説明

低減したアレルギー誘発性および保持されたT細胞反応性を有するPhlp5a誘導体

【課題】草花粉アレルギーを有する患者の特異的免疫療法(減感作)または草花粉アレルギーの予防免疫療法のために用いることができる、イチゴツナギ亜科(Pooideae)のグループ5アレルゲンの変異型の提供。
【解決手段】既知の野生型アレルゲンと比較して低減したIgE反応性により、および同時にTリンパ球による実質的に保持された反応性により特徴付けられる、イチゴツナギ亜科(Pooideae)のグループ5アレルゲンの変異型。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、既知の野生型アレルゲンと比較して低減したIgE反応性により、および同時にTリンパ球による実質的に保持された反応性により特徴付けられる、イチゴツナギ亜科(Pooideae)のグループ5アレルゲンの変異型の調製および使用に関する。
これらの低刺激性アレルゲン変異型を、草花粉アレルギーを有する患者の特異的免疫療法(減感作)または草花粉アレルギーの予防免疫療法のために用いることができる。
本発明の好ましい態様は、オオアワガエリ(Phleum pratense)の花粉からの主要アレルゲンPhl p 5aの変異型に関する。
【背景技術】
【0002】
本発明の背景
1型アレルギーは、世界的にも重要である。先進国の人口の20%までもが、アレルギー性鼻炎、結膜炎または気管支喘息などの病状を患っている。これらのアレルギーは、植物の花粉、ダニ、ネコまたはイヌなどの様々な発生源から放出された空気中に存在するアレルゲン(空気アレルゲン)が原因である。同様に、これらの1型アレルギー患者の40%までもが、草花粉アレルゲンに対し、特異的IgE反応性を示す(Freidhoff et al., 1986, J. Allelgy Clin. Immunol. 78, 1190-2002)。
【0003】
1型アレルギーを誘発する物質は、タンパク質、糖タンパク質またはポリペプチドである。粘膜を介した摂取の後、これらのアレルゲンは、感作された体内において肥満細胞の表面に結合しているIgE分子と反応する。2つのIgE分子が互いにアレルゲンにより架橋した場合、エフェクター細胞によるメディエーター(例えばヒスタミン、プロスタグランジン)およびサイトカインの放出が起こり、それに対応した臨床的な症状が生じる。
【0004】
個々のアレルゲン分子がアレルギー患者のIgE抗体と反応する相対的頻度に依存して、主要および非主要アレルゲン間で区別される。
【0005】
オオアワガエリ(Phleum pratense)の場合、Phl p 1 (Petersen et al., 1993, J. Allergy Clin. Immunol. 92: 789-796)、Phl p 5 (Matthiesen and Loewenstein, 1991, Clin. Exp. Allergy 21: 297-307; Petersen et al., 1992, Int. Arch. Allergy Immunol. 98: 105-109)、Phl p 6 (Petersen et al., 1995, Int. Arch. Allergy Immunol. 108, 49-54). Phl p 2/3 (Dolecek et al., 1993, FEBS 335 (3), 299-304), Phl p 4 (Haavik et al., 1985, Int. Arch. Allergy Appl. Immunol. 78: 260-268; Valenta et al., 1992, Int. Arch. Allergy Immunol. 97: 287-294, Fischer et al., 1996, J. Allergy Clin. Immunol. 98: 189-198)およびPhl p 13 (Suck et al., 2000, Clin. Exp. Allergy 30: 324-332; Suck et al., 2000, Clin. Exp. Allergy 30: 1395-1402)が、これまでに主要アレルゲンとして同定されている。
【0006】
オオアワガエリ(Phleum pratense)の優勢な主要アレルゲンは、Phl p 1およびPhl p 5であり、Phl p 5は、それらの分子量について異なり、独立した遺伝子によりコードされる5aおよび5bの2種の形状で生じる。Phl p 5aのおよびPhl p 5bの両方の推定アミノ酸配列を、組み換えDNA技術を用いて決定してきた。Phl p 5aは、約32kDaのタンパク質であり、草花粉アレルギー患者の85〜90%のIgE抗体と反応する。Phl p 5aは、点突然変異を通じてお互いに異なり、おそらく異なるアレルギー形態に対応する一連の相同変異型中に存在する。例えば、Lolium perenne、Poa pratensisなどの近縁の草種の花粉は、とりわけ、Phl p 5aと相同であるアレルゲンを含有し、共にグループ5アレルゲンとして知られる。草種のこれらのグループ5アレルゲンの高い構造的相同性は相応して、草花粉アレルギー患者のIgE抗体を有する分子の高い交差反応性をもたらす。
【0007】
効果的なアレルギーの治療上の処置への古典的アプローチは、特異的免疫療法または減感作方法である(Fiebig, 1995, Allergo J. 4 (6): 336-339, Bousquet et al., 1998, J. Allergy Clin. Immunol. 102 (4): 558-562)。この方法において、患者に天然のアレルゲン抽出物を漸増用量で皮下注射する。しかしながら、この方法では、アレルギー反応またはさらにアナフィラキシーショックの危険性を伴う。これらの危険性を最小限に抑えるために、アレルゴイドの形状の画期的な製剤が用いられる。これらは、化学的に修飾されたアレルゲン抽出物であり、非処理の抽出物と比較して、著しく低減されたIgE反応性を有するが、同一のT細胞反応性を有する(Fiebig, 1995, Allergo J. 4 (7): 377-382)。
【0008】
さらにより実質的な治療の最適化が、組み換え方法により調製したアレルゲンを用いて可能であろう。任意で患者の個々の感作パターンに適合した、組み換え方法により調製した高純度アレルゲンの定義済み混合物(defined cocktail)は、様々なアレルゲンに加えて、比較的多数の免疫原性であるがアレルゲン性ではない二次タンパク質を含有することから、天然のアレルゲン源からの抽出物を置き換えることができる。
組み換え発現生成物による信頼性のある減感作をもたらすであろう現実的な展望は、治療に必須であるT細胞エピトープを損なわずに、IgEエピトープを特異的に欠失させる、特異的に突然変異した組み換えアレルゲンにより提供される(Schramm et al., 1999, J. Immunol. 162: 2406-2414)。
アレルギー患者における乱されたTヘルパー細胞バランスの治療的処置についてのさらなる可能性は、関連アレルゲンをコードする発現可能なDNAによる処置である(免疫療法的DNAワクチン接種)。
【0009】
この型のDNAワクチンによる免疫反応のアレルゲンに特異的な影響の初期の実験的証拠は、アレルゲンをコードするDNAの注射により齧歯動物において提供されている(Hsu et al., 1996, Nature Medicine 2 (5): 540-544)。
【発明の概要】
【0010】
本発明が基礎とする目的は、低減したIgE活性と同時に実質的に保持されたT細胞反応性により区別され、したがって、特異的免疫療法および免疫療法的DNAワクチン接種に好適な、タンパク質およびDNAレベルでのイチゴツナギ亜科のグループ5アレルゲンの新規の変異型の提供にある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】イチゴツナギ亜科種のPhl p 5a相同cDNA配列の関連領域のアライメントを示す図である。
【図2a】イチゴツナギ亜科種のPhl p 5a相同アミノ酸配列のアライメントを示す図である。
【図2b】イチゴツナギ亜科種のPhl p 5a相同アミノ酸配列のアライメントを示す図である。
【図3】ヒスチジン融合タンパク質の形態の精製した欠失突然変異体のSDS−PAGEを示す図である。
【図4】精製した非融合タンパク質Phl p 5a DM-D94〜113、175〜198およびrPhl p 5a wtのSDS-PAGE(上)ならびにαPhl p 5抗体による同一性試験(下)を示す図である。
【図5】欠失突然変異体Phl p 5a DM-Δ94〜113、175〜198および組み換え野生型Phl p 5a(精製した非融合タンパク質)の分析(analytical)SECを示す図である。
【図6】欠失突然変異体Phl p 5a DM-Δ94〜113、175〜198および組み換え野生型Phl p 5a(精製した非融合タンパク質)の非変性等電点電気泳動を示す図である。
【図7】Phl p 5a欠失突然変異体(非変性)のIgE結合能力を確認するためのストリップテストを示す図である。
【図8】2つの代表する単一の血清(aおよびb)および血清プール(c)によるEAST阻害試験を用いたPhl p 5a欠失突然変異体の低減したIgE反応性の決定を示す図である。
【図9】6人の異なる草花粉アレルギー患者(P)の好塩基球による好塩基球の活性化試験を用いた、Phl p 5a欠失突然変異体であるPhl p 5a DM-Δ94〜113、175〜198の低アレルギー誘発性の決定を示す図である。
【0012】

図1:イチゴツナギ亜科種のPhl p 5a相同cDNA配列の関連領域のアライメントである:Lolium perenne (Lol p)、Poa pratensis (Poa p)、Triticum aestivum (Tri a)およびHordeum vulgare (Hor v)
番号:DNA挿入のヌクレオチド位置
Phl p 5a、Poa p 5およびLol p 5配列:National Center for Biotechnology Information (NCBI), Bethesda, USAの"Gen-Bank" データベースからのcDNA配列
Hor vおよびTri a配列:Institute for Genomic Research (TIGR), Rockville, USAのESTデータベースからのEST配列
実線の境界線:Phl p 5aと同一の配列(GenBank AJ555152に基づく)
点線の境界線:アミノ酸94〜113に対応する欠失(deletion)(GenBank AJ555152に基づく)
破線の境界線:アミノ酸175〜198に対応する欠失(GenBank AJ555152に基づく)
【0013】
図2:イチゴツナギ亜科種のPhl p 5a相同アミノ酸配列のアライメントである(関連配列領域、DNA配列から推定):Lolium perenne (Lol p)、Poa pratensis (Poa p)、Triticum aestivum (Tri a)およびHordeum vulgare (Hor v)
番号:DNA挿入のヌクレオチド位置
Phl p 5a、Poa p 5およびLol p 5配列:National Center for Biotechnology Information (NCBI), Bethesda, USAの"Gen-Bank" データベースからのcDNA配列
Hor vおよびTri a配列:Institute for Genomic Research (TIGR), Rockville, USAのESTデータベースからのEST配列
実線の境界線:Phl p 5aと同一の配列(GenBank AJ555152に基づく)
点線の境界線:アミノ酸94〜113に対応する欠失(GenBank AJ555152に基づく)
破線の境界線:アミノ酸175〜198に対応する欠失(GenBank AJ555152に基づく)
【0014】
図3:ヒスチジン融合タンパク質の形態の精製した欠失突然変異体のSDS−PAGE
1) マーカー
2) rPhl p 5a wt (His)
3) Phl p 5a DM-Δ94〜113 (His)
4) Phl p 5a DM-Δ94〜113、175〜198 (His)
5) Phl p 5a DM-Δ175〜198 (His)
6) マーカー
【0015】
図4:精製した非融合タンパク質Phl p 5a DM-D94〜113、175〜198およびrPhl p 5a wtのSDS-PAGE(上)ならびにαPhl p 5抗体による同一性試験(下)を示す。
αPhl p 5 mAb Apha-1D11は、領域175〜198に結合する。
(rPhl p 5a wtのみが陽性である)
αPhl p 5a mAb Apha-3B2は、2つのPhl p 5a分子の結合エピトープ(joint epitope)を結合させる(両方のタンパク質は、陽性である)
(mAb:モノクローナル抗体)
【0016】
図5:欠失突然変異体Phl p 5a DM-Δ94〜113、175〜198および組み換え野生型Phl p 5a(精製した非融合タンパク質)の分析(analytical)SECを示す図である。
カラム:Superdex 75 HR10/ 30 (Amersham Biosciences, Uppsala, Sweden)
溶離剤:PBS
矢印:排除量
【0017】
図6:欠失突然変異体Phl p 5a DM-Δ94〜113、175〜198および組み換え野生型Phl p 5a(精製した非融合タンパク質)の非変性等電点電気泳動
1) IEFマーカー
2) rPhl p 5a wt
3) Phl p 5a DM-Δ94〜113、175〜198
pI rPhl p 5a wt = 8.7
pI rPhl p 5a DM-Δ94〜113、175〜198 = 6.4
【0018】
図7:Phl p 5a欠失突然変異体(非変性)のIgE結合能力を確認するためのストリップテスト(strip test)
P:臨床的に明確な草花粉アレルギー患者の血清
【0019】
図8:2つの代表する単一の血清(aおよびb)および血清プール(c)によるEAST阻害試験を用いたPhl p 5a欠失突然変異体の低減したIgE反応性の決定
【表1】

P:臨床的に定義済の草花粉アレルギー患者の血清
【0020】
図9:6人の異なる草花粉アレルギー患者(P)の好塩基球による好塩基球の活性化試験を用いた、Phl p 5a欠失突然変異体であるPhl p 5a DM-Δ94〜113、175〜198の低アレルギー誘発性の決定
【0021】
発明の詳細な説明
cDNA配列の突然変異誘発およびクローニング
本発明の特に好ましい低刺激性Phl p 5a変異型の出発点は、オオアワガエリ(Phleum pratense)の花粉の全cDNAからポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって、特異的プライマーを用いて単離された野生型Phl p 5aのイソ型のcDNAである(NCBI (National Center for Biotechnology Information, Bethesda, USA) GenBank番号AJ555152)(配列番号1)。配列番号2のように、アミノ酸配列はcDNA配列から推定された。284のアミノ酸からなるPhl p 5aは、E. coli中で可溶性タンパク質として細胞質的に(cytosolically)発現され、続いて精製された。この組み換え野生型形状のPhl p 5a(rPhl p 5a wt)は、モノクローナル抗Phl p 5抗体と、および天然の精製したPhl p 5a(nPhl p 5a)と反応性を有する草花粉アレルギー患者のIgE抗体と反応する。
【0022】
rPhl p 5a wtの上記cDNAから始まり、一連の異なる欠失変異型(欠失突然変異体)を、制限/連結反応方法およびPCRにより調製し、発現ベクターpProExHTaに連結反応(ligate)させた(Invitrogen, Carlsbad, USA)。cDNA分子の配列全体にわたって分布する長さ6〜72bpの部分(section)を欠失させ、E. coli中に発現したタンパク質のポリペプチド鎖における対応する欠失の誘導をもたらした。
【0023】
Phl p 5aの欠失変異型を、草花粉アレルギー患者の代表する血清プールのIgE抗体へのそれらの結合能力について、免疫ブロット法により調査した。
この方法において、驚くべきことに、IgE抗体(代表する血清プール)の結合を低減させた、Phl p 5aの2つの欠失変異型(アミノ酸94〜113の欠失であるPhl p 5a DM-Δ94〜113、およびrPhl p 5a wtのアミノ酸175〜198の欠失であるPhl p 5a DM-Δ175〜198)が、見出された。
これらの2つのPhl p 5a欠失は、両方の効果的な欠失(Phl p 5a DM -Δ94〜113、175〜198)を含有する二重欠失突然変異体の構築のための出発点としての機能を果たした。
【0024】
遺伝子工学方法によるPhl p 5a DM-Δ94〜113、Phl p 5a DM-Δ175〜198およびPhl p 5a DM-Δ94〜113、175〜198の構築ならびにそれらの生化学的および免疫的特性を、以下に説明する。
【0025】
欠失変異型Phl p 5a DM-Δ94〜113(配列番号3、cDNA配列(795bp)、および配列番号4、アミノ酸配列(264aa))の構築のために、第一に、rPhl p 5a wtのcDNAから始め、2つのフラグメントを調製した。rPhl p 5a wtのアミノ酸1〜93をコードしたフラグメント「F1−93」を、PCRによって、プライマー1および5を用いて調製し、フラグメント「F114−284」を、プライマー4および6を用いて調製した(プライマー配列、表1参照)。フラグメント「F1−93」および「F114−284」を、プライマー1および4を使ってさらなるPCRにおいて鋳型として用い、欠失変異型Phl p 5a DM-Δ94〜113をコードした完全cDNAの増幅をもたらした。PCRによるフラグメント「F1−93」および「F114−284」の連結の基礎は、両方のフラグメントに共通の配列領域であった。この配列領域は、5’領域でアミノ酸88〜93をコードした追加DNA配列を含有した特別なセンスオリゴヌクレオチドを用いて、PCRによるフラグメント「F114−284」の増幅によって形成された(表1)。
【0026】
欠失変異型Phl p 5a DM-Δ175〜198(配列番号5、cDNA配列(783bp)、および配列番号6、アミノ酸配列(260aa))をコードしたcDNA配列は、制限およびそれに続く2つの別々に調製したcDNAフラグメントの連結反応により発生した。5’末端フラグメント「F1−174」をプライマー1および2を用いて、そして3’末端フラグメント「F199−284」をプライマー3および4を用いて、PCRによって調製した。cDNAフラグメントは、制限酵素SpeIにより消化され、続いて連結反応した(表1参照)。連結反応生成物を、プライマー1および4を用いてPCRにより増幅させた。
【0027】
欠失変異型Phl p 5a DM-Δ94〜113、175〜198(配列番号7、cDNA配列(723bp)、および配列番号8、アミノ酸配列(240aa))のcDNAも同様に、2つのcDNAフラグメントから調製した。5’末端フラグメントを、プライマー1および5を使用して、rPhl p 5a wt-cDNAを鋳型として発生させ、3’末端フラグメントを、プライマー4および6を使用して、Phl p 5a DM-Δ175〜198-cDNAを鋳型として発生させた。rPhl p 5a wtタンパク質のアミノ酸88〜93に対応する共通の配列領域を使って、フラグメントを、プライマー1および4を使用して3番目のPCRによって連結し、生成物を増幅させた。
修飾されたアレルゲンをコードするcDNAを、EheIおよびHindIII制限部位を経て発現ベクターpProExHT(Invitrogen, Carlsbad, USA)に連結反応させ、続いて完全に配列決定した。
【0028】
例えば、Poa pratensisおよびLolium perenneなどのイチゴツナギ亜科のグループ5アレルゲンの免疫交差反応性は、非常に類似したアミノ酸配列に基づいている。対応する遺伝子が共通の先祖遺伝子にさかのぼることは明白であると捉えられ得る。イチゴツナギ亜科のグループ5アレルゲンにおける相同配列領域は、Phl p 5a wtタンパク質配列の欠失Δ94〜113およびΔ175〜198の配列(参照:GenBank AJ555152)、またそれらのフランキング配列領域の両方について存在する。問題となっている配列領域の高い相同性を、DNAレベルで、またアミノ酸配列レベルでの両方で実証することができる(図1および図2)。
【0029】
表1:欠失変異型の調製のために用いられるPCRプライマーのリスト
【表2】

SpeI制限部位は、下線で示してある。
【0030】
組み換えPhl p 5a分子の発現および精製
組み換えタンパク質を、Escherichia coli(菌種JM109)におけるヒスチジン融合成分(His)の任意的除去のために、統合(integrated)プロテアーゼ開裂部位(発現ベクターpProExHT; Invitrogen, Carlsbad, USA)によりヒスチジン融合タンパク質として発現させた。rPhl p5a wtおよび欠失突然変異体を、最初にN末端ヒスチジン残基のNi2+キレートマトリクス(固定化金属イオンアフィニティークロマトグラフィー、IMAC)への特異的結合により、続いて予備的(preparative)ゲルろ過(サイズ除去クロマトグラフィー、SEC)により精製した。
【0031】
溶出タンパク質の純度を、SDS−PAGEおよび分析SECにより監視した。結果により、rPhl p 5a wt (His)、Phl p 5a DM-Δ94〜113 (His); Phl p 5a DM-Δ175〜198 (His)およびPhl p 5a DM-Δ94〜113、175〜198 (His)を、高純度で単量体型に調製することができることを示した(図3)。タンパク質の同一性を、Phl p 5a特異的モノクローナル抗体により実証した。
【0032】
IgE結合技術(免疫ブロット法、ストリップテスト、EAST阻害試験および好塩基球の活性化試験)を用いたIgE反応性の点検およびT細胞反応性の調査を、ヒスチジン融合成分なしの試験物質を用いてさらに行った。
このために、欠失変異型を、最初に融合タンパク質として、比較タンパク質rPhl p 5a-wtと平行して調製した。しかしながら、ヒスチジン融合成分は続いて酵素的に開裂され(TEVプロテアーゼ、Invitrogen, Carlsbad, USA)、標的タンパク質のN末端にプロテアーゼ開裂配列の残基としてグリシンのみが残った。開裂したヒスチジン成分および開裂に使用したプロテアーゼの両方をIMACにより完全に分離した。予備的SEC後、溶出タンパク質の純度および立体構造を、rPhl p 5a wtおよび突然変異体Phl p 5a DM-Δ94〜113、175〜198それぞれについて、図4および5に示すようにSDS−PAGEおよび分析SECにより点検した。すべてのタンパク質を、純粋および単量体型に調製した。非融合タンパク質の非変性等電点電気泳動法(IEF)による調査は常に、表面電荷に対して高い均一性を示した(Phl p 5a DM-Δ94〜113、175〜198についての例証は、図6参照)。
【0033】
組み換えタンパク質の同一性を、モノクローナル抗Phl p 5抗体(Allergopharma, Reinbek, Germany)Apha-1D11またはApha-3B2(Phl p 5a DM-Δ94〜113、175〜198についての例証は、図4参照)およびN末端配列により実証した。
【0034】
Phl p 5a欠失変異型の低減したIgE結合の決定
アレルゲン性分子のIgE反応性の決定についての単純な試験方法は、ストリップテストによるアレルギー患者からの血清からの特異的IgEの、膜結合性試験タンパク質への結合の調査である。
【0035】
この目的のために、試験物質を、同じ濃度および量で、一緒に非変性条件下で一片のニトロセルロース膜に結合させる。一連のかかる膜片を、アレルギー患者からの様々な血清と同時にインキュベートすることができる。洗浄段階後、特異的に結合したIgE抗体を、抗hIgE/アルカリホスファターゼ接合(conjugate)により促進された呈色反応により、膜上で可視化する。
【0036】
組み換えタンパク質Phl p 5a wt (His)、Phl p 5a DM-Δ94〜113 (His)、Phl p 5a DM-Δ175〜198 (His)およびPhl p 5a DM-Δ94〜113、175〜198 (His)のIgE反応性を、草花粉アレルギー患者からの43の個別の血清を使用して、ストリップテストにおいて比較調査した(図7)。
アレルギー患者からのすべての43の血清は、天然のPhl p 5a(nPhl p 5a、本明細書中に記載せず)および組み換え同等物のrPhl p 5a wt (His)と強力に反応するPhl p 5aに特異的なIgE抗体を含有した。
驚くべきことに、すべての43の患者の血清のPhl p 5a特異的IgE抗体は、欠失変異型Phl p 5a DM-Δ94〜113、175〜198 (His)に全く結合しなかったか、または非常に狭い範囲で結合したかのどちらかであることが明らかになった。低減したIgE結合は、欠失Δ94〜113および欠失Δ175〜198の両方に起因する。欠失変異型Phl p 5a DM-Δ175〜198 (His)は、この試験において、アレルギー患者からの43の血清のうち35で、明らかにすぐ分かる低減したIgE結合能力を示す。いくつかの試験において、アミノ酸175〜198の欠失の影響は非常に大きく、IgE結合を、事実上完全に防止した(例:P3、P20、P28)。
【0037】
IgE結合反応性への欠失Δ94〜113の影響は、さほど述べられていないが、同様に明らかに目に見える。欠失変異型Phl p 5a DM-Δ94〜113 (His)を、参照rPhl p 5a wt (His)よりも、アレルギー患者からの43の個別の血清のうち19のIgEによって著しく弱く結合させた(例:P31、P37、P42)。しかしながら、IgE結合の低減は、多くの個々の試験において、Δ175〜198が原因の低減よりも大幅に少なく示された。
【0038】
したがって、両方の欠失が、欠失突然変異体Phl p 5a DM-Δ94〜113、175〜198 (His)の全体のIgE結合反応性における減少に寄与することは明らかである。
【0039】
ストリップテストと対照的に、EAST阻害試験(酵素アレルゲン吸着試験)は、溶液中のアレルゲン/IgE相互作用の調査を可能にし、膜上で固定化することによる試験物質のエピトープのマスキングの妨害を、根本的に排除できるようにする。EAST阻害試験を、以下のように行う。マイクロタイタープレートを、アレルゲンで、本発明の場合、天然のPhl p 5(Phl p 5aおよびPhl p 5bの混合物であるnPhl p 5a/b)で被覆する。洗浄による非結合のアレルゲン分子の除去後、以降の非特異的な結合を防止するために、プレートをウシ血清アルブミンで固定する。アレルギー患者のIgE抗体は、個々の血清のプール(血清プール)の代表としてまたは単一の血清として、アレルゲン被覆マイクロタイタープレートと共に好適な希釈率でインキュベートする。アレルゲン結合性IgE抗体の量を、基質の着色した最終生成物への変換を通じて、第二の抗体(抗hIgE/アルカリホスファターゼ接合)に共役した酵素経由で光度的に定量化する。
IgE抗体の結合を、可溶性アレルゲンまたは試験される物質(組み換え修飾されたアレルゲン)により、濃度に依存して、物質特異的に阻害する。免疫化学的に同一の物質は、同一の阻害曲線を示す。
【0040】
本発明において使用された参照分子は、nPhl p 5、rPhl p 5a wt、およびヒスチジン融合タンパク質rPhl p 5a wt (His)である。他の分子に加えて、ヒスチジン融合タンパク質Phl p 5a DM-Δ94〜113 (His)、Phl p 5a DM-Δ175〜198 (His)およびPhl p 5a DM-Δ94〜113、175〜198 (His)の、および非融合タンパク質Phl p 5a DM-Δ94〜113、175〜198のIgE結合を、これらの参照と比較して調査した。
【0041】
図8a〜cは、2つの個々の血清および草花粉アレルギー患者の血清プールにより生じた試験物質の特異的阻害曲線を典型的に示す。nPhl p 5a/bは、すべての試験における最大の阻害効果を示した(10μg/mlの濃度で約80〜95%の阻害効果)。rPhl p 5aの阻害効果は、最大阻害の70〜80%へと著しく低下した。この効果は、イソ型Phl p 5aに加えてイソ型Phl p 5bも含有する、nPhl p 5a/bの組成によるものである。Phl p 5bに対する特異的IgE抗体を、rPhl p 5a wtにより阻害することはできない。
ヒスチジン融合成分は、IgE結合への効果を示さなかった。これは、rPhl p 5a wt (His)およびrPhl p 5a wtの同一の阻害曲線を通じてすべての試験において明らかである。これは、ヒスチジン融合タンパク質を用いる試験の妥当性を実証している。
【0042】
一般的に、2グループの患者血清を、定性的IgE結合に関して区別した。
第一のグループは、個々の血清P15により表される(図8a)。アレルギー患者からのこれらの血清は、Phl p 5への結合が欠失Δ94〜113およびΔ175〜198の両方により低減したIgE抗体を含んだ。欠失突然変異体Phl p 5a DM-Δ94〜113 (His)は、本発明においてほんの約50%の最大阻害効果を示し、および欠失突然変異体Phl p 5a DM-175〜198 (His)は、たった20〜30%の阻害効果を示した。
二重欠失突然変異体Phl p 5a DM-Δ94〜113、175〜198 (His)は、用いた最高濃度でIgE抗体の結合を0〜10%しか阻害することができなかった。非融合タンパク質Phl p 5a DM-Δ94〜113、175〜198の使用は、この結果を確認した(0〜10%の最大IgE阻害)。
【0043】
個々の血清P44により表される(図8b)アレルギー患者からの血清の第二のグループは、血清に存在するIgE抗体が、Phl p 5a DM-Δ94〜113 (His)と反応するのと同等に、参照rPhl p 5a wt (His)とも反応した(70〜80%の最大阻害)一方、IgE抗体がPhl p 5a DM-Δ175〜198 (His)と反応しなかったかあるいは検出不可能な量だけ反応した(0〜10%の最大阻害)事実から、第一のグループとは異なる。
二重欠失突然変異体Phl p 5a DM-Δ94〜113、175〜198も同様に、このグループのアレルギー患者からの血清により大きく低減した阻害効果を示し(0〜10%)、融合タンパク質についておよび融合成分が含まれていないタンパク質についての両方で示された。
これらのアレルギー患者の血清は明らかに、主に分子のC末端部のエピトープに対するIgE抗体を含んだ。
【0044】
20人のアレルギー患者の血清プールのIgE抗体のIgE結合反応性の測定データは、Phl p 5aのIgE結合の減少のための欠失Δ94〜113およびΔ175〜198の重要性を明確に示す(図8 c)。個々の欠失突然変異体であるPhl p 5a DM-Δ94〜113 (His)およびPhl p 5a DM-Δ175〜198 (His)の両方は、rPhl p 5a wt(約70%)より低いそれぞれ40〜50%および約30%の最大阻害効果を示す。二重欠失突然変異体Phl p 5a DM-Δ94〜113、175〜198は、血清プールのIgE抗体により非常に弱く結合し(10〜15%の最大阻害)、ストリップテストにおける43人のアレルギー患者の試験に一致して、すべてではなくとも、非常に多くの草花粉アレルギー患者におけるこのPhl p 5a変異型の大きく低減したIgE結合反応性を示す。
【0045】
好塩基球の活性化試験による欠失突然変異体の低アレルギー誘発性の決定
好塩基球の活性化試験を用いて、エフェクター細胞の膜結合性IgEの架橋における機能的効果に関する欠失突然変異体の低減したIgE結合能力の効果およびそれらの活性化を調査した。したがって、アレルギー誘発性における機能的減少を、感受性in-vitro試験において測定した。
【0046】
好塩基球の活性化試験のために、草花粉アレルギー患者からのヘパリン添加全血を、様々な濃度の試験物質と共にインキュベートする。アレルゲン性物質は、好塩基性顆粒球の高親和性IgE受容体に結合した特異的IgE抗体と結合することができる。
アレルゲン分子により開始されるIgE/受容体複合体の架橋は、エフェクター細胞の脱顆粒、したがってin vivoでアレルギー反応の開始をもたらす、シグナル変換をもたらす。
【0047】
In vitroで、好塩基性免疫細胞のアレルゲン誘導活性化を、IgE受容体架橋のシグナル変換に共役した表面タンパク質(CD203c)の発現の定量化により決定することができる(Kahlert et al., Clinical Immunology and Allergy in Medicine Proceedings of the EAACI 2002 (2003) Naples, Italy 739-744)。細胞上で発現した表面タンパク質の数および細胞プールの活性化細胞のパーセンテージを、蛍光標識モノクローナル抗体の表面タンパク質への結合および続いて蛍光活性化フローサイトメトリーによる分析を介して高感度で測定する。
【0048】
本発明において用いられる参照物質は、試験物質と平行して、精製した天然のPhl p 5a (nPhl p 5a)およびrPhl p5aの両方であった。6人の被験者からの好塩基球による二重欠失突然変異体Phl p 5a DM Δ94〜113、175〜198の試験結果を、図9に曲線で示す。合計10人の臨床的に明確なアレルギー患者からの好塩基球による試験結果を、表2に示す。
参照分子のA50値(A50:最大に活性化された好塩基球数の50%でのアレルゲン濃度)は、個々に様々であり、rPhl p 5a wtについて約1.3〜15pMおよびnPhl p 5aについて約0.3〜10pMであった(表2)。これに対し、欠失変異型Phl p 5a DM Δ94〜113、175〜198のA50値は、約18〜8400pMであった。
用いられた3つの物質について決定したA50値を、各被験者について変わらない参照分子nPhl p 5aおよびrPhl p5a wtに関して欠失変異型Phl p 5a DM Δ94〜113、175〜198のアレルゲン性の有効性を決定するために使用した(表2)。
【0049】
欠失変異型Phl p 5a DM Δ94〜113、175〜198の相対的アレルゲン性の有効性(Pr、相対力)は、参照rPhl p 5a wtと比較して約12〜5000倍、または参照nPhl p 5aと比較して約16〜32000倍低減した(表2)。
【0050】
表2:好塩基球の活性化試験を用いた欠失突然変異体Phl p 5a DM-Δ94〜113、175〜198の低刺激性の決定
【表3】

最大に活性化された好塩基球数の50%でのアレルゲン濃度
相対力
臨床的に明確な草花粉アレルギー患者
A50 rPhl p 5a wt/ A50 Phl p 5a DM-Δ94〜113、175〜198からの計算
A50 nPhl p 5a/ A50 Phl p 5a DM-Δ94〜113、175〜198からの計算
太字:最小値および最大値
【0051】
T細胞反応性
Tヘルパーリンパ球は、抗原提示細胞(APCs)における酵素分解により形成されたアレルゲンのペプチドフラグメント(およそ12〜25のアミノ酸)と反応し、APCsの表面で個々のMHCクラスII分子における好適なペプチドの封入(inclusion)後、T細胞に現れる。Tヘルパーリンパ球のこのアレルゲン特異的活性化は、続く反応(増殖、アネルギー、アポトーシス)におよび機能的分化(TH1およびTH2)に必須の条件である。減感作におけるアレルゲンまたはアレルゲン変異型を用いた処置によるアレルゲン特異的T−リンパ球の影響は、治療上の有効性のためのカギであるとされている。
【0052】
T細胞反応性を調査するために、イネ科の花粉アレルギー患者のオリゴクローナルT細胞系(TCLs)を、nPhl p5またはrPhl p 5分子による刺激を用いる従来の方法により、確立する。増殖試験において、様々なT細胞系を、参照アレルゲンnPhl p5aおよびrPhl p5a wtおよび二重欠失突然変異体Phl p 5a DM Δ94〜113、175〜198により刺激した。増殖率を、従来の方法により、[H]チジミンの取り込みによって決定した。
【0053】
表3:Phl p 5特異的T細胞系(TCLs)による増殖試験を用いた欠失突然変異体Phl p 5a DM-Δ94〜113、175〜198のT細胞反応性の決定
【表4】

H]測定値から計算。アレルゲン刺激細胞培養物のcpm測定値/無刺激細胞培養物のcpm測定値
提供者:臨床的に明確な草花粉アレルギー患者
【0054】
6人のアレルギー患者からの10のTCLsによる結果は、これらのTCLが、変化のない天然のまたは組み換え野生型アレルゲンによるものと同程度の強度で、Phl p 5a DM Δ94〜113、175〜198により増殖への刺激を受けたことを示す(表3)。
【0055】
したがって、本発明は、既知の野生型アレルゲンと比較して低減したIgE反応性により、およびTリンパ球との保持された反応性により特徴付けられるイチゴツナギ亜科のグループ5アレルゲンの変異型に関する。これらのグループ5アレルゲンは、好ましくはPhl p 5a、Poa p 5およびLol p 5であり、非常に特に好ましくはPhl p 5aである。
【0056】
グループ5アレルゲンにおいて欠如するまたは除去されるPhl p 5aのアミノ酸配列領域94〜113および175〜198に対応するアミノ酸配列領域について、本発明の目的に特に好ましいと証明されたように、本発明は特に、かかるアレルゲン変異型に関する。最初に述べたまたは二番目に述べた領域は、個々に欠如していてもよいが、両方の前記領域はまた同時に欠如していてもよく、後者の態様が、非常に特に好ましい。
イチゴツナギ亜科からのグループ5アレルゲン内の高い配列の相同性のおかげで、これらの領域を、他のグループ5アレルゲンからの配列を有するPhl p 5a配列の配列アライメントにおいて疑いなく同定することができる。上記アレルゲン変異型は、好ましくはPhl p 5a由来であるか、または配列番号4、6または8に記載の配列に対応する。
【0057】
本発明のアレルゲン変異型を、遺伝子工学方法を用いて、クローン化DNA配列から出発して調製することができる。しかしながら、原理上は、天然のアレルゲン抽出物の化学修飾もまた、可能である(Fiebig, 1995, Allergo J. 4 (7), 377-382)。
【0058】
もちろん、他の位置におけるさらなる修飾もまた、例えば低アレルギー誘発性を増加させるために、本願明細書中に記載されたグループ5アレルゲンの変化(variations)を介して可能である。これらの修飾は、例えば、アミノ酸挿入、欠失および交換、タンパク質のフラグメントへの開裂ならびにタンパク質またはそのフラグメントの他のタンパク質またはペプチドとの融合であり得る。
【0059】
本明細書中により詳細に記載したアレルゲン変異型の調製中、Hisタグを、過剰に発現したタンパク質の精製を改善する目的のために、遺伝子工学方法により導入した。
【0060】
本発明はさらに、特に配列番号3、5または7に記載の配列に対応した、上記のアレルゲン変異型をコードするDNA分子に、このDNA分子を含有する組み換え発現ベクターに、ならびに前記DNA分子または前記発現ベクターにより形質転換した宿主生物に関する。好適な宿主生物は、バクテリアまたは酵母などの原核生物または真核生物、単細胞生物または多細胞生物であってもよい。本発明にしたがって好ましい宿主生物は、E. coliである。
【0061】
本発明はさらに、前記宿主生物の培養および対応するアレルゲン変異型の培養物からの単離による、本発明のアレルゲン変異型の調製方法に関する。
本発明は加えて、薬剤としてのそれらの特性における上記のアレルゲン変異型、DNA分子および発現ベクターに関する。
【0062】
本発明はさらに、イチゴツナギ亜科のグループ5アレルゲンが誘発に関与するアレルギーの処置のための、またはイチゴツナギ亜科のグループ5アレルゲンが誘発に関与するアレルギーを有する患者の免疫療法的ワクチン接種のための、および/またはかかるアレルギーの防止のための、これらのアレルゲン変異型の少なくとも1つまたは対応するDNA分子または対応する発現ベクターおよび任意でさらなる活性成分および/または補助剤を含む医薬組成物に関する。
これらが、第二の型(少なくとも1つのDNA分子または1つの発現ベクターを含む)の医薬組成物である場合、これらの組成物は、好ましくはさらに、水酸化アルミニウム、免疫刺激性CpG含有オリゴヌクレオチドまたはこれら2種の組み合わせを、補助剤として含む。
【0063】
本発明の目的のために、医薬組成物を、ヒト医学または獣医学において治療剤として使用することができる。好適な賦形剤は、非経口投与に好適であり、本発明のグループ5アレルゲン変異型と反応しない、有機または無機物質である。非経口投与に好適なのは、特に、溶液、好ましくは油性溶液または水溶液、さらに懸濁液、乳液または移植片である。本発明のアレルゲン変異型はまた、凍結乾燥してもよく、得られる凍結乾燥物は、例えば、注射製剤の調製に使われる。示した組成物を滅菌してもよく、ならびに/あるいは潤滑剤、保存剤、安定化剤および/または湿潤剤、乳化剤、浸透圧を変更する塩、緩衝物質および/または複数のさらなる活性成分などの補助剤を含んでもよい。
さらに、本発明のアレルゲン変異型の適当な処方は、例えば水酸化アルミニウムへの吸着により、デポー製剤を得るのを可能にする。
【0064】
最後に、本発明は、イチゴツナギ亜科のグループ5アレルゲンが誘発に関与するアレルギーの処置のための、またはイチゴツナギ亜科のグループ5アレルゲンが誘発に関与するアレルギーを有する患者の免疫療法的ワクチン接種のための、および/またはかかるアレルギーの防止のための薬剤の調製のための、本発明の少なくとも1つのアレルゲン変異型または本発明のDNA分子または本発明の発現ベクターの使用に関する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
既知の野生型アレルゲンと比較して低減したIgE反応性により、およびTリンパ球との実質的に保持された反応性により特徴付けられるイチゴツナギ亜科のグループ5アレルゲンの変異型。
【請求項2】
Phl p 5a、Poa p 5およびLol p 5からなる群から選択された、請求項1に記載のアレルゲン変異型。
【請求項3】
Phl p 5a由来の、請求項1または2に記載のアレルゲン変異型。
【請求項4】
Phl p 5aのアミノ酸配列領域94〜113および175〜198に対応する少なくとも1つの領域または領域の組み合わせが、既知の野生型アレルゲンと比較して欠如していることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載のアレルゲン変異型。
【請求項5】
アミノ酸配列領94〜113および175〜198から選択された少なくとも1つの領域または領域の組み合わせが欠如していることを特徴とする、アレルゲンPhl p 5aの変異型。
【請求項6】
配列番号4、6および8に記載の配列の1つから選択されたアミノ酸配列を有する、請求項5に記載のアレルゲンPhl p 5aの変異型。
【請求項7】
組み換え遺伝子工学方法により得られることを特徴とする、請求項1〜6のいずれかに記載のアレルゲン変異型。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のアレルゲン変異型をコードするDNA分子。
【請求項9】
配列番号3、5および7に記載の配列の1つから選択されたDNA配列に対応するDNA分子。
【請求項10】
発現制御配列に機能的に結合している、請求項8または9に記載のDNA分子を含有する、組み換え発現ベクター。
【請求項11】
請求項8または9に記載のDNA分子または請求項10に記載の発現ベクターにより形質転換した、宿主生物。
【請求項12】
請求項11に記載の宿主生物の培養および培養物からの対応するアレルゲン変異型の単離による、請求項1〜7のいずれかに記載のアレルゲン変異型の調製方法。
【請求項13】
薬剤としての請求項1〜7のいずれかに記載のアレルゲン変異型。
【請求項14】
イチゴツナギ亜科のグループ5アレルゲンが誘発に関与するアレルギーの処置のための、請求項1〜7のいずれかに対応する少なくとも1つのアレルゲン変異型、および任意でさらなる活性成分および/または補助剤を含む、医薬組成物。
【請求項15】
イチゴツナギ亜科のグループ5アレルゲンが誘発に関与するアレルギーの処置のための薬剤の製造のための、少なくとも1つの請求項1〜7のいずれかに記載のアレルゲン変異型の使用。
【請求項16】
薬剤としての請求項8または9に記載のDNA分子。
【請求項17】
薬剤としての請求項10に記載の組み換え発現ベクター。
【請求項18】
イチゴツナギ亜科のグループ5アレルゲンが誘発に関与するアレルギーを有する患者の免疫療法的DNAワクチン接種および/またはかかるアレルギーの予防のための、少なくとも1つの請求項16に記載のDNA分子または少なくとも1つの請求項17に記載の発現ベクターならびに、任意でさらなる活性成分および/または補助剤を含む、医薬組成物。
【請求項19】
水酸化アルミニウム、免疫刺激性CpG含有オリゴヌクレオチドまたはこれら2つの組み合わせを補助剤として含む、請求項18に記載の医薬組成物。
【請求項20】
イチゴツナギ亜科のグループ5アレルゲンが誘発に関与するアレルギーを有する患者の免疫療法的DNAワクチン接種および/またはかかるアレルギーの予防のための薬剤の製造のための、少なくとも1つの請求項16に記載のDNA分子または少なくとも1つの請求項17に記載の発現ベクターの使用。

【図1】
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【図2a】
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【図2b】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−41566(P2011−41566A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−207438(P2010−207438)
【出願日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【分割の表示】特願2006−508164(P2006−508164)の分割
【原出願日】平成16年5月6日(2004.5.6)
【出願人】(591032596)メルク パテント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (1,043)
【氏名又は名称原語表記】Merck Patent Gesellschaft mit beschraenkter Haftung
【住所又は居所原語表記】Frankfurter Str. 250,D−64293 Darmstadt,Federal Republic of Germany
【Fターム(参考)】