位相変調素子とその駆動方法および投射型表示装置
【課題】表示される映像のスペックルコントラストが低い位相変調素子の駆動方法を提供するとともに、構造の簡素化が実現した位相変調素子および投射型表示装置を提供する。
【解決手段】透明基板面に形成された3以上のストライプ電極からなる透明電極が2つの透明基板の面でストライプ電極の長手方向が直交するように対向させ、液晶を挟持してなる位相変調素子に、ドットマトリクス方式の駆動方法を用いて隣り合う区画を透過する光の位相が異なるように少なくとも時間的に異なる2つ以上のパターンを与えることによって、スペックルコントラストを抑制することができる。さらに、複数のストライプ電極と電圧制御装置に接続する電気配線を共有することで、位相変調素子の電気配線の簡素化および電圧制御装置の小型化が実現できる。
【解決手段】透明基板面に形成された3以上のストライプ電極からなる透明電極が2つの透明基板の面でストライプ電極の長手方向が直交するように対向させ、液晶を挟持してなる位相変調素子に、ドットマトリクス方式の駆動方法を用いて隣り合う区画を透過する光の位相が異なるように少なくとも時間的に異なる2つ以上のパターンを与えることによって、スペックルコントラストを抑制することができる。さらに、複数のストライプ電極と電圧制御装置に接続する電気配線を共有することで、位相変調素子の電気配線の簡素化および電圧制御装置の小型化が実現できる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相変調素子およびその駆動方法に係り、さらに、コヒーレント性を有する光源を使用した投射型表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
データプロジェクタあるいは背面投射型テレビジョン受像機のようなスクリーンに投影画像を表示する表示装置の光源としては、従来超高圧水銀ランプが使用されてきたが、近年単色性と光源寿命の観点からレーザが提案されてきている。また、超高圧水銀ランプでは不足する赤色光を補うために、超高圧水銀ランプと赤色レーザを併用した光源も提案されている。しかし、レーザを光源とした場合には、投影画像中にレーザ光のコヒーレント性に起因する粒上のスペックルノイズが発生し、投影画像の画質が劣化することを回避できないという問題が生じる。
【0003】
そこで、このようなスペックルノイズを低減するための機能を有するスペックルキャンセラ(位相変調素子)を用いる投射型表示装置が提案されている。特許文献1および特許文献2において提案されているスペックルキャンセラは、液晶の層を透明電極が形成された2枚の平行に配置された透明基板で挟持する液晶素子で構成されてなる。そして、とくにそれぞれの面に形成された透明電極がストライプ状の形状をなし、透明基板面の法線方向から見たときに交差するように配され、透明電極が互いに交差してできる区画された領域の単位ごと空間的、時間的に異なる電圧を加えることによって、透過する光の位相差も区画された領域の単位ごと空間的、時間的に変えることでスペックルノイズを低減するものである。
【0004】
【特許文献1】特開2007−163702号公報
【特許文献2】国際公開第2008/047800号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液晶に電圧を印加できる機構を備えた液晶素子を考える。液晶は、印加する電圧の大きさによって配向方向が変化し、例えば、液晶が正の誘電率異方性(Δε)のものを用いる場合、電圧が大きくなると、液晶分子の長軸方向が電界方向に近づくように配向する。これによって、液晶の屈折率が変化するため、透過する光の位相が変化する。液晶がΔε>0のものであれば、高い電圧が印加されると液晶の屈折率が低くなり位相が進む。この特性を利用して、特許文献1および特許文献2に記載のスペックルキャンセラ(液晶素子)は、透過する光の位相が空間的に異なるような領域を形成し、さらに時間的に印加する電圧を変化させてスペックルノイズを低減している。特許文献1ではとくに、時間的に電圧を変化させる方式としてパッシブマトリクス方式の駆動を提案している。なお、特許文献2は、とくに駆動方法に関する具体的な記載はない。
【0006】
図12(a)は、スペックルキャンセラとなる液晶素子100の斜視的な模式図を示すものであって、透明電極101、102を有する図示しない透明基板に液晶103が挟持されてなる。透明電極101は、例えば、C1〜C7の平面形状が長方形となるようなストライプ状の電極に分かれ、透明電極102は、透明電極101のストライプ方向と直交する方向にR1〜R6の平面形状がストライプ状の電極に分かれて形成されている。ここで、C1〜C7、R1〜R6を「ストライプ電極」という。また、図12(b)は、液晶素子100を上面から見た平面模式図であり、C1〜C7、R1〜R6によって作られる7×6のマトリクスの各区画における光の透過状態を示す。なお、透明基板面に垂直な方向(Z方向)から見て、透明電極101と透明電極102とが重なってできる領域を「区画」として定義する。
【0007】
ここでは、「区画」ごとに印加する電圧を固定された2つの値で切り替える場合を考える。上記のように、印加する電圧によって透過する光の位相が異なり、2つの値で電圧を切り替えるとき、同相で入射する光に対して位相が進む方の状態を「オン」状態とし、位相が遅れる方の状態を「オフ」状態とする。ここで、例えばC1行とR1列とが交差してできる区画(以下、「C1×R1」という。)は、「オン」状態を示し、C2行とR1列とが交差してできる区画(以下、「C2×R1」という。)は、「オフ」状態を示す。なお、これらすべての区画は、いずれも周期Tの時間の単位において、「オン」状態と「オフ」状態のうちいずれかの状態となる。図12(b)は、7×6のマトリクスの各区画において「オン」と「オフ」の状態を模式的に示した平面図であり、例えばこの「オン」と「オフ」の並びが市松模様とした場合について示したものである。
【0008】
図13は、従来の駆動方法を用いたとき、各ストライプ電極に印加する電圧の時間的変化を示す模式図である。なお、このように時間に対する電圧の変化の図を以下、「タイムチャート」という。従来の駆動方法は、透明電極101または透明電極102のいずれか一方が、ストライプ電極が並ぶ順番に従って順々に基準電圧に対して一定の値の電圧が印加される。例えば、透明電極102が対象となる場合、ストライプ電極R1、R2、R3、…、R6の順に一定の時間(t/6)、一定の電圧が印加される。図13(a)は、代表してストライプ電極R1、R2のタイムチャートを示したものであり、ストライプ電極R1は、0〜t/6の間、電圧VRが印加され、t/6〜tの間は電圧が印加されない状態となる。そして、ストライプ電極R2は、t/6〜2t/6の間、電圧VRが印加され、0〜t/6の間および2t/6〜tの間は電圧が印加されない状態となる。
【0009】
また、図13(a)に図示しないが、ストライプ電極R3は、2t/6〜3t/6の間のみ電圧VRが印加され、同様にストライプ電極R4は3t/6〜4t/6の間のみ、ストライプ電極R5は4t/6〜5t/6の間のみ、ストライプ電極R6は5t/6〜tの間のみ電圧VRが印加される。そして、図13(a)に示すように、ストライプ電極R1はt〜7t/6の間のみ電圧−VRが印加される。このように、ストライプ電極R1〜R6の順にそれぞれ時間t/6だけ電圧|VR|が印加される。そして、2t=Tの周期でこのタイムチャートが繰り返される。このように+VRが印加される時間を含む時間tと、−VRが印加される時間を含む時間tとが交互に与えられる。
【0010】
一方、図13(b)は、透明電極101のうち代表してストライプ電極C1、C2のタイムチャートを示したものである。透明電極101は、GNDレベル(=0[V])を中心に、0〜t間またはt〜2t間において、時間t/6ごとに+VCと−VCと、が交互に印加される。また、図13(a)のようにストライプ電極R1、R2が+VRを含む時間tと−VRを含む時間tとが交互に繰り返される場合、ストライプ電極C1、C2には、0〜t間のタイムチャートと、t〜2t間のタイムチャートはGNDレベル(=0[V])を中心に反転した波形となる。また、図13(b)に示すように、ストライプ電極C1とストライプ電極C2のように隣り合うストライプ電極には、同じ振幅(VC)で反転した波形で電圧が印加される。なお、このときVR>VCの関係である。
【0011】
次に、図12(b)に示す各区画に印加される電圧波形(タイムチャート)について説明する。まず、図13(c)は、例としてC1×R1の区画のタイムチャートを示すものであり、実際に図13(a)、図13(b)より得られるタイムチャートである。このように、0〜t/6の間は、VRはプラス(+)、VCはマイナス(−)の電圧が印加されるので、差分により、VR+VCが印加される。また、t〜7t/6の間は、VRはマイナス(−)、VCはプラス(+)の電圧が印加されるので差分により−VR−VCが印加される。このように周期Tを考えたとき、時間T/6だけ|VR+VC|が印加される。一方、t/6〜tの間および7t/6〜2tの間は、VRに対して低い電圧値となる|VC|が印加される。従来の駆動方法では、周期Tを基準としてこの状態が「オン」状態となる。
【0012】
一方、図13(d)は、C2×R1の区画のタイムチャートを示すものである。図13(d)は、実際に図13(a)、図13(b)より得られるタイムチャートである。このように、0〜t/6の間は、VRはプラス(+)、VCがプラス(+)の電圧が印加されるので、差分により、VR−VCの電圧が印加される。また、t〜7t/6の間は、VRはマイナス(−)、VCはマイナス(−)の電圧が印加されるので差分により−VR+VCが印加される。このように周期Tを考えたとき、時間T/6だけ|VR−VC|が印加される。一方、t/6〜tの間および7t/6〜2tの間は、|VC|が印加される。従来の駆動方法では、周期Tを基準としてこの状態が「オフ」状態となる。
【0013】
同様にして、C2×R2では、t/6〜2t/6の間および7t/6〜8t/6の間は|VR+VC|の電圧が印加され、「オン」状態、C1×R2では、t/6〜2t/6の間および7t/6〜8t/6の間は|VR−VC|の電圧が印加され、「オフ」状態となる。このように全ての区画(7×6)において、T(=2t)を1周期として「オン」状態と「オフ」状態を制御して例えば、図12(b)に示す市松模様の状態とすることができる。なお、図13では、液晶にDC成分の電圧が常時印加しないように、C1×R2の「オン」状態および「オフ」状態はいずれも、周期Tにおいて基準電圧(=GND)を中心にプラスおよびマイナスに印加される電圧は等しくなる。つまり、電圧値を周期Tで割った値は基準電圧に一致する。
【0014】
次に、図13(c)、(d)をもとに「オン」、「オフ」状態の区画にそれぞれ印加される電圧の二乗平均(RMS)値(以下、「実効電圧値」という。)を計算する。ここで、透明電極102のストライプ電極数を6とし、「オン」状態の区画の実効電圧値を、VONRMS(6)、「オフ」の区画の実効電圧値を、VOFFRMS(6)とする。図13(c)より、VONRMS(6)は、周期Tのうち時間T/6だけ|VR+VC|[V]、残りの時間5T/6は|VC|[V]が印加されるので、式(1)で表すことができる。また、図13(d)より、VOFFRMS(6)は、周期Tのうち時間T/6だけ|VR−VC|[V]、残りの時間5T/6は|VC|[V]が印加されるので、式(2)で表すことができる。このように、従来の駆動方法では、ストライプ電極数をnと一般化したときの「オン」の区画の実効電圧値を、VONRMS(n)、「オフ」の区画の実効電圧値を、VOFFRMS(n)とすると、それぞれ式(3)、式(4)で表すことができるが、周期Tに対して、時間T/nに印加される電圧の大きさのみが異なり、この違いによって「オン」状態の実効電圧値と、「オフ」状態の実効電圧値が決まる。
【0015】
【数1】
【0016】
このように、従来の駆動方法では、「オン」となる実効電圧値は、VRおよびVCの値が固定値であれば、透明電極102のストライプ電極数nを多く設定することによってその値は小さくなり、「オン」状態の実効電圧値と「オフ」状態の実効電圧値との差も小さくなる。このとき、「オン」状態の区画と「オフ」状態の区画との透過光の位相差を大きくすることができないため、スペックルキャンセラ(液晶素子)全体を透過する光のスペックルノイズが大きく低減しない。一方で、ストライプ電極数nを少なく設定すると、1つの区画の面積が大きくなるため、1つの区画を透過する光で発生するスペックルノイズが目立つようになり、全透過光のスペックルノイズが低減されない。
【0017】
図14は、液晶素子110に電圧を印加したときの液晶分子の様子および入射する光の位相差について示したものである。図14(a)は、電圧を印加しないときの液晶の状態を示す液晶素子110の断面模式図であり、図14(b)は、電圧を印加したときの液晶の状態を示す液晶素子110の断面模式図である。また、図14(c)は、Z方向に進行するX方向の直線偏光が同相で入射したとき、液晶素子110に印加する電圧の大きさに対して生じる位相差について示したグラフである。このとき、液晶の進相軸方向の偏光方向で透過する光の位相を基準とし、それに対する位相のずれを「位相差」という。液晶素子110は、透明基板111a、111b上にそれぞれ透明電極112a、112bが形成され、透明電極112a、112上の図示しない配向膜によってX方向に液晶分子113aが配向された液晶層113が配置されている。なお、この場合、印加する電圧の値に関わらずY方向は進相軸に相当する。また、液晶素子113はシール材114によってシールされてなる。透明電極112a、112b間には(矩形)交流電圧を印加できる電源115が備えられているものとする。
【0018】
電源115より印加電圧が0[Vrms]のとき、液晶層113内の液晶分子113aは配向膜の配向方向(X方向)に沿って配向される。このとき、透明基板111a側からZ方向に進行するX方向の直線偏光が同相で入射したときについて考える。図14(a)において印加電圧が0[Vrms]であるとき、X方向は液晶層113で液晶分子113aの遅相軸方向に相当する。一方、図14(b)において印加電圧を大きくすると液晶分子113aの長軸方向は液晶素子110の厚さ方向に向けて配向する。このとき、同じく透明基板111a側からZ方向に進行するX方向の直線偏光が同相で入射したとき、X方向は液晶層113で液晶分子113aの進相軸方向となる。このため、印加電圧を増加させることによって、位相は進み、位相差は小さくなる。
【0019】
ここで、図14(c)に示す、印加電圧に対する「位相差」の関係は、0[Vrms]で位相差が最も大きく、印加電圧を増加させると位相差が小さくなり、さらに印加電圧を増加させると、位相差はほぼ0となる。このように、液晶素子110に印加する電圧によって入射するX方向の直線偏光の位相差を変化させることができるが、上記のように2値で電圧を切り替えるとき、この2つの値によってそれぞれの「区画」が取り得る位相差の差分を大きく設定できることが好ましい。この位相差の差分を大きくするために、図14(c)の勾配が大きくなるように「オン」となる実効電圧値と「オフ」となる実効電圧値とを設定するが、従来の駆動方法では、ストライプ電極数nが多くなると、とくに「オン」状態となる印加電圧[Vrms]を大きくすることができず、そのため「オン」状態と「オフ」状態との位相差の差分を十分に大きくできないため、コヒーレント光が入射して透過する光のスペックルノイズが大きく低減できないという問題があった。
【0020】
また、液晶素子の構成として、従来の駆動方式を用いる場合、少なくとも透明電極102のストライプ電極R1〜R6にはそれぞれ異なるタイムチャートの電圧を印加しなければならず、そのために透明電極102だけでもn個の電極数分の電気信号を独立に与える必要があり、液晶素子の各透明電極に接続すべき電気配線等が煩雑になり、小型化が実現できないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本願発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、入射するコヒーレント光の位相を変調する位相変調素子であって、前記位相変調素子は、第1の透明基板の一方の面に第1の透明電極を有し、第2の透明基板の一方の面に第2の透明電極を有して、前記第1の透明基板と前記第2の透明基板との間に液晶層が挟持され、前記第1の透明電極はm個の領域を有し(m≧3の整数)、前記m個の領域は、第1の方向に延伸して互いに離隔してなるm個の第1のストライプ電極からなり、前記第2の透明電極はn個の領域を有し(n≧3の整数)、前記n個の領域は、前記第1の方向とは異なる第2の方向に延伸して互いに離隔してなるn個の第2のストライプ電極からなり、m個の前記第1のストライプ電極を、端部からそれぞれストライプ電極C1、ストライプ電極C2、…、ストライプ電極Cmとし、iを1〜mのうちいずれかの整数とするとき、iが奇数となる前記ストライプ電極Ciが電気的に接続され、iが偶数となる前記ストライプ電極Ci同士が電気的に接続され、iが奇数となる前記ストライプ電極Ciとiが偶数となる前記ストライプ電極Ci同士が電気的に絶縁されている位相変調素子を提供する。
【0022】
また、n個の前記第1のストライプ電極を、端部からそれぞれストライプ電極R1、ストライプ電極R2、…、ストライプ電極Rnとし、iを1〜nのうちいずれかの整数とするとき、jが奇数となる前記ストライプ電極Rjが電気的に接続され、iが偶数となる前記ストライプ電極Riが電気的に接続され、jが奇数となる前記ストライプ電極Rjとjが偶数となる前記ストライプ電極Rjとが電気的に絶縁されている上記に記載の位相変調素子を提供する。また、前記第1の方向と前記第2の方向とが直交する上記の位相変調素子を提供する。
【0023】
また、コヒーレント光を発光する光源を少なくとも一つ含む光源部と、前記光源部が発光した光を変調して画像光を生成する画像光生成部と、前記画像光を投射する投射部と、を備える投射型表示装置であって、前記光源部と前記画像光生成部との間の光路中に、電圧制御装置から発する電気信号により通過する光に対して位相を時間的に変化させる上記に記載の位相変調素子が配置される投射型表示装置を提供する。
【0024】
また、入射するコヒーレント光の位相を変調する位相変調素子であって、前記位相変調素子は、第1の透明基板の一方の面に第1の透明電極を有し、第2の透明基板の一方の面に第2の透明電極を有して、前記第1の透明基板と前記第2の透明基板との間に液晶層が挟持され、前記第1の透明電極はm個の領域を有し(m≧3の整数)、前記m個の領域は、第1の方向に延伸して互いに離隔してなるm個の第1のストライプ電極からなり、前記第2の透明電極はn個の領域を有し(n≧3の整数)、前記n個の領域は、前記第1の方向とは異なる第2の方向に延伸して互いに離隔してなるn個の第2のストライプ電極からなり、m個の前記第1のストライプ電極を、端部からそれぞれストライプ電極C1、ストライプ電極C2、…、ストライプ電極Cmとし、n個の前記第1のストライプ電極を、端部からそれぞれストライプ電極R1、ストライプ電極R2、…、ストライプ電極Rnとし、m個の前記第1のストライプ電極と、n個の前記第2のストライプ電極とが重なってできるm×n個の区画を有する位相変調素子の駆動に際し、m個の前記第1のストライプ電極は、第1のグループまたは第2のグループいずれかに含まれ、前記第1のグループには電圧V1を印加し、前記第2のグループには電圧V2を印加し、n個の前記第2のストライプ電極は、第3のグループまたは第4のグループいずれかに含まれ、前記第1のグループには電圧V3を印加し、前記第2のグループには電圧V4を印加し、前記第1のストライプ電極に印加される最大の電圧値と最小の電圧値の中間の値と、前記第2のストライプ電極に印加される最大の電圧値と最小の電圧値の中間の値は同一であって中間電圧値VAとし、前記中間電圧VAに対する前記第1のストライプ電極に印加される最大の電圧値をVCとし、前記中間電圧VAに対する前記第2のストライプ電極に印加される最大の電圧値をVRとし(VR>VC)、前記第2のストライプ電極に、+VRおよび−VRの両方が印加される時間を含んで繰り返される最短の時間を周期Tとするとき、前記周期Tのうち前記第2のストライプ電極に|VR|が印加される時間の比であるデューティ比が0.5であり、前記周期Tにおける前記電圧V1の波形と前記電圧V2の波形は前記中間電圧VAを基準に反転し、前記周期Tにおける前記電圧V3の波形と前記電圧V4の波形は前記中間電圧VAを基準に反転する位相変調素子の駆動方法を提供する。
【0025】
また、前記第1のグループは、m個の前記第1のストライプ電極のうちm/2個(小数点以下切捨て)からなり、前記第2のグループは、前記第1のグループではない前記第1のストライプ電極からなり、前記第3のグループは、n個の前記第2のストライプ電極のうちn/2個(小数点以下切捨て)からなり、前記第4のグループは、前記第2のグループではない前記第2のストライプ電極からなる上記に記載の位相変調素子の駆動方法を提供する。
【0026】
さらに、前記第1のグループは、iを1〜mのうちいずれかの整数とするとき、iが偶数となる前記ストライプ電極Ciからなり、前記第2のグループはiが奇数となる前記ストライプ電極Ciからなり、前記第3のグループは、jを1〜nのうちいずれかの整数とするとき、jが偶数となる前記ストライプ電極Rjからなり、前記第4のグループはjが奇数となる前記ストライプ電極Rjからなる上記に記載の位相変調素子の駆動方法を提供する。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、コヒーレントな光源を用いる投射型表示装置に透過する光の位相を時間的、空間的に変化させる位相変調素子を用い、透過する光の位相差を大きくする駆動方法を用いることで、表示画像のスペックルノイズを効果的に低減するための位相変調素子の駆動方法を実現できる。また、位相変調素子を構成する電極の配線が煩雑とならない位相変調素子および投射型表示装置とすることで構成の簡素化、小型化が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図1は、投射型表示装置10の構成を示す模式図である。発光手段であるコヒーレント光を発する光源として少なくとも1つの半導体レーザ1から出射された光はコリメータレンズ2によって平行光となり、偏光子3を通過する。半導体レーザは直線偏光の光を出射するが、製造ばらつきや使用環境温度変化により、その偏光方向にばらつきや時間的変動を有する場合がある。偏光子3は、この光の偏光状態を一定にするためのものである。
【0029】
偏光子3を通過した光は、位相変調素子20によって光の散乱状態を時間的に発現させて出射するものである。位相変調素子20を透過した光は、集光レンズ4を通過し、画像生成手段である空間変調器5に入射する。空間変調器5としては、典型的には透過型液晶パネルが使用可能であるが、反射型の液晶パネルやデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)などを使用してもよい。このように空間変調器に入射した光束は、画像信号に応じて変調され、投影レンズ6によってスクリーン7などに投影される。なお、光源は、1つのレーザ光源のみを使用する構成であっても、異なる波長の光を出射するレーザ光源を複数配置する構成であっても、コヒーレント性を有さない光源とレーザ光原とを組み合わせて用いる構成であってもよい。
【0030】
位相変調素子20は、入射するコヒーレント光に対して位相変調の大きさを時間的、空間的に変化させることにより、スペックルパターンの時間的な変化を発現させる機能を有する。
【0031】
図2は、位相変調素子20の構成を示す模式図であり、図2(a)は斜視図、図2(b)は断面図を示す。位相変調素子20は、平行に配置された平坦な2枚の透明基板24a、24bのそれぞれ一方の面に透明電極21、22を形成する。また、図示しない電圧制御装置に電気的に接続するため、電極引出部26a、26bが設けられる。なお、電極引出部26a、26bの構成についての詳細は後述する。透明基板24a、24bは入射する光に対して透明であれば、樹脂板、樹脂フィルムなど種々の材料を用いることができるが、ガラスや石英ガラスなどの光学的等方性材料を用いると、透過光に複屈折性の影響を与えないため好ましい。透明電極としては、ITO(酸化錫ドープ酸化インジウム)膜、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)膜、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)膜などの酸化物透明導電膜が高い透明性と導電率とが得られるため好ましく用いられる。
【0032】
透明電極21は、平面形状(X−Y平面)が特定の方向(「第1の方向」とする。)に延伸する形状の領域を有するストライプ電極21a、21b、21c、21d、21e、21fおよび21gからなる。また、透明電極22は、第1の方向とは直交する方向に延伸する形状の領域を有するストライプ電極22a、22b、22c、22d、22eおよび21fからなる。また、第1の方向と第2の方向は互いに直交するように配置されるが、交差する角度が直交(90°)に限らず一定の角度であってもよい。透明電極21、22が互いに交差してできる区画が例えば、1つの区画が平行四辺形であってもよい。また、ストライプ電極の幅は、とくに同一の幅でなくてもよいが、一つの区画の面積を同じくするように同一であると好ましい。透明基板24aと24bとの間には液晶からなる液晶層23があり、透明基板24a、24bの周りのシール材25によってシールされる。液晶は、誘電率異方性Δε>0となる液晶材料を用いると、電圧を印加しない状態において配向膜の配向方向に平行して配向される。また、これに限らず、Δε<0となる液晶材料を用いてもよい。
【0033】
透明電極21、22の上には、図示しない配向膜が形成され、いずれも同じ方向(例えばX方向)に配向される。配向方向は、例えば、入射する直線偏光の光の偏光方向と一致させると、印加する電圧の大きさによって液晶の屈折率変化を大きくすることができる。ここでは印加する電圧を2値で切り替える場合を考え、それによって同相で入射する光に対して2値のうち位相が進む方の状態を「オン」状態とし、位相が遅れる方の状態を「オフ」状態とする。このようにすると、この「オン」状態の区画と「オフ」状態の区画との間で透過する光の位相差を大きくすることができる。また、配向膜は、ポリイミド膜を塗布して一定の方向にラビングされたもので構成されてなるものが用いられるが、これに限らず、SiOを基板面に対して斜め方向から蒸着してなる斜方蒸着膜などを用いてもよい。ここでは、液晶層23には、誘電率異方性Δε>0となる液晶材料を用い、配向方向はいずれもX方向に平行であるものとする。
【0034】
図3(a)は、X−Y平面からみた、透明電極21、22の重なりを示す模式図である。また、図3(b)は、透明電極21と透明電極22とが透明基板面に垂直な方向から見て重なってできる領域で定義される「区画」およびこれらの区画からできる位相差のパターンを表示する模式図である。ここでは、市松模様となる位相差のパターンの例を示す。このパターンは、各区画の電圧が「オン」状態と「オフ」状態との2値を示すものであり、この電圧によって透過する光の位相が変化する。また、透明電極21のストライプ電極21a〜21gのライン(行)をそれぞれストライプ電極C1〜C7とし、透明電極22のストライプ電極22a〜22fのライン(列)をそれぞれストライプ電極R1〜R6とする。タイムチャートの表示は、とくにストライプ電極C1〜C7、ストライプ電極R1〜R6を用いて説明する。なお、上記の説明と同様に1つの区画は、例えば「C1×R1」というように行と列とが交差してできる領域とする。
【0035】
次に、印加する電圧の時間的変化(タイムチャート)について説明する。図4は、本願発明の駆動方法を用いたタイムチャートの一例であって、図4(a)は、ストライプ電極R1〜R6のタイムチャートを示したものである。また、ストライプ電極R1、R3、R5が同じタイムチャート、ストライプ電極R2、R4、R6が同じタイムチャートを示す。ここで、周期Tは、基準電圧である中間電圧VA(この場合、GND)に対してプラス(+)の電圧、マイナス(−)の電圧の両方が印加される時間を含んで繰り返される最小の時間として定義する。なお、中間電圧値VAは、透明電極に印加される最大の電圧値[V]と最小の電圧値[V]の中間の値[V]となり、例えば図4(a)では、中間電圧値VAは(+VR−VR)/2=0[V]、つまりグラウンド(GND)に相当する。
【0036】
ここで、ストライプ電極R1は、0〜T/4の間、電圧VRが印加され、T/4〜T/2の間はGND状態となる。また、T/2〜3T/4の間、電圧−VRが印加され、3T/4〜Tの間はGND状態となる。そして、ストライプ電極R2は、0〜T/4の間はGND状態であり、T/4〜T/2の間は電圧VRが印加され、T/2〜3T/4の間はGND状態であり、3T/4〜Tの間は電圧−VRが印加される状態となる。
【0037】
一方、図4(b)は、市松模様となる位相差のパターンとしたときのストライプ電極C1〜C7のタイムチャートを示したものである。また、ストライプ電極C1、C3、C5、C7が同じタイムチャート、ストライプ電極C2、C4、C6が同じタイムチャートを示す。透明電極21は、GNDレベル(=0[V])を中心に、時間T/4ごとに+VCまたは−VCが印加される。少なくとも市松模様の位相差のパターンとするとき、例えばストライプ電極C1とC2とは反転するタイムチャートとなり、同様にストライプ電極C2〜C7のうち隣り合うストライプ電極のタイムチャートは互いに反転する。また、ストライプ電極R1〜R6、ストライプ電極C1〜C7に与えるための共通の電圧値(中間電圧値:VA)をGNDとしたが、これに限らず一定のバイアスを有する共通の電圧値(≠0[V])を基準にしてもよい。そして、この中間電圧VAは、透明電極21、22いずれも共通の電圧値となる。
【0038】
ここで、中間電圧VA値または、中間電圧VA値[V]を基準に|VR|[V]となる電圧値いずれかが印加される透明電極において、周期Tのうち、|VR|[V]となる電圧値が印加される時間の比をデューティ比と定義する。このとき、一方の透明電極(例えば、ストライプ電極R1〜R6すべて)に、デューティ比が0.5となるタイムチャートが与えられるようにする。このようにすることで、「オン」状態の実効電圧値と「オフ」状態の実効電圧値との差を大きくすることができるので、大きな位相差を与えることができる。
【0039】
また、図4(c)は、例としてC1×R1の区画のタイムチャートを示すものである。このように、0〜T/4の間は、−VCが印加されるので、差分により、VR+VCの電圧となる。同様にして、T/4〜T/2の間は−VCの電圧、T/2〜3T/4の間は−(VR+VC)の電圧、そして3T/4〜Tの間は+VCの電圧が印加される。ここで、とくにT/2において|VR+VC|の電圧が印加され、周期Tにおける実効電圧が高くなり、本駆動方式では、「オン」状態となる。
【0040】
また、図4(d)は、例としてC2×R1の区画のタイムチャートを示すものである。このように、0〜T/4の間は、+VCが印加されるので、差分により、VR−VCの電圧となる。同様にして、T/4〜T/2の間は+VCの電圧、T/2〜3T/4の間は−(VR−VC)の電圧、そして3T/4〜Tの間は−VCの電圧が印加される。ここで、とくにT/2において|VR−VC|の電圧が印加され、周期Tにおける実効電圧が低くなり、本駆動方式では、「オフ」状態となる。このように全ての区画(7×6)において「オン」状態と「オフ」状態とを制御して例えば、図3(b)に示す市松模様のパターンとすることができる。
【0041】
次に、本方式の駆動において、図4(c)、(d)をもとに「オン」、「オフ」の区画にそれぞれ印加される電圧の実効電圧値を計算する。ここで、本方式の、「オン」の区画の実効電圧値を、VONRMS、「オフ」の区画の実効電圧値を、VOFFRMSとする。ここで、図4(c)より、VONRMSは、周期Tのうち時間T/2だけ|VR+VC|[V]、残りの時間T/2は|VC|[V]が印加されるので、式(5)で表すことができる。また、図4(d)より、VOFFRMSは、周期Tのうち時間T/2だけ|VR−VC|[V]、残りの時間T/2は|VC|[V]が印加されるので、式(6)で表すことができる。
【0042】
【数2】
【0043】
このように本方式の駆動方法では、透明電極21、22のストライプ電極の数が3以上であっても式(5)および式(6)が成立する。つまり、ストライプ電極数(3以上)に関わらず、周期Tに対して、時間T/2に印加される電圧の大きさが異なり、この違いによって「オン」状態の実効電圧値と、「オフ」状態の実効電圧値が決まるので、電極数が増加しても「オン」状態の実効電圧値と「オフ」状態の実効電圧値の差は変化しない。したがって、少なくともストライプ電極の数が3以上では、従来の方式に比べて「オン」状態の区画と「オフ」状態の区画との位相差を大きくすることができ位相補正素子全体を透過する光のスペックルノイズを低減させることができる。なお、スペックルノイズは後述する「スペックルコントラスト」により評価する。また、ストライプ電極の数にとくに上限はないが、10以下であれば、構造が簡素化するので好ましい。
【0044】
次に、本方式の駆動によって与えるパターンについて説明する。まず、これまで7×6の市松模様のパターンを例に挙げたが、市松模様のようにパターンを構成する最小単位である四角形の1つの区画を考えたとき、その四角形の辺を共有する区画どうしの位相差が異なるようにするとスペックルノイズを低減しやすい。このように、透過する光の位相差を空間的に細かいパターンを与えることが有効となる。なお、市松模様は、空間的に位相差を与えるパターンの例を示すものである。また、図3(b)に示した市松模様は、ある1つの周期Tにおけるパターンであって、時間的に変らないものではなく、周期的に変化を繰り返すものである。
【0045】
例えば、図5は、市松模様のパターンを示すものであっても、各区画が「オン」状態と「オフ」状態とを交互に繰り返す様子を示す模式図である。このように、1つの区画に対して時間的に透過する光の位相の変化があることでスペックルノイズを低減しやすい。図5において、左側の市松模様のパターンを「パターンA」(図5(a))、右側の市松模様のパターンを「パターンB」(図5(b))とし、この「パターンA」と「パターンB」とが一定の周期で繰り返されるものとする。
【0046】
図6(a)は、例としてストライプ電極R1およびストライプ電極C1のタイムチャートを示すものであり、ストライプ電極R1とストライプ電極C1に電圧を与えるとき、液晶にDC成分の電圧が常時印加しないようにしているものである。図6(b)は、例として、C1×R1の区画のタイムチャートを示すものである。図6(b)は、実際に図5より得られるタイムチャートであって、「パターンA」に相当する「オン」状態、「パターンB」に相当する「オフ」状態が周期的に繰り返される。また、「オン」状態と「オフ」状態の実効電圧値は、それぞれ上記の式(5)および式(6)を満足する。
【0047】
一方、図6(c)は、例としてストライプ電極R1およびストライプ電極C2のタイムチャートを示すものであり、同様にストライプ電極R1とストライプ電極C2に電圧を与えるとき、液晶にDC成分の電圧が常時印加しないようにしているものである。図6(d)は、例として、C2×R1の区画のタイムチャートを示すものである。図6(d)は、実際に図5より得られるタイムチャートであって、「パターンA」に相当する「オフ」状態、「パターンB」に相当する「オン」状態が周期的に繰り返される。また、「オン」状態と「オフ」状態の実効電圧値は、それぞれ上記の式(5)および式(6)を満足する。このように、例えば「C1×R1」で「オン」状態のとき、「C2×R1」で「オフ」状態となるようにし、ほかの区画においても隣り合う区画について「オン」と「オフ」と異なる状態とすることによって市松模様の位相差のパターンを生成する。そして、「オン」状態と「オフ」状態とが交互に繰り返され、それぞれ上記の式(5)および式(6)を満足するので、大きな位相差を発生させることができる。これによって、スペックルノイズの低減に効果がある。
【0048】
また、このようなパターンは、図5に示すような市松模様に限らず、また、パターンも2種類に限らず、3種類以上であってもよい。3種類以上のパターンで繰り返す場合、それぞれの区画が3パターンで連続して「オン」状態または「オフ」状態とならないようにすることで、位相変調素子を透過する光の位相を時間的に変えることができるので、スペックルノイズが低減しやすく好ましい。
【0049】
次に、本発明の駆動方法において、位相補正素子20に電圧を印加してできる各パターンと、各ストライプ電極と電圧制御装置とを電気的に接続する電気配線との関係について説明する。ここでは、例として、図5に示す市松模様が反転する2種類のパターンが繰り返すものについて考える。図7(a)は、透明電極21のストライプ電極C1〜C7について示す模式図であり、図7(b)は、透明電極22のストライプ電極R1〜R6について示す模式図である。
【0050】
図7(a)において、ストライプ電極C1、C3、C5およびC7は電気的に接続されている。一方、ストライプ電極C2、C4およびC6は電気的に接続され、ストライプ電極C1、C3、C5およびC7とは電気的に絶縁されている。同様に図7(b)において、ストライプ電極R1、R3およびR5は電気的に接続されている。一方、ストライプ電極R2、R4およびR6は電気的に接続されており、ストライプ電極R1、R3およびR5とは電気的に絶縁されている。なお、ここで、ストライプ電極C1、C3、C5およびC7をまとめて第1のグループ、ストライプ電極C2、C4およびC6をまとめて第2のグループ、ストライプ電極R1、R3およびR5をまとめて第3のグループ、そしてストライプ電極R2、R4およびR6をまとめて第4のグループとする。このようにすることで、第1のグループには電圧V1、第2のグループには電圧V2、第3のグループには電圧V3、そして第4のグループには電圧V4と4種類の電圧(波形)を印加して制御することができる。また、例えば、図7(a)、図7(b)に示すように、電気的に接続するための構成として、第1のグループ、第2のグループ、第3のグループおよび第4のグループは、それぞれ同一平面においてで櫛歯状にパターニングされるようにする。
【0051】
このように図5(a)に示す市松模様の位相差のパターンを繰り返す場合、電圧信号を与えるために電圧制御装置へ接続する電気配線は4本(種類)で制御が可能である。これは、市松模様の位相差のパターンであれば、ストライプ電極数が多くなっても電圧制御装置と接続するための電気配線の本数が増えることはないため、位相補正素子の小型化を実現することができる。さらに、電気配線が煩雑にならないので電圧制御装置も小型化を実現できる。また、図7に示すように電気配線数を4本とする場合に限らず、市松模様とは異なる位相差のパターンを含む場合でも、ストライプ電極C1〜C7、R1〜R6のうち共通のタイムチャートとなるストライプ電極を電気的に接続することで、ストライプ電極数に対して電圧制御装置と接続するための電気配線の数を減らすことができ、好ましい。例えば、透明電極22は、第3のグループと第4のグループのようにまとめられてなく、ストライプ電極ごとに独立して電圧制御装置に配線されていても、透明電極21は、第1のグループと第2のグループとにまとめられているものであってもよい。
【0052】
このように、この本発明の駆動方法は、従来の駆動方法のようにストライプ電極R1〜R6には独立した電圧信号を与えなくてもよいので、位相変調素子と電圧制御装置とを接続するための電気配線数を低減でき、位相変調素子の構成も簡素化されるので好ましいといえる。
【0053】
図7は、7×6のストライプ電極の構成を例としたが、これに限らない。図8(a)は、ストライプ電極C1〜Cm(m≧3の整数)としたとき、図8(b)は、ストライプ電極R1〜Rn(n≧3の整数)としたときの平面模式図であり、m×nのマトリクスと一般化したときの例である。この場合でも、例えば市松模様が反転する2種類の位相差のパターンが繰り返すものであれば、iを1〜mのうちいずれかの整数として、ストライプ電極Ciのうちiが奇数となるストライプ電極からなる第1のグループは電気的に接続され、iが偶数となるストライプ電極からなる第2のグループは電気的に接続され、第1のグループとは電気的に絶縁される。同様にjを1〜nのうちいずれかの整数として、ストライプ電極Rjのうちjが奇数となるストライプ電極からなる第3のグループは電気的に接続され、jが偶数となるストライプ電極からなる第4のグループは電気的に接続され、第3のグループとは電気的に絶縁される。
【0054】
このように、m、nが3以上のいずれの整数であっても、この場合、電圧制御装置と接続するための電気配線は4本のみとなり、電気配線数を低減でき、位相変調素子の構成の簡素化も実現できる。また、市松模様とは異なるパターンを含む場合でも、ストライプ電極C1〜Cm、R1〜Rnのうち共通のタイムチャートとなるストライプ電極同士が電気的に接続されることで、ストライプ電極数に対して電気配線の数を減らすことができ、好ましい。
【0055】
また、電気的な接続を実現する構成としては、図7、図8に示すパターンに限らない。図示しないが、例えば、光が入射しない電極引出部にあるストライプ電極の上に全てのストライプ電極と交差するように絶縁膜と導電膜とが交互に2層ずつ厚さ方向に積層され、例えばスルーホールなどを介して2つの導電膜はそれぞれ第1のグループ、第2のグループ(第3のグループ、第4のグループ)に分かれるように電気的に接続される構成であってもよい。
【0056】
(実施例)
位相変調素子20の作製方法について図2を用いて説明する。透明基板24a、24bとして、厚さ0.5mmの石英ガラス基板にシート抵抗値約40[Ω/□]のITO膜を形成した。その後、透明基板24a上に、ITO膜をフォトリソグラフィおよびエッチングによって、ストライプ電極の幅が約0.67mm、隣り合うストライプ電極間の間隔を約0.03mmとなる7つのストライプ電極21a〜21g(透明電極21)を形成した。同様に、透明基板24b上に、ストライプ電極の幅が約0.87mm、隣り合うストライプ電極間の間隔を約0.03mmとなる6つのストライプ電極22a〜22f(透明電極22)を形成した。
【0057】
次に、透明電極21上に厚さ約40nmのSiO2を主成分とする絶縁膜を形成し、その上に、厚さが約40nm程度となるようにポリイミドを塗布し、Y方向にラビングをして配向膜を形成した。そして、透明電極21が形成された面と、透明電極22が形成された面を、ラビング方向が平行するように対向させ、外周をシール材25でシールして一定の厚さの空隙を有するセルを作製した。
【0058】
その後、シール材に設けた図示しない注入口より、屈折率異方性Δnが0.26となる正の誘電異方性を有するネマティック液晶を注入して空隙を充填し、注入口をアクリル接着剤で封止して位相変調素子20を作製した。なお、屈折率異方性Δnは、常光屈折率noと異常光屈折率neとの差、つまりΔn=|ne−no|で表されるパラメータである。
【0059】
次に、スペックルノイズの評価の指標となるスペックルコントラストCsについて説明する。このスペックルコントラストは、下記の式(7)のように画素の明るさの平均値Iavrに対する画素の明るさ標準偏差σで示されるものである。画素の明るさの平均値Iavrおよび画素の明るさ標準偏差σは、それぞれ式(8)、式(9)に表される。ここでNは全画素数を表し、Inは各画素に対する明るさ、Iavrは全画素の明るさの平均を示すものである。このスペックルコントラストCsが低い値になるにつれて投射される画像で観察されるスペックルノイズが低減されるものである。本発明の位相変調素子を配置した投射型表示装置は、このスペックルコントラストによって評価する。
【0060】
【数3】
【0061】
また、図9は、スペックルコントラストを評価する具体的な評価光学系について示したものである。コヒーレントな光を発する光源61は、波長633nmのHe−Neレーザを使用し、位相変調素子20には光軸に平行な光として、直径約4mmφの光を入射させる。なお、位相変調素子20には電圧制御装置64から例えば、図5(a)の市松模様が反転して繰り返すように、時間的、空間的に変化するパターンを与える。位相変調素子20を透過した光は、出射角度約±10°で拡散する拡散板63を透過させ、ロッドインテグレータ65で照度を均一化させる。ロッドインテグレータ65を透過した光は投影レンズ66と透過してスクリーン67に投影される。スペックルコントラストは、スクリーン67に投影された画像を図示しないデジタルカメラで撮影して分析する。ここで、電圧制御装置64により、位相変調素子20に対して、繰り返すパターン、駆動方法を変えて評価する。
【0062】
次に、具体的に評価に用いたパターンを説明する。図10は、7×6の区画のパターンを示す平面模式図であり、最大で10のパターンが図10(a)〜図10(j)の順に変化して繰り返しされる。パターン数は、2、4、6および10で評価し、例えば、パターン数が2であれば図10(a)と図10(b)とが交互に繰り返され、パターン数が4であれば図10(a)〜図10(d)の順にパターンが変化して繰り返される。同様に、パターン数が6であれば、図10(a)〜図10(f)の順にパターンが変化して繰り返される。表1は、実施例および比較例の条件を示したものである。
【0063】
【表1】
【0064】
実施例として、本発明の駆動方法を用い、パターン数2および4で評価した。このとき、透明電極21には、1つのパターンの周期T=12.5[msec]となるように、振幅(VC=)1.63[V]の矩形波交流電圧を印加した。また、透明電極22にも同様にパターンに応じて、1つのパターンの周期T=12.5[msec]となるように、デューティ比0.5となるVR=2.3[V]となる矩形波電圧を印加した。このとき、例えば、実施例1において、「オン」状態の実効電圧値を示すVONRMSは約3.01[V]、「オフ」状態の実効電圧値を示すVOFFRMSは約1.24[V]であった。
【0065】
また、実施例1を実現するために、位相変調素子20は、各ストライプ電極を(グラウンドを除く)4種類の電気配線にまとめて電圧制御装置に接続でき、位相変調素子の簡素化および電圧制御装置の小型化が実現できた。また、実施例2を実現するため、透明電極21には2種類の電気配線にまとめて電圧制御装置に接続できた。
【0066】
比較例として、従来の駆動方法を用い、パターン数2、4、6および10で評価した。透明電極21には、1つの位相差のパターンを示す周期T=25[msec]となるように、振幅(VC=)1.47[V]の矩形波電圧を印加した。また、透明電極22にも同様にパターンに応じて、1つのパターンの周期T=25[msec]となるように、デューティ比1/6となるVR=3.6[V]となる矩形波電圧を印加した。このとき、例えば、比較例3において、「オン」状態の実効電圧値を示すVONRMSは約2.47[V]、「オフ」状態の実効電圧値を示すVOFFRMSは約1.6[V]であった。
【0067】
光源61よりY方向の直線偏光となるコヒーレントな光を出射させて位相変調素子20に入射させる。そして、実施例1、2および比較例1〜4の条件において、スクリーンに表示された映像をデジタルカメラで撮影し、そのときのスペックルコントラストを調べた。デジタルカメラの撮影はスクリーン面に対して略垂直となる角度からスクリーンの中央付近の約1.5cm四方の正方形領域を撮影した。このとき、デジタルカメラの撮影条件は、縦方向200ピクセル×横方向200ピクセル=40000ピクセルの画素数において、各画素の明るさを0〜255の256段階で分析し、上記の式(7)に基づいて、スペックルコントラストを計算した。図11は、位相変調素子20を配置しない場合のスペックルコントラストの値を100%と規格化してスペックルコントラスト比とし、各方式の駆動方法およびパターン数に対するスペックルコントラスト比の結果を示したグラフである。なお、位相変調素子20を配置しない場合のスペックルコントラストは約0.31であった。
【0068】
このように、本発明の駆動方法とすることで、スペックルコントラストが改善しており、パターン数2またはパターン数4の本発明の駆動方法によって低いスペックルノイズの映像を実現することができることがわかった。また、パターンを工夫することによって位相変調素子の各ストライプ電極に接続すべき電気配線を少なくすることができ、位相変調素子20の簡素化とともに電圧制御装置の小型化が実現できた。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上のように、本発明の駆動方法を利用する位相変調素子とすることで、スペックルコントラスト(スペックルコントラスト比)を改善することができ、これよりスペックルノイズが抑制された投射型表示素子を実現することができる。さらに、位相変調素子の各電極に接続する電気配線を共有化することができ、位相補正素子の簡素化および電圧制御装置の小型化が実現でき、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】投射型表示装置の構成概念図。
【図2】位相変調素子の具体的な構成を示す斜視的模式図および断面模式図。
【図3】透明電極の重なりを示す平面模式図および重なりによってできる区画からできるパターンの一例を示す平面模式図。
【図4】本発明の駆動方法を用いたときのタイムチャート(電圧の時間的変化)。
【図5】市松模様が反転する位相差のパターンを示す平面模式図。
【図6】市松模様が反転する位相差のパターンを繰り返す場合において、本発明の駆動方法を用いたときの別のタイムチャート(電圧の時間的変化)。
【図7】ストライプ電極同士が電気的に接続される構成を示す模式図(区画数:7×6)。
【図8】ストライプ電極同士が電気的に接続される構成を示す模式図(区画数:m×n)。
【図9】スペックルコントラストを評価する評価光学系を示す模式図。
【図10】実施例および比較例におけるパターンを示す平面模式図。
【図11】実施例および比較例によるスペックルコントラスト比の結果を示すグラフ。
【図12】スペックルキャンセラとなる液晶素子の斜視的模式図およびパターンの一例を示す平面模式図。
【図13】従来の駆動方法を用いたときのタイムチャート(電圧の時間的変化)。
【図14】液晶素子に印加する電圧によって液晶の配向が異なることを説明する模式図および印加電圧によって液晶素子を透過する光の位相差を示すグラフ。
【符号の説明】
【0071】
1 半導体レーザ
2 コリメータレンズ
3 偏光子
4 集光レンズ
5 空間変調器
6、66 投影レンズ
7、67 スクリーン
10 投射型表示装置
20 位相変調素子
21、22、112a、112b 透明電極
21a、21b、21c、21d、21e、21f、21g、22a、22b、22c、22d、22e、22f ストライプ電極
23、113 液晶層
24a、24b、111a、111b 透明基板
25、114 シール材
26a、26b 電極引出部
61 光源
63 拡散板
64 電圧制御装置
65 ロッドインテグレータ
110 液晶素子
113a 液晶分子
115 電源
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相変調素子およびその駆動方法に係り、さらに、コヒーレント性を有する光源を使用した投射型表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
データプロジェクタあるいは背面投射型テレビジョン受像機のようなスクリーンに投影画像を表示する表示装置の光源としては、従来超高圧水銀ランプが使用されてきたが、近年単色性と光源寿命の観点からレーザが提案されてきている。また、超高圧水銀ランプでは不足する赤色光を補うために、超高圧水銀ランプと赤色レーザを併用した光源も提案されている。しかし、レーザを光源とした場合には、投影画像中にレーザ光のコヒーレント性に起因する粒上のスペックルノイズが発生し、投影画像の画質が劣化することを回避できないという問題が生じる。
【0003】
そこで、このようなスペックルノイズを低減するための機能を有するスペックルキャンセラ(位相変調素子)を用いる投射型表示装置が提案されている。特許文献1および特許文献2において提案されているスペックルキャンセラは、液晶の層を透明電極が形成された2枚の平行に配置された透明基板で挟持する液晶素子で構成されてなる。そして、とくにそれぞれの面に形成された透明電極がストライプ状の形状をなし、透明基板面の法線方向から見たときに交差するように配され、透明電極が互いに交差してできる区画された領域の単位ごと空間的、時間的に異なる電圧を加えることによって、透過する光の位相差も区画された領域の単位ごと空間的、時間的に変えることでスペックルノイズを低減するものである。
【0004】
【特許文献1】特開2007−163702号公報
【特許文献2】国際公開第2008/047800号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
液晶に電圧を印加できる機構を備えた液晶素子を考える。液晶は、印加する電圧の大きさによって配向方向が変化し、例えば、液晶が正の誘電率異方性(Δε)のものを用いる場合、電圧が大きくなると、液晶分子の長軸方向が電界方向に近づくように配向する。これによって、液晶の屈折率が変化するため、透過する光の位相が変化する。液晶がΔε>0のものであれば、高い電圧が印加されると液晶の屈折率が低くなり位相が進む。この特性を利用して、特許文献1および特許文献2に記載のスペックルキャンセラ(液晶素子)は、透過する光の位相が空間的に異なるような領域を形成し、さらに時間的に印加する電圧を変化させてスペックルノイズを低減している。特許文献1ではとくに、時間的に電圧を変化させる方式としてパッシブマトリクス方式の駆動を提案している。なお、特許文献2は、とくに駆動方法に関する具体的な記載はない。
【0006】
図12(a)は、スペックルキャンセラとなる液晶素子100の斜視的な模式図を示すものであって、透明電極101、102を有する図示しない透明基板に液晶103が挟持されてなる。透明電極101は、例えば、C1〜C7の平面形状が長方形となるようなストライプ状の電極に分かれ、透明電極102は、透明電極101のストライプ方向と直交する方向にR1〜R6の平面形状がストライプ状の電極に分かれて形成されている。ここで、C1〜C7、R1〜R6を「ストライプ電極」という。また、図12(b)は、液晶素子100を上面から見た平面模式図であり、C1〜C7、R1〜R6によって作られる7×6のマトリクスの各区画における光の透過状態を示す。なお、透明基板面に垂直な方向(Z方向)から見て、透明電極101と透明電極102とが重なってできる領域を「区画」として定義する。
【0007】
ここでは、「区画」ごとに印加する電圧を固定された2つの値で切り替える場合を考える。上記のように、印加する電圧によって透過する光の位相が異なり、2つの値で電圧を切り替えるとき、同相で入射する光に対して位相が進む方の状態を「オン」状態とし、位相が遅れる方の状態を「オフ」状態とする。ここで、例えばC1行とR1列とが交差してできる区画(以下、「C1×R1」という。)は、「オン」状態を示し、C2行とR1列とが交差してできる区画(以下、「C2×R1」という。)は、「オフ」状態を示す。なお、これらすべての区画は、いずれも周期Tの時間の単位において、「オン」状態と「オフ」状態のうちいずれかの状態となる。図12(b)は、7×6のマトリクスの各区画において「オン」と「オフ」の状態を模式的に示した平面図であり、例えばこの「オン」と「オフ」の並びが市松模様とした場合について示したものである。
【0008】
図13は、従来の駆動方法を用いたとき、各ストライプ電極に印加する電圧の時間的変化を示す模式図である。なお、このように時間に対する電圧の変化の図を以下、「タイムチャート」という。従来の駆動方法は、透明電極101または透明電極102のいずれか一方が、ストライプ電極が並ぶ順番に従って順々に基準電圧に対して一定の値の電圧が印加される。例えば、透明電極102が対象となる場合、ストライプ電極R1、R2、R3、…、R6の順に一定の時間(t/6)、一定の電圧が印加される。図13(a)は、代表してストライプ電極R1、R2のタイムチャートを示したものであり、ストライプ電極R1は、0〜t/6の間、電圧VRが印加され、t/6〜tの間は電圧が印加されない状態となる。そして、ストライプ電極R2は、t/6〜2t/6の間、電圧VRが印加され、0〜t/6の間および2t/6〜tの間は電圧が印加されない状態となる。
【0009】
また、図13(a)に図示しないが、ストライプ電極R3は、2t/6〜3t/6の間のみ電圧VRが印加され、同様にストライプ電極R4は3t/6〜4t/6の間のみ、ストライプ電極R5は4t/6〜5t/6の間のみ、ストライプ電極R6は5t/6〜tの間のみ電圧VRが印加される。そして、図13(a)に示すように、ストライプ電極R1はt〜7t/6の間のみ電圧−VRが印加される。このように、ストライプ電極R1〜R6の順にそれぞれ時間t/6だけ電圧|VR|が印加される。そして、2t=Tの周期でこのタイムチャートが繰り返される。このように+VRが印加される時間を含む時間tと、−VRが印加される時間を含む時間tとが交互に与えられる。
【0010】
一方、図13(b)は、透明電極101のうち代表してストライプ電極C1、C2のタイムチャートを示したものである。透明電極101は、GNDレベル(=0[V])を中心に、0〜t間またはt〜2t間において、時間t/6ごとに+VCと−VCと、が交互に印加される。また、図13(a)のようにストライプ電極R1、R2が+VRを含む時間tと−VRを含む時間tとが交互に繰り返される場合、ストライプ電極C1、C2には、0〜t間のタイムチャートと、t〜2t間のタイムチャートはGNDレベル(=0[V])を中心に反転した波形となる。また、図13(b)に示すように、ストライプ電極C1とストライプ電極C2のように隣り合うストライプ電極には、同じ振幅(VC)で反転した波形で電圧が印加される。なお、このときVR>VCの関係である。
【0011】
次に、図12(b)に示す各区画に印加される電圧波形(タイムチャート)について説明する。まず、図13(c)は、例としてC1×R1の区画のタイムチャートを示すものであり、実際に図13(a)、図13(b)より得られるタイムチャートである。このように、0〜t/6の間は、VRはプラス(+)、VCはマイナス(−)の電圧が印加されるので、差分により、VR+VCが印加される。また、t〜7t/6の間は、VRはマイナス(−)、VCはプラス(+)の電圧が印加されるので差分により−VR−VCが印加される。このように周期Tを考えたとき、時間T/6だけ|VR+VC|が印加される。一方、t/6〜tの間および7t/6〜2tの間は、VRに対して低い電圧値となる|VC|が印加される。従来の駆動方法では、周期Tを基準としてこの状態が「オン」状態となる。
【0012】
一方、図13(d)は、C2×R1の区画のタイムチャートを示すものである。図13(d)は、実際に図13(a)、図13(b)より得られるタイムチャートである。このように、0〜t/6の間は、VRはプラス(+)、VCがプラス(+)の電圧が印加されるので、差分により、VR−VCの電圧が印加される。また、t〜7t/6の間は、VRはマイナス(−)、VCはマイナス(−)の電圧が印加されるので差分により−VR+VCが印加される。このように周期Tを考えたとき、時間T/6だけ|VR−VC|が印加される。一方、t/6〜tの間および7t/6〜2tの間は、|VC|が印加される。従来の駆動方法では、周期Tを基準としてこの状態が「オフ」状態となる。
【0013】
同様にして、C2×R2では、t/6〜2t/6の間および7t/6〜8t/6の間は|VR+VC|の電圧が印加され、「オン」状態、C1×R2では、t/6〜2t/6の間および7t/6〜8t/6の間は|VR−VC|の電圧が印加され、「オフ」状態となる。このように全ての区画(7×6)において、T(=2t)を1周期として「オン」状態と「オフ」状態を制御して例えば、図12(b)に示す市松模様の状態とすることができる。なお、図13では、液晶にDC成分の電圧が常時印加しないように、C1×R2の「オン」状態および「オフ」状態はいずれも、周期Tにおいて基準電圧(=GND)を中心にプラスおよびマイナスに印加される電圧は等しくなる。つまり、電圧値を周期Tで割った値は基準電圧に一致する。
【0014】
次に、図13(c)、(d)をもとに「オン」、「オフ」状態の区画にそれぞれ印加される電圧の二乗平均(RMS)値(以下、「実効電圧値」という。)を計算する。ここで、透明電極102のストライプ電極数を6とし、「オン」状態の区画の実効電圧値を、VONRMS(6)、「オフ」の区画の実効電圧値を、VOFFRMS(6)とする。図13(c)より、VONRMS(6)は、周期Tのうち時間T/6だけ|VR+VC|[V]、残りの時間5T/6は|VC|[V]が印加されるので、式(1)で表すことができる。また、図13(d)より、VOFFRMS(6)は、周期Tのうち時間T/6だけ|VR−VC|[V]、残りの時間5T/6は|VC|[V]が印加されるので、式(2)で表すことができる。このように、従来の駆動方法では、ストライプ電極数をnと一般化したときの「オン」の区画の実効電圧値を、VONRMS(n)、「オフ」の区画の実効電圧値を、VOFFRMS(n)とすると、それぞれ式(3)、式(4)で表すことができるが、周期Tに対して、時間T/nに印加される電圧の大きさのみが異なり、この違いによって「オン」状態の実効電圧値と、「オフ」状態の実効電圧値が決まる。
【0015】
【数1】
【0016】
このように、従来の駆動方法では、「オン」となる実効電圧値は、VRおよびVCの値が固定値であれば、透明電極102のストライプ電極数nを多く設定することによってその値は小さくなり、「オン」状態の実効電圧値と「オフ」状態の実効電圧値との差も小さくなる。このとき、「オン」状態の区画と「オフ」状態の区画との透過光の位相差を大きくすることができないため、スペックルキャンセラ(液晶素子)全体を透過する光のスペックルノイズが大きく低減しない。一方で、ストライプ電極数nを少なく設定すると、1つの区画の面積が大きくなるため、1つの区画を透過する光で発生するスペックルノイズが目立つようになり、全透過光のスペックルノイズが低減されない。
【0017】
図14は、液晶素子110に電圧を印加したときの液晶分子の様子および入射する光の位相差について示したものである。図14(a)は、電圧を印加しないときの液晶の状態を示す液晶素子110の断面模式図であり、図14(b)は、電圧を印加したときの液晶の状態を示す液晶素子110の断面模式図である。また、図14(c)は、Z方向に進行するX方向の直線偏光が同相で入射したとき、液晶素子110に印加する電圧の大きさに対して生じる位相差について示したグラフである。このとき、液晶の進相軸方向の偏光方向で透過する光の位相を基準とし、それに対する位相のずれを「位相差」という。液晶素子110は、透明基板111a、111b上にそれぞれ透明電極112a、112bが形成され、透明電極112a、112上の図示しない配向膜によってX方向に液晶分子113aが配向された液晶層113が配置されている。なお、この場合、印加する電圧の値に関わらずY方向は進相軸に相当する。また、液晶素子113はシール材114によってシールされてなる。透明電極112a、112b間には(矩形)交流電圧を印加できる電源115が備えられているものとする。
【0018】
電源115より印加電圧が0[Vrms]のとき、液晶層113内の液晶分子113aは配向膜の配向方向(X方向)に沿って配向される。このとき、透明基板111a側からZ方向に進行するX方向の直線偏光が同相で入射したときについて考える。図14(a)において印加電圧が0[Vrms]であるとき、X方向は液晶層113で液晶分子113aの遅相軸方向に相当する。一方、図14(b)において印加電圧を大きくすると液晶分子113aの長軸方向は液晶素子110の厚さ方向に向けて配向する。このとき、同じく透明基板111a側からZ方向に進行するX方向の直線偏光が同相で入射したとき、X方向は液晶層113で液晶分子113aの進相軸方向となる。このため、印加電圧を増加させることによって、位相は進み、位相差は小さくなる。
【0019】
ここで、図14(c)に示す、印加電圧に対する「位相差」の関係は、0[Vrms]で位相差が最も大きく、印加電圧を増加させると位相差が小さくなり、さらに印加電圧を増加させると、位相差はほぼ0となる。このように、液晶素子110に印加する電圧によって入射するX方向の直線偏光の位相差を変化させることができるが、上記のように2値で電圧を切り替えるとき、この2つの値によってそれぞれの「区画」が取り得る位相差の差分を大きく設定できることが好ましい。この位相差の差分を大きくするために、図14(c)の勾配が大きくなるように「オン」となる実効電圧値と「オフ」となる実効電圧値とを設定するが、従来の駆動方法では、ストライプ電極数nが多くなると、とくに「オン」状態となる印加電圧[Vrms]を大きくすることができず、そのため「オン」状態と「オフ」状態との位相差の差分を十分に大きくできないため、コヒーレント光が入射して透過する光のスペックルノイズが大きく低減できないという問題があった。
【0020】
また、液晶素子の構成として、従来の駆動方式を用いる場合、少なくとも透明電極102のストライプ電極R1〜R6にはそれぞれ異なるタイムチャートの電圧を印加しなければならず、そのために透明電極102だけでもn個の電極数分の電気信号を独立に与える必要があり、液晶素子の各透明電極に接続すべき電気配線等が煩雑になり、小型化が実現できないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本願発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、入射するコヒーレント光の位相を変調する位相変調素子であって、前記位相変調素子は、第1の透明基板の一方の面に第1の透明電極を有し、第2の透明基板の一方の面に第2の透明電極を有して、前記第1の透明基板と前記第2の透明基板との間に液晶層が挟持され、前記第1の透明電極はm個の領域を有し(m≧3の整数)、前記m個の領域は、第1の方向に延伸して互いに離隔してなるm個の第1のストライプ電極からなり、前記第2の透明電極はn個の領域を有し(n≧3の整数)、前記n個の領域は、前記第1の方向とは異なる第2の方向に延伸して互いに離隔してなるn個の第2のストライプ電極からなり、m個の前記第1のストライプ電極を、端部からそれぞれストライプ電極C1、ストライプ電極C2、…、ストライプ電極Cmとし、iを1〜mのうちいずれかの整数とするとき、iが奇数となる前記ストライプ電極Ciが電気的に接続され、iが偶数となる前記ストライプ電極Ci同士が電気的に接続され、iが奇数となる前記ストライプ電極Ciとiが偶数となる前記ストライプ電極Ci同士が電気的に絶縁されている位相変調素子を提供する。
【0022】
また、n個の前記第1のストライプ電極を、端部からそれぞれストライプ電極R1、ストライプ電極R2、…、ストライプ電極Rnとし、iを1〜nのうちいずれかの整数とするとき、jが奇数となる前記ストライプ電極Rjが電気的に接続され、iが偶数となる前記ストライプ電極Riが電気的に接続され、jが奇数となる前記ストライプ電極Rjとjが偶数となる前記ストライプ電極Rjとが電気的に絶縁されている上記に記載の位相変調素子を提供する。また、前記第1の方向と前記第2の方向とが直交する上記の位相変調素子を提供する。
【0023】
また、コヒーレント光を発光する光源を少なくとも一つ含む光源部と、前記光源部が発光した光を変調して画像光を生成する画像光生成部と、前記画像光を投射する投射部と、を備える投射型表示装置であって、前記光源部と前記画像光生成部との間の光路中に、電圧制御装置から発する電気信号により通過する光に対して位相を時間的に変化させる上記に記載の位相変調素子が配置される投射型表示装置を提供する。
【0024】
また、入射するコヒーレント光の位相を変調する位相変調素子であって、前記位相変調素子は、第1の透明基板の一方の面に第1の透明電極を有し、第2の透明基板の一方の面に第2の透明電極を有して、前記第1の透明基板と前記第2の透明基板との間に液晶層が挟持され、前記第1の透明電極はm個の領域を有し(m≧3の整数)、前記m個の領域は、第1の方向に延伸して互いに離隔してなるm個の第1のストライプ電極からなり、前記第2の透明電極はn個の領域を有し(n≧3の整数)、前記n個の領域は、前記第1の方向とは異なる第2の方向に延伸して互いに離隔してなるn個の第2のストライプ電極からなり、m個の前記第1のストライプ電極を、端部からそれぞれストライプ電極C1、ストライプ電極C2、…、ストライプ電極Cmとし、n個の前記第1のストライプ電極を、端部からそれぞれストライプ電極R1、ストライプ電極R2、…、ストライプ電極Rnとし、m個の前記第1のストライプ電極と、n個の前記第2のストライプ電極とが重なってできるm×n個の区画を有する位相変調素子の駆動に際し、m個の前記第1のストライプ電極は、第1のグループまたは第2のグループいずれかに含まれ、前記第1のグループには電圧V1を印加し、前記第2のグループには電圧V2を印加し、n個の前記第2のストライプ電極は、第3のグループまたは第4のグループいずれかに含まれ、前記第1のグループには電圧V3を印加し、前記第2のグループには電圧V4を印加し、前記第1のストライプ電極に印加される最大の電圧値と最小の電圧値の中間の値と、前記第2のストライプ電極に印加される最大の電圧値と最小の電圧値の中間の値は同一であって中間電圧値VAとし、前記中間電圧VAに対する前記第1のストライプ電極に印加される最大の電圧値をVCとし、前記中間電圧VAに対する前記第2のストライプ電極に印加される最大の電圧値をVRとし(VR>VC)、前記第2のストライプ電極に、+VRおよび−VRの両方が印加される時間を含んで繰り返される最短の時間を周期Tとするとき、前記周期Tのうち前記第2のストライプ電極に|VR|が印加される時間の比であるデューティ比が0.5であり、前記周期Tにおける前記電圧V1の波形と前記電圧V2の波形は前記中間電圧VAを基準に反転し、前記周期Tにおける前記電圧V3の波形と前記電圧V4の波形は前記中間電圧VAを基準に反転する位相変調素子の駆動方法を提供する。
【0025】
また、前記第1のグループは、m個の前記第1のストライプ電極のうちm/2個(小数点以下切捨て)からなり、前記第2のグループは、前記第1のグループではない前記第1のストライプ電極からなり、前記第3のグループは、n個の前記第2のストライプ電極のうちn/2個(小数点以下切捨て)からなり、前記第4のグループは、前記第2のグループではない前記第2のストライプ電極からなる上記に記載の位相変調素子の駆動方法を提供する。
【0026】
さらに、前記第1のグループは、iを1〜mのうちいずれかの整数とするとき、iが偶数となる前記ストライプ電極Ciからなり、前記第2のグループはiが奇数となる前記ストライプ電極Ciからなり、前記第3のグループは、jを1〜nのうちいずれかの整数とするとき、jが偶数となる前記ストライプ電極Rjからなり、前記第4のグループはjが奇数となる前記ストライプ電極Rjからなる上記に記載の位相変調素子の駆動方法を提供する。
【発明の効果】
【0027】
本発明は、コヒーレントな光源を用いる投射型表示装置に透過する光の位相を時間的、空間的に変化させる位相変調素子を用い、透過する光の位相差を大きくする駆動方法を用いることで、表示画像のスペックルノイズを効果的に低減するための位相変調素子の駆動方法を実現できる。また、位相変調素子を構成する電極の配線が煩雑とならない位相変調素子および投射型表示装置とすることで構成の簡素化、小型化が実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
図1は、投射型表示装置10の構成を示す模式図である。発光手段であるコヒーレント光を発する光源として少なくとも1つの半導体レーザ1から出射された光はコリメータレンズ2によって平行光となり、偏光子3を通過する。半導体レーザは直線偏光の光を出射するが、製造ばらつきや使用環境温度変化により、その偏光方向にばらつきや時間的変動を有する場合がある。偏光子3は、この光の偏光状態を一定にするためのものである。
【0029】
偏光子3を通過した光は、位相変調素子20によって光の散乱状態を時間的に発現させて出射するものである。位相変調素子20を透過した光は、集光レンズ4を通過し、画像生成手段である空間変調器5に入射する。空間変調器5としては、典型的には透過型液晶パネルが使用可能であるが、反射型の液晶パネルやデジタルマイクロミラーデバイス(DMD)などを使用してもよい。このように空間変調器に入射した光束は、画像信号に応じて変調され、投影レンズ6によってスクリーン7などに投影される。なお、光源は、1つのレーザ光源のみを使用する構成であっても、異なる波長の光を出射するレーザ光源を複数配置する構成であっても、コヒーレント性を有さない光源とレーザ光原とを組み合わせて用いる構成であってもよい。
【0030】
位相変調素子20は、入射するコヒーレント光に対して位相変調の大きさを時間的、空間的に変化させることにより、スペックルパターンの時間的な変化を発現させる機能を有する。
【0031】
図2は、位相変調素子20の構成を示す模式図であり、図2(a)は斜視図、図2(b)は断面図を示す。位相変調素子20は、平行に配置された平坦な2枚の透明基板24a、24bのそれぞれ一方の面に透明電極21、22を形成する。また、図示しない電圧制御装置に電気的に接続するため、電極引出部26a、26bが設けられる。なお、電極引出部26a、26bの構成についての詳細は後述する。透明基板24a、24bは入射する光に対して透明であれば、樹脂板、樹脂フィルムなど種々の材料を用いることができるが、ガラスや石英ガラスなどの光学的等方性材料を用いると、透過光に複屈折性の影響を与えないため好ましい。透明電極としては、ITO(酸化錫ドープ酸化インジウム)膜、AZO(アルミニウムドープ酸化亜鉛)膜、GZO(ガリウムドープ酸化亜鉛)膜などの酸化物透明導電膜が高い透明性と導電率とが得られるため好ましく用いられる。
【0032】
透明電極21は、平面形状(X−Y平面)が特定の方向(「第1の方向」とする。)に延伸する形状の領域を有するストライプ電極21a、21b、21c、21d、21e、21fおよび21gからなる。また、透明電極22は、第1の方向とは直交する方向に延伸する形状の領域を有するストライプ電極22a、22b、22c、22d、22eおよび21fからなる。また、第1の方向と第2の方向は互いに直交するように配置されるが、交差する角度が直交(90°)に限らず一定の角度であってもよい。透明電極21、22が互いに交差してできる区画が例えば、1つの区画が平行四辺形であってもよい。また、ストライプ電極の幅は、とくに同一の幅でなくてもよいが、一つの区画の面積を同じくするように同一であると好ましい。透明基板24aと24bとの間には液晶からなる液晶層23があり、透明基板24a、24bの周りのシール材25によってシールされる。液晶は、誘電率異方性Δε>0となる液晶材料を用いると、電圧を印加しない状態において配向膜の配向方向に平行して配向される。また、これに限らず、Δε<0となる液晶材料を用いてもよい。
【0033】
透明電極21、22の上には、図示しない配向膜が形成され、いずれも同じ方向(例えばX方向)に配向される。配向方向は、例えば、入射する直線偏光の光の偏光方向と一致させると、印加する電圧の大きさによって液晶の屈折率変化を大きくすることができる。ここでは印加する電圧を2値で切り替える場合を考え、それによって同相で入射する光に対して2値のうち位相が進む方の状態を「オン」状態とし、位相が遅れる方の状態を「オフ」状態とする。このようにすると、この「オン」状態の区画と「オフ」状態の区画との間で透過する光の位相差を大きくすることができる。また、配向膜は、ポリイミド膜を塗布して一定の方向にラビングされたもので構成されてなるものが用いられるが、これに限らず、SiOを基板面に対して斜め方向から蒸着してなる斜方蒸着膜などを用いてもよい。ここでは、液晶層23には、誘電率異方性Δε>0となる液晶材料を用い、配向方向はいずれもX方向に平行であるものとする。
【0034】
図3(a)は、X−Y平面からみた、透明電極21、22の重なりを示す模式図である。また、図3(b)は、透明電極21と透明電極22とが透明基板面に垂直な方向から見て重なってできる領域で定義される「区画」およびこれらの区画からできる位相差のパターンを表示する模式図である。ここでは、市松模様となる位相差のパターンの例を示す。このパターンは、各区画の電圧が「オン」状態と「オフ」状態との2値を示すものであり、この電圧によって透過する光の位相が変化する。また、透明電極21のストライプ電極21a〜21gのライン(行)をそれぞれストライプ電極C1〜C7とし、透明電極22のストライプ電極22a〜22fのライン(列)をそれぞれストライプ電極R1〜R6とする。タイムチャートの表示は、とくにストライプ電極C1〜C7、ストライプ電極R1〜R6を用いて説明する。なお、上記の説明と同様に1つの区画は、例えば「C1×R1」というように行と列とが交差してできる領域とする。
【0035】
次に、印加する電圧の時間的変化(タイムチャート)について説明する。図4は、本願発明の駆動方法を用いたタイムチャートの一例であって、図4(a)は、ストライプ電極R1〜R6のタイムチャートを示したものである。また、ストライプ電極R1、R3、R5が同じタイムチャート、ストライプ電極R2、R4、R6が同じタイムチャートを示す。ここで、周期Tは、基準電圧である中間電圧VA(この場合、GND)に対してプラス(+)の電圧、マイナス(−)の電圧の両方が印加される時間を含んで繰り返される最小の時間として定義する。なお、中間電圧値VAは、透明電極に印加される最大の電圧値[V]と最小の電圧値[V]の中間の値[V]となり、例えば図4(a)では、中間電圧値VAは(+VR−VR)/2=0[V]、つまりグラウンド(GND)に相当する。
【0036】
ここで、ストライプ電極R1は、0〜T/4の間、電圧VRが印加され、T/4〜T/2の間はGND状態となる。また、T/2〜3T/4の間、電圧−VRが印加され、3T/4〜Tの間はGND状態となる。そして、ストライプ電極R2は、0〜T/4の間はGND状態であり、T/4〜T/2の間は電圧VRが印加され、T/2〜3T/4の間はGND状態であり、3T/4〜Tの間は電圧−VRが印加される状態となる。
【0037】
一方、図4(b)は、市松模様となる位相差のパターンとしたときのストライプ電極C1〜C7のタイムチャートを示したものである。また、ストライプ電極C1、C3、C5、C7が同じタイムチャート、ストライプ電極C2、C4、C6が同じタイムチャートを示す。透明電極21は、GNDレベル(=0[V])を中心に、時間T/4ごとに+VCまたは−VCが印加される。少なくとも市松模様の位相差のパターンとするとき、例えばストライプ電極C1とC2とは反転するタイムチャートとなり、同様にストライプ電極C2〜C7のうち隣り合うストライプ電極のタイムチャートは互いに反転する。また、ストライプ電極R1〜R6、ストライプ電極C1〜C7に与えるための共通の電圧値(中間電圧値:VA)をGNDとしたが、これに限らず一定のバイアスを有する共通の電圧値(≠0[V])を基準にしてもよい。そして、この中間電圧VAは、透明電極21、22いずれも共通の電圧値となる。
【0038】
ここで、中間電圧VA値または、中間電圧VA値[V]を基準に|VR|[V]となる電圧値いずれかが印加される透明電極において、周期Tのうち、|VR|[V]となる電圧値が印加される時間の比をデューティ比と定義する。このとき、一方の透明電極(例えば、ストライプ電極R1〜R6すべて)に、デューティ比が0.5となるタイムチャートが与えられるようにする。このようにすることで、「オン」状態の実効電圧値と「オフ」状態の実効電圧値との差を大きくすることができるので、大きな位相差を与えることができる。
【0039】
また、図4(c)は、例としてC1×R1の区画のタイムチャートを示すものである。このように、0〜T/4の間は、−VCが印加されるので、差分により、VR+VCの電圧となる。同様にして、T/4〜T/2の間は−VCの電圧、T/2〜3T/4の間は−(VR+VC)の電圧、そして3T/4〜Tの間は+VCの電圧が印加される。ここで、とくにT/2において|VR+VC|の電圧が印加され、周期Tにおける実効電圧が高くなり、本駆動方式では、「オン」状態となる。
【0040】
また、図4(d)は、例としてC2×R1の区画のタイムチャートを示すものである。このように、0〜T/4の間は、+VCが印加されるので、差分により、VR−VCの電圧となる。同様にして、T/4〜T/2の間は+VCの電圧、T/2〜3T/4の間は−(VR−VC)の電圧、そして3T/4〜Tの間は−VCの電圧が印加される。ここで、とくにT/2において|VR−VC|の電圧が印加され、周期Tにおける実効電圧が低くなり、本駆動方式では、「オフ」状態となる。このように全ての区画(7×6)において「オン」状態と「オフ」状態とを制御して例えば、図3(b)に示す市松模様のパターンとすることができる。
【0041】
次に、本方式の駆動において、図4(c)、(d)をもとに「オン」、「オフ」の区画にそれぞれ印加される電圧の実効電圧値を計算する。ここで、本方式の、「オン」の区画の実効電圧値を、VONRMS、「オフ」の区画の実効電圧値を、VOFFRMSとする。ここで、図4(c)より、VONRMSは、周期Tのうち時間T/2だけ|VR+VC|[V]、残りの時間T/2は|VC|[V]が印加されるので、式(5)で表すことができる。また、図4(d)より、VOFFRMSは、周期Tのうち時間T/2だけ|VR−VC|[V]、残りの時間T/2は|VC|[V]が印加されるので、式(6)で表すことができる。
【0042】
【数2】
【0043】
このように本方式の駆動方法では、透明電極21、22のストライプ電極の数が3以上であっても式(5)および式(6)が成立する。つまり、ストライプ電極数(3以上)に関わらず、周期Tに対して、時間T/2に印加される電圧の大きさが異なり、この違いによって「オン」状態の実効電圧値と、「オフ」状態の実効電圧値が決まるので、電極数が増加しても「オン」状態の実効電圧値と「オフ」状態の実効電圧値の差は変化しない。したがって、少なくともストライプ電極の数が3以上では、従来の方式に比べて「オン」状態の区画と「オフ」状態の区画との位相差を大きくすることができ位相補正素子全体を透過する光のスペックルノイズを低減させることができる。なお、スペックルノイズは後述する「スペックルコントラスト」により評価する。また、ストライプ電極の数にとくに上限はないが、10以下であれば、構造が簡素化するので好ましい。
【0044】
次に、本方式の駆動によって与えるパターンについて説明する。まず、これまで7×6の市松模様のパターンを例に挙げたが、市松模様のようにパターンを構成する最小単位である四角形の1つの区画を考えたとき、その四角形の辺を共有する区画どうしの位相差が異なるようにするとスペックルノイズを低減しやすい。このように、透過する光の位相差を空間的に細かいパターンを与えることが有効となる。なお、市松模様は、空間的に位相差を与えるパターンの例を示すものである。また、図3(b)に示した市松模様は、ある1つの周期Tにおけるパターンであって、時間的に変らないものではなく、周期的に変化を繰り返すものである。
【0045】
例えば、図5は、市松模様のパターンを示すものであっても、各区画が「オン」状態と「オフ」状態とを交互に繰り返す様子を示す模式図である。このように、1つの区画に対して時間的に透過する光の位相の変化があることでスペックルノイズを低減しやすい。図5において、左側の市松模様のパターンを「パターンA」(図5(a))、右側の市松模様のパターンを「パターンB」(図5(b))とし、この「パターンA」と「パターンB」とが一定の周期で繰り返されるものとする。
【0046】
図6(a)は、例としてストライプ電極R1およびストライプ電極C1のタイムチャートを示すものであり、ストライプ電極R1とストライプ電極C1に電圧を与えるとき、液晶にDC成分の電圧が常時印加しないようにしているものである。図6(b)は、例として、C1×R1の区画のタイムチャートを示すものである。図6(b)は、実際に図5より得られるタイムチャートであって、「パターンA」に相当する「オン」状態、「パターンB」に相当する「オフ」状態が周期的に繰り返される。また、「オン」状態と「オフ」状態の実効電圧値は、それぞれ上記の式(5)および式(6)を満足する。
【0047】
一方、図6(c)は、例としてストライプ電極R1およびストライプ電極C2のタイムチャートを示すものであり、同様にストライプ電極R1とストライプ電極C2に電圧を与えるとき、液晶にDC成分の電圧が常時印加しないようにしているものである。図6(d)は、例として、C2×R1の区画のタイムチャートを示すものである。図6(d)は、実際に図5より得られるタイムチャートであって、「パターンA」に相当する「オフ」状態、「パターンB」に相当する「オン」状態が周期的に繰り返される。また、「オン」状態と「オフ」状態の実効電圧値は、それぞれ上記の式(5)および式(6)を満足する。このように、例えば「C1×R1」で「オン」状態のとき、「C2×R1」で「オフ」状態となるようにし、ほかの区画においても隣り合う区画について「オン」と「オフ」と異なる状態とすることによって市松模様の位相差のパターンを生成する。そして、「オン」状態と「オフ」状態とが交互に繰り返され、それぞれ上記の式(5)および式(6)を満足するので、大きな位相差を発生させることができる。これによって、スペックルノイズの低減に効果がある。
【0048】
また、このようなパターンは、図5に示すような市松模様に限らず、また、パターンも2種類に限らず、3種類以上であってもよい。3種類以上のパターンで繰り返す場合、それぞれの区画が3パターンで連続して「オン」状態または「オフ」状態とならないようにすることで、位相変調素子を透過する光の位相を時間的に変えることができるので、スペックルノイズが低減しやすく好ましい。
【0049】
次に、本発明の駆動方法において、位相補正素子20に電圧を印加してできる各パターンと、各ストライプ電極と電圧制御装置とを電気的に接続する電気配線との関係について説明する。ここでは、例として、図5に示す市松模様が反転する2種類のパターンが繰り返すものについて考える。図7(a)は、透明電極21のストライプ電極C1〜C7について示す模式図であり、図7(b)は、透明電極22のストライプ電極R1〜R6について示す模式図である。
【0050】
図7(a)において、ストライプ電極C1、C3、C5およびC7は電気的に接続されている。一方、ストライプ電極C2、C4およびC6は電気的に接続され、ストライプ電極C1、C3、C5およびC7とは電気的に絶縁されている。同様に図7(b)において、ストライプ電極R1、R3およびR5は電気的に接続されている。一方、ストライプ電極R2、R4およびR6は電気的に接続されており、ストライプ電極R1、R3およびR5とは電気的に絶縁されている。なお、ここで、ストライプ電極C1、C3、C5およびC7をまとめて第1のグループ、ストライプ電極C2、C4およびC6をまとめて第2のグループ、ストライプ電極R1、R3およびR5をまとめて第3のグループ、そしてストライプ電極R2、R4およびR6をまとめて第4のグループとする。このようにすることで、第1のグループには電圧V1、第2のグループには電圧V2、第3のグループには電圧V3、そして第4のグループには電圧V4と4種類の電圧(波形)を印加して制御することができる。また、例えば、図7(a)、図7(b)に示すように、電気的に接続するための構成として、第1のグループ、第2のグループ、第3のグループおよび第4のグループは、それぞれ同一平面においてで櫛歯状にパターニングされるようにする。
【0051】
このように図5(a)に示す市松模様の位相差のパターンを繰り返す場合、電圧信号を与えるために電圧制御装置へ接続する電気配線は4本(種類)で制御が可能である。これは、市松模様の位相差のパターンであれば、ストライプ電極数が多くなっても電圧制御装置と接続するための電気配線の本数が増えることはないため、位相補正素子の小型化を実現することができる。さらに、電気配線が煩雑にならないので電圧制御装置も小型化を実現できる。また、図7に示すように電気配線数を4本とする場合に限らず、市松模様とは異なる位相差のパターンを含む場合でも、ストライプ電極C1〜C7、R1〜R6のうち共通のタイムチャートとなるストライプ電極を電気的に接続することで、ストライプ電極数に対して電圧制御装置と接続するための電気配線の数を減らすことができ、好ましい。例えば、透明電極22は、第3のグループと第4のグループのようにまとめられてなく、ストライプ電極ごとに独立して電圧制御装置に配線されていても、透明電極21は、第1のグループと第2のグループとにまとめられているものであってもよい。
【0052】
このように、この本発明の駆動方法は、従来の駆動方法のようにストライプ電極R1〜R6には独立した電圧信号を与えなくてもよいので、位相変調素子と電圧制御装置とを接続するための電気配線数を低減でき、位相変調素子の構成も簡素化されるので好ましいといえる。
【0053】
図7は、7×6のストライプ電極の構成を例としたが、これに限らない。図8(a)は、ストライプ電極C1〜Cm(m≧3の整数)としたとき、図8(b)は、ストライプ電極R1〜Rn(n≧3の整数)としたときの平面模式図であり、m×nのマトリクスと一般化したときの例である。この場合でも、例えば市松模様が反転する2種類の位相差のパターンが繰り返すものであれば、iを1〜mのうちいずれかの整数として、ストライプ電極Ciのうちiが奇数となるストライプ電極からなる第1のグループは電気的に接続され、iが偶数となるストライプ電極からなる第2のグループは電気的に接続され、第1のグループとは電気的に絶縁される。同様にjを1〜nのうちいずれかの整数として、ストライプ電極Rjのうちjが奇数となるストライプ電極からなる第3のグループは電気的に接続され、jが偶数となるストライプ電極からなる第4のグループは電気的に接続され、第3のグループとは電気的に絶縁される。
【0054】
このように、m、nが3以上のいずれの整数であっても、この場合、電圧制御装置と接続するための電気配線は4本のみとなり、電気配線数を低減でき、位相変調素子の構成の簡素化も実現できる。また、市松模様とは異なるパターンを含む場合でも、ストライプ電極C1〜Cm、R1〜Rnのうち共通のタイムチャートとなるストライプ電極同士が電気的に接続されることで、ストライプ電極数に対して電気配線の数を減らすことができ、好ましい。
【0055】
また、電気的な接続を実現する構成としては、図7、図8に示すパターンに限らない。図示しないが、例えば、光が入射しない電極引出部にあるストライプ電極の上に全てのストライプ電極と交差するように絶縁膜と導電膜とが交互に2層ずつ厚さ方向に積層され、例えばスルーホールなどを介して2つの導電膜はそれぞれ第1のグループ、第2のグループ(第3のグループ、第4のグループ)に分かれるように電気的に接続される構成であってもよい。
【0056】
(実施例)
位相変調素子20の作製方法について図2を用いて説明する。透明基板24a、24bとして、厚さ0.5mmの石英ガラス基板にシート抵抗値約40[Ω/□]のITO膜を形成した。その後、透明基板24a上に、ITO膜をフォトリソグラフィおよびエッチングによって、ストライプ電極の幅が約0.67mm、隣り合うストライプ電極間の間隔を約0.03mmとなる7つのストライプ電極21a〜21g(透明電極21)を形成した。同様に、透明基板24b上に、ストライプ電極の幅が約0.87mm、隣り合うストライプ電極間の間隔を約0.03mmとなる6つのストライプ電極22a〜22f(透明電極22)を形成した。
【0057】
次に、透明電極21上に厚さ約40nmのSiO2を主成分とする絶縁膜を形成し、その上に、厚さが約40nm程度となるようにポリイミドを塗布し、Y方向にラビングをして配向膜を形成した。そして、透明電極21が形成された面と、透明電極22が形成された面を、ラビング方向が平行するように対向させ、外周をシール材25でシールして一定の厚さの空隙を有するセルを作製した。
【0058】
その後、シール材に設けた図示しない注入口より、屈折率異方性Δnが0.26となる正の誘電異方性を有するネマティック液晶を注入して空隙を充填し、注入口をアクリル接着剤で封止して位相変調素子20を作製した。なお、屈折率異方性Δnは、常光屈折率noと異常光屈折率neとの差、つまりΔn=|ne−no|で表されるパラメータである。
【0059】
次に、スペックルノイズの評価の指標となるスペックルコントラストCsについて説明する。このスペックルコントラストは、下記の式(7)のように画素の明るさの平均値Iavrに対する画素の明るさ標準偏差σで示されるものである。画素の明るさの平均値Iavrおよび画素の明るさ標準偏差σは、それぞれ式(8)、式(9)に表される。ここでNは全画素数を表し、Inは各画素に対する明るさ、Iavrは全画素の明るさの平均を示すものである。このスペックルコントラストCsが低い値になるにつれて投射される画像で観察されるスペックルノイズが低減されるものである。本発明の位相変調素子を配置した投射型表示装置は、このスペックルコントラストによって評価する。
【0060】
【数3】
【0061】
また、図9は、スペックルコントラストを評価する具体的な評価光学系について示したものである。コヒーレントな光を発する光源61は、波長633nmのHe−Neレーザを使用し、位相変調素子20には光軸に平行な光として、直径約4mmφの光を入射させる。なお、位相変調素子20には電圧制御装置64から例えば、図5(a)の市松模様が反転して繰り返すように、時間的、空間的に変化するパターンを与える。位相変調素子20を透過した光は、出射角度約±10°で拡散する拡散板63を透過させ、ロッドインテグレータ65で照度を均一化させる。ロッドインテグレータ65を透過した光は投影レンズ66と透過してスクリーン67に投影される。スペックルコントラストは、スクリーン67に投影された画像を図示しないデジタルカメラで撮影して分析する。ここで、電圧制御装置64により、位相変調素子20に対して、繰り返すパターン、駆動方法を変えて評価する。
【0062】
次に、具体的に評価に用いたパターンを説明する。図10は、7×6の区画のパターンを示す平面模式図であり、最大で10のパターンが図10(a)〜図10(j)の順に変化して繰り返しされる。パターン数は、2、4、6および10で評価し、例えば、パターン数が2であれば図10(a)と図10(b)とが交互に繰り返され、パターン数が4であれば図10(a)〜図10(d)の順にパターンが変化して繰り返される。同様に、パターン数が6であれば、図10(a)〜図10(f)の順にパターンが変化して繰り返される。表1は、実施例および比較例の条件を示したものである。
【0063】
【表1】
【0064】
実施例として、本発明の駆動方法を用い、パターン数2および4で評価した。このとき、透明電極21には、1つのパターンの周期T=12.5[msec]となるように、振幅(VC=)1.63[V]の矩形波交流電圧を印加した。また、透明電極22にも同様にパターンに応じて、1つのパターンの周期T=12.5[msec]となるように、デューティ比0.5となるVR=2.3[V]となる矩形波電圧を印加した。このとき、例えば、実施例1において、「オン」状態の実効電圧値を示すVONRMSは約3.01[V]、「オフ」状態の実効電圧値を示すVOFFRMSは約1.24[V]であった。
【0065】
また、実施例1を実現するために、位相変調素子20は、各ストライプ電極を(グラウンドを除く)4種類の電気配線にまとめて電圧制御装置に接続でき、位相変調素子の簡素化および電圧制御装置の小型化が実現できた。また、実施例2を実現するため、透明電極21には2種類の電気配線にまとめて電圧制御装置に接続できた。
【0066】
比較例として、従来の駆動方法を用い、パターン数2、4、6および10で評価した。透明電極21には、1つの位相差のパターンを示す周期T=25[msec]となるように、振幅(VC=)1.47[V]の矩形波電圧を印加した。また、透明電極22にも同様にパターンに応じて、1つのパターンの周期T=25[msec]となるように、デューティ比1/6となるVR=3.6[V]となる矩形波電圧を印加した。このとき、例えば、比較例3において、「オン」状態の実効電圧値を示すVONRMSは約2.47[V]、「オフ」状態の実効電圧値を示すVOFFRMSは約1.6[V]であった。
【0067】
光源61よりY方向の直線偏光となるコヒーレントな光を出射させて位相変調素子20に入射させる。そして、実施例1、2および比較例1〜4の条件において、スクリーンに表示された映像をデジタルカメラで撮影し、そのときのスペックルコントラストを調べた。デジタルカメラの撮影はスクリーン面に対して略垂直となる角度からスクリーンの中央付近の約1.5cm四方の正方形領域を撮影した。このとき、デジタルカメラの撮影条件は、縦方向200ピクセル×横方向200ピクセル=40000ピクセルの画素数において、各画素の明るさを0〜255の256段階で分析し、上記の式(7)に基づいて、スペックルコントラストを計算した。図11は、位相変調素子20を配置しない場合のスペックルコントラストの値を100%と規格化してスペックルコントラスト比とし、各方式の駆動方法およびパターン数に対するスペックルコントラスト比の結果を示したグラフである。なお、位相変調素子20を配置しない場合のスペックルコントラストは約0.31であった。
【0068】
このように、本発明の駆動方法とすることで、スペックルコントラストが改善しており、パターン数2またはパターン数4の本発明の駆動方法によって低いスペックルノイズの映像を実現することができることがわかった。また、パターンを工夫することによって位相変調素子の各ストライプ電極に接続すべき電気配線を少なくすることができ、位相変調素子20の簡素化とともに電圧制御装置の小型化が実現できた。
【産業上の利用可能性】
【0069】
以上のように、本発明の駆動方法を利用する位相変調素子とすることで、スペックルコントラスト(スペックルコントラスト比)を改善することができ、これよりスペックルノイズが抑制された投射型表示素子を実現することができる。さらに、位相変調素子の各電極に接続する電気配線を共有化することができ、位相補正素子の簡素化および電圧制御装置の小型化が実現でき、有用である。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】投射型表示装置の構成概念図。
【図2】位相変調素子の具体的な構成を示す斜視的模式図および断面模式図。
【図3】透明電極の重なりを示す平面模式図および重なりによってできる区画からできるパターンの一例を示す平面模式図。
【図4】本発明の駆動方法を用いたときのタイムチャート(電圧の時間的変化)。
【図5】市松模様が反転する位相差のパターンを示す平面模式図。
【図6】市松模様が反転する位相差のパターンを繰り返す場合において、本発明の駆動方法を用いたときの別のタイムチャート(電圧の時間的変化)。
【図7】ストライプ電極同士が電気的に接続される構成を示す模式図(区画数:7×6)。
【図8】ストライプ電極同士が電気的に接続される構成を示す模式図(区画数:m×n)。
【図9】スペックルコントラストを評価する評価光学系を示す模式図。
【図10】実施例および比較例におけるパターンを示す平面模式図。
【図11】実施例および比較例によるスペックルコントラスト比の結果を示すグラフ。
【図12】スペックルキャンセラとなる液晶素子の斜視的模式図およびパターンの一例を示す平面模式図。
【図13】従来の駆動方法を用いたときのタイムチャート(電圧の時間的変化)。
【図14】液晶素子に印加する電圧によって液晶の配向が異なることを説明する模式図および印加電圧によって液晶素子を透過する光の位相差を示すグラフ。
【符号の説明】
【0071】
1 半導体レーザ
2 コリメータレンズ
3 偏光子
4 集光レンズ
5 空間変調器
6、66 投影レンズ
7、67 スクリーン
10 投射型表示装置
20 位相変調素子
21、22、112a、112b 透明電極
21a、21b、21c、21d、21e、21f、21g、22a、22b、22c、22d、22e、22f ストライプ電極
23、113 液晶層
24a、24b、111a、111b 透明基板
25、114 シール材
26a、26b 電極引出部
61 光源
63 拡散板
64 電圧制御装置
65 ロッドインテグレータ
110 液晶素子
113a 液晶分子
115 電源
【特許請求の範囲】
【請求項1】
入射するコヒーレント光の位相を変調する位相変調素子であって、
前記位相変調素子は、第1の透明基板の一方の面に第1の透明電極を有し、第2の透明基板の一方の面に第2の透明電極を有して、前記第1の透明基板と前記第2の透明基板との間に液晶層が挟持され、
前記第1の透明電極はm個の領域を有し(m≧3の整数)、前記m個の領域は、第1の方向に延伸して互いに離隔してなるm個の第1のストライプ電極からなり、
前記第2の透明電極はn個の領域を有し(n≧3の整数)、前記n個の領域は、前記第1の方向とは異なる第2の方向に延伸して互いに離隔してなるn個の第2のストライプ電極からなり、
m個の前記第1のストライプ電極を、端部からそれぞれストライプ電極C1、ストライプ電極C2、…、ストライプ電極Cmとし、
iを1〜mのうちいずれかの整数とするとき、iが奇数となる前記ストライプ電極Ciが電気的に接続され、iが偶数となる前記ストライプ電極Ci同士が電気的に接続され、iが奇数となる前記ストライプ電極Ciとiが偶数となる前記ストライプ電極Ci同士が電気的に絶縁されている位相変調素子。
【請求項2】
n個の前記第1のストライプ電極を、端部からそれぞれストライプ電極R1、ストライプ電極R2、…、ストライプ電極Rnとし、
iを1〜nのうちいずれかの整数とするとき、jが奇数となる前記ストライプ電極Rjが電気的に接続され、iが偶数となる前記ストライプ電極Riが電気的に接続され、jが奇数となる前記ストライプ電極Rjとjが偶数となる前記ストライプ電極Rjとが電気的に絶縁されている請求項1に記載の位相変調素子。
【請求項3】
前記第1の方向と前記第2の方向とが直交する請求項1または請求項2に記載の位相変調素子。
【請求項4】
コヒーレント光を発光する光源を少なくとも一つ含む光源部と、
前記光源部が発光した光を変調して画像光を生成する画像光生成部と、
前記画像光を投射する投射部と、を備える投射型表示装置であって、
前記光源部と前記画像光生成部との間の光路中に、電圧制御装置から発する電気信号により通過する光に対して位相を時間的に変化させる請求項1〜3いずれか1項に記載の位相変調素子が配置される投射型表示装置。
【請求項5】
入射するコヒーレント光の位相を変調する位相変調素子であって、前記位相変調素子は、第1の透明基板の一方の面に第1の透明電極を有し、第2の透明基板の一方の面に第2の透明電極を有して、前記第1の透明基板と前記第2の透明基板との間に液晶層が挟持され、前記第1の透明電極はm個の領域を有し(m≧3の整数)、前記m個の領域は、第1の方向に延伸して互いに離隔してなるm個の第1のストライプ電極からなり、前記第2の透明電極はn個の領域を有し(n≧3の整数)、前記n個の領域は、前記第1の方向とは異なる第2の方向に延伸して互いに離隔してなるn個の第2のストライプ電極からなり、m個の前記第1のストライプ電極を、端部からそれぞれストライプ電極C1、ストライプ電極C2、…、ストライプ電極Cmとし、n個の前記第1のストライプ電極を、端部からそれぞれストライプ電極R1、ストライプ電極R2、…、ストライプ電極Rnとし、m個の前記第1のストライプ電極と、n個の前記第2のストライプ電極とが重なってできるm×n個の区画を有する位相変調素子の駆動に際し、
m個の前記第1のストライプ電極は、第1のグループまたは第2のグループいずれかに含まれ、前記第1のグループには電圧V1を印加し、前記第2のグループには電圧V2を印加し、
n個の前記第2のストライプ電極は、第3のグループまたは第4のグループいずれかに含まれ、前記第1のグループには電圧V3を印加し、前記第2のグループには電圧V4を印加し、
前記第1のストライプ電極に印加される最大の電圧値と最小の電圧値の中間の値と、前記第2のストライプ電極に印加される最大の電圧値と最小の電圧値の中間の値は同一であって中間電圧値VAとし、前記中間電圧VAに対する前記第1のストライプ電極に印加される最大の電圧値をVCとし、前記中間電圧VAに対する前記第2のストライプ電極に印加される最大の電圧値をVRとし(VR>VC)、
前記第2のストライプ電極に、+VRおよび−VRの両方が印加される時間を含んで繰り返される最短の時間を周期Tとするとき、前記周期Tのうち前記第2のストライプ電極に|VR|が印加される時間の比であるデューティ比が0.5であり、
前記周期Tにおける前記電圧V1の波形と前記電圧V2の波形は前記中間電圧VAを基準に反転し、前記周期Tにおける前記電圧V3の波形と前記電圧V4の波形は前記中間電圧VAを基準に反転する位相変調素子の駆動方法。
【請求項6】
前記第1のグループは、m個の前記第1のストライプ電極のうちm/2個(小数点以下切捨て)からなり、前記第2のグループは、前記第1のグループではない前記第1のストライプ電極からなり、
前記第3のグループは、n個の前記第2のストライプ電極のうちn/2個(小数点以下切捨て)からなり、前記第4のグループは、前記第2のグループではない前記第2のストライプ電極からなる請求項5に記載の位相変調素子の駆動方法。
【請求項7】
前記第1のグループは、iを1〜mのうちいずれかの整数とするとき、iが偶数となる前記ストライプ電極Ciからなり、前記第2のグループはiが奇数となる前記ストライプ電極Ciからなり、
前記第3のグループは、jを1〜nのうちいずれかの整数とするとき、jが偶数となる前記ストライプ電極Rjからなり、前記第4のグループはjが奇数となる前記ストライプ電極Rjからなる請求項6に記載の位相変調素子の駆動方法。
【請求項1】
入射するコヒーレント光の位相を変調する位相変調素子であって、
前記位相変調素子は、第1の透明基板の一方の面に第1の透明電極を有し、第2の透明基板の一方の面に第2の透明電極を有して、前記第1の透明基板と前記第2の透明基板との間に液晶層が挟持され、
前記第1の透明電極はm個の領域を有し(m≧3の整数)、前記m個の領域は、第1の方向に延伸して互いに離隔してなるm個の第1のストライプ電極からなり、
前記第2の透明電極はn個の領域を有し(n≧3の整数)、前記n個の領域は、前記第1の方向とは異なる第2の方向に延伸して互いに離隔してなるn個の第2のストライプ電極からなり、
m個の前記第1のストライプ電極を、端部からそれぞれストライプ電極C1、ストライプ電極C2、…、ストライプ電極Cmとし、
iを1〜mのうちいずれかの整数とするとき、iが奇数となる前記ストライプ電極Ciが電気的に接続され、iが偶数となる前記ストライプ電極Ci同士が電気的に接続され、iが奇数となる前記ストライプ電極Ciとiが偶数となる前記ストライプ電極Ci同士が電気的に絶縁されている位相変調素子。
【請求項2】
n個の前記第1のストライプ電極を、端部からそれぞれストライプ電極R1、ストライプ電極R2、…、ストライプ電極Rnとし、
iを1〜nのうちいずれかの整数とするとき、jが奇数となる前記ストライプ電極Rjが電気的に接続され、iが偶数となる前記ストライプ電極Riが電気的に接続され、jが奇数となる前記ストライプ電極Rjとjが偶数となる前記ストライプ電極Rjとが電気的に絶縁されている請求項1に記載の位相変調素子。
【請求項3】
前記第1の方向と前記第2の方向とが直交する請求項1または請求項2に記載の位相変調素子。
【請求項4】
コヒーレント光を発光する光源を少なくとも一つ含む光源部と、
前記光源部が発光した光を変調して画像光を生成する画像光生成部と、
前記画像光を投射する投射部と、を備える投射型表示装置であって、
前記光源部と前記画像光生成部との間の光路中に、電圧制御装置から発する電気信号により通過する光に対して位相を時間的に変化させる請求項1〜3いずれか1項に記載の位相変調素子が配置される投射型表示装置。
【請求項5】
入射するコヒーレント光の位相を変調する位相変調素子であって、前記位相変調素子は、第1の透明基板の一方の面に第1の透明電極を有し、第2の透明基板の一方の面に第2の透明電極を有して、前記第1の透明基板と前記第2の透明基板との間に液晶層が挟持され、前記第1の透明電極はm個の領域を有し(m≧3の整数)、前記m個の領域は、第1の方向に延伸して互いに離隔してなるm個の第1のストライプ電極からなり、前記第2の透明電極はn個の領域を有し(n≧3の整数)、前記n個の領域は、前記第1の方向とは異なる第2の方向に延伸して互いに離隔してなるn個の第2のストライプ電極からなり、m個の前記第1のストライプ電極を、端部からそれぞれストライプ電極C1、ストライプ電極C2、…、ストライプ電極Cmとし、n個の前記第1のストライプ電極を、端部からそれぞれストライプ電極R1、ストライプ電極R2、…、ストライプ電極Rnとし、m個の前記第1のストライプ電極と、n個の前記第2のストライプ電極とが重なってできるm×n個の区画を有する位相変調素子の駆動に際し、
m個の前記第1のストライプ電極は、第1のグループまたは第2のグループいずれかに含まれ、前記第1のグループには電圧V1を印加し、前記第2のグループには電圧V2を印加し、
n個の前記第2のストライプ電極は、第3のグループまたは第4のグループいずれかに含まれ、前記第1のグループには電圧V3を印加し、前記第2のグループには電圧V4を印加し、
前記第1のストライプ電極に印加される最大の電圧値と最小の電圧値の中間の値と、前記第2のストライプ電極に印加される最大の電圧値と最小の電圧値の中間の値は同一であって中間電圧値VAとし、前記中間電圧VAに対する前記第1のストライプ電極に印加される最大の電圧値をVCとし、前記中間電圧VAに対する前記第2のストライプ電極に印加される最大の電圧値をVRとし(VR>VC)、
前記第2のストライプ電極に、+VRおよび−VRの両方が印加される時間を含んで繰り返される最短の時間を周期Tとするとき、前記周期Tのうち前記第2のストライプ電極に|VR|が印加される時間の比であるデューティ比が0.5であり、
前記周期Tにおける前記電圧V1の波形と前記電圧V2の波形は前記中間電圧VAを基準に反転し、前記周期Tにおける前記電圧V3の波形と前記電圧V4の波形は前記中間電圧VAを基準に反転する位相変調素子の駆動方法。
【請求項6】
前記第1のグループは、m個の前記第1のストライプ電極のうちm/2個(小数点以下切捨て)からなり、前記第2のグループは、前記第1のグループではない前記第1のストライプ電極からなり、
前記第3のグループは、n個の前記第2のストライプ電極のうちn/2個(小数点以下切捨て)からなり、前記第4のグループは、前記第2のグループではない前記第2のストライプ電極からなる請求項5に記載の位相変調素子の駆動方法。
【請求項7】
前記第1のグループは、iを1〜mのうちいずれかの整数とするとき、iが偶数となる前記ストライプ電極Ciからなり、前記第2のグループはiが奇数となる前記ストライプ電極Ciからなり、
前記第3のグループは、jを1〜nのうちいずれかの整数とするとき、jが偶数となる前記ストライプ電極Rjからなり、前記第4のグループはjが奇数となる前記ストライプ電極Rjからなる請求項6に記載の位相変調素子の駆動方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
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【図11】
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【図13】
【図14】
【公開番号】特開2010−91898(P2010−91898A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−263482(P2008−263482)
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年10月10日(2008.10.10)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】
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