説明

低温殺菌法

低温で、耐熱性細菌等の低温では完全に殺菌することが困難な微生物を含む微生物類を完全に殺菌することが可能な低温殺菌法を提供する。水または水性流体中に存在する処理対象の微生物を、可視光線の存在下で濃度を0.3〜3.0%濃度範囲の過酸化水素由来のラジカルにより前記微生物を−20〜10℃の温度範囲で殺菌処理する低温殺菌法であって、前記処理対象の微生物に対する所定濃度の過酸化水素由来のラジカルの作用点に到達する以上の時間処理を行う。

【発明の詳細な説明】
産業上の利用分野
本発明は、水または水性水懸濁液、水溶液、水性スラリ、エマルジョン等の水性流体、または食品、調理具、医療機器等中に存在する微生物を10℃以下の殺菌する低温殺菌方法に関する。より詳しく述べると、耐熱性細菌等の低温では殺菌が困難な微生物を10℃以下の温度で殺菌する方法に関する。
【背景技術】
近年、食品加工分野では、食中毒の防止、食品の変敗の防止、食品経路からの感染の防止等を目的として、種々の殺菌技術の技術が開発されている。
もっとも一般的な殺菌法は加熱による殺菌であるが、食品は一般的に加熱することにより変性あるいは変質するため、加熱による殺菌は食品の商品価値を減じることが多い。特に、芽胞菌は耐熱性が高いため、加熱殺菌法を用いた場合、食品の品質劣化が著しく、適用できない場合が多い。
そのため、過酸化水素水や過酢酸水溶液を用いたり、次亜塩素酸塩、アルカリ剤、洗剤、EDTA、殺菌液などを水に溶解して用いることが試みられているが有効に殺菌できなかったり、食品の品質が劣化する等問題があった。
また、その他の殺菌技術として、オゾン利用技術、水の電気分解により得た酸性水の利用技術、強アルカリアルカリ機能水と強酸性機能水の組み合わせの利用技術が開示されている。
しかしながら、これら技術は特定の細菌には効果はあるものの芽胞菌に対しては有効ではないと考えられていた。すなわち、細菌は進化の過程で酸素ストレスに対してカタラーゼ、グルタチオン、アルカリヒドロペルオキシド還元酵素、スーパーオキシドディスムターゼなどの酵素を持つようになり、さらに細菌の中にはその環境が悪化して増殖が停止すると特殊なヒートショックプロテインを産生したり芽胞を形成して酸素ストレス耐性を増したりするものがいる。これらは活発に細菌が増殖しているときには有効に殺菌出来る過酸化水素、次亜塩素酸、オゾンなどに対しても耐性を持つようになっている。
そのため、特開2001−231525号公報では、ヒドロキシラジカルを含む水溶液を接触させてセレウス菌等の土壌由来の芽胞菌を殺菌する方法が開示されている。特開2001−231525号公報によると、ヒドロキシラジカルとは、過酸化水素と過酢酸の両方又はいずれか一種の水溶液にオゾンを混合して反応生成させたもので、過酸化水素と過酢酸の両方又はいずれか一種とオゾンの混合比は1:10モル乃至10:1モルとしている。また食品にヒドロキシラジカルを含む水溶液を接触させる工程では、該水溶液に浸漬した食品にブラッシング、シャワーリング又は振動エネルギーから選ばれる一つもしくは複数の物理的処理を施すことが記載されている。
また、特開2001−86964号公報には殺菌剤を被処理物中に残存させることなく被処理物中に存在する好熱菌及び耐熱性芽胞菌を完全殺菌する方法であって、被処理物をオゾン、過酸化水素等の殺菌剤で処理した後、低圧過熱水蒸気で処理することを特徴とする殺菌法が開示されている。
しかしながら、特開2001−231525号公報によるとある程度耐熱性微生物の殺菌は可能であるが、全ての菌を殺菌することができない(例えば、表2〜表5を参照のこと)。
また、特開2001−86964号公報によると、芽胞菌等の殺菌は可能であるが、過熱した水蒸気で処理することが必須であり(例えば請求項1参照のこと)、食品等の対象によっては変性等による品質の劣化を免れることができない。更に、3%濃度以上の過酸化水素を使用する等の食品の品質劣化や食品安全面での課題も残る。
従って、本発明の課題は、耐熱性細菌等の低温では完全に殺菌することが困難な微生物を含む微生物類を完全に殺菌することが可能な低温殺菌法を提供することである。
【発明の開示】
本発明者は、このような課題に鑑み鋭意検討した結果、10℃以下という低温度において、前記ラジカル種が微生物に対して与える作用は、即時的なものではなく所定時間の後に作用する作用点があり、この作用点において過酸化水素由来のラジカルが当該微生物に作用することを見出して本発明を創作するに至った。
すなわち、本発明は、水または水性流体中に存在する処理対象の微生物あるいは水または水性流体中で殺菌処理を施す被処理物中の処理対象の微生物を、1.5〜5%濃度範囲の過酸化水素由来のラジカル種で殺菌する方法であって、
前記ラジカル種を10℃以下、好ましくは4℃以下、更に好ましくは0℃以下の温度で処理対象の微生物に作用させることを特徴とするものである。
このように、本発明においては、低温度で過酸化水素由来のラジカル種を殺菌対象の微生物に作用させることが可能となるので、安全面で非常に有利である。
また、本発明の特定の態様において、前記処理対象の微生物に対する所定濃度の過酸化水素由来のラジカル種の作用点に到達する以上の時間処理を行うことを特徴とするものである。
このように構成することによって、低温度でしかも低いフリーラジカル濃度で水または水性流体中に存在する微生物、特に耐熱性菌、芽胞菌等の従来の方法では完全に殺菌不能であった微生物を、完全に殺菌することが可能である。
この低温殺菌法は、処理すべき水または水性流体中に存在する可能性のある微生物の完全殺菌に特に有効である。
なお、水または水性流体の条件とは、作用点をシフトさせる因子である水または水性媒体の種類、添加物およびその濃度、粘度、含水率、pH値を含むことを意味する。
【図面の簡単な説明】
図1は、本発明の低温殺菌法における処理時間と菌数との関係を示すグラフである。
図2は、本発明の低温殺菌法の処理時間と温度プログラムの一例を示すグラフである。
図3は、低温度における所定時間経過前後のラジカルの残存量を示すESRチャートである。
【発明を実施するための最良の形態】
以下、本発明の実施の形態を添付図面を参照にして説明する。しかしながら、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではない。
なお、本明細書で使用する用語は、以下の通りに定義されるものである。
用語「水性流体」とは、所定の流動度を有する水性懸濁液、水溶液、例えば魚のスリミ等の水性スラリ、水性エマルジョンを含むことを意味するものである。以下、本発明において「水または水性流体」を水性系と総称する。
なお、所定の流動度とは、本発明を実施するに当たって、可視光線の存在下で水性系を過酸化水素由来のラジカルで処理するがその際に、例えば攪拌等により水性系の全体に亘って可視光線が照射可能な流動度を意味する。
また、用語「処理対象の微生物」とは、水の存在下で存在する微生物1種または2種以上、すなわち本発明の低温殺菌法により処理対象の微生物を意味するものである。従って、複数の微生物が存在する場合には、本発明においては、作用点までに要する時間、すなわち作用時間が一番長い微生物を処理対象の微生物と考慮される。
また、用語「過酸化水素由来のラジカル濃度」とは、水性系そのものに存在する過酸化水素由来のラジカル量と添加する過酸化水素量との合計の濃度を意味する。
さらに、用語「作用点」とは、所定の過酸化水素由来のラジカルを10℃以下の温度で特定の微生物に作用させた際に、微生物が失活または死滅する点を言い、この作用点に至るまでの時間を、以下作用時間という。この作用時間は、特定の微生物において過酸化水素由来のラジカル濃度、温度により決定される時間である。
以下、本発明の第1実施形態を添付図面に基づいて、詳細に説明する。図1は、本発明の低温殺菌法における処理時間と菌数との関係を示すグラフであり、図2は、本発明の低温殺菌法の処理時間と温度プログラムの一例を示すグラフであり、そして図3は、低温度における所定時間経過前後のラジカルの残存量を示すESRチャートである。
本発明は、10℃以下、好ましくは4℃以下、より好ましくは0℃以下という低温条件下で、過酸化水素由来のラジカルは、水又は水性媒体中で24時間以上の長時間存在し、このようなラジカル種の作用により、耐熱性芽法菌等の従来低温では困難であった微生物に対して過酸化水素由来のラジカルが作用するという知見(後述の図3を参照)および10℃以下という低温度において、前記ラジカル種が微生物に対して与える作用は、即時的なものではなく所定時間の後に作用する作用点があり、この作用点において過酸化水素由来のラジカルが当該微生物に作用することという知見に基づくものである。
本発明において殺菌対象となる被処理物は、水性系でなおかつ所定温度で殺菌可能であるものであれば特に限定されず、食品、調理器具、医療器具、美容器具、理容器具等が挙げられる。より具体的には、魚介類等の水産品、野菜、果実等の青果、これらの加工品、例えば、練り製品原料、飲料等が挙げられる。
処理する際に使用する水性系は、所定の流動度、すなわち被処理物を均一に混合して、好ましくは可視光線を照射可能である、水性の流体であれば特に限定されるものではなく、水、食塩水、ブドウ糖、塩類等を溶解した水溶液、水性の懸濁液、魚のスリミ、獣肉や鶏肉等のミンチ、蜂蜜、ソーセージ類、これらの混合物等の含水スラリ等が適宜選択される。
本発明において処理対象となる微生物は、処理すべき水性系に応じて適宜選択されるものであり、一般には、耐熱性芽胞菌を含む微生物群が挙げられる。耐熱性芽胞菌とは、乾燥、高温等の悪環境となると芽胞を形成する菌であり、代表的には好気性のBacillus属に属する微生物、嫌気性のClostridum属に属する微生物及びAlicyclo Bacillus属に属する耐熱好酸性微生物が挙げられる。
このような芽胞菌は、物理的、化学的刺激に対して強い耐性を有しており、120℃以上15分以上のオートクレーブ殺菌により死滅するが100℃の煮沸に対しても耐性を有しているのが一般である。本発明の低温殺菌法においても、これらの微生物単独あるいはこれらの微生物とその他の一般微生物とが混在する水性系を殺菌対象にする場合があるが、一般微生物は、作用点を有していない場合かあったとしても芽胞菌よりも短い時間に作用点があるので、以下の説明においてはこれらの芽胞菌を処理対象として説明する。
本発明においては、これらの芽胞菌を対象に低温度で殺菌条件を決定すると、その他の菌の殺菌も同時に行うことが可能であることを見出していた。特に、10℃以下の低温度で殺菌を行うことによって、
本発明の処理対象となる芽胞菌として、特に限定されるものではないが、Genus Bacillus、例えば、B.cereus、B.coagulans、B.subtilis、B.stearothermophoilus、B.licheniformis、B.macerans、B.megaterium、B.spharicus、B.pumilus、B.thuringiensis等が、Genus Clostridium、例えば、C.pasteurianum、C.sporogenes、C.butyricum、C.bifermentans、C.perfringens、C.difficile、C.tetani、C.septicum等が例示される。
(過酸化水素由来のラジカル発生)
本発明で使用するラジカル種は、当該技術分野に公知のラジカル源から得られるものであり、本発明においては特に限定されるものではない。
特に好ましいラジカル種は、ヒドロキシラジカルに代表される過酸化水素由来のラジカルである。すなわち、ヒドロキシラジカルに代表される過酸化水素由来のラジカルは、本発明の条件下での殺菌後に常温下で経時的に水へと変化して残存しない。オゾン等由来のラジカル種も同様に酸素と変化するが、オゾン由来のラジカルは、芽胞菌を殺菌する場合に高い濃度である必要があり、またヒドロキシラジカル等に比べて長期間の安定性はない。過酸化水素由来のラジカルは、従来公知の通り、過酸化水素または過酢酸等の光、特に可視光線の照射下で発生する。以下の説明では、代表的なラジカル源として過酸化水素由来のラジカルに基づいて説明する。
本発明においては、食品等の殺菌を考慮して水性系におけるラジカル濃度を0.3〜3%濃度と設定する。ラジカル濃度が上記範囲よりも少ない場合には殺菌効果を充分に発揮できない可能性があり、逆に過酸化水素由来のラジカル濃度が上記範囲を超えた場合、食品等の水性系中に存在する他の成分、例えばタンパク質等の有機化合物を変性してしまう可能性がある。
なお、例えば殺菌対象が魚である場合には、適用する魚に固有の過酸化水素由来のラジカルが存在することがある。また、養殖魚、家禽類、家畜類には、ストレス防止のためにアスコルビン酸系のストレス防止剤を投与している場合がある、これらの場合には、後述するESR装置により、殺菌プロフィールの補正を加える必要がある。
(過酸化水素由来のラジカル処理)
驚くべきことに、例えば63℃以上の高温では、過酸化水素由来のラジカル(以下、単にヒドロキシラジカルと言うことがある)が即時的に耐熱性芽胞菌等の微生物に作用して殺菌するのに対して、10℃以下の低温度、好ましくは0℃〜4℃の低温度におけるこの過酸化水素由来のラジカルは、対象とする芽胞菌の種類に依存して作用する点があることを本発明者等が見出した。また、10℃を超えた温度においては、ヒドロキシラジカルは、比較的容易に分解消失するが、10℃以下の温度では数日間安定して存在することを本発明者によって見出した。
すなわち、図1に示す通り、所定の耐熱性芽胞菌が、10℃以下の温度、例えば4℃において、水性系中で過酸化水素由来のラジカルを作用し続けると、所定時間経過後、一般には24時間以上、特に96時間程度の時間の経過後に完全に死滅することを見出した。本発明において、このような作用時点を作用点と呼び、また処理の開始時からこのような作用点までの経過時間を作用時間と呼ぶことにする。
さらに、図2に示す通り、この処理を0℃以下、好ましくは−15℃未満の温度で同様に続けた場合にも同様に作用点において耐熱性芽胞菌が死滅することを見出した。
また、図1に示す通り、純粋、食塩水等の使用する系の変化に伴いこの作用点が移動することも見出した。
これらの事項は、図1の破線で示す通り、過酸化水素由来のラジカルによる処理は、耐熱性芽胞菌に即時的に作用し、時間の経過とともに菌数が減少していく(死滅していく)という従来の常識からは考えられない新規の知見である。
従って、本発明の低温殺菌法は、このような現象に基づいて行われるものである。
本発明の低温殺菌法においてまず、所定の水系に対応して処理条件を決定する。
処理条件の決定因子は、(1)存在するあるいは存在する可能性のある微生物の種類、(2)水系の種類(塩の存在、pH値)、(3)水系の温度プログラム、等である。
(1) 微生物の種類
被処理物中に存在するあるいは存在する可能性のある微生物種が既知の場合、すなわち卵、スリミや獣肉の粉砕物等の水性スラリまたはブイヨン等の水抽出物の場合には、従来公知のデータより殺菌対象となる微生物種が予測される。
一方、被処理物中に存在するあるいは存在する可能性のある微生物種が未知の場合には従来公知の検査法により処理対象の微生物を実際に検査して特定することによって存在する可能性のある微生物が特定または類推される。
ひとたび、存在する可能性がある微生物が決定すると、これらの微生物のうち、本発明の低温処理法の条件下で耐殺菌性の一番強い微生物、例えば耐熱性の微生物であるBacillus cereus、B.stearothermophilus、B.subtilisが選択される。
なお、未知の作用点を有する微生物を処理する場合、実験により図1に示すグラフを作成することによって対応可能である。
このようにして見出された微生物の作用点は、データベースに保存しあるいは例えば図1に示すようなグラフまたは表等の形式で保存し、次回以降の殺菌の場合には作用点の特定を省略することが可能である。
しかしながら、発明者による予備実験によると、芽胞菌の作用点は、種属に略無関係に略同一であることを見出した。従って、他の芽胞菌、好ましくは同一属に属する既知の芽胞菌の作用点から類推してもよい。
以下に、魚のスリミのスラリ、果実類に存在し得る代表的な微生物の種類を表1に記載する。



上記表は、微生物10〜10個を純粋10〜100ccに添加し、約1.5%の過酸化水素を添加した溶液を、4℃で1日、3日培養した後に光学顕微鏡にて微生物の有無を判定したものであり、×は存在(1個以上)、○は不存在(0個)を表す。この表に示すとおり、3日間低温下で放置することによって対象となる微生物が確実に殺菌できることが判る。
すなわち、これらの菌は、本発明者等の実験によると、1.5〜5%、好ましくは3%以下、」より好ましくは100ppm以下の濃度範囲の過酸化水素中、10℃以下の温度で72〜96時間の温度範囲で死滅することが判った。
(2) 水系の条件(温度を除く)
また、本発明の低温処理方法において、処理する水系の条件、すなわちpH条件、塩分、糖分等の添加物等によって作用点がシフトする。
すなわち、本発明者の実験によると塩化ナトリウム等の塩等が存在すると、同一の菌種に対して本発明に言う作用点が右側にシフトすることが、本発明者による繰返しの実験により見出された(以下の実施例参照)。
なお、pH条件、糖分が含有する水系、水系の状態(例えば水溶液、水性懸濁液、水性スラリ)に応じて同様にして図1に示すグラフを作成することによって、作用点のシフトを見出すことが可能である。
未知の微生物の作用点の決定と同様にして、条件変化による作用点のシフトはデータベースあるいは例えば図1に示すようなグラフまたは表等の形式で保存して、次回以降の殺菌の場合には作用点のシフトの観察を省略することが可能である。
なお、データベース、グラフ等に保存された作用点のシフトから条件の変化に対応する作用点のシフトを類推することが可能である。例えば、食塩濃度1.8%、3%等による特定の微生物の特定条件下での作用点のシフトの傾向により、所定濃度の食塩水の場合の作用点を予測することも本発明の範囲内である。
(3) 温度プログラム
本発明の低温殺菌法において、前記過酸化水素由来のラジカル処理を10℃以下の温度で継続するが、その際の温度プログラムは、10℃以下の温度であれば特に限定されるものではなく、例えば4℃等の一定温度で可視光線の照射下に冷蔵庫内で保存してもよくあるいは例えば氷点下の冷凍条件(一般には−20℃以上)で可視光線の照射下に冷凍庫内で保存しても良い。更に、所定時間冷凍条件でヒドロキシラジカル処理を行った後、所定時間かけて4℃程度の温度に上昇させることも本発明の範囲内である。
従って、本発明においては、このような処理条件の変化に応じて作用点を見極め(決定または類推し)、その作用点に基づいて過酸化水素由来のラジカル処理を行うことが可能である。
(4) 低温度域でのヒドロキシラジカルの存在
このような本発明の殺菌条件である10℃以下という低温度域でのラジカル種の存在は、例えばESR装置により確認することができる。図3に示す通り、殺菌系におけるヒドロキシラジカルのピークは、334〜335mT付近に存在する。本発明においてはこのようなピークをモニタすることによって、低いラジカル濃度が維持できているか否かを確認することが可能である。
【実施例】
以下、本発明を実施例により説明する。
【実施例1】
純粋100mLにBacillus cereus菌10個を添加し、4℃にて過酸化水素1.5%にて可視光線の照射下(蛍光灯)で処理を行った。処理時間12時間毎に菌数をカウントした所、図1に示す通りの結果が得られた(作用時間:84時間)。
このことから、4℃で過酸化水素由来のラジカル処理を行うと、作用時間まではラジカルは微生物に対して明確な作用を示さないが、96時間後に作用時間が遅延して起こることが分かる。
【実施例2】
Bacillus cereus菌に代えて、B.coagulans、B.subtilis、B.stearothermopholis、B.licheniformis、B.macerns、B.megaterium、B.sphatricus、B.pumilus、B.thuringenis、C.pasturianum、C.sporongenes、C.butyricum、C.bifermentans、C.perfrigens、C.defficile、C.tetani、C.septicumを用いて実施例1を繰り返した所、実施例1と同様の結果が得られた(作用時間:約84)。
(実施例3および比較例1)
過酸化水素を0.3、1.0、2.0、3.0%に代えて実施例1を繰り返した。その結果、作用時間は各々、96時間(0.3%)、84時間(1.0〜2.0時間)、72時間(3.0%)であることが判明した。
(比較例2)
可視光線の照射に代えて紫外線照射下で実施例1を繰り返した所、微生物の減少は観察されなかった。
【実施例4】
過酸化水素を4℃添加後、冷凍庫(−14℃)で保存した以外、実施例1を繰り返した所、実施例と同様の結果が得られた(作用時間96時間)。
このことから、冷凍下でも本発明の低温殺菌法が適用可能であることが判った。
【実施例5】
純水に代えて各々0.45、0.9%NaCl溶液を使用した以外、実施例1を繰り返した所、実施例と同様の結果が得られた[作用時間84時間(0.45%NaCl)、96時間(0.9%NaCl)]。
このことから、塩分の存在により微生物への作用時間が延長するようにシフトすることが判った。
【実施例6】
過酸化水素1.5%濃度の水溶液を冷凍し、冷凍後、1日及び3日後のヒドロキシラジカルの挙動をESR装置により測定した。結果を図3に示す。図3に示す通り、0℃以下の温度において、ヒドロキシラジカルが残存することが判った。
【産業上の利用可能性】
以上説明した通り、本発明は次の優れた効果を有する。
低温度でしかも低い過酸化水素濃度で水または水性流体中に存在する微生物、特に耐熱性菌、芽胞菌等の従来の方法では完全に殺菌不能であった微生物を、完全に殺菌することが可能である。
この低温殺菌法は、処理すべき水または水性流体中に存在する可能性のある微生物の完全殺菌に特に有効である。
処理対象の水または水性流体中に存在する可能性のある微生物が未知の場合であっても、低温度でしかも低いヒドロキシラジカル濃度で水または水性流体中に存在する微生物、特に耐熱性菌、芽胞菌等の従来の方法では完全に殺菌不能であった微生物を、完全に殺菌することが可能である。
微生物の種類、前記ラジカル濃度、水または水性媒体の処理温度、水性媒体の種類、水または水性媒体のpHは、作用点を決定する重要因子である。これらの因子により適合した作用点に基づいて、作用時間以上の過酸化水素由来のラジカル処理を行うことによって、水または水性媒体中に存在する微生物を完全に殺菌することが可能となる。
このように構成することによって、例えば食品加工原料等の被処理物を凍結状態で保存・運搬時にも殺菌処理することが可能となる。
【図1】

【図2】

【図3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
水または水性流体中に存在する処理対象の微生物あるいは水または水性流体中で殺菌処理を施す被処理物中の処理対象の微生物を、1.5〜5%濃度範囲の過酸化水素由来のラジカル種で殺菌する方法であって、
前記ラジカル種を10℃以下の温度で処理対象の微生物に作用させることを特徴とする殺菌方法。
【請求項2】
前記処理対象の微生物に対する所定濃度の過酸化水素由来のラジカル種の作用点に到達する以上の時間処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の殺菌法。
【請求項3】
さらに、ラジカル種での処理に先だって、被処理物中に存在しえる微生物を検出し、検出した微生物から耐熱性細菌、耐酸性細菌および両者を選択し、前記選択した微生物に対する所定濃度のラジカル種の作用点に到達する以上の時間処理を行うことを特徴とする殺菌法。
【請求項4】
前記水または水性流体中に存在する微生物を検出し、検出した各微生物のうち作用点の未知の微生物が存在する場合、1.5〜5%濃度範囲の所定濃度のラジカル種により10℃以下の温度で可視光線の存在下で作用させて、前記各微生物の作用時間を調査する工程を含む請求の範囲第1項に記載の殺菌法。
【請求項5】
前記ラジカル種を添加した水または水性流体を凍結させて処理を続けることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の殺菌法。
【請求項6】
前記被処理物が魚であり、殺菌対象微生物が耐熱性芽胞菌であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の殺菌法。
【請求項7】
前記被処理物が柑橘類であり、殺菌対象微生物が耐熱耐酸性菌であることを特徴とする請求の範囲第1項に記載の殺菌法。
【請求項8】
殺菌条件が10℃以下の温度及び72〜96時間であることを特徴とする請求の範囲第4項から請求の範囲第8項のいずれか1項に記載の殺菌法。

【国際公開番号】WO2004/060817
【国際公開日】平成16年7月22日(2004.7.22)
【発行日】平成18年6月22日(2006.6.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−507952(P2005−507952)
【国際出願番号】PCT/JP2004/000001
【国際出願日】平成16年1月5日(2004.1.5)
【出願人】(503052483)有限会社山田エビデンスリサーチ (4)
【Fターム(参考)】