説明

低臭の硬表面殺芽胞剤および化学除染剤

低臭の液体消毒組成物であって、混合すると低濃度の過酢酸を含む水溶液を提供する複数成分を含み、この水溶液は細菌、ウィルス、真菌および他の化学的または生物学的な汚染物質(限定されないが、ディフィシレ菌(C. diff)、スポロゲネス菌および炭疽菌、マウスパルボウィルス、ならびにマスタードガス、神経ガスおよび他の化学兵器および生物兵器が挙げられる)で汚染された物品および表面を除染するのに使用される。この消毒組成物は、TAEDまたはDAMAを含むアセチルドナーである一方の成分と過酸化水素溶液である他方の成分との2種以上の別々にパッケージされた成分をこんごうする化合させることによって、使用の直前に調製される。

【発明の詳細な説明】
【発明の概要】
【0001】
合衆国政府は、EBCB規約第W911SR-06-C-0048を受けて、本発明の一定の権利を有しうる。
【0002】
相互参照
本願は、参照によりここに全てが組み込まれる、2009年2月5日に出願された「Low Odor, Hard Surface Sporicide」と題した米国特許出願シリアル番号12/322,702の一部継続出願である。
【0003】
発明の分野
本発明は、低臭の液体除染/消毒組成物を対象としており、この組成物は、混合すると低濃度の過酢酸を含む水溶液を提供する複数成分を含み、この水溶液は細菌、ウィルス、真菌および他の化学的または生物学的な汚染物質または兵器(warfare agent)(限定されないが、ディフィシレ菌(C. diff)、スポロゲネス菌および炭疽菌、マウスパルボウィルス、ならびにマスタードガス、神経ガスおよび他の化学兵器および生物兵器が挙げられる)で汚染された物品および表面を除染するのに使用される。本発明の組成物は、2種類以上の別々にパッケージされた成分を混合することによって使用直前に調製する。
【0004】
発明の背景
近年、とりわけ、生物兵器としての炭疽菌、病院内でのC. diffの流行、および動物実験室内でのマウスパルボウィルスによる脅威のせいで、環境に配慮する殺芽胞剤への関心が高くなってきた。重要な環境市場、たとえば病院、研究室、診療所ならびに研究および製造施設では、硬表面を消毒、滅菌および除染するのに使用できる、殺芽胞効能が向上した製品に大きな関心がある。化学兵器および他の生物兵器で汚染された表面を広範な状況で清浄化および除染することにも大きな関心がある。
【0005】
C. diff芽胞への曝露に関連する院内感染は一般的な医療危機である。C. diffの感染は、多くの患者集団の生命を脅かすものであり、感染制御に最善の努力をしていても、器具、材料および表面のC. diff細菌によって生み出された芽胞での汚染は頻繁に起こる。理由の一部は、C. diff芽胞は、表面上で長期間にわたって生き残ることができ、本質的に破壊するのが難しいことにある。芽胞を根絶する入念な努力が必要であり、これは芽胞およびそれらを生み出す細菌に対する効能を有する消毒清浄化組成物の使用を必要とする。
【0006】
同様に、製薬産業において、製造工場は、細菌、ウィルス、真菌、芽胞(芽胞形成菌を含む)および他の生物学的汚染物質による汚染のせいで、数多くの製品のリコールおよびプラントの停止を経験している。製薬器具および表面を清浄化するための消毒滅菌製品の使用が増加してきている。
【0007】
生物学的物質、特に芽胞で汚染された表面の清浄化および消毒で使用される主な製品は、ほとんどが酸化性組成物、たとえば液体または粒状の次亜塩素酸塩溶液(漂白剤)、または過酸化水素系の製品、たとえばSandia国立研究所で開発されたEast Decon(登録商標)である。C. diffに特有であるが、ほとんどの医療施設での実施基準は、次亜塩素酸ナトリウムをベースとした、漂白剤としても知られている製品を使用することにある。次亜塩素酸塩系の消毒剤は、調査および疫学によってC. diffの進行中の伝染が発見される患者治療区域での表面殺菌に関して多少成功して使用されてきた。現在、EPAに登録された製品にC. diff芽胞を死滅させるのに特有のクレームを有するものはないが、次亜塩素酸塩を含有する数多くの登録製品が存在する。以下に論じるように、現在入手可能な「漂白剤」製品の使用は、芽胞の根絶における効能を達成できるが、多くの欠点を有する。
【0008】
芽胞および芽胞形成菌を根絶するために製薬産業で使用される製品は酸化性薬品に頼っており、そのうちの1種が過酸化水素である。医療施設での次亜塩素酸塩系製品の使用と同様に、製薬産業での細菌の死滅のための過酸化水素薬品の使用も多くの不利益を被る。
【0009】
多くの殺芽胞製品が市販されている。次亜塩素酸塩および過酸化水素に加え、アルコール、過酢酸(PAA)、過酢酸をアルコール、次亜塩素酸塩または過酸化物と配合したものを含有する製品、ならびに過酸素源およびアセチルドナーを利用して過酢酸および過酸化水素の両方を発生させる種々の製品が消毒剤または滅菌剤として利用可能である。これら市販製品は、部分的には有効であるものの、幾つかの不利益を有する。
【0010】
これらの製品の多くは、活性成分の高濃度のせいで、審美的および取り扱い上の不利益、たとえば刺激の強さ(酸性度またはアルカリ度)、強い臭気、ならびに皮膚および粘膜への刺激作用を有する。現在市販されているほとんどの製品は、曝露を抑えるため、それらの適用中に非常に扱いにくい個人保護器具を使用することを必要とし、それによりそれらのコストを上げる。したがって、これらの知られている除染製品の使用、保管および移動は、身体的および健康面での大きな危険と、運送、取り扱いおよび保管における物流課題とを引き起こす。
【0011】
特に芽胞に関しては、アルコール系消毒剤単独ではC. diffに対しても他の芽胞に対しても芽胞形成菌に対しても効果がない。液体過酸化水素単独では、その反応性を高めるための添加剤なしでは、芽胞に対しても他の生物学的汚染物質に対しても効果がない。
【0012】
次亜塩素酸塩漂白剤は、C. diffに対して有効であるが、上述の不利益が伴う。加えて、次亜塩素酸ナトリウムは材料適合性に乏しい。ほとんどの次亜塩素酸ナトリウム製品は本質的にアルカリ性であり、多くの材料、たとえばステンレス鋼、真鍮および銅に対して腐食性である。加えて、次亜塩素酸ナトリウムは、病院の表面で通常使用されているワックスを「剥がし取る」ことがあり、それをモップがけすることを実行不可能な選択肢にすることが分かっている。さらに、次亜塩素酸ナトリウムは、その「ストリッピング」効果に寄与しうるリンスするのが難しい残留物が付随する。結局、次亜塩素酸ナトリウムは、所定の生体に対する中程度の効能のみを示す。それは有機土壌負荷の存在下で迅速に劣化し、それにより、その効能に負の影響を与える。
【0013】
取り扱いの規制を検討する必要もある。酸化性化学薬品、たとえば漂白剤および過酸化水素組成物は、特別な取り扱い規制を必要とする刺激の強い化学薬品であることも知られている。濃度に応じて、過酸化水素は厳重な取り扱いの制約を受けることがある。強い臭気および吸引刺激作用に関する問題も付随することがある。労働安全衛生局の許容曝露制限(PEL)は、過酸化水素について1ppmである。一成分として過酸化水素を含有する幾つかの混合製品は、過酸化水素の濃度に基づく空輸制約をいまだに受けることがある。ほとんどの場合、これらの製品は、陸路または海路での何れかで搬送する必要があり、必要とする場所へのそれらの到着の遅れを引き起こす。過酸化水素の空輸は可能ではあるが、量が厳しく制限され、特別なパッケージングを必要とする。
【0014】
高濃度の次亜塩素酸ナトリウムおよび過酸化水素の両方とも、金属基材に対して腐食性であり、特別な包装をパッケージングを必要とし、輸送方法が限られており、制御された輸送システムなしでは不安定である。保管も問題含みである。非常に腐食性であり熱に敏感な大量の液体の保管は安全性の問題がある。漂白剤(次亜塩素酸塩)は高温で迅速に分解し、効能の著しい損失をもたらし、そのため保管寿命が制限される。過酸化水素は高温で自発的におよび不可逆的に分解する。また、次亜塩素酸塩系および過酸化水素系材料は両方とも、不潔物またはブローイングサンドなどの環境汚染物質に曝されると迅速に分解するであろう。
【0015】
金属基材に加えて、漂白剤および過酸化水素は、多くの非金属基材、たとえば塗料、軟質金属、ゴムおよびプラスチックなどに適合しないことにさらに気付かれたい。
【0016】
同様に、過酢酸は、生物学的および化学的汚染物質の両方に対して高レベルの除染、消毒および滅菌を達成できるが、濃過酢酸溶液は腐食性であり、強酸化剤である。強酸化剤は搬送および取り扱いに費用がかかる。また、それらは、パッケージング中に加えて、使用中に顧客に対する安全面での危険を引き起こす。典型的に、液体の過酢酸は極めて不安定であり、製品パッケージにおける残りの調合物と隔離しなければならない。別々のパッケージを用いても、過酢酸を含有する製品は保管寿命が限られる傾向がある。
【0017】
固体のアセチルドナーからのその場での(in situ)過酢酸の発生は、所定の搬送、取り扱いおよび安定性の問題を解決しうる。典型的に、過酸化水素をその場で発生させる系では、過酸化物源も固体の過塩、たとえば過炭酸ナトリウムまたは過ホウ酸ナトリウムである。これらの製品はより長い保管寿命および優れた安全性プロファイルを有するが、それらはしばしば溶解させるのが厄介であり、効果のある濃度の過酢酸を発生させるのに長い時間を必要とする。これら製品の得られた溶液の典型的に高い固形分濃度のせいで、表面上にかなりの残留物が残る可能性がある。これらの残留物は表面からリンスするまたはぬぐい落とす必要がある。これは、適切なリンス水供給が容易に得られない状況および領域に遭遇しやすい化学兵器および生物兵器の除染に関して特に不都合な点である。
【0018】
最後に、ほとんどの市販されている過酸化水素および過酢酸系のもう1つの欠点は、それらが滅菌されたものとして販売できないということにある。滅菌製品を作るために、この系はガンマ線照射によって滅菌できなければならない。ガンマ線照射は清浄化組成物を滅菌するのに製薬産業において通常使用されている。ほとんどの市販されている過酢酸および過酸化水素系は、ガンマ線に曝される際に不安定であり、この方法によって滅菌できず、滅菌製品が必要な場合には追加の滅菌工程を必要とし、それらの使用に関連するコストを上げる。
【0019】
したがって、医療市場および製薬産業において、EPAに認可されたクレームを有しC.diffに対して有効な殺芽胞剤は、新たな医療および製品汚染問題に対処する必要がある。C. diff芽胞は表面上で数年間生存できる。C.diff芽胞は死滅させるのが非常に困難である。上に述べたように、殺芽胞製品は入手可能であるが、そのほとんどがとりわけ安全性、臭気、材料適合性および取り扱いの問題を有する。現在、EPAに認可された製品にC. diff芽胞に対処するものはない。多くの医療施設での現状では、C. diffで汚染されていると推定される全ての物品を清浄化するのに10%の次亜塩素酸塩溶液が使用されている。それゆえに、現在存在している製品よりも少ない臭気、優れた材料適合性、改善された安全性プロファイル、厳格でない搬送規制、ならびにあまり面倒でない取り扱いおよび保管のパラメータを有する製品の必要が存在している。
【0020】
過酢酸またはその場で過酢酸(PAA)を発生させることができる成分を含む組成物は、有効な殺芽胞剤であり、芽胞に対する効能に関して、業界標準である酸性化漂白剤とほとんど等価である。上に論じた市場(医療および製薬産業)の各々のための新たな殺芽胞系であって、芽胞および芽胞形成細菌、たとえばC.diffならびに他の細菌、ウィルスまたは真菌類に対しての予期せぬ効能を有するが、現在入手可能な製品の欠点がない系を開発した。この新たな本発明の系は、化学兵器および生物兵器に曝された表面を除染するのに優れた活性をさらに有する組成物を含む。これら本発明の系の様々な実施形態は、供給される市場の要求に応じて使用できるが、その化学の基礎は同じである:アセチルドナー、たとえばテトラアセチルエチレンジアミン(TAED)またはジアセチルメチルアミン(DAMA)を過酸化水素水と化合させることによって過加水分解させて、過酢酸を発生させる。
【0021】
過酢酸および/または過酢酸を発生させるための成分を含有する製品組成物は当技術において知られている。過酢酸は、典型的には濃または希溶液として供給されるか、またはアセチルドナーおよび過酸化物源からその場で生じる。固体の過酸素源と、水と混ぜると過酢酸(PAA)を生成するアセチルドナーとを利用する乾燥成分を含む系が存在する。(二成分型過ホウ酸塩/アセチルドナー粉末組成物を対象とした米国特許第5,350,563号を参照のこと。)乾燥製品の形態は所定の場合での用途があり、より長い保管寿命と優れた安全性プロファイルとの利点を有するが、それらは一般に室温ではPAAの遅い発生によって制限を受けるので、所定の用途ではより迅速に作用する液体製品が好ましい。乾燥した過酸素成分の使用は、アセチルドナーによる活性化(これとの混合)の前に過酸化水素を発生させるのに必要な時間のせいで不都合である。複数成分の乾燥した系に特有の欠点は、これら成分が水に非常にゆっくりと溶解するため、望まれる濃度の活性成分が後段の段階までに完全に入手可能ではないことにある。また、溶解していない成分が残って洗い流されないという追加のリスクも存在する。他方で、液体過酸化水素成分を利用する系または組成物は、アセチルドナーが固体であっても液体であっても関係なくアセチルドナーと化合すると直ぐに過酸化水素イオンを得ることができるので、遥かに早くPAAを発生させることが分かっている。
【0022】
過酢酸および過酸化水素の両方を含有する他の液体の市販製品も知られている。たとえば、Decon Labsによって製造されており「SporGon」として知られている液体製品は、7.35%の過酸化水素および0.23%の過酢酸を含んでいるが、使用時の高濃度の過酸化水素は曝露の制限を必要とする。労働安全衛生局は、個人の過酸化水素曝露量を1ppmに制限している。加えて、この製品は、滅菌を達成するのに少なくとも3時間を必要とする。もう1つの例は、Ecolabによって製造されているOxonia activaという酸性液体滅菌剤である。この製品は非常に腐食性であり、27.5%の過酸化水素濃度および5.8%の過酢酸濃度を有する。高濃度の過酸化水素は、曝露制限に加え、厳重な搬送および取り扱いの規制を必要とする。ほとんどの例において、これらの製品は、製薬産業消毒剤の好ましい滅菌法であるガンマ照射を受けることができない。
【0023】
PAAを発生させる液体系も知られている。たとえば、米国特許第6,514,509号および第7,235,253号は、親溶液と賦活剤とを使用して有機ペルオキシ酸を調製するための系であって、酸性pHを有する水性アルコール環境(少なくとも10%のアルコール)を必要とする系を対象としている。このアルコールは、その称するところでは、追加の殺菌剤として作用する。対照的に、本発明は、水性アルコール環境を利用も必要もせず、酸性のpHを維持するのに強い無機酸を利用しない。重要なことには、過酢酸は酸性ではなくアルカリ性環境で発生し、得られた生成物は過酢酸が発生すると中性pHへと迅速に変わる。追加の殺菌剤の必要はない。
【0024】
欧州特許0 598 170 B1は、漂白活性剤としてのアセチルトリエチルシトラートと混合した過酸化水素(すなわち過酸素源)に基づいた清浄化組成物である。この漂白活性剤は、異なるHLB値を有する少なくとも2種類の界面活性剤での乳化を必要とする。成分は全て混合されて、単一の液体組成物になっている。
【0025】
本発明は、アセチルドナー、アルカリ性薬剤および液体過酸化水素源を混合して、C. diff芽胞を破壊するための有効濃度の過酢酸をその場で製造することに基づいている。本発明の成分は、別々にパッケージされており、そのため組成物は活性化(成分の化合)によって「すぐ使用できる」ものであり、成分のさらなる希釈も処理も必要としない。過酢酸の発生は、液体過酸化水素の場合、過水酸化物イオンの即時利用可能性のおかげで乾燥した過酸素源を使用する製品と比較して遥かに早い。驚くべきことに、本発明の組成物は、現在入手可能な製品よりも遥かに低い濃度の過酢酸で有効である。
【0026】
本発明は、中性範囲(4−8)にあるpHを持つ殺芽胞組成物であって、高いアルカリ性または酸性の製品より容易な処分を可能にし、漂白剤と比べて、軟質金属、プラスチック、樹脂および他の材料に対してより優れた材料適合性を有する組成物を提供する。また、本発明の組成物は、現存の製品、たとえばより高い濃度の過酢酸を含有するそれよりも腐食性が低いまたは人々に対する刺激作用が小さな低臭製品ももたらし、より高い濃度のPAAおよび酸性化漂白剤の適用に必要とされる呼吸保護の必要を排除できる。それらは、検出可能な濃度の過酢酸も過酸化水素も有していない。ほとんどの市販のPAA含有製品は、過酢酸をより長い保管寿命にわたって安定にするために酢酸の使用を必要とし、臭気プロファイルを大きく高める。本発明では過酢酸をその場で発生させるので、酢酸または他のあらゆる酸の添加の必要がなく、そのため臭気プロファイルを低減させるまたはこれをなくする。
【0027】
また、本発明は、非リンスの除染であって、それにより、リンス水が容易に入手可能でない場合に有効な除染を可能にするおよび/または標準的な除染に必要とされる水の量を約50%削減する除染を提供する。これは、広範な環境において遭遇しうる化学兵器および生物兵器の除染に特に有利である。
【0028】
予期せぬことに、本発明の組成物は、追加の除染剤、消毒剤、殺生剤または殺菌剤の添加なしに広範な細菌、ウィルス、真菌および芽胞、たとえばC. diffに対して、ならびにいろいろな化学兵器および生物兵器に対して有効であり、それ故にコストが低い。有機土壌負荷の存在下であっても、過酢酸の濃度が低くても、微生物効能が示された。本系で利用される界面活性剤は、優れた清浄剤であり、有機土壌の存在下での効能を向上させる。最後に、本発明の組成物は、低濃度の過酸化水素水を含んでおり、厳重な運搬および取り扱いの規制を受けない。
【0029】
本発明の他の利点としては、過酢酸系の消毒剤の増加した保管寿命と、向上した溶解および混合時間と、増加した可使時間とが挙げられる。
【0030】
テトラアセチルエチレンジアミン(TAED)は本発明にとって好ましいアセチルドナーであるが、ジアセチルメチルアミン(DAMA)も匹敵する結果をもたらし、実際に、化学兵器および生物兵器の除染において好ましい場合がある。過酸化水素は、選択された過ヒドロキシル源である。過酸化水素は、過酸化水素、界面活性剤および芳香剤を含む組成物として、あるいはプレーンな水溶液としての何れかで使用されうる。TAEDおよび過酸化水素は両方とも現在登録されているEPA活性成分である。DAMAはEPAに登録された活性成分ではないが、室温において透明な液体の形態で入手可能であり、迅速なPAAの発生と、直ぐに透明になる、残留物の少ない最終使用溶液とを提供する。
【0031】
本発明の組成物には幾つかの異なる実施形態が考えられるが、それら全ては、中性のpHでの製造、低臭気、優れた材料適合性、向上した安全性プロファイルおよび高い効能という有利な性質を共有する。
【0032】
ある実施形態では、二成分系は、固体の乾燥TAED粉末賦活剤と、過酸化水素、界面活性剤および芳香剤を含む調合過酸化水素溶液とを含む。
【0033】
もう1つの実施形態では、三成分液体系は、第1の二成分型液体TAED賦活剤(別体のTAED懸濁剤と別体のアルカリ性液体溶液とを二成分として含む)と、第3の成分として、上の二成分系で使用するものと同じ調合過酸化水素とを含む。
【0034】
さらにもう1つの実施形態では、二成分液体系は、アセチルドナーを(液体の形態でまたは溶媒と混合した状態で)含有する第1の溶液と、過酸化水素水を含む第2の溶液とを含む。この実施形態では、アミンアルカリ性源を、第3の成分とすることもできるし、またはアセチルドナー部分に含めることもできる。
【0035】
全ての実施形態は、活性化(化合)によって、予期せぬ抗微生物および除染効能を有するより低い濃度の過酢酸を発生させる。
【0036】
本発明の目的は、細菌、ウィルス、真菌または他の生物学的物質、たとえば芽胞および芽胞形成菌、たとえばC. diff、ならびに化学兵器および生物兵器に対する効能を有する低臭消毒剤を提供することにある。
【0037】
本発明のさらなる目的は、安全性および取り扱いの特徴が現在入手可能な製品に優って非常に向上した低臭過酢酸溶液を提供することである。
【0038】
本発明のまたさらなる目的は、過酢酸の発生により中性範囲へと迅速に低下するアルカリ性のpH環境での過酢酸の迅速発生のための系であって、化合のあと短時間で使用可能であり、少なくとも24時間の使用寿命を有する製品をもたらす系を提供することにある。
【0039】
本発明のさらに他の目的は、有機土壌負荷の存在下であっても効能を有する過酢酸溶液を提供することにある。
【0040】
本発明のさらなる目的は、次亜塩素酸塩または他の酸化性化学薬品に代わる、C. diff芽胞を根絶するのに医療環境で使用するための有効で安全な代替物を提供することである。
【0041】
最後に、本発明の目的は、「非リンス」の過酢酸清浄剤および/または現在入手可能な通常の製品と比べて除去のためのリンス水を必要としないまたはそれを少量しか必要としない過酢酸を提供することにある。
【0042】
本発明のこれらおよび他の目的は、本明細書の説明から明らかになるであろう。
【0043】
発明の概要
本発明は、液体過酸化水素と化合したアセチルドナーからの過酢酸の発生に基づく低臭殺芽胞剤/除染剤を対象としている。過酢酸をアルカリ性環境で発生させ、最終製品は中性のpHを有し、取り扱いおよび搬送をより安全かつより容易にする。液体過酸化水素成分は、乾燥過酸素源に基づく従来の製品と比べて迅速な過酢酸の発生を可能にする。驚くべきことに、発生した低濃度の過酢酸は、高濃度の過酢酸の必要も他の消毒剤もしくは滅菌剤の添加もなしに、細菌、ウィルス、真菌および他の病原菌、たとえばC. diffなどの芽胞形成体、ならびに化学兵器または生物兵器に対して有効である。
【0044】
ある実施形態では、本発明の組成物は:
a)固体アルカリ性源と化合した固体アセチルドナーを含む固体賦活剤ブレンドと;
b)過酸化水素溶液と
を含み、
前記固体賦活剤ブレンドは、使用の直前に過酸化水素溶液と混合されて、過酢酸溶液を生成する。
【0045】
第2の実施形態では、本発明の組成物は:
a)一方の部分としてアセチルドナー分散液および他方の部分としてアルカリ性溶液を含む二成分型液体賦活剤と;
b)過酸化水素溶液と
を含み、
前記アセチルドナー分散液およびアルカリ性溶液は、使用の直前に過酸化水素溶液と混合されて、過酢酸を生成する。
【0046】
第3の実施形態では、本発明の組成物は:
a)溶媒中のアセチルドナーを含む液体と;
b)過酸化水素溶液と;
c)第3の成分としての、または過酢酸発生反応を触媒するためのアセチルドナー液体の一部としてのアルカリ性源と;
d)任意に、界面活性剤と
を含み、
前記アセチルドナーを含有する液体は、使用の直前に前記過酸化水素溶液と混合されて、過酢酸溶液を生成する。
【0047】
いくつかの実施形態では、過酸化水素溶液を、界面活性剤、芳香剤および水と調合させうる。あるいは、希過酸化水素水溶液を使用してもよい。任意に、界面活性剤をアセチルドナー成分に含ませてもよい。
【0048】
全ての実施形態において、過酸化水素は非常に少ない量、好ましくは8重量パーセントないし約10重量パーセント未満、より好ましくは3重量パーセント未満、最も好ましくは1.5重量パーセント未満で使用する。より低濃度の過酸化水素は、搬送および取り扱いの制約を避け、使用がより安全である。混合すると、過酸化水素含有量は、混合前に存在していた最初の低濃度近くを維持する。
【0049】
生成する過酢酸の濃度は、化合される賦活剤(アセチルドナー部分)および過酸化水素溶液の量に依存して変化しうる。
【0050】
図面と共に示す発明の詳細な説明を読むことで、本発明はより十分に理解されるであろうし、他の特徴および利点は明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】図1は、種々の有機負荷の存在下および2、5、10および20分の接触時間での、漂白剤の1:10水希釈液と比較した、(修正した非食品接触殺菌調査における)バッキルス・スプティーリスに対する約0.25%過酢酸の本発明の組成物の優れた殺芽胞効能を示したグラフである。
【図2】図2は、3分の接触時間での定量的キャリア試験2(QCT−2)でのC.ディフィシレ芽胞に対しての過酢酸(PAA)の濃度変化の影響を示した棒グラフである。
【図3】図3は、対C. ディフィシレ芽胞の本発明の組成物および10%漂白剤溶液への土壌負荷の影響を示した棒グラフである。
【図4】図4は、3つの濃度レベルを経時的にモニタした、ジアセチルメチルアミド、過酸化水素、および水酸化アンモニウムからの過酢酸の発生を示したグラフである。
【図5】図5は、本発明の組成物の硬表面生物学的効能を10%漂白剤と比べた棒グラフである。
【図6】図6は、本発明の組成物の生物学的効能を市販の殺芽胞剤と比べた棒グラフであり、本発明の組成物がより優れた効能を示した。
【図7】図7は、様々なタイプの芽胞に対する本発明の組成物の等価な効能を示した棒グラフである。
【0052】
発明の詳細な説明
特許を受けようとする組成物の基礎を成す一般化学は、アセチルドナー、たとえばTAEDまたはDAMAと過酸化水素とのアルカリ性のpHでの化合により発生する、抗菌効能の起源としての過酢酸である。TAEDおよび過酸化水素は両方とも、EPAによって活性成分として認められている。DAMAはそうでない。特許を受けようとする組成物は、消毒液が必要となるときまで別体となっている複数成分を利用する。混合すると、この組成物は約24時間の使用寿命を有する。典型的に、特許を受けようとする組成物は、約0.05ないし約0.25%の過酢酸溶液を発生させるが、濃度は利用するアセチルドナーの量に応じて変化しうるし、約2.5%まで及びうる。
【0053】
一成分として、本発明の組成物は、アセチルドナー、たとえばTAEDまたはDAMAを含む。典型的なアセチルドナーは、以下の式1に示す形態でありうる。
【化1】

【0054】
ここで、R1、R2およびR3は、過酢酸の発生に干渉せず、この系で酸化されず、アセチルドナーの溶解を可能にする任意の基でありうる。
【0055】
第1の実施形態では、賦活剤は固体粉末または「乾燥した」形態にある。TAEDは好ましいアセチルドナーである。固体のTAEDは、まず、活性化時の溶解を助けるために、界面活性剤または界面活性剤のブレンドでコーティングされる。TAEDをコーティングするのに使用する界面活性剤は典型的にはアニオン性であるが、特許を受けようとする組成物はアニオン性界面活性剤に限定されない。1つの有用な界面活性剤は、アルキルジフェニルオキシドジスルフォナートであり、45%の活性水溶液として名称Dowfax C10-Lで販売されている。本発明で有用な他のアニオン性界面活性剤としては、N−オレオイルサルコシナートおよびドデシルベンゼンスルホン酸が挙げられる。
【0056】
界面活性剤を水溶液としてTAEDに加え、ここで、伝統的に水に不溶なTAEDを混合してスラリーにする。次に、このスラリーを乾燥させ、得られた「ケーク」を微粉砕して、界面活性剤でコーティングされたTAEDからなる粉末にする。次に、この「コーティングされた」TAEDを2種類の乾燥アルカリ性源とブレンドする。「コーティングされた」TAEDと乾燥アルカリ性源との完全なブレンドは、組成物の乾燥「賦活剤」部分を構成する。この実施形態において、粉末状のコーティングされたTAEDのためのアルカリ性源としては、炭酸ナトリウムおよび生分解性キレート剤、たとえばイミノ二コハク酸の四ナトリウム塩(商標Baypure CX 100で販売されている)が挙げられる。有利には、イミノ二コハク酸は、有機負荷の存在下でのこの系の効能を助けるキレート剤としても働く。
【0057】
使用時または使用の直前に、乾燥「賦活剤」を、過酸化水素および界面活性剤または複数種の界面活性剤のブレンドを含有する調合過酸化水素液と化合させる。液体過酸化水素の組成物は、この液体過酸化水素とTAED活性剤とを化合させると達成される過酢酸の遥かに早い発生のおかげで、乾燥した過酸化水素源または過酸素源よりも好ましい。化合された際(すなわち「活性化された」際)に、過酢酸が発生する。選択した賦活剤および過酸化水素の量に応じて、種々の濃度の過酢酸が発生しうる。活性化によって、PAAの濃度とは無関係に、製品は24時間の可使寿命(すなわち「保管」または「使用−希釈」寿命)を有するであろう。
【0058】
第2の実施形態では、アセチルドナー、すなわち「TAED賦活剤」はそれ自体が二成分型液体賦活剤系である。この液体賦活剤の一方の部分として、TAED分散液を調製する。TAEDは、懸濁剤、ならびに場合によって界面活性剤および溶媒を含む水溶液系に懸濁させる。典型的な懸濁剤としては、珪酸マグネシウムアルミニウムおよびキサンタンガムが挙げられる。液体賦活剤の第2の部分は、アルカリ性源および界面活性剤を含むアルカリ性の水溶液である。アルカリ性源は、水酸化物、アミンもしくはキレート剤、またはこれらの組み合わせでありうる。典型的な例としては、水酸化ナトリウム、モノエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール、および他のアミンが挙げられる。
【0059】
二成分型液体TAED賦活剤を利用する実施形態のために、アニオン性または非イオン性界面活性剤が使用されうる。典型的なアニオン性界面活性剤としては、N−オレオイルサルコシナート、アルキルジフェニルオキシドジスルホナート、およびドデシルベンゼンスルホン酸が挙げられる。典型的な非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラートが挙げられる。他の有用な界面活性剤は当業者に知られている。
【0060】
「二成分型液体TAED賦活剤」系の各部分は、(パッケージングによって)物理的に分離されている。使用の直前、両部分を調合過酸化水素液に添加し、それにより過酢酸が発生する。発生する過酢酸の濃度は、選択した賦活剤および過酸化水素の選択した量に依存する。さらに、この製品は、活性化すると、24時間の可使寿命を有するであろう。
【0061】
第1および第2の両方の実施形態では、「賦活剤」部分(第1の実施形態におけるコーティングされた乾燥TAEDまたは第2の実施形態における二成分型液体TAED/アルカリ性溶液)を、使用中の製品の湿潤と活性化による発泡プロファイルを制御することとの両方を助けるために界面活性剤を含有する特別に調合した液体過酸化水素溶液と混合する。過酸化水素溶液にとって有用な界面活性剤は、実際には、アニオン性、非イオン性または両性でありうる。典型例は、ラウリル硫酸ナトリウム、オクチル硫酸ナトリウム、Dowfax C10-L、およびPluronic F-127である。他の有用な界面活性剤は当業者に知られている。通常、非発泡性または低発泡性の界面活性剤が好ましい。過酸化水素溶液は、良い香りを与えるために芳香剤をさらに含有してもよい。組成物中の過酸化水素の量は10%ほどでありうるが、最適な場合には、それは約8%未満であるが0.1%を超え、最も好ましくは5%未満であるが0.50%を超える。
【0062】
過酸化水素溶液のpHは約4.5であり、本発明の組成物のpHは中性(4−8)である。
【0063】
第3の実施形態では、TAEDが有効であることが分かっていたが、DAMAが好ましいアセチルドナーである。DAMA、任意の界面活性剤および溶媒を含む第1の部分を別の溶液として調製する。この第1の部分を使用時に過酸化水素液と混合する。アミンアルカリ性源を、第3の成分として、またはアセチルドナー(第1の)溶液中に含めて添加する。液体DAMAを使用する場合には、溶媒を省略できる。
【0064】
これらの成分は、別々にパッケージされ、使用直前に消費者によって混合される。混合の結果は、以下の式2で示す反応スキームにしたがう過酢酸のその場での迅速な発生である。
【化2】

【0065】
溶媒および界面活性剤は、使用する場合、硬表面上の湿潤剤および清浄剤として働く。溶媒は、化学兵器の分解を助けもするし、表面からの蒸発速度を高めもする。前記反応によって得られる過酢酸は、表面を迅速に消毒および除染できる。表面への適用後、この溶液は残留物をほとんど残さずに表面から蒸発し、リンスする必要がない。
【0066】
本発明の組成物において有用な他の知られているアセチルドナーとしては、アスピリン(アセチルサリチル酸)、n−メチルジアセトアミド、およびトリアセチンが挙げられうるが、TAEDおよびDAMAが好ましい。
【0067】
TAEDは、第1の実施形態の乾燥賦活剤部分に、乾燥賦活剤成分の重量に基づいて約40ないし約75重量パーセントに範囲にある量で存在する。TAEDは、第2の実施形態のTAED分散液部分(賦活剤)に、TAED分散液の重量に基づいて約30ないし約40重量パーセントの範囲にある量で存在する。一般に、1モルのTAEDが2モルの過酢酸を発生させるが、過酢酸の濃度は化合される賦活剤および過酸化水素の量に依存するであろう。
【0068】
DAMAは、第3の実施形態のアセチルドナー部分に、化合される成分(部分)、すなわち使用する希釈溶液の総重量に基づいて、約0.5ないし約10重量パーセントの範囲内にある量で存在する。
【0069】
本発明において有用な界面活性剤としては、アルキルジフェニルオキシドジスルフォナート(Dowfax C10-L)、N−オレオイルサルコシナート、ドデシルベンゼンスルホン酸、ナトリウムラウリルサルコシナートおよびTergitol L-62(エチレンオキシド/プロピレンオキシドコポリマー)が挙げられる。
【0070】
混合中に過剰な泡を生じさせる傾向を有する界面活性剤は、発泡を抑える界面活性剤よりも好ましくない。界面活性剤は、化学薬品のための除染プロセスにおいて重要であり、これはそれらが負の効果なしに化学薬品の望まれる溶解性を達成するからである。また、界面活性剤は、湿潤特徴を向上させ、表面の残留物の出現を抑えることができる。
【0071】
界面活性剤は、第1の実施形態の「乾燥賦活剤部分」に、この乾燥賦活剤部分の重量に基づいて約5ないし約20重量パーセントの範囲内にある量で存在する。
【0072】
界面活性剤は、第2の実施形態の二成分型液体賦活剤のTAED分散液部分に、TAED分散液の重量に基づいて、約0.5ないし約5重量%の範囲内にある量で存在する。界面活性剤は、二成分型賦活性剤系のアルカリ性溶液部分に、このアルカリ性溶液の重量に基づいて約0ないし約10重量%の範囲内にある量で存在する。
【0073】
任意の界面活性剤は、第3の実施形態において存在している場合、化合される成分(部分)、すなわち使用する希釈溶液の総重量に基づいて約0.03ないし約5重量%の量の範囲にある。
【0074】
結局、界面活性剤は、調合過酸化水素溶液に、この調合過酸化水素溶液の総重量に基づいて約0.01ないし約2重量パーセントの範囲内にある量で存在しうる。
【0075】
特許を受けようとする組成物では種々のアルカリ性源およびバッファも使用する。「乾燥」TAED賦活剤のための例示的なアルカリ性源としては、炭酸ナトリウムが挙げられる。グリコール酸はTAED分散液用のバッファの一例である。バッファは当業者に知られているので、これらの例は限定されることを意図されない。イミノ二コハク酸誘導体も、乾燥TAED賦活剤および二成分型液体TAED/アルカリ性溶液賦活剤の両方におけるアルカリ剤としても有用であり、キレート剤としても機能する。2−アミノ−2−メチル−1プロパノール(AMP95)も有用なアルカリ性源および溶媒として役立つ。
【0076】
DAMAをベースとした系のためのアルカリ性源は好ましくは一級、二級または三級のアミンを含む。アミン系のアルカリ性源は、過酢酸発生反応を触媒するように働く。アミンについての要件は、この反応およびこの系での溶解性を触媒するのに十分に高いpKaである。また、選択したアミンは、容易に酸化されるべきでないし、過酢酸の発生を阻害するまたは発生後に過酢酸を分解する基を含有すべきでない。例示的なアミンを以下に列挙する。揮発性アミンが、「非リンス」組成物を得るのに最も好ましい。アルカリ性源は、アセチルドナーおよび溶媒部分に含めることができるし、または別体の第3の成分とすることができる。
【表1】

【0077】
生分解性キレート剤もアルカリ性源として有用であり、これとしては、たとえば例として、イミノ二コハク酸の四ナトリウム塩が挙げられる。イミノ二コハク酸誘導体が好ましいが、他の有用なキレート剤としては、メチルグリシン二酢酸(MGDA)およびエチレンジアミン四酢酸(EDTA)二ナトリウムが挙げられる。
【0078】
本発明の組成物では溶媒も使用される。二成分型液体賦活剤系のTAED分散液部分のための有用な例示的溶媒としては、PPG-2メチルエーテルおよびAMP-95(2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール)が挙げられる。DAMAの場合に有用な他の溶媒としては、イソプロパノール、乳酸エチルおよびTergitol L-62(界面活性剤としても有用である)が挙げられる。あるいは、DAMA系組成物は、液体DAMAを使用するのであれば、溶媒を省略してもよい。
【0079】
TAED分散液は、懸濁剤、たとえば珪酸マグネシウムアルミニウムまたはキサンタンガムを典型的に含むが、当業者に知られている他の懸濁剤を使用してもよい。
【0080】
全ての実施形態は、補助剤、たとえば芳香剤、染料、顔料または防腐剤をさらに含む場合がある。
【0081】
以下の表Iは、第1の実施形態の成分についての範囲を示す例示的な組成物を示している。
【表2】

【0082】
以下の表IIは、第2の実施形態の成分についての範囲を示す例示的な組成物を示している。
【表3】

【0083】
論じたように、発生する過酢酸の濃度レベルは、どのくらいの量のTAED賦活剤が過酸化水素組成物へ添加されるかに依存して変化する。述べたように、1モルのTAEDが2モルの過酢酸を発生させる。一般に、賦活剤を、過酸化水素が過剰となるような量で添加する。
【0084】
例えば、第1の実施形態では、乾燥TAED賦活剤と調合過酸化水素とを以下の比:0.5−1.5wt/wtの乾燥賦活剤対98.5−99.5%の調合過酸化水素溶液で化合させる。この化合は約0.25%の過酢酸を産出する。第2の実施形態の一例として、TAED分散液およびアルカリ性溶液と調合過酸化水素とを以下の比:1−2wt/wtのTAED・分散液;1−2wt/wtのアルカリ性溶液および96−98%の調合過酸化水素溶液で化合させる。この化合も約0.25%の過酢酸を産出する。
【0085】
以下の表III、表IVおよび表Vは、DAMAをアセチルドナー源として含む、生物兵器および化学兵器試験のための第3の実施形態についての例示的な組成物を示している。表VIは、DAMAをアセチルドナーとして使用して種々の濃度の過酢酸を発生させるための例示的な組成物を示している。達成される過酢酸の濃度は、以下の表VIに示すように、溶液中のDAMAの濃度に正比例する。この混合物は理論的に計算して約80%である濃度の過酢酸を一貫して生成する。図4は、DAMA、過酸化水素および水酸化アンモニウムを含む除染製品で求まると予想される3つの濃度の過酢酸(2,500ppm、5,000ppm、および10,000ppm)でこのことを示している。
【表4】

【表5】

【表6】

【0086】
本発明の組成物は広範な使用用途を持つ。本発明の組成物は、床、カウンタートップおよび病院または他の医療施設の他の高接触領域を清浄化するための消毒剤/滅菌剤として有用である。また、それらは、種々の硬表面および製薬工場内の設備、たとえばカウンター、床、クリーンルーム、実験室および動物施設の硬表面を清浄化するのにも有用である。
【0087】

例1−効能
二成分型液体賦活剤/調合過酸化水素系の修正した非食品接触殺菌調査(NFCS)における殺芽胞効能を図1に示す。結果から、約0.25%の過酢酸を発生させた本発明の組成物は、既知の芽胞生成体であるバッキルス・スブティーリスに対して、種々の有機負荷の存在下および接触時間を変えても、漂白剤(1:10水希釈液)より優れていたことが分かる。バッキルス・スブティーリス、ATCC 19659は、芽胞形成菌、たとえばとりわけ炭疽菌の代理菌として有用である。
【0088】
例2−効能
定量的キャリア試験2(QCT−2)法を使用して、C.diff芽胞に対する本発明の組成物の殺芽胞効能を試験した。以下に示す種々の濃度および混合状態にある以下の表VIIに示した本発明の組成物を試験した。
【表7】

【0089】
希釈液:
0.050%の過酢酸を発生させるために、0.225グラムの乾燥TAED賦活剤を200mLの調合した過酸化水素へ添加した。
0.075%の過酢酸を発生させるために、0.337グラムの乾燥TAED賦活剤を200mLの調合過酸化水素へ添加した。
0.100%の過酢酸を発生させるために、0.449グラムの乾燥TAED賦活剤を200mLの調合過酸化水素へ添加した。
0.125%の過酢酸を発生させるために、0.562グラムの乾燥TAED賦活剤を200mLの調合過酸化水素へ添加した。
0.150%の過酢酸を発生させるために、0.674グラムの乾燥TAED賦活剤を200mLの調合した過酸化水素へ添加した。
0.175%の過酢酸を発生させるために、0.786グラムの乾燥TAED賦活剤を200mLの調合した過酸化水素へ添加した。
0.200%の過酢酸を発生させるために、0.898グラムの乾燥TAED賦活剤を200mLの調合した過酸化水素へ添加した。
0.250%の過酢酸を発生させるために、1.123グラムの乾燥TAED賦活剤を200mLの調合した過酸化水素へ添加した。
【0090】
種々の使用濃度での粉末賦活剤/調合液体過酸化水素の系から発生したPAAを図2に示す。図2は、PAAの濃度を変化させた場合での3分の接触時間での平均対数減少(cfu/キャリア)を示している。結果は、過酢酸の濃度が0.075%より大きく接触時間が3分間である場合のC.diffに対する優れた活性を示す。効能は5より大きな対数減少によって証明された。
【0091】
例3−土壌負荷の影響
QCT−2試験を使用して、有機土壌負荷の平均対数減少への影響も評価した。使用した組成物を以下の表VIIIに示す。
【表8】

【0092】
粉末賦活剤/調合液体過酸化水素の系のC. diff芽胞に対する殺芽胞効能は、土壌負荷の存在によって悪影響を受けなかった。図3から分かるように、10%の漂白剤溶液のC. diff芽胞に対する殺芽胞効能は大きく悪影響を受けたが、本発明の組成物に対する土壌負荷の影響は極小さかった。
【0093】
例4−DAMA組成物の芽胞に対する効果
上の表IIIに示した例の組成物を、細菌芽胞で汚染された物質の除染におけるそれらの有効性について評価した。この組成物は殺細菌/殺真菌に非常に有効であることが知られている過酢酸を生成した。
【0094】
特に、組成物Aのバッキルス・スブティーリス芽胞を死滅させる能力をスポロゲネス菌と比べた調査を行った(図7)。この組成物(表IIIを参照のこと)は、両方の種の芽胞を死滅させるのに極めて有効であることが分かった。
【0095】
例5−DAMA組成物の化学薬品に対する効果
過酢酸は、マスタード(HD)、神経ガス(VX)およびソーマン(GD)化学兵器用の既知の除染剤である。本発明の組成物E−I(表IV)をこれらの兵器に対して使用した結果を表IXに示す。これら組成物を、50:1の除染剤対兵器の比で反応させた。反応の進行を15分毎にチェックして報告した。組成物1におけるpH変更剤の添加によって、ソーマン(GD)活性を高めることができた。
【表9】

【0096】
例6−比較調査
効能を10%の家庭用漂白剤(0.5%の活性成分)と比較するために、硬表面生物学的効能試験を陶器ペニシリンダーで行った。組成物D(表III)は漂白剤と少なくとも同程度に有効であることがわかった(図5)。
【0097】
幾つかの組成物を、細菌芽胞を死滅させるそれらの能力について試験し、現在市販されている殺芽胞剤と比較した(図6)。懸濁剤調査を使用して、組成物A、BおよびC(表IIIから)をSpor-Klenzという直ぐ使用できるタイプのコールド滅菌剤と比較した。Spor-Klenzは、STERIS社の製品であり、現在この市場で最も有効な殺芽胞剤のうちの1つである。本発明の組成物の全ては、30秒でB.スブティーリスの6.5の対数減少を示すことができることが分かり、Spor-Klenzに比べて優れた結果をもたらした。
【0098】
特許法にしたがって、最良の形態と好ましい実施形態を述べてきたが、本発明の範囲はこれらに限定されず、むしろ添付の特許請求の範囲によって限定される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺芽胞能力を有する低臭液体消毒/除染組成物であって:
a.溶媒中のアセチルドナーを含む液体と;
b.過酸化水素溶液と;
c.アミンアルカリ性源と;
d.任意に、前記液体アセチルドナー部分に含まれる界面活性剤と;
e.水と
を含み、前記液体アセチルドナー、過酸化水素溶液およびアルカリ性源は、使用の直前に混合されて、過酢酸溶液を生成する組成物。
【請求項2】
前記アルカリ性源は、水酸化物、一級、二級もしくは三級アミン、またはこれらの組み合わせを含む請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記アルカリ性源は、無水アンモニア、水酸化アンモニウム、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、2−(メチルアミノ)エタノール、R−(−)−2−アミノ−1−ブタノール、2(tert−ブチルアミノ)エタノール、もしくは2−(2−アミノエチルアミノ)エタノール、またはこれらの組み合わせを含む請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記アセチルドナーはDAMAを含む請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
前記界面活性剤は、n−オレオイルサルコシナート、アルキルジフェニルオキシドジスルホナート、もしくはドデシルベンゼンスルホン酸、またはこれらの組み合わせを含む請求項1に記載の組成物。
【請求項6】
非イオン性界面活性剤はポリオキシエチレンソルビタンモノラウラートを含む請求項1に記載の組成物。
【請求項7】
前記溶媒は、イソプロパノール、乳酸エチル、エチレンオキシド/プロピレンオキシドコポリマー、またはこれらの組み合わせを含む請求項1に記載の組成物。
【請求項8】
バッファをさらに含む請求項1に記載の組成物。
【請求項9】
過酸化水素の濃度は約3ないし約10パーセントの範囲内の量にある請求項1に記載の組成物。
【請求項10】
低臭液体除染組成物であって:
a.溶媒中のジアセチルメチルアミン(DAMA)と;
b.アミンと;
c.過酸化水素水溶液と;
d.水と
を含む組成物。
【請求項11】
前記溶媒は、イソプロパノール、乳酸エチル、エチレンオキシド/プロピレンオキシドコポリマー、またはこれらの組み合わせである請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記アミンは、水酸化アンモニウム、エタノールアミン、2−(メチルアミノ)エタノール、R−(−)−2−アミノ−1−ブタノール、または2−(tert−ブチルアミノ)エタノールである請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
低臭液体除染組成物であって:
a.成分の総重量の約0.5ないし約10重量%の範囲にある量で存在するジアセチルメチルアミン(DAMA)と;
b.成分の総重量の約0.01ないし約1重量%の範囲にある量で存在する水酸化アンモニウムと;
c.イソプロパノール、酢酸エチルまたはエチレンオキシド/プロピレンオキシドコポリマーをさらに含み、成分の総重量の約0.3ないし約30重量%の範囲にある量で存在する溶媒と;
d.水と
を含む組成物。
【請求項14】
溶媒が存在していない請求項13に記載の組成物。
【請求項15】
殺芽胞能力を有する低臭液体消毒組成物であって:
a.少なくとも2種の固体アルカリ性源と配合した固体アセチルドナーと;
b.過酸化水素溶液と
を含み、前記アセチルドナーおよびアルカリ性源は、使用の直前に前記過酸化水素溶液に混合されて、過酢酸溶液を生成する組成物。
【請求項16】
前記アセチルドナーはテトラアセチルエチレンジアミン(TAED)を含み、前記アルカリ性源は、炭酸ナトリウム、イミノ二コハク酸、またはこれらの組み合わせを含む請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記TAEDは、前記アルカリ性源と配合される前、アニオン性界面活性剤で先にコーティングされている請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記アニオン性界面活性剤はアルキルジフェニルオキシドジスルフォナートを含む請求項17に記載の組成物。
【請求項19】
芳香剤、界面活性剤、キレート剤、またはこれらの組み合わせをさらに含む請求項15に記載の組成物。
【請求項20】
水素溶液は10重量%未満の過酸化水素を含む請求項15に記載の組成物。
【請求項21】
前記過酸化水素溶液は8重量%未満の過酸化水素を含む請求項15に記載の組成物。
【請求項22】
低臭液体消毒組成物であって:
a.液体アセチルドナーおよび液体アルカリ性源をさらに含む二成分型賦活剤系と;
b.過酸化水素溶液と
を含み、前記アセチルドナー、アルカリ性源および過酸化水素溶液は、使用の直前に混合されて、過酢酸溶液を生成する組成物。
【請求項23】
前記液体アセチルドナーは、水性媒体中の前記アセチルドナーの分散液を作るための懸濁剤をさらに含む請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
前記懸濁剤は珪酸マグネシウムアルミニウムまたはキサンタンガムを含む請求項23に記載の組成物。
【請求項25】
前記アルカリ性源は、水酸化物、アミンもしくはキレート剤、またはこれらの組み合わせを含む請求項22に記載の組成物。
【請求項26】
前記アルカリ性源は、水酸化ナトリウム、モノエタノールアミン、もしくは2−アミノ−2−メチル−1プロパノール、またはこれらの組み合わせを含む請求項22に記載の組成物。
【請求項27】
前記二成分型賦活剤系は、アニオン性もしくは非アニオン性界面活性剤、またはこれらの組み合わせをさらに含む請求項22に記載の組成物。
【請求項28】
前記アニオン性界面活性剤は、n−オレオイルサルコシナート、アルキルジフェニルオキシドジスルホナート、もしくはドデシルベンゼンスルホン酸、またはこれらの組み合わせをさらに含む請求項27に記載の組成物。
【請求項29】
前記非イオン性界面活性剤はポリオキシエチレンソルビタンモノラウラートを含む請求項27に記載の組成物。
【請求項30】
前記二成分型賦活剤系は溶媒をさらに含む請求項22に記載の組成物。
【請求項31】
前記溶媒はポリプロピレングリコールメチルエーテルを含む請求項30に記載の組成物。
【請求項32】
前記二成分型賦活剤系はバッファをさらに含む請求項22に記載の組成物。
【請求項33】
前記過酸化水素溶液はアニオン性、非イオン性または両性界面活性剤をさらに含む請求項22に記載の組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2012−516930(P2012−516930A)
【公表日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−549162(P2011−549162)
【出願日】平成22年2月5日(2010.2.5)
【国際出願番号】PCT/US2010/000332
【国際公開番号】WO2011/008225
【国際公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【出願人】(302044247)アメリカン ステリライザー カンパニー (24)
【Fターム(参考)】