説明

低沸点溶剤回収方法及びその装置

【課題】 溶剤を気化させて乾燥を行う乾燥排気の溶剤ガスを、当該溶剤の爆発限界値以下の高濃度に濃縮してから冷却凝縮させる際、水分を取り除き、低水分溶剤を回収する。
【解決手段】 溶剤乾燥室1の一方から乾燥空気を給気し、他方から排気し、当該排気ガスの一部を、ダンパー5を介して前記溶剤乾燥室1に供給する乾燥空気に戻し、これにより前記排気ガスに含有する溶剤の濃度を、当該溶剤の爆発限界値以下の高濃度に高め、これを熱交換器8の第1冷却部で排気ガス中の溶剤が凝縮しない温度で、かつ、水蒸気が凝縮する温度まで冷却して排気ガス内の水分を分離、除去し、さらに、凝集器10の第2冷却部で排気ガス中の溶剤が凝縮する温度まで冷却して排気ガス中の溶剤を分離して回収し、溶剤を分離した排気ガスを加熱して前記乾燥空気として溶剤乾燥室1に給気する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、低沸点溶剤回収方法及びその装置に関するもので、さらに詳しく述べると、溶剤を気化させて乾燥を行う乾燥排気の溶剤ガスを高濃度に濃縮してから冷却凝縮させる際、前段の冷却で水分を取り除き、後段の冷却で低水分溶剤を回収する方法であり、これと同時に冷却により得られるドライエアを給気に戻し、ドライエアを循環させて低含水率溶剤を効率よく回収する方法及びその装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、塗布する材料の粘度調整や接着性を向上させるために使用されている希釈溶剤は、塗布後に温風を吹き付けて気化させると、短時間で塗布剤を乾燥させることができる低沸点溶剤がよく使用されている。
【0003】
低沸点溶剤は気化しやすく乾燥性に優れている反面、気化した低沸点溶剤を冷却により回収する場合、濃度により凝縮温度は異なるが、かなり低温にしなければ回収できない。
【0004】
この排気中の溶剤を処理する方法としては、他に燃焼させて無害化する方法もあるが、燃焼によりCOが発生する。気化した溶剤を冷却により回収する方法の場合COの発生は燃焼に比べると大幅に少ない。また、回収溶剤は再使用が可能である。
【0005】
回収溶剤はできる限り新品と同様の品質が良く、含水率(新品は0.1%以下)が小さい、酸化・加水分解等による変質・不純物化がないものが目標とする品質となる。
【0006】
回収方法としては、溶剤回収率が高い、回収に必要なエネルギーが小さい、爆発の危険がない、構造が簡単である、小型で安価な方法等が求められる。
【0007】
従来、乾燥排気中の溶剤を効率よく回収する方法として、濃縮装置を使用して濃縮し、高濃度になった溶剤ガスを冷却して凝縮回収する方法が一般的である。ただし、高沸点溶剤の回収では濃縮を必要としない場合がある。現在実用化されている低沸点溶剤回収方法では、代表的な2種類の方法がある。
【0008】
一つは、特許文献1のように、溶剤ガスを吸着材に吸着させて、窒素ガス等の高温不活性ガスで脱着し、高濃度溶剤ガスとして、それを冷却して凝縮回収する方法である。また他の一つは、特許文献2に示すように、溶剤ガスを吸着材に吸着させて、120°C以上の蒸気で脱着して高濃度溶剤ガスとして、それを冷却して凝縮、回収する方法である。
【0009】
前者、後者の二つの方法とも高濃度にまで濃縮して回収する方法は、高濃度にするほど冷却を低温度にしなくても、冷水や冷却水のような0°C以上の温度でも、凝縮回収できる利点がある。水分は冷却で水になるが氷にならないので液として溶剤と共に回収され、デフロストのような面倒な処理が不要である。しかし濃度調整が難しく高濃度になりすぎる危険がある。
【0010】
その対策として前者の場合は爆発の危険を回避するため窒素ガスをパージするが、窒素ガスが高価な点と、濃縮の際溶剤と同様に水分も凝縮され、これが高濃度に含まれるため、別途水分を除去する装置が必要になる。また、120°C以上の高温脱着による酸化が進む欠点がある。
【0011】
また、後者の場合は、蒸気を使用する、脱着、回収が容易な方法である。しかし、蒸気を使用するため、回収溶剤に多量の水分が含まれ、低水分率の溶剤回収をするには不向きである。それに蒸気の高温度が作用して加水分解や酸化が進む欠点があり、回収する溶剤は低品質となる。
【0012】
これらに対して濃縮を行わない、排気をそのまま冷却して溶剤を回収する方式では脱着が不要なので、方法が簡単で、加熱による酸化が起きない利点はあるが、濃縮する場合に比べて濃度が低いので冷却温度を大きく下げないと溶剤が十分に凝縮、回収できない問題がある。また、濃縮しないので、小風量化できない点が不利となる。
【0013】
そこで、特許文献3に示すように、有機溶剤の蒸気が発生する処理炉内の雰囲気ガスを強制排気するための排気ダクトを設け、この排気ダクトに接続された溶剤回収装置で溶剤を分離した後の気体を前記処理炉に送気する送気ダクトにより循環回路を設け、当該循環回路に、除湿装置により発生させたドライエアを送り込む、ドライエアを用いた溶剤回収設備が開発されている。
【0014】
【特許文献1】特許第3282676公報
【特許文献2】特開2010−221075号公報
【特許文献3】特許第2567300号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら、このドライエアを用いた溶剤回収設備では、処理炉の中で溶媒を具有する産品を処理しており、いわば密閉空間での処理となっている。従って、バッチ式の処理となり、連続しての処理ではない。それ故、処理量を多く増やすことはできない。また、溶剤回収装置において、溶媒含有排ガスをそのまま排ガス冷却器で冷却して溶剤を凝縮し、溶媒液を収集する構成となっており、この場合、冷却温度を大きく下げなければならず、装置が大掛かりなものとなる。この溶剤回収設備を用いるだけでは、回収された溶剤の水分含水率を低くするには不完全である。
【0016】
この発明は、前記の技術的課題を解決するもので、溶剤を気化させて乾燥を行う乾燥排気の溶剤ガスを、当該溶剤の爆発限界値以下の高濃度に濃縮してから冷却凝縮させる際、水分を取り除き、低水分溶剤を回収する低沸点溶剤回収方法及びその装置を提供することも目的としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
一般的に溶剤の濃度に対する凝縮温度については、飽和蒸気圧を濃度(ppm)換算した飽和蒸気圧濃度グラフから求めることができる。溶剤は飽和蒸気圧濃度以下に冷却して凝縮、回収する。濃度が低い溶剤ほど低温度にして回収することとなる。従って、排気そのままの濃度で処理するより爆発しない等の許容される範囲で高い濃度に濃縮することが回収装置の設計にとって有利となる。
【0018】
また、温度を下げて溶剤を凝縮させて回収する方法の場合にも低水分率の溶剤を回収するのに空気中の水分が障害になる。空気中の水分の量(1〜2%程度)は、乾燥空気に含まれる溶剤の量(酢酸エチルでは最高5500ppm)に比べると大きく、溶剤を含む乾燥排気を冷却すると、溶剤と同時に水分が凝縮、回収される。低沸点溶剤の場合0°C以下の冷却が必要で、水分の着霜・氷結をデフロストして冷却能力回復を図る必要がある。処理する排気の水分量を小さくすると回収装置の水分対策が容易になる。
【0019】
図3は、低沸点溶剤の飽和蒸気圧を濃度(ppm)換算した飽和蒸気圧濃度グラフ図である。このグラフで示すように、低沸点溶剤は、特に10,000ppm以下の濃度の場合、同一濃度では、低沸点溶剤より水の方が高い温度で凝縮する。
【0020】
そこで、この発明では、溶剤を気化させて乾燥を行う乾燥排気の溶剤ガスを高濃度に濃縮してから冷却凝縮させる際、前段の冷却で水分を取り除き、後段の冷却で低水分溶剤を回収する方法であり、これと同時に冷却により得られるドライエアを給気に戻し、ドライエアを循環させて低含水率溶剤を効率よく回収する方法とした。以下、この発明を具体的に示す。
【0021】
請求項1の発明は、溶剤乾燥室の一方から乾燥空気を給気し、他方から排気し、当該排気ガスに含有する溶剤を回収する回収装置において、前記排気ガスの一部を、ダンパーを介して前記溶剤乾燥室に供給する乾燥空気に戻し、これにより前記排気ガスに含有する溶剤の濃度を、当該溶剤の爆発限界値以下の高濃度に高め、これを第1冷却部で排気ガス中の溶剤が凝縮しない温度で、かつ、水蒸気が凝縮する温度まで冷却して排気ガス内の水分を分離、除去し、さらに、第2冷却部で排気ガス中の溶剤が凝縮する温度まで冷却して排気ガス中の溶剤を分離して回収し、溶剤を分離した排気ガスを加熱して前記乾燥空気として溶剤乾燥室に給気する、低沸点溶剤回収方法とした。
【0022】
また、請求項2の発明は、請求項1の発明において、前記回収した溶剤をタンクに溜め、当該タンク内の温度を零度以下に保持し、当該タンク内で溶剤中の水分を氷にし、当該氷を除去する、低沸点溶剤回収方法とした。
【0023】
請求項3の発明は、請求項1又は2の発明において、ドライエアユニットを設け、当該ドライエアユニットで外気を冷却、除湿した乾燥空気を作り、これを前記溶剤乾燥室に給気する乾燥空気に付加する、低沸点溶剤回収方法とした。
【0024】
請求項4の発明は、溶剤乾燥室に乾燥空気を給気する給気路を設け、また、当該溶剤乾燥室から溶剤含有排気ガスを排気する排気路を設け、当該排気路内の排気ガスに含有する溶剤を回収する回収装置において、前記排気路から分岐してその一端を前記給気路に接続されたバイパス路を設け、当該バイパス路に前記排気路の排気ガスのバイパス路への送風量を調整するダンパーを設け、前記排気路のバイパス路との分岐点より後方の排気路に、排気ガスを冷却する予冷器、当該予冷器での冷却とともに排気ガス中の水分を凝縮し、凝縮した水分を分離、除去する第1冷却部としての冷却器、排気ガス中の溶剤を凝縮して分離、回収する第2冷却部としての凝縮器を順に設け、さらに、前記排気路に前記凝縮器により溶剤を除去した排気ガスを加熱する第1加熱器を接続し、当該第1加熱器に前記給気路に戻る帰還路を接続した、低沸点溶剤回収装置とした。
【0025】
また、請求項5の発明は、前記請求項4の発明において、前記凝縮器において分離した溶剤を溜めるタンクを設け、当該タンク内の溶剤中の水分を氷にする冷却装置を設け、当該タンク内の温度を零度以下に保持する構成とした、低沸点溶剤回収装置とした。
【0026】
また、請求項6の発明は、請求項4又は5の発明において、ドライエアユニットを別に設け、当該ドライエアユニットで外気を冷却、除湿した乾燥空気を作り、当該乾燥空気を前記給気路に送る補助供給路を設け、当該補助供給路の先端を給気路に接続した、低沸点溶剤回収装置とした。
【0027】
また、請求項7の発明は、請求項4〜6のいずれかの発明において、前記第1の冷却部としての冷却器と第1加熱器は、熱交換器となっており、前記冷却器で温められたブラインを第1加熱器で使用し、第1加熱器で冷やされたブラインを前記冷却器で使用する構成とした、低沸点溶剤回収装置とした。
【0028】
また、請求項8の発明は、請求項4〜7のいずれかの発明において、前記バイパス路、又はバイパス路及び補助供給路より溶剤乾燥室に近い前記給気路に第2加熱器を設けた、低沸点溶剤回収装置とした。
【発明の効果】
【0029】
請求項1及び4の発明によれば、従来の濃縮装置を用いず、排気ガスの一部を給気側に戻して回収装置に行く風量を小さくして、排気中の溶剤を、爆発に対して安全な範囲で高濃度まで濃縮するため、水蒸気脱着による水分の増加はなく、また、高温度脱着をしない。また、濃縮濃度の制御が可能な方式である。従って、排気ガスの冷却温度を大きく下げることなく、冷却により溶剤を凝縮して分離回収でき、また、装置を大掛かりなものにせずに良質の溶剤回収を達成できる。
【0030】
また、上述のように排気ガスの濃度を、安全な範囲で高めるが、その過程において、水分の濃度上昇がなく、高温にならないので酸化がない。また、排気ガスを溶剤回収装置で冷却して行く過程で冷却による除湿により排気ガス中の水分を取り除いてから溶剤を回収するため、最小の水分しか含まれない低含水率の溶剤が回収できる。
【0031】
また、請求項2及び5の発明によれば、排気ガスから回収した溶剤をタンクに溜め、当該タンクを水分が固化する温度以下に冷却保持しているため、溶剤中の水分は氷となり、溶剤から分離される。従って氷を溶剤から容易に除去でき、当該タンクから水分含有量の極めて少ない溶剤を回収することが出来る。
【0032】
また、請求項3及び6の発明では、外気から乾燥空気つくるドライエアユニットを設け、当該ドライエアユニットから溶剤乾燥室に乾燥空気を給気する給気路に、乾燥空気を補充するため、溶剤乾燥室に開口部があっても、これらの開口部から漏れる乾燥空気を前記ドライエアユニットから供給された乾燥空気で補うことが出来る。従って、当該溶剤乾燥室の開口部から被処理物をベルトコンベア等で連続して送り込み、かつ、取り出すことが出来、被処理物の処理時間や処理量を大幅に増加することが出来る。
【0033】
また、請求項7の発明では、溶剤回収装置に熱交換器を設けることにより、効率よく、一方を加熱し、他方を冷却するため、省エネが実現できる。
【0034】
また、請求項8の発明では、帰還路からの乾燥空気、排気路からの排気ガス及びドライエアユニットからの乾燥空気を給気路でさらに加熱し、溶剤乾燥室に送る。従って、溶剤乾燥室に送る乾燥空気の温度や湿度を常に一定の値に保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】この発明の実施例1の溶剤回収装置の概略構成図である。
【図2】この発明の実施例1の溶剤回収装置に使用する熱交換器の原理図である。
【図3】低沸点溶剤と水の飽和蒸気圧濃度グラフ図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
この発明は、溶剤乾燥室の一方から乾燥空気を給気し、他方から排気し、当該排気ガスに含有する溶剤を回収する回収装置において、前記排気ガスの一部をダンパーを介して前記溶剤乾燥室に給気する乾燥空気に戻し、これにより前記排気ガスに含有する溶剤の濃度を、当該溶剤の爆発限界値以下の高濃度に高め、これを第1冷却部で排気ガス中の溶剤が凝縮しない温度で、かつ、水蒸気が凝縮する温度まで冷却して排気ガス内の水分を分離、除去し、さらに、第2冷却部で排気ガス中の溶剤が凝縮する温度まで冷却して排気ガス中の溶剤を分離して回収し、溶剤を分離した排気ガスを加熱して前記乾燥空気として溶剤乾燥室に供給する、低沸点溶剤回収方法とした。
【0037】
これにより、比較的簡易な装置で低含水率の溶剤を効率よく回収できる。
【実施例1】
【0038】
以下、この発明の実施例1を図に基づいて説明する。図1はこの発明の溶剤回収装置の概略構成図である。
【0039】
まず、この発明に使用する溶剤回収装置の構成について説明する。溶剤を混ぜた塗布材Aを被処理物Bに塗布した後、当該被処理物Bの塗布材Aを乾燥させるために溶剤乾燥室1が設けられている。
【0040】
当該溶剤乾燥室1は前室1a,乾燥室1b及び冷却室1cが順に設けられており、シート状の被処理物Bは、塗布材Aを塗布された後、ローラーを介して溶剤乾燥室1の前室1a、乾燥室1b及び冷却室1cに順に入り、乾燥、冷却後これらの部屋から出て、ドラムに巻かれる。各室は前記シート状の被処理物Bが通過できる最小限の大きさの開口部が設けられている。
【0041】
また、前記前室1aでは乾燥はしないが、若干の溶剤は気化する。また、室内に溶剤が漏れ出るのを防止する。また、前記乾燥室1bは、1室だけの場合と、複数室の場合とがある。また、前記冷却室1cでは乾燥で加熱された被処理物Aを冷却する。
【0042】
この溶剤乾燥室1の乾燥室1bには、乾燥空気の給気路2及び当該乾燥室1bにおいて気化した溶剤を含む排気ガスを排気する排気路3が接続されている。そしてこれらの給気路2及び排気路3を結ぶバイパス路4が設けられ、当該バイパス路4にはダンパー5が設けられている。
【0043】
そして、当該ダンパー5の開路により、排気路4の排気ガスの一部が給気路2に戻ることが出来る。またこの排気路3のバイパス路4の分岐点以降に濃度センサ6が設けられ、当該濃度センサ6による濃度測定値により前記ダンパー5の開度を調整し、排気ガスの給気路2への風量を制御して、いわゆるリターン濃縮を行うことができ、かつ、排気ガスを所望の濃度にすることが出来る。
【0044】
また、前記排気路3には濃度センサ6の後方に、予冷器7が設けられている。当該予冷器7には冷凍機7aが設けられ、当該予冷器7を通過する排気ガスの温度を冷却することが出来る。さらに当該予冷器7の後方の排気路3に熱交換器8が設けられ、当該熱交換器8の冷却部で、排気ガスをさらに冷却し、排気ガス中の水分を凝縮し、ドレインとして分離、除去する。また、前記熱交換器8の冷却部が第1冷却部となっている。この熱交換器8では熱の回収はできるが温度制御が出来ないため、前記予冷器7で温度調整する。
【0045】
また、当該熱交換器8の後方の排気路3に排気ガスの温度を測る第1温度センサ9が設けられ、当該第1温度センサ9による測定温度が所定の温度となるように、前記予冷器7の冷却を制御する。
【0046】
また、前記第1温度センサ9の後方の排気路3には凝縮器10が設けられている。当該凝縮器10には冷凍機10aが設けられ、これにより、凝縮器10内を冷却し、排気ガス中の溶剤を凝縮することが出来る。
【0047】
また、当該凝縮器10の後方の排気路3に排気ガスの温度を測る第2温度センサ11が設けられ、当該第2温度センサ11による測定温度が所定の温度となるように、凝縮器10の冷却を制御する。これにより、排気ガス中の溶剤が凝縮し、溶剤液となって排気ガスから分離され、回収される。
【0048】
また、前記第2温度センサ11の後方の排気路3には前記熱交換器8が設けられ、溶剤が除去された排気ガスは当該熱交換器8の他方の第1加熱部を通過し、当該箇所で加熱される。これにより排気ガスは乾燥空気となる。この熱交換器8から前記給気路2に接続された帰還路12が設けられている。この帰還路12は前記バイパス路4の分岐点で前記給気路と接続されている。この様に排気路3、帰還路12及び給気路2は循環路となっている。
【0049】
さらに、前記バイパス路4から溶剤乾燥室1に至る給気路2には第2加熱部である加熱器13が設けられ、乾燥空気を所定温度に加熱する構成となっている。また、前記給気路2及び排気路3には、乾燥空気又は排気ガスを送るブロアー14が適宜設けられている。
【0050】
また、前記凝縮器10で分離した溶剤液を回収するタンク型の溶剤回収槽15が設けられ、当該溶剤回収槽15において溶剤を溜め、必要に応じて当該溶剤回収槽15から溶剤を引き出す構成となっている。また、この溶剤回収槽15内の溶剤を常に零度以下の一定の温度、例えば、−18°Cに保持するための冷却装置16が設けられている。
【0051】
また、乾燥空気を前記給気路2に付加するドライエアユニット17が設けられている。このドライエアユニット17では、外気を取り入れてこれを冷却、除湿する冷却器18が設けられ、その出口側に回転式吸着除湿器19が設けられ、外気は、前記冷却器18で冷却、除湿され、さらに、回転式吸着除湿器19の上部で除湿され、乾燥空気としてブロアー20を介して前記給気路2に送られる構成となっている。
【0052】
また一方、外部から取り込んだ外気を脱着用加熱器21で加熱し、これを前記回転式吸着除湿器19の再生部に吹き付け、当該除湿器19に吸着された水分を脱着するようになっている。従って、前記回転式吸着除湿器19の除湿部は常に水分を除湿できる状態になっている。
【0053】
また、前記熱交換器8は、図2に示すように、第1冷却部8aと第1加熱部8bをブラインが巡回する構成となっており、第1冷却部8aで排気ガスを冷却し、これにより温まったブラインが第1加熱部8bにおいて、冷却された排気ガスを温める。これによりブラインは熱を奪われて冷却される。そして、冷却されたブラインが第1冷却部8aで、上述のように、排気ガスを冷却する構成となっている。
【0054】
以上の構成の溶剤回収装置を用い、溶剤として酢酸エチルを用いた場合溶剤回収方法を説明する。
【0055】
給気路2から乾燥空気が供給され、溶剤乾燥室1内で被処理物Bの溶剤が気化する。そして当該溶剤乾燥室1の内の気化した溶剤を含む乾燥排気ガスは排気路3から排気される。そして、このうちの一部は排気路3からバイパス路4を通り、給気路2に戻る、いわゆるリターン濃縮とする。他は排気路2の濃度センサ6の所を通過し、当該濃度センサ6で測定した濃度が、酢酸エチルの爆発限界下限値を超えない濃度、実用上は爆発限界下限値の1/4の濃度、酢酸エチルでは5000〜5500ppmとなるように、前記ダンパー5の開度を調整して濃度を所定の値に制御する。
【0056】
そして、排気路3を通った排気ガスは前記予冷器7において温度15°Cまで、冷却する。そして、さらに前記熱交換器8の第1冷却部8aで、排気ガス中の溶剤が凝縮しない温度で、かつ、水蒸気が凝縮する温度、例えば、−26.5°Cまで冷却する。これにより排気ガス中の水分のほとんどは凝縮し、分離され、ドレイン(水)及び霜(氷)となって熱交換器8の第1冷却部8aで除去される。また、前記の冷却は第1温度センサ9の測定温度により前記予冷器7を制御して行う。
【0057】
この様に熱交換器8を通過した排気ガスはほとんどの水分が除去され、さらに前記凝縮器10の冷凍機10aで冷却され、第2温度センサ11の温度測定により冷却温度を、例えば、−46°Cに制御される。この温度は、溶剤である酢酸エチルの飽和蒸気圧が1000ppmとなり、溶剤が凝縮する。
【0058】
これにより排気ガスから溶剤を分離し、分離された溶剤は液となって溶剤回収槽15に溜まる。当該溶剤回収槽15では、冷却装置16によって常に溶剤液の温度を−18°C以下に維持する。これにより、当該溶剤内の残っている水分は氷となる。そして、定期的に又は必要に応じて当該溶剤回収槽15内の氷を取り除く。
【0059】
また、前記凝縮器10を通過した排気ガスは溶剤が除去され、露点温度−46°Cの乾燥空気となり、前記熱交換器8の第1加熱部8bに達する。この第1加熱部8bで乾燥空気は加熱され、帰還路12を通り、前記給気路2に達する。そして、前記ドライエアユニット17からの乾燥空気及びバイパス路4からの排気ガスと合流して第2加熱器13に達し、当該第2加熱器13で、溶剤の乾燥に適した温度(60〜80°C)にて乾燥空気となり、前記溶剤乾燥室1に送られる。
【0060】
以上のように、この発明の実施例1では、前記溶剤乾燥室1の給気、排気の温度及び風量は基本的に一定で行う。その一定風量の乾燥排気の排気ガスの一部を排気路3からバイパス路4を経て給気路2に戻し、その風量を、前記ダンパー5を調節することで溶剤回収部に行く排気ガスの風量が変わり、濃度調整が可能となる。
【0061】
また、この様なドライエアを循環することにより水分の濃度上昇がなく、高温に成らないので溶剤の酸化がなく、排気中の溶剤を爆発に対して安全な範囲でできるだけ高濃度まで濃縮(酢酸エチルの場合は5000ppm)した排気を溶剤回収装置で冷却して行く過程で、排気中の水分をできる限り取り除いてから溶剤を回収する。そのため、溶剤回収用の冷却器の前に、排気中の水分を取り除く別の冷却器を置く。溶剤濃度に応じて冷却温度を決めることで前段では溶剤を含まない水分だけが取り除かれ、最小の水分しか含まれない溶剤が回収できる。
【0062】
回収した溶剤には最小限の水分が含まれる。排気ガス中の水分(ガス)は溶剤回収用の第2冷却部である凝縮器10で排気ガスから取り除かれる際、低温(酢酸エチルの場合、−46°C)で冷却されるため排気中又は前記凝縮器10の冷却面で凝縮して微細な氷となり回収された溶剤中に氷として取り込まれる。
【0063】
その溶剤を溶剤回収槽15に集める過程、及び溶剤回収槽15に集められてからも低温(−18°C)に維持することで、氷の比重(0.9168)に比べ溶剤の比重(酢酸エチル0.902)が小さいので、溶剤回収槽15内に微細な氷が沈んだ状態で集まる。溶剤に水が溶け込んだ状態ではなく、氷と溶剤に分離しているので、溶剤だけを容易に取り出すことが出来、ほとんど水分を含まない溶剤が回収できる。なお、酢酸エチル以外で、印刷でよく使用される溶剤の比重は、トルエンでは0.8623、MEKでは0.806、IPAは0.786といずれも氷の比重より小さい。
【0064】
前記凝縮器10で低温に冷却された排気は低水分のドライエアとなっている。そのドライエアを乾燥空気として戻して使用すると乾燥から回収までがドライエアで循環することとなる。従って、前記予冷器7や凝縮器10等の凝縮回収装置に行く乾燥排気ガスをドライエア(回収の際の冷却で水分が凝縮しない程度の水分量の空気)にしているため、前記凝縮回収装置での冷却部で水分が霜や氷になることがほとんどなくなる。
【0065】
また例えば、塗布材Aを乾燥する被処理物Bが樹脂をコーティングしたシート状のもので連続して溶剤乾燥室1に送られてくる場合など、シート出入り口が開放になり気密が保てない場合、循環ドライエア(乾燥空気)には外部の空気が混入し、その結果水分が増加し、元の低水分含有のドライエアではなくなる。
【0066】
この様に気密を保てない場合に、外部の空気が混入することを軽減するため、上記実施例1のように、別途、ドライエアを作る装置、ドライエアユニット17を設け、溶剤乾燥室1に給気する乾燥空気にドライエアユニットからの乾燥空気を供給、補充し、気密を保てない部分(外部に開放している部分)からはドライエアが排出し、外部空気がドライエア循環路に入らないようにすることもできる。
【0067】
また、出来る限り気密な状態やリーク部分からの外気の侵入防止を図っても、なお、排気風量の大きい場合には、ブロアー14及び20等の吸い込み側のダクト接続部やダンパー5の軸貫通部などから微量の水分が侵入することが想定される。この水分量が微細な場合は、最も温度が低い前記凝縮回収装置での冷却部部分で微細な氷の粒子となって回収溶剤に取り込まれる。それよりさらに水分が多い場合、前段の第1冷却部で水分が凝縮、捕集されることとなる。
【符号の説明】
【0068】
A 塗布材 B 被処理物
1 溶剤乾燥室 1a 前室
1b 乾燥室 1c 冷却室
2 給気路 3 排気路
4 バイパス路 5 ダンパー
6 濃度センサ 7 予冷器
7a 冷凍機 8 熱交換器
8a 第1冷却部 8b 第1加熱部
9 第1温度センサ 10 凝縮器
10a 冷凍機 11 第2温度センサ
12 帰還路 13 第2加熱器
14 ブロアー 15 溶剤回収槽
16 冷却装置 17 ドライエアユニット
18 冷却器 19 回転式吸着除湿器
20 ブロアー 21 脱着用加熱器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶剤乾燥室の一方から乾燥空気を給気し、他方から排気し、当該排気ガスに含有する溶剤を回収する回収装置において、前記排気ガスの一部を、ダンパーを介して前記溶剤乾燥室に供給する乾燥空気に戻し、これにより前記排気ガスに含有する溶剤の濃度を、当該溶剤の爆発限界値以下の高濃度に高め、これを第1冷却部で排気ガス中の溶剤が凝縮しない温度で、かつ、水蒸気が凝縮する温度まで冷却して排気ガス内の水分を分離、除去し、さらに、第2冷却部で排気ガス中の溶剤が凝縮する温度まで冷却して排気ガス中の溶剤を分離して回収し、溶剤を分離した排気ガスを加熱して前記乾燥空気として溶剤乾燥室に給気することを特徴とする、低沸点溶剤回収方法。
【請求項2】
前記回収した溶剤をタンクに溜め、当該タンク内の温度を零度以下に保持し、当該タンク内で溶剤中の水分を氷にし、当該氷を除去することを特徴とする、請求項1に記載の低沸点溶剤回収方法。
【請求項3】
ドライエアユニットを設け、当該ドライエアユニットで外気を冷却、除湿した乾燥空気を作り、これを前記溶剤乾燥室に給気する乾燥空気に付加することを特徴とする、請求項1又は2に記載の低沸点溶剤回収方法。
【請求項4】
溶剤乾燥室に乾燥空気を給気する給気路を設け、また、当該溶剤乾燥室から溶剤含有排気ガスを排気する排気路を設け、当該排気路内の排気ガスに含有する溶剤を回収する回収装置において、前記排気路から分岐してその一端を前記給気路に接続されたバイパス路を設け、当該バイパス路に前記排気路の排気ガスのバイパス路への送風量を調整するダンパーを設け、前記排気路のバイパス路との分岐点より後方の排気路に、排気ガスを冷却する予冷器、当該予冷器の冷却とともに排気ガス中の水分を凝縮し、凝縮した水分を分離、除去する第1冷却部としての冷却器、排気ガス中の溶剤を凝縮して分離、回収する第2冷却部としての凝縮器を順に設け、さらに、前記排気路に前記凝縮器により溶剤を除去した排気ガスを加熱する第1加熱器を接続し、当該第1加熱器に前記給気路に戻る帰還路を接続したことを特徴とする、低沸点溶剤回収装置。
【請求項5】
前記凝縮器において分離した溶剤を溜めるタンクを設け、当該タンク内の溶剤中の水分を氷にする冷却装置を設け、当該タンク内の温度を零度以下に保持する構成としたことを特徴とする、請求項4に記載の低沸点溶剤回収装置。
【請求項6】
ドライエアユニットを別に設け、当該ドライエアユニットで外気を冷却、除湿した乾燥空気を作り、当該乾燥空気を前記給気路に送る補助供給路を設け、当該補助供給路の先端を給気路に接続したことを特徴とする、請求項4又は5に記載の低沸点溶剤回収装置。
【請求項7】
前記第1の冷却部としての冷却器と前記第1加熱器とは、熱交換器となっており、前記冷却器で温められたブラインを第1加熱器で使用し、第1加熱器で冷やされたブラインを前記冷却器で使用する構成としたことを特徴とする、低沸点溶剤回収装置。
【請求項8】
前記バイパス路、又はバイパス路及び補助供給路より溶剤乾燥室に近い前記給気路に第2加熱器を設けたことを特徴とする、請求項4〜7のいずれかに記載の低沸点溶剤回収装置。

【図2】
image rotate

【図1】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−103141(P2013−103141A)
【公開日】平成25年5月30日(2013.5.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−246332(P2011−246332)
【出願日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【出願人】(511273159)
【Fターム(参考)】