説明

位置・立体選択的安定同位体標識セリン、シスチン並びにアラニンの合成方法

【課題】あらゆる標識パターンを有する位置立体選択的同位体標識セリン、アラニン及びシスチン(及び/又はシステイン)を高い不斉収率で比較的安価に合成できる汎用性の高い合成方法を提供すること。
【解決手段】特定のグリシン誘導体及びギ酸誘導体を用いて、安定同位体標識デヒドロセリン誘導体を合成し、これを不斉還元すると、希望の位置に安定同位体標識したセリンを得ることができ、このようにして調製した安定同位体標識セリンの側鎖官能基変換すると希望の位置に安定同位体標識したアラニンとシスチンを得ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蛋白質のNMR構造解析に有用な安定同位体標識セリン、シスチン並びにアラニンに合成方法に関する。特に、本発明はSAIL法のみにとどまらず広く安定同位体利用NMR法に利用するための位置・立体選択的同位体標識アミノ酸の合成法に関する。
【背景技術】
【0002】
遺伝情報の総体であるヒトゲノムについての分析がほぼ終了した今、ゲノムから実際に作られるタンパク質の立体構造解析や機能解明などが、ゲノムの次の研究分野、いわゆる「ポストゲノム」として焦点になっている。その重要な分野の1つが構造に基づいた機能解析であり、その主流がX線やNMRを用いたハイスループット構造解析である。しかし、機能発現のメカニズムを解明するために重要な溶液中での動的な立体構造は、X線単結晶構造解析では決定困難である。これを可能にする唯一の実験手法がNMR法である。
NMR法によるタンパク質の構造決定において、シグナルのオーバーラップの問題と、急速な緩和によるシグナル強度の低下の問題を考えなければならない。特に分子量が2万を超えるような場合シグナルのオーバーラップが激しくなり、多核種多次元NMRを駆使したとしても誤りのない解析をするにはある程度の熟練度を必要とする。
これらの問題を解決する方法として、高度安定同位体標識タンパク質を用いた構造解析法「Stereo-Array Isotope-Labeling法(SAIL法)」がある。このSAIL法は、タンパク質中のすべての核を位置及び立体を厳密に指定して2H(D)、13C、15N-標識したタンパク質をNMR測定・解析に用いるという全く新しい技術である。即ち、タンパク質の水素原子のうち立体構造決定に最低限必要な水素原子のみを残して全て重水素置換することにより、従来の限界を越えた高分子量タンパク質のNMRスペクトルの迅速・確実な解析、立体構造の高精度決定を同時に達成することを可能にしている。SAIL法は、主に次の3つの要素技術から成り立っている。
(1)位置・立体選択的多重同位体標識アミノ酸の不斉合成、
(2)位置・立体選択的多重同位体標識アミノ酸からなるタンパク質の調製、
(3)標識タンパク質のNMR測定・解析。
【0003】
甲斐荘ら(非特許文献1)やD. J. Aberhartら(非特許文献2)は、デヒドロセリンの接触還元により目的とする重水素化セリンを得る方法を報告している。しかしながら、この手法で得られるセリンは鏡像異性体の混合物であるため、本目的に適う立体選択的重水素標識アミノ酸を得ることはできない。
一方、D. Ganiら(非特許文献3)による報告は、比較的簡便に得られる立体選択的重水素標識アスパラギン酸を出発原料に用いて、目的とする立体選択的重水素標識セリンを得る手法を報告している。しかし、この手法はβ位の立体選択性が90%と低くまた収率も低いため本目的に適う手法とはいえない。
B. S. Axelessonら(非特許文献4)による報告では、フマル酸を出発原料とし立体選択的重水素標識セリンの合成を可能にしている。しかしながら本手法は、シスチンの合成も可能としているものの、得られるアミノ酸はD体であり、また合成の工程数も多いことから高価な安定同位体標識原料を用いる本目的に適う合成法とはいえない。
我々は特許文献1に示されるように、13C、15N均一標識セリンを出発原料とし、アルデヒドの還元的不斉重水素化を経由するSAILセリン、シスチンの合成法を開示した。ここで示した合成法は、光学純度は十分ではあるものの合成の収量が低かったことから、高収率のセリン、シスチンの合成法の開発が求められていた。
【0004】
また、アラニンの合成に関しては、すでに多くの合成法が紹介されている (例えば、非特許文献5及び6を参照) 。これらの方法によれば同位体原料さえ入手できれば目的とするSAILアラニンの合成は可能であるものの、原料の入手が困難であったり、目的とするSAILアラニンの光学純度が低かったりすることなどから最適な合成法の開発が求められていた。
以上のように、今までいくつか位置・立体選択的同位体標識セリン、シスチン、アラニンの合成法が報告されているが、これらの手法ではタンパク質の構造解析に用いるアミノ酸合成に必要な高い立体選択性や、高価な安定同位体原料を使用するに十分な収率ではなかった。
また、今後はさまざまな同位体標識パターンのアミノ酸を利用し蛋白質中の局所構造や運動性の解析方法の需要も高まることが予想され、あらゆる標識パターンに対応できる合成法の開発が求められている。
【0005】
【特許文献1】WO03/053910A1
【非特許文献1】M. Kainosho, K. Ajisaka, J. Am. Chem. Soc. 1975, 5630-5631.
【非特許文献2】D. J. Aberhart, D. J. Russell, J. Am. Chem. Soc., 1984, 106、4902-4906
【非特許文献3】D. Gani, D. W. Young, J. Chem. Soc. Perkin Trans. 1, 1983, 2393-2398
【非特許文献4】B. S. Axelesson, K. J. OToole, P. A. Spencer, D. W. Young, J. Chem. Soc. Chem. Commun, 1991, 1085-1086
【非特許文献5】Greenstein and Winits, Chemistry of the amino acids,John Wiley & Sons Inc., Vol3,1824-1830
【非特許文献6】Robert M. Williams、 Synthesis of Optically Active α-Amino Acids, PergamonPress
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、あらゆる標識パターンを有する位置立体選択的同位体標識セリン、アラニン及びシスチン(及び/又はシステイン)を高い不斉収率で比較的安価に合成できる汎用性の高い合成方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、特定のグリシン誘導体及びギ酸誘導体を用いて、安定同位体標識デヒドロセリン誘導体を合成し、これを不斉還元すると、希望の位置に安定同位体標識したセリンを得ることができるとの知見に基づいてなされたのである。尚、デヒドロセリンのようなエノールエーテルの不斉還元は過去に例が少なく、また不斉還元を利用した不斉重水素化においては過去に例がない。
又、このようにして調製した安定同位体標識セリンの側鎖官能基変換すると希望の位置に安定同位体標識したアラニンとシスチンを得ることができるとの知見に基づいてなされたのである。尚、標識セリンの側鎖官能基変換による標識アラニンとシスチンの合成は過去に殆ど例がない。
【0008】
すなわち、本発明は、一般式(1)で表されるグリシン誘導体
ANHCH2COOR1 (1)
(式中、Aはアミノ保護基、R1はアルキル基を表す。)
を、一般式(2)で表されるギ酸誘導体
XCOOR (2)
(式中、Dは水素又は重水素、Rはアルキル基を表す。)
と縮合させ、次いでヒドロキシ保護剤を用いてヒドロキシ保護して、一般式(4)で表される化合物を得、



(式中、R2はヒドロキシ保護基、A、R1及びDは一般式(1)及び(2)で規定した通りである。)
得られた一般式(4)で表される化合物を、水素ガス若しくは重水素ガス存在下、不斉還元触媒を用いて還元して一般式(5)で表される化合物を得、



(式中、Y1及びY2はそれぞれ独立して水素又は重水素を表し、A、R1、D及びR2は
【0009】
一般式(1)、(2)及び(4)で規定した通りである。)
次いで、任意工程として、得られた一般式(5)で表される化合物を脱保護して、一般式(6)で表されるセリン



(式中、A、R1、D、Y1、Y2及びR2は一般式(1)、(2)、(4)及び(5)で規定した通りである。)
を得ることを特徴とする一般式(5)で表されるセリン誘導体又は一般式(6)で表されるセリンの合成方法を提供する。
【0010】
本発明は、又、一般式(7)で表されるセリン誘導体



(式中、X、Y1及びY2はそれぞれ独立して水素又は重水素、R3はカルボキシ保護基、R4はアミノ保護基を表す。)
の側鎖水酸基を脱離基に変換して、一般式(8)で表される化合物



(式中、R5は脱離基、R3、R4、X、Y1及びY2は一般式(7)で規定した通りである。)
に変換した後、還元することを特徴とする一般式(9)で表されるアラニンの合成方法を提供する。



(式中、Zは水素または重水素、X、Y1及びY2は一般式(7)で規定した通りである。)
【0011】
本発明は、又、一般式(7)で表されるセリン誘導体



(式中、X、Y1及びY2はそれぞれ独立して水素又は重水素、R3はカルボキシ保護基、R4はアミノ保護基を表す。)
の側鎖水酸基を脱離基に変換して、一般式(8)で表される化合物



(式中、R5は脱離基、R3、R4、X、Y1及びY2は一般式(7)におけると同じ意味を有する。)
に変換した後、SH基導入剤と反応させ、次いで脱保護及びおよびイオン交換処理して、
【0012】
一般式(10)で表されるシステイン



(式中、X、Y1及びY2はそれぞれ独立して水素又は重水素を表す。)
を得、又は所望により、イオン交換処理の際に、空気を含む雰囲気に暴露することにより一般式(11)で表されるシスチン



(式中、X、Y1及びY2はそれぞれ独立して水素又は重水素を表す。)
を得ることを特徴とする一般式(9)で表される一般式(10)で表されるシステイン又は一般式(11)で表されるシスチンの合成方法を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、希望の位置に安定同位体標識したセリン、アラニンとシスチン(及び/又はシステイン)を容易に合成することができる。従来技術に示したように、従来法では蛋白質の構造解析に用いるために十分な立体選択性を有するセリン、アラニンとシスチン(及びシステイン)は多くの工程数を経なければ合成することができず、結果として収率が低くなるという欠点があった。逆に、安定同位体を利用した製造に十分な簡便さと収率を得るためには、得られるセリンやシスチンの光学純度を犠牲しなければならず、本目的にあった合成法はなかった。これに対して本発明では比較的安価である2H、13C、15N-多重標識したグリシンやギ酸を原料としデヒドロセリン誘導体へ誘導した後、キラル触媒を用いて不斉重水素化することにより光学純度の高いセリンを効率よく製造できる。得られたセリンの水酸基を化学変換することにより、アラニン、シスチン(及びシステイン)を容易に合成することができることから、従来は別々の経路で合成していたアラニン、シスチン(及びシステイン)効率よく合成することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
先ず、位置・立体選択的安定同位体標識セリンの合成方法について説明する。
位置・立体選択的安定同位体標識セリン(SAILセリン)は、以下に示す合成スキームに基づいて合成することができる。
SAILセリンの合成スキーム


【0015】
本発明をより詳しく説明する。
本発明の位置立体選択的同位体標識セリンの合成において、原料として使用する安定同位体標識ギ酸及びグリシンはどのような位置に安定同位体を有するものであってよい。また、安定同位体の数も限定されず、複数の安定同位体を有するものであってよい。具体的には、[1-13C]グリシン、[2-13C]グリシン、[1,2-13C2]グリシン、[1,2-12C2]グリシン等、[1-13C;15N]グリシン、[2-13C;15N]グリシン、[1,2-13C2;15N]グリシン或いは[1,2-12C2;15N]グリシン等が例示される。またギ酸においても[13C]ギ酸、[2H]ギ酸、[2H;13C]ギ酸或いは[1H;12C]ギ酸等が例示される。これらを原料に用いてデヒドロセリン誘導体を合成し、水素ガス或いは重水素ガスを用いて不斉還元することにより、あらゆる標識パターンのセリンを合成することができる。
ギ酸とグリシンをデヒドロセリン誘導体へ誘導するためには、まず各々を定法に従い化合物(1)(R1はアルキル基、好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、特に好ましくはメチル基、エチル基)及び化合物(2)(Rはアルキル基、好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、特に好ましくはメチル基、エチル基、Xは水素もしくは重水素)へ変換する。
次いで得られた化合物(1)及び化合物(2)を文献(M. Kainosho, K. Ajisaka, J. Am. Chem. Soc. 1975, 5630-5631.)に従って縮合させてデヒドロセリン誘導体(3)を得る。具体的には、化合物(1)と化合物(2)を1/1〜1/1.5のモル比で、アルコールなどの溶媒、例えば、エタノール、重水素化エタノール(EtOD)などを用い、これに溶解したアルカリ金属、例えば、金属ナトリウムの存在下、10〜40℃、好ましくは常温で縮合させるのがよい。反応時間は、5日〜10日であるのが好ましい。
【0016】
得られたデヒドロセリン誘導体(3)を単離し、又は単離することなく、ヒドロキシ保護剤を用いて化合物(4)(R2は好ましくは置換基を有してもよいアルキルカルボニル基、置換基を有してもよいアリールカルボニル基、又はアルキル及び/又はアリール置換シリル基、より好ましくは炭素数2〜10のアルキルカルボニル基、炭素数7〜11のアリールカルボニル基、炭素数3〜16のアルキル及び/又はアリール置換シリル基、特に好ましくはアセチル基、ベンゾゾイル基、ピバロイル基、tert-ブチルジフェニルシリル基(TBDPS基)、セキシルジメチルシリル基(TDS基)である)に変換する。ヒドロキシ保護剤として、塩化アセチル、塩化ベンゾイル、塩化ピバロイル、tert-ブチルジフェニルクロロシラン、セキシルジメチルクロロシランなどを用いるのが好ましい。反応条件はそれぞれの保護基により異なるが、TBDPS基の場合を例示するならば、DMF溶媒中、氷冷下tert-ブチルジフェニルクロロシランを加え室温で2.5時間撹拌することにより得られる。一般的には、デヒドロセリン誘導体(3)1モルに対して、ヒドロキシ保護剤を1〜1.2モル用い、デヒドロセリン誘導体(3)とヒドロキシ保護剤を溶解できる溶媒、例えば、DMF、THFなど用いて、ヒドロキシ保護するのがよい。
【0017】
以上により得られた化合物(4)は、好ましくは水素ガス若しくは重水素ガス存在下、溶媒(水素を用いる場合は、エタノール、メタノール、ジクロロエタン等が好ましく、重水素を用いる場合には重水素化エタノール、重水素化メタノール、ジクロロエタン等が好ましい)に溶解し、不斉還元触媒を用いて還元することにより一般式(5)へ変換できる。不斉還元触媒としては、Bis[(S,S)Diethylphospholanobenzene cyclooctadiene]rodium(I)triflate(以下(S、S)DuPhos−Rh)が好ましく用いられる。もちろん、これ以外の公知(例えば、TRAP-rhodium catalyst、PHANPHS-rhodium catalyst等)または新規の不斉還元触媒を用いてもよい。不斉還元は、化合物(4)1モルに対して、不斉還元触媒を0.003〜0.03モル用い、1,2-ジクルロエタン、メタノール、エタノールなどの溶媒中、不活性雰囲気下、10〜40℃で、1日〜1週間行うのがよい。
このようにして得られた一般式(5)を加水分解することにより、脱保護し、位置・立体選択的安定同位体標識セリン(6)を合成することができる。脱保護はα位或いはβ位のラセミ化さえ伴わなければ、どのような方法で行ってもよく、様々な公知な手法が適用できる。好ましくは、R2=アセチル基、ベンゾゾイル基、ピバロイル基の場合には、酸性溶媒中、好ましくは1〜6M塩酸等で行い、R2=tert-ブチルジフェニルシリル基(TBDPS基)、セキシルジメチルシリル基(TDS基)の場合には、テトラブチルアンモニウムフルオリドを用いて脱シリル化を行った後、酸性溶媒中、好ましくは1〜6M塩酸等を用いて脱保護を行う。なお、後述するが、所望の化合物が化合物(5)の場合、最後の脱保護の作業を行わずに、化合物(5)の酸素上の保護基を脱保護することにより目的の化合物を合成してもよい。
尚、使用する不斉還元触媒のキラリティにより、L-セリンまたはD-セリンのいずれかが得られる。具体的には、R1=Et、X=D、R2=TBDPSの場合、ジクロロエタン溶媒中5kgf/Cm2の水素ガス中で(S、S)DuPhos−Rhを用いて66時間撹拌した後、脱保護を行うことにより位置・立体選択的安定同位体標識セリン(6)が98%eeの高い光学純度で得られる。
【0018】
次に、位置・立体選択的安定同位体標識アラニンの合成方法について説明する。
位置・立体選択的安定同位体標識アラニン(SAILアラニン)は、以下に示す合成スキームに基づいて合成することができる。
SAILアラニンの合成スキーム


【0019】
より詳しく説明すると、先ず、上述した化合物(5)、若しくは化合物(6)を常法に従って保護することにより、位置・立体選択的安定同位体標識アラニン合成の出発原料である一般式(7)で表されるセリン誘導体(式中、R3はカルボキシ保護基、例えば、アルキル基、好ましくは炭素数1〜8、より好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、特により好ましくはメチル、エチル、tert-ブチル、ベンジル基を、R4はアミノ保護基、例えば、アミド基、カルバマート基、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基、好ましくはアセチル基、ベンゾゾイル基、tert-ブトキシカルボニル基、ベンジルオキシカルボニル基等を、X、Y1及びY2はそれぞれ独立して水素または重水素を表すが、Y2またはXの何れか一方が重水素を表すのが好ましい)を製造する。ここで、化合物(5)、若しくは化合物(6)1モルあたり、カルボキシ保護剤1〜2モルを加えて、エステル化反応を行ってカルボキシル基を保護した後、アミノ保護剤1〜2モルを加えて、アミノ保護を行って一般式(7)で表されるセリン誘導体を得るのがよい。溶媒としては、メタノール、エタノール、ジクロロメタン、クロロホルム、アセトニトリルジオキサン、DMFなどを用い、0〜100℃で反応を行うのがよい。
次いで、一般式(7)で表されるセリン誘導体の側鎖水酸基を常法に従って適当な脱離基に変換することによって位置・立体選択的安定同位体標識アラニン合成の有用な合成中間体である一般式(8)で表される化合物(式中、R5はスルホナート基、若しくはハロゲン基、好ましくは炭素数1〜10のスルホナート基、より好ましくは4-トルエンスルホナート基、メタンスルホナート基、トリフルオロメタンスルホナート基、臭素基、ヨウ素基等を、R3、R4、X、Y1、Y2は前記と同じ意味を示す)を合成する。一般的には、一般式(7)で表される化合物1モル当り、ハロゲン化物又はスルフォン化物を1〜3モル用い、ジクロロメタン、クロロホルム、ピリジン、DMFなどの溶媒中で1〜24時間反応させることにより得ることができる。R5はハロゲン基が好ましく、さらに好ましくは臭素である。臭素化は、ps-トリフェニルホスフィンの存在下、ジクロロメタン溶媒中四臭化炭素を用いて2時間還流することにより得られる。
【0020】
得られた化合物(8)をR6N14-N(式中、R6は低級アルキル基(好ましくは炭素数1〜4のアルキル基)、低級アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜4のアルコキシ基)、またはアリール基(好ましくは炭素数6〜14のアリール基)を、M1はケイ素、ゲルマニウムまたはスズを、Zは水素または重水素を、Nは1〜3の整数を示す)を用い、ラジカル開始剤、好ましくはアゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾゾイル、トリエチルボラン等の存在下、不活性有機溶媒中、好ましくはベンゼン、トルエン等の溶媒中-80〜150℃で1〜24時間反応させて還元した後、酸性溶媒中、好ましくは1〜6M塩酸中、室温〜150℃で1〜24時間反応させて脱保護する。ここで得られた化合物(8)1モル当りR6N14-Nを1〜2モル用いるのが好ましい。
反応終了後、通常のイオン交換処理を行うことによって一般式(9)で表される位置・立体選択的安定同位体標識アラニン(式中、Zは水素または重水素を、X、Y1、Y2は前記と同じ意味を示す)を得ることができる。得られた化合物の構造は1H NMR、13C NMR、MS、HPLC、融点、旋光度等から決定した。
【0021】
次に、位置・立体選択的安定同位体標識システインの合成方法について説明する。
位置・立体選択的安定同位体標識システイン(SAILシステイン)は、以下に示す合成スキームに基づいて合成することができる。
SAILシスチンの合成スキーム


【0022】
化合物(7)及び(8)は、位置・立体選択的安定同位体標識アラニンの合成方法について説明したのと同様の方法により合成することができる。ここで、一般式(8)で表される化合物中、R5はスルホニル基が好ましく、さらに好ましくは4-トルエンスルホナート基であり、このような化合物は、一般式(7)をピリジン溶液中アルゴンガス雰囲気下-10℃でp-トルエンスルフォニルクロリドを加え、−15℃にて一晩撹拌することにより得ることができる。
次に、化合物(8)と硫黄化剤、好ましくは金属スルヒド、チオ酢酸塩、キサントゲン酸塩、チオ尿素誘導体、チオアミド誘導体等のSH基導入剤を不活性有機溶媒中、好ましくはDMF、DMSO、低級アルコール、アセトン、THF、アセトニトリル等の溶媒中0〜100℃で1〜24時間反応させた後、上記と同様の手法を用いて脱保護およびイオン交換処理を行うことによって一般式(10)で表される位置・立体選択的安定同位体標識システイン(式中、X及びY1、Y2は前記と同じ意味を示す)を得ることができる。イオン交換処理の際、システインを含む溶液を酸素含有雰囲気、例えば、空気または酸素に室温〜50℃で1〜72時間暴露することにより一般式(11)で表される位置・立体選択的安定同位体標識シスチン(式中、X及びY1、Y2は前記と同じ意味を示す)を合成することもできる。ここで、イオン交換処理は、SK1BまたはDowex50Wを用いて行うのがよい。得られた化合物の構造は1H NMR、13C NMR、MS、HPLC、融点、旋光度等から決定した。
上記SAILセリン、アラニン及びシスチンを構成している窒素原子は全て15Nであるのが好ましい。又、SAILセリン、アラニン及びシスチンを構成している炭素原子は全て13Cであるのが好ましい。
以下に実施例を示して本発明についてさらに詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0023】
実施例1:SAILセリンの合成
下記に示す反応フローに基づいてSAILセリンを合成した。


【0024】
工程1
セパラブルフラスコにEtOD(133ml)を加え、金属ナトリウム(7.68g、334mmol)を少量ずつ加えて室温にて45分撹拌した。ナトリウムが完全に溶解した後、セパラブルフラスコを氷浴下0℃に冷却し、[1-13C;1-2H]ギ酸エチル2(D13C2OEt、27.ml、334mmol)を15分かけて滴下した。室温にて3時間撹拌した後[1,2-13C2;N-2H;2-15N]-馬尿酸エチル 1(Bz15N13CH213CO2Et、70.56g, 334mmol)を加えた。室温にて一週間撹拌した後、吸引ろ過により結晶をろ取した。得られた結晶を脱水エタノール(100 ml)及びジエチルエーテル(100 ml)を用いて洗浄後、真空ポンプを用いて乾燥することにより化合物3が得られた。(63.8g, 242.5mmol, 収率72.6%) 加工物3は精製することなく次の反応に使用した。
行程2
得られた化合物3(160 mmol)をDMF(160 ml)に溶解し、氷冷下tert-ブチルジフェニルクロロシラン(45.8 ml, 176 mmol)を滴下し、室温にて2.5時間攪拌した。酢酸エチルを用いて反応混合物を抽出し、有機相を分離した(300ml×3)。有機相を水(600 ml×1)、飽和食塩水(600 ml×1)を用いて洗浄し、無水硫酸マグネシウムを用いて乾燥した。吸引ろ過により乾燥剤を取り除き、ろ液を濃縮した。残渣を再結晶にて精製することにより化合物4が得られた。(48.29 g, 102 mmol, 収率64%) ;
【0025】
工程3
ナス型フラスコに化合物4 (18.2 g, 38.0 mmol)、及び1,2-ジクロロエタン(80 ml)を加え、系内を窒素置換した。液体窒素を用いて-195℃にて凝固し、真空ポンプにて数回脱気を繰り返した後室温に戻した。この基質溶液を中圧接触還元装置用反応ボトルに移し、アルゴン雰囲気下、(S、S)DuPhos−Rh(0.14 g, 0.038 mmol)及びスターラーチップを加え、水素ガス下(4 kgf/cm2)66時間室温で撹拌した。反応混合物に塩化メチレン(150 ml)を加え、水(250 ml×2)を用いて洗浄後有機相を分離した。硫酸マグネシウムを用いて有機相を乾燥後、吸引ろ過により乾燥剤を取り除き残渣を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=9:1)にて精製することにより化合物5が得られた。(15.9 g, 33.0 mmol, 収率86.9%)
1H NMR(CDCl3) δ 1.04(s, 1H), 1.31(t, J=7.2 Hz, 3H), 3.76(dm, J=68 Hz, 1H), 4.27(dq, JC-H=3.6 Hz, J=7.2 Hz, 2H), 4.87(dm, JC-H=140 Hz), 7.04(dd, JC-H=8.2 Hz, JN-H=91 Hz), 7.30-7.83(m, 15H)
工程4
ナス型フラスコに化合物5 (17.7 g, 36.8 mmol)及びテトラヒドロフラン(74.0 ml)を加え、テトラブチルアンモニウムフルオリド1.0Mテトラヒドロフラン溶液(34.0 ml, 37.0 mmol)を15分かけて滴下し、室温にて5時間撹拌した。反応混合物に酢酸エチル(150 ml)を加え、飽和リン酸二水素カリウム水溶液(200 ml×1)及び飽和塩化ナトリウム水溶液(200 ml×1)を用いて洗浄後、有機相を分離した。水相を酢酸エチル(750 ml)を用いて1度抽出し有機相と合わせた。有機相に無水硫酸ナトリウムを加え乾燥後、吸引ろ過により乾燥剤を取り除き濃縮した後、ナス型フラスコに残渣及び1N 塩酸(184 ml)を加え、オイルバス温度110℃にて6時間還流した。反応混合物をクロロホルム(200 ml×2)を用いて洗浄し水相を分離した。水相を濃縮後、陽イオン交換樹脂(Dowex50W-X8)を用いて精製した。これをさらに再結晶することによりSAILセリン(6)が得られた。(2.81g, 25.6 mmol, 収率69.8%)α位の光学純度はHPLC(SUMICHIRAL OA-6100)を用いて決定した。
1H NMR(D2O) δ 3.79(d, JC-H=147 Hz, 1H), 3.67(dm, JC-H=145 Hz, 1H)
【0026】
実施例2:SAILアラニンの合成
下記に示す反応フローに基づいてSAILアラニンを合成した。


【0027】
工程5
ナス型フラスコに化合物6(10.00g,90.90mmol)、及びエタノール(136ml)を加え零下0度にし、塩化チオニル(11.9g,100.00mmol)を27分かけて滴下した。1時間加熱還流を行った後、エタノールを加えつつ濃縮を繰り返し、最後にジエチルエーテルを加え吸引ろ過にてSAILアラニンエチルエステル(13.832g,79.27mmol,87%)をろ取した。得られた化合物をN,N-ジメチルホルムアミド(160ml)に溶解しtert-ブトキシカルボニル(19.01g,87.20mmol,1.1eq)、ジメチルアミノピリジン(19.34g,158.54mmol)を加え室温で2時間撹拌を行った。反応混合物に硫酸水素カリウム水溶液を加えpHを下げ、酢酸エチルで希釈し、蒸留水で数回洗浄した。有機層を硫酸マグネシウムにて乾燥を行い、吸引ろ過により乾燥剤を取り除き残渣を濃縮した。残渣をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル1:1)にて精製することにより化合物7(18.239g,76.63mmol,97%)を得た。
1H-NMR (CDCl3)δ1.2941(t,J=7.16Hz 3H), 1.4522(s,9H), 3.88725(dm, J=144.30Hz 1H), 4.2461(dq,JC-H=3.02Hz,JH-H=7.13Hz 2H), 4.3596(dm,J=132.24Hz 1H), 5.4426(dd,JH-H=7.6225Hz,JN-H=91.74Hz 1H).13C-NMR(CDCl3)δ14.254, 28.439, 55.880(m enhanced), 62.930(m enhanced),65.992, 80.252, 156.069(d,J=25.9287Hz), 171.253(d,J=60.8255Hz enhanced)
HRMS m/z 239.1507[(M+H)+,calcd for C7H19O5D15N13C3:239.1475]
【0028】
工程6
ps-トリフェニルホスフィン(3 mmol/g, 41.1 g, 123.2 mmol)のジクロロメタンけん濁液(308 ml)に四臭化炭素(40.8 g,123.2 mmol)を加え、アルゴン雰囲気下で10分間撹拌した後、化合物7(9.77 g, 41.1 mmol)のジクロロメタン溶液(308 ml)を加え、アルゴン雰囲気下で2時間、加熱還流を行った。反応混合物を室温に冷却した後、ポリマーをハイフロスーパーセルを用いて濾別した。濾液を濃縮した後、残渣を真空ポンプを用いて減圧乾燥し、化合物8(16.2 g)を単離した。得られた臭化物は化学的に不安定であるため精製することなく次の反応に用いた。
工程7
化合物8(16.2 g, 41.1 mmol)、Bu3SnD(24.0 g, 82.1 mmol)のベンゼン溶液(800 ml)を過酸化ベンゾゾイル(990 mg, 4.11 mmol)の存在下、1時間加熱還流を行った。反応混合物を濃縮した後、1M塩酸(700ml)を加えて3時間加熱還流を行った。反応混合物をクロロホルムで洗浄した後、濃縮し、残渣をDowex50W-X8を用いて処理することにより無色結晶のSAILアラニン(9)(2.46 g, 25.9 mmol)が63%(3段階)の収率で得られた。光学純度(96%ee)はHPLC(SUMICHIRAL OA-6100)を用いて決定した。1H NMR (D2O) δ 1.28 (dm, J = 129 Hz, 1 H), 3.59 (dm, J = 145 Hz, 1 H)。13C NMR (D2O) δ 15.84 (m), 50.52 (m), 176.22 (D, J = 54 Hz).
【0029】
実施例3:SAILシスチンの合成


【0030】
工程8
三口フラスコに化合物7(8.05g,33.82mmol)及びピリジン(68ml)を加え、アルゴン雰囲気下で-10度にしp-トルエンスルフォニルクロリド(9.03g,47.35mmol)を加えた。-15度まで冷却し一晩撹拌を行った。反応混合物を酢酸エチルで希釈し、クエン酸水溶液と塩化ナトリウム水溶液で洗浄後、有機層を硫酸マグネシウムにて乾燥を行い、吸引ろ過により乾燥剤を取り除き残渣を濃縮した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)にて精製することにより化合物8(2)(11.095g,28.30mmol,84%)を得た。
1H-NMR (CDCl3)δ1.25705(t,J=7.16Hz 3H), 1.4152(s,9H), 2.449(s,3H), 4.1703(dq,JC-H=3.39Hz, JH-H=7.34Hz 2H), 4.26385(dm,J=155.79Hz 1H),4.4666(ddd,J=138.27Hz, JN-H=7.16Hz, JH-H=7.16Hz), 5.29415(dd, JH-H=8.10Hz,JN-H=92.12Hz 1H), 7.34755(d,J8.48Hz 2H), 7.7618(d,J=8.1Hz 2H)
13C-NMR (CDCl3)δ14.231, 21.888, 52.540, 53.185(m enhanced), 62.465, 69.159(m enhanced), 80.642, 128.219, 130.158, 132.631, 145.365, 155.21(d,J=26.6188Hz), 168.703(d,J=61.557Hz enhanced)
m.p.79℃
【0031】
工程9
化合物8(2)(11.1 g, 28.2 mmol)とチオ酢酸カリウム(6.43 g, 56.3 mmol)のDMF溶液(420 ml)をアルゴン雰囲気下、室温で一晩撹拌した。反応混合物を濃縮した後、残渣を酢酸エチルで抽出した。有機層を水洗、乾燥した後、溶媒を留去した。残渣をシリカゲルクロマトグラフィー(ヘキサン:酢酸エチル=1:1)にて精製することにより(2R,3R)-N-tert-ブトキシカルボニルS-アセチル[1,2,3-13C3; 3-2H; 2-15N]シスチンエチルエステル(7.96 g, 26.9 mmol)を95%の収率で得た。
得られたチオアセタートに1M塩酸(400 ml)を加えて3時間加熱還流を行った。反応混合物をクロロホルムで洗浄した後、濃縮し、残渣をSK1Bで処理した。得られたシステイン10を1Mアンモニア水溶液(500 ml)に溶解し、室温で48時間空気酸化を行った後、溶媒を濃縮して無色結晶のSAILシスチン11(1.52 g, 6.06 mmol)を46%の収率で単離した。[α]D25 -207.60°(C 1.0, 1 M HCl)(文献値、[α]D20 -223.4°(C 1.0, 1 M HCl))。1H NMR (2.5% NaOD in D2O) δ 2.69 (dm, J = 140 Hz, 1 H), 3.61 (dm, J = 140.19 Hz, 1 H)。13C NMR (2.5% NaODin D2O) δ 43.47 (m), 54.82 (m), 180.99 (d, J = 53 Hz)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(1)で表されるグリシン誘導体
ANHCH2COOR1 (1)
(式中、Aはアミノ保護基、R1はアルキル基を表す。)
を、一般式(2)で表されるギ酸誘導体
XCOOR (2)
(式中、Xは水素又は重水素、Rはアルキル基を表す。)
と縮合させ、次いでヒドロキシ保護剤を用いてヒドロキシ保護して、一般式(4)で表される化合物を得、



(式中、R2はヒドロキシ保護基、A、R1及びXは一般式(1)及び(2)で規定した通りである。)
得られた一般式(4)で表される化合物を、水素ガス若しくは重水素ガス存在下、不斉還元触媒を用いて還元して一般式(5)で表される化合物を得、



(式中、Y1及びY2はそれぞれ独立して水素又は重水素を表し、A、R1、X及びR2は一般式(1)、(2)及び(4)で規定した通りである。)
次いで、任意工程として、得られた一般式(5)で表される化合物を脱保護して、一般式(6)で表されるセリン



(式中、X、Y1及びY2は一般式(1)及び(5)で規定した通りである。)
を得ることを特徴とする一般式(5)で表されるセリン誘導体又は一般式(6)で表されるセリンの合成方法。
【請求項2】
一般式(1)で表されるグリシン誘導体を、アルカリ金属の存在下で、一般式(2)で表されるギ酸誘導体と縮合させて、一般式(3)で表されるデヒドロセリン誘導体



(式中、Mはアルカリ金属、X、A及びR1は一般式(1)で規定した通りである。)
を得、これを単離することなく、ヒドロキシ保護剤を用いてヒドロキシ保護して、一般式(4)で表される化合物を得る請求項1記載の合成方法。
【請求項3】
ヒドロキシ保護剤として、tert-ブチルジフェニルクロロシランを用いる請求項1又は2記載の合成方法。
【請求項4】
一般式(7)で表されるセリン誘導体



(式中、X、Y1及びY2はそれぞれ独立して水素又は重水素、R3はカルボキシ保護基、R4はアミノ保護基を表す。)
の側鎖水酸基を脱離基に変換して、一般式(8)で表される化合物



(式中、R5は脱離基、R3、R4、X、Y1及びY2は一般式(7)で規定した通りである。)
に変換した後、還元することを特徴とする一般式(9)で表されるアラニンの合成方法。



(式中、Zは水素または重水素、X、Y1及びY2は一般式(7)で規定した通りである。)
【請求項5】
一般式(8)で表される化合物に、ラジカル開始剤の存在下で、R6N14-N(式中、R6は低級アルキル基、低級アルコキシ基、またはアリール基、M1はケイ素、ゲルマニウムまたはスズ、Zは水素または重水素、Nは1〜3の整数を示す。)を反応させて、一般式(9)で表されるアラニンを得る請求項4記載の合成方法。
【請求項6】
一般式(7)で表されるセリン誘導体



(式中、X、Y1及びY2はそれぞれ独立して水素又は重水素、R3はカルボキシ保護基、R4はアミノ保護基を表す。)
の側鎖水酸基を脱離基に変換して、一般式(8)で表される化合物



(式中、R5は脱離基、R3、R4、X、Y1及びY2は一般式(7)におけると同じ意味を有する。)
に変換した後、SH基導入剤と反応させ、次いで脱保護及びおよびイオン交換処理して、一般式(10)で表されるシステイン



(式中、X、Y1及びY2はそれぞれ独立して水素又は重水素を表す。)
を得、又は所望により、イオン交換処理の際に、空気を含む雰囲気に暴露することにより一般式(11)で表されるシスチン



(式中、X、Y1及びY2はそれぞれ独立して水素又は重水素を表す。)
を得ることを特徴とする一般式(10)で表されるシステイン又は一般式(11)で表されるシスチンの合成方法。
【請求項7】
一般式(7)で表されるセリン誘導体にハロゲン化物又はスルフォン化物を反応させて該セリン誘導体の側鎖水酸基を脱離基(R5はスルホナート基又はハロゲン基を示す)に変換する請求項4〜6のいずれか1項記載の合成方法。
【請求項8】
一般式(6)で表されるセリン



(式中、Zは、X、Y1及びY2はそれぞれ独立して水素または重水素を表す。)
のカルボキシ基保護及びアミノ基保護を行って一般式(7)で表されるセリン誘導体を得る請求項4〜7のいずれか1項記載の合成方法。
【請求項9】
分子中の窒素原子が全て15Nである請求項1〜8のいずれか1項記載の合成方法。
【請求項10】
分子中の炭素原子が全て13Cである請求項1〜9のいずれか1項記載の合成方法。

【公開番号】特開2007−246481(P2007−246481A)
【公開日】平成19年9月27日(2007.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−75192(P2006−75192)
【出願日】平成18年3月17日(2006.3.17)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【Fターム(参考)】