説明

位置判定装置

【課題】携帯機が車内外のいずれに位置しているのかを正確に判定するに際して、それを簡単に行うことが可能な位置判定装置を提供すること。
【解決手段】当該車両のウインドウガラスを含む電波透過部と通信アンテナ32とを結ぶ領域の内を第1の領域A1と規定する。第1の領域A1の延長として、前記電波透過部から車外へ展開される領域の内を第2の領域A2と規定する。車内全領域のうち、第1の領域A1を除く領域の内を第3の領域A3と規定する。セキュリティ装置の通信回路は、第2の領域A2から通信アンテナ32へ向かう方向に沿った通信アンテナ32から電子キーまでの距離に応じて、電子キーが車内外のいずれにあるのかを判定する。同通信回路は、第3の領域A3から通信アンテナ32へ向かう方向が、信号の到来方向であると推定したとき、距離推定を行うことなく、電子キーが車内に位置していると判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両ユーザが所持する携帯機の位置を判定する位置判定装置に関し、詳しくは、携帯機が車内外のいずれに位置しているのかを判定する位置判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、ユーザが所持する携帯機と車両側のセキュリティ装置との間での双方向通信が可能な電子キーシステムに関する技術が開示されている。そして、この電子キーシステムでは、車両側からリクエスト信号が送信されるとともに、それが携帯機で受信されたとき、同携帯機からリクエスト信号に対する応答信号(IDコード信号)が送信され、それに基準IDコードと一致するIDコードが含まれているとき、ドアのロックやエンジンの始動禁止が解除されるようになっている。
【0003】
この種の電子キーシステムでは、車両側のセキュリティ装置から車外の所定領域へ向けてリクエスト信号が送信される車外通信制御と、同セキュリティ装置から車内の所定領域へ向けてリクエスト信号が送信される車内通信制御とが行われる。そして、前者の車外通信制御に伴ってIDコード信号が受信されたとき、セキュリティ装置の側において、携帯機が車外に位置していると判定されるとともに、この場合、これを所持する車両ユーザによる乗車を許容するべく、ドアのロックが解除されるようになっている。
【0004】
一方、後者の車内通信制御に伴ってIDコード信号が受信されたとき、セキュリティ装置の側において、携帯機が車内に位置していると判定されるとともに、この場合、これを所持する車両ユーザによる運転を許容するべく、エンジンの始動禁止が解除されるようになっている。
【0005】
従って、こうした電子キーシステムが適用された車両では、携帯機が車内外のいずれに位置しているのかを判定する位置判定装置としての役目をセキュリティ装置が果たすことにより、携帯機の位置に応じた適切な車両制御が行われるようになっている。
【特許文献1】特開2002−029385号公報(段落番号0002〜0008)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、車外通信制御に際して、リクエスト信号が車外の所定領域のみならず車内領域にも及ぶと、該車内領域に携帯機が位置しているような場合には、その携帯機からIDコード信号が送信されることとなり、この場合、携帯機が車内に位置しているにも関わらず、それが車外に位置していると誤判定されてしまう。
【0007】
一方、車内通信制御に際して、リクエスト信号が車内の所定領域のみならず車外領域にも及ぶと、該車外領域に携帯機が位置しているような場合には、その携帯機からIDコード信号が送信されることとなり、この場合、携帯機が車外に位置しているにも関わらず、それが車内に位置していると誤判定されてしまう。
【0008】
そして、これらのように携帯機の位置が誤判定されてしまうと、携帯機の位置に応じた適切な車両制御を行えなくなるので、それを防止するべく、車外通信制御に際しては車外の所定領域のみにリクエスト信号が送信される一方で、車内通信制御に際しては車内の所定領域のみにリクエスト信号が送信されるよう配慮する必要がある。
【0009】
例えば、リクエスト信号の送信アンテナの数を増やすことで、個々の送信アンテナからのリクエスト信号の送信出力を小さくし、それにより個々の送信アンテナからのリクエスト信号の送信出力のバラツキを大まかに抑えたり、さらには、送信アンテナ毎にリクエスト信号の送信出力をきめ細かく設定したりする必要がある。そうすると、車種によっては多くの送信アンテナが必要になるとともに、車種に関わらず総じてリクエスト信号の送信領域を設定するために必要な作業が煩雑なものとなってしまう問題が生じる。
【0010】
本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、その目的は、携帯機が車内外のいずれに位置しているのかを正確に判定するに際して、それを簡単に行うことが可能な位置判定装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、車両ユーザが所持する携帯機が車内外のいずれに位置しているのかを判定する位置判定装置において、車内に設けられ、前記携帯機から送信されてくる信号を受信するための媒体となる受信アンテナと、前記受信アンテナによる前記信号の受信態様を解析することによって、該信号の到来方向を推定する方向推定手段と、前記方向推定手段により推定された前記信号の到来方向に基づいて、前記携帯機が車内外のいずれに位置しているのかを判定する位置判定手段とを備え、当該車両のウインドウガラスを含む電波透過部と前記受信アンテナとを結ぶ領域の内を第1の領域と規定し、前記第1の領域の延長として、前記電波透過部から車外へ展開される領域の内を第2の領域と規定し、車内全領域のうち、前記第1の領域を除く領域の内を第3の領域と規定し、前記位置判定手段は、前記第2の領域から前記受信アンテナへ向かう方向が、前記信号の到来方向として前記方向推定手段により推定されたとき、前記携帯機が車外に位置していると判定し、同位置判定手段は、前記第3の領域から前記受信アンテナへ向かう方向が、前記信号の到来方向として前記方向推定手段により推定されたとき、前記携帯機が車内に位置していると判定することをその要旨としている。
【0012】
同構成によると、車外の領域である第2の領域に位置する携帯機から送信されてきた信号が、ウインドウガラスを含む電波透過部を介して、車内に設けられた受信アンテナに達し、それが同受信アンテナで受信されたとき、携帯機が車外に位置していると判定される。一方、車内の領域である第3の領域に位置する携帯機から送信されてきた信号が、車内に設けられた受信アンテナに達し、それが同受信アンテナで受信されたとき、携帯機が車内に位置していると判定される。
【0013】
このため、当該位置判定装置が適用された車両から車外の所定領域或いは車内の所定領域のみにリクエスト信号が送信されるような配慮を必ずしも行わなくても、そのリクエスト信号に応答して携帯機から送信されてきた信号の到来方向を推定することで、携帯機が車内外のいずれに位置しているのかを正確に判定することができる。即ち、リクエスト信号の送信領域を設定するために必要な作業については、簡単なもので足りる。従って、携帯機が車内外のいずれに位置しているのかを正確に判定するに際して、それを簡単に行うことができる。
【0014】
尚、本発明は、携帯機と車両との間で双方向通信が行われる通信システムに限らず、携帯機を送信側とする単方向通信が行われる通信システムにも適用可能である。後者の場合、携帯機から送信されてきた信号が受信アンテナに達し、それが同受信アンテナで受信されたとき、その信号の到来方向が推定されることで、携帯機が車内外のいずれに位置しているのかが判定される。
【0015】
例えば、遠隔操作にてドアを解錠するために操作される解錠スイッチ、遠隔操作にてドアを施錠するために操作される施錠スイッチ、遠隔操作にてエンジンを始動するために操作されるエンジン始動スイッチを携帯機に設ける。そして、車外で解錠スイッチや施錠スイッチが操作された場合にドアを施解錠するとともに、車内でエンジン始動スイッチが操作された場合に限りエンジンを始動し、車外でエンジン始動スイッチが操作された場合にはエンジンの始動を禁止することが可能となる。こうすれば、携帯機が車外に位置しているにも関わらずエンジンが始動することが回避される。つまり、携帯機の位置に応じた適切な車両制御を行うことができる。
【0016】
また、車内に携帯機が位置しているとき、一旦ドアが施錠された後の段階では、車外からドアを開けられないようにすれば、車内に存在するユーザの意志に反して、第三者によりいわば勝手にドアが開けられてしまうことが回避され、セキュリティ性を高めることができる。そして、これも携帯機の位置に応じた適切な車両制御の1つとして数えることができる。
【0017】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の位置判定装置において、共通の原点を基準として互いに直交して延びる3軸をX軸、Y軸、Z軸と規定し、前記受信アンテナは、複数のアンテナ素子が前記原点を基準としてXY平面に沿って2次元に配列されたアレイアンテナにより構成され、前記方向推定手段は、前記アレイアンテナによる前記信号の受信態様を解析することによって、該信号の到来方向に関して、前記信号の到来方向と前記XY平面とのなす角度である仰角或いは俯角、並びに前記信号の到来方向を前記XY平面に正射影したときに該XY平面上に現れる仮想線と前記原点に対して正のX軸線とのなす角度である方位角を推定するものであることをその要旨としている。
【0018】
同構成によると、携帯機からの信号の到来方向に関して、仰角或いは俯角、並びに方位角が推定され、それらが第2の領域から受信アンテナへ向かう方向を示すものであるとき、携帯機が車外に位置していると判定される。一方、それらが第3の領域から受信アンテナへ向かう方向を示すものであるとき、携帯機が車内に位置していると判定される。このため、携帯機からの信号の到来方向をいわば3次元的に推定することで、携帯機が車内外のいずれに位置しているのかをより正確に判定することができる。
【0019】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の位置判定装置において、前記受信アンテナは、当該車両の天井を含む電波遮蔽部材の内面及びその表面付近、並びに当該車両の床を含む電波遮蔽部材の内面及びその表面付近の少なくとも一方に設けられることをその要旨としている。
【0020】
同構成によると、当該車両の天井を含む電波遮蔽部材或いは当該車両の床を含む電波遮蔽部材を境として、車内側と車外側とに領域が分かれる訳であるが、該車内側の領域に位置する携帯機から送信されてきた信号は、受信アンテナで受信され、該信号の到来方向が推定される。一方、該車外側の領域に位置する携帯機から送信されてくる信号は、電波遮蔽部材により遮蔽されるので、受信アンテナで受信されない。このため、本構成とは異なり、電波遮蔽部材から離れた位置に受信アンテナが設けられる構成では、該受信アンテナと電波遮蔽部材との間の領域に携帯機が位置している場合と、該受信アンテナに対して前記領域とは反対側の領域に携帯機が位置している場合とを区別できないところ、本構成では、それらを区別することが可能となる。従って、本構成では、携帯機からの信号の到来方向を正確に推定することができる。
【0021】
尚、一般的な車両のように天井や床等が金属のような電波遮蔽部材で覆われ、ウインドウガラスのような電波透過部が車両の高さ方向の天井近くに設けられる場合、天井の内面及びその表面付近に受信アンテナを設ければ、第3の領域を広く採れることとなり、携帯機が車内に位置しているにも関わらず、それが車外に位置していると誤判定される可能性を低減できる。一方、特殊車両のようにウインドウガラスのような電波透過部が車両の高さ方向の床近くに設けられる場合、床の内面及びその表面付近に受信アンテナを設ければ、第3の領域を広く採れることとなり、携帯機が車内に位置しているにも関わらず、それが車外に位置していると誤判定される可能性を低減できる。
【0022】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の位置判定装置において、前記受信アンテナによる前記信号の受信態様を解析することによって、該信号の送信源である前記携帯機までの距離を推定する距離推定手段をさらに備え、前記位置判定手段は、前記第2の領域から前記受信アンテナへ向かう方向が、前記信号の到来方向として前記方向推定手段により推定されたとき、その方向に沿った前記受信アンテナから前記携帯機までの距離を前記距離推定手段による推定結果に基づいて特定し、同位置判定手段は、前記第2の領域から前記受信アンテナへ向かう方向に沿った該受信アンテナから前記携帯機までの距離が、同受信アンテナから前記電波透過部までの距離以下であるとき、前記携帯機が車内に位置していると判定し、同位置判定手段は、前記第2の領域から前記受信アンテナへ向かう方向に沿った該受信アンテナから前記携帯機までの距離が、同受信アンテナから前記電波透過部までの距離を超えているとき、前記携帯機が車外に位置していると判定することをその要旨としている。
【0023】
同構成によると、第2の領域から受信アンテナへ向かう方向に沿った該受信アンテナから携帯機までの距離が、同受信アンテナから電波透過部までの距離以下であるとき、携帯機が車内に位置していると判定される。一方、第2の領域から受信アンテナへ向かう方向に沿った該受信アンテナから携帯機までの距離が、同受信アンテナから電波透過部までの距離を超えているとき、携帯機が車外に位置していると判定される。このため、前者のように第1の領域に携帯機が位置している場合には、該携帯機が車内に位置していると判定され、携帯機が車内に位置しているにも関わらず、それが車外に位置していると誤判定される可能性を低減できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、以上のように構成されているため、次のような効果を奏する。
本発明によれば、携帯機が車内外のいずれに位置しているのかを正確に判定するに際して、それを簡単に行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明を具体化した一実施形態について説明する。
図1に示すように、本実施形態の自動車には、電子キーシステム1が適用されている。電子キーシステム1は、車両ユーザが所持する電子キー2と、車両側に設けられるセキュリティ装置3とを備えるとともに、両者間での双方向通信が可能となっている。尚、前記電子キー2は、その所持態様から携帯機と称されている。
【0026】
電子キー2は、無線通信による受信機能及び無線通信による送信機能を有するとともに、通信アンテナ21、通信回路22、マイコン23、解錠スイッチ24、施錠スイッチ25、エンジン始動スイッチ26を備えている。
【0027】
通信アンテナ21は、セキュリティ装置3から送信されてくるリクエスト信号を受信するための媒体であり、この場合、同通信アンテナ21は、受信アンテナとして機能する。通信回路22は、通信アンテナ21により受信されたリクエスト信号を復調して受信信号を生成するとともに、その受信信号をマイコン23に出力する。つまり、この場合、通信回路22は、受信回路(復調回路を含む)として機能する。そして、この場合、通信アンテナ21と通信回路22とにより受信手段が構成される。
【0028】
マイコン23は、不揮発性のメモリ23aを備えるとともに、そのメモリ23aには、当該電子キー2に対して個別に設定されたIDコード(電子キー2のIDコード)が記憶されている。そして、マイコン23は、通信回路22からリクエスト信号に関する受信信号が入力されたとき、リクエスト信号に応答するために、電子キー2のIDコードを含む信号(IDコード信号)を生成するとともに、そのIDコード信号を前記通信回路22に出力する。
【0029】
解錠スイッチ24は、遠隔操作にてドアを解錠するために操作されるものであり、施錠スイッチ25は、遠隔操作にてドアを施錠するために操作されるものであり、エンジン始動スイッチ26は、遠隔操作にてエンジンを始動するために操作されるものである。
【0030】
そして、前記マイコン23は、解錠スイッチ24が操作されたとき、車両に対してドアの解錠を要求するために、ドアの解錠を要求する旨の操作コード(解錠要求用操作コード)と電子キー2のIDコードとを含む信号(解錠要求信号)を生成する。そして、マイコン23は、この解錠要求信号を前記通信回路22に出力する。
【0031】
また、マイコン23は、施錠スイッチ25が操作されたとき、車両に対してドアの施錠を要求するために、ドアの施錠を要求する旨の操作コード(施錠要求用操作コード)と電子キー2のIDコードとを含む信号(施錠要求信号)を生成する。そして、マイコン23は、この施錠要求信号を通信回路22に出力する。
【0032】
さらに、マイコン23は、エンジン始動スイッチ26が操作されたとき、車両に対してエンジンの始動を要求するために、エンジンの始動を要求する旨の操作コード(エンジン始動要求用操作コード)と電子キー2のIDコードとを含む信号(エンジン始動要求信号)を生成する。そして、マイコン23は、このエンジン始動要求信号を通信回路22に出力する。
【0033】
前記通信回路22は、マイコン23から入力された各種信号(IDコード信号、解錠要求信号、施錠要求信号、エンジン始動要求信号)を所定周波数(本実施形態では2.45GHz)の電波に変調する。つまり、この場合、前記通信回路22は、送信回路(変調回路を含む)として機能する。前記通信アンテナ21は、通信回路22により変調された前記各種信号を送信するための媒体であり、この場合、同通信アンテナ21は、送信アンテナとして機能する。そして、この場合、通信回路22と通信アンテナ21とにより送信手段が構成される。
【0034】
セキュリティ装置3は、無線通信による送信機能及び無線通信による受信機能を有するとともに、通信回路31、通信アンテナ32、照合装置33を備えている。
通信回路31は、照合装置33から入力されるリクエスト信号を所定周波数(本実施形態では2.45GHz)の電波に変調する。つまり、この場合、通信回路31は、送信回路(変調回路を含む)として機能する。通信アンテナ32は、通信回路31により変調されたリクエスト信号を送信するための媒体であり、この場合、同通信アンテナ32は、送信アンテナとして機能する。そして、この場合、通信回路31と通信アンテナ32とにより送信手段が構成される。
【0035】
ここで、図2及び図3に示すように、通信アンテナ32は、当該車両において金属のような電波遮蔽部材からなる天井(車体の屋根を形成するルーフパネルがこれに相当する)の内面中央部に設けられている。尚、ルーフパネルには、これのへこみを防止するために、該ルーフパネルの車両左右方向に沿って、車両前後方向に延びる一対のルーフレール間をつなぐ補強材(ルーフボー)が設けられ、前記通信アンテナ32をルーフパネルの内面中央部に設けるに際して、該ルーフボーが障害となることが考えられる。
【0036】
前記通信アンテナ32は、それから送信されるリクエスト信号の指向性の安定感の良さを考慮すると、ルーフパネルの内面中央部に設けることが望ましいが、そこにルーフボーが存在するならば、同ルーフボーを避けるようにルーフパネルの内面中央部から若干ずれた位置に通信アンテナ32を設けてもよい。或いは、同ルーフボーに通信アンテナ32を設けてもよい。むしろ、ルーフパネルの内面よりも若干低い位置に存在するルーフボーの下面に通信アンテナ32を設けると、それから送信されるリクエスト信号が障害無く車外にも展開されるので好適である。
【0037】
また、通信アンテナ32は、ルーフパネルやルーフボー等の電波遮蔽部材に直接的に接触させる等して、該通信アンテナ32と電波遮蔽部材との間の領域に電子キー2が存在し得ないように配慮することが望ましい。ただし、通信アンテナ32を必ずしも電波遮蔽部材に接触させる必要はなく、好ましくは該通信アンテナ32と電波遮蔽部材との間の領域に電子キー2が存在し得ない範囲で、通信アンテナ32を電波遮蔽部材の表面付近に設けることも許容される。
【0038】
前記通信アンテナ32から送信されるリクエスト信号は、車内全領域に加えて、電波透過部であるウインドウガラス(各ドアに設けられるもの、フロント部分に設けられるもの、バック部分に設けられるものを含む)を介して車外の領域にも展開されるようになっている。
【0039】
尚、図3には、当該車両のウインドウガラスとして、運転席ドアのウインドウガラス及び助手席ドアのウインドウガラスを含む電波透過部と通信アンテナ32とを結ぶ領域の内が符号A1で示されるとともに、これを第1の領域A1と規定する。また、図3に示す2つの第1の領域A1のうち運転席側の第1の領域A1の延長として、運転席ドアのウインドウガラス(電波透過部)から車外へ展開される領域の内が符号A2で示されるとともに、これを第2の領域A2と規定する(助手席側のそれについては割愛)。さらに、車内全領域のうち、前記第1の領域A1を除く領域の内が符号A3で示されるとともに、これを第3の領域A3と規定する。
【0040】
前記第1の領域A1や前記第2の領域A2は、運転席ドアのウインドウガラス(電波透過部)や助手席ドアのウインドウガラス(電波透過部)に対してのみならず、後部左側座席ドアのウインドウガラス(電波透過部)、後部右側座席ドアのウインドウガラス(電波透過部)、フロントガラス(電波透過部)、バックガラス(電波透過部)に対しても形成される。従って、前記第3の領域A3は、車内全領域のうち、これら全ての第1の領域A1を除く領域の内に形成されるものとなる。
【0041】
そして、これら各領域A1〜A3に対して通信アンテナ32からリクエスト信号が送信されるとともに、運転席ドアの金属部分が電波遮蔽部(障害物)となって本来はリクエスト信号が伝播しない影の領域である第4の領域A4に対しても、該リクエスト信号が有する電波回折の特性により同リクエスト信号が送信されるようになっている。即ち、通信アンテナ32から送信されるリクエスト信号は、図3に符号A1〜A4で示される各領域内に及ぶようになっている。尚、この第4の領域A4についても、運転席ドアに対してのみならず、助手席ドアや後部左右座席ドアに対しても形成され、また、車両前後方にも形成され、これらの領域にも、電波回折の特性によりリクエスト信号が送信される。要するに、リクエスト信号は、車内全領域及び車両周辺領域に送信される。
【0042】
そして、このようなリクエスト信号の送信領域内において、電子キー2とセキュリティ装置3との間での双方向通信が可能となっている。つまり、リクエスト信号の送信領域内に電子キー2が持ち込まれたとき、その電子キー2によりリクエスト信号が受信されて同電子キー2からIDコード信号が送信されるようになっている。
【0043】
図1に戻って、前記通信アンテナ32は、リクエスト信号に対する応答信号として電子キー2から送信されてくるIDコード信号や、該リクエスト信号とは関係なく電子キー2から送信されてくる解錠要求信号、施錠要求信号、エンジン始動要求信号を受信するための媒体であり、この場合、同通信アンテナ32は、受信アンテナとして機能する。前記通信回路31は、通信アンテナ32により受信された各種信号(IDコード信号、解錠要求信号、施錠要求信号、エンジン始動要求信号)を復調して受信信号を生成するとともに、その受信信号を照合装置33に出力する。つまり、この場合、前記通信回路31は、受信回路(復調回路を含む)として機能する。そして、この場合、通信アンテナ32と通信回路31とにより受信手段が構成される。
【0044】
ここで、前記通信回路31は、前記通信アンテナ32による前記各種信号の受信態様を解析することによって、該信号の到来方向を推定する方向推定、並びに該信号の送信源である電子キー2までの距離を推定する距離推定を行い、電子キー2が車内外のいずれに位置しているのかを判定する。そして、同通信回路31は、その判定結果を前記受信信号に付加して照合装置33に出力する。尚、通信回路31による方向推定の手法、並びに距離推定の手法については後述する。
【0045】
照合装置33は、不揮発性のメモリ33aを備えるとともに、そのメモリ33aには、セキュリティ装置3が搭載されている車両に適合する電子キー2(=正規の電子キー2)のIDコードと同一のIDコード(基準IDコード)が記憶されている。
【0046】
照合装置33は、車両が駐車状態(エンジンスイッチOFF、ドアロック状態)にあるとき、正規の電子キー2の所持者による「乗車」に伴う車両への接近(第2の領域A2や第4の領域A4への進入)を監視するため、通信回路31にリクエスト信号を間欠的に出力する。
【0047】
また、照合装置33は、運転席ドアが開閉されたとき、正規の電子キー2の所持者による乗車(第1の領域A1や第3の領域A3への進入)を監視するため、通信回路31にリクエスト信号を間欠的に出力する。
【0048】
さらに、照合装置33は、ドアアウトサイドハンドルに設けられたドアロックスイッチが操作されたとき、正規の電子キー2の所持者による「降車」に伴う車外への脱出(第2の領域A2や第4の領域A4への進入)や、電子キー2の車内置き忘れの有無を監視するため、通信回路31にリクエスト信号を間欠的に出力する。
【0049】
その結果、車両が駐車状態にあるとき、また運転席ドアが開閉されたとき、さらにドアロックスイッチが操作されたとき、通信アンテナ32から各領域A1〜A4内にリクエスト信号が間欠的に送信される。
【0050】
照合装置33は、通信回路31にリクエスト信号を間欠的に出力するに際して、それを出力しない休止期間において、電子キー2から送信されてくる各種信号(IDコード信号、解錠要求信号、施錠要求信号、エンジン始動要求信号)の受信待機状態となる。即ち、照合装置33は、前記休止期間において、通信回路31からの前記各種信号に関する各受信信号の入力有無を監視する。
【0051】
そして、照合装置33は、前記各種信号のいずれかに関する受信信号が通信回路31から入力されたとき、通信回路31へのリクエスト信号の出力を停止し、該通信回路31から入力された受信信号を解析する。即ち、この場合、照合装置33は、該受信信号に含まれているIDコードが基準IDコードと一致しているか否かを判断する。つまり、この場合、照合装置33は、IDコード照合を実行する。
【0052】
そして、照合装置33は、このIDコード照合により両IDコードが一致したとき、正規の電子キー2が利用された旨(正規の電子キー2の存在を肯定する旨)を認識して、図示しない車内通信ネットワーク上にIDコード一致信号を出力するとともに、該受信信号の更なる解析を行う。即ち、この場合、照合装置33は、該受信信号に含まれている、電子キー2の位置に関する判定結果に基づいて、電子キー2が車内外のいずれに位置しているのかを特定する。
【0053】
そして、照合装置33は、電子キー2が車外に位置していると特定したとき、それを示唆する携帯機車外存在特定信号を前記車内通信ネットワーク上に出力する一方、電子キー2が車内に位置していると特定したとき、それを示唆する携帯機車内存在特定信号を前記車内通信ネットワーク上に出力する。
【0054】
また、照合装置33は、該受信信号に解錠要求用操作コードが含まれているとき、解錠要求有り信号を、該受信信号に施錠要求用操作コードが含まれているとき、施錠要求有り信号を、該受信信号にエンジン始動要求用操作コードが含まれているとき、エンジン始動要求有り信号を、前記車内通信ネットワーク上に出力する。
【0055】
そして、該車内通信ネットワーク上に出力された各種信号(IDコード一致信号、携帯機車外存在特定信号、携帯機車内存在特定信号、解錠要求有り信号、施錠要求有り信号、エンジン始動要求有り信号)は、同ネットワークに電気的に接続された照合装置33、ドア制御装置40、エンジン制御装置50を含む各種制御装置間で共有される。そして、これらの信号を用いて各制御装置が車両制御を行うようになっている。
【0056】
例えば、ドア制御装置40は、前記車内通信ネットワークを通じてIDコード一致信号及び携帯機車外存在特定信号を取得した場合にあって、電子キー2の所持者がドアアウトサイドハンドルに触れてそれに内蔵されたタッチセンサでそれが検出されたとき、この電子キー2の所持者による乗車の意志が認められるので、この場合、ドアを解錠する。
【0057】
また、ドア制御装置40は、IDコード一致信号及び携帯機車外存在特定信号を取得した場合にあって、電子キー2の所持者がドアアウトサイドハンドルに設けられたドアロックスイッチを操作してそれを検出したとき、この電子キー2の所持者による降車の意志が認められるので、この場合、ドアを施錠する。尚、このように電子キー2が車外に持ち出されたものと認められる状況下で、ドアを施錠しているので、この電子キー2を車内に置き忘れたままドアが施錠されてしまう、いわゆるインロックの発生を防止することができる。
【0058】
さらに、ドア制御装置40は、IDコード一致信号及び解錠要求有り信号(施錠要求有り信号)を取得したとき、電子キー2の所持者によるドア解錠(施錠)の意志が認められるので、この場合、携帯機車外存在特定信号や携帯機車内存在特定信号の取得に関わらず、ドアを解錠(施錠)する。
【0059】
一方、エンジン制御装置50は、IDコード一致信号及び及び携帯機車内存在特定信号を取得した場合にあって、電子キー2の所持者がブレーキペダルを踏み込みながらエンジンスイッチをON操作してそれらを検出したとき、この電子キー2の所持者によるエンジン始動の意志が認められるので、この場合、エンジンを始動する。
【0060】
また、エンジン制御装置50は、IDコード一致信号及びエンジン始動要求有り信号を取得したとき、併せて携帯機車内存在特定信号を取得したことを条件として、電子キー2の所持者によるエンジン始動の意志を有効なものとして、この場合、エンジンを始動する。つまり、エンジン制御装置50は、IDコード一致信号及びエンジン始動要求有り信号を取得するも、併せて携帯機車内存在特定信号を取得せずに、携帯機車外存在特定信号を取得した場合、電子キー2の所持者によるエンジン始動の意志を無効化し、この場合、エンジンを始動しない。従って、車外で電子キー2のエンジン始動スイッチ26が操作された場合にはエンジンの始動が禁止され、つまりは電子キー2が車内に位置していない状況下でのエンジン始動が禁止される。
【0061】
次に、通信回路31による方向推定の手法、並びに距離推定の手法について説明する。
図4に示すように、共通の原点Oを基準として互いに直交して延びる3軸をX軸、Y軸、Z軸と規定したとき、前記通信アンテナ32は、複数のアンテナ素子が前記原点Oを基準としてXY平面に沿って2次元に配列されたアレイアンテナにより構成されている。尚、本実施形態では、M×N個のアンテナ素子が、互いに等間隔でM行N列に並ぶように、直交するマトリックスの各交点に配置されたアダプティブアレイアンテナにて通信アンテナ32が構成されている。
【0062】
通信回路31は、こうした通信アンテナ32で受信された信号の到来方向に関して、該信号の到来方向とXY平面とのなす角度である仰角或いは俯角、並びに該信号の到来方向をXY平面に正射影したときに該XY平面上に現れる仮想線と原点Oに対して正のX軸線とのなす角度である方位角を推定する。
【0063】
尚、本実施形態では、当該車両の天井の内面(これがXY平面と一致する)に通信アンテナ32が設けられることから、同通信アンテナ32で受信された信号の到来方向とXY平面とのなす角度として俯角が採用され、図4には、該俯角が符号θで示されている。また、同図4には、該信号の到来方向をXY平面に正射影したときに該XY平面上に現れる仮想線が符号Lで示されるとともに、該仮想線Lと原点Oに対して正のX軸線とのなす角度である方位角が符号φで示されている。ちなみに、俯角θの範囲は、0度≦θ≦90度であり、方位角φの範囲は、−180度≦φ≦180度である。
【0064】
尚、俯角θ及び方位角φを推定する手法としては、ビームフォーマ法、Capon法、MUSIC法、線形予測法、最小ノルム法、ESPRIT法等の手法が挙げられる。また、通信アンテナ32の基準点である原点Oから該信号の送信源までの距離(これに対して符号dを付与する)を推定する手法としては、逆フーリエ変換による手法等が挙げられる。本発明の要部は、これらの手法自体にあるのではなく、これらの手法を通じて得られる俯角θ及び方位角φ、並びに距離dに基づいて、該信号の送信源である電子キー2が車内外のいずれに位置しているのかを判定する点にあるので、ここでは上記列挙した各手法の詳細については割愛する。
【0065】
次に、通信回路31が、電子キー2が車内外のいずれに位置しているのかを判定するときの動作について説明する。
図5に示すように、通信回路31には、通信アンテナ32で受信された信号の到来方向に関する俯角θ及び方位角φ、並びに通信アンテナ32から該信号の送信源までの距離dに対して、電子キー2が車内外のいずれに位置しているのかを示す携帯機位置情報が関連付けされた携帯機位置判定用データが設定されている。
【0066】
そして、通信回路31は、通信アンテナ32による信号の受信態様を解析することによって、俯角θ及び方位角φ、並びに距離dを得たとき、前記携帯機位置判定用データを参照し、該俯角θ及び方位角φ、並びに距離dに関連付けされている携帯機位置情報に基づいて、電子キー2が車内外のいずれに位置しているのかを判定する。そして、通信回路31は、電子キー2が車内(車外)に位置していると判定したとき、それを示唆する判定結果を、前述の受信信号に付加して照合装置33に出力する。尚、こうした受信信号を照合装置33が受け取った後の動作は、先に説明した通りである。
【0067】
さて、通信回路31による位置判定の具体例を説明するに際して、第1の前提として、当該車両の運転席ドアのウインドウガラス(電波透過部)の上端縁が、俯角θ=θ1の高さにあり、且つその高さにおいて同ウインドウガラスの前端が、方位角φ=φ1に位置しており、さらに、原点Oからそこまでの距離がd1であるものとする。
【0068】
このような第1の前提において、通信回路31は、通信アンテナ32による信号の受信態様を解析することによって、図5の第1段目に示すように、俯角θとしてθ1を、方位角φとしてφ1を、距離dとしてd1以下の値をそれぞれ得たとき、電子キー2が車内に位置していると判定する。つまり、この場合、図3に示す第1の領域A1に電子キー2が位置しており、通信回路31によってそれが正確に判定される。
【0069】
一方、通信回路31は、図5の第2段目に示すように、俯角θとしてθ1を、方位角φとしてφ1を、距離dとしてd1を超える値をそれぞれ得たとき、電子キー2が車外に位置していると判定する。つまり、この場合、図3に示す第2の領域A2に電子キー2が位置しており、通信回路31によってそれが正確に判定される。
【0070】
また、第2の前提として、当該車両の運転席ドアのウインドウガラス(電波透過部)の上端縁が、俯角θ=θ1の高さにあり(第1の前提と同じ)、且つその高さにおいて第1の前提よりも少し車両後方側へずれた同ウインドウガラスの箇所が、方位角φ=φ2に位置しており、さらに、原点Oからそこまでの距離がd2であるものとする。
【0071】
このような第2の前提において、通信回路31は、図5の第3段目に示すように、俯角θとしてθ1を、方位角φとしてφ2を、距離dとしてd2以下の値をそれぞれ得たとき、電子キー2が車内に位置していると判定する。つまり、この場合、図3に示す第1の領域A1に電子キー2が位置しており、通信回路31によってそれが正確に判定される。
【0072】
一方、通信回路31は、図5の第4段目に示すように、俯角θとしてθ1を、方位角φとしてφ2を、距離dとしてd2を超える値をそれぞれ得たとき、電子キー2が車外に位置していると判定する。つまり、この場合、図3に示す第2の領域A2に電子キー2が位置しており、通信回路31によってそれが正確に判定される。
【0073】
さらに、第3の前提として、当該車両の運転席ドアのウインドウガラス(電波透過部)の上端縁が、俯角θ=θ1の高さにあり(第1の前提及び第2の前提と同じ)、且つその高さにおいて同ウインドウガラスの後端が、方位角φ=φxに位置しており、さらに、原点Oからそこまでの距離がdxであるものとする。
【0074】
このような第3の前提において、通信回路31は、図5の第5段目に示すように、俯角θとしてθ1を、方位角φとしてφxを、距離dとしてdx以下の値をそれぞれ得たとき、電子キー2が車内に位置していると判定する。つまり、この場合、図3に示す第1の領域A1に電子キー2が位置しており、通信回路31によってそれが正確に判定される。
【0075】
一方、通信回路31は、図5の第6段目に示すように、俯角θとしてθ1を、方位角φとしてφxを、距離dとしてdxを超える値をそれぞれ得たとき、電子キー2が車外に位置していると判定する。つまり、この場合、図3に示す第2の領域A2に電子キー2が位置しており、通信回路31によってそれが正確に判定される。
【0076】
ここまでの説明により、俯角θ=θ1(固定)、及び方位角φ=φ1〜φxによって定まる各方向から到来する信号が通信アンテナ32で受信されたとき、その方向に沿った通信アンテナ32から該信号の送信源である電子キー2までの距離に応じて、電子キー2が車内外のいずれに位置しているのかが通信回路31で判定される点が理解される。
【0077】
尚、当該車両の運転席ドアのウインドウガラス(電波透過部)が、原点Oから見て俯角θ=θ1〜θxの高さに存在しているものと仮定したとき、各々の高さにおいても上記と同様に、俯角θ及び方位角φの値によって定まる各方向から到来する信号が通信アンテナ32で受信されたとき、その方向に沿った通信アンテナ32から該信号の送信源である電子キー2までの距離に応じて、電子キー2が車内外のいずれに位置しているのかが通信回路31で判定される(他のウインドウガラスについても同様)。
【0078】
次いで、第4の前提として、当該車両の運転席シート付近が、俯角θ=θyの高さにあり、且つ方位角φ=φyに位置しているものとする。
このような第4の前提において、通信回路31は、図5の第7段目に示すように、俯角θとしてθyを、方位角φとしてφyをそれぞれ得たとき、電子キー2が車内に位置していると判定する。つまり、この場合、図3に示す第3の領域A3に電子キー2が位置しており、通信回路31によってそれが正確に判定される。
【0079】
尚、この場合、原点Oからその方向に沿ったそこの先には、当該車両において金属のような電波遮蔽部材からなる床(乗員室及び荷物室の床板であるフロアパンがこれに相当する)が存在しており、該床を介した車内外での信号の行き来はない。従って、該方向から到来する信号が通信アンテナ32で受信されたとき、通信回路31は、その方向に沿った通信アンテナ32から該信号の送信源である電子キー2までの距離を推定することなく、電子キー2が車内に位置していると判定する。
【0080】
まとめると、通信回路31は、第2の領域A2から通信アンテナ32へ向かう方向が、信号の到来方向であると推定したとき、その方向に沿った通信アンテナ32から電子キー2までの距離を距離推定を通じて特定する。
【0081】
そして、通信回路31は、第2の領域A2から通信アンテナ32へ向かう方向に沿った該通信アンテナ32から電子キー2までの距離が、同通信アンテナ32からウインドウガラス(電波透過部)までの距離以下であるとき、電子キー2が車内に位置していると判定する。従って、車内の領域である第1の領域A1に位置する電子キー2から送信されてきた信号が、通信アンテナ32に達し、それが同通信アンテナ32で受信されたとき、電子キー2が車内に位置していると判定される。
【0082】
また、通信回路31は、第2の領域A2から通信アンテナ32へ向かう方向に沿った該通信アンテナ32から電子キー2までの距離が、同通信アンテナ32からウインドウガラス(電波透過部)までの距離を超えているとき、電子キー2が車外に位置していると判定する。従って、車外の領域である第2の領域A2に位置する電子キー2から送信されてきた信号が、ウインドウガラス(電波透過部)を介して、通信アンテナ32に達し、それが同通信アンテナ32で受信されたとき、電子キー2が車外に位置していると判定される。
【0083】
さらに、通信回路31は、第3の領域A3から通信アンテナ32へ向かう方向が、信号の到来方向であると推定したとき、距離推定を行うことなく、電子キー2が車内に位置していると判定する。従って、車内の領域である第3の領域A3に位置する電子キー2から送信されてきた信号が、通信アンテナ32に達し、それが同通信アンテナ32で受信されたとき、電子キー2が車内に位置していると判定される。
【0084】
尚、第4の領域A4に電子キー2が位置しているとき、電波回折の特性により該第4の領域A4に対して送信されたリクエスト信号に応答して、同電子キー2からIDコード信号が送信される。そして、このIDコード信号は、電波回折の特性により通信アンテナ32に達し、それが同通信アンテナ32で受信される。そして、この場合、第2の領域A2から通信アンテナ32へ向かう方向が、信号の到来方向であると推定されるので、その方向に沿った通信アンテナ32から電子キー2までの距離が距離推定を通じて特定される。そして、この場合、該距離が、通信アンテナ32からウインドウガラス(電波透過部)までの距離を超えるので、電子キー2が車外に位置していると判定される。ちなみに、第4の領域A4に位置している電子キー2から、リクエスト信号とは関係のない解錠要求信号、施錠要求信号、エンジン始動要求信号が送信される場合もこれと同様である。
【0085】
本実施形態において通信回路31は、通信アンテナ32による信号の受信態様を解析することによって、該信号の到来方向を推定する方向推定手段に相当する。また、同通信回路31は、通信アンテナ32による信号の受信態様を解析することによって、該信号の送信源である電子キー2までの距離を推定する距離推定手段に相当する。さらに、同通信回路31は、信号の到来方向や信号の送信源までの距離に基づいて、電子キー2が車内外のいずれに位置しているのかを判定する位置判定手段に相当する。
【0086】
以上、詳述したように本実施形態によれば、次のような作用、効果を得ることができる。
(1)当該車両のセキュリティ装置3から車外の所定領域或いは車内の所定領域のみにリクエスト信号が送信されるような配慮を必ずしも行わなくても、そのリクエスト信号に応答して電子キー2から送信されてきた信号の到来方向を推定することで、電子キー2が車内外のいずれに位置しているのかを正確に判定することができる。即ち、リクエスト信号の送信領域を設定するために必要な作業については、簡単なもので足りる。従って、電子キー2が車内外のいずれに位置しているのかを正確に判定するに際して、それを簡単に行うことができる。
【0087】
(2)俯角θ、並びに方位角φに基づいて、電子キー2からの信号の到来方向をいわば3次元的に推定することで、電子キー2が車内外のいずれに位置しているのかをより正確に判定することができる。
【0088】
(3)当該車両の天井を含む電波遮蔽部材を境として、車内側と車外側とに領域が分かれる訳であるが、該車内側の領域に位置する電子キー2から送信されてきた信号は、通信アンテナ32で受信され、該信号の到来方向が推定される。一方、該車外側の領域に位置する電子キー2から送信されてくる信号は、電波遮蔽部材により遮蔽されるので、通信アンテナ32で受信されない。このため、本構成とは異なり、電波遮蔽部材から離れた位置に通信アンテナ32が設けられる構成では、該通信アンテナ32と電波遮蔽部材との間の領域に電子キー2が位置している場合と、該通信アンテナ32に対して前記領域とは反対側の領域に電子キー2が位置している場合とを区別できないところ、本構成では、それらを区別することが可能となる。従って、本構成では、電子キー2からの信号の到来方向を正確に推定することができる。
【0089】
尚、該別の構成において、前記両者を区別できない理由は、共通の方位角φに対して、互いに等しい2つの角度、つまり俯角θと仰角θとが存在することになるからである。ちなみに、本構成では、方位角φに対して1つの角度、つまり俯角θのみが存在し、仰角θについては存在しない。即ち、これが、当該車両の天井(電波遮蔽部材)の内面及びその表面付近に通信アンテナ32を設けることの技術的意義である。
【0090】
(4)一般的な車両のように天井や床等が金属のような電波遮蔽部材で覆われ、ウインドウガラスのような電波透過部が車両の高さ方向の天井近くに設けられる場合、本構成のように、天井の内面及びその表面付近に通信アンテナ32を設けることで、第3の領域A3を広く採れることとなり、電子キー2が車内に位置しているにも関わらず、それが車外に位置していると誤判定される可能性を低減できる。
【0091】
(5)第2の領域A2から通信アンテナ32へ向かう方向に沿った該通信アンテナ32から電子キー2までの距離が、同通信アンテナ32からウインドウガラス(電波透過部)までの距離以下であるとき、電子キー2が車内に位置していると判定される。一方、第2の領域A2から通信アンテナ32へ向かう方向に沿った該通信アンテナ32から電子キー2までの距離が、同通信アンテナ32からウインドウガラス(電波透過部)までの距離を超えているとき、電子キー2が車外に位置していると判定される。このため、前者のように第1の領域A1に電子キー2が位置している場合には、該電子キー2が車内に位置していると判定され、電子キー2が車内に位置しているにも関わらず、それが車外に位置していると誤判定される可能性を低減できる。即ち、方向推定及び距離推定を併用することで、電子キー2が車内外のいずれに位置しているのかをより一層正確に判定することができる。
【0092】
(6)電子キー2とセキュリティ装置3との間での各種信号(リクエスト信号、IDコード信号、解錠要求信号、施錠要求信号、エンジン始動要求信号)のやりとりで使用する周波数を共通のもの(2.45GHz)としたので、電子キー2の側及びセキュリティ装置3の側の双方において、それぞれ通信アンテナを送受信兼用の媒体として用いることが可能となる。このため、電子キー2の側及びセキュリティ装置3の側の双方において、それぞれ部品点数削減により構成が簡素化されるとともに、小型軽量化を図ることができる。従って、電子キー2の側において、生産性の向上や携帯性の向上が見込めるとともに、セキュリティ装置3が搭載される車両の側において、生産性の向上や燃費の向上が見込める。
【0093】
(7)車外で解錠スイッチ24や施錠スイッチ25が操作された場合にドアを施解錠するとともに、車内でエンジン始動スイッチ26が操作された場合に限りエンジンを始動し、車外でエンジン始動スイッチ26が操作された場合にはエンジンの始動を禁止することが可能となる。こうすれば、電子キー2が車外に位置しているにも関わらずエンジンが始動することが回避される。つまり、電子キー2の位置に応じた適切な車両制御を行うことができる。
【0094】
(8)車内に電子キー2が位置しているとき、一旦ドアが施錠された後の段階では、車外からドアを開けられないようにすれば、車内に存在するユーザの意志に反して、第三者によりいわば勝手にドアが開けられてしまうことが回避され、セキュリティ性を高めることができる。そして、これも電子キー2の位置に応じた適切な車両制御の1つとして数えることができる。
【0095】
尚、前記実施形態は、次のように変更して具体化することも可能である。
・一般的な車両と同様に天井や床等が金属のような電波遮蔽部材で覆われ、また、一般的な車両とは異なり、ウインドウガラスのような電波透過部が車両の高さ方向の床近くに設けられる特殊車両に本発明を適用してもよい。この場合、床の内面及びその表面付近に通信アンテナ32を設けることで、第3の領域A3を広く採れることとなり、電子キー2が車内に位置しているにも関わらず、それが車外に位置していると誤判定される可能性を低減できる。
【0096】
尚、この場合において、例えば当該車両の床の内面(これがXY平面と一致する)に通信アンテナ32を設けたとき、同通信アンテナ32で受信された信号の到来方向とXY平面とのなす角度として、「俯角θ」の代わりに「仰角θ」が採用される。
【0097】
そして、この場合、当該車両の床を含む電波遮蔽部材を境として、車内側と車外側とに領域が分かれる訳であるが、該車内側の領域に位置する電子キー2から送信されてきた信号は、通信アンテナ32で受信され、該信号の到来方向が推定される。一方、該車外側の領域に位置する電子キー2から送信されてくる信号は、電波遮蔽部材により遮蔽されるので、通信アンテナ32で受信されない。このため、本構成とは異なり、電波遮蔽部材から離れた位置に通信アンテナ32が設けられる構成では、該通信アンテナ32と電波遮蔽部材との間の領域に電子キー2が位置している場合と、該通信アンテナ32に対して前記領域とは反対側の領域に電子キー2が位置している場合とを区別できないところ、本構成では、それらを区別することが可能となる。従って、本構成では、電子キー2からの信号の到来方向を正確に推定することができる。
【0098】
尚、該別の構成において、前記両者を区別できない理由は、共通の方位角φに対して、互いに等しい2つの角、つまり俯角θと仰角θとが存在することになるからである。ちなみに、本構成では、方位角φに対して1つの角、つまり仰角θのみが存在し、俯角θについては存在しない。即ち、これが、当該車両の床(電波遮蔽部材)の内面及びその表面付近に通信アンテナ32を設けることの技術的意義である。
【0099】
・本発明は、携帯機(電子キー2)と車両(セキュリティ装置3)との間で双方向通信が行われる電子キーシステム1(通信システム)に限らず、携帯機を送信側とする単方向通信が行われる通信システムにも適用可能である。例えば、前記実施形態において、リクエスト信号及びIDコード信号に関するやりとりは必須ではなく、それが省略されたものに本発明を適用してもよい。この場合、携帯機(電子キー2)は、必ずしも受信機能を有していなくてもよく、少なくとも送信機能を有していればよい。一方、車両(セキュリティ装置3)は、必ずしも送信機能を有していなくてもよく、少なくとも受信機能を有していればよい。
【0100】
・通信アンテナ32(アダプティブアレイアンテナ)を構成する複数のアンテナ素子を2次元に配列するに際して、複数のアンテナ素子をマトリックスの各交点に配置する構成に代えて、複数のアンテナ素子を十字状に配置する構成や、複数のアンテナ素子をL字状に配置する構成を採用してもよい。
【0101】
・必ずしも距離推定を併用しなくてもよく、それを省略して方向推定のみにより電子キー2が車内外のいずれに位置しているのかを判定するようにしてもよい。尚、このように方向推定のみとした場合、通信回路31は、図3に示す第3の領域A3に電子キー2が存在しているとき、前記実施形態と同様に、電子キー2が車内に位置していると判定する。また、方向推定のみとした場合、通信回路31は、第1の領域A1から通信アンテナ32へ向かう方向と、第2の領域A2から通信アンテナ32へ向かう方向とを区別することができないので、第1の領域A1に電子キー2が存在しているとき、電子キー2が車内に位置しているにも関わらず、それが車外に位置していると判定する。
【0102】
しかし、この第1の領域A1に電子キー2が位置するような状況が発生する可能性は、車両使用上において極めて低いものであり、よって車内に電子キー2が位置していながら車外に電子キー2が位置しているとの判定から、エンジンが始動されない、といった不都合が生じる可能性は低く、さほど問題とならない。
【0103】
そもそも、こうしたことが問題となる可能性を完全には否定できない点を踏まえて、前記実施形態では、方向推定と距離推定とを併用していることは今更言うまでもない。尚、この点は、上記実施形態における効果(5)に記載してある。
【図面の簡単な説明】
【0104】
【図1】本実施形態の自動車に適用されている電子キーシステムの構成を示すブロック図。
【図2】車内に通信アンテナが設けられている様子を示す車両の斜視図。
【図3】車内に設けられている通信アンテナとウインドウガラスとを結ぶ領域の内である第1の領域、その第1の領域の延長としてウインドウガラスから車外へ展開される領域の内である第2の領域、車内全領域のうち第1の領域を除く領域の内である第3の領域、車内に設けられている通信アンテナから見て影の領域である第4の領域を示す車両の模式横断面図。
【図4】原点を基準としてX軸、Y軸、Z軸を規定し、該原点を基準としてXY平面に沿ってアレイアンテナが設けられ、そのアレイアンテナで受信された信号の到来方向に関する俯角及び方位角を示す説明図。
【図5】セキュリティ装置の通信回路に設定されている携帯機位置判定用データを示す概念図。
【符号の説明】
【0105】
2…電子キー(携帯機)、3…セキュリティ装置(位置判定装置)、31…通信回路(方向推定手段、距離推定手段、位置判定手段)、32…通信アンテナ(受信アンテナ)、A1…第1の領域、A2…第2の領域、A3…第3の領域、L…XY平面上の仮想線、O…原点、θ…俯角、φ…方位角。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両ユーザが所持する携帯機が車内外のいずれに位置しているのかを判定する位置判定装置において、
車内に設けられ、前記携帯機から送信されてくる信号を受信するための媒体となる受信アンテナと、
前記受信アンテナによる前記信号の受信態様を解析することによって、該信号の到来方向を推定する方向推定手段と、
前記方向推定手段により推定された前記信号の到来方向に基づいて、前記携帯機が車内外のいずれに位置しているのかを判定する位置判定手段とを備え、
当該車両のウインドウガラスを含む電波透過部と前記受信アンテナとを結ぶ領域の内を第1の領域と規定し、
前記第1の領域の延長として、前記電波透過部から車外へ展開される領域の内を第2の領域と規定し、
車内全領域のうち、前記第1の領域を除く領域の内を第3の領域と規定し、
前記位置判定手段は、前記第2の領域から前記受信アンテナへ向かう方向が、前記信号の到来方向として前記方向推定手段により推定されたとき、前記携帯機が車外に位置していると判定し、
同位置判定手段は、前記第3の領域から前記受信アンテナへ向かう方向が、前記信号の到来方向として前記方向推定手段により推定されたとき、前記携帯機が車内に位置していると判定する
ことを特徴とする位置判定装置。
【請求項2】
共通の原点を基準として互いに直交して延びる3軸をX軸、Y軸、Z軸と規定し、
前記受信アンテナは、複数のアンテナ素子が前記原点を基準としてXY平面に沿って2次元に配列されたアレイアンテナにより構成され、
前記方向推定手段は、前記アレイアンテナによる前記信号の受信態様を解析することによって、該信号の到来方向に関して、前記信号の到来方向と前記XY平面とのなす角度である仰角或いは俯角、並びに前記信号の到来方向を前記XY平面に正射影したときに該XY平面上に現れる仮想線と前記原点に対して正のX軸線とのなす角度である方位角を推定するものである
請求項1に記載の位置判定装置。
【請求項3】
前記受信アンテナは、当該車両の天井を含む電波遮蔽部材の内面及びその表面付近、並びに当該車両の床を含む電波遮蔽部材の内面及びその表面付近の少なくとも一方に設けられる
請求項1又は請求項2に記載の位置判定装置。
【請求項4】
請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の位置判定装置において、
前記受信アンテナによる前記信号の受信態様を解析することによって、該信号の送信源である前記携帯機までの距離を推定する距離推定手段をさらに備え、
前記位置判定手段は、前記第2の領域から前記受信アンテナへ向かう方向が、前記信号の到来方向として前記方向推定手段により推定されたとき、その方向に沿った前記受信アンテナから前記携帯機までの距離を前記距離推定手段による推定結果に基づいて特定し、
同位置判定手段は、前記第2の領域から前記受信アンテナへ向かう方向に沿った該受信アンテナから前記携帯機までの距離が、同受信アンテナから前記電波透過部までの距離以下であるとき、前記携帯機が車内に位置していると判定し、
同位置判定手段は、前記第2の領域から前記受信アンテナへ向かう方向に沿った該受信アンテナから前記携帯機までの距離が、同受信アンテナから前記電波透過部までの距離を超えているとき、前記携帯機が車外に位置していると判定する
ことを特徴とする位置判定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−60457(P2010−60457A)
【公開日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−227136(P2008−227136)
【出願日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【出願人】(000003551)株式会社東海理化電機製作所 (3,198)
【Fターム(参考)】