説明

低融点ガラス組成物

【課題】 低融点無鉛のガラス組成物であって、PDP等のFPDの背面基板に形成される誘電体層及び隔壁の形成素材として有用なガラス組成物を提供する。
【解決手段】 無鉛低融点ガラス組成物であって、その組成が重量%で、P2O5 5%以上〜20%未満、Al2O35〜15%、B2O3 15〜25%、SiO2 0〜10%、ZnO 10〜40%、MgO、CaO、SrO及びBaOからなる群から選ばれる少なくとも1種0〜40%、Li2O、Na2O及びK2Oからなる群から選ばれる少なくとも1種0〜5%、F2 0〜3%、La2O30〜5%及びV2O5 0〜5%であることを特徴とするP2O5-ZnO-B2O3系低融点ガラス組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、P2O5系無鉛低融点ガラス組成物、特にプラズマディスプレイパネル(以下、「PDP」という)を初めとするフラットパネルディスプレイ、以下「FPD」という)の背面板上に形成される誘電体層及び隔壁の素材として適する上記ガラス組成物、及び該組成物を利用してPDPなどのFPDの背面板を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
テレビジョン、コンピューター等のFPDとしては、PDPを初めとして、液晶ディスプレイ、FED(Field Emission Display)、無機EL(Inorganic Electro Luminescence)などが知られている。このFPDの分野においては、その大型化、薄型化、軽量化の特徴から、特に、PDPが次世代のディスプレイとして注目されてきている。該PDPは、2枚の基板ガラス間に、隔壁にて仕切られた多数のセル(微小放電空間)を形成させ、各セル内表面に蛍光体を配し、該セル中に放電ガスを充填した構造を有しており、上記セル内の電極間放電によって放電ガスを励起し、その際、発する紫外線により基底状態にある蛍光体を発光させて画素を形成するものである。
【0003】
通常AC型PDPは、その前面ガラス基板の片面(背面基板と向き合う面)に表示電極である透明電極及びバス電極と、これを被覆する誘電体ガラス層と保護層とを設け、また背面ガラス基板の片面(前面基板と向き合う面)に、上記電極と直交するように複数のアドレス電極を形成し、該電極部分を含む基板上面全面を誘電体ガラス層で被覆し、非電極部分に相当する上記誘電体ガラス層上に、形成されるセル間でのクロストークを防止するための隔壁を設置し、最終的に該隔壁の側面及び底面に蛍光体を配置して製造されている。
【0004】
上記PDPを初めとする各種FPDの誘電体ガラス層や隔壁等の各要素の形成には、専ら低融点のガラスが粉末形態で用いられている。即ち、このような低融点ガラス粉末を通常500〜600℃程度の温度で焼成メルトして一体化させることによって、誘電体層、隔壁等の各要素を形成させている。該ガラス粉末としては、所望の低融点特性を満足し、しかもガラス特性を幅広く選択できることから、鉛を含有するPbO-SiO2-B2O3系ガラス粉末が汎用されてきた。
【0005】
しかるに、上記鉛を含有するガラス材料は、この種各要素の形成用ガラスとしては優れた性質を有するものであったが、昨今の環境問題を考慮すると、有害な鉛成分を多量に含む点より、その利用は好ましくなく、回避すべきものである。また、このガラス材料の利用時には、電極とガラス中の鉛成分との接触による不具合が発生するおそれがある。更に、例えばサンドブラスト法による隔壁形成は、一般に、基板上全面にガラスペーストを塗布し、乾燥し、その後ブラスト処理により上記ガラスのおよそ60%をブラスト材と共に廃棄することにより実施されているが、このような隔壁形成に鉛を含有する上記ガラス材料を利用することは、大量の鉛の廃棄処理が必要であることを意味しており、この面でも決して好ましいものではない。
【0006】
従って、FPD業界においては、上記鉛を含有するガラスに代替できる鉛成分を含まない低融点ガラスの開発が要望されており、この要望に合わせて、種々の鉛不含ガラス(無鉛ガラス)、例えばP2O5系ガラス、ZnO-BaO系ガラス、Bi2O3-SiO2系ガラス、BaO-B2O3-Al2O3系ガラス、SiO2-Al2O3-B2O3系ガラス等が提案されている。
【0007】
しかしながら、これらの提案された各ガラスはいずれも尚、この種FPDの各要素に要求される性能を充分に満足するものではなく、いまだ鉛を含有するPbO-SiO2-B2O3系ガラスに匹敵する性能を奏し得る無鉛ガラスは開発されていない。
【0008】
特に、P2O5系ガラスは、無鉛の低融点ガラスとして注目され、これまでにも多くが提案されている。例えば、特許文献1では、SnO 30-70モル%、B2O3 5-30モル%、P2O5 24.1-45モル%(34.2-63.9wt%)の組成を有するホウリン酸スズ(SnO-B2O3-P2O5)系ガラスが、特許文献2では、P2O5 25-50モル%、SnO 2-35モル%、ZnO 2.1-40モル%を主成分とする無鉛低融点ガラス(P2O5-SnO-ZnO系ガラス)が、また、特許文献3では、P2O5 35-60wt%、B2O 35超過-40wt%を主成分とするホウリン酸(P2O5-B2O3)系ガラスが提案されている。
【0009】
しかしながら、これらは何れもガラス化のために多量のP2O5を必要とし、またSnOなどを併用するものであり、これらに基づいて、ガラス自体の耐水性が悪いという重大な欠点がある。しかも、該ガラスをペースト化して施工後、乾燥、焼成すると、得られるガラス層は着色するという欠点も有している。
【0010】
尚、本願人らも、以前から、鉛不含のこの種ガラス組成物につき鋭意研究を重ねてきており、既にP2O5 20-40wt%を含む特定組成のP2O5系ガラス組成物(特許文献4参照)を研究、開発している。このものは、PDP背面ガラス基板上に形成させる誘電体層と隔壁との両者に適したガラス組成物であって、昨今のPDPの背面板における要望、特に各要素(電極、誘電体、隔壁など)をできるだけ一括焼成して、工程数を減少し、ひいてはコスト低減をはかる要望、に合致するものである。
【特許文献1】特開2000-169183号公報
【特許文献2】特開2001-302279号公報
【特許文献3】特開2001-261368号公報
【特許文献4】特開2001-31446号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、従来汎用されてきた鉛を含むガラス組成物に代わって、毒性が問題とならず、しかも該鉛系ガラスと同等もしくはこれをも凌ぐ特性を発揮し得る新しい鉛不含の低融点ガラス組成物、及びこれを利用したPDP背面基板等のFPDの製造技術(誘電体層及び隔壁の形成法)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は上記目的より鋭意研究を重ねる過程において、上記PDPを初めとするFPDの各要素(部材)用のガラスに要求される性能として次のものを掲げ、かかる要求性能を満足するガラス組成について、更に引き続き検討を行なった。
(1)軟化温度が600℃以下であること、
(2)線熱膨張係数(ガラス単体)が75〜85×10-7/℃の範囲であること、
(3)鉛、ビスマス等の有害物質をガラス成分として含有しないこと、
(4)誘電率が10以下であること、
(5)耐電圧が1kV以上であること、
(6)耐水性、耐アルカリ性等の耐薬品性に優れること。
(7)焼成膜が緻密であること。
【0013】
その結果、上記要求性能を満たし、特に、低P2O5含量でガラス化でき、それ故、優れた耐水性を有し、しかも焼成後の着色の問題も解決でき、前記目的に合致するP2O5系ガラス組成を見出した。本発明は、この知見を基礎として更に研究を重ねた結果完成されたものである。
【0014】
本発明は、下記項1〜4に記載のガラス組成物及び項5及び6に示すFPD背面板の製造方法を提供する。
【0015】
項1. 無鉛低融点ガラス組成物であって、その組成が重量%で、P2O5 5%以上〜20%未満、Al2O3 5〜15%、B2O3 15〜25%、SiO2 0〜10%、ZnO 10〜40%、MgO、CaO、SrO及びBaOからなる群から選ばれる少なくとも1種0〜40%、Li2O、Na2O及びK2Oからなる群から選ばれる少なくとも1種0〜5%、F2 0〜3%、La2O30〜5%及びV2O5 0〜5%であることを特徴とするP2O5-ZnO-B2O3系低融点ガラス組成物。
【0016】
項2. ガラス組成物中のP2O5 /Al2O3重量比が4以下である項1に記載のガラス組成物。
【0017】
項3. 項1又は2に記載のガラス組成物60〜100重量%と無機顔料及び/又は無機フィラー0〜40重量%とからなる、FPD背面板上に設けられたアドレス電極を被覆するための、誘電体層用ガラス組成物。
【0018】
項4. 項1又は2に記載のガラス組成物60〜100重量%と無機顔料及び/又は無機フィラー0〜40重量%とからなる、FPD背面板上に設けられる隔壁を形成するための、隔壁用ガラス組成物。
【0019】
項5. FPD背面板を製造する方法であって、パターン化したアドレス電極を設けた背面基板上に、項3に記載の誘電体層用ガラス組成物を施工する工程と、項4に記載の隔壁用ガラス組成物を施工する工程とを含み、更に施工された両ガラス組成物を焼成する工程を含むことを特徴とするFPDの背面板の製造方法。
【0020】
項6. 両ガラス組成物を焼成する工程が、同時に行われる項5に記載のFPDの背面板の製造方法。
【0021】
尚、本明細書におけるF2成分の含有量の表示は、原料フッ素化合物由来のガラス成分をF2に換算して表示するものとする。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係わるガラス組成物は、上記構成としたことに基づいて、前記した要求性能を満足する。即ち、該組成物は、600℃以下の低温で基板ガラスに焼き付けることができ、所望の低熱膨張係数、誘電率、耐電圧、耐水性、耐アルカリ性等を有するガラス皮膜を形成できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明に係わる低融点無鉛ガラス組成物につき詳述する。
【0024】
本発明ガラス組成物
本発明ガラス組成物は上記特定の組成(重量%、以下単に「%」と表示する)を有することを特徴とする。本発明ガラス組成物における各成分は、次の通りである。
【0025】
(1) P2O5
P2O5成分は、本発明ガラス組成物におけるガラスの骨格形成成分であり、得られるガラスの耐薬品性向上、熱特性制御のための必須成分である。このものは、5%以上、20%未満、好ましくは10-15%の範囲で配合される。含有量が20%以上の場合、得られるガラスを焼成後にガラスが着色する傾向がある。また、本発明ガラス組成物を用いて隔壁を形成させる場合、稀に得られる隔壁が焼成後に蛇行する場合がある。5%未満ではガラスが安定し難くなる。
【0026】
(2) Al2O3
Al2O3成分は、ガラスの分相を制御し、ガラスの軟化点、熱膨張係数を制御するための必須成分であり、5〜15%、好ましくは5〜10%の範囲内で配合される。またこれは耐薬品性を向上させる効果も奏し得る。これが5%未満では、耐水性、耐薬品性を低下させ、水中へのアルカリ成分の溶出を助長する不利がある。15%を越える配合では、ガラスの軟化点が600℃を超える不利がある。
【0027】
上記P2O5成分とAl2O3成分との配合重量比は、P2O5/Al2O3が1〜4の範囲にあるのが望ましい。この範囲内の重量比を満たす場合には、得られるガラスの軟化点、耐薬品性、熱膨張係数等を適切なものとすることができる。好ましい配合重量比は、P2O5/Al2O3が3以下、より好ましくは1〜2の範囲である。
【0028】
(3) B2O3
B2O3成分はガラスの骨格形成成分であり、ガラスの安定化、線膨張係数の調整のために必須で、15〜25%、好ましくは20〜25%の範囲で配合される。15%未満ではガラスが安定し難く、線膨張係数も高くなってしまう。25%を超えるとガラスの軟化温度が高くなりすぎ、また得られるガラスの耐水性が低下する。
【0029】
(4) SiO2
必須成分ではないが、10%までの範囲で配合することができ、この配合によってガラスの軟化点、線膨張係数を制御することができる。
【0030】
(5) ZnO
ZnO成分も、P2O5及びB2O3成分と共にガラスの骨格形成成分である。該成分は、ガラスの安定化、線膨張係数の調整のために必須であり、10〜40%、好ましくは20〜30%の範囲で配合される。10%未満では線膨張係数が高くなりすぎ、40%を超えるとガラスが不安定になる。
【0031】
(6) MgO、CaO、SrO及びBaO
これらのアルカリ土類金属酸化物は、ガラスを安定化させる効果がある。MgO、CaO、SrO及びBaOのうち少なくとも1種類、好ましくは2種以上を併用する。その配合量(2種以上を併用する場合はそれらの合計量とする。以下同じ)が40%まで、好ましくは20〜30%の範囲から選択することができる。この配合によってガラスの軟化点、線膨張係数を制御することができる。この成分の配合量が40%を超えると、ガラスの分相が起こりやすくなる、線膨張係数が高くなるなどの問題が生じる。
【0032】
(7) Li2O、Na2O及びK2O
Li2O、Na2O及びK2O成分(アルカリ成分)は、ガラスの軟化点を低下させ、ガラスの分相を抑制する効果がある。これらは、1種単独で又は2種以上で、総量が5%までの範囲で配合することができる。5%を超えると、線膨張係数が高くなるだけでなく、ガラスの結晶性が増大する。また、水での粉砕中にアルカリ溶出が起こりやすくなる。
【0033】
(8) F2
F2成分は、通常フッ化アルカリ化合物及びフッ化アルカリ土類化合物を原料として使用して本発明ガラス成分とされる。本明細書においては、便宜上、これら原料化合物をF2に換算してガラス中の含有量とする。該含有量は3%までとされ、この配合によって、ガラスの軟化点を下げ、耐水性を向上させる効果がある。あまりに多い配合では、ガラスの粘性が低くなり、失透現象を生じる不利がある。
【0034】
(9) La2O3
La2O3成分は、任意成分であり、5%までの範囲で配合され、この配合によって、得られるガラスの融着温度、耐薬品性等の微調整を行い得る。
【0035】
(10) V2O5
V2O5成分は、任意成分であり、5%までの範囲で配合され、この配合によって、得られるガラスの融着温度、耐薬品性等の微調整を行い得る。
【0036】
(11)その他
本発明ガラス組成物には、必要に応じて、前述した各成分以外の適当な他のガラス成分を含有させることもできる。この他のガラス成分及びその配合量は、得られるガラスの特性に悪影響を及ぼさないもの及び範囲から適宜選択できる。該他のガラス成分の具体例としては、例えばCeO、MoO3、SnO、WO3、Bi2O3 、SnO2、ZrO2、TiO2等を例示できる。これらは1種単独で又は2種以上混合して用いることができる。その添加配合量は、合計で3%以下であることが望ましい。これらの配合は融着温度、耐薬品性の微調整に役立つ場合がある。
【0037】
本発明ガラス組成物は、上記各ガラス成分を提供し得る公知の原料化合物を所定割合で組合せて利用することに基づいて、前記した特性、即ち、軟化温度600℃以下、線熱膨張係数75〜85×10-7、誘電率10以下、耐電圧1kV以上、良好な耐水性、耐アルカリ性等の耐薬品性等を有するのである。
【0038】
PDPを初めとするFPDの背面板の各要素を形成するに当たって、本発明ガラス組成物は粉末化される。該粉末化は常法に従って、例えば以下のようにして行うことができる。即ち、まず前記成分組成となるように、各原料化合物を混合し、得られた混合バッチを約1150〜1250℃で溶融し、融液状ガラスを水冷ロールに挟んで冷却してフレーク状ガラスを得る。このガラスフレークをボールミル等の適当な粉砕機を用いて、湿式又は乾式粉砕し、湿式粉砕の場合は、次いで得られたスラリーより液分を除去し、乾燥することにより所望のガラス粉末を調製できる。尚、湿式粉砕を水中で行なう場合は、水分を濾去して得られるケーキ状物を低温で真空乾燥するのが特に望ましい。
【0039】
かくして得られる本発明のガラス組成物の粉末は、特に限定されるわけではないが、通常約0.1〜30μmの範囲の粒度を有しているのが望ましい。かかる粒度は慣用される方法、例えば粉砕工程の条件を適宜調整することにより容易に調整できる。また上記に従い得られる粉末粒子は、更に必要に応じて分級して、適当な粒度、より好ましくは約0.5〜10μmの範囲の粒度に調整することができる。
【0040】
本発明ガラス組成物のFPDへの適用
以下、本発明ガラス組成物を用いてPDPなどのFPDの背面板上のアドレス電極を被覆する方法及びこれに利用する誘電体層用ガラス組成物につき詳述し、次いで隔壁を形成する方法及びこれに利用する隔壁形成用ガラス組成物につき詳述する。
【0041】
尚、本発明に従って得られる各要素を有するPDPの代表例の概略図を図1に示す。以下の記載においては、該図1の符号を引用する。該図に示されるPDPでは、AC型の前面ガラス基板(1)として、透明電極(2)(ITO膜)とバス電極(3)がパターニング配置され、該電極(3)が全面に亘って誘電体ガラス層(4)及び保護層(5)で被覆された基板を利用している。
【0042】
(1) アドレス電極上への誘電体ガラス層の形成
アドレス電極上への誘電体ガラス層の形成は、基本的には従来から知られている各種方法に従うことができる。
【0043】
背面基板(10)上には、一般には、例えばシリコン酸化膜のパッシベーション膜上に前面基板(1)の透明電極(2)と直交する形となるようにストライプ状のアドレス電極(8)が、厚膜銀ペースト、厚膜アルミニウムペースト、Cr-Cu-Crのスパッタ膜等により形成され、該電極を被覆するように背面板全面に誘電体ガラス層(7)が形成される。
【0044】
この誘電体ガラス層(7)は、電極間のリークを防止するための絶縁層としての役目と放電時の輝度向上のための反射板としての役目を有するものであるため、該ガラス層には、輝度向上のために適当な無機顔料や無機フィラー等が配合されるのが好ましい。これら無機顔料等の配合は、本発明ガラス組成物中にそれらの適当量を添加することにより行い得る。
【0045】
上記無機顔料としては、白色系無機顔料を例示できる。その利用によれば、放電発光時にPDPの背面を白色とすることによって光の反射を良好なものとして、PDPの輝度の向上をはかり得る。かかる白色系無機顔料としては、通常この種ガラス組成物に配合されることのよく知られている各種のもの、例えばTiO2(酸化チタン)系顔料や、ZnO(酸化亜鉛)系顔料等を例示できる。無機顔料の配合量は、得られるガラスの焼成皮膜の着色(白色化)に必要な最小限に止めるのが好ましい。それは、無機顔料自体が本来焼成時にメルトしないものであり、その添加は焼成皮膜をポーラスなものとし、耐電圧を低下させる傾向があるためである。該無機顔料の配合量は、後記する無機フィラーとの総和として、通常、本発明ガラス組成物重量の40重量%まで、より好ましくは30重量%までから選ぶことができる。
【0046】
また、本発明誘電体層用ガラス組成物中に添加配合できる無機フィラーとしては、一般に、この種誘電体ガラス層に、添加配合できることの知られている各種のもの、例えばAl2O3、SiO2、ZrO2、ZrSiO2、MgO等の焼成温度を調整するものや、β-ユークリプトタイト、β-スポジューメン、溶融シリカ、コージェライト等の得られるガラス層の熱膨張係数を微調整するためのものを挙げることができる。これらはその一種を単独で用いることもでき、また二種以上を混合して用いることもできる。それらの粒径は、一般には約0.1〜10μmの範囲から選ばれるのが好ましい。これらの無機フィラーの本発明ガラス組成物中への配合量は、該添加量が増加するにつれて得られるガラス組成物の焼成皮膜がポーラスとなり、また耐電圧が低下する傾向にあるため、必要最小量とするのが好ましい。通常は、前記無機顔料との合計量として、ガラス組成物重量の40重量%まで、好ましくは30重量%までとされるのがよい。
【0047】
更に、上記無機フィラーの他の例としては、各アドレス電極上の誘電体ガラス層に蓄積される電荷を適度にリークして誤放電を防止するための、Ni、Cr等の金属微粒子を挙げることができる。これらの配合量は、各アドレス電極間の絶縁性を損なうおそれのない範囲から適宜選択することができる。
【0048】
本発明誘電体層用ガラス組成物は、一般にはこれを有機ビヒクルと混合して適当なペースト状物として、上記アドレス電極を被覆する誘電体ガラス層の形成のために利用される。
【0049】
ここで、用いられる有機ビヒクルは、一般にこの種ガラスペーストに利用されている各種のもののいずれでもよく、通常樹脂の溶剤溶液からなっている。該樹脂としては、セルロース系樹脂及びアクリル系樹脂を好ましいものとして例示できる。該セルロース系樹脂には、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ニトロセルロース等が、アクリル系樹脂には、ポリブチルアクリレート、ポリイソブチルメタクリレート等がそれぞれ含まれる。上記樹脂は、一般には、調整されるガラスペースト中にその1種を単独で又は2種以上を併用して、合計量が0.5〜20重量%程度の範囲で配合される。また該ガラスペーストには、更に必要に応じて、通常添加配合できることの知られている添加剤、例えば沈殿防止剤、分散剤、基板ガラスとの接着性向上剤等を適宜配合することもできる。
【0050】
上記樹脂の溶剤溶液を構成する溶剤も通常知られている各種のものでよく、特に限定されない。一般には、樹脂の溶解性に優れ、粘稠性のオイルを形成し得るものが好ましい。これには中沸点及び高沸点のエステル系溶剤、エーテル系溶剤、石油系溶剤等が含まれる。具体例としては、例えばブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート等のエステル系溶剤、ブチルカルビトール等のエーテル系溶剤、ナフサ、ミネラルターペン等の石油系溶剤等を例示できる。これらは1種単独で用いてもよく、2種以上を併用することもできる。
【0051】
以下、上述したガラスペーストの調製方法とこれを用いた誘電体ガラス層の形成方法につき詳述する。この方法では、まず、前記樹脂を比較的高沸点の溶剤に溶解したオイル中に、所定量の本発明ガラス組成物を、三本ロール、ボールミル、サンドミル等の分散機で分散させて、スラリー状乃至ペースト状物のガラスペーストを調製する。次いで、このガラスペーストを、例えばドクターブレード法、ロールコート法、スクリーン印刷法、テーブルコーター、リバースコーター、スプレー法等の各種方法に従い、アドレス電極を設けた背面基板上に施工する。また、上記方法に替えて、予め、本発明ガラス組成物にてドライなグリーンシートを形成させた後、このシートを、アドレス電極を設けた背面基板上にラミネートすることもできる。
【0052】
上記の如くして背面基板上に形成されたガラス組成物を、次に、加熱炉中で約500〜600℃の温度で焼成する。かくして、所望の誘電体層を得ることができる。
【0053】
得られる誘電体層は、通常、膜厚20〜30μmとされ、この膜厚範囲で、充分な電気絶縁性及び放電特性を有する。その耐電圧は、通常1kV以上、誘電率は7.0以下である。特に、該誘電体層(ガラス層)は、鉛不含のために電極とガラスとの反応がなく、このことからも優れた誘電特性を有している。
【0054】
(2) 隔壁の形成
本発明ガラス組成物は、PDPなどのFPDの隔壁を形成させるための材料としても利用することができる。特に該ガラス組成物を構成するガラスは、鉛不含にもかかわらず、充分に良好な放電特性を有する緻密な隔壁を形成可能とする程度に軟化点が低く、しかも隔壁形成工程で用いられる各種薬品類にも充分に耐え得る優れた耐薬品性を有している。
【0055】
このような隔壁は、図1に示されるように、各アドレス電極(8)に隣接する形で、多数形成される。また、各隔壁(6)毎に、赤、青又は緑の蛍光体(9)が、アドレス電極(8)上及び該隔壁(6)の側面に形成される。
【0056】
隔壁の形成は、一般には、本発明ガラス組成物に、必要に応じて、適当な無機顔料及び/又は無機フィラーを配合して得られる隔壁材料を、例えばペースト状形態でPDP背面基板(10)上又は誘電体(7)上に、約100〜300μmの高さにパターニング施工し、これを常法に従い焼成することにより実施できる。
【0057】
本発明ガラス組成物は、PDPなどのFPDの背面基板上に単一の隔壁用層として形成させることもでき、また、2層構造の隔壁用層として形成させることもできる。例えば隔壁用ガラス層の大部分を、発光輝度を向上させるために白色顔料を配合した本発明ガラス組成物で構成し、該組成物の層の上部を、黒色顔料を配合した本発明ガラス組成物で被覆して、いわゆるブラックストライプ的な隔壁用ガラス層とすることもできる。
【0058】
上記各層に応じて、本発明隔壁用ガラス組成物には、無機顔料、例えばTiO2(酸化チタン)、ZnO(酸化亜鉛)等の白色顔料、CuO-Cr2O3、CuO-MnO-Cr2O3、Cr2O3-CoO-Fe2O3等の焼成黒色顔料等を適宜添加配合することかできる。この隔壁用組成物は、通常、ペースト状形態に調製される。該ペーストには、その焼成時に隔壁の形状保持性を向上させるために、適当な無機フィラー、例えばアルミナ、シリカ等、好ましくはアルミナの適当量を添加することができる。更に、該ペーストには、ガラス層の熱膨張係数を調整するために、β-ユークリプトタイト、β-スポジューメン、溶融シリカ、コージェライト等の無機フィラーを添加することができる。
【0059】
無機顔料及び無機フィラーの添加量は、本発明ガラス組成物(粉末)に対して、通常総量が40重量%以下となる量、好ましくは30重量%以下となる量から選ばれる。この添加量での無機顔料及び無機フィラーの利用では、焼成後に隔壁内部がポーラスとなって、放電特性や寿命に悪影響を与える弊害はない。
【0060】
本発明ガラス組成物を隔壁形成用ペーストに調製するに当たっては、該隔壁の形成方法に応じて、前記(1)の項において例示した有機ビヒクル、樹脂、溶剤及び添加剤のそれぞれが、その種類及び量を適宜選択して、同様にして使用できる。
【0061】
また、調製されるペーストは、従来から慣用されている各種の方法、例えばスクリーン印刷法により直接塗布してパターニングする方法;ドクターブレード法、ロールコート法、スクリーン印刷法、テーブルコーター、リバースコーター、スプレー法、グリーンシートの転写等により施工した後、公知の各種の方法、例えばサンドブラスト法、フォトリソ埋め込み法、ガラスペースト中の樹脂として感光性樹脂を使用するフォトリソグラフィー法、金型よりの転写法、凸部を有するロールによる加圧法等のパターニング方法に従って、隔壁形状とされる。次いで、この隔壁形状を、常法に従い約550〜600℃程度の温度で焼成することによって、所望の隔壁を得ることができる。
【0062】
かくして形成される隔壁は、緻密性、強度、収縮率、耐薬品性等において、非常に優れたものである。
【0063】
(3) 誘電体層と隔壁との同時形成
従来のPDP背面基板の製造においては、上記アドレス電極上の誘電体層と隔壁とは、それぞれ別個に、ガラス材料(ペースト)塗布施工工程と焼成工程とを採用して形成されてきたが、本発明では、同一組成のガラス材料を用いるため、両者のメルト開始の温度、熱線膨張係数、昇温-粘度曲線を容易に同一又は近似するものに調整でき、従って、両者を同時に焼成しても、隔壁の一部欠損、反り返り、密着不良、蛇行等の不具合が発生するおそれはない利点がある。本発明では、特にこの同時焼成を可能としたことに基づいて、工程を簡略化でき、コストを大幅に削減でき、且つ製品の歩留まりを向上できる利点がある。
【0064】
この同時形成方法は、前記(1)に記載の誘電体用ガラス組成物を施工後、これを焼成して誘電体層を形成するに先だって、即ち、誘電体層用ガラス組成物を施工後に、前記(2)に記載の隔壁用ガラス組成物を施工して隔壁形状を形成し、その後、これら各ガラス組成物を焼成すること(同時焼成)により実施される。焼成条件は、前述したそれと同じでよい。
【0065】
かくして、PDPを初めとするFPDの背面板を収得できる。
【0066】
更に、本発明ガラス組成物は、機械的強度、耐熱性、耐電圧性、放出ガス特性、加工性(寸法精度、成型の自由度)等に優れているので、表示伝導型電子放出素子を用いた表示パネルのスペイサーとしてや、また電界放出型電子放出素子を用いた表示パネルの陰極板上のエミッター間の絶縁層としても、有効に利用することができる。
【0067】
実施例
以下、本発明を更に詳しく説明するための実施例を挙げる。尚、例中の%はいずれも重量基準による。
【0068】
実施例1〜5
リン酸亜鉛、メタリン酸アルミニウム、アルミナ、フッ化アルミニウム、硼酸、無水硼砂、含水硼砂、硅砂、亜鉛華、炭酸バリウム、炭酸マグネシウム、炭酸カルシウム、無水水酸化バリウム、炭酸ストロンチウム、炭酸リチウム、フッ化ナトリウム、炭酸カリウム、五酸化バナジウム、酸化ランタン及び三酸化モリブデンの各原料を、溶融後に表1に示す所定のガラス組成となる量で、それぞれ混合したバッチ原料混合物を調製し、1000〜1150℃で溶融した。取り出した溶融ガラスを水冷ロールに挟んで急冷し、フレーク状のガラスを得た。
【0069】
次いで、得られたガラスをボールミル中、アルミナボールを用いて水湿式粉砕し、得られたスラリーを乾燥、篩分けし、その後分級して、粒径0.2〜10μmの本発明P2O5-ZnO-B2O3系ガラス組成物粉末を得た。
【0070】
比較例1及び2
実施例1〜5において、溶融後に得られるガラス組成が、下記表1に示されるように本発明範囲を外れるものとなるように、バッチ原料混合物を調製する以外は、同様にして、比較ガラス粉末を得た。
【0071】
下記表1に上記実施例1〜5及び比較例1及び2でそれぞれ調製したガラス粉末の組成を示す。
【0072】
【表1】

【0073】
上記で得られた本発明ガラス組成物粉末及び比較ガラス組成物粉末の下記各特性を、以下の通り試験した。
【0074】
(1) 線膨張係数
ガラス粉末試料を棒状に加工成形し、550℃にて焼成し、所定長さに切断した後、理学電気株式会社製熱機械分析装置TAS-100を用いて、50〜350℃の温度範囲で伸び率を測定算出した。
【0075】
(2) 軟化点
ガラス粉末試料を白金セル中に投入し、上記装置を用いた示差熱分析により、常温〜700℃の温度範囲で軟化点を求めた。
【0076】
(3) 誘電率
酸化膜を形成させたステンレススチール板上に、ガラス粉末試料の層を印刷、焼成して作成(30〜50μm)し、該層上に直径18mmの電極を銀ペーストにて作成し、1MHz時の誘電率を横河ヒューレットパッカード株式会社製4197Aインピーダンス/ゲインフェーズアナライザーを用いて測定、算出した。
【0077】
(4) 耐電圧
Cr-Cu-Cr層を形成させたソーダライムガラス板上に焼成後の膜厚が20μmとなるようにガラス粉末試料のメルト層を形成させ、その上に銀電極層を形成させ、菊水電子工業株式会社製耐電圧試験機875A2を用いて、両電極間に電圧をかけリークする電圧を測定した。
【0078】
(5) 耐薬品性
隔壁形成法の内でサンドブラスト法及びフォトリソグラフィー法においては、その工程中、マスク樹脂、フィルム及びガラスペーストの現像、脱離にアルカリ水溶液が用いられるため、かかるアルカリ水溶液に対するガラスの耐性を以下の通り試験した。即ち、ガラス粉末試料を用いて、ソーダライムガラス上に約20μmのガラス層を印刷、焼成し、得られる焼成ガラスを10%炭酸ソーダ水溶液に、30℃、10分間浸漬し、焼成ガラス層表面の変化を肉眼で観察し、以下の基準により評価した。
【0079】
◎:変化なし、○:僅かにラスター色発生、×:白化。
【0080】
(6) クラック
2mm厚の高歪み点ガラス(線膨張係数84〜85×10-7)基板上に、ガラス粉末試料をペースト化し、印刷して、540〜560℃で焼成し、ガラス層-ガラス基板界面の状態を顕微鏡(倍率:50倍)にて観察し、以下の基準により評価した。
【0081】
◎:クラックが全く観察されなかった、○:クラックが僅かに観察された、×:全体に亘ってクラックが観察された。
【0082】
(7) 着色性
ガラス粉末試料を用いて、ソーダライムガラス上に約20μmのガラス層を印刷し、550℃で焼成し、得られる焼成ガラスの着色度合いを肉眼にて観察し、以下の基準により評価した。
【0083】
◎:無色透明、○:着色が僅かに見られる、×:着色する。
【0084】
得られた結果を下記表2に示す。
【0085】
尚、上記(3)〜(7)の各試験において、本発明ガラス組成物粉末及び比較ガラス組成物粉末は、それぞれ、ガラス粉末70%と、エチルセルロース3%及びポリイソブチルメタクリル樹脂2%をパインオイル95%に溶解した有機ビヒクル30%とを混練りしてガラスペーストとした。
【0086】
【表2】

【0087】
表2より、本発明ガラス組成物は、PDPを始めとするFPDの背面基板の誘電体ガラス層としての基本特性を全て満足しており、該ガラス層形成に有効利用できることが明らかである。
【0088】
実施例6〜10
実施例1、3及び5のそれぞれで調製した本発明P2O5-ZnO-B2O3系ガラス粉末のいずれかに表3に示す無機顔料又はこれと無機フィラーとを添加して、誘電体層用本発明ガラス組成物(ガラス混合粉末)を得た。
【0089】
調製された各ガラス混合粉末は、その65%を、α-ターピネオール90%にエチルセルロース8%及びポリイソブチルメタクリル樹脂2%を溶解した有機ビヒクル35%と乳鉢で混練りし、3本ロールで固形分を分散させてペースト状に調製して、誘電体層形成に利用した。
【0090】
比較例3及び4
実施例1で調製した本発明ガラス粉末に無機顔料及び無機フィラーを本発明範囲を外れる量で混合して比較ガラス組成物粉末を調製した。
【0091】
調製された各ガラス組成物粉末は、その65%を、α-ターピネオール90%にエチルセルロース8%及びポリイソブチルメタクリル樹脂2%を溶解した有機ビヒクル35%と乳鉢で混練りし、3本ロールで固形分を分散させてペースト状に調製して、誘電体層形成に利用した。
【0092】
実施例6〜10及び比較例3及び4で得た各試料につき、前記特性試験(3)及び(4)と同様にして誘電率及び耐電圧を測定した。
【0093】
結果を表3に併記する。
【0094】
【表3】

【0095】
表3より、本発明誘電体層用ガラス組成物の利用によれば、優れた特性を有するPDPを始めとするFPDの誘電体を形成できることが判る。
【0096】
実施例11〜15
実施例1、3及び5のそれぞれで調製した本発明P2O5-ZnO-B2O3系ガラス粉末のいずれかに表4に示す無機顔料又はこれと無機フィラーとを添加して、隔壁形成用本発明ガラス組成物粉末を得た。
【0097】
調製された各ガラス組成物粉末は、その70%を、α-ターピネオール90%にエチルセルロース6%及びポリイソブチルメタクリル樹脂4%を溶解した有機ビヒクル30%と乳鉢で混練りし、3本ロールで固形分を分散させてペースト状に調製して、隔壁形成に利用した。
【0098】
比較例5及び6
実施例1で調製した本発明ガラス粉末に無機顔料及び無機フィラーを本発明範囲を外れる量で混合して比較ガラス組成物粉末を調製した。
【0099】
調製された各ガラス組成物粉末は、その70%を、α-ターピネオール90%にエチルセルロース8%及びポリイソブチルメタクリル樹脂2%を溶解した有機ビヒクル30%と乳鉢で混練りし、3本ロールで固形分を分散させてペースト状に調製して、隔壁形成に利用した。
【0100】
実施例11〜15及び比較例5及び6で得た各試料につき、前記特性試験(3)と同様にして誘電率を測定すると共に、以下に示す特性試験(8)隔壁の緻密性及び(9)隔壁の強度に従って、試験を行った。
【0101】
(8) 隔壁の緻密性
隔壁形成用ガラス組成物試料を用いて、ドクターブレード法にて200μm高さの隔壁層を設け、ドライフィルムによるマスキングをした上でサンドブラスト法による隔壁パターンを形成し、550〜560℃で焼成後、断面を走査型電子顕微鏡にて観察し、以下の通り評価した。
【0102】
◎:充分にガラス化して発泡及び空隙は認められない、
○:ガラス化しているがやや発泡又は空隙が認められる、
×:発泡又は空隙が顕著である。
【0103】
(9) 隔壁の強度
先端をナイフ状にしたウレタンゴム(硬度:70)を敷設したクロスカット試験器を用いて、隔壁形成用ガラス組成物試料にてストライプ状に形成させた隔壁10本に対して垂直に、荷重500g下にナイフを走らせ、隔壁表面の損傷の程度を、強度の指標として、以下の基準により評価した。
【0104】
◎:全く損傷は認められない、
○:1〜2本の隔壁のエッジ部分が欠ける、
×:隔壁全体に亘って損傷が認められる。
【0105】
得られた結果を表4に併記する。
【0106】
【表4】

【0107】
表4に示される結果から、本発明隔壁形成用ガラス組成物の利用によれば、優れた特性を有するPDPを始めとするFPDの隔壁を形成できることが判る。
【0108】
実施例16
この例は、アドレス電極を設けた背面基板上に誘電体ガラス層と、パターン化した隔壁を形成し、乾燥後同時に焼成してPDPを始めとするFPDの背面基板を作製した例であり、以下の通り実施された。
【0109】
即ち、実施例6に示す組成の誘電体層用ペースト化物を、アドレス電極を設けた基板上全面にスクリーン印刷法にて、乾燥膜厚35μmとなるように塗布し、乾燥後、その上に、実施例11に示す組成の隔壁形成用ペースト化物を、ドクターブレード法にて200μm高さの隔壁層を設け、ドライフィルムによるマスキングをした上でサンドブラスト法により幅100μm、ピッチ250μm、高さ200μmとなるパターンを形成させた。次に、最高温度550℃で10分間保持し、イン-アウト時間3時間を要して焼成した。
【0110】
その結果、隔壁の欠け、反り返り、密着不良、蛇行等の不具合は認められなかった。特に問題となる隔壁端部の応力集中に起因する密着不良による反り返りの不具合も全く認められなかった。
【図面の簡単な説明】
【0111】
【図1】本発明ガラス組成物が適用できるAC型PDPの概略図である。
【符号の説明】
【0112】
(1):前面基板
(2):透明電極
(3):バス電極
(4):前面誘導体ガラス層
(5):保護層
(6):隔壁
(7):背面誘電体ガラス層
(8):アドレス電極
(9):蛍光体
(10):背面基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無鉛低融点ガラス組成物であって、その組成が重量%で、P2O5 5%以上〜20%未満、Al2O3 5〜15%、B2O3 15〜25%、SiO2 0〜10%、ZnO 10〜40%、MgO、CaO、SrO及びBaOからなる群から選ばれる少なくとも1種0〜40%、Li2O、Na2O及びK2Oからなる群から選ばれる少なくとも1種0〜5%、F2 0〜3%、La2O30〜5%及びV2O5 0〜5%であることを特徴とするP2O5-ZnO-B2O3系低融点ガラス組成物。
【請求項2】
ガラス組成物中のP2O5 /Al2O3重量比が4以下である請求項1に記載のガラス組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のガラス組成物60〜100重量%と無機顔料及び/又は無機フィラー0〜40重量%とからなる、フラットパネルディスプレイの背面板上に設けられたアドレス電極を被覆するための、誘電体層用ガラス組成物。
【請求項4】
請求項1又は2に記載のガラス組成物60〜100重量%と無機顔料及び/又は無機フィラー0〜40重量%とからなる、フラットパネルディスプレイの背面板上に設けられる隔壁を形成するための、隔壁用ガラス組成物。
【請求項5】
フラットパネルディスプレイの背面板を製造する方法であって、パターン化したアドレス電極を設けた背面基板上に、請求項3に記載の誘電体層用ガラス組成物を施工する工程と、請求項4に記載の隔壁用ガラス組成物を施工する工程とを含み、更に施工された両ガラス組成物を焼成する工程を含むことを特徴とするフラットパネルディスプレイの背面板の製造方法。
【請求項6】
両ガラス組成物を焼成する工程が、同時に行われる請求項5に記載のフラットパネルディスプレイの背面板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2006−312568(P2006−312568A)
【公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−135891(P2005−135891)
【出願日】平成17年5月9日(2005.5.9)
【出願人】(591021028)奥野製薬工業株式会社 (132)
【Fターム(参考)】