説明

位置測定システムおよび位置測定方法

【課題】電波の伝播状態が時間とともに変化する環境においても、無線装置の位置を測定できる位置測定システムおよび位置測定方法を提供する。
【解決手段】位置測定の対象物である無線タグ14と、無線装置の位置測定のための、複数のアクセスポイントAP1〜AP9と、アクセスポイントAP1〜AP9と接続されたサーバとを含み、アクセスポイントAP1〜AP9は、無線タグ14から受信した電波から、電波の強度に関する受信情報を取得して、取得した受信情報をサーバに送り、サーバは、電波の発信源である無線タグ14からの距離と、電波の強度の減衰との関係についての統計データに基づいた距離減衰データを有し、距離減衰データおよび受信情報から、無線タグ14の位置を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電波強度を使った位置測定システムおよび位置測定方法に関するものであり、とくに、屋内等で移動する移動体の位置および動きを認識するための測定装置からなるネットワーク(センサネットワーク)と無線装置とを含み、無線装置から発した電波の電波強度を利用して位置および動きの認識を行うシステムおよび方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
位置および動きの認識を行うシステムにおいて、従来から電波強度を用いるものがある。電波強度は距離の2乗に反比例して減衰する。たとえば、特許文献1にこのことが記載されている。この法則を利用して、電波を発する対象物までの距離を推定することが、電波強度を使った測位技術である。この測位技術は、電波に対して反射/遮断/吸収などを行う障害物の無い広い屋外では、適切なものであるが、電波の反射(マルチパスフェージング)の多い屋内では、電波の減衰にバラツキがでてくるため、位置を特定することは難しい。
【特許文献1】特開平10−213614号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
人がいない、または物の配置が変わらない屋内であれば、従来の位置測定システムでも対応可能である。しかし、人が多数存在して動き回るような、電波の伝播状態が時間とともに変化する環境では、人の存在による電波の減衰や、人が部屋に加わったことによる電波の反射が増えるため、厳密に位置を特定することは非常に難しい。
【0004】
本発明はこのような従来技術の欠点を解消し、電波の伝播状態が時間とともに変化する環境においても、無線装置の位置を測定できる位置測定システムおよび位置測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は上述の課題を解決するために、位置測定の対象物である無線通信が可能な無線装置と、無線装置の位置測定のための、無線通信が可能な複数の測定装置と、複数の測定装置と接続された位置測定手段とを含み、無線装置の位置を測定する位置測定システムにおいて、複数の測定装置は、無線装置から受信した電波から、電波の強度に関する受信情報を取得して、取得した受信情報を位置測定手段に送り、位置測定手段は、電波の発信源である無線装置からの距離と電波の強度の減衰との関係についての統計データに基づいた距離減衰データを有し、距離減衰データおよび受信情報から、無線装置の位置を測定することとしたものである。
【0006】
本発明によれば、統計データに基づいた距離減衰データを有し、距離減衰データおよび受信情報から、無線装置の位置を測定するため、電波の伝播状態が時間とともに変化する環境においても、無線装置の位置を測定できる。
【0007】
本発明においては、無線装置は、複数回、電波を出力し、複数の測定装置は、無線装置から複数回受信した電波から、電波の強度に関する受信情報を取得して、取得した受信情報を位置測定手段に送り、位置測定手段は、距離減衰データおよび受信情報から、無線装置の位置を測定することが好ましい。
【0008】
また、位置測定手段は、受信した電波の強度が所定の条件を満たす測定装置に関して、電波強度を補正し、補正後の電波強度を用いて無線装置の位置を測定することとしてもよい。この場合、複数の測定装置からなるセンサネットワークを使い、無線装置(たとえば無線タグ)からの電波強度を、多くの測定装置(たとえばアクセスポイント)で、短時間の間に数多く測定し、位置測定手段(たとえばセンタ)に収集後、各アクセスポイントで複数回受信した電波強度の違いから、各アクセスポイントにおいて、複数回受信した電波強度に対して重み付けを行い、重み付け後の電波強度を使って、無線タグの位置の計算を行うことができる。
【0009】
なお、本発明の位置測定システムにおいては、無線通信は、近距離無線通信であることが好ましい。近距離無線通信を使うと、無線装置および測定装置において、たとえば、バッテリ駆動が可能になる。このため無線装置および測定装置の設置が容易であり、測定装置の位置変更のために、測定装置を再設置することも容易である。バッテリ駆動が困難である遠距離無線通信の場合は、測定装置に電源線を接続することになるが、そのためのコンセントが必要になり、また、電源線の引き回しが大変である。このように設置および再設置が、より困難になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
次に添付図面を参照して、本発明による位置測定システムの実施例を詳細に説明する。図1は、本発明による位置測定システム10の実施例の構成を示す。図1を参照すると、位置測定システム10は、移動体である人12が身に付けている無線タグ14、無線タグ14と無線により通信可能なアクセスポイントAP1〜AP9、アクセスポイントAP1〜AP9により構成される無線ネットワークとサーバとを接続するサーバ側ゲートウェイGW、アクセスポイントAP1〜AP9が収集した無線タグ14からの電波の強度値に関する情報を一元的に記録し管理して、位置決定を行うサーバ16を有する。
【0011】
無線タグ14は、たとえば、IEEE802.15.4通信規格に準拠したものであり、図示しない2.4GHzアナログ無線回路と、電波強度測定回路と、信号処理回路と、記憶回路を有する。アクセスポイントAP1〜AP9も、無線タグ14と同様な構成とすることができる。
【0012】
無線ネットワークは、本実施例では、いわゆるメッシュ型ネットワークである。メッシュ型ネットワークでは、各アクセスポイントAP1〜AP9同士が通信を行い、かつ各アクセスポイントAP1〜AP9がデータを次々と中継し、最終的にサーバ16へとデータを中継する機能を有する。本実施例ではアクセスポイントAP5,AP9が、ゲートウェイGWを介してサーバ16に接続される。
【0013】
なお、無線ネットワークはスター型無線ネットワークでも良い。スター型無線ネットワークでは、ゲートウェイGWを中心とし、ゲートウェイGWを介して各アクセスポイントを相互に接続する。
【0014】
無線タグ14およびアクセスポイントAP1〜AP9は任意の個数を設けてよい。アクセスポイントAP1〜AP9同士の間、アクセスポイントAP1〜AP9と無線タグ14との間は無線通信とする。無線タグ14およびアクセスポイントAP1〜AP9は無指向性アンテナを有する。無線タグ14は無線出力の大きさを変更することができ、無線出力の大きさを変えることによって、電波が届く範囲を広くしたり、狭くしたりすることができる。アクセスポイントAP1〜AP9が電波を受信できる範囲は重なっていても、一方の範囲が他方の範囲を包含していても良い。アクセスポイントAP1〜AP9とゲートウェイGWとの間の接続は、本実施例では無線による接続であるが、有線による接続でもよい。
【0015】
本システムで使う無線タグ14は送受信の機能を有し、無線タグ14から電波を定期的に送信する機能と、アクセスポイントAP1〜AP9から送信間隔の変更に関する命令を受信する機能を有する。またアクセスポイントAP1〜AP9は、無線タグ14が出力した電波を受信し、その電波強度を測定する機能と、得られた強度をサーバ16に転送(送信)する機能を持つ。サーバ側ゲートウェイGWは、そのデータをサーバ16へと中継する。サーバ16の制御部20は、入力されたデータを記憶部22に保存する。制御部20は、保存されたデータを用いて、後述する方法で無線タグ14の位置を決定する。
【0016】
本実施例のメッシュ型ネットワークにおいては、アクセスポイントAP1〜AP9の位置を変更すると、いずれかのアクセスポイントAP1〜AP9と通信ができるように、自動的にネットワークを構築し直し、孤立する(他のアクセスポイントと一切通信できない状況になる)アクセスポイントがなくなる機能を持つものとする。
【0017】
本システムは、図2のように、屋内にいる人12が無線タグ14を保持し、メッシュ型ネットワークがカバーする無線通信可能な範囲の中を、人12が経路18で示すように歩き回るときの位置を測定するものである。このとき、無線タグは、ある時間間隔(たとえば3秒)で連続的に電波を発信(数msごとに電波を数回発信)している状態にある。発信の時間間隔、および連続的に電波を発信する回数等は、使用目的に応じて適切に設定する。図2では、アクセスポイントAPは、ほぼ格子点状に配置している。
【0018】
図1に戻って、本システムでは、位置の測定を行う前に、アクセスポイントAP1〜AP9に関する設定と、アクセスポイントAP1〜AP9が設置されている環境における距離減衰特性の把握という2つの事前設定を行う。
【0019】
最初に、アクセスポイントAP1〜AP9に関する事前設定を説明する。無線タグ14の位置の測定を行う領域をカバーするように、アクセスポイントAP1〜AP9を設置する。無線タグ14の位置の測定を開始する前に、以下のようにアクセスポイントAP1〜AP9に関して事前登録を行う。設置したアクセスポイントAP1〜AP9を識別するための識別情報(以後、アクセスポイントIDと呼ぶ)と、アクセスポイントAP1〜AP9の位置の座標をサーバ16に登録する。
【0020】
一例として、次のように登録する。各アクセスポイントAP1〜AP9が設置された位置を登録するために、所定の間隔で区切られたX-Y座標軸を用いて、各アクセスポイントが存在する場所の座標を登録する。または、各アクセスポイントAP1〜AP9間の相対距離を測定し、所定のアクセスポイントAP1〜AP9の位置を基準として、各アクセスポイントAP1〜AP9の相対座標を設定してもよい。設置したアクセスポイントAP1〜AP9の位置を変更した場合、アクセスポイントAP1〜AP9の位置の座標を調べて、サーバに再登録する。
【0021】
ここで、各アクセスポイントAP1〜AP9間の距離は、実測してもよいし、各アクセスポイントAP1〜AP9間同士で通信し、そのとき得られた電波強度より推定される各アクセスポイントAP1〜AP9間の距離でも良い。電波強度は電波強度測定回路により測定されるが、電波強度測定回路としては、たとえば、いわゆる受信信号強度表示(RSSI(Received Signal Strength Indicator)回路を用いる。受信信号強度表示回路は、たとえば、受信した電波の2乗検波出力の振幅を測定して、測定値を受信信号強度とする。
【0022】
次に、アクセスポイントAP1〜AP9が設置されている環境における距離減衰特性の把握について説明する。実際に多くの人が動き回っているために、動的に電波の伝播環境が変化する時問帯に、静的に設置したアクセスポイントとアクセスポイントとの間で順番に電波を発信させる。電波を発信したアクセスポイント以外のアクセスポイントでその電波を受信する。受信した電波強度をゲートウェイ経由でサーバに集める。これを、時間をかけて行い、数多くのデータを収集する。この環境に関する測定は、システムが自動的に、たとえば1ヶ月に1回程度の頻度で行う。
【0023】
電波を発信したアクセスポイントと、電波を受信したアクセスポイントとの間の距離およびそのときに受信した電波強度についてのすべてのデータから、最小二乗法を用いて、距離と電波強度との間の関係を表す距離減衰式の傾きと切片を求める。
【0024】
これらのデータ30の分布状態および距離減衰式32の一例を図3に示す。図3は、縦軸が電波強度であり、RSSI値で示す。RSSI値の単位は、たとえばdBm(デシベルミリワット)である。横軸は、アクセスポイント間の距離の対数である。
【0025】
比較のために、図4に、障害物や移動体の少ない広い屋外で測定したデータ34の分布状態および距離減衰式36の一例を示す。ほぼ理論どおりに距離の2乗に反比例して電波強度は落ちていることを、これらのデータ34は示す。
【0026】
図3のデータ30に対し、最小二乗法を使い、距離減衰式32の傾きと切片を求める。こうして求めた傾きと切片を使い、無線タグの領域内の各地点における存在確率を示す後述の無線タグ存在確率分布式を求める。無線タグ存在確率分布式を用いると、アクセスポイントが受信した無線タグ14からの電波の強度から、当該アクセスポイントから見た無線タグ14の領域内の各地点における存在確率を求めることができる。
【0027】
距離減衰式32は、傾きをa、切片をb、アクセスポイントから無線タグ14までの距離をD、その距離における電波強度をIとすると、以下のようになる。
【0028】
I = -a*ln(D) + b
この式を用いると、あるアクセスポイントで強度Iを測定すれば、そのアクセスポイントから無線タグまでの距離Dがわかる。距離Dがわかれば、その位置を、そのアクセスポイントから見たときの無線タグの存在確率のピークとする。そして、上記の減衰式と同様な割合で、無線タグの存在確率分布を減衰させることにより、当該アクセスポイントから見たときの無線タグ存在確率分布が得られる。
【0029】
この存在確率分布を図5により、さらに説明する。図5は、ある時刻に、x, y座標がそれぞれ、(2.0,3.0)である地点に存在した無線タグ14が発信した電波を、x, y座標がそれぞれ、(0.0,3.0)である地点に設置したアクセスポイントAPで受けたときの例である。そのアクセスポイントAPで測定した電波強度から、無線タグ14の存在する確率を、メッシュ状に区切った各x, y座標位置において示す。無線タグ14の存在する確率は、Z座標で表し、確率値は、1.0以下である。Z座標値が高いほど、その位置に存在する確率が高いことを示す。
【0030】
無線タグの存在確率分布は通常、上から見た場合(Z軸の正の方向から見たときに)、アクセスポイントを起点として拡がる波のような分布になる。最小二乗法で求めた距離減衰式(図3の直線の式) I = -a*ln(D) + b と、統計的手法によって、図5の無線タグ存在確率分布は求められる。Dは (x,y)地点からアクセスポイントまでの直線距離である。
【0031】
無線タグが発信した電波をアクセスポイントが受信したときの電波強度から得られた無線タグの存在確率分布は、アクセスポイントを円の中心とし、上記の距離減衰式32により求めた無線タグの推定位置と、アクセスポイントとの間の直線距離を円の半径とした円周上において、無線タグの存在する確率がピークとなる。
【0032】
また、この円周を境として円の内側に向かって、無線タグの存在する確率が低下して行き、円の中心部となるアクセスポイントの箇所において、無線タグの存在する確率が、円の内側における最低値を取る。同様に、円周を境として円の外周において、無線タグの存在する確率が低くなる。以上で事前設定の説明は終える。
【0033】
本システムでは、無線タグ、アクセスポイント、ゲートウェイが連携して動作する。それぞれの個別の動作を最初に説明する。無線タグ14の動作について述べる。無線タグ14は、無線タグ情報を連続して、複数回マルチキャストで送信する。この複数回、マルチキャストで送信される電波を電波1とする。この複数回マルチキャストを数秒間隔(たとえば3秒間隔)で繰り返し実施する。回数および間隔については、サーバからの指示による。無線タグ14は、無線タグ内部にこの指示を保存し、その保存データに従って、回数および間隔を決定している。無線タグ情報は、無線タグ14の識別情報であるタグIDと、無線タグ14が送信した時間を示す時間IDとを含む。
【0034】
無線タグ14の動作のシーケンスについて図6により説明する。無線タグ14は、起動すると、内蔵するタイマ(図示せず)をリセットする。タイマをリセットした後に、タイマにより時間計測を開始する。その後、回数および間隔に関するサーバからの指示をアクセスポイント経由で、パケットとして受信したかどうかを調べる(ステップS1)。パケットを受信していないときは、ステップS4に進む。
【0035】
パケットを受信しているときは、受信したパケットの内容を調べて、無線タグ14が、それ自身に内蔵するメモリ内の設定内容と比較して、設定内容に変更があるかどうかを判断する(ステップS2)。比較の結果、変更があるときは、蓄積しているデータを更新する(ステップS3)。更新後、ステップS1に戻る。ステップS2において、比較の結果、変更がないと判断したきは、ステップS1に戻る。
【0036】
ステップS4においては、タイマにより、送信時間である3秒間が経過したかどうかを調べる。3秒間が経過している場合は、無線タグ情報を連続して、N回送信する(ステップS5)。N回という回数は、内蔵するメモリ内の設定内容に従ったものである。送信後、内蔵するタイマをリセットした後に、タイマにより時間計測を開始する。その後、ステップS1に戻る。
【0037】
一方、3秒間が経過していないときは、タイマをリセットすることなく、ステップS1に戻る。無線タグの動作説明は以上である。次に、アクセスポイントの動作を説明する。
【0038】
アクセスポイントは通常、受信待ち状態で待機しており、無線タグが出力したマルチキャスト電波を受信すると、処理を開始する。無線タグの電波(上記、電波1)を受信すると、複数回の電波のそれぞれの受信強度を測定した後に、その受信強度に、無線タグのID情報を加えて、ゲートウェイに送信する。
【0039】
1つのアクセスポイントに注目して、そのアクセスポイントの動作のシーケンスについて図7により説明する。アクセスポイントは、いずれも同様の動作を行う。アクセスポイントは、無線タグ14からの受信があるかどうかを調べる(ステップS6)。受信しているときは、受信している電波の電界強度を測定する。これは、N回行われる(ステップS7)。測定して得られた情報をゲートウェイに送信する(ステップS8)。送信後、ステップS6に戻る。一方、受信していないときは、ステップS6に戻る。アクセスポイントの動作説明は以上である。次に、サーバ側ゲートウェイの動作を説明する。
【0040】
ゲートウェイは、アクセスポイントと同一の機能を果たす。さらにゲートウェイは、サーバと、センサネットワークとの間をつなぐ役目もする。ゲートウェイは常に受信待ちとなっており、電波が届くたびに、それに付加されている情報すべてをサーバに格納する。
【0041】
無線タグ、アクセスポイント、ゲートウェイは上記の仕組みで無線タグから発信された電波の電波強度をサーバに集め、サーバ側で電波タグの位置計算を行う。次に、本実施例における電波タグの位置計算方法について説明する。この方法は、多くのアクセスポイントで測定した無線タグからの電波強度を使う。アクセスポイントの数は、電波タグの四方を囲むことができるように、4個以上が望ましい。これらのアクセスポイントにより四角形が形成され、三角形より辺の数が多い多辺による測量が成される。
【0042】
図8は、無線タグが最も存在する確率の高い地点を結んだ線をアクセスポイントごとに示したものである。図8は、以下のように作成する。無線タグN5が発信した電波を、各アクセスポイントN1〜N4、N6〜N9で受信し、その受信した電波強度値を、既述の無線タグ存在確率分布式にあてはめる。そして、アクセスポイントN1〜N4、N6〜N9から見て、無線タグが最も存在する確率の高い地点(無線タグ最大存在確率地点)を結んだ線(アクセスポイントを中心とする円になる)をアクセスポイントN1〜N4、N6〜N9ごとに作成する。
【0043】
円N1a〜N4a、N6a〜N9aが、それぞれアクセスポイントN1〜N4、N6〜N9に対応する。これらの円は、アクセスポイントN1〜N4、N6〜N9で受信した電波強度を基にして、推定位置半径を用いて作成したものである。ここで推定位置半径とは,電波強度から求めた無線タグ最大存在確率地点を結んだ円周の半径を指す。たとえば、円N3aは、アクセスポイントN3が受けた受信電波強度を基に計算した推定位置半径50を有する。
【0044】
人が多数存在し、その人々が動き回り、電波の伝播状況が動的に変化する環境では、人の存在による電波の減衰や、人が部屋に加わったことによる電波の反射(マルチパスフェージング)が増える。そのため、ある瞬間では、図8に示すように、アクセスポイントN1〜N4、N6〜N9から見た無線タグ最大存在確率地点は、ひとつに定まらない。すなわち円N1a〜N4a、N6a〜N9aの交点は1つではない。
【0045】
図8のアクセスポイントN1〜N4、N6〜N9に関して言えば、アクセスポイントN1, N6, N7のように、実際の位置よりもアクセスポイントN1, N6, N7の近くに無線タグN5が存在すると示唆するところもあれば、アクセスポイントN3, N8, N9のように、無線タグN5の位置を、ほぼ正確に示すところもある。さらに、アクセスポイントN2, N4のように、受信した電波強度が弱く、無線タグN5がアクセスポイントN2, N4から、実際の位置よりも、かなり離れて存在することを示唆するものもある。
【0046】
図9は、無線タグN5から微小時間の間に複数の電波を発信させ、アクセスポイントN1〜N4、N6〜N9で受信したときの無線タグ最大存在確率地点を示す。この例では、2つのアクセスポイントN1, N6のみについて、3回の受信ごとの無線タグ最大存在確率地点を示す円N1a〜N1c, N2a〜N2cを表示する。アクセスポイントN1, N6での測定のたびに電波強度が変わるため、無線タグ最大存在確率地点を示す円N1a〜N1c, N2a〜N2cの半径も変わっている。
【0047】
この事実を考慮して本実施例では、
ステップ(1): ごく近いところに無線タグN5が存在すると判定したアクセスポイントN1, N6, N7を選択する。そこで得られた電波強度測定結果は、そうでないアクセスポイントで得られた電波強度測定結果よりも、多くの測定回数分の強度測定結果を利用することとする。
ステップ(2): 次に、すべてのアクセスポイントN1〜N4、N6〜N9での電波強度の傾向から、各アクセスポイントN1〜N4、N6〜N9に重み付けを行うとともに、電波強度を補正し、それぞれのアクセスポイントN1〜N4、N6〜N9ごとに無線タグ存在確率分布を求める。ここで、アクセスポイントN1〜N4、N6〜N9の重み付けとは、後述するように、電波強度が強く出たアクセスポイントについては、そうではないアクセスポイントとは異なる処理を行い、さらに、すべてのアクセスポイントについて、そこで得られた電波強度に関して、特定の処理を行うことを指す。
ステップ(3): 最後に、すべてのアクセスポイントについて得られた無線タグ存在確率分布の積をとり、無線タグの位置を特定する。
というステップを採用する。
【0048】
本実施例の考えは、電波強度が強く出たところの情報は、弱く出たところよりも重要である、なぜならば弱いところは、環境雑音の影響であまり正しいとはいえないからであるという考えに基づく。電波強度が強く出たところは、何度か連続して測定すれば正しくでることもあると考えられるので、複数回の測定結果を考慮して、最適と考えられる測定結果を選択するようにする。すなわち、正しく出たところを見つけるか、もしくは若干の補正を行うという考えである。
【0049】
上記のステップ(1)、(2)、(3)について、さらに説明する。
ステップ(1): ごく近くに無線タグが存在すると考えられるアクセスポイントの選択方法を、説明する。すべてのアクセスポイントN1〜N4、N6〜N9から任意の2つのアクセスポイントの組合せを選び、複数回のマルチキャスト送信を受信した結果のうち、1回目の受信電波の電波強度から無線タグの推定位置半径を求め、以下の条件が成り立つかどうかを判定する。

2つのアクセスポイント間の距離>(2つの推定位置半径の和)*2

この条件が成り立つときは、その2つのアクセスポイントの近くに無線タグN5が存在すると判定する。これをすべてのアクセスポイントN1〜N4、N6〜N9で行い、アクセスポイントの近くに無線タグN5が存在すると判定したアクセスポイントと、その数を求める。図8の場合、アクセスポイントN1, N6, N7が上記の関係を満たすアクセスポイントになる。
ステップ(2): ステップ(1)で選択されたアクセスポイントN1, N6, N7のそれぞれについて、そのアクセスポイントでの電波強度値を、以下のように決定する。表1を参照しながら、説明する。
【0050】
【表1】

選択されたアクセスポイントが3つ以上であった場合は(図8のケースはこれに該当する)、表1のルールNo 2を適用する。これらのアクセスポイントは、表1のルールNo 2のケースに該当するものである。
【0051】
これらのアクセスポイントについては、それぞれのアクセスポイントにおいて、複数回のマルチキャストで受けた電波強度のうち、平均値手法による結果をそのアクセスポイントの電波強度値とする。平均値手法には、「電波強度の特異点」を除いて平均を取るもの、単純に平均を取るもの、最大値および最小値を除いて平均を取るものがある。たとえば、図9のアクセスポイントN1の場合、最大半径の円N1cとその内側の円N1bの間に、アクセスポイントN1が検出した無線タグがあるとする(表1のルールNo 2のSTEP1)。
【0052】
ここで、「電波強度の特異点」とは、1つのアクセスポイントにおいて、たとえば、5回の測定で得られた5個の電波強度のうち、その値が、他の多数のデータと異なるものを指す。たとえば、5個の電波強度が、-20, -24, -18, -10, -25であった場合、-10は、他の強度と離れているため、電波強度の特異点と判断する。
【0053】
ここで、単純に平均を取るとは、1つのアクセスポイントにおいて、例えば5回の測定で得られた5個の電波強度のうち、その値の平均値をとることである。
【0054】
ここで、最大値および最小値を除いて平均を取るとは、1つのアクセスポイントにおいて、たとえば、5回の測定で得られた5個の電波強度のうち、その値の最大値と最小値を除いた3個の電波強度から平均値を取ることである。たとえば、5個の電波強度が、-20、-24、-18、-10、-25であった場合、-10、-25を除いて、-20、-24、-18から平均値を取ることである。
【0055】
ここで求めた電波強度値から無線タグの推定位置半径を求め、まだ以下の関係が成立する場合、表1のルールNo 2のSTEP2の補正を行う。

2つのアクセスポイント間の距離>(2つの推定位置半径の和)*2

すなわち、電波強度値が1番および2番である2つのアクセスポイントについて、表1のルールNo.1を適用し、必要ならば、ルールNo.1に従って電波強度値を変更する。
【0056】
選択されたアクセスポイントが2つであった場合は、表1のルールNo 1を適用する。これらのアクセスポイントは、表1のルールNo 1のケースに該当するものである。これらのアクセスポイントについては、それぞれのアクセスポイントにおいて、複数回のマルチキャストで受けた電波強度の最小値をそのアクセスポイントの電波強度値とする(表1のルールNo 1のSTEP1)。
【0057】
最小値から計算した推定位置半径に関して、まだ「2つのアクセスポイント間の距離>(2つの推定位置半径の和)*2」の関係が成り立つときは、最小値をln(2)で割る。すなわち、最大存在確率地点半径を2倍になるようにする。この関係が成り立たない場合は、最小値をそのまま利用する。
【0058】
表1のルールNo.1, 2のいずれにも該当しなかったアクセスポイントでは、複数回マルチキャストで送信された電波のうち、1回目に受信した電波強度をそのアクセスポイントの電波強度とする。図8の例ではアクセスポイントN2, N3, N4, N8, N9が該当する。
ステップ(3): ステップ(2)までで決定したアクセスポイントごとの決定電波強度値に基づいて作成された無線タグの最大存在確率分布位置(図10に示す)を使って、最終推定位置の特定を行う。図11にその概要を示す。各アクセスポイントN1〜N4, N6〜N9の決定された電波強度値を使って、無線タグの存在確率分布を各アクセスポイントN1〜N4, N6〜N9について求める。図11(a)〜11(h)は、それぞれ、アクセスポイントN1〜N4, N6〜N9に関する無線タグの存在確率分布を示す。これらのすべてのアクセスポイントN1〜N4, N6〜N9の無線タグ存在確率分布の積をとる。
【0059】
図11の中心にある図11(i)が積を取った結果であり、多地点・多重電波強度を使った最終的な無線タグ存在確率分布を示している。図11(i)におけるピークを最終推定位置52とする。サーバは、図11(a)〜11(i)に示す無線タグ存在確率分布を作成するために、たとえば、測定領域全体の大きさが一辺5mの正方形領域であるとすると、測定領域全体を一辺10cmの格子点に分割し、各格子点につき、図11(a)〜11(h)に示す無線タグ存在確率分布を計算し、これらの各格子点につき積を求めて、図11(i)に示す無線タグ存在確率分布を作成する。この積の無線タグ存在確率分布の最大値を検索することにより、最終推定位置52を求める。
【0060】
本発明を利用すると、以下の効果が得られる。人が多数存在し、動き回る動的に電波の伝播状況が変化する環境では、人の存在による電波の減衰や、人が部屋に加わったことによる電波の反射(マルチパスフェージング)が増えるため、位置精度を出すことは非常に難しい。そこで本発明では、多くのアクセスポイント(好ましくは、無線タグを取り囲む4つ以上のアクセスポイント)を使い、また連続して電波強度を測定し(好ましくは5回以上)、その中で強く電波強度が測定されたアクセスポイントでは重み付けを大きくし、小さく測定されたアクセスポイントでは重み付けを小さくして、確率的に位置を推定する。これにより、電波を使った多くの測位方式の中でも、本発明の方式は、精度の高い測位を行うことができる。これは、センサを数多く設置することを前提としているセンサネットワーク向けの測位方式といえる。
【0061】
また電波強度を使った測位方法は、アクセスポイントに通常含まれている電波強度測定回路を用いることができるため、他の方法を用いたときのようにその方法のための専用のハードを付加する必要がなく、無線タグを薄く、小さく、安く、作ることができる。
【0062】
入り組んだ場所、見通しの効かない場所についても、無線タグを取り囲むように、アクセスポイントを多数設置することで、高い位置精度を達成できるため、コストが高くアクセスポイントを多く設置できないIEEE802.11通信規格に従ったWiFi認定を受けた機器による位置測位より有利である。
【0063】
本発明の応用例を次に説明する。この応用例は、1つの大きな空間を使ったショールームにおいて、本発明を用いたものであり、図12により説明する。ショールームでは自由に商品を見学できるようにしているが、見学者が、どの商品に、どれくらい興味を持って見ていたかを知りたいという二一ズがある。本システムで測位することにより、どの商品の前に、どれくらいの時間いたかを把握することができる。
【0064】
まず、図12において、黒丸で示すアクセスポイントAPを設置する。アクセスポイントは、人が歩き回れるところを取り囲むように設置する。主に壁44に設置するが、設置する壁がない場合、天井に設置する。設置後、アクセスポイントAPの座標をサーバに登録する。それぞれのアクセスポイントAPが、無線でセンサネットワークにつながっていることを確認して、設置が完了する。
【0065】
受付46にて無線タグを見学者に渡す。見学者には、無線タグを首からぶらさげて、ショールーム内を自由に見学してもらう。見学者の見学した経路48の一例を図12に示す。見学中、たとえば、3秒間隔で5回連続的に(数ms間隔で)、見学者の無線タグから電波を発し、アクセスポイントAPで電波の強度を測定する。その電波強度からサーバで測位のための計算を行う。
【0066】
この測位の結果、ある商品の前に5分間滞在していることがわかれば、その商品を注意深く見ていたと判断することができる。電波を乱す機器があっても、また屋内に置かれた物の形状により電波が乱されても、また人がアクセスポイントAPと無線タグの間にいても、アクセスポイントAPを見通し可能なところに多数設置して、本発明の位置測定技術を適用することにより、精度の高い測位が可能である。見学終了後、見学者は受付46に無線タグを返却する。このように障害物等があっても、人の位置、移動をかなりの精度で特定できる。
【図面の簡単な説明】
【0067】
【図1】本発明の位置測定システムの実施例を示す説明図である。
【図2】本発明の位置測定システムによる移動体の位置測定の実施例を示す説明図である。
【図3】電波強度についてのデータの分布状態および距離減衰式の一例を示すグラフである。
【図4】障害物の少ない屋外で測定した電波強度についてのデータの分布状態および距離減衰式の一例を示すグラフである。
【図5】1つのアクセスポイントに関して、無線タグの存在確率分布の一例を示すグラフである。
【図6】無線タグの動作を示すフローチャートである。
【図7】アクセスポイントの動作を示すフローチャートである。
【図8】無線タグが最も存在する確率の高い地点を結んだ線をアクセスポイントごとに示した説明図である。
【図9】無線タグから微小時間の間に複数の電波を発信させ、アクセスポイントで受信したときの無線タグ最大存在確率地点を示す説明図である
【図10】決定したアクセスポイントごとの決定電波強度値を示す説明図である。
【図11】最終推定位置の特定を行う方法の説明図である。
【図12】本発明をショールームで用いた例を示す説明図である。
【符号の説明】
【0068】
10 位置測定システム
12 人
14 無線タグ
16 サーバ
20 制御部
22 記憶部
AP、AP1〜AP9、N1〜N9 アクセスポイント

【特許請求の範囲】
【請求項1】
位置測定の対象物である無線通信が可能な無線装置と、
無線通信が可能な、該無線装置の位置測定のための複数の測定装置と、
該複数の測定装置と接続された位置測定手段とを含み、前記無線装置の位置を測定する位置測定システムであって、
前記複数の測定装置は、前記無線装置から受信した電波から、該電波の強度に関する受信情報を取得して、該取得した受信情報を前記位置測定手段に送り、
該位置測定手段は、電波の発信源である前記無線装置からの距離と、該距離における電波の強度との関係についての統計データに基づいた距離減衰データを有し、該距離減衰データおよび前記受信情報から、前記無線装置の位置を測定することを特徴とする位置測定システム。
【請求項2】
請求項1に記載の位置測定システムにおいて、
前記無線装置は、複数回、電波を出力し、
前記複数の測定装置は、前記無線装置から複数回受信した電波から、該電波の強度に関する受信情報を取得して、該取得した受信情報を前記位置測定手段に送り、
該位置測定手段は、前記距離減衰データおよび該受信情報から、前記無線装置の位置を測定することを特徴とする位置測定システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の位置測定システムにおいて、前記位置測定手段は、前記受信した電波の強度が所定の条件を満たす前記測定装置に関して、該電波強度を補正し、該補正後の電波強度を用いて前記無線装置の位置を測定することを特徴とする位置測定システム。
【請求項4】
請求項1から3までのいずれかに記載の位置測定システムにおいて、前記無線通信は、近距離無線通信であることを特徴とする位置測定システム。
【請求項5】
位置測定の対象物である無線通信が可能な無線装置と、無線通信が可能な、該無線装置の位置測定のための複数の測定装置とを用いた、前記無線装置の位置を測定する位置測定方法であって、該方法は、
前記無線装置から受信した電波から、該電波の強度に関する受信情報を前記複数の測定装置が取得する工程と、
電波の発信源である前記無線装置からの距離と該電波の強度の減衰との関係についての、統計データに基づいた距離減衰データ、および前記受信情報から、前記無線装置の位置を測定する工程とを含むことを特徴とする位置測定方法。
【請求項6】
請求項5に記載の位置測定方法において、
前記無線装置は、複数回、電波を出力し、
前記複数の測定装置は、前記無線装置から複数回受信した電波から、該電波の強度に関する受信情報を取得し、
前記距離減衰データおよび該受信情報から、前記無線装置の位置を測定することを特徴とする位置測定方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の位置測定方法において、前記受信した電波の強度が所定の条件を満たす前記測定装置に関して、該電波強度を補正し、該補正後の電波強度を用いて前記無線装置の位置を測定することを特徴とする位置測定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2006−300918(P2006−300918A)
【公開日】平成18年11月2日(2006.11.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−278162(P2005−278162)
【出願日】平成17年9月26日(2005.9.26)
【出願人】(000000295)沖電気工業株式会社 (6,645)
【Fターム(参考)】