説明

位相差フィルムの製造方法

【課題】少ない枚数で目的とするRおよびR’を満足し、しかも高温暴露時にコントラストのムラの発生が少ない液晶表示装置を与え得る位相差フィルムを製造する。
【解決手段】光弾性係数が40×10-13cm2/dyne 以下であり、R’値発現性が0.5nm/μm 以上であるセルロース系高分子を溶剤に溶解して溶液を得、この溶液を基材上に流延し、乾燥してフィルムに製膜し、次いで、そのフィルムを基材から剥離後延伸するか、または、そのフィルムに溶剤が10重量%以上残留している状態で、前記高分子のガラス転移温度以下の温度でフィルムに応力を加えることにより、厚み(d)が300μm 以下であり、フィルム面内のレターデーション(R)が100nm以下であり、フィルムの厚み方向のレターデーション(R’)が100nm以上であり、R’/Rが2以上であるフィルムを得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位相差フィルム、特に、液晶表示装置の視野角度を拡大すると同時に高温暴露時にコントラストのムラの発生を軽減することができる位相差フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置(以下、「LCD」と称することもある)は、時計、電卓などの小型のものから、パソコン、ワープロ、テレビなどの大形のものまで広く用いられるようになっている。かかるLCDの中でも、表示される画面の品質に優れているものとして、例えば、正の誘電率異方性を有するネマチック液晶分子を用い、薄膜トランジスター(TFT)により駆動する90度捩じれネマチック型液晶表示装置、負の誘電率異方性を有するネマチック液晶分子を用いた垂直配向ネマチック型液晶表示装置や、ハイブリッド配向型液晶表示装置、ベンド配向型液晶表示装置などが挙げられる。これらのLCDは、正面から見た場合には、表示画面の画質に優れているが、斜め方向から見た場合には、コントラストが低下したり、階調表示で明るさが逆転する階調反転が発生したりする場合があり、一般的に視野角度が狭いものであった。
【0003】
かかるLCDの視野角度を拡大し、斜め方向から見た場合にも高いコントラストを維持し、階調反転が発生し難い液晶表示装置として、視野角補償用の位相差フィルムを用いたものも知られている。視野角補償用の位相差フィルムとしては、例えば、面内のレターデーション(R)が概ね0であり、フィルム面に垂直な方向に光学軸を有する負の一軸性位相差フィルム、Rが100nm以下であり、フィルムの厚み方向の位相差(R’)が100nm以上である二軸性の位相差フィルムなどが知られている。そして、これらの位相差フィルムの材質としては、例えば、ポリカーボネート系高分子、ポリアリレート系高分子、ポリエステル系高分子などの芳香族系高分子や、アクリル系高分子、環状ポリオレフィン系高分子などが知られている(特開平 11-95208 号公報など)。
【0004】
【特許文献1】特開平11−95208号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、芳香族系高分子からなる位相差フィルムを用いたLCDは、高温に暴露した際にコントラストのムラが発生しやすいという問題があった。また、アクリル系高分子や環状ポリオレフィン系高分子からなるフィルムは、1枚では面内のレターデーション(R)やフィルムの厚み方向のレターデーション(R’)を目的とする液晶表示装置が要求する値とすることができず、2枚または3枚以上を重ね合わせて用いる必要がある場合があった。
【0006】
そこで、本発明者らは、少ない枚数で目的とするRおよびR’を満足し、しかも高温暴露時にコントラストのムラの発生が少ない液晶表示装置を与え得る位相差フィルムを開発するべく鋭意検討した結果、特定の光弾性係数およびR’値発現性を有する高分子は、液晶表示装置の視野角度を拡大する視野角補償用の位相差フィルムとなし得ること、かかる位相差フィルムを用いた液晶表示装置は、高温暴露時にコントラストのムラの発生が少ないことを見出し、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明による位相差フィルムの製造方法は、光弾性係数が40×10-13cm2/dyne以下であり、R’値発現性が0.5nm/μm以上であるセルロース系高分子を溶剤に溶解して溶液を得、この溶液を基材上に流延し、乾燥してフィルムに製膜し、次いで、そのフィルムを基材から剥離後、延伸するか、または、そのフィルムに溶剤が残留している状態で、高分子のガラス転移温度以下の温度でフィルムに応力を加えることによって、厚み(d)が300μm 以下であり、フィルム面内のレターデーション(R)が100nm以下であり、フィルムの厚み方向のレターデーション(R’)が100nm以上であり、R’/Rが2以上であるフィルムを得るものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、1枚で使用しても液晶表示装置の視野角度を十分に拡大することができ、また高温に曝した際のコントラストのムラを少なくすることができる位相差フィルムが、製造可能となる。
【発明の実施の形態】
【0009】
本発明で製造対象とする位相差フィルムは、その厚み(d)が300μm 以下であり、通常は30μm 以上である。フィルム面内のレターデーション(R)は、100nm以下、好ましくは75nm以下であり、その下限は0である。なお、フィルム面内のレターデーション(R)は、下記計算式(1)により算出される値である。
【0010】
R=(nX−nY)×d (1)
〔式中、nXはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率を、nYはフィルム面内の遅相軸と垂直方向の屈折率を、dはフィルムの厚みをそれぞれ表す。〕
【0011】
フィルムの厚み方向のレターデーション(R’)は、100nm以上、好ましくは100〜500nmの範囲、さらに好ましくは150〜250nmの範囲である。なお、フィルムの厚み方向のレターデーション(R’)は、下記計算式(2)により算出される値である。
【0012】
R’=〔(nX+nY)/2−nZ〕×d (2)
〔式中、nZ はフィルムの厚み方向の屈折率を表し、nX、nYおよびdはそれぞれ上記と同じ意味を表す。〕
【0013】
フィルムの厚み方向のレターデーション(R’)と、フィルム面内のレターデーション(R)との比(R’/R)は、2以上とする。なお、(R’/R)の上限は特に限定されないが、通常は1000以下である。
【0014】
この位相差フィルムは、光弾性係数が40×10-13cm2/dyne以下であり、R’値発現性が0.5nm/μm以上である熱可塑性高分子から製造される。位相差フィルムを構成する熱可塑性高分子の光弾性係数は、その絶対値が40×10-13cm2/dyne以下、好ましくは10×10-13cm2/dyne以下である。光弾性係数が40×10-13cm2/dyneを越えると、高温暴露時にレターデーションが不均一となりやすく、液晶表示装置に用いた場合のコントラストのムラが発生しやすくなる傾向にある。なお、光弾性係数の絶対値の下限は0である。
【0015】
またこの高分子は、そのR’値発現性が0.5nm/μm以上であるが、ここでR’値発現性とは、高分子を溶剤キャスト法により製膜し、乾燥して得た、厚みが50〜150μm の範囲にあるフィルムの厚み方向のレターデーション(R’)をフィルムの厚み(d)で除した値である。R’値発現性は、1.0nm/μm以上であることが好ましい。
【0016】
上記の如き光弾性係数およびR’値発現性を満足する高分子として、本発明では、二酢酸セルロースなどのセルロース系高分子を用いる。
【0017】
かかる位相差フィルムは、光弾性係数が40×10-13cm2/dyne以下であり、R’値発現性が0.5nm/μm以上であるセルロース系高分子から、溶剤キャスト法により製造することが、均一な厚みのフィルムが得られる点で、好ましい。溶剤キャスト法は、高分子を溶剤に溶解して溶液を得、この溶液を基材上に流延し、乾燥してフィルムに製膜し、次いでそのフィルムを基材から剥離する方法である。基材としては、例えば、ステンレス製ベルト、ステンレス製ドラム、表面が離型処理されたポリエチレンテレフタレートフィルム(離型PETフィルム)などが挙げられる。かかる溶剤キャスト法により製造された位相差フィルムは、厚み(d)、フィルム面内のレターデーション(R)およびフィルムの厚み方向のレターデーション(R’)の均一性に優れている。
【0018】
こうして得られる位相差フィルムは、厚みが300μm 以下となるようにするが、溶剤キャスト法は、かかる厚みで均一なレターデーション(R、R’)の位相差フィルムを安定して製造し得る点でも、好ましい製造方法である。溶剤キャスト法により好ましく製造される位相差フィルムの厚みは、30〜200μm であり、さらには50〜150μm である。
【0019】
かくして得られるフィルムをさらに延伸してもよい。溶剤キャスト法により製造されたフィルムは、面内のレターデーション(R)が比較的小さいので、一軸延伸をすることにより、フィルム面内のレターデーション(R)を目的とする値に調整することもできる。かかる一軸延伸におけるフィルムのネックイン率は、10%以下であることが好ましい。
【0020】
また、溶剤キャスト法によりフィルムを製造する過程において、基材上に製膜した後のフィルムに溶剤が残留している状態で、高分子のガラス転移温度以下の温度、好ましくは100℃以下の温度でフィルムに応力を加えてもよい。例えば、基材上に製膜されたフィルムを基材から剥離することなく、基材を湾曲させれば、流延方向の応力が加えられる。応力を加える際のフィルムに残留する溶剤の量は、10重量%以上であるのが好ましい。また、フィルムを基材から剥離する際に応力を加えてもよいし、剥離後に応力を加えてもよい。
【0021】
こうして得られた位相差フィルムは、残留応力が小さいので、高温に曝された際の応力の発生が少なく、レターデーション(R、R’)が不均一になることが少ない。
【0022】
かくして得られる位相差フィルムが、目的とする液晶表示装置により要求される厚み方向のレターデーション(R’)よりも小さい値のR’を有する場合には、そのフィルムの表面に、光学軸がフィルム法線方向にある位相差層を積層して複合位相差フィルムとすることにより、R’を調整してもよい。なお、位相差層の光学軸は、厳密にフィルム法線方向であることが最も好ましいが、実用的には、概ねフィルム法線方向にあればよい。
【0023】
かかる位相差層としては、例えば、無機層状化合物を含む層や円盤状有機化合物を含む層などが挙げられ、この層は通常、フィルムの表面に直接設けられる。また、無機層状化合物を用いた位相差フィルムや円盤状有機化合物を用いた位相差フィルムを、感圧性接着剤を用いて、本発明により得られる位相差フィルムに積層してもよい。無機層状化合物を含む層としては、例えば、有機粘土複合体および疎水性樹脂を含む層(特開平 5-196819 号公報、特開平 10-104428号公報)が好ましい。また、円盤状有機化合物を含む層としては、例えば、ディスコティック液晶を含む層(ドイツ連邦共和国特許 DE 39 11 620 A1号公報)が好ましい。
【0024】
本発明により得られる位相差フィルムは、例えば、直線偏光フィルムと積層された複合偏光フィルムとして用いることができる。位相差フィルムと直線偏光フィルムとは通常、透明で光学的に等方性の接着剤からなる層を介して積層され、かかる接着剤としては、通常、アクリル系感圧性接着剤、ウレタン系感圧性接着剤などの感圧性接着剤(粘着剤)が用いられる。
【0025】
位相差フィルムと直線偏光フィルムとが積層された複合偏光フィルムは、位相差フィルムの面内の遅相軸と直線偏光フィルムの吸収軸とが平行または直交していることが好ましい。位相差フィルムの遅相軸と直線偏光フィルムの吸収軸とが平行または直交している複合偏光フィルムを用いた液晶表示装置は、両軸が例えば45°で交わっている複合偏光フィルムを用いた液晶表示装置と比較して、高温に曝した際にコントラストのムラの発生がより低減される。
【0026】
なお、かかる複合偏光フィルムにおいて、位相差フィルムは、光学軸がフィルム法線方向にある位相差層と積層された前記複合位相差フィルムとして、直線偏光フィルムに積層されてもよい。
【0027】
本発明により得られる位相差フィルムは、液晶表示装置に用いられ、液晶表示装置の視野角度を拡大する視野角補償用の位相差フィルムとして用いることができる。この位相差フィルムを用いた液晶表示装置としては、例えば、液晶セルと、その液晶セルの上下に配置された一対の直線偏光フィルムからなり、一対の直線偏光フィルムはその吸収軸が互いに平行または直交するように配置されている液晶表示装置であって、上記の位相差フィルムが、液晶セルと直線偏光フィルムとの間の少なくとも一方に少なくとも1枚配置されている液晶表示装置などを挙げることができる。
【0028】
かかる液晶表示装置における液晶セルは、例えば、互いに透明電極層が対向するように配置された2枚の透明電極板の間に液晶分子が挟持されている液晶セルであり、具体的には、次のようなものを挙げることができる。
【0029】
(1) 透明電極板は、透明基板上に透明電極層が形成され、その透明電極層の上に垂直配向膜が形成されている透明電極板であり、液晶分子は、正または負の誘電率異方性を有するネマチック液晶分子であり、この液晶分子は、透明電極板間に電圧を印加しない状態では液晶分子長軸が透明基板に対して概ね垂直な方向に配向している、VA型液晶セル、
【0030】
(2) 透明電極板は、透明基板上に透明電極層が形成され、その透明電極層の上に水平配向膜が形成されている透明電極板であり、液晶分子は、正の誘電率異方性を有するネマチック液晶であり、この液晶分子は、透明電極板間に電圧を印加しない状態では液晶分子長軸が透明基板に対して概ね水平な方向に配向し、透明基板に対して垂直な方向に螺旋軸を有していて90°ねじれた構造になっている、TN型液晶セル、
【0031】
(3) 一方の透明電極板は、透明基板上に透明電極層が形成され、その透明電極層の上に垂直配向膜が形成されている透明電極板であり、他方の透明電極板は、透明基板上に透明電極層が形成され、その透明電極層の上に水平配向膜が形成されている透明電極板であり、液晶分子は、正または負の誘電率異方性を有するネマチック液晶分子であり、この液晶分子は、透明電極板間に電圧を印加しない状態ではハイブリッド配向している、ハイブリッド配向(HA)型液晶セル、
【0032】
(4) 透明電極板は、透明基板上に透明電極層が形成され、その透明電極層の上に垂直配向膜が形成されている透明電極板であり、液晶分子は、正または負の誘電率異方性を有するネマチック液晶分子であり、この液晶分子は、透明電極板間に電圧を印加しない状態ではベンド配向している、ベンド配向(BA)型液晶セルなど。
【0033】
かかる液晶表示装置において、一対の直線偏光フィルムは、その吸収軸が互いに厳密に平行または直交していてもよいが、実用的に平行であるか直交しているとみなせる程度であってもよい。
【0034】
かかる液晶表示装置において、本発明により得られる位相差フィルムは、液晶セルとその上に配置される直線偏光フィルムとの間に配置されてもよい。この場合、位相差フィルムは、通常、上に直線偏光フィルムが積層された状態で配置され、その直線偏光フィルムと共に複合偏光フィルムを構成する。また、本発明により得られる位相差フィルムは、液晶セルとその下に配置される直線偏光フィルムとの間に配置されてもよい。この場合、位相差フィルムは、通常、下に配置される直線偏光フィルムと積層された状態で配置され、その直線偏光フィルムと共に複合偏光フィルムを構成する。液晶セルとその上に配置される直線偏光フィルムとの間および液晶セルとその下に配置される直線偏光フィルムとの間に、それぞれ本発明により得られる位相差フィルムが配置されてもよい。いずれの場合であっても、本発明により得られる位相差フィルムは、光学軸がフィルム法線方向にある位相差層と積層された前記複合位相差フィルムとして、直線偏光フィルムに積層されてもよい。
【0035】
本発明により得られる位相差フィルムは、通常、その面内の遅相軸が直近に配置される直線偏光フィルムの吸収軸に対して平行または直交するように配置される。なお、位相差フィルムの遅相軸と直線偏光フィルムの吸収軸とは、厳密に平行または直交していてもよいが、実用的に平行であるか直交しているとみなせる程度であってもよい。
【0036】
また、かかる液晶表示装置において、直線偏光フィルムは、その吸収軸が液晶表示装置の表示画面の水平方向に対して平行または直交するように配置されることが、高温に曝された際に発生しやすいコントラストのムラをより低減できる点で、好ましい。なお、直線偏光フィルムの吸収軸は、表示画面の水平方向に対して厳密に平行または直交していてもよいが、実用的に平行であるか直交しているとみなせる程度であってもよい。
【0037】
本発明により得られる位相差フィルムは、2枚またはそれ以上を重ね合わせて配置されてもよいが、通常は1枚配置することにより、十分に視野角度を拡大することができる。また、この位相差フィルムは、光学軸がフィルム法線方向にある位相差層と積層された前記複合位相差フィルムとして配置されてもよい。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、各実施例において得られた位相差フィルムは、以下の方法で評価した。
【0039】
(1) フィルム面内のレターデーション(R)およびフィルムの厚み方向のレターデーション(R’)の測定
レターデーション測定装置〔“KOBRA-21ADH ”、王子計測機器(株)製〕を用い、波長590nmにおける値をそれぞれ測定した。
【0040】
(2) R’値発現性
製膜、乾燥後のフィルムの厚み(d)とフィルム厚み方向のレターデーション(R’)とを測定し、R’/dとして算出した。なお、製膜、乾燥後の位相差フィルムに別の位相差層を積層した場合も、その積層体についてR’/dを算出したが、本発明で規定する
R’値発現性は、先の定義から明らかなように、積層前の高分子位相差フィルムに対する値をいう。
【0041】
(3) 高分子の光弾性係数
製膜、乾燥後のフィルムに荷重を加えながらフィルム面内のレターデーション(R)を測定し、これをフィルムの厚み(d)で割ってΔn(=R/d)を求める。荷重を変えながらΔnを求め、荷重−Δn曲線を作成して、その傾きを光弾性係数とした。フィルム面内のレターデーション(R)は、レターデーション測定装置〔“オプチフォト−ポル”、(株)ニコン製〕を用い、波長546nmにおける値を測定した。
【0042】
(4) 高温暴露試験
位相差フィルムを流延方向に平行に8cm、幅方向に平行に6cmとなるように切り出し、その一方の面に第一の直線偏光フィルム〔“スミカラン SQW852A”、住友化学工業(株)製〕を、位相差フィルムの遅相軸と直線偏光フィルムの吸収軸とが45°で交わるように感圧性接着剤を用いて積層する。次に、位相差フィルムの他方の面全面を覆うよう、厚み1.1mm のガラス板を、感圧性接着剤を用いて積層する。ガラス板の裏面には、第二の直線偏光フィルム〔“スミカラン SQW852A”〕を、その吸収軸が第一の直線偏光板の吸収軸と直交するように配置して、試験サンプルを得る。この試験サンプルを点灯したランプボックスの上に載置し、85℃恒温槽の中に30分以上放置する。その後、恒温槽に設けられた観察窓から、試験サンプルの光抜けの状態を目視で観察する。
【0043】
参考例1
二酢酸セルロースフィルム〔富士写真フィルム(株)製〕を裁断した後、塩化メチレン(90重量%)とエチルアルコール(10重量%)との混合溶媒に、固形分が15重量%となるように溶解して溶液を得た。この溶液を、表面が離型処理された離型PETフィルムの上に流延した。次いで、5分間室温で風乾してフィルムに製膜したのち、離型PETフィルムからこのフィルムを、応力が加わらないように剥離し、50℃で10分間乾燥して、二酢酸セルロースからなる厚み84μm の位相差フィルムを得た。この位相差フィルムの評価結果を表1に示す。なお、この位相差フィルムの平均屈折率は1.48とした。
【0044】
参考例2
離型PETフィルムの上に流延させる溶液の量を変える以外は、参考例1と同様に操作して、厚み110μm の位相差フィルムを得た。この位相差フィルムの評価結果を表1に示す。なお、この位相差フィルムの平均屈折率は1.48とした。
【0045】
実施例1
参考例1と同様に操作して、離型PETフィルムの上に二酢酸セルロースの溶液を流延し、5分間室温で風乾したのち、離型PETフィルムの上に製膜されたフィルムを保持したままの状態で、離型PETフィルム側が内側になるように湾曲させた。その後、製膜されたフィルムを応力が加わらないようにしながら剥離し、50℃で10分間乾燥して、厚み102μm の位相差フィルムを得た。この位相差フィルムの評価結果を表1に示す。なお、この位相差フィルムの平均屈折率は1.48とした。
【0046】
実施例2
離型PETフィルムの上に流延させる溶液の量を変える以外は、実施例1と同様に操作して、厚み103μm の位相差フィルムを得た。この位相差フィルムの評価結果を表1に示す。なお、この位相差フィルムの平均屈折率は1.48とした。
【0047】
参考例3
離型PETフィルムの上に流延させる溶液の量を変える以外は、参考例1と同様に操作して、厚み73μm の位相差フィルムを得た。この位相差フィルムの評価結果を表1に示す。なお、この位相差フィルムの平均屈折率は1.48とした。
【0048】
参考例4
参考例3で得たフィルムの一方の面に、有機スメクタイト(有機粘土複合体)およびポリビニルブチラール(疎水性樹脂)からなる分散液を塗布し、乾燥することにより、厚み11μm の無機層状化合物含有層を設け、複合位相差フィルムを得た。この複合位相差フィルムの評価結果を表1に示す。なお、この複合位相差フィルムの平均屈折率は 1.50とした。
【0049】
比較例1
ポリカーボネート系高分子〔“パンライト C-1400 ”、帝人化成(株)製〕を、塩化メチレンに固形分が20重量%となるように溶解し、溶液を得た。この溶液を離型PETフィルム上に流延し、5分間室温で乾燥してフィルムに製膜し、このフィルムを離型PETフィルムから応力が加わらないように剥離し、50℃で10分間乾燥して、厚み66μm の位相差フィルムを得た。この位相差フィルムの評価結果を表1に示す。なお、この位相差フィルムの平均屈折率は1.59とした。
【0050】
参考例5
液晶セルとその上下に配置された一対の直線偏光フィルムからなる液晶表示装置の液晶セルと直線偏光板との間に、参考例1〜3、実施例1〜2及び参考例4で得たいずれかの位相差フィルムを配置して得られる液晶表示装置は、視野角度が広く、しかも、高温に曝した際のコントラストのムラが少ない。
【0051】
[表1]
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厚みd R R’ R'/R R'/d 光弾性係数 高温暴露
(μm) (nm) (nm) (nm/μm) (cm2/dyne) 試験
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参考例1 84 0.6 221 368 2.6 7×10-13
参考例2 110 0.4 254 635 2.3 7×10-13
────────────────────────────────────
実施例1 102 24.5 220 9 2.2 7×10-13
実施例2 103 18.7 233 12 2.3 7×10-13
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参考例3 73 2.7 146 54 2.0 7×10-13
────────────────────────────────────
参考例4 84 2.8 350 125 4.2 − ○
────────────────────────────────────
比較例1 66 13.3 65 5 1.0 56×10-13 ×
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○:試験サンプルに光の抜けが観察されなかった。
×:試験サンプルの短辺に光の抜けが観察された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光弾性係数が40×10-13cm2/dyne以下であり、R’値発現性が0.5nm/μm以上であるセルロース系高分子を溶剤に溶解して溶液を得、この溶液を基材上に流延し、乾燥してフィルムに製膜し、次いで、
該フィルムを基材から剥離後、延伸するか、または、
該フィルムに溶剤が10重量%以上残留している状態で、前記高分子のガラス転移温度以下の温度でフィルムに応力を加えることによって、
厚み(d)が300μm 以下であり、フィルム面内のレターデーション(R)が100nm以下であり、フィルムの厚み方向のレターデーション(R’)が100nm以上であり、R’/Rが2以上であるフィルムを得ることを特徴とする位相差フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記フィルムを基材から剥離後、ネックイン率10%以下の条件で一軸延伸する請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
基材上に製膜した後の前記フィルムに溶剤が10重量%以上残留している状態で、前記高分子のガラス転移温度以下の温度でフィルムに流延方向の応力を加える請求項1に記載の製造方法。

【公開番号】特開2006−3908(P2006−3908A)
【公開日】平成18年1月5日(2006.1.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−197121(P2005−197121)
【出願日】平成17年7月6日(2005.7.6)
【分割の表示】特願平11−200190の分割
【原出願日】平成11年7月14日(1999.7.14)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】