説明

低分子化ガラクトキシログルカン及びそれを含有する乳化組成物

【課題】本発明は、経時的な相分離を防止する低分子化ガラクトキシログルカンおよび乳化組成物を提供する。また、これらを含有する食品、食品添加物又は化粧料を提供する。
【解決手段】
本発明は、重量平均分子量が20000〜250000の範囲である低分子化ガラクトキシログルカンを含有する乳化組成物である。該組成物は、油脂類および水を含有してもよい。低分子化ガラクトキシログルカンの含有量は、0.1重量%〜30重量%であり、油脂類の含有量は、1重量%〜85重量%である。油脂類としては、柑橘類精油、植物油などが挙げられる。また、本発明は、低分子化ガラクトキシログルカン、油脂類および水を含有する食品、食品添加料又は化粧料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重量平均分子量が20000〜250000の範囲であるガラクトキシログルカンに関する。さらに前記ガラクトキシログルカンを含有してなる乳化組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
各種食品においては、経時的に乳化が壊れ、水相及び油相に分離してしまうことで、各種食品の商品価値を損なうことが知られている。一般に、乳化安定性を向上させる方法として増粘安定剤の添加量を増やすことが知られている。しかしながら、増粘安定剤を増やすと粘度が高くなり、流動性が失われる。また、製品の食感や風味を損なうなどの問題があった。これらを解決するために、例えば、特定の液体調味原料に乳化剤、増粘安定剤及び不溶性微結晶粉末セルロースが添加されている水中油滴型乳化調味料組成物が報告されている(特許文献1)。
【0003】
また、鶏卵卵黄は、その乳化力を利用して種々の食品に利用されているものの、水分の多い系である液状ドレッシングでは経時的に親油性成分と親水性成分が分離することが知られている。これらを改善するために、卵黄と多糖類を含有する乳化組成物が報告されている(特許文献2)。
【0004】
一方、多糖類は食品、化粧品、医薬品、農業や工業分野などで広く利用されており、特に、多糖類の1つであるガラクトキシログルカンは主に増粘・安定剤として広く用いられている。ガラクトキシログルカンは単独の水溶液ではゲル化することはないが、糖またはアルコールまたはポリフェノールを共存させることでゲル化するという性質を有することが知られている(特許文献3、非特許文献1)。また、ガラクトキシログルカンを化学的方法、物理的方法又は酵素的方法により調製することのできる低粘性ガラクトキシログルカンは高糖度溶液の流動性改善(特許文献4)、生野菜などのドリップ防止(特許文献5)、シート状成型食品の離水防止(特許文献6)などの効果を有する。このようにガラクトキシログルカンは様々な性質を有することが知られている。しかしながら、ガラクトキシログルカンが、乳化安定性を改善することはこれまでに報告されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−210047
【特許文献2】特開2004−222560
【特許文献3】特開2000−354460
【特許文献4】特開2008−142047
【特許文献5】特開2008−141972
【特許文献6】特開2008−142046
【非特許文献】
【0006】
Biomacromolecules 5:PP1206−1213,2004
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明が解決しようとする課題は、ガラクトキシログルカン(特にタマリンド種子多糖類)、水及び油脂類を含有する混合物を乳化することにより、経時的に新油性成分と親水性成分の分離(以下、経時的な相分離)を防ぎ、長期的に安定な乳化組成物を提供することである。すなわち、低分子化ガラクトキシログルカン、又はそれを含有する安定性に優れた乳化組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意検討の結果、重量平均分子量が20000〜250000であるガラクトキシログルカン又はそれを含有する乳化組成物に経時的な相分離を防止する効果があることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下の通りである。
項1:重量平均分子量が20000〜250000の範囲である低分子化ガラクトキシログルカン。
【0010】
項2: 重量平均分子量が、20000〜150000の範囲である、項1に記載の低分子化ガラクトキシログルカン。
【0011】
項3:項1又は項2に記載の低分子化ガラクトキシログルカンを含有する、乳化組成物。
【0012】
項4:低分子化ガラクトキシログルカンの含有量が、0.1重量%〜30重量%である、項3に記載の乳化組成物。
【0013】
項5:低分子化ガラクトキシログルカンの含有量が、0.5重量%〜20重量%である、項4に記載の乳化組成物。
【0014】
項6:更に、油脂類および水を含有する、項3〜項5のいずれか一項に記載の乳化組成物。
【0015】
項7:油脂類が、柑橘類精油又は植物性油である、項6に記載の乳化組成物。
【0016】
項8:油脂類の含有量が、1重量%〜85重量%である、項6又は項7に記載の乳化組成物。
【0017】
項9:油脂類及び水が、1:100〜1:0.2の重量比で含有する、項6〜項8のいずれか一項に記載の乳化組成物。
【0018】
項10:項1又は項2に記載の低分子化ガラクトキシログルカンを含有する食品、食品添加物又は化粧料。
【0019】
項11:項3〜項9のいずれか一項に記載の乳化組成物を含有する食品、食品添加物又は化粧料。
【0020】
項12:食品添加物が、香料である、項10又は項11に記載の食品添加物。
【0021】
項13:化粧料が乳液である、項10又は項11に記載の化粧料。
【発明の効果】
【0022】
本発明により、ガラクトキシログルカンの乳化特性が向上したことで、経時的な相分離を防止する低分子化ガラクトキシログルカンおよび乳化組成物を提供できる。これらを含有する食品、食品添加物又は化粧料は、長期間に渡って相分離が生じることもないので、商品価値を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明について、以下に詳細に説明する。
「ガラクトキシログルカン」は、双子葉、単子葉植物など高等植物の細胞壁(一次壁)に存在する天然多糖であり、タマリンドをはじめ、大豆、緑豆、インゲンマメ、イネ、オオムギ、リンゴなどから抽出される。ガラクトキシログルカンは、グルコース、キシロース及びガラクトースを構成糖とし、主鎖はグルコースがβ−1,4結合し、側鎖にキシロース、ガラクトース、さらにアラビノースが結合している。ガラクトキシログルカンとしては、いかなるガラクトキシログルカンでもよいが、ガラクトキシログルカンの含有率が高く、入手容易なタマリンド種子由来のガラクトキシログルカン〔タマリンド種子ガム:商品名「グリロイド」「グリエイト」大日本住友製薬(株)製〕が好ましい。
【0024】
「低分子化ガラクトキシログルカン」は、重量平均分子量が20000〜250000の範囲であるガラクトキシログルカンである。該ガラクトキシログルカンは、ガラクトキシログルカンから「化学的方法」、「物理的方法」または「酵素的方法」により調製することができる。
【0025】
「化学的方法」とは、ガラクトキシログルカンを酸またはアルカリ処理によって分解することをいう。ここで酸処理に用いる酸としては、無機酸または有機酸のいずれでもよい。無機酸としては、塩酸、硫酸、または硝酸などが挙げられる。有機酸としてはクエン酸、コハク酸、酒石酸、酢酸、リンゴ酸またはプロピオン酸などが挙げられる。アルカリ処理に用いる塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、または水酸化カルシウムなどが挙げられる。
【0026】
「物理的方法」とは、ガラクトキシログルカンを熱処理、高圧ホモジナイズ処理、超音波処理、電子線処理、または機械的せん断処理することをいう。
【0027】
「酵素的方法」とは、ガラクトキシログルカンを多糖類分解酵素により酵素的分解することをいう。多糖類分解酵素としては、セルラーゼなどを用いることができる。この際、酵素の種類に応じて、基質濃度、酵素濃度、至適pH、至適温度および反応時間などを調節することができる。
【0028】
本発明の低分子化ガラクトキシログルカンは、上記いずれかの方法で調製することができるが、酸による化学的方法により調製するのが好ましい。
酸による化学的方法で調製される低分子化ガラクトキシログルカンは、ガラクトキシログルカンを溶媒の種類、酸の種類、溶液のpH、反応温度、反応時間を適宜選択して処理することにより得ることができる。得られた低分子化ガラクトキシログルカンは、例えばドラムドライやスプレードライなどの乾燥機で乾燥する方法、適当な有機溶媒を加えて凝折・乾燥する方法などを用いて粉末化することができる。
このようにして得られた低分子化ガラクトキシログルカンは粉末又は溶液として用いることができる。
【0029】
本発明における重量平均分子量は分子量既知のプルランを標準物質として、一般的な重量平均分子量測定法であるサイズ排除クロマトグラフィ法で測定することができる。
【0030】
「低分子化ガラクトキシログルカン」は、重量平均分子量が20000〜250000の範囲であり、好ましくは重量平均分子量が50000〜200000であり、更に好ましくは60000〜150000である。この範囲であると適度な増粘性と本発明における乳化安定性を保つことができる。重量平均分子量が20000未満のものは製造が困難であり、重量平均分子量が250000を超えるものは好ましい乳化安定性を発揮させるために必要な添加量まで加えると、増粘効果が著しく物性を損なう。
【0031】
また、特許文献4〜6に開示される「低粘度ガラクトキシログルカン」の重量平均分子量は、300000〜600000の範囲である。従って、本発明における「低分子化ガラクトキシログルカン」は、特許文献4〜6に開示される「低粘性ガラクトキシログルカン」と異なる。
【0032】
「乳化組成物」とは、低分子化ガラクトキシログルカンを含有する組成物であって、長期間安定な乳化状態を維持できる組成物を意味する。
【0033】
乳化組成物は、油脂類及び水を含有する。油脂類としては、柑橘類精油(オレンジ、レモン、ライム、グレープフルーツなどから得られる油)、植物性油(花精油、ペパーミント油、スペアミント油、スパイス油など)、油性抽出物(コーラナッツ抽出物、コーヒー抽出物、バニラ抽出物、ココア抽出物、紅茶抽出物、スパイス類抽出物など)、動植物油脂(大豆油、菜種油、コーン油、オリーブ油、綿実油、ヤシ油、サフラワー油、ヒマワリ油、パーム軟質油、パーム核油、米油、ロシン、エレミ樹脂、ダンマル樹脂、マスチック樹脂、牛脂、豚脂、魚油など)、炭素数6〜12の中鎖飽和脂肪酸(MCTなど)、ショ糖脂肪酸エステル(ショ糖酢酸イソ酪酸エステルなど)などが挙げられる。
【0034】
乳化組成物における「低分子化ガラクトキシログルカン」の含有量は、組成物全量に対して、0.1重量%〜30重量%であり、好ましくは、0.5重量%〜20重量%である。
乳化組成物における「油脂類」の含有量は、組成物全量に対して、1〜85重量%であり、好ましくは1〜75重量%である。
【0035】
「乳化組成物」における油脂類及び水の重量比は、油脂類を基準として、1:100〜1:0.2であり、好ましくは1:80〜1:0.4である。
【0036】
乳化組成物には、本発明の効果を損なわない限り、他の添加剤を含有してもよい。他の添加剤としては、多糖類(キサンタンガム、カラギーナン、グアーガム、アラビアガム、ガティガム、トラガントガム、カラヤガム、ペクチン、アルギン酸及びその塩類、大豆多糖類、ゼラチン、加工澱粉など)、塩類(塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウムなど)、有機酸及びその塩類(クエン酸、クエン酸ナトリウム、リンゴ酸、リンゴ酸ナトリウム、グルタミン酸ナトリウムなど)、エキス(オニオンエキスなど)、乳化剤(ショ糖脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルなど)、アルコール(エタノールなど)、多価アルコール類(グリセリン、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、ソルビトール、マルチトール、エリスリトール、マンニトール、トレハロース、果糖ぶどう糖液糖、ショ糖など)、香辛料(白こしょうなど)、醤油、味噌、卵、酒、色素、高甘味度甘味料(ネオテーム、スクラロース、アスパルテームなど)、香料、酸化防止剤、防腐剤、などが挙げられる。
【0037】
本発明における「乳化組成物」は、例えば、水、油脂類及び低分子化ガラクトキシログルカンをホモミキサー、コロイドミル、高圧ホモジナイザーなどを用いて撹拌・混合する方法で得ることができる。撹拌・混合の際に適宜加温してもよい。
【0038】
本発明における「低分子化ガラクトキシログルカン」及び「低分子化ガラクトキシログルカンを含有した乳化組成物」は食品、食品添加物、化粧料、医薬品などに使用することができる。
食品としては、例えば、ドレッシング、マヨネーズ風調味料、タレ、ソース、クリーム、菓子、パン、麺類、各種飲料、冷菓、氷菓、ジャム、農畜水産加工品などが挙げられる。食品添加物としては、例えば、増粘安定剤、乳化剤、香料、調味料、などが挙げられる。化粧料としては、例えば、乳液、ローション、クリーム、パック、整髪料、ボディーソープ、シャンプー、リンス、浴用剤、歯磨剤などが挙げられる。医薬品としては点眼剤や点鼻剤などの溶液製剤、懸濁剤やスプレー剤などの分散製剤、軟膏剤やパップ剤やクリーム剤などの半固形製剤、顆粒剤や細粒剤などの粉粒体製剤、カプセル剤や錠剤などの成型製剤、エキス剤やチンキ剤などの浸出製剤などが挙げられる。
【実施例】
【0039】
以下に実施例、比較例を挙げ、本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の技術分野における通常の技術を用いることができる。
表1に酸による化学的方法により調製した低分子化ガラクトキシログルカンの重量平均分子量を示す。表1に示すように、本発明における低分子化ガラクトキシログルカンは、低粘性ガラクトキシログルカンとは重量平均分子量が異なる。
【表1】

(分析方法)
サイズ排除クロマトグラフィ法
カラム:TSKgel GMPWXL(φ7.8mm×300mm)×2本、 G2500PWXL(φ7.8mm×300mm)
溶離液:200mM 硝酸ナトリウム水溶液
流量:1.0mL/min
検出器:RI検出器(RI;示差屈折計)
カラム温度:40℃
標準物質:プルラン、グルコース
【0040】
実施例1:(低分子化ガラクトキシログルカンの乳化特性)
表2の処方に従い、低分子化ガラクトキシログルカンを水に溶解した溶液を、TKロボミックス(特殊機化工業社製)を用いて、7,000rpmで均質化しつつ油を徐々に加えた後、10分間均質化したものを、ホモジナイザー(三和エンジニアリング社製)を用いて15MPaで均質化し、乳化溶液を得た。得られた溶液を、25℃で静置保存した。結果を表2に示す。実施例1及び比較例1〜2の溶液はB型粘度計を用い、温度25℃、回転数30rpmで測定すると3,700〜3,900mPa・sであった。比較例1及び比較例2では、25℃保存1週間後には油相と水相の分離が認められたのに対し、実施例1では1ヶ月後でも相分離せず、乳化安定性が飛躍的に向上していた。尚、比較例1に使用した低粘性ガラクトキシログルカンとは特許文献4〜6に記載されている低粘度ガラクトキシログルカンのことである。
【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
実施例2:(乳化香料)
表4の処方に従い、常法により乳化香料を得た。得られた乳化香料は乳化安定性に優れ、保存1ヶ月後でも相分離せず安定していた。
【0044】
【表4】

【0045】
実施例3:(ドレッシング)
表5の処方に従い、常法によりドレッシングを得た。得られたドレッシングは乳化安定性に優れ、保存1ヶ月後でも相分離せず安定していた。
【0046】
【表5】

【0047】
実施例4:(化粧料)
表6の処方に従い、常法により乳液を得た。得られたクリームは乳化安定性に優れ、保存1ヶ月後でも相分離せず安定していた。肌に塗布すると伸びが良く、使用感にも優れていた。
【0048】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明により、ガラクトキシログルカンの乳化特性が向上したことで、経時的な相分離を防止する低分子化ガラクトキシログルカンおよび乳化組成物を提供できる。これらを含有する食品、食品添加物又は化粧料は、長期間に渡って相分離が生じることもないので、商品価値を維持することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量平均分子量が20000〜250000の範囲である低分子化ガラクトキシログルカン。
【請求項2】
重量平均分子量が、20000〜150000の範囲である、請求項1に記載の低分子化ガラクトキシログルカン。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の低分子化ガラクトキシログルカンを含有する、乳化組成物。
【請求項4】
低分子化ガラクトキシログルカンの含有量が、0.1重量%〜30重量%である、請求項3に記載の乳化組成物。
【請求項5】
低分子化ガラクトキシログルカンの含有量が、0.5重量%〜20重量%である、請求項4に記載の乳化組成物。
【請求項6】
更に、油脂類および水を含有する、請求項3〜請求項5のいずれか一項に記載の乳化組成物。
【請求項7】
油脂類が、柑橘類精油又は植物性油である、請求項6に記載の乳化組成物。
【請求項8】
油脂類の含有量が、1重量%〜85重量%である、請求項6又は請求項7に記載の乳化組成物。
【請求項9】
油脂類及び水が、1:100〜1:0.2の重量比で含有する、請求項6〜請求項8のいずれか一項に記載の乳化組成物。
【請求項10】
請求項1又は請求項2に記載の低分子化ガラクトキシログルカンを含有する食品、食品添加物又は化粧料。
【請求項11】
請求項3〜請求項9のいずれか一項に記載の乳化組成物を含有する食品、食品添加物又は化粧料。
【請求項12】
食品添加物が、香料である、請求項10又は請求項11に記載の食品添加物。
【請求項13】
化粧料が乳液である、請求項10又は請求項11に記載の化粧料。

【公開番号】特開2011−195601(P2011−195601A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−60413(P2010−60413)
【出願日】平成22年3月17日(2010.3.17)
【出願人】(501360821)DSP五協フード&ケミカル株式会社 (6)
【Fターム(参考)】