説明

低速陽電子ビーム発生装置

【課題】半導体製造装置等に併設しあるいは組み込むことが可能な、小型の低速陽電子ビーム発生装置を得る。
【解決手段】真空チャンバー内に、陽電子源(2)で生成されモデレータによって低速化された陽電子ビームのうち所望のエネルギーを有する陽電子ビームを取り出すためのエネルギー弁別器(3)と、被測定試料(11)を保持する試料保持部(9)と、エネルギー弁別器(3)を出射した陽電子ビームを加速して被測定試料(11)に照射するための加速部(5)と、を備える低速陽電子ビーム発生装置(1)において、真空チャンバー内の被測定試料(11)の周辺に、陽電子ビームを被測定試料(11)上に輸送するための磁場を発生する第1の永久磁石(12、13)を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低速の陽電子ビームを発生するための装置に関し、特に小型化された低速陽電子ビーム発生装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、固体表面近傍の空孔型欠陥を非破壊で感度良く検出する方法として、陽電子消滅を利用する方法が注目されている。陽電子消滅とは、固体材料中に打ち込まれた陽電子が材料中の空孔型欠陥に捉えられている電子と対消滅して、γ線を放出する現象である。陽電子の寿命、放出されたγ線のエネルギー分布、放出角度の分布等を測定し分析することによって、材料の格子欠陥や電子構造についての重要な情報を得ることが出来る。
【0003】
陽電子消滅による材料分析は、上述したように試料を非破壊で分析できること、試料の電導性や温度等の制約が少ないこと、等の特徴に基づいて、半導体、金属、金属酸化物、高分子等の材料に幅広く適用することが可能である。この手法を用いて、各種Si半導体デバイス材料の評価を行った結果、材料開発の現場へ有効な情報を提供できることがわかってきた(例えば、非特許文献1、2参照)。
【0004】
陽電子消滅を利用した材料の評価装置として、種々のものが開発されている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0005】
図1に、特許文献2に示されている欠陥評価装置の構造を示す。この装置は、低速陽電子ビーム発生装置100と、この装置内に保持された被測定試料から発生するγ線を検出するための検出器102とで構成されている。検出器としては、γ線を吸収して電流を発生する半導体検出器等が使用される。あるいは、γ線の照射によって蛍光を発生する装置によって検出することもできる。低速陽電子ビーム発生装置1は、陽電子を発生する線源と発生した陽電子を低速化するモデレータとを含む線源部103、線源部103から出射した低速陽電子のうち所望のエネルギーを有する陽電子を選択的に取り出すエネルギー弁別部104、エネルギー弁別された陽電子を試料方向に加速して輸送する加速部105、および試料保持部106から構成されている。線源部103、エネルギー弁別部104、加速部105および試料保持部106は、一体の真空チャンバーで構成される。
【0006】
エネルギー弁別部3は、通常、E×Bフィルタで構成され、E×Bフィルタは実際は平行平板コンデンサで構成されるが、平行平板コンデンサをそのまま用いたのでは、出力される陽電子ビームの歪みが激しいので、これを防ぐために、通常は平行平板を半円形状に曲げた構造のコンデンサが使用される。なお、磁場Bは外部に設けた電磁コイル110によって生成される。
【0007】
図1において、107a、107bは、線源から放出された種々のエネルギーを有する陽電子のうち、エネルギー弁別され測定に使用される以外の陽電子が試料部方向に向かうのを防止するための遮蔽板であり、通常、Pb、W等の重金属で構成されている。108は加速電極であり、エネルギー弁別された、例えば100eV程度のエネルギーを有する低速陽電子を、例えば0〜30keVの範囲の所望のエネルギーまで加速して、試料保持部106内に設置した被測定試料109に照射するためのものである。
【0008】
図1の低速陽電子ビーム発生装置100において、線源部103、エネルギー弁別部104、加速部105および試料保持部106を含む真空チャンバーは、その外周の全長に亘って電磁コイル110が設けられ、真空チャンバー内に磁場が形成される。線源部103で発生した陽電子は、この磁場に案内されて試料保持部106の被測定試料まで輸送される。
【0009】
図1に示すように、従来の低速陽電子ビーム発生装置100は、陽電子の輸送のための磁場を形成するために、装置の全長に亘って電磁コイル110を設けている。そのため、装置全体が大型化する傾向がある。半導体の物性を評価するための他の装置、例えば、オージェ分析装置、蛍光X線分析装置等と比較して、装置の大型化の傾向が顕著である。具体的には、特許文献2で提案された低速陽電子ビーム発生装置では、ビームラインが3〜5mの長さとなっている。
【0010】
一方、半導体産業においては、SoCの高性能化、高信頼性化の訴求のため、高機能材料の開発が必須になりつつある。材料の欠陥物性解析に対し、上記の低速陽電子ビームを用いた物性解析は有効な手段であるが、試料の評価のためには、製造装置から試料を一旦大気中へ取り出し、γ線測定のために低速陽電子ビーム発生装置に挿入する必要がある。従って、半導体デバイスの製造プロセス中に試料の評価をすることはできない。
【0011】
ところが、低速陽電子ビーム発生装置を現在の大きさから更に小型化することが出来れば、この装置を半導体デバイスの製造装置、あるいはその他の評価システムに併設し、あるいは、これらに組み込むことによって、製造プロセスのモニタリングが可能となる。これによって、試料の欠陥物性解析が進展し、次世代のSiテクノロジー関連材料の設計と製造に有効な指針を与えることができるようになる。
【0012】
なお、陽電子消滅による空孔型欠陥の評価原理、評価方法等に関しては、非特許文献1、2あるいは特許文献1、2に詳細に記載されているので参照されたい。これらは本発明の主要部ではないので、ここでは説明しない。
【0013】
【特許文献1】特開平7−270598
【特許文献2】特開2004−93224
【0014】
【非特許文献1】「表面近傍での陽電子の基本的挙動とそれらを利用した材料評価」上殿明良、谷川庄一郎、まてりあ 35、140−146(1996)
【非特許文献2】「陽電子による先端半導体材料の評価」上殿明良、鈴木良一、大平俊之、石橋章司、応用物理 74、1223−1226(2005)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
上述したように、低速陽電子ビーム発生装置の小型化は、この装置を他の材料評価装置あるいは半導体デバイスの製造装置と共存させるために必須の要件であるが、現状ではその目的を達成する程度まで充分に小型化されていない。
【0016】
本発明はかかる点に関してなされたもので、他の材料評価装置あるいは半導体デバイスの製造装置と共存が可能な程度に小型化された、低速陽電子ビーム発生装置を提供することをその課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る第1の装置は、上記課題を解決するために、真空チャンバー内に、陽電子源で生成されモデレータによって低速化された陽電子ビームのうち所望のエネルギーを有する陽電子ビームを取り出すためのエネルギー弁別器と、被測定試料を保持する試料保持部と、前記エネルギー弁別器を出射した陽電子ビームを加速して前記被測定試料に照射するための加速部と、を備える低速陽電子ビーム発生装置において、前記真空チャンバー内の前記被測定試料の周辺に、前記陽電子ビームを前記被測定試料上に輸送するための磁場を形成する第1の永久磁石を配置したことを特徴とする。
【0018】
上記構成の装置では、エネルギー弁別器を出射し加速部によって加速された低速陽電子ビームは、第1の永久磁石によりにより輸送されて被測定試料に照射される。そのため、真空チャンバー外部の少なくとも試料保持部周辺において、陽電子ビームを被測定試料上に輸送するための電磁コイルを設ける必要が無い。その結果、低速陽電子ビーム発生装置全体を小型化することが出来る。
【0019】
上記の低速陽電子ビーム発生装置において、前記エネルギー弁別器を、前記真空チャンバーの外部に設けた第1の電磁コイルと、前記真空チャンバー内の空間の一部を実質的に充填する形状を有しかつ重金属を材料として形成された電極部とで構成し、かつ、前記電極部を第1および第2の電極で構成し、前記第1および第2の電極間には前記陽電子源で生成されかつ低速化された陽電子ビームが通過し前記加速部へ向かうための空間を形成するようにしてもよい。
【0020】
また、前記電極部はPb、W、ステンレスのいずれかで構成してもよい。
【0021】
更に、前記加速部を、前記真空チャンバーの外部に設けた第2の電磁コイルと、前記真空チャンバー内に形成された加速電極とによって構成してもよい。
【0022】
あるいは、前記加速部を、前記真空チャンバー内に設置された第2の永久磁石で構成し、かつ、前記被測定試料に負の電圧を印加するようにしてもよい。
【0023】
更に、前記真空チャンバー内の前記被測定試料の前方に、前記陽電子ビームの軌道を安定化するためのビーム安定化装置を設けてもよい。
【0024】
更に、前記第1、第2の永久磁石をリング状の永久磁石で構成してもよい。
【0025】
本発明に係る第2の装置は、上記課題を解決するために、真空チャンバー内に、陽電子源で生成されモデレータによって低速化された陽電子ビームのうち所望のエネルギーを有する陽電子ビームを取り出すためのエネルギー弁別器と、被測定試料を保持する試料保持部と、前記エネルギー弁別器を出射した陽電子ビームを加速して前記被測定試料に照射するための加速部と、を備える低速陽電子ビーム発生装置において、前記エネルギー弁別器を、前記真空チャンバーの外部に設けた第1の電磁コイルと、前記真空チャンバー内の空間の一部を実質的に充填する形状を有しかつ重金属を材料として形成された電極部とで構成し、更に、前記電極部を第1および第2の電極で構成し、前記第1および第2の電極間に前記陽電子源で生成されかつ低速化された陽電子ビームが通過し前記加速部へ向かうための空間を形成したことを特徴とする。
【0026】
上記第2の装置では、エネルギー弁別部を、外部の電磁コイルで発生する磁場と、前記第1、第2の電極間に形成される電場とによって構成される、E×Bフィルタで構成している。このとき、第1、第2の電極からなる電極部は、エネルギー弁別部の内部空間をほぼ充填する形状を有しており、更に、陽電子ビームを吸収する重金属を材料として構成されている。従って、このエネルギー弁別部は、種々のエネルギーを有する陽電子ビームをフィルタリングする機能と、必要なエネルギーを有する陽電子ビーム以外の陽電子ビームを吸収する遮蔽機能とを有する。その結果、従来必要であった遮蔽板が不必要となり、低速陽電子ビーム発生装置の小型化に寄与する。
【0027】
また、このエネルギー弁別部は、陽電子の遮蔽体でその内部空間がほぼ充填された構造を有するので、線源において全方向に発生する陽電子が試料保持部に漏れ出すのをほぼ完全に防止することができる。その結果、エネルギー弁別器から試料保持部までの距離を長くして、この部分で測定時のバックグランドノイズを形成する不要な陽電子を吸収させる等の構成が不要となる。これによって、低速陽電子ビーム発生装置を更に小型化することが可能となる。なお、バックグランドノイズとは、測定に使用されない不要な陽電子が試料保持部に達し、内部の物質と衝突して消滅γ線を形成し、これが検出器によって検出されることによって発生するものである。従って、不要な陽電子を完全に遮蔽できれば、バックグランドノイズは低減される。
【0028】
なお、前記第2の装置において、前記電極部をPb、W、ステンレスのいずれかで構成するようにしても良い。
【発明の効果】
【0029】
上記第1の装置によれば、エネルギー弁別部を出射した陽電子ビームを、被測定試料周辺に設けた第1の永久磁石で被測定試料上に輸送しているため、従来の装置で必要であった真空チャンバー外部の電磁コイルのうち、少なくとも試料保持部周辺の電磁コイルが不要となる。その結果、装置全体を従来の装置に比べて小型化することが可能である。なお、従来の装置で加速部を構成していた電磁コイルを、真空チャンバー内に配置した、第1の永久磁石とは異なる永久磁石で代替すれば、装置全体をより小型化することが出来る。このとき、加速部を接地し、被測定試料を負の電位に設定すれば、陽電子ビームは被測定試料の方向に向かって加速されるため、加速部内部に加速電極を設ける必要はない。更に、第2の装置によっても、遮蔽板が不要となり、またバックグランドノイズの発生を考慮する必要がなくなるので、装置全体をより小型化することが可能となる。
【0030】
以上の結果、本発明に係る装置を半導体デバイスの製造装置あるいはその他の評価システムに併設し、あるいはこれらに組み込むことが可能となるので、半導体デバイス等の製造プロセス中の材料評価が可能となり、高機能材料の開発に大きく貢献する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
発明者等は、低速陽電子ビーム発生装置を小型化する上で、陽電子ビームを被測定試料上に輸送するための磁場を形成する電磁コイルの存在が最も障害となると考えた。電磁コイルは真空チャンバー内に収納することができない為、その分、装置が大型化するためである。そこで、電磁コイルの一部を永久磁石で代替し、真空チャンバー内に配置することを考えた。永久磁石は、電磁コイルに比べて小さな容積で強い磁場を発生するので、その分、装置全体を小型化することができる。
【0032】
種々の実験の結果、永久磁石を被測定試料の周辺に配置することによって、試料チャンバー周辺の電磁コイルを取り除いても充分に、陽電子ビームが被測定試料上に安定して輸送されることを見出した。本発明の装置はこの発見を基に構成されたものである。
【0033】
被測定試料周辺の電磁コイルを永久磁石で代替することにより、装置全体の小型化が可能となったが、一方で、γ線の検出器においてバックグランドノイズが増加する傾向が見られた。バックグランドノイズは、陽電子源で発生した陽電子のうち測定に使用する陽電子ビーム以外の陽電子が試料チャンバーに侵入し、内部の物質と衝突して消滅γ線を生成し、これが検出器によって検出されることにより発生する。
【0034】
従って、エネルギー弁別器に入射する以外の陽電子を完全に遮蔽するために、従来の板状の簡便な遮蔽板に代わって比較的大型の遮蔽用構造体を設ける必要がある。しかしながら、その分、装置が大型化する。本発明者等は、そこで、エネルギー弁別のために設けるE×Bフィルタに不要陽電子の遮蔽機能を持たせることによって、遮蔽用の構造体を不要とすることを考えた。以下の実施形態で説明されるE×Bフィルタは、このような考えに基づいて発明されたものである。
【0035】
以下に、本発明の種々の実施形態を、図面を参照して説明する。なお、以下の各図において、同一の符号は、同一または類似の構成要素を示すので、重複した説明は行わない。
【0036】
[第1の実施形態]
図2の(a)は、本発明の第1の実施形態に係る低速陽電子ビーム発生装置1の概略構成を示す図であり、図(b)は、図(a)のA−A’線上断面図である。図2(a)において、2は真空チャンバー内に設けられた線源部を示し、例えば22Na等の放射性同位元素を保持する線源と、この線源から放射された陽電子を低速化するモデレータとで構成されている。3はエネルギー弁別器を構成するE×Bフィルタ、4はE×Bフィルタ3から出射する陽電子ビームを加速部5まで通過させるためのアパーチャを示す。アパーチャ4の加速部側には、リング状あるいはドーナツ状(以下、リング状と言う)の永久磁石6が配置されている。
【0037】
7は、真空チャンバーの外部に装着された電磁コイルであって、線源部2、E×Bフィルタ3、アパーチャ4および永久磁石6の部分をカバーするように形成されている。電磁コイル7で発生される磁場は、線源部2においては、線源から全方向に放射される陽電子のうちより多くの陽電子がE×Bフィルタ3の方向に向かうようにし、E×Bフィルタ3においてはフィルタリングに必要な磁場Bを形成し、アパーチャ4の出力側では、陽電子がE×Bフィルタ3から加速部5へ出射しやすくする。E×Bフィルタ3の構成については、図2(b)を参照して後述する。
【0038】
図2(a)において、8は加速部5を構成する加速管であり、内部に複数の加速電極8a、8a・・・を備えている。また、外部に加速用の電磁コイル8b、8bを備えている。9は試料保持部を構成する試料チャンバーであり、その一部9aにおいて、ベローズ10を介して加速管8と接続されている。ベローズ10は、加速部8を機械的な振動による破損から守るために挿入されている。試料チャンバー9内では、陽電子ビームの軌道上に被測定試料11を配置する。
【0039】
12は、被測定試料11の近辺に配置された永久磁石であり、リング状の形状を有している。13は、試料チャンバー9において、被測定試料11の背後(被測定試料11と図示しないγ線検出器間)に設けたリング状の永久磁石である。なお、12、13は何れもネオジウム(Nd)等を材料とする通常の永久磁石で構成することが出来る。本発明者等は、上述したように、被測定試料11の周辺に設けたこれらの永久磁石12、13が、従来装置において試料チャンバー周辺に設けた電磁コイルの働きを充分に代替していることを確認した。従って、図2に示す装置では、試料チャンバー9の周辺には電磁コイルを設けていない。
【0040】
試料チャンバー9は排気口14を有し、図示しない真空ポンプに接続されることによって、線源部2、E×Bフィルタ3を備えるエネルギー弁別部、加速部5、試料チャンバー9内を排気する。陽電子消滅の実験は真空中で行われる。
【0041】
以下に、図2(b)を参照して、E×Bフィルタ3の構造を説明する。本実施形態のE×Bフィルタ3は、真空チャンバーのE×Bフィルタ3を配置する空間をほぼ充填する円柱の形状を有している。図2(b)において、20はE×Bフィルタ3を収容する真空チャンバーの内壁を示す。E×Bフィルタ3は、図示するように、第1の電極21と第2の電極22を有している。第1の電極21と第2の電極22との相対向する表面は、同心の半円形状とされ、第1、第2の電極間に陽電子ビームが通過する空間23が形成されている。したがって、第1、第2の電極21、22に電圧を印加することによって、陽電子ビームが通過する空間23に所望の電場Eを形成することが出来る。
【0042】
E×Bフィルタ3は、外部の電磁コイル7によって生成される磁場Bと、第1、第2の電極21、22間に形成される電場Eとの相互作用によって、所望のエネルギーの陽電子ビームのみを選択して通過させる働きをする。E×Bフィルタ3の長さを含めた形状は、陽電子ビームの軌道計算を行うことによって、決定される。なお、線源部2はE×Bフィルタ3の中心より外れた位置に配置され、E×Bフィルタ3の出力部はその中心に設けられる。これは、E×Bフィルタ3によって、所望のエネルギーの陽電子ビームのみを軌道を変えて取り出すためである。E×Bフィルタ3を出射した陽電子ビームを、更にアパーチャ4を通過させることによって、真空チャンバーの中心軸上に沿って飛翔する陽電子ビームを形成することができる。
【0043】
電極21、22を含むE×Bフィルタ3は、例えば鉛(Pb)、タングステン(W)、ステンレスなどの重金属を材料として形成される。これによって、E×Bフィルタ3自体が陽電子の遮蔽体としての機能を有するようになり、線源部2で生成された種々のエネルギーを有する陽電子ビームのうち、E×Bフィルタ3を通過する以外の陽電子ビームがほぼ完全に遮蔽されることになる。そのため、本実施形態の装置では、図1に示す従来の装置とは異なり、E×Bフィルタ3とは別個の陽電子遮蔽体を設ける必要が無くなり、その分、装置を小型化することができる。
【0044】
更に、E×Bフィルタ3によって、ほぼ完全にバックグランドノイズの原因となる高エネルギー陽電子の漏洩を防止できるので、加速部5の長さを不必要に長くしてこの部分で高エネルギーの陽電子を吸収させる等の構成は不要となる。従って、装置を更に小型化することが可能となる。
【0045】
以上の結果から、本実施形態の装置では、従来の低速陽電子ビーム発生装置に比べてそのビームラインを遥かに短くすることが可能となった。一例では、図2の長さLがほぼ1mである装置を構成することができた。これは、従来の装置が3〜5mの長さを有していることに比べて、大幅に小型化されている。
【0046】
[第2の実施形態]
図3の(a)は、本発明の第2の実施形態に係る低速陽電子ビーム発生装置30の構成を示す図であり、図(b)は図(a)のA−A’線上断面図である。本実施形態の装置は、その構成のほとんどが図2に示す第1の実施形態にかかる装置1と同じであるが、加速部5と試料チャンバー9間に、ゲートバルブ32を設けた点が異なっている。ゲートバルブ32は、被測定試料11の交換等のために試料チャンバー9の真空を破った場合、線源部2を大気に暴露しないように挿入されている。
【0047】
本実施形態によれば、ゲートバルブ32を設けた分ビームラインが長くなるが、E×Bフィルタ3の構成、更に被測定試料11の周辺に設けたリング状永久磁石12の効果によって、全長が1.1m程度の低速陽電子ビーム発生装置を構成することができた。
【0048】
[第3の実施形態]
図4は、本発明の第3の実施形態に係る低速陽電子ビーム発生装置40の構成を示す図である。図2、3と同様に、図4の(a)は装置全体の構成図であり、図4(b)は図(a)のA−A’線上断面図である。本実施形態の装置は、図3に示す第2の実施形態の装置の変形であって、陽電子ビームの加速部5と永久磁石12間に、ビームの安定化装置42を設けた点で第2の実施形態の装置とは異なっている。ビーム安定化装置42は、例えばx軸およびy軸方向に設けた2個の平行平板コンデンサで構成され、電極に印加する電圧を調整することによって陽電子ビームの軌道を修正し安定させる機能を有している。
【0049】
ゲートバルブ32を加速部5と永久磁石12間に設けたことにより、両者の間隔が多少長くなった場合であっても、ビーム安定化装置42への印加電圧を調整することによって陽電子ビームの軌道を修正し、被測定試料11に正確に入射させることができる。なお、ビーム安定化装置42は、図2に示す第1の実施形態に係る装置に設けてもよい。
【0050】
[第4の実施形態]
図5は、本発明の第4の実施形態に係る低速陽電子ビーム発生装置50の構成を示す図であり、図5(a)は装置50の全体構成を、図(b)は図(a)のA−A’線上断面図を示す。本実施形態の装置は、第1乃至第3の実施形態に係る装置とは加速部52の構造において相違している。本実施形態の加速部52は、加速管54の内部に複数のリング状永久磁石56、56・・・を配置し、加速部52の真空チャンバー外部に電磁コイルを設けない構成を特徴としている。
【0051】
リング状永久磁石56、56・・・は、エネルギー弁別部のアパーチャ4から出射した陽電子ビームを被測定試料11の方向に輸送するための磁場を形成するが、この永久磁石56、56・・・のみでは陽電子ビームを所望のエネルギーに加速することはできない。本実施形態では、陽電子ビームの加速のために、被測定試料11を負の電位に設定する。この場合、加速部52を接地しておく必要がある。この結果、アパーチャ4と被測定試料11間に電位差が形成され、その間を飛翔する陽電子ビームが加速される。
【0052】
なお、図示するように、被測定試料11の近くにビーム安定化装置42を配置することによって、陽電子ビームの軌道を修正し安定化させて、ビームが正確に被測定試料11に入射するようにしてもよいが、ビーム安定化装置42は必ずしも必要なものではない。
【0053】
本実施形態の装置によれば、E×Bフィルタ3の部分に形成した電磁コイル7を残して、その他の電磁コイルを全て撤去することができるので、低速陽電子ビーム発生装置50を更に小型化することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】従来の低速陽電子ビーム発生装置の概略構成を示す図。
【図2】本発明の第1の実施形態に係る、低速陽電子ビーム発生装置の概略構成を示す図。
【図3】本発明の第2の実施形態に係る、低速陽電子ビーム発生装置の概略構成を示す図。
【図4】本発明の第3の実施形態に係る、低速陽電子ビーム発生装置の概略構成を示す図。
【図5】本発明の第4の実施形態に係る、低速陽電子ビーム発生装置の概略構成を示す図。
【符号の説明】
【0055】
1 低速陽電子ビーム発生装置
2 線源部
3 E×Bフィルタ
4 アパーチャ
5 加速部
7 電磁コイル
8 加速管
8a 加速電極
8b 電磁コイル
9 試料チャンバー
10 ベローズ
11 被測定試料
12、13 永久磁石
20 真空チャンバーの内壁
21、22 第1、第2の電極
23 空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバー内に、
陽電子源で生成されモデレータによって低速化された陽電子ビームのうち所望のエネルギーを有する陽電子ビームを取り出すためのエネルギー弁別器と、
被測定試料を保持する試料保持部と、
前記エネルギー弁別器を出射した陽電子ビームを加速して前記被測定試料に照射するための加速部と、を備える低速陽電子ビーム発生装置において、
前記真空チャンバー内の前記被測定試料の周辺に、前記陽電子ビームを前記被測定試料上に輸送するための磁場を発生する第1の永久磁石を配置したことを特徴とする、低速陽電子ビーム発生装置。
【請求項2】
請求項1に記載の低速陽電子ビーム発生装置において、前記エネルギー弁別器は、前記真空チャンバーの外部に設けた第1の電磁コイルと、前記真空チャンバー内の空間の一部を実質的に充填する形状を有しかつ重金属を材料として形成された電極部とを備え、前記電極部は第1および第2の電極で構成され、前記第1および第2の電極間には前記陽電子源で生成されかつ低速化された陽電子ビームが通過し前記加速部へ向かうための空間が形成されていることを特徴とする、低速陽電子ビーム発生装置。
【請求項3】
請求項2に記載の低速陽電子ビーム発生装置において、前記電極部はPb、W、ステンレスのいずれかで構成されることを特徴とする、低速陽電子ビーム発生装置。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の低速陽電子ビーム発生装置において、前記加速部は、前記真空チャンバーの外部に設けた第2の電磁コイルと、前記真空チャンバー内に形成された加速電極とを備えることを特徴とする、低速陽電子ビーム発生装置。
【請求項5】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の低速陽電子ビーム発生装置において、前記加速部は前記真空チャンバー内に設置された第2の永久磁石を備え、更に、前記加速部を接地するとともに前記被測定試料を負の電位に設定することを特徴とする、低速陽電子ビーム発生装置。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の低速陽電子ビーム発生装置において、前記真空チャンバー内の前記被測定試料の前方に、前記陽電子ビームの軌道を安定化するためのビーム安定化装置が設けられていることを特徴とする、低速陽電子ビーム発生装置。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか1項に記載の低速陽電子ビーム発生装置において、前記永久磁石はリング状の永久磁石であることを特徴とする、低速陽電子ビーム発生装置。
【請求項8】
真空チャンバー内に、
陽電子源で生成されモデレータによって低速化された陽電子ビームのうち所望のエネルギーを有する陽電子ビームを取り出すためのエネルギー弁別器と、
被測定試料を保持する試料保持部と、
前記エネルギー弁別器を出射した陽電子ビームを加速して前記被測定試料に照射するための加速部と、を備える低速陽電子ビーム発生装置において、
前記エネルギー弁別器は、
前記真空チャンバーの外部に設けた第1の電磁コイルと、前記真空チャンバー内の空間の一部を実質的に充填する形状を有しかつ重金属を材料として形成された電極部とを備え、前記電極部は第1および第2の電極で構成され、前記第1および第2の電極間には前記陽電子源で生成されかつ低速化された陽電子ビームが通過し前記加速部へ向かうための空間が形成されていることを特徴とする、低速陽電子ビーム発生装置。
【請求項9】
請求項8に記載の低速陽電子ビーム発生装置において、前記電極部はPb、W、ステンレスのいずれかで構成されることを特徴とする、低速陽電子ビーム発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−232759(P2008−232759A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−71313(P2007−71313)
【出願日】平成19年3月19日(2007.3.19)
【出願人】(396023993)株式会社半導体理工学研究センター (150)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】