説明

低減された非毒素タンパク質を含むボツリヌス毒素の局所適用及び経皮送達のための組成物及び方法

本発明は、治療的、美観的及び/又は美容的な種々の目的で局所的に適用できる、ボツリヌス毒素複合体の新規な組成物に関する。該組成物は、赤血球凝集素、非毒素非赤血球凝集素及び/又は外来性アルブミンの量が、市販の通常のボツリヌス毒素に比較して、選択的且つ独立的に低減されているボツリヌス毒素複合体を含むことができる。該組成物は、さらに、ボツリヌス毒素にとって本来的でなく、且つボツリヌス毒素複合体に非共有結合で結合し、それによって、皮膚向性の「接着分子」として作用して毒素複合体が皮膚上皮に付着、浸透する能力を改善する分子を含むことができる。該組成物は、皮下で注射される現存のボツリヌス含有組成物に比較して、改善された安全性プロフィールを有する。本発明では、このような組成物の使用方法も想定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、治療的、美観的及び/又は美容的な種々の目的で局所的に適用することができ、且つ皮下で注射される現存するボツリヌス含有組成物に比較して改善された安全性プロフィールを有する、新規なボツリヌス毒素組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、外部環境の脅威から身体の器官を保護し、体温を保つサーモスタットとして作用する。皮膚は、各々特化された機能を有する数種の異なる層から構成されている。主要な層には、表皮、真皮及び皮下組織が挙げられる。表皮は、結合組織を構成する真皮の上に覆い被さる上皮細胞の重層する層である。表皮及び真皮の両者は、脂肪組織の内層である皮下組織によりさらに支持されている。
【0003】
皮膚の最上層である表皮の厚さは、わずか0.1〜1.5ミリメートルである(Inlander, Skin, New York, NY: People's Medical Society, 1-7 (1998))。それはケラチノサイトからなり、分化の状態に基づいて数層に分かれる。表皮は、さらに角質層と、顆粒マルピーギ細胞及び基底細胞からなる生きている表皮とに分類される。角質層は吸湿性で、その柔軟性及び柔らかさを維持するために少なくとも10重量%の水分を必要とする。吸湿性は、一部ケラチンの保水能力に帰せられる。角質層が柔軟性及び柔らかさを失うと、それは粗く脆くなり、乾燥した皮膚になる。
【0004】
表皮の直下にある真皮の厚さは、1.5〜4ミリメートルである。それは皮膚の3層の中で最も厚いものである。さらに、真皮は、汗腺及び脂腺(ポア又はコメドと呼ばれる皮膚の開口部を通して物質を分泌する)、毛包、神経端、血管及びリンパ管を含む皮膚構造の大部分があるところでもある(Inlander, Skin, New York, NY: People's Medical Society, 1-7 (1998))。しかしながら、真皮の主要成分はコラーゲン及びエラスチンである。
【0005】
皮下組織は皮膚の最も深部の層である。それは、体熱保持のための断熱体として、及び器官保護のためのショック吸収体としての両方の役割を果たす(Inlander, Skin, New York, NY: People's Medical Society, 1-7 (1998))。それに加えて、皮下組織はエネルギー貯蔵のための脂肪も蓄える。皮膚のpHは、通常5と6の間である。この酸性は、皮脂腺の分泌物からの両性アミノ酸、乳酸、及び脂肪酸の存在に基づいている。「酸被膜」という用語は、皮膚の大部分の上にある水溶性物質の存在を指す。皮膚の緩衝能力は、一部、皮膚角質層に貯蔵されているこれらの分泌物に基づいている。
【0006】
しわは、加齢を告げる徴候の1つであり、皮膚への環境的な損傷から蓄積した生化学的、組織学的及び生理学的な変化によって起きる場合がある(Benedetto, International Journal of Dermatology, 38:641-655 (1999))。それに加えて、特徴的な顔面のしわの、折り畳み、溝及び折れ目を生じさせる、その他の二次的な要因もある(Stegman et al., The Skin of the Aging Face Cosmetic Dermatological Surgery, 2nd ed., St. Louis, MO: Mosby Year Book: 5-15 (1990))。これらの二次的な要因として、重力により絶えず引っ張られていること、皮膚上にかかる位置的な圧力(例えば、睡眠中)、及び顔面の筋肉の収縮によって生じる繰り返しの顔面運動が挙げられる(Stegman et al., The Skin of the Aging Face Cosmetic Dermatological Surgery, 2nd ed., St. Louis, MO: Mosby Year Book: 5-15 (1990))。
【0007】
加齢の徴候のいくつかを潜在的に和らげるために、異なる手法が利用されてきている。これらの手法は、アルファヒドロキシ酸及びレチノールを含有する顔用保湿クリームから、外科的な手順及び神経毒の注射に及ぶ。例えば、1986年に、Jean及びAlastair Carruthers、眼形成外科医及び皮膚科医からなる夫妻のチームが、眉間領域の運動に関連するしわの治療にボツリヌス毒素A型を使用する方法を開発した(Schantz and Scott, In Lewis GE(Ed) Biomedical Aspects of Botulinum, New York:Academic Press, 143-150(1981))。Carruther夫妻によるボツリヌス毒素A型のしわの治療への使用は、このアプローチの発展の基となる1992年の発表に至った(Schantz and Scott, In Lewis GE(Ed) Biomedical Aspects of Botulinum, New York:Academic Press, 143-150(1981))。1994年までには、同一のチームが、顔面のその他の運動に関連するしわに関する経験を報告した(Scott, Ophthalmol, 87:1044-1049 (1980))。続いて、これは、次には、ボツリヌス毒素A型を使用する美容的治療の時代を生むに至った。
【0008】
興味深いことに、ボツリヌス毒素A型は、これまで知られている最も致死的な天然の生物学的作用物質であると言われている。ボツリヌス菌(C.botulinum)の胞子は、土壌中に存在しており、不適切に滅菌及び密閉された食品容器内で増殖することができる。本細菌を経口摂取すると、ボツリヌス中毒を起こし、これは、致死的である場合がある。ボツリヌス毒素は、神経筋接合部を介するシナプス伝達又はアセチルコリンの放出を妨げることによって、筋肉の麻痺を生じさせるように作用し、そのうえ、別の経路でも作用すると考えられている。その作用が、通常であれば筋肉の痙攣又は収縮を引き起こすであろうシグナルを本質的に遮断し、結果として麻痺をもたらす。しかしながら、ボツリヌス毒素の筋肉を麻痺させる効果が、治療的な効果を期待して使用されてきている。活動過多の骨格筋を特徴とする神経筋の障害等の状態を治療するために、ボツリヌス毒素を制御して投与して、筋肉を麻痺させるのに使用されてきている。ボツリヌス毒素を用いて治療されてきている状態として、片側顔面痙攣、成人発症型痙性斜頚、裂肛、眼瞼痙攣、脳性麻痺、痙性斜頚、偏頭痛、斜視、顎関節障害、並びに種々のタイプの筋肉の痙攣及び痙縮が挙げられる。より最近になって、ボツリヌス毒素の筋肉麻痺効果が、しわ、眉間のしわ及びその他の顔の筋肉の痙攣又は収縮の結果の治療等、顔への治療的及び美容的な適用において利用されるようになった。
【0009】
ボツリヌス毒素A型の他に、やはりグラム陽性細菌であるボツリヌス菌(Clostridium botulinum)によって産生される、血清学的性質を異にするボツリヌス毒素の7つの形態が存在する。血清学的性質を異にするこれら8種のボツリヌス毒素の中で、麻痺を引き起こすことのできる7種は、ボツリヌス毒素血清型A、B、C(C、D、E、F及びGとしても知られる)と呼ばれている。これらのそれぞれは、その型に特異的な抗体で中和することによって区別される。これら7種の活性ボツリヌス毒素血清型のすべてについて、ボツリヌス毒素タンパク質分子の分子量は、約150kDである。異なる血清型のボツリヌス毒素は、それらが作用する動物種、並びにそれらが引き起こす麻痺の重症度及び持続時間を異にする。例えば、ボツリヌス毒素A型は、ラットに生じる麻痺の速度で評価した場合、ボツリヌス毒素B型よりも500倍強力であるであることが測定されている。加えて、ボツリヌス毒素B型は、霊長類のA型に対するLD50の約12倍に相当する480U/kgの用量で、霊長類に非毒性であることが確認されている。ボツリヌス毒素分子の大きさ及び構造のため、ボツリヌス毒素は、角質層及びその下にある皮膚構造の複数の層を通過することができない。
【0010】
ボツリヌス菌によって放出される場合、ボツリヌス毒素は、付随する非毒素タンパク質と共に約150kDのボツリヌス毒素タンパク質分子を含む毒素複合体中の1つの構成要素である。これらの内因性非毒素タンパク質には、赤血球凝集素タンパク質のファミリー及び非赤血球凝集素タンパク質が含まれると考えられる。非毒素タンパク質は、毒素複合体中のボツリヌス毒素分子を安定化し、且つ毒素複合体を摂取した場合に、例えば、消化力のある酸による変性から毒素分子を保護すると考えられる。したがって、毒素複合体中の非毒素タンパク質は、特に、毒素複合体を胃腸管経由で投与する場合に、ボツリヌス毒素の活性を保護し、全身性浸透を高める。より具体的には、いくつかの非毒素タンパク質は、胃腸上皮を通過する浸透を特異的に高め、一方、他の非毒素タンパク質は、血中のボツリヌス毒素分子を安定化する。加えて、毒素複合体中に非毒素タンパク質が存在すると、毒素複合体は、典型的には、前に言及したような約150kDであるボツリヌス毒素自体の分子量を超える分子量を有することになる。例えば、ボツリヌス菌は、約900kD、500kD、又は300kDの分子量を有するボツリヌス毒素A型の複合体を産生できる。興味深いことに、ボツリヌス毒素のB型及びC型は、700kD又は500kDの複合体としてのみ産生されるようである。ボツリヌス毒素D型は、300kD及び500kD複合体の双方として産生される。ボツリヌス毒素のE型及びF型は、約300kDの複合体としてのみ産生される。
【0011】
ボツリヌス毒素にさらなる安定性を提供するために、毒素複合体は、製造中に、それらを外来性安定剤(例えば、ゼラチン、多糖、又は最も一般的には付加的なアルブミン)と混合することによって安定化されることが多い。安定剤は、製造、輸送、貯蔵、及び投与に付随する環境を含む異質な環境中で毒素複合体を結びつけ、安定化するのに役立つ。
【0012】
典型的には、ボツリヌス毒素は、ボツリヌス毒素複合体及びアルブミンを含有する組成物を、注意深く制御して注射することによって患者に投与されるが、この方法に付随するいくつかの問題がある。注射は、痛いだけでなく、所望の治療的又は美容的効果を達成するために、注射部位の周辺部に毒素の大きな皮下溜りを創り出すのに十分な毒素を送達しなければならないことが多い。さらに不都合なことには、治療すべき領域が大きい場合、多数の注射が要求される可能性がある。さらに、注射される毒素複合体は、ボツリヌス毒素を安定化し、毒素複合体の分子量を増加させる非毒素タンパク質及びアルブミンを含むので、該毒素複合体は、体内で長い半減期を有し、組織中での拡散が遅く、患者に望ましくない抗原性応答を引き起こす可能性がある。また、非毒素タンパク質及びアルブミンは、血中のボツリヌス毒素を安定化するので、それらの注射が、致死的な全身性中毒につながる可能性のある大量の毒素を患者の血流中に放出しないように、注意して注射しなければならない。したがって、注射は、典型的には、ヒトの解剖学的構造を深く理解している高度に訓練された医療専門家によって正確に遂行されるべきである。
【非特許文献1】Inlander, Skin, New York:People's Medical Society, 1-7(1998)
【非特許文献2】Benedetto, International Journal of Dermatology, 38:641-655(1999)
【非特許文献3】Stegman et al., The Skin of the Aging Face Cosmetic Dermatological Surgery, 2nd ed., St.Louis, MO:Mosby Year Book:5-15(1990)
【非特許文献4】Schantz and Scott, In Lewis GE(Ed) Biomedical Aspects of Botulinum, New York:Academic Press, 143-150(1981)
【非特許文献5】Scott, Opthalmol, 87:1044-1049(1980)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
前記で考察した問題のすべてを考慮すれば、痛みのない、そして注射をベースにした通常の方法よりも少量の毒素を必要とする、ボツリヌス毒素の投与方法を有することは、極めて望ましい。加えて、このような方法が、体内でのボツリヌス毒素複合体の拡散速度を増加させながら、ボツリヌス毒素の抗原性及び血中安定性を低減できるなら、該方法は極めて望ましく、それによって、ボツリヌス毒素を治療的、美観的及び/又は美容的な種々の目的で使用することをより安全にする。また、毒素の安全な投与を達成するための医療専門家によるボツリヌス毒素の正確な注射に決定的には依存しない投与方法を有することが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、痛みなしに且つ容易に皮膚の上皮に局所的に適用できる治療用ボツリヌス毒素組成物を提供することによって、前記の諸問題に対する解決策を提供する。本発明の局所用組成物中のボツリヌス毒素複合体は、外来性アルブミンに結合した通常の市販のボツリヌス毒素複合体(例えば、BOTOX(登録商標)又はMYOBLOC(登録商標))と比較して、低減された抗原性、より低い血中安定性、よい優れた安定性プロフィール、及び皮膚上皮を通過するより高い拡散速度を有する。加えて、本発明の組成物及び付随する方法を使用することによって、注射をベースにした通常の投与方法に比較して、より少ないボツリヌス毒素で同一の臨床結果が達成される。
【0015】
本発明の一態様は、ボツリヌス菌から得られるボツリヌス毒素複合体中の内因性非毒素タンパク質(即ち、非毒性の赤血球凝集素タンパク質及び非赤血球凝集素タンパク質)が、毒素が皮膚上皮を通過して拡散する能力を不本意に低下させると同時に、毒素複合体の安定性及び毒性を不本意に増加させるという認識にある。本発明は、さらに、アルブミンなどの外来性安定剤が、通常の製造過程中にボツリヌス毒素に結合すると、これらの効果が悪化することを認識する。したがって、本発明の一態様は、赤血球凝集素、非毒素非赤血球凝集素及び/又は外来性アルブミンの量が、市販の通常のボツリヌス毒素(例えば、BOTOX(登録商標)又はMYOBLOC(登録商標))と比較して、選択的且つ独立に低減されたボツリヌス毒素複合体を提供することである。
【0016】
本発明の別の態様は、特定の非天然分子(即ち、ボツリヌス菌から得られるボツリヌス毒素複合体中に見出されない分子)をボツリヌス毒素複合体、特に、低減されたボツリヌス毒素複合体に添加して、ボツリヌス毒素複合体が皮膚上皮を通過して拡散する能力を改善できるという認識である。特に好ましい実施形態において、非天然分子は、非共有結合的にボツリヌス毒素複合体に結合し、毒素複合体が皮膚上皮に接着して浸透する能力を改善する皮膚指向性「接着分子」として作用し、さらに、血中でのボツリヌス複合体の安定性を低下させる。例を挙げれば、接着分子は、シアロタンパク質などの特定のタンパク質でよい。
【0017】
したがって、本発明の一目的は、ボツリヌス毒素複合体(又は低減されたボツリヌス毒素複合体)と、美容又は治療処置のための組成物の経皮浸透を高める、皮膚を標的とした非天然接着分子とを含有する組成物を提供することである。該組成物は、アルブミンなどの添加された外来性安定剤を含んでいてもよい。
【0018】
さらに本発明は、有効量の本発明内の組成物を、そのような治療を必要とする対象又は患者の、好ましくは、皮膚に局所的に適用することによって、生物学的効果を生じさせる方法にも関する。生物学的効果としては、例えば、筋肉麻痺、分泌過多若しくは発汗の軽減、神経性疼痛若しくは偏頭痛の治療、筋肉痙攣の軽減、ざ瘡の予防若しくは軽減、免疫応答の低下若しくは増強、しわの軽減、又はその他各種障害の予防又は治療を挙げることができる。
【0019】
本発明は、また、ボツリヌス毒素複合体(又は低減されたボツリヌス毒素複合体)と、接着分子とを含有する製剤を調製するためのキット、又は続いてこのような製剤を製造するのに使用できるプレミックスを提供する。対象にボツリヌス毒素複合体(又は低減されたボツリヌス毒素複合体)と、接着分子とを逐次的に投与するための手段を含むキットも提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、ボツリヌス毒素を含有する新規な組成物、より具体的には、皮膚への改善された接着性及び浸透性、低減された抗原性及び血中安定性を有し、皮膚上皮を通過するボツリヌス毒素の輸送又は送達(「経皮送達」とも呼ばれる)を可能にするような組成物に関する。本発明の組成物は、本明細書に記載されるような治療的、美観的及び/又は美容的な種々の目的で、対象にボツリヌス毒素を提供するための局所適用薬として使用できる。本発明の組成物は、また、ボツリヌス毒素の他の組成物及び送達方法に優る、改善された安全性プロフィールを有する。加えて、これらの組成物は、ボツリヌス毒素に対する免疫応答の有益な軽減を提供する。
【0021】
本明細書中で使用する用語「ボツリヌス毒素」は、ボツリヌス毒素の既知の型(即ち、約150kDのボツリヌス毒素タンパク質分子)、細菌によって産生されるもの又は組換え技術によって生成するもののいずれをも、並びに新たに発見される血清型、及び遺伝子工学で作られる変異型又は融合タンパク質を始めとする、引き続いて発見されるであろう型のいずれをもを指すものとする。上記に述べたように、現在、7種の免疫学的に異なるボツリヌス神経毒、即ち、ボツリヌス神経毒血清型A、B、C、D、E、F及びGが特徴付けられており、それらのそれぞれが、型に特異的な抗体を用いた中和によって区別される。ボツリヌス毒素の血清型は、例えば、Sigma-Aldrich社(St.Louis、ミズーリ州)、Metabiologics社(Madison、ウィスコンシン州)及びその他の供給源から市販されている。異なる血清型のボツリヌス毒素は、それらが作用する動物種、並びにそれらが惹起する麻痺の重症度及び持続時間が異なる。少なくとも2つの型のボツリヌス毒素、A型及びB型が、特定の状態を治療するための製剤として市販されている。例えば、A型は、Allergan社製の登録商標BOTOX(登録商標)を有する調製物及びIpsen社製の登録商標DYSPORT(登録商標)を有する調製物に含有されており、B型は、Elan社製の登録商標MYOBLOC(登録商標)を有する調製物に含有されている。
【0022】
本発明の組成物に使用する用語「ボツリヌス毒素」は、また、ボツリヌス毒素の誘導体、即ち、ボツリヌス毒素の活性を有するが、自然に存在する又は組換えによるネイティブなボツリヌス毒素に対して、いずれかの部分又はいずれかの鎖に、1つ又は複数の化学的又は機能的な変更を含有する化合物を指すことができる。例えば、ボツリヌス毒素は、本来のものと比較してそのアミノ酸の少なくとも1つが欠失、修飾、又は置換された神経毒である改変された神経毒でよく、或いは改変された神経毒は、組換えによって生成した神経毒又はその誘導体若しくは断片でよい。例えば、ボツリヌス毒素は、例えば、その特性が増強され又は望ましくない副作用が軽減されるが、所望のボツリヌス毒素の活性はそのまま維持されるように改変されたものであってもよい。ボツリヌス毒素は、上記に記載したように、細菌によって産生されるボツリヌス毒素の複合体のいずれかであることができる。また、本発明で使用されるボツリヌス毒素は、組換え技術又は化学合成技術を使用して調製される毒素、例えば、組換えペプチド、融合タンパク質又は異なるボツリヌス毒素の血清型のサブユニット若しくはドメインから調製されるハイブリッド神経毒(米国特許第6444209号を参照)であることができる。また、ボツリヌス毒素は、必要なボツリヌス毒素の活性を有することが示されている、全体の分子の一部であることもでき、そのような場合、それ自体又は組み合わせた若しくは複合化した分子の部分、例えば、融合タンパク質として使用することができる。また、ボツリヌス毒素は、ボツリヌス毒素の前駆体であることもでき、それは、それ自体には毒性がなくてもよく、例えば、タンパク質分解性の切断で毒性を有するようになる、毒性のない亜鉛プロテアーゼであることができる。
【0023】
本明細書中で使用する用語「ボツリヌス毒素複合体」又は「毒素複合体」は、付随する内因性の非毒素タンパク質(即ち、ボツリヌス菌が産生する赤血球凝集素タンパク質及び非毒素非赤血球凝集素タンパク質)を伴う約150kDのボツリヌス毒素タンパク質分子(ボツリヌス毒素血清型A〜Gのいずれか1つに属する)を指す。しかし、ボツリヌス毒素複合体は、ボツリヌス菌から1つのまとまった毒素複合体として得る必要はないことに留意されたい。例えば、ボツリヌス毒素又は改変されたボツリヌス毒素を、まず、組換えで調製し、続いて、非毒素タンパク質と組み合わせることができる。組換えボツリヌス毒素を購入し(例えば、List Biological Laboratories社、Campbell、カリフォルニア州から)、次いで非毒素タンパク質と組み合わせることもできる。
【0024】
本発明は、ボツリヌス毒素複合体が、ボツリヌス菌によって産生されるボツリヌス毒素複合体中に天然に見出される量と比較して低減された量の非毒素タンパク質を有する、「低減されたボツリヌス毒素複合体」も想定している。一実施形態において、低減されたボツリヌス毒素複合体は、ボツリヌス菌に由来するボツリヌス毒素複合体から赤血球凝集素タンパク質又は非毒素非赤血球凝集素タンパク質の画分を抽出するための、通常の任意のタンパク質分離法を使用して調製される。例えば、低減されたボツリヌス毒素複合体は、pH7.3で赤血球に曝露することによってボツリヌス毒素複合体を解離させて製造できる(例えば、参照により本明細書に組み込まれる欧州特許出願公開第1514556A1号を参照されたい)。HPLC、透析、カラム、遠心分離、及びタンパク質群からタンパク質を抽出するためのその他の方法を使用できる。また、合成で製造したボツリヌス毒素を非毒素タンパク質と組み合わせることによって、低減されたボツリヌス毒素複合体を製造する場合には、より少ない赤血球凝集素又は非毒素非赤血球凝集素タンパク質を、天然に存在するボツリヌス毒素複合体に存在する混合物以外の混合物に単純に添加できる。本発明による低減されたボツリヌス毒素複合体中の非毒素タンパク質(例えば、赤血球凝集素タンパク質若しくは非毒素非赤血球凝集素タンパク質又はその双方)のいずれかが、任意の量で独立に低減される。特定の典型的な実施形態において、1種又は複数種の非毒素タンパク質は、ボツリヌス毒素複合体中で通常見出される量に比較して、少なくとも約0.5%、1%、3%、5%、10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、又は90%まで低減される。ボツリヌス菌は、7種の異なる血清型の毒素を産生し、商業的な調合物は、様々な相対量の非毒素タンパク質を用いて製造される(即ち、様々な量の毒素複合体)。例えば、Myoblocは、0.05%ヒト血清アルブミン、0.01Mコハク酸ナトリウム、及び0.1M塩化ナトリウムと共に、1mLにつき5000Uのボツリヌス毒素B型を含む。Dysportは、125mcgアルブミン及び2.4mg乳糖と共に500Uのボツリヌス毒素A型−赤血球凝集素複合体を含む。1つの特に興味ある実施形態において、ボツリヌス菌に由来するボツリヌス毒素複合体中に通常見出される実質上すべての非毒素タンパク質(例えば、95%を超える赤血球凝集素タンパク質及び非毒素非赤血球凝集素タンパク質)が、ボツリヌス毒素複合体から除去される。さらに、内因性非毒素タンパク質の量は、いくつかの場合で同じ量まで低減できるが、本発明は、内因性非毒素タンパク質のそれぞれを様々な量まで低減すること、及び他はともかく、少なくとも1種の内因性非毒素タンパク質を低減することも想定している。
【0025】
ボツリヌス毒素複合体を不安定にするために内因性非毒素タンパク質の量を低減することに加え(又は代わりに)、本発明は、製造中に通常添加される外来性安定剤の量を低減することも想定している。このような外来性安定剤の例が、アルブミンであり、そのアルブミンは、天然に存在するボツリヌス毒素複合体中の内因性非毒素非赤血球凝集素成分中に見出されるアルブミン量の1000倍に等しい量で、ボツリヌス毒素複合体を製造する際に通常添加される。本発明によれば、添加される外来性アルブミンの量は、外来性アルブミンの通常の1000倍過剰に満たない任意の量でよい。本発明の特定の典型的実施形態において、天然に存在するボツリヌス毒素複合体中のアルブミン量のほんの約500×、400×、300×、200×、100×、50×、10×、5×、1×、0.5×、0.1×、又は0.01×が添加される。一実施形態では、本発明の組成物に安定剤としての外来性アルブミンを添加しない。他の実施形態では、本発明の治療用局所組成物に、アルブミンに加えて(又は代えて)外来性安定剤を添加する。例えば、本発明で想定されるその他の安定剤には、乳糖、ゼラチン及び多糖が含まれる。
【0026】
本発明による「接着分子」は、少なくとも次の特性を所持する、即ち、(1)天然に存在するボツリヌス毒素複合体中に見出されず(即ち、非天然の)、(2)ボツリヌス毒素複合体又は低減されたボツリヌス毒素複合体、特に、ほとんど又はまったく過剰でない外来性アルブミン又はその他の安定剤と組み合わせたボツリヌス毒素複合体を安定化するのに役立ち、且つ(3)ボツリヌス毒素複合体又は低減されたボツリヌス毒素複合体と混合された場合に、ボツリヌス毒素の経皮浸透を促進し、毒素を筋肉及び/又はその他の皮膚に付随する構造体に所望の治療的又は美容的効果を生じさせるのに十分な量で投与することを可能にするという特性を所持する、タンパク質又はその他の分子でよい。一般的に言って、輸送が、ボツリヌス毒素の共有結合的な改変なしに生じることが好ましい。特定の好ましい実施形態において、接着分子は、皮膚の特定の構成要素に結合する能力があり、その構成要素の非制限的例には、角化細胞、上皮細胞、及び毛包が含まれる。例を挙げれば、本発明による接着分子は、角化細胞増殖因子、角化細胞結合タンパク質、上皮増殖因子(EGF)、EGF様タンパク質、並びに神経成長因子、脳由来神経栄養因子、ニューロトロフィン−3、及びニューロトロフィン−4/5などのニューロトロフィンに結合する能力のあるタンパク質でよい。本発明のいくつかの実施形態において、治療用局所組成物は、1種を超える種々のタイプの非天然接着分子を含む。
【0027】
1つの特に興味のある実施形態において、非天然の接着分子は、シアロタンパク質である。なんらかの特定の科学理論で拘束されることを望むものではないが、シアロタンパク質は、皮膚内及びインビトロでボツリヌス毒素の安定化を高め、且つ改善された安全性プロフィールのために血中及び全身性活性を低減すると同時に、ボツリヌス毒素の皮膚付着及び経皮浸透を促進する。本発明で想定されるシアロタンパク質の非制限的例には、骨シアロタンパク質I(BSPI、骨シアロプロテイン、オステオポンチン、OPN、分泌リンタンパク質1、Spp1、初期Tリンパ球活性化タンパク質−1、ETA−1、尿結石タンパク質、ネフロポンチンとしても知られている)及び骨シアロタンパク質II(BSPII、インテグリン結合シアロタンパク質、細胞結合シアロタンパク質、BNSPとしても知られている)が含まれる。シアロタンパク質は、例えば、Chemicon International社から市販されている。上皮、特に皮膚及び膀胱の上皮細胞中で結合及び内面化するその他の接着分子を使用できる。カドヘリン、インテグリン、免疫グロブリンスーパーファミリー、セレクチン、及びその他の膜貫通シアロタンパク質(ポドカリキシンなど)などの接着分子のファミリーを添加できる。
【0028】
一般的に言って、本発明による組成物における接着分子の濃度は、ボツリヌス毒素の経皮送達を可能にするのに十分なものであるべきである。さらに、理論で拘束されることを望むものではないが、経皮輸送の速度は、受容体の介在する速度論に従い、経皮輸送は、接着分子の量を輸送速度が一定になる飽和点まで増加させるのに伴って増加する。したがって、好ましい実施形態において、添加される接着分子の量は、飽和直前の経皮浸透速度を最大にする量に等しい。本発明の局所用組成物における接着分子の有用な濃度範囲は、本明細書に記載されるようなボツリヌス毒素組成物の1単位につき約0.1ng〜約1.0mgである。より好ましくは、本発明の局所用組成物中の接着分子は、ボツリヌス毒素の1単位につき約0.1mg〜0.5mgの範囲にある。例えば、本発明により想定されるシアロタンパク質の一例である骨シアロタンパク質Iの場合、有用な範囲は、約0.1ng〜約1.0mg、より好ましくは約0.1mg〜約0.5mgである。
【0029】
本発明の組成物は、特定の治療を必要とする対象又は患者即ちヒト又はその他の動物の皮膚又は上皮に適用される製品の形態をしていることが好ましい。「必要とする」という用語は、例えば、望ましくない顔面筋痙縮を伴う状態を治療する薬学的及び健康関連の必要性、並びに例えば、顔面組織の外観を変更又は改変する美容的及び主観的必要性を含むことを意味する。一般的に、組成物は、ボツリヌス毒素(付随する非毒素タンパク質又は付随する低減された非毒素タンパク質を含む)と、非天然接着分子と、及び通常は1つ又は複数の薬学上許容される付加的な担体又は賦形剤とを混合することによって調製される。それらの最も単純な形態では、それらは緩衝食塩水などの単純な水溶性の、薬学的に許容される担体又は希釈剤を含むことができる。しかしながら、組成物は、局所医薬用又は薬用化粧品組成物に典型的な他の成分、即ち皮膚科学的に又は薬学的に許容される担体、媒体、又は媒質、即ち適用されると思われる組織に適合性の担体、媒体、又は媒質を含むことができる。本明細書で使用する「皮膚科学的に又は薬学的に許容される」という用語は、そのように記述されるその組成物又は成分が、不適切な毒性、不適合性、不安定性、アレルギー反応等がなくて、これらの組織と接触して使用、又は一般的に患者に使用するのに適していることを意味する。本発明の組成物は、考慮している分野において、特に化粧品及び皮膚科において従来使用されている任意の成分を、必要に応じて含むことができる。
【0030】
それらの形態に関して、本発明の組成物は、溶液剤、乳液剤(マイクロエマルション剤を含む)、懸濁液剤、クリーム剤、ローション剤、ゲル剤、散剤、又は皮膚及び、組成物を使用することができる他の組織に適用するために使用される他の代表的固体若しくは液体組成物を含むことができる。そのような組成物は、ボツリヌス毒素及び非天然接着分子に加えて、抗菌剤、加湿剤及び水和剤、浸透剤、防腐剤、乳化剤、天然若しくは合成油、溶媒、界面活性剤、洗剤、ゲル化剤、皮膚軟化薬、酸化防止剤、香料、充填剤、増粘剤、ワックス、臭気吸収材、色素、着色剤粉末、粘度調整剤および水などの、並びに場合により麻酔薬、かゆみ止め活性剤、植物抽出物、品質改良剤、暗色化剤、淡色化剤、光沢材、保湿剤、雲母、鉱物、ポリフェノール、シリコーン若しくはその誘導体、日焼け止め、ビタミン及び植物医薬を含む、そのような製品で通常使用される他の成分を含むことができる。
【0031】
本発明の組成物は、徐放性又は持続性の組成物の形態であることができ、ボツリヌス毒素と非天然接着分子とは、それらが皮膚上に時間をかけて制御されて放出されるような材料の中に被包されているか、そうでなければ含有されている。ボツリヌス毒素と非天然接着分子とを含む組成物は、マトリックス、リポソーム、ベシクル、マイクロカプセル、マイクロスフェア等の中に、又は固体の粒子の材料の中に含有されており、それらはすべて、ボツリヌス毒素が時間をかけて放出されるように選択され且つ/又は構築される。ボツリヌス毒素と非天然接着分子とを、(例えば、同一のカプセル内に)一緒に、又は(異なるカプセル内に)別々に被包することができる。
【0032】
ボツリヌス毒素を、皮膚の下にある筋肉又は皮膚内の腺構造に、有効量で送達して、麻痺を起こすこと、弛緩を起こすこと、収縮を軽減すること、痙攣を予防若しくは軽減すること、腺分泌を減少させること又はその他の所望の効果をもたらすことができる。このようなボツリヌス毒素の局所送達によって、用量を減らすこと、毒性を低下させること、及び注射用又は埋め込み用の材料に比べ、所望の効果を得るためのより正確な用量の最適化が可能となるであろう。
【0033】
本発明の組成物は、有効量のボツリヌス毒素を投与するように適用される。本明細書で使用する「有効量」という用語は、所望の筋肉の麻痺又はその他の生物学的若しくは美観的効果をもたらすのに十分であるが、言うまでもなく安全な量、即ち重大な副作用を避けるのに十分なだけ低い、上で定義したボツリヌス毒素の量を意味する。所望の効果として、例えば、小じわ及び/若しくはしわの出現を、特に、顔において、減らすこと、又は目を大きく見せる、口の角を持ち上げる、若しくは上唇から扇状に広がるしわをのばす等、その他の様式で顔の外見を整えることを目的とする特定の筋肉の弛緩、或いは筋肉の緊張の全般的な軽減が挙げられる。この最後に述べた効果、即ち、筋肉の緊張の全般的な軽減は、顔又はその他の場所にもたらすことができる。本発明の組成物は、単回投与治療として適用するために適当な有効量のボツリヌス毒素を含むことができ、又は、投与の場所で希釈するため、若しくは複数回適用で使用するために、より濃縮することができる。本発明の皮膚を標的とする非天然接着分子の使用により、ボツリヌス毒素は、望ましくない顔筋若しくはその他の筋肉の痙攣等の状態、多汗症、ざ瘡、又は筋肉の痛み若しくは痙攣の軽減が望まれる体内のその他の場所の状態を治療するために、対象に経皮投与することができる。ボツリヌス毒素は、筋肉に又は他の皮膚関連構造に経皮送達するために局所投与される。例えば、脚、肩、背中(腰背部を含む)、腋窩、手掌、足、頚部、鼠径部、手及び足の甲、肘、上腕、膝、太腿、殿部、胴、骨盤、又はボツリヌス毒素の投与が望まれる任意の他の身体部分に投与を行うことができる。
【0034】
また、ボツリヌス毒素を投与して、その他の状態を治療することもでき、例として、それだけには限らないが、神経性疼痛の治療、偏頭痛若しくはその他の頭痛の予防若しくは軽減、ざ瘡の予防若しくは軽減、(主観的若しくは臨床的な)ジストニア若しくはジストニア性の収縮の予防若しくは軽減、主観的若しくは臨床的な多汗症に伴う症状の予防若しくは軽減、分泌過多若しくは発汗の軽減、免疫応答の低下若しくは増強、又は注射によるボツリヌス毒素の投与が示唆若しくは実施されてきているその他の状態の治療が挙げられる。
【0035】
組成物は、医師又は他の健康管理専門家の指示により又は指示の下に投与されることが最も好ましい。それらは、単回治療又は時間をかけた一連の定期的治療で投与することができる。上述の目的のボツリヌス毒素の経皮送達のために、上記の組成物は、効果が望まれる1カ所又は数カ所の位置で皮膚に局所的に適用される。その性質上、最も好ましくは、ボツリヌス毒素の適用される量を、如何なる副作用も望ましくない結果も生じないで所望の結果を生ずるであろう適用率及び適用頻度で注意して適用すべきである。従って、例えば、本発明の局所用組成物は、皮膚表面1cm当たり約1U〜約20,000U、好ましくは約1U〜約10,000Uのボツリヌス毒素で適用すべきである。好ましくは、これらの範囲の高い方の用量は、例えば、放出制御材料と組み合わせて使用するか、又は除去するまでの皮膚上の滞留時間を短くして許容される。
【0036】
本発明は、また、本明細書に記載のボツリヌス毒素含有組成物を、皮膚を通して送達するための経皮送達デバイスを包含する。このようなデバイスは、皮膚パッチと同様に構造の簡単なものであってもよく、又は組成物を分配して分配をモニターする手段を含み、分配される物質に対する対象の反応をモニターすることを含む、1つ又は複数の態様での対象の状態をモニターする手段を備えたより複雑なデバイスであってもよい。
【0037】
組成物は、一般に、及びこのようなデバイス中の双方で、予め製剤化すること又はこのようなデバイス中に予め充填することができ、或いは、例えば、適用時又は適用前に混合するための2種の成分(ボツリヌス毒素及び非天然接着分子)を含むキットを使用して、後で調製することができる。非天然接着分子の量、又はボツリヌス毒素に対する接着分子の比率は、関心のある組成物に使用するためにどの担体が選択されるかに依存するであろう。所定の場合における担体分子の適切な量又は比率は、例えば、以下で説明するような1つ又は複数の実験を実施することによって容易に決定できる。
【0038】
一般に、本発明は、また、それを必要とする対象又は患者にボツリヌス毒素(好ましくは、低減されたボツリヌス毒素複合体として)を投与する方法を想定しており、該方法では、有効量のボツリヌス毒素が、本明細書に記載したような接着分子と併せて局所的に投与される。「と併せて」とは、2つの成分(ボツリヌス毒素及び接着分子)を混合方式で投与することを意味し、該混合方式は、対象への局所投与に先立ってそれらの成分を混合すること、又はそれらの成分を別々にではあるが、一緒に作用して有効量の治療用タンパク質の必要な送達を提供するような仕方で投与することを含むことができる。例えば、最初に接着分子を含む組成物を、対象の皮膚に適用して、次にボツリヌス毒素を含む皮膚パッチ又は他のデバイスを適用する。ボツリヌス毒素は、皮膚パッチ又は他の分配デバイス中に乾燥形態で導入することができ、接着分子は、パッチを適用する前に皮膚表面に適用でき、その結果2つが一緒に作用して所望の経皮送達が行われる。したがって、その意味で、2つの物質(接着分子及びボツリヌス毒素)は、組合せで作用するか、或いは恐らく、その場で組成物又は組合せを形成するように相互作用する。したがって、本発明は、また、皮膚を経由してボツリヌス毒素を分配するためのデバイス、及び接着分子を含有し且つ対象の皮膚又は上皮に適用するのに適した液剤、ゲル剤、クリーム剤などを備えたキットを包む。本発明の組成物を健康管理の専門家の指示下に、又は患者若しくは対象により投与するためのキットは、その目的に適した特製アプリケーターも含むことができる。
【0039】
本発明の組成物は、pHが約4.5〜約6.3の範囲の生理学的環境における使用に適していて、そのようなpHを有することができる。本発明の組成物は、室温で又は冷蔵条件下のいずれでも保存することができる。
【0040】
以下の実施例及び本明細書に記載の実施形態は、単に例示の目的のためであること、及びそれらの観点からの様々な修正又は変更が、当業者に対して示唆され、本出願の精神及び視野に、及び添付の特許請求の範囲に包含されることが理解される。本明細書中で引用されたすべての刊行物、特許、及び特許出願は、すべての目的に関してその全体で参照により本明細書に組み込まれる。
【実施例1】
【0041】
シアロタンパク質を使用したインビボにおけるボツリヌス毒素の輸送
本実験は、単回投与後の、無処置の皮膚を介して、無処置の標識化タンパク質であるボツリヌス毒素を含有する大きな複合体を輸送するためのシアロタンパク質の使用を実証する。
【0042】
Botox(登録商標)の商標を有するボツリヌス毒素A型(Allergan社製、Irvine、カリフォルニア州)を、本実験のために選択する。ボツリヌス毒素を、メーカーの指示に従って再構成する。計算された12倍モル過剰量のsulfo-NHS-LCビオチン(Pierce Chemical社製、Rockford、イリノイ州)で、タンパク質の一定分量をビオチン標識する。一定分量当たり2.0単位(即ち、全体で20U)のボツリヌス毒素とシアロタンパク質とを、4:1の計算されたMW比で、均一になるまで混合した後、リン酸緩衝食塩水で希釈し、200マイクロリットルとする。得られた組成物を、1.8mlのCetaphil(登録商標)ローションと共に均一になるまで混合し、200マイクロリットルずつ分注する。
【0043】
シアロタンパク質を含むボツリヌス毒素組成物を用いた、単回処置後の経皮送達効率を求めるための動物実験
処置剤を適用する間、動物をイソフルランの吸入による麻酔下に置く。麻酔後、C57/BLK/6マウス(n=10)に、計量した200マイクロリットルの用量の、背側背部の皮膚の頭部(マウスの口又は肢は、この領域には届かないことから選んだ)に適用するのに適切な処置剤を、局所適用する。マウスには、脱毛術を施さない。初期処置30分後、COの吸入により、マウスを安楽死させ、処置した皮膚区域を、完全な厚さで、盲検の観察者(blinded observers)が収集する。処置区域を、3等分し、頭部を10%中性緩衝ホルマリン中で、12〜16時間固定し、次いで、パラフィン包埋まで70%エタノール中で保存する。中心部を急速冷凍し、以下に概要を述べるように、盲検の観察者によるビオチン可視化に直接利用する。処置した尾側の区域は、可溶化の研究用に急速冷凍する。
【0044】
ビオチン可視化を、以下のように行う。要約すると、各切片を、NeutrAvidin(登録商標)(Pierce Biotechnology、Rockford、イリノイ州)緩衝液中に、室温で1時間浸漬する。アルカリホスファターゼ活性を可視化するために、横断面を食塩水中で4回洗浄し、次いで、NBT BCIP(Pierce Biotechnology社製)中に、約1時間浸漬する。次いで、切片を食塩水中ですすいだ後、平面アポクロマートレンズを付けたNikon E600顕微鏡で、全体を撮影する。完全陽性染色を、Image Pro Plusソフトウェア(Media Cybernetics社製、Sliver Spring、メリーランド州)を使用して、バッチ画像解析によって、盲検の観察者が求め、これを、各々について、全横断面領域に正規化して、陽性染色率を求める。次いで、各群について、Statviewソフトウェア(Abacus社製、Berkeley、カリフォルニア州)を使用して、一元配置分散分析反復測定において、有意差検定を95%の信頼度で行って、平均及び標準誤差を求める。結果は、シアロタンパク質が、無傷の皮膚をもつネズミモデルにおいて、局所投与の後にボツリヌス毒素の効率的な移動を可能にすることを実証している。
【実施例2】
【0045】
顔のしわを治療するために経皮で投与されるボツリヌス毒素
女性は、上唇の左側から扇形に広がる細い線を減らすことを望んでいる。1単位のボツリヌス毒素A型、0.01mgのシアロタンパク質を含有し、非毒素タンパク質及びアルブミンを本質的に含有しない組成物を含む経皮パッチを、細い線を含む顔面の領域に適用する。該パッチは、対象が眠っている夜間だけ適用される。1〜7日内に細い線の出現は著しく減少する。この有益な効果は、パッチの連続した適用と共に持続する。動物由来のアルブミン又はゼラチンを欠くことの結果としての低減された抗原性は、ボツリヌス毒素組成物の反復使用を可能にする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボツリヌス毒素複合体又は低減されたボツリヌス毒素複合体と、接着分子とを含むボツリヌス毒素を経皮送達するための組成物であって、該接着分子が、該ボツリヌス毒素複合体又は低減されたボツリヌス毒素複合体と複合体を形成する組成物。
【請求項2】
外来性安定剤をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
接着分子とボツリヌス毒素複合体又は低減されたボツリヌス毒素複合体との間で形成される複合体が、非共有結合性である、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
接着分子が、シアロタンパク質である、請求項1〜3のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
低減されたボツリヌス毒素複合体が、ボツリヌス菌(Clostridium botulinum)から直接的に抽出されるボツリヌス毒素複合体中に天然に存在する量と比較して、低減された量の赤血球凝集素タンパク質及び/又は非毒素非赤血球凝集素タンパク質を含む、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
外来性安定剤が、アルブミンである、請求項2に記載の組成物。
【請求項7】
アルブミンが、天然に存在するボツリヌス毒素複合体中のアルブミン量の約500、400、300、200、100、50、10、5、1、0.5、0.1、又は0.01倍に等しい量で存在する、請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
ボツリヌス毒素複合体又は低減されたボツリヌス毒素複合体が、ボツリヌス毒素誘導体、組換えボツリヌス毒素、改変されたボツリヌス毒素、ボツリヌス毒素A型、ボツリヌス毒素B型、ボツリヌス毒素C型、ボツリヌス毒素D型、ボツリヌス毒素E型、ボツリヌス毒素F型、及びボツリヌス毒素G型からなる群から選択されるボツリヌス毒素を含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
請求項1に記載の組成物を局所的に適用することを含む、対象に対するボツリヌス毒素の投与方法。
【請求項10】
組成物が、顔、腋窩、手掌、手、足、背中下部、頚部、脚部、鼠蹊部、腕、肘、膝、骨盤、臀部、及び胴部からなる群から選択される対象の身体の領域に適用される、請求項9に記載の方法。


【公表番号】特表2009−516700(P2009−516700A)
【公表日】平成21年4月23日(2009.4.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−541478(P2008−541478)
【出願日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際出願番号】PCT/US2006/060979
【国際公開番号】WO2007/059528
【国際公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【出願人】(504319459)ルバンス セラピュティックス インク. (12)
【Fターム(参考)】