収まる筒状の第2部材63の側面に被案内部材66を形成して、軸を曲げた状態でモータを回転させたときの様子を示す。第2部材は規制手段である筒62の内側に入る円筒形の部材又は複数本の棒状の部材などでその内側の側面に案内部材に係合する被案内部材66を有している。第1部材64の回転に伴い案内部材65に係合した被案内部材66に軸方向の力が加わり、モータ1の回転駆動力により伸縮アクチュエータの全長が伸縮する。また外部の部材A及び部材Bが傾くとそれに応じて伸縮アクチュエータの全体が曲がる。ここで規制部材の断面形状は問わないが軸対象の観点から円形が好ましい。
【0053】
ここで、案内部材65と被案内部材66が係合した状態で、軸が曲がった場合でも案内部材65と被案内部材66の間に図4で説明した隙間があるので伸縮動作が可能になる。
【0054】
次に、図6(b)の第1部材と第2部材を入れ替えて、螺旋状の部材が被駆動側にある場合を図6(c)を用いて説明する。
【0055】
モータ1により接合部材6を介して回転する第1部材631の側面に形成された駆動部材661が、螺旋状の被駆動部材651に係合して回転することで第2部材641を軸方向に駆動する。
【0056】
ここで、図6において、案内部材又は被駆動部材としての螺旋形状を内向きに設け、これに係合する被案内部材又は駆動部材を外向きに形成しても良いことはもちろんある。何れの場合も螺旋形状の凹部に相手部材の凸部の寸法に加えて隙間が形成されているので曲げた状態でも伸縮動作が可能となる。
【0057】
以上の説明において、モータ1は規制手段2の中に収められているが、規制手段2の外部に置かれても良い。
【0058】
さらに、本発明において使用する材料に可撓性の材料を用いることで大きく曲がる状態でも伸縮動作をする伸縮アクチュエータを実現することができる。そして、前記規制手段の曲げ剛性が前記第1部材と前記第2部材の曲げ剛性の和よりも大きいので、全体回転が規制された状態で第1部材が回転することができる。
【0059】
図7にロボットの関節に接続された伸縮アクチュエータを示す。図7(a)は関節を縮めたとき、図7(b)は関節を伸ばしたときである。伸縮アクチュエータの伸縮に伴い関節が伸びたり、縮んだりする。
【0060】
本発明に掛かるアクチュエータは小型なので、伸縮方向の力を増やす場合は並列に接続することで、伸縮方向の力を増やすことができる。図8に3本の伸縮アクチュエータを並列にした様子を示す。
【0061】
伸縮アクチュエータをロボットに使用したときの模型図を図9に示す。点線で囲まれた部分がアクチュエータを使用する部分である。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明は軸方向の変位の精密さを求めないが曲がった状態での使用を必要とする多様な用途に用いることができる。
【符号の説明】
【0063】
1 モータ(回転駆動手段)
2 円筒の筒(規制手段)
3 コイルバネ(第1部材、案内部材)
4 コイルバネ(第2部材)
6 接合部材
10 伸縮アクチュエータ
21 回転駆動軸
22 回転して上部に位置する曲がった軸
23 回転して下部に位置する曲がった軸
24 曲がった軸を収める筒(規制手段)
31 ボルト
32 ナット
33 中心軸
41 案内部材
42 駆動部材に係合して軸方向に駆動されて移動する被案内部材
43 案内部材の軸
60 螺旋形状を有する部材を駆動部材とした伸縮アクチュエータ
62 円筒の規制手段
63 第2部材
64 第1部材
65 案内部材
66 被案内部材
601 螺旋形状を有する部材を被駆動部材とした伸縮アクチュエータ
621 規制手段
631 第1部材
641 第2部材
651 螺旋状の被駆動部材
661 駆動部材
71 上部関節部材
72 下部関節部材
73 第1伸縮アクチュエータ
74 第2伸縮アクチュエータ
90 4つ脚ロボットの模式図
91 前脚関節
92 後脚関節
93 腰関節
94 背骨関節
95 肩関節

【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転駆動手段と、該回転駆動手段に駆動されて軸方向の長さが変わる回転・軸長変換手段と、前記回転・軸長変換手段を中に収め前記回転駆動手段の筐体に接合されて回転に伴う前記回転・軸長変換手段の全体形状の変形を規制する規制手段と、を備える伸縮アクチュエータであって、
(イ)前記回転・軸長変換手段が、前記回転駆動手段に接合されて回転駆動される第1部材とこれに係合して軸方向に移動する第2部材とからなり、
(ロ)前記第1部材と前記第2部材のうち少なくとも一つの部材が軸方向に螺旋形状を有すると共に他の部材がこれに係合する形状を有し、
(ハ)前記螺旋形状の他の部材を受け入れて係合する軸方向に繰り返し現れる部分の軸方向の寸法が、前記部分に嵌りこんで係合する他の部材の形状の軸方向の寸法に、前記第1部材と前記第2部材が係合した状態で曲げられたときに前記第2部材が移動可能なようにさらに軸方向の隙間を加えたものにされ、
(ニ)前記回転駆動手段に駆動される前記第1部材の回転に伴い、前記螺旋形状に沿って前記第2部材が軸方向に移動して前記回転・軸長変換手段の軸方向の長さが変わる
ことを特徴とする伸縮アクチュエータ。
【請求項2】
前記第1部材および前記第2部材が同一のピッチを有する弦巻状のバネであることを特徴とする請求項1に記載の伸縮アクチュエータ。
【請求項3】
前記弦巻状の2本のバネの中、少なくとも一のバネを形成する部材の他のバネに接する部分が略平面状であり、一のバネの内径が他のバネの内径よりも小さく且つ一のバネの外径が他のバネの外径よりも大きく形成されていることを特徴とする請求項2に記載の伸縮アクチュエータ。
【請求項4】
前記第1部材と前記第2部材のうち一つの部材が筒状の外部材であり他の部材が筒の中に入る内部材であって、少なくとも前記外部材の内側又は内部材の外側に前記螺旋形状が形成されると共に前記内部材の外側又は外部材の内側に前記螺旋形状に係合する形状が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の伸縮アクチュエータ。
【請求項5】
前記第1部材、前記第2部材及び前記規制手段が可撓性を有し、前記規制手段の曲げ剛性が前記第1部材と前記第2部材の曲げ剛性の和よりも大きいことを特徴とする請求項1ないし4何れか1項に記載の伸縮アクチュエータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−117617(P2012−117617A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−268391(P2010−268391)
【出願日】平成22年12月1日(2010.12.1)
【出願人】(504182255)国立大学法人横浜国立大学 (429)
【Fターム(参考)】