説明

低ガンマ線感度化中性子及び粒子線用イメージングプレート

【課題】
低ガンマ線感度の中性子イメージングプレートを提供する。
【解決手段】
BaFBr:Eu2+蛍光体粉末と、10B同位体の組成比が90%のホウ酸(H10BO)粉末とを、均一に混合した粉末を金属基板に塗布した後、焼結し、BaFBr:Eu2+蛍光体粉末の表面に欠陥を熱拡散により導入して、表面有感輝尽性蛍光体とし、10Bが中性子を捕獲した際放出するα粒子とLi粒子の阻止能が、バックグラウンドとなるガンマ線により発生する電子の阻止能より大きいことを利用してガンマ線に対する感度を低下させて、低ガンマ線感度中性子イメージングプレートとする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の低ガンマ線感度化中性子イメージングプレートは、原子炉から発生する中性子を用いた中性子散乱実験装置用の高感度・高空間分解能中性子イメージ検出器あるいは中性子ラジオグラフィ用の高感度・高空間分解能中性子イメージ検出器として使用される。また、原子炉施設内での中性子線量計測あるいは中性子分布モニタにも使用できる。さらに、原子炉で発生する中性子ビームあるいは大強度陽子加速器を用いて発生するパルス中性子ビームのプロファイルモニタとして使用される。
【0002】
一方、低ガンマ線感度化粒子線イメージングプレートについては、陽子ビームあるいは重粒子線ビームなどのビームプロファイルモニタとして使用される。また、α線線量モニタあるいはα線イメージ検出器としても使用される。
【背景技術】
【0003】
中性子用イメージングプレートとしては、中性子捕獲断面積の大きなGdを含むGdを中性子コンバータとして用い、輝尽性蛍光体としてBaFBr:Eu2+を用いた中性子イメージングプレートが富士写真フィルムよりBAS−NDという商品名で市販されてきた(非特許文献1)。このイメージングプレートは、図9の従来例に示すように、輝尽性蛍光体BaFBr:Eu2+粉末と中性子コンバータGd粉末を接着剤と混ぜて基板に塗布する事により製作されてきた。しかし、この市販の中性子イメージングプレートでは、中性子コンバータとしてGdを用いているため、中性子捕獲断面積は大きいものの(n,e)反応により放出される2次電子が約80keVと小さくかつGd自体の原子番号Zが64と大きい。このため、中性子イメージを検出する上で非常に大きな性能指標であるガンマ線感度特性(γ線バッグラウンドに対する影響度)が悪いとう欠点があった。
【0004】
このため、中性子コンバータとして軽い元素でかつ中性子の捕獲反応により大きなエネルギーを放出する元素を用いる必要がある。この条件に合う元素として10B(ホウ素)がある。しかし、10Bを構成元素としたSrBPO:Eu2+などの輝尽性蛍光体が色々開発されてきたが(非特許文献2)、輝尽性蛍光体内での10Bの構成割合が低いことと輝尽性発光特性もBaFX:Eu2+と比較して良くないことから市販されてはいない。
【0005】
一方、低ガンマ線化を図るため、図10に示すように、無水ホウ酸(B)が低温度で溶融しガラス化することを利用して、中性子コンバータとして用いると同時に接着剤として利用するガラス状化イメージングプレートが開発された(特許文献1)。しかし、従来に比較し多少ガンマ線感度は低くなるものの十分な値ではなかった。
【0006】
また、低ガンマ線感度化を目指した粒子線イメージングプレートについては、開発がほとんど行われていない。
【非特許文献1】N.Niimura et al.: An imaging plate neutron detector,Nucl.Instrum & Methods A349, 521(1994)及び原子力工業,41[6],54(1995)
【非特許文献2】K. Sakasai他、A SrBPO5 : Eu2+storage phosphor for neutron imaging,Apl.phys.A74,[Suppl.], S1589-S1591 (2002)
【特許文献1】特願平2005-53919号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記背景技術に記載されるように、上記市販されてきたイメージングプレートには中性子イメージを検出する上で非常に大きな性能指標であるガンマ線感度特性が悪いとう欠点があり、また、これを解決するため、10Bを構成元素としたSrBPO:Eu2+などの輝尽性蛍光体が開発されてきたが、未だ市販されておらず、更にまた、無水ホウ酸(B)の低温度溶融化特性を利用して、中性子コンバータとして用いると同時に接着剤として利用するガラス状化イメージングプレートが開発されたが、未だ十分なものではない等の問題点が残存していた。そこで、本発明はこれらの問題点を解決するために研究の結果発明されたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明においては、蛍光体粉末に中性子コンバータである10Bを含むホウ酸(H10BO)粉末などを均一に混合した後、適当な温度範囲内で一定時間焼結すると、蛍光体粉末の表面に熱拡散により欠陥が生じ、その表面部分が輝尽性蛍光体となることを確認した。
【0009】
即ち、本発明においては、 BaFX:Eu2+(X:Br,ClあるいはBrとClの混合)蛍光体粉末と、10B同位体の組成比が80%以上のホウ酸(H10BO)粉末とを、均一に混合した粉末を金属基板に塗布し、500℃以上700℃以下の温度範囲内で一定時間焼結し、BaFX:Eu2+(X:Br,ClあるいはBrとClの混合)蛍光体粉末の表面に欠陥を熱拡散により導入し、表面有感輝尽性蛍光体とした低ガンマ線感度化中性子イメージングプレートである。
【発明の効果】
【0010】
本発明において、この表面有感輝尽性蛍光体を用いた場合、中性子コンバータである10Bが中性子を捕獲した際放出するα粒子とLi粒子の阻止能が、バックグラウンドとなるガンマ線により発生する電子の阻止能より非常に大きいため、ガンマ線に対する感度を大幅に低下させることが可能となる。また、表面の有感な輝尽性蛍光体部分に中性子コンバータである10Bが入り込むため、損失なくα粒子とLi粒子のエネルギーを輝尽性蛍光体部分が吸収することができるため、低ガンマ線感度化中性子イメージングプレートが実現することができる。
【実施例】
【0011】
(実施例1)
実施例1として、BaFBr:Eu2+蛍光体粉末と、10B同位体の組成比が90%のホウ酸(H10BO)粉末とを、均一に混合した粉末を金属基板に塗布した後、焼結し、BaFBr:Eu2+蛍光体粉末の表面に欠陥を熱拡散により導入し、表面有感輝尽性蛍光体とした低ガンマ線感度化中性子イメージングプレートについて説明する。
【0012】
図1の製作方法に示すように、本実施例においては、中性子イメージングプレートの検出素材である輝尽性蛍光体をほとんど輝尽性蛍光を示さないBaFBr:Eu2+をベースに熱拡散処理することによりBaFBr:Eu2+の表面に形成することを特長としている。従来の輝尽性蛍光体の構造と本発明のこの表面有感輝尽性蛍光体の構造とを比較した図を図2に示す。表面有感輝尽性蛍光体を用いた場合、中性子コンバータである10Bが中性子を捕獲した際放出するα粒子とLi粒子の阻止能が、バックグラウンドとなるガンマ線により発生する電子の阻止能より大きくなるため、ガンマ線に対する感度を大幅に低下させることできる。また、表面の有感な輝尽性蛍光体部分に中性子コンバータである10Bが一部入り込む構造となるため、損失を少なくα粒子とLi粒子のエネルギー(全部で約2.3MeV)を輝尽性蛍光体部分で吸収することができるようにし、中性子イメージングプレートの低ガンマ線感度化を実現する。ホウ酸(H10BO)粉末は焼結されて10となる
【0013】
イメージング化について説明すると、中性子コンバータとしての役割を有する10B同位体から放出された粒子線(α線とLi粒子)を表面有感輝尽性蛍光体であるBaFBr:Eu2+の表面部分に潜像として蓄積する。蓄積された潜像は、中性子の照射後に励起レーザー光を用いて、スキャンすることにより中性子を起因とする粒子線のイメージングプレート内部への蓄積量を求め、最終的に中性子イメージを検出する。励起波長(635nm)と輝尽性蛍光波長(400nm)は市販のBASシリーズあるいはBAS−NDシリーズと同じなので、実際には富士写真フィルムが市販しているイメージングプレート読み取り装置BAS−1800により読み取ることができる。
【0014】
本実施例では、蛍光体粉末として日亜化学製X線検出用蛍光体BaFBr:Eu2+を用いた。この蛍光体の輝尽性蛍光特性は、市販のBAS−MSイメージングプレートに使用されている輝尽性蛍光特性の100分の1以下であった。また、10B同位体の組成比が90%のホウ酸(H10BO)粉末についてはステラケミファ製を用いた。750mgのX線検出用蛍光体BaFBr:Eu2+粉末と500mgのホウ酸(H10BO)粉末を混合し5cmx5cmのサイズのアルミニウム基板に塗布した。塗布した後、電気炉において600℃で焼結を行った。熱処理拡散の効果を調べるために、焼結時間を30分、1時間、1時間30分、2時間、3時間、4時間、8時間及び10時間の8種類について行った。焼結後、まず、熱処理が及ぼす蛍光スペクトルへの影響を評価した。評価用の放射線線源としてはAm?241から放出される5.4MeVのα線を用いた。中性子捕獲反応によって放出される粒子がα線とLiであることからほぼこれらの粒子線と同じ効果が得られる。α線照射により発生する即発蛍光のスペクトルを日立製分光蛍光光度計F?2500を用いて測定した。30分焼結の場合と4時間の場合を比較した結果を図3に示す。蛍光スペクトルの形状のほとんど変化がなく、輝尽性蛍光量は約85%となった。この結果、長時間の熱拡散処理でもほとんど蛍光体としての特性が劣化しないことがわかった。
【0015】
次に、それぞれの焼結試料について、図4に示す方法により冷中性子、60keVガンマ線、Co60ガンマ線(約1200keVガンマ線)に対する感度測定試験を行った。イメージの読み取りには富士写真フィルムが市販しているイメージングプレート読み取り装置BAS−1800を用いた。試験結果を図5に示す。横軸が焼結時間であり、左側の縦軸は従来から使用されているBAS−ND中性子イメージングプレートに対する相対検出効率である。焼結時間の増加と共に、冷中性子に対する感度が増加することが確認できたことから、焼結温度を一定にし、焼結時間を変えることにより、表面有感輝尽性蛍光体の表面有感層の厚さが変化することを確認できた。特に、10時間の焼結では67%の相対中性子検出効率が得られた。一方、右側縦軸は従来から使用されているBAS−ND中性子イメージングプレートに対する実効的なガンマ線に対する検出効率(中性子検出効率で規格化して補正)である。60keVガンマ線については、中性子に対する検出効率の変化とほぼ同等の変化を示すことが確認できた。3時間までの焼成時間では2%であり、最大の中性子検出効率が得られる10時間でも7%の実効ガンマ線感度であった。中性子と同じような蛍光を示す理由は、ガンマ線エネルギーが低い場合、電子の阻止能も見かけ上高くなることが原因と考えられる。一方、Co60ガンマ線(約1200keVガンマ線)に対する感度は焼結時間にはあまり影響されずほぼ一定の1%から2%であることがわかった。この結果、中性子イメージングプレートを使う上で最大の問題である高エネルギーのガンマ線に対する感度がBAS−ND中性子イメージングプレートに比較して約50から100倍低下させることができることを確認できた。
【0016】
また、蛍光体粉末としてBaFCl:Eu2+についても上記実施例と同じ製作方法で低ガンマ線感度化中性子イメージングプレートを製作した。蛍光体粉末として日亜化学製X線検出用蛍光体BaFCl:Eu2+を用いた。この蛍光体の輝尽性蛍光特性は、市販のBAS−MSイメージングプレートに使用されている輝尽性蛍光特性の100分の1以下であった。また、10B同位体の組成比が90%のホウ酸(H10BO)粉末についてはステラケミファ製を用いた。蛍光体としてBaFCl:Eu2+焼結時間が1時間の低ガンマ線感度化中性子イメージングプレートについて中性子検出効率を同じ条件で製作したBaFBr:Eu2+蛍光体を用いた低ガンマ線感度化中性子イメージングプレートと比較した結果、PSL(富士写真フィルムBAS1800の輝尽性蛍光強度を示す値)としてそれぞれ1.44と1.51が得られた。BaFCl:Eu2+蛍光体を用いた低ガンマ線感度化中性子イメージングプレート中性子感度は約5%低い95%でありほとんど同じ特性であった。また、ガンマ線感度についてもほぼ同じ結果が得られた。
【0017】
さらに、上記実施例では焼成温度を600℃に固定して焼結時間を変化させて表面有感輝尽性蛍光体の表面有感層の厚さが変化することを確認したが、焼成時間を一定として、焼成温度を変化させることにより表面有感輝尽性蛍光体の表面有感層の厚さを制御することができる。
(実施例2)
実施例2として、BaFBr:Eu2+蛍光体粉末と、11B同位体の組成比が99.9%のホウ酸(H11BO)粉末とを、均一に混合した粉末を金属基板に塗布した後、焼結し、BaFBr:Eu2+蛍光体粉末の表面に欠陥を熱拡散により導入し、表面有感輝尽性蛍光体とした低ガンマ線感度化粒子線イメージングプレートについて説明する
本実施例の低ガンマ線感度化粒子線イメージングプレートの構造を図6に示す。構造は実施例1で説明した低ガンマ線感度化中性子イメージングプレートと、10B同位体の組成比が90%のホウ酸(H10BO)粉末の代わりに11B同位体の組成比が99.9%%以上のホウ酸(H11BO)粉末を用いること以外は同じである。11B同位体の組成比が99.9%%以上のホウ酸(H11BO)粉末としては富山薬品製を用いた。本ホウ酸(H11BO)を用いることにより中性子に対する感度をほとんどなくすることができる。蛍光体粉末としては実施例1と同じ日亜化学製X線検出用蛍光体BaFBr:Eu2+を用いた。製作方法については実施例1と全く同じである。焼結時間が1時間の低ガンマ線感度化粒子線イメージングプレートについてAm−241の5.4MeVα線及び60keVガンマ線に対する検出感度を富士写真フィルムが市販しているイメージングプレート読み取り装置BAS−1800を用いて評価した。評価の結果、従来のBAS−MSイメージングプレートの場合α線に対するガンマ線のPSL(富士写真フィルムBAS1800の輝尽性蛍光強度を示す値)の比が0.417であったのに対して、本イメージングプレーとでは、0.042となり、約10倍改善されることが確認できた。
(実施例3)
実施例3として、実施例1と2において、焼結温度を620℃以下の範囲内で使用する場合に、金属基板としてアルミニウム板を使う際に、アルミニウム板の両面に、無機ガラス接着剤を塗布して用いることを特長とした低ガンマ線感度化中性子イメージングプレートについて説明する。金属基板としてアルミニウム板を使い電気炉で低ガンマ線感度化中性子イメージングプレートを製作するとアルミニウムが基板表面から少しずつ蒸発するため、その蒸気が低ガンマ線感度化中性子イメージングプレートの表面と反応し一部が黒化する。このため、金属基板としてアルミニウム板を使う場合には表面から蒸発しないように高温で耐性を有する材料でコーティングする必要がある。実施例では、図7に示すように0.3mmの厚さのアルミニウム基板に900℃の耐熱性を有する日興製無機接着剤(商品名HEATLESS GLASS)であるBS−600−3を厚さ50μm塗布したて用いた。この基板を用いて実施例1と同じ方法で低ガンマ線感度化中性子イメージングプレートを製作し評価試験を行った結果、焼結温度が620℃でコーティングが有効であり、アルミニウムの蒸気による黒化を防ぐことができることが確認できた。
(実施例4)
実施例4として、実施例1と2において、金属基板としてチタン(Ti)板あるいはチタン合金板を用いることを特長とした低ガンマ線感度化中性子イメージングプレートについて説明する。金属基板としてアルミニウム板を使い電気炉で低ガンマ線感度化中性子イメージングプレートを製作するとアルミニウムが基板表面から少しずつ蒸発するため、このため、融点が1000℃以上の特性を有するチタン(Ti)板あるいはチタン合金板を用いた。中性子イメージングプレートの基板として用いる場合、素材の中性子による放射化の問題があるがチタン(Ti)は、従来より放射化が少ないことから中性子照射場で使用されている金属であるアルミニウムの中性子捕獲断面積に対して約2倍の断面積を有するが非常に小さいため実用上問題はない。金属基板としてチタン(Ti)板あるいはチタン合金板を基板として用いた低ガンマ線感度化中性子イメージングプレートの製作試験を行った結果、表面が安定な状態で製作できることが確認できた。
(実施例5)
実施例5として、実施例1−4において、蛍光体粉末とホウ酸粉末を混合した粉末の重量の0.5%以上2%以下のNaClあるいはNaCO粉末を加えて、輝尽性蛍光の放出を増加させることを特長とした低ガンマ線感度化中性子イメージングプレートあるいは低ガンマ線感度化粒子線イメージングプレートについて説明する。
【0018】
実施例1の焼結時間が3時間の低ガンマ線感度化粒子線イメージングプレートについて混合粉末の重量2%のNaCl粉末を添加し同じ条件で低ガンマ線感度化中性子イメージングプレートの製作を行った。図4に示す方法により冷中性子、60keVガンマ線、Co60ガンマ線(約1200keVガンマ線)に対する感度測定試験を行った。この結果、混合粉末の重量2%のNaCl粉末を添加しない場合とした場合で、中性子感度を評価した場合、富士写真フィルムBAS1800の輝尽性蛍光強度を示すPSL値としてそれぞれ7.6と10.0が得られた。この結果、2%のNaCl粉末を添加しない場合に比較して1.3倍増加させることができることを確認した。また、ガンマ線感度の特性もほとんど変化がなかった。
(実施例6)
実施例6は、実施例1−5において蛍光体として用いたBaFX:Eu2+(X:Br,ClあるいはBrとClの混合)蛍光体の代わりにBaFSrX:Eu2+(X:Br,ClあるいはBrとClの混合)蛍光体を用いる例である。実施例として、ストロンチウム(Sr)を構成素材として含んだBaFSrBr:Eu2+蛍光体については、蛍光体としての特性はBaFBr:Eu2+とほとんど変わらないため、実施例1および2と同じ製作方法で低ガンマ線感度化中性子イメージングプレートあるいは低ガンマ線感度化粒子線イメージングプレートを製作することができる。
(実施例7)
実施例7では、実施例1−6において、蛍光体粉末とホウ酸粉末を均一に混合した粉末を金属基板に塗布する際、混合粉末の重量の1%から5%の重量の無機接着剤を加えたエタノールあるいはイソプロピルアルコールを混合補助剤として用いて湿式で混合し、金属基板に塗布することを特長とした低ガンマ線感度化中性子イメージングプレートあるいは低ガンマ線感度化粒子線イメージングプレートについて説明する。
【0019】
図8をもとに説明する。蛍光体粉末とホウ酸粉末を均一に混合した粉末を金属基板に塗布する方法として、従来から用いられているエタノールあるいはイソプロピルアルコールを混合して用いた湿式の混合方法を用いて、金属板に塗布した場合、ホウ酸粉末が微分のため帯状の模様を作成してしまう。このため、このまま焼結し中性子イメージングプレートを製作すると一様性が悪くなり帯状の模様が現れる。
【0020】
これを防ぐために、エタノールあるいはイソプロピルアルコールに混合粉末の重量の1%から5%の重量の無機接着剤を加えた混合補助剤を作製し湿式で混合する。実施例1の場合について、750mgのX線検出用蛍光体BaFBr:Eu2+粉末と500mgのホウ酸(H10BO)粉末を混合するがこの場合重量%で1%の日興製無機接着剤(商品名HEATLESS GLASS)であるBS−600−1を12.5mgをエタノールに混ぜて湿式で混合し5cmx5cmのサイズのアルミニウム基板に塗布した。この試料について600℃で4時間焼成した場合、添加しない場合には帯状の模様が現れたが、添加した場合中性子イメージングプレートは帯状の模様がなくなり一様な中性子有感特性を持つ低ガンマ線感度化中性子イメージングプレートとなった。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明の低ガンマ線感度化中性子イメージングプレートは、原子炉から発生する中性子を用いた中性子散乱実験装置用の高感度・高空間分解能中性子イメージ検出器あるいは中性子ラジオグラフィ用の高感度・高空間分解能中性子イメージ検出器として使用され、また、原子炉施設内での中性子線量計測あるいは中性子分布モニタにも使用でき、さらに、原子炉で発生する中性子ビームあるいは大強度陽子加速器を用いて発生するパルス中性子ビームのプロファイルモニタとして使用される。
【0022】
更にまた、陽子ビームあるいは重粒子線ビームなどのビームプロファイルモニタとして使用され、また、α線線量モニタあるいはα線イメージ検出器としても使用される。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】BaFBr:Eu2+蛍光体粉末と、10B同位体の組成比が90%のホウ酸(H10BO)粉末とを、均一に混合した粉末を金属基板に塗布した後、焼結して作製する低ガンマ線感度化中性子イメージングプレートの製作方法を示す図。
【図2】従来の輝尽性蛍光体の構造と本発明の表面有感輝尽性蛍光体の構造との比較した図。
【図3】焼成時間が30分焼結の場合と4時間焼結の場合の即発蛍光のスペクトルを比較した結果を示す図。
【図4】焼結試料の中性子及びガンマ線に対する検出特性を評価する方法を示す図。
【図5】焼成時間が30分から8時間の低ガンマ線感度化中性子イメージングプレートの冷中性子、60keVガンマ線、Co60ガンマ線に対する感度測定試験結果を示す図。
【図6】低ガンマ線感度化粒子線イメージングプレートの構造を示す図。
【図7】アルミニウム基板に900℃の耐熱性を有する日興製無機接着剤BS−600−3を厚さ50μm塗布した基板を用いた低ガンマ線感度化中性子イメージングプレートを示す図。
【図8】混合粉末の重量の1%から5%の重量の無機接着剤を加えたエタノールを混合補助剤として用いて湿式で混合して基板に塗布し焼結して低ガンマ線感度化中性子イメージングプレートを製作する方法を示す図。
【図9】輝尽性蛍光体BaFBr:Eu2+粉末と中性子コンバータGd粉末を接着剤と混ぜて基板に塗布して製作する従来の市販されている中性子イメージングプレートの構造を示す図。
【図10】無水ホウ酸(B)を溶融しガラス化することを利用して作製する従来のガラス状化イメージングプレートの構造を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
BaFX:Eu2+(X:Br,ClあるいはBrとClの混合)蛍光体粉末と、10B同位体の組成比が80%以上のホウ酸(H10BO)粉末とを、均一に混合した粉末を金属基板に塗布し、500℃以上700℃以下の温度範囲内で一定時間焼結し、BaFX:Eu2+(X:Br,ClあるいはBrとClの混合)蛍光体粉末の表面に欠陥を熱拡散により導入し、表面有感輝尽性蛍光体とし、10Bが中性子を捕獲した際放出するα粒子とLi粒子の阻止能が、バックグラウンドとなるガンマ線により発生する電子の阻止能より大きいことを利用して、ガンマ線に対する感度を低下させることを特長とした低ガンマ線感度化中性子イメージングプレート。
【請求項2】
BaFX:Eu2+(X:Br,ClあるいはBrとClの混合)蛍光体粉末と、11B同位体の組成比が99%以上のホウ酸(H11BO)粉末とを、均一に混合した粉末を金属基板に塗布し、500℃以上700℃以下の温度範囲内で一定時間焼結し、BaFX:Eu2+(X:Br,ClあるいはBrとClの混合)蛍光体粉末の表面に欠陥を熱拡散により導入し、表面有感輝尽性蛍光体とし、粒子線の阻止能が、バックグラウンドとなるガンマ線により発生する電子の阻止能より大きいことを利用して、ガンマ線に対する感度を低下させることを特長とした低ガンマ線感度化粒子線イメージングプレート。
【請求項3】
請求項1及び2において、620℃以下の範囲内で使用する場合に、金属基板としてアルミニウム板を使う際に、アルミニウム板の両面に、無機ガラス接着剤を塗布して用いることを特長とした低ガンマ線感度化中性子イメージングプレート及び低ガンマ線感度化粒子線イメージングプレート。
【請求項4】
請求項1及び2において、金属基板としてチタン(Ti)板あるいはチタン合金板を用いることを特長とした低ガンマ線感度化中性子イメージングプレート及び低ガンマ線感度化粒子線イメージングプレート。
【請求項5】
請求項1−4のいずれかにおいて、蛍光体粉末とホウ酸粉末との混合粉末の重量の0.5%以上2%以下のNaClあるいはNaCO粉末を加えて、輝尽性蛍光の放出を増加させることを特長とした低ガンマ線感度化中性子イメージングプレートあるいは低ガンマ線感度化粒子線イメージングプレート。
【請求項6】
請求項1−5のいずれかにおいて、BaFX:Eu2+蛍光体の代わりにBaFSrX:Eu2+蛍光体を用いることを特長とした低ガンマ線感度化中性子イメージングプレートあるいは低ガンマ線感度化粒子線イメージングプレート。
【請求項7】
請求項1−6のいずれかにおいて、蛍光体粉末とホウ酸粉末を均一に混合した粉末を金属基板に塗布する際、混合粉末の重量の0.5%から5%の重量の無機接着剤を加えたエタノールあるいはイソプロピルアルコールを混合補助剤として用いて湿式で均一に混合し、金属基板に塗布することを特長とした低ガンマ線感度化中性子イメージングプレートあるいは低ガンマ線感度化粒子線イメージングプレート。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−24629(P2007−24629A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−205747(P2005−205747)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(505374783)独立行政法人 日本原子力研究開発機構 (727)
【出願人】(598129314)
【Fターム(参考)】