低抵抗透明強磁性体材料及びその製造方法
【課題】酸化インジウム錫(ITO)薄膜が本来備える高い導電性と透明度を損なうことなく室温強磁性を発現する低抵抗透明強磁性体材料の製造方法を得ること。
【解決手段】
本発明に係る低抵抗透明強磁性体材料の製造方法は、マンガンを添加した酸化インジウム錫を出発材料として基板上に薄膜を堆積する方法であって、前記堆積方法は、マグネトロンスパッタリング法であることを特徴とする。
従来、蒸着法で堆積できることは知られていたが、蒸着法によると、導電性や透明性が著しく低下していた。しかしながら、本発明のように、スパッタリング法によって堆積すると、導電性や透明性を低下させることなく室温強磁性を付与することができる。
【解決手段】
本発明に係る低抵抗透明強磁性体材料の製造方法は、マンガンを添加した酸化インジウム錫を出発材料として基板上に薄膜を堆積する方法であって、前記堆積方法は、マグネトロンスパッタリング法であることを特徴とする。
従来、蒸着法で堆積できることは知られていたが、蒸着法によると、導電性や透明性が著しく低下していた。しかしながら、本発明のように、スパッタリング法によって堆積すると、導電性や透明性を低下させることなく室温強磁性を付与することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化インジウム錫(ITO)膜をベースとした低抵抗透明強磁性体材料及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化インジウム錫(ITO;Indium Tin Oxide、以下「ITO」という。)膜は、酸化インジウム(In2O3)に錫(Sn)を少量添加した酸化物であるが、透明でしかも高い導電性を具備することから、半導体製造技術の分野において透明電極材料としてすでに実用化されている。
【0003】
ITO膜はそれ自体は非磁性半導体であるが、磁性金属(3d遷移金属、すなわち原子番号が21のスカンジウムScから28のNiまでの金属)を添加することによって、磁性が発現することが期待されている。
【0004】
非特許文献1は、インジウムと錫の合金(In−Sn合金)と、マンガン(Mn)を共蒸着(coevaporate)して得られるマンガン添加ITO膜(ITO:Mn)は室温で強磁性を示すことを示した(非特許文献1)。
【0005】
【非特許文献1】Biswarup Satpati, APPLIED PHYSICS LETTERS, Vol.85, No.5, 2 August 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記非特許文献1によると、蒸着法で堆積されたマンガン添加ITO薄膜は、室温で強磁性を示し、異常ホール効果が確認されたが、磁気特性に重点を置いた評価しか行っていない。また、透明性の評価を行っていない。
しかしながら、同文献に示されたマンガン添加ITO薄膜のキャリア密度は、「10の19乗(1019cm−3)」のオーダー、移動度が「2乃至6」のオーダーとある。これらの値からITO薄膜の抵抗率を計算すると、概ね10−1〜10−2 [Ωcm]程度のオーダーとなり、ITO薄膜の導電性(ちなみに、MnをドープしないITO薄膜の抵抗率は1〜2×10−4[Ωcm]程度である。)が大きく損なわれていることを示している。
【0007】
すなわち、蒸着法で堆積されたマンガン添加ITO薄膜は、ノンドープのITO薄膜に室温強磁性を付与するが、その一方で、ノンドープのITO薄膜の最大の特徴である「導電性」が大幅に損なわれるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、ITO薄膜が本来備える高い導電性と透明度を損なうことなく室温強磁性を発現する低抵抗透明強磁性体材料の製造方法を得ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る低抵抗透明強磁性体材料は、マンガンを添加した酸化インジウム錫(ITO)であって、キュリー温度が少なくとも400[K]以上であると共に抵抗率が9.0×10−4[Ωcm]以下であることを特徴とする。なお、酸素又は窒素雰囲気の下でアニール処理を行うと更に抵抗率を小さく(すなわち、導電率を大きく)することができる。この低抵抗透明強磁性体材料は、スパッタリング法によって堆積されたマンガン添加ITO薄膜であることが好ましい。
【0010】
本発明に係る低抵抗透明強磁性体材料は、マンガンを添加したITO薄膜であって、室温で強磁性を持ち、かつ、導電性が極めて高いことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る低抵抗透明強磁性体材料の製造方法は、マンガンを添加した酸化インジウム錫(ITO)を出発材料として基板上に薄膜を堆積する方法であって、前記堆積方法は、スパッタリング法であることを特徴とする。
従来、蒸着法で堆積できることは知られていたが、蒸着法によると、導電性が著しく低下していた。しかしながら、本発明のように、スパッタリング法によって堆積すると、導電性や透明性を低下させることなく室温強磁性を付与することができる。
【0012】
また、前記低抵抗透明強磁性体材料の堆積後に、窒素雰囲気又は酸素雰囲気の下でアニール処理を行ってもよい。このようにすると一層抵抗率が小さくなる。ここで「窒素雰囲気又は酸素雰囲気の下でアニール処理」とは、例えば窒素雰囲気又は酸素雰囲気の下で基板温度を一定温度で一定時間(例えば300℃で約12分間)保持するような熱処理をいい、高速熱処理(RTA)のようなものを含まない。特に、窒素雰囲気でアニール処理を行うと抵抗率が一層小さくなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る低抵抗透明強磁性体材料の製造方法によると、室温で強磁性を示す低抵抗透明材料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る「低抵抗透明強磁性体材料及びその製造方法」を実施するための最良の形態(以下「実施形態」という)を詳細に説明する。但し、各装置構成や堆積条件は一例にすぎず、実施形態に記載のものに限定されることはない。
【0015】
(実施形態)
−装置の構成−
図1は、本発明に係る低抵抗透明強磁性体の製造装置に適用されるRFマグネトロンスパッタリング装置の概略図を示している。チャンバー1の内部にターゲット2が設置され、これがスパッタ源となる。また、ターゲット2の上部には永久磁石3が設けられている。永久磁石3はプラズマ密度を増加させてスパッタリングの効率を高めるためのものである。
【0016】
ターゲット2は整合回路4を介してRF(Radio Frequency)電源5が電気的に接続されて上部電極を構成する。RF電源5は出力インピーダンスとして、50Ωの同軸ケーブルでマッチングするように、50Ωの抵抗を持つように設計されているが実際の負荷インピーダンスは50Ωとは限らない。整合回路4は負荷インピーダンスを50Ωに調整するための回路である。
【0017】
基板Sを設置するための基板保持台6は下部電極であり、ターゲット2と基板Sとの間にRFの電界を加えることによりプラズマを発生させることでターゲットの構成原子がスパッタリングされ、基板上に堆積される。基板保持台6にはヒーター(不図示)が内蔵されており、堆積中の温度をコントロールすることができる。
【0018】
チャンバー1の内部はポンプ7によって排気できるようになっており、その真空度はバラトロン真空計(BA)8a、熱電対真空計(TC)8bや電離真空計(IG)9により測定される。図1に示す真空排気装置7は2系統すなわちメカニカルブースターポンプ(M.B.P.)7aとロータリーポンプ7b、及び、ターボ分子ポンプ7c、ロータリーポンプ7dから構成されるが、チャンバー内部を所定の真空度まで排気できるものであればその構成は特に限定されない。
【0019】
一方、チャンバー1には配管10によってマスフローコントローラ(MFC)11(11a,11b)を介してガスボンベ12(12a,12b)が接続され、ガス導入装置を構成している。真空ポンプ7により所定の真空度まで排気した後、反応ガスが配管11を通じてチャンバー内部へ導入される。ガス流量は、マスフローコントローラ(MFC)によってコントロールされる。配管11は複数に分岐しており、必要に応じて種々のガスが導入される。例えば、スパッタリングガスとしてアルゴンガス(Ar)、反応ガスとして酸素ガス(O2)を導入する。
【0020】
なお、スパッタリング装置にはRFマグネトロンスパッタリング装置以外の装置もあるが、堆積原理がターゲットをスパッタリングすることで堆積するものであれば、上記装置には限定されない。
【0021】
−堆積条件−
スパッタ源となるターゲットは、マンガンの元素組成比がインジウム・錫及びマンガンに対して約5%のマンガンを含むもの(すなわち、In1.7Sn0.2Mn0.1O3)を用いる。
【0022】
1.放電電力 65〜200[W]
2.放電圧力 0.93〜1.73[Pa](=7〜13[mTorr])
3.基板温度 室温 〜250[℃]
4.ガス流量※
Ar:4〜8[ml/min]、O2:0又は0.07[ml/min]
※なお、ガス流量は標準状態(0℃、1気圧)における単位時間(分)当たりの体積(いわゆる[sccm])を意味する。
【0023】
なお、発明者らは実験の際、成膜後に透明性の評価を行うためにガラス製の基板上にITO薄膜を堆積したが、スパッタリング法は他の堆積方法(例えば蒸着法など)と比べると、比較的低温で堆積できるため、堆積時の基板温度を一定温度以下にすると、樹脂や有機フィルム膜などのような高温では堆積できないような物質にも堆積することができる特徴がある。後述するように、室温から200℃程度までの温度で堆積しても磁性は発現したが、導電性や透明性はいずれも若干低下する。しかしながら、導電性及び透明性が実用可能な水準を保持しつつ室温強磁性を発現するマンガンドープITO薄膜を樹脂や有機フィルム膜上に堆積できる技術的意義は極めて大きい。以下、上記方法により得られたマンガン添加ITO薄膜の評価結果について説明する。
【0024】
1.元素組成の評価
[X線光電子分光分析(XPS)]
図2(a)は、マンガンドープITO薄膜のXPS(X線光電子分光分析装置)によるスペクトル測定結果を示している。インジウム(In)3d電子によるピークが443[eV]と451[eV]近傍で、スズ(Sn)3d電子によるピークが484[eV]と493[eV]近傍で、酸素(O)1s電子によるピークが532[eV]近傍で確認された。これらはいずれもITO薄膜に由来するものと考えられる。
更に、641[eV]と652[eV]近傍で、ITO薄膜では見られないピークが観測された。これは、マンガン(Mn)2p電子によるものであると考えられるので、薄膜中にマンガン(Mn)が添加されていることを示している。
【0025】
また、元素組成比を求めた結果、インジウム・錫・酸素・マンガンの比率はそれぞれ、In:39%,Sn:4%,O:54%,Mn:3%という結果となった。
【0026】
2.透明性の評価
[透過率スペクトル]
図2(b)は、本発明に係るマンガン添加ITO薄膜の可視光透過スペクトルを示している。この結果は、本発明に係る方法により得られたマンガンドープITO薄膜は、マンガン(Mn)を添加しても殆ど可視光透過率は変化しないことを示している。肉眼で観察しても透明度に殆ど差異が見られなかった。
【0027】
3.電気的特性の評価
[抵抗率R及び移動度μ]
図3(a)は、マンガンなどの遷移金属を添加しないITO薄膜(左)と、マンガン添加ITO薄膜(中央)及び、マンガン添加ITO薄膜を、堆積後に基板温度を300[℃]まで上昇させ、窒素雰囲気で12分間アニール処理したもの(右)の抵抗率[Ωcm]を示している。
【0028】
すなわち、
(i)ノンドープ: 2.6×10−4[Ωcm]
(ii)マンガンドープ(3%): 4.3×10−4[Ωcm]
(iii)熱処理後:3.9×10−4[Ωcm]
という結果であった。
【0029】
この結果は、殆ど金属に近いほど低抵抗であることを示している。このように、ITO薄膜の導電性を殆ど失うことなく室温強磁性を付与することに成功したことは、従来全く報告例がないと思われる。
【0030】
なお、アニール処理(右)のガス圧力は2.66×10−2[Pa](約200mTorr)とし、アニールガスは窒素雰囲気とした。
【0031】
マンガンを添加しないITO薄膜とほぼ同程度(10−4乗台のオーダー)の抵抗率が得られることが確認された。また、アニール処理を行わないもの(中央)と行ったもの(右)を比べると、アニール処理によりやや抵抗率が小さくなり、導電性がよくなっていることが明らかとなった。
【0032】
図3(b)は、アニール処理を行わなかったもの(左)、窒素雰囲気(中央)及び酸素雰囲気(右)を比較したノンドープのITO薄膜の移動度を示している。酸素雰囲気でアニール処理を行うと若干移動度が減少することが明らかとなった。
【0033】
従って、堆積後に窒素雰囲気でアニール処理を行うと、抵抗率を一層下げることができ、可能であればアニール処理を施すことが好ましい。もっとも、下地基板に樹脂や有機フィルム膜を用いた場合など、下地基板の耐熱性の問題或いは処理工程の増大を避ける観点からアニール処理を行わない場合もあり得る。しかしながら、アニール処理を行わない場合でも、抵抗率で10−4乗台前半の低抵抗率を達成しているので、実用上は、アニール処理を行わなくても殆ど問題はないと考えられる。
【0034】
4.磁気的特性の評価
[磁化特性]
図4(a)は、磁化の磁場依存性(磁界と磁気モーメントの関係)を測定した結果を示している。また、図4(b)は、磁化の温度依存性(温度と磁気モーメントの関係)を測定した結果を示している。なお、これらの測定には、Quntum Design社製の帯磁率測定装置MPMS(Magnetic Property Measurement System)を用い、クライオスタット、制御器、温度センサは付属のものを使用した。
【0035】
図4(a)の結果から、いわゆるヒステリシスループが現れ、マンガンを添加したITO薄膜が、室温強磁性体であることが確認された。
また、図4(b)の結果から、0.1[T](=1000エルステッド)の磁場を印加した状態で5[K]乃至400[K]まで変化させ、磁気モーメントを測定した。
この結果によると、400[K]においても磁化が消失せず、少なくともキュリー温度は400[K]以上である室温強磁性体としての特性を示した。
【0036】
[異常ホール効果]
本発明に係るマンガン添加ITO薄膜の強磁性発現の起源となっているのは、添加した磁性金属(すなわちマンガンMn)によるものなのか、或いは電子がスピン偏極することに由来するものなのか、上述した磁化特性の評価のみでは、判断することができない。
そこで、作成した試料の異常ホール効果を測定することとした。ここで、異常ホール効果について簡単に説明する。
【0037】
半導体や金属の場合、ホール電圧ρHは単純にローレンツ力に比例するため、磁場に対して直線的な変化を示す。これに対し、強磁性体の場合、ホール電圧ρHは温度に依存する磁化の影響を受けるため、半導体や金属とは異なる挙動を示す。式(1)は、異常ホール効果を考慮したホール電圧の一般式である。
ρH=R0B+μ0RSMS ・・・(1)
【0038】
式(1)の右辺第1項(R0B)は、ローレンツ力の影響に起因する正常ホール効果を表す項であり、ホール電圧ρHが磁界Bが比例する項を示している。右辺第2項(μ0RSMS)は、真空の透磁率μ0と温度Tに依存する関数RS(T)と、磁化MS の積で表される異常ホール効果を現す項である。これは、強磁性相においては磁場がない場合にも存在する自発的なものである。なお、右式第2項のRSを「異常ホール係数」と呼ぶ。
【0039】
図5は5[K]におけるホール効果測定結果を示す図である。測定にはQuntum Desing 社のPPMS(Physical Property Mesurement System - Model 6000)に付属するクライオスタットを用い、温度制御はPPMSに付属する制御器を用いた。温度センサにはLake shore 社の較正センサCeronox x01265を試料ホルダの底部に固定して使用した。ホール電圧の測定にはディジタルボルトメータ(KEITHLEY社182 SENSITYVE DEGITAL VOLTMETER)を用い、直流電源には(KEITHLEY社220 ROGRAMMABLE CURRENT SOURCE)を用いた。
【0040】
式(1)の右式第2項のMSは図3(a)におけるヒステリシスループに対応する。原点近傍の傾きが大きくなっていることから、わずかではあるが異常ホール効果が観測された。すなわち、強磁性は伝導電子のスピン偏極に起因するものであることが明らかとなった。
【0041】
−まとめ−
1.放電電力及び圧力について
放電電力は堆積速度を大きく変化させるが得られる膜の元素組成や電気的特性にはそれほど大きな影響を及ぼさなかった。放電電力は少なくとも200W程度あれば十分な堆積速度(70[nm/min])が得られることが分かった。
また、成膜時のチャンバー内の放電圧力は低い方が導電性及び透明性において好ましい結果が得られた。実験では0.93Pa(7mTorr)を下限としたが、これ以下の圧力ではプラズマ放電が持続しなかったためである。
【0042】
2.成膜温度について
室温で堆積すると磁性はそれほど変化しないが導電性が低下し、逆に、堆積時の基板温度を高くするほど導電性及び透明性が高くなる。100℃〜200℃で堆積しても磁性は発現するが、その場合、抵抗率が概ね10−4乗台後半(8×10−4〜9×10−4[Ωcm])となり、透明性もあまりよくない。それでも、10−4乗台を達成しており、実用的には十分な水準である。十分な導電性と透明性を得るためには、理想的には、基板温度は200℃〜250℃とすることが好ましい。また、堆積後に熱処理(アニール)を施すとわずかながら導電性が高くなる。
このように、堆積時の温度によって得られる膜の性質が異なるとの知見が得られたが、概してスパッタリング法は、蒸着法よりも低温で堆積できる特徴がある。この意味において、導電性及び透明性が許容範囲内であれば、本発明に係る低抵抗透明強磁性体材料の製造方法を用いて、低温での堆積が必要とされる樹脂或いは有機フィルム膜上に堆積して磁性デバイスを構成することは、十分に実現可能であろう。
【0043】
なお、マンガン以外の元素については、現在未確認であり、組成比についても実験で成功を確認したのは、マンガン約5%含有の合金ターゲット(In1.7Sn0.2Mn0.1O3 )を用いた場合のみであるが、マンガン以外の3d金属を用いても、また、ターゲットは複数のターゲットを組み合わせてスパッタリングしても同様の結果が得られることが予想される。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係る低抵抗透明強磁性体材料の製造方法は、スパッタリング法によってITOにマンガン(Mn)などの3d遷移元素をドープすることにより、ITOの優れた透明性、導電性、安定性を損なうことなく更に磁性体材料としての機能を併せ持つスピンエレクトロニクス材料の薄膜形成を可能とする技術である。
【0045】
従って、本発明に係る製造方法により製造したマンガン(Mn)ドープITO薄膜は透明スピンエレクトロニクス材料として有望であるといえ、産業上の利用可能性は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、本発明に係る低抵抗透明強磁性体の製造装置に適用されるRFマグネトロンスパッタリング装置の概略図を示している。
【図2】図2(a)は、マンガンドープITO薄膜のXPS(X線光電子分光分析装置)によるスペクトル測定結果を示している。図2(b)は、本発明に係るマンガン添加ITO薄膜の可視光透過スペクトルを示している。
【図3】図3(a)は、マンガンなどの遷移金属を添加しないITO薄膜(左)と、マンガン添加ITO薄膜(中央)及び、マンガン添加ITO薄膜を、堆積後に基板温度を300[℃]まで上昇させ、窒素雰囲気で12分間アニール処理したもの(右)の抵抗率[Ωcm]を示している。 図3(b)は、アニール処理を行わなかったもの(左)、窒素雰囲気(中央)及び酸素雰囲気(右)を比較したノンドープのITO薄膜の移動度を示している。
【図4】図4(a)は、磁化の磁場依存性(磁界と磁気モーメントの関係)を測定した結果を示している。また、図4(b)は、磁化の温度依存性(温度と磁気モーメントの関係)を測定した結果を示している。
【図5】図5は5[K]におけるホール効果測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
1 チャンバー
2 ターゲット
3 永久磁石
4 整合回路
5 RF電源
6 基板保持台
7(7a,7b) ポンプ
8(8a,8b)、9 真空計
10 配管
11(11a,11b) マスフローコントローラ
12 ガスボンベ
S 基板
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化インジウム錫(ITO)膜をベースとした低抵抗透明強磁性体材料及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
酸化インジウム錫(ITO;Indium Tin Oxide、以下「ITO」という。)膜は、酸化インジウム(In2O3)に錫(Sn)を少量添加した酸化物であるが、透明でしかも高い導電性を具備することから、半導体製造技術の分野において透明電極材料としてすでに実用化されている。
【0003】
ITO膜はそれ自体は非磁性半導体であるが、磁性金属(3d遷移金属、すなわち原子番号が21のスカンジウムScから28のNiまでの金属)を添加することによって、磁性が発現することが期待されている。
【0004】
非特許文献1は、インジウムと錫の合金(In−Sn合金)と、マンガン(Mn)を共蒸着(coevaporate)して得られるマンガン添加ITO膜(ITO:Mn)は室温で強磁性を示すことを示した(非特許文献1)。
【0005】
【非特許文献1】Biswarup Satpati, APPLIED PHYSICS LETTERS, Vol.85, No.5, 2 August 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記非特許文献1によると、蒸着法で堆積されたマンガン添加ITO薄膜は、室温で強磁性を示し、異常ホール効果が確認されたが、磁気特性に重点を置いた評価しか行っていない。また、透明性の評価を行っていない。
しかしながら、同文献に示されたマンガン添加ITO薄膜のキャリア密度は、「10の19乗(1019cm−3)」のオーダー、移動度が「2乃至6」のオーダーとある。これらの値からITO薄膜の抵抗率を計算すると、概ね10−1〜10−2 [Ωcm]程度のオーダーとなり、ITO薄膜の導電性(ちなみに、MnをドープしないITO薄膜の抵抗率は1〜2×10−4[Ωcm]程度である。)が大きく損なわれていることを示している。
【0007】
すなわち、蒸着法で堆積されたマンガン添加ITO薄膜は、ノンドープのITO薄膜に室温強磁性を付与するが、その一方で、ノンドープのITO薄膜の最大の特徴である「導電性」が大幅に損なわれるという問題がある。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、ITO薄膜が本来備える高い導電性と透明度を損なうことなく室温強磁性を発現する低抵抗透明強磁性体材料の製造方法を得ることを技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る低抵抗透明強磁性体材料は、マンガンを添加した酸化インジウム錫(ITO)であって、キュリー温度が少なくとも400[K]以上であると共に抵抗率が9.0×10−4[Ωcm]以下であることを特徴とする。なお、酸素又は窒素雰囲気の下でアニール処理を行うと更に抵抗率を小さく(すなわち、導電率を大きく)することができる。この低抵抗透明強磁性体材料は、スパッタリング法によって堆積されたマンガン添加ITO薄膜であることが好ましい。
【0010】
本発明に係る低抵抗透明強磁性体材料は、マンガンを添加したITO薄膜であって、室温で強磁性を持ち、かつ、導電性が極めて高いことを特徴とする。
【0011】
本発明に係る低抵抗透明強磁性体材料の製造方法は、マンガンを添加した酸化インジウム錫(ITO)を出発材料として基板上に薄膜を堆積する方法であって、前記堆積方法は、スパッタリング法であることを特徴とする。
従来、蒸着法で堆積できることは知られていたが、蒸着法によると、導電性が著しく低下していた。しかしながら、本発明のように、スパッタリング法によって堆積すると、導電性や透明性を低下させることなく室温強磁性を付与することができる。
【0012】
また、前記低抵抗透明強磁性体材料の堆積後に、窒素雰囲気又は酸素雰囲気の下でアニール処理を行ってもよい。このようにすると一層抵抗率が小さくなる。ここで「窒素雰囲気又は酸素雰囲気の下でアニール処理」とは、例えば窒素雰囲気又は酸素雰囲気の下で基板温度を一定温度で一定時間(例えば300℃で約12分間)保持するような熱処理をいい、高速熱処理(RTA)のようなものを含まない。特に、窒素雰囲気でアニール処理を行うと抵抗率が一層小さくなる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る低抵抗透明強磁性体材料の製造方法によると、室温で強磁性を示す低抵抗透明材料を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、本発明に係る「低抵抗透明強磁性体材料及びその製造方法」を実施するための最良の形態(以下「実施形態」という)を詳細に説明する。但し、各装置構成や堆積条件は一例にすぎず、実施形態に記載のものに限定されることはない。
【0015】
(実施形態)
−装置の構成−
図1は、本発明に係る低抵抗透明強磁性体の製造装置に適用されるRFマグネトロンスパッタリング装置の概略図を示している。チャンバー1の内部にターゲット2が設置され、これがスパッタ源となる。また、ターゲット2の上部には永久磁石3が設けられている。永久磁石3はプラズマ密度を増加させてスパッタリングの効率を高めるためのものである。
【0016】
ターゲット2は整合回路4を介してRF(Radio Frequency)電源5が電気的に接続されて上部電極を構成する。RF電源5は出力インピーダンスとして、50Ωの同軸ケーブルでマッチングするように、50Ωの抵抗を持つように設計されているが実際の負荷インピーダンスは50Ωとは限らない。整合回路4は負荷インピーダンスを50Ωに調整するための回路である。
【0017】
基板Sを設置するための基板保持台6は下部電極であり、ターゲット2と基板Sとの間にRFの電界を加えることによりプラズマを発生させることでターゲットの構成原子がスパッタリングされ、基板上に堆積される。基板保持台6にはヒーター(不図示)が内蔵されており、堆積中の温度をコントロールすることができる。
【0018】
チャンバー1の内部はポンプ7によって排気できるようになっており、その真空度はバラトロン真空計(BA)8a、熱電対真空計(TC)8bや電離真空計(IG)9により測定される。図1に示す真空排気装置7は2系統すなわちメカニカルブースターポンプ(M.B.P.)7aとロータリーポンプ7b、及び、ターボ分子ポンプ7c、ロータリーポンプ7dから構成されるが、チャンバー内部を所定の真空度まで排気できるものであればその構成は特に限定されない。
【0019】
一方、チャンバー1には配管10によってマスフローコントローラ(MFC)11(11a,11b)を介してガスボンベ12(12a,12b)が接続され、ガス導入装置を構成している。真空ポンプ7により所定の真空度まで排気した後、反応ガスが配管11を通じてチャンバー内部へ導入される。ガス流量は、マスフローコントローラ(MFC)によってコントロールされる。配管11は複数に分岐しており、必要に応じて種々のガスが導入される。例えば、スパッタリングガスとしてアルゴンガス(Ar)、反応ガスとして酸素ガス(O2)を導入する。
【0020】
なお、スパッタリング装置にはRFマグネトロンスパッタリング装置以外の装置もあるが、堆積原理がターゲットをスパッタリングすることで堆積するものであれば、上記装置には限定されない。
【0021】
−堆積条件−
スパッタ源となるターゲットは、マンガンの元素組成比がインジウム・錫及びマンガンに対して約5%のマンガンを含むもの(すなわち、In1.7Sn0.2Mn0.1O3)を用いる。
【0022】
1.放電電力 65〜200[W]
2.放電圧力 0.93〜1.73[Pa](=7〜13[mTorr])
3.基板温度 室温 〜250[℃]
4.ガス流量※
Ar:4〜8[ml/min]、O2:0又は0.07[ml/min]
※なお、ガス流量は標準状態(0℃、1気圧)における単位時間(分)当たりの体積(いわゆる[sccm])を意味する。
【0023】
なお、発明者らは実験の際、成膜後に透明性の評価を行うためにガラス製の基板上にITO薄膜を堆積したが、スパッタリング法は他の堆積方法(例えば蒸着法など)と比べると、比較的低温で堆積できるため、堆積時の基板温度を一定温度以下にすると、樹脂や有機フィルム膜などのような高温では堆積できないような物質にも堆積することができる特徴がある。後述するように、室温から200℃程度までの温度で堆積しても磁性は発現したが、導電性や透明性はいずれも若干低下する。しかしながら、導電性及び透明性が実用可能な水準を保持しつつ室温強磁性を発現するマンガンドープITO薄膜を樹脂や有機フィルム膜上に堆積できる技術的意義は極めて大きい。以下、上記方法により得られたマンガン添加ITO薄膜の評価結果について説明する。
【0024】
1.元素組成の評価
[X線光電子分光分析(XPS)]
図2(a)は、マンガンドープITO薄膜のXPS(X線光電子分光分析装置)によるスペクトル測定結果を示している。インジウム(In)3d電子によるピークが443[eV]と451[eV]近傍で、スズ(Sn)3d電子によるピークが484[eV]と493[eV]近傍で、酸素(O)1s電子によるピークが532[eV]近傍で確認された。これらはいずれもITO薄膜に由来するものと考えられる。
更に、641[eV]と652[eV]近傍で、ITO薄膜では見られないピークが観測された。これは、マンガン(Mn)2p電子によるものであると考えられるので、薄膜中にマンガン(Mn)が添加されていることを示している。
【0025】
また、元素組成比を求めた結果、インジウム・錫・酸素・マンガンの比率はそれぞれ、In:39%,Sn:4%,O:54%,Mn:3%という結果となった。
【0026】
2.透明性の評価
[透過率スペクトル]
図2(b)は、本発明に係るマンガン添加ITO薄膜の可視光透過スペクトルを示している。この結果は、本発明に係る方法により得られたマンガンドープITO薄膜は、マンガン(Mn)を添加しても殆ど可視光透過率は変化しないことを示している。肉眼で観察しても透明度に殆ど差異が見られなかった。
【0027】
3.電気的特性の評価
[抵抗率R及び移動度μ]
図3(a)は、マンガンなどの遷移金属を添加しないITO薄膜(左)と、マンガン添加ITO薄膜(中央)及び、マンガン添加ITO薄膜を、堆積後に基板温度を300[℃]まで上昇させ、窒素雰囲気で12分間アニール処理したもの(右)の抵抗率[Ωcm]を示している。
【0028】
すなわち、
(i)ノンドープ: 2.6×10−4[Ωcm]
(ii)マンガンドープ(3%): 4.3×10−4[Ωcm]
(iii)熱処理後:3.9×10−4[Ωcm]
という結果であった。
【0029】
この結果は、殆ど金属に近いほど低抵抗であることを示している。このように、ITO薄膜の導電性を殆ど失うことなく室温強磁性を付与することに成功したことは、従来全く報告例がないと思われる。
【0030】
なお、アニール処理(右)のガス圧力は2.66×10−2[Pa](約200mTorr)とし、アニールガスは窒素雰囲気とした。
【0031】
マンガンを添加しないITO薄膜とほぼ同程度(10−4乗台のオーダー)の抵抗率が得られることが確認された。また、アニール処理を行わないもの(中央)と行ったもの(右)を比べると、アニール処理によりやや抵抗率が小さくなり、導電性がよくなっていることが明らかとなった。
【0032】
図3(b)は、アニール処理を行わなかったもの(左)、窒素雰囲気(中央)及び酸素雰囲気(右)を比較したノンドープのITO薄膜の移動度を示している。酸素雰囲気でアニール処理を行うと若干移動度が減少することが明らかとなった。
【0033】
従って、堆積後に窒素雰囲気でアニール処理を行うと、抵抗率を一層下げることができ、可能であればアニール処理を施すことが好ましい。もっとも、下地基板に樹脂や有機フィルム膜を用いた場合など、下地基板の耐熱性の問題或いは処理工程の増大を避ける観点からアニール処理を行わない場合もあり得る。しかしながら、アニール処理を行わない場合でも、抵抗率で10−4乗台前半の低抵抗率を達成しているので、実用上は、アニール処理を行わなくても殆ど問題はないと考えられる。
【0034】
4.磁気的特性の評価
[磁化特性]
図4(a)は、磁化の磁場依存性(磁界と磁気モーメントの関係)を測定した結果を示している。また、図4(b)は、磁化の温度依存性(温度と磁気モーメントの関係)を測定した結果を示している。なお、これらの測定には、Quntum Design社製の帯磁率測定装置MPMS(Magnetic Property Measurement System)を用い、クライオスタット、制御器、温度センサは付属のものを使用した。
【0035】
図4(a)の結果から、いわゆるヒステリシスループが現れ、マンガンを添加したITO薄膜が、室温強磁性体であることが確認された。
また、図4(b)の結果から、0.1[T](=1000エルステッド)の磁場を印加した状態で5[K]乃至400[K]まで変化させ、磁気モーメントを測定した。
この結果によると、400[K]においても磁化が消失せず、少なくともキュリー温度は400[K]以上である室温強磁性体としての特性を示した。
【0036】
[異常ホール効果]
本発明に係るマンガン添加ITO薄膜の強磁性発現の起源となっているのは、添加した磁性金属(すなわちマンガンMn)によるものなのか、或いは電子がスピン偏極することに由来するものなのか、上述した磁化特性の評価のみでは、判断することができない。
そこで、作成した試料の異常ホール効果を測定することとした。ここで、異常ホール効果について簡単に説明する。
【0037】
半導体や金属の場合、ホール電圧ρHは単純にローレンツ力に比例するため、磁場に対して直線的な変化を示す。これに対し、強磁性体の場合、ホール電圧ρHは温度に依存する磁化の影響を受けるため、半導体や金属とは異なる挙動を示す。式(1)は、異常ホール効果を考慮したホール電圧の一般式である。
ρH=R0B+μ0RSMS ・・・(1)
【0038】
式(1)の右辺第1項(R0B)は、ローレンツ力の影響に起因する正常ホール効果を表す項であり、ホール電圧ρHが磁界Bが比例する項を示している。右辺第2項(μ0RSMS)は、真空の透磁率μ0と温度Tに依存する関数RS(T)と、磁化MS の積で表される異常ホール効果を現す項である。これは、強磁性相においては磁場がない場合にも存在する自発的なものである。なお、右式第2項のRSを「異常ホール係数」と呼ぶ。
【0039】
図5は5[K]におけるホール効果測定結果を示す図である。測定にはQuntum Desing 社のPPMS(Physical Property Mesurement System - Model 6000)に付属するクライオスタットを用い、温度制御はPPMSに付属する制御器を用いた。温度センサにはLake shore 社の較正センサCeronox x01265を試料ホルダの底部に固定して使用した。ホール電圧の測定にはディジタルボルトメータ(KEITHLEY社182 SENSITYVE DEGITAL VOLTMETER)を用い、直流電源には(KEITHLEY社220 ROGRAMMABLE CURRENT SOURCE)を用いた。
【0040】
式(1)の右式第2項のMSは図3(a)におけるヒステリシスループに対応する。原点近傍の傾きが大きくなっていることから、わずかではあるが異常ホール効果が観測された。すなわち、強磁性は伝導電子のスピン偏極に起因するものであることが明らかとなった。
【0041】
−まとめ−
1.放電電力及び圧力について
放電電力は堆積速度を大きく変化させるが得られる膜の元素組成や電気的特性にはそれほど大きな影響を及ぼさなかった。放電電力は少なくとも200W程度あれば十分な堆積速度(70[nm/min])が得られることが分かった。
また、成膜時のチャンバー内の放電圧力は低い方が導電性及び透明性において好ましい結果が得られた。実験では0.93Pa(7mTorr)を下限としたが、これ以下の圧力ではプラズマ放電が持続しなかったためである。
【0042】
2.成膜温度について
室温で堆積すると磁性はそれほど変化しないが導電性が低下し、逆に、堆積時の基板温度を高くするほど導電性及び透明性が高くなる。100℃〜200℃で堆積しても磁性は発現するが、その場合、抵抗率が概ね10−4乗台後半(8×10−4〜9×10−4[Ωcm])となり、透明性もあまりよくない。それでも、10−4乗台を達成しており、実用的には十分な水準である。十分な導電性と透明性を得るためには、理想的には、基板温度は200℃〜250℃とすることが好ましい。また、堆積後に熱処理(アニール)を施すとわずかながら導電性が高くなる。
このように、堆積時の温度によって得られる膜の性質が異なるとの知見が得られたが、概してスパッタリング法は、蒸着法よりも低温で堆積できる特徴がある。この意味において、導電性及び透明性が許容範囲内であれば、本発明に係る低抵抗透明強磁性体材料の製造方法を用いて、低温での堆積が必要とされる樹脂或いは有機フィルム膜上に堆積して磁性デバイスを構成することは、十分に実現可能であろう。
【0043】
なお、マンガン以外の元素については、現在未確認であり、組成比についても実験で成功を確認したのは、マンガン約5%含有の合金ターゲット(In1.7Sn0.2Mn0.1O3 )を用いた場合のみであるが、マンガン以外の3d金属を用いても、また、ターゲットは複数のターゲットを組み合わせてスパッタリングしても同様の結果が得られることが予想される。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係る低抵抗透明強磁性体材料の製造方法は、スパッタリング法によってITOにマンガン(Mn)などの3d遷移元素をドープすることにより、ITOの優れた透明性、導電性、安定性を損なうことなく更に磁性体材料としての機能を併せ持つスピンエレクトロニクス材料の薄膜形成を可能とする技術である。
【0045】
従って、本発明に係る製造方法により製造したマンガン(Mn)ドープITO薄膜は透明スピンエレクトロニクス材料として有望であるといえ、産業上の利用可能性は極めて大きい。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】図1は、本発明に係る低抵抗透明強磁性体の製造装置に適用されるRFマグネトロンスパッタリング装置の概略図を示している。
【図2】図2(a)は、マンガンドープITO薄膜のXPS(X線光電子分光分析装置)によるスペクトル測定結果を示している。図2(b)は、本発明に係るマンガン添加ITO薄膜の可視光透過スペクトルを示している。
【図3】図3(a)は、マンガンなどの遷移金属を添加しないITO薄膜(左)と、マンガン添加ITO薄膜(中央)及び、マンガン添加ITO薄膜を、堆積後に基板温度を300[℃]まで上昇させ、窒素雰囲気で12分間アニール処理したもの(右)の抵抗率[Ωcm]を示している。 図3(b)は、アニール処理を行わなかったもの(左)、窒素雰囲気(中央)及び酸素雰囲気(右)を比較したノンドープのITO薄膜の移動度を示している。
【図4】図4(a)は、磁化の磁場依存性(磁界と磁気モーメントの関係)を測定した結果を示している。また、図4(b)は、磁化の温度依存性(温度と磁気モーメントの関係)を測定した結果を示している。
【図5】図5は5[K]におけるホール効果測定結果を示す図である。
【符号の説明】
【0047】
1 チャンバー
2 ターゲット
3 永久磁石
4 整合回路
5 RF電源
6 基板保持台
7(7a,7b) ポンプ
8(8a,8b)、9 真空計
10 配管
11(11a,11b) マスフローコントローラ
12 ガスボンベ
S 基板
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マンガンを添加した酸化インジウム錫(ITO)薄膜であって、キュリー温度が少なくとも400[K]以上であると共に抵抗率が9.0×10−4[Ωcm]以下であることを特徴とする低抵抗透明強磁性体材料。
【請求項2】
前記マンガン添加酸化インジウム錫(ITO)薄膜は、スパッタリング法によって堆積された薄膜であることを特徴とする請求項1記載の低抵抗透明強磁性体材料。
【請求項3】
マンガンを添加した酸化インジウム錫(ITO)を出発材料として基板上に薄膜を堆積する方法であって、前記堆積方法は、スパッタリング法であることを特徴とする低抵抗透明強磁性体材料の製造方法。
【請求項4】
前記低抵抗透明強磁性体材料の堆積後に、窒素雰囲気又は酸素雰囲気の下でアニール処理を行うことを特徴とする請求項3記載の低抵抗透明強磁性体材料の製造方法。
【請求項1】
マンガンを添加した酸化インジウム錫(ITO)薄膜であって、キュリー温度が少なくとも400[K]以上であると共に抵抗率が9.0×10−4[Ωcm]以下であることを特徴とする低抵抗透明強磁性体材料。
【請求項2】
前記マンガン添加酸化インジウム錫(ITO)薄膜は、スパッタリング法によって堆積された薄膜であることを特徴とする請求項1記載の低抵抗透明強磁性体材料。
【請求項3】
マンガンを添加した酸化インジウム錫(ITO)を出発材料として基板上に薄膜を堆積する方法であって、前記堆積方法は、スパッタリング法であることを特徴とする低抵抗透明強磁性体材料の製造方法。
【請求項4】
前記低抵抗透明強磁性体材料の堆積後に、窒素雰囲気又は酸素雰囲気の下でアニール処理を行うことを特徴とする請求項3記載の低抵抗透明強磁性体材料の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2007−335111(P2007−335111A)
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−162404(P2006−162404)
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年1月26日開催の「6th International Conference on Reactive Plasmas and 23rd Symposium on Plasma Processing」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年2月7日 京都大学主催の「京都大学工学研究科電子工学専攻修士論文公聴会」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年3月22日 社団法人 応用物理学会発行の「2006年(平成18年)春季第53回応用物理学関係連合講演会予稿集 第2分冊」に発表
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000235783)尾池工業株式会社 (97)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月12日(2006.6.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年1月26日開催の「6th International Conference on Reactive Plasmas and 23rd Symposium on Plasma Processing」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年2月7日 京都大学主催の「京都大学工学研究科電子工学専攻修士論文公聴会」において文書をもって発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年3月22日 社団法人 応用物理学会発行の「2006年(平成18年)春季第53回応用物理学関係連合講演会予稿集 第2分冊」に発表
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000235783)尾池工業株式会社 (97)
【Fターム(参考)】
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